2ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart55【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 10:46:44 ID:/D/kDerF0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1201694894/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss


2 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 10:48:56 ID:/D/kDerF0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の414-415から
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html  
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html


3 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 10:49:37 ID:/D/kDerF0
上・のび太の新説桃太郎伝  下・三年一組剣八先生! (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の176-184から
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の10−11から
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
ロンギヌスの槍 (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080310/229e4a27a325fbe1a465db27f2bbf52f
     の373−380から


4 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 10:55:31 ID:/D/kDerF0
>ハシ氏
2話目にして話が急展開ですね。
最強の能力を持ちながら迂闊なティアと優。
相手の魔女たちも強そうだけど逆襲を期待しております。

>ハロイ氏
いやいや、携帯でも描いてくれるとは嬉しい!
ブラックの手の内にいながらもセピアの事で心の揺れる
レッドは原作より好感持てますね。

>ハイデッカさん
いつもおつかれさまです。復帰もお待ちしております。

5 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 13:12:19 ID:r7hZFIq00
1さんおつかれ

ハロイ氏復活とハシ氏の新作はうれしいのう

6 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 16:35:12 ID:lr5a+pjF0
>ハシさん
ロンギヌスの槍とスプリガンの取り合わせって原作にあるようでなかったね。
バトルの連続になるということですが、ジャンや朧にも是非出番を与えてほしいです!

>ハロイさん
どこか諦観にも似た焦りの感情がレッドを支配してますね。
それぞれが悲しみを背負ったキースシリーズ、セピアの行く末が心配です・・。

7 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 19:35:52 ID:HbgfWQ8Q0
1さん、ハイデッカ氏乙です

ハロイさんといいふらーりさんといいネット環境が
整ってない場所にいるみたいだね
ハロイさん、携帯でもちょこちょこ書いて下さい
いつもすっごい楽しみにしてます

8 :VP:2008/03/10(月) 22:31:41 ID:BRZW4IIRO
殺気である。

レーザーポイントに酷似した逆三角形に滲んだ殺気が、皮肉にもヴィクターを救った。
極超音速で飛来する光るモヤが、ヴィクターの巌のような胸板を掠めるのと、
ヴィクターの掌にバトルアックスが発生するのこそ同時だったが、
殺気の源泉にヴィクターが切り掛かるのは、光るモヤの着弾よりも先だった。

毒蛇の擦過音にも似た彼の呼吸音が、苦痛を孕む。

9 :VP:2008/03/10(月) 23:05:34 ID:BRZW4IIRO
黒い核金の力は、大戦士長ヴィクターを不老不死の怪物へと誘っただけでなく、
彼に音の壁を突き抜けるだけの力すら与えていた。
核金の発動条件そのままに、異能を開花させたヴィクターにとっては、
伝説の高速移動「縮地」すらたやすい。

彼の不幸は終わらない。

大事な祭具にして狩の友である「銃」を破壊された際に発生した爆発は、
彼の仮面を奪いさり、肩の肉を大きくえぐり取りさっていたのだ。
ヴィクターの斬撃の威力を殺し切れず、ゴロゴロと不様に彼は転がっていた。
ただの一手で状況は一転していた。
「銃」も仮面も失い、得たのは肩の深手のみ。

彼は、死神の足音をきいた。

10 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/03/10(月) 23:10:06 ID:BRZW4IIRO
皆様方お久しぶりです。
銀杏丸でございます

ノートパソコン置き引きされて冬眠しとりました
携帯でボチボチ行きたい、行けたらいいな

では、またお会いしましょう

11 :銀杏丸:2008/03/10(月) 23:30:43 ID:BRZW4IIRO
そして、乙一でございます

12 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 01:37:34 ID:F0plGPrC0
ひさしぶりにきてこの量かよw

13 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 08:57:00 ID:lQAzIKw40
うーん、銀杏丸氏復活は嬉しいけど
新スレ1発目はある程度の量が欲しいなあ
でも乙でした

14 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:44:34 ID:CVhJwyjY0
「第8話 「日吉の快進撃」

暗い暗い空間に時折光が走って轟音を響かせる。
遠雷が駆け巡っていた。
遠雷は過大の人民を擁してなおあり余る大地をつんざきながらやがて亀裂を刻みこみ、平原
を駆ける牛馬を奈落へと付き落とす。

その原因が二メートルにも満たない三つの光球であるコトを大地は知らなかった。
天も知らず人の多くを制する楚軍すらも知らず。

赤い光球が青と黄色のそれに追いたてられていた。
それまで成層圏で打ち合っていたそれは何かの拍子で地表に戻ったらしく、グンと低空で疾駆
しながら野や砂漠をソニックブームで滅茶苦茶に破壊し終えた後、雄大な黄河の水面に巨大
なさざなみを迸らせながら徐々に距離を詰めていき、やがて赤い光球に青と黄色のそれが接
触。
猛然と速度を上げた。
行く手には山があり、中腹を一塊の光球が貫いた瞬間大爆発を起こした。
現在のゴビ砂漠の誕生である。

光球らはそれでもなお止まらず地平の彼方まで飛び去った。

「さて貴様の攻撃手段はすべて出尽くした」
『それでもなお我らは生きている。この意味の分らぬ貴様ではないだろう』
荒野だった。
もしも無数の瓦礫とドス黒く炭化した木々をなおも執拗になぶる轟然たる火の膜をひとからげ
にして荒野と呼ぶのなら、そこは間違いなく荒野であった。
その荒野で一輪の花が月を背負ってしなやかに佇んでいた。
肉感的な肢体に見合わぬ楚々とした顔立ちの少女がゆらりゆらりと。
『無言か。それでも構わんがな!』
張良が七節棍を地面に叩きつけると巨大な裂け目が発生し、マグマが間欠泉のような気楽さ
で噴き出した。

15 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:46:15 ID:CVhJwyjY0
「はああああああ! 俺は火炎人間だぜ! 地球ナンバーV7のな!」
そして蕭何がマグマに身を投じると彼は蒸発するコトなく一体となり(ブレイズオブグローリー
を使った火渡ではありません。//のアレではありません。あくまで地球ナンバーV7に出てきた
火炎人間です)、龍の形で呂后に迫った。
だが。
「ちから、あわせ、ガオーとすすめ! ぼーくーはりょごーう まけるものか!」
呂后が手をかざすと龍はみるみると消滅し、後には唖然とする蕭何が残った。
敵もまた、遥か怪物。
マグマはそれでも地面の奥底から湧いてくる。
所詮蕭何の操ったモノなど地底に内蔵されるマグマの一部でしかないのだ。
なおもプロミネンスのように噴出するのだ。
されど間近にいる呂后は汗の一筋も流さず、ただぽつりとつぶやいた。
「マグマ出したら」
すわ攻撃かと飛びのいた蕭何張良を無視して、呂后は。
「マグマ出したら危ないでしょうがァーッ!」
地面の裂け目に駆け寄って、奇麗に揃えた両掌を下に突き出した。
それだけで地面はぐぐっと鳴動して、まぁ要するにふさがった。
「ぜぇぜぇ。なんでコトすんのよあんたたち」
待て、その口調をやると最近出番がめっきりないアイツと被……
「うるさいわね! そうならないようにするのが作者の義務でしょうが! だいたいサボってる
癖にあれこれ注文つけないで! きぃ! こんな口調なら被らないでしょっ!!」
おk。
「誰と話している?」
「こっちの話よ。それよりもね、ええと、その」
呂后は網タイツを履いた太ももをもじもじと内に向かってすり合わせながら、口調をしどろもどろ
にさせた。
「あのう、そのう」
その恥じらいを隙ととったか張良と蕭何は「うむ」と目線を交わし同時に大地を蹴った。
張良は剣を、蕭何は錫杖を。呂后の周辺視野の遥か外側、いわゆる死角より打ち下ろし……
ノールックで止められた。
ふくよかな胸の前で交差するその呂后の手を、四つの視線が傲然と睨みながら遠ざかる。
土煙を上げながら地面に叩きつけられる二人。

16 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:47:24 ID:CVhJwyjY0
そんな彼らを呂后は涙にきらめく薄紅の瞳でにらみ返した。
太ももの横でもどかしそうな握り拳が震えていた。
薄く可憐な唇が半開きになり、だがすぐに口ごもった。
ひどくバツが悪そうに視線を外したのはなぜか。
ともかく彼女はひどく無理矢理に叫んだ。
「わ、私の部下になりなさいよっ! 」
「断る」
『死ね』
悪意に満ちた言葉に呂后の顔はくしゃくしゃになった。
流石に蕭何張良という忠臣が今さら寝返る道理はないのだ。
だが呂后は彼らとの戦いの中で殺すのが惜しくなった。
よって勧誘したのだが、元より勝気で素直に言葉が乗せられない気質だからうまく勧誘でき
なかった。
もし劉邦との問題のあれこれを解決し隷属するコトを誓えば或いは彼らも部下とまではいか
なくても、協力ぐらいはしてくれたかも知れない。
もっとも呂后にとってはそういう機微は分からなくて、だが分からないゆえに彼らへの敬意
表したつもりだったのに。
断られた。
だから怒るしかなかった。
「もう逃げ場なんてないんだからっ! ないんだからっ! ばかぁ!」
「りょ、呂后めの腹が…」
おおなんというコトか。きゅっと締まったウェストがでかくなっている。
呂后の足の付け根から、白いどろどろした液体が地面に落ちる。
最初はただの淫靡なる液体かと思えたそれは、次から次へと呂后の体内から溢れて出て、
ちょっとした水たまり位に広がった。
とみるや、上方向に向かいむくむくと体積を増していき、巨大な餅の塊のような姿へ変貌。
餅と違うのは、表面に緑色の斑点があり、蕭何と張良へ向かって動き始めた所だ。
呂后は態勢を戻し、涙をごしごしこすると歓喜の叫びをあげた。
「私はこいつを生むとき、日輪が腹に入る夢を見たんだから! だから名前は”日吉”ね!
さあ行くのよ日吉!」
ハリのある声とともに呂后の指が勢いよく敵を指差した。
「漢王どのを取り戻しなさいっ!」

17 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:48:00 ID:CVhJwyjY0
この馬鹿げた事態に蕭何と張良は身構えた。

同刻。
「まったくアイツらどこまで行っとるんじゃ!」
「中国は広いですからねー」
「つぅかなんだよ足のコレ」
大地をひた走る影があった。
「一日に八百里を走れる札です。蕭何殿の持ってる奴。元は水滸伝です」
「走れるのはいいが蕭何達と合流できるのか?」
「できますよ。気を探るコトができれば」
「お前そんなんできるのか?」
行者の誰何に韓信は首を横に振った。
「ははは。そんなんできるワケないじゃないですか。ここでそんな機能まで搭載したらオーバー
スペックにも程がありますよ。だから作者は自重しているのです。根来に山風忍法満載しすぎ
たのはやりすぎですよね。戦う相手がホムンクルス(忍法通じない)じゃなかったら厨キャラ
極まりないですよ。だから私は勘で蕭何どの達を探してます」
「……メタはやめろ。勘はもっともっとやめろ」
とにかくそんなこんなで地球を七周ばかりしたら運良く呂后に遭遇した。
というコトは別になかったので、韓信が思い出したように取りだした「六角形した楯のようなレー
ダー」の武……魔界衆の道具で呂后を探してワープした。え、移動できるのは100kgまで? 何それ?

「はーい! ダーリン元気ぃ〜……ってなんか疲れてるようね。大丈夫?」
「うるさい! 誰のせいじゃ誰の!」
「……なんだよ。くそ。地球七周とか……ふ、普通……死ぬだろ常識的に考えて」
「大変でしたねー。途中でドロちゃんとか轢いた時は作品的にどうしようかと」
「ヘルメスドライブ使っておいてそれかよ…… ちなみにドロちゃんは五郎の冒険の萌えキャラ」
などという行者と韓信のやり取りを聞きながら、劉邦は一つ異変に気づいた。
彼は首を左右に振って辺りを見渡した。
誰もいない。そう、いるべきはずの。
「のう呂后。張良と蕭何はどこじゃ」
可憐な美少女はとびきりの笑顔で親指を立てた。
「日吉が食べたわ!!」

18 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:48:34 ID:CVhJwyjY0
「げえっ!!」
劉邦は目を剥いた。そして憤怒の形相をしながら片足で地面を乱雑に叩いた。
「日吉って何じゃ! この期に及んでまた新キャラ投入か! そーいう収集つくかどうか分から
んコトは力量考えてやれよ!! ブレミュすら持て余しておるというのに!!」
「突っ込むのがそっちなんですね」
「ちなみに日吉というのは豊臣秀吉の幼名だ。彼が生まれる前に母親が腹に太陽入る夢を
見たとかで付けられた」
「んー、大丈夫! 新キャラだけどセリフは特に設定されてないから!」
「いやそれはそれでマズかろう……」
「うぇるかむとぅーでぃすくれいじたいっ! ぴー!」
親指と人差し指を丸くしたナントカとかいう笛で呂后は日吉を呼んだ。
カビが生えた餅のような塊はのそのそと呂后の前にはせ参じて劉邦らを見た。
見たというが彼(?)には目に該当する器官は特に散見できない。
ただ白い粘膜的な体表に申し訳程度の斑点がついているだけで、果たして前後左右がある
のかすら分からない原生的な生物だ。
「ちなみに宇宙船レッドシャークに出てきたアメーバみたいな生物が元ネタ。宇宙船に忍び込
んで乗組員を次々殺したんだ。これを倒す時の五百木の劇的決断は神だぜ」
すでに本部と化している行者をよそに、韓信は果敢にも日吉に斬りこんだ。
「でええええいっ。うわ剣がはじかれたというかなんかのそって私に寄ってきました」
そして韓信は日吉に巻きつかれて半分食われている状態になった。
「無駄無駄。こうやって張良も蕭何も死んだんだから」
「なるほど。物理攻撃は一切通じないようだなリサ」
行者はダブついた白い法衣を持て余しながら呂后を睨んだ。
「やーねぇジュン。やっと気づいたの? 私がリサだって」
「何故だ。何故この時代にきて呂后になっている」
「んー、本当はね、エジプトでバステト女神の加護を受けて不死身になって、辺鄙な南蛮あた
りで細々と女王やって、少女マンガなのに空気読まないギャングのサバイバルを延々と連載
するKYな素敵展開をやりたかったんだけど、バステト女神ったら他にそんな人を選んじゃった
のよ! ヒドい話ねぇ」
「クイーンフェニックスなんて読者の誰も知らないよ!」

19 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:49:35 ID:9LwcKkIV0
「でね。私思うの。バステト女神っていったらあの漫画じゃない? だからあまり触れてるとあの
漫画ネタ禁止っていう真赤な(バキスレPart48の>>352の)誓いが破られちゃう」
「そこで中国……か?」
「なかなか理解が早い! そう。呂后なら別に殺して成り変ってもいいじゃない。いろいろアレ
な女だし。で、ついでに地球を監視するおじさまがたに無性生殖人間に改造して貰ったのよ!」
「無性生殖人間?」
劉邦の疑問に行者はさらりと答えた。
「マーズが元ネタでいろいろ出来る。体の再生速かったり髪飛ばしたり」
「良く分からんが道理で強い筈じゃ……え!? 本物の呂后死んでたのかい!!」
「そうよ!! あのブタのようなマナー知らずの女は死んだわ! ギョーザやったら死んだわ!」
「ありがとうありがとう!」
劉邦は泣いた。鼻水を垂らして泣いた。
「感謝には及ばないわよ劉邦! だって私はあなたを利用したり殺したりして歴史変えるから!」
「げえ!」
「だってさー、私とジュン君(行者)の住んでる未来はひどいのよ! 過去の人たちが怠けたせ
いで辺り一面、さ・ば・く! で、何か自動操縦の戦車とかが攻めてくるし食べ物は缶詰だし、
そのせいでバスタードは完結してないし。嫌なのよ!」
「違う」
行者は唇を戦慄かせた。
「違うんだリサ! ブログの日誌にも書いたけど、歴史を変えて未来を変えようなんていう考え
は間違っているんだ! ブログにも書いた既出の文章だけどみんなそれぞれの時代で一生懸
命生きて、彼らなりの幸福を探していたんだ!」
呂后は鼻白んだ。
「何ソレ? ジュン君だけいい子ぶろうっていうの? そんな作者ごときのブログから転載した
文章で」
「違う! ちゃんとこの場で考えながら打っている! コピペはしていない!」
「ふーん。まぁどっちでもいいけど、私はもう結構な力を得たワケよ? 呂后だって殺した。
もう元には戻れないのよ!」
「完全に元に戻れなくても、償っていくコトはできる! 過ちを正していく努力はできる!
例え未来が荒廃していたとしても、僕は……僕は!」
行者の目に光が灯った。
「僕の時代にいる人と未来を正す! その為に!!」

20 :項羽と劉邦:2008/03/11(火) 11:50:06 ID:9LwcKkIV0
彼が光線銃を引き抜くや韓信を食べていた日吉にビームが命中し、
「ちょ、出番コレだけ!? 二年ぐらい温めてたネタなのにというかセリフあったあーれー!」
一切の後塵も残さず消滅させた。
「そんな。確かにレッドシャークでは原子分解銃で死んでいたから光線銃で死ぬのは無理じゃ
ないけど! 無理じゃないけど! 何この多分に巻きが入った速度の展開!」
「君を連れ戻す! キャラも整理する! 多いとストーリー展開に弾みがつかないっ!」
「なんという火力じゃ! なんという勢い任せのキャラ整理じゃ!」
「外道忍法帖のようなキャラ整理振りで助かりました」
韓信はとろとろしながらぼけーと笑った。
目を見開いたのは呂后だ。(本当はリサだけど呂后でいいや。エーデルも偽だけどエーデルだし)
だが彼女は首を振ってさまざまな動揺を振り払うと、行者に歩み寄って手を掴んだ。
「覚悟が……あるワケね」
「ああ」
だから帰ろう。
行者はそういいたかったのだと韓信が推測せざるを得なかったのは
「だが断る」
冷たい口調とともに行者のドテっ腹がブチ抜かれたからだ。
「馬……鹿な」
「だってさぁ」
行者の腹から手を引き抜くと、呂后は俯きながら呟いた。
「やっぱさ、今さら戻れないよジュン君。いろいろな意味で。それにまぁキャラ整理キャラ整理〜」
「リ、リサ、お前……」
行者はかすれた声で叫んだ。
「ジョジョネタ使ってんじゃねーか!!!」
「だってー、さっき言った誓いなんて実はずっと忘れたしみんなもきっと忘れてたし。それはともかく」
行者が取り落とした銃を拾い上げ、呂后は韓信につきつけた。
「いい銃だな。少し借りるぞ。……なぁーんてねえ♪」
目をドロドロに濁らせてドス黒い表情で舌を突き出しながら(要するに藤田顔)で呂后はおどけた。
「なんというピンチじゃ。SSの体裁破綻的な意味での」
劉邦は汗を流した。
だがまだ草を生やしていないだけマシというものであろう。

21 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/11(火) 11:51:02 ID:9LwcKkIV0
スレ立てお疲れ様です。
アク禁解除&うしとら組曲完成したので戻ってまいりました。ちなみにこんなん。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2563417

前スレ>>326さん
弱音とかを打ち明けれる相手がいるというのはいいものですw
なおかつその相手がちゃんとした意見を返せるのであれば、なお。
さて、うしとら組曲でちょっと停滞してしまいましたが今週は頑張ります!

前スレ>>327さん
大丈夫です。小札はもろ小学生体格w これ参照。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/kozane.jpg
天真爛漫成分満載のまひろですので、嫁にしたら大変でしょうね。
秋水はおろか、パピヨンのような黒い奴でも絶対振り回されるw

前スレ>>328さん
正にそれは浪漫! ただの欲望発露でガーっとやらなさそうなのが素晴らしい!

ふら〜りさん
いいコなんですが、やっぱり「日常の象徴」ゆえに戦いの中では一歩引いた立場にいた彼女。
だから秋水vsカズキの顛末はあまり軽く流せないですね……
カズキ不在を扱ってるので、秋水の贖罪はまひろへの謝罪ありきなのですが、さてどうなるか。

さいさん
まさかの照星さん登場! しかも円山も! 序盤で千歳が語っていたのはこの伏線だったの
ですね。すごい…… それにしてもバスターバロン相手でも勝てそうなのが神父の凄さですよ。
仮にバスターバロンが激戦装備しても地球が終わるまで戦い続けそうなw

ハイデッカさん
いつもお疲れ様です。今年こそは本格的なご帰還を遂げれるようお祈りしています。

22 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/11(火) 17:49:39 ID:5+PEF3jL0
 
今にも照星に向かって突進せんばかりに身構えるアンデルセン。
獲物へ襲いかかる猛獣の如く、重心を前方に乗せる。
そして、両者の眼が決闘開幕の兆しに見開かれた、その時だった。
突如、アンデルセンの背後より“何か”が空気を切り裂いて飛来し、彼の足元に突き立った。
そこには、赤い柄の短剣が三本。
「黒鍵……。チッ、“弓”か」
アンデルセンはその“黒鍵”と呼んだ短剣を見るなり、さも不快そうに表情を歪ませた。

「それくらいにしておきなさい、“銃剣(バヨネット)”」

防人とアンデルセンが落ちてきた天井の大穴から、厳しさと冷たさを併せ持つ声が響く。
間も無く、その大穴から一人の人物がフワリと音も無く、ロビーの床へ下り立った。
髪、瞳、法衣(カソック)、すべてが深遠たる青。眼鏡を怜悧に煌めかせた若い女性だ。
(新手……?)
否が応にも照星の緊張感が増していく。
目の前の神父を相手にするだけでも無事では済まない覚悟をしているというのに、そのアンデルセンに
勝るとも劣らない、それでいて別種の“空気”をまとった者が現れたのだから。
服装やアンデルセンへの態度を見るに、同じ教皇庁(ヴァチカン)、第13課(イスカリオテ)の機関員である事に
間違いはないだろう、と照星は踏んでいる。

照星の思惑をよそに、アンデルセンは彼女の方へ振り向くと憎々しげに問いかけた。
「何の用だ、シエル」
「ラッツィンガー機関長の命を受け、次の任務を伝えにきました。手配中の分類A吸血鬼
“ジェイブリード”がシチリア島に潜伏しています。急ぎ討滅に向かいなさい」
無表情で言い渡すシエルに対し、ピクリと面持ちを変えるアンデルセン。
そこには幾分かの喜びが見え隠れしている。
「“ジャックの血統(J-breed)”だと……? わかった、すぐに向かおう。コイツらを殺してからな……」
アンデルセンは再び照星の方へと顔を向け、銃剣を握り直す。
しかし、シエルはそんな彼に叱責を飛ばした。
「いけません! あなたの任務は『パトリック・オコーネルの抹殺とNew Real IRAの壊滅』の筈です。
先程、上で任務の完了を確認しました。命令外の無駄な戦闘行為は即時停止しなさい」

23 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/11(火) 17:51:12 ID:5+PEF3jL0
特に怒りは込められていない。組織としての常識を問うているだけだ。だが、シエルの表情は
ほんの僅かに焦りを含んでいるように見受けられる。
怒りを込めるのはアンデルセンの方だった。
己が職務を捻じ曲げようとするシエルへの怒り。それに常日頃からの嫌悪が加えられる。
アンデルセンの個人的な感情から、シエルを“化物共と変わらぬ者”と見なす事による嫌悪が。
「無駄だと!? 異端者の抹殺は我々の常なる任務だ! 眼前に敵を放置して、何が第13課(イスカリオテ)か……!
何が教皇庁(ヴァチカン)かァ!!」
常人なら肝を震わせ四肢萎えさせるアンデルセンの怒号を浴びても、シエルは怯まず一歩も引かない。
「いい加減になさい、アンデルセン神父。度重なる命令違反や越権行為、ラッツィンガー機関長が――」
「あの元ヒトラー・ユーゲントの小才子が何だと言うのだ!? マクスウェルの影に怯えるしかない
あの物書きが!!」
シエルの言葉を打ち消し、アンデルセンの激怒はいよいよ最高潮に達しようとしている。
今の彼を、というよりもアンデルセンそのものを理屈で押し止めようという行為がそもそも
間違っているのだ。
上っ面の理屈などよりも信仰心のみで動いているのがアンデルセンなのだから。
こうなるとシエルだろうが、マクスウェルだろうが、現機関長だろうが、誰も彼を止められない。

だが、シエルはこのような結果になる事は最初からわかっていた。
「……右の任務、既に教皇猊下もご存知です。これ以上、猊下をお困りさせる気ですか?」
「……」
アンデルセンは沈黙せざるを得ない。
第13課は非公式部隊という事実とその残虐性故に、常に教皇庁内全体から疎まれている。
教皇がその軋轢に頭を悩ませるのも当然であった。
そしてまた、アンデルセンはこれまで三代の教皇に仕えており、温和で優しさに溢れた現教皇を
特に愛していた。
老齢や持病に苦しむ教皇をこれ以上思い煩わせる事は、流石のアンデルセンにも忍びない。
沈黙のまま、アンデルセンは錬金の戦士達への殺意を、シエルへの怒りを必死で抑えていた。

やがて、アンデルセンは右手に握る銃剣を無言でシエルの方へと投げつけた。
銃剣はシエルの頬をかすめ、背後の壁に突き刺さる。

24 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/11(火) 17:52:19 ID:5+PEF3jL0
頬に一筋、薄く血を滲ませるシエルに向かって、アンデルセンはこめかみをヒクつかせながら
吐き捨てる。
「興が削がれたわ……」
シエルが内心ホッとしたのも束の間、アンデルセンが大股に歩み寄ってくる。
「フン……。貴様がその程度の任務通達の為にわざわざ日本から来るとは思えん……」
アンデルセンはシエルの目の前まで来ると、足を止め、彼女を見下ろした。
殺気は未だ治まらず、視線は突き刺すような鋭さを持っている。
「ましてや、この私を止めようなどと……――」
暴風にも似た圧力を以って己の顔をシエルの鼻先に近づける。
シエルの頬を冷汗が伝った。先程の傷が既に消え失せた、白くきめ細かい頬を。
「――大方、あの酒に溺れた落伍者の差し金といった所か? 錬金の戦士共を殺すな、とでも?」
「……」
今度はシエルが沈黙する番だった。
これがアンデルセンなのだ。
狂気を感じさせる程の怒りを発していても、同時に氷の如く冷静な思考を巡らせる事が出来る。
彼は敏感に勘付いているのだろう。
この場面において、機関長の意志でもシエルの意志でもない、“第三の意志”が働いている事を。

アンデルセンはシエルから顔を離すと照星達の方へ振り向いた。
戦闘再開かと神経を研ぎ澄ませる照星を尻目に、左手の銃剣は袖口の中へ音立てて仕舞われる。
代わりに法衣の懐から聖書が取り出された。
「今日の所はこれで退いておいてやる……。だが次に会った、その時こそ……――」
アンデルセンがその大きな掌で聖書の表紙を力強く叩く。
すると、見えない力に操られているかのように、独りでに聖書の頁(ページ)がパラパラとめくられ始めた。
「――皆殺しだ……!」
更には次々に頁が聖書から離れ、無数の紙片と化して宙空を乱れ飛ぶ。
紙片の嵐はいよいよその激しさを増し、アンデルセンとシエルを包み込んでいった。
照星は呆気に取られながらもアンデルセンの動向を察知する。
それはこの期に及んだ彼の想像し得ないものだ。
「まさか、撤退する気ですか……」
「そ、そんな事は……させな、い……」
気づけば、防人が円山の手を払いのけ、アンデルセンを逃すまじと身を起こそうとしている。

25 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/11(火) 17:54:25 ID:5+PEF3jL0
「もうやめて! 防人君!」
千歳の悲痛な声も聞こえないのか、ふらつき這いつくばりながらも上半身を起こし、
姿を消しつつあるアンデルセンへと手を伸ばす。
既に尋常の意識ではない。
闘争の残り香が、宿敵への消えざる執念が、防人の身体を動かしているのだ。
「ま、待て……アンデルセン……。勝負は、まだ……」
アンデルセンは未だ闘いの姿勢を崩そうとしない防人に気づくと、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

この男だけが我の、我々の闘争を華やがせてくれる。
いらぬ。もう、いらぬ。この男を殺せるならば何もいらぬ。
再び相見えたならば私はもう第13課を背負わぬのだろう。
貴様も錬金戦団なんぞを必要とはしない筈だ。

防人の耳には聞こえた。確かに聞こえたのだ。
この北の地で出会ってしまった宿敵の声が。
己のすべてを懸けて、否、すべてを捨ててでも打ち倒さなければならない相手の言葉が。
「キャプテン・ブラボー。私に殺されるまで、誰にも殺されるなよ? ククク……」
紙片はいよいよ渦を巻き、吹き荒れ、とうにイスカリオテの二人の姿をかき消していた。
しかし、舞い踊る紙片の中、アンデルセンの哄笑が大きく高らかに響き渡る。

「ゲァハハハハハハハハハハハハハハハ!! ヒャアハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

その笑い声は、防人が意識を失う寸前までも尚、深い闇へと墜落していっても尚、頭蓋の中を
響いて止まないのだろう。
いつまで? 二人が再び雌雄を決するその時まで?
それはいつの事なのか。
それはいかなる場所なのか。
何が再び彼らを引き寄せるのか。
瞼の裏にその姿を焼きつけ、耳にその声を焼きつけ、拳に殴打の感触を焼きつけ、防人は意識を失った。
彼はこれからの時間を眠り続けて生きるのだろう。

26 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/11(火) 17:55:56 ID:5+PEF3jL0
眼を覚まそうが、異なる敵と戦おうが、新たな希望と出会おうが。
彼はこれからの時間を眠り続けて生きるのだろう。
それは深く長い眠りとなる。
いつの日か、錬金戦団と第13課が、錬金の戦士と聖堂騎士が、防人衛とアレクサンド・アンデルセンが、
どちらかがどちらかの命を奪いつくす約束の日まで。
心の臓腑の音色を止ませる決斗の日まで。





次回――
2001。馬鹿野郎。DADDY。終わらぬ戦争。
《THE EPILOGUE‐1:The virgins are all trimming their wicks》





どもども、さいです。
これにて本編は一応の終幕です。
この展開にご不満がある方もいらっしゃるかもしれません。ごめんなさい。
次回、次々回と短めのエピローグがあって、この作品は完結します。

あ、そうだ。あと二つほど。
ひとつは、ずっと前にも作品の中で書きましたが、これは七年前のお話なのでこの時点での
第13課機関長はマクスウェルではありません。
このお話の時代から数年後に各種掲示板やニコニコ動画で人気者となるあの御方です。
こんなの書いてたら私、消されるかも。
もうひとつは、神父は四次元ポで聖書はコスモ聖書なので、懐からは無限に聖書が出てきます。

でわでわ。

27 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 18:09:16 ID:lQAzIKw40
双方の名を傷つけないと言う意味では良い決着だと思います。
どうみても主役はアンデルセンで、彼をストーリーメーカーとして
様々な戦士の意地や矜持が垣間見れて良かったと思います。

あとエピローグですか。最後まで頑張ってください。

28 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 19:49:11 ID:n3/mikni0
バンカラメモリアル2〜テメエの為に鐘は鳴る〜

どこにでもありそうな町、ひびきの市。
どこにでもありそうな小学校、ひびきの小学校。
だがそこに通う一人の少年は、世界のどこを探したっていそうもない少年―――否、<漢>であった。
小学2年生にして、180cmを越える筋骨隆々の鋼の肉体。三本角のような、威圧的な髪型。なによりも、凄まじい
眼力のこもった三白眼。そして、小学2年にして、学ラン。
彼の名は金剛晄(こんごうあきら)。人は畏敬の念を込めて、彼をこう呼ぶ―――金剛番長と!
そんな彼も、今日は2年生終わりの終業式。これからの長い休みをどう過ごそうかで、結構ウキウキしていた。
この辺りは、まあまあ普通の少年とそう変わらないだろう。そんな彼に、一人の女の子が声をかけてきた。
「あきらちゃ〜ん。一緒にかえろー!」
―――光の加減で赤っぽく見える、腰まで届く、長い髪。左目には泣き黒子。将来美人になる素質十分の美幼女だ。
彼女はまるで太陽のような笑顔を振りまきながら、金剛に向けて手を振っている。
少女の名は、陽ノ下光(ひのもとひかり)。金剛とは家が隣同士、幼馴染という奴である。
「そうだな。帰るとするか」
小学校低学年とはとても思えないドスの効いた声であるが、光は怯えた様子もない。彼女にとって、<あきらちゃん>
は生まれた頃からの幼馴染。慣れたものである。
「じゃあ、かえろ〜!」
そして二人は、仲良く家路に着くのだった。

―――三十分後。
「うわーん!あきらちゃ〜ん!」
盛大な少女の泣き声に、ちょうど近くを歩いていた中学生の少女―――麻生華澄(あそうかすみ)は何事かと、泣き声
のする方へと駆け出した。
そして彼女が見たものは。ご近所に住む仲良し二人組―――正確には。
泣き喚く光と、血塗れの金剛。そして、拳銃や刃物で武装した、屈強な男たちが死屍累々と倒れている場面だった。
「…………」
華澄はカバンから頭痛薬と胃腸薬と精神安定剤を取り出し、流し込むように飲み込んだ。そして、努めて笑顔で聞いた。

29 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 19:50:33 ID:n3/mikni0
「ど…どうしたのかしら?光ちゃん、晄くん」
「あ、かすみおねーちゃん!」
光は泣きながら華澄に飛びついた。
「あのね、あのね…この間、あきらちゃんが潰したぼーりょくだんの人たちが、襲ってきたの!それで…」
「…………」
先程大量に摂取した薬物の効き目は、全くない。金剛はそんな華澄に、詳しい状況を説明する。
「つい先日の話だ…こいつらのうちの一人が、イチャモンつけて光が描いた絵を破り捨てたんだ…スジが通らねえ、と
俺は思った」
「そ…それで?」
「組に殴りこんで、そいつには光にきっちり詫びを入れさせた。だが…逆恨みした連中が、ついさっき、俺たちに
襲い掛かってきたんだ。倒しはしたが、不意打ちで何発か銃弾を喰らっちまったぜ…」
「そ、そうなんだ…それで、あなた、怪我の方は?」
「フッ…」
とてもじゃないが小学2年は浮かべねー威圧感たっぷりの笑みと共に、金剛は言い放った。
「こいつらがチンタラやってる間に、全部治っちまったよ」
実際、撃たれた傷は既に塞がり、血も出ていなかった。
「…………」
ノーコメント。華澄は日本人の悪癖であるアルカイック・スマイルを浮かべることしか出来なかった。
「さ、帰るぞ、光。今日も岩山にトンネルを掘って遊ぶとするか」
「うん!」
金剛と光は、手を繋いで帰っていく。それを見守り、華澄は苦笑する。なんだかんだ言っても、微笑ましい二人だ。
「トンネル掘り、ね…そういうところは子供らしいんだから」
と―――華澄は、とあることに気づいた。金剛は<岩山にトンネルを掘る>と言っていた。
普通、幼児がトンネルを掘ると言えば、砂場で砂山を作り、スコップで掘るという意味だ。
だが、何故に岩山―――
「はは…まさか、ね…聞き間違いよ、うん…」
華澄は頬を引き攣らせつつ、再び薬物を過剰摂取した。

30 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 19:51:33 ID:n3/mikni0
「ダメだ、光!そんな掘り方するんじゃねえ!」
数時間後、件の二人は、まさしく聳え立つ岩山の前で、激しく言い争っていた。
「えー?大丈夫だよ、これで」
ヘルメットを被った光はツルハシを振り上げつつ、トンネルを掘り進めていく。金剛の影に隠れて目立たないが、
彼女もまた規格外の存在である金剛と生まれた時から一緒だったのだ。一般常識というものは、基本的に通用しない。
彼ら二人にとって、トンネル掘りとは文字通りの岩山貫通作業である。
ちなみに金剛は素手であった。己の鋼の肉体以外の道具なぞ、この漢には不要である。そんな彼は、手書きの図面を
指差して、光に力説する。
「これ以上掘ったら、力点と支点の関係が崩れて、大崩落を起こしちまう。ここは一旦ひいて、別の穴を掘りなおす
べきだ!」
金剛晄。意外と頭脳派だった。対して光も、自分を曲げない。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!このまま行けば、すぐに向こうに出るよ!」
そう言ってツルハシを思いっきり叩きつけた―――が。
ゴォォォォォン…ッ!
「え?」
嫌な音が鳴り響き、岩山が盛大な落盤を起こし、崩れ落ちていく―――
「危ねえっ!」
突然のことに動けない光に、金剛が覆い被さった。その背中に、容赦なく岩のシャワーが降り注ぐ。
ようやく落盤が収まり、金剛と光は一息ついた。
「トンネル、崩れちゃった…」
「全く、考えなしに掘り進めるからだ。このバカ!」
「うっ…」
光は目に一杯涙を溜めて―――次の瞬間、わんわんと泣き出した。
「バカじゃないもん!バカっていう方がバカなんだもん!わーん!あきらちゃんのバカー!」
「お、おいおい…何言ってんだ、お前…」
慌てて宥めようとするが、光はバカバカ言いながら泣き喚くばかり。金剛は苦笑して、光の頭をくしゃっと撫でた。
「う…」
「ほら、泣き止め。トンネルなんざ、また俺が掘ってやるさ」
「…うん…」

31 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 19:52:34 ID:n3/mikni0
涙を服の袖で拭いながら、光は金剛の姿を見つめた。
(怒られちゃったけど…バカって言っちゃったけど…あきらちゃん、わたしを助けてくれたよね)
えへへ、と笑いながら、光は金剛に抱きついた。
「あきらちゃん…大好き!」
「へっ…褒めても何も出ねえぞ」
そう言いつつも。金剛もまた、嬉しそうだった。
結局のところ。どれだけケンカしたところで。二人とも、お互いのことが大好きだったのだ。
―――その日。二人が掘ったトンネルは。某キャンディ大好きな海王が掘ったものにも劣らない、見事な人力トンネル
だったという。

32 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 19:53:58 ID:n3/mikni0
次の日。
「わーん!」
光はまたも泣いていた。
「…いや…悪かった…大丈夫だと思ったんだ…」
金剛は神妙な顔で、焚き火を熾していた。
ここは、森―――もっというなら、富士の樹海である。
「今日は少し遠出をしようぜ」
と、珍しく金剛の方から光を誘い、光も二つ返事で承諾したのだ。
今回の遊びは<探検ごっこ>。しかし、この規格外の二人が、そこらの森で満足できるわけもない。だったらどうする?
樹海へ行くしかないじゃないか!<石田彰の声で再生してください>
で、迷った。遭難した。
金剛は唸りながら、手に持ったBIGプッ○ンプリンのカップを見つめた。
「道にプリンを少しずつ置いていったから、帰り道の心配はないはずだったんだ…」
「そんなの鳥さんたちに食べられちゃうに決まってるじゃない!えーん!」
光は泣き喚くが、金剛は首を捻っていた。彼にとってプリンは至高にして究極の存在だ。プリンさえあれば、如何なる
状況でも、全て打破できる。彼はそう信じて疑わなかったのである。
しかし、現実はこれである。金剛は、世間の厳しさを思い知ったのだった。
「あきらちゃんが大丈夫だって言ったのにー!うそつきー!おなか減ったー!おうちに帰りたいよう!」
流石の光も駄々をこねる。金剛も、今回は自分のせいだという自覚があるのか、申し訳なさそうに立ち上がった。
「そうだな…今回のことは俺が悪い。このまま何もせず、助けを待つばかりじゃ、スジが通らねえな…分かった。俺が
道を探すついでに、何か食うものも取ってくる。光はここを動くなよ」
そう言って、金剛は焚き火を離れ、樹海へと足を進めた。

33 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 20:05:24 ID:n3/mikni0
―――そして、すぐに。金剛は、巨大な影に襲われた。
「くっ…!」
直撃は避けたものの、背中がぱっくり裂けて、血が流れ出している。しかし金剛はそれには気を留めず、目の前の相手を
冷静に観察する。
まるで、神話にでも登場するかのような蛇だった。その口からは、禍々しい牙がいくつも並んでいる。
「ハブロード…!」
金剛は口を厳しく引き結び、解説を始めた。
「直訳すれば<ハブの支配者>…!元来沖縄にのみ生息するはずの幻の珍獣…!その正体は異常成長を遂げた
ハブたちがお互いを喰い合い、更に進化を遂げたものだと言われている…!しかし、何故この富士の樹海に…」
だがそんな金剛に構わず、巨大な蛇―――ハブロードは、その口を大きく開けて、金剛を一呑みにしようと迫る!
「…推測するなら、沖縄のエサは喰い尽くしちまって、他のエサを求めてここまで来たってところなんだろうが…
悪いな。俺は喰われるわけにはいかねえ…!」
金剛は両の拳を握り締めた。力を込めるに従い、その腕はまるで、鉛のように赤黒く変色していく―――!
そして金剛は、文字通り鉄拳と化したその剛腕を、ハブロードに叩きつけた!
「打舞流叛魔(ダブルハンマー)ァァァァァアッッ!!!」
「ギャアアアアアアアアッ!!!」
断末魔の雄叫びと共に、ハブロードは空高く吹っ飛ばされた―――

34 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 20:06:35 ID:n3/mikni0
「おいしい♪」
光はニコニコ顔で、丸焼きにされたハブロードの頭に齧り付いていた。ほっぺた一杯にお肉を詰め込んだその顔は、
まるでリスのようで中々可愛らしかった。
「フッ…現金な奴だぜ。まあいい。ひとまずスジは通したぜ!」
金剛もまた、満更でもなさそうな顔で、尻尾からハブロードをむしゃむしゃ食べていた。
―――そこへ。
「ふ…二人とも…無事…だった…?」
あんたこそ大丈夫か、と誰もが思わずにいられない弱々しい声と共に、ライトが二人を照らし出した。
その向こうにいたのは、二人にとって優しいお姉さん―――麻生華澄であった。
「かすみおねーちゃんだ!」
「よう、華澄さん。来てくれたのか」
二人は笑顔で華澄を出迎えた。華澄もまた、二人に笑いかけようとしたのだが、上手くいかなかった。
何しろこの二人を探すため、富士の樹海を、延々と彷徨ったのだ。用意した装備や道具も底を尽き、世にも恐ろしい
猛獣やら何やらを掻い潜り、やっとこ金剛たちを見つけたのである。
そんな苦労をしてでもお騒がせな二人をほっとけない辺りに、彼女の人格が滲み出ているといえよう。
ともかく、意識が凄い勢いで阿頼耶識の方へかっ飛んでいき、華澄はその場にばったりと倒れてしまった。
「あれ?かすみおねーちゃん、寝ちゃった?」
「やれやれ…世話の焼けるお姉ちゃんだぜ。まあいい。ほら、華澄さんの腰を見てみろ。命綱だ。これを辿れば帰れる
はずだぜ」
そう言って金剛は、あっさりと華澄を抱え上げ、ついでに光を肩車して、悠々と命綱を辿って樹海を突き進む。
「わーい!あきらちゃんの肩車、すごくたかーい!」
はしゃぐ光の声を聞きながら、金剛は、こんな日々がいつまでも続けばいいな、と思っていた。
その思考を読み取ったのかどうか、華澄は言い知れぬ悪寒に身を震わせるのであった。


35 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/03/11(火) 20:07:45 ID:n3/mikni0
投下完了。長いので前後編に分けました。
規制に巻き込まれなければ、一週間以内に続きを投下します。
最近の規制は酷すぎる…

今回の元ネタはときメモ2(古い!)の幼年期編と、サンデーで絶賛連載中の「金剛番長」。
ときメモ2の主人公が、もし金剛番長だったら…という妄想を書き散らしたものです。
例によって、バカSSです。
陽ノ下光は、僕の中で、未だに最高ヒロインに位置づけられます(このSSではぶっ壊れてますが)。
なんといっても、適当にプレイしても好感度が勝手に上がっていくという、昨今のツンデレと
対極をなすデレデレぶり。そのおかげで他の子狙いの時はお邪魔キャラですらあるのですが、
そんな彼女が愛しいのです。

仕事に私生活、今現在の状況では、正直な話、労力のかかりすぎる長編は中々書けません。
時々、思いついた駄文でお目汚しするだけになってますが、ご容赦を。
では、今度は後編で。

36 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 20:17:48 ID:qghWsyge0
おお、新スレ快調な滑り出しですね。
スターダストさん、さいさん、サマサさん乙です
(本当にサ行の人ばっかりだなw)

>項羽と劉邦
相変わらず俺のストライクゾーンを微妙に外れている作品ですがw
スターダストさんが楽しんで書いておられるようでまったりと読んでます。
ジョジョネタ、ナンセンスギャグと乱舞ですな。
しかしうしとら交響曲、よくこんなの作れるなあ・・


>WHEN THE MAN COMES AROUND
政治的なものの介入、というの激闘の終わり方は少し残念でしたが
それでも神父の魅力と魔力が存分に発揮されたSSでしたな。
ま、確かに神父が朽ちる姿は見たくない(原作では入滅したけど)
さいさんもある意味、考え抜いた末の締め方だったんでしょうな。


>バンカラメモリアル2〜テメエの為に鐘は鳴る〜
お久しぶりですサマサさん。安否を心配しておりました。
今、俺的に二番目に熱い少年漫画の金剛番長ですか。(一番は賭博魚)
SSにぴったりで、サマサさんらしさを出し切れる素材と思います。
短編というのが少し残念です。

37 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/11(火) 21:50:48 ID:xcRWqm480
 スポーツには故障という概念が存在する。体が不調ならば休息を許され、時には負けの
口実にすることも可能だ。すなわち、スポーツマンとは万全な状態こそがベストコンディ
ション。
 一方、武術家に休息の時はない。いつでも、どこでも、だれとでも。骨が折れていよう
が、目や金玉が潰れていようが、不治の病に侵されていようが、一切関係ない。すなわち、
武術家とはいつだってベストコンディション。
 たとえ別れを告げた肉体でも、使えるならば使う。
 加藤は砕けた左手の爪をくわえると、全力で引き抜いた。五指から爪が剥げ、代わりに
刺すような激痛が召喚された。打撲とも骨折とも異質な痛みが、彼の意識をよりはっきり
と目覚めさせる。
「押忍ッ!」
 押忍、と同時に加藤は右腕を振り抜いた。爪の跡地から、大量の血飛沫がばら撒かれる。
一滴一滴が、武神の面を捉える。
「ぬっ」
「ガアァァアッ!」
 フェイントもクソもない。初恋時の告白にも似た、真正面から、添加物を含まぬ全力で
の金的蹴り。
 もろに入ったが、コツカケを施している武神には通じない。
「まだだァッ!」
 つま先がめり込んだ金的を足場に、加藤は肩に飛び乗り、目突きを武神に撃つ。
 惜しくも外された。が、評価は高い。
「蹴り込んだ金的を踏み台に、肩へ駆け上っての目突きか。実に君らしい技だな」
「目突きが決まってりゃあ最高だったんだが」必殺の左ハイ。「なァッ!」
 これをくぐり抜けるように、武神の低空タックルが決まった。下半身をがっちりとホー
ルドされ、加藤は倒され──ない。
 足腰だけでなく、足の指で地面を掴むように堪え、
「倒される前に終わらせるッ!」
 武神の延髄に、渾身の一本拳を突き刺す。これで武神の力が緩み、加藤はすばやくタッ
クルから逃れた。

38 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/11(火) 21:51:13 ID:xcRWqm480
 再び向き合う両者だが、武神が一手先んじる。加藤の左手首を掴むと、即座に重心を崩
し、合気投げを決行。空中で頭が下になった加藤に、武神の白く太い腕が伸びる。
「くゥッ!」
 急いで体勢を立て直し、着地だけは成功させた加藤。が、すぐ異常に気づいた。
 ──左半分、視界が消滅していた。
 いくら目を凝らしても、左目の機能は戻ってこない。コンマ数秒の後、加藤はさっきま
ではなかった首の痛みによって正答を得た。
「こいつァ、紐切りかッ!」
「察しがいいな」左から、武神の打撃が飛んでくる。左腕は壊れているので、反撃も防御
もできない。「首には目と密接な関連性を持つ神経がある。それを断ち切らせてもらった」
 まさか紐切りとは──武神のしたたかさに冷えた汗が湧き出る。
 『攻めの消力』『音速拳』『剛体術』と、攻撃手段を掃いて捨てるほどに持つ武神が、
この局面で選んだのは『紐切り』による確実な戦力削減であった。
 策が成れば、あとは徹底した左攻め。左脇腹に剛体術が炸裂し、この一撃で左肋骨部が
壊滅状態に陥った。さらには左耳を狙った張り手で鼓膜も破壊された。左半身を再起不能
にした後、右半身の破壊に移るつもりなのだろう。
(こうなりゃとことんまで……がむしゃらに、やってやらァッ!)
 左から来ることは分かっている。左手、左目、左耳はもう役に立たないが、まだ左足が
ある。
「ウォッラァッ!」
 左側へ蹴りまくるが、まるで当たらない。いくら実戦経験に乏しくとも、防御の理合を
知り尽くした武神が、半ば勘で出している攻撃を喰らってくれるはずがない。
 ついには、足裏を肘で迎撃される。
「グァッ!」
 動きを止めた加藤の左脇腹に、音速拳が雨あられと衝突する。亀裂骨折が粉砕骨折とな
った。

39 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/11(火) 21:52:12 ID:xcRWqm480
 胃液と血液の混ざった朱色をした粘液が、口から吐き出される。内臓が傷つき胃が驚い
たのか、ぜん動が収まらない。吐き気が止まらない。げえげえと嘔吐を繰り返すうち、右
手に粘液が付着する。加藤ははっとする。
 仮にも空手家を名乗るのならば、手は空っぽにしなければならない。
「こんなもん、手に持ってちゃいけねぇ……」
 ズボンで汚れを拭き取り、さっぱりとした右手を眺め、満足そうに微笑む。
 一方、武神はトドメを刺さんと最後の猛攻に出る。強烈な右ハイは同じく右ハイで迎撃
するが、気と拳と地、三位一体の直突きを胸に受け、よろめいたところへ、少林寺拳法秘
伝『仏骨』がクリーンヒット。読まれぬよう、技を次々に切り替えている。
「武神ッ!」
 突然名を呼ばれ、攻撃を中断する武神。すると、右掌をこちらに向けている加藤の姿が
あった。手相までくっきり見える。
「俺は……」
「………」
「手に、何も持ってねぇ……よな?」
「あァ、持っていないな」
 文字通り神に誓うと、加藤は小指から折り畳み、お手本のような正拳を組み立てた。
 まだ足りない。加藤はさらに拳を握り込む。指が食い込みすぎて血が滴り始めたが、ま
だ止めない。拳の中には何もあってはならない。徹底的に追い出す。汗も、血も、空気で
さえも許さない。
「まだまだまだ……まだ足りねぇッ!」
 メキメキと骨を軋ませながら、拳が変形を成していく。小さく、しぼんでいく。
 自らも知らぬ現象が起こっていることに、武神も好奇心をあらわにする。
 程なく、中に分子一粒すら残さぬ拳が出来上がった。

 正拳完成。

40 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/11(火) 21:52:55 ID:xcRWqm480
 武器や凶器だけでなく、大気や体液の介入をも拒んだ正拳。あとはもうぶつけるだけだ。
 無数の手札から、武神が選んだのは菩薩の拳。ここまで持ち応えた神心会空手に対する
敬意の表れであった。
 時を同じくして、両者が奔(はし)る。
 対極を成す二つの光が交わる時、真なる激突が生まれる。

 無の拳か、菩薩の拳か。

 人か、神か。

 どちらの漢が上か。

 拳が互いの貌(かお)に触れるのは同刻だった。この瞬間、武神は全関節を固定し、菩
薩の拳を百キロ以上の鉄球へと変貌させる。
 空手家の顔面が爆ぜた。眼球が半分近く飛び出し、歯は弾け飛び、耳からも血が噴き出
る。
 しかし、無の拳はなおも突き進む。敵であるはずの神にすら誓った「自分の手には何も
無い」という矜持が力を呼ぶ。力強く、武神を抉る。
 唐手から空手へ──今、真空など目ではない「空」が成った。

 ──どうやら君も知る必要があるようだ。
 ──私が武神などではないことを、これからの武を。

 正拳突きは、武神の頬骨から手首までめり込まれていた。
 拳を引き抜くと、武神はチェーンソーで切り倒された大木のようにゆっくりと、意識を
失してなお威厳を保ちながら、大地に吸い込まれていった。

41 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/11(火) 21:56:15 ID:xcRWqm480
前スレ>>410より。

新スレおめでとうございます。

色々と無駄に長かったですが、今月中には終わります。
次回へ続く。

42 :VP:2008/03/11(火) 22:24:16 ID:CjCEKqrTO
彼は、その生涯において最大の恐怖により、最大の窮地に立たされていた。

狩人は狩人であって戦士ではなく、戦士もまた戦士であって、狩人ではない。
経験の浅い彼に、「プレデター種」が常に抱くジレンマを理解することは出来ない。
理解が出来ないからこそ、狩の片手間に「戦士」に挑む等と言う、常識はずれの失態を演じる。


蛍光色の体液━恐らくは血液━を肩から流しながらうめき声をあげる「彼」の姿に、
ヴィクターは驚愕していた。
てっきり錬金戦団の追っ手だと思い込んでいたところに、これだ。
いかに大戦士長ヴィクターと言えども、隙を生じずにはいられない事態だった。

死神の隙を感じ取った彼の対応は速かった。
右篭手に仕込まれたワイヤーネットを、ヴィクターに向けて打ち出したのだ。

43 :VP:2008/03/11(火) 23:00:31 ID:CjCEKqrTO
ワイヤーネットが展開し、ヴィクターを包み込む!
まるで幼児の玩具遊びのようにワイヤーネットに仕込まれたマイクロモーターが、ヴィクターを握り殺さんと唸る。
しかし、ヴィクターはあがいていた。
動けば動く程締め上げるこのネットの抱擁を受ける寸前、ヴィクターは自らの武装錬金を右手で構えていた。
このバトルアックスの武装錬金は、中央で分割することが出来るのだ。
両手でこのネットを引き裂くべく、じりじりと蝸牛の歩みで左手がバトルアックスの切っ先に迫る。
ネットの圧力に、ヴィクターの皮膚が血飛沫をあげて裂けた。
肉を削ぎ飛ばし、あわや骨をも切断という瞬間、二丁のアックスがヴィクターの雄叫びと共にネットを切り裂いていた。
雄叫びがジャングルを震わせる。

しかし、既にヴィクターの前に「彼」はいなかった。

44 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/03/11(火) 23:05:25 ID:CjCEKqrTO
銀杏丸でした。

パソコンないと不便でぇ〜っす
今なら■さないから俺ノート盗んだ奴でてきてちょ

ではまたお会いしましょう。

45 :作者の都合により名無しです:2008/03/11(火) 23:46:52 ID:B6Y2TCLv0
なんか新スレ早々一気にきたなあw

・スターダスト氏(ニコ動素晴らしいですね)
色んなものがチャンポンになっていいダシが出てますね。
話の行く末は分かりませんが、趣味に加速してる感じで良いです。

・さい氏
決着しましたか。長い戦いでしたが、勝者無き戦場でした。
エピローグは錬金部隊の復讐の誓いになるのか、神父の高笑いか?

・サマサ氏(お久しぶりです)
番長は僕も大好きです。ときメモはやったことありませんが…
後編、どんなオチで終るのか、久しぶりのサマサ節楽しみです。

・サナダムシ氏
紐切りは確かに一番エゲつないかも。そしてここで仏骨とはw
加藤は成長しましたね、武術家として。原作ではもう出ないだろうけど…

・銀杏丸氏(お久しぶり)
携帯で書くというのは大変なんでしょうね、時間もかかりそうだ。
でももう少し書き貯めして欲しいかなあ。頑張れ!



46 :作者の都合により名無しです:2008/03/12(水) 00:24:43 ID:Z1nzS1D10
サマサ氏・ハシ氏・ハロイ氏・銀杏丸氏の復活は嬉しいけど
サナダムシ氏とさい氏の作品が終わっちゃうんだよねえ。
ふら〜りさんも引退しちゃったし。
上手くいかんもんだな

47 :作者の都合により名無しです:2008/03/12(水) 10:39:51 ID:HGDId2rO0
>サマサ市
金剛番町とときメモって相反する世界ですね。
でもサマサさんの手に掛かると不思議と融合するから素敵だな。

>サナダムシ氏
加藤はたくましくなりましたね。精神的にも。
今月中ってことは、あと3回くらいで終わるのかな?淋しいな。

>銀杏丸氏
慣れない携帯からの書き込みは大変ですね。
戦闘神話の前に、こちらを終わらせるおつもりなのかな?


48 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:03:37 ID:FS4cKKdM0
第9話 「蕭何の指」

「待て韓信。お前いろいろ魔界衆の道具使えるじゃろ。例えばでっかいロボットを出して自動
修復と絶対防御と幻影を見せる霧と無限のミサイルと五千百度の炎で攻めれば……」
「無理よそれ。だってもう韓信の精神は尽きかけている」
「バレましたか。そう。実はいま握っている刀を維持するのが精いっぱい」
なお、彼が魔界衆の道具を発動しているのは胸にかかったある道具による。
その物体が「認識票」だとは、古代中国人の劉邦にはわからない。
ともかくもコレを用いると数多くの魔界衆の道具を際限できるのだ。奴の武装錬金なのだ。
「そう、すでに私の精神力は限界。この魔界衆の残した道具は使えません。いま手に握って
いる刀を砕かれたら、私はあなたに対抗する術を失うでしょう」
劉邦は頭を抱え、呂后は笑った。
「終りか」
「終わりよ」
今まさに光線が発射されんとした瞬間、韓信は無表情でおかしなコトをいった。
「そうそう呂后。張良どのの霞切りは痛かったでしょう」
「それが何だってのよ韓信」
「実をいうと、アレは私が伝授したものなんですよ」
韓信は銀光りする銃を瞬きもせずに見た。
「他の特技は張良どのが三略を読んで覚えたものばかりです。しかし霞切りだけは、私が伝
授したんですよ。まぁ、本家本元の私よりも張良どのの方がはるかに使いこなしてましたが」
「すました顔でつらつらと! あんた、私が指を弾くだけで終りなのよ!
呂后は、甲高い声をあげ散らした。
はるか遠くの劉邦が思わず顔をしかめて耳を塞ぐほど、声は大きい。
だがそれを真正面から受けている韓信は、さほど表情を変えない。
劉邦は心底この大元帥に腹が立ってきた。
もはや勇猛というより痴呆の域ではないか。
「はぁ。普通にみればそうですね。でも、私たちは勝ちますよ。残念ながら」

49 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:04:52 ID:FS4cKKdM0
呂后の頬が怒りに引きつった。
「ですができれば、銃は体の正中線上に沿って頂ければ一挙両得になります。沿わずとも私
はうまく繕いますけど。さぁ、どうなされます。降伏も一つの選択肢です」
韓信の言葉に憤懣やるせないという歯ぎしりで地団太すら踏んだ。
「うわああ、この股夫ずれがまたワケの分らないコトをぉぉぉ〜っ!」
美少女の全力の挙動というのは、その造形に一種の趣すら与えるらしい。
不覚にも劉邦は見とれかけたが、韓信の危機に気づいて蒼白にあった。
(彼奴の命そのものはどうでもいいが、韓信死んだらわしも死ぬ……あわわ、あわわ)
彼の恐れを別として、運命の瞬間が到来した。
「じゃあやるわよ! いい! 挑発したのはあんたなんだからねっ! もう知らない! ばかぁっ!」
呂后が引き金に指を掛けたのと、韓信が柄に手をかけたのは同時であった。
通常なれば、剣が殺到するよりも早く、光線が彼を打ち貫いていただろう。
だが次の瞬間!
呂后の右肘より先は、光線銃を握り締めたまま闇夜に高く舞い上がっていた!
血煙りが無軌道な螺旋を描く。紅い霧が色濃くけぶる。
それは正しく鉄人28号のロケットにも負けぬ劣らぬ勢いであった。
何が起こったのか。それは韓信のセリフに譲る。
「後から出でて、先に切る。相手の剣とは一度もふれず。刀と刀のふれあう音も立てずに。
一撃で相手をたおす一撃必殺の剣法…… 音無しの剣」
韓信はふうとため息をついた。
「これ、張良どのでも覚えれなかった、私の切札なんですよ。私は確かに弱い。でもそんな私
が隠し持っているからこそこの秘儀は切札たりうる。相手の虚を突くのは、兵法の基本中の基
本ですからね」
剣持つ右手を横に伸びきらせたまま、韓信はいつものように淡々と呟いた。
「や、やりおった! 韓信めが!」
劉邦の目線の先には、肘から先の腕が空を飛んでいる。
「破ったぜぇぇぇ! 天地魔闘の構えええええええええええええええ!!」
行者も叫んだ。
「え、何? 私バーン様!? えーとじゃあ……余の、余の腕がいかなる武器にも勝る筈の余
の腕がぁー……じゃないわよ! 早く銃、銃回収しなきゃやられる! レイプされる! そうい
えば皆! この作品はね、元々はエロパロ板で連載されてたんだよっ!」

50 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:06:18 ID:FS4cKKdM0
つまりそれだけの活劇であり活躍だったのだ。にも関わらず韓信自身はまるで喜色がない。
ただ、韓信は。
(まぁ仮に振り遅れたとしても、この刀はソードサムライXなので光線は無効でしたし)
現実主義者らしく身も蓋もないコトを思った。

燦然たる金色の星々の前で舞い上がる血煙は、さながらほうき星のように尾を引きそして消え
ていく。
流れ流れていつか、消え行くとしても。
「韓信! その手に握られた銃を奪うのじゃ! さすればもはや呂后に勝ち目はないっ!」
「おぉ、漢王、久々のセリフで…グバァ!」
永遠に止まらない。時の河は続いていく──
「させない! あと僅かで勝利は我が手なのよ…! 諦めれるワケ……ないじゃない!」
呂后は韓信を遥か彼方に殴り飛ばしながら、銃めがけてあらん限り手を伸ばした。
ああ、もはや術は劉邦にない。ただ銃を取られ呂后専横を許すのみか。
だが韓信はなぐられた頬をさすりながら、起き上がり、こう呟いた。
「ああ、ところで正中線の事ですが」
距離は呂后よりかなり離れている。劉邦とはもっと遠く。そして銃は刻一刻と呂后に落ちつつある。
「また何をやっとるのじゃ韓信! 早く銃を」
「正直ですね、呂后。私はあなたを銃ごと二等分してみたかったんですよ。でも、それに沿って
構えてくれませんでしたよね? だから腕を切断するに留めたんですが」
「ええいまだるっこしい! そもそもお前が銃を破壊していればこうは…」
劉邦の文句に対して。
「それは譲るべきでしょう。張良殿が蒔いた種が、今まさに花開いたのですから」
漆黒の荒野にうすくけぶった影がゆらりと伸びた。

「手伝ってやろうか?」

影の前で列成す瓦礫をあぶる朱の光がその全身をすぅっと呂后に傾け、消えた。
風が吹いたようだった。
形容すればかまいたちのようだった。
何物をも引き裂く不可視の刃が影の指から発せられ、呂后に向かったようだった。

51 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:06:43 ID:FS4cKKdM0
「……ただし、真っ二つだぞ」
ぱちん。ぱちん。
小気味のよい音に一拍遅れ──…
光線銃がそれを握り締める腕ともども二つにスライスされたのは……
実にあっけなく、銀色の内部機械も剥き出しに、伸ばした腕の両側を滑り落ちてく光線銃は……
呂后にとって屈辱であり絶望であり、声の主を睨む直接的動機でもあった。
視線の先に、脇役に毛が生えた程度の地味な顔したおっさんがいた
ただしいつもと違って、白目だ。後ろ髪も若干跳ねていて、オレンジがかっている。
「やぁ。私の名は素晴らしきヒィ…」
「おお蕭何!」
「そろそろ頃合だと思っていました」
「ってなんであんた生きてるのよ! 確かに日吉に喰われたじゃない!
「あれは幻だよ。残念だったね。君は勝利で目を曇らせていたから気づけなかったようだ。と
はいえ、張良どのは幻術を使えないゆえあのまま日吉と一体になってしまったよ」
「くぅぅ! 何よそれチートじゃない! ああこうなったら腕一本で全員殺すしか……!」
これ以上ない憤りに呂后は顔をゆがめた。
「は、母上ぇ…」
「!?」
暗い荒野からひたひたと歩いてきたのは、彼女と劉邦の息子、盈(えい)だった。
「盈、どうしてココに!」
「うぇぇぇん。寝る前に辛い物を食べすぎたら瞬間移動能力が芽生えちゃったよぉ〜!」
「あるある……ねーよ!! オッシコ催すノリで銀鈴みたいな覚醒するな!!」
行者は目を剥いて叫んだが、ちょっと口をつぐんだ。
「あぁでもリサの娘ならありえるのか? どうなんだ? というか僕は恋人を寝取られたという
のに何でこうも平然としているんだろうか……」
盈は、傷だらけの母と、父と、それをとりまく二人の重臣を見比べてひどく怯えた顔をした。
「ほぅ、これは面白い展開だな」
蕭何が肩を揺すって笑う横で、韓信が劉邦の袖を引いて耳打ちした。
「漢王どの。一つよろしいですか?」
「何じゃ?」
「呂后めの不死身の原動力は、きゃつが愛する男のDNAにござりまする」
「おう。走っている時とかに聞いた。ところで蕭何、盈は傷つけてはならん。愛する我が子じゃからのう」

52 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:08:16 ID:FS4cKKdM0
「愛といえば、『愛』の範疇に、親子の関係が含まれていれば、どうなりましょう。たとえば子供
からも漢王のDNAは取れまする」
「蕭何、やれい! 子は何度でも作れるが、呂后めを始末するのは今をおいて他にはない!」
「ちょ、劉邦! いちおうコレ私とあんたの子供なのよ! 慈悲とかないの!?」
「歴史改編を目論む外道に言われとうない!」
「そうだぜこのジョジョオタ!! 少年漫画的にヒロインの妊娠・出産はご法度なんだぞ!」
行者も加勢した。
もはや正義も悪もあったものじゃない。
しかし史上に残る戦いなど、すべてそういうものなのだ。勝者の恣意が敗者を純然たる悪にする。
「させない。させない…!」
大の字になりながら盈の前に立ちはだかった呂后の四肢が嫌な音と共に裂けた。
蕭何は続けて指を弾いた。
今、衝撃波が虚空を駆け抜け、身を呈する母を容赦なく斬り始めた──…

「ダメよ。子供を殺すなんて。それだけは出来ないの!」
愛する息子を残る片手で抱きかかえ、守る背中に衝撃波が降り注ぐ。
「んん?」
蕭何が怪訝を浮かべたのもむべなるかな。
もはや創痍、回復せぬままなすがまま、なます斬りの呂后、されど倒れる気配は一切ない。
手を止めた蕭何はやがて、腹に手を当て、痙攣にも似た哄笑をあげた。
「…ククク。フハ、ハハハ! ハハハハハハハ! 残念だなァ、話相手ももうすぐいなくなる」
腹を震わせながら蕭何は呟いた。口調には、まるで長年の知己に話すような余裕がある。
呂后は今にも燃え尽きそうな中で懸命に子を抱えた。
そうされる盈の表情は暗がりでよく分からない。
ぱちん。ぱちん。ぱちん。
蕭何が情熱に身をくゆらせるたびに呂后の体に傷が増えるが、力尽きる気配はない。
変わらず盈をひしと抱き留め、この女らしい身勝手な理屈を並べ始めた。
「お母さんが守るからね。だからおとなしくしててね」
呂后の目にじんわりと涙が浮かんだ。
他の行動がどうであれ、子を思っての涙だ。
美しい涙声を見上げながら、盈は唇を軽く振るわせた。
気配が伝わったのだろう。呂后は優しく言い聞かせた。

53 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:09:49 ID:aiQz3xmw0
「頑張るから私。何でもするから。だから怖がらないで」
盈は無言で頷いた。
そして笑った。
頬が裂けんばかりに唇を歪めて。
彼の意思表示は、こうだった。
『じゃあ、死ね』
微かな羽音が、森に木霊する。
極薄の血がとろりと胸を伝う。
レモンのように眼を剥きながら呂后は自身を襲ったモノを見た。
短剣。
盈は豊かな白い胸に、短剣を深々と突き刺さしていた。
呂后の霞み行く世界に黒い粒がさっと文字を成していく。
蕭何の笑い声を伴奏に、朱く濡れ浸った小さな手がみるみるうちに節くれだった。
『やれやれ。成り変っていたとは言え、豚に扮していた輩の胸中は臭くてたまらん。まぁ、服に
匂いが移ろうがどうなろうが私には関係ないか。どうせ本人からの借り物だ』
盈の顔が変わり、盈の足が伸び、盈の体が膨らんでいく。
「あ、ああ」
声にならない声を漏らしながら、呂后は頭に鈍痛が走るのを感じた。
頭に踵を踏みつけられた。認識すると同時に顔が地面に激突し、砂利が口の中で不快な音
を立てた。
『さて、どこから聞きたい?』
盈だったモノは呂后の頭を愉快そうに踏みにじりながら、けぶった黒い文字を展開した。
『答えろよ。なァ? 私はずっと楽しみにしていたんだ。もっと無様な声を上げて誰何しろよ』
それが礼儀だと文字をウェーブさせながら、影が何度も何度も呂后の頭を踏み抜いた。
『まぁいい。一方的に喋るのも勝利の役得か。貴様は化け物だが、しかし親だ。子に対しては
甘く、無警戒の、な』
黒い風が吹き始めた。
『私にはそれがよく理解できるのだ。おかげでひどくやりやすかったぞ』
風は黄砂を掃い落ち葉と共に虚空へ巻き消えていく……
『負けた自分が愚かに思えるほどに』
盈だった男が二、三歩後ろへ下がると、支えを失くした呂后が地面に倒れた。
『そして勝った自分が貴様を見下しながら、ゆうゆうと着衣を直せるほどにな』

