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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart54【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:08:14 ID:KfiwQyx/0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart54【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1197849659/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss

2 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:09:00 ID:KfiwQyx/0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の414-415から
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
HEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html  
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html

3 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:09:56 ID:KfiwQyx/0
上・のび太の新説桃太郎伝  下・三年一組剣八先生! (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の176-184から
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の10−11から
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
悪魔の歌 (ふら〜りさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/432.html
七クロ (クロ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の334-337から

4 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:23:06 ID:34WSWO630
1さん乙。
しかし本当に立て辛い世の中になったもんだな

5 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:50:42 ID:KfiwQyx/0
第032話 「斜陽の刻 其の肆」

その瞬間の秋水の行動は、逆向の想像を遙かに上回っていた。
タラップと水面の境界にある柵へ猛然と走りつつそれを瞬間のうちに
三斬。
鳥居の形でしぶきあげつつ倒れる鉄策を学生服が飛び越えた。
着水した処理施設の深さは脛の中ほどまで。だが日々鍛えた健脚は
水圧を感じさせぬ速度で風すら呼び──…
一気に逆向へと肉薄した。
口火を切ったのは大上段のソードサムライX。
十分に加速の乗ったそれはチェーンソーの高速回転する刃に巻き込ま
れみるまに威勢を失し、弾かれはしたが、すぐさま右切上に転じた。
驚いたのは逆向である。チェーンソーの刃先をまっすぐ下に向けて刀
を受け止めるも力が爆発して押し切られそうな錯覚がある。
それが去った。
秋水が手を引いた。と知ったのは逆胴迫る瞬間だ。
(おおお! 放胆にも秋水殿、刀を片手に持ち替えて一気に勝負を決
めるおつもり! さぁ、これは決まるか!)
上記は小札の思惑。彼女は管制室のドア枠からそろーっと顔半分覗か
せながらコトの成り行きを見ている。
そして。
しなやかなる銀閃が服一枚を切り裂きつつ通り過ぎた瞬間、逆向は
己の取った行為にまず安堵を、それから怒りを覚えた。
(なぜ、避けた……!!)
人間をはるかに超える存在のホムンクルスが、たかが人間の術技に
回避を選んだ。
もっとも怒りが熟成する暇はない。
秋水は更に踏み込み踏み込み、猛烈な斬撃を降らしてくる。
その都度、暗闇に風が吹き荒れ、白いしぶきがざぶざぶと足もとに舞
い起こった。
執拗に注ぐ鉄の雨。質量帯びし鋭角の衝撃。
その連続性に逆向はじりじりと押され始めた。

6 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:52:44 ID:KfiwQyx/0
屈辱に吊り上がる目で刀とチェーンソーの衝突を見据え、音を合図に
踵へ力を入れる。
喰らった剣の重さが背骨のあたりで弾けた。
後退に発露されていた衝撃はそれほどの物かと様々な意味で顔が歪
んだが、引き換えに体は一瞬だけ不退転の石像と化した。
その一瞬だけで良かった。
斬撃の後に必ずくる。
秋水の隙に。
チェーンソーを横に薙ぐのは。
「がああっ!!!」
禍々しい如雨露のような地獄の器具が虚空に歪なる罅(ひび)を刻む。
されど切り裂くべき憎き信奉者の姿は回刃如雨露の接触寸前で蜃気
楼の如くかき消え……
(ああ、無情にも)
小札は見た。
逆向の背後で秋水のすさまじい剣気が爆発するのを。
さすがに色を成した逆向、横薙ぎの慣性の任せるまま猛然と反転。
振り下ろされる刀を視認できたのは幸いだった。
長身の頭上高くに一度上がる一撃と、地摺りから繰り出す一撃。
相手の肉体に到達するのが早いのは、後者だ。
(クズが! この体勢なら俺の方が一瞬早いッ! 貴様を股からズタ
裂いて二断の左右を八十二と八十三に解体(バラ)してやる!)
チェーンソーをすり上げながら彼は勝利を確信していた。
だが。
剣速は逆向の知る秋水のそれを遙かに凌いでいた。
今まさに上方へ運動を開始したばかりのチェーンソーで火花が散った。
肉厚の刀身がめりめりとライダーマンズライトハンドを圧する。
すわ破壊されるかと思ったその時。
秋水の注意が逆向から離れた。
激しい水音と鬨(とき)の声。
ばらばらと秋水に殺到しているのは残党のホムンクルスたちだ。
実はこの時、逆向が号令を下してからまだ二秒と経っていない。

7 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:54:06 ID:KfiwQyx/0
秋水の予想外の行動にわずかばかり矛先を失い戸惑っていた彼らだ
が、数合の斬り結びの中でようやく動いた。
が、かかる傍から次々と死骸を水面に降らせるだけで終わった。
もっとも数の有利の存在は疑うべくもない。
秋水は逆胴を残党に放った。それで六体ほどのホムンクルスが一気
呵成に葬られたのは驚嘆すべき事象だが、それ故硬直が生じる。
逆向は先ほど意趣を返さんと秋水の背後へ跳躍しつつ大上段に振り
かぶって──…
「がっ!?」
手の甲に鈍い痛みが走った。
ライダーマンズライトハンドは惜しくも秋水の肩の上で空回りしている。
手を横にやれば頭を、下にやれば肩を破壊せしめる零距離。
だが手は動かない。ぴたりと痛みに吸いついて動かない。
見れば秋水は前を見たまま。愛刀の刀身も前方に向けたままだ。
特筆すべきはそれを持つ右手が心もち左の脇の下を通過しているぐら
いか。
それを眼で追った逆向は痛みの正体を知った。
柄だ。
秋水は振り返りもせずにソードサムライXの柄を、逆向の手の甲に突
き立てている。
範囲は極小。されどそれだけに殺到する相手へのカウンターとしては
痛烈で屈辱的。かつ、精妙。
背後から飛んでくる敵を見もせず、左へ伸びきった右手の最小の動き
で最も効果的な部位を打突。
もはや認めざるを得ない。
ホムンクルスである者が認めたくはない事実を。
逆向は歯ぎしりし、端正な顔を睨んだ。
(こいつ。以前戦った時より強くなってやがる……!!)
以前、寄宿舎近くの道路で刃を交えた時は圧倒できた。
が、今はまるで逆の立場。
不意を打たれたかそういう次元の話ではない。
真っ向からでも背後からでも押されている。

8 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:55:10 ID:KfiwQyx/0
……逆向は知らない。
逆向が修復のために眠っているその間。
秋水は。
剣道部の仲間と連日稽古を続けていた。
防人とも夜間の特訓を続けていた
更に逆向は知らない。
かつて武藤カズキという戦士がL・X・Eと闘うその為に、秋水と同じよう
な特訓を重ね、ついには秋水を下すに到った経緯を。
果たして意識したのか偶然か。
秋水もカズキと同じ経緯を辿っているのだ。

錬金の戦士の基礎訓練。
体力の限界まで模擬戦を繰り返し、さらに核鉄の治癒力と十分な睡眠
で体力の回復を繰り返す。
この二つの反復によって超密度の身体能力の向上と活きた戦闘感覚
を身につける。

秋水はそれをこなした。
そして図らずも防人がその仕上げと称する

『身体能力のみでシルバースキンの衝撃に対する硬化と再生の発動』

を達成した。

──逆胴。(中略)
──ヘキサゴンパネルは暴風を受くる紙屑がごとく一掃され、防人の上半身を丸ごと露にした。
──おののく防人の脇腹には刀身。シルバースキンの修復よりも早く呼び込まれていた。

元より特性といえばエネルギーの吸収のみというソードサムライXだが、
それだけに強さは秋水の剣腕・身体能力に左右される。
現にいま、逆向へ一方的に斬撃を浴びせ続けたのがその証拠。
だが。

9 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:57:31 ID:KfiwQyx/0
(いや違う! ただ力が増しただけなら、たかが人間が俺を圧するコト
はできねぇ! むしろ……むしろ──…)
疲労か。わずかにチェーンソーから力が抜けたのを見逃さず、秋水は
振り向くなり一気に弾き上げ、続いて袈裟掛けに逆向を斬りおろした。
転瞬、逆向の体から光る六角網目のバリアーが出現した。
かつて総角の猛攻をしのいだ防護壁。だがエネルギーでできているた
めにソードサムライXに吸収されこの戦い初めての明確なダメージを与
えた。
たまらず呻き、傷を抑える逆向。
秋水は初手を焦っていたらしく鋭さに比べて傷は浅い。
章印をかすりもしていない。
だがその傷は逆向の不利の証人として雄弁すぎであろう。
(俺の動きを、癖を。戦いの中で観察している感じだ)
傷から手を放し、握る。そして息吐く秋水を睨む。
彼はただ漠然と斬りかかるのではなく、逆向の弱みをついてきている。
そもそも逆向のライダーマンズライトハンド(通称ライダーマンの右手)
は防戦になれば弱い。
もとよりチェーンソーの武装錬金だ。チェーンソーは森林を伐採するだけ
のための物。攻撃を受けるには力学的に不向きである。
もっとも並の相手との鍔迫り合いならば「触れた物を百六十五分割」と
いう特性で一気に勝ちを得れるが、しかるにそれはエネルギーの刃に
よるもの。ソードサムライXには通じない。
だから防戦になれば撃たれ放題を逃れない。
かといって斬り合いでも手数で負ける。
(それを理解した上で、てめえの領分で仕掛けてきてやがる。しかも)
先ほどの柄による迎撃。それはかつての秋水には見られなかった発
想だ。
状況に対する柔軟さが芽生えている。
果たしてその源泉は、逆向に想像できたであろうか?
最近の秋水は剣道部の面々に稽古をつけている。
それは学校でまひろに観劇のお誘いを受ける直前の


10 :永遠の扉:2008/01/30(水) 23:58:51 ID:V3ex5qvQ0
──「動く時も左手はヘソの辺りに固定する事! 左手のブレは足にも響く!」
──「は、はいっ!」
──対する黒い防具の部員はまだ1年と年若い。
──おたおたと必死に左手を直して、容赦なく注ぐ竹刀の雨に応戦する。
──打ち合う竹刀がぱちぱち鳴るたび、彼の足取りは徐々に徐々に押されていく。

稽古を見ても分かるように、必ず教導を伴っていた。
教導は同時に、それを果たして自分は守れているかという反問に繋が
り、やがて確認と反省に至る。
更に。
総合力では秋水を下回っている者でも、例えば足さばき、例えば小手
というように一部だけなら秋水を上回っている者は実は何人もいた。
時には思いもかけぬ攻めをする者も。
そういう相手の動きを秋水はつぶさに見、一つでも多く吸収しようと心
がけるうちに、結果として以前より柔軟性を得ている。
ややもすると柔軟性にはまひろの影響が少しあるかも知れない。
剣が上達する者は俗に「考え、工夫し、実践する」者といわれている。
秋水はまだそれを知らない。
ただ、秋水は精神的な成長を欲し、叶えるために問うている。
刺した男の手を握り締め、大事な存在(モノ)を救おうと奮起したあの精
神力は果たしてどこから出たものか。どうすれば持てるのか。
その希求が期せずして「考え、工夫し、実践する」につながり、今この
場での逆向圧倒になっている。
そう。
開きつつある世界の日常の中で、秋水は少しずつ強くなっている。
だがそれを知らされたとしても秋水の心は晴れないだろう。
救うべき少女を救わぬ限りは……

11 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/01/31(木) 00:00:16 ID:j/53qs+50
バキスレよ! 私は還ってきたーっ!(0083大好きだーっ!)