54 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:11:08 ID:aiQz3xmw0
男の周囲を、ざざざっ!と虫が飛び交うと、彼は全裸でなくなった。
纏っているのはゆったりとした文官衣装である。
「今日は特別でね。もう一人来ているんだ」
蕭何は無意味なスキップをしながら、左右に指パッチンをした。
すると小さな光がきらきらと闇をたゆたって、しばらく向こうの木を真っ二つにした。
それらが倒れる重苦しい音が響いたが、しかし劉邦や韓信には関係ない。
男は一仕事終えたという顔で、冠を取り出し、被ったのだ。
ひらべったい独特の形のそれを被る男は、漢の中では一人しかいないのだ。
虫文字で喋る男は、一人しかいないのだ!
「お、おお! おおお!! よくぞ生きておった!!」
「張良どの!」
『恥ずかしながら戻って参りました。日吉にはビッグゴールドに対するマスクザレッド方式で融
合しつつ隙を見て逃げ去っておりました』
「ところでなんで盈の姿じゃったのじゃ?」
「変装術ですよ」
韓信がずいっと一歩前に進み出て解説した。
「張良どのは変装術も得意なのです。ほら、第2話で呂后に化けてたじゃないですか」

>張良。今の所は地味で面白味のカケラもない彼だが、実は芸達者である。
>横暴なジジイに媚びへつらって手に入れた『三略』のおまけページに武術とか色々載ってた
>ので覚えた。
>その一つに、変装術がある。顔だけじゃなく身長も変えられる──
>例えば子供に化けても、親にすらバレない、影丸に化けたら邪鬼が勘違いする──
>そんな見事な変装術で呂后に化けると、張良は彼自身を七節棍で徹底的に打ちすえ始めた。
>そうでもしないと腹の虫が収まらないらしい。

「……本当か? wikiとかHPのを都合のいいように改ざんしとらんか?」
「してませんよ。ウソだと思うのならお手元にある過去ログのPart48スレ>>109をご覧ください。
流石に過去ログまで改ざんするのは無理ですよ。ははは。ちなみにこれはエロパロ板時代以来、
実に三年越しの伏線です」
『そして日吉から脱出後、大至急で盈どのの元へはせ参じて蹴りなどくれつつ服を奪い取り、彼に
化けたというワケです。もはや彼奴を倒せるのは騙し打ちしかない、と』

55 :項羽と劉邦:2008/03/12(水) 17:12:13 ID:aiQz3xmw0
思い思いの歓声をあげる二人へ手を上げて答えると、張良は身を屈めた。
そこでは地に伏し、息も絶え絶えに涙を流す呂后がいる。
母の愛情を踏みにじられた上に、致命の一撃を受けた心中はいかばかりか。
しかし張良、容赦がない。
呂后の髪をむんずと掴み、強引に持ち上げた。
そして自分の顔を呂后のそれへと息が掛かるほど近づけ、虫文字を書いた。
『三傑どもを、舐めるな』
それだけで飽き足らないのか、呂后の顔を地面に叩きつけると、七節棍を取り出した。
「ファーッハッハッハ!! 三傑どもをっ 舐めるなァァァァァアアア!! 」
そしてレッド笑いをしながら七節棍でびしびし叩いた。
一方、蕭何は親指を力強く立て、ウィンクをした。
「よぉしいい子だ。行って来い! ロボがっ、待っているぜ!!」
待ってない待ってない。

以下あとがき。
次回最終回。分量少ない割に、怠けた期間が多かったので実に三年越しでした。
昔と今、少し異なる自分のノリを混在させたおかげでどうも訳の分からん作品ですねコレw

>>36さん
元ネタがいちいちマイナーゆえ、いろいろ伝わりにくい部分もありますね。
ただし活力という点ではある意味、永遠の扉より上かも知れませんw
んー黒龍波みたいな活力を呼び込むためのエサ?
こういうのをしてうしとら組曲みたいなのを作る原動力にできたら永遠機関みたいで素敵だなぁと。

>>45さん(いいものですあそこは。あと半年もつかどうか不明ですが)
何らかの笑いが一秒でも発生してくれれば嬉しいです。
落とし所は難しい話です。もう自分にも何が何やら……

56 :作者の都合により名無しです:2008/03/12(水) 18:43:52 ID:HGDId2rO0
>スターダスト氏
永遠の扉を真剣に書く為に、この作品で破目を外しておられるのかな?
歴史に暗い私もノリを楽しんでいます。

57 :作者の都合により名無しです:2008/03/12(水) 20:16:21 ID:HwmLmLTd0
スターダスト氏は連載好調だな。
SSとは趣味の発露なので、こういう方面の作品もよろしいかと。
メインはやはり永遠だろうしね。


サナダムシ氏、サマサ氏、NB氏は同期というイメージがあるんだけど
(サナダさんのバキスレ登場はちょっと早いか)
サマサさんは復活したけどNBさんは帰ってこないねえ。寂しい。

58 :VP:2008/03/12(水) 22:24:05 ID:mIsGpGF1O
恐怖だった。
屈辱だった。
悔しかった。

そして、なによりも己に対して憤っていた。
己に怒り狂っていた。

怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが
怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが
怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが
怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが怒りが、
「彼」のすべてを塗り潰していた。

ヴィクターの雄叫びに呼応するかのようにジャングルを震わせる咆哮に込められていたのは、
怒り。
美しいまでに邪悪で、
醜悪なまでに純粋な、
怒りの咆哮だった。

彼らが狩の際携行する簡易医療キットによる麻酔無しでの傷の縫合は、
彼のような未熟者のプレデターには文字通り悶絶ものの激痛なのだが、
今の「彼」には敵意へのスパイス以外の意味はなかった。

59 :VP:2008/03/12(水) 22:51:34 ID:mIsGpGF1O
そう、敵意だ。

「彼」は今この瞬間に、真の意味でのプレデターとなったのだ。

彼らプレデター種の抱えるジレンマには、前提条件が存在する。
彼らの、人間に比べて長い生涯の内、『己の全存在をかけて打倒すべき「敵」に遭遇した時』、
狩人は狩人であって戦士ではなく、
戦士もまた戦士であって狩人ではない。


咆哮をあげた「彼」は、ある決意を胸に、行動を開始した。


鬱蒼と生い茂るジャングル特有の潅木だが、今、にわかに追跡者となったヴィクターにはありがたかった。
葉に点々と付着した蛍光色の血液を追うヴィクターだったが、
血液の流れを追う内に、「彼」の罠へと足を踏み入れていた。

60 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/03/12(水) 22:56:11 ID:mIsGpGF1O
銀杏丸でした

もともとこのVP、短編の予定ですので
もう少しでEndっす

推敲が無駄に長い僕としては、携帯との相性最悪です
ではまたお会いしましょう

61 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/12(水) 23:09:02 ID:igCFd+ng0
《THE EPILOGUE‐1:The virgins are all trimming their wicks》

――2001年12月 アフガニスタン マザーリシャリーフ

男の足取りは重い。
それは終わりの見えない旅と戦闘の疲れなのか、それとも悲惨なまでに荒れ果てた町の様子が
気分を沈ませているのか、はたまた厳しい冬の寒さのせいか。
どれもそうであり、どれでもいい。
多分に投げやりな心境で重さを増していく歩みを、一歩また一歩と進めていく。
男はマント代わりに頭から膝下までスッポリと覆い被せられた小汚い布で目ヤニを拭った。
その拍子に高い鼻へ引っ掛けられた金縁の丸眼鏡がずれてしまったが、彼は特に気にしていない。
どうせ片方のレンズは無く、もう片方のレンズにも一筋のヒビが走っているのだから。
この男には何もかもすべて、替えなど無かった。何もかもすべて。

ふと路肩に眼を遣れば、執拗なまでの銃撃を受けて命を朽ち果てさせたタリバン兵の躯が転がっている。
あちらにひとつ。こちらにもひとつ。そこにも、あそこにも。
「クソッ! ここまでやる必要がどこにありやがる……――」
男は他人には聞き取れない程の小声でボソリと呟いた。
もっとも、聞かれたところで彼の英国訛りの英語(クィーンズ・イングリッシュ)を理解出来る者はこの付近にはいない。
市民の大部分は難民と化して周辺国の国境付近へ逃げ去り、残った者達はこの金髪の西欧人を
遠巻きに眺めているだけである。
その表情は一様に暗く、疲れ切っている。
そして、その疲弊した瞳の奥には、自分を始めとする欧米人への怨讐が渦巻いていた。

男は歩き続ける。
もう幾つもの町々を歩いてきたが、制圧を終えて治安維持の為に駐留している筈の米軍兵士の姿は
ほぼ皆無に等しい。
かえってタジク人やウズベク人らの北部同盟軍兵士の姿をよく見かけるくらいだ。
米軍がこの地から去ってしまう訳は無く、おそらくは圧倒的な勝利に弛緩した軍律が、本来の職務を
半ば放棄させているのだろう。

62 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/12(水) 23:10:00 ID:igCFd+ng0
男はその様を想像し、己の前身を思い返せば、憤懣やる方なしという念が後から後から湧いてくる。
「馬鹿野郎共が……! どいつもこいつも大馬鹿野郎だ……」
思わず汚いスラングが口を突き、遣る瀬無さに足が止まってしまった。
歩みをやめると、疲労と焦燥を伴う疑問が嫌でも頭を過ぎる。
この旅の間に何度も考えて、そして何度も考えまいとしていた疑問が。
「一体、アイツは何体のホムンクルスを流しやがったんだ……? どれだけの国に……?」
すべてを知ったその時から総司令官の座も何もかもを捨て、反逆の謗りを受けながら組織を、
母国を飛び出したのがもう大昔のように感じられる。
ここまでの、そしてこれからの果て無い戦闘を思うと、それだけで悲鳴を上げたくなりそうだ。
「チクショウ、倒しても倒してもキリが無えぜ……」
誰に褒められるでもない。誰に認められるでもない。そして、誰に知られる事もない。
それでいて、決してやめる事の許されない戦いの日々。

男は道の端に腰を下ろした。
こんな動作ももう飽きる程に繰り返してきた。
歩き、戦い、疲れ、休む。
だからこそこの動作の後に襲いかかってくる、抑制の利かない感情の波もいつもの事と諦めている。
擦り切れた肉体や精神が真に狂い出すのは激しさの中ではない。休息の時なのだ。
「ハッ、ハハッ……! ああ、ホントの大馬鹿は俺だ……。何も知らずに、何も出来ずに……」
こんな時はいつも二つの顔が浮かぶ。己の人生に欠かせなかった大切な二人の存在。
頭を垂れて地を眺めても、顔を上げて空を眺めても、瞳を閉じた暗闇の中でさえも。
浮かんでくるのは失ってしまった、最早取り戻せない彼らの顔だ。
真実を聞かされても、裏切られた憎しみや悲しみは無かった。
あったのは途方も無い喪失感、それに絶望。

少年時代からずっと隣にいた戦友。彼がいればどんな危険な戦場も切り抜けられる気がした。
「ブン殴ってでも眼を覚まさせてやればよかった……。俺は親友(マブダチ)失格だ……」

彼にとって唯一の家族と呼べる存在。その成長を見守るのが最高の生きがいだった。
「何が弟同然だ、何が息子同然だ。本当に悩んでいた事は何一つわかってやれなかった……」

63 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/12(水) 23:12:36 ID:igCFd+ng0
 
気づくと、座り込んだ男の前に一人の少年が立っていた。
現地市民の子なのだろう。年の頃は十歳くらいか。
男に向かって話しかける訳でもなく、ただ瞳を潤ませて鼻水をすすっている。
「どうした? 坊主」
声を掛けても返事は無い。それどころか、眼から流れ落ちる涙は量を増していく。
男は持て余さないでもなかったが、これくらいの年頃の子供はいつも彼の空虚な心を僅かに
温かくさせる。
思い出がそうさせるのだ。
目の前の少年は、彼の記憶に生きる存在とは似ても似つかないが、それでも幸せに溢れていた
あの頃を思い起こさせた。
「フフッ……。よし、待ってろよ。確かこの辺にクッキーがまだ……」
持ち歩いていたズタ袋をゴソゴソと探っていた男は、やがてあるものを見咎めた。
汚れに汚れていてわかりづらかったが、少年が着ているシャツの胸の部分が血に染まっている。
何者かに乱暴でも受けたのか。それでこんな外国人である自分なんかに助けを求めたのか。
生来の直情と正義感は、疲労も精神の乱れも忘れさせた。
「おい、それは……。ちょっと見せてみろ!」
手荒に少年のシャツをはだけさせると、男は驚愕に言葉を失った。
少年の胸部には粘土の塊に似たプラスチック爆弾と起爆装置がテープで留めてあった。
それと素肌に刃物か何かで直接刻まれた、あの忌わしい“章印”。
“奴ら”だ。ここにも奴らがいるのだ。
「クソッ……! 何て事をしやがんだ!」
「ア、アッラーは、お前たちを、け、決してお許しに、ならないぞ……」
涙声で途切れがちの少年の声は、男の耳には入らない。

64 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/12(水) 23:14:11 ID:igCFd+ng0
助けなければならない。もう誰も死なせない。
救える命はすべて救わなければ。
「動くなよ! 大丈夫だ! すぐに外してやるからな!」
男は懐からある物を取り出しつつ、起爆装置に手を伸ばした。

一瞬の閃光の後、凄まじい衝撃と炎が彼ら二人を襲った――



『今晩は。BBCニュース、エミリー・メイトリスです。
今日最初のニュースは、未だ緊張の続くアフガニスタン、マザーリシャリーフで発生した爆破事件の続報から――
事件に巻き込まれ、死亡した英国人男性の身元が判明しました。男性の名はカイト・ヘンダーソンさん、45歳――
ヘンダーソンさんの所持していた身分証の一部から元英国空軍の退役軍人である事が明らかになっていますが、
同空軍広報担当官は「カイト・ヘンダーソンなる人物が所属していた記録は存在しない」とコメント。
謎は深まる一方で――』



「ああ、どうも。連絡は受けてるよ。北部同盟軍のアジスだ。よろしくな。
え? はあ、六角形の石……? さあてねえ、俺が現場を調べてた時にゃ見当たらなかったけどな。
俺が見つけたのは報告書にある通り、身分証の一部と黒焦げのガラクタくらいなもんさ。
すごい爆発でね、死体だって総出で探し回ったけど見つからない部分の方が多かったよ。気の毒に……。
それにしても……この前も黒服の男が何人か来て『六角形の石は?』なんて聞いてったけど……。
なんだい、そんなに値打ちもんなのかい?」





次回――
帰還。大切な人。黙示録。螺旋。
《THE EPILOGUE‐2:It's name it said on him was Death, And Hell followed with him》

65 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/03/12(水) 23:15:14 ID:igCFd+ng0
どーも、さいです。
エピローグのひとつを終え、あとは次回投稿分のもうひとつのエピローグで完結です。
エンドロールの用意とかがあるんで、ほんの少しだけ間が空くかもしれません。
では、御然らば。

66 :作者の都合により名無しです:2008/03/13(木) 10:36:26 ID:zilB9wdm0
あと1回で完結かー
お疲れ様でした。エンドロールとは映画っぽいですな。
次のDUSKと関連性があるのかな?

67 :作者の都合により名無しです:2008/03/13(木) 12:40:49 ID:XmdkikN/0
>ぎんなん丸氏
ヴィクターの咆哮は悲しいですが、もう少し書き溜めしては・・
携帯だから仕方ないですけど、この量だとさっと流し読みで終わっちゃう。

>さい氏
寂寥感あふれるエピローグですね。どこかに救いを求めたいのですけど。
もう1回エピローグがあるので、そっちの方は多少光が見えるかな?
この作品の雰囲気的に難しいかとは思いますが、防人たちの笑顔とかも感じたいですね。
神父の哄笑でもいいですがw

68 :項羽と劉邦:2008/03/13(木) 16:44:01 ID:eXnLtJ5X0
第10話 「韓信の最期」

そして           背景 →  (紅葉が散り)
八年の           背景 →  (雪が降って)
月日が           背景 →  (桜が咲いて)
流れた。          背景 →  (青葉が茂っている)

紀元前196年。長安城中・未央宮内。
執戟郎(しつげきろう)、という役職がある。
今でいう警護兵であり、郎中とも呼ばれているそれが皆一様に戟を向けてくる様を、韓信は
所在なげに見つめていた。
「分かってるマメね? 韓信」
「ええまぁ。要約すれば八年前の戦いの後、垓下の戦いで項羽率いる楚軍を倒した私なんで
すが、戦後の処遇に不満を持って謀反を起こしたという事ですよね。覚えてます」
執戟郎たちは神妙な視線で韓信を見ている。彼らを率いる柴武が合図を下し次第、韓信を殺
す手筈になっている。
今、その注視の的になっている韓信も、実は執戟郎から身を起して流れ流れて国士無双と評
されるほどの男になった。
皮肉といえば皮肉であろう。
栄達を味わいつくした男がその原点の立場により終焉を迎えようとしているのだ。
「上出来マメ」
柴武が手を挙げると、戟を持った兵が韓信に殺到した。

誰かがいった。
歴史とは語り部がいて初めて成立するものだと。
その言葉の意味を理解しているかと聞かれたら、行者はこう答えようと思っている。
「完全にはまだかな。納得できない部分もあるし」
歴史は人がその実情を知らなくても足元に堆積しているのだ。
周囲を取り巻いているといってもいいだろう。
空気の味にしろ鳴り響くやかましい音にしろ、町を闊歩する人間たちにしろ、総て総て歴史の
累積の中から現れいでた物なのだ。

69 :項羽と劉邦:2008/03/13(木) 16:44:21 ID:eXnLtJ5X0
そういう意味では現存する総ての物が常に歴史の成立を物語っているではないか。
と行者は思っている。
彼は時間を遡る術を持っているが所詮歴史に対する思惑はその程度なのだ。
何故ならば彼は歴史家ではない。
例えばハワイやグァムに飛行機で乗り付けるのと同じ感覚で時間を遡っているに過ぎない。
観光地の総てを熟知している観光客などはいないのだ。
ただ誰かが作った紹介記事や写真に引きつけられてそこへ行き、何かがあればパンフレット
や地図を見たりガイドに頼る。
行者の時間旅行は結局それだけの物なのだ。さまざな道具こそ使っているが。
「ただ」
と行者はもう一つの意見も持っている。
誰かがいった。
歴史とは語り部がいて初めて成立するものだと。
もしその成立というものが、価値を帯びる事、「人々の心を捉える」事だとしたらどうだろう。
人は有史遥か以前に文字を得た。
その文字を以てあまたの出来事を記録した。
けれど脚光を帯びる出来事はそのうちほんの一握りに過ぎない。
浄瑠璃坂の仇討よりも赤穂浪士の討ち入り。
征台論より征韓論。
そして楚漢戦争より三国志。
歴史は繰り返すといい、現に見渡してみれば似た出来事は沢山ある。
けれど片方は脚光を浴びず、もう片方は押しも押されぬ人気を得るという現象は数多い。
もしかするとその差は語り部の差なのかもしれない。
いい語り部に恵まれた出来事は、事実以上に面白みを帯びて歴史の中でますます輝きを帯
びていき、恵まれなかった出来事は埋もれていく。
実際のところ歴史などは人の扱うものなのだ。
だから人の機微の介在する物がつくづく多いと行者は思っている。
隆盛など所詮語り部に左右される。
幕末の土佐で無愛想な郷士が生まれた。
彼は京都を駆け巡って、敵対しあう二つの巨大な勢力を見事協力させた。
誰かがいった。
歴史とは語り部がいて初めて成立する。

70 :項羽と劉邦:2008/03/13(木) 16:44:57 ID:eXnLtJ5X0
そういった者自身、無愛想な郷士の存在とその歴史を語り部に扮する事で多くの人間に知ら
しめたのだ。
歴史は時代が進めばこのような変化を遂げるコトもままあるのだ。
行者は一冊の歴史書を広げてぱらりと開いた。

紀元前196年。長安城中・未央宮内にて韓信が処刑される。

劉邦が反乱平定に行っている隙に、彼はクーデターを目論み呂后を人質に取らんとした。
だがその動きを事前に察知した蕭何により反乱は未然に防がれ、韓信は処刑された。

本はその「史実」の後に嘆いていた。
あれほど英雄視された韓信ですら最後は罪人として死なざるを得なかったと。
行者は本を閉じると、フっと笑いを浮かべてみた。
「語り部だって人間だから」
呼びにきた大事な大事な生涯の伴侶に手を振り、続けた。
「間違えたり、時々ウソをつくものさ」
時の行者はようやく見つけた恋人・リサと共に時間の旅に再び出発した。
彼の「今」という時間をよりよくするための果てない旅に。

「エマニエル、エマニエル、エマニエル、エマニエル」
蕭何、この男も老いた。
かつて呂后と凄烈なる戦いを繰り広げた蕭何であるが、今や髪は灰色でボサボサで、前髪が
伸びるままになって片目を隠している。ヒゲも伸びた。顎からたっぷりと垂れ下がり、どういう
ワケか途中から上に向ってトロンボーンのように跳ねている。ついでに白衣だ。
「聞いてくれているのか、エマニエル、エマニエル」
幾筋もの鈍い銀色の光が韓信の脇で残影を描き、止まった。
執戟郎の武器がすべて外されたのを、韓信はさしたる感慨もなく見た。
「我が息子よありがとう、この私の姿を見ている時には、もうおそらく何の心配もなくなった頃
だと思う」
「はい」


71 :項羽と劉邦:2008/03/13(木) 16:45:45 ID:eXnLtJ5X0
八年前。あの後。

信じられぬ異常な指の破壊力を見せた蕭何!
呂后にとどめをささんとせまって来る張良!
その危険を感じた劉邦の妻・呂后はひくいうなり声をあげながら、身構えたのだった。」
だが。
「もう終わりだよ、リサ」
その顔に何やら白い粉が降りかかった瞬間、彼女はやにわに動きを止めた。
白い粉は行者がふりかけたのだと劉邦は知り、同時に青ざめた。
「この匂い……ヨヒンペではないか!」」
とは、催淫剤の名前である。
例えば小柄でうだつのあがらない忍者が番茶に混ぜて若い人妻にでも飲ませばウッハウッ
ハだ。隻眼の竜だ。
「貴様、何をしようというのじゃ! また盛らせたらわしが、わしがぁ!」
「大丈夫です。コレは改良版」
喋る行者の首に細い腕がくるりと巻きついた。
「ジュンくーん。もうこんな時代いいから早く未来に戻って……いいコト、しようよぉ」
甘ったるい息と声を漏らしながら、呂后が行者にすり寄っている様を劉邦は驚愕の表情で見た。
「要するに振りかけた男の虜にするのじゃな」
「そしてこの”最強のユビ”を君に向ってはじくと……(ビッ!)」
「きゃああああああっ!!」
蕭何の放った衝撃はで呂后のエセ和服ならびに網タイツがビリビリに裂け、一糸まとわぬ豊か
な肢体が外気にさらされた。ヒィッツモチーフとお銀ちゃんモチーフゆえのネタだ。
「ともかく行者どのに懐いたのなら未来に返せるワケですね」
『これも我らの猛攻で弱っているが故』
「そういうコトです」
韓信と張良に答えた行者は、一瞬神妙な顔をしてから”ある話”をした。

そして紀元前196年。長安城中・未央宮内。


72 :項羽と劉邦:2008/03/13(木) 16:46:15 ID:eXnLtJ5X0
「あの時──…行者どのは我々の運命を告げて帰りました。蕭何どのと張良どのは天命を
全うして死ねますが、私は謀反を起こして粛清され、漢王はかの英布の反乱を鎮圧に向かい
そこで受けた矢傷が元で没すると。私は別に謀反とか興味ないんですけどね」
「く、やはり韓信元帥は八年前と変わらぬ素晴らしい大元帥だった、なのに私は疑うことしか
出来なかった。並行世界の話ですが」
目頭を押さえて泣きじゃくる蕭何の肩に手を当て、韓信は念を押した。
「けれど行者どのの知っている歴史では、呂后が没するのは私や漢王の没後遥か後。なのに
本物は八年前の時点で殺されていた。じゃあ歴史は変わってるワケで」
「これもただの小芝居マメねー 思いの他キャラが立った柴武はうなずくマメ
うなずきながら韓信は槍ぶすまをそろそろと避けて歩きだした。
蕭何へではなく、未央宮内の出口へと。
『どこへ行くつもりだ』
正面にブンと黒い霧がけぶって文字を描いた。
「おお、張良どの」
『お前も私同様隠棲する気か? だが』
「ええまあ。分っていますよ。私は軍事の才覚はありますが、処世はまるでダメ。野に下った
ところで無事には生涯を終えられないでしょうね。不平を持つ人たちが私をかついで漢王朝
を転覆させようと目論んだら、きっと流れは止められないかと」
「ならっ!」
韓信の頬桁にドロップキックが叩き込まれて、彼は無様に吹き飛んだ。
「わしの部下になっておればいいじゃろうがっ!!」
「漢王…… 反乱平定から戻ってきていたのですか」
頬を真赤に腫らしながら韓信は息つく劉邦を見た。
「つい今しがたじゃ! ええい貴様という奴は! わざわざ歴史書通りに動かんでもいいじゃ
ろうが! じっと領土に引きこもって歴史書に”反乱起こした失敗した”と書いておけばいいの
じゃ!」
「まぁまぁ。嘘つくにもある程度のリアリティは必要ですから」
「相変わらず冷静な。つぅか本当なのか!」
「ああ、隠棲の件ですね。そうです。昔みたいに着のみ着のままうろついて、股くぐったり時々
おばあさんにご飯を恵んでもらったりします」
「なら勝手にしろ! ただし反乱は起こすなよ! わしの死因を作るな!」
「ええ」

73 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/13(木) 16:47:20 ID:kAgfASZ10
「それから……」
「それから?」
「……体、大事にせい。わしが天下を取れたのはお前のお陰でもあるのじゃ」
「お言葉いたみいります。それでは」

その日韓信は、錆の浮いた長剣を腰で躍らせながら長安城を出た。

中国一、軍略に長けた男として折り紙をつけられながら、その後の韓信の消息はさだかでない。

項羽と劉邦・完

あとがき
ラストはマーズでいくかあばれ天童でいくかはたまた三国志でいくか色々悩みましたが、
最終的に闇の土鬼に落ち着きました。
振り返れば更新速度が遅く何かとついていきづらい作品でしたが、お付き合い下さりありがとうございます。

>>56さん
そうですね。あと、弾みをつけたいというのもw 悩まず迷わず何かをできるようになりたい!
まぁ、構成とかいろいろ無視した作品なので、町で変な顔のイヌを目撃した程度の軽い感じでお読み下さいw

>>57さん
ありがとうございます。色々と思うところのあった作品ですが、最終三話については自分の姿勢に
色々といい影響を与えてくれたと思います。これを永遠の扉に還元して本格的に進ませねば。

さいさん
ウィンストンがこういう形で最期を迎えるとは……
ただ、ニュースで報道されてる人と爆発に巻き込まれたウィンストンが同一人物でない可能性も
描いてしまうのは穿ちすぎでしょうか。ともかく……さいさんの描くオリキャラは全員好きでした。

74 :作者の都合により名無しです:2008/03/13(木) 19:26:49 ID:da/0auYk0
項羽と劉邦終わったのか!
いい意味でも悪い意味でも怪作だったけど
終わると寂しいな。意外と好きだったのかも知れん。


さいさんの作品、救いが無さげな方がアンデルセンらしいかもね。
錬金サイドで〆るかアンデルセンで〆るかで変わるんでしょうね。

75 :VP:2008/03/13(木) 22:25:05 ID:hEVYCpbY0
「彼」らプレデター種の視界は、我々人類のそれとは異なり赤外線を見ている。
つまり、「温度」をみているのである。
これがまだ年若い「彼」が錬金戦団大戦士長と戦闘して今なお生きていられる命綱であった。
ヴィクターの肉体は、黒い核金とよばれる特殊合金を心臓に埋め込まれたことによって変質し、
ヴィクター・パワードという人間を「ヴィクター」という怪物へと変化せしめた。
怪物と化したヴィクターに備わった生態が「エナジードレイン」である。
ホモ・サピエンスの視界にこのエナジードレインは不可視であるが、
「彼」ら「プレデター種」にはこのエナジードレインが「視える」のだ。

潅木を払い、下草を踏みしめ、木石を枯らして迫りくる「敵」の存在を、「彼」は手に取るように正確につかんでいる。
止血を終えた「彼」は、ようやく「敵」の方から点々と道しるべのようにここまで続く血痕に気がつく。
一瞬考えたものの、マスクを被りなおした「彼」は、手甲に仕込まれた刃を展開すると、獰猛なうなり声と共に振り下ろした。

蛍光色の血液を追って開けた場所に出たヴィクターの目の前には、一本の樹があった。
幹には、「彼」の腕がなっている。
生々しい切断面からぽたりぽたりと蛍光色の血液が垂れていた。

その冗談のような光景に、文字通りあっけにとられたヴィクターの思考はとまっていた。
嵌められた。
そう思考が再起動した瞬間。ヴィクターの右腕は切り飛ばされて宙を待っていた。
己の命ともいうべき武装錬金・フェイタルアトラクションと共に。

銀色に鈍く光る円盤の軌道を目で追うと、「彼」の右腕に行き着いた。
雄たけびを上げ、マスクを外し、手甲の刃に自身の血液をべっとりとまとわりつかせ、
闘志を纏った隻腕の「彼」がそこに立っていた。

「面白い…!」

雄たけびが二つ、重なった。


76 :銀杏丸 ◆C2e//03tVg :2008/03/13(木) 22:26:37 ID:hEVYCpbY0
銀杏丸でした

エナジードレインとは何ぞや?と延々考えているうちに思いついたネタでございます。
次回、たぶん最終回

ではまた、お会いしましょう

77 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/14(金) 00:44:51 ID:QXaASAPi0
>>40より。

78 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/14(金) 00:45:32 ID:QXaASAPi0
 自由への道を閉ざす監獄の扉のように、重く閉じられていた目蓋が開放された。武神が
目を覚ましたのだ。
 武神が首を横に往復させると、加藤はすぐに見つかった。
 喜びに浸るわけでもなく、勝利に酔いしれるわけでもない。一仕事を終えて疲れ果てた
一人の青年が座り込んでいただけであった。
「あ、起きやがったか……」
「私は敗北したのだな」
「別に認めたくなければいいけどよ、なんならかかって来いよ」
「ふん、虚勢を張るな。もう懲り懲りだという声が体中から聞こえるぞ」
「んだとォ?!」
 立ち上がって構えを取ろうとするが、右半身が崩壊した肉体では立つことすらかなわな
い。
「ぐっ!」
「心配しなくとも、私は敗北を認めている。この勝負、私の負けだ」
「……ずいぶん、素直じゃねぇか」
「武術とは、歴史を遡れば命の奪い合いに帰結する。命は人も神も一つしか持たぬ。なら
ば武術における勝敗とは、一回一回区切られねばならない。武を司る私となれば、なおさ
らだ」
「………」
「そして何より、今私の心にあるのはどうしようない程の敗北感だ。仮に今ここで君を倒
したとしても、私の心からそれを払拭することはできまい」
 武神は心の底から敗北を認めていた。恥も外聞もなく「三本勝負にしよう」と言い出し
かねない性格の武神からは、考えられない台詞だった。
「気味が悪ィぜ。まぁいいけどよ、だったら、さっさと俺を帰してくれや」
「いいだろう。が、君には話しておくべきことが幾つかある」
「話ィ?」
 武神は一呼吸置くと、そっけなく話を切り出した。
「まず初めに。せっかく倒してくれたのだが、私は武神などではない」

79 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/14(金) 00:45:54 ID:QXaASAPi0
 いきなりの告白に、加藤の体内でクエスチョンマークがうじゃうじゃ湧き出してくる。
「はァ? ちょっ、てめ……待てよ、おい! まさか、俺をハメやがったのか!?」
「そうではない。正確に言えば、私には武神の資格などとうになかった」
「……どういうことだよ」
「あれは四十年近くも前になるか……」
 武神はぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばる。忘れたい恥を、しかし死んでも忘れられ
そうもない恥を、よりによって同じ神ではなく人間の前で掘り起こすという自傷行為に必
死に耐えている。
「君の故国、日本である男が生を受けた。人類史でもダントツでナンバーワンであろう武
の才能を秘めた男だった。今から思い返してみれば、私は彼が誕生した瞬間、神の座を降
りるべきだったのだ。
 当然だが、私はその男に目をかけた。齢が十に達する頃には、すでにオリンピック選手
など彼の前では凡人も同然だった。まさに“神の申し子”だった。
 ところが、彼は私をあざ笑うかのように、神をも超越した領域へ足を踏み入れる。日夜
戦場に入り浸り、闘争に明け暮れるうち、彼の背中にはいつしか凶悪なる“鬼”が棲みつ
いていた。
 私は愕然としたよ。全ての理合を知っている、知っていなければならぬこの私ですらが
永遠にたどり着けぬ頂(いただき)に、たかだか十数年生きただけの小僧が到達してしま
ったのだから。
 範馬勇次郎、彼は私の神としてのアイデンティティを粉々に打ち砕いた」
 独白に息継ぎが入る。
「武に君臨しつつも、私は悩み続けていた。神の座を辞するか、否か。たとえ全知全能の
神であろうとも、神の座に対する決定権は持たない。つまり、他に選択を委ねることは許
されない。私は心のどこかで欲していたのかもしれんな、この私に審判を下してくれる戦
士(ファイター)を。
 そんな矢先、君が現れてくれた。“悪い武道家の見本”という表現が良く似合う君は、
私の処刑を、試練を、そして私自身をも乗り越えてくれた。
 おかげで決心が固まったよ」

80 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/14(金) 00:47:04 ID:QXaASAPi0
 互いに口を開かぬ、開いてはならないような時間が流れる。
 武神の神らしからぬ自らの進退に関する悩み、与り知らぬところで救世主にされていた
戸惑い。これらをどうにか整理しつつ、加藤はようやく喉を使用するに至った。
「……で、どうすんだよ」
「私は降りる。よって、この世から武の神はいなくなる」
「ケッ、バカヤロウが。はなっから武神は──」
「愚地独歩、か?」
「あぁ、そうだよ。文句あるか?」
「いや。彼は武に全てを捧げてくれた数少ない人間の一人だ。武神と呼ばれるに相応しい
風格と実力を持つ」
「………」
「あと一つ、勘違いしてもらいたくないが、私は君に敗北したから神を辞するのではない。
私は君との戦いを通じて、君らのいる場所はもはや神などが関わってはならぬ縄張り(テ
リトリー)だと悟った」
 武神は真剣な面持ちとなって、神としての最後の助言を繰り出す。
「古代、中世、近代、いずれの時代にも例外なく闘争は存在したが、現代(いま)こそが
間違いなく武術史上最大の群雄割拠の時代であることに間違いない。
 もはや私がいようがいまいが、制御は不可能だ。
 今後の武のかつてない変遷が、私にはぼんやりと予知できる。究極の武と究極の暴力と
の一騎打ち、地球規模で異変を起こす自由を巡る争い、私が生まれるより遥か太古より甦
りし戦士、国家間の戦争に匹敵する親子喧嘩の勃発──。
 君も格闘士として生きるなら、嫌でもこれらに巻き込まれるだろう。生きるか死ぬかは
君次第だ。覚悟しておきたまえ」
「ふん、おまえにいわれるまでもねぇ」
 相変わらず反発する加藤に対し、武神はすり切れた唇と欠けた歯で若干ではあるが微笑
んだ。
「では、武神としての最後の仕事をこなすとしよう」
 武神が念を込めると、みるみるうちに空中に穴が完成した。ライターでビニール袋を焙
った時のように、じわじわと、それでいてあっけない図画工作だった。
「さらばだ」

81 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/14(金) 00:47:27 ID:QXaASAPi0
次回へ続きます。

82 :作者の都合により名無しです:2008/03/14(金) 01:03:39 ID:RkSk8OJb0
なんかスケールの大きなエンディングになりそうだw
武神しぶいなw

83 :作者の都合により名無しです:2008/03/14(金) 08:15:49 ID:L5AIcwRX0
次回かその次で最終話みたいですね。
加藤も精神的に成長しましたな、技だけでなく。
ひねくれてても独歩にリスペクトを忘れない加藤はいいですね。

84 :作者の都合により名無しです:2008/03/14(金) 18:42:21 ID:VZLdWw8s0
サナダムシさん次回は是非、やさぐれ最終話としけい荘連載開始の
同時掲載を!

85 :作者の都合により名無しです:2008/03/14(金) 19:50:36 ID:J+NKzAIxO
武神に勝った加藤ならピクルにも勝てそう…。

86 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 03:52:28 ID:4tsAMCKy0
バンカラメモリアル2〜あの鐘を鳴らすのは俺たちの拳だ〜

今日は縁日。金剛と光は、仲良く出店を見て回っていた。
金魚掬いや型抜きの屋台は出入り禁止だ。去年、力を入れすぎた金剛たちが、屋台ごと破壊してしまったせいである。
なので二人とも、大人しく普通にうろついているのだ。
「あ…」
光が小物屋の前で立ち止まり、売り物の一つを手に取った。
「どうした、光?」
「うわあ…ね、これ、かわいい!」
ん、と金剛は首を伸ばして光が手にしているものを見た。
それは、小さな指輪。先に赤いガラス玉がついた、玩具の指輪だった。
「…そういうのが、欲しいのか?」
「うん!…でも、ちょっと高いね」
光は値札を見て、ちょっとがっかりしている。ちょっと小学2年生のお小遣いでは手が出しにくい。
「分かった…俺が何とかしてやろう」
「ほんとう!?」
「ああ。だから、ちょっと付き合え」
そして、24時間後。二人はヴェネチアにいた。目的は勿論、本場のヴェネチアン・グラスである。
「よし、少年!君の望む最高のガラスの指輪を創ろうじゃないか!」
「押忍!」
「あきらちゃん、がんばって〜!」
マエストロに弟子入りした金剛は、自作の指輪を光にプレゼントするために、一生懸命だった。
何度も失敗し、その度に怒鳴られ、そして―――
「完成だ…素晴らしい!少年よ、君はやったんだ!」
「押忍!ありがとうございます、親方!」
金剛は、ついにガラスの指輪を完成させた。そしてそれを、光の指にそっと嵌めてあげた。


87 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 03:53:30 ID:4tsAMCKy0
「わあ…素敵!きれい!」
「そうか…よかった。はるばるヴェネチアまで来た甲斐があったな」
「うん!」
光はその名が示す通りの、太陽が光り輝くような笑顔を浮かべた。それを見て、金剛も笑った。
(ヴェネチアまでの旅費で小遣いはすっからかんだが…ま、いいさ。光が喜んでるんだ、ケチなことは言いっこなしだ)

―――誰も突っ込まないので、僭越ながら、筆者が突っ込んでおこう。
ヴェネチアまで行く小遣いがあるなら、それで縁日の指輪を買ってやれよ、と。

さて、それはともかく、今日は遊園地に来ていた。
今回は二人だけではなく、近所のお姉さんである麻生華澄も一緒である。
―――彼女は早速、頭痛薬と胃腸薬と精神安定剤を致死量ギリギリまで服用せざるを得ない状態であった。
コーヒーカップとメリーゴーランドは塵一つ残さず消滅させられた。
ジェットコースターは脱線し、観覧車は大爆破大脱出ショーと化した。
ヒーローショーでは攫われて泣き喚く光を助け出すため、金剛が戦闘員たちに全員スジを通してしまった。
お化け屋敷のお化けたちも勿論スジを通され、本物のお化けとなる一歩手前だった。
「中々面白かったな」
「うん!すっごく楽しかった!」
無邪気に喜ぶお子様二人。微笑ましい光景のはずだったが、華澄は頭痛と腹痛を堪えるので精一杯だった。それでも
保護者としての責任感から、無理矢理笑顔を作って二人に語りかける。
「ほ…ほら。もうこんな時間だから、そろそろ帰りましょうか」
「えー、もう帰っちゃうの?もっと遊びたいなー」
ごねる光だが、ここは金剛が諌めた。
「こら、光。華澄さんを困らせるんじゃねえ。この人だって自分の休みを潰して俺たちに付き合ってくれてるんだ。
その上にわがままを言うなんざ、スジが通らねえぜ!」
「…うん。ごめんなさい」
「ふふ、いいのよ…」
華澄は苦笑した。

88 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 03:54:31 ID:4tsAMCKy0
(全く晄くんたら、こういう所は真面目なのよね…)
そんな彼だからこそ―――多少やりすぎな行動も、どこか憎めないのかもしれない。
「さ、それじゃあ最後に三人で写真を撮りましょ。すいません、そこの人。シャッター押していただけませんか?」
「ええ、構いませんよ」
そう言ってにこやかに華澄からカメラを受け取ったのは、高校生くらいの少年だった。
「ほらほら、三人とも、もっと寄って寄って…はい、笑って」
そして、少年はシャッターを押す―――
「はい、チーズ…そして…」
カシャッ
「さよなら」
同時に、遊園地が爆発と爆音と爆炎と爆熱に包まれた―――

(…あれ?どうなったんだろ)
(遊園地であきらちゃんやかすみおねーちゃんとあそんで…最後に写真を…)
(…あきらちゃん!)
「あきらちゃん!」
「おう、起きたか、光」
すぐそこに、金剛と華澄の顔はあった。ほっとする光だが、すぐに異変に気付く。金剛の姿は―――血に塗れていた。
「あきらちゃん…けが…わたしやかすみおねーちゃんを、守って…?」
「…そうじゃねえよ。そこで転んだだけだ」
事実は光の言った通りなのだが、金剛は笑ってそう答えた。華澄は金剛の気持ちを慮り、何も言わなかった。
パチ、パチ、パチ…場違いな拍手の音が響き、三人はそちらへ振り返った。
そこにいたのは、先程カメラのシャッターを押した少年―――だが、その姿は一変している。その肉体を包むのは―――
爆弾のアップリケが節操なく貼り付けられた異様な学ラン。そんなシロモノを、彼は恥ずかしげもなく着込んでいた。
「いやあ、流石に金剛番長などと呼ばれるだけのことはある―――この<爆破番長>梵場亜万(ぼんばあまん)の仕掛けた
爆弾から、女の子二人を守った上で生き残るとは、驚愕だよ」
「番長…!まさか<組織>の一員か!」
<爆破番長>はそれに対し、ただ笑った。それは、肯定を意味する。

89 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 03:55:34 ID:4tsAMCKy0
「金剛番長…<組織>は敵対者を許しはしない。君に残された道は<死>のみだ」
そう言い残して―――爆破番長は姿を消した。後には燃え盛る遊園地と、逃げ惑う人々が残された。
「くっ…」
金剛は男を追うべきかどうか迷ったが、今は光と華澄を助けることが優先だと判断した。その両腕で二人を抱え上げる
と、金剛は怒涛の如くに遊園地の出口へと向かって走り出した―――そして、その最中。彼は考えていた。
(ついに奴らが動き出した―――ならば)
彼は―――悲しい決意を固める。
(俺はもう、ひびきのにいることはできねえ―――ここにいたら、光たちにまで危害が及んじまう)

その夜。光と華澄を無事に自宅まで送り届けた後に、金剛番長と爆破番長は雌雄を決した。その詳細を知る者は誰も
いないが、勝者は―――金剛番長。
後始末をつけた彼は、悲しい別れを経験することになる。

翌日。
「やだ…なんで!なんでいっちゃうの、あきらちゃん!」
「光ちゃん…」
泣き叫ぶ光を、どうにか宥めようとする華澄。だが、光の涙が止まることはない。
「すまねえな、光…俺だってこんな、慌しい別れ方はしたくなかったんだが…<組織>が動き出した以上、俺がこの町に
いれば、お前たちにまで迷惑がかかっちまう。だから…ごめんな。お別れだ」
金剛はそう言って、自分の学ランを脱いで、光にそっと覆い被せた。光はその暖かさに、少しだけ泣き止んだ。
「あきらちゃん…」
「その学ラン、大事にしてくれよ。いつか取りに戻ってくるぜ…その時まで…あばよ!」
「やだ…やだよ、あきらちゃん!行っちゃやだ!わたしも…わたしもあきらちゃんと一緒に闘うよ!」

90 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 03:56:35 ID:4tsAMCKy0
「無茶言うな…泣き虫のくせに」
「う…ひっく…泣き虫じゃ、ないもん…わたし…泣き虫じゃ…!」
「光…」
「いや…いやだよ…行かないで…」
しかし、金剛は。誰よりも大切な幼馴染に―――背を向けた。そして、そのまま歩き出す。
「あきらちゃん…あきらちゃん…!わたし、強くなるよ!」
光は遠ざかる背中に向けて、叫んだ。
「今度会った時は、あきらちゃんの隣にいられるくらい強くなるから…いっしょに悪い人たちと闘えるくらいになってる
から…だから…いつか…きっと戻ってきて!」
その声が聞こえたのか、金剛は振り返り、そして、笑った。
「ああ…その時を、楽しみにしてるぜ!」
そして―――金剛は、全力で駆け出した。
「あきらちゃーーーん!」
光はそれを全力で追いかけた。追いかけて、追いかけて―――追いつけずに、地面に転げた。
後はただ<あきらちゃん>の名を呼びながら、ひたすらに泣きじゃくった。
華澄もまた―――泣いていた。どうしてだろう。彼といると、とことん酷い目にあうわ、薬物中毒一歩手前になるわ、
ろくでもないことしかなかったはずなのに。
(…だけど…)
だけど―――本当は、そんな金剛を気に入っていた。破天荒で、非常識で、どこまでも痛快な、金剛番長を―――
(いつか…ひびきのに戻ってきなさいね、晄くん…)
泣きじゃくる光をそっと抱きしめながら、華澄は涙を拭い、消え行く金剛の背中をずっと見送っていた。

そして、7年後―――陽ノ下光は、ひびきの高校入学の時を迎えた。

91 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/03/15(土) 04:07:31 ID:ctwYyCY+0
投下完了。前回は>>34から。
前後編と言いましたが、全3話になりました。次回で最終回。
金剛番長でラブコメやったらどうなる?と書き出したら、意外なことに指が動く動く。
この漢は本当に規格外。

<爆破番長>梵場亜万は、金剛番長原作にて募集した<僕の考えた番長>に投稿しようとして
ボツにしたサマサの考えた番長。
理由はただ一つ。パクリだからです。
しかし、ときメモ2での幼年期編の終わり、光とのお別れは原作ゲームではもっと感動的だったのですが、
主人公が金剛番長というだけでここまで暑苦しくなるとは…。

>>36 アビ先生は素晴らしすぎます。彼の授業は絶対受けたくないですが。GTOのDQNガキどものクラスには
    鬼塚ではなくアビ先生を派遣するべきだった。

>>45 3話構成になっちまいました。オチは次回。ある意味ときメモ2ファンを盛大に敵に回す展開になるかも
    しれないので、ときメモ知らない方がいいかもしれません。

>>47 実はときメモ2だと、金剛番長とかがいてもおかしくないんですよね…校長が塾長のパロキャラだし、
    濃すぎる男満載の番長四天王とかいるし。

92 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 08:49:55 ID:B8TMyZvr0
爆破番長って本当に出てきそうだ、原作に
後1回か。サマサさんが元気そうで嬉しいっけど、寂しいなあ

93 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 09:55:48 ID:h3QDm1E10
《THE EPILOGUE‐2:It's name it said on him was Death, And Hell followed with him》

――200X年 埼玉県銀成市 銀成駅前通り

頬杖を突いた姿勢は変わらぬまま――
眺めていた巨大スクリーンのニュース映像は、若く美しい女優が映し出された化粧品の
コマーシャル・フィルムに変わっていた。
相変わらず、カフェの他の席ではカップルがお喋りに花を咲かせ、歩道に眼を遣れば家族連れが
満面の笑顔で通り過ぎていく。
「……だいぶ寒さも和らいできたなぁ。もうすぐ春か」
防人は苦い追憶の旅路から醒め、再びこの緩やかで呑気な雰囲気を楽しもうとしていた。
春の訪れを感じ取り、街の風景を眺め、この休日を友人とどう過ごそうかと思案に耽る。

ホムンクルス達はヴィクターを盟主として月に旅立ち、錬金の戦士である自分達も核鉄を
戦団に返却して所謂“日常”とやらに根を下ろした。
防人はその性格の為か、はたまた世を忍ぶ仮の姿だった寄宿舎管理人がそのまま生業になった為か、
平穏な暮らしに順応するのは早かった。
それに、他の戦士達も“再就職先”を見つけて上手くやっているようだった。
例えて挙げるとするならば、火渡が率いていた再殺部隊の場合は――
毒島は銀成学園高校に一年生として転入、戦部は漁師、円山はダンサー、根来は日光忍者村の
ニンジャ役、犬飼はペットショップ店員といった様子だ。
隊長の火渡に至っては銀成学園高校の英語教諭である。
赴任以来、型破りな授業内容とヴァイオレンス溢れる指導方針である意味、名物教師となっている。
皆、平和な“日常”に溶け込んでいるようだった。

しかし――
あれから七年になるが、防人の胸の中には決して消える事の無い、消す事の出来ないものが
住み着いている。
赤銅島の戦い、そして北アイルランドでの闘い。
それは確かに苦い思い出を防人の、いや、防人達三人の心に刻みつけた。


94 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 09:57:26 ID:h3QDm1E10
更には、“不安”。
日本での通常の任務に戻ってからも、普通の市民としての暮らしを手に入れてからも、“彼”が
やってくる予感は毎日のように防人を苛んだ。
『私に殺されるまで、誰にも殺されるなよ?』
刃が我が身に降り注ぐのが不安なのではない。
自分以外の誰かに向けられるのが不安なのだ。
(これは俺の闘いだ……)
終わらせられなかった闘争。
力及ばなかった宿敵。
(だが、もしカズキが……)
一線の戦士としてはほぼ機能しない身体。
自分を慕う少年。
(そうなったら、どうする……。どうすればいい……)
“彼”なら微塵の躊躇も無く、異端者抹殺の為に極大の殺意を以って銃剣(バヨネット)を振るうだろう。
“少年”なら己の危険も顧みず、大切な人間の為に正義の心を以って突撃槍(ランス)を振るうだろう。
いつの間にか、防人は意識する事無く己の胸に手を当て、ツナギの胸ポケット辺りをギュッと
力強く掴んでいた。

「お待たせ」

不意に声が掛けられた。
はたと顔を上げれば、そこには待ち合わせ相手の一人である千歳が立っていた。
声にも表情にもあまり感情を込めていないせいか、時間に遅れて申し訳無いといった風情は見えない。
無論、長い付き合いの防人だからこそ、そこに悪意は無いという事は充分にわかっている。
「ああ、いや、そんなに待ってないぞ」
「そう」
言葉少なと言うにはあまりにも言葉少なな返答を返したきり、千歳はその場に突っ立っている。
防人の向かいの椅子に腰掛けようとする素振りは見せない。
「座らないのか? コーヒーでも――」
「火渡君から連絡が来たわ。『待ち合わせ場所がわからないから駅まで迎えに来い』って」
火渡が銀成学園の教師となり、銀成市民となってから二、三ヶ月は経っている。

95 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 09:59:18 ID:h3QDm1E10
普通ならば、そこそこ市内に詳しくなってもいい筈なのだが、火渡はそんな事にはあまり
頓着が無い。
性格なのか、知ろうとする気が無いのか。
「そ、そうか。じゃあ、行くか」
千歳の素っ気無さと火渡の適当振りにどうにも調子を狂わされてしまう。
防人は立ち上がり、レジカウンターの方に向かった。
千歳も無言で後に続く。



「……また“あの時”の事を考えていたの?」
銀成駅に向かう道すがら、不意に千歳が尋ねた。
声の低さと小ささも然る事ながら、質問の図星加減に言葉を濁らせ、曖昧な返事をする。
「あ……いや、別に……」
「嘘」
やや狼狽気味の防人に、千歳はその場に足を止め、ピシャリと言い切る。
千歳の視線は最初に胸へ。それからゆっくりと上に。
防人の瞳を真っ直ぐに捉えながら、更に声のトーンを落として言った。
「胸に手を当ててわ。あの時、“彼”に付けられた傷……」
戦団の最先端医療技術によって、“彼”のとどめの斬撃で負わされた傷跡は眼を凝らさなければ
わからないまでに薄くなった。
だが、“彼”の振るった銃剣は今でも、防人の心の奥底に耐え難い激痛を伴いながら、
生々しい肉と血の花を咲かせていたのだ。
防人は軽く溜息を吐くと、あえて視線を外し、言葉を苦笑いに紛れさせる。
「……なんでもお見通しだな」
「わかるわよ……」
視線を外されても、ジッと防人の顔を見つめ続ける千歳。
遣りきれない思いの防人は苦し紛れの、それもひどく下手な冗談で、千歳の言葉を笑い飛ばした。
「“かつて一緒にチームを組んだ仲”だからか?」
その笑えない冗談が耳に入った瞬間、千歳は僅かに表情を曇らせた。
「……」
だが、それも束の間の事。

96 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:00:25 ID:h3QDm1E10
すぐに千歳は元の無表情に戻り、無言のままに防人を置いて歩き出してしまった。
(駄目だな、俺は……)
またひとつ溜息を吐き、防人は千歳の後を追う。

赤銅島での任務失敗。
北アイルランドでの敗北。
その二つの出来事は確実に防人達三人と、三人の関係を変えてしまった。
火渡は「不条理」の三文字を口にしながら、自らも戦いの中で非情とも取れる不条理極まりない
行動を繰り返した。
千歳は後方支援に従事して前線には戻らず、無表情の仮面を被る事で一切の感情を表さなくなった。
防人は本名を捨てて“キャプテン・ブラボー”を名乗り、任務とチームを最優先とする
良き統率者としての道を選んだ。
皆、それが本意であるかは別として。
そして、防人と千歳。
任務でもプライベートでも会う機会は眼に見えて減り、あの頃のように無邪気に好意を
表し合う事も無くなった。
ヴィクターの一件から戦団の活動凍結以来、また顔を合わせる場面は増えたが、未だに
ぎこちなさが見え隠れする。
もしかしたら、いつかはまたお互いの気持ちが通じ合う時が巡ってくるのかもしれない。
けれども、あのきらめいていた日々は、もう二度とこの腕には取り戻せないのだろう。

すぐに千歳に追いつき、隣に並んだ防人であったが、彼女は一言も言葉を発しない。
しばらくの間、お互いに無言のままであったが、防人が何気無しに話題を振った。
「ウィンストン大戦士長は元気かな。出来ればもう一度会いたいんだ。会って話したい事が
たくさんある……」
確かに会話の無さという気まずさもあるが、長い年月を経ても彼を忘れた事はなかったというのも
また事実だった。
千歳もまたウィンストンの事は日本に帰ってからも、ずっと気掛かりではあったようだ。
「そうね。私も会いたい……。でも、どうしてるかは坂口大戦士長でもわからないみたい……」
北アイルランドからイギリス支部に帰還した日の事は今でも鮮明に覚えている。
サムナーの裏切りと死、そして我が子のように可愛がっていたジュリアンの死を聞かされた
ウィンストンはその場に崩れ、一目はばからず涙を流した。

97 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:01:32 ID:h3QDm1E10
防人達が日本へ帰国する日も空港まで送ってくれたのはいいが、憔悴し切っていたのは
誰の眼にも明らかであり、最後まで暗い表情のままだった。
ウィンストンが大戦士長を解任させられたという報を聞いたのは日本に帰ってから間も無くの事である。
サムナーの反逆を未然に防げず、ホムンクルスのイスラム圏への流出を許してしまったのが
解任の理由だった。
程無くしてウィンストンは無断で核鉄を持ち出して錬金戦団を脱退し、行方知れずとなる。
遂には反逆者としての汚名を被る事となってしまったのだ。
防人が知っているのはここまで。
どこで何をしているのかは、今ではもう誰にもわからない。
大戦士長解任の事実を知った当時、防人はイギリス支部上層部への怒りに燃えたものだった。
だが、年月が経ち、自らも部下を持つ立場となって意識も若干変わってきた。
防人は思う。
ウィンストンは優しすぎたのだと。
戦士としての強さや有能さは別として、その持って生まれた大きな優しさが、人を統べる
立場にいたウィンストンの心を常に大きく揺らがせていた。
その結果として上層部から疎まれ、狡猾な部下に離反され、最後には体の良い厄介払いを
受けてしまったのである、と考えるようになっていた。
もちろん、それでも彼への好意は変わらなかったが。



「おーい! ブラボー!」

過去を振り返る防人と千歳の耳に、元気の良い声が耳に入った。
見れば、だいぶ離れた所から大きく手を振る少年がいる。
防人にとっては未来への希望を象徴する存在、武藤カズキだ。
横には最早恋人と言ってしまってもいいであろう、津村斗貴子の姿も見える。
それだけではない。友人の岡倉、六舛、大浜もいれば、カズキの妹のまひろ、その友人の
千里、沙織もいる。
そして、その後ろに見えているツンツン頭はカズキの“戦友”、中村剛太だ。
随分な大所帯で遊びに出たものである。

98 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:17:19 ID:h3QDm1E10
ちょうど十字路に差し掛かり、防人ら二人の向かう方向だったが、当のカズキはそんな事は
お構い無しにこちらへ駆け寄ってくる。
まるで子犬のようだ。
息を弾ませながら防人の元へやってきたカズキは、今更のように横の千歳に気づく。
「あっ、千歳さんも一緒だったんだ。こんにちは!」
「こんにちは。相変わらず元気そうね」
千歳には珍しい愛想のある挨拶だが表情も変えずに言うせいか、単なる社交辞令のように聞こえる。
そんな挨拶をしている間に、他の“銀成駅前通りツアー御一行”も防人達への元へとやって来た。
高校生の割には子供臭さが抜けない沙織が、大発見をしたかのように真っ先に防人と千歳を
囃し立てる。
「わぁ〜! ブラボーの彼女!? もしかしてデートとか!?」
「違うわ」
千歳は無機質に一刀両断である。
「そんな、即座に否定しなくてもいいじゃないか……」
ガックリと肩を落とす防人。
カズキは声を上げて笑い、隣の斗貴子も申し訳無いとはわかっているのだが笑いを堪えきれない。
そんな他愛の無いやり取りの中で、どうも普段と違う素振りを見せる者がいる。
元気と明るさならこの軍団ではトップクラスの筈のまひろである。
屈託無く笑っているのだが、いつものように前に出てきたり、沙織と一緒になって騒ぐ様子も無い。
どこか少しオドオドしているようにも見受けられる。
(ははーん……)
何事があったかは、寄宿舎管理人の防人にはすぐに察せられた。
防人はまひろに近寄り、誰にも聞こえないように耳打つ。
「押入れの中の“お友達”は元気でやってるか?」
まひろはわかりやすく顔色を変えると、これまたわかりやすく防人の耳に口を近づけて
ヒソヒソ話を始める。
「う、うん。今はお昼だから寝てるけど……。
ねえ、ブラボー。セラスさんの事、私とブラボーだけの秘密だからね? 誰にも言っちゃダメだよ?」
傍から聞けば、まるで内緒で拾ってきた子猫の事を言っているように聞こえるのだろう。
子猫にしてはあまりにも物騒な種族なのだが。
「フフッ、わかってるさ」
まるで小学生のようなノリのまひろの頭を、防人は笑いながらクシャクシャと撫でる。

99 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:18:37 ID:h3QDm1E10
まひろは眼を(><)にして「いーやー」と喚いているが、どこからどう見ても嬉しそうにしか
見えない。

防人がまひろとじゃれ合ってる横で、千歳の携帯電話が単調な着信音を鳴らした。
メールである。誰からかは大方見当がつくが。
「火渡君から。『早く来い。三十秒以内に来ないと火刑』だって」
「まったく、勝手な奴だな。大体あいつ、何で俺にはメールを寄越さないんだ……――」
ボヤきながらふと尻のポケットに手をやると、防人は何かに気づいたように声を上げた。
「しまった、うっかりしてたな」
「どうしたの?」
防人は頭を掻きながら、眉をしかめる。
「さっきのカフェに携帯を忘れてきたみたいだ。すぐ取って来るから、ここで待っててくれ」
頷く千歳とまだまだ騒ぎ足りないまひろ達に背を向け、防人は先程のカフェへと、小走りに急いだ。

昼過ぎを迎えた街は、いよいよその人の数を増していく。
休日を謳歌する人達が多いのはいいが、いつにない通行人の数に何度か足を止められ、
やや気忙しさが募ってしまう。
そんな防人が“彼女達”を見つけたのは、何の気無しに通行人の波の奥に眼を移した時だった。
あまりのショックに立ち止まり、眼は大きく見開かれた。
白人女性と日本人女性の二人組。
どこぞの店の壁を背に立ち、こちらを眺めながらニヤニヤと笑っている。
防人が驚愕したのは、その風貌である。
長い黒髪の日本人女性は、刀袋に包まれた日本刀を引っ提げた修道女(シスター)。
そして、ショートヘアの白人の方はサングラスをかけ、あろう事か“彼”とまったく同じ
神父の法衣を身にまとっている。
「あいつらは……!」
仲間か。“彼”の仲間か。
七年前の記憶が、場面が、闘争心が甦り、音を立てて燃え上がる。
高揚する戦意に拳を握る防人は、自分の身体の状態も核鉄を所持していない事も忘れていた。
今、自分がどこにいるのかすらも。

100 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:19:21 ID:h3QDm1E10
しかし、通り過ぎる街の人混みが二人の姿を隠していく。
「ちょっとどいてくれ! どいてくれ!!」
防人は二人がいるであろう場所に走り、乱暴に人波を掻き分ける。
人々から文句の声が上がったが、防人はそんな事には構っていられない。
「どこだ……! どこにいった!?」
いない。どこにもいない。
消えてしまった。
ついさっきまでここに立っていた筈なのに。
見間違えである訳が無い。あの連中を俺が見間違える訳が無い。
確かにここにいたのだ。
周りの通行人は不審げな眼で防人を見ながら通り過ぎていく。
若い男などはわざわざ防人の身体に肩をぶつける始末だ。
ざわつく心は無闇に精神を研ぎ澄ませる。
防人は視覚と聴覚だけではなく、全身で空気からさえも敵を探り、闘いに備えた。
すると背後からおぞましい吐息と共に、こう呟く女性の声があった。

「馬に乗りし者の名は死。後に地獄を従えて……」

「!?」

振り返るがやはり誰もいない。
幻視か。幻聴か。
いや、断じてそんな筈は無い。
確かに見たのだ。確かに聞いたのだ。
混乱の極みに達する防人を嘲笑うかのように、またもやどこからともなく女性の声が響いた。

「次は我々(イスカリオテ)の番(ターン)だ」

もう、防人は振り向かなかった。
振り向いたところでどうなる。それはもう既に始まっているのだ。
自分が望もうと望むまいと。

101 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/15(土) 10:21:11 ID:h3QDm1E10
「馬に乗りし者の名は……――」
防人はたった今、呟かれた言葉を繰り返して呟く。
以前、何かの本で読んだ事がある。何かのテレビ番組だったか。それとも映画だったか。
――黙示録。
世界を浄化する神の裁き。天使と悪魔の大戦争。キリストの再臨。
それらが綴られた預言書の中には、第四の封印が解かれた時、青白い馬が現れるとあるそうだ。
そして馬には“死”が跨り、それに“地獄”が付き従うとも。
安寧だけに身をゆだねる者に死をもたらすのは悪魔などではない。
天に弓引く者に地獄をもたらすのは悪魔などではない。
神なのだ。
自分は七年の昔、神の使徒と相対し、剣と拳を交えた。
それは避けられない、否、むしろ闘わなければならない宿命だったのだろう。
そして“彼”は言った。

『私に殺されるまで、誰にも殺されるなよ?』

やはり何一つ終わってはいなかった。すべては始まりに過ぎなかったのだ。
始まりが終わり、今まさに終わりが始まろうとしている。
この平和と平穏の日々もいつまで続くのだろう。
ともすれば諦めに似た心境の防人は顔を上げた。
頭上を見上げれば、青い空の向こうに灰色の厚い雲があった。
中にあるは雨か、それとも雷か。絶望が降り注ぐのか、怒りが降り注ぐのか。
雲は進路をこちらに向け、今にも自分達を覆いつくそうとしていた。
その様は黙示の時(アポカリプス・ナウ)の到来を予感させる。
時が迫っているのだ。



[完]

END ROLL
http://plaza.rakuten.co.jp/saisaimappy/diary/200803140001/

102 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/03/15(土) 10:23:26 ID:h3QDm1E10
どもども、さいです。
いやぁ、終わりました。2006年10月にこちらで連載を始めさせて頂いて、約一年五ヶ月くらいですか。
おかしいな、去年初めに終わってる筈だったのに。
でも、文章を書き終えて、最後の直しをしている時は思わずウルッと来ちゃいました。
終わっちゃったんだなぁといった感じです。
今までお付き合い、本当にありがとうございます。
応援して下さったバキスレ住人の皆さん、励まして下さった職人の皆さん、本当に本当に感謝しています。
バキスレが無ければこの作品は始まらなかったし、皆さんがいなければこの作品は終わりませんでした。
しつこいようですが、もう一度お礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございます!!