はてさて投下のために次スレ立てたような形になってしまいましたが
自宅よりこんにちは。アク禁解けたの嬉しいですが、まだまだ他の方
もされているワケで、いつになったら平和になるやら。荒しは絶対ダメ。
あ、さいさんゴメンなさい。感想、すでにブログにて書いております故……

前スレ>>394さん
いやはや貧乏性でお恥ずかしい限り。二日に分けて投下すべきでした……
鐶光はオリキャラですね。大鎧には「総角付きの鐶」というパーツがあり、
それを名字にしております。名前は響鬼映画版の「FLASH BACK」より。「FLASH」なので光。

前スレ>>395さん
999。いいですねこの最大って感じの数値! あーでも一日一回投下
しても三年近くかかるのか…… でもこち亀よりは早い? 実質はまぁ
100話程度かなーと踏んでるんですが、この手の予想は当たらないワケでw

前スレ>>396さん
愛と敬意は大事ですよ。うん。MAD作ってるうちになんかそっち方面の
感覚が大きくなっちゃってます。でも声高にいうとウソ臭くなるのがアレですねw
自分の産んだ奴らは誰であっても可愛いものです。だから一度は見せ場を用意したい。

12 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/01/31(木) 00:01:06 ID:V3ex5qvQ0
ふら〜りさん(前回、悪魔の歌の感想が抜けておりました。この星屑不覚の至り)
>悪魔の歌
>髪型といい体格といい「どこにでもいるような」というより、今時珍しい
>ぐらい洒落っ気のない、地味な外見をしている。
という一文から「薄倖の吟遊詩人系。たぶん怪人」を連想。……してた
んですが、怪人は怪人でもそちらかとw まさかふら〜りさんがDMC
読まれていたとは。で、ノリはいつものDMCなのが素晴らしい。クラウ
ザーさんに迷惑かけられた人に罪悪感を覚える根岸ってのがもうw
しかもレッドまで来ており、しかも強いw さてさて、根岸の理性が結局
あちら側にふれてひどいオチを招くのがDMCですが、はたしてどうなるか?

ムーンフェイスの分裂体にはそれぞれ名称があったりするのですが、……どうでしょうね。
”鐶の近くにいた繊月の胸に貫手が刺さり(中略)腕を切断した二十六待夜の〜”
分かりやすいような分かりにくいような…… この手の「同じ種類の敵がわんさか」
で感心したのは名称の後にABCつける描写。むしろこちらのが良かったかも?

13 :作者の都合により名無しです:2008/01/31(木) 06:00:50 ID:MHBh31B4O
【テレビ】ルーキーズTBS土8でドラマ化決定。川藤役に佐藤隆太、生徒役に市原隼人、城田優、小出恵介など…オワタ

http://news24.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1201723689/



14 :七十八話「悲運の拳士」:2008/01/31(木) 06:00:54 ID:mxtxpKyt0
中国の長い歴史、幾千、幾億の格闘家が身を粉にして積み重ねてきた金字塔。
烈海王のクンフーは、現段階での完成系と言っても過言ではなかった。
崩れ去った、彼の拳は何時からか金字塔ではなくバベルの塔と化していた。
傲慢にも暗黒の力を頼り天を目指した彼の拳は、神の怒りに触れて粉砕された。

ベキィッ!
つい先程まで憤怒の表情を催していた烈の面に、再び笑みが戻る。
完全なタイミング、踏み込みにも今までになかった手ごたえを感じた。
全ては闇の力が自分にもたらしたもの、次にこの力が自分に与えるのはこいつの苦痛に満ちた表情だ。
海王の称号を持つ自分が侮辱されたということは、中国拳法への侮蔑に他ならない。
眼の前に居る身の程知らずな男の苦悶を目に焼き付ける為に目を爛々と光らせながら凝視する。
笑みが止んだ、男の顔は全くの無表情だ。

男が突きだした手を引くと、ヌチャ・・・という粘性の音が聞こえた。
男の拳はシンには乾いた血しかついていない、何故乾いているのか、今へし折ったばかりなのに。
もしや、あのベキィッ!という丁度人骨サイズの太さを持った枯れ枝を思い切り踏みつけたような音は・・・。
自分の拳へと目を移すと、指が滅茶苦茶な方向へ曲がっており、中指が千切れ飛んでいた。
拳の内側から赤身を帯びた肉が飛び出している、先端に白く尖った棒が見える・・・骨だ。
相当な激痛ではある、だが中国拳法の鍛錬では拳一つ砕けるのも珍しくはない。
修業時代の経験が、もっと激しい痛みを覚えている、痛みは問題ではなかった。

身体の震えが止まらない、まだ片腕も足も残っている、戦えないことはない。
だが恐怖にすくむ身体は戦闘を拒んだ、無理だ、こいつは人間じゃない。
震える脚を必至に動かし、後ずさりする。
背は向けられない、向ける勇気はない。

自分に訪れる確実な死を予感する烈海王だったが、転機が訪れた。
「ぐっ・・・!」
ブシュッ、と液体の噴き出す音がケンシロウの拳から聞こえた。
烈海王の拳を受け止めるには傷痕を残した拳では十分ではなかったのだ。
その姿を見て精神に若干の余裕が出来た烈、武だけではなく知にも秀でている彼は一瞬で打開案を練りだした。

15 :七十八話「悲運の拳士」:2008/01/31(木) 06:02:07 ID:mxtxpKyt0
ここで死ねばデスが自分を蘇らせる、アミバ如きを助けて自分を助けない筈がない。
ここで逃げればどうだ?サルーインはきっと自分を殺し、強力な力を呼ぶための呼び水にするだろう。
奴の片手、それだけでも奪えば十分な功績となる筈だ。

シューズをケンシロウの顔面へと脱ぎ飛ばす。
当然回避されるが、烈への反応が一瞬遅れる。
狙いは既に壊れている拳、怒涛の蹴りがケンシロウを襲った。

一見単調な蹴りでも、彼には足指を用いた豊潤な技がある。
紙一重でかわしても、足の親指を立て爪で皮膚を切り裂く。
足指を握り拳のようにして固め、正拳による突きのように鋭い蹴りを放つ。
負傷した拳から、血が蛇口を捻った様に流れだす。

もう一息で破壊できる、最後の蹴りを入れようとした瞬間だった。
ケンシロウの闘志を秘めた眼が野獣の輝きを放った。
誇り、愛、怒り、ケンシロウの気高さと合わせ見れば神獣とも見える眼光。

血塗れの拳から熱気が噴き出し空間が歪む。
同じだ、闘わずして屈辱を味わった・・・あの男と同じ拳。
憎しみと恥辱が闇の闘気を暴走させる、そしてお互いに向けて放たれた。

ぶつかり合う瞬間に、色のない花火のように真っ白な光が飛び散った。
二人は拳を外していた、お互い避ける気もなく全力でぶつかりあう筈だったのがお互いに外した。
第三者の介入、ふと見ると白光の闘気に包まれた男が二人の間に立っていた。
軌道をずらした上で腕を掴み、ブレーキをかけて二人を止めていた。
ホークがニヤニヤと面白そうに笑っていた、水の魔素がまだ男に纏わりついていた。
水が男の白光を屈折させ、やわらかで温かい光を生み出していた。

「ケン・・・もういい、ここまでやって分からないのならこいつに武道家の資格はない。」
「貴様ッッ!私を侮辱す・・・!」
「何故、破壊された拳で貴様の拳を受け止ていたのか分からんのかぁ!この・・・三流武道家めが!」

16 :七十八話「悲運の拳士」:2008/01/31(木) 06:09:55 ID:mxtxpKyt0
握り拳で顔面を殴打する。
拳法ではない、南斗の拳ではない平凡な殴打。
シンの攻撃するチャンスを無駄にする行為は、侮辱にしか思えなかった。
「ケン、貴様への借りを引きずって生きる事など俺にはできぬ。
早速だが、今この場で返させてもらうぞ!」

怒り狂った烈海王の拳を次々と捌いていく。
動きは大味だが、守りに入る時にも獲物に襲いかかる鷲の爪の鋭さを失わなかった。
真空の刃に触れる度、烈の腕に痺れと細かな裂傷が走り抜ける。

「くっ・・・腕さえ・・・この砕かれた拳さえ動けば貴様なんぞッ・・!」
「ふぅぅ〜・・・!」
烈の言葉が終わる前に、自分の腕に手刀を打ち込むシン。
「これでお互い片腕だな、この期に及んで文句はあるまい?」

これで平等だ、という意味ではない。
元々が平等ではないのだからこのくらい問題ない、本気で平等にするなら片足でやっている。
そんな見下した眼を向けている、海王である自分に。
許せない、許す訳にはいかない。

南斗聖拳など、所詮は中国拳法の技術の一部を寄せ集めた物だということを思い知らせてやる。
身体をリラックスさせ、握っていた手を開きゆるりと舞踏を始める。
リラックスした状態からインパクトの瞬間に力む、力を最も効率よく伝導させる方法。
一見すると頼りなく見えるこの構えも、本質は身体を楽にした状態を維持できる理想的な打撃フォーム。
拳をゆっくりと突き出す、だが届く距離ではない。
反撃の構えを取るシン、その瞬間に烈の思惑に気づいた。

反撃の構え、カウンターを狙う以上は相手の一挙一動を見逃す事が許されなくなる。
その為、相手の状態、動作を完全に把握する事に全神経を総動員させる。
だが異変に気付いた頃にはもう遅かった、既に烈は四肢への力の伝達を終えていた。
「破ッッ!」

17 :七十八話「悲運の拳士」:2008/01/31(木) 06:10:58 ID:mxtxpKyt0
覇気と共に放たれたのは、烈の肉体に蓄積された汗だった。
烈を中心に全方向へ、スプリンクラーから噴き出す水のように汗が吹き飛ぶ。
熱気を帯びた汗はシンの目を直撃し、視界を塞いだ。
その瞬間を逃すまいと、腹部へと指を伸ばす。
狙いは、『へそ』である。

腹部の窪みであるへそは、皮下脂肪や筋肉が全くないので如何に鍛練しても簡単につら抜けてしまうのだ。
そして今の烈は多少だが闘気を操る術を身につけている、内臓へ気を放出する事も可能なのだ。
服の上から窪みに指が入る感覚を感じ取る、勝利の余韻に口元が笑みで歪む。
ズボッ!薄っぺらな紙に、尖った鉛筆を突きたてたような音が響く。

烈の顔が歪んでいた、勝利を確信した笑みから絶望の嗚咽に。
シンの拳が烈の腕を貫き、内臓に到達する手前で止めていた。
骨を貫かれていた、おそらくヒビ一つなく、比類なき貫通力なくしては不可能な芸当である。
「貴様と俺では戦いの年季が違う、俺もケンシロウと同じく、生まれた時から暗殺者としての道を歩んだ男。
眼に頼っている者が眼を失った時どう戦う?生きる限り修羅である事が我等、南斗が運命よ!」

手首を捻り、傷口を抉り骨をへし折る。
両腕を失った烈へ、腕を差し出すシン。
「まだやる気があるなら折れ、足技が自慢だろう?
同じ土俵で勝負してやると言っているのだ、さっさとしろ!」

狂っている、勝てる筈がない。
何も考えられなくなった烈には逃走しか残された術はなかった。
「救命阿ァ!」
助けて、自国の言葉で喚きながら背を向ける烈海王。
それを見ていた赤いローブに身を包んだ怪しい男が居た。

「使えぬ・・・異世界の武術、過誤な期待だったようだな。」
男が不気味な目をギラリと光らせ、怪しい呪文を唱えると、
巨大な轟音と共に、烈の足下から大地が消え去ってしまった。

18 :邪神?:2008/01/31(木) 06:12:35 ID:mxtxpKyt0
こんにちわ、またしても金の使い方をどこかで誤ったのか一ヵ月を2万で過ごすことに。邪神?です。(*0w0)テヘヘ
一体なにがいけなかったのか・・・ニコニコで歌ってみようとマイクかったりヘッドフォン買った以外、
特に出費はないんだが・・・ちなみにマイクがモノラル出力なのに買ってから気付いて不満なのはヒ・ミ・チュ!
これ以上はウザがられそうだから感謝に移ります。

〜感謝・数字の人は前スレ〜

>>ふら〜り氏 そう言えば烈老子と劉老子は 黒龍江省 白林寺ッッ だけで拳法の説明ないですね。
       黒龍江省は地名?らしいし、白林寺拳法ってことでいいんでしょうか?