さて、この後は少しの時間を頂き、“武装錬金×HELLSING長編三部作”の第二部『THE DSUK』を
始めさせて頂きます。まっぴーと婦警のヤツね。
どうか、これからもよろしくお願い致します。

長くなってしまい、申し訳ありません。

でわでわ(゚∀゚)ノシ

103 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 12:53:22 ID:Ng51tRI30
お疲れ様でした!
そうですか、1年半も連載されましたか。
錬金サイドのエンディングだと爽やかでしたが
次作への含みも残しましたね。
また復帰後、 DSUKでお会いできるのをお待ちしてます。

104 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 17:30:20 ID:B8TMyZvr0
エンドロールまであるなんて凝ってるなあ!
ちゃっかり声優さん割り当ててるしw
本当にお疲れ様でした。
少し休んで、また復帰してください

105 :作者の都合により名無しです:2008/03/15(土) 19:15:56 ID:4KPQmSFN0
またひとつ良作が終わってしまったか
さいさん本当におつでした
次も期待してます

106 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:04:25 ID:9e0jL+/10
「BAMBOO 電王」

私立室江高校剣道部に所属する川添珠姫は、凄腕の少女剣士。
アニメや特撮物が好きで、中でも「ブレードブレイバー」は大のお気に入り。
でも、対人関係にやや難があり、自分は「おもしろくない」のでは?と悩む所も。
…そんなタマキが新しい、そして理想のバイトに巡り会った。

「趣味と実益を兼ねたバイトをしている、というのかい?」
タマキの父は、夕食の席で打ち明けられて驚いた。コクリと頷くタマキを見ながら思った。
(バイトは初めてではないからいいとして…あの子の趣味に合ったというと…
 アニメイト辺りか?…欲しい物があるなら、買ってあげるのに…まあいい。
 本人も楽しんでいるみたいだから、とりあえずは見守るとするか…なあ、母さん。)
ジーッと自分の顔を見つめるタマキに気付いた父は、仕方なく頷いた。
「わかった。タマキ。バイト頑張りなさい。」
「ありがとう。お父さん。」

数日後、
バイトから帰ってきたタマキは、疲労のせいか、
「…疲れた。お休みなさい…」とだけ言い残して、そのままベッドへ直行した。
テーブルに置きっ放しの荷物の中に、タマキの父は見慣れない携帯を見つけた。
(こんな携帯、買った覚えはないが…バイト先が渡したのかな?)
携帯を弄繰り回してる内に、着信音が流れた。画面には「モモ」の文字が輝いている。
父は反射的に通話ボタンを押した。
「もしもし…」


107 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:05:30 ID:9e0jL+/10
モモ「いよう。タマ公!ご苦労さん!今日もクライマックスは盛り上がったな!
   …で、相談なんだが。お前の突きを応用した技の名前をだな…」
父「失礼ですが、一体何の話ですかな?、私?…私は川添珠姫の父ですが!」
モモ「…ああ、タマ公の親父さんか。アンタの娘さん、いい才能持ってるねぇ。
   何かあると即反応してくれてさ。体を借りてる身としちゃあ助かるよ。」
父「“体を借りてる”って…どういう意味ですか?!」
モモ「文字通りさ。…何、怒鳴ってんだよ!。もういい。じゃあな!!」

ツーツー…。切れた携帯を握り締めながら、タマキの父は呆然と立っていった。
「…タマキの肢体を借りてるだと…どういう事だ…!!」
父の脳裏にあらぬ想像がよぎった。まさか…もしや…娘が世間知らずなのをいい事に…
バイト先の連中があの子の心と肢体を弄んでるのでは…?
いてもたってもいられなくなった、タマキの父は携帯の電話帳を探り、
そこに記されていた「キン」「ウラ」「リュウ」という輩に電話をかけた。


108 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:07:03 ID:9e0jL+/10
キン「おお、タマキのお父さんですか!娘さんにはエライ世話になっとります。
   俺の強さにも泣けますが、娘さんの強さにも泣けるで!いやホンマ!
   あの小柄な体で、俺の力を受け入れてくれるなんて、たいしたもんや!」
父「力一杯だと…ウ…ウチの娘の肢体に何、無茶してるんだーッ!?」

ウラ「あー、タマキさんのお父様ですか。ついでに彼女に伝えておいて下さい。
   この間の釣りの成果はよくなかったんで、別の所で情報釣ってみようって。
   人付き合いが苦手?…いや。僕がタマキさんを通じてやりますから、大丈夫です。
   何を釣るかだって?…決まってるでしょ。男も女もですよ!!」
父「…タマキを…あの子をナンパの道具にしてるのか…コイツは…」

リュウ「ふーん。タマちゃんのパパなんだぁ。僕タマちゃん好きだよ〜。優しいし。
    あのさ、タマちゃんどんな遊びが好きかな?音楽やダンスでもいいよ!
    …え。ウチの娘と遊ぶなだって?ヤダ!遊んでもいいよね!答えは聞いてない!」
父「いきなり電話を切るとは…何だ、この変なのは…?」


109 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:07:55 ID:9e0jL+/10
父子家庭の非常事態。タマキの父が頭を抱えている時に着信音が鳴った。「モモ」からだ。タマキの父は、剣道家として、一人の父親として覚悟を決めて電話に出た。
「もしもし」
   
モモ「…あの…さっきはいきなり切って悪かったな。皆で相談して、キチンと話そうと
   決めたんだ…おい亀!この原稿読めばいいんだな?何笑ってんだよ?亀!
   よし、行くぜ。じゃあ聞いてくれ…」

電話後
モモ「おい!今、物凄い悲鳴上がって、バタンって音がしたぞ!いいのか!?」 
ウラ「アッハッハッハ!先輩サイコーッ!!」
キン「タマキのお父さんに同情して泣けるで…」
リュウ「明日、タマちゃんと何して遊ぼうかな〜」


110 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:08:39 ID:9e0jL+/10
翌朝
身支度を整えたタマキが見た物は、床の上で寝ている父だった…
風邪引かないようにと、父に毛布を掛けると、テーブルの荷物をまとめた。
そしてバイト先―デンライナーでもらった携帯:ケータロスを床から拾って玄関に向った。

玄関から外へ出た瞬間、勢いで、思わずポーズを決めてみる。
タマキ「あたし、参上!!」

―かくして、室江高校剣道部部員にして、二代目仮面ライダー電王となった、
川添珠姫の忙しい1日がまた始まるのであった…


111 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 02:19:48 ID:vZG/wsqB0
ミニネタ「BAMBOO 剣」

題X話「タマキとオンドゥル先生」

タマキ「先生、題名をどうぞ…」
( 0w0)「バンブーウェイー!」
キリノ「だから、BAMBOO BLADEだってば〜!」
( 0w0)「バンブーウェイー?」
ミヤミヤ「駄目じゃん。」
サヤ「いや、( 0w0)は出来る子だと思う、もう一回!」
( 0w0)「バンブーウェーイ!!」
さとりん「やっぱり駄目ですね。
     …私と一緒に駄目人間として頑張りましょう!」
( 0w0)「だが断る!!」


112 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/16(日) 15:15:32 ID:H4N9b/Ti0
 故郷への帰り道である穴ぼこに、おそるおそる足を踏み入れる。穴の中には文字通りの
暗黒が、視界一杯に広がっていた。
 あわてて振り返るも、穴は跡形もなく消え去っていた。
「ちっ、入ったらすぐに東京に着くんじゃねぇのかよ」
 どこかに出口はないものかと、加藤は周囲を見回す。
 すると、一点に針の先ほどの光が灯っていた。出口だろうか。いや、さらに目を凝らし
てみると──。

「来たぞッ!」
「マジで武神を倒してのけたか!」
「おめでとうッ!」

 光が差す方向から、祝福の声が無数に上がる。
「て、てめぇら……マジかよ」
 目を凝らしてみると、かつての敗者、すなわち試練を務めた者たちが整列して加藤を待
ち構えていた。
 リアルシャドー体である戦士たちが、加藤を嬉しそうに小突く。
「幻影である我々だが、いつの日か実体化を許されたならば、真っ先に君に挑ませてもら
う」
「期待しないで待っておくぜ」
 軍神の使いである四名。角刈りのリーダーが、部下に命令を下す。
「偉大なる兵士に敬礼ッ!」
 よく訓練された、息の揃った敬礼が捧げられた。
 『ナイトメア』の異名を誇る幻術師のピエロも、おどおどしながら加藤を祝う。
「いやはや、おめでとうございます。まさか武神を倒してしまいなんて……」
「これもおまえの夢じゃないことを祈るぜ」
 ピエロに別れを告げた加藤に、突如巨大な剣が振り下ろされる。刃は鼻先をかすめ、地
面に落ち、凄まじい轟音を鳴らした。

113 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/16(日) 15:16:00 ID:H4N9b/Ti0
「ふん、さすがに動じないか」
「てめぇ、たしか井上をさらった奴だったな」
 甲冑は心底悔しそうに、自らの心境をぶつける。
「あのレディが泣きわめく姿を是非この目に焼きつけたかったよ。もっとも敗れた私にそ
のような権利はないがな。……行け」
 三人組が立っていた。コンビネーションと変則的な体質で加藤を苦しめた、『赤』『黄』
『青』のトリオである。
「我らが主を倒したあなたに、もはや託すべきことはありません。武運を祈っております
よ」
「てめぇは強ぇ。悔しいが、ここにいる全員が認めてるぜ」
「うむ」
 さらに進むと、ベレー帽を被った芸術家が、作品である土人形を紙人形を従えて待ち受
けていた。
「井上さん、だったかな。あのおじょうさんは実にビューティフルでエクセレントだった
よ。君になど勿体ないくらいに、ね」
(あれ……こんな奴いたっけ?)
「せいぜい愛想を尽かされぬよう、気をつけることだ」
「あ、あァ……」
 怪訝そうに返事をするのが精一杯であった。結局最後まで、加藤は芸術家が誰だか分か
らなかった。
「おめでとうございます、加藤さん」
 今度は下から声が聞こえた。首を下に向けると、毛虫のような生物が、サイズに似合わ
ぬ大声で話しかけてきた。
「私です。井上さんに寄生させてもらっていた者ですよ」
「てめぇか! おまえにゃ世話になったもんな、なんならここで踏み潰してやろうか」
「ま、ま、待って下さいよ。私にもいわせて下さい、おめでとうございますと」
「……ふん」
 こうしている間に歩は進み、光がだんだん大きくなってきた。次いで現れたのは、武神
直属のエリート部隊であった。

114 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/16(日) 15:16:28 ID:H4N9b/Ti0
 技に秀でた若者、力に秀でた老人、ゲームで加藤に挑んだ少年、闘争を極めた精鋭。彼
らは一斉にひざまずき、代表として精鋭が全面降伏を告げた。
「我々一同、貴公に敗れ、仕えるべき神をも失った。一片も淀みもなく、貴公の完全勝利
だ。今後は是非貴公を師と仰ぎたく──」
「断る」
「え……ッ」
「俺ァよぉ、まだ免許皆伝だってしてねぇんだ。師になんかなれっかよ。神がいなくなっ
たらどんだけヤバイのかは知らねぇが……俺を頼るな」
 きっぱりと拒否された四名は、声を殺して嗚咽する。拠り所を失った彼らが再起するに
は、自力で立ち上がるしか方法はない。
 魔法使いは意外にも、さわやかな笑顔で話しかけてきた。
「素手の脅威を、武の強さを、君には教えられた。今では私も体を鍛えているよ」
「……体を?」
 まるで自慢するかのように、嬉々として握力を鍛える器具と万歩計を見せつけられ、加
藤は苦笑いする。
「ま、まぁ……頑張れや」
 風神と雷神は泥酔していた。日本酒と焼酎が入り混じった息を吐きかけてくる。
「ふぅ〜ゲェップ。おう、よくぞあやつを倒した。ま、座りなさい」
「いいじゃろ一杯だけじゃ、一杯だけ。がっはっはっ」
 むろん、加藤は黙殺した。
 やかましい二人の神を通り過ぎると、死神の使いが無表情で佇んでいた。
「まったく驚かされたよ。あの武神を倒してのけるとはな」
「驚くこたねぇ、当然だろ」
「もしもおまえが死んだら、また戦いたいものだ」
「……出来れば遠慮しとくぜ」
 ふと前を見ると、もう出口の光が目前のところまで来ていた。
 光の両サイドを仁王のように固めているのは、巨大な城と竜。迫力が二乗されている。

115 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/16(日) 15:17:26 ID:H4N9b/Ti0
「殺してやる、殺してやるぞぉ! いいか、おまえは絶対ろくな死に方はしねぇ、いいや
ろくな生き方すらできねぇ! この俺様の手によってなぁ! ヒャッヒャッヒャッ! 地
獄の方がマシだってくらいの目に遭わせてやるぞぉ! 必ずなッ!」
 鎖で全身を拘束されているにもかかわらず、猛りまくる邪神。おそらく、再び拘束が解
かれることはない。本人も分かっているだろう。
 加藤は邪神の前に立ち、拳を構えた。
「ろくな生き方ができねぇ? 地獄のがマシだァ? 上等だよ、望むところだ」
「ククク、いい目だぁ! ヒャッハッハッハッハ!」
 邪神の笑い声を背に、ついに加藤が光の先に足を踏み入れる。
 そして最後に駆けつけたのは──
「おまえ……」
 ──隻眼の虎だった。
 たしかに死んだはず。肉を喰らったはず。しかし、現に目の前にいるではないか。
 加藤は自らが名づけた戦友の名をそっと呼んだ。

 ──いざ東京へ。

116 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/16(日) 15:19:06 ID:H4N9b/Ti0
>>80より。
三十日目終了。

次回投下が最終回となります。

117 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 18:24:45 ID:grEUaMZB0
お疲れ様ですサナダムシさん。
最後の敵キャラの総出演は、原作グラバキの
最強トーナメントのオマージュかな?
なんにせよ、もう終わるのは寂しい・・。

118 :作者の都合により名無しです:2008/03/16(日) 22:03:19 ID:nBIAe1TW0
>さい氏
お疲れ様でした。
連金戦士の日常に帰っていく姿と、次回策への含みがある終わりですね。
まっぴーの活躍、楽しみに待っています。

>BAMBOO 電王作者氏
電王はわかりませんが、ほのぼのとしたナンセンスギャグですね。
コピペ?かとも思いましたが。ふら〜りさんなら詳しそうだなー

>サナダムシ氏
よくこれだけ色々トキャラを考えられたものですねえ…
東京で、独歩たちと再会した時の加藤の雄姿、楽しみです。凱旋?ですものね。


119 :作者の都合により名無しです:2008/03/17(月) 08:43:21 ID:dxd81wf00
また名物SSが終わってしまうのか・・。
サナダムシさん、やさぐれ終了としけい荘開始の間に
久々のうんこの短編をw

120 :作者の都合により名無しです:2008/03/17(月) 14:22:29 ID:eS914OOr0
サナダさんはすぐ戻ってくると思う
ある意味、ミスターバキスレみたいな人だから>>119


途中で、作品棚上げになるかと思いましたが
見事完結されましたなー
ラスト1回期待してます。

121 :作者の都合により名無しです:2008/03/17(月) 23:33:29 ID:lQYBskJX0
>118さんへ
これは申し訳ありませんでした。
元ネタを書き込む事をすっかり忘れておりました。
遅まきながら、説明致します。

元ネタは「BAMBOO BLADE」という剣道漫画で、
主人公の少女川添珠姫がヒーロー願望を持つ特撮オタクという、
ところから考えたものです。
電王とは「仮面ライダー電王」からで、主人公が主体的に戦うのではなく、
「モモタロス(モモ)」をはじめとする精神生命体を取り付かせて戦うという、
一風変わった形態の戦法を使うので、組み合わせてみたのです。
ただ主人公はいいとしても、傍から見ると気味悪いだろうな…と思って書きました。

剣は特撮ドラマ「仮面ライダー剣」より、
オンドゥル語でほのぼの学園ドラマは出来るかな。と思って書いてみました。

以上です。どうも失礼致しました。
出来れば他のヤツか続きを書いてみたのですが、良いでしょうか?




122 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 08:42:07 ID:YhcvKx9N0
頑張ってください。>連載
出来れば、コテハン(名前)を名乗ってくれれば
呼び掛け易いのですが。

123 :118:2008/03/18(火) 13:07:40 ID:fs1fl6XM0
>>121
いやごめんなさい、コピペと思いましたw
ぜひぜひ頑張って書いてくださると嬉しいです。

124 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:26:39 ID:/+VGZGwH0
バンカラメモリアル2〜テメエに会えて〜

陽ノ下光、ひびきの高校新入生。ひびきの高校へと、足を弾ませて進む。
可愛らしかった少女は、誰もが振り向くような美少女に成長していた。
長かった髪は、ショートカットになって。泣き虫も、治って。けれど、変わらないもの。
太陽みたいな笑顔と―――制服の上から羽織った、彼が最後にくれた、学ラン。成長した今でもサイズが合わなくて、
袖を盛大に捲り、裾を地面に引き摺らせながら、それでも肌身離さず身に付けている。
「光、あなた…まだ、その汚い学ラン着てるの?」
「汚いは余計だよ、琴子〜」
ぶーたれる光に、隣を歩く親友―――水無月琴子(みなづきことこ)は、溜息を吐いた。長い髪に広いおデコ、少々
きつい感じはあるが、中々魅力的な和風美人だ。
「もう忘れたら?7年も帰ってこないんでしょ?」
「忘れられないよ…」
光は、寂しそうに笑った。
「あきらちゃんのこと…忘れられるわけないよ…」
ま、確かにね、と琴子は呟いた。光の幼馴染―――金剛晄。以前、写真でだけだが、見せてもらったことがある。
絶句した。次に、質問した。
「えと…その、あなたと同い年の男の子…当時小学2年生よね?」
「そうだよ?」
「…その…霊長類かどうかも怪しい学ラン男が写ってるんだけど…」
「うん、それがあきらちゃん」
「…………」
写真を見たら<何だかパッとしない男ねえ>とでも言ってやろうと思っていた琴子の目論みは、人の夢のように
あっさり砕け散った。どこをどう見ても、この漢はインパクトがありすぎた。
「ま、それはいいけれど…中学の頃みたいに暴れ回るのは勘弁よ?」
「あはは。もう、やだなあ、琴子ったら。まるで私が暴れん坊みたいじゃない」
「あなた、自分を暴れん坊じゃないと思ってたの!?」
「うわ、本気で驚かれた!?」
「そりゃ、驚くわよ…」

125 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:27:43 ID:/+VGZGwH0
琴子は中学時代を思い出し、深い溜息を吐く。
一緒に海に行った時は、ナンパ目的のサーファーたちを悉くぶちのめし、流血による赤潮が発生した。
お花見に行った時は、酔っ払い共を千切っては投げ千切っては投げ、桜の花びらが血反吐で紅く染まった。
ついにはひびきのを統括する番長軍団―――筋肉番長・火の玉番長・木枯らし番長・バイト番長、そして最強の番長で
ある総番長すらも叩き伏せ、名実共に天下無敵の女の子・ひびきの最強の生命体となった。
とにもかくにも陽ノ下光の往くところ、バイオレンスの嵐が吹き荒れ、全ては流血で真紅と化す―――故に。
ついた仇名が<紅蓮番長>陽ノ下光―――である。
そんなこの親友の所業に巻き込まれるごとに、自分のおでこは広くなった。抜け毛の量も目に見えて増え、うら若き
乙女だというのに養毛剤とワカメが手放せなくなった。
「ところで琴子、知ってる?ひびきの高校の伝説の鐘」
苦い時代を思い出している琴子に、光は笑いかけながら訊く。
「ちょっとは聞いたことあるけれど…どんなのだったかしら?」
へへー、と光は笑って、得意げに琴子に説明する。
「卒業式の日、伝説の鐘の鳴り響く中、拳を交わす事で己の全てをぶつけ合ったカップルは、永遠に幸せになれる」
「…………そんな暴力の匂いがプンプンする伝説だったかしら」
「気にしない、気にしない」
気にするわ。琴子はまたしても溜息を吐いた。光と一緒にいると、抜け毛と溜息ばかりだ。けれど。
(それでも、この子と縁を切ろうとは思えないのよね…)
そう。とんでもない常識外れで、暴走しまくる女の子だけど―――誰よりも健気で。本当は友達思いで。心優しい。
サーファーや酔っ払いをぶっ飛ばしたのは、琴子がそいつらにしつこく絡まれたからで。
番長たちを打ち倒したのも、彼らの一派が町の治安を悪くしてしまっていたからで。
いつだって彼女は―――他人のためにだけ、拳を振るう。それが、彼女の信じるスジだというように。
そんな光は、琴子にとって―――誰にも恥じることのない、親友なのだ。

126 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:28:44 ID:/+VGZGwH0
そうこうしているうちに、ひびきの高校の門をくぐり、敷地内へと入っていく。周りにはこれから始まる高校生活への
期待や不安で胸を一杯にした新入生たちが、頬を心なしか紅潮させて歩いている。
中には光と琴子を指差してヒソヒソ話している連中もいた。
「なんだか私たちを見て何か言ってるね。えへへ…きっと私たちが可愛いからだね!」
冗談っぱく光は言うが、琴子は笑えなかった。話の内容なんて、聞かなくても分かる。大体、こんなもんだろう。
(おい、あの赤毛の女の子、紅蓮番長だぜ…ひびきの高校に来てたのかよ…)
(え、あれが噂の?すっげえ可愛いじゃん!)
(バカ、確かに見かけは天使だけど、ありゃあ撲殺天使だよ。俺、泣きながら逃げてく不良を紅蓮番長がとっ捕まえて
ギタギタにしてる場面、何度も見たよ)
(うへぇ〜〜〜…)
(隣の女は水無月琴子だ…あいつに関してはよく分からないが、紅蓮番長といつも一緒にいて、紅蓮番長も結構頼りに
してるみたいだから、本気になりゃ無茶苦茶ヤバいんじゃないかって恐れられてたぜ)
「…………」
また頭が痛くなってきたので、考えるのはやめにした。
―――と。
「あら?何かしら。あっちが何か騒がしいわね」
「クラス発表の掲示板の方だね…行ってみようよ!」
「あ、待ちなさい!もう、私はあなたみたいに足が速くないのよ!」
ちなみに光の100m走のタイムは子供の頃の孫悟空と同じである。閑話休題(それはともかく)。
光が手加減してくれたおかげで琴子も一緒に掲示板に辿り着き、
(なお、この際光が「もっと早く走ってよ〜。潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しいの!」とどっかの黒幕の
ような失礼なセリフをかまして、琴子に引っ叩かれた)
そこで、一人の漢の姿を見た。
周りの誰もが思わず遠巻きにしてしまうほど、彼は存在感に溢れていた。
そして。彼の目は、光の姿を見つけた。光もまた、言葉もなく、彼を見つめていた。
「久しぶりだな―――光」
3メートルに届くほどに背は高くなり、筋肉は更に分厚い鋼鉄みたいになって。
けれど、その険しい眼光の中に、変わらない優しさを秘めて―――

127 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:29:48 ID:/+VGZGwH0
「その学ラン、ずっと、大事にしてくれてたみたいだな」
「あきら…ちゃん…」
金剛と、光。ずっと離れ離れだった、大切な幼馴染。二人は互いに駆け寄り、そして―――
「打舞流叛魔(ダブルハンマー)ァァァァァァッ!!!」
「赦威忍愚叛魔(シャイニングハンマー)ァァァァァァッ!!!」
互いの拳を、ぶつけ合う!それはもう、世紀末覇者を目指す者同士の如く!
その衝撃に、遠巻きに見ていた一般の生徒たち(琴子も例外ではない)はぶっ飛ばされていった。
そして、その爆心地である二人は、爆風で生じたクレーターの中心で、拳をぶつけ合った態勢のまま―――
骨太な感じに、笑い合った。
「あの泣き虫が、強くなったみてえだな…」
「えへへ…言ったでしょ。今度会う時は、あきらちゃんの隣にいられるくらい強くなるって…」
そして光は、不意に、悲しそうな顔になった。
「バカ…急にこの町を出て行っちゃって、私、すっごく悲しかったんだから…」
「へっ…すまねえな」
「ううん!ちゃんと帰って来てくれたから…だから、許してあげるよ、あきらちゃん」
「フッ…それはそうと、この歳で<あきらちゃん>てのはねえな。ちとムズ痒いぜ」
「あはは、そうだね!じゃあ…晄くんって呼ぶことにするよ。あ、そうだ!学ラン、返さなくちゃ…」
学ランを脱いで返そうとする光を、金剛はそっと押し止めた。
「立派になったな、光…似合ってるぜ、それ」
「え…?」
「だから…それはもう、お前のもんだ」
「晄くん…」
よくよく今までの展開を考えるとアレだが、そこはかとなくロマンチックな空気が流れた。しかし―――
「ちょ…ちょっと待ちなさい!」
先程吹っ飛ばされた一般人代表かつ、ツッコミ担当(琴子)がようやく戻ってきた。

128 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:30:51 ID:/+VGZGwH0
「な、な、何者なのよ、あんたは!?それと、何だっていきなり殴り合いになるのよ!?」
しかしダメージは大きかったのか、ごく普通なつまらないツッコミしか出来なかった。
「うるさいわよ、そこ!」
「おいおい、あんた、何に向かって怒鳴ってるんだ?変な女だな…」
「きーっ!あんたにだけは言われたくないわ!」
「ああ、もう。琴子ったら落ち着いてよ!ほら。この人が私の幼馴染の金剛晄くんよ!」
光が宥めに入り、やっとこ琴子は落ち着いた。落ち着きはしたが、新たな問題が発生していた。
「…幼馴染…て、どこかへと消えていったっていう、あの?」
「そう!」
「小学2年生にして身長6尺以上あった?」
「そう!」
「…小学2年生にして無数の伝説をひびきのに残したという、あの?」
「そうだよ!もう、何度も話したじゃない!」
「おい光、誰なんだ、この変な女は?」
ちょっと蚊帳の外な金剛が、やっとこ琴子の素性を尋ねる。一方琴子も度重なる変な女扱いに、恐怖を押し退けて
怒りが沸いてきていた。少しばかり喧嘩腰で、自己紹介を始める。
「水無月琴子、光の親友よ!ちなみに嫌いなタイプは三本角みたいな髪型で、筋肉ムキムキの、身長10尺の大男!
おまけに学ランまで着てるような奴だったら、ドンピシャで大嫌いよ!」
「…………」
どう考えても自分のことである。初対面の女にいきなりここまで言われて、金剛も渋い顔であった。
「あーん、もう、琴子も晄くんもやめてよ!」
「あなたは黙ってなさい!それはそうと光も光よ!再会の喜びに抱き合うってんならまだしも、なんだっていきなり
殴り合うのよ!」
「フッ…決まってるだろ」
金剛はなんだか偉そうだった。
「漢同士が言葉をかわすのに、拳以外にはねえ!」
「そうそう!そういうこと!」
光も金剛に全面的に同意。大好きなご主人様に尻尾を振る子犬の如き態度だった。
「…そう。分かった。分かりたくないけど、分かったわ。それじゃあさよなら。そこでいつまでも馬鹿やってなさい」

129 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 17:59:00 ID:/+VGZGwH0
琴子はそう呟き、二人に背を向け、ふらふらと歩き出した。
ダメだ、ここは私のいる世界じゃない。残念ながら、光との友情もここまでだ。
そう、今私がすべきことは、この修羅の世界から一刻も早く逃げ出すことなのです。
そんな琴子を目ざとく見つけた光が、その肩を、ポンと叩いた。
「どこいくの?琴子。私たちみんな、同じクラスなんだから、一緒に行こうよ!」
「…は?」
恐る恐る、掲示板に目を向けた。クラス表―――そこには―――
自分と光と、そして金剛。三人の名前が、同じクラスで、仲良く並んでいた。
「これからもよろしくねっ琴子♪」
「おう、よろしくな、変な女」
そう言って笑う二人の顔は、琴子の目には、紛れもなく悪鬼羅刹に見えたという。
絶望のあまり、琴子はその場にorzの態勢で倒れ付した。
先立つ不孝をお許しください、大好きなお父さん、お母さん。
軽薄なパンク野郎で大嫌いだったけど、いざとなると名残惜しいです、兄さん。
さりげなく妹キャラであることをアピールしつつも、意識がぶっ飛んでいく。
「あれ!?琴子、琴子!どうしたの!?」
薄れゆく意識の中、琴子は決意した。来年、隣町のきらめき高校に受験しなおそうと。
―――しかし、そんなことが出来るはずもなく。彼女は高校3年間、この規格外カップルの巻き起こす騒動の度に、
日々広くなっていく自分のおでこと死滅する毛根に涙を流す日々を送るのだった。
合掌。
―――その時だった。

130 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 18:00:03 ID:/+VGZGwH0
「おーっと、感動の場面のとこ悪いが、お前らを通すわけにはいかねえぜ!」
「!?」
いつの間にか、三人は、怪しい集団に取り囲まれていた。多種多様な人物が揃っていたが、共通点は二つ―――
全員が学ランを羽織り。そして、全身から、凄まじい闘志を発していた。
最初の一人―――左腕に腕章をつけ、長い髪を風に靡かせる、小柄な少女が啖呵を切った。
「金剛番長、そして紅蓮番長―――恨みはないが、ここで倒れてもらうぜ!このあたし…ひびきの高校生徒会長に
して<蹴殺番長>赤井ほむらの手…いや、必殺会長キックによってな!」
「ほむら。悪いけど、あの紅蓮番長…陽ノ下光さんはボクに譲ってもらうよ」
ほむらと名乗った少女の隣にいた、巨乳美少女でボクっ子が光を睨み付ける。
「かつてあなたに倒された総番長は…ボクのお兄ちゃんだ。その仇は取らせてもらう。この<鉄拳番長>―――
一文字茜(いちもんじあかね)がね!」
「あーあー、美幸はこんな不幸なのに、みんな楽しそうでいーなー!」
超音波のような声を発する、ゴキブリみたいな触覚ヘアーの女の子が不満げに口を尖らせる。
「こーなったら〜、生まれた時から不幸全開!<大凶番長>寿美幸(ことぶきみゆき)が〜、み〜〜んな不幸にして
あげちゃおっと!」
「うふふ…美幸さん。そんな物騒なことを言ってはいけませんよ」
その隣にいる、にこやかな笑顔が印象的な、胸元にカエルのぬいぐるみを抱いた優しげな少女が美幸を宥める。
「あの金剛番長さんは、この<電波番長>白雪美帆(しらゆきみほ)の占いによると、私の王子様となってくれる
お方なんです。妖精さんだってそう言ってますよ。ね?妖精さん」
「…どうでもいい…心底どうでもいい…」
膝を抱えて座り込んでいる、美しいが暗く沈んだ顔をした少女が呟く。
「私は<憂鬱番長>八重花桜梨(やえかおり)…なんで私、こんな格好して、こんな連中と一緒にいるのかしら…」
「まあまあ八重さん、これもダイエットの一環だと思って」
ちょっとぽっちゃりしてるが、中々可愛らしい顔をした女の子が花桜梨の肩をポンポンと叩く。微笑ましいが、その右手に
持っているのは狂悪なまでの兇器―――釘バット。
「甘いお菓子と中性脂肪は乙女の天敵!野球部マネージャーにして<節食番長>佐倉楓子(さくらかえでこ)だもん!肥満
防止の運動のため、軽ーくお二人さんをやっつけちゃうもん!」
「―――ふん。どうにもこうにも、下賎な連中なのだ」
背後に執事を引き連れた、いかにもいいとこのお嬢様といった風情の少女が小馬鹿にしたように憎まれ口を叩く。
「全く、この<御嬢番長>伊集院メイが来年には通うことになる高校がこの有様とは、嘆かわしい限りなのだ」
―――総勢、7名。分かることはただ一つ―――全員が、人間を遥かに超えた埒外の者たちであるということのみ。

131 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 18:01:16 ID:/+VGZGwH0
「…一応聞いておこう…てめえらは何者だ」
「それは私が説明してあげるわ…晄くん。それに、光ちゃん」
「!?こ…この声は、まさか!」
驚愕の表情を浮かべる金剛と光。その声は、それほどに予想外の人物―――何より、自分たちにとって、とても身近
な人物の声だったのだ。<彼女>は、7名の番長たちの間を割って、二人の眼前に立つ。
「出来れば―――こんな再会はしたくなかったわね。二人とも」
「「華澄さん…!」」
そう、二人にとって共通の幼馴染であり、優しいお姉さんだった―――麻生華澄!
「今の私はもうあなたたちの優しいお姉さんじゃないわ―――飛び級に飛び級を重ね、若干20歳にして大学を卒業し、
そしてひびきの高校新任教師となった<担任番長>麻生華澄よ!そして、ここに集まった7人は、全て、私が直々に
鍛え上げた戦闘集団なのよ」
「そんなこたあどうでもいい!何故あんたが、俺たちの優しい姉貴だったあんたが、こんな真似をするんだ!」
華澄は、その美しい顔を少しだけ歪めた。とても、辛そうに。
「晄くん―――あなたの闘っている<組織>について、私も調べたわ」
「何だと…!」
「彼らは、あなたの想像以上に恐るべき相手よ。どれだけあなたが強くとも、ただ、草のように毟られて終わる。それは
あなたの助けになろうとしている、光ちゃんも同じこと。そんなことになるくらいなら―――」
ならば―――と、華澄は言う。その手にはいつの間にか、教鞭が握られていた。
「草のように毟られる前に―――私たちが、華と散らせてあげるわ。誰かに殺られるくらいならば、せめて、私の手で。
そう思って、私も<番長>を名乗り、強くなったわ。けれど…私たちに倒されるのも嫌なら…もうやめなさい。暴力を
捨てて、普通の高校生として、何も知らないような顔をして、静かに暮らすのよ」
「…そうはいかないよ」
光は決意を込めた目で、華澄をまっすぐに見つめた。

132 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 18:02:20 ID:/+VGZGwH0
「私も、晄くんも、その<組織>なんかに負けたりしない!だから―――例え華澄さんが相手でも、引かない!」
「よく言ったな…光」
金剛は光を、本当に頼もしそうに見つめた。それは、対等の相棒に対して向ける、純粋な敬意だった。
「それじゃあまずはこいつらにスジを通して、高校生活の始まりといくか!」
「うん!」
光は力強く頷く。そんな二人を見て、華澄は悲しげに眉を顰めた。
「どうしても闘うというのね…それがどれだけ辛い道か、あなたたちには分かっているの?」
それに対する、二人の答えは、一つだけ―――
「「知ったことか――――――っっっ!!!」」
二人は隣り合わせ、総勢8名となった超人たちへと、恐れの欠片もなく立ち向かう。
あの幼かった日々、何も怖いものなんてなく、二人で遊んだ頃と同じように。
―――生涯を誓い合った、伴侶のように。

そして。
「もういやぁぁぁぁ!わたち、もうおうちにかえるぅぅぅぅぅっ!たすけてパパ、ママ、おにいちゃ〜〜〜ん!」
―――完全に忘れ去られていた琴子は、幼児退行を起こしていた。

そんなこんなで―――拳骨と血飛沫が舞い踊る、彼と彼女のちょっとおかしな恋物語は、まだ始まったばかり!


133 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/03/18(火) 18:04:02 ID:/+VGZGwH0
投下完了。前回は>>90より。
金剛番長でラブコメをやったらどうなるか?と書いたこのSS、中々の怪作になってしまったと思います。
ジャンルにするなら豪腕ラブコメディ(なんじゃそりゃ)。
ちなみに今回出てきた番長はときメモ2のヒロインたちです。もちろん原作では番長名なんかないですが、
彼女たちのパーソナリティにあった名前になったんじゃないかと思います。
ちなみに作中で散々な目にあってる水無月さんですが、僕は彼女が大好きですよ。
でなきゃこんな扱いとはいえ、ここまで多くセリフを与えません。
では、次はいつになるか分かりませんし、どんなSSを書くかも分かりませんが、気長にやっていきます。
ではでは。

134 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 18:29:03 ID:YhcvKx9N0
お疲れ様でしたサマサさん。
うーん、なんかこの先続きそうな終わり方なんで
ちょっとここで終わるのは残念です。
琴子と番長の話はまだまだネタが沢山でそうなので
続編もお待ちしております。

勿論、桃伝の続きと新作もね!

135 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 20:24:13 ID:wCQbsC9e0
<電波番長>白雪美帆があまりにもヤバすぎるw
原作でもほんとにこんな言動のキャラなのか?

136 :作者の都合により名無しです:2008/03/18(火) 23:32:22 ID:5/XEO5RN0
このまま連載でもいいと思うなあ
金剛番長好きだし
終わるのは惜しい

137 :作者の都合により名無しです:2008/03/19(水) 00:23:19 ID:/m0uNlIr0
サマサさん、お疲れ様でした。
番長のキャラに負けないくらい女性キャラも強烈でした
またの復活をお待ちしてます!

138 :永遠の扉:2008/03/19(水) 19:28:27 ID:8UTemZHv0
第039話 「暁遥か前、暗幕に透ける記憶を祓い」

地下でヴィクトリアは小さな唇から言葉を漏らした。
「蝶野屋敷」
総角はいう。そこでかつて父・ヴィクターが眠っていたと。
そしてヴィクトリアを惑乱してやまぬ忌まわしき食人衝動を解消する術がそこにあると。
だがしかし今さら食人衝動を解消したとしてどうなるのだろう。
ヴィクトリア自身はすでに寄宿舎を去るコトを決意したのだ。
(例え今の衝動を解消できたとしても……)
千里に会えば再び蟲惑的な飢えと餓えが柔らかな腹の内からじんわりと染み出て、喘ぎの中
で見に取り込むコトを自律の遥か外側で祈るだろう。
思い返せば寄宿舎に来た当初の自分は愚かなほどに楽天的だったと臍を噛む。
定期的に母のクローンを食べさえすれば他のホムンクルスのように苦しまないと信じていた。
百年の経験則はそうだった。
(……でももう誇れない。何も考えずに頼った結果が今だから)
所詮は不遇の立場を受容するだけの、楽な場所で外界との軋轢を取り払って楽に楽にと苦
節を避け続けたゆえの『経験則』なのだ。
自宅の冷蔵庫からハムを出して焼くコトが出来ても、社会の中で食物を獲得する術にはつな
がらない。狭い世界の一部だけを見ていたから世界にたゆたう無数の問題へ対処ができない。
ちょっと生活の調子が変ってちょっと母親に似た人間と仲良くしただけで、こうだ。
一つ、明確な自分への言葉が浮かんだ。ただしそれは自分の声の形態をとっていなかった。

「友人とやらに慮って寄宿舎を離れた? 違うな。貴様はただ惨めに逃げているだけだ」

何故かかつてニュートンアップル女学院の地下でみた、奇妙ないでたちの男の声だ。
母親の話では彼は若干二十歳にして優秀な錬金術師だったらしい。
その事実に対し、微かに自らの年齢と比して思うところもあった。
だからだろうか。彼の声をいま想起したのは。
(そういえば)
彼の覆面は『蝶』だった。
総角が告げた『蝶野屋敷』と結びつけるのは早計だろうか。

139 :永遠の扉:2008/03/19(水) 19:29:45 ID:8UTemZHv0
思案に暮れるヴィクトリアの耳にわざとらしい咳ばらいが突き刺さった。
「何? まだ居たの。用は済んだでしょ。さっさといなくなって」
総角はこめかみをポリポリ掻きながら「ひどいな」と渋い笑いを浮かべた。
「今からする質問で本当に用は終わる。そう邪険にしなくてもいいだろうに」
(こいつより例の蝶々覆面のホムンクルスの方がマシね。比較論でだけど)
露骨に冷たい視線を送ってやると、総角は少し早い口調で語りだした。
「俺の顔に見覚えは? いや……正確には俺より老けた顔に、見覚えは?」
「……あるわよ」
「ほう。いつのコトだ? 最近ならば嬉しいが」
「残念ね。ずっと昔。百年ぐらい前。この前夢に出て思い出したけど」
この前というのは寄宿舎に転入した日の夜のコト。

独りきりの幼いヴィクトリアにクローン技術を教えにきた金髪の男。
年の頃は二十代の半ばをすぎているだろうか。
すらりと通った目鼻立ちは総角とほぼ同じ。
ただし総角がおおよそ十七〜八歳であるから、年齢分の変化が見て取れた。
更に差異を述べるとすれば、夢の中の男は気真面目そうだった。
そんな彼はいった。
「いいかいヴィクトリア。これから教えるコトはいまの君にはとても難しいと思うけど、頑張って
覚えるんだ。この技術を君のママに教えたのは俺だから、頑張れば君だってちゃんとできるよ
うになる。いいかい。君は人間でいたいな? いたい筈だ」
その胸で淡く輝き服を透過する光の形は、章印。ホムンクルスの証だ。
不思議な光に照らされ、認識票が首に掛かっているのが見えた。
語りながらヴィクトリアは、回想の男とまるで同じ認識票を総角が付けているのに気づき、か
すかに仰天した。
ただ違うところは、回想の男の認識票には

「MELSTEEN=BLADE (メルスティーン=ブレイド)」

とあったが、総角が胸にかけている二枚重ねの認識票には何もない。
他に違う点があるとすれば、戦団を語る時の顔か。


140 :永遠の扉:2008/03/19(水) 19:30:16 ID:8UTemZHv0
ヴィクトリアは夢の中で見た。
総角に似た来訪者が目を狂気に染めるのを。

「どれだけの星霜を経ようとも、奴らだけは必ず滅ぼす。奴らの総ては必ず滅ぼさなくてはな
らない。そうしない限り、たとえ君の父をここに取り戻しても……」

それまではどこか中世的な優しい面持ちだったのに、頬を限りない失意と怒りに引きつかせ、
ドス黒い闇を宿した瞳で彼方を睨んでいた。
であるのに総角が戦団を語る時は、まだ親しくない隣人と良好な関係を気付きたいという穏や
かな意志に満ちている。

一瞬、本当に一瞬、老若の時系列も無視して夢の中の人物と総角が同一人物である可能性
を抱いたヴィクトリアであるが、あまりに性質に違いがありすぎてその考えを瞬時に打ち消した。
(仮に記憶喪失なら自分の顔を知っているかどうか聞くかも知れないけど)
百年前より若くなっている説明にはならない。
夢にいた百年前の人物は二十代半ばを過ぎていた。総角は十七〜八。
ホムンクルスは不老不死だが、加齢とともに若返るコトはない。
それはもうヴィクトリアが正に「身を以て」実感している。十三歳の頃からまったく同じなのだ。
核鉄はどうか。治癒力を活発にするが、それは元ある生命力の強制変換に依るものだから
長期的な視点からすればむしろ老化を促しているだろう。
その他の錬金術の産物にも、若返りの集団はないのだ。
(もしあるのなら)
ヴィクトリアが目を伏せたのもむべなるかな。
彼女の母・アレキサンドリアは脳だけをクローン増殖しながらも老衰で死を遂げたのだから。
……その感傷がヴィクトリアに一つの、錬金術の代表的な産物による若返りの可能性を描か
せなかった。正解かどうかは別ではあるが。

とにもかくにも、様々な思惑を孕みながらヴィクトリアの口頭伝達は終わった。

総角は腕組みしてうんうんと頷いた。
「惜しいな。知りたかったのは今の所在に関する情報だが、それでも奴が戦団を憎悪する理
由が分かったのは収穫だ。感謝する」

141 :永遠の扉:2008/03/19(水) 19:31:50 ID:8UTemZHv0
ヴィクトリアはその態度に鼻白んだ。
一人で納得されるのが気に入らない。
かといって聞くのも気に入らない。
質問は情報的弱者であると認めるに他ならない。
優位を誇る相手へそうすれば益々の増長を招くのだ。
少なくても一種偏狭なヴィクトリアはそう信じている。
「しかし、なんだなぁ」
総角はヴィクトリアの頭のてっぺんからつま先までをツツーと見て、最後に口元を凝視した。
「………………と兄弟筋なのが少しぞっとする」
朗々とした声と表情が一瞬ウソのように沈んだから、最初の言葉は聞き取れなかった。
ただヴィクトリアがムっとしたのはそのせいではなく、終始自分の情報を得るか語るかしない
総角のペースがそろそろ怒りを臨界に押し上げたからだ。
「何よさっきから。どういう意……」
「まぁ地図は預ける。行くか行かないか、お前が決めればいいさ。おっと俺なら気にするな。
親切心が受け入れられないコトはままあるコト」
総角の動きは素早かった。そのまま左手のヘルメスドライブにペンを当てて地下から消えた。
残されたヴィクトリアはやるせない。
「本当に何よ。いうだけいって……」
手持無沙汰に地図を見る。
赤い丸で囲われた部分へ目が吸い寄せられるのを、ヴィクトリアは禁じえない。
(パパの居た場所……)
ずっと前に生き別れて、今となっては生きて再会できるかすら分らない唯一の家族。
「……少し癪だけど、どうせ行くあてもないからいいわよね…………ママ」
地図を丸めると、ヴィクトリアは額の汗をぬぐい去り、確かな足取りで歩き始めた。

「フ。あのお嬢さんは百年前に見た男より俺が若いコトを疑問に思い、解答を求めただろうな」
蝶野屋敷の屋根の上に空間跳躍した総角は一人ごちた。
「ホムンクルスの不死性、核鉄、その他の錬金術の産物……それ以外の可能性」
果たして思い当たったかなと風に吹かれながら言葉を紡ぐ。
「武装錬金の特性ならば若返りもあるだろう。例えば鐶のクロムクレイドル・トゥグレイブ」
年齢のやり取りをキドニーダガーと行えば可能であるだろう。
総角も自らの武装錬金の特性で上記は達成できる。

142 :永遠の扉:2008/03/19(水) 19:32:23 ID:8UTemZHv0
「もっともそれも不正解」
しなやかな黒い影が、月を背後に飛び上った。
かつてここにいた孤独な青年がそうしたように。
一つ違うのは影の手元から細長い影がスルリと出でた所だ。
影は足を天空に突き上げるような形をとりながら、ゆるゆると落下していき──…
地上に激突。
いや、正確には
「されど俺も産物の一つ……フ」
真意不明の総角の呟きと同時に、手先から伸びる六十センチほどの細長い影がいちはやく接
地し、そのまま稲光を迸らせながら影を地下へと呑みこんだ。
「舞台は整い、後は時を待つのみ。ちなみに今飛んだのに意味はない。俺らしくカッコいいから
やっただけだ!」

かくして秋水とヴィクトリアの目的地は──…
蝶野屋敷へと定まる。

ただし彼らはまだ気づいていない。
総角、そして小札が目的地に「蝶野屋敷」を指定したその真意を。
やがて朝日が昇り転機は過ぎ去るだろう。
然るに転機のもたらす結果には二種類ある。
解決か頓挫か。
人類史上、転機が解決に帰結した場合、それは自然の流木がごとき漠然さをはらんでいない。
仮に一見して巨大な幸運が主因としても、要因を分解していくうち必ずそこにいた人間の明確
なる意志や必然的行動、劇的なる決断に突き当たるのだ。
後の秋水はそれを身を持って知るコトとなる。
血潮と苦慮を振り絞り、なお援助を得る。
そういう天然自然の営みの枠から外れた人道の努力と連鎖なくして解決は得られない、と。

143 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/19(水) 19:33:08 ID:8UTemZHv0
なんやかんやでまた間が空いてしまった……
むーん。一気呵成にSS描けないものか。MADに手を出して二つも作るとかどうなんでしょう。
そしてある程度「コイツは行ける!」と踏んで作った奴が伸びないのは困りもの。
けど! 自分はできれば武装錬金のネタでランクインしたいんだぁー!

>>74さん
ありがとうございます。やるべきコトは全部やりましたぜw
諸事情で何が何やらですが、少なくても弾みにはなってくれた作品ですね。
それと韓信はいちいち人間臭い奴で好きなので、無理はありますが生存させてみました。

>さいさん
WHEN THE MAN COMES AROUND、完結おめでとうございます!!
終息しながらもなお波乱と予兆を含んでいますが、ひとまずブラボーの戦いは一段落。
次回作では一歩引いて往時を語り、教戒教導という戦闘には関わらない部分での活躍をする
事と思います。そしてまひろの頭クシャクシャして><にするのは羨ましいというかw
月姫は不勉強故分かりませんが、また機会とお金があればヘルシングのようにw 
そしてそのヘルシングのヒロインの婦警が名前だけ出てくるのも嬉しいところ!
異なる話の接点が出てくるというのはツボなのですよ。鬼平犯科帳での「前回ちょっと名前の
上がった奴が今回はメインになる」とか。
月並みではありますが、次回作、お待ちしております。

144 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 19:56:44 ID:74eNP5zh0
 
子供というものは騒がしい。
だが、子供好きの人間にはその騒がしさすら微笑ましく思えるのだろう。
そして、その騒がしさが無くなってしまうと、妙な寂しさを覚えてしまう。
我らが神父アレクサンド・アンデルセンもそんな人間の一人である。

アンデルセンが所用を終えてフェルディナント・ルークス孤児院に帰ってきたのは、もうすぐランチの
時間という午前中も深まった頃。
いつもならば入口近くや室内にいる子供達が笑顔と共にまとわりついてくるのだが、今日はそれが無く、
院の敷地内は静まり返っている。
「ああ、そういえば寮母と近くの公園に遊びに行くと言ってたな……」
寂しさも確かにそうだが、子供達が外に遊びに行く時はいつも心配になる。
聞かん坊のルチアーノは他の子を泣かせていないか、向こう見ずなトンマーゾは転んで怪我でも
していないか、おっとり屋のアレッシアは迷子になっていないか等々、どうにも子供達の事が
頭から離れない。
現在はもう第13課の機関員となったハインケルや由美江が孤児院にいた頃も、今と同じように
成長していく姿を眺めながら様々な事に頭を悩ませたものだ。
アンデルセンは昔懐かしい感傷までも加わった複雑な思いを抱えながら扉に手を掛ける。
しかし、中に入るとすぐに不快感を伴う何かに気づいた。
妙な匂いが鼻をくすぐるのだ。
「ん……? この匂いは……」
常日頃から食べているイタリア中部地方の家庭料理の香りとは明らかに違い、何種類もの香辛料の
混ざった雑多な辛さを感じさせる匂い。
彼にはその匂いを発生させる人物に心当たりがあった。それもたった一人。
憮然とした表情で歩調を速め、アンデルセンはキッチンに脚を踏み入れた。

「あら。おかえりなさい、アンデルセン神父」

やはりである。
そこにはカソックの上からエプロンを着けて、大鍋を乗せたガスレンジの前に立つ笑顔の
シエルの姿があった。
このニコニコと幸せそうに笑う教皇庁特務局第13課機関員は、おたまで懸命に鍋の中をかき回している。

145 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 19:58:48 ID:74eNP5zh0
鍋の中身は言うまでも無い事であるが、カレーである。
アンデルセンは憮然とした表情を更に怒りで歪ませながら、シエルにズカズカと近寄る。
元々シエルに対しては悪感情以外のものは持っていない程に嫌い抜いていたが、数年前の
錬金の戦士との闘いを邪魔されて以来、その嫌悪と憎悪は格段にエスカレートしていた。
「おかえりなさいではない。貴様、ここで一体何をしている」
「何をって……見てわかりませんか? カレーを作ってるんです。アンデルセン神父も食べますよね?
今日のは特に自信が――」
シエルの言葉を皆まで聞かず、アンデルセンは鍋をガスレンジから持ち上げると、そのまま
ゴミ箱の中にカレーをすべて流し込んでしまった。
「ああーっ!! な、な、ななな何をするのですか!?」
唐突な暴挙に顔色を青ざめさせ、愕然とするシエル。
アンデルセンは何を言われようとお構い無しである。
「五月蝿い。我が神の家でこんなプロテスタントやシーク教徒のクズ共が食う物なんぞ……――」
ガスレンジへ鍋を乱暴に乗せ、声を荒げてシエルを罵った。
「――とっとと失せろ! ここは貴様が来る所ではない!」
シエルは眼の前で繰り広げられた衝撃的な行為のせいで、頭を垂れてワナワナと肩を震わせている。
カレーは彼女の大好物だ。
可能であれば三百六十五日三食カレーでありたいし、普段もカレーうどんをおかずに
カレーライスを食し、おやつにはカレーパンを食べるカレーっぷり。
彼女にとってカレーとは大好物以上のものかもしれない。
カレーにかける情熱は、周りの人間からしてみれば“偏執的”と表現せざるを得ないくらいなのだ。
わかりやすく書くならば――

神への信仰>カレー>>>>>>>>>>任務>>>その他色々>>>(越えられない壁)>>>アーパー吸血鬼

――といったものか。
そんなシエルが上機嫌で作っていたカレーを、アンデルセンはあろうことかゴミ箱へ捨てたのだ。
神(インド的な意味で)をも恐れぬその行為が、彼女の精神にどんな影響を及ぼすかは想像に難くない。
シエルは俯いたまま、聞き取りづらい低い声で呟いた。
「アンデルセン神父……。あなたは、三つの間違いを犯しました……」

146 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:00:23 ID:74eNP5zh0
「間違いだと? 何をたわけた事を――ブゥハッ!」
アンデルセンの言葉が終わるのを待たず、怒りに握り締められたシエルの拳がしたたかに
彼の頬を打ち抜いた。

「ひとつ、カレーの悪口を言った事……」
足尖蹴りがアンデルセンの鳩尾を痛烈に蹴り上げる。
「グゥオオォ!」

「ふたつ、カレーの悪口を言った事……」
髪を掴んでの膝蹴りがアンデルセンの鼻っ柱を直撃する。
「ブフオッ!!」

「そして、みっつ……! カレーの悪口を言った事ォ!!」
シエルはつい先程まで火にかけられていた鍋を手に取ると、仕上げとばかりに熱く焼けた
鍋の底をアンデルセンの顔に押しつけた。
「ウゥオアアアアアアアアアアァ!!」

白い煙を上げる顔を片手で抑えながら、アンデルセンは床に片膝を突く。
その彼を傲然屹立と見下ろすシエルは静かな、しかし研ぎ澄まされた殺意に満ち満ちた声で言い渡した。
「カレーに対する罪深き冒涜。我が主が許しても、この私が許しませんよ」
「貴様、命が惜しくないようだなァ……」
アンデルセンはボソリと呟くとうずくまった姿勢から一転、猛然とシエルに襲いかかり、
彼女の細い首を右手で掴んだ。
「うぐっ!」
それだけで喉を潰して絶命させんばかりの力である。
だが、アンデルセンはそんなものでは済まさない。済ます筈が無い。
持ち前の怪力でそのままシエルを高々と持ち上げた。
身長は2mに達するアンデルセンだ。シエルの頭は天井に届きそうな高さまで掲げられている。
「ぬぅうるぃやぁああああああああああ!!」
アンデルセンは雄叫びと共に、部屋の中央に位置する大きなテーブルへ垂直落下式にシエルの
頭部を叩きつけた。

147 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:01:42 ID:74eNP5zh0
テーブルは派手な音を立てて砕け、シエルの頭部は硬い床にまで打ちつけられる。
「ヌゥン!」
更なる追い撃ちに、渾身の力を込め、大の字になったシエルの顔面を踵で踏みつけた。
肉が潰れる鈍い音がアンデルセンの耳に届く。
シエルは悲鳴を上げる事すらままならずに全身を痙攣させると、ピクリとも動かなくなった。

アンデルセンは仰向けに倒れたシエルを捨て置き、壊れた食器やテーブルの破片を片付け始める。
そして、食器の破片をひとつふたつ手に取ったところで突如、シエルが上半身を起こした。
まるで何事も無かったようにごく自然に。狂気を孕んだ血塗れの笑顔を彼に向けながら。
「待ってろ……」
そう言ったアンデルセンもまた、いつもの掃除の風景のようにゆっくりとゴミ箱に集めた
食器の欠片を捨てに行く。
手に残った細かい破片を払うアンデルセンの背後で金属音が鳴った。
振り向くとシエルは黒鍵を三本ずつそれぞれの指の間に挟み、戦闘態勢を整えていた。
流れ落ちる鼻血は壊れた水道を思わせたが、シエルはそんなものは気にも留めていない。
「殺してあげます……。殺してあげますよ、アンデルセン神父!
それも出来るだけ苦痛に満ちた方法で……!」
アンデルセンも懐から銃剣を取り出し、シエルに突きつける。
「ハアァハハハハハァ! 手足も臓物もすべて細切れに斬り刻んでくれるわ!
無論、生きたままでなァ……!」
カレーが発端となった殺し合いの渦が、今まさに最高潮に達しようとしているその時――

「ただいまー!」「あー、お腹空いた!」「神父様、帰ってきてるのー?」

遠く入口から子供達の声が聞こえてきた。
時刻は既に正午を回っている。公園へのお散歩から帰ってきたのだ。
十数名の子供達の元気に駆けてくる足音が廊下中に響き渡る。
二人は慌てて各々の武器が握られた手を背中に回した。
お互いに刻みつけ合った身体の傷は、アンデルセンは再生能力、シエルは無限蘇生の残滓によって、
それぞれ何事も無かったかのように回復している。
しかし、この荒れに荒れ、乱れに乱れたキッチンは最早どうする事も出来ない。

148 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:03:26 ID:74eNP5zh0
どうする事も出来ないまま、アンデルセンは先程までとは打って変わった“優しい神父様”の顔で
子供達を迎えた。
「ああ、おかえりなさい。公園は楽しかったですか?」
子供達は荒れ果てたキッチンに入るや否や、その惨状に驚き、眼を丸くしている。
「わあ! 神父様、これどうしたの!?」「シエルさん、カレーを作ってくれてたんじゃなかったの!?」
“子供達はシエルが来ている事を知っている”
“カレーが作られている事も知っている”
この二つの事象はアンデルセンの頭に疑問を覚えさせた。
アンデルセンは笑顔を崩さず、声を潜めてシエルに問いただす。
(おい、これはどういう事だ……)
既に我に帰っているシエルは、これまた小声で申し訳無さげに嘆いた。
(す、すみませんっ! カレーを捨てられた怒りのあまり、子供達の為に作っていた事を忘れていました……)
(何だと……?)
アンデルセンは内心腹立たしい思いでいっぱいだったが、まさか子供達の前で殺し合いを
再開するわけにもいかない。
脳髄をフル回転させ、その割には多分に苦しい言い訳を搾り出す。
「これはですねェ……。実は、私もシエルのお手伝いをと思ったのですが、どこからかネズミが
入ってきましてね。それを退治しようとしたら、こういう事に……」
「そ、そ、そうなんです! 私、ネズミは大の苦手でして! ア、アハハ、アハハ……」
常識人としての度合いがアンデルセンよりもほんの僅かに強いシエルも、不自然な棒読み口調と
機械的な笑いでそれに乗っかる。
とは言え、そんな言い訳も子供達を意気消沈させるだけである。
「そうなんだぁ……」「せっかくシエルさんのカレーが食べられると思ったのに……」「お腹空いたー……」
元気良く遊び回ってお腹を空かせた子供にしてみれば、楽しみにしていたランチが台無しという事実は
この世の終わりに似た一大事であろう。
現に子供達の落胆振りはこちらまで悲しくなってしまう程に痛々しい。
どうしたものかと頭を悩ませるアンデルセンであったが、素早く銃剣を袖口に仕舞い、
ポンと手を打ってにこやかに提案する。
「よし! それじゃあ今すぐここを私とシエルで片付けます。そうしたら、みんなも一緒にカレーを
作りましょう。みんなで協力して作れば、きっといつもより美味しいカレーが出来ますよ」
アンデルセンの言葉を聞くと、今泣いた烏がもう笑ったという慣用句がピッタリなくらいに、
沈んだ雰囲気の子供達に笑顔が戻ってきた。

149 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:18:49 ID:74eNP5zh0
子供達は次々にアンデルセンの傍に群がる。
「はーい、神父様!」「じゃあ、わたしもお掃除手伝うよ!」「ボクもー!」
手伝いを申し出る子供達の頭を撫でながら、アンデルセンは満足げに相好を崩した。
子供達の素直さが心の底から嬉しいのだろう。
「うんうん、みんなは良い子ですね。神様も御喜びになるでしょう」
この慈愛に満ちた姿もまた、アンデルセンの“本当の姿”なのだ。
シエルは彼の豹変振りに飽きれながらも、そんなアンデルセンと子供達を少し羨ましげに
眺めていた。



「いただきまーす!」
食前の祈りも終わり、明るい声が食堂にこだますると、子供達は我先にとカレーライスを食べ始めた。
アンデルセンの隣にはシエルが座り、二人の左右に子供達が並ぶようにしてテーブルを囲んでいる。
「美味しいねー!」
「神父様、ジャガイモはボクが切ったんだよ!」
「わたしはね、わたしはね、ニンジンを切ったのー!」
一人が言い出すと他の子らも口々に自分の仕事振りをアンデルセンに報告する。
やはり自分の食べる物を自分で作るというのは、普段では無い達成感という喜びを得られる
ものなのだろう。
「フフフ、とても上手に出来ましたね」
アンデルセンは相変わらずの穏やかな笑顔である。
そんな中、子供達以上に喜んでカレーを頬張るシエルに向かって、一人の女の子がもじもじと
切り出した。
「ねえねえ、シエルさん。神父様とは仲直り出来たの?」
その言葉を聞くや、シエルは盛大にカレーを噴き出した。
前にいる子供達から文句の声が上がったが、彼女はそれどころではない。
「ア、アレッシア! その話は内緒だと……!」
「……?」
アンデルセンは怪訝そうな顔でシエルと女の子の顔を見比べる。
女の子にしてみればシエルを心配して悪気無く言ったのだろうし、神父様に隠し事をしないのは
ほとんどの子供達に共通していたのだから仕方無いのだろう。

150 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:19:41 ID:74eNP5zh0
慌てるシエルだが、女の子はアンデルセンに事の始まりを教えてしまった。
「あのねえ、シエルさんが言ってたの。『私はいつも神父様を怒らせてケンカばかりしちゃうから
カレーを食べさせてあげて仲直りしたい』って」
「いや、あの、それは、その、ですから……」
シエルは顔を真っ赤にして、片手にコップと片手に水差しを持ち、何杯も何杯も水を飲む。
そもそも二人の関係を表すならば、ケンカというよりもアンデルセンが一方的に嫌っていると
言った方が正しい。
だが、小さな子供にありのままを話すのは流石に教育上よろしくない。
それに、少なくとも仲間としてアンデルセンと打ち解けたいという想いは事実だった。
今日のカレーも子供達の為というよりも、アンデルセンの為といったところなのだろう。

アンデルセンは少しの間、子供達の前にしては珍しく笑顔も無くシエルを見つめたが、
すぐに笑って言った。
勿論、シエルではなく女の子に向かってだが。
「そうですか……。大丈夫、ちゃんと仲直りしましたよ。それにもうケンカはしません」
「本当!? 良かったね、シエルさん!」
カレーはさして辛くもないのに、シエルの顔からは次から次へと汗が滴っている。
恐るべしは子供の無邪気といったところか。
「ハハ……。ええ、まあ……」
喜びながら落ち込んでいるシエルを尻目に、アンデルセンは席を立つ。
「では、私はまだ片付けなければならない仕事があるので、この辺で……」
「あっ……! ア、アンデルセン神父!」
シエルが慌てて声を掛けた。
掛けたは良いのだが、なかなか上手い言葉が見つからず、どうしてもしどろもどろになってしまう。
「あの……。またカレーを作りに来たら、食べてくれますか……? ネ、ネズミはもう出ないですし……」
やや要領を得ない言い回しであったが、今度はお互いキレるのは止めて殺し合い(ケンカ)なんかせずに
仲良くしよう、という意味が言外に込められていた。
内心は別として、アンデルセンは少し困り気味の笑顔で答える。
「そうですねェ、正直に言うと私はあまり得意な味ではありませんが……。
シエルが作りに来てくれるのなら食べますよ」

151 :怪獣大戦争:2008/03/19(水) 20:20:33 ID:74eNP5zh0
アンデルセンの言葉を聞き、シエルは顔を綻ばせた。
その前ではつい猫を被ってしまう遠野志貴という存在が日本にいたように、第13課の中にも
特別な存在がいる。
それは恋愛感情といったくだらないものではなく、一人の人間の実力・人格に対する尊敬や
憧れに他ならない。
彼の事だ。おそらく子供達の前故の建前なのだろう。
表の顔と裏の顔を持つ彼なのだ。
しかし、少しはアンデルセンの心に近づけたと信じたかった。
そして、いつかは自分に背中を任せてくれるくらいにわかりあえれば。
シエルは一際、声を弾ませた。

「はい! 是非!」

その声を聞く頃には、アンデルセンは皆に背中を向け、眉間に皺を寄せた不機嫌な表情に戻っていた。
(フン、図に乗りおって……)
小声で呟くアンデルセンではあったが、やや意外な心境であった事を否定は出来ない。
いつもこちらから仕掛けていたとはいえ、顔を合わせる度に険悪な雰囲気を作り、いがみ合ってきた
シエルが自分を憎からず思っていたとは、と。
格別嬉しくもなかったが、何故だかそれに対して腹立たしいとも思えなかった。
(つまらん。あの女にどう思われようが知った事か……)
強いてそう思おうと努めている自分にふと気づき、アンデルセンはますます不機嫌な顔で
自室へと歩かざるを得なくなっていた。





[完]

152 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/03/19(水) 20:24:38 ID:74eNP5zh0
ども、さいです。
何だか良いタイトルが思い浮かばなかったので仮題のまま。
『WHEN〜』の後日談というか、『THE DUSK』の前日談というか。
この二人はトムとジェリーみたく「仲良くケンカしな」が良いかと。
でわまた。

153 :作者の都合により名無しです:2008/03/19(水) 22:37:22 ID:bq1pf6BQ0
>スターダスト氏
新章の始まり、といった感じの回ですね。
ヴィクトリアがこれからの話の核となりそうな感じで
今までと違ったダークな雰囲気です。
ヴィクトリアにも幸せになって欲しいんだけどな。


>さい氏
WHEN〜とDUSKのインターミッションですか。
アンデルセンとシエルの超越者同士の戦いの中に
日常の風景が溶け込んでて楽しいですな。特にアンデルセン。
前作のイメージとぜんぜん違いますね、子供たちの前だと。



154 :作者の都合により名無しです:2008/03/20(木) 00:34:35 ID:3tCRJHtc0
スターダストさんもさいさんも乙です

・永遠の扉
相変わらず底知れない総角ですが、狂言回し以上の存在感をかんじますな
秋水やビクトリアたちの運命を手の内で転がしているような
その横に無邪気な小札がいるのがバランスがいい感じ


・怪獣大戦争
ケンカするほど仲がいいってやつですか
俺はヘルシングはあまり知らないけど、神父の二面性は楽しいですな
次作への準備も万端って感じで非常に頼もしいです


ところでふら〜りさんどうしたのかなあ


155 :やさぐれ獅子:2008/03/20(木) 10:35:06 ID:PRIShZB/0
「ドッポ」
 呟いたと同時に、意識が猛烈な勢いで引っぱられるのが分かった。これが「東京に戻る」
ことを意味しているのか。ジェットコースターのような激流に成すがまま、意識が呑み込
まれていく。
 意識はまもなく再構築され、うっすらと視界が開けてきた。
 蛍光灯が並んだ白い天井。胸から下を包む布団の柔らかい感触。頭は枕の上に乗ってい
る。体を起こすと白い壁、また自分がベッドに横たわっていることが判明した。
「おう。ようやく目ぇ覚ましたか」
「すげぇな。あの娘がいってたとおりだ」
 懐かしい声が二つ、鼓膜を揺るがせる。久しぶりに聞く声だ。
「館長……克巳さん……」
 ベッドの横にある丸椅子に、双方とも私服姿で腰かけていた。特に驚かされたのが、師
匠の風体だ。切断されたはずの左手が復活しており、その代わり顔中がケロイドに覆われ
ている。
「どうしたんスか……すげぇ火傷じゃないですか」
「なァに、ちょいとしくじっちまってな。おめぇさんの敵討ちと洒落込みたかったが、烈
にオイシイところ持ってかれちまった」
「ちょっと待ってくれよ、館長。俺の敵討ちってのはどういう意味だよ」
「──おめぇはドリアンに単身で挑んで返り討ちにあったんだ。まさか全然覚えてねぇの
か?」
 まるで身に覚えのない事実を伝えられ、冷えた汗が乾かない。東京での記憶は、ドリア
ンを追跡していたところで途絶えている。
「……全然」
「しょうがねぇ奴だな。これでも心配してたんだぜ、なぁ克巳よ」
「えぇ、まったく。今生きているのが奇跡なくらいですよ」
 二人が嘘をついているとは思えない。つく意味もない。もし独歩と克巳が偽者で、試練
がまだ続行中だとするなら、記憶の矛盾もどうにか説明がつく。が、百パーセントありえ
ない話だ。二人が嘘をついていないと断定するなら、自然と、いや必然的に恐るべき仮説
が生み落とされる。
「冗談だろ……まさか、今までのは全部──」
 夢。

156 :やさぐれ獅子:2008/03/20(木) 10:35:36 ID:PRIShZB/0
 結論として、一ヶ月間にも及ぶ加藤清澄の無人島での生活は全て、「夢」という一文字
に集約されるに至った。
 残酷すぎる真実。どんなに現実的(リアル)で充実していた内容でも、夢であったのな
らば潔く諦めるしかない。分かっているはずなのに、なかなか気持ちの整理がつかない。
もちろん、こんな心境を独歩や克巳と共有するなど不可能だ。バカバカしくて語る気にも
なれない。
 ふと、克巳が加藤に水を向ける。
「ところで、うちの井上君って知ってるか?」
「え」
 知っているも何も、共に戦い、キスまで済ませた仲だ。もっとも夢の中での話に過ぎな
いが。それでも彼女の名前を聞いた途端、心臓が激しく胸を打つのが分かった。
「女子部の娘なんだが、ちょっと前にまったく稽古に出なくなった時期があってな。で、
十日くらい前にひょっこり復帰したらしいんだが、そしたら別人のように強くなってたら
しいんだな。
 まぁそれはさておき、五日前アンタを見舞いに行った時、偶然彼女に会ったんだよ。ん
で“どうしてこんなところに”って聞いたら彼女なんて答えたと思う?」
「さぁ」
「“加藤先輩を見舞いに来た”って答えたよ。しかも“詳しいことは話せないが、先輩は
五日後に必ず目覚める”ともな。みごとに当たってたよ」
 加藤は脊髄に電流を放り込まれたかの如き衝撃を受けた。
「でも、おまえと井上君って面識あったっけ?」
「えぇと……」少し考えてから、加藤は答えた。「一度もないな」
「だよな。ま、アンタがやられたって報は神心会中に広まったからな(つうか、俺が広め
たようなもんだけど)。それで知ったのかもな」
 会話も一段落し、再会の喜びを分かち合う加藤と克巳。若い神心会戦士の笑い声がこだ
まする。
 しかし、なぜか独歩は神妙な顔つきを崩さない。
「親父ィ、どうしたんだよ。色々あったけどさ、ひとまず回復を祝ってやろうぜ」
「加藤よ」
 五十五年間で培われた観察眼が、意識を取り戻して間もない患者を鋭く射抜く。
「おめぇ……少し、いやかなり強くなってねぇか……?」

157 :やさぐれ獅子:2008/03/20(木) 10:39:16 ID:PRIShZB/0
「おいおい親父、どうしたんだよ。だって加藤はずっと寝たきり──」
 すぐに克巳も察した。
 夢ではあったが夢ではなかった。無人島で毎日欠かさなかった鍛錬と、試練との激闘の
記録は、心と体にしっかりと刻み込まれていた。
 独歩、克巳に続き、ようやく加藤も気づく。
 全ては紛れもない現実であった、と。
 一度気づけば、芋づる式に自覚できる。入院していたにもかかわらず、筋量が増えてい
る。会得した数々の術も、今すぐにだって出せる。
 歯茎をむき出し、力ずくで加藤を引き起こす独歩。
「よしっ! さっそく退院して、ちょいと手合わせといこうや」
「おいおいおいおいおい」
「いいスよ、館長……。ぶっちゃけ敗けませんよ」
「おいおい、お前までッ!」
 あくまで常識人を装う克巳だが、すでに彼の心も決まっていた。
 父であり師でもある偉大なる武神と、不可解なレベルアップを果たしたデンジャラスラ
イオン。どちらが上か、観戦したい。そして出来るなら、自分も混ざりたい。
「よっしゃ克巳、さっそく院長に手ェ回して、退院の手続き取ってこいや」
「親父にゃあ、敵わねぇなァ〜」
「へっ、バカヤロウ、おめぇも好きなくせによ」
「ハハ、バレてましたか……」
 こうして、あれよあれよと加藤の退院は実現した。
「ところで、加藤よ」
「あン?」
「おめぇ目ぇ覚ました時、独歩っていってたが、まだオイラァおめぇに呼び捨てされる筋
合いはねぇぜ?」
「え? いや、あれは違うんだよ。館長じゃなく、虎の名前で……」
「虎なんてどこにいるんでぇ」
「いや、どこにっつうか……何でもないス。──ゴメンナサイ」
 その後、病院の出口で加藤はある戦友のことを思い出した。
「そういやァ館長。大方末堂の奴もさっきまでの俺みたいに、この病院で寝たきりなんだ
ろ? あいつも近いうちにうち起きるから、心配しなくていいぜ」

158 :やさぐれ獅子:2008/03/20(木) 10:40:02 ID:PRIShZB/0
 日が傾き、空が夜を歓迎するために燃え上がっている。公園にほとんど人気はなく、犬
を連れている人や、これから帰社するであろうサラリーマンが、ぽつぽつ歩いているだけ
だ。
 女性が独り、ベンチに腰を下ろしている。
 理由は待ち合わせ。約束はしていない。なのに、彼女が待っている人間は必ずここへ来
るという自信があった。
 ベンチはお世辞にも上等とはいえず、ひんやりとした感触が心地悪い。が、たとえ北風
であろうと太陽であろうと、彼女を移動させる力は持たない。
 やがてスニーカーが軽快に地面を蹴る音が聞こえてきた。
 これだ、と女性の中で直感が轟いた。
「井上」
「先輩」
 直感は正しかった。座る女と立つ男、両者の視線が斜線を描いて交わった。
「戻ったぜ」
 男が息を弾ませているのは、ロードワークだけが原因ではあるまい。
「道場で会うってハナシだったが、やっぱあそこじゃ色々と目立つからな。と思って来て
みたら、やっぱり居てくれたな」
「私も同じことを考えて、ここで待ってました。神心会本部に近くて、再会しやすい場所
といったらここしかないですから」
「敵わねぇなァ……」
 苦笑いする加藤に、井上が好奇心を満面に浮かべて問いかける。
「ところで、館長とはどうでした……?」
「え、どうして俺が試合したことを……?」
「分かりますよ。真新しい絆創膏やバンテージが貼ってますもん」
「おまえにゃ空手だけじゃなく、探偵の才能もあるみてぇだな」
 ふぅ、と嘆息すると、加藤は独歩との試合結果を報告した。
 加藤が手を差し伸べると、井上はその手を握った。
「行くか!」
「オス!」
 共に空手を志す雄と雌。彼らの本当の試練は今日を以って開始された。

                                   お わ り

159 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/20(木) 10:41:59 ID:PRIShZB/0
>>115より。
最終回です。

これにてやさぐれ獅子、完結です。
今までありがとうございました。

ドリアン戦を初め、加藤のバトルはなかなかアクロバティックで読んでいて面白いので、
「これでもう少し強ければなぁ」という思いから連載を始めました。
登場人物はさして需要のないキャラが一人だけという状況で、
井上を出したり敵を奇抜にしたりしましたが、
終始迷走した作品となってしまいました。
なかなか難しいものですね。

モチベーションの低下もありましたが、
皆様の励ましもあり、無事に終えることが出来ました。
重ね重ねありがとうございました。

160 :作者の都合により名無しです:2008/03/20(木) 11:40:57 ID:2Qo5vlxm0
お疲れ様でした!
途中、スランプもあったようですが、素晴らしい長編作品に仕上がったと思います。
最後はさわやかな幕切れでしたね。独歩との勝負はどうだったんでしょうか?