>>スターダスト氏 見ていただけましたか、アレを。
         一人の女性への叫び、唯それだけをまとめた物であんな良作が出来る。
         彼にはたくさんの感動を貰いました…友情、信頼、そして愛。
         でもテイルズで一番好きなキャラはスネークの声したロリコンで囚人で料理人の社長です。
         あ、星の屑が好きならガトーさんと言った方が分かりやすいですな。
         MSならジムキャノン、MAならヴァルヴァロ萌え…(*0w0)ハァハァ・・・

>>クロ氏 >>ケンシロウや烈がSAGAってたり、相変わらずのSSスレで安心しました。
       む、誰ですか?そんなけしからんSS書いてるのは…全く。(#0w0)

>>372氏 >>原作ではレイプされている烈ですが、SSくらいは活躍してほしいなあ
     なんか申し訳ない気持ちでいっぱいですorz

>>374氏 自分の場合は長期といっても、かなりの空きがありますけどね。
     自分はかけもちだとどっち考えていいのやら…って感じになるので吉良は一気にやりました。
     今一応は考えてるんだけどどうもクオリティが低い、前回ので終わりの方がスッキリしていいかも。

19 :作者の都合により名無しです:2008/01/31(木) 11:09:36 ID:FEzOudOJ0
1さんスレ立てお疲れ様です。

>スターダスト氏
積み重ねてきた人としての技の方が錬金よりも信じられるのかも知れませんね。
秋水は精神的にも技量的にも向上してきてるので、もうエース級の強さかな?

>邪神氏
烈ヘタレちゃったかあ・・。でも相手が悪かったというか、
この世界では仕方ないかな。勇次郎じゃないと北斗キャラには対抗出来ないだろうし。

20 :作者の都合により名無しです:2008/01/31(木) 16:44:31 ID:rWcZB8Ic0
サイトでスターダストさんが今回は秋水の成長が見所、と言ってたけど
確かに原作の振幅激しい秋水からしたら成長してますな。
やはりまひろも存在も大きいのかね、心の成長において。


邪神さん、烈はもう一花咲かせて欲しいですね
(このSSでは最初からカマセみたいだけどw)
そりゃケンシロウとかに比べたらアレだけど、原作でも持ち直しましたし。

21 :作者の都合により名無しです:2008/01/31(木) 17:55:17 ID:/6/H80Er0
しかし両作品とも超長編になったねえ

22 :悪魔の歌:2008/01/31(木) 22:24:12 ID:7mWQjUg50
>ttp://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/437.html
リングの上では、鷹村が言った通りの理由で一歩が困惑していた。
どうにも手加減ができない理由はというと、レッドの外見が怖いとか、かわし易いとはとえ
パンチ力があるからとか、そういう理由で本能的警戒心が体を突き動かしてるんだ、と。
最初はそう思ってたが、違う。倒れないのだ。殴っても殴っても。20%の力で効かない、
なら30、40、まだダメか、50、60、とやっている内にいつの間にか……である。
じわじわと恐怖心で呼吸が詰まってきた。さほど手加減していないパンチを打ち続けている
為、汗も出てくる。まるで本番の試合のようだ。
『この人、強い……いや、違う。普通の強さとは質の違うこの感じ、前にどこかで……』
「うおおおおぉぉっ!」
顔を腫らせたレッドが疲労もダメージも無視して、衰えぬ猛攻を仕掛けてくる。風を巻いて
飛んで来た左フックを一歩がかわすと、間髪入れず右アッパーが来た。これをブロック、
『っっ!?』
できなかった。ボクシングの基本を無視した、顎を弾くのではなく喉を抉り取るような
深い深い角度の一撃が、一歩のブロックを叩き壊し、貫通する。そして顎を突き上げるが
飛ばしはせず、そのまま力任せに一歩の全身を高く持ち上げる。
青木と木村が驚き叫ぶが一歩の耳には届かない。身長差が大きくモノを言って、
巨漢・レッドがまっすぐ突き上げた腕の先端の拳の上に、一歩は顎を乗せられたのだ。両足
が完全に宙に浮かされている。
「幕之内君っ!」
根岸の声で一歩は意識を取り戻した。レッドのグローブから一歩の顎がずり落ち、それによって
持ち上げられていた全身が落ち、足から着地する。だがダメージは大きく、膝が抜ける。と、
「くらええぇぇぇぇっ!」
トドメとばかりにレッドの追撃が来た。姿勢が低くなっている一歩めがけて、思いっきり
大きく振り被って、打ち下ろしの右を放つ。
だがそれを許すほど日本チャンピオンは甘くない。冷静に見切って、低くなっている自分の
姿勢を利用して、そこから伸び上がりのアッパー、ではなく縦軌道のフックを放つ。これは、

23 :悪魔の歌:2008/01/31(木) 22:25:03 ID:7mWQjUg50
「ガゼルパンチ!?」
「おい一歩、落ち着け! 相手は素人だぞ!」
「どうやら90%、いったな」
青木と木村が叫び、鷹村が呟く。一歩の得意とする一撃が、上から降ってきていた
レッドのパンチに対し、見事なカウンターとなって炸裂した。
先ほどと立場逆転、今度はレッドが顎を跳ね上げられてよろめく。まるで、後ろから
頭に縄をつけられて引っ張られているかのように、背を反らせて後退していく……が、
レッドはその縄を強引に首の力で引っ張り千切り、ムリヤリ顎を前方へ戻して、
「んがあっっ!」
吠えて、こらえた。汗だくの顔面に鬼の形相を浮べ、荒い息をついて立っている。
これには、充分な手応えを感じてレッドを殴り飛ばした本人、一歩が誰よりも驚愕した。
信じられないものに相対した戦慄で、目を見開いている。
その目に、レッドは己の視線を叩きつけていく。疾風のような烈風のような気迫を込めて。
「負けねえ……倒れねえ……俺は、やられるわけにはいかねぇんだ……俺は、俺が、
俺の、俺に……クラウザー……さん……俺、こんな生意気なこと言うのはこれが
最初で最後、だから……だから今だけでいい、俺に力をくれクラウザーさんっっ!」
『! ……この人は……』
固まっている一歩めがけて、レッドが走った。もう、いくらも残っていないであろう
体力気力を振り絞って、砲弾のような右ストレートを放つ。
レッドの、焼けるような気迫に押さえ込まれて動きを鈍らされた一歩は、その一撃を
かわしたつもりがかわしきれなかった。こめかみを掠めて、また意識が揺らいでしまう。
だがそこから先が、ボクサーだ。意識による判断能力が鈍っても、筋肉が動き続ける。
頭で考えずとも、体が最善手を選択するのだ。
だから一歩は、かわした動きそのままで左のレバーブローを叩き込んだ。それで「く」の
字に折れたレッドの体、降りてきた側頭部めがけて、まるで反復横飛びのように
右へ跳んでから、大きな右フックを叩き込む。続けて反対側に跳び、頭を∞の字に
振りながら思いきり反動をつけて左フックを打……
「っ!」

24 :悪魔の歌:2008/01/31(木) 22:26:28 ID:7mWQjUg50
そこで、一歩の意識が戻った。今の一発目のフックでとうとう限界を迎えて倒れ伏す
レッドと、リングに駆け上がってきて自分に抱きついて制止する青木と木村、
リングの下で迫力に飲まれ呆然としている根岸、ただ一人落ち着いている鷹村、が見える。
「何考えてんだ一歩! 今、まさか、」
「あの踏み込み、角度、スピード、筋肉の張り、どう見てもお前は本気で、」
「……」
一歩が黙っていると、鷹村が代わりに言った。
「限りなく100%に近かったが、ギリギリで思い留まったようだな。大丈夫、安心しろ。
そいつは昔、このオレ様に素手で殴られまくってた男だぞ。その程度でくたばりゃしねえよ」
「…………」
一歩は一言も発せず、ただレッドを見つめていた。リングの下から、根岸も見ていた。
そして二人は、同じことを考えていた。レッドがなぜ、ここまで倒れなかったのか……を。

バケツの水をかけられて目を覚ましたレッドは、一歩に一礼すると言葉もなく帰ろうとした。
が、ダメージのせいか足がふらふらしている。
「あ、僕が駅まで送っていきますよ」
根岸が申し出て、肩を貸してやった。ジムを出ようとすると一歩が申し訳なさそうに、
「すいません根岸さん。せっかく来てくれたのに、ボク何もできなくて」
「とんでもない、凄いの見せてもらったんだから。じゃ、また来るよ」
体重差1.5倍はあろうかというレッドを支えて、根岸はひょこひょこ歩いていく。
多分、まだ頭痛とか目まいとかしているのであろうレッドが、苦しそうな声で言った。
「悪ぃな……面倒かけて」
「いいよ。ほら、僕だってDMC信者なわけだし。仲間同士、遠慮は無用ってことで」
「ははっ、なるほど。今日はその仲間にカッコ悪いとこ見せちまったが、それにしても……」
レッドは、一歩との打ち合いの一瞬一瞬を反芻するように語った。
「本当に強かったよ、あいつは。正直、ルール無用のケンカなら確実に勝てる、とは
言いきれねぇ。マジで素手で殴ったら、充分に人を殺せるレベルだと思う。そして多分、
イザとなりゃそれができるだけの精神力もある」

25 :悪魔の歌:2008/01/31(木) 22:27:29 ID:7mWQjUg50
「そ、そう?」
「ああ。だからこそ、クラウザーさんもあそこまで褒めたんだろ。結局、クラウザーさんの
眼力を疑った俺がバカだったってことだ。こうなっちまったら、もうあいつのことを認めねぇ
ワケにはいかねえよな。何たって今、こんなザマだし」
まだ顔色は悪いが、レツドの表情に涼やかなものが浮かんでいた。
どうやら一歩への敵愾心(=嫉妬)は消えたようだ。おそらくこれが鷹村の計算、
というか望んでいた展開なのだろう。
根岸は心からホッとする。いろいろあったが、丸くおさまって本当に良かった。
「あのさ、それじゃこれからはクラウザーさんが言ってた通り、幕之内君が世界一になれる
ように応援しようよ」
「ああ、そうする。それがクラウザーさんの望みでもあるだろうしな」
「うんうん。絶対そうだよ」
「よしっ。早速、次の幕之内の試合には、DMC信者を大勢引き連れて大応援団といくか!」
レッドの元気な一言。根岸の脳は一瞬、その言葉の理解を拒んだ。
「……え。お、応援団って」
「あ。ここでいいぜ。ありがとな」
丁度駅についたので、レッドは根岸に手を振って歩いていった。そこそこ回復したらしく、
ゆっくりだがふらつかずに歩けている。
しかし根岸は、もうそんなことどうでも良くて。
『DMC信者大勢による、幕之内君の大応援団……………………』

昨日は鷹村犯したぜ! 明日はリカルドほってやる! 
殺せ殺せ殺せ会長など殺せええええぇぇぇぇっ!
ゴートゥ幕之内! ゴートゥ幕之内!

その光景を想像した根岸の顔から、血の気が滝のように引いていった。
「ど、ど、ど、ど、どうしようっっっっ!?」

26 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/31(木) 22:30:15 ID:7mWQjUg50
>>ハイデッカさん&スターダストさん
おつ華麗さまです! 最近また盛り上がってきてるバキスレ、これで54か……超・長編も
まだまだ控えて下さってますし、この調子なら100も夢ではなさそうな。もちろんその時
には、「100おめでとうっ」を書く私がそこにおります。必ず。

>>銀杏丸さん(プレデター、初代は好きで何度か観ました。ブーバの件も戦隊ヲタとして嬉し)
凄くSFチックな装備に身を固めてるけど、よく考えたらさほどのオーバーテクノロジーでは
ない性能で、実際肉弾戦が好き。武装錬金やホムンクルスは、彼にとっては手応えある獲物
でしょうね。残虐な狩猟と死体弄りを趣味として楽しむバケモノを、ヴィクターはどう思うか。

>>クロさん
>現代のサムライってかなり思い切っているのね……
全然疑ってないんだもんなぁ。本当に隅々までボケだけというか、突っ込み役常識人不在
の世界。曙とロシアと、ナメられ度はどっちが上だという問題も誰も口にしない。そんな中
にボケ要素のない敵が来て、でも何かやらかすと思ってたら、このメンツでシリアスとな?

>>スターダストさん(只今5巻。SSやMADの、「あぁアレがコレか!」が続々と。楽しいです)
そーなんですよね。錬金の戦士って、筋力や持久力や耐久力は、ただ鍛えた常人ってだけ。
武器の特性以外については、本人の努力と才能以外の何物でもない。剣技も発想も。
エネルギー無効化を攻撃に使用ってのもなかなか。ヒーローの座を立派に継いでるな、秋水。

>>邪神? さん
なるほど。言われてみれば、ケンやシンから見れば烈なんぞ実戦=殺し合いの経験がない
(あっても乏しい)、道場格闘家でしょうな。多分、拳の殺気とかが薄い。烈から見た克巳
以上に格下に映るのかも。しかしシン、流石にいたぶり方が精神的にも肉体的にも凄い。

27 :作者の都合により名無しです:2008/01/31(木) 23:44:24 ID:SVdmx/hF0
ふらーりさん乙
ふらーりさんは最古参だからパート100までがんばってね
俺も多分、その時も見てるから


28 :作者の都合により名無しです:2008/02/01(金) 08:31:50 ID:xRSqgaLN0
ふら〜りさんってこの作品で8作目くらいだよね?
ふら〜りさんの趣味が特殊なんで読んでない作品もいくつか歩けど
凄いことだと思う

29 :作者の都合により名無しです:2008/02/01(金) 12:26:28 ID:/HwTyb3t0
最初はなんとなくいつもと違う作品だな、と思ったけど
ふらーり節に戻ったなw

30 :七クロ:32:2008/02/01(金) 18:30:30 ID:rr5qEYqo0
>>前432より

「ば、万事休すか……」
「うん、悔しいけど、もう諦めるしか……」

ひゅるるるる

「……何の音だ?」

どっかーん!!

「な、なんだ!?」
「分かりません。何処からかミサイルらしきものが飛んできたようですが……」
「ミサイルだと?何の冗談だ!……まさか、政府軍か?」
「さ、さあ、とにかく凄い砂埃で状況が把握出来ません!」

「ゲホンゲホン」
「う〜、一体何だってんだよ。砂嵐でも起こったのか?」
「僕だって分からないよ。でも、どうやら敵も混乱に陥っているようだね。この隙に……」
「おっと、ドサクサに紛れて逃げようとしたって、そうはいかんぞ。これを見ろ」
「お、お兄ちゃん達、逃げて……」
「卑怯な!女の子を人質にするなんて!」
「ハ、同じことを何度も言わせるな。俺らは卑怯なんだよ。
別にそれを恥だとも思っちゃいねえ、なあ?」
「ちげえねえ。要は勝てばいいんだ、勝てば」
「クソッタレが!今から殴りに行ってやるから、てめえらそこを動くなよ!」
「おお、そりゃ怖い。でもな、その前に周りをよーく見てみろ」
「何だと!!」
「待って、林田君!……僕らは既に包囲されている、うかつに動いちゃ駄目だ」
「フフ、そういうこった。さ、状況が理解できたのなら無駄な抵抗を止めな」
「クッ……」

31 :七クロ:33:2008/02/01(金) 18:33:25 ID:rr5qEYqo0
「どうだ、終わったか」
「御覧の通りさ」
「案外、てこずったな」
「ああ、モヒカンと小娘が暴れてな」
「ほお、お前ら相手にか。それは驚いた」
「まあ、それにしたって、勝負は初めから決まっていたさ。何しろ、こいつら
丸腰同然だったからな。全く何を考えてんだか」
「それがサムライとやらの心意気なんだろ。聞けば、こいつらの先祖は大砲に
剣を振りまわして突っ込んでいったとか言うぞ」
「へえ、そりゃ、笑かすな。で、勝ったのか?」
「まさか。大負けさ。皆、ボロ切れのように死んでいったんだと」
「ゲハハハ、そりゃ傑作だぜ。獣並みの頭の悪さだ」
「いやいや、頭の悪さで言ったら虫レベルじゃねえか」
「全くだ。ギャハハハ」
「クソ、調子に乗りやがって!」
「でも、僕らに打つ手は無いし、ここは黙ってた方が……」

「やれやれ、とことん、悲しい人達だわね」

「あ、小娘、何か言ったか?」
「聞こえなかったの?『悲しい人達』と言ったつもりなんだけど」
「何だと!!」
「き、君、あんまり相手を刺激しない方が……」
「……ごめんね、お兄ちゃん。でも、これだけは言わせて。もう、我慢できない!」
「おいおい、俺らが悲しいだって?馬鹿にしてんのか?」
「違うわ、哀れんでいるのよ。あなた達、何故、サムライが死ぬ覚悟で向かって
行ったか理解できる?」
「は、理解できるわけねえだろ。負け犬の気持ちなんか」
「でしょうね。あなた達には何も無いもの。守るもの無ければ、目的も無い。
権力に媚び、金に酔う、そんな目の前の力に身を任せるしか出来ない人達が
サムライの気持ちを理解出来るわけ無いわね」
「……こいつ」

32 :七クロ:34:2008/02/01(金) 18:38:11 ID:rr5qEYqo0
「でもね、サムライはあなた達とは違うの。彼らには志があった。大地に根を張り、
目指すべき空があった。それに比べたら、あなた達なんか、まるで風に吹かれる
だけの砂のようよ」
「……なんだかむかついてきたぜ。隊長、やっちゃってもいいですか?」
「言わせておけ、いくら吠えたところで何も出来ん」
「フン、大方、あなた達は寄り集まって強くなったつもりなんでしょうね。
でもね、所詮、砂はただの砂なのよ。いくら集まったところで砂漠にしか
なれないわ。何も育てられず、渇いてばかりいるね。これが悲しいと言わずに
なんと言えば良いのかしら」
「オイ、偉そうに何言ってんだ。俺は知ってんだんだぞ。お前のジジイが
オアシスを守ろうとしていた時、てめえが周りの奴らと一緒になってジジイを
非難していたのを」
「……確かに、昔の私はそうだった。あなた達の暴力と買収工作に振りまわされて、
村人達と同じようにおじいちゃんをなじっていたわ」
「へ、白状したな。要するにお前だって俺らと似たようなもんじゃねえか。
いくら格好つけたところでな、人は金と力に巻かれて生きるしかねえんだよ。
こいつらを前にしたら誰だって砂粒みたいなものさ」
「そうかもね。私も村人も皆、お金と力に負けてしまったもの。たった一人、
おじいちゃんだけが抵抗していたけど、無理がたたって……」
「まあ、結局、無駄だったわけだ。遺志を継いだお前も俺らに負けたことだしな」
「でもね、桜は咲いたのよ」
「……それがどうした?」
「まだ、たった一本だけど、おじいちゃんが咲かせようとしていた桜は確かに咲いたの」
「だから、それがどうしたと聞いている!」
「分からない?あなた達がどんなに勝ち誇ろうとも、もう私は絶対に負けないって
こと。たとえ私が殺されて砂漠に埋められようとも、きっとそこには別の新しい花が
咲くから」
「……こいつ、とうとう恐怖で頭がおかしくなっちまったみたいだぞ」

33 :七クロ:35:2008/02/01(金) 18:41:12 ID:rr5qEYqo0
「フフフフ」
「ハハハハ」

「……何がおかしい?お前らまでおかしくなったのか?」
「いやね、またしても一本取られてしまったと思いまして。ねえ、林田君」
「ああ、全く、大した姫様だぜ」
「何、余裕ぶっこいているんだ。お前ら、笑ってなんかいる場合じゃねえだろ。
本当に状況を理解しているのか?」
「勿論。あなた達の負けです」
「は、こりゃ正真証明狂っちまったようだな」
「いや、正気だぜ。それよりお前ら本当は怖がっているんじゃねえか?」
「怖い?何をだ」
「勿論、そこにいるお姫様をさ」
「冗談も休み休み言え。なんで俺らがそんな小娘を?」
「へ、分かってないようだから、教えてやる。お前らはビビっているんだよ。
まるで日本刀のように真直ぐ突き進んでくる彼女の意志を。何しろ、これだけの
人数揃えても小娘一人を挫けさせることが出来なかったんだ。そいつがいい証拠だぜ」
「何を!すかしたこと言ってんじゃねえよ、このよそ者が!」
「その通り。俺らはただの通りすがりの不良だ。こんなこと言う資格は
無えよ。正直、お前らと似たようなクズだ。ただな、俺らはお前らとは違う点が
一つだけ出来たんだよ。なあ、神山」
「その通りだ、林田君。なんてったって、今の僕らには『真のサムライ』がいる」
「真のサムライだと?ひょっとしてこの小娘のことを言っているのか?」
「ああ、そうだ」
「お兄ちゃん……」

34 :クロ:2008/02/01(金) 18:42:52 ID:rr5qEYqo0
投下終了です

>>ハイデッカさん
スレ立て、お疲れ様です。あと、すいません。なんかよく分からないのですが、
レス番が400越えたら書き込み控えた方が良いんですかね?

>>前441
不良ですが、悪い人達じゃあないですよね。ただ馬鹿なだけで。

>>前445
大暴れというか暴走してくれる予定ですw

>>邪神さん
烈が戦いと男としての勝負、両方に負けてしまった形ですね。
『中国の誇り』だけでは『愛』がテーマの北斗には勝てないよなあ。

>>ふら〜りさん
なんか互いの良さが見える良い話だなあ、と思っていたらラストが
それですかw実現したら一歩の顔面が掘られちゃいそうです。

35 :作者の都合により名無しです:2008/02/01(金) 22:19:34 ID:mbl87/wJ0
クロさん乙です。
今回の後半からクロ高っぽくない感じになってきましたね。
バトル物か和風ファンタジーっぽくなるのかな?

>レス番が400越えたら書き込み控えた方が良いんですかね
多分、スレの残り容量のことを言ってるのかと。
左下に表示される「○○KB」が現在の書き込み量で、
確か500KBを超えると1000レスいかなくても
書き込みが出来なくなる。

36 :作者の都合により名無しです:2008/02/02(土) 08:29:49 ID:iKTCQfIc0
いよいよ佳境ってところですね。
つかみはクロ高らしかったけど、こっからある意味本編に入っていくのかな?
クロさんもシリアスになるって言ってたし。

37 :作者の都合により名無しです:2008/02/02(土) 10:39:12 ID:BSq/zsU20
しかしこれだけの量を書きだめしてたなんて
大したもんだな

38 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:11:26 ID:qLQDKBka0
 目が覚めると、もう昼だった。
 そこは俺が借りているワンルームマンションのベッドではなく、そこから徒歩十五分ばかりの俺が通う大学──
そのなかで俺が所属してる思想インフラ研究会の部室の長椅子の上だった。
 隣で寝息を立ててるのは裸の真銅白樺ではもちろんなく、最悪なまでに人相の悪い女──
俺の幼馴染兼腐れ縁兼レギュラーである存在の飛鳥井全死だった。当然だが裸ではない。
「──やれやれ」
 とりあえずの習慣で溜め息をついてから、変な体勢で眠っていたことで軋りを上げる手足の関節をほぐし、
それと平行して自分はどうしてここにいるのだろうという問題について思い返す。
 深夜であるのも構わずに「いちゃいちゃしようぜ」と言う全死によって部室まで呼び付けられ、
俺としては乗り気では無かったが全死の機嫌を損なうと何をされるか分かったものじゃないので、
仕方なく部室に足を運んだまでは良かったが──。
「お目覚めですか」
 そんな背後からの声に、俺の記憶の反芻は中断された。
 振り返ると、そこには学生服を着た小柄な少女の姿がある。
「……君か。いつからそこにいた? と言うか、今何時?」
 少女──荻浦嬢瑠璃は細い手首を引っ繰り返して腕時計に目を落とし、「二時半です」と短く告げる。
 今日受講する予定だったはずの講義を三つばかり逃してしまったことを知り、わずかな不快感が胸に立ち昇る。
「いつから、という質問ですが……そうですね、かれこれ三時間ばかり全死さんと貴方の寝顔を眺めてました」
「起こしてくれれば良かったのに。そうすれば講義をサボタージュしなくて済んだ」
「頼まれもしないのに貴方を起こす理由がありますか?」
 言っていることはこの上なく正しいが、だからと言ってこの世の正義が俺の利益に直結している訳ではない。
 俺の都合に限定するなら、たとえ理由が無くても起こして欲しかった。
「なにか、ご不満でも?」
「いや、俺は辺境人(マージナル)だからな。他人に対して不満なんか抱いたりしないさ。
ただ、俺の周りには冷たいやつばかりだと再認識したけどな」
「ご愁傷様です」
 明らかにそんなことは思っていない冷淡な口調で、嬢瑠璃はしゃらっと言ってのける。
「それに──わたしには無理です」
「……なにが」