しばらく休まれてから、また復帰されるのをお待ちしてます。

161 :作者の都合により名無しです:2008/03/20(木) 12:04:35 ID:3tCRJHtc0
本当にお疲れ様でした
いろいろ工夫苦心されながら対戦相手の特色を変えていてすごかったです
まだまだ加藤たちの活躍を見たいですが、一区切り、ということで

新しけい荘やうんこ、読みきりでまだまだ楽しませてほしいです
ひとまず、ありがとうございました

162 :作者の都合により名無しです:2008/03/20(木) 20:22:28 ID:lksVfPK00
>スターダスト氏
ヴィクトリアはまひろに次ぐ作中のヒロインですから
なかなか見せ所がありますね。陽のヒロインまひろに対し、
陰のヒロインというか。女性陣が魅力的なSSですね。

>さい氏
WHENがハードな世界観でしたから、次の作品は割合と
ソフトな雰囲気になりそうですね。主役が主役ですし。
その橋渡しの回として、神父もいい味を出してますね。

>サナダムシ氏(本当にお疲れ様でした)
今の加藤ならドリアンにも勝てそうですね。克己にも。
独歩との師弟対決はどうなったんでしょうか。やはり負け?
井上さんとどういう関係になっていくか、いい含みの終わり方ですね。

163 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:05:41 ID:tRdnFeNm0
第040話 「蝶野邸へ(前編)」

 剛太は幼い頃に家族全員をホムンクルスに殺された。
 といっても物心つく前の出来事だからホムンクルスに対する明確な憎悪はない。
 会えば容赦なく殺そうとするのは、自分の立場に対する現実的思考と、尊敬する斗貴子への
同調がそうさせているだけなのだ。
 信奉者、というホムンクルスにつき従って彼らが人を喰いやすいよう裏工作をする人種に対
する悪感情もまた同じく。
 そんな彼が最近、元・信奉者の女性に付きまとわれている。
 客観的にいえば彼女は美人だ。黒い髪を腰まで伸ばした清楚な雰囲気漂う和風美人。肢体
も隅々まで豊麗で、初対面の時は斗貴子一筋の剛太ですら不覚にも目を奪われかけたほどだ
が、しかし元・信奉者というコトに変わりはない。
 何しろ彼女の一面が投影された武装錬金はヒドい造りの毒舌人形。
 その一時だけでもいかに「元・信奉者」に相応しい性質かが分かる。
(なのにどうしてか強く跳ねのけられねェ)
 明け方の病室で剛太は天井を見上げながらふうと息を吐いた。
 今日はいつもより早く眼が醒めた。二度寝しようとしたが療養のために何かと寝てばかりい
る肉体には疲労物質が在庫切れで、過度の睡眠と物々交換できそうにない。
 まさかナースコールを押して睡眠剤を打ってもらうワケにもいかないので、手持無沙汰に上
体を起こして腰までシーツに埋めたまま、取りとめのないコトを考えていたら「元・信奉者」の課
題に突き当たった。ご丁寧にもその突き当たった音は幻聴にすらなり、コンコンコンと三度も耳
に響いた。
 その音のリアルさが真剣に元・信奉者を考えている証に思えて、剛太は世にも情けない顔
つきで首を振った。
(だーもう。先輩以外のコト考えるなんてどうかしてるって! くそ、こうなるぐらいなら売店で本
でも買っときゃ良かった!)
と思うもののマリンスポーツが好きなアウトドア派な剛太が果たして小説という長ったらしい文
字の羅列と数時間同じ姿勢で向き合えるかといえばノーだし、漫画というのも幼稚に思えたの
で却下した。まして下賤下劣な情報を垂れ流すだけの週刊誌の類は最初から視野にない。要
するにビブリオマニア(本好き)とはとんとご縁がないようだ。

164 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:06:34 ID:tRdnFeNm0
 病室のドアが開いて廊下に響く朝の微かな喧噪を病室に入れた。
(第一売店閉まってるしなぁ。……クソ)
 男というのは勝手な生き物らしい。
「あら。返事がないから容態を心配したけど元気そうね」
(こういうヒマな時にはあの元・信奉者来ないのな。は、やっぱ元・信奉者だから役立たねェ!)
 さんざ疎んじていながらも、自らの心に生じた空白を埋めないと分かると、内心で半ば八つ
当たり気味に毒づいた。
同時に病室のドアがばたむと閉じてつかつかとたおやかな女性がベッドの横に座った。
「おはよう、剛太クン」
「ああ、おはようございます。……って、ええええ!?」
 仰天の形相でスペシウム光線の出来そこなったポーズをしながら剛太は数十センチばかり
飛びのいた。もし点滴をしていたら針が抜けてちょっとした騒動になっただろう。
 見れば当たり前のように憎い(?)元・信奉者が座っているではないか。
 彼女は剛太の狼狽を興味深そうに濡れた瞳で眺めて、それからくすりと笑みをこぼした。
「ついさっきよ。いろいろ気遣ってノックしたけど聞こえてなかった?」
 椅子に座ったまま上体を乗り出す桜花の見事な黒髪がシーツの白にわだかまって何ともい
えない雰囲気を醸し出す。
(もしかするとさっきのコンコンコンはノックか? 幻聴じゃなかったのかよ)
 ひたいに手を当てて大仰な溜息をつく。
 不覚。存在に思い煩うあまり存在にしてやられるとは。
「で、何の用ですか?」
 努めて声にトゲを含ます。斗貴子への媚態がウソのようだが、媚態あるが故のトゲである。
 要するに「斗貴子先輩以外の女には興味ありません」だ。
「お見舞い」
桜花はまったくそんな機微を知らない笑顔で受け流した。
「お見舞いって」
 額から手が剥がれ、訝しそうな垂れ目が桜花を見た。
 考えてみれば桜花の来訪はいつもより早い。不意を突かれたのはそのせいでもある。
「こんな朝早くから何してるんスか。一応戦団に従っている以上、他にやるコトあるでしょ?」
 口調はややぎこちない。以前桜花から敬語は使わなくていいといわれているが、どうも抜け
きらない。

165 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:07:30 ID:tRdnFeNm0
「弟が任務で負傷しちゃって…… その手続きとか身の回りの世話とかで」
 朝早く聖サンジェルマン病院に居るというワケなのだろう。
「って。だったらその弟の部屋にいればいいでしょう」
「……ちょっと事情があって、ね」
とまた桜花は沈んだ顔つきをする。或いは剛太が強く桜花に出れないのはその表情のせい
なのかも知れない。
 ただその顔がいきなり真剣に自分を覗きこんでこういったのには度肝を抜かれた。
「ねえ、剛太クンにとって津村さんは大事な存在でしょ」
「そうっスけど」
斗貴子の話題となれば俄然真剣になる剛太だ。気圧されながらも桜花の瞳は確かな眼光で
射ぬいた。
 それで何故か彼女は安心したようだった。
「できるコトがあれば何でもしたい、そうよね」
「当然!」
「じゃあ私と同じね」
 桜花はこんなコトをいった。
 彼女とその弟の事情にひどく関わっているから半分ぐらいは剛太に理解できなかったが

 昨日、諸事情で傷ついたまま秋水が街を彷徨していた。
 そんな彼を桜花はエンゼル御前で探した。屋上にいるのを見つけた。
 けれど。
 桜花はそこへ行かなかった。
 代わりにまひろに連絡して、励ますよう頼んだ。

という所だけはひどく印象に残った。
「だって私がいつまでも助けてたら、秋水クンは自立できないから……」
湿った瞳が別の湿り気をにじますのを剛太は認めたが、桜花が努めて遠くを見る素振りを見
せたので追及はやめにした。変わりに突っ込んだ。
「……っていうかまひろって誰ですか」
「武藤クンの妹さん」
「あ」
 剛太は徐々に桜花の置かれた状況がわかってきた。

166 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:08:41 ID:tRdnFeNm0
 目を覚ました秋水はそこが聖サンジェルマン病院の一室と知って愕然とした。
 彼の記憶では確か銀成学園の屋上に居た筈だ。
 そこでまひろと話し、小札が「ある取引」の場所変更を伝えにきた所までは覚えている。
(そこからの記憶がない……一体何故ココに?)
「これね、実はね、モノマネ練習してたんだよねっ……むにゃむにゃ」
 変な声がした。聞き覚えのある声だ。上体だけ起こしたまま首を回すと視線が病室の一角
に吸いつけられた。
 病院にはベッドから起きられぬ患者のために、ベッドサイドテーブルという器具がどこの部屋
にも備え付けられている。一番長い部分を横から見るとコの字をしたキャスター付きの器具だ。
 それがベッドの斜向かい、秋水の足の方から三メートルばかり離れた場所に鎮座しており、
更に見覚えのある栗色の流れをゴロリと横たわせている。
 注視すればベッドサイドテーブルの向こう側にパイプ椅子を置いて、突っ伏しているのが分
かった。寝息は「くかーくかー」とひどく軽妙で子犬が寝ているような気楽さがある。
(また君か)
 よく分からない状況にこれまたよく分からない少女がいるのは、却って当てはまっているよ
うな気がしていっそ清々しい。
 視線を感じたのかどうかは分からないが、タイミングよく覚醒の時がきた。
 まひろがむくりと上体を起こし、焦点定まらぬ瞳でうろうろと辺りを見回した。
 ややウェーブの掛かった栗色の髪と、大きな瞳。それにずんぐりとした太めの眉毛。
 彼女はそれら総てを呆けたさせたまま、やがて秋水を見た。
 じーっと見た。
 ひたすら見た。
 やがて、寝ぼけ眼が一気に覚醒した!! 
「わ、起きてたァ!!」
 普通、人間の声帯というのは目覚めてから数時間は本調子にならない。秋水も剣道の稽古
でそういう現象を体感している。だが、まひろは起きると同時に平生と変らぬひどい素っ頓狂
な大声を張り上げた。
(まるで居合だ。このコには人体の常識という物が通じないのだろうか)
 秋水は耳をじんじんさせながら、頭の冷えた部分で冷静に分析した。もしまひろがホムンク
ルスでもああそうかと納得できそうな感じがしている。武装錬金(影武者とか)でも然り。

167 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:09:40 ID:tRdnFeNm0
 対するまひろは叫ぶだけ叫んだが、何をいえばいいか分からないらしい。
 うぅう、ううう、あのねあのねと何やら珍妙な呻きをあげるまひろ。
 頬についた真っ赤な跡と、肩のあたりで変なクセがついてる髪が微笑ましいと秋水は思った。
「一つ……質問していいだろうか?」
 呼び水をかけないと埒が開きそうにないので、桜花に似た爽やかな微笑を浮かべた。
「分かる範囲なら何でも!」
「君は起きたばかりなのにどうしてそんなにテンションが高いんだ?」
と秋水は本当に聞きたくなったが、きっとまひろがまひろゆえにまひろっているだけなのでは
ないかと思い、本題を選択した。
「何故、俺はココにいる」
「あ、あのね。秋水先輩あの後倒れちゃって……」
この時まひろが少し頬に紅を差したのを秋水は気付かなかった。
 
 小札が去った後、秋水は銀成学園の屋上で倒れたのだ。
 あろうコトか、まひろを正面切って巻き込んだ。
 だがココに、人体の構造ゆえの問題が発生する。正面切って人が人に倒れ込んだ場合、
果たしてその姿勢はどうなるか。
 すらっとした青年の長身が幼くも柔らかな肢体へともつれ込み、重力の赴くまま地上へとス
タンプした。
「きゃ、きゃっ!」
と絹を裂くような叫び声もその暇あらばこそだ。
 秋水の大腿部はスカートの上からまひろの細い両足を割り開きつつ並列し、秋水の肩は陶
器のように儚いまひろの鎖骨部へ座礁して、しなやかながらに厚い秋水の胸板は柔らかな二
つの膨らみをぐなりと潰し、顔はまひろのそれへと最大接近した。
「え……!」
秋水の頭の横に顔を何とか出しながら、まひろは真赤になった。
「ええええーっ!」
 無論秋水が意志を喪失せしめたコトが分からぬまひろでもない。だからまずは彼の体調へ
の心配が先んじたがしかし露もなく密着する男性のたくましい体の感触にはヘドモドするばか
りでどうにもならぬ。
 もとよりスキンシップを身上とするまひろだ。然るにその対象は基本的に可愛い女子というか
主立っては斗貴子ないしはヴィクトリアといった可憐きわまる少女に限定されている。

168 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:11:28 ID:ggo3fid00
 だがいまここにまひろは秋水に組み伏せられた!!(忍法帖風)
 とまぁ秋水につぶされながらもまひろは必死に白い頸(くび)をいやいやするように振りまく
って童顔じみたOLの顔つきを羞恥やふんばりといった様々な表情に歪ませながらなんとか
秋水より脱出し、ケータイにて救助を要請したのである。

 そして今に至る。
 まひろの説明はともかくも秋水に押し倒された事実を伏せに伏せていたから、秋水は不可
抗力による役得いや罪悪に悩まずに済んだ。死ね!
「そうか。迷惑をかけてすまなかった」
「ダ、ダイジョーブ。気にしてないから。不可抗力だし……」
「?」
 顔を俯かせて湯気吹くまひろに秋水は怪訝な顔をしたが、とりあえずベッドを降りた。
 この時秋水は自分の纏う学生服が新調されているのに気づいた。
 おかしいといえばおかしいコトだ。療養のために強制的に着替えをさせられたのなら、着衣
は病院指定の寝間着である筈なのだ。
(にも関わらず何故学生服……? それに核鉄は?)
 上着のポケットに手を突っ込むと、握りなれた感触があった。引き出すと彼愛用のシリアル
ナンバーXXIII(二十三)の核鉄だった。着衣が変わったのに核鉄がある謎も気にはなったが
そこまではまひろに聞いても分からないだろう。それに留まっても居られない。
「……秋水先輩、行くの?」
ドアに向かって歩き出した秋水に心配そうな声が掛った。
「ああ」
 振り返って生真面目な表情で答えると、まひろの顔がみるみると心配に溢れた。
 体調を慮っているのだろう。
「大丈夫だ。ヴィクトリアは必ず連れ戻す。君達だって必ず守る」
「他の人と一緒に?」
「ああ。ヴィクトリアの件については協力を仰ぐ。……仰げればの話だが」
(びっきーの件については?)
 まひろが眼をぱしぱしさせたように、やや含みがあるのは実は秋水自身さまざまな思惑があ
ったからだ。もっともそれは更に後の稿に譲られるであろう。
「それから」
「それから?」

169 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:12:18 ID:ggo3fid00
「わざわざ夜を徹しての付き添い、感謝する」
「き、気にしないで。心配だったからついブラボーに無理いっちゃって」
 秋水に向かって真白な掌を胸の前でおたおたと振りながら、まひろは答えた。
「それでも、ありがとう」
 後姿で万感こもる謝辞を述べながら、秋水は病室のドアを開け、廊下に出た。

(これでいいんだよね)
秋水のいなくなった病室で、まひろは透き通った液体を瞳の表面張力ギリギリまで湛えた。
(斗貴子さんの話……先輩がお兄ちゃんを刺したって話、本当かどうか確かめたいけど、今は
びっきーを助けないとダメだからコレでいいよね。今いったら秋水先輩、何もできなくなっちゃう
気がするから)
立ち上がってブラインドを開けて、外を見た。雲ひとつない青空が広がっていて、光の刺激が
今にも耐えがたい堰をぐしゃぐしゃに切りそうな気がした。
(今はびっきーを助ける方が先だよね。きっと寂しがってるし、ちーちんだってさーちゃんだっ
てあんな別れ方じゃ悲しむから……コレでいいんだよね。お兄ちゃん)
 スっと空を見上げたまひろは頬を拭うと、そのまま一気にブラインドを下げた。
(でも……!)
 身を翻し歩くまひろの足取りにあったのは、カズキのような力強さ。

 確かどの資料だったか失念したが、新撰組三番隊組長斉藤一が以下のような注意を述べて
いたように思う。
 夜間、真暗な家屋へ斬り込む際は足から踏み込むべきと。
 もし仮に襲撃者が扉の向こうで待ち構えていたとしても、胴体は足より若干ながらに後方に
あるから白刃を逃れ後の先を取れるのだ。
 以上の記述は夜間に限定しているが、しかし白昼といえど扉の向こうはガラス張りでもない
限りまったく見えぬワケであるから、留意は必要である。
 秋水が聖サンジェルマン病院の廊下で一瞬背中に粟立てまひろを防衛するための戦いを想
起しかけたのも、留意一つあれば防げただろう。
 もっとも扉のすぐ傍にいた辛気臭いのっぺりとした顔付きの男は、留意を感知すればますま
す自らの気配を消してついには自らを構成する分子原子の類すら消却しそうだが。
 根来が忍者刀を横手に引っつかみながら無造作に差し出した。
「使え。貴殿の衣装はすでに対応済みだ」

170 :永遠の扉:2008/03/21(金) 00:13:25 ID:ggo3fid00
 面喰った秋水が、しかし何事かを納得すると同時に頷いてシークレットトレイルを拝領した。

「相変わらず素っ気ないわね」
「私の武装錬金の特性についてはヴィクターとの戦闘にて説明済みだ。ああ言えば通じる」
「素っ気ない」という世間一般では文句苦情の類にて通じる表現に対し、二つ三つ飛び越えた
結論を述べるあたり、本当にこの若者には感情の生ぐささがまるで欠落していると千歳は思
った。
 もっともそう思う千歳自身、根来ぐらいの歳には照星から教わった化粧を完全に覚える代わ
りに感情の騒々しさを思考の底に沈めていたから、欠落を責めるつもりはなく、むしろ近しさを
感じながら応答するぐらいだ。
「バスターバロン回復のための足止めね」
とはかの太平洋上におけるバスターバロンの
「(ヴィクターと)十二時間戦って一旦離脱、六十時間休息。後に再戦の繰り返し」
を指す。
 とにもかくにもその時に新人ながらにヴィクターを果敢に食い止めていた剣客がいま、千歳
の瞳の中で窓から漏れる朝日を浴びながら廊下を進んでいく。
「で、もう一人はどうする」
 根来はドアをしゃくった。すると合板一枚すぐ先で露骨な動揺の気配がした。
「この前の任務、どうやって勝ったか覚えてる?」
 千歳はめずらしく微笑を浮かべて、根来を見た。彼は一瞬呆気に取られたが、すぐ例の猛禽
類が獲物を見つけたような笑みを浮かべた。
「再利用、だな」

 時は九月三日。
 後にこの時期における戦いを知る者は回想する。
 この日と、その翌日を以て趨勢が決定した、と。

171 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/21(金) 00:16:18 ID:ggo3fid00
全体の構想と進捗具合から鑑みるに、るろうにでいう斉藤一編の始まり辺りではないかと……
その斉藤一の「足から踏み込め!」、本当にどっかで読んだんですよ。どこだったか。

>>153さん
ようやく前回今回で序盤の終盤へと向かうコトができますw いや本当に。
ヴィクトリアを核にするまでが長かった…… 物語の基本はハッピーエンド。
原作では一つの救いを受けた彼女ですが、本作でも別方面からの救いを用意しております。

>>154さん
ありがとうございます。男性キャラ苦手な自分なので、総角を褒めて頂けるのは嬉しいですw
本当ココまでは彼の思惑通りだったりしますね。果たして脱却できるかどうかは実は自分にも
分からなかったり…… さて、小札はそろそろ本格始動します。お楽しみに。

>>162さん
陰の背負いっぷりはコレはコレで描き応えがありますね。単純に明るいキャラより、何かと
共感しやすいというか。同じような理由で剛太や聖剣3のルガーとかも十年前から好きです。
報われない、けれど頑張ろうとしている奴はいいものです。

サナダムシさん
本当に本当にお疲れ様でした。不覚にも途中より読みだした自分ですが、多種多様な敵たち
がその魅力と脅威を十分に振りまきながらも、けっして冗長になるコトなく短い文量の中でその
役目を完遂していくのが大好きでした。この構成力、かなり参考にさせて頂いております。
新しけい荘も心よりお待ちしております。

172 :作者の都合により名無しです:2008/03/21(金) 08:46:20 ID:CIzSnU3a0
桜花に興味がないって凄いなあ 健全な男子としてどうかとおもうが>剛太
意外と精神力強いのかも。千歳と根来のコンビは精度が上がってますな

173 :作者の都合により名無しです:2008/03/21(金) 12:46:40 ID:hfDsIIQY0
お疲れ様ですスターダストさん。
忍法帖の影響が出てますなw
一人でどぎまぎしてるまひろが可愛いですけど、
やはり桜花&秋水姉弟は冷静沈着ですね。
桜花は少し黒いけど。

174 :作者の都合により名無しです:2008/03/21(金) 22:50:06 ID:VbUNkzua0
戦闘より、こういうストロベリーな感じの日常風景のほうが好きだな
根来と千歳のコンビは長年連れ添った夫婦みたいだ




175 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 01:11:12 ID:htgjwKf20
サナダムシ氏、やさぐれはよい作品だったと思います
でも傑作しけい荘復活が待ち遠しいぜ


176 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:18:45 ID:jwYa2evW0
第041話 「蝶野邸へ(後編)」

 銀成市市街地の山の手に、いまは住む者のない屋敷がある。
 通称オバケ屋敷。かつては蝶野一族──明治時代から続く貿易業を営む資産家──とそ
のボディーガードたちが住まっていたが、この初春、彼らは忽然と姿を消した。
 以来ここに住む者もなく打ち捨てられるままになっている。
 人々は常に成功者のスキャンダラスな話題を求めている。
 だからマスコミは蝶野家の人々の、失踪として片付けるにはあまりに不穏な痕跡の数々を
一時期これ見よがしにあげつらい、銀成市市民の耳を楽しませたものだ。

 曰く、彼らの失踪に先駆けて長男が寄宿先から姿を消した。
 曰く、失踪したと思われる日に多くの銃声が響いた。
 曰く、その直前、傷まみれの不審な高校生が蝶野邸を訪れた。
 曰く、住民の服だけが残されていた。
 曰く、屋敷の至るところに争ったような跡があった。
 曰く、にも関わらず血痕は蔵と書斎にしかない。
 曰く、幾つかの蔵には猛獣が突進したような風穴が開いている。
 曰く、その風穴を辿ると、まるで何かを衝突させ磔にしたような痕跡がある。
 曰く、そういえば長男の失踪の直前にも寄宿先が原因不明の半倒壊を遂げた。
 曰く、銃声のあと銀色に光る人影が「何か」を担いで立ち去った。
 曰く、これまた見慣れぬ風体の男女数名、銀色の影を窺っていた。

などなど。
 神隠しか資産狙いの強盗か、もしくは何らかの抗争かと所説は様々に渦巻き、果ては銀色
の影は宇宙人で大規模なキャトルミューティレーションが発生したというトンデモ学説も飛び出
したが、やがては銀成学園高校での集団昏倒事件に端を発する世界各地での謎の昏倒事件
へと人々の興味は移っていき、目下蝶野邸は話題の外。ただ門扉にキープアウトのテープを
貼られたまましばらく放置されている。
 
 九月三日の銀成市は明け方より快晴であったが、山の手にある蝶野屋敷だけはうっすらと
霧が立ち込めており、道行く者は以前の事件と突き合わせて気味悪そうに遠望していた。

177 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:19:48 ID:jwYa2evW0
 ちなみにここは市街からひときわの高台にあるため、下界からかなりの階段を上らねばキ
ープアウトのテープすら直視できない。
(もっともそんな苦労するのは人間だけだけど)
 蝶野邸の庭に穴が開いた。最初は六角形を模した光線だったそれは一瞬で人一人が通れる
ほどにまで拡大し、亀甲模様を描きながらそれに沿ってブィンと無機質なドア開閉の音をあげ
地下へ通じる穴を開けたのだ。
 出てきたのがヴィクトリアである以上、穴はアンダーグラウンドサーチライトによる物であるコ
トはいうまでもない。
(高台でも地下は地下。地下なら電気を拝借してエレベーターで昇るコトぐらい造作もないわ)
 この武装錬金は地下に変幻自在の亜空間を作り出せるのだ。
 フンと鼻を鳴らしてちょっとした優越感を覚えながら薄い霧にけぶる辺りを見渡す。
 日本庭園。そんな形容がぴったりの場所だ。
 足元には堅い石畳があり、すぐ横には大小様々な灰色の石で縁取られた小さな池と、うっす
ら苔の浮いた石灯籠が並んでいる。視界の彼方には枯山水すら認められた。テニスコートほど
の面積いっぱいに砂利を敷き詰め、そこに一抱えもある奇岩をぽつぽつと点在させる枯山水は
日本人なら多寡問わずわびさびを感じるところだが、欧米人たるヴィクトリアにはどうでもいい。
 むしろその枯山水が接地する瀟洒(しょうしゃ)な建物こそ目を引いた。
 蝶野邸。父・ヴィクターがかつて眠っており、今はヴィクトリアの飢餓を解消する場所。
 だが。
「何ココ。こんなに広いなんて思ってなかったわよ」
 元々釣りあがり気味の瞳を更にキツくして、記憶の中の総角に毒づいた。
 庭を見た時もしやと思っていたが、眼前に広がる屋敷の広大さに確信した。
 ここは広い。しっとりと立ち込める薄霧を差し引いても塀の影すら見えぬ。庭のところどころ
に竹垣はあるがそれは何らかの日本庭園的な様式の区分で設けられているようであり外界
と隔絶する物ではない。
 さればと振り返ってみればますます広大さを痛感しげんなりとした。
 何故ならば寄宿舎の四分の一ぐらいはありそうな蔵が冗談のように林立していたからだ。
 父の痕跡も飢餓解消の施設も、簡単には見つけられそうにない。
 そう悟ったヴィクトリアは鼻白んだ。


178 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:20:35 ID:jwYa2evW0
「さていち早く到着いたしましたのは金髪眩しい白皙のお嬢様っ! うろうろうろ〜と邸内へと
参ります! されどされどそちらは残念ながら不正解……」
 竹垣の影からひょいと飛び出てヴィクトリアの後ろ姿を見た者がいる。
 小学生並に小さな体。頭にはシルクハット。肩の前でちょんとくくったおさげ髪。……小札だ。
「むしろあちらこそ探るべきなのであります。とはいえもりもりさんからは教えてはならぬと申
しつけられておりますゆえ、不肖はただただ機を待つばかり」
 マイク代わりのロッドを口から放して、蔵に目をやる。
「さ、さささて、どうなりますやら……場合によっては不肖も本格的に戦うワケでして」
 どきどきとした緊張が小さな体から漏れる。

 秋水が紫の竹刀袋を忙しく揺らしながら、無限に続くと思われる階段を一気に駆け抜けた。
(この霧……まさか)
 元L・X・Eであり、その盟主と今向かう邸宅の関係を知悉する秋水にとって『霧』なるものが
立ち込めているのはひどく暗示的である。
 事実目を凝らせば霧は自然の霧らしからぬ金属の光をチカチカ瞬かせている──…
(総角)
 いまこういう霧を張れるただ一人の男を秋水は想起し、竹刀袋を握りしめた。
 核鉄を持つ彼が今さら竹刀? いや、竹刀袋は先端が緩やかにしぼみ天に掲げれば布が
だらしなく垂れるであろう。すなわち、袋の全長より短い『何か』が収められている……

 居間、玄関、応接室とひとしきり邸宅をめぐったヴィクトリアは、倦怠感と耐えがたい飢餓も
手伝ってひどく苛立ち始めていた。
 彼女の求める者はまだ見つからない。要するに普通の家屋なのだ。
 いや、正確にいえばあちこち破損しており尋常の物ではない。
 桟も剥き出しに破壊された襖は一つや二つではないし、鋭利な何かで四つに斬られた障子が
部屋の内側に向かって散乱しているのも見た。
 異様といえば異様だが、しかし置かれている物はまるで錬金術の産物とは無縁だ。
 強いて言うならば破壊痕か。凄まじさから見てホムンクルスの仕業といえなくもないが、それ
だけならば「ただの家庭が襲われた」ぐらいの、手がかりにならぬのを含めたあらゆる意味で
ヴィクトリアが嫌悪する普通の家屋だ。

179 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:21:21 ID:jwYa2evW0
 書斎に至っては床の中央にドス黒い血痕が染みついて、すぐ傍では机が引き出しを上に向
けて倒れている。机に乗っていたのだろうか。本や万年筆が散乱し、傘の割れた電気スタン
ドが埃を被っていた。
 結果的に、ココを訪れたコトが収穫に繋がった。
 最初はアルバムを見た。よく似た顔の兄弟の成長記録があった。前髪を奇麗に真ん中で分
けた色白でやせ型の三白眼の兄弟たち。写真の下に添えられた文章によると双子ではなく
一つ年の離れた兄弟だったらしい。しかし兄の方が高校入学したのを機にアルバムは弟の
方しか写さなくなった。
 そして「家督相続決定の記念にて」と注釈ある弟の記念写真を最後にアルバムは一枚の
写真もなくなった。その日付が今年の物だったから、おそらく失踪前最後の写真ではないか?
と思ったヴィクトリアは同時にその弟の顔に少しデジャビュを感じた。
 目や髪、色白の不健康そうな肌はどこかで見たコトがある。
 ただし雰囲気は違う。『どこかで見た』顔はもっと傲岸で自信に満ち満ちていたが、写真の
弟はむしろ劣等感からようやく解放されたという風で弱々しい。
 例えば、そう。途中で消えてしまった兄の方が雰囲気としては近い。
 ひとまずアルバムを逆にめくって兄の写真のある所まで戻り、凝視した。視覚に焼きつかせ
記憶にある近しい顔を探る。
 ヴィクトリアにとって幸いだったのは、百年来女学院で暮らしたコトだ。猫を被って接したの
はほとんどが女子で、男性との出逢いは数少ない。
 更には一般人に無関心であるから記憶に残っている男性というのは十指に限定される。
 すなわち、戦士かホムンクルスか。嫌悪という一種最大の関心に基づく記憶から探ると、凝
視する写真の男と似た者は案外早く見つかった。
「……まさかあの時の蝶々覆面(パピヨンマスク)?」
 古巣たるニュートンアップル女学院で遭遇した怪人のような男。
 顔こそ秘匿されているが前髪と目つきは同じ。身長も同じだ。
 となればである。母・アレキサンドリアは言っていた。彼は錬金術師だと。
 そしてココは彼の住居であったコトは想像に難くない。
(けれど錬金術の痕跡はない。つまりあの男が秘密裏にどこかで行っていたワケね)

180 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:23:27 ID:jwYa2evW0
 が、推論は明確なる所在にはつながらない。すなわち振り出し。
(けど、蝶々覆面のコトを知れば手がかりが見つかるかも……気に入らないけど)
ヴィクトリアが他に本を探そうとすると、足元で軽い衝撃が走った。
 見れば万年筆を蹴ったらしい。机から落ちたままずっとそこにあると思しき万年筆を。
 一瞬見過ごしそうになったヴィクトリアだが、一つ疑問が浮かんだ。
 万年筆はフタを尻につけた状態でそこにある。つまり筆先が露出しているのだ。
(というコトは……)
 机の傍で人の字になって這いつくばる本の背を摘みあげた。
(やっぱり
 日記だ。達筆で日々の事柄が綴られている。もどかしげにページを一気に最初までめくり
あげたが蝶々覆面がアルバムから消えたよりもっと後の日付。彼への記述はなさそうだ。
 もっとも着想を得たヴィクトリアは幻滅するより先に日記の背表紙を見た。
 笑みが浮かんで仕方ない。執筆者の几帳面さに助けられた。
 背表紙には今年何番目の日記かナンバリングが施されている。金箔を押したような煌びや
かな装丁なのはいかにもこの豪邸の持ち主らしくもある。
 素早く背表紙の文字を目に焼き付けて書斎から該当する物を探す。あった。
 一年平均二〜三冊のペースで整然と並んでいる。そこからアルバムから兄の消えた頃の
物を引き抜いて流し読む。
 結論からいえばやはり兄は死んではいない。高校入学と同時に難病を患い、闘病が進みに
つれて徐々に期待が失われていく様が綴られていた。
 そうしてたっぷりの文字を読んだ。実に二年分はあったろう。ヴィクトリアの求める核心があった。

──あいつは時折蔵の中に閉じこもるようになり

 と病気の息子の奇行を嘆く文章にヴィクトリアは直感した。
(蔵の中なら……)
 例えば百年前に父・ヴィクターをしばらく眠らせるコトは可能だったろう。
 同時に錬金術に必要な様々な物を隠しすコトも。
 気づいてしまえば何故初見で気付かなかったのか不思議なぐらいだ。
 ヴィクトリアは立ち上がり、蔵へ向かって歩き出した。


181 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:25:12 ID:4RprDJkA0
 その頃、秋水の駆け上がった階段とは別の、いわゆる裏口の方から密かに蝶野邸へ侵入し
た影があった。
 たおやかな黒髪を腰まで垂らしたその影は、何かを探るようにそろりそろりと霧の中を進んで
いき、ピタと立ち止まった。視線の先には竹垣に隠れて向こうを覗く小さな影──…

 ようやく目的地についたというのに、ヴィクトリアは慄然としていた。
「やはりココに辿り着いたか」
 一体この男はどうして何度振り払い邪険にすれど追ってくるのか。
 むしろ恐怖に近い感情で相手を見たのは、ヴィクトリア自身否定はしているが内心の奥底で
協調したいと願っているからに他ならない。
 早坂秋水は薄暗い蔵の中でヴィクトリアを直視した。手には紫の竹刀袋を持っているが、攻
撃するつもりはなさそうだ。
「少し考えれば分かるコトだった。俺は戦団ではなくこの場所をまず引き合いに出すべきだった」
 何をいっているかは分かっている。ヴィクトリアの糧秣の獲得手段だ。確かに恨み深い戦団
よりはまがりなりにも父と縁のある場所に頼る方がいい。
 されどヴィクトリアは。
 本音をいうより先にアンダーグラウンドサーチライトを展開し、地下へ埋没。
 自分でも煮え切らない、情けない、どうしようもなくつまらない行為だとは分かっている。
 けれど対話を避けねばそれまでしがみついていた物が何もかも無駄になるような気がして
逃走を選ばざるを得なかった。
 
 一体どれだけの距離を埋没しただろうか。
 息せきながら天井を見上げ、全身全霊でここに通じる穴を封鎖する。
 もはや外界から隔絶された亜空間の完成だ。煉瓦造りの六角通路に佇む心持は鉛を飲んだ
ような重苦しさがある。だから秋水を振り払ったという事実を務めて忘れようとした。
 だが。
 武装錬金を使うが故の一種研ぎ澄まされた感覚が、異様な感覚を捉えた。
 それは地上から轟々と沈み、確かに向かってくる。今まで感じたコトもない現象。
 やがて。
 ヴィクトリアは息を潜めてその光景を見た。
 防護に徹すれば何者もの侵入を許さぬ、現に百年の長きにわたり母を外敵から完全守護
した地下深淵の避難豪。

182 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:26:09 ID:4RprDJkA0
 それがいま、強制的な力で開けられている。
 かつて千歳に開けられたコトはある。だがそれは千歳の探査能力を差し引いてもある程度
までは地下に彼女を容れるコトを良しとする母の意思あらばこそヴィクトリアも妥協した。
 だが今!
 完全に断固たる思いで閉じた筈の空間が、稲光と共に裂け──…
 秋水が現れた。よほど無理な手段を講じたらしい。侵入と共に彼の右頬が張り裂け、長い羽
毛のような血しぶきをあげたのだから。
「一体どうして……」
「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」
 秋水の右手で鈍い金に光るのが『忍者刀』とはヴィクトリアには分からない。

 ……先ほど秋水のいた場所には。
 彼の名前を刺繍した紫の竹刀袋が無造作に打ち捨てられていた。
 秋水はそれをヴィクトリアが沈むなり抜きはらい、シークレットトレイルで地面を斬った。刀を
袋で覆っていたのは病院からの道すがら、人目をはばかればこそ。
 亜空間への退避を得意とするヴィクトリア。だが追跡はまるで不可能ではない。
「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」
 秋水が語るようにシークレットトレイルを用いれば亜空間への没入は可能。が、その際は本
来なれば根来のDNAを含む物体以外の透過は決して許さない。
 では秋水は何故地下へ行けたか? その秘密は彼が身に纏う真新しい学生服にある。
 根来はシークレットトレイルを渡しながらいった。
「使え。貴殿の衣装はすでに対応済みだ」
 それで秋水は察した。根来が自らの着衣にそうしているように、学生服にも根来の毛髪が
編み込まれていると。
 この一時を見るにおそらく防人と根来、そして千歳は秋水の思惑を知っているようだがそれ
はまた別の話だ。
 ともかくも彼はシークレットトレイルで地下へ行った。到達の際に頬から血しぶきが走ったの
は追跡に気を取られたゆえの失策だろう。
 根来ならばこういう。「顔を学生服で包まぬからそうなる」と。
 だが秋水は良くも悪くも生来の気質ゆえに、一刻も早い追跡ばかりに気をとられ、余裕を持
てなかった。下手をすれば頭蓋だけ亜空間の拒絶で吹き飛んだかも知れぬのに。


183 :永遠の扉:2008/03/22(土) 01:26:53 ID:4RprDJkA0
 慄いたヴィクトリアだが、すぐに冷たい目線で断固たる抗議を送った。
「私が聴いているのは手段の話じゃないわ。理由。どうして私につきまとうの? あなたは戦士。
私はホムンクルス。そこまでして……つきまとう必要なんてないじゃない。何の得になるのよ」
 もはや悲鳴に近い声だ。
 秋水の頬から流れる血に眼が吸いつけられて、それに対して人間らしい感情が沸き起こるの
がどうしてもどうしても不可解で許しがたい。
「前にもいった」
 秋水は頬の血を拭おうともせず、答えた。
「君が人を殺すとはどうしても思えない。だからだ」

 時は前後する。秋水、そしてヴィクトリアが蔵に入るのを見た者たちがいる。
「むむ。これで計画の第一段階に突入!」
 小札は竹垣の影からひょいと出てツカツカと蔵へと近づいた。
「あとはひと段落つきしだい、不肖のマシンガンシャッフルで秋水どのを捉えるのみ!」
「なるほどね。総角クンからあなたが命じられているのはそれだったのね」
「ハイ! 正にその……きゅうっ!?」
 小札は咄嗟に身をよじった。同時にそこまでいた場所に何かが刺さり、慄然とした。
 矢だ。羽のない西洋の。
「……え、矢……! 矢ぁ!? というコトはココに来てまさかまさかのご登場っ!?」
「昨日の夜、念のため学校の屋上を御前様に監視させておいて正解だったわ。おかげであな
たちが何かを企んでるって分かったもの」
 小札は見た。霧の中、アーチェリーを左手に装備した麗らかな女性が歩いてくるのを。ついで
にその肩の上には二頭身で不格好な自動人形がふわふわ浮いているのも見た。
「よーロバ女! ……ってオマエ相変わらず貧相だな。桜花と同い年なのに」
 御前が気の毒そうにいい、桜花は無言で微笑した。テストで満点取った秀才が追試受ける
人間に「頑張ってね」と呼びかけるような余裕の笑みだ。
 すらりとした長身に豊かさを湛えながらもシルエットは細い桜花だ。モデル体型だ。
「う、うぅ。それは言わぬお約束……」
 まったく身長が低くて少年よりも未発達で足もマッチ棒みたいな小札はしゅんとした。

184 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/22(土) 01:27:21 ID:4RprDJkA0
「なぜに同じ十八歳でありながらこうも格差あるのでしょーか……い、いやそれはさておき」
 小札は八メートルほど先にいる桜花にロッドをそろりと突き出した。
「戦闘回避の余地を求めていんたびゅー。物見遊山でありますか? あって欲しいのですが」
 桜花の眼光が俄かに鋭くなった。
「今頃秋水クンは大事な説得の真っ最中。うまくいくかはまだ分からないけど、少なくても終わっ
た後、あなたたちの目論みに利用されるのだけは許せない。秋水クンへの侮辱だから」
 脛に傷持つ小札だからぐうの音も出ない。説得のセッティングは彼女の中では一番平穏な
解決のために考えた手段だが、突き詰めれば下心ありきなのは否定できない。
「もっとも総角クンが企みを回避するというのなら私も退きますけど、それは無理でしょ?」
「う、正にその通り……ゆえに不肖も退けぬワケで……」
 桜花が矢を放つと同時に小札のマシンガンシャッフルが霧を散らした。

以下、あとがき。
最近マロン板の忍法帖最強決定巴戦スレで、虫篭右陣が評価されていて嬉しい限り。
あ、虫篭は忍びの卍って作品に出てくる根来忍者です。デブでスケベでだらしないのに大活躍。
忍法帖でナンバーワンの根来忍者かも。

>>172さん
剛太は斗貴子さんラブのカタマリですからね。一向になびく様子がないのが清々しいw
でも揺らぐぐらいはあってもいい。葛藤は男女問わず萌えますから。
桜花と剛太とは逆に千歳根来は結構盤石なので安心して描けますね。

>>173さん
信玄忍法帖読みたてなのでついついw それにしても忍法帖は美文で憧れます。
そんな調子で組み伏せられてあたふたするまひろを描いてみました。
触るのに慣れていても触られるのには慣れてないってのは王道じゃないでしょうか。

>>174さん
ニコ動に上げた動画に「武装錬金は戦闘よりラブコメ描写が秀逸」てなコメントがありましたが、
ああ、そうだなあと。描いて実感してますが、恋愛映えするキャラばかりなのですよ。されどさ
れどやっぱりうまいかどうかは別として、理詰めな戦いが描きたかったりw

185 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 01:35:40 ID:htgjwKf20
連投乙です
可愛いけど色気も邪気もない小札と
美人だけどドス黒い桜花はいい比較だ

186 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:15:02 ID:cV/gRCUMO
 かつて、海の向こうからやってきた白人の山師が、およそ24$という馬鹿みたいな安値でネイティブアメリカンから買い取った土地――マンハッタン島。
 白人どもは途方もない努力と犠牲を払い、その24$相当の荒野に血と汗とフロンティア精神による煉瓦を積み上げた。
 そして――やがてそれは、世界を支配する史上類を見ない巨大な帝国の本拠地となり、ありとあらゆる社会的ダイナミズムの中枢となる。
 その価値と、そこに至るまでの年月は、そもそもの土地の対価である24$を年七分複利で回した場合に匹敵すると言われている。
 たゆまぬ向上心と狂気じみた熱意と、不寛容な正義と洗練された拝金主義、他人が流す血への思いやりと侵略行為に対するにこやかな熱心さ、
どこまでも純粋な使命感と常に人柱を求める残酷さ、世界の心臓たらんとする集団ヒステリーじみたメサイア・コンプレックス――
 そうした諸々の自走性と、そこに生じる既得権益と怠惰の力学によって血に染まった煉瓦がうずたかく積み上げられ、
そして今なお現在進行形で煉瓦を積み続ける、様々な人種と様々なキ印の坩堝となった驚異の島(ワンダーランド)――ニューヨーク、マンハッタン島。
 そんな不思議の国(ワンダーランド)に通じるか細い穴――公式には存在しないはずの地下鉄トンネルを、レッドとセピアはひた走っていた。
 太陽の光は決して届かない地の底で、頼りない非常灯が等間隔に並ぶなかを、まるでなにかに追い掛けられているような懸命さで駆けている。
「はあっ……はあっ……!」
 ときおり脚をもつれさせ、苦しそうに喉を喘がせながら、ワンピースの裾を翻して前方を走るレッドに追い縋るセピア。
 そのレッドも、速度はともかく覚束ない足取りはセピアと大差ない。
 レッドの右大腿部にきつく巻かれた包帯からはじくじく血が染み出しており、
それ以上にぐるぐる巻きにされている左肩は夥しい血に濡れ、肩口を必死になって右手で抑えていた。
「あっ!」
 小さな叫びとともに、セピアの身体が地面に投げ出された。
「もうダメ……走れない」
「ふざけんな、立てよ。こんなとこでぐずぐずしてたら、あのニンジャ野郎に追い付かれるだろーが。
あんたが虚弱だからって相手は待ってくれないんだぜ。どうせなら逃げ延びてから死ね」
 叱咤というよりは暴言に近いレッドの言葉にも、セピアは力無く首を振る。
「無理よ……わたしのことは置いていって」
 その投げやりな感じと疲労と諦めの入り交じった答えに、ついイラっときた。
「おい――」
「レッドだけでも逃げて……わたし、きっと、またあなたの足を引っ張っちゃうから」
 二人の前後、来しな方と行きし方には奈落の深淵を思わせる暗黒がぽっかりと口を開けている。
 自分たちはどこから来たのか――そしてどこへ行こうというのか。
 二人が来た方向に茫漠とした視線を投げる。
 ――本当に、どこへ行こうとしているのだろう?
 あの怪物――ARMSすら凌駕する戦闘能力の持ち主から逃げおおせることなど、自分たちに可能なのだろうか?

187 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:19:38 ID:cV/gRCUMO
「……正気か? 組織掛かりでこんな小娘一人を攫おうとしてんのか、てめーら。なにが目的だ?」
「私は日本に妻子を残してきていてね」
「……なんだって?」
「妻と息子だよ、キース・レッドくん。我が子のために、出来ることはしておこうという親心さ。それが動機だ。目的は、そう――」
 そこで僅かに言葉を切り、
「『プログラム・ジャバウォック』」
 と、レッドにとってまるで意味不明の単語を口にする。
「もはや、その悪魔の運命(プログラム)は逃れがたいものになりつつある――
全てが手遅れになるまえに、我々はその概要(プログラム)について知らなければならない。
そのために必要なのが、『タイ・マスク文書』であり――或いはキース・セピアくんであるということだ」
 いきなり両腕に強烈な痺れを感じる。
 その原因は考えるまでもなく、背後のセピアが持つARMS『モックタートル』が発動したことによる共振現象だった。
 レッドのARMS『グリフォン』が教えてくれる――その共鳴に乗って流れ込んでくる感情の『意味』。
 それは恐怖、不安、悲哀、そして――澱んだ憎悪。
(なんだ、この感情は――?)
 そして、そして――レッドがいまだ知らぬ、ために『グリフォン』が意味的に処理することの出来なかった、
ある名状しがたい空恐ろしい『なにか』……『なにか』という感情。
 レッドにはそれが理解できぬまま、
 聞こえる――沈黙の天使の声無き囁きが。
『野心……動揺……醜怪……愚弄……』
 感情そのものとは乖離した、思考言語に相似した情報がセピアから伝わってくる。
 それは『モックタートル』が――情報制御用ARMSが奏でる、高度に配列されて意味論的に展開された電子の囁きだった。
 だがそのセピアから流れ込む悪感情も意味不明の単語の羅列も、すぐに消えてなくなり、『モックタートル』の共振現象は沈静した。
 まるで、うっかり本心を漏らしてしまったセピアが慌てて気持ちに蓋をしたかのように。
 そんな水面下に起こった小さな異変など知るべくもなく、ニンジャ野郎は言葉を続けていた。
「おそらく君は、彼女の本当の価値をまだ知らない。だから忠告しておこう。
もし君が真に『プログラム・ジャバウォック』からの、ひいては『ARMS計画(プロジェクト・アームズ)』からの自由を求めるなら――
決して彼女を手放してはならない。その意味では、この取引は君に取っても有益なことだ」

188 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:22:18 ID:cV/gRCUMO
「ごちゃごちゃうるせーんだよ、タコ」
 レッドの両腕に内蔵されたアドバンスドARMS『グリフォン』のコアを解放――
そこに宿るナノマシン兵器群が擬態を解除し、戦闘形態へ。
「……交渉は決裂かな?」
「当たり前だ。てめーの口車に乗るほどおめでたい頭してねえんだよ、オレは」
 『ブルーメン』、『タイ・マスク文書』、『プログラム・ジャバウォック』――そして、それらの言葉に対するセピアの反応。
そのどれもこれもがレッドの理解を超えていたが、たったひとつだけ確かなことがあった。
 それは――こいつの態度が気に食わない、ということだった。
 その「なんでも知っている」と言いたげな余裕たっぷりの言動が、
レッドの知らぬ諸々を――セピアの本当の姿を知っていると匂わせる口ぶりが、彼を猛烈に不快にさせていた。
「てめーが何者かは知らねーが、よ……すぐに吐かせてやるぜ。洗いざらいなにもかもな」
「そうか……では、やっみせてくれ」
「言われるまでもねえ!」 叫び、レッドは腕を振り上げて地面を蹴った。
 目に見えるか見えないかの微細な震動によって殺傷力が大幅に強化された『グリフォン』のブレードが、ニンジャ姿の男へと殺到する。
「――甘いな」
 超震動のブレードが喉元に届こうとする直前、男はそう小さく呟いて、いとも簡単にするりとそれをかわした。
 レッドのブレードは虚しく宙を切り、勢い余ったのとすれ違いざまに背中を突き飛ばされたので前につんのめる。
 倒れそうになるが脚を踏ん張って持ちこたえ、振り返りながら再度の攻撃。
 ニンジャ野郎の死角から繰り出したはずだが、彼は背中にも目がついているのか、『グリフォン』の切っ先を冗談みたいな紙一重の間隙を挟んで回避する。
「このっ……!」
 あらゆる分子結合に干渉し、触れるもの全てを分かつ『グリフォン』の腕――届かない。相手の息吹すら感じる距離にあってすらも。
「君の攻撃は『実』に頼りすぎだ。『虚』を知らねば『実』もまた死ぬ」
 まるで稽古をつけられているような風情。だが、
「伏せて!」
 セピアが叫ぶのと、眉間のあたりに強烈な殺気を感じるのがほぼ同時だった。
 反射的に身を屈めたその頭上を、男の手から放たれたクナイが通り過ぎ、
そしてほんの僅かなタイムラグを経て、背負った刀が抜かれて一閃する。
 セピアの声が無ければ初撃のクナイを避けた瞬間を狙われていたであろう、容赦のない連撃だった。
 それをかわしきったことでさしものニンジャ野郎にも隙が生まれ、だがレッドにも有効打を与えられる態勢に無く、
両者の思惑が一致する帰結点――互いに後退し、距離を取る。

189 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:24:36 ID:cV/gRCUMO
「かわされた、か……」
 男の感心したようなつぶやき。
 セピアへの奇襲を警戒するレッドは、彼女を庇うような位置を取る。
「――セピア!」
「うん」
 駆け寄るセピアが虚空に手を差し延べ、その胸元からはARMSの発動を示す幾何学紋様が淡い輝きとともに這い上る。
 刹那、沈黙が地底を支配し、
「――オレに力を!」
 その声に応え、『ニーベルングの指輪』の全能力を注ぎ込まれたことで爆発的な加速度で放たれた。
『グリフォン』の超音速の波動がトンネル内を縦横無尽に駆け巡る。
 振動を操るARMS『グリフォン』にのみ可能な、不可視の超震動攻撃――
媒体たる『空気』がこの世に満ちている限りは、何者も回避不可能な幻獣の雄叫び。
 だが――、
 そいつは、いとも簡単に、それこそ目に見える攻撃を避けるように、実に造作なくレッドの攻撃の『盲点』――
狭いトンネルに反響する振動が干渉しあい、最も威力が弱まる三次元的ポイントにその身を滑り込ませた。
「なに――」
 その『安全地帯』の存在はレッドも知悉していた。
 その上で、一度の攻撃につき必ず数箇所発生する『安全地帯』に自分とその周囲が含まれるように調整した攻撃を放っている。
 だからこそ、レッドは己の攻撃で我が身を傷つけることなく戦えるのだ。
 だがそれは、攻撃の使い手であるレッドにしか把握出来ないはずで、
『空気』という見えない媒体を伝わる『グリフォン』の超震動を回避するすべなど――、
「『風』だよ、キース・レッドくん。
この目に見えなくとも、肌に感じる流れが君の攻撃を教えてくれるのだ――その『力』の及ばぬ場所すらも」
 馬鹿な、と叫びかえしたかった。
 そんな有り得ない方法で、『グリフォン』の放つ破壊的なバイブレーションを見切れるはずがない。
 そんなレッドの願望じみた否定を打ち消すように、そいつは流動的に変化する『安全地帯』を飛び石の如く渡り歩きながら接近してくる。
「セピア! 出力を上げろ! もっと――もっとオレに力をよこせ!」
 こうなっては打開策はたったひとつ、点在する『安全地帯』をすべて消滅させる大規模な震動攻撃――
周囲の空間を敵意で満たし、我が身もろともに敵を粉砕させんとする、文字通りに捨て身の――、

190 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:53:57 ID:cV/gRCUMO
(――――っ!)
 唐突に思い出す。側にセピアがいることを。
 このまま大規模な攻撃を実行したら、レッド自身や敵のニンジャ野郎とともにセピアまでをも巻き込んでしまう。
 構うものか、やってしまえ――レッドの本能がそう告げる他方で、自分でも理解できない部分がその意志に拮抗し、
その二重背理の板挟みにあったレッドの身体が固まった瞬間――
 どかっ、という重い音がして、レッドの腿に飛来したクナイが突き刺さった。
 その衝撃がレッドの硬直を解くが、その頃にはニンジャ野郎が一足飛びで懐に迫っていた。
 レッドは後ずさった。後ずさったのだと思う。
 一瞬、なにが起こったのか分からなかった。
 いやに左肩が軽いのでそちらに目をやると――なにもなかった。
 本来あるべきの、レッドの左腕すらも。
「ぐうっ……!」
 遅れてやってきた仮借ない激痛に脳をやかれながら、それでも理解する。
 『グリフォン』のナノマシン侵食が及んでいない生体部位を狙われ、ニンジャ野郎に左腕を切り落とされたのだと。
 膝がくずおれる。そう言えば右足にも深手を負ったのだと他人事のように思った。
 ダメージのショックによって精神が遊離しつつある――分かっているが、思考にかかる靄が振り払えない。
 定まらぬ視線を持ち上げる。
 闇に煌めく刃が、今まさに振り下ろされようとしているのが見えた。
 目前に迫る死に抗うすべは――思い浮かばなかった。
「いやあああぁぁっ!!」
 金切り声に近いようなセピアの絶叫がトンネル内に響き――
まるでその声に呼応したかのように、ニンジャ野郎の手にした刀がパリンと砕けた。
 用を成さなくなった武器を訝しみ、男が微かに眉を寄せてセピアを見る。その視線につられ、レッドもそちらに首を巡らせた。
「う、うああ……」
 普段は愛くるしさに満ちている面差しが怯えと恐慌に歪み、
胸の辺りで手を固く握り締めるセピアが、凄惨なまでの切実さでこちらを凝視していた。
 今もレッドの首根っこをがっちり押さえ込む男は、腰に差したクナイに軽く手を触れ、
いつでもとどめを刺せる態勢を保持した状態のまま、ゆっくりとセピアとレッドを見比べている。
 これから振り下ろそうとしている刃の行き先を――これから奪おうとしている命の価値を見定めるように。
「や、やめ――」
 やめて、とセピアは言おうとしたのだろうか。

191 :ヴィクティム・レッド:2008/03/22(土) 11:59:17 ID:cV/gRCUMO
 その言葉の全てが顕れる前に、彼女の目から意志のある色がいきなり消失した。
 だらん、と糸の切れた人形のように腕が両脇に垂れ、直立姿勢を保てなくなって身体がゆらゆら左右に揺れる。
 表情も一変した。つい数秒前の切羽詰まった感じとは似ても似つかない、それこそ別人のような、のっぺりとした無表情に。
 恐れも怒りも悲しみも見出だせない、まるで感情の無風地帯にあるようで――、
 そうでなければ、レッドの知らない『なにか』の感情がセピアの顔面に漲っているようだった。
「最初に……」
 この世ならざる幽鬼のような風情で立つセピアが、虚ろそのものといった目つきで、ぼそぼそと何事かを呟きはじめた。
「最初に学ぶのは……這い方……悶え方……」
 ドクン。
 なんの前触れもないまま、レッドの内部で『なにか』が跳ね上がる。
 身体に瘧のような震えを感じた。いつの間にか、あらゆる痛みがレッドから霧散しており、代わりに正体不明の内圧が込み上げる。
「その次は……四則演算……」
 身体中を駆け巡る震えはなおも強まり、ついには体外へ伝播する――トンネルの隔壁が、敷設されたレールが、がちがちと騒がしく踊りだす。
 レッドにも、そしてニンジャ野郎にも発すべき言葉が無かった。
 セピア一人だけが、熱に浮かされているような平淡な調子で訳の分からないことを囁き続けている。
 セピアの肌に浮かぶ幾何学紋様が、彼女の全身隅々めで行き渡り、呪術的なメイクを施した異邦の巫女のような相を呈している。

「野心……動揺……醜怪……愚弄……」
 セピアの放つ言霊に触発されるように、離れたところに落ちていたレッドの左腕までもが自律的な振動を始め、地面に蜘蛛の巣の如き亀裂を刻む。
 レッドは思い至る。『四則演算』――支離滅裂と思われたセピアの言葉の意味に。
『野心(Ambition)』、『動揺(Distraction)』、『醜怪(Uglification)』、『愚弄(Derision)』――
『加算(Addition)』、『減算(Subtraction)』、『乗算(Multiplication)』、『除算(Division)』――
 『言葉遊び』だ。
 最初に言った『這い方(Reeling)』、『悶え方(Writhing)』というのも、
『読み方(Reading)』『書き方(Writing)』のもじりだろう。
 続けて思い出す。それらの言葉遊びは、ルイス・キャロル作『不思議の国のアリス』において、
怪獣『グリフォン』とグルになってアリスをからかう仔牛ちゃん『代用海ガメ(モックタートル)』が述べたてた駄洒落だということを――。
 レッドの身も心も揺るがすビートはなおも強まり、今やトンネル全体をも激しく揺さ振っていた。
 『なにか』が起ころうとしていた。
 きっととんでもなく恐ろしくて、取り返しのつかないであろう『なにか』が。

192 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 11:59:55 ID:HEk738T+0
ここで一区切りかな?
ハロイさん携帯なのにものすごいクオリティと分量だ。
レッドがセピアのナイトに見えますな
いずれナイトに殺されるのにw
忍者野郎をぶっとばすレッドに期待

193 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 12:13:46 ID:HEk738T+0
まだ>>191があったんですな
しかも一番今回で重要っぽい
何かが発動して、セピアが死んでしまいそうだ

しかし四則計算をもじったりとか、よく思いつくなあ

194 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/03/22(土) 13:04:13 ID:cV/gRCUMO
やっぱ携帯めんどいすわ。
ではまたいつか。

195 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 13:45:26 ID:R0MIMuki0
>スターダストさん
桜花、ヴィクトリア、千歳、小札と華々しい女性キャラたちですが
お話は少し暗雲立ち込めている感じですね。根来の活躍は見ものです。

>ハロイさん
セピアの元気が暗くなりがちなお話を明るくしていたのですが
どうやら彼女には過酷な運命しか待ってないようで辛い。レッドも苦しみそう。


忍者かぶりですなあw

196 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 13:58:22 ID:cV/gRCUMO
 
 ――話は遡る。
「どうだね――取引といかないかな?」
 『単身赴任のサラリーマン』を自称するがどちらかというと現代風ニンジャのような『そいつ』は、そうレッドに切り出した。
「――取引だあ?」
「そう、私の狙いは君がたった今破壊した列車の積み荷――いや、荷と言う程のものでもない。
『タイ・マスク文書』とも呼ばれる――ある書類だ。それを私に渡してもらえると、すごく助かるのだが」
 うっかり「オレたちが運んでいたブツは書類なのか?」と問い返しそうになり、すんでのところで言葉を飲み込む。
 荷の護衛役より、強盗のほうがその中身に詳しいとは――ふざけているとしか言いようがない。
 キース・ブラックによる情報の出し惜しみも、ここまでくると明確な悪意を感じる。
「――馬鹿か? オレたちにはなんのメリットもないじゃねーか」
「そうでもないさ。――そちらのお嬢さんを見逃すと言ったら?」
 ニンジャ野郎の提示した条件に自分の身の安全が含まれていないことに、レッドは違和感を覚える。
 別に命乞いをしたいわけでは全然ないが、その言い草は――?
「――オレを殺すのは確定なのか? てめえは、その書類とやらの他に、そういう任務も帯びているってことか?」
 男は微かに首を振ったようだった。
 こいつの黒装束は周囲の闇にほとんど溶け込んでおり、ちょっとでも集中を切らすとたちまちに姿を見失いそうな気がする。
「違うな――その逆さ、キース・レッドくん。
今回の私の狙いには含まれていないが、私の友人はそちらのお嬢さん――キース・セピアくんの身柄を保護したいと考えている」
 その言葉でレッドの脳裏に想起されるもの――セピアと初めて出会った任務――反エグリゴリ組織に誘拐されたセピア、その奪還。
 後にキース・バイオレットに教えられたところによれば、その組織の名は――、
「てめー、『ブルーメン』っていうのの手先か!」
「ふふ、『手先』とは良かったな。
確かに、私は『彼』の手となり足となり働くこともある――『彼』は少々手足が不自由なのでね」
 猪突未遂しかけたレッドを引き止めてからこっち、真横に並んでいたはずのセピアが、いつの間にか再び自分の後ろにいるのを発見する。
 セピアがレッドの陰に隠れたのか、それともレッドがセピアを背後に庇ったのか――それはレッド自身にも判然としなかった。
 ただ、控え目に、それでいて精一杯の力でレッドの服の裾を掴んでいるのは感覚できた。
 これがもうちょっと弛緩した場面だったら、セピアに「服が伸びる」と文句を付けていたかも知れなかった。

197 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/03/22(土) 14:02:13 ID:cV/gRCUMO
>>196>>186>>187の間へ。

油断してたらレス異次元転送くらってました。
読み返したら一目瞭然で話が飛んでましたね。気付けよ俺。

198 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 14:41:16 ID:R0MIMuki0
やはりですか
なんかちょっとしっくりこなかった

199 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 19:42:30 ID:zKxO/C/u0
武神不滅。だって・・・・・・いつぞやの左ジャブの精霊みたいなオチになったら、やばいだろう。
この世から武が無くなってたら、独歩はタイガーバームの宣伝をするだけの身体障害者に過ぎなくなってる。
もしくは、空手はスポーツや芸能になってて武の要素がゼロになってる。
勇次郎とかシケーズでも、何らかのダメダメな変化があるはず。
それじゃ加藤が帰ってもどうしようもなくなるだろう。
精鋭とかも、加藤が見捨てた時点でそれぞれ、何らかの無能人間に堕ちてる。
だから、武神は不滅じゃなきゃおかしい。
もちろん、武神を斃すべくチェーンソー等で挑んでくる馬鹿は後を絶たないだろう。
だが、それがいい。

200 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 22:03:46 ID:dZ8mPAsE0
携帯でここまで書き込めるのか…。ハロイ氏恐るべし。
でも話が陰惨な方向に行きそうだな。
設定的に原作の前だから、やはりセピアには不幸な結末しかないんだろうけど
なんとか救いのある展開にしてほしい。
あと、ネウロとシュガーソウルもお願いしますw

201 :作者の都合により名無しです:2008/03/22(土) 23:22:58 ID:htgjwKf20
乙ですハロイさん
どうやら忍者というのはあの史上最強のサラリーマンですかな
反則キャラ出陣でレッドとセピアの運命がどう変わるか楽しみ

202 :作者の都合により名無しです:2008/03/23(日) 01:46:36 ID:OqRG8u2S0
・スターダストさん
すべての始まりの場所からまた物語が展開していくようですね。
幼児体型の小札とモデル体型の桜花やり取りはいい感じだけど
小札って上手く戦えるんですかね。

・ハロイさん
やっぱり巌は強いな。でもレッドも意外と善戦しましたな。
巌はぜんぜん本気ではないんでしょうけど。
モックタートルもちゃんとアリスからの出展ですか?


しかしスターダスト氏といいハロイ氏といい、物知りだな。

203 :作者の都合により名無しです:2008/03/23(日) 18:45:40 ID:bzaO9rrz0
ふらーりさん本当にこないな


204 :作者の都合により名無しです:2008/03/24(月) 08:56:27 ID:xrGGKkd+0
最強サラリーマンキターーー

ところでハロイさん、ハロイさんのサイト名の
「廿日鼠」ってなんて読むんですか?
俺の勘だとアルマジロかハリネズミだけど、あってます?

205 :作者の都合により名無しです:2008/03/24(月) 09:16:23 ID:yucPubXR0
>>204
「はつかねずみ」

206 :作者の都合により名無しです:2008/03/24(月) 12:47:00 ID:FVR3ayfl0
ハリネズミはともかくアルマジロはねーだろw



207 :作者の都合により名無しです:2008/03/24(月) 13:26:52 ID:Yco86LsM0
ぎゅうううううううううううううううううううん

208 :作者の都合により名無しです:2008/03/24(月) 18:18:14 ID:xrGGKkd+0
>>205
どうもご親切にありがとう!
ひょっとしてハロイさん本人かな?

>>206
市ね

209 :作者の都合により名無しです:2008/03/25(火) 13:56:51 ID:uM17He420
井上のSM地獄は?