39 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:13:42 ID:qLQDKBka0
「全死さんと貴方が仲良く肩を寄せ合って寝ているところに割って入るほどの根性が無いという意味です」
「気味の悪い表現をするなよ。全死さんが勝手に俺にもたれかかってきただけだ。
そうなんでもかんでも俺と全死さんをくっつけるような発言はやめてくれ。
この人、俺を呼び出しておきながら眠りこけてたんだから。放っておいて帰ろうかと何度思ったことか」
「そうですか? わたしはてっきり事後かと思ってましたが」
 本気で背筋が寒くなった。
 嬢瑠璃の無感動な目を見つめ返し、少し本格的に抗弁する。
「勘違いしないでくれ。なにも無かったんだから。考えるだけでぞっとする」
 すると嬢瑠璃は軽く肩をすくめ、
「貴方がツンデレキャラだったとは、ちょっと意外ですね」
「──なんの話だ?」
「『勘違いするな』とはツンデレの常套句ですよ」
 彼女はそんな言葉をどこから仕入れてくるのだろうか。
 まず間違いなく全死経由だろうが。本当にろくなことを吹き込まない女だと思う。
「──念の為に言っておきますが、冗談です」
「冗談なら、もっとそれらしく言ったらいいんじゃないのか。笑いながら言うとかさ」
「これは誰も笑わないための冗談ですので」
 そして嬢瑠璃は再び腕時計に視線を落とし、
「そろそろ全死さんはデートの時間ですので、起こしますよ」
「わざわざ俺の承諾なんかいらないだろ」
「もっともです。ですが、形式として一応言ってみました」
 言い終えると、まるで俺の存在など最初からここにいなかったかのように、
嬢瑠璃はもはやこちらに一瞥もくれず全死に歩み寄る。
「全死さん、そろそろ桂木弥子さんとの待ち合わせの時間ですよ」
 耳元で囁きながら肩を揺する嬢瑠璃の手を、全死はうるさそうに振り払っている。
 それをぼんやりと眺めながら、また溜め息をつく。
「……ほんと、やれやれだ」

40 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:15:21 ID:qLQDKBka0
 

「域外者(アウトサイダー)……?」
 わたしのいかにも「意味が分かりません」的なオウム返しに、メイド服の警察官、虚木藍さんはにっこり微笑んで頷いた。
「そう。わたくしや飛鳥井全死さんのような人種は、便宜上そう呼ばれています。
『人種』、と言いましたがこれも比喩的な表現です。わたしくも彼女も、もちろん純正のヒト科生物です」
 藍さんはそこで笹塚さんに会釈をし、
「わたくしは桂木さんと少々込み入ったお話を致しますので、外で待っていただけますか?」
「──了解。えー、と……弥子ちゃん、悪いな。なんか知らないけど、彼女の話を聞いてやってくれ」
 ダルそうに手を振り事務所から出て行く笹塚さんを笑顔で見送った藍さんは、いっそうの柔らかい微笑でくるっと振り返る。
「さて、お話の続きですが……わたくしたちはこの『世界』を外側から眺めることが出来ます──これも比喩表現です。世界に内も外もありません。
しかしながら『外側から見るように』俯瞰的にこの世界を理解することで、わたくしたちはある一つの共通認識を得ることが可能になるのです。
それは『メタテキスト』と呼ばれているものです。メタテキストとは……人間の思考や精神よりも高次(メタ)なレヴェルに位置づけられる、
いわばその人の『本質』──いえ、これも正確ではないですね。その人と世界の関係を示すもの、
言うななれば、その人がどういった記号(キャラクター)を用いてこの世界に記述されているかを示す概念です。
これも例え話になりますが、ある種の創作物──小説、漫画、戯曲などに於いて、被創造物である虚構存在であるところの登場人物が
『創作者の思惑を超えて』、『勝手に動き出す』という話を耳にしたことはありませんか? もちろんそれはつまらない錯誤です。
すべてはワールドデザイナーたるクリエイターの思惑の中にあり、作中の登場人物がその枠を飛び越えることなどありえません。
では、なぜそういった錯誤が生まれるのでしょうか? 結論から言ってしまうと、創作者もまた虚構の産物だからに他なりません。
ここで気をつけていただきたいのは、ここで言う『創作者』と、クリエイターとして社会活動を行う人物は、
構造的に違うレヴェルの存在であるという簡単な事実です。お分かりですか?
現実に存在したクリエイターの『夏目漱石』の下位に、『坊っちゃん』を書いた『夏目漱石』が位置し、
その同位に列するものとして、『こころ』を書いた『夏目漱石』や『吾輩は猫である』を書いた『夏目漱石』がいるというロジックです。
クリエイターと登場人物の間には、『不完全な神=創作者』たる中間構造物が予め設定されているのです。
いわゆる『楽屋オチ』や『作者登場』、または『あとがき座談会』などのメタ演出は、この構造を前提として成立するストーリーテリングですね。
クリエイターは被創造物である『創作者』をしばしば自己と同一視するため、『登場人物が勝手に動き出す』という錯覚が発生するのです。
登場人物を動かすのは、虚構レヴェルの最上位に位置するクリエイターの極めて現実的な判断の結果でありますが、
その認識が『創作者』のレヴェルにまで浸透しなかった場合に、『勝手に動いた』と錯誤する──いえ、錯誤したことにされる、というわけです」
 壊れたラジオかなんかのように長々としゃべっていた藍さんだったが、ここでふと口をつぐむ。
 あ、お話終わったんだ──と思いきや、

41 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:17:55 ID:qLQDKBka0
「あら。あらあら。少々脱線してしまったようですね。話を元に戻させていただきます」
 ……どこからが本線なのか、そこを先に教えて欲しかったりする。
 しかしわたしがそれを言う前に、アクセル全開の長話が再開されてしまった。
「『メタテキスト』とは、世界という『文脈』の中で位置づけられるその人の『記号パターン』を司る『関数』、
ある状況でその人はどう世界に対しアクションを起こすか、その入出力の関係を理解するものです。
この認識を敷衍すれば、おのずと『域外者(アウトサイダー)』についての実相も見えてくると思います。
そう──『メタテキスト』を読める『域外者(アウトサイダー)』とは、
世界を支配する摂理に一歩近づいた、現存在よりも一段上のレヴェルに位置する存在なのです。
さっきの例え話に準じるなら、わたくしたちは『自分が作品内のキャラクターだと知った』虚構内存在ということになります。
これは、わたくしたちが他より優れた存在だと言っているわけではありません。
単なる構造上の立ち位置の話であり、そこに品格や人間性はもちろんのこと、存在の優劣はまったくの無関係です。悪しからず」
 よくもまあそこまで淀みなくしゃべれるよな、と話の内容とは関係ないところでその長広舌に感心するわたしだったが、
「──すみません。長々と電波を申し上げまして」
 まるでその心を読んだかのように、藍さんは話を中断して頭を下げた。
 ……メイド服の女性に頭を下げられるというのは、物凄い非現実的な光景だ。
 ある意味、ネウロの超常的な言動よりも不安を掻き立てられる。
「ふむ……実に興味深いお話です、虚木警部補どの」
 一方のネウロは澄ました顔で顎に手をあて、うんうんと頷いている。
 アンタ本当に分かってんのか?
「しかし腑に落ちませんね──」
「まあ、どこがでしょうか? わたくしにお答えできることなら喜んで説明させていただきます」
 小首を傾げる藍さんに、ネウロはぴっと立てた指を示し、左右に振る。
「つまり『域外者(アウトサイダー)』とは『メタテキスト』が読めるもののこと。……そうですね?」
「はい、仰るとおりです。これが『メタテキストをいじる』段階にまで到達すると『フォーミュラツイスタ』となります。
わたくしや全死さんはむしろこっちの部類にカテゴライズされますが、総称としての区分はやはり『域外者(アウトサイダー)』です」
「なるほど、しかし……ならば、なぜ貴女は我が『桂木弥子魔界探偵事務所』を訪れたのです?
『メタテキスト』というものが読めるのならば、事件の捜査に非常に有効に働くと思われますが」
「まずはご理解いただきたいのですが、わたくしがメタテキストを読んでも、
それ自体にはなんの証拠能力もありません。やはり警察機構による地道な捜査は必要なのです。
そして、はい、確かに、『犯人を知っている』というアドバンテージを利用すること、
あるいはなんらかの形でメタテキストに改竄を加えることで、捜査を進展させることも原理的には可能です。ですが──」

42 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:20:44 ID:qLQDKBka0
 コンコン、といきなりドアがノックされ。藍さんの話は途切れた。
 その場の全員の視線が事務所の入り口に集中する。
「……あのさ、なんか来てるけど。……お客」
 ドアの隙間からひょいと顔を出して告げる笹塚さんの頭が、
「おい、ちょっと──」
 いきなりその背後から伸びてきた手で鷲づかみにされた。
 そのまま笹塚さんを押しのけるように、そしてドアが壊れるくらいの乱暴さで『誰か』が事務所に入ってくる。
「──あ」
 その人を見て、反射的に時計を見る。
 三時十五分。──待ち合わせは三時。
「おそーい! このわたしを待たせるとはいい度胸じゃないか!?」
 頭から爪先まで黒尽くめの魔女みたいな女性──飛鳥井全死さんが、怒りも露わに仁王立ちしている。
 ぎろり、とノンフレームの奥の瞳を光らせてわたしを睨む。
「これがエロゲなら確実に好感度下がってるぞ! ウブなネンネじゃあるまいし、なにに時間を──」
 とかなんとか喚き散らしながらバンプスを踏み鳴らして近づく全死さんだったが、
「──っておい!」
 藍さんの横を通り過ぎた瞬間、驚いたように彼女を見る。
「おいおいおい、なんでお前がここにいるんだよ、虚木藍(エルストウリー)?」
「お久しぶりです、飛鳥井全死(テスラガール)」
「その名前で呼ぶなつってんだろ!」
「あら、まあ。相変わらず理不尽なお方ですね。先にその呼び方をなさったのは全死さんのほうですよ?」
「わたしはいいけどお前は駄目に決まってるだろ! こんな自明なことがあるか!」
「そうですか、失礼致しました。とにかくお久しぶりですね。わたくしがここにいる理由ですね? それは──」
「ふん、そんなの言わないでいいよ。警察組織のデッドコピー・エピゴーネンの考えそうなことくらいお見通しだ。
あの子を宮下乖離の後釜に据えようってんだろ? 違うか?
ああ、くそ、ほんとに胸糞悪いな。救いがたい馬鹿だ。そんなに自分の手を汚すのが嫌か?」
「──以前も申し上げましたが、わたくしでは駄目なのです。わたくしは警察官です。
あるシステムに属するものは、そのシステムに内包されない能力を行使することを避ける必要があります」
「うっさい巨乳メイド! だからお前は屑なんだ。下衆の極致だ。ここまでくるとむしろ賞賛に値するな」