210 :作者の都合により名無しです:2008/03/25(火) 17:07:24 ID:f06kwvAq0
ふら〜りさんの感想がないとイマイチしまらんな
あの人の感想はそれだけで読み物として好きだった
ふら〜りさんのSSはまったく読んだ事がないが

211 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:45:42 ID:rTj/54wqO
 地下鉄トンネル内を揺るがす地震はなおも強まっていた。
 それは明らかにトンネルの耐久震度を上回りつつあり、いつ崩壊してその場の全員もろともに生き埋めになってもおかしくなかった。
 震源たるレッドのARMS『グリフォン』は、完全にレッドの統制から離れてさらにバイブレーションを増加させている。
(これが……セピアの『モックタートル』の真の力なのか?)
 『ニーベルングの指輪』――他者のARMS機能を強化・加速する能力。
 だが今目の前で起こっていることは、そんな生易しいものではなかった。
 もはやレッドの意志など関係なく、『グリフォン』の超振動は暴虐の限りを尽くしている。
 それはまるで、『モックタートル』が『グリフォン』の暴走を促している――いや、
(他者のARMSを『我が物とする』……それが、『モックタートル』の本当の――?)
「謎(Mystery)……」
 『歴史(History)』。
 地鳴りの隙間を縫ってその言葉が響くと同時に、一陣の風に吹かれて散らばる砂の像のように、
セピアの肉体がさあっと分解され――跡形も無く消え失せた。
 持ち主を失った萌黄色のワンピースがすとんと地面に落ちる。
「セピア!?」
 ニンジャ野郎に押さえ付けられている身をよじり、レッドは辺りに視線を走らせる――どこにもいない。
 だが、レッドは今もなおセピアの共振波を強力に感覚していたし、
「古代の謎と……現代の謎……それから海洋学(Seaography)……」
 『地理(Geography)』。
 『言葉遊び』はまだ続いていた。
「拡散されたナノマシンによる結界……これが彼女のARMSの『最終形態』なのか?」
 頭上からそんな声が降ってくる。
「どういうことだ、ニンジャ野郎!」
「さあね、私にとってもARMSとは未知数の代物だ。ただの推測に過ぎないよ」
「クソが……いつまでオレに乗っかってんだ、どきやがれ! そんな場合じゃねえだろうが!」
「そういうわけにもいかないさ。君のARMSがこの地震の直接の原因なのは間違いないのだからね。
このまま致命的な状況に移行するようなら、まず君のARMSのコアチップを破壊する」
 どうすればいい? とレッドは自問する。
 この異常な状態を抑制しようにも、『グリフォン』はレッドの制御から乖離しており、
しかも大元から止めようにも、止めるべきセピアの姿がどこにもない。

212 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:47:38 ID:rTj/54wqO
「話術(Drawling)の先生はアナゴのおじいさん……」
 『絵画(Drawing)』。
 その瞬間、『モックタートル』の共振が途絶えた。
 地鳴りを伴う激震もぴたりとやみ、トンネル内は耳の痛むほどの静けさを取り戻す。
 だがそれはほんの一瞬に訪れた、嵐の前の静けさにも似たようなもので、
「先生がわたしに教えてくれたのは……」
 レッドの身体に微細な『なにか』が雨のように降り注いだ。
 決して視覚で捕捉できない微粒子――それはセピアそのものである無限のナノマシン群だった。
 矢のように突き刺さってレッドの皮下に侵入するそれらは、わずかな痛痒と凄まじい共振をレッドに与えつつ、
相互に結合し連絡し連結し――瞬く間に体内で一個のネットワークを形成する。
 それが呼び覚ました『もの』に――レッドはすぐに気付く。
「ぐああああ……っ!」
 それはまるで人面疽だった。
 体内で構築された『モックタートル』のネットワークに刺激され、爆発的な形態変化を開始した『グリフォン』と、その急激なメタモルフォーゼに
耐え兼ねた生体部分とが反発を起こした結果、ナノマシン群の形成する怪物がレッドの身体から『生えて』いた。
「――いかん!」
 目つきを鋭く尖らせ、ニンジャ野郎がクナイを突き立てる――が、
服を突き破って膨脹する『グリフォン』はそれを難無く受け止め、捕らえ、飲み込み、分子レベルで分解して取り込んでしまう。
 もはや誰にも止めようがなかった。
 レッドを蝕む『グリフォン』は徐々に支配領域を拡大し、間もなく主従を逆転させ――、レッド自身を吸収しようとしていた。
『身体を伸ばすやり方(Stretching)……』
 その言葉遊びは、今やレッドの精神に直接語りかけている。
 ――写生(Skething)。
 意識が遠のく。
 増殖する『グリフォン』に身体の自由を奪われ、そして、心に響く声がレッドの自由意志をも眠らせようとしていた。
 その一方で、レッドは感じていた。
 『グリフォン』の右腕に、いまだかつてないほどのエネルギーが集中しているのを。
 その全てが振動と置き換わって解放されたら、いったいどれだけの大惨事が引き起こされるのだろうか。
 少なくとも周囲一帯は跡形もなく粉砕されるだろう。
 ――レッド自身と、『グリフォン』の内部に浸透したセピアもろともに。

213 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:49:36 ID:rTj/54wqO
『……とぐろを巻いて気絶するやり方(Fainting in Coils)』
 ――油彩(Painting in Oils)。
 『グリフォン』の右腕に凝縮するエネルギーが臨界を迎える寸前――レッドの意識がホワイトアウトする寸前――、
レッドの脳裏に幾つかのイメージが次々と浮かんでは消えた。
 それは走馬灯というのとは全く違っていて、これまでレッドが見たことも聞いたこともないものだった。


 部屋の片隅にうずくまってめそめそ泣いている少女。
 炎の海のなかで立ちすくみ、途方に暮れたように視線を泳がせる少女。
 少女に呼び掛ける、誰かの声――「お前は出来損ないだ」
 腕に何本もの点滴を流し込まれ、ベッドの上からぽつねんと病室の窓を眺める少女。
 少女に呼び掛ける、誰かの声――「泣かないで……この指輪をあげるから……これは金無垢なんだ……幸運のお守りだよ」
 ガラス窓の向こうから少女を観察する白衣の大人たち。
 少女に呼び掛ける、誰かの声――「これより実験を開始する」
 死にかけのARMS実験体――壊れた石像のように崩落させていくそいつの身体を、半狂乱じみた手つきで繋ぎとめようとしている少女。


 恐れも怒りも悲しみもない、感情の無風地帯にあるような虚ろな表情で、小さく囁く少女。
『死んじゃえ……みんな死んじゃえ……』


 消えかけていたレッドの意識が覚醒した。
 呪詛を囁く少女の声――間違いなくセピアのものだった。
 地底全体を飲み込む激震に抗うように、レッドは無我夢中で叫んでいた。
「来い――!!」

214 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:52:43 ID:rTj/54wqO
 レッドの呼び声に――この期に及んでも悪あがきをする、意地の塊のような諦めの悪さに応えるように、
レッドから離れて落ちていた『グリフォン』の左腕が、自ら地面を叩いて宙に跳び上がった。
 それは砲弾の如き速度でレッドの左肩に激突し、即座に癒着を開始する。
 だがレッドはそれを待たず、むしろ完全に接合するのを厭うような性急さで、左腕を思い切り振り上げる。
「吠えろ……『グリフォン』!」
 左腕の再接続に伴うARMS内のエネルギーバランスの乱れ――
『グリフォン』と強制的に融合した『モックタートル』が、左腕にまでネットワーク汚染を伸ばすまでのタイムラグ――
 その、意図とも偶然とも判別しがたい、針の穴を通すような唯一にして絶対のタイミングにおいて、
左腕のみ統制を取り戻したレッドの振るう『グリフォン』が、遠慮会釈なしの――
今のレッドが発揮しうる最大威力による一撃をもって地面を穿った。
超振動がトンネル全体に浸透し、一拍置いて――まず天井が落ちた。
次いで、引いた波が返すように、コンクリートの床とレールが跳ね上がる。
 反復する衝撃波が『グリフォン』に連なるあらゆる物質を揺さぶり、
あるものはばらばらに粉砕され、またあるものは錐揉み回転しながら吹き飛ばされていく。
もはや上下左右の別なく狂ったように踊るあらゆる固形物は――力の逃げ場を求め、レッドを中心とした螺旋を描いて飛び散っていった。
 ――それでお終いだった。
 やっと静謐を取り戻した空間の中心で、奇跡的に配線が無事だった一つの非常灯の放つオレンジ色の光の下、
メタモルフォーゼが解けて一人の少年の姿を取り戻したレッドは――今度こそ前後不覚となってぶっ倒れた。


 ――それからどれくらいの時間が経過したのか定かではない。
 ぴちょん、と水の滴る音で目を覚ました。
 レッドはぼんやりとした思考で自分がなにをしていたかを思い出そうとして――、
「……セピア!」
 はっと身を起こす動作が中途で止まる。
 セピアはそこにいた。
 地面に横たわるレッドのすぐ側、同じように地面に臥せ、レッドの右腕を胸にかき抱くようにして眠っている。
 咄嗟に揺り起こそうとするレッドだったが――セピアが一糸纏わぬ姿であることに気付き、何とは無しに気後れを感じる。
 薄明かりに照らされるセピアの肌は陶器のような質感を醸し出していて、少なくとも見た限りでは外傷はないようだった。
 剥落したコンクリート壁により剥き出しになった地盤は急激な撹拌によって部分的に液状化現象を引き起こしており、
滲む水分が露となってぽたぽたと降り落ち、セピアの裸体に玉を作っていた。

215 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:55:39 ID:rTj/54wqO
 胸の前で交差されたセピアの腕から自分の腕をそっと引き抜き、レッドは立ち上がる。
 眩暈を感じるがそれに構わず歩きだし、周囲を検分する。
 トンネルの――いや、さっきまでトンネルだった空間の前後とも土砂で埋まっており、
自分達はほんの百uほどの敷地に閉じ込められているのだと知る。
 あのニンジャ野郎の姿は見当たらなかった。瓦礫や土砂の下敷きになったと考えるのは楽観的に過ぎるだろう。
 やつがどこにいるのかは分からないが、きっとこの崩落から逃れて、こちらの居所やそこに至る道を探しているのではないだろうか。
 ――あまり猶予はないように思う。
 こちらも一刻も早くこの密閉空間からの脱出を果たして、少しでもやつから遠ざからねばならない。
 そこでやっと、レッドは『痛み』を思い出し、そのあまりの痛さにしゃがみ込む。
 ARMSが疲弊状態にあるのか、ニンジャ野郎から受けた右足と左腕の傷は治癒どころか全くの重傷のままだった。
特に左腕の状態が酷く、辛うじて肩からぶら下がっているだけの、千切れかけといっていいものである。
 ARMSの機能が復活すればたちどころに回復するだろうが、
それまでに出血多量で死ぬかも知れないので、とりあえず止血だけでもしておこうと考える。
 ついでに、自分がぼろきれ同然の衣服を身体からぶら下げているだけだということも発見した。
 ちょうど目の前の行き止まりの土砂から、半壊した列車の後部が露出していた。
 車輌の中に持参した応急キットがあるであろうことを思い出し、
ついでに生き埋めになるより一足先に死体となっていたサイボーグどもから自分とセピアの分の着替えを拝借しようと、
レッドは痛む手足をこらえてそちらへと歩いていった。

 意外にも車輌内部は原形を七割がた留めており、目当ての品の入手はスムーズにいった。
 予想外だったのは、セピアの着替えがかなり万全なかたちで用意できたことである。
 片腕しか使えないことに四苦八苦しながら包帯を巻き終えた後、
レッドの手荷物の隣に置かれていた大きめの鞄をなんの気無しに開けてみると、出るわ出るわ下着から靴までの着替え×二パターン、
歯ブラシ・歯磨き・タオル・シャンプー・ヘアコンディショナ・ドライヤ・櫛・手鏡の重装備型お泊りセット、
文庫本五冊、ポケットサイズのボードゲーム三種(リバーシ・チェス・麻雀)、未開封のトランプ、
その他よく分からん雑多な小物や装身具――
「あの馬鹿、旅行気分かよ……」

216 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 01:58:31 ID:rTj/54wqO
 
 最後にレッドが入手したものは――
「……これが、ニンジャ野郎の狙いか」
 今回の任務の護衛対象である、車輌内のコンテナに厳重に封印されていた積み荷だった。
 ひしゃげた扉の奥にひっそりと鎮座していた『積み荷』――。
「ふん、やっぱり書類だったのかよ」
 ニンジャ野郎が『タイ・マスク文書』と呼んでいた、数十枚の紙片からなる束。
 逃げるにしても、これだけは持ち帰らねば任務放棄と見做される。
 防水布に包んでジャケットの下に差し込もうとした手が――ふと止まる。
「…………」
 しばらく思案げに手のに持つ『それ』を注視していたが、やがて慎重な手つきで布を取り払う。
 レッドには、『それ』がいったいなんなのか知る必要があった。
 ニンジャ野郎の言った言葉が脳裏に甦る。
 『プログラム・ジャバウォック』。
 それがなにを意味するのか、レッドは知らない。だが、やつはレッドがそれに深く関係しているような口ぶりで語っていた。
 その手掛かりがここにわずかでもあるのなら――その可能性があるのなら、なにがなんでも見ておかなければならないと思う。
 レッドの兄――『キースシリーズ』の長兄にしてエグリゴリのトップ、キース・ブラックの秘密めかしたやり方にはうんざりだった。
 エグリゴリの生み出す陰謀に、なにも知らぬまま利用されるのは御免だった。
 『タイ・マスク文書』――その一頁目に視線を落としたレッドは、不快そうに眉を寄せる。
「カツミ・アカギ……?」
 忙しく紙をめくって斜め読みをする。指が進むにつれ、いっそうレッドの表情が険しくなる。
「なんだ、こりゃあ……」
 もしかしたら暗号文で記された情報なのかと、エグリゴリで通用する解読コードを当て嵌めてみるが、そこにはなにも浮かび上がってこなかった。
 つまり、これは書かれている通りの意味しかない情報で――、
「ふざけんなっ!」
 知らず、叫んでいた。
「こんなの……ただの日本人のガキの成長記録じゃねえか!」
 カツミ・アカギという名の子供がどこでどのように育ち、誰と交友関係を結び、そして今後は――
そんな、どこまでも日常的な経過と現状と予定についての記述に終始していた。

217 :ヴィクティム・レッド:2008/03/26(水) 02:02:05 ID:rTj/54wqO
 こんなものが、エグリゴリのトップシークレットであるはずがなかった。
あの化け物のような戦闘技術を持つニンジャ野郎が真剣に追い求める代物とはとても思えなかった。
「ブラック……オレたちを『囮』に使いやがったな!」
 そうとしか考えられなかった。
 きっと、本物の『タイ・マスク文書』というものは、レッドの知らない別の誰かによって運ばれているのだろう。
 自分たちは、敵の注意を分散させる捨て駒として利用されたに過ぎないのだ、と。
 囮としての有用性を高めるため、レッドとセピアに対してあらゆる情報を伏せたのだろう。
判断材料を削ぐことで、無条件的にブツが『本物』だと信じ込ませようと。
 その仮定が正しいなら――まさしくブラックの思い通りに事態が進んでると言わざるを得ない。
 もはや事態は不可逆なものとなっており、今更「こっちは囮だ」と言ってもなんの用も為さないだろう。
 間違いなくニンジャ野郎は再び襲撃を掛けてくる。
 そのときこそ、決して逃れられぬ『死』が訪れるはずだった。
「くそったれ……ふざけやがって……!」

 ――このとき、レッドは一つだけ思い違いをしていた。
 よしんばそれが彼にとって無価値な情報であったとしても、今レッドが手にしている書類こそが、
ニンジャ野郎の『本命』――囮などでは有り得ない、正真正銘の『タイ・マスク文書』に外ならないことを。
 もう少しレッドが冷静さを保てていたら、気付いたかも知れない。
 『タイ・マスク』という語が、『A・KATSUMI』のアナグラムと一致するという――
とても単純で、とても人を舐めきっている――そんな馬鹿みたいな事実に。

218 :作者の都合により名無しです:2008/03/26(水) 12:49:43 ID:BD9HwGES0
ハロイさんの創作意欲には頭が下がる思いだ
言葉遊びといい、アナグラムといい、深く考えていますね








セピアの「あなごのおじいさん」という台詞に
なぜサザエさんが?と一瞬思ったのは秘密だ

219 :作者の都合により名無しです:2008/03/26(水) 14:38:28 ID:Px2nlF1u0
終わりの始まりって感じだなあ、セピアの
このssでは人間くさく好感の持てるレッドだけど
セピアの死により、強さと力だけを追求する傲慢人間に
なってしまったのだろうか

220 :作者の都合により名無しです:2008/03/26(水) 18:37:59 ID:/c1MbX+e0
ハロイさんは凄まじいレベルだな
携帯でこの完成度かよ・・

サラリーマン、とりあえず今のところは様子見って感じ?


221 :作者の都合により名無しです:2008/03/26(水) 20:58:43 ID:vFWi/rLY0
携帯ではヴィクテムが書き易いのだろうか
久しぶりに十和子に会いたいなー
書いてくれるだけで嬉しいけどね

ハロイさん乙です。
物語の多分中心人物のセピアの発動で
いよいよこの話も終わりに近づいてきたかなー
寂しいなー

222 :作者の都合により名無しです:2008/03/27(木) 16:00:12 ID:e0iuSL+Y0
レッドが少年漫画の主人公のごとく熱血だ!
ちょっと屈折してるけどw

223 :作者の都合により名無しです:2008/03/28(金) 13:11:42 ID:o2A7Tq/u0
しばらくみんなお休みか
ハシさんのスプリガンとかまだかな

224 :作者の都合により名無しです:2008/03/29(土) 08:52:45 ID:z9w/G6yv0
てーたい・・

225 :ロンギヌスの槍 part.3:2008/03/29(土) 21:01:41 ID:uGS3HaNI0
 襲撃の翌日、日本から連絡があった。優の上司である山本という男からだ。内容は鉤十字騎士団なる組織の動向、そしてアジトの調査の結
果。アーカムの活動は全世界規模で行われており、なかでも魔術や錬金術が栄えたヨーロッパには、念入りにアーカムの情報網が張り巡らさ
れている。しかし敵もさるもので、いまのところ有力な手がかりは掴んでいないとのことだった。追って連絡すると言葉を残し、山本からの
通信は切られた。
「さて、どうする」

 そこはアーカムが経営するウィーンのホテルの一室だった。山本との連絡を終えた優は、ティアの個室に来ていた。その顔には苦々しいも
のがあった。完全に手詰まりの状況にあったからだ。いまウィーンではA級エージェントと憲兵隊とが協力し合い、グルマルキンらが潜んで
いると思われる場所を洗っている。しかしあの撤退の手際のよさを見る限り、まだ魔女らが国内にいる可能性は低かった。着々と勢力を伸ば
しつつあるネオナチの手助けで、すでに国外に逃亡したと考えたほうがいいだろう。問題はその逃亡先だった。信望者の多いドイツに渡った
ことは間違いないだろうが、そのアジトの特定が難しかった。ネオナチの本拠地であるドイツでは妨害もすさまじく、さすがのA級エージェ
ントも困難な活動を強いられることになるだろう。武装SSにでも出くわせば壊滅する可能性が高い。優としては今すぐにでもここを飛び出
し調査に参加したかったが、切札ともいえるスプリガンが迂闊に動くわけにもいかなかった。時間だけが無為に過ぎていく。いずれ居所はつ
かめるにしても、時間が掛かりすぎる。まだあの魔女がロンギヌスで何を企んでいるのかもわからないのだ。

 ティアは窓の近くに立っていた。その窓は開け放たれ、冷たい空気が部屋に流れ込んでいる。彼女の手にはカラスが一羽とまっていた。お
そらく伝聞(ディール)をつかさどる使い魔なのだろう。ばっと黒い羽が散り、護符がティアの手におさまった。
「何かつかめたか?」
 ティアは首を振った。彼女の魔術でも、グルマルキンの行方を追うことは難しいらしい。
「くそ……とりあえず、山本さんからの連絡を待つしかないか」
「そうでもなさそうよ」
「なに?」
 くすりとティアが笑う。魔女の行方は掴めなかったようだが、他の手がかりは掴めたようだ。
「情報提供者があらわれたわ。ナチ専門の活動家よ」
  

 ウィーンの中心部から少し離れたところにある飲食店を、情報提供者は指定してきた。グルマルキンとその部下は、一般人だろうがなかろ
うが邪魔になれば見境なく殺す。だから人の多いところはできるだけ避けるべきだった。店の外観は古きよき欧羅巴の特徴を持っていた。情
報提供者はなかなかいい趣味を持っているようだ。昼時にもかかわらず店内にあまり人はいなかった。奥の個室に案内された。すでに店主に
はアポをとり、個室に盗聴器の類がないことは確認済みだ。すでに情報提供者は部屋の中にいた。

226 :ロンギヌスの槍 part.3:2008/03/29(土) 21:02:25 ID:uGS3HaNI0
 情報提供者の名はクリステル・フォン・エッシェンバッハ。70を越える老齢だが、その容姿は50代でも通用するほど若々しく、足腰も
しっかりしていた。彼女の経歴は少々複雑なものだった。戦前、彼女はナチスドイツのオカルト研究部隊"超人兵団"に所属していた。しかし
、その残虐さに嫌気が差し、部隊を脱走し、後に遺産を悪用するナチスの野望を阻むために戦っていた。戦後は政界入りし、荒廃した祖国を
立て直すのに尽力し、東西ドイツ統合を見届けた後、欧州の小国に隠棲した。その一方で、まだ不穏な動きを見せるナチ残党の動向に目を光
らせる活動家という顔も持っていた。またティアと旧い友人らしく、ナチスから遺産を守るために何度か共闘したことがあるらしい。
「久しぶりね、クリス」
「ええ、ティア。あなたも元気そうね」
 クリスは微笑んだ。その瞳には理知的な光があった。また再会の喜びや、過去を懐かしむ感情も垣間見ることができた。二人は固く握手を
交わした。
「そして、あなたが御神苗優ね」クリスの視線が優に向けられる。
「噂は聞いているわ。スプリガンの中でも、数々の遺跡を封印してきたトップガン。ネオナチの野望を阻止したこともね。再びドイツが戦火
に見舞われるところでした。本当にありがとう」
「いや……そんなたいしたことじゃねーよ」
「なに照れてるのよ」からかうような口調のティア。
「て、照れてねーよ」慌てて取り繕う優。その仕草は歳相応の少年のものに見えた。とてもあらゆる特殊部隊に怖れられる精鋭、スプリガン
とは思えない。
 その様子があまりにおかしかったから、クリスは微笑んだ。そしてすぐに表情を引き締めた。
「では、本題に入りましょうか」

 クリスはこれまで集めてきた情報を提示した。その中にはアーカムもいまだつかめていない鉤十字騎士団の詳細な情報があった。
 鉤十字騎士団。総統権限を無制限に行使できる、親衛隊内部でも存在が知られていなかった秘匿部隊。遺産管理局アーネンエルベやトゥー
レ協会と繋がりが深く、魔術師をはじめ多くの人外が集まっていた。課せられていた任務は戦局を一転させる超兵器――遺産の探索だった。
オカルトに傾倒するSS帝国指導者の庇護もあり、ククルカン作戦、聖櫃回収作戦などの重要任務を任されたが、それぞれある日本人と偉大
なる冒険家の妨害によって失敗の憂き目にあった。以後も遺産獲得のために各国諜報部隊と暗闘を繰り返していたが、敗戦が濃厚になった戦
争末期、忽然と騎士団は姿を消した。南米に渡ったとか、南極でナチ高官の護衛をしていると様々な噂が流れたが、いずれも信憑性は乏しく、
この騎士団の名は次第に人々の記憶から消えていった。しかし、
「最近、ネオナチの活動が活発になっていたんです」クリスの顔が苦渋に歪む。
「あなたたちが総統の復活を阻止した以来、その活動は収縮傾向にあったので、私たちも何が原因か探っていたのですが……グルマルキンが
一枚かんでいたのですね」


227 :ロンギヌスの槍 part.3:2008/03/29(土) 21:02:56 ID:uGS3HaNI0
 鉤十字騎士団の命令は総統の命令に等しい。半世紀たった今でもその効果は持続している。魔女は半ば強引にネオナチに協力させ、その見
返りに組織の増強を約束したのだろう。グルマルキンはあらゆる魔術に精通している。傾いたネオナチを立て直すぐらいわけはないはずだ。
その程度の見返りで聖遺物が手に入るのならば、安いものだったのだろう。
「しょうがないわ。あの時は皆、グルマルキンは死んだと思っていたもの。私も、ギヨームも、ジュネもね。クリス一人の所為じゃないわ」
「ありがとう、ティア。少し、気が楽になったわ。では、話を戻しましょう」
 クリスは地図を広げた。それにはドイツとオーストリアの地理が描かれており、いくつか赤い丸がつけられていた。そこにネオナチの拠点
があるという。赤い丸はゆうに10を越えており、これでもまだ調査の途中で、実際にはこの倍の拠点が存在するとのことだった。
「ネオナチはかなりの人数が動員して、それとともにある場所に多くの物資がつぎ込んでいます」
 拠点を示す赤い丸からは、ネオナチの使うルートを示す赤い線が伸び、ある場所に集中していた。つまりはそこはネオナチが集まっている
場所で、何か重要な意味を持つ場所だということだ。現在の状況を鑑みるに、そこがナチスのロンギヌス奪還作戦の中心である可能性は高か
った。そして、
「グルマルキンも、おそらくここにいる」優の言葉に、クリスがうなずく。
「場所は?」
「ドイツバイエルン南東部、フュルステンベルク城です」


 蝋燭がともり、ほの暗い空間にわずかな光があらわれた。小さな灯りが照らすのは、石壁に掛けられたハーケンクロイツの旗だ。そして暗
闇の中で威圧的に浮かぶその旗の前にある椅子に、グルマルキンは腰掛けていた。
 彼女は血のように赤いワインを飲んでいた。 勝利の後の祝杯は最高だが、このワインは格別だった。ロンギヌスを手に入れ、宿敵を出し
抜くことができたのだから。だが、まだ足りなかった。彼女が受けた過去の屈辱は、こんなものだけではそそぐことはできない。唯一それが
できるのは、宿敵――ティア・フラットの死だけだ。

 ティア・フラットのあり方。遺産を集め、それを封じる。グルマルキンには決して理解できないあり方だった。力とは振るうためにあるも
のだ。何故、それを封じてしまう必要がある。同じ魔女でありながら、彼女達はあらゆる面で違いすぎた。だから彼女らが分かり合うことは
永遠にない。いずれかが消え去るしかない。決着はいずれつける――そうグルマルキンが思った時、ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します」
 親衛隊の男が一人入ってきた。かつりと踵をあわせ、ナチス式の敬礼をする。
「ハルトマンか」

228 :ロンギヌスの槍 part.3:2008/03/29(土) 21:03:26 ID:uGS3HaNI0
 彼はグルマルキンの副官であった。人間を下僕にするのは彼女にとって珍しいことだったが、その有能さと冷徹な態度が気に入り、延命の
術を施し今日まで部下として使っている。
 彼は淡々と魔女に報告をのべた。
「アーネンエルベの研究班がロンギヌスの解析と儀式の準備を進めています。一両日中にはすべての準備が整うかと」
「急がせろ。スプリガンが諦めるとは、到底思えん。万一儀式が失敗に終われば、ランドルフ閣下に申し訳がたたん。準備が整うまで、奴ら
を足止めする必要がある」
「御伽噺部隊をぶつけてみては?」

 御伽噺部隊――グルマルキン直属の部下達。ウィーン王立博物館を襲撃したアイン、ドライもその一員だ。いずれもスプリガンと拮抗しう
る精鋭である。
「そうだな、やつらも退屈している頃だろう。遊びにはちょうどいい、すぐにウィーンへ向かわせろ。だが、ティア・フラットだけは生きた
まま私の前へ連れてこさせろ。それ以外は好きにしてかまわん」

 鉤十字の魔女は心底楽しそうに笑った。一方、ハルトマンは複雑な心境にいた。
 戦争は貴族のゲームとはよく言ったものだが、グルマルキンには少々遊びすぎる傾向があった。いかに御伽噺部隊の面々が精鋭ぞろいであ
っても、数々の遺跡を封じスプリガンを軽視するのは危険であった。ましてやティア・フラットを殺さず生け捕りにするなど、御伽噺部隊で
あっても困難を極めるはずだ。だが、彼に許されているのはただ忠実に命令を実行することだけであり、所詮人間である自分にできることは
少なかった。上官の判断が正しいと信じるしかない。
 ヤーと敬礼し、ハルトマンは部屋を出て行った。


「クク……ハルトマンめ、心配性なやつだ」
 一人残されたグルマルキンは笑う。
「お前もそう思うだろう――アイン」
 暗闇の中から、すぅっと人影が現れた。親衛隊の勤務服――アインだった。軍帽を目深に被り、死人のように青い唇は薄く閉じられてい
る。魔女の問いに答える気配はない。グルマルキンも彼女がそんなことに頓着しない性格だと知っていたから、返答は期待していなかった。
だから魔女は、アインがもっとも興味を抱くことをいった。
「どうだ。御神苗優は、お前が斬るに値する人間だったか?」
 その瞬間、わずかではあるが、アインに感情めいたものが見えた。それは迷いであった。
 アインはしばし逡巡し――わからない、とでもいうように首を振った。

229 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/03/29(土) 21:04:55 ID:uGS3HaNI0
「ほう、珍しいな。お前がそんな風に迷うとは。お前の目をもってしても、御神苗優の実力は見切れんか。――愉しいか、アイン」
 こくりとアインはうなずいた。まったく迷いのない動作であった。そしてアインは笑っていた。それは強敵と相対した時に修羅が浮かべる
ような笑みだった。
 グルマルキンは満足そうにうなずいた。
「お前が負けることなどありえない。お前には私の知りうる限り、最高の身体を与えた」
 アインの身体――死人のように白い肌。そして口元からこぼれる、肥大した犬歯。
「その身体で思う存分敵を斬り殺し、お前の望みを叶えるといい。そしてそれが私の望みでもある」
 アインだけではなく、御伽噺部隊の面々はグルマルキンと同じく冷酷で苛烈で残虐だ。ひとたび解き放たれれば、貪欲に血を求めるだろ
う。さらに多くの血が流されることになる。今以上に。グルマルキンの望み――第三帝国の復活。それにはまだまだ血が足りなかった。



ダブルオー最終回、平然と敬礼してるコーラサワーに大爆笑。この一週間の心配はなんだったんだ!
まったく期待を裏切らない男よ……!
前スレ>>420
好調なペースの裏には、既に書き溜めていたという事実が……
ハロイさん
いや、是非ともスプリガンやってください。ハロイさんのスプリガン……楽しみ(すでに連載が確定?
>同じ趣味
ネウロでマハロハーレイが出てきたときは目を剥きました。いやしかし、本当に趣味が似通ってますね。
>>427
この調子で皆川作品のSSが増えて欲しいですね。
>>4
自分でも少し急ぎすぎた感が……
>>5
ありがとうございます。
>>6
ネタにあふれたロンギヌスがスプリガン本編で使われなかったのは、少し意外ですね。
>>223
お待たせしました。

230 :作者の都合により名無しです:2008/03/29(土) 21:36:19 ID:YRqxBd/H0
クリスかよ!まさかのDXトワイライトで噴いたじゃないかw
ぜひ快男児もでて来て欲しい所だなー。

231 :作者の都合により名無しです:2008/03/30(日) 10:52:50 ID:7sx/Yh7R0
ティアと優のコンビで話が進むのかなー
経験豊富なお姉さま(数百歳だがw)と
青臭いけど才気煥発なトップエースといういい取り合わせですね
今回は説明回みたいな部分が多いけど、次回から
このコンビが大暴れしてくれそうで楽しみ。

武装SS→錬金のSSを一瞬思い浮かべたw

232 :作者の都合により名無しです:2008/03/30(日) 19:15:45 ID:Z2Kni6MA0
おお、お久しぶりですハシさん。
スプリガン以外のキャラはわかりませんが、
いい味出している敵キャラですな。
なんだかティアフラットにご執心の様子ですね。
ティアは能力は最強だろうけど、
間抜けだからどうしても朧の方が上に見える。
その辺りを突かれそうですね。

233 :作者の都合により名無しです:2008/03/31(月) 08:20:37 ID:orsITEAC0
ここんとこちょっと寂しかったけど
ハシさんのスプリガンが来た事でまた活気付くといいな

優とティアの各々の敵がはっきりしましたね
仙人と獣人も出るといいな

234 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:16:37 ID:6REK0eFF0
第042話 「絶縁破壊 其の壱」

 日本における甲冑の歴史は古い。弥生時代後期にはすでに木製の「短甲」(たんこう。みじ
かよろいとも読む)という、胸と胴体のみを保護する原始的な物が確認されている。具体的な
形状だが、古代ギリシアにおけるリネン・キュラッサの胴体部分や古代ローマのロリカといっ
た「袖のない上着を膨らませて鎧にしたような」物である。ただしその上着は前をボタンで閉じ
るタイプの物だと想像して頂きたい。何故ならば右脇の蝶番によって前の右側だけがパカリと
開くようになっており、着用にはそこから身を入れて(ボタンはないけれど)前を閉じ、両肩を
橋渡す紐でしっかり縛るからだ。
 短甲は五世紀前半には鉄板を鋲で留める形式へと姿を変えたが、六世紀に入る頃から徐々
に姿を消し始め、代わりに「挂甲」(けいこう)へと移り変わる。
 その過渡を見るのに相応しい一例が壬申の乱であろう。当時は豪族たちの甲冑はほぼ挂
甲に刷新されていたが、農民たちは旧態依然の短甲であったという。
 さて、挂甲。
 形状の説明はやや難しい。皆様が「甲冑」と聞いてパッと浮かぶイメージがあるとすれば、
その全身一面を短冊形の鱗に変換していただければ案外もっとも適切かも知れない。
 これは大陸の騎馬民族の影響が色濃く出ており、肩や首、腰など短甲より広い部分を保護し
ながらも活動的で馬上戦に適している。一説にはこの馬上戦への適合をして短甲にとって代
わったともいわれているが、その秘密が、実は──…

 九月三日。銀成市民の何人かは白霧漂う蝶野屋敷から様々な光が時おりチカチカと瞬くのを
目撃した。高台にある今は廃墟同然のオバケ屋敷。明け方フと気づけばそこだけが霧につつ
まれていた。それだけでも見る者の背筋にジワリと戦慄を走らせるというのに、今またまるで太
陽光を手鏡で反射したような光が霧に映えてはすぐ消える。太陽光? いや実態はそれです
らなさそうだ。太陽光なればオレンジないしは黄色だけだが、視認できた限りでも白、赤、黒、
青、と自然にはまずありえからぬ異様の光が迸るのだ。さらに耳をすませば高台の向こうから
何かが爆ぜたり壊れたりする異様な音──… 蝶野屋敷の異変に気付いた者が皆すべてそ

235 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:17:05 ID:6REK0eFF0
こでハッと顔を恐ろしさに歪めて一切何も聞かなかったという表情で無視決め込むのもむべな
るかな。かつて住民全員が一夜にして消失したという曰くつきの場所だ。怪奇現象を想像せぬ
方がおかしい。

 結論からいえば、蝶野屋敷の異変は怪奇現象の類ではない。ただし現実的現象かといえば
少なくても市井の人間が想像できる範疇からはかけ離れてもいる。
(想像つかないでしょうね。霧も光も錬金術の産物なんて)
 その中心にいる桜花と小札は先ほどから目まぐるしい攻防を繰り返していた。
 正確にいえば小札を中心に桜花が回避を繰り返し、時には小札の背後に回ったり……麗し
い肢体が霧を散らしながら広大な庭を蠢いて、竹垣を越えて石畳を踏みしめやがて枯山水に
到達した。折しも邸宅の縁側の傍だ。小札は間を開けず正面きってとてとてついてきた。
(やれやれ。緊張感がないんだから)
 と呆れたように笑う桜花は左手に少し日焼けした明かり障子がずらりと続いているのを見た。
 その途中、内側に倒された障子も目に入り、かつてココで起きた出来事とその犯人に軽く思
いを馳せたが束の間のコト。右籠手で口を覆い、すうっと息を吸い込んだ。
 実は彼女とそれを取り巻く蝶野邸の一切合切を更に取り巻いている霧は天然自然の霧では
ない。平たくいえば薄い金属のデブリであり、正しく呼べばチャフ……すなわちレーダー撹乱
用にバラ撒く金属片。それに水滴がついて霧を形成している。そして金属片を吸うのは危ない。
 と知っているからこそ桜花は籠手で口を覆ったのだ。
 すると高台の清らかな空気が豊穣なる胸に満ち、桃のかぐわしさを伴ってほうと外気に放た
れた。放たれたのは吐息だけではない。矢もだ。たおやかに息をつく傍ら、左腕の横っつらで
弓の弦が柔らかくも凄まじい律動を繰り返し、雨がごとく無数の矢を放っている。
 俗に下手な鉄砲も数撃てば当たるといわれているが、こと”射撃”というカテゴリーから見れ
ば弓矢の類も同じだろう。もっとも桜花が数撃つのは総て外さぬ自信があらばこそ。
「あいふぃーあら・りふれくしょん♪ 見つめ、返す、瞳にぃー」
 小札の気楽な歌声はさておき。

236 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:17:41 ID:6REK0eFF0
 実は桜花のしなやかな左の二の腕の上には、彼女の美貌とはまったく相反する造詣の自動
人形が鎮座しており、指先からひっきりなしに矢を出してつがって弦を引き、絶え間なく矢を送り
出しているのだ。
「えがいて!」
 気楽な歌声はさておき。
 そも、桜花の『エンゼル御前』は弓と自動人形と右籠手から成る武装錬金である。
 自動人形こと通称・御前様の特性は多岐に及ぶが、主なる物は「精密高速射撃」。
「はるかな!」
 歌声はさておき。
 桜花は御前の射撃性能が下手な鉄砲などまるで比肩に及ばぬコトを確信しており、現に矢
の数々はいま敵対中の小札へと確実に吸い込まれている。
 いるが。
 先ほどからさておかれている小札の気楽な歌声が、ようやくココで本筋に絡む。
「ねばえ───んでぃーんぐ・すとぉりぃー!!」
 矢は、まるで小学生のようにチンマリとした体の周りに浮かぶ異質な光に吸い寄せられ、そ
のままくるりと注射針のような矢尻を桜花へ向けて高速で跳ね返る。
 正に雨だ。ただし金属的殺傷力を秘めながらにいかなる暴風でもありえからぬ垂直へと飛翔
する魔性の銀雨。
(やっぱり、ね)
 桜花は霧にしどけた黒髪を腰のあたりで軽やかに躍らせながら右に飛びのいた。枯山水に
描かれた美しい水流が、しなやかなつま先に踏みにじられたが構うヒマはない。
 間一髪だった。耳元で無数の矢がひゅんと小気味のいい風切り音で霧の粒を蹴散らしてい
く。御前などはまったく恐怖に敏感なようでパールピンクの顔をみるみる青ざめさせたが、桜花
は至って平然とした様子で状況を整理した。
(さっきから矢を放っているけど全然通じない。それは小札ちゃんの周りに浮かぶ紙吹雪のせい)
 無数の紙吹雪が天動説よろしく小札を中心に右回りに横回転しており、それら一つ一つが他の
破片に向かって白い光を伸ばしている。光は稲光のようにバチバチと枝分かれしてもいる。
 小札はといえば思考に没入した桜花に「きゅう……」と口をつぐんだきりほとほと困った様子だ。

237 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:18:08 ID:6REK0eFF0
 ロッドをお尻の後ろに隠すような仕草で横たえながら、ふんふんとつんのめるように上体を
左右に乗り出してしきりに桜花の感情を読もうとしている。鳶色の瞳は使役に逆らわないロバ
のように愚鈍すぎるほど一生懸命な光に満ちていた。
 相変わらずパリっとしたタキシードでボディラインは少年のようにまったく起伏がない。シルク
ハットもクラウン(円筒状の部分)がうんと高いがそれを含めても桜花に頭一つ及ばない。
 まったくそんな小札であるから、姿ときたら雪の織りなす銀世界よりも湿っぽいこの空間へ墨
汁の黒ボトルをぽんと置いたような錯覚を覚えるほどだ。まったく小さくて愛らしくて、桜花はと
ても同年代用とは思えぬ保護者的微笑すら頬についつい浮かべるぐらいだ。
 ゆらい女性は相手に自分より劣った点を見つければ愛好できるものなのだ。
 特に顔やスタイルなどは目につきやすい部分であるから、上記の傾向はおそらく顕著であろ
う。逆に一つでも秀でた箇所を見つけると妬み嫉みの応酬が発生し、修羅争うこの世の地獄が
できあがる。そう、女性とて意思持ちたる普遍の生物。幻想を抱くべきではないのだ
 幼さゆえにそういう機微をまだ知らさそうな小札ではあるが、彼女を覆うバリアーは、桜花の
感じる愛らしさとは裏腹に非常に厄介である。
「あなたのそれ、何という名前でしたっけ?」
 小札は桜花が話しかけてくれたのが嬉しかったらしい。
 口をぱかんと半円状に綻ばすと、肩にかかった両のおさげが犬のしっぽのように大きく振れ
た。更に全身をわたわたと喜びに動かしたがなお足らず、小さなお尻に当たっているロッドを
順手に持ちかえようとした。もっとも途中でお尻の後ろに取り落としわーわー騒ぎながら拾い
上げる必要があったが。
 この辺り、十八という同じ年齢ながらに射撃の呼吸や回避の仕草がいちいち悩ましい桜花
とは実に対照的である。
 ともかく全作業を終えた小札はロッドを、ぴしぃ! と桜花に向けた。
「かかかか哀しみも痛みも振り切るようにはばたく! 反射モード・ホワイトリフレクション!」
「せっかくの技名なのにちっとも決まってねー!」

238 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:18:55 ID:6REK0eFF0
「きゅう。それは言わぬお約束……」
 桜花から十メートルばかり離れた場所にいる小札は、御前のヤジに目を伏せしゅんとした。
「で、さっきからずっと私の矢はホワイトなんたらに通じないようだけど」
「一生懸命考えたのに略されたーッ!?」
「だっていちいちそんなカッたるい無駄な言葉覚えていられないじゃない。必殺技の名前なん
て考えていいのはいいトコ中学生までよ。ね?」
 桜花は花が開くように微笑んだ。ちなみに弟は前世で二十代超えているのにたかがド派手な
しゃがみ斬りに「虎伏絶刀勢!」とか大層な名前をつけていたがそれは別の話だ。
「で、攻略法はあるのかしら?」
「うーむ……仮にあったとしても不肖にも事情があります故、黙秘する他ありませぬ」
 小札は難渋に満ちた顔をした。もっとも顔の造形が幼すぎるため、難渋さは却って滑稽に見
えてしまう。むしろロッドの先っぽについた六角形の宝石で餅のような頬をぽりぽり掻く方がい
かにもこの騒がしくて色気の欠片もないロバ少女にそぐうのではないかと御前は思った。
「うぅ。というか攻略法を尋ねられる以上、やはり戦意に満ち満ちている桜花どの」
「あら、当然のコトよ? だって秋水クンの説得終わったらすぐ邪魔しにかかるつもりでしょ?」
「先ほどのやり取りの通りまったく以てその通り……なればやはり戦闘は不可避」
 小札はすごく悩んだ表情をした。一筋の汗が頬を流れ落ちた。
「そしてココで不肖敗れればもりもりさん(総角の愛称)の計画は破綻。……である以上は!! 
たとえ勝てないとしてもせめて相討ちぐらいにはッ!! 国敗れても山河あり!!」
 にわかに小札のトーンが跳ね上がった。桜花は本格的な攻撃を直感し、構えなおした。
「不肖操る七つ七色の妙技……とくとご覧にいれましょう! ちなみに各自それぞれ色にちな
んだ歌の名前であります。”ホワイトリフレクション”や”ブラックマスクドライダー”などなど」
 小札はロッドの中ほどで指を動かした。どうやらスイッチがあったらしい。彼女の口から漏れる
言葉がにわかに拡声され辺りにきぃーんと響いた。マシンガンシャッフルはマイクにもなるのだ。

239 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:20:21 ID:fqV7mJJf0
「あ、ちなみに”青”だけは名称を予測するコトあたわぬ技! ヒントは”青”ではなく”ブルー”が
名前に入ってる曲っ! ただし、弱気な人が嫌いで青空裏切らぬ”ブルーウォーター”ではあり
ませぬ。ふっふっふ。コレが分かれば百・万・円ッ!!」
 マイクを持ってテンションが上げて、小札は溌剌と眉いからせながらロッドを天へ突き上げた。
「そも邸宅はまさに不肖にとってホームグラウンド! 地の利満載の適所! 不肖が魚なれば
水であり、不肖が都市区画なれば八十cm列車砲(ドーラ)の四・八トン榴爆弾っ!!!」
「……その例えだとお前が哀れなレジスタンスごと木端微塵にならね?」
「さぁさ参ります!! でけでん! でけでん! でけでんでけでん!(東映スパイダーマン風に)」
 もう御前の言葉などは届かない。小札はすっかりできあがっているようだ。

 時を同じくして地下で秋水はヴィクトリアを見据えていた。
「アナタはいいわね。気楽で」
 幼い顔に老婆の猜疑や嘲りをありありと乗せて、ヴィクトリアは秋水をなじった。
 彼はいう。ヴィクトリアが人を殺すとは到底思えないと。だがヴィクトリアから見れば、そんな
物は楽観論だ。現に衝動自体は芽生えている。
「自分が信奉者から戦士に転向できたからって、他の人間がカンタンにそうできると思うの?
まして私はホムンクルス。こんな化け物の体を抱える苦しみなんて分からない癖に、信じる?」
 胸に手を当てながら、冷え冷えとしたブルーアイスの瞳で秋水を射すくめる。
「正直いってアナタもあの鬱陶しい戦士の妹と同じ。おめでたいわね。少しいい立場にいるか
らって、私が同じ立場になれると思っている。でも今さら無理に決まってるじゃないそういうの。
だからつまらないコトを強制しないでちょうだい。正直、迷惑よ。それとも──…」
 ぞっとするほど白い腕を秋水に伸ばし、太くも細くもない逞しい首を掴んだ。
「いまココであなたの信頼とやらを命ごと吸われてみる? いっておくけど私は……本気よ」

240 :永遠の扉:2008/03/31(月) 15:20:50 ID:fqV7mJJf0
 秋水の頸動脈が小さなヴィクトリアの手の中でとくとくと動いている。その感触に艶めかしい
衝動が体の芯から巻き起こり、ヴィクトリアの息が荒くなる。甘美なる食人衝動に頬は微かに
上気し瞳は潤み、唾液が際限なく湧いてくる。「本気よ」とは脅しの方便であったが、徐々に
本当の物へと変化を遂げ、ヴィクトリアは法悦のためいきをつくとそれきり甘い霞に意識を覆
われ、知らず知らずのうちに手を首から剥がして肩に置き、喉笛めがけて口を近づけた──…
「前にもいった通りだ」
 しかし秋水はヴィクトリアの両手を優しく掴んで胸の前に下ろすと、彼女の眼を直視した。
「…………っ!」
 ヴィクトリアは華奢な肢体の総てをヴィクっと震わせた。もし内面が少女ならばいやいやをす
るように首を振っただろう。
「君を信じる根拠は、君の瞳だ」
 彼女は見た。
 水のようにきらびやかで刃物のように玲瓏で、澄んでいながら一分の翳を宿す瞳。
 初めて出会った時と全く同じ瞳だ。いや、玲瓏さはますます鋭さを増して、代わりに翳もいっ
そう濃くなっている。その原因が自分と、更にもう一人の少女のせいだと何故か直感したヴィク
トリアは敵意の根拠を少し失くしはじめていた。
「冷えてはいるが、決して濁ってはいない。だから人は絶対に喰わない。そう信じている」
「は、放して!」
 ヴィクトリアは切羽詰った声を上げて秋水を払いのけた。その行為が却って心痛を生むと知り
ながらもそうせざるを得なかった。
(だって……だって……今さら日常に戻ったら……)
 脳裏に母との誓いが蘇る。

『私は独りでも生きていける』

 最後に呼びかけたその言葉は、死にゆく母と死んでいるかも知れない父にせめて心配をかけ
させたくない一心で放ったのだ。それを反故にするのは、もう何もかも失ったヴィクトリアが唯一
心に留めている両親との繋がりを捨てるに等しい。
(……嫌)
 心細げに瞳を湿らせながら、ヴィクトリアはどうしていいか分からなくなってきた。

241 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/03/31(月) 15:25:11 ID:fqV7mJJf0
今回、実は小札の攻撃のあれやこれやを描いて桜花がその糸口つかむまで描こうとしたの
ですが、どうも小札はセリフ長いので到達できなかったり…… うーむ。能力描写と人物描写
と戦闘描写をしつつ、非戦闘の大事な場面も描いてそれらを五レス以内にまとめるとかは、
ハロイさんやカマイタチさんやサナダムシさん位の力量がなければ無理ですねこりゃ。

>>185
二人が対面したら、桜花は「ゆらい女性は〜」のような感情を抱くと思うのですw
彼女らの対比は楽しいですね。いかにも美人な桜花と幼い小札。コレはコレでいいコンビかも。
しかし今回一番可愛いと思ったのは御前。口の悪い女の子は良いものです。

>>195さん
正にニンジャかぶりw こちらのニンジャは地味に影でこそこそ活躍する予定ですw
それを活躍というかどうかはさておき、今回もまた女性ばかりが前面ですねこりゃ。
男が前面に出て文句なしに大活躍するのはいつの日か。

>>202さん
今回どうだったでしょうか。実は小札を戦わすにあたり、彼女の能力が活きる場所を
原作準拠で選定し、その結果蝶野邸を選んだ次第です。小札の能力が分かった後
だとたぶん納得できるかと…… あと、まったく逆の人物を交互に描写するのはいい勉強になりますねw

ハシさん
スプリガンは未読ですが、物語の背景やキャラの心理がスルスルと入ってきて、お話がいか
なる方向に向かっているか非常に分かりやすいですw 会話と状況説明が大まかに二分され
ているのでメリハリがありますね。……うは。文章形式についてばかりですみません。

242 :作者の都合により名無しです:2008/03/31(月) 19:07:06 ID:J6ZLVGzO0
柔らかいけどドSの桜花と
天然だけどMの小札のコンビはいいなw

243 :作者の都合により名無しです:2008/03/31(月) 20:36:35 ID:orsITEAC0
お疲れ様ですスターダストさん。
しかしなんか秋水、ヴィクトリアを口説いているようなセリフだ。
子札のテンションの高さと優美な微笑で突っ込む桜花の対比がいいです。

244 :作者の都合により名無しです:2008/04/01(火) 08:44:40 ID:mMPFCSy80
確かにネウロSSの影響が今回いたるところに出てますなw

245 :永遠の扉:2008/04/01(火) 15:17:23 ID:gaFa4+VT0
第043話 「絶縁破壊 其の弐」

(あのバリアーを破らないコトには私の攻撃は届かない)
 桜花は小札を冷静に観察する余裕がある。この辺りも対象的だ。のみならず小札がテンショ
ンを上げて騒いでる間にも、実はある程度の思考の手がかりをまとめていた。
 それは。
(なぜ、紙吹雪を媒介に使う必要があるのかしら?)
 そういえば以前、廃墟で小札が総角とともに秋水たちと戦った時もそうだったという。
(しかも崩落した壁の跡も使っていたとか)
 牽制も兼ねて小札に矢を撃つ。状況は特に変化がない。矢が反射され、それを避ける。
(……ヒントはその辺りにありそうね)
 もし無制限かつ無条件にバリアーを作れるのなら、紙吹雪なり壁の崩落跡なりを使わずとも
良いのだ。例えば桜花の矢のように自分の好きなタイミングで好きな場所へ放てばいい。
(ま、どっちみちバリアーしか作れないなら適当に攻めながら考えればいいだけね)
 攻撃手段のない相手なら勝ち目はある。と余裕を感じたその時である。
「どんなてーきでも! みかーたでーもぉ!」
 小札の声帯から平素のコケティッシュなモノとは真逆の焼けついた声が飛び出た。
「かまわーなぁーい♪」
 ロッドの先端から赤い光がチカリと辺りを突き抜けた。と見るや光は赤色灯のようにぐるりと
光の尾ごと旋回し、蝶野邸の中へと侵入した。
 桜花は明晰な黒瞳をさすがに驚きに見開いた。
 障子だった。豪勢な邸宅に見合ったいかにも品のいい明かり障子。
 それが邸宅からバラバラの状態のまま赤い光に引きずり出され、縁側でピタリと静止した。
 (どういうコト? 小札ちゃんの武装錬金はバリアーを作るだけじゃ……)
「この手を放すもんか真赤な誓い! 追撃モード・レッドバウ!!」
 小札が声を掛けるとどうだろう。縁側の上に仰向けになって寝ていた四分割の障子が周囲
にモヤのような赤い光を帯び、更にはカタカタと揺れ動き始めたではないか。そしてしばらく意
志あるがごとくその身と縁側の板を打ちつけていたかと思うと、まるで透明人間が修復作業
をしているような動きを取った。すなわち四分割の障子はいま正に、切断された部分同士を
子供が単純な図形パズルを仮組するような形で向き合ったのだ!

246 :永遠の扉:2008/04/01(火) 15:18:47 ID:gaFa4+VT0
 ただしあくまで仮組というとおり、完全には接合してはいない。まるで未接合の部分で奇麗な
Xの文字を描くように数十センチの間隔を置いている。もっともXの文字の間には蠢く菌糸を思
わせる真赤な稲光が充満し、日焼けに少し黄ばんだ障子へ朱を交わらせている。──…
 更にそれはやにわに舞い上がって小札の頭上でくるくると旋回し始めたで。
 いわば合体途中の超電磁ロボだ。中途半端に結合し、しながらも旋回している。
 まるでマジック。おお、そういえば小札はいでたちからしてマジシャンであり、現に特技もマジッ
クというがそれにしてもやや常軌を逸している!
「くっ!」
 桜花はひとまず障子目がけて矢を撃った。
 だが恐るべきコトに標的は切断個所からバッと分解して矢を避けた!!
 のみならず切断個所から光を溶けかけチーズを千切ったようにねっとりと垂らしつつ桜花に
向かって邁進し、各自めいめい別個に回転しながら速度を上げた! げに恐ろしきはそれで
光が切れぬ所だ。御前は左右の目の大きさを不均等にしながらあたふたした。
「わわわ! 障子が迫ってきたぞ! 避けろ桜花ぁ!!」
「見れば分かるからいちいち騒がないで! というか迎撃してよ御前様!!」
 桜花はぴしゃりと御前を叱りつつ一枚目を避けたが二枚目が右肩にあたり、疼痛に顔をしか
めた所で三枚目が右の太ももを四枚目が左の脛をそれぞれ掠り、桜花の背後へと飛び去った。
(堅さまで操るコトはないようね)
 幸い、強度はごく普通の障子と遜色ないが、それでも飛んで回転して当たればダメージを受
けるだけの重量はある。見れば当たった箇所が破れ、肩からは素肌が、スカートからは黒い
ストッキングが覗いている。出血はなさそうだが異様な動きが掠ったコトそのものが恐ろしい。
「畜生! なにしやがんだテメーら!!」
 キレた御前がぷんすかしながら障子へ猛然と飛び蹴りをかました。
 先ほど不意をつかれはしたが向かい合えば案外迎撃は容易いらしい。地面と水平に浮かぶ
一番面積の大きい障子があったが、それがド真ん中から小さな御前の戯画的な足にめきょめ

247 :永遠の扉:2008/04/01(火) 15:19:56 ID:gaFa4+VT0
きょと無残に両断されて、更に偶然その軌道上にいた障子──これは上部らしく一番面積が
小さい──も勢い余った御前の蹴りによって紙も桟も区別なくめちゃくちゃくに破砕された。
 更に御前は振り向きがてら腕一本につき十本の矢、すなわち合計二十本の矢を現出させる
やいなや両側に浮遊する障子に遠慮斟酌なく投げつけてこれを破壊した。
 障子の破片がバラバラと落ちる様に、御前は得意満面、胸を仰け反らせた。
「へっへーんだ! ざまあー見ろー! 障子の癖に威張るからだぜバッキャロー!」
「おお、お見事! しかぁし! まだまだレッドバウの恐ろしさはコレからであります!! ちな
みに不肖はひとたびテンション上がれば倫理が一時的にあうあうあーになります故、多少の
ご無礼失言の類は何卒お許しを!! 後悔は戦後にダース単位で行いまする!!」
 小札はロッド持ちたる手で不活発な拍手をして、またロッドを突き出した。
 果たしてどうであろう。障子の破片が再び赤い光に繋がれ、もはや化石の復元か車に轢か
れたプラモデルかと見まごうばかりに無残な「障子のような形」で復活した。
「うそ」
 唖然とする桜花に舌っ足らずな高い声が届いた。
「ときをこえろっ! そらをかけろ! このほっしのためぇ! デテンテンテン!」
 小札はまたもロッドを振っている。しかも今度は黒い光が現れ、地を這っている。
「君は見たかっ! あーいがぁー! 真赤(←ココ重要)に燃・え・る・のを!」
 霧の中でかつ戦闘中だ。桜花はすっかり見落としていた。地面に小さな小さな何かの破片
が散らばっているのを。しかし桜花の見落としは何人たりとも責めるコトはできぬのだろう。
「暗い闇の底で危険な罠が待つ! 探索モード! ブラックマスクドライダー!」
  百人がそれを見たとしたらおそらく百人全員が”何かの破片”ではなく
”小石”
”小枝”
”雑草”
”土くれ”
の類として認識していただろう。それほど破片は元の姿が分からぬほど破壊されていた。

248 :永遠の扉:2008/04/01(火) 15:21:50 ID:gaFa4+VT0
 小札はひどく興奮した様子で、瞳孔をカッと見開いた!
「総ては風雨の仕業であります。かつてこの蝶野邸で戦いが繰り広げられてから時経つコト
数か月──… 障子や襖はともかく、屋外にて破壊された物は果たしてそのままでしょうーか?
いやいや! 雨に溶かされ風に流されちまちまと庭に散らばるコトもまた大自然の摂理!!」
 黒い光がまるで樹形図のように無数の「小石・小枝・雑草・土くれ」をあぶり出して、一点に
引きずり込んだ。桜花はそれを阻止したかったが障子が襲ってきたため応戦する他なかっ
た。障子は壊しても壊しても復元してまた向かってくる。何度も何度も桜花を掠めさる。
 その上今度は黒い光が収束して異常な物を作り出した。
 前後は真白な何かの塗料を塗りたくられ、上下左右は黄土色の物体……いや、色の通り黄
色い土のようだ。そこからワラのように尖った同色の繊維を何本もうっすら伸ばしている。
 大人がようやく胸に抱えられるぐらいの大きさのそれが!
 弾丸のような速度で桜花のみぞおちに命中した!!
 当たった当人はまるで何が何やらわからない。たまたま桜花から離れて障子を追っていた
御前が物音に驚いて振り向いてようやく事態を把握したほどだ。
 しかも桜花の長身は謎の物体に押されて庭を吹き飛んでいく。よく見れば黒い光は物体に
纏わりつきつつ桜花を透過して蔵の方へ伸びているようだ。
「ん? 桜花も蔵の方に飛んでる。まるで光に引っ張られてるような……って! 助けねーと!!」
 御前は障子を後に最大速度で桜花に追いつき、小さい体ながらに桜花の手を引いた。
 火事場の馬鹿力という奴か。幸いにも桜花はすぐ不可解な弾圧から解放されたが、地面に
膝をつき、整った顔を苦悶に歪めながらけほけほと激しくむせた。
 同時に御前は見た。蔵の方でちょっとした物音と土煙が上がるのを。
(……? 蔵? さっきの黒い光も向かってたけど関係あんのか?)
 考えかけた御前の手が強引に引かれた。無遠慮な仕草に御前はついカッとなったが、先ほ
どまで居た場所を、謎の物体がざっと二十ほど一気呵成に通過してするのを見て態度を変えた。
 むろん物体は総て黒い光を纏い、しかも。
「やっぱり蔵の……方ね。光の伸びる先も飛んでいく方向も。じゃあもしかすると」

249 :永遠の扉:2008/04/01(火) 15:24:17 ID:gaFa4+VT0
 お腹を押さえた桜花は、少し乱れた前髪を揺らしながら横目を背後へ這わしている。ほつれ
た髪が右肩一面に垂れて新品同様の制服を覆った。……そう、新品同様の制服の右肩に。
「多分そうだぜ! 確か蔵はカズキンがパピヨン斃す時に幾つかブチ抜いたっていうし!!」
 迫ってきた障子に矢を投げつつ御前は首肯した。確信を高めたのは蔵から響く謎の音。
「……ふふふ。よく見たら私の制服も同じね。黒い光に触れたからかしら?」
 桜花は苦痛に美貌を引き攣らせながら笑い、緩やかに立ちあがった。制服はあちこち土埃
に塗れているが、傷一つない。……そう。右肩にもスカートにも傷一つないのである。
 先ほど障子が掠って破れた筈なのに。
「ねぇ御前様。ちょっと蔵の方見てくれる? 私の推理が正しかければ──…きっと」
 遠くでは小札がロッドをひっきりなしに振っている。黒い光が迸っているのは何のためか。
 桜花の脳裏でベールが綻ぶと同時に御前が蔵へ飛び、周りをぐるーっと回り始めた。

「アレ? なんで御前様がいるんだろ?」
 つなぎを着た少女が額に手を当て不思議そうに空を見た。
「おーい、御前様ー聞こえるかーい♪ って、行っちゃった……」
 もっとも走り寄った頃にはもう御前は見えなくなっていた。
 遠くにいったのではなく、蔵に造られた十字路を横に曲ったのだろう。
「うーん。気になるけどまずは……あのニンジャさんがいうには竹刀袋のあるところだよね……」

250 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/01(火) 15:26:12 ID:xjbeBz800
四月一日。エイプリルフールネタで有名なアイレムが相変わらず熱い!
特にレイズィレオによるハンドスタンドアンテロープの仕留め方が熱い!!
ありゃ「作る」って行為を好きで、しかも楽しんでないと出ない発想だと思うのです。
設定を更に設定と擦り合わせてこうするか! と。流石はゲームクリエイター。
まぁ、ゲームメーカーではアクワイアの方が好きですけどね。

>>242さん
ちょw 小札はMなのですか!?  
温厚なのでいじめられやすいタイプではありますがw

>>243さん
美形なので客観的に見るとそういう気障ったらしい部分がありますねw >秋水
小札は折衝は苦手だけれど、一方的にわーわー騒ぐと際限ないコかも?
桜花とは本当にいろいろ真逆すぎるので却って組み合わせの妙が。

>>244さん
おお、読んで下さりましたかアレ。ありがとうございます。
あっちのSSの骨子は動きやら体勢やらを分かりやすく描くってのがありまして、前回はそれを
反映してますね。うん。え? ヴィクトリア? エロ? 何のコトやら。

251 :244:2008/04/01(火) 15:33:03 ID:mMPFCSy80
見てますよー
ああいうの書くとは以外でしたw

小札はMというより幼児性が目立つ割には
変な部分が成長した感じですな、精神的に


252 :作者の都合により名無しです:2008/04/01(火) 19:43:35 ID:B42cZ+2O0
小札は戦闘の場面でも明るくていいな
決して強そうには見えないが
子供が遊んでいるみたいだ
桜花と同い年とは思えないな

253 :作者の都合により名無しです:2008/04/01(火) 23:47:43 ID:sF5knO4x0
スターダストさん連投だな。
ちょっと調子が悪くなってきたところでありがたい。
小札が出てくると項羽と劉邦っぽくなりますなw


254 :戦闘神話番外 無貌の神:2008/04/02(水) 01:02:24 ID:ij7hGGiX0
知恵を司る女神がいる。
数々の神話体系のほぼすべてにおいて「知恵を司る神」は存在するのだが、
ここではギリシア神話における知恵の女神を上げることにしよう。
名をメティスというのだが、これもまた「知恵」を意味するのだから徹底している。
メディア、メドウサという名前は実はこの「メティス」の変化形だ。
日本風に訳するのなら、「智子」「智恵子」「知恵」といった風だろうか。
もっとも、神話における神々の名などその存在そのものを示しているのだから当たり前といえなくもないが、
いかんせんその神話を持たない民の耳には、「そういうもの」として知られてしまうのだから実にいい加減だ。
彼女の夫は、多淫で知られる天の主ゼウスである。
ゼウスの妻といえば、結婚と貞節を司り、ゼウスの子らに艱難辛苦を与えて英雄たらしめる「ヘラ」が有名なのだが、
実はヘラとの結婚は初婚ではない。メティスとの婚姻のほうが先である。
ではなぜ彼女との結婚が破綻したかといえば、
極論すればゼウスの血脈に流れる呪いのせいだといえるだろう。

もとよりゼウスの血脈は血で汚れている。

ゼウスの祖父・天空神ウラノスは、その妻・大地母神ガイアの産んだ時の神クロノスによって天の主としての力を喪うのだが、
その際に彼を排斥した神に呪いをかける。
「お前の息子によってお前はその玉座を追われるだろう」という呪いだ。
神託、と言い換えてもいいだろう。
ギリシア神話の神々の言葉には強い霊力が宿っており、中でも特にアポロンの託言などは有名だ。
息子こそが王権の簒奪者となるという呪い、大地母神の夫神のものだ、それはそれは強力であったろう。
己の子が生まれるたびに文字通り「飲み込んで」いたにもかかわらず、
妻レアの裏切りによって末子は王権の簒奪者となったのだから。
その末子のこそがゼウスである。
そして、ゼウスもまた長き闘争の果てに父を打ち倒す際に同じ呪いを受けた。
ゼウスは永劫の君主であることを望んだため、この呪いをことさら恐れた。
好色で知られる彼であるが、彼を凌ぐだろう子を生み出す女を泣く泣く諦めたことからもその恐怖のほどが知られる。

255 :戦闘神話番外 無貌の神:2008/04/02(水) 01:04:36 ID:ij7hGGiX0
そんなゼウスの妻となった知恵の女神は、幸か不幸かゼウスを凌ぐ男子を産む女であった。

その事実を知ったゼウスはどうしたのか。
すでに身ごもっていた彼女を、ゼウスは飲み込んでしまったのだ。
知恵の女神を飲み込んでしまったため、ゼウスは「知恵の神」をも兼任することになってしまったが、神の子もまた神。
知恵の女神の子はゼウスの中で成長を続け、日に日にゼウスの頭痛としてその存在を示唆し続けた。
頭痛に耐え切れなくなったゼウスはとうとう鍛冶神ヘパイストスに命じて自分の頭を割らせることにした、
天の主の頭から出てきたのは、完全武装した姿もまた美しい女神だった。
その女神の名をアテナ。
男児ではなく女児であったことに安堵したゼウスは、彼女をたいそう可愛がり、
ギガントマキア終結後に地上の管理権限を与えることになるが、本稿においてはそれはあまり重要ではない。
ゼウスが恐れに恐れ、妻を飲み込み、愛人をあきらめてまで恐れた「父を超えうる男児」は本当に生まれていなかったのか?
知恵の女神メティスの子は、メティスの産むはずだった子は、本当にアテナ一柱だけだったのか?

否である。

知恵の女神メティスは、その全知を持って神話の過去から遥かな未来までをも予測し演算し観測せんと試みた。
彼女は、オリンポスの神々が巨人を打ち倒し、オリンポスの神々が謳歌する時代の先を知ろうと試みた。
純粋な好奇心だったのかも知れないし、今の王朝の絶対を確かめたかったからかも知れないし、
女としての矜持によるものだったのかも知れない。
そして彼女は見た。

256 :戦闘神話番外 無貌の神:2008/04/02(水) 01:07:24 ID:ij7hGGiX0
神もまたこの地上から消え去り、プロメテウスが愛する人間がこの地上を謳歌する未来を。
人と神との蜜月たる黄金時代も過ぎ、
人と神との黄昏たる白銀時代を過ぎ、
人と神とが決別を選ぶ青銅時代の先、
既に人の世となり、神々の残滓が英雄として残る鉄の時代を。
その世にて自分が生むだろう娘に付き従う戦士たちの姿を。
戦士たちの一人、天馬の戦士は、鉄の時代のいついかなる時においても娘に付き従い、
ひたむきに、ただひたむきに、たった一つだけ前を、未来を、正義を信じて突き進んだ。
突き進んで突き進んで突き進んで、たとえ命が天涯に消えても諦めを知らず、
天を大地を死すらも駆け抜けるその戦士の姿は、この上なく野蛮で、粗暴で、どうしようもないくらいに荒々しかった。
しかし、彼女はその男の姿をどんなものよりも尊く、どんなものよりも美しく、どんなものよりも輝かしく思えた。
如何なる苦難も、如何なる敵をも、如何なる神をも倒して突き進む天馬の戦士と、その主たる一柱の女神。
その女神が司るのは「戦」、しかし、暴悪にして恐怖を布き、怨嗟をつかんで憎悪で彩る理知なき闘争ではない。
理性と知恵をもって暴悪を除き、慈と理をもって恐怖を払い、賛歌を伴って博愛を掲げんとする「戦」なのだ。

ならばこそ、メティスは一人の子を産む決意を下した。

幸いにして夫はこの妊娠を知らない。
あらゆる面においてゼウスを凌ぎ、それ故に名すら与えられずに封じられるだろうこの子は、
はるかな未来において蘇り、天馬の戦士と戦うだろう。
天馬の戦士と戦ってもらわねば困る、天馬の戦士と戦って敗北してもらわねば困る。
メティスがメティスとして産む子は神々の妄執そのものだ。
ウラノスの鮮血をもってクロノスへ、
そしてクロノスの鮮血をもって玉座を彩ったゼウスへと続く禍々しくももの哀しい血の轍。
その最期にたつ一柱の神、母も父も知らぬ無貌の神は、
その力と存在ゆえに、人と戦わなければならない。
神すらもやがて文献に記される項目となって消え果る時代の為に。

257 :戦闘神話番外 無貌の神:2008/04/02(水) 01:13:39 ID:ij7hGGiX0
人が神に依らず立つ時代の為に。
人が人として立つことのできる時代の為に。

殺されるために子を産むとは、なんとひどい母親だろう。
知恵の女神は、その知恵ゆえに苦悩する。
ただ美々しく飾り、ただ女としてあればどんなにか幸せだったろう。
しかし、知恵の神としてあるからには先の先のさらに先すら知恵の光で見通してしまったからには、
この子を天と地と時の地平の彼方にある戦場へと送り込み、戦いの果てに敗北させねばならない。

小賢しくも知恵など持つから苦悩するのだ、大いなる意思はそう言いたいのかもしれない。
メドゥサはペルセウスによって命を絶たれ、メディアも運命の波濤の果てに消える。
ならばその根源たるメティスは、女としての最大の苦悩を味わねばなるまい。
殺されるために子を産み、夫に飲まれて消え果る。
肉体も精神もゼウスの中に消え果る。
知恵を司るがゆえに、この無貌の神の母として、遥かな未来に災禍を残すことを。
知恵を司るがゆえに、この戦の女神の母として、遥かな未来に希望を残すことを。
そして、産褥の痛みの中、彼女は確かに見た。
天馬の戦士の力強い羽ばたきを。
天馬の戦士が無貌の神を打ち倒すその姿を。
天馬の戦士のその勇姿を。
希望の闘士の姿を。

258 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/04/02(水) 01:16:19 ID:ij7hGGiX0
あっれぇ?普通にアテナのSS書いてたつもりが…
神が降りてきたってこういう状態をいうんでしょうか?
なんだか大分怪しいSSになってしまいました、大丈夫か俺w
そのとかあのとか指示語おおいよ大馬鹿野郎!
星矢SSをあんまり長いこと書いてなかったせいか、禁断症状がでていた模様です
我慢はいけませんね、体に毒です
次回はもっとはっちゃけたモノを投稿します、保管wikiのほうで連載中になってるアレです
ところで皆さんしってました?カミナの兄貴と一輝兄さん(迷改変)って声優同じなんですよ
「俺の信じるお前でもない、お前の信じる俺でもない、お前の信じる、お前を信じろ」
こんな台詞上司から言われてみてぇ…

俺は俺だ!銀杏丸だ!

ではまたお会いしましょう

259 :作者の都合により名無しです:2008/04/02(水) 09:50:44 ID:fQPle+4F0
やっぱり戦闘神話のほうが面白いな
ちょっと表現がオーバーすぎる気もするけど
作風に合っているし
銀の字、頑張れよ

260 :作者の都合により名無しです:2008/04/02(水) 15:09:18 ID:LJLfx55g0
銀杏丸さん乙。
続きそうな感じだけどここで終わりなのか。
ポエミイな感じなSSですなw
また番外編を書いて下さい。








261 :作者の都合により名無しです:2008/04/02(水) 21:13:57 ID:8YSuqsdM0
おお銀杏丸さん久しぶり
最近低調なバキスレを引っ張ってくれ

262 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/02(水) 22:17:41 ID:a5oK1PqJ0
津村斗貴子という名の少女は、銀成市という場所で、運命の少年と出会う。
これは、その少し前。「二つの」運命の出会いの、少し前の物語。

人に隠れて悪を討つ……もとい、社会の裏で化物を退治する錬金の戦士。
錬金術の産物である武器「武装錬金」を用いて、同じく錬金術の産物であり錬金術の力
でしか倒せない人食いの化物「ホムンクルス」を退治する。それが彼らの使命である。
とはいえ、彼らとて猪突猛進で年中戦っているわけではない。というより、それで済む
ような簡単な戦いをしているわけではない。
標的となるホムンクルスの捜索、武装錬金の元となる物質「核鉄」の確保、それらの為の
潜入工作や聞き込みや張り込みなどなど。戦闘以外にも錬金の戦士がやらねばならない
ことは多岐に渡る。それら全てをこなせなければ、一人前の戦士とはいえないのだ。
そんな戦士たちの中にあって、まだ若いが上司から優秀さを認められている少女がいる。
名は津村斗貴子、17歳。処刑鎌(デスサイズ)の武装錬金、「バルキリースカート」を
振るい、これまで数多くのホムンクルスを打ち倒してきた。また前述のように、
直接戦闘以外の任務でも実績を挙げてきている。
今もまた、ニュートンアップル女学院での潜入・探索任務を終えたばかり。現在、拠点と
している安アパートに帰ってきて、携帯電話で次の指令を受けていた。
小柄な体をセーラー服に包み、綺麗に切りそろえられたショートボブの黒髪と、凛々しく
整った顔立ち。すっきりした鼻筋と交差する傷跡は確かに目立つが、それを差し引いても
(差し引く必要もなく似合っているが)大人しく佇んでさえいれば、文句なしの美少女である。
だが彼女は大人しくはない。優秀な錬金の戦士であり、今もまた気を引き締め殺気を纏い、
新たなる戦場に出陣しようとしているのである。

263 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/02(水) 22:18:21 ID:a5oK1PqJ0
「……はい、核鉄は確保しました。……では、このまま次の任務に? ……了解しました。
確か次は、銀成市という……は? その前に? ……ええ、しかし銀成市では既に、
ホムンクルスによると思われる人食いの事件は起こっているのでしょう。それを
差し置いて、先に他の任務というのは……………………はぃ? あの、その……
すみません戦士長。もう一度、その件についてよくよくご説明をお願いします」
本来、任務に限らず何事もテキパキと、事務的機械的効率的に行うのが斗貴子である。
が、この時は彼女らしくなく、若干非難めいた口調で上司に言い返してしまった。それほど
彼女にとって意外、そして不本意さを感じてしまうことを、上司から告げられたのだ。
頭痛すら覚えてこめかみに人差し指を当て、斗貴子は返事を待つ。
少し間を開けて、彼女の直属上司である戦士長・キャプテンブラボーの声が返ってきた。
《あ〜、予想通りの反応だな戦士・斗貴子。だがな、お前は面識ないかもしれんが、
戦士・戦部などはよく言っている。腹が減っては戦はできんと。我々錬金戦団も然りであり、
組織にとっての空腹とはつまり》
「要するに、お金がないんですね」
《活動資金に窮してると言ってくれ。そういうわけで、資金援助を求めたわけだ。もちろん
慎重な調査に厳しい調査を重ね、信頼に値する相手という結論が出たからこそ、》
「だからって、一般企業に核鉄の技術提供なんかしていいんですかっ!?」
ブラボー曰く、その企業というのも錬金戦団とはまた違う形の「戦士」を抱えており、
彼らの為に日々新しい武器の研究開発に余念がないそうだ。だが彼らの「敵」も
日に日に強くなっており、何か斬新で強力な武器はないものかと頭を悩ませていた。
そこに錬金戦団が声をかけ、契約成立と相成った。戦団は核鉄のサンプルと関連資料
をこの企業に提供し、代わりに資金援助を受けたのだ。但し、これによって開発された
武器・技術は絶対に一般販売をせず、「戦士」たちが直接戦闘で使う装備にのみ使用
すること、またその技術を戦団にも還元すること、以上二つの条件をつけて。


264 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/02(水) 22:19:17 ID:a5oK1PqJ0
《だからだな、戦士・斗貴子。あちらさんの「戦士」たちとて我々同様、日々命懸けで
戦っているんだ。そんな彼らの為に核鉄が、錬金術が役立つ。また場合によっては、
彼らの開発した技術をこちらに逆輸入することで、武装錬金の性能アップなんてことも
あり得る。これは非常にブラボーなことだぞ。それから言うまでもないが、戦団が
OKを出した相手だ。間違っても、罪なき人々に害を為すような戦士や組織ではない》
「それはそうでしょうけど……」
そんなことは、斗貴子にとっては当たり前過ぎて考えるまでもないことだ。
問題なのは、相手が一般企業ということ。そこの「戦士」たちがどんな相手と戦っている
のかは知らないし、結果的には人助けになっているかもしれないが、どうせ目的は
金儲け。古く欧州の錬金術ギルドに端を発し、永きに渡り人類全体の敵である
ホムンクルスやそれに組する組織と戦ってきた戦団とは、あまりにも違いすぎる存在だ。
だというのに、そんな斗貴子の思いなどお構いなしの今回の任務。
《そんなわけで、既に試作品が完成しているそうなんだ。タイミング良くと言っては
不謹慎だが、銀成市の近くでもホムンクルスらしき化物の情報が確認されている。
お前の任務は、あちらさんから派遣されてくる戦士と組んでの、この事件の調査と解決。
対ホムンクルス戦の先輩として助言をしつつ、開発された試作品の実戦テストのチェック
をするんだ》
「……わかりました」
気は進まないが、戦団からの正式な任務とあらば、どうせ拒否することはできないのだ。
不承不承、斗貴子は了解の意を伝え、細かな指示を受けて電話を切った。

265 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/04/02(水) 22:23:54 ID:a5oK1PqJ0
月じゃないけど、なくなるコトは決してない! このツラ下げて戻って参りましたっ。
シャレにならん環境で、シャレにならん待遇で、シャレにならん生活を送ることを
余儀なくされておりますが、なればこそこうして、ココロ回復の泉に帰ってこれた
ことが嬉しく、ありがたく。
とりあえず中断期間中の分に目を通させて頂いた上で、この場所を起点として
以前の通りに参加させて頂きたいと思っております。今後ともよろしくですっっ!


266 :作者の都合により名無しです:2008/04/03(木) 15:13:19 ID:1CqN5bvf0
ふら〜りさん復活&新連載おめ。
正直、ちょっと心配してたので嬉しい。
さすがに欠席中の感想は無理でしたなw

267 :作者の都合により名無しです:2008/04/03(木) 16:05:59 ID:CXVTPK+Z0
おおふらーりさんお帰りなさい。
正直こんなにいなかったのは初めてなので心配してました。
新連載、武装錬金ですか。
いや本当に錬金と皆川作品が多くなったなーw

268 :作者の都合により名無しです:2008/04/03(木) 22:08:52 ID:N5A6kdep0
おかえりふら〜りさん。
ふら〜りさんらしい武装錬金SSを期待しております。


269 :作者の都合により名無しです:2008/04/04(金) 13:48:30 ID:S+8Gw7Y60
スターダストさんたちの影響で
本当に錬金を読み込んだんですな>ふらーりさん

過酷な環境みたいですが、
SSを書く時間はたっぷりありそうなんで
頑張ってください。
出来ればもう少し開業してほしいな。

270 :作者の都合により名無しです:2008/04/04(金) 19:59:17 ID:i/5PlFLt0
ふの字おかえり
溜まりに溜まった感想を期待してます

271 :永遠の扉:2008/04/04(金) 21:59:48 ID:UvGcV0c30
第044話 「絶縁破壊 其の参」

「……分かった。でもこれだけは聞いて欲しい」
 ヴィクトリアの拒絶を察したのか、秋水は手を離した。
「君は俺や姉さんと似ているんだ。ホムンクルスになって二人だけの世界で生きていたい……
そう願っていた俺や姉さんと」
 秋水はアレキサンドリアのコトを引き合いにだした。
 彼女とヴィクトリアが地下で百年も二人だけで生きていた姿は、桜花と秋水の目指していた
物とほとんど同じだったと指摘し、そしてそれが崩壊するコトをどれだけ恐れていたかを告げた。
「だから無関係とは思いたくないんだ。力になりたいと思っている」
 せっかくの解放にも関わらずヴィクトリアはその場にとどまっている。ただし俯いたまま表情
を見せないのは彼女なりの『説得』への抵抗なのだろう。
「…………」
 握られていた左手首を腰の横で一撫でしたきり、ひたすらに黙っている。 
「今の君は錬金術を通して世界を嫌悪している。ただ一つの出来事に縛られて心を鎖している。
そこも俺や姉さんと同じなんだ。放ってはおきたくない」
「だから」
 ほとんど聞き取れないほどの声が血の気の引いた唇から紡がれた。
「だから何……?」
 今は解放された人間が、心を鎖すしかない私を責めたいの?
 そういいたげな怒りと微かな恐怖が声音に交じって淀んだ空気を震わせた。
「いや、責めるつもりは毛頭ない。そんな権利など俺には最初から存在していないんだ。何故
ならば俺自身もかつて心を縛られ、過ちを犯してしまったから──…」
 秋水は瞑目し、眉間にある皺眉筋(しゅうびきん)を苦悩に歪めると、深い深い吐息をついた。
「そう。俺は、学校の生徒を生贄にする手引をしてしまった。その事実は、今何をいおうとも変
わらない。その上、刺してはならない人間を刺し、危うく殺しかけたから……君を責める権利は
ない。ないんだ……」
 声音には彼の瞳に宿る翳を展開したような悔恨と苦悩、やりきれなさが滲んでいる。
 呼応するように、俯くヴィクトリアへと一瞬、息を呑むような振動が走った。
 少なくても秋水の話に耳を傾けてはいるらしい。
「確か君は以前、俺の前歴を知りたがっていたな。そこから話そう」

272 :永遠の扉:2008/04/04(金) 22:00:11 ID:UvGcV0c30
 よく透る生真面目な声に乗って、かつてヴィクトリアが知りたがっていた事実が次々と明かさ
れ始めた。

 乳児期に誘拐され、実の両親と引き離されたコト。
 その誘拐犯に育てられたコト。
 彼女が過労死したのも知らず、しばらくその死骸を見ていたコト。
 部屋の扉や窓が鎖や錠で縛られており脱出できなかったコト、
 助けを求めても近隣の者は誰一人として助けに来なかったコト。
 やがて部屋には食料がなくなり、餓死寸前までに追い込まれたコト。
 警察に保護され入院したが実の両親に引き取りを拒否されたコト。
 だから桜花と秋水が二人だけの世界を望んだコト。
 やがて二人で病院を抜け出し、衰弱する姉のために強盗を働いたコト。

 秋水の過去は想像以上に過酷で、ヴィクトリアは口をつぐんだ。
 心底から毒舌を浴びせる気にもなれず、かといって同情を見せればなし崩し的に説得されそ
うで戸惑うしかない。そもそも告白が真実だという前提の元に揺れ動いているのは何故か具
体的には説明できない。ただ、立場の近しさゆえに分かる気配や、果てしのない共感が秋水
の言葉を信じさせている。
(第一、私は……)
 秋水のように死と直面したコトはない。
 家族を引き裂かれ身を怪物とされはしたが、飢餓に命を脅かされた経験はない。まして人
間からの明確な拒絶などは、アンダーグラウンドサーチライトによる隠遁生活と得意のネコか
ぶりでことごとく避けたのだ。で、あるのに、父母の悲劇と自らの不遇を元に秋水を押し切ろう
とするのは果たして正しいのか。
 秋水はその境涯と戦い、今はヴィクトリアを助けようとしているのだ。
 であるのに以前差しのべられた手を払った。
 その意味と、苦味を帯びた自答に苛まれ始めたヴィクトリアは、 
「そしてL・X・E……君の父を守護する共同体に拾われた。だからもし君の父がいなければ、
俺も姉さんも生き抜く事はできなかったと思う」
 父のコトに触れられ、今すぐにでも秋水の面を見て、話を聞きたい衝動に駆られた。
「だから、君を救う事はかつての俺達を救うコトでもあるし、君の父に対する恩義を返す事にも
なるんだ。貸し借りを気にする必要はない」

273 :永遠の扉:2008/04/04(金) 22:00:35 ID:UvGcV0c30
 ヴィクトリアはひどい葛藤に悩まされ始めていた。
「戦団の力を借りる事に抵抗があるのならば、この屋敷にある装置を使えばいい。元は君の
父が伝えた物だから君にはその権利がある。この屋敷だけで不足ならば他のアジトの物を使
うといい。……一応後継者も居るには居るが、行方を晦ましている今、気にする必要はない」
 秋水に助力を申し出るのは論理からいえば一分足りとも間違いはないと思った。つまびらか
に感情の方を見渡してみてもかなり傾いているのはいなめない。
 それでも最後の一線を踏み越えられないのは、秋水の持つ「戦士」という肩書への抵抗や
不幸な生涯を歩まざるを得なかった父母への遠慮であるとヴィクトリアは思った。
(パパやママが不幸なのに私だけ幸せになれるワケないじゃない。でも……)
 更にいえば抵抗や遠慮の半分は言い訳であるとも感じた。
(でも、本当はただ怖いだけ……寄宿舎に戻った時、あのコをまた食べたいと思うのが怖いだ
け……)
 皮肉と毒をたっぷり含んでいるからこそ、自身の内面が分かりすぎるほど分かってしまうヴィ
クトリアだ。ただ恐怖に慄いて本当に取るべき選択肢へ向かえずにいる。
 ひどい自嘲が胸を占めるが、ただそれだけ。精神は自らの立場を大きく変える革命的なエネ
ルギーを生み出す土壌がないのだ。百年の隠遁に硬直しきっている。因循で姑息でただただ
薄暗い感情を内部で循環させるのみなのだ。

 天意、というものがあるとすれば、もしかすると地下通路に訪れた異変はそれだったのかも
しれない。
 ヴィクトリアはハッと表を上げて音のした方向を見た。秋水も気づいたらしくそちらに向かって
シークレットトレイルを構えた。
 地下通路の壁のとある一点、先ほど秋水が侵入してきた場所に再び稲光が立ち込めた。
 かと思うとそこから丸っこい影が飛び出して、床に叩きつけられたではないか。
 ヴィクトリアがドス黒い嫌悪感と虫唾を走らせたのは……
 床に尻餅をついて「いたた……」と頭を撫でる少女に並々ならぬ悪い印象を平素から抱いて
いたからだ。

「うーん、落ちるなら落ちるって、あのニンジャさん言ってくれないと……お尻痛いよ……」

274 :永遠の扉:2008/04/04(金) 22:00:57 ID:UvGcV0c30
 まったくこの少女はどこまでフザければ気が済むのかとヴィクトリアは睨んだ。
 わずかだが親近感を覚えた秋水の説得に心揺らしている正にその時、乱入してきたのが一
点。
 次にその少女の着衣が一点。なぜかつなぎを着ている。寄宿舎生活で見た管理人よろしく
ゆったりとしたつなぎを身にまとい、あろうコトかフードを被っている。ただのフードならばヴィク
トリアの印象値もマイナス11からマイナス10.5ぐらいまでには軽減されただろう。しかしその
フードには何故かネコミミがあしらわれていて、いかにも幼稚だ。男性に媚を売っているとまで
は思い至らぬヴィクトリアも良い意味で幼稚であるが、とにかく彼女は鼻白んだ。
「えーと……あ、秋水先輩! びっきーも一緒だ!!」
 落ちてきた少女は二人を交互に見渡すとすっくと立ち上がって「びっきー戻ってきて!」と気
楽な声を上げた。
「……いや、どうして君がここに? というかそのフードはなんだ?」
 困惑したように秋水が構え解きつつ指摘すると、少女──武藤まひろは不思議そうにフード
を頭から外してネコミミを見た。
「うーん。なんだろ。寮母さんから借りた時にはすでについてたけど……あ、あのね、寮母さん
とニンジャさんに話を聞いたらね……」
 まひろはひどく場違いなテンションでココにきた経緯を説明しだし、ヴィクトリアをかつてない
ほど苛つかせた。

 まひろ回想始まり。

「奴は恐らく街中において人目を憚り、竹刀袋にシークレットトレイルを入れて運ぶだろう。そ
してホムンクルスの少女を発見しだいその場に打ち捨てる。入るべき場所はそこだ」
「ん? どういうコトなのニンジャさん!」
 聖サンジェルマン病院の秋水の病室の前でまひろは根来に詰め寄った。
「要するに戦士・秋水を追跡したくば、蝶野邸において奴の名前の入った竹刀袋を見つければ
いい。さすれば亜空間へと侵入できるだろう。ちなみに私の勘では蔵が臭い」
「あくうかん? こう、おっきい半透明の人が暴れて赤い玉にぼこぼこにされてるところ?」
「寄宿舎の管理人室の地下にある部屋みたいな物よ」

275 :永遠の扉:2008/04/04(金) 22:01:30 ID:UvGcV0c30
 声ととともに光が迸り、千歳の姿が現れた。彼女がそういう人だとまひろは千里や沙織から
聞いているので驚かなかったが、代わりにビー玉みたいな目が千歳の持つ衣服に吸いつけ
られた。
「あなたにはコレを着てもらうわ。サイズは……そうね」
 と千歳はまひろをつま先からてっぺんまで観察して、断定した。
「バストとヒップは同じだから支障はないわ。ただウェストが二cmオーバーしているから窮屈
かも知れないけど、身長が私より八センチ低いからおそらく大丈夫ね」
 事務的でてきぱきとした口調と共に差し出されたのは、つなぎである。まひろは咄嗟に防人
の衣服を思い出した。
「この前の任務で使ったつなぎ。戦士・根来の髪の毛を織り込んであるから亜空間に入るの
は容易いでしょうね」
 千歳と根来は銀成市に来る前、一つの任務に従事していた。それはとある工場にてホムンク
ルスが引き起こした殺人事件の解決。紆余曲折を経て突入した犯人との戦いは、彼女たちの
想定外の出来事が何度も巻き起こり非常に苦しい物となった。
 その時、最後の最後で決め手になったのが、千歳の持ってきたつなぎである。
「ほら、ほら。フードには特に力をいれたわ。だから大丈夫」
 千歳はフードをぱたぱたとはためかせながら、一生懸命指差した。
「わー、本当だ。可愛いね」」
「……その猫の耳のような膨らみはなんだ?」
 根来は物凄く暗澹たる表情で質問した。
「潜入用よ。あの事件の後つけたの。ネコ型ホムンクルスがたくさんいる場所用」
「それは恐らく公私混同だ。貴殿の一趣味にすぎない」
「いいえ。あくまでネコ型ホムンクルスがたくさんいる場所用よ。他意はないわ」
「……何にせよ、私の髪をそんな物の中に埋め込むな」
 根来の口から諦観まみれの言葉が吐き出された。
 ちなみに誰かさんが見たら「あ゛ー! あたしのパクリじゃんそれー!」と騒ぐだろう。
「でも、どうして私のために?」
「あなたならもしかすると彼女を救えるかも知れないから」

 こうしてまひろは気合充満させつつ蝶野邸へいき竹刀袋を探し当て亜空間に入るのであった。

 まひろ回想終わり。

276 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/04(金) 22:02:32 ID:sdPy0bgW0
なんのかんので筆を走らせていたら何か9レス分ぐらい描きあがり、果たして全部一気に行く
かどうか悩んだ末に5レスだけ。ああしかし、それだと自分的フェイバリットの短甲とか大鎧の
くだりが次回というジレンマ。北朝の騎兵の馬具のくだりとかすごく楽しかったのに……

>>251さん
次は睦月とユキとその兄貴で……ゲフンゲフン。あーあーあー。
小札、語彙だけはやたら豊富で時代がかってるクセに、精神はひたすら子供なのが何とも。
研究者とかこんなんかも。特定分野だけに突出してるのに他は年齢不相応とか。

>>252さん
どうも小札には自分の好みが出ているようなw 東方の伊吹萃香とかエンバーミングのエルムとか。
それにしても十八という年齢は設定しておいてアレですが、彼女に合ってないようでなんか合ってて
不思議です。なんでだろう。実は意外に通常時は分別あるからでしょうか……?

>>253さん
恐らく歌がらみのネタとひたすら変なセリフの連続ですねw >項羽と劉邦っぽさ。
よくよく自分の文を読むと、堅い時もあればおかしい時もあって、自分でも不思議w
それはさておき、明日も投下いたしますよー!

銀杏丸さん
やはり星矢に連なる神話にお詳しい! この知識量と調査力、あやかりたいです……
ところでメティスが生みおとした神って誰なんでしょう。ハーデスかと思いきや彼はクロノスと
レアの息子らしく。……うーむ。にしても神話は調べると色々不条理な話がありますねw

ふら〜りさん(ムーンフェイスw 彼のように末長くお越しください!)
>BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN
やはりというかのっけからブラボー登場w 他の勢力と斗貴子さんを橋渡しできるのはやっぱり
彼か大戦士長ですよね。電話のシーン、ちょっとドッピオを思い出したりw ビジネスマン……
うーん誰だろう。企業戦士YAMAZAKIとか? ともかくこのテの展開で出てくる「試作品」という
のは必ず使う物に厄介事をもたらすもので、それに対する斗貴子さんの突っ込みが楽しみですw
いざとなったらダブル武装錬金(銀成市行く直前なので)でガーっと!

277 :作者の都合により名無しです:2008/04/05(土) 12:55:42 ID:ARvh/I630
千歳姉さんってスタイルいいんだなあ
モデルスタイルか
冷静沈着な根来コンビの前でも態度変わらんのはすごい>まひろ

278 :作者の都合により名無しです:2008/04/05(土) 14:27:09 ID:OIyBCoG+0
初めて来たが
ここ職人さんのあとがき長いのなw

279 :作者の都合により名無しです:2008/04/05(土) 16:28:35 ID:3+rGWOWW0
同じ傷跡を持ってる同士、ヴィクトリアには優しいですね秋水。
まひろの影響もあるんでしょうが・・。
シリアスな場面だけが続かないようにいつも工夫されてますね。

280 :永遠の扉:2008/04/05(土) 21:02:55 ID:afwItGdV0
第045話 「絶縁破壊 其の肆」

 その頃、地上では。
「うああああぅ〜! 気張って攻撃したらちょっと疲れましたぁ〜」
 戦闘が休憩に入っていた!!
 というのも、ひとしきり謎の白い塊を飛ばした小札が俄かにぜーぜーと目をナルトの渦のよう
にさせながら大きく喘ぎだし、ホワイトリフレクションという結界の中で休みだしたからだ。
 障子はにわかに赤い光を失い、地面にバラバラと落ちた。
「おう。蔵見てきたぜ。やっぱ俺たちの推測通り」
 小札から十メートルほど距離を置いて佇む桜花の肩に、御前が飛んで寄ってきた。
「お疲れ様。ところで小札ちゃん、お茶飲みたいでしょ? そのホなんとかとっていう馬鹿馬鹿
しい結界解いてくれたら、お茶あげるわよ〜。今なら二本おごっちゃう!」
 麗しい笑みの桜花に小札は「ほうっ!」と興味を示したが、慌てて首を振った。
「いやいやいや! このホワイトリフレクション解きましたらばその瞬間に矢を撃ち込むおつも
りでは!? 顔色窺いますに何やらそーいう不穏な空気がヒシヒシと……」
「チッ」
「あら残念。小札ちゃんなら釣れると思ったんだけど」
 御前は舌打ちして、桜花は笑った。
「といっても実はその結界、破る方法分かっちゃったから断られてもあまり関係ないかも」
 茶目っ気たっぷりの表情で桜花は微笑した。
「……いま、なんとおっしゃいました?」
 小札はとても信じがたいというように身を震わせて反問。
「あなたの作る結界には紙吹雪が必ず必要」
 桜花の頬から微笑が消えた。
「この前は廃墟で壁の崩落跡に沿って結界を出したという話ね」
 美人であるため、すっと凄味を浮かべると野卑な山男よりも恐ろしい。
「さっきは昔パピヨンが斬った障子を赤い光で繋げていたし」
 小札の頬から血の気が引いた。
「更に蔵の方へ飛ばした白い塊……アレが蔵にちゃあんと戻っているのを御前様が見たわよ」
 幼いため、狼狽すると小動物のような頼りなさがある。
「アレは蔵の破片ね? 昔、武藤クンがパピヨンを斃す時、辺りにバラ撒いた蔵の破片ね?」
 桜花は近ごろ秋水を苛んでやまない、女性特有の恐ろしく冷たい口調で構えた。

281 :永遠の扉:2008/04/05(土) 21:03:49 ID:afwItGdV0
 小札と来たらもう全身をガタガタと震わせながら、何とかロッドを構えて赤い光を飛ばした。
 すると先ほど同様、障子に光が満ち満ちて桜花を目指して飛びすさる。
「矢での破壊は不可能の筈……矢での破壊は不可能の筈……」
 念仏のように唱える小札へ、華麗な肢体が髪を揺らしつつ半身を向けた。
「そうね。破壊は不可能。というか破壊してもすぐに蘇るから意味はない。でも!」
 流れるような仕草で弓構えを取ると、桜花は自らの手で弦を引いた。
 弓は桜花の左手に装着されている。ゆえに右手で弦を引くのは弓道的見地からすれば当然
のコトではあるが、矢出し弓引く御前の存在を勘案に入れれば奇妙という他ない。
 そもそもいま弦を引く右手が籠手に覆われているのは何故か? 
 「矢を放つ」。その一事から見れば、御前と弓以外の装飾は不要の筈──…
 かつて津村斗貴子は桜花と相対した際、右籠手を見て即座に分析した。
 
 もう一つ、隠し手があると見るべき。と。
 
 そう。斗貴子の分析は正しいのだ。
「まさかこういう使い方をするなんて想像もしてなかったけど……」
 ふぅとため息つく桜花が弦を引く刹那、右人差し指より前方に向かってピンクの光が迸り、矢
へと顕在化した。
 御前の出す針状のものとは形状がかなり違う。いわゆる鏑矢だ。ただし羽根の形がハート
になっているのは武装錬金らしくモチーフ武器を豪快に無視している。
「……ハタキ?」
 小札が目をはしはしさせたのも無理はない。事実、矢のフォルムはハタキに似ていた。
「コノヤロ、テメーのロッドだってダサいのに文句つけんな!」
「まあ大丈夫でしょう。人以外に撃つのは初めてだけど」
 びぃんと弦のしなる音がし、きらきらとした光の粉が桜花の傍で散ったのを合図に。
 矢は迫りくる障子のド真中へと見事突き立った。
 直後訪れた決定的な異変に、小札は目を見開いて口をぱくぱくさせるほかなかった。
「あ、ああ……」
 何故ならば、障子が見る間に元の形となって地面に落ちたからだ。
 代わりに桜花の肩口からぶしゅうっと血が迸り、白磁のような頬を濡らした。

282 :永遠の扉:2008/04/05(土) 21:04:41 ID:afwItGdV0
「この鏑矢は『撃った相手のダメージを引き受ける』の。あなたの武装錬金にとっちゃ天敵でし
ょうね。だって、あなたの武装錬金の特性は」
 その君臨ぶりと堂々たる笑みはいずこの女王様として幼い少女に映った。
「『壊れた物を繋ぐコト』だから。私の矢がダメージを引き受け、修復すると……無力。でしょ?」

 古代日本において挂甲という甲冑が短甲にとって代わった理由。
 それこそが『小札』である。
 小札とは短冊形をした鉄製ないし銅製の板を指す。ただし一枚だけで用いるというコトはま
ずない。無数の小札を革紐や組紐で連結して鎧を形成するのである。この辺りは魚の鱗を想
像して頂くと分かりやすいだろう。要するにちまちました物が密集するコトにより防御機能を獲
得するのである。更には小札を一枚一枚連結するコトによってその隙間がひどく可動しやすい
ため、一枚の鉄板を曲げて鋲で留める短甲のような諸々の動きの制限がない。
 よって挂甲以降、戦国時代に至るまで小札は必ずといっていいほど甲冑の類に用いられた。
 具体例を挙げるとすれば、源平合戦絵巻にみられる「大鎧」や、同時代の下級武士用の「胴
丸」(後に武将も使用するようになる)や鎌倉時代後期の「腹巻」、南北朝時代の山岳戦にしば
しば用いられ太平記にも記述のある「腹当」であろう。
 なお、挂甲に影響を与えたという中国騎馬民族……たとえば蒼天航路において郭嘉・張遼
に征伐された烏丸のような民族の鎧は資料不足のため確認できなかったが、魏晋南北朝時
代(二百二十年〜五百)における北朝の騎兵の馬具に同じような
「小札の連結による鎧」
を認めるコトができる。
 余談がすぎた。(結局はコレがやりたかっただけである)

「……ぐうの音の出ぬほどおっしゃる通り。そう、奇しくも特性は不肖の姓に通じます。何かを
繋げる。連結して防御にあてる……そういう意味では同じなのでありまする。そう!」
 小札は観念したかのように喋りだした
「総ての瓦解を妨げる……それこそが不肖の武装錬金・マシンガンシャッフル!」
 元より多弁であるから、種が割れたと知ると堰を切ったように解説を始めた。
「繋いだ物は自由自在。元の形にするコトも意のままにするのも可能なのであります!」

283 :永遠の扉:2008/04/05(土) 21:05:16 ID:afwItGdV0
 例えばかつて廃墟で秋水と斗貴子を相手にした時は。一枚の紙を細切れにした紙吹雪を繋
げてバリアーとし、壁の崩落跡も光で結んで壁を顕在、これまたバリアーとした。
「下水道処理施設でホムンクルスの方々を閉じ込めたのもその応用。周辺に紙吹雪を撒き、
繋げるコトでも何人たりとも脱出不能の結界を作りました。ちなみに紙吹雪は塀のふもとにも
ちょこりんと置いておきましたゆえ」
 小札を殴ろうとして壁を壊した男は不幸だった。何故ならば「壁を壊した」コトによりマシンガ
ンシャッフルの「壊れた物を繋ぐ」特性が発露し、その光線に焼かれたのだから。
「結界内であればレーザーも撃てるのですが、流石にいまは不可能! しかしさりとて不肖は
諦めませぬ。そう、壊れてさえいれば良いのです!」
 小札はバババ! と何やら素早い手つきをして奇妙な物体を取りだした。
「不肖の特技は……マジック!! さぁさ皆様ご覧あれ! 高々とか取りいだしましたるコレは
壊れた茶碗とその欠片! 以前不肖が牛さんのエプロン着て茶碗洗ってる時に落っことした
第五十七代目の茶碗であります。さぁー不肖がコレを桜花さんの回りに投げますればレーザー
照射にて勝負決するコト明らか! 様子を伺います。来たぁ! 隙到来! とあーっ!」
 投げた茶碗が桜花の前で矢に撃墜された。
「ああーっ!! 撃 ち 落 と されたぁー!!」
 目を戯画的に丸くして、これまた口も戯画的なギザギザにしつつ小札は仰天した。
「予告したら駄目じゃない。マジシャンは種を伏せなきゃご飯くいっぱぐれるのじゃなくて?」
「ぬうう! それもそのはず! ……というかまさか不肖は劣勢!?」
 騒ぐ小札を前に、桜花は二本目の鏑矢を弓につがえた。
「ええ。次はあなたの結界を丸裸にして、矢をありったけブチ込むから覚悟して。あ、私も予告
してるけど、分かったところであなたにはどうしようもないでしょ?」
「ひ、ひいい〜! ご勘弁を〜!!」

284 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/05(土) 21:05:48 ID:afwItGdV0
日中、SSも描かず翔ぶが如くをひたすら読んでました。
で、五巻読了。残るは二巻。コレ、坂の上の雲より長い……
それはともかくやっと甲冑関連が投下できた。わーい!

>>277さん
キャラクターファイルによると、千歳:B85 W57 H88 まひろ:B85 W59 H88 だそうです。
ついでに、まひろの特技は「人見知りしない(出会って五分で日常会話)」ですので、あの根来
相手でも平気かとw たぶん、ヴィクターと仲良くするコトはおろか、調整体すらペットにできるかも?

>>279さん
もし原作で秋水とヴィクトリアが絡んで、説得イベントがあったとしたらああいうアプローチかなー
と思うのですよ。ダイでヒュンケルが何かとバランを気にかけてましたが、ニュアンスとしては
あんな感じで。。それから、元々ちゃらんぽらんなので、シリアス描くとつい反射的にギャグをw

285 :作者の都合により名無しです:2008/04/06(日) 16:10:50 ID:J2VkqMcH0
桜花が真剣になると凄みが増すのは
美人だけでなく内面の底知れなさが噴出するからでしょうなあ・・
なんにせよ子札が適う相手ではなさそうだ
なんか「修羅」の違いみたいな

286 :作者の都合により名無しです:2008/04/06(日) 17:25:23 ID:PVch4YQ+0
小札を書いているときが一番イキイキしてますな、スターダストさんはw

287 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/06(日) 22:19:36 ID:V9ZviZDE0
>>264
今回の任務についての連絡を斗貴子が受けた、その数日後の夜。
斗貴子は待ち合わせ場所として指定された喫茶店に向かっていたのだが、
今は方向転換、全く違う場所へと駆けていた。
彼女の耳にはよく慣れた、馴染んだ声が聞こえたのだ。……死の恐怖に染まった悲鳴。
戦士として鍛えられている斗貴子の聴覚が捉えたのは、彼女のいた場所からはかなり
遠い、町外れにある建築中のビルの辺り。
体力もまた常人ではない斗貴子なので、数分で現場に到着した。もう夜更けなので
工事関係者もおらず、辺りは静まり返っている。月と星と僅かな常夜灯以外の明かりは
なく、虫の声以外は何も聞こえないここにあるものといえば、
「捕食の跡……なのか、これは?」
まだ新しいと思われる死体が一つ。だが、素人が見てもそれは死体とは思えまい。
というのも、原型を全く残さないレベルで潰れているのだ。よくよく煮込んだトマトシチュー
を床にブチ撒けたかのように。刃物で切り刻んだとか、鈍器で叩きまくったなどでは、
こうはならないだろう。すぐそばのビルの屋上から突き落としたとしても、せいぜい
十数メートルだ。高さが足りない。
そんな謎めいた死体の状況からすると、人間の仕業とは考えにくい。やはりホムンクルス
がいるのか、と斗貴子が考えたその時。
斗貴子の耳に、新たな悲鳴が聞こえた。それは遠くから、高くから、そして尋常ではない
速さで街の方から接近してくる。
視線を上げた斗貴子の目に映ったのは、星空をバックに屋根から屋根へと、目測で
20メートルほどの高さ・距離の跳躍を繰り返す人影二つ。実際に跳躍しているのは
その内の大きい方で、体格からして男だ。もう一つの小さい方は、おそらく斗貴子と
同じくらいの年頃の少女。大きい方に抱えられ、悲鳴を上げている。

288 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/06(日) 22:21:28 ID:V9ZviZDE0
一目瞭然だ。男の方はホムンクルス、そして捕らえられている少女はそのエサに
違いない。
やがてホムンクルスは、斗貴子の眼前に建つビルの屋上に降り立った。
そしてそこから、楽しそうな嬌声を上げて少女を投げ下ろす。ホムンクルスの怪力は、
重力加速を遥かに越えた速度で少女を落下させた。このまま地面に激突すれば、
大型トラックに轢かれたのにも勝る衝撃をその肉体に与えるだろう。確実に骨や肉
などは潰れきって、人間の形を一切留めぬグチャドロなモノと化す。
先に見つけていた死骸の謎は解けた。今、同じ死骸がもう一つ増えようとしている。
「そうはさせるか!」
斗貴子は己の核鉄を取り出し、発動させた。核鉄が輝きと共に分解、再構成、
物理法則を突き抜けて質量増大し変形し、武装錬金「バルキリースカート」となった。
それは機械的なフォルムをもつ四本の長い腕。斗貴子自身の腕の倍以上ある
その先端には、手や指ではなく鋭い刃が装備されている。
両脚の大腿部に二本ずつ、計四本で一組のバルキリースカートを備えた斗貴子が、
少女の落下予測地点へと駆ける。バルキリースカートは速度と精密さに優れているが、
その反面パワーには欠ける武装錬金だ。隕石もかくやという勢いで落下する
少女の体を、切り裂くならともかく、受け止めるというのは無理だろう。
ならば、と斗貴子はバルキリースカートの刃を立てて四本揃えて薙ぎ払い、刃の側面で
少女を強く打った。軌道が曲がり、垂直落下が水平飛行を経てアーチ状落下へと変わり、
下方へ向かう勢いは大幅に落ちる。
そうしておいてから追いかけ、バルキリースカートの腕の部分で受け止めようとしたのだが、
「そうはさせるか!」
少女を追って垂直落下、ではなく垂直疾走。少女を投げ下ろしたホムンクルスが、
ビルの壁面を信じ難い速度で駆け下りてきた。
そしてその壁を蹴って跳躍、まだ打ち飛ばしたばかりでバルキリースカートが届かない
少女に向かって、
「やめろおおおおぉぉっ!」
斗貴子の叫びも虚しく、連続20メートルジャンプで実証済みの強靭な脚力による、
殺人蹴りが決まった。少女の体は再び下方への加速を得て、地面に激突する。
が、今度は流石に高さがなさ過ぎたので、死骸は潰れてはいない。潰れているのは、
蹴りを直接受けた顔面だけだ。頭蓋骨も残っている。それを丼にしてのトマトシチュー。
場所は先の全身シチューのすぐ隣、これで異様な死骸が二つ並んだ。

289 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/06(日) 22:22:23 ID:V9ZviZDE0
ホムンクルスはその真ん中に降り立つ。そして斗貴子を見た。
「ふん。お前、錬金の戦士とやらか? このバヅー様の食事の準備をジャマしたから
には、こんな風に楽には殺さんぞ」
バヅーと名乗ったホムンクルスは両手を下に向けて、二つのシチューを掌にある
口から吸い込み、啜り込んだ。ゴクン、と美味そうな音を立てて飲み込む。少女の方は
顔面しか潰れていないからか、顔面以外は残している。
そのホムンクルスは、シルエットだけならほぼ人間と変わらない。だが、流麗な筋肉
に包まれた全身は緑色で、額から二本の触覚が生えている。粗末で布地の少ない、
未開の地の民族衣装のようなものを身にまとい、黒い複眼をもつその貌はまるで昆虫。
わざわざ潰さないと人間を食えないというのはよく解らないが、何にせよとりあえず、
動物型ホムンクルスの一種だ。額に章印もある、間違いない。ならば殺すだけだ。
何より、むざむざ目の前で少女を殺されてしまった無念と怒りが斗貴子を奔らせて、
「楽には殺さない、のは私の方だっ!」
バルキリースカートをバヅーに向け突進! ……しようとして踏み止まった。
ゆっくりと、つまり徒歩で、接近してくる者の足音を聞いたからだ。この状況で悲鳴も
上げず逃げもせずに向かって来るとなれば、敵である可能性が高い。足音がはっきりと
聞こえるまで気配を感じさせなかったことから考えても、常人でないのは確実……
「!? 何だ?」
それどころではなかった。足音の主は灰色のスーツにネクタイを締めた白髪混じりの地味な
中年男、と明確に視認できている今でさえ、全く気配がない。まるで死体か人形のようだ。
斗貴子は混乱と警戒で動きを止めているが、バヅーもまた一歩も動かない。男はバヅーの
元へとのんびり歩いてきて、その肩にぽんと手を置いた。そして斗貴子の方に振り向く。
「困りますねえお嬢さん。お買い上げ前の商品に手荒なマネをされては。しかもこいつは
まだ値札もつけてない、そもそもつける予定もない試作品なんですよ。ですからご覧に
なられた通り、柔らかくした離乳食しか食べられないような子で……おっと失礼」
男はニコニコしながら名刺を取り出し、斗貴子に差し出した。
「わたくし、人材派遣会社パレット日本支社、新規事業開発本部の」
鈴木仁洋と書かれたその名刺を、斗貴子はバルキリースカートで打ち払った。

290 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/06(日) 22:23:02 ID:V9ZviZDE0
鈴木は眉をひそめる。
「おやおや。最近の若い子は全く、礼儀というものをしりませんねぇ。困ったものだ」
「ふざけるな」
「ふざけてなんかいませんよ。今だって仕事の最中なんですから」
鈴木は笑みを絶やさずに語った。
「当社は昔から、優秀な人材を様々な企業に派遣することを生業としておりましてね。
この度、同業他社との差別化を一気に推し進めるべく、画期的な新事業に着手した
のです。このバッタ型ホムンクルス・バヅーはその試作品というわけでして。只今、
この街全体を試験場として最終調整を……」
「ふざけるな、と言ったはずだぞ!」
斗貴子が踏み込み、バルキリースカートを繰り出した。鈴木とバヅーはまっすぐ下がって
間合いの外に逃れる。斗貴子が追う。二人は下がる。休みない斗貴子の攻撃をかわし
ながら、鈴木は答えた。
「ふざけてなんかいませんってば。私にも高校生になる息子がいて、家計は楽ではない
のです。何としても社の収益アップに貢献して、出世せねばならない。ですが、あなたには
理解できないでしょうけど、企業間の経営戦争とは、それはそれは激しいもの。これぐらい
の仕事をしないと勝ち抜けないのです」
「経営戦争で人材派遣会社がホムンクルスを造って、一体どうする気だ!」
「もちろん、派遣するのです。それを望むお客様のところへね。まだまだ研究段階ですが、
いずれは大工場で安く早く多くのホムンクルスを造れるようにと、只今鋭意努力中でして」
その光景、大工場で大量生産されるホムンクルスの図を想像した斗貴子が、顔色を変えて
動きを止めた。
「ま、まさか、お前たちはホムンクルスを軍事利用する気か!? ホムンクルスは人類全体の
敵、人食いのバケモノなんだぞ! それを、そんな……狂ってる!」
「あ〜、違います違います。わたくしどもは、決してそんな、物騒なことは致しません」
鈴木はぱたぱたと手を振った。
「お嬢さんのところ、錬金戦団さんみたいな、裏社会の怪しげな秘密結社とは違うんです
から。きちんと登記して公開して内部統制してISOも取得して個人情報保護に気を遣う、
れっきとした大企業です。ですから当然、やることといえばお金儲け。ホムンクルスは
造って売るだけで、当社自身では使いません。つまり軍事利用ではなく商業利用ですな。

291 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/04/06(日) 22:25:14 ID:V9ZviZDE0
バヅーと、この後出てくるホムンクルスたちは……すみません、超特大好きなもので……
……またまた『クウガ』です。
錬金の戦士たちはサバイバル訓練とかもしてましたし、武装錬金抜きでも強いんだろう
なと。そういえば斗貴子の目突きとかは、完全に生身の自力の素手の攻撃ですしね。
ブラボー技は流石に、スキンによる手足の保護もあってのことだろうと思いますが。

>>スターダストさん
びっきー&秋水についていろいろ思ってたら、見事に夫婦漫才が吹き飛ばしてくれました。
ぜひ今年の戦団忘年会でも見たいもんです。しかしその四人は四人で、小札にはもちろん
総角。斗貴子は(不在ですが)カズキ。となるとですね……余裕こいてますけど、桜花さん?

>>999さん他、皆様へ
「おかえりなさい」の言葉、ありがとうございます。

SSを読んで、その内容に萌えて燃えて楽しみ、
感想を書き込むことで、職人さんに意思を伝えられて、
他の方の感想を見て、こういう魅力もある作品だなぁと頷いて、
たまには自分の、いろいろ渦巻く妄想をSSにして披露したりもして。

こんな場所から、離れられませんて。
今後とも、よろしくです!

292 :作者の都合により名無しです:2008/04/06(日) 23:39:02 ID:pcqHRG0/0
・スターダストさん
どれほど一生懸命でも結局ギャグになってしまう小札は可愛いですね。
そして桜花は恐ろしい。桜花に釣り合う男なんているんだろうか。

・ふら〜りさん
ふら〜りさんはバキスレの座敷童みたいなもの。いなくなったらバキスレが滅びます。
新作も期待してるんで、末永く頑張って下さい。

293 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 00:08:00 ID:AtXz+1lJ0
ふらーりさんはこれからまたちゃんと現れてくれるの?

294 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 10:43:38 ID:ry375kvu0
ふら〜りさんもスターダストさんたちの影響で
錬金にはまったか。
ふら〜りさんの好きそうな感じの漫画だからなー

295 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 13:47:41 ID:ARYo9Xje0
クウガ?
タイトルからして企業戦士ヤマザキとのコラボじゃないの?
鈴木ってそれらしいキャラだし

296 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 14:11:41 ID:DhDHkG5Z0
ホムンクルスのモデルがクウガから、敵組織はヤマザキからじゃないのか?

297 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 15:47:15 ID:rmxf0Ae6O
パトレイバーだろ

298 :腐った百合の人 ◆LNiBLKfrIY :2008/04/07(月) 19:46:52 ID:6fwV2FY40

はじめまして。腐った百合の人です。
このスレの噂をよそで聞いてやってきました。

ネウロSS。
原作1巻と13巻未読の人はネタがバレるのでやめといたほうがいいと思う。
弥子の父親殺したのが誰かとか、蛭って誰のことかとか忘れてる人は
読んでも絶対意味わからんのでやめといたほうがいいと(略)
ネウロとか弥子とかのレギュラーキャラの登場を期待してる人もやめt(略)

299 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 19:47:00 ID:7naC2GBR0
さいさんの新作なかなか来ないな

300 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 19:47:50 ID:6fwV2FY40
 二週間前、都内の名門高校で男子生徒が殺害された。
 強酸性の消化液で顔をドロドロに溶かされた死体は、引き合わされた家族が泣き崩れるほど惨い
有り様だった。そしてそれから一週間ののち、もう一人の男子生徒が、まったく同じ手口で惨殺さ
れて発見された。
 捜査線上に浮上したのは、被害者のグループでいじめられていた少年。
 名前を大菅依という。
「殺された奴らのことを、恨んでいなかったと言えば嘘になります」
 黒く丸い両目を伏せて、大菅少年はそう答えた。
「トイレの個室に押し込まれて便器の水に顔を突っ込まれたり、足を雨どいに針金でくくりつけら
 れてよってたかって殴られたり。校舎の周りを裸で一周して来いと言われて、実際やらされたこ
 ともありました」
「裸で……」
 対して目をしばたかせたのは、向かいに座った竹田刑事である。
「悪ふざけで済ませられるレベルじゃないね」
「はい。でも……」
 この春入学したばかりの一年生。今年の誕生日はまだ迎えていないというから、まだ十五歳のは
ずだ。
 サイズの大きすぎるシャツに包まれた細い肩は、まだ成長期を迎えていないことを示している。
竹田の問いに首を振った瞬間、その成熟途中の肩がわずかに震えた。脳に刻み込まれた屈辱を反芻
していることは、誰の目にも明らかだった。
 署の備品のパイプ椅子に腰かけた彼の、膝に置いた手がこぶしを作った。きつく握り締められた
手から血の気が引き、指の付け根から先が白くなった。
「でも、だからって、『いい気味だ』なんてぜんぜん思ってません。だってこんなのって、あんま
 りひどいじゃないですか。何もあんな風に殺さなくても」
 特徴といえばやや太い眉くらいの、いかにも気の弱そうな平凡な顔は、苦行に耐えているかのよ
うに歪んでいた。眉間には浅い皺が寄り、垂れ気味の目の端は更に下がっていた。

301 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 19:49:17 ID:6fwV2FY40
 指は決して太くないが、関節は節くれだっている。胸板の薄い胸にその手が置かれる。
 心臓の鼓動を確かめるように、ゆっくりと呼吸して大菅は言った。
「人を人とも思ってない嫌な連中ではあったけど、それでもあいつらにだって家族がいたんです。
 いなくなったら悲しむ家族が。それを殺して奪うなんて、どんな理由があっても許されることじゃ
 ないでしょう? それくらいは俺だって理解してます」
「そうだね」
 竹田は頷いた。
「なのに周りの人間は好き勝手に、色んなことを俺に言ってきます。分かります? 色んなことを。
 『胸がスッとしただろう』とか『天罰だと思っただろう』とか、そんなのはまだいい方で、中に
 は『お前がやったんじゃないか』なんてストレートに言ってくる奴らまで。マスコミには『疑惑
 の少年A』だなんて好き勝手に書き立てられるし」
「ああ、毒日の記事なら読んだよ。ひどいものだったね」
 『"溶解仮面"は教育現場の歪みの被害者か?』あまり詳しくは覚えていないが、ヘッドラインは
確かこんな文面だったと思う。記事の中身は大菅が受けていたいじめの内容や、教師のコメントな
どがほとんどだった。
 匿名とはいえ、彼を知る人間が読めば本人の特定はたやすい記事。程度は違えど他紙も似たよう
なものだ。
「はい」
 竹田の相槌に首を振る大菅。
「どれもこれもでたらめです。信じてください刑事さん。俺、そんな大それたことができる人間じゃ
 ありません」
 聡明さを秘めた大菅の黒い目が、すがるように竹田を見た。胸に乗せられていた手が今度は肩を抱
いた。寒さに耐えるように一度、ぶるりと大きく身を竦ませた。
「そりゃあ、『こいつら全員いなくなればいいのに』とか、『死んでしまえ』とか、そんなふうに思
 ったことならあります。一度や二度じゃなく。でも、それと実際に殺せるかどうかって別問題でしょ
 う?」
「……ふむ」

302 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 19:50:47 ID:6fwV2FY40
「俺は小心者です。見た目どおりの臆病な人間なんです。変に騒いだり仕返ししたりして取り返しの
 つかないことになるくらいなら、黙っていじめられている方がまだましです。そもそも報復に出ら
 れるくらい度胸があったら、最初からいじめのターゲットになんて選ばれません」
 今度は竹田は答えず、ただ唇の端を持ち上げただけにとどめる。
 彼の表情を大菅がどう解釈したかは分からない。ただ、すがりつく目は悲痛な輝きを帯びた。
「俺はやってません。本当です」
 竹田は大菅の目を見返した。
 机越しに手を伸ばし、少年の肩にそっと触れた。宥めとも励ましとも慰めとも、どうとでも取れる
力強さで小刻みに震える体を叩いた。
「俺は小心者です。見た目どおりの臆病な人間なんです。変に騒いだり仕返ししたりして取り返しの
 つかないことになるくらいなら、黙っていじめられている方がまだましです。そもそも報復に出ら
 れるくらい度胸があったら、最初からいじめのターゲットになんて選ばれません」
 今度は竹田は答えず、ただ唇の端を持ち上げただけにとどめる。
 彼の表情を大菅がどう解釈したかは分からない。ただ、すがりつく目は悲痛な輝きを帯びた。
「俺はやってません。本当です」
 竹田は大菅の目を見返した。
 机越しに手を伸ばし、少年の肩にそっと触れた。宥めとも励ましとも慰めとも、どうとでも取れる
力強さで小刻みに震える体を叩いた。
「少し落ち着きなさい。確かにマスコミは君について書き立てているようだが、今のところ捜査の方
 針として君は容疑者から外れている」
「……はい」
「第一君にはアリバイがあるだろう?」

303 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 19:51:20 ID:6fwV2FY40
 最初の事件の被害者の死亡推定時刻は、犯行現場から離れた職員室で英語教師と会話していた。第
二の事件では、これまた犯行現場から離れた三階の更衣室で掃除していた。いずれも何人もの生徒や
教師が目撃し証言している。
 一方でそのアリバイの存在こそが彼に向けられる疑惑を強めるという、皮肉な結果になってもいる
のだが。
 完璧すぎるのだ。関係者一同の証言を照らし合わせたとき、『完璧すぎていっそ不自然だ』と、こ
の場にはいない竹田の相棒に言わしめたほど。
 確かに不自然には違いない。進学のため上京してきて一人暮らし、気弱な性格ゆえに友人も皆無の
大菅は、学校においていわば空気のように希薄な存在。その彼に動かしがたい目撃証言が、それも二
度にわたって存在する事実には、竹田の相方でなくても何かの作為を感じずにはいられない。
 だが竹田はあえてそれを示唆しなかった。
「そう不安がる必要はないよ。確かに君を疑ってる人間は多いが、私個人としては君のことを信じた
 いと思っている。誰かが君を犯人に仕立て上げようとしている可能性だって、ゼロとは言い切れな
 いわけだしね」
「そう言ってくれると助かります」
「身に覚えがないなら、ただ堂々と胸を張っていればいいんだ。真実というのはいつだって一つしか
 ないし、遅かれ早かれそのうち明るみに出るものだからね」
 詭弁である。
 闇に葬り去られた真実など無数にある。そもそも警察が常に真犯人を見つけ出せる万能の存在なら、
犯罪史上の冤罪事件も迷宮入り事件も、書物の中だけのフィクションに過ぎなかったはずだ。
 それが分かっていて竹田はあえて、この意味をなさぬきれいごとを口にする。
「現場の刑事にできることなんて限られているが、何なら先生がたに、私の方からご指導をお願いし
 ておこう」
「ありがとうございます。何から何まで本当に助かります」
 少年の小ぶりな頭が軽く下がった。
 翳っていた口元がこのとき、ほんの一瞬ちらりと覗いた。肉薄の唇は、上向きの三日月の形に大き
く歪んだ。
 安堵の微笑でも歓喜の笑顔でもない。しおらしく下げた頭の下で、大菅依が詐欺師の笑みを浮かべ
たのを竹田は確かに見た。

304 :殺人鬼たち◇連投規制に遭ったorz:2008/04/07(月) 20:02:01 ID:6fwV2FY40
「刑事さん」
 だがそれはごくわずかな、瞬きするにも満たぬ間。
 笑みはすぐにかき消え、沈痛そうな表層が再び戻ってきた。
「この事件の犯人って、どんな奴だと思います?」
 ひそめた眉も不安げな口元も、身近に潜む殺人鬼の存在に怯える男子高生そのものだ。
 見る目のない者なら、あるいは騙すことも可能だろう。しかし竹田をたばかることはできない。
「そうだね、まだ手がかりもろくにない状況だから何とも言えないが、ここまで捜査してきて個人的
 に感じたことをあえて言うなら……」
 捜査一課のベテラン刑事は、まだ幼さを残す大菅の瞳をまっすぐに見返し、言った。
「恐ろしく性格の歪んだ人間だね」
「…………」
「それも、外から見ただけでは歪んでいるとは分からないタイプの人間だ。他人の目にはごくごく穏
 やかで、大人しく人畜無害に見える。でも実際の腹の中は真っ黒なんだ。自分が満足を得るために
 他人を殺して何とも思わない、あるいは殺すことそのものを楽しいとさえ感じる。自前なのか、そ
 れとも経験で歪んだのかまでは分からないが」
 すっと、大菅の目が細くなった。
 竹田は気づかないふりをして続けた。

305 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 20:02:51 ID:6fwV2FY40
「二回の犯行を見る限り、今の彼の行動は怒りに突き動かされている。煮えたぎるような強烈な怒り
 にね。仮面の下の彼の表情が憎悪一色に加工されているのが、私には目に見えるようだよ。まった
 く惜しいな、その顔を今目の前で拝めないのは」
 本当に、惜しい。
 そう呟いて竹田は天井を仰いだ。
「怒りというのは残念ながら、そう長くは続かない感情なんだ。この犯人を今突き動かしている怒り
 も、そう遠くないうちに消えてしまうだろうね」
「それは……もうじき犯行も止むだろうってことですか?」
「そうじゃない」
 首を横に振る竹田。
「長年の経験をもとに言うことだが、こういう『歪んだ』人間は、一度こういうことに手を初めると
 二度とやめられない。今の彼を突き動かしている感情はそのうち消えるかもしれないが、いずれ必
 ずまた別の形で誰かを殺す。一人また一人と殺し続ける。永遠にね」
 表情の消えた大菅の顔に、竹田は人好きのする微笑を向けた。
「ああ、君がそんな顔をする必要はないよ。そうならないように私たち警察官がいるんだ。君のクラ
 スメイトを殺した犯人は、必ず私たちが捕まえるよ」
「……あんまり脅かさないでくださいよ。ほとんどホラーですよ、今の話」
「ははは、悪かったね。青少年に話して聞かせるにはきつい内容だったかな?」
 竹田は大菅の肩を叩き、しわがれかけた声を明るく響かせて笑った。

306 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 20:03:38 ID:6fwV2FY40



「竹田さん」
 少年を署の出口まで送ったところで、相方に声をかけられた。
「返しちまったのか? あのいじめられっ子の高校生」
「こんな時間だからね」
 竹田は肩をそびやかせ、 背広の袖から腕時計を覗かせる。
 彼の年代の男が持つにはそぐわない安物の時計は、九時五分過ぎを指し示していた。
「少なくとも今の段階ではまだ、容疑者でもない青少年だ。あまり遅くまで署に引き止めておくわけ
 にもいかんだろう?」
「そりゃあまあそうかもしれないが……あの子にはまだ色々と聞きたいことが」
 二十代半ばとも思えぬ老けた目が、視線を中空にさまよわせた。
 竹田は宥めるように笑ってみせる。
「随分と彼を疑っているようだね、笹塚」
「疑っちゃいねーよ」
 けだるく息を吐いて煙草を咥える相棒。
「不自然な点がやけに多いから一応洗ってるだけだ。目撃証言が二度とも単なる偶然だって可能性も、
 別にまだ捨てちゃいない」
「否定する必要はないよ、笹塚。私も彼だと思っている」
 装用時間が長引いたおかげで、コンタクトレンズが乾いてきていた。ちょうど目薬を切らしていた
竹田は、目元を押さえながら軽く何度か瞬きした。
 大菅依が見せた不安と悲哀は、負の感情に加工された表情をこよなく愛する竹田の心をまるで揺さ
ぶらなかった。見せ掛けの、作り物の感情を装っている証だ。
「もっとも、警察というのは決めつけで捜査してはいけない組織だ。これといった決め手がない以上、
 大っぴらに容疑者扱いするわけにはいかないよ」
「ああ、分かってる」
 首肯する相棒。
「あんたに教えてもらったことだ、竹田さん」
 家族を皆殺しにされ、ほぼ約束されていたに等しい高級官僚の道を捨てて刑事となったこの青年を、
一から教え導いたのは竹田である。絶望と無力感に加工されていた青年の顔は、今は若さに見合わぬ
倦怠をたたえている。それは彼の上司となった竹田にとって、なかなか面白い見世物だった。

307 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 20:04:19 ID:6fwV2FY40
「なあ笹塚。刑事の私がこんなことを言っては怒られるんだろうがね」
 長時間座っていたせいで凝り固まった首を、竹田はボキリと鳴らした。
「私には、あの少年が他人とは思えないよ」
「は?」
 相棒が煙草を口から離す。
「どういう意味だ、竹田さん」
「そのままの意味だ、深く考えなくていい。あまり他の人間にも言わないでくれると助かる」
 中肉中背の相棒の肩を、ぽん、と軽く叩いて歩き出す。
 相棒が首をかしげるのが視界の端に見えた。
「……ああ、ひょっとして、あんたも昔いじめられっ子だったとか?」
「そんなところだ。――それより早く報告書をまとめて帰りなさい笹塚。家で眠って体力を温存する
 んだ」
 唇の端を吊り上げる。
「この事件は長丁場になる。そんな予感がするよ」
 鏡はない。自分が具体的にどんな顔をしているのか、確かめることはこの場ではできない。想像で
補うほかはなかった。
 ほの暗い署内の廊下を歩きながら静かに笑う自分の顔は、さっき垣間見た少年の笑みに、どこか似
ているに違いないと竹田は思った。

308 :殺人鬼たち:2008/04/07(月) 20:05:18 ID:6fwV2FY40



 "溶解仮面"こと大菅依は、その後六名の犠牲者を出す。
 のちに怪盗Xのもとで"蛭"と名を変え、彼の手足として更なる死を振りまくことになるのだが、
それはまた別の話である。

















三度の飯よりネウロが好きで、コテハンもネウロの読み切りから。
レギュラーキャラより犯人のほうがいいキャラ出してる作品だと思う。
機会があればそのうちまた。

309 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:16:07 ID:SdjKuJvn0
前回から
「潰せ! 潰せ潰せ潰せ、潰せェッ!!!」
ノイズと共に現われる、戦鎚を振りかぶる鎧達。避ける度に石畳、露店、噴水の縁、家屋の壁等が木っ端と散る。
矢継ぎ早の集団戦法には途切れなく、そしてイヴの退路を断つ形で生じる。
彼女もまた間隙を縫ってリオンにブロンドの鞭打を見舞うが、敢えて彼は盾を出さずに彼女と同様回避する。
―――皮肉な事に、二人とも合を重ねるごとに冴え渡っていた。互いが強ければ強いほど、自身の戦術が次々更なる扉を開ける。
まるで命懸けの舞踏。共に敵意に満ちた攻撃が掠め過ぎ、その体捌きが次第にしなやかさと機敏さを増していく。

「貫けッ!」
視界の外から突き込まれる騎兵槍―――首を傾げただけで回避する。
「はぁッ!!」
鎧達を迂回して迫る金髪の拳―――威力に逆らわず素手でいなす。

背筋が凍るほど、どちらも自分の有り様に震えていた。自分で自分が信じられなかった。
……力量の近い者同士が戦う事でごくまれに起こる現象だった。
死地をそのまま経験値として、まるで共振現象の様に双方が高まりあう。更にこれは、ランナーズハイにも似た昂揚感に
突き動かされてどちらの意志でも止められない。
多くの場合、完全決着がその終焉だ。
そしてそれが訪れるのは、どちらかが上昇の均衡を破った時だ。

310 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:16:43 ID:SdjKuJvn0
「斬れッ!」
振り下ろされる大剣を二分の見切りで捌き、その向こうに立つリオンに思考の外から一撃を振舞うべく地面にブロンドを穿孔させる。
常の戦闘なら有り得ない地面からの掌打を、黒い自動防御が防ぐ。だが開いた長大な指が盾を掴まえて脇へと押し遣り、
肘の様に曲がった其処から拳が生まれて襲来――――するも、素早く大きな後退で距離を稼ぎつつ、
「―――三人、掴まえろッ!!」
投げ飛ばされた意趣を返す様に、金髪の豪腕に三体の鎧が取り付いて更に足を石畳に打ち込む。
その膂力に動かないのを判断するや、イヴの髪が次の命令を下す前に肩口辺りで切断、たちどころにただの髪からチリとなる。
僅かに遅れて、リオンの命令によって現われた鎧が飛び退いたイヴを槍で刺し損ねる。

息つく間も無い攻撃に次ぐ攻撃、回避に次ぐ回避。
体力と気力の臨界はもう目の前だと言うのに、止まらない、停まれない。
二人の膝は笑っていた。露骨なまでの戦闘疲労が訪れながらも、なお冴え渡る自身と敵に躍らされる。
こいつ……何時になったら終わるんだ!!!
当たらない……当たらない……どうして…
焦燥を胸だけに押しとどめ、剣呑な輪舞は激しさを増す。

311 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:17:21 ID:SdjKuJvn0
再び伸長したブロンドが巨大な手となり、大振りの拳鎚を振り下ろすもリオンは手も無く回避。
そして反撃……と思いきやその反力と下腿のバネで少女の身体は飛翔、制空権を物にする。その手には、何時の間にか拾った投槍。
「……ッはあぁッッ!!」
投じるや一転、それは空中で割れ砕け、無数の散弾と化す。
だが命令はしない、回避もしない。自動防御に防がせて真の機を鉄の驟雨に待つ。
その行動に答える様に、リオンの後方にブロンドの手が突き立った。
「! 殴れぇッ!!」
ブロンドの伸縮で自らをリオンの背後に送ろうとしたイヴの前に、威圧する様に拳を振り上げる鎧。その巨拳を、彼女も素手で捌く。
そして消失を確認して次の戦法に切り替えようとした瞬間、ずん、と威力が腹腔を貫いた。
「…ッ!?」
「…やっと………当たったぜ」
――リオンの跳び蹴りが、中空の彼女を完全に捉えていた。
彼がこの高さに来るには、尺が足りない筈だ。故に此処は彼女とせいぜい鎧の領域である筈だ。
しかしイヴは知らない、リオンですら僅か一毛の閃きで至った。
―――――彼女が出させた盾を、足場にしたのだ。

312 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:17:55 ID:SdjKuJvn0
そして落下する二人。だが着地はそれぞれ別………リオンは辛うじて足から。イヴは背中から。
体重が軽いためそれほどきつい自由落下ではないが、それでもその差は明らかだった。
「う………ぐぅ……っ」
「どうだ………勝ったぞ!」
とてつもない疲労の中、荒い息を押しのけてようよう勝利宣言を搾り出す。それを聞く少女は、もう満足に動けない。
「お前は………もう危険だ……。
 絶対この先……オレの計画と星の使徒の脅威になる………」
それは、お互いの戦い振りを慮ってのものだ。
戦いとは、多くの場合技術向上を促す。実際リオンは戦術のケタが跳ね上がった事を理解しているし、イヴも更なるナノマシンの
使用法に目覚めた筈だ。前衛であれ支援であれ、きっと最上の結果を出すだろう。
「動くな……今度こそ動くな…………痛みなんて…感じる暇も、与えねえ」
イヴも見上げながら、全身に廻らせた活性ナノマシンで筋肉から乳酸を追い出し、酸素を最優先で満ち渡らせ、あと少し動ける力を
何とか搾り出そうとするかたわら、修復型で損傷を今動けるだけ直している。
せめて三秒。それだけあれば充分次に繋げるが、それを作る時間すらリオンは与えまい。
「…ぶっ潰…!」

「――――お姉ちゃん、動いちゃダメ!」

313 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:18:39 ID:SdjKuJvn0
その叫びに、リオンの目測が狂う。イヴの回避行動が止まる。鎧が、鉄槌を振り下ろす。
そして―――――、まるで岩同士が激突する様な巨大な轟音。
「な……に…?」
「……ッッ?」
巨大な四角柱の槌頭が、今まさにイヴが移動しようとした位置にめり込んでいた。その僅か指二本分の位置に、彼女の体がある。
呆然とするリオン。その隙にイヴは跳び退り、置き土産に金髪の鞭が彼を弾き飛ばすも地面を擦って着地した。
「くそ…ッ、何だ、一体…!!」
「……………シンディ…」
二人が目をやった其処に、息を切らせる少女が居た。
力の限り走ったのだろう、自分達より更に倒れそうな疲労状況だが、それでも彼女は倒れる事も言葉を停める事も一切拒否する。
「お姉ちゃん、右に逃げて!!」
彼女の能力を知るだけに、体が思考を待たず反応―――――、
「六人、斬れッ!!」
大上段で剣を構える鎧の囲みを、それだけで突破していた。
「上から来るよ! 防いで!!!」
「ブチ割れッ!!」
背後から振り下ろされる斧。しかし炭素結合強化したブロンドの腕が、鋼以上の強度で押しとどめる。
「一歩だけ下がって!!!」
「―――斬れ! 割れ! 投げろッ! 貫けェッ!!」
半ば自棄ぎみの命令の乱発。だが、シンディの言葉に従っただけで攻撃の渦中に居ながら掠りもしない。

思わぬ援護に、イヴは彼女と目を合わす。
二人の間に言葉は無い、しかしシンディの真っ直ぐな眼差しと立てた親指が改めて繋がる心と絆を証明していた。
戦うのは誰が為か、血に塗れるのは何が為か、傷付くのは何を守る為か、彼女は理解してくれた。だから此処に来て、
出来る事をしてくれる。
独り善がりの闘志じゃない―――――それを行動で保証してくれるシンディの勇気と優しさに、思わず涙を零しそうだった。
動けなかった筈の身体に、何処に有ったか判らない力が漲る。
「ありがとう」は後で言おう。今勝つ為に。彼女の一助を無駄にしない為に。そして……支えてくれた意志を、貫く為に。

314 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:31:37 ID:SdjKuJvn0
これから回転するバレリーナの様に、上体を捻る。
「はァッ!!!」
掛け声と共に捻りを戻した勢いに合わせ、まるで太い槍の様に束ねられた金髪がリオンに迫る。
「防げッ!!」
対する彼も、最早定番となった防御で凌ぐ。だが――、彼女の狙いは寧ろ其処から。
全てのブロンドが、鎧に巻き付いた。
「!?」
そして繭の様に覆われた其処から、無数の触手が生まれて再度彼へ猛襲する。
もう鎧や盾で攻撃を防げない事を確信――――やむなく身を転がして捕獲から逃れ、
「く…っ! 潰せ…!」「左に大きく逃げて!」
先刻までならせめて牽制になった一瞬を、あっさり言葉に奪われる。
「何なんだ……何であいつ………何で、出す≠フが判るんだ!?」
ばかりか、位置も対処法も。
リオンはシンディの力≠知らない。だが、知った所で何が出来る訳でもない。それが未来を読むと言う事だ。
再び襲い掛かるイヴの鞭打。しかしリオンは防御を出さず敢えて回避に専念、最低限に抑える。
「もっと離れて!! 走ってくるよ!!!」
遂に助言は彼自身の行動にまで波及し、まさにそうしようとした一歩がイヴの大きな後退で無意味に終わる。
二人がそうであった様に、恐らく時間を掛ければ掛けるほど少女の予言も精密を増していくのだろう。
猛攻を凌ぎながら、リオンは苛立っていた。
其処へ、彼にとって最も憎むべきものがやって来た。

「シンディ!!」
息せき切って彼女の元に現れたのは、銃で武装したマリアだ。
彼女にしてみれば、突然走り出した娘を追いかけて来ただけ。しかしリオンには、その親子が別の光景に映る。
それは―――大人の指示で加勢に入った子供

315 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:32:07 ID:SdjKuJvn0
「………大人の手先め」
そうと決まれば遠慮は無い。
劣勢で苛立ったリオンの脳はそう判断し、胸中に燎原の火そのままに怒りが燃え広がる。
対して、その怒りを至近で捉えたイヴには氷を捻じ込まれた様な悪寒。
「シンディ! マリアさん! 逃げて!!」
叫んだがもう遅い。しかもシンディは自分の未来を見ていない。
マリアと少年の目が合う……が、彼女には彼が如何なる存在か判らない。
「ブン投げろッ!!」
現れた鎧の握っていた物は、棘だらけの鎖鉄球。しかもそれを、頭上で振り回して遠心力を稼ぐ。
危機を察したマリアがシンディを抱き締める。無論それで何を防げる事も無い。
慌ててイヴが奔る。だが既に、鎧はその手から親子に向かって放っていた。
その軌道を遮るべく手を伸ばす。しかし遠く、遅い。彼女の目前を鉄球が過ぎ去った。
髪の腕が食い止めるべく寸手で軌道に割り込む………が、威力がそれを粉砕しただけで逸れもしない。

―――凍り付いた一瞬で、少女は世界の無情を噛み締める。
どうして………?
問うがその答えは返って来ない。引き伸ばされた刹那の最中、悪意に満ちた幻影がゆっくりと親子の死に向かう様を目で追いながら、
イヴは余りにも自然に訪れる現実に愕然とした。
『お前に護れるものなんて、この世に有ると思うなよ』
先刻のリオンの言葉が、呪詛となって少女の心に木霊す。
頑張ったのに…どうして………
救えないのか? 護れないのか? それは何故だ? ヒトでは無いからか?
疑問は何も事態を進展させない。時は止まらず、リオンの殺意が掻き消える事も無い。
再びあのどうしようもない♀エ覚が蘇る。諦念、絶望、虚無と言ったヒトを生きる屍にする心の死病。
結局全てが無理で、無駄で、所詮自分のやった事は世界を何一つ変えられなくて、空回りしただけだった。
祈りは通じない。希望は闇に消える。愛も夢も弱者が作った幻で、命は無益な強者に奪われるだけの存在だ。
結局全ては力であり、物量であり、物言わぬ行動にのみ支配されるものなのだ。
世界が閉じる。全てが色を失っていく。「この世に意味など無い」と、脳裏で絶望が囁く。
所詮ヒトならぬ身で、祈る事など無意味なのだ。応える神など、居る訳が無い。

316 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:32:41 ID:SdjKuJvn0
――――――違う!!!
だが絶望の闇を、否定の光が切り裂く。
そうではない、誓ったのだ。今有る全てに。確かに今は限り無くゼロに近いが、諦めれば完全にゼロだ。
捨ててはならない、諦めてはならない、この矛盾と絶望に満ちた世界に折れてなお健在である為に。
絶望も諦念も虚無も、何もかも跳ね除けて吹き飛ばす為に、彼女の足は走った筈だ。
暴威にも、悪意にも、屈さぬと誓った筈だ。
しかしこの状況は、彼女一人では覆せない。最早彼女に出来るあらゆる手が届かない。
誰か……
祈りに応えないのを判っている筈なのに、それでも彼女は祈る。
私はどうなっても良いから…………助けて
伸ばした手の先に親子が二人。護りたい、助けたい、そして救いたい。願う、過ぎ行く刹那でひたすらに。
傷付いて欲しくない。死なないで欲しい。世界の悪意に負けない様に、ただ何よりも想う。
私に祈る資格が無いのも判ってる………
ヒトならぬ者の言葉が届くとは思わない。それでも祈る、世界を変える為に。
二人を……………助けて!!!