43 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 12:54:18 ID:qLQDKBka0
 汲めども尽きぬ泉のように、次から次へと悪罵や中傷や呪詛を撒き散らす全死を持て余したのか、
藍さんは小さな肩をふうっと落として深く息を吐いた。
「わたくしはいずれ警察を離れ、師匠(マイスター)の元へ向かうつもりです。
その前にやれることをやっておこうというだけのことです。──まあ、この文脈で語ることでもありませんが」
 最後に一礼して、それでケリをつけたのか藍さんは全死さんから視線を逸らす。
「今日のところはこれで失礼させていただきます。依頼を受けていただけるようでしたら、ぜひご一報を」
 なおもぎゃーぎゃー騒ぐ全死さんを見ないように、藍さんはそそくさと去っていった。
 事務所の入り口に背を預けてそんなやりとりを眺めていた笹塚さんが懐から手錠を取り出し、
(この女、しょっぴこうか?)
 アイコンタクトでわたしに問い掛ける。
 あ、お願いしちゃおかなー、と揺らぎかけたわたしの心を射抜くように、
(断れ)
 というネウロの強烈なプレッシャーが背中越しにビシビシ突き刺さる。
(──この人は放って置いてください)
 とボディランゲージ込みで笹塚さんに伝える。
 笹塚さんはそれでも心配そうに、事務所の床に唾を吐いたり悪逆非道の限りを尽くす全死さんとわたしを見比べていたが、
やがて諦めたように溜め息をついて事務所を後にした。
 ひとしきり暴れてやっと落ち着いたのか、しかしそれでもなお不服そうに、全死さんは唇を噛んで事務所のドアに殺視線を送っている。
「……全死さん、藍さん嫌いなんですか?」
 いらいらと床を何度も蹴る全死さんは、わたしの質問に腹立たしげに舌打ちする。
「ああ? 嫌いだよ。あんな巨乳メイドを好きになるやつなんかいないね。
だが、くそ、そういうことか──興が殺がれた。結局、なにもかも無駄にならなかった訳だ」
「──はい?」
「帰る」
 言い放つと、彼女はさっさと背を向けてすたすたと入り口へ向かっていった。
 ──もしかして、デートはお流れ?
 いや、元々気が進まなかったし、それはそれで歓迎すべきことなのだろうが……なんだろう、この脱力感。
 丸一日に及ぶ長電話に耐え、藍さんの意味不明な電波話を拝聴し、そうした諸々の苦労が──。
「全部、無駄……?」

44 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/02(土) 13:06:23 ID:qLQDKBka0
 それは声になるかならないかの小さなぼやきだったのが、まさにドアから出て行こうとする全死さんはそれを耳聡く捉え、返してきた。
「無駄じゃないさ。こいつはな、全部必要な手続きだったんだよ。
弥子ちゃん、あんたは聡い子だから特別に教えてあげるよ。わたしはなにも間違えてなんかいない。
そうさ──わたしは決して間違えないんだ」
 ──その言葉を最後に、飛鳥井全死は事務所から消えて行った。
 ドアが閉まったのを確認すると、どっと疲れが襲ってきて床にへたり込む。
「ツッコみたいけどどこがツッコみどころやら……」
 脱力するわたしの耳元で、ネウロが密やかに囁く。
「感じるぞ、ヤコ……『謎』の気配は近い。
そう遠くないうちに、これまで出会った人間どもが、我が輩を新たな『謎』に導くだろう。
もう間もなく、我が輩の脳髄の飢えを一時癒す至福のときが訪れるのだ」
 ──そんなことより、疲れきったわたしの脳は糖分を求めていた。
 なので、わたしは一言だけでそれに応える。
「「──あっそ」

45 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/02(土) 13:12:23 ID:qLQDKBka0
長い電波話は原作譲りです。読み通すことを推奨はしません。
書いてる本人も読み返してウンザリ。

ちょっと宣伝……してもいい?
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2195753

46 :作者の都合により名無しです:2008/02/02(土) 18:02:13 ID:BSq/zsU20
おお、SSも面白いがニコ動も見れる
なんかいつもより得した気分だ

47 :作者の都合により名無しです:2008/02/02(土) 20:50:10 ID:iKTCQfIc0
お疲れ様です。
ネウロ以外は知らないのですが、一読して魔人に対抗しうる存在たちなのかなと思いました。
弥子は全死やネウロのような超常者に対してもそのままでいられるところが凄い。
いよいよ「謎」が出現らしいので楽しみ。
ネウロは勿論、私の知らない他のキャラがどう動くのかを楽しみにしてます。

48 :やさぐれ獅子 〜二十五日目〜:2008/02/03(日) 01:25:51 ID:R7iVxa7W0
 疲れ果てた形相で、乾いた星空と向き合う加藤。数億光年の彼方にある天体たちは、加
藤の苦労など眼中にないかのように一心不乱に瞬いている。
「くそっ!」
 悔しさから、拳を空に突き上げる。が、まるで届かない。
「さすがに星は殴れねぇか……」
 自嘲を含んだ口ぶりで加藤は寝そべる。
「まだ……五日」
 夢と現の狭間で呟くと、加藤は睡眠という形で一日を終えた。
 二十五日目の試練、クリアーである。

 バケツどころか、プールがひっくり返った。
 巨大な水の塊が絶えず加藤を打ちつける。異常なまでの重さと痛みに、しばらく水であ
ることに気付かなかったほどだ。
 雨というには余りにも非情な雨。スコールなどと呼べる次元ではない。空襲といった方
が正しい。
 生命(いのち)を育むはずの水が、加藤の命を削っていく。時間と共に、肉体が右肩下
がりで衰弱していくのが分かる。いくら液状とはいえダンベルを常にぶつけられれば、ど
んなに鍛えている人間であろうと死ぬに決まっている。
(水って……こんなに重かったのかよ)
 水の脅威を改めて噛み締める加藤。
(……とにかく、こうしてるわけにゃいかねェ!)
 加藤は走った。森の中に逃げ込めば、雨宿りというわけにはいかないだろうが、空襲を
直接浴びることは避けられる。
 しかし、背後からの突風。
 背中を巨人に押されたと思ってしまうほどの、超突風であった。そして、押された先に
は木が待っていた。
「グアッ!」
 激突。咄嗟にガードはしたが、全身を痺れに侵される。
 風は勢いを増し、空には雷を帯びた雲が出番はまだかと待機している。
「そうか……こ、これが……今日の試練ッ!」

49 :やさぐれ獅子 〜二十五日目〜:2008/02/03(日) 01:27:05 ID:R7iVxa7W0
 前代未聞の異種格闘技戦──『空手対天災』がついに幕を上げた。
 螺旋の風が、加藤の体を持ち上げた。およそ八十キロがあっけなく宙に浮いた。
(俺、飛んでんじゃん。そういや昔は空を飛べたらいいなァ、とか考えてたなァ……まさ
か叶うなんて)
 激突。
「がっ!」
 風に操られるがまま、草に、木に、岩に、地面に、叩きつけられる。「ぶーん、ぶーん」
と子供に弄ばれる玩具の飛行機のように、乱暴かつ無造作に。
 上昇気流で打ち上げられ、墜落する。
 地面を引きずられ、泥と血まみれになる。
 木にぶつけられ、枝が腹に刺さる。
 風の攻撃には明確な意志が潜んでいる。降雨から数分も経たないうちに、加藤は大半の
体力を奪われていた。
(こんなの……)
 手から、
(どうしろって……)
 足から、
(いうんだよ……)
 心から、力が抜けていく。
 初めこそ抵抗していたが、悪あがきに毛が生えた程度に過ぎない。少しずつ、諦めが心
を支配する。どうでもよくなった、という方が正しいかもしれない。
 重い水に、力強い風。天災は強い。とてつもなく強い。狂おしいほどに強い。
「強え……もう楽になりてぇ……。でもよォ」
 館長に並ぶために。
 井上との約束を果たすために。
 ドッポの死に報いるために。
 まだ見ぬ強敵と出会うために。
「俺は勝つッ!」
 加藤は三戦の体勢を取った。
「これでそう簡単には飛ばされねぇ。……あとはあいつだけだ」
 加藤は上空に佇む雷雲を見やった。

50 :やさぐれ獅子 〜二十五日目〜:2008/02/03(日) 01:28:26 ID:R7iVxa7W0
 落雷開始。
 耳をつんざく破裂音。強烈な閃光が地面を容赦なく穿つ。今や人間社会には欠かせない
『電気』の本来の姿である。
 一撃でも喰らえば戦闘不能は免れない。
「そうこなくっちゃあな……」
 雷の威力を目の当たりにしても、加藤は退かない。むしろ闘志を燃やしている。
 加藤が力尽きるか、天災が尽き果てるか──いざ勝負。
「ウオオオオオオオオオオッ!」
 加藤は再び走り出した。まもなく、立っていた場所に雷が落ちたのはいうまでもない。
 がむしゃらに、天災相手に空手を披露する。
 豪雨と暴風にきっちりと受けを決め、拳足で弾き飛ばす。落雷は落ちる前にかわす。運
動量はすでに加藤のスタミナを喰らい尽くしているが、加藤は停止しない。
 魔獣には闘いしかない。無様に死ぬか、敵を全滅させて途方に暮れるか、どちらかの未
来しかない。それでも加藤は戦い続けるしかないのだ。
「キャオラァッ!」

「がっはっは、なかなか骨のある男じゃな」
「うむうむ、荒削りじゃがよくやっとるのう」
 雷雲の上から下界を見下ろす風神と雷神。加藤の奮闘を肴に、のんきに酒を酌み交わし
ている。
「できれば味方してやりたいが、な」
「わしらとて神じゃい。贔屓するわけにゃいかん」
「さて……そろそろやるか」
「おう。準備はいいな?」
「いつでもいけるぞ」
 風神はそよ風から台風に至るまであらゆる風を詰めた袋を、雷神はいついかなる時も稲
妻を呼ぶことのできる太鼓を、それぞれ手に取った。

51 :やさぐれ獅子 〜二十五日目〜:2008/02/03(日) 01:30:22 ID:R7iVxa7W0
 風と雷を相手取り、五分の闘いを繰り広げていた加藤であったが、
「………!」
 猛烈な危機感を感じ取る。
 直後、加藤は空に吸い上げられた。凝縮された大気が固体に近い硬度となって加藤を上
へ上へと運んでいる。
 風というエレベータに囚われた加藤を待っていたのは、暗黒の雲。
「さァ耐えてみせい」
「若き戦士よ」

 ──加藤は生身で雷雲に突入した。

 雲の内部は放電現象の巣だった。虎穴に放り込まれた餌を待ちわびていたかのように、
雷の見習いたちが加藤を集中砲火する。
 小さな爆発(スパーク)が無数に起こる。肌から侵入を果たした電圧は内臓を自在に走
り回り、全身を蹂躙する。電化製品ってこんな気分なのか、などと訳の分からない思考が
頭をよぎる。意識が遠のく。
 光の筋が見えた。ようやく出口だ。
 風に押されるがまま雲を抜けると、そこには青空が広がっていた。
「あァ……空か」
 雲上には酔っ払いながら大笑いしている二人の男がいた。どちらもひどく太っている。
「がっはっは、生きとる、生きとる」
「さすがはわしらが見込んだ男。さァ、飲みなされ」
 盃を勧める二人を、加藤は黙って殴った。
 男たちは殴られた頬をさすり、今にも泣きそうな顔で加藤を見つめてから、煙となって
姿をくらましてしまった。
 その瞬間、雷雲が消えた。雨も風も、初めから存在しなかったかのように立ち去った。
 空から落下する加藤を、風神の置き土産か、つむじ風がクッションとなって守る。
 加藤は天災を司る神──風神と雷神に認められたのだ。

52 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/03(日) 01:33:44 ID:R7iVxa7W0
深夜に失敬、新スレおめでとうございます。
烈、かっこよすぎ。

53 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/03(日) 06:25:32 ID:GP0V/0vp0
《THE LAST EPISODE:The whirlwind is in the thorn trees》

大きく構えを取るアンデルセンに向かい、防人は無造作に、放胆にその間合いを詰めていく。
フットワークを使って華麗に追い詰めるのではない。制空圏侵入を警戒しながらジリジリと
詰め寄るのでもない。
ただ“歩いている”だけだ。
「クククッ……!」
最早アンデルセンは歓喜の笑いを隠そうともしていない。
眼前の戦士が己の刃の射程内に入ってくる事が待ち遠しくて堪らないのだ。
『この無手の男が、徒手空拳の敵が、これまでの人生で最高の闘いを以って楽しませてくれる』
防人の全身から発せられる殺気が、アンデルセンにそう確信させているのだ。
『ともすれば自分はこの不倶戴天の仇敵に愛おしさすら感じているのかもしれない』
そんな有り得ない錯覚を起こさせる程に、こちらへ向かってくる“武装錬金を持たない錬金の戦士”が
ある種、魅力的に見えるのだろう。
「さあァ、来い!」
果てを知らない昂ぶりを覚えるアンデルセンの咆哮。

つと防人が重心をやや前方に移す。
そこまではアンデルセンにも確認出来た。
にも関わらず――
「ブはァ!」
――アンデルセンは顔面に火花が散らんばかりの衝撃を覚え、大きく仰け反った。
瞬時に懐に飛び込んだ防人が、アンデルセンの鼻っ柱に強烈なストレートを叩き込んでいたのだ。
ノーモーションどころではない。
踏み込みも、予備動作も、攻撃動作も、撃ち終わりも眼に止まらない。
まるで時間の流れが一部切り取られ、吹き飛ばされたかのような驚異的速度の拳である。
防御のみに特化された武装錬金を持ち、攻撃面はすべて身体能力を向上させる事に血道を
上げ続けた防人の面目躍如といったところか。
しかし、アンデルセンにしても身体能力は人間のレベルを大きく凌駕している事実を忘れてはならない。
「おのれィ……!」
鼻孔から大量の鼻血を撒き散らしながらも、アンデルセンは強引に体勢を立て直す。

54 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/03(日) 06:26:16 ID:GP0V/0vp0
そして間合いに入り込んだ防人を薙ぎ払うように両の銃剣を振るった。
「シィイイイアアアア!」
銃剣が空を斬る。
消えた。
防人が消えた。
少なくとも火渡と千歳の眼にはそう映った。
だがアンデルセンは辛うじて眼の端に映った影を逃さない。
「上か!」
顔を上げれば、防人が今まさに天井に到達したところだ。
「ウォオオオオオオオオオオ!」
雄叫びと共に天井を蹴ると、防人の身体は砲弾の勢いで射出された。
蹴られた天井は粉々に砕け散り、その破片は間欠泉のように上階へ押し上げられる。
眼下のアンデルセンへ流星の如く高速落下する防人。
更には半ばでクルリと身体を回転させ、狙うアンデルセンに向けて右脚を突き出した。

「流星! ブラボー脚!!」

迎撃は――間に合わない。
回避は――間に合わない。
アンデルセンは両腕を十字に組み、防御に徹する構えを見せる。
そして防人の蹴りがアンデルセンに炸裂した瞬間、彼が立つ廊下はクレーターのように大きく陥没した。

「ヌゥオオオオオアアアアア!!」

両腕の筋肉が潰れ、骨が鳴る。
だが、それよりも先に廊下が音を上げた。
激しい破壊音を立ててアンデルセンの周囲の廊下が崩れ落ち、パックリと口を開けた大穴に
二人は消えていった。
下から連続して破壊音が響いてくる事から推して、二人は次々に廊下を破壊し、より下の階へ下の階へと
落ちていったのだろう。

55 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/03(日) 06:27:36 ID:GP0V/0vp0
 
 
 
「……」
火渡は二人が消えた大穴を眺めながら、無言のままでしゃがみ込んでいた。
自分がすべての力を出し切っても倒せなかった“強大”な敵。
その敵をほぼ圧倒する形で攻め立てた“非武装”の仲間。
「何でだよ……」
二人共、破壊の限りを尽くして自分の前から消えていった。
自分の手の届かぬ場所へ。自分では辿り着けぬ場所へ。
「何でだ! 何で俺じゃねえんだよ! 何でオマエなんだよォ!!」
火渡は廊下に額を強く打ちつけた。何度も。何度も何度も。
己の弱さ。防人の強さ。
何が足りなかったのか。何が違ったのか。
嫉妬。羨望。無力感。そして、己への怒り。
「チクショウ……!」
額から滴る血が眼に入り、まるで血涙のように瞳から流れ落ちる。
例え、そこに本物の涙が混じっていても余人には見分けはつかないのだろう。
「火渡君……」
千歳は少し離れた場所に座り、火渡の様を見つめている。
己の非力を嘆くのは理解出来る。自分にも覚えのある事だ。
だが――
何故、救援に入った防人を責めたのだろう。
何故、攻勢にある防人を喜ばないのだろう。
理解出来るような気もする。理解出来るようで理解出来ない。
可能ならば理解して共感してあげたい。
大切な仲間なのだから。
そう考える千歳であったが、おそらく火渡の、否、男の感情を真に理解する事は不可能だろう。
男の心は岩のように硬い。女がそれを窺い知る事は決して出来ないのだ。

56 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/03(日) 06:28:56 ID:GP0V/0vp0
 
千歳はふと我に帰り、慌ててズボンのポケットを上から押さえた。
痛みを堪えつつポケットに手に入れ、中を探る。
中から掴み出した物は、一枚の茶色い小さな封筒。
もうだいぶ皺だらけになっていたが常に肌身離さず持ち歩いていた。
任務を告げられた際、照星から託された物だ。

『あなた一人の時に読んで下さい。そして、そこに書かれてある事を必ず実行するのです。いいですね?』

中身は受け取ってすぐに読んでいたものの、その内容に千歳は多重な意味で驚きを禁じえなかった。
照星の機知に感心した一方、己が背負った責任感に恐怖感すら覚えたものだ。
しかし、今は違う。
火渡は命を懸けて、命を燃やして闘った。
防人は武装錬金を解除し、危険極まりない闘いを自らに強いている。
ならば自分は?
彼らの仲間であり、照星部隊の一員である自分はどうするべきか?
(私も、やらなきゃ……)
手紙を握り締め、千歳は匍匐前進を始めた。
武装錬金を無効化する聖遺灰の及ばぬ場所へ移動しなければならない。
“それ”は千歳にしか出来ない事。
瞬間移動を特性とする“ヘルメスドライブ”を持つ千歳にしか出来ない事なのだ。
(私もやらなきゃ! 私にしか出来ない、私の務めを!)
両脚が利かない状態で、腕の力のみで少しずつその場から離れていく。

やがて、千歳はかなりの時間を掛けて、自分達が進んできた廊下の端まで到達した。
振り返ると、火渡は未だ顔を伏せたまま動こうとしていない。
千歳は出来うる限りの声を上げて、離れた火渡に呼び掛けた。
「ひ、火渡君……!」
火渡は振り向かない。返事すらしない。
「少しだけ待ってて? すぐに、帰ってくるから……!」
自分が発した言葉に強い“希望”を込め、そしてまた、その希望を胸に――
ヘルメスドライブを発動させた千歳は、ペンタブを繰った。

57 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/02/03(日) 06:30:29 ID:GP0V/0vp0
いやいやいやいや、どうもどうもどうも。
いつもステキで男前、さいでございます。
ホントごめんなさいね、イイ男で。

とりあえず最終章突入です。なかなか思うように筆が進まないのですが、何とか完結まで頑張りたいと思います。
ひとつだけアレなんですけども、もしかしたら今回の展開で防人が随分とアンデルセンより強いんじゃないかと
思われた方がいらっしゃるかもしれません。ただ、私の解釈からいくと“単純な身体能力”だけならば、防人が
上回っているかと思うのです。何せ彼ったら素手で海を割ったり、蹴りで電柱を地面に埋めたり、パンチで地形
変えちゃうくらいですから。そんな感じです、ハイ。
次回は出来るだけ近いうちに投稿したいと思います。では、御然らば。

58 :作者の都合により名無しです:2008/02/03(日) 12:21:26 ID:Fe2gov7E0
やさぐれ獅子もWHEN THE MAN COMES AROUNDも残り僅かかあ。

>サナダムシさん
風神と雷神って味方だったのか。でも戦うのかな?
神の領域に達した加藤、武神との一騎打ちは近いんですかね。
でも克己はともかく、烈や達人に勝てそうな気がしないけどw

>さいさん
やはり火渡りは防人に比べると1ランク落ちるのかなあ。
攻撃力最強なのに、原作でも防人より格下扱いでしたしね。
まあこのまま終わらないでしょうな、火渡も。

59 :作者の都合により名無しです:2008/02/03(日) 14:44:06 ID:iRUkzlUC0
・脳噛ネウロは間違えない
ハロイさんの作品は飛び切り面白いけど覚えることが多すぎるw
でも全死とネウロのコンビは最強かも。間に挟まれたヤコが可哀想。
謎発生で、ますますいたぶられるんだろうな。

・やさぐれ獅子
加藤はつくづく成長しましたね。原作でも烈が間違った成長をしましたがw
この加藤は正当主人公らしくまっすぐ強くなっている感じです。
あと5日ですか?

・WHEN THE MAN COMES AROUND
最終章突入ですか。まだ数回は更新あるんでしょうが寂しいですね。
ブラボーらしく決めたけど、樋渡も火渡らしく熱血で悔やんでますね。
神父もブラボーもまだ1回は出るんでしょうね。

60 :七クロ:36:2008/02/03(日) 16:03:43 ID:BsLTO4cf0
>>33より

「……ハーハッハッ!こいつは笑わせてくれるぜ。こんな小便臭え餓鬼を
つかまえて真のサムライだとは!」
「全くだ。大体、サムライってのは男の仕事だろうに。そいつを小娘に
やらして悦に入るとはロリコン日本人が考えそうなこったぜ」
「……一振りの日本刀だって、元はただの土くれです。その土くれを刀に
変えたのは一体何でしょうか?金?力?いや違う、それは『魂』です」
「そういうこった。お前らにゃ分からねえだろうが、ただの土くれが刀に
変わる魔法だ。女の子が本物のサムライになったって不思議じゃねえよ」
「……ケッ、日本人ごときが調子に乗りやがって。『意志』だの『魂』だの
サムライごっこはもうウンザリなんだよ」
「ああ、確かにこいつらの戯言に付き合うのも飽きちまったな。なあ、そろそろ
やっちまわねえか?」
「……ウム、先ほどの爆発も気にかかる。こいつらばかりに時間を取られるわけ
にはいかんな」
「じゃあ、話は決りだな。さて、サムライ諸君、名残は惜しいがこれでお開きとしようや」

「お兄ちゃん達、とうとうこれでお別れみたいね。ごめんなさい。私が巻き込んだせいで……」
「好きで乗ったケンカだ。構わねえよ」
「ああ、僕も悔いはない」
「ありがとう……じゃあ、私から先に……」

「た、隊長!!」

「チッ、いい所なのに何だ?」
「どうした?騒々しい」
「て、敵襲です!砂埃の中から新たな敵が現れました!!」
「馬鹿を言うな!この砂漠で我らに歯向かう者などいないはずだぞ」
「し、しかし、現に攻撃が……」

61 :七クロ:37:2008/02/03(日) 16:05:34 ID:BsLTO4cf0
「フフフ」

「……まさか、貴様らの仕業か?」
「いんや、俺らは何もしていないぜ」
「じ、じゃあ一体誰が……」
「そんなの決まっているじゃないですか。サムライですよ」
「何!?」
「ふ、ふざけたことをぬかすな!」
「別にふざけちゃいねえよ。真のサムライの下にはな、同志がわんさと集まるんだ。
……悪い奴をぶちのめすためにな!!」
「フン、この後に及んでまだサムライごっこを続けるというのか。ならば、
それでもいい……この小娘から片付けてやる!」
「キャア!!」
「あ、しまった!」
「やばいな……ここからじゃ遠すぎる」
「フフフ、そこで大人しく殺されるのを見ているんだな」
「ク、クソ……」

ガツン

「グフッ!!」
「あ、隊長!……ゲフッ」
「!?な、何事……ゴフッ」

62 :七クロ:38:2008/02/03(日) 16:07:56 ID:BsLTO4cf0
「ふー、これでこいつらは片付いたっと」
「うむ、ご苦労だった、我が子分よ……よう、貴様ら、無事か?」
「あ、あなた達は!!酒場にいた……」
「お、どうやら覚えていてくれたようだな」
「あ、ありがとう、助けに来てくれたのね!」
「へへへ、こんなに感激してもらえるとは嬉しいねえ」
「うむ、助けに来た甲斐があったというものだ。たまには感謝されるのも
悪くはないな」
「おう、北斗達、随分時間がかかったじゃねえか」
「ホント、待ちくたびれたよ。君達、シッコでもしてたんですか」
「……それに比べて、こいつらは」
「お前ら、ここは『来てくれたんだね!』と感動するシーンだろうが。
何だよ、その態度は」
「だって、遅えんだもの!全く、時間稼ぐのに苦労したぜ」
「うん、途中で北斗君達の姿を確認出来たとはいえ、ハラハラしたよね」
「……ここまで命がけでやって来たというのに。大体、お前らが何も言わずに
出ていったから、この場所を探すだけでも一苦労だったんだぞ」
「北斗さんの言う通りだぜ。しかも、ようやくのことで到着してみたら、
今度はとんでもねえ奴らとケンカの真っ最中だ。いい加減にしてくれよな。
身がもたねえよ」
「へへ、北斗の子分よ、手間をかけさせたな」
「でも、二人のおかげで助かった。なにせ、絶対絶命のピンチだったもんね。
感謝するよ」
「……ふん、北斗軍総帥として団員を守るのは当然だ。……しかし、まあ、
お前らたったの三人でよくこいつら相手にケンカをしかけられたもんだな。
バーの親父からお前らが乗り込んでいったとは聞いたが、まさか、これほどの
相手とは思わなかったぞ」