その願いに―――――――、銃声が福音となって応えた。

親子の背後から鎖鉄球を迎え撃つ強装弾の連射。それによって軌道が逸れ、少し遠くに有った屋台を破壊して消失した。
「危ねえな……ギリギリだったぜ」
残響が木霊す中、トレインが愛銃を下ろしながら安堵の息を吐いた。
「マリアさん、シンディちゃん、怪我は!?」
その後ろから、リンスが二人に駆け寄った。そして無事なのを確かめるや、彼女もまた肩を落とす。
「良かった…………もしこいつを連れて来るのがあと少し遅れてたら…」

317 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:33:26 ID:SdjKuJvn0
……リンスの言っていた「大変」とは、シンディの暴走だった。
危険極まりない街中を、少女一人がイヴを捜すと勝手に走り去ったのは全く以って大変な事態だったが………
それが無ければイヴは死んでいたし、もし本当に遅れていたらマリア親子は助からなかった。
何もかもが危うい綱渡りの現実。だがそれは、祈りが届いたとしか思えない神の配剤。
イヴも体から力が抜け、その光景を見るままにへたり込む。
「イヴ」
彼女に、トレインの力のこもった言葉が届く。
「………よく此処まで頑張った。後はオレ達に任せろ」
これまで邪魔扱いしていた男の暖かく優しい言葉。
染み入った。これまで受けたどんな言葉よりも。
一人じゃない。そう教えてくれる、簡素で拙い………だが何より届く極限状況だからこその愛情。
此処が戦場で、そしてまだ戦いが終わっていない事も判っている。それでも、双眸から零れ落ちる熱さ≠止められない。
そして止められないままに、彼女は声を上げて赤子の様に泣いた。
だが悲しくも無い、辛くも無い、満身創意では有るから痛くは有るが、それとは関係無しに溢れる号泣。
彼女は生まれて初めて――――――嬉しさで泣いた。

「…さて、次はこっちの問題だが……」
イヴの激涙を背景に、トレインはイヴと同じ様に満身創意の少年へと足を運ぶ。
「坊主、お前が道士だな? 今消えた鎧がお前の道か」
弾丸を込めながら、トレインは警戒を全て彼の一挙手一投足に注ぐ。
「ウチのお姫様と随分遊んでくれたじゃねえか。遊び賃代わりにクリードの居場所を教えたら、大人しく帰してやっても良いぜ」
銃剣やらスパイクやらが飛び出した異形の銃に、それだけでリオンの戦意が挫かれそうになる。
のみならず黒服の怪物に「逃げるので精一杯だった」と言わしめる魔獣の前では、何が出来るだろうか。
しかし……だから此処で終わり、と言う結論は彼の中には無い。

318 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:34:34 ID:SdjKuJvn0
「上……等…ッ…だぜ。
 大人なんかに負けてたまるか………オレの道はナンバーズを蹴散らした事だって有るんだ……」
「オレがそんなもんに収まると思ってんのか?」
それでもトレインの眼差しは空気が軋む音がしそうな鋭さと強さだ。視殺戦でこの男に敵うのはクリード位のものだろう。
「オレは、悪意向ける奴に老若男女平等だがな……それでも良いのか?」
シンディやマリアばかりか、リンスまでその気迫の余波にさえ潰されそうになる。
トレインも内心怒りに怒っているのだ。平和な街を戦場にされ、一般市民を巻き添えにされ、そして仲間はこうして傷付いている。
その上、事の一因が自分にもあるのだと言う事が、彼を魔獣に戻しつつあった。

「やってやるぜ………遊びは終わりだ。
 もう…こんな街知った事か。お前ら……一匹残らず瓦礫に埋めてやる!」
「安心しろ、オレは丁寧に埋葬してやる」
何処までも淡々と、しかし雄弁なトレインの殺意。だが、それでも少年の妙な自信を見逃さない。
「見せてやるぜ……これがオレの…………!!!」
そう身構えたその時だった。
まるで隕石の様に――――――、何かがリオンの傍に降り立った。
激しい破砕音、飛び散る破片、それらが闘争の空気に水を打つ。

319 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:40:04 ID:SdjKuJvn0
「! てめえ……あの時の…」「こいつ…!」
トレインとリンスが懐かしい敵の襲来に緊張を固める。
「……リオン、これ以上の戦闘は無意味だ。撤退するぞ」
二人の戦意に動じる事無く、黒服の怪物はうっそりと撤退命令を告げる。
「邪魔すんなよファルセットさん! こいつらは………此処で絶対に殺す!!!」
しかし少年は、怪物の指示に応じず頑と戦意を示す。
「もう戦闘可能なのは俺達二人だけだ。此処で手を全て晒す事も有るまい」
「…ああ? エキドナはどうしたんだよ!? あいつが居れば……!」
「生きてはいるが、この通りだ」
怪物が顎をしゃくって肩に背負うそれに目を向けさせると………其処には、濡れた布の様に力無く手足を垂れ下がらせる彼女が居た。
良く見れば、何事かを呻くばかりで意識も覚束無いらしい。
「はあぁ!? 一体誰が…!」

「―――――イヴ!!!」

「…奴だ」
怪物が示した先には、戦い抜いたイヴを見つけて蒼白のスヴェンが立っていた。

320 :AnotherAttraction BC:2008/04/07(月) 20:56:13 ID:SdjKuJvn0
俺は…………誰もが知っての通り謙虚だ。
だから神様、お願いだ。週イチペースにしても良い!!
俺にポッと沸いて出た数百億のヘソクリと、寿命以外で死なない体と、
綾波系のナイスバディなツンデレ美少女護衛兼メイドをくれ(ここ熱望)!!!

……………病んでますが、何か? NBです、皆さんこんばんわ。

さてさて、今回で第十二話「魔軍」終了です。
次回、第十三話「決着」を乞う、ご期待!!

……遅れた理由について書きたいのは山々ですが、プライベートの愚痴になるのでご勘弁。
俺も手っ取り早く書ければ、と日々思っております。しかし世の中ってなぁ立ち行かねえ。
時間が有るなら俺も、他の方々の様に何か別なのを書きたいとは思っていますがね。
まあ、何はともあれ楽しんで頂けたでしょうか?
と言う訳で、今回はここまで、ではまた。

321 :作者の都合により名無しです:2008/04/07(月) 23:40:35 ID:0H9bCXMe0
>殺人鬼たち作者さん
俺もネウロが大好きです。
この作品も面白かったので、またお願いします!

>NBさん
お久しぶりです。随分と間が空いていたので心配してました。
またNBさんのトレインたちの戦いが読めるので嬉しい!

322 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 00:33:50 ID:HZ+K7DX50
・殺人鬼たち
ネウロは変態を書くにはいい素材だよねー
笹塚たち脇役もいいけど、今度は主役コンビと変態の活躍をみたいな
またたまでいいんで書いてください。殺人鬼「たち」ですからね

・AnotherAttraction BC
お久しぶり。半年振りくらいかな?正直、投げ出しかな?と危ぶんでたw
シンディがけなげでいいですね。イヴの懸命さも好きですけど。
影が薄かったトレインも現れたんで、次回はせめて来月くらいにはぜひ。

323 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 05:13:16 ID:xUwkekkQ0
お二人ともお疲れ様です。
二つとも原作好きなので、心沸くものがありますねぇ。

>殺人鬼たち
ネウロって、犯人のエピソードを書くだけでも大分話が膨らみますよね。
なんてことのない原作の保管話なのに、こんなにも惹かれるのは
キャラの立ち方をしっかり描けてるからでしょうね。次回作も期待です!


>NBさん
待ってました! 自分はいつまでも待ちますよ!
『戦う』ことよりも『護る』ことの配分が大きいイヴの戦いが悲しすぎて……で、
ようやく出てきた主人公・トレインですが、その『安心』できる存在感に圧倒されました。
まだまだプライベートの事情もあるでしょうし、次回もゆっくりどうぞ。待ってます!

324 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 08:53:01 ID:9f5yZUJ+0
新人さんとNBさんが立て続けに着てて非常に嬉しい。
殺人鬼たち作者さん、これからも是非おいでください。
NBさん、お話も佳境なので出来れば間を於かずお願いします。

325 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 12:36:33 ID:Op0XUB3R0
NBさんキターー!

326 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:21:36 ID:Ha873J+b0
第046話 「絶縁破壊 其の伍」

「帰って」
 冷然たる眼差しを浴びたまひろは、「ふぇ?」と目をしぱぱたかせた。
「ココに来たってコトは大体の事情は知ってるでしょ。でもあなたにどうこう……」
「あ、大丈夫だよびっきー!」
 ヴィクトリアは肩に異様な外圧が加わるのを感じた。見ればまひろがいつの間にやら正面に
回り込み、細い肩を砕けんばかりの力で握っている。ヴィクトリアがホムンクルスでなければ
痣の一つか二つは平気でつくのではないかと面喰ったのも無理はない。傍にいた秋水でさえ
「もうちょっと加減するんだ、骨が少し軋んでいる」
と制止に入ったほど、まひろは加減がなかった。
「あ、ゴメン」
 ひとまず手を肩から剥がされたヴィクトリア、
「痛いわね。いきなり何するのよ」
  と、目を吊り上げて抗議すると、まひろはちょっと頭に疑問符を浮かべた。どうやら寄宿舎
生活におけるヴィクトリアとのギャップを感じたらしい。
「いちいち鬱陶しいわね。こっちが本性。分かる? あなたとトモダチごっこしてる時はネコ被っ
てただけ。分ったら帰って」
 百六十一センチのまひろに負けじと百五十センチのヴィクトリアは手厳しい上目を這わせ、
厳然たる冷気を放った。
「えーと、ホムンクルスだから?」
 しかしまひろは平然と、しかしヴィクトリアを最も苛んでる言葉を返してきた。
 一瞬、冷気が途絶え深い闇に帰結した。
「そうよ。ホムンクルスだから……」
 地下で百年も暮らし、日常の中で陰惨な衝動を覚え、その解決につながるであろう説得に応
じられずにいる。認識するとやり場の怒りが吐胸をつき何も言えなくなる。
「でも、大丈夫だよ」
 まひろはヴィクトリアの右手をするりと取り上げると、太陽にも似た暖かい笑みを浮かべた。
「確かに私もね、こう、くわせろぉ〜くわせろぉ〜っていう」
 まひろが右手でひっかく真似をしかけた瞬間、秋水はげんなりと呟いた。
「それはもういい。頼むからやめてくれ」

327 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:21:59 ID:Ha873J+b0
「え、ダメ?」
「駄目だ」
 まひろはキョトンとしながら横を向き、秋水は一筋の汗を垂らして応対した。
「じゃあやめるけどね、昔ね、爪の尖った三角頭のホムンクルスに襲われたコトあるんだよ私」
「だから何? 『びっきーはホムンクルスっていうけど怖くないよ』とでもいうつもり?」
 ひどく不機嫌な応対に、しかしまひろは瞳を輝かせた。
「その通り! さすがびっきー!!」
 そして猿叫にも似た声を上げて猛然と抱きかかってきた! ヴィクトリアは避けた。頬を引き
つらせ瞳を半円にしながら辛うじて避けた。哀れまひろは笑ったまま煉瓦の壁へとミサイルが
ごとく着弾し、盛大な音を地下道の彼方にまで響かせた。
(この子は……まるで学習していない)
 いつかと似たような光景を憐み、秋水はこめかみを押さえた。
 やがて土埃が晴れると、散乱する煉瓦の中で尻餅をつくまひろが現れた。勢いでフードをか
ぶったらしく、猫耳をピンと立てたまま黒い瞳をくしゃくしゃにして抗議した。
「うぅ……ひどいよびっきー。何で避けるの……?」
 ヴィクトリアは鼻を鳴らした。まひろの被害など一顧だにしていないのだろう。
「悪いのはアナタの方。だいたい何? ホムンクルスって知りながら飛びかかってくるなんて正
気の沙汰じゃないわ。だから自業自得……」
 ヴィクトリアの瞳に「うぅ、ただ抱きつきたかっただけなのに」と涙を流すまひろが映り、つい
つい冷笑が浮かんだ。
「いい気味ね」
 元々まひろが好きではないのでひどい目に合っているのを見るととても気分がいい。
 同時に、一つ着想が浮かんだ。
 幸いココはヴィクトリアの領域だ。アンダーグラウンドサーチライトは作り出した空間を操れる。
 例えばいわゆるロボットアームのような、手先がランドルト環(視力検査につかうC見たいな奴)
をした物体を一本、まひろのお尻の傍からニョキニョキ生やして頬をつねるのも可能なのだ。
(いいわねそれ。実行)
「え、え? ふぇえええ……いはい、いはい〜! やへへー!!」
 モチモチしたほっぺが無機質な器具につままれて、まひろは露もない顔を右斜め上をぐにょー
んと引っ張られた。
「アナタ……私を説得しに来たっていうけど」

328 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:23:04 ID:Ha873J+b0
 薄笑いを浮かべながらその拷問(?)現場へヴィクトリアは歩を進め、ひどく得意気に見下した。
「この程度の、オモチャみたいな仕掛けにも何もできないのに、何ができるっていうの? 断っ
ておくけど私はあなたが前からキライなの。少し苦しんで貰おうかしら」
 声と同時にロボットアームがより強く可動した。
「ふー! やーひっははふぁいへー。やーへーへー」
 まひろの頬は更にもっちりと柔らかそうに引き延ばされた。彼女はロボットアームを必死に開こ
うと試みたが、万力のような力でがっちりと閉じていて叶わない。
「ほら。いってみなさいよ」
「ひーふははー、ははひへー!」
 目じりの端に涙の粒を浮かべながらまひろは両掌を戯画的な球の形にして大手でバタバタと
振るうが、対するヴィクトリアは
「何? 聞こえない」
 とひどく威圧的で攻撃を止める気配がないため、見かねた秋水がたたらを踏むような足取りで
騒ぎへ近づき、嘴を挟んだ。
「落ち着くんだヴィクトリア。少しやりすぎ……」
「アナタは黙ってて」
「……」
 首だけを捻じ向け、横顔で睨むヴィクトリアに秋水は硬直し、その場でぴたりと足を止めた。
 感じたのだ。桜花にも漂う女性特有の恐ろしさを。女の争いに生じる修羅の情念を。
 要するに気圧されて何もいえなくなった。一つには真面目な説得にまひろが乱入してきて
壁に激突するやらヘンな仕置きを受けるやらで軽い混乱状態をきたしているせいでもある。
「まぁ、別にいいわ。口を歪めてもがくしかできない人間なんていたぶっても何の解決になら
ないし」
 ロボットアームが小気味いい駆動音を立てながらまひろを解放して床へ没した。
「あ、ありがとー」
 解放された少女は頬を真赤に腫らしながら笑ってみせた。
 ──そんな反応は求めていないわよ。
 と、いいたげにヴィクトリアの眉が苛立たしげに跳ね上がった。
「で、どこまで話したっけ?」
「私が怖くないとかどうとかまでよ……ってまだ続けるつもり?」

329 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:23:35 ID:Ha873J+b0
 うんざりとした様子で呟かれたまひろは、眉をいからせ力強くうなずいた。
「もちろん!!」
 その瞬間、ヴィクトリアは視界が著しい幻惑に見舞われるのを感じた。幻惑、そう、幻惑で
ある。睨むコトによりピタリと視線を吸いつけていた筈のまひろの姿が俄かに描き消えたの
だ。幻惑といわずして何といおう。忽然と、座ったままのまひろの姿がなくなった。
「後ろだ! ヴィクトリア!」
 突然響いた秋水の半ば悲痛な叫びの意味すらヴィクトリアは解しかねた。
 ……肩から柔らかい手が垂らされ、大嫌いな声が耳元で響くまで。
「なんとかつかまえたー!! コレでちゃんとお話できるねびっきー」
(目で追うのがやっとだった……!)
 秋水の全身から冷たい汗が吹き出し、形のよい顎から麗しい滴がぽたりと垂れた。
 まひろは。
 ヴィクトリアの背後にいた。座りながらも直視から瞬間的に免れ、しかも動体視力にすぐれた
剣士ですらただ茫然と見るしかないほどの速度で。
「ちょ、離して」
 背後から抱きつかれたヴィクトリアは困惑と怒りに少し顔を赤くしながら身をよじった。
「やだ。離さない。ちゃんとお話しないと駄目だよ」
 一瞬、まひろの声が沈んだような気がしたが、真意はヴィクトリアに分からない。
 それにしてもまひろの膂力ときたらどうだろう。高出力(ハイパワー)を誇る筈のホムンクルス
が捉えられている。
(力も速度もホムンクルス以上というのか彼女は──!)
 秋水は顎に溜まった汗を拭いながら驚愕に目を見開いたが別にそんなコトはない。
 要するに一瞬一瞬の爆発力がまひろゆえに色々超越していて、それに驚いた周りの者が
勝手にペースに巻き込まれているだけなのだ。

「つまりさ、びっきーは人間を食べたくなるから寄宿舎を抜け出しちゃったワケだよね」
 まひろはヴィクトリアにおぶさるような姿勢をとりつつ、右の人差し指を口に当てて思案顔で
上を見た。
「……知ってるなら今さらいう必要ないじゃない」
「優しいねびっきーは」
 少女の薄い胸の前に再びしなやかな腕が垂れ、ほわほわした陽気が体重を預けてきた。
「は?」

330 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:24:02 ID:Ha873J+b0
「私の知ってるホムンクルスはね、すぐ問答無用で食べようとしてきたんだよ。もっとも、すぐ
お兄ちゃんが助けてくれたんだけど、でももしお兄ちゃんがいてもきっとびっきーと戦わないと
思う。うん。優しいもん。さっきだって武装錬金で私にケガさせたりしなかったし」
「何で武装錬金まで知ってるのよ」
「え、だって私、講座とかしてたから!」
「講座……?」
「それはともかく!」
 手は肩のあたりで曲がり、ヘアバンチに止められた艶やかな金髪の束を鎖骨もろともくしゃ
りとかき抱いた。
「びっきー、私たちに迷惑かけるのを気にして寄宿舎を出たんでしょ? なら、こわーいホムンク
ルスとは違うよ。ただの可愛い女のコだと思うよ。うん」
(…………ホムンクルスとは、違う……)
 ヴィクトリアの心に少し決定的な揺らぎが生じた。
 思えばまひろより遥かに多くのホムンクルスを見てきた。みな凶暴醜悪で人に害成すしかな
い存在だった。だから嫌悪していた。同時に同じ立場である自分自身も。人喰いの衝動を千里
に催した時から一段とそれは強まり、悔恨や諦観とともに絶望的な気分を醸し出していた。
(……でも、違う…………?)
「びっきーって……体ちっちゃいよね」
 少し湿った声が背後から掛かり、ヴィクトリアは息を呑んだ。
「でも……戦ってたんだよね。こんなにちっちゃいのに」
 肩に回った手にぎゅっと力が籠った。
「こんなちっちゃいのに、皆を食べないように食べないように……って。偉いよね。私にはでき
ないよ。うん……絶対…………ね」
(このコ……泣いてるの……?)
 とすればそれほど反応に困る出来事はない。
 嫌っていた人間が、いつもヘラヘラ笑っていた人間が、ヴィクトリアを「偉い」と褒めて、しかも
泣いてすらいる。それが演技でないコトは、ヴィクトリア自身、裏表のある人間だからよく分かる。
 困惑は、背後から「ぐすっ」と鼻をすする音がした時、最高潮に達した。
「でも、でもね。だったら一緒に仲良く暮らすコトだってできるよ。絶対! だから一緒に帰ろ?」
 まひろの拘束が解かれ、代わりにヴィクトリアの体が百八十度回転させられた。
「ね?」

331 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:25:14 ID:2grDdD4I0
 泣き腫らした赤い瞳で、なお透き通るような笑みを浮かべるまひろにヴィクトリアは何もいえ
なくなった。
「彼女の言う通りだ」
 それでもまだ躊躇っているのを見通したように、秋水の声がかかった。
「覚えているか。俺はかつて君に、予期しない形で衝動が出るという話をした筈だ」
 まひろがそーっとヴィクトリアの肩を持って、秋水の方へ向けた。
「俺は昔……俺と姉さんを助けようとしてくれた者を背後から刺した事がある」
 微かに震える声は一人だけに向いていないように思えた。
「瞳をただ濁らせて、自分が苦痛から助かるためだけに」
 まひろが少し震えたような気配がしたが、背後にいるため表情までは分からない。
「俺が彼を殺せば、彼の大事な者達が俺と同じ苦しみを味わうとも知らずに……」
 秋水は拳を固く握りしめながら、ヴィクトリアの前へと歩み寄る。彼女は逃げようと足を動か
しかけたが、背後から力がかかり押さえられた。まひろが止めているのだろう。
「でも君はまだ俺のような危害を振り撒いてはいない!」
 沈痛な気配を振り払うように、秋水は決然と目を見開いた。
「それを阻止する手段だってあるんだ! だったらまだ誰に憚る事もなく日常の世界に戻る事
ができる! できるんだ!」
 長身が屈み込むようにしながらヴィクトリアの目を見据え、心底から叫んでいる。
 怒りでも罵倒でもない、ただただあるべき状態へ戻そうとする人間的な言葉を。
「……でも、今さら……できるワケないじゃない」
「今さら、と君はいうが、しかし今までの百年間、地下に閉じこもっていて本当に満足だったの
か? 違う筈だ! 大事な家族と共に普通の生活を送るコトを望んでいた筈だ!」
 瞳がみるみると拡大するのをヴィクトリアは禁じ得なかった。だが視線を外して意志とは無関
係の逃げるための言葉を吐くしかできなかった。
「望んでなんか……」
「だったらどうして君は母を見捨てなかった? 錬金術を嫌悪しながらも武装錬金を絶えず張
り続け、白い核鉄の製造を手伝ったのは何のためだ?」
「…………っ!」
 秋水の言葉は確実にヴィクトリアの弱い部分を突いてくる。矛盾も逃避もすべて見通しながら
しかし決して非は責めない。

332 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:25:58 ID:2grDdD4I0
「君の母はもう戻らない。けれど父は、ヴィクターは、いつか武藤が連れ戻す! 彼が君の存
在を知っているなら必ずだ! その時君が閉じた世界に残ったままでは君の父も、母もきっと
救われない!」
 ただただ眼前で懸命に呼び掛ける青年は、闇に沈んでいたヴィクトリアの大事な物だけを
蘇らせようとしている。
「だから……だから君は日常に戻るんだ。辛い選択だろうが俺は必ず支えてみせる! その
為になら戦団を裏切る事になっても構わない!」
 皮肉や毒舌を好むヴィクトリアでさえ、「そうだろう」と思わせる気迫が際限なく前面から叩き
つけられる。
「君の身がホムンクルスだったとしても、罪を犯していない限りはまだ普通にやり直せる!
君の瞳は冷えてはいるが、決して濁ってはいないんだ! 昔の俺のように濁ってはいないんだ!」
 秋水はヴィクトリアの手を掴んだ。彼はどうしても伝えたい言葉を持っているようだった。
 でもそれを聞いてしまえば本当に寄宿舎に戻るしかなくなるようで、ヴィクトリアは恐怖した。
「放して!」
 いつかと同じく払いのけた手は……しかしすぐさま秋水に握られた。
「諦めるな!」
 済んだ瞳が限りない熱情を湛えてヴィクトリアを射すくめた。
「ココで諦めればいつしか本当に君は人を喰うしかなくなる! だから日常に戻るんだ!」
 口調には鬱屈とした黒い氷塊を溶かす気焔が満ち満ちていて、ヴィクトリアはただただ驚愕
のままに言葉を反芻する他なかった。
(諦めるな……)
 つくづく自分の生涯とは正反対の言葉だ。身に降りかかった何もかもを嫌悪しながらも解決
しようとはせず、ひたすらに流されていた。
 流れた先に出会った暖かい光景も、汚れた衝動のせいで諦めていた。
(簡単にいってくれるわね。諦めるな、なんて)
 それができれば苦労はしなかった。そう思いはしたが、自分を顧みて果たしてどれだけの苦
労を求めるモノのためにしてきただろう。答えは「ほとんどない」、だ。何故ならば諦めて地下
世界で百年来ずっと苦痛を避け続けてきたからだ。
 秋水はたぶん、その辺りの事情を責めるつもりで言葉を放ったワケではないだろう。

333 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:26:21 ID:2grDdD4I0
 きっとヴィクトリアの行く末を憂いて、あれほどの言葉を烈火の如く叫んだに違いない。
(……本当に、騙そうと思えばいくらでも騙せる生真面目君。でも)
 決して明るくない前歴を持ちながら、なお誰かのために生きようとしている姿は……悪くは
映らない。

「わ、私には難しいコト分からないけど、ちーちんと話してる時のびっきーは心から嬉しそうだっ
たよ」
 背中からまひろが離れると同時に、柔らかい声がかかった。
「それにね」
 ネコみたいな手つきが両肩に添えられたかと思うと、真赤にじんじんと腫れた頬がヴィクトリ
アの横目に入った。
 まひろの首が伸びて、顔がヴィクトリアのそれと並んだようだ。
「びっきーのお父さんやお母さんだって、独りぼっちで寂しそうにしているびっきーよりね。きっ
と友達と仲良く一緒に笑ってるびっきーを見たがっている筈だよ。絶対」
(パパやママが?)
 逃げるための材料や口実に使っていた両親ですら、願いは娘の幸福だと考えるとまったく
どうしていいか分からない。
「あ、お兄ちゃんもね……私が泣くと困ってたけど、笑うとすごく喜んでくれたから。うん。だから
なるべく辛いコトに負けないようにね、笑っていられたらなーって私思うんだ」
 またしても少し湿った声音が耳を叩いたその時、嫌悪の大きな原因が、誤解だったとヴィクト
リアは知った。
(このコ……)
 まひろは兄を月に消えて決して平気ではなかった。秋水の話した通りだった。ヴィクトリアと
同質の悲しみを抱きながら、意志の力で笑顔を浮かべていたのだろう。
「うん。誰かを恨んだり怒ったり……それから悲しんでる姿なんかは見てて辛いだろうから……
お兄ちゃんはそんな姿、誰でも見たくないと思うだろうから……びっきーのお父さんやお母さん
だって同じと思うから、きっと許してくれると思うよ。……お兄ちゃんだって」
 心なしかまひろは秋水を見ていたようだった。秋水は秋水でその視線に別なニュアンスを感
じているようだ。」
 やや蚊帳の外になったヴィクトリアだが、それ故にまひろへの心情を整理できた。
(…………強いわね)
 少し瞑目して自分の感情を内心で恥じた。

334 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:26:52 ID:2grDdD4I0
(本当はずっと分かっていたわよ……私があなたを嫌っていたのは、ただの嫉妬だって)
 認めるには本当に勇気が必要だった。けれど胸に湧くかすかな新しい気持ちがそれを支えて
くれるような気がした。
(陽気だからそばにいると自分が惨めに思えて……嫌っていただけ。このコに非は……非は……)
 騒がしいあれやこれやが浮かんできてヴィクトリアはちょっとげんなりした。
(まぁ、だいぶあるけど……嫉妬だったみたいね)

 ヴィクトリアが目を開くと同時に、天空で何か音がし、うっすらとした明かりが地下世界に差
し込んだ。
 秋水は頭上に六角形の穴が開き、地上まで続いているのを見た。
 まひろはその穴の中に梯子があるのを見た。
 ヴィクトリアは……自分の目ににじみ出た液体が、急な光の刺激のせいだと思った。
(そうよ。ずっと暗い所にいたから、勝手ににじみ出ただけ)
 思うようにした。そして頭上を見る二人に見つからないよう速やかに拭いて、いつものような
小生意気な口調で告げた。
「……いい。一度しかいわないわよ。聞き逃して聞き返したら二人とも地下に落とすから」
 二人の視線が吸いつく中、 ヴィクトリアは地下世界に溜まりだした微かな光を見て思った。
 百年間。
 百年間、深淵の中に追いやられたコトを恨んでいたが。
(……得ようと思えば、こうやっていつでも得られたのね。それなのにつまらない意地のせいで)
 すぅっと息を吸い、少し早くなった鼓動を気どられないよう静めると、ヴィクトリアは告げた。

「戻ってあげるわよ。寄宿舎に」

 秋水とまひろ、先ほどまであれほどうるさかった二人に静かな静かな安堵の気配が広がった。
「でもちゃんと責任とりなさいよ。じゃなきゃ今度こそ捕まらないよう逃げるから」
「うん! うん! それでいいと思うよ!」
「ああ。できる事は必ずする」
 駆け寄ってくる二人を、鬱陶しそうなはにかんだような複雑な表情で見ながら、ヴィクトリアは
唇を小さく小さく動かした。

335 :永遠の扉:2008/04/08(火) 14:28:15 ID:2grDdD4I0
.
「……ありがとう」

 ひどく小さい、しかし確かな声が、微かに明るい地下世界に響いた。

以下、あとがき。
とりあえず一つの転換点を迎えた、とだけ。

>>285さん
すごい腹黒ですからね彼女w 簡単に切札や弱味を見せずなんでも笑顔で流すってのが怖いw
 信奉者時代は非力ながらに修羅場を見てきたので、そういう凄味では小札以上かと。もし桜
花がマシンガンシャッフル持ってたら絶対に相手を結界に閉じ込めて、レーザーでハメ殺すと思いますねw 

>>286さん
言葉というのが次から次へと出てくるキャラですね、彼女。
「隙到来! とあーっ!」とかノリで出てきたセリフはすごく面白いw
登場させた頃はココまでフィーリングが合うとは思わなかったです。ハイ。

ふら〜りさん
まひろが出てくるとどうもギャグ方面にしか転ばないですね。今回、頬をつねったのもその一
環で描いてる途中フと浮かび、「あ、コレはいいなー」と。夫婦漫才、面白そうですねw 総角
が敢えてボケで小札が突っ込みとか。桜花は剛太ぐらいしか相方が……いや、貴信とか案外?

>BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN
バルキリースカートの描写、こう来たか! と。腕に比喩しつつ先端の違いを描くのは実に滑らか。
しかし何という容赦なき死体描写。ジャンプならモザイク確実。……つかリーマンの人、名前から
して震洋の父さんじゃないですかw んー、でもこのビジネスライクな姿勢は凄い。なんかクールだ!

>>292さん
あのロバさんはわたわたわたわたしているもんだから、描いてる方も色々和みますねw
桜花に釣り合うのはパピヨンぐらいでしょうね。きっと。でも自分は剛太と絡んで欲しいと
思ってます。他だと……案外、戦部とか円山なんかどうでしょう。調教なら犬飼で。

336 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 16:22:31 ID:/xxBkFsk0
まひろは漫画やアニメやSSで読むと可愛いけど
現実にいたらKYっぷりが凄くて誰にも相手にされそうないな・・
なんか騙されて売られてしまいそう

337 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 18:07:07 ID:9f5yZUJ+0
心の傷を負ったものに、無垢ゆえの癒しですよね。
まひろも明るいように見えて、カズキの傷を背負っているし。

338 :作者の都合により名無しです:2008/04/08(火) 19:50:52 ID:Op0XUB3R0
ダストさんもキター

339 :作者の都合により名無しです:2008/04/09(水) 08:49:49 ID:Ql9Nl5kL0
スターダストさんのブログに「書きたかったところのひとつ」と書いてあったので
じっくり読んだけど、まあ陳腐な言い方で申し訳ないけど、
この作品のテーマのひとつみたいな感じの回でしょうな、今回は

しかしブログの「序盤の終盤」というところにビビッときたw
てっきり6合目くらいだろう、と勝って読みしてました

340 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:42:40 ID:QsD1Ew8J0
 
『幸せってのは発射の温もりが残る銃の事さ』と、あるミュージシャンが歌っていた。
誰でも事を成し終えた後には幸せを感じるものなのであろう。
それは人によって実に様々だ。
発射後の銃の温もりに幸せを抱く者、射精の後の性器に残る余韻に浸る者、ヘロインを注射し終えた
痕のムズ痒さが堪らない者。

そして――

人を殴る拳の感触。
自分の骨を相手の肉に喰い込ませ、打ち抜く。
拳に残る最高の感触。
そんな感触に取り憑かれた者が一人。



「ねえ、ちょっと。そこのアンタ」

銀成学園1年A組の生徒である武藤まひろに話しかけたのは、見た事も会った事も無い
他校の女子高生だった。
折しも下校時間。
まひろは珍しくたった一人で寄宿舎への帰途につこうと、今まさに校門を出たところである。
接しやすくフレンドリーな雰囲気、と言うよりフレンドリーが服を着て歩いていると言っても良い彼女は、
初めて銀成学園を訪れるこの女子高生にとって、話しかけるには持って来いだったのだろう。
「ハイ? 何ですか?」
まひろは立ち止まり、ニコニコと愛想良く応対した。
向かい合うと、実に対照的な風貌の二人である。
話しかけられたまひろは、軽いウェーブがかかった明るい茶髪のロングヘア、多少野暮ったい
太眉と垂れ眼、ほんわかとした笑顔と喋り声。
一方の話しかけた女子高生は、少しの乱れも無い漆黒のストレートロング、細い眉と切れ長な吊り眼、
“研ぎ澄まされた”という表現がピッタリなある種の迫力。

341 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:43:48 ID:QsD1Ew8J0
制服においても、その違いは明白だ。
ヒラヒラとした装飾の多いゴスな風情を漂わせた銀成学園のそれとは違う、正統派のセーラー服。
加えて、膝上20cmの短いスカートからスラリと伸びた長い脚は黒のストッキングに覆われている。
大半の男子は、色気の無い膝辺りまでのスカートと白いハイソックスよりも、そちらの方に
眼が行くだろう。
女子高生は単刀直入に用件だけを告げた。
「ちょっと人を呼んで欲しいんだけど。ここに……――」
鼻の上に人差し指でスッと一文字を描く。
「――こういう風に傷がある子」
銀成学園生徒にとっては非常にわかりやすい人相書きを聞き、まひろは嬉しそうにポンと
両手を打った。
「あ! 斗貴子さんの事だね! あなた、斗貴子さんのお友達?」
一際声を弾ませて、大きな瞳を輝かせながら女子高生を覗き込むまひろ。
まさか“友達の友達は皆、友達だ”などという古臭いフレーズを知っているとも思えないが、
まひろにとってはそれに近い感覚なのかもしれない。
しかし、女子高生の顔には明らかに苛立ちと鬱陶しげな不快感が浮かんでいる。
人懐っこさも選ぶ相手を間違えているというところか。
「友達ってワケじゃないけどね。とにかくお願い」
「は〜い!」
刺々しさを含んだ声に対しても元気一杯に返事をすると、まひろは生徒玄関へと取って返す。
警戒心ゼロ。
どんな人物か怪しみもしなければ、名前も目的も聞こうとしない。
女子高生はその徹底したお気楽振りにやや不安を覚えながらも、斗貴子を待つ事にした。



少しの時間を挟み、呼び出された斗貴子と件の女子高生は体育館裏の一角にいた。
場所を指定したのは女子高生の方である。
体育館裏と言えばカツアゲ、一対一のケンカ、上級生のイビリが似合いそうな場所ではあるものの、
それは男子生徒に限った事だ。

342 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:45:37 ID:QsD1Ew8J0
この場にいるのは、平均を大きく超えた美形に属する女子生徒二人。
そして、この二人はどことなく似通った面が多かった。
セーラー服、極端なミニスカート、切れ長の吊り眼、更にはクールさを漂わせる雰囲気。

充分に人気の無い場所で足を止めると、斗貴子は無愛想な低い声で尋ねた。
「一体、私に何の用だ。というか、キミは誰だ?」
彼女もまた単刀直入である。
目の前に立つ女子高生と同種の鋭い視線は明らかに警戒の色が濃い。
正体不明の人物、呼び出された理由が不明となれば、警戒心が高まるのも当然だ。
どこかの誰かと違って。
女子高生は長い黒髪を掻き上げると、特に悪びれる様子も無く自己紹介をする。
「わたしは久我阿頼耶。聖ヒネモス女学院の一年生よ。今日はアンタに頼みがあって来たわ」
「頼み?」
次の瞬間、久我阿頼耶と名乗る女子高生の口からは、斗貴子が予想だにしなかった珍妙な
“頼み”が飛び出した。

「ええ。わたしと組んで“深道ランキング”っていうストリートファイトに参加して欲しいの」

「……は!? ちょ、ちょっと待て! ストリートファイトってどういう事だ!? それ以前に
何故、面識の無い私にいきなりそんな事を頼むんだ!?」
眼が点になったまま一拍置いて、斗貴子は驚きと共に矢継ぎ早の疑問を浴びせた。
いくら錬金の戦士の斗貴子といえども、一般常識が欠如している訳ではない。いや、むしろ
いつも行動を共にする面々と比べれば、かなりの常識人である。
急な突拍子も無い依頼に面食らうのは当然だ。
だが、阿頼耶はそんな彼女の様子などどこ吹く風で、順序立てて説明を始める。
「アンタ、少し前に銀成駅近くのロッテリやでバイトしてたでしょ?」
「あ、ああ。確かにしていたが……」
おそらく、クリスマスパーティの場で壊してしまった理事長の古伊万里を弁償する為にしていた
バイトの事だろう。
仕事内容にあまり良い思い出は無かったが、あれは年末近くの出来事だったか。

343 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:47:14 ID:QsD1Ew8J0
阿頼耶は話を続けた。
「ちょうどこっちに用事があって、友達と一緒にそのロッテリやでお昼ご飯を食べたんだけど、
その時に店員やってるアンタを見かけたの」
今時の女子高生がファストフード店で友達と食事をし、そこにいたバイトの女子高生を路上の
ケンカのパートナーにスカウトする。
簡潔な文章にすると、とんでもなく支離滅裂である。
いや、文章にしようとしまいと、そのトンデモ振りは変わらない。
斗貴子は飽きれ返ったように溜息を吐き、そして考えた。
ここからは阿頼耶がいかにピントのずれた事を言っているか、その説明に力を使う事になりそうだと。
「見かけたって……。あのなぁ、それだけで――」

「そして見抜いたわ。アンタがただの女子高生じゃないって」

その一言でやや抜けてきた感のあった斗貴子の警戒心が甦った。
「……!?」
阿頼耶はゆったりと腕を組むと、体育館の壁に寄りかかる。
「店内への目の配り方やカウンターでの身のこなしだけでも、“機転の利くバイトの女の子”とは
少し違ってた。
それと、制服から覗いてる手脚の高密度に搭載された筋肉も参考になったし。全体の筋量、
そこから予想出来る筋力の割には良いバネしてるわね、アンタ」
薄く笑みを浮かべる阿頼耶に対し、斗貴子は油断無く返事を返す。
「……随分、眼が良いんだな」
「ありがとう。で、思ったワケよ。アンタは格闘家やアスリートとはまったく別種の訓練を受けた、
どちらかと言うと……“兵士”に近い人間だって」

日常生活の中で働く姿だけを見て、そこまでの身体機能・身体能力を割り出せる観察眼は
驚異と言って良い。
一流のドクターや国際レベルのスポーツトレーナーに匹敵するかもしれない。
否、それらとは似て非なる種類の“眼”だ。
ルールや良識に縛られる事の無い古来の武道家。常に前線で戦い続ける軍人。
そんな殺伐とした存在が有するものに近い。

344 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:52:21 ID:QsD1Ew8J0
 
「私に言わせれば、オマエも充分普通の女子高生ではないと思うが……?」
至極もっともな話だ。
斗貴子の本質である錬金の戦士としての力を見抜く“普通の”女子高生などいやしない。
路上のケンカ屋だとしても、その域を遥かに超えているからだ。
「そんなアンタだから頼みたいの。わたしと組んでストリートファ――」
「断る」
「早っ!」
まだ話の最中というのもそうだが、偶然とはいえ見出せた“自分に近い存在”がこの話に
乗ってこない事が、阿頼耶にとっては予想外だったのだ。
思う存分に力を振るう場所を提供すると言えば、喜び勇んで飛びついてくると踏んでいたのだが。
「オマエのような者ならそっち方面に顔が広そうだし、周りにもそういう事を頼めそうな奴がいるだろう」
斗貴子流の正論である。

類は友を呼ぶではないが、斗貴子が予想出来る限りでの阿頼耶の強さ・センスを鑑みれば、
少なくとも一人や二人は彼女に匹敵する実力を持つ者が近しくいる筈である。
これはプロ・アマチュア、競技・実戦、合法・非合法に関わらず、“闘い”や“戦い”に
身を置く者であれば共通する事実である。

しかし、阿頼耶は頭を掻きながら、ボヤき気味に白状する。
「確かに何人かいるわよ。中国拳法の達人、ボクシングの日本チャンピオン、殺し屋って感じで。
でも無理なの。『空飛ぶネコのミイラの呪いで発熱中』とか『プロボクサーがストリートファイトを
する訳にはいかない』とか『金払え』とか、諸々の事情でね。
そうじゃなかったらアンタに頼みに来ないわよ」
阿頼耶の口から飛び出す言葉に、斗貴子は疑い半分驚き半分だ。
「そ、そうなのか。自分で言っておいて何だが、本当に顔が広いんだな……。だが私はな……」
「でも他に頼む人がいないみたいだし、かわいそうだよ。斗貴子さん、手伝ってあげたら?」
確かにそうかもしれない。
見ず知らずの自分を頼ってきたのだから、まさに藁をも掴む思いなのだろう。
だが、自分の立場というものを考えれば――

「いや、しかし……――って、いつの間にいたんだ!? カズキ!」

345 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:54:41 ID:QsD1Ew8J0
 
突然のカズキの出現に、斗貴子はその場から飛び上がらんばかりに驚愕した。
阿頼耶は阿頼耶で二人の様子をジト眼で眺めながら、ここにやって来た事を軽く後悔し始めている。
「その子、結構前からいたんだけど……。あ、あれ? もしかしてわたしの人選、間違ってたかな……」
カズキは現在の状況などお構い無しに、斗貴子に向かって真剣に説いた。
「確かにケンカをするのはあまり良くないけど、すごく困ってるみたいだし。助けてあげる
人がいなかったら、それこそ大怪我しちゃうよ?」
正義感が強く、人の好いカズキなりの思考だ。やや非論理的なズレはあるが。
まず倫理や道徳に反するのは良い事ではないという前提がある。
だが、それが避けられないのであれば、仲間と共に立ち向かう。
力を合わせて助け合えば、危難は払えるし、被害は最小限に抑えられるといったところだろう。
無論、困っている人間を見過ごせないという単純さも大分含まれてはいる。
「ああ、もう……!」
肝心な事を取り違えているカズキにやや苛立ちながら、斗貴子は彼の耳に口を寄せ、小声で教え諭す。
「いいか? キミも充分承知していると思うが、私は錬金の戦士だぞ。競技の上で相手を倒す為ではなく、
化物を殺す為の訓練を受けてきた人間だ。そんな私が、たかがケンカ自慢の素人を相手に
闘う事なんか出来ないのは、キミにもわかるだろう?」
「でも……」
カズキは不服そうだ。
誰にも助けてもらえない → 一人で挑む事になる → 大怪我をしてしまうかもしれない
阿頼耶に対するこのお人好し三段論法がどうしても頭から拭えないのだ。
「カズキ、頼む。キミだけでもわかってくれ。じゃないと私は胃に穴が空く……」
『説得する人間が二人に増えた』と頭を抱えて煩悶する斗貴子。
そんなやり取りをする二人に置いてけぼりを喰らっていた阿頼耶がふと低く呟いた。

「たかがケンカ……? 素人……? 言ってくれるじゃない!」

どうやら、カズキを諭すのに夢中で阿頼耶の耳に届く程に声が大きくなっていたらしい。
阿頼耶は拳を固く握り締め、ギリリと歯を軋ませた。
見る見るうちに殺気は高まり、コンマ秒単位で戦闘態勢を整える。
ギラつく眼は完全に“闘る気”だ。

346 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 11:58:43 ID:QsD1Ew8J0
予告無くズカズカと大股に斗貴子との距離を縮め始めた阿頼耶は、“妙な事”を口にした。
「教えてあげることが出来たわ、“職業戦士”さん。ちょっと荒っぽくなるけど……――」
「カズキ、どいてるんだ!」
とっさに彼を押し退けた斗貴子は素早く身構える。既に間合いなのだ。

斗貴子が意識のスイッチを切り替えたと同時に、阿頼耶が放ったのは大振りな右のフック。
小さいながらも鍛え抜かれたゴツさを見せる拳が、斗貴子の横っ面を目掛けて襲いかかる。
だが斗貴子は実に冷静に飛来する拳を“視ていた”。
(スピードはあるがテレフォンすぎる……)
イメージは出来ていた。スウェーバックで避け、振り終わりの腕を捕らえ、関節を極める。
多少、痛い思いをさせるのも仕方無いだろう。
そして、それを実行に移そうとした、その瞬間――
拳の“軌道”が不自然に捻じ曲がった。速度はまったく損なわれる事無く。
フックの筈が何故かアッパーとなって下から突き上げられてくる。
拳は斗貴子の顎先を僅かにかすめた。それで充分だった。

斗貴子は糸の切れた操り人形のようにペタリと地面に尻餅をついた。
視線が定まらず、口が開いたまま閉じられない。
何よりも四肢が痺れて、少しも動かす事が出来ないのだ。
完全なK.O.(Knock the fuck Out)の姿である。
「あ、ああ……」
「斗貴子さん! しっかりして!」
カズキは意識を朦朧とさせた斗貴子に駆け寄ると、その身を抱き起こした。
そして怒りに燃える眼で阿頼耶を睨む。
しかし、阿頼耶の表情は先程とは打って変わった穏やかな、と言うよりは申し訳無さげなものと
なっていた。
「カズキ君……だったかしら。ごめんなさい、こんな事をしてしまって。これ以上、
何もするつもりはないわ」
すかさず神妙な面持ちでそう言われ、カズキは飛びかかる訳にも怒鳴る訳にもいかなくなった。
阿頼耶はそっと二人の傍にしゃがみ込むと、心配そうに斗貴子の顔を覗いた。
その仕草からは芝居っ気などは微塵も感じられない。
斗貴子をここまでの状態に追いやった行動は、どうやら本意ではなかったらしい。

347 :HAPPINESS IS A WARM GUN:2008/04/09(水) 12:01:29 ID:QsD1Ew8J0
「聞こえてる? 今のは“魔弾”……。わたしが編み出した技よ。避けられなかったみたいだけれど、
落ち込まなくていいわ。“絶対に”避けられないんだから」
これが闘いが始まる前に口にした“荒っぽい教え方”だったのだろう。
そして、阿頼耶が真に教えたかった事は自分の技についてではない。この技を振るう“相手”に
ついてだった。

「それと……。わたしが参加している“深道ランキング”はただのストリートファイトじゃない。
全国のストリートファイターをプロボクシングみたいに強さでランク付けしているわ。
そして、ネット配信による大勢の観客もいれば、賭けで巨額のお金も動いている。
……ねえ、わたしはランキング何位くらいだと思う? 今、アンタをKOしたわたしは」

斗貴子は聞こえているのかいないのか、虚ろな視線を阿頼耶の向こうの空に漂わせるだけだ。
勢い、阿頼耶は問わず語りの体にならざるを得ない。

「19位よ。何回も言うようだけど、アンタを一発でKOした“たかがケンカ自慢の素人”の
このわたしが19位。わたしよりもまだまだ上がいるって事。
特に一桁上位ランカーは嫌になるくらいの化物揃い……」

そこまで言うと、阿頼耶は立ち上がった。
今度はカズキに向かって、花が萎んでしまうかのようなか細い声で、幾分伏し目がちに言葉を掛けた。
銀成学園の校門をくぐった時の威勢の良さはどこにいってしまったのか。
「明日、また来るわ。彼女が出る気になってくれたなら詳しい説明をするし、出る気が無ければ
それはそれでいい。諦める……」
「わかったよ。伝えておく……」
まだまだ怒りが収まらないカズキではあったが、複雑な思いがそれを上回っていた。
阿頼耶の表情の変化や、斗貴子をこうせざるを得なかった真意が、カズキに強い言葉を吐かせなかったのだ。
阿頼耶は二人に背を向け、歩き出す。
そして歩を止めず、背を向けたまま、誰に言うでもなく小さな声で呟いた。
「それから……今日のは不意討ち、騙し討ちみたいなもの。アンタの実力がこんなもんじゃないのは
わかってるから……」

斗貴子が完全に意識を取り戻すのは、それから三十分後であった。

348 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/04/09(水) 12:03:40 ID:QsD1Ew8J0
 




どもです。さいです。続くです。
次は『THE DUSK』をお送りするつもりでしたが、予定を変更してこちらの短編を。
お馴染みの『武装錬金』、それに『シンシア・ザ・ミッション』と『エアマスター』のクロスオーバーです。
斗貴子さんとダブルヒロインの久我阿頼耶は『シンシア〜』の登場人物です。
あと私は深道ランカー好きなので、摩季や崎山などの主役サイドのキャラは出ないです。ご容赦。
でわでわ。


349 :作者の都合により名無しです:2008/04/09(水) 14:54:47 ID:Ql9Nl5kL0
シンシア・ザ・ミッションというのは知りませんが、
短編と言うのはその方のエッセンスが凝縮した長編と違った趣があるものなので
さいさんらしい作品となるのを期待しております。
トキコたちのお話、期待しておりますよ。

350 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/09(水) 19:01:56 ID:38SMXt4/0
余談ですが、『む〜ん』でお馴染みの月は国連が軍事利用を禁じているんですけど、
商業利用については触れられておらず、いずれどこかの企業が何かに利用するのではと」
「わけのわからん屁理屈を言うな! 今、実際にお前たちの造ったホムンクルスが人を
食っただろうが! いや、それ以前に、そのバヅーを造るだけでも犠牲が出ているはずだ!」
丁寧に愛想よく説明している鈴木に向かって、斗貴子の怒声が飛んだ。殺気すら
混じっているそれを浴びても、鈴木は相変わらず物腰柔らかく応対する。
「そこは当社の古くからの裏事業でなんとかしましたよ。普通はこういう大人ではなく、
仕入れも販売先もアメリカがメインなんですけどね。新鮮な幼い少年少女を使用しての、
臓器分割販売やチャイルドポル……あ、いやいや失礼。若い女性の前で、こんな話を」
困った顔で頭をかく鈴木は、外見だけなら本当に、どこにでもいる中年サラリーマンだ。
それだけに、斗貴子の脳内を沸騰させる効果は抜群だった。
「貴様ああああぁぁっ!」
再び攻撃を仕掛ける斗貴子。バヅーは問答無用で殺す、鈴木も常人でないことは
間違いないから、手足の一本ずつもブッた斬って尋問する。そのつもりで襲いかかった。
鈴木がパチンと指を鳴らす。と、バヅーが斗貴子に向かってきた。旋風のように荒れ狂う
バルキリースカートの刃をかいくぐって斗貴子に肉薄、矢のような跳び蹴りを突き込んできた。
その一撃を斗貴子がかわすと、バヅーは蹴りを止めずにそのまま足で地面を叩き、反動で
跳躍して再び蹴ってきた。これも斗貴子が辛うじてかわすと、突き抜けたバヅーは
今度は斗貴子の後方の壁を蹴り、三角飛びで向かってくる。
『こっ……こいつ、強い!』
絶え間のない三連撃めであるバヅーの三角飛びを、斗貴子は崩れた体勢を
無理に直そうとせず、そのまま倒れ込むことでかわそうとした。が、
「わたくしをお忘れではありませんか?」
鈴木の声が耳元で聞こえた、と同時に鉈のような肘打ちを背中に叩き込まれ、斗貴子は
強制的に前方へ飛ばされた。その視界いっぱいを、唸りを上げて飛来するバヅーの足が
埋めた。人体シチューを作る蹴りの風圧が斗貴子の貌を叩いたその瞬間、

351 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/09(水) 19:02:35 ID:38SMXt4/0
「ガッ!?」
バヅーの奇妙な声が聞こえて、蹴りが上方へ流れた。斗貴子はその下を潜って
転がり、受け身を取って距離を空け、振り向きながら立ち上がる。
斗貴子の前方にいるのは、笑みの消えた鈴木とバヅー。そしてバヅーの上半身、
腕や頬や胸などに何枚かのカードが突き刺さっている。おそらく今、何者かが
放ったこのカードを受けたせいで、斗貴子への攻撃を仕損じたのだろう。
見ればそのカードは、名刺ぐらいの大きさで……いや違う。名刺そのものだ。
「その女性は、錬金戦団と当社との業務提携により、今夜よりワタクシの
ビジネスパートナーとなられる方。無体なマネはご遠慮願いたい」
まただ、と斗貴子は思った。また、足音がしても姿が見えても気配がしない。つまり
鈴木と同様に、今、どこからか現れたこの男も常人ではない。
だが、バヅーが抜き取って投げ捨てた名刺を見れば判る。その名刺を投げて斗貴子を
救ったこの男こそ、今夜斗貴子と待ち合わせをしていた相手。錬金戦団が契約した
企業の所属戦士だ。
鈴木が、その顔に笑みを蘇らせて言った。
「ほほ。やはりあなたが出てきましたか。それにしても、よくここがわかりましたな」
「大したことではありません。この街でホムンクルスがエサ場にしそうな場所は、全て
リストアップ済みですので。そちらの津村斗貴子さんが待ち合わせに遅れられた時点で、
この場所でのこういった状況は予測できました」
と説明しながら斗貴子に向かって歩いてくるのは、鈴木に負けず劣らず地味な、
スーツとネクタイの典型的中年男。中肉中背で特徴のない体格をしており、黒縁眼鏡が
似合いそうな生真面目そのものの顔は、今にも「最近の女子高生は全く〜」とか何とか
説教を始めそうだ。
だがもちろん、この男とて只者ではない。眼鏡は似合いそうだが、かけていない。かけて
いるのは、宇宙から来た赤い体の巨大ヒーロー(トサカをブーメランにするやつ)の
変身アイテムを思い出させる、SFじみた意匠のゴーグルのようなシロモノ。
「この通り戦闘モードになって可能な限り急いだのですが、遅れてしまって申し訳
ありません。お怪我は……ありそうですが、まだまだ戦えるという顔をしておられますな」
「あ、当たり前だ。この程度、なんでもない」

352 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/09(水) 19:02:57 ID:38SMXt4/0
戦闘モードって何だオイ、と突っ込みたかったが今はそれどころではない。なので、
斗貴子は鈴木に打たれた背中の痛みに顔をしかめながらも、歩いてきた男の
支えを受けることなく立ち上がった。
鈴木がますます楽しそうな笑みを強めて、戦闘モードな男に言う。
「いいでしょう、お相手しますよ。そもそも当社の画期的新製品・量産ホムンクルスを
脅かす、武装錬金などというものを御社に開発されては困りますからな。もし、その
技術が錬金戦団にも提供されて、戦団の対ホムンクルス作戦が促進されでもしたら、
わたくしどもは大損害を被ります。そのお嬢さん共々あなたをここで始末して、御社に
警告させて頂くとしましょう。当社と敵対すればどうなるかをね」
「なるほど。さすが、国際的に悪名高き『パレット』さんは言うことが違いますな。ならば
当方としても、それ相応の出方をするまで。平たく言うならば抗戦させて頂きます」
「ええ、どうぞどうぞ。自由競争こそ資本主義社会の鉄則・根幹ですからな。存分に
やりあいましょう」
男は黒い手袋に包まれた拳を握り締めながら、傍らの斗貴子に言った。
「津村さん。ワタクシは今、当社の開発した試作品を装備しています。この品のこと、
キャプテンブラボー氏よりご連絡を受けておられますか?」
「あ、ああ。しかし、あの話の通りだとすると、あんたの実力が相当なものでないと……」
「それはご安心下さい。と言いたいところですが、ワタクシとてホムンクルスとやらいう
生物と戦うのはこれが初めて。ですから負傷しておられるところ申し訳ないのですが、
アナタにも戦って頂きたく。よろしいですか?」
もちろん、と斗貴子が答える。男は頷いて、鈴木とバヅーに対峙した。
鈴木は、バヅーが体から抜き取って捨てた名刺を拾い上げた。なお、武装錬金
による攻撃ではないので、バヅーの傷はみるみる塞がっていく。
「話は済んだようですな。では当社の自信作である、このバヅーの強さを存分に味わって
頂きます。錬金の戦士津村さんと、NEO=SYSTEM社随一の派遣社員……」
鈴木が、男の名刺を握り潰す。
「企業戦士(ビジネス・コマンドー)山崎宅郎さん! お二人揃って、
当社躍進の礎となってもらいましょう!」

353 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/04/09(水) 19:05:35 ID:38SMXt4/0
鈴木は『武装錬金』、鈴木震洋の父のつもり。スターダストさんお見事!
バヅーは『クウガ』、バッタ種怪人のズ・バヅー・バ。これがまたカッコいいんです。
パレットは『パトレイバー』に出てきた(影の薄い)組織です。>>297さん侮り難し。
にしても今回はともかく、過去に野明やイングラムを出した時と比べて、山崎の知名度に
驚いてます。サンデーで連載され、TVや映画や小説やゲーム(FCからPSまで)で何作も
活躍してきたパトレイバー以上の模様……そういや昔、山崎vsDIOを書きましたっけ。

>>腐った百合の人さん(おいでませ! にしても、どこでどんな噂をお聞きになったのやら?)
なかなかゾッとしましたね……でも怖いだけではない。私も、これほどではないにしろ、学生
時代いろいろやられたことがあるので、気持ちは少々解ったりして。だから私だったら多分、
>『いい気味だ』なんてぜんぜん思ってません。
思うだろなと。彼がこの先どうなるかに少々興味が沸きました。機会があれば原作読みます。

>>NBさん(たとえ熟練してネットビギナーでなくなってもNBさん、お帰りなさいませっっ!)
ヒロインが激戦の中で絶望、祈り、ヒーロー登場! 燃えるところですがそれより何より、
>戦い抜いたイヴを見つけて蒼白のスヴェンが立っていた
こ〜れ〜を〜待っていたっっ! イヴが肉体的にも精神的にもギリギリまで追い詰められて、
読者としては溜めに溜められてのこの展開この再会! 目ぇ見開いて正座して待ってます!

>>スターダストさん
この辺、斗貴子との役割分担がはっきりしてますよね。原作では見せられる機会が少な
かった、非戦闘ヒロインとしての活躍というか。とはいえ清楚可憐なだけのお姫様でもなく、
>まひろゆえに色々超越していて
どーゆー「ゆえ」なんだと。これが斗貴子さえも振り回してしまう彼女のパワー、魅力、個性。

>>さいさん
阿頼耶がカッコいい! もっと嫌味のある奴かと思いきや、自分を侮辱した相手である
斗貴子のKOに対して、丁寧にフォローを入れてるのが非常〜に好感もてます。地味故に
ひっくり返すのが難しそうな強さといい、ここまで漢な乙女は希少。で斗貴子はどう出る?

新鋭も古豪も揃って快調元気なバキスレ。いつもながら流石、です。

354 :作者の都合により名無しです:2008/04/09(水) 20:19:33 ID:81KwlaT/0
さいさんの新作もトキコ主役かw
ちょっと錬金多すぎだけど
さいさんの文体は大好きなので期待してる。

355 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:35:29 ID:ulscV0KqO
 ニューヨークの地下に張り巡らされた地下トンネル――その中でも、地図には示されていない区間の一画。
 かつて大規模な地下鉄路線として建設されながら、『構造上の問題』によって開通直前に廃棄され、
今となっては関係者の大半が存在すら忘れつつある――だが実際はエグリゴリ専用の秘密経路として管理下に置かれた、内緒の穴ぐら。
 複雑怪奇な模様を描いて広がる地下空間を、なにかに追われるようにひた走る二人の少年少女。
 少年――キース・レッド。
 脚と肩に重傷を負った満身創痍の体で、出血をものともせず走り続けている。
 少女――キース・セピア。
 覚束ない手足のせいでときおり大幅に遅れるも、必死になって速度を維持。
 いつまで逃げればいいのか、どこまで逃げればいいのか――そもそも、どこへ向かって走っているのか――
 そうした『先行き』をまるで感じさせない、ただ圧迫と閉塞が募るばかりの、闇雲さに満ちた――虚無へ向かう行進だった。
 やがてセピアに限界が訪れる。
 がく、と膝が崩れたのに引きずられ、体勢を立て直す努力を放棄した虚脱さでそのまま地面に落ち込む。
 それに気付いたレッドが引き返してきて二言三言、気を引き立てようとするも、セピアの気力が回復する気配はない。
 否定的に首を振りながら「もう走れない」だの「わたしのことは置いていって」だの
弱音を吐くセピアにうんざりしたレッドは、ささくれ立つ気分を落ち着かせようと周囲を眺め渡す。
 等間隔に並ぶ非常灯の明かりに照らされるトンネル内には、二人以外に動くものは見当たらない。
 呼吸音すら響くような静けさの中、世界に存在するのはたった二人だけのような錯覚に陥る。
 ――それがくだらない錯誤だと分かっていても。
 レッドは半ば以上、確信していた。
 自分たちがこのまま無事に地上へ逃げおおせるのは不可能で、必ず、あのニンジャ野郎と再度遭遇するであろうことを。
 逃げ場なんてどこにもない。
 これが『不思議の国のアリス』だったら、ハートの女王の処刑宣告を受けてもなお『夢オチ』という逃げ道が残されていたが。
「あ――あれ?」
 その声にレッドが視線を落とすと、ぺたりと尻を地面につけたままのセピアが、
「ない……ないよ……?」
 おろおろ地面を手探りしていた。
 それはコンタクトレンズを落とした者の仕草に似ていたが、セピアは普段から眼鏡を愛用しているし、それだって今はきちんと顔に乗っている。
「なにしてんだ。立てよ。落し物なんかどうだっていいだろ」
 そんな場合じゃないだろ、と怒鳴り付けたい衝動を堪え、努めて冷静に言うが、
そんなレッドを無視してセピアはコンクリートの床をまさぐっている。

356 :作者の都合により名無しです:2008/04/09(水) 23:35:48 ID:0BMFxJ6q0
>さいさん
新連載乙です。短編ということだから5回くらいの分量かな?
深町ランキング戦、やはり女同士の戦いということで
エアマスターはもちろん、あのbS(名前忘れた)も出てくるんでしょうね。

>ふらーりさん
復活即好調って感じで嬉しいです。やはりふらーりさんいないと・・。
山崎もトキコも隠し武器を満載してるのでバトルは派手になりそうですね。
トキコって結構やられ役多いなあw

357 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:37:00 ID:ulscV0KqO
(くそ、なんだってんだ――)
 無理矢理引きずってでも立ち上がらせようかと一歩踏み出した、その爪先になにがが触れる。
 レッドの足元に、鈍く輝く小さなものが落ちていた。
 拾い上げて頭上のオレンジ色の光にかざす――それは、金色の指輪だった。
 おそらく、セピアの代えの衣服と一緒に鞄に詰め込まれていた雑多な品の一つ。
 他の物は全て列車に置いてきた――持ち出す余裕などなかった。
 その中でこれだけは捨てて来れなかったのは、それだけ大事な物だということだろうか。
 命を脅かされた状況に際してもなお捨てきれぬ、生命と等しい価値を持つ、たったひとつの――。
「……それ、返して」
 セピアがおずおずと、だが断固とした口調で手を差し出す。
 レッドは手の上の指輪に目を落とし――
「ねえ、返して。それ、幸運のお守りなの」
 それを自分の掌に握りこんだ。
「……これがそんなに大事か? なら立て。ここから脱出したら返してやるよ」
「――返して」
 無視に等しい返事。
 なんとも言えない嫌な感じが、レッドの胸に込み上がる。
 つまりこういうことか?
 オレが立てと言っても座り込んだままで、野垂れ死にする気満々の癖に――オレの言うことなど頭から無視して、要求だけするのか?
 胸倉を掴んでそう詰め寄りたかった。
 その代わりに手の中の指輪を固く握り締め、そして代わりに出てきた言葉は、
「あんたは――あんたはいったいなんなんだ?」
 ――沈黙。
「さっきの現象はなんだ? あれがあんたの……『モックタートル』の最終形態なのか?」
 ――沈黙。
「さっきの『言葉遊び』はなんだ? なんで、ここ最近夜にうなされている? なんの夢を見てるんだ?」
 ――沈黙。
「なんであんた、『ブルーメン』ってのに誘拐された?
『プログラム・ジャバウォック』とはなんの計画だ? あんたは知ってるのか?」

358 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:38:15 ID:ulscV0KqO
 浮かぶ疑念の全て――今の今まで棚上げにしてきたものも含め、レッドはセピアへ向けてぶちまけていた。
 セピアはただ静かな目でこちらを見ている――なにを考えているのかは、まるで分からなかった。
 二人を隔てる、一メートルにも満たない距離を思う。
 それは果てしなく遠かった。
 彼女を知れば知るほど――近づいたと思えば思うほど、より遠くへ行ってしまうようで。
 永遠に亀に追いつけないアルキメデスのようで。
「なにがあった。バイオレットと同じ施設にいたあんたが、ARMSの不具合のために連れていかれた別のラボで。
この指輪は、そこにいた『誰か』からもらったのか?」
 そこでやっとセピアが反応らしい反応を見せた。
 頭から冷や水をぶっかけられたような顔をして、ぴくんと身を震わせる。
「言えよ」
 畳み掛けるレッドの言葉から逃げるように、セピアはのろのろと顔を伏せる。
 さっとレッドの腕が伸び、さっきは出来なかったこと――セピアの胸倉を掴んで引き寄せた。
「言え」
「……レッドには関係ないでしょ」
「言わなきゃ分かんないだろ!」
「え――?」
「あんたが黙り込んだままで――なにも言わないままで、どうして分かるってんだ!
あんた、クリフとの戦闘のときに言ったよな、『オレのことが分かった』と。
なら――なら、オレはどうなる? オレはあんたのことが分からず仕舞いなのか?
オレには、あんたを理解する機会すら与えられないと言うのか!」
 知らず腕に力が込められ、お互いの鼻がくっつきそうな距離にセピアの顔があったが、そんなことは今のレッドの思案の外にあった。
「オレはあんたにとってその程度だということか!?
兄妹の価値がない――この指輪の代わりにもならないのか!
オレは金細工以下か!」
 一気呵成に言い終え、そこで余りの直球っぷりに思い至る。
 バイオレットならまずこんな言い方はすまい。こんな抜き身の言葉ではなく、もっと細心の注意を払って単語を選ぶだろう。
(くそ――)
 なんかもういたたまれない気持ちになって、セピアの服を掴んでいた手から力が抜ける。

359 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:39:43 ID:ulscV0KqO
 こんなことを言うはずではなかった。
 ただこの指輪を餌に、セピアを立たせようとした――そのはずだったのに。
 セピアのことであれこれ思い悩むのはやめようと、そう決めたはずだった。
「……分かったよ。指輪は返す。だから立ってくれ。
オレには任務がある。そのなかには、あんたを生かすことも含まれているんだ」
 なにかの巨大なものを諦めかけるような無力感のにじむ声とともに、握り込んでいた手を開き、指輪を差し出した。
 セピアはそれに目もくれず、手も伸ばそうとしない。
 と思いきや、バネ仕掛けのような唐突さで、がばっとレッドの腕を取る。
 それは指輪を急いで取り返そうとかそういうのでは全然無く――、
「――わた、わたし」
 目に見えるような緊張がセピアの肩に渦を巻き、その渦がレッドの腕を痛いくらいに掴んでいた。
 砂漠のなかにあるような乾ききった瞳が――砂ばかりの世界で、なおもなにかを見出だそうとしている視線が、
真っすぐにレッドの瞳の奥を捉えていた。それはまるで、そこに水場を見つけたような真実そのものの必死さで。
「わたし……本当は……わたしのARMSは――」


 わたしのARMSは最初から『出来損ない』だったの。
 生まれたときから暮らしていたラボでわたしはARMS適応者に選ばれて、『モックタートル』を移植されたわ。
 でもそれがなかなか定着しなくて不安定だったから、フロリダの研究所に送られた。
 そこで、わたしは同い年の『キース』と仲良くなったの。
 その子はシャーロットっていう名前だったわ。
 ルイス・キャロル――チャールズ・ドジソンが『不思議の国のアリス』を書くきっかけとなった、
『テムズ川の遠足』に参加したリデル家の三姉妹の長女、『一の姫(プリマ)』にあやかった名前だって言ってた。
 シャーロットに会うまでは、わたしは寂しくて悲しくて泣いてばかりだった。
 でもシャーロットはそんなわたしを励ましてくれた。
 『いいこと』は向こうからやってくるのじゃなくて、そこら辺に落ちているものだから自分で探しなさいって。
 シャーロットはいつも綺麗な指輪を指に着けていて、それを大切にしていた。
 その指輪は今は誰のものでもなくて、長い時間をかけていつか本当の持ち主のところにたどり着く幸運のお守りだって。
 それが本当の持ち主のところに行くまでは、それを持っている人に『運び賃』として幸運を授けてくれるんだって。
 シャーロットが前にいたラボで、名前と一緒に指輪をくれたジプシー出身の研究員がそう教えてくれたんだよ、って言ってた。

360 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:41:57 ID:ulscV0KqO
 わたしはシャーロットと名前を教え合って、『本当の姉妹』になった。
 キースシリーズだとかマテリアルナンバーとかとは関係のない、本当の名前で本当の姉妹。
 わたしとシャーロットはそれからいつも一緒だった。ふたりでひとつみたいな、そんな安心できる素敵な気持ちだった。
 わたし、幸せだった。『いいこと』がどこに落ちているのか、いつでも簡単に見つけられていた。

 その頃のわたしは、ARMSの制御どころか、発動もろくに出来なかった。
 ううん、本当はきっと分かってた。わたしの『モックタートル』がどんなもので、その『終点』にはなにが待ってるか。
 だって、初めて『モックタートル』を発動させたとき、とても嫌な感じがしたから。
 わたしと『モックタートル』に接続された計器が一瞬で燃え上がって、
実験フロアがまるごと火事になったときから、なんとなく分かってた。
 頭では分からなくても、肌で分かってたから、わたしはARMSを発動出来なかった。きっと無意識に押さえ込んでんだと思う。

 ――分かっていたはずなのに。

 ある日わたしとシャーロットが呼び出されて、『実験』が始まったの。
 「二人のARMSの共振で、互いの欠陥を補えるかどうか」っていう実験だと説明されたわ。
 結果次第では、わたしとシャーロットのどちらにも取り返しのつかない大きなマイナス評価が下されるから覚悟するように、って。
 だから、わたし頑張ってARMSを発動させようとした。
 シャーロットと別れたくなかったし、シャーロットの力になりたかったから。
 ……でも、それが間違いだった。
 シャーロットのARMSは脚に移植された戦闘用のARMSだった。
 磁場を操ることで空中を歩くように移動したり、それを直接ぶつけることで攻撃するARMS。
 でもシャーロットは磁場を弱いレベルでしか維持できなくて、だから『再調整』のためにラボに連れてこられたの。
 実験は最初は上手くいっていたわ。
 わたしもシャーロットも裸で、データ採取のコードでぐるぐる巻きにされてたから身動きなんて取れなかったけど、
最初のARMS適応者――『アリス』が朗読した『不思議の国のアリス』の音声テープがスピーカーから流れてたから、退屈はしなかったわ。

 ――『それ』が起こったのは、ちょうど朗読が、第九章『代用海ガメの話』の中の、海の学校のくだりに差し掛かったとき。

361 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:44:04 ID:ulscV0KqO
 
 ――いきなり、シャーロットの脚が膨れ上がって、ベッドに突き刺さったの。
 それから周りの機械とかが片っ端から粉々に砕けていった。
 なにが起こったのか分からなかった。
 慌ててシャーロットのところへ行こうとしたけど――わたし、どこにもいなかった。いなかったの。
 わたしは確かにそこにいるのに、わたしの身体だけがどこにもなかったの。

 ……今でも夢に見る。
 スピーカーから『アリス』の言葉遊びが流れているなかで、シャーロットのARMSが怪物みたいになって暴れ回って、でもわたしはそこにいなくて。
 部屋の中は目茶苦茶で、シャーロットの身体はARMSに半分以上飲み込まれてて、
『アリス』はアナゴのおじいさんに教わる色々を話していて、わたしはなにも出来ずにただそれを見て聞いていた。

 部屋の壁が壊れそうになって、いきなりその全てが嘘みたいに収まった。
 外部から抑制信号を打ち込まれたのだと分かったころには、どこにも無かったはずのわたしの身体は元に戻っていたわ。
 ――シャーロットは……シャーロットは、腰から下が無くなっていた。
 残った身体も乾いた粘土みたいにぼろぼろで、次々に崩れていくの。
 わたしはなんとかそれを繋ぎとめようとしたけど、触るそばから砕けてしまって、どうしたらいいか分かんなかった。
 泣かないで、ってシャーロットが言うのでわたしの目から涙が零れてるのに気がついたけど、それどころじゃなかった。
 シャーロットはわたしに手の平を伸ばして指輪を見せたの。
 そして、「指輪をあげる」って言ったの。金無垢なんだって。幸運のお守りだよって。
 そして――部屋のドアが開いて、研究所の人たちが入ってきて、一緒に吹き込んできた風のなかにシャーロットは溶けていったわ。
 まるで砂のお城が消えてくみたいに。指輪だけが床に落ちて、わたしのところに転がってきた。

 そのとき分かったの。
 わたしのARMSの本当の能力は『加速』――しかも、それは一線を越えたら、限界とか抑制とかのない、行くとこまで行ってしまう力なんだって。
 そして、ラボの大人たちはそれを知っていた――知っていて、それを試すために『実験』をやったんだって分かった。
 だから、シャーロットが酷いことになっているのに誰も助けに来なかった。そうとしか思えなかった。

 そして、最後に分かったのは――

362 :ヴィクティム・レッド:2008/04/09(水) 23:49:01 ID:ulscV0KqO
 

「最後に分かったのは、わたしが彼女を殺してしまったということ。
 それから、わたしには『本当のもの』なんてなにひとついらないんだってこと。
 本当の名前も、本当の心も、本当の兄弟も。
 それが『モックタートル』――『代用海ガメ』の、わたしのARMSの意味。
 ――これでおしまい」
 そう言って、セピアは話を締め括った。
 そして、一言も言葉を発しないレッドへと青白い手を差し延べる。
「さっきは子供みたいな駄々こねてごめんなさい。
 レッドがそうしろって言うなら、わたし立つわ。走れって言うならもう一度走る。
 でもね、覚えていて欲しいの。
 わたしの『ニーベルングの指輪』は力を貸すことは出来る。でも、貸すだけ。あげることは決してできない。
 だって――わたしのARMSは、『味方殺し』のARMSだから。
 わたしにはあなたに守ってもらう資格なんか、これっぽちもないの」
 レッドは手元の指輪を見、それからセピアを見た。
 そして固く目を閉じ、ひたすら待った。
 言うべき言葉が浮かび上がるのを。
 目の前に佇む、ヒトのかたちをした救いがたい虚無に立ち向かう術が、ここに顕れるのを。
 ――遠く、風の音がした。

363 :作者の都合により名無しです:2008/04/09(水) 23:59:50 ID:0BMFxJ6q0
終わりかな?ハロイさん投稿中にレス入れてしまってごめんなさい。

しかしセピアは健気ですね。昔語りを簡単に出来るほど浅い心の傷ではないのに。
お互いを支えあっていくはずのレッドとセピアの別れも近そう・・。

364 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/04/10(木) 00:00:16 ID:ulscV0KqO
武装錬金大人気ですね。

ラーメンの話が終わったら、ガチバトルのシリアス武装錬金SSやろうと思ったけど自重します。
月三の携帯野郎がなに言ってんだか。ま、早いとこパソコン買います。


関係ないけど、カート・ヴォネガットの「タイタンの幼女」という作品で、世界征服に必要なものについて書かれています。

一、ショウマンシップ
二、他人の血を流すことに対するにこやかな熱心さ
三、もっともらしい新宗教

エグリゴリは全部備えてますね。
どうでもいいですね。

365 :作者の都合により名無しです:2008/04/10(木) 00:13:17 ID:aaUq7HRQ0
ハロイ氏すげーな
よく携帯でここまで練りこめるもんだ
読み易いし。
不思議の国のアリスとかの知識も半端ねえ

366 :作者の都合により名無しです:2008/04/10(木) 10:44:34 ID:7FqxwYgJ0
セピアが出来損ないで、レッドが他の兄弟より劣るアームズで・・・。
似たもの同士惹かれ合う、ってやつですかね。
シャーロットの分だけセピアの方が悲しいが。


367 :永遠の扉:2008/04/10(木) 14:49:10 ID:LPKDyb+O0
第047話 「絶縁破壊 其の陸」

「のわあああああ! 正に驟雨の勢いで矢が降り注いでおりまするーっ! 不肖の背中をご覧
ください、恐らくかの武蔵坊弁慶の立ち往生かハリネズミか! 火をつけますればかちかち山の
狸と化して野山五百里わーわー駆けずり回るは正に必定! というか、と、いうかー!」
 秋水とまひろの説得が佳境にさしかかった頃、小札は蝶野邸の庭を頭抱えつつ走っていた。
「というか畢竟(ひっきょう)つまびらかに本音漏らさば、痛いのです!」
 彼女のいう通り、背中には何本もの矢が刺さっている。
「痛い!」
 また肩口に矢が突き立った。
「痛い!」
 鳶色のくりくりとした瞳に涙がにじんだ。
「お、おやめ下さいー!」
 霧の中で小札は栗色のおさげを揺らしつつ振り返って、御前に抗議した。
「じゃあさっさと負けを認めちまえよロバ女!」
「うぅ……不肖もなるべくそうしたいのですができぬ相談でありまして……」
「ならやめねーぜ!」
 唇をMの字に噛み締め矢を十本顕した御前を見ると
「ひぃえええええ!!!」
 小札は引きつった悲鳴を立てて、短い脚を精いっぱい大股にして逃げる速度を速めた。
 彼女は気付かない。桜花が追ってこない不思議を。先ほどまで彼女が小札のいた場所に
少し留まり、何かを拾い上げたのを。

(さてと……目論み通りあのホなんとかって結界は破れたし、もうひと押しで小札ちゃんは倒
せるそうだけど……でもせっかく紙吹雪を矢の効果で直して紙を手に入れたコトだし)
 桜花は奇麗に折りたたんだ紙片をポケットに滑り込ますと、ふぅとため息をついた。
(念には念を入れておかなきゃ。津村さんも剛太クンも伏兵にやられたっていうし)

 小札はいつしか密集する蔵の隙間に駆けこんでいた。
 気づけば御前の攻撃もやんでいる。その異変に「はてな?」と首をかしげたが、みるみると
その顔から血の気が引くのを禁じえなかった。

368 :永遠の扉:2008/04/10(木) 14:49:47 ID:LPKDyb+O0
「そのう。あまり考えたくはないのですが……まさか先ほどの攻撃……とゆーのは……?」
 恐る恐る周囲を見渡す。右手に蔵。左手にも蔵。両方とも一歩前へ進めば扉が開けれそう
だ。そこに避難すれば或いはやり過ごせそうだが、同時にそれは蔵と蔵の間に生じた一本道
のほぼ中央に追い詰められているといえなくもない。
「その通り!」
 正面から声がかかると小札はギクリと肩を震わし、
「誘導よ」
 背後からの声へ、油の切れたカラクリ人形のようにぎこちなく振り向くしかできかなった。
 正面に浮かぶ小さな影は御前だ。
 両手にありったけ矢を持って、三白眼をいよいよ威圧に鋭くしている。
 背後には桜花。
 マシンガンシャッフルで「繋ぎとめられた」様々な物を無効化するために、鏑矢でそのダメージ
を引き受けたせいだろう。肩、胸、腹、腕、そしてスカートと、クリーム色の制服に緋色の牡丹が
咲き乱れ、頬はぞっとするほど貧血の青に染まっている。
 小札はその凄惨さに息を呑んだ。ダメージからいえば背中に無数の矢を受けた小札も相当な
物ではあるが、しかし客観視すると幼さゆえか、どうも学芸会で落ち武者の役をやっているよう
な滑稽さがあるのだ。
 対して血まみれの桜花……こちらは美貌ゆえに幽玄な恐ろしさを漂わせている。事情を知
らない者に「ここで死んだ方の幽霊です」とうそぶけば、すんなり信用されそうだ。
 小札の敵たちは挟撃を確かにするためか、更に一歩進んだ。小札同様両脇が蔵となり、回
避にはひどく不向きな位置だが、「追い詰める」という心理的な重圧を優先したのだろう。
 この点、非力でありながら狡猾な桜花らしい。要するに矢をありったけ叩きこんで「殺す」より
小札の動揺を誘って「降服」を叫ばせる方が合理的とみたのだ。
「……降服の合図。それはマシンガンシャッフルの放棄でしょうか?」
 顔を伏せた小札を見た御前はひどい喜色を湛えた。
「そうだぜー。あと、ちゃあんと総角の奴の企みも吐きやがれ! 何、殺しはしねーよ」
「そうよ。もうあなたの武装錬金の攻略法は割れているから、抵抗は無駄よ」
 桜花は鏑矢をつがえ、御前は鏃(やじり)の狙いをすべて小札に吸いつけた。
 返答次第ではトドメを刺すというコトなのだろう。
「そうですか」

369 :永遠の扉:2008/04/10(木) 14:58:18 ID:LPKDyb+O0
 マシンガンシャッフルは先端に宝石をあしらっただけの簡素なロッドの形状である。宝石の
形状はテーブル(上面)が六角形のラウンドブリリアントカットであり、一般的なダイヤモンドの
イメージとそれほど乖離していない。
「……人間の神経は」
 小札の口からぽつねんと漏れる呟きに桜花は違和感を感じた。いつでも攻撃に移れるよう
に構えながら、警戒を以て小札を見渡した。
「人間の神経は……大別すると”軸索(じくさく)”と”髄鞘(ずいしょう)”の二つからできており
ます。電気コードでいうなれば内部の銅線が軸索、外のゴムのカバーが髄鞘……」
 ……桜花がただでさえ青い顔をほとんど死人のように白くしたのは、宝石の異変に気付いた
からだ。
「人間の神経も電気コードと原理は同じであります。ミエリン鞘とも呼ばれる髄鞘は、軸索を
流れる神経信号が外部に漏れぬよう常に『絶縁』しているのです」
 小札の持つマシンガンシャッフル。
その先端の宝石の中で、青い光が微かだがしかし確かに
チロチロと蛇か炎のようにくゆっている! 
「それを利し……不肖は危機を免れなければならないのです」
「御前様! 射って!」
 沈痛な呟きと動揺の叫びがほぼ同時に交差するや否や、雷鳴のような青い光が桜花に迫っ
た。桜花は咄嗟に横へ回避せんとし……肩に当たった鈍い感触に歯噛みした。両脇は蔵。横
に飛べば確実に回避行動を阻まれる。ああ、小札への戦略的重圧が仇になろうとは!
 踵を返さんとしたが既に遅く──
 青い光が桜花の全身を焼けつくさんばかりに突き抜けた。
 時間にすれば五秒足らずだっただろう。桜花は言葉を発する間もなく、ただただ全身を電流に
よる不規則な痙攣に躍らせやがて光の終焉とともに力なくその場に崩れ落ちた。その様は糸
無きマリオネットがごとく。
 肩や胸に矢を受けながら、小札は息も絶え絶えにがくりと頭を垂れた。
 御前は茫然たる面持ちで倒れ伏す桜花を見た。まだ死んでいないコトは桜花の一面投影者
たる御前の健在からして明らかだが、桜花自身が戦闘可能でないコトもまた明らか。
「さっかきら何ブツブツいってんだよロバ女! というか──!」

370 :永遠の扉:2008/04/10(木) 14:59:21 ID:LPKDyb+O0
「生まれたての赤ちゃんは髄鞘が未発達のため軸索に正しく神経信号が通らず手足が動か
せず、成人された方でも髄鞘が欠ければ──…例えば炎症などで脱髄(だつずい)という『破
壊』に見舞われれば、神経痛や麻痺を引き起こすのです」
 小札はひときわ大きな息を吐くと、横目で桜花を申し訳なさそうに見た。
「話聞けよ! い、いったい桜花に何したんだテメー!!」
 怯えと苛立ちに顔を歪めて矢を出す御前に、小札はこう呟いた。
「絶縁破壊」
「ゼツエン……?」
「本来は主に電子回路に起こるべき事象……すなわち設定された絶縁耐力を超える電圧不
可により放電が生じ、絶縁体が破壊される現象を指しまする」
 身近なところでは雷も絶縁破壊の一種といえる。
 例えば電線がちぎれその内部も露に放電しているとしても、空気中であれば数メートル離れ
ていればまず感電するコトはない。だが水中であれば電流は広範囲に広がるだろう。
 そういう意味では(市場に通用しないにしろ、水と比べた場合)、空気は絶縁体といえるが、
しかし稲妻の放つ一億ボルトとも十億ボルトともいう電圧の前にはいとも容易く絶縁破壊をさ
れ、地上への通電を許すのだ。
 なお、小札のバリアーの光線は稲光と原理は同じ、繋がる物同士にある空白ともいえる空
気の絶縁を破壊するコトにより、バラバラの破損物を繋げているのである。
「不肖が行ったのはその人間版……すなわち、神経に対する絶縁破壊。全身すみずみまで
の髄鞘をことごく破壊し軸索を露出せしめた次第。よって激痛とともに気絶し、目覚めたとして
もしばらく身動き取れぬは必定」
「……可愛い顔してすっげー凶悪な技だなオイ」
 顔一面に汗を垂らして呆れたようにつぶやく御前を小札は首肯した。
「ゆえに使いたくなかったのです」
「って! なんでお前そんなんできるんだよ! さっきまで紙吹雪とか障子とか蔵のバラバラ
になった破片とか繋いでるだけだったじゃねーか!!」
「だからこそです」
「へ?」
「壊れた物を繋ぎ、繋いだ物は自由自在。元の形にするコトも意のままにするのも可能……
それこそがマシンガンシャッフルであります。すなわち」
「壊れ……? はっ!

371 :永遠の扉:2008/04/10(木) 15:00:19 ID:LPKDyb+O0
 御前はようやく気づいた。桜花はその『壊れた物』に対し鏑矢を撃ち、ダメージを引き受けた。
 流血していたのは見ての通り。すなわち皮膚や筋肉が壊れている──!
「それらを繋ぎ合わせる際に神経へと過大な電圧を叩きこみ、絶縁を破壊した次第。通称──
絶縁破壊モード……ザ・リアルフォークブルース」
 ロッドを踵のあたりまで下ろすと、小札はよろよろと歩きだした。
「まだ心のほころーびを癒せぬまま、風が吹いている……」
 彼女が横を通り過ぎると御前から抗議の声があがった。「なぜ行くんだ?」と。
「勝負はかろうじて不肖の勝ち。任務を続行いたします」
「なるほど。分かったぜ」
「ご理解、ありがとうございます」
「何勘違いしてるんだ! オレのバトルフェイズはまだ終了してないぜ!!」
「え!?」
「オレは無傷だから絶縁なんたらも通じねー! 矢だってまだまだ撃てるんだ!」
「なんと!」
 仰天しながら小札が振り向いたのと、その闊達な口に矢が命中したのは同時だった。
「ぎゃあ───────────っ!」
「オオオオイ! 急に振り向くなよ!」
 威嚇のつもりだったのに……と御前は思わぬクリーンヒットに汗を流した。一応人格は女の
コのため、小札が例え桜花から二枚も三枚も劣る容姿だとしても、その顔を傷つけるのは好み
ではないらしい。
「のわあっ! 歯が、歯があああああ!!」
 小札は慌てて矢をひっつかんで、ちょっとどうするか迷ってから申し訳なさそうに地面へぽい
と捨てた。すると一緒に自分の小さな小さな歯が落ちるのを目撃し、フムと顎に手を当てた。
「むむむ、形状から察するにこれは不肖の右の上顎乳犬……などと分析実況する余裕もひょ、
……うぅ、空気が抜けて発音がぁ〜 
「悪ィ。本気で狙うつもりじゃなかったんだ」
 御前の謝罪など耳に入ってないかのように小札は取り乱した。
「ままま前歯……不肖の前歯がかの曹操孟徳のようにガキィっと……然るにまだ夏候惇になら
なかったのはまだ幸いかも知れませぬ。さしもの不肖も目は食べたくは──ッ!!」
 前歯を拾い上げる頃には鳶色の瞳から大粒の涙がポロポロ。
「それにしても不肖とて一応は女の子。もりもりさん(総角の愛称)に見られて嫌われたら」

372 :永遠の扉:2008/04/10(木) 15:01:59 ID:Q6xK+0Qb0
 白いエナメル質から急いで土ぼこりを払って小札はポケットにしまい込んだ。ぶるぶると震え
る手は、マシンガンシャッフルで治そうというひらめきが出ぬほどの動揺を示していた。
「不肖は胸とか胸とかお尻とか、何かと至らぬ点は多々あれど、曲がりなりにも女のコ。なの
になのに味噌っ歯……もりもりさんに嫌われたら、嫌われたら……」
「とにかく! 桜花の意識が完全に途切れるまで撃って撃って撃ちまく──…」
 両手を開いて節足動物のように無数の矢を展開した御前は、気づくべきだった。
「……桜花どのも後ほど治させて頂きたく思ってたのに……思ってたのに……この仕打ち……」
 顔を俯かせ、わなわなと震える小札に激しい感情の渦が充満しているのを。
「ご、ご、ご、ご……!」
 涙をちぎらんばかりにぎゅっと目をつぶって、彼女は叫んだ。
「御前どのの……馬鹿ああああああ!!!!」
 珍しく語気に籠った怒りに呼応するように、突き上げられたロッドから黒い光が迸り、御前は
それを避けた。
「へ! 要するに光に当たらなけりゃ……」
 言葉半ばで御前は背中に異様な質量がのしかかるのを感じた。同時に視界は急降下を遂げ
腹が冷たく堅い土に叩きつけられた。衝撃はすさまじく、御前はお腹のハートランプがミシミシ
と割れる音すら聞いた。置かれた状況が分からない。そして背中に乗ってきたモノは何なのか?
 ひとまずヒレみたいな両腕を立て、肉まん型の頭をぐぐぐと振り向かせると。
 食べ物でいうなら食パンできんぴらごぼうを挟んだような物体があった。白塗りの平たい何か
に土臭い物体が押し込められ、くすんだ繊維が禿山の木のようにちょんちょんと飛び出ている。
 とそこまで認め輪郭が明瞭になった瞬間、御前は比較的新しい記憶との合致を認めた。
 見覚えはある。何故なら桜花が喰らい御前が危うく辺りかけ、調べるコトでマシンガンシャッ
フルの特性を見抜いたのだから。
「蔵の……壁……?」
 の、破片だ。そういえばと御前は自らの不覚を嘆いた。庭での戦闘で回避した破片がこの
辺りに着弾して修復するのを確かに見た。見たにも関わらず責め手に再利用されるとは予想
していなかった。恐らく小札はこの破片を操って御前に落としたのだろう。

373 :永遠の扉:2008/04/10(木) 15:07:02 ID:Q6xK+0Qb0
(……桜花が……やられて…………ムキになりすぎたぜ)
 御前の腕から力が抜け、大きな頭が地面に倒れ込むのを合図に、小札はようやく正気に戻っ
たらしい。
「きゅう?」
 目をパチクリとすると、御前の災難が目に入り、顔面蒼白でわたわたと駆け寄った。
「わわわ! だ、大丈夫ですか御前どの! なんという感情的な失態! かける言葉もありませ
ぬ! あのハタキなき今、マシンガンシャッフルを遮るモノがないためかかる羽目にぃー!!」
「く……そ……」
「御前どの?」
「ハタキじゃねぇってんだバッキャロー!」
「あたぁ!」
 御前が飛びながら小札の額をはたいたのは、最後の力である。傷ついてなお背中から蔵の
破片を吹き飛ばして飛んだ彼女は、ダンクシュートが終わるような軌道で地面にぼとりと倒れ。
「御前どのォ───ッ!!」
 ゴゼンは風になった── 小札が無意識のうちにとっていたのは「敬礼」の姿であった──
「い、いや、武装錬金が強制的に解除されただけで大丈夫かと」
 敬礼解除の手で前髪をかきあげて額をすりすりしつつ、小札はよいしょと立ち上がった。
 そしてしばらく寂然とロッドを顎に手を当てたのは何かを考えていたらしい。
 くるりと桜花の方に向き直ると、言い訳のようにつぶやいた。
「とはいえ勝った以上、桜花どのから核鉄を収集せねば後々のためにならず。これも任務ゆえ
なにとぞお許しいただきたく……諸々の失態、いつか菓子折り持ってお詫びに伺いたく……」
 桜花に歩み寄り、しゃがみ込む小札。
 幸い核鉄は傍に落ちていたので容易に拾い上げられた。
 ほっと薄い胸をなでおろす小札。 
 だが。

 背後で扉が開く音がして、意外な運命が訪れたのはその直後である。

374 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/10(木) 15:07:32 ID:Q6xK+0Qb0
サブタイの絶縁破壊とはこんな感じです。
あとですね、次回投下して他の事柄を二、三片付けたら一週間ばかりネットを断とうかと。
断たないにしろちょっと調べ物はしたいですね。それを以て文筆をより良くしたい。

>>336さん
まぁまぁ。ああいうコが存在できるのが二次元の良さですよw
ただ二次元でも、意のままに振舞って得ばかりってのは何か違うなーって
コトで、壁に突っ込ませたり頬つねられたり。良い結果は痛みと引き換えでないと。

>>337さん
そうなのですよ。無垢で無条件に寄ってくる、子犬のような感じがまひろかと。
ただ前回を振り返ってみると、カズキとの別離をヴィクトリアとヴィクターの別離に
重ねて合せた方がもっと良かったかも知れずそこが残念。……まだ、力不足ですなぁ。

>>338さん
ゲヘヘ。山野の彼方からきましたよ。でもなるべく内容にふれていただけるともっと嬉しいですw

>>339さん(おお、じっくりと。ありがとうございます!)
ズバリそのものですねw >テーマ 平たく言えばこのSSは秋水が扉開こうとあがくお話なんですよ。
その扉は自分のだったり他人のだったり、いわゆる「壁」みたいな扉だったり。で、努力や苦慮が
全部それを開くのに通じたらなーと。しかしまだ序盤の終盤ってのがなんともw 四十七話ってw
中盤以降、いろいろやってみたいコトがあります。終盤はもうだいぶ前から決定してますけど、
中盤はほとんど未決定。だからこそ自分の力量で試せるコトをぜーんぶやりたいですね。
とにかく波乱に満たしてみたいですw

375 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/10(木) 15:08:07 ID:Q6xK+0Qb0
さいさん
カズキ相手には骨抜きで、素人(と認めた相手)には決して手出ししない所がやっぱり彼女ら
しくて、「そうそう、これでこそ斗貴子さん!」と。/zネタもおいしゅうございましたw
mugen下敷きなればもっともっと色々ブチ込んで見てはどうでしょう。ブチ込んだ上で決勝以外は
基本的に一撃必殺にしてしまえばいいのです。逆にいえばあれやこれやの組み合わせは、一撃
必殺でできるように組んでしまえば割と楽かも。……あぁ、でもあまり長いと本命のduskに響きますね……
ま、いざとなったらカンフーマン系を当て馬にw

ふら〜りさん
奇行さえ差し引けば目線は割と一般人なまひろならば、こう、人間的な側面からやわやわと
心をほぐしていけるかなーと思い、描いたのですが、どうでしょう? ちなみに奇行については
もうまひろ特有としかいえないですねw パピヨンだって他者に対しては割と粛然とした節がありますし。

>BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN
>手足の一本ずつもブッた斬って尋問する
これが壮烈すぎてw にしても戦闘の視点変化が相も変わらず流麗。修辞のない軽やかさ。
そして山崎と鈴木の会話があまりにビジネスじみているw 当事者の名前からしてすでにどこ
にでもいそうなリーマンですしw 由緒ある錬金術も企業にかかれば形無しですねこりゃ。

376 :作者の都合により名無しです:2008/04/10(木) 15:45:39 ID:/CknkXgV0
ウンチクロバ娘はウザかわいいなw

377 :作者の都合により名無しです:2008/04/10(木) 18:31:58 ID:7FqxwYgJ0
うん、ふらーりさんがなんとなく小札がお気に入りなのもわかるw
スターダスト氏もオリキャラの中で最も気に入っておられるんでしょうね。

378 :作者の都合により名無しです:2008/04/11(金) 02:14:39 ID:SE0YsQLj0
そうか。
御前と小札は同レベなんだなw

379 :作者の都合により名無しです:2008/04/11(金) 08:43:51 ID:qd1nIi3N0
小札と御前だと漫才バトルになるね
本人たちは真剣かも知れんけど
旗から見ると幼児が遊んでいるようにしか見えんだろうなあ

380 :作者の都合により名無しです:2008/04/11(金) 13:50:42 ID:v61oE4Qt0
やはりふら〜りさんがいるとバキスレ元気っぽいね

381 :作者の都合により名無しです:2008/04/12(土) 10:45:05 ID:v5ZpPE4W0
もうすぐ次スレなのでテンプレを仮整理してみた。
ハイデッカさん見直しお願いします。

AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉   (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
のび太の新説桃太郎伝 (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html

382 :作者の都合により名無しです:2008/04/12(土) 10:46:04 ID:v5ZpPE4W0
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
ロンギヌスの槍 (ハシ氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
BAMBOO 電王 (名無し氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/584.html
BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN (ふら〜り氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/600.html
HAPPINESS IS A WARM GUN (さい氏)
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html

以上。

383 :作者の都合により名無しです:2008/04/12(土) 17:45:52 ID:E+OEBHOV0
おつかれです
BAMBOO 電王ってのがどんなのか思い出せん

384 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/12(土) 21:30:59 ID:l1PRVLcn0
>>352
鈴木が指を鳴らし、命令を下した。
「いけバヅー! カビの生えた古臭い錬金術など遥かに超えた、我が『パレット』の
技術が生んだ最新最強ホムンクルスの力を見せてやるがいい!」
バヅーが大地を蹴って駆け、縦横に跳び廻って高速幻惑しながら斗貴子と山崎に迫る。
斗貴子はそのバヅーを冷静に見つめ、動きを読み取っていく。確かに速いが、斗貴子の目と
バルキリースカートに捉えきれないほどではない。
「あのホムンクルスは私が引き受けた。あんたはあの鈴木って奴を抑えていてくれ。敵の強さ
が予想以上だ、試作品のテストなんて悠長なことはしていられない」
「解りました。ではバヅーはお任せします。ワタクシは鈴木氏と、もう一体をお引き受けします」
「え?」
「ほら、バヅーが来ますよ。前方注意です」
という山崎の声を切り裂いて、周囲の空気も切り裂いて、バヅーの蹴りが飛来した。斗貴子は
側転して攻撃をかわしながら、その側転を途中で止めてバヅーから離れないようにして片手倒立、
そしてコマのように回転。畳んだバルキリースカートと自身の回転させた両脚とによる、
六本同時攻撃をバヅーに放った。
さすがのバズーも跳び蹴りの最中だったのでこれはかわしきれず、蹴りを受けてバランスを崩した
所に刃を受けてしまった。左腕を根本から、ざっくりと斬り飛ばされる。
章印に受けた傷ではないので自然に治るが、先の山崎の名刺と違って武装錬金による
攻撃なので、瞬時全快とはいかない。バヅーは苦痛に顔を歪めながら右手で左肩を
押さえ、斗貴子を睨んでいる。
これでバヅーの戦力は大幅にダウンするはず。次の一手で片付くだろう。
山崎はどうか、と斗貴子はそちらを見てみた。

385 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/12(土) 21:31:31 ID:l1PRVLcn0
山崎の眼前に建つビルの窓から、新たなホムンクルスが跳び出てきた。向かい側の、
もう一軒の建築中ビルの鉄骨に白く長いロープのようなものを伸ばして引っ掛け、
ターザンよろしく山崎に襲いかかる。
苔のような緑色の肌と、筋骨逞しい体に粗末な装束。バヅーとよく似ているが、頭部だけは
全く違う。バヅーがバッタだとすると、こちらはクモだ。おそらくは今掴まっているロープが
クモの糸、このクモ型ホムンクルスの武器なのだろう。
山崎は懐に手を入れて十数枚ほどのカードを取り出すと、
「名刺スラッシュ!」
己が名と社名と役職と電話番号とその他諸々を記した紙片五枚を、手裏剣のように
投げつける。先ほど、バヅーに放ったのと同じ技だ。
クモ型ホムンクルスは右手で糸を持ったまま左手を空けて、そこに新たに2メートル分ほど
の糸を口から吐き出して持った。そしてそれを、ムチのように操って名刺スラッシュを
弾き落としていく。
余裕の表情で見守っている鈴木が、誇らしげに言った。
「ムダですよ山崎さん! グムンのその糸は超々ジュラルミン製の針金を編んだもの! 
いかにあなたの名刺スラッシュでも、切れはしません!」
「ほう。そんなもので打たれたりしては、ワタクシも危険ですな。ならば、」
山崎はネクタイを解いて、
「打たれないようにするまでです」
握り締め、構える。するとネクタイが瞬時に硬質化して白熱し、一振りの剣となった。
巨大な振り子のようなグムンが、必殺の鞭を振りかざして山崎を襲う。そのグムンと、
白熱の剣を手にした山崎が交錯! 山崎の頭髪が二本、グムンの鞭に薙がれて
宙に舞った。グムンの鞭と、それを持つ左手は無事だ。
だが一拍遅れて、グムンの右腕が肘の辺りから切断され、落ちた。ぶら下がっていた
糸からグムンの体が離れ、勢い止まらず向かいのビルの壁に激突、落下する。
だが、それでもまだ鈴木は余裕だ。グムンがすぐに立ち上がったのを見て、山崎に言う。
「これまた流石ですな山崎さん。あなたのネクタイ=ブレード、噂以上の切れ味です。が、
名刺スラッシュと同様に、あなたの武器ではホムンクルスに有効なダメージは与えられ
ませんよ。さっさと武装錬金の試作品、ご使用になられてはいかがです? もちろん、
そんなもの軽く破ってご覧にいれますが」

386 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/12(土) 21:32:14 ID:l1PRVLcn0
「いえ。失礼ながら、破れはしません。ご覧の通りです」
山崎は言って、グムンに目を向けた。鈴木もそれに続く。
「!? な、なに? どうした、グムン?」
グムンの右肘、山崎に切断された断面からシュウシュウと煙が上がっている。普通、
ホムンクルスは錬金の力を持たぬ武器で攻撃されても、すぐに回復する。先ほどの
バヅーも、山崎の名刺スラッシュを受けてもすぐに全快した。なのに、グムンの腕は
回復する様子がない。
山崎は手にした剣、ネクタイ=ブレードを掲げ、斗貴子の方に振り返って言った。
「グローブ・オブ・エンチャント。これが当社の、武装錬金試作品の性能です」
山崎の黒い手袋から発した黄金の光が、ネクタイ=ブレードの白熱光と絡み合い、
眩く輝いている。
斗貴子がブラボーから説明されていたこと。NEO=SYSTEM社(以下NS社)が開発し、
現在山崎が装備している武装錬金の試作品の性能。
今のところ、NS社は核鉄→武装錬金のメカニズムについてはまだまだ解明できていない。
本家の錬金戦団でさえ未だ把握できていない部分なのだから、当然といえば当然だ。
しかし核鉄に秘められている力の一つ、アンチ・ホムンクルスエネルギー(仮)については
少しだけ分析でき、応用することができた。
例えばブラボーの武装錬金、防護服『シルバースキン』は比類なき防御力を誇る一方で、
攻撃に関する特性はない。が、それでも武装錬金には違いない。だからシルバースキン
で包まれた拳や脚でホムンクルスを攻撃すれば、それは剣や槍の武装錬金で
斬ったり突いたりしたのと同じこととなって、ホムンクルスを倒すことができる。つまり
シルバースキンには、ちゃんと武器の武装錬金としての特性(性能というべきか)も
備わっているのである。
しかし、『グローブ・オブ・エンチャント』にはそれすらない。山崎がその拳でホンムクルスを
攻撃しても、瞬時に回復修復されてしまう。NS社は、まだ武装錬金=ホムンクルスを攻撃
できる武器、を開発できてはいないのだ。
できたのは、アンチ・ホムンクルスエネルギーを発生させて流し込むエネルギー製造炉兼
供給装置。つまり『グローブ・オブ・エンチャント』の特性は、『接触している武器に武装錬金
の特性を与える』こと。そうしてアンチ・ホムンクルスエネルギーを他の物に付与させることで、
山崎は使い慣れた自分の武器を武装錬金と化し、ホムンクルスと闘うことができるのだ。

387 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/12(土) 21:32:38 ID:l1PRVLcn0
「とはいえ、これ自体には攻撃・防御両面で何の特性もありませんし、手から離して
投げたりすると、その瞬間にただの武器に戻ってしまいます。まだまだ武装錬金
そのものの開発にはほど遠いのです」
「……そうか」
斗貴子は思った。
確かに、この程度のものでは錬金戦団に持ち込まれても役に立たないだろう。多種多様な
能力をもつホムンクルスを相手に戦うには、不安が残るシロモノだ。何の特性もないとなる
と、使い手がよほどの強者でなければならない。シルバースキンから防御力をなくしたような
ものなのだから、素でブラボー以上に強くなくてはダメ、ということだ。厄介な注文である。
だが、ということは、そんなものを使ってホムンクルス相手に善戦している山崎は何だ? 
そういえば、斗貴子さえ気付けなかったグムンの存在を察知していたし、今こうしていても
まだ、(鈴木と同じく)山崎には気配が全くない。人間の気配も、ホムンクルスの気配もない。
斗貴子はバヅー、グムン、そして鈴木から目を離さぬよう注意しつつ山崎に問いかけた。
「山崎さん。私はあんたのことを、NS社ってところの戦士としか聞かされていない。失礼な
言い方だが、あんたは何者なんだ?」
「それについては後ほど。眼前の問題に対処してからにしましょう」
それぞれ片腕を失ったバヅーとグムンが、保護を求めてかじりじりと鈴木に近づいていく。
だが鈴木は、そんな状況にあってもまだ、笑みを消さない。
「山崎さん。それから津村さん。あなた方は、重傷を負ったこいつらが今、わたしの保護を
求めてこちらに来ていると思っておられませんか? だとしたら、とんだ誤解ですよ」
斗貴子がバルキリースカートの刃を煌かせて一歩、前に出た。
「誤解でも何でもいいが、お前たちと私たちとの戦力差は既に証明済みだぞ」
山崎を戦力として認めた斗貴子は余裕をもって、しかし油断はせず、鈴木たちを見据える。
鈴木の左右に、ぴたりとグムン・バヅーが並んだ。するとグムンが後ろを向いて、先ほど
自分が出てきたビルの窓へと糸を吐いた。
まだガラスが張られていないので、窓というより今はただの穴だ。その奥へと糸が伸びて
いき、やがて何かに引っ掛けたのか、グムンは首を捻って糸を強く引っぱる。

388 :BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN:2008/04/12(土) 21:33:02 ID:l1PRVLcn0
「バヅーと同じく、グムンも自分の食料の調達に行っていたのですよ。そして、ここで食べる
予定だった。しかしこういう事態になりましたので、食事は後回しにしてバヅーと一緒に
性能チェックをさせてみたのです。その結果、まだまだこいつらは改良の余地ありと
判りました。ということで、これにて性能チェックは終了。実戦に入ります」
まるでゴムかバネ仕掛けのおもちゃのように、グムンが窓から勢いよく引っ張り出して、
片手で受け止めたもの。
それは、クモの糸に捕らえられた獲物。グムンの糸に縛り上げられて気を失っている、
九歳ぐらいの小さな女の子だった。
グムンはその女の子を地面に倒して、細い首を軽く踏みつける。
「古臭い手段で申し訳ありませんが、人質です。わたしの号令一つで、この子の
頚椎は踏み砕かれ、頚動脈は踏み破られ、早い話が死亡することとなります。そんな
光景を見たくないなら……そうですね、まず津村さん。あなたが今ご使用になられている
武装錬金を核鉄に戻して、こちらに渡して下さい」
「断る」
斗貴子は即答した。
「私は錬金の戦士だ。ホムンクルスやそれに与する者たちの要求には応じない」
「ははっ、まるでテロリスト扱いですな我々は。ですが、そうするとこの子の命が失われますが、
宜しいのですか? 錬金の戦士としてそれでいいのですか?」
「いい」
斗貴子は重ねて即答した。
「今、その子の命を惜しんでお前たちに核鉄が渡れば、更に多くの犠牲が出る。それに、
戦団が核鉄を一つ失うのは、錬金の戦士を一人失うのと同じこと。これも、多くの犠牲を
出すことに繋がる。今、この状況でその子が犠牲となるのは、やむを得ないことだ」
力強く語る斗貴子の声を聞いて姿を見て、鈴木はぱちぱちと拍手した。
「いやいや、お若いのにお見事です。あなたは先ほど、自分の目の前でバヅーに
一人殺されたのを見た時、非常にお怒りでした。つまり、全くの冷血人間ではない。なのに、
こういう状況では冷徹な判断を下せる。大したものです。ですけどほら、その通り」
何がだ、と聞こうとした斗貴子の首が、微かに痛んだ。針か何かの先端が触れたように。
触れているのは、黄金の光を絡めて白熱している剣の先端。山崎のネクタイ=ブレードだ。
「核鉄を鈴木氏に渡して下さい」

389 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/04/12(土) 21:44:15 ID:l1PRVLcn0
こういう冷徹な女戦士が、お人よしな一般人少年との触れ合いの中で少しずつ
変わっていく……というのが王道と思う私。が、斗貴子は第一話で既に核鉄を捨てて
カズキを助け、のみならず笑顔まで見せてる。ならばその前段階を描かせてもらおうと。
ですので、本作の斗貴子は今後も冷徹な顔を見せますが、最後までお付き合いのほどを。

>>381さん
おつ華麗さまです! では、私のこれをもって移行としましょうか?  

>>ハロイさん
レッドの、男の子らしい「ムキになった表情」「でもそこからの反省・復帰」に少し心温まり
ました。状況を考えると、戦士らしく豪胆ともいえますが。などと思ってたらお姫様の壮絶
な過去が明かされて。彼のセピアに対する認識の深まりと態度の変化こそ本作の肝かも。

>>スターダストさん
男性の文武両道、女性の才色兼備。武に相当するのが色=美。戦う敵がおらずとも
強さに憧れるが男、捧げる相手がおらずとも美を求めるが女。いるのなら尚更。小札は、
今までで一番の女らしさを見せてくれましたね。その件で怒った時の恐ろしさも、「らしい」。

390 :作者の都合により名無しです:2008/04/13(日) 11:46:26 ID:PIpaif4U0
懐かしいなあ、名詞スラッシュw
山崎にも思い入れあるみたいですねふらーりさんは

391 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:51:24 ID:zj1Ph/tA0
第048話 「ありったけの思いを胸に灼熱の戦いの中へ」

「君にどうしても話すべきコトがある。寄宿舎に戻ったら……聞いて欲しい」
 アンダーグラウンドサーチライトのそれほど長くない梯子を上り地上に出ると、秋水はひどく
真剣な面持ちでまひろに囁いた。
 場所は蔵の中だろう。うっすらと明かりが差しこんでいるのは、上の方で不自然に開いた穴の
せいかも知れない。そんなコトを目を思わず秋水から逸らしたまひろは逃げるように思った。
「う、うん。寄宿舎に帰ったらね」
 もはや秋水の要件は見当がついている。カズキを刺したコトへの謝罪だ。だが、分かってい
ても秋水自身の口からそれを聞くのはいいようもなく恐ろしい。
 気まずい秋水とまひろから、ヴィクトリアにも大体の事情が伝わったらしい。彼女はいつもの
ような皮肉じみた表情で「ふーん」と薄く呟いて、蔵の扉の前へと歩み寄った。
(どうせ黙ってても何も進展しないし、歩けば二人とも勝手についてくるわよ)
 そして扉を開けて霧漂う外へ出たヴィクトリアは、柄にもなく茫然と立ちすくんだ。
 その様子にまひろも秋水も異変を察知したらしい。まず秋水がシークレットトレイルを握った
まま外へと躍り出て──…茫然と呟いた。
「姉さん……?」

 振り返った小札は棒立ちで秋水を見た。
 やがて状況を察した彼女は目を文字通りの点にして、口をもにゅもにゅとした波線に歪めた
まま蒼白たる面持ちで冷汗の粒を際限なくだらだら流した。
 ↓要するにこんな顔だ

  ・ ・u
 u 〜

「見、見つかったぁー!! コレを見られてはもはや平和的解決は不可能ォォォォォォオ!!
もはやかくなる仔細に相成った故は三 十 六 計 逃げるに如かずゥ〜!!!!!」
 小札の下半身が光ったとみるや幾何学的なロバ足となり、蔵なき庭へ向かって大爆走。
「ちょ、ちょっと待つんだ小札」
 流石の秋水も突然姉がやられているのを目撃し、小札にわーわーと騒がれては対応も遅れ
るというものだ。彼は意味もなく手を小札に伸ばしたまましばし固まり……

392 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:52:01 ID:zj1Ph/tA0
 俄かに小札は四本足で急ブレーキをかけるとUターンをして、ロッドを構えた。
「とーきにー! うーんめいはーこーころ、ためぇすかぜぇー!」
 するとどうであろう。マシンガンシャッフルの先端の宝石が緑の光線を放った。
「愛は総てを包む空! 回復モード、エバーグリーン!!」
 言葉とともに桜花の体がひどく優しい紺碧の光に覆われて、徐々に痛々しさが抜けていく。
「計略が破綻したいま、桜花どのを捨ておく意味はありませぬゆえ、絶……ダメェジの回復を
ば加療三日は有するまでに図らせて頂きます! 以上ッ
 早口でまくしたてるとまたも小札は庭に向かって逃げていく。
「待て」
「ひええ!!」
 小札が仰天し、まひろも仰天し、ヴィクトリアだけ「へぇ、なかなか素早いじゃない」と感心した。
 秋水は、庭と蔵の境界にまで逃走した小札に追いつき、すでにシークレットトレイルを振りか
ざしている。愛要のナンバーXXIII(23)の核鉄を持ちながらそうしているのは、発動の手間を
惜しんだからだろう。
「君は姉さんに何をした!」
 忍者刀が小札の前髪を掠り去り、毛を数本虚空に飛ばした。
「ひええ! ゆきがかり上仕方なくであります! 秋水どのがあちらのホムンクルスのお嬢さん
を説得されるのを邪魔させまいとこちらに赴かれた桜花どのですが、任務で控えてた不肖と
ぶつかり戦闘の末にやむなくああなり核鉄も回収された次第なのです〜!」
「姉さんが?」
 秋水が息を呑んだ瞬間である。まひろは桜花が力なくポケットから手を出すのを見た。
「……く……れる?」
 桜花の震える唇を凝視していたまひろは決然と彼女の手から何かを拾い上げ、秋水に向っ
て駆けた。ヴィクトリアは少し逡巡したが
(似た者同士であまり虫は好かなかったけど……さっきのはあなたのおかげでもあるから)
 自分の核鉄を桜花に当てた後、まひろに続いた。
(俺が彼女を説得できたのは……姉さんのお陰だったのか……?)
 秋水は桜花に何かをしてやれた記憶がない。守ろうとするたびにそれが果たせなかった。
(それなのに、姉さんは、姉さんは…………俺のために)
 ヴィクトリアの説得でようやく晴れた心がまた重くなり、秋水は小札を睨んだ。

393 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:53:16 ID:zj1Ph/tA0
「君が姉さんを倒し核鉄を奪った以上、俺は戦わざるを得ない! 悪いが応じてもらう!」
 シークレットトレイルは尺こそ短いが一応刀剣である。秋水は迷わず逆胴の構えを取り──…
「フ。やれやれ。試練を一つ越えて成長したかと思えばまだまだ未熟だな」
「!!」
 突如として足元に生じた穴に愕然とした。
「あーれーまー!!」
 一方小札は穴に落とされ、すでに地上に姿はない。
穴の縁にシークレットトレイルを横たえて辛うじて落下を免れながら、秋水は叫んだ。
「くっ! 総角か……!」
「おや、霧にアリスを疑えば、俺もまたこの地にいると分かりそうだが」
「……霧の目的は俺を千歳さんのヘルメスドライブが追尾した際、接触した小札やお前の部下
たち、そして何よりもお前自身が索敵対象になるのを免れるためだろう。チャフはレーダーを防
ぐ。いつかの廃墟で津村がお前と戦った時のように」
「ご明察。フ。だがそこまで見抜いていながら俺の存在を忘れるとはまだまだ甘い」
 駆け寄ったヴィクトリアは、どこからともなく響く余裕たっぷりの声に顔を歪めた。
(アンダーグラウンドサーチライト! 使っていたのはコイツだったの!?)
 そもそもヴィクトリアが寄宿舎を去るきっかけになったのは、斗貴子がヴィクトリアの内通を
疑ったからだ。戦闘中に敵がこの武装錬金を使って今のように地面に穴を開けたらしい。
(でも、どうして? 確か私の武装錬金を使うには……)
 直接見るか、ヴィクトリアのDNAを摂取するか。そんな必要があると千歳が話していた。
 しかしヴィクトリア自身、DNAを摂取された覚えはない。いつか寄宿舎の近くで総角に出逢い
香美に担がれて寄宿舎に突入したコトはあるが、その際に髪や唾液などを取られた記憶は一
切ない。嫌っているホムンクルス相手に警戒を解いて不審な行動を許すほどヴィクトリアは甘
くないのだ。ましてアンダーグラウンドサーチライトは見せたコトすらない。
(いつの間にあの男は……いえ、今はそんなコトより)
 実はヴィクトリアは核鉄を二つ持っている。自分の分と、今は亡き母の分と。
 自分のは先ほど桜花に当てた。
(相手がアンダーグラウンドサーチライトを使っているなら私にも──…)
「やめるんだ」

394 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:54:13 ID:zj1Ph/tA0
 形見の核鉄を手に武装錬金を発動しかけたヴィクトリアに、秋水の声がかかった。
「元々これは俺達戦士の戦い──…君が手出しする必要はない」
「何いってるのよ。私の武装錬金は刀一本じゃまず勝ち目はないわよ。おとなしく……」
 助けられなさい。そんな言葉を秋水は粛然と遮った。
「寄宿舎に帰るんだ。皆、君の帰りを待っている。俺も帰還を望んでいる。だから戻れ」
 澄んだ瞳が語っていた。ヴィクトリアには錬金術の闇と無関係でいて欲しいと。
「……分かったわよ」
 ヴィクトリアは核鉄をしまった。
「でも、さっさと戻ってきなさいよ。このまま居なくなられたら、勝ち逃げされたみたいで不愉快だから」
「分かっている。君を助ける約束も必ず果たす」
 忸怩たる表情でヴィクトリアは秋水を見た。
(何よ。人の都合に踏み入る癖に、自分の都合は守るなんて卑怯じゃない。私だって……)
 人間の思考というのは時として瞬間瞬間の感情のエネルギーが横車を押して、論理では思
いもつかない発想を呼び起こす。ヴィクトリアが秋水にいいようのない怒りを覚えた瞬間に体
感したのはその類型だろう。
 ずっと薄暗いまま使われていなかった知識。その点在が俄かに感情の電撃によって結ばれ
まったくそれまでなかった発想を生み出したコトにヴィクトリアは内心で驚いた。
 彼女は研究者のアレキサンドリアを母に持つ。思考形態は恐らく彼女譲りなのだろう。
(…………もし、コレを実現できたら?)
 溜飲を下げるコトも借りを返すコトも母の願いも果たせるかも知れない。二度と閉塞に悩む
コトもなく嫌悪の克服もできるだろう。その上、或いは本質的な解決も──…
 電撃に撃たれたように眼を見開くヴィクトリアに気付かぬまま、秋水はまひろに声をかけた。
「……すまない。君にいうべき事、後回しになってしまった」
 まひろは無理な微笑を浮かべながら「大丈夫。待つのは慣れてるから」と頷いて見せた。
「だが必ず戻ってくる。戻って必ず話す!」
 秋水を飲み込む穴はついに忍者刀の全長が及ばぬほど拡大し、彼を奈落へと突き落とした。
「あ、待って!」

395 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:56:15 ID:ye7OZcT80
 まひろはわたわたと何かを投げた。それは放物線を描きながら、落下途中の秋水に届いた。
 彼が辛うじて受けたそれは、野球のボールぐらいある白い物体。何かの紙を丸めた物らしい。
「桜花先輩が持ってたんだよ! きっと秋水先輩に何かを伝えたくて差し出したと思うから! 
だから、だからちゃんと読んであげてね! 私には分からないけど、きっと役立つ筈だから!!
先輩が何を話そうとしているかも分からないけど、待ってるから! ちゃんと帰ってきてね!!」
 眉をハの字にして今にも泣きそうになりながら、まひろは一生懸命吼えた。
 その頃すでに秋水は地下へと落下を始めていたが、声はちゃんと届いていた。
「感謝する」
 呟きながら紙を強く握りしめる秋水の体はそのまま果てしのない闇へと落ちていき──…
 
 蝶野邸の庭に忽然と開いた穴は描き消え、元の静かな光景を取り戻した。

「秋水先輩、大丈夫だよね?」
「なんとかするでしょうよ。知らないわよあんな奴」
 ヴィクトリアは拗ねたように呟くとまひろを促して桜花の傍に歩み寄った。
「さあ、この人連れて早く寄宿舎に戻るわよ」
「うん。ちーちんも待ってるしね」

 一体どれだけ地下を移動しただろう。
 秋水の足元に開いた穴は最初こそ垂直だったが、途中からやにわに緩やかな勾配へと変じ
あたかも救助袋のように左右に曲がりくねりながら秋水の長身を地下へ地下へと落とした。
 秋水の体感時間では十分ほどそうしていただろうか。
(ようやく着いたようだが……銀成市のどの辺りだろうか?)
 秋水がたどり着いたのは、ヴィクトリアを説得していた時と同じような地下道だ。
 六角形で煉瓦の敷き詰められた地下空間。ただし到る所に四角いカバーに覆われた蛍光灯
が設置されており、ひどく明るい。
 それに秋水が少し眩しそうな顔をすると、背後で扉の閉まる音がした。振り返れば下ってき
た通路が封鎖されている。
(前進しろという事か。だが……)
 幸い文字が読めるだけの明かりはある。秋水はさっそくまひろ経由で得た桜花のメモ書きを
開き、しわを伸ばしながら熟読した。

396 :永遠の扉:2008/04/13(日) 13:59:05 ID:ye7OZcT80
(…………そういうコトか。しかし姉さんを倒した方法は別にある筈)
  畳んだ紙を学生服のポケットに入れるついでに核鉄を引き出すと、ソードサムライXを発動。
 左手のシークレットトレイルと合わせるとひどく不格好だが、都合上仕方ない。
(シークレットトレイルと今の俺の服ならここを脱出する事も可能かも知れないが)
 なぜかそうせず、不格好な姿勢のまま周囲に気を配りつつ二百メートルほど歩いた。すると
六角形の扉があり、近づくと自動で小気味よい音を立てながら開いた。シェルターらしく三つに
分割された扉が六角形の縁へと沈んだのだ。
 同時に秋水は忍者刀を壁めがけて投げ捨て、一足飛びで弾かれる様に逆胴を放った。
「ひょえーっ! 開幕早々なんと物騒なー!!」
 秋水の鋭い視線の先には小札。さすがに入室早々秋水が飛びかかってくるとは思っていな
かったらしく、ロッドも構えずただ刃の到達を待つばかり。
 やがてソードサムライXを通して重々しい手ごたえが秋水を突き抜けた。
「重く、そして石火よりも激しい一撃だ。もっともソフトな扱いを好むのが小札なんだがなぁ」
「総角主税」
 いつの間にか金髪碧眼の美丈夫が小札の正面に現れ、逆胴を受け止めている。
 秋水がますます瞳を吊り上げたのもむべなるかな。総角は逆胴を片手で受け止めているのだ。
 掌はぴたりと刃に吸いついたきり何の破損も見せず、秋水がいかに押そうとビクともしない。
「フ。いかな秋水であれど刃筋が立たねば斬る事かなわない。日本刀という奴は単純だから
な。一定の角度でしか物を斬れない。それを踏まえれば受け止めるコトなど……容易い! 
出でよ! 右籠手(ライトガントレット)の武装錬金! ピーキーガリバー!!」
 逆胴を受け止める手が俄かに肥大化すると、刃を引いた秋水目がけて重厚な拳圧を見舞っ
た。辛うじて避けた秋水ではあるが、それきり攻め手を欠いたのか下段に構えたまま硬直。
「ようこそ。俺達の棲家に。ようこそ。俺の形成した地下空間に」
 総角は恭しく礼をし、小札もつられてぎこちなく同じポーズを取った。
「不肖がかつて紙にてお知らせしたコト……覚えておられますか」

397 :永遠の扉:2008/04/13(日) 14:00:30 ID:ye7OZcT80
「ああ。この状況は逆向との戦いで君が渡した紙の内容通りだ。

助力を得る代わりに、俺が、誰にも告げず、お前たちの棲家へ出頭する……

紆余曲折を経たが一応は果たした。だが!」
 総角はくつくつと笑った。
「どうせお前のコトだ。小札に勧誘された時点で俺達全員を倒そうとでも考えたのだろう?」
「……戦団に背く行動なのは元より承知の上。だがお前たちを倒すにはコレしかない」
 総角は困ったように頬を掻き、「いいのか?」と反問した。

 総角率いるザ・ブレーメンタウンミュージシャンズのメンバーは六人。

 総角主税。
 小札  零。
 鳩尾無銘。
 栴檀貴信。
 栴檀香美。
 鐶   光。

「未だ戦士に一人として敗れていない俺たちが、総てこの地下に居る」
 つまり、と総角は唇を歪めた。

「六対一だ」

 粛然と表情を崩さぬ秋水のこめかみから微量の汗が頬へと流れ落ちた。
「不利は目に見えている。確実性を期すなら、他の戦士を呼ぶべきだが?」
「理想をいえばお前だけを倒すべきだが、例え全員が一度に来ようと受けて立つ。どの道、い
ま戦える戦士は俺しかいない。津村達の回復を待っていれば、お前達を取り逃す恐れがある」
 そうだな、と総角が微苦笑すると、手からピーキーガリバーが消滅した。
「いいだろう。ならば俺たちも応じよう。まずは!」
 指をはじく音と共に、総角はおろか小札のはるか背後から、威勢のいい声が二つ響いた。

398 :永遠の扉:2008/04/13(日) 14:01:19 ID:ye7OZcT80
「つーワケでまずはあたしらの出番! カゼも手のケガもよーやく治ったし、あやちゃんが回復
するまでの時間かせぎじゃん!!」
『はーっはっはっは! 勇気はあるか希望はあるか! 今がその時だッ!!』
 小札を飛び越えニューっと銀色の影が秋水めがけて疾駆した!
 それを右切上で弾いた秋水、迷うことなく跳躍し頭上の影へと鋭い斬撃を放った。
「さけぶサイレン、いざ出動じゃんー♪ あーくのにおーいをのが、しはーしなーい♪」
 空中で数合の火花が散ったとみるや、影と秋水は共に壁へと飛びのき全く同時に蹴りあげ
て反動利しつつ再肉薄! だが秋水の斬撃が命中せんと瞬間、影はあろうコトか中空で更に
垂直へと伸びあがり、その半透明の残像をソードサムライXがむなしく通り過ぎた。
(鎖分銅を天井に刺したか! だが)
 緩やかに落下しながら秋水は天井を睨んだ。影の右手から銀色の光が伸び、天井にめり
込んでいる。
『はーはっはっは!! ハイテンションワイヤーにはこういう使い方もあるんだ!』
「予習通り……」
『何!?』
「うへ! ご主人ご主人、あたしなんかぐろいコトになってるじゃん!」
 影の生意気そうな瞳が唖然と肘を見た。かかるべき体重がそこにない! あるのは空白の
み。すなわち、影の肘はいつの間にか切断されていた! 影が驚愕に声を立てる暇もあらば
こそ、手をぶらりと天井に吊るす銀の鎖の根本から、金の刃が現出し影を掠めて、無茶苦茶な
軌道で狙い撃ちを始めた。
「うわ、いたっ、いた! しゃーッ! なんかブンブンブンブンうっとうしいじゃんあんたら!!」
 影は片手を伸ばしてはたこうとするがどうも空をピョコピョコ裂くだけで当たらない。
「真・鶉隠れ。先ほど壁を蹴った時にシークレットトレイルを引き抜いておいた」
(ほう。確かに生体電流さえ用いれば使える技だが、よく発想したな)
 そういえば、と総角はむかし廃墟で秋水にこの技を撃ったのを思い出した。
 おそらくその経験と、シークレットトレイルへの知識から真・鶉隠れを習得したであろう秋水は
すでに落下途中の影目がけて飛翔している。果敢という他ない。剣風乱刃は影のみらず秋水

399 :永遠の扉:2008/04/13(日) 14:02:07 ID:ye7OZcT80
をもびょうびょうとかすり去り、髪をうっすら舞い散らせた。だが構わず彼は逆胴を放ち──…。
 予想外の感触に顔をゆがめた。
 肉球。分類すればその形状の幾何学的な部品(パーツ)が刃を止めている!
「ふっふーん! あたしのにくきゅーニャ、なーんも通じないし! って、うあう!?」
「はあああああああっ!!!!!
 裂帛の気合一哮! 秋水は下半身のバネ得られぬ空中でありながら、肉球ごと相手を地面
に叩きつけ、しかも辺りを飛んでいたシークレットトレイルをむんずと掴んで投擲した上に、体重
の乗った唐竹割で追い打ちをかけた。が。
『流星群よ!! 百撃を裂けぇぇぇぇぇぇええええ!!!!』
 対空砲火とばかり地面から光のつぶてが襲う。シークレットトレイルはそれに吹き飛ばされ
床に転がった。その乾いた音に促される様に秋水はソードサムライXの刀身を正面にかざし、
光のつぶてを吸収。そのまま着地した。
『はーっはっは! やはり僕の流星群は吸収されるらしいな! 威力最小で良かったぞ!』
「んーにゅ。どーも強そうじゃん。ま、あやちゃんのために時間かせげるだけかせぐけどさー」
 影はすっくと立ち上がると、頭からネコミミを生やしてしっぽをくねくねさせた。
 実にふくよかな体つきの少女だ。白いタンクトップから小麦色の谷間を覗かせ、血色のいい
太もものほとんど付け根でビリビリに切り裂いたカットオフジーンズがいかにも野性味を帯び
ている。むちむちと盛り上がった腰部の後ろからはチェーンアクセサリーをじゃらじゃらぶら下
げていてひどくやかましい。
 やかましいといえば、シャギーで限界まで尖らせた雑草のようなロングヘアーもそうである。
 茶色がかったそれにはうぐいす色のメッシュの線がポツポツ入っており、アーモンド形の瞳
と相まって実に派手で強気な印象を振り撒いている。
 そんな少女が八重歯を覗かせながら叫んだ。
「つーワケでまずあんたの相手をするのは、あたし栴檀香美と!!」
『この僕、栴檀貴信だ!!』

「さて六体一。受けた以上は俺の部下全員に勝つ事だな。当然最後は
俺。頑張って昇ってこい。期待しているぞ」

 総角、そして小札の影は、すでに消えていた。

400 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/04/13(日) 14:03:18 ID:ye7OZcT80
さて、ちょくちょく触れてますが禁ネットのため、一週間前後バキスレを離れるかもです。
……フフフ。昔から禁酒禁煙の類は簡単に破れるもの。
意志の弱さゆえ案外すぐ戻ってくるかも? 
続きは早く書きたい。けど調べ物もしたいのです。

>>376さん
ロバという属性からしていいですよね。ロバ。なんか頑丈でのっそりしてるのが可愛い。

>>377さん
やっぱりというか、テンション高いキャラのが描きやすいですねw
貴信とか香美とか。……マズい。無銘や鐶はキャラ立てできるだろうか。

>>378さん
彼女らは彼女らでなかなか相性がいいというのが何ともw 要するに小札がボケなので、突っ
込みのできる相手が絡むと双方うまく動くというか。

>>379さん
武装錬金スレでいつか「御前は桜花の幼児性を投影してる」ってな指摘があがったんですが
そうだなぁと。バーっと本音を漏らして突っかかっていくけど風体も性格もひどく子供っぽいの
で同じく子供みたいな小札相手だと真剣味が……w

ふら〜りさん
小札は少女漫画の主人公属性だと思うのですよ。顔もスタイルも並ぐらいで性格も子供っぽい。
で、総角のような美形が好きだから、何かあるたび嫌われたらどうしようと狼狽してる筈です。
それが前歯の件で覗いたのかも。ちなみに味噌っ歯の元ネタは蒼天航路のジュンイクですw

>BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN
>今、その子の命を惜しんでお前たちに核鉄が渡れば、更に多くの犠牲が出る。
うんうん。非情でも冷静な斗貴子さんらしい。最近の少年漫画にないのはこういう覚悟ですよ。
に、しても山崎の武器の名前がいちいちツボりますw 鈴木が真剣にいっているのもたまらない。
それからホム対策もお見事。なお、自分も非武装錬金キャラのそれが一案ありますので、いずれw

401 :作者の都合により名無しです:2008/04/13(日) 21:51:05 ID:kCjbj/B50
そういや小札ってまだ負けてないんだよなあ
すっごく弱そうですぐ負けそうなのに。
秋水が主役らしい苦悶をしてますね。

402 :作者の都合により名無しです:2008/04/14(月) 18:12:43 ID:fhE4Cm7D0
スターダストさんいい所でお休みか。
ま、1週間ならすぐだけどね

403 :作者の都合により名無しです:2008/04/14(月) 22:58:24 ID:VBZkirPL0
新スレ立てておいたよ。
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1208181356/l50

404 :作者の都合により名無しです:2008/04/19(土) 15:20:39 ID:tCKEAmbe0


405 :作者の都合により名無しです:2008/04/19(土) 15:21:40 ID:tCKEAmbe0


406 :作者の都合により名無しです:2008/04/19(土) 15:22:20 ID:tCKEAmbe0


407 :作者の都合により名無しです:2008/04/19(土) 15:22:52 ID:tCKEAmbe0


408 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 19:50:23 ID:sOrwNyp40
 

409 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 19:51:00 ID:sOrwNyp40
 

410 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:00:13 ID:sOrwNyp40
 

411 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:00:36 ID:sOrwNyp40
 

412 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:01:41 ID:sOrwNyp40
 

413 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:02:23 ID:sOrwNyp40
 

414 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:02:50 ID:sOrwNyp40
 

415 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:12:08 ID:sOrwNyp40
 

416 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:12:29 ID:sOrwNyp40
 

417 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:12:59 ID:sOrwNyp40
 

418 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:13:27 ID:sOrwNyp40
 

419 :作者の都合により名無しです:2008/05/06(火) 20:14:09 ID:sOrwNyp40
 

420 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/05/13(火) 00:13:36 ID:eBXQEy2K0
「よって貴殿も初歩の忍法を一つ得てみるがいい。されば理解も深まろう。教えてやる」
「い、いや、その……」
 秋水に詰め寄る根来を見ながら千歳はひそかに額に手を当て、うなされるような表情でた
め息をついた。

(とにかく)
 いつの間にかシークレットトレイルを複雑な表情で眺めていた秋水は、軽く冷汗かきつつ慌
てて部屋を眺め直した。
(次の相手はあの鳩尾無銘。不用意に飛び込めばそれこそ奴の……忍法…………の餌食)
 忍法、のあたりで頬を軽く引きつらせながらも、さてどうしたものかと考える。
 なにか、呼びかけてきた。
                                                 从ヘハ
          フハハ!! もしかするとこの部屋自体がブラフかもな!! > (@Д@#
  ∧_∧
 从 ゚ー゚) < そーそー、なやんでるうちにうしろからバッサリじゃん!           __
                                                   __|__|__
 などと焦って踏み入りますれば実は奈落であり、真っ逆さまかも知れませぬ! > 从・__・;从

(い、いや落ち着け。落ち着くんだ俺)
 どうも調子が普段と違う。もしかすると先ほど戦った貴信や香美や、ついでに声を聞いた小札
から知らず知らずのうちに影響を受けているのかも知れない。
 秋水は深呼吸をした。腹式の深呼吸は精神を落ちつけるのにいいのだ。
(こういう時は防人戦士長の言葉を思い出せ)

──「ちょっとした着想で君の武装錬金も闘い方を変えるコトができる」

(これだ)
 まったく防人の大らかさはどうだろう。苦悩多い青年期を駆け抜けだけあり、こういう局面で
は何かと支えになるのである。根来の厳然とした冷徹さとは大違いだ。
 秋水は無言のまま下緒を掴むと、先端にある物を部屋に中へと放り込んだ。
(先ほど貴信の光球を斬った時のエネルギー。反射的に蓄積していたそれを……) 
 飾り輪が放出し、一瞬だけ部屋を照らした。

483 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.02.02 2014/06/23 Mango Mangüé ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)