63 :七クロ:39:2008/02/03(日) 16:10:47 ID:BsLTO4cf0
「こいつら容赦無く、銃を撃ってきたもんなあ。北斗さん、外国の不良高校は
一味も二味も違いますね」
「うむ、平和ボケした日本の高校とは比べ物にならんな。あれだな、多分、
十六歳ぐらいからOKで、校則違反じゃないんだろうな」
「なるほど、アメリカなんか学校でよく乱射してますもんね。しかし、こいつら
見れば見るほど、同世代には思えねえな。顔の彫りも深いし、人殺して
いるような奴ばっかですよ。本当にこいつら相手にして勝てるんですか?」
「子分よ、怖気づいてはならんぞ。いくら老けているとはいえ、我らと同じ
高校生、決して御せぬ相手ではない」
「し、しかし……」
「貴様、我々の目的を忘れたのか?」
「……ハッ!」
「我らが目指すは世界最強高校。そのために全ての不良高校を制圧し、
君臨する必要がある。故にいかな高校が立ち塞がろうとも避けて通るは
出来ぬが道理。子分よ、最強の高校が二つ存在することは許されぬことなのだ」
「……面目ありません、自分としたことが。我々の大望の前では怖気づく暇など
ないということを失念しておりました。我らに前にあるはただ『殲滅』の二文字のみ。
きっちりと胸に刻み込んでおきます」
「うむ、それでこそ我が子分だ」
「よし、神山、どこの高校だか知らんが、この調子でぶっ潰すぞ!クロマティー高校
の名を海外に轟かしてやれ!」

「……ねえ、お兄ちゃん。途中からこの人達の会話が理解できないのだけど」
「う〜ん、どうやら、不良高校同士の抗争と勘違いしているみたいだね。まあ、
放って置いていいでしょ。ツッコミ入れるのも面倒だし」

64 :クロ:2008/02/03(日) 16:39:35 ID:BsLTO4cf0
>>35
了解しました。今後は容量に気をつけます。
クロ高は良くも悪くも彼等らしい展開になる予定です。
他の作品読んでるとバトルとかさせたくなりますけど。

>>36
シリアスな部分はこれでほぼ終わっちゃいましたね。後は
例のごとくグダグダですw


>>37
この文体で書きつづけるのは正直つらかったです。
これだったら書きやすそうだな、と思ったのが間違いでした。

>>サナダムシさん
この加藤は思わず応援したくなるいい漢ですな。神様殴る辺りのKYぶりも
彼らしくて良かったです。

65 :作者の都合により名無しです:2008/02/03(日) 20:30:54 ID:il3qsOCL0
週末は沢山来ましたな。4氏お疲れ様です。

>ハロイさん
全死のキャラは立ってるなあ。
シュガーソウルの十和子のお姉さまバージョンみたいな感じ?
笹塚がローテンションキャラなんで余計他のキャラが引き立ちますな。

>サナダムシさん
風塵雷神を味方につけて対武神への準備万端って感じですな
サナダさんのバキ長編はシコルといい加藤といい弱キャラを生かしますね。

>さいさん
最終章突入でちょっと更新速度落ちますか。一番練りたい部分なんで仕方ないですね。
神父・ブラボー・火渡の三者三様の物語がどう終結するか楽しみです。

>クロさん
シリアス部分終わるの早いなwクロ高キャラでサムライが似合うのはやっぱり
メカ沢と思うな。メカだけど。クロ高らしい着地になるんでしょうね。

66 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/03(日) 22:13:45 ID:wfnPk3KB0
 僅か一日にして島の様相は一変した。立っている木は一本もなく、執拗な雷によってあ
ちこちが焼け焦げている。住んでいた獣や昆虫も壊滅した。土壌も同様だ。雨降って地固
まる、の諺の如く、かえって固く引き締まった。
 環境ばかりではない。天災と正面からぶつかったダメージは大きく、体中にガタがきて
いる。
 これまでの主食であった果実も失われた。グチャグチャに潰れ、土と混ざった実を加藤
は淡々と食する。もちろん不味い。
 廃墟と化した島を見渡し、加藤はやはり井上を帰しておいて良かったと安堵する。
 今日を含めあと五日、あと五日間を生き延びれば元の世界に帰れる。こんな殺風景では
ない、豊かな日常に戻ることができる。
 とはいえ、今の加藤にそれを想像するほどの余力はなかった。彼に必要なのは今日とい
う日を生き抜くための力だけなのだから。
 ひとまず空腹は鎮まった。加藤はいつものようにトレーニングに打ち込む。

 トレーニングメニューの正拳突きのさなか、不意に加藤を錯覚が襲った。
「あれ? 俺って……死んだ?」
 突然、己の存在感が希薄になった。確かに肉体はあるし、精神もある。生きていないは
ずがないのだが、何故か自分が生きているという事実を信じられない。
(どうしちまったんだ、俺は!)
「俺が近くにいるからだ」
「───!」
 針金のように細く、上下を黒一色で統一した男だった。両目には黒目しかなく、僅かに
露出している肌は不健康な土色をしている。
 真っ先に抱いたのは恐怖だった。殴りかかるのを忘れてしまうほどに、この黒い男が心
底恐ろしかった。
「……くっ!」
 自らを奮い立たせようとするが、そう簡単に負の感情は払拭できない。
「おまえは私に恐怖を抱いていることだろうが、決して恥じる必要はない」
「だッ……だれが恐怖なんかするか! クソボケがァ!」
「俺は死神の使いだ」

67 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/03(日) 22:15:23 ID:wfnPk3KB0
 黒い男は続ける。
「俺は死神によって生み出され、人の死を生業としている。普段俺の姿が人に見えること
はないが、過敏な者ならば、俺が接近するだけで生を忘れ、ノイローゼになったり自殺し
たりする。今のように実体化していれば、なおさらだ」
 死神の使い。加藤に生まれた自己に対する生々しい喪失感は、この男が日常的に人々に
もたらす『死』の臭いによるものだった。
「なるほど……よぉく分かったぜ。この気持ち悪さは確かにうっとうしいが、実際に死ぬ
わけじゃねぇんなら話は早ぇ」
 恐怖を行動で断ち切るべく、加藤は発進した。ついさっきまで反復していた正拳突きで
先制を狙う。
 黒い男はゆらりと拳をいなすと、人差し指を加藤の鼻と唇の間──人中に突き刺した。
「え」
 がくんと膝をついた加藤に、回し蹴りの追い討ち。首にクリーンヒット。
 あっという間のダウン。これが空手の試合であったならもう終わっている。
「ぶ、武術……か?」
「俺は武術は知らない」
 横に倒れた加藤の首に踵での下段蹴りを喰らわせる。
「がひゅっ!」
「ただし、どうすれば人が死ぬかはよく知っている」
 再度、首に向かって下段蹴り。
 頚骨から悲鳴が上がった。加藤の眼球が裏返る。
「さて戻るか」
 帰路につく男に浮かぶ達成感は、果たしていかほどのものか。声に特別な感情はなにひ
とつ込められていない。後始末は死神に委ねるのだろう。
 しかし、彼は見誤っていた。
「オイ……」
 踵を返す黒い男の足首を、掴む手があった。
「忠告しとくぜ」手に足首を引っぱられ、男はバランスを崩す。「死神とかほざくんなら
よォ」
 手の主が背中の上に馬乗りになる。
「敵の生死くらい確認しとく癖くらいつけとけッ!」

68 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/03(日) 22:16:29 ID:wfnPk3KB0
 後頭部に正拳がめり込む。むろん一発で済ませるはずがない。もう一発、さらに一発、
手心など加えていたら倒せない。加藤はこの男に、死を錯覚させる能力や死神の使いとい
う肩書き以上の危険性を覚えていた。
 マウントポジションからの脱出は至難である。ましてやこのケース、後頭部という弱点
をさらけ出す格好となっている。
「……ご忠告ありがとう」
 男が呟いた瞬間、華奢な体は一切無駄がない動きで、するりと加藤から抜け出した。
 真っ黒な瞳が加藤に注がれる。
「マ、マジかよ……」
「怠慢だった。あの力加減で、あのタイミングなら、首はまちがいなく折れただろうと思
い込んでいた」
 発せられた力加減というフレーズ。黒い男は本気を出していなかった。先程の攻防は、
あくまで加藤に死という最期(フィナーレ)を与えるための日常業務に過ぎなかった。
「折れかけたがな」痛めた首をさする加藤。「烈なんかとちがって首の骨なんて外せねぇ
し」
 両者、構えを取る。
 加藤は天地上下の構え。師匠である独歩も愛用していた、攻守に適した構えだ。
 一方の黒い男も構えを取ってはいるが、洗練されてはおらず、一目で素人だと分かる。
「行くぜ……」
 強力な踏み込みから上段突き、を寸止めし、ローキック。黒い男の太股に吸い込まれる
ように決まった。
 だが、
「全力には全力で応えよう」
 ローを問題にせず、男の右手が加藤に伸びる。首をキャッチされる。
「てめ──えッ! ぐぇ……がっ!」
「今度は折る」
 重機に匹敵する怪力が、加藤の首にのしかかる。あと数グラム力が加われば頚骨は破壊
される。
「シイィッ!」
 伸びた肘を狙っての、膝蹴り。どうにか首から手を離させることに成功した。

69 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/03(日) 22:18:05 ID:wfnPk3KB0
 加藤は間合いを取った。立て続けに首にダメージを負い、乱れた呼吸を整えねばならな
い。
(なんてぇ怪力……加えて無駄な行動は一切なし。動き自体は素人だが、殺害経験は奴が
上だ。あと、奴のオーラでどうしても自分が死んでる気分になっちまう。戦いに集中でき
ねぇ)
 戦力分析の途上、黒い男は徒競走のフォームで突っかかってきた。なんという無策ぶり
だろうか。
 前蹴りで牽制し、そこから一歩踏み込みハイキック。こめかみを捉える。傾いた黒い男
の首根っこを掴むと、首相撲から顔面へ膝を連打。膝が赤く染まる。
 徹底した攻め。加藤はこれこそが最善の策であると悟った。
 黒い男から発せられる死の臭いを忘れるには、ひたすら攻めて、攻めて、攻めまくるし
かない。
 一撃必殺の拳。武神直属のエリートを一撃にて葬った中段突きが、黒い男の薄い胸板に
叩き込まれた。
「ッシャアッ!」
 手応えあり。加藤は大ダメージを確信する。
 鼻と口から出血しながら、黒い男は立ち上がる。相変わらず不気味な佇まいだが、息が
上がっている。ダメージはあるようだ。
「まだまだァッ!」
 勝機は来たり、と加藤は左右から貫き手を繰り出す。
 ぞぶっ。
 両脇腹に深々と刺さった。だが、男は意に介さず、
「俺の番だな」
 土色をした掌で、加藤の口と鼻を隙間なく塞いだ。
「もう離さん」
 まるで水に濡れた紙だ。ぴたりとくっついて離れない。たったこれだけの技(と呼べる
かは怪しいが)なのだが、威力は絶大だった。
(剥がれねェ……いや剥がせねェッ! 息が……息がッ!)

70 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/03(日) 22:18:53 ID:wfnPk3KB0
>>51より。
二十六日目突入です。

71 :作者の都合により名無しです:2008/02/04(月) 08:30:45 ID:hqGwSm390
>クロさん
シリアス部分は2回の更新で終わってしまいましたがw
まだまだ物語は続くようで安心しております
林田と神山の名コンビの活躍を毎度楽しみにしております

>サナダムシさん
敵がいよいよ神シリーズですか。
最終回に近づいてしまっているんだなあ、と実感します
でもやっぱりまだ列のが強いのかな?


72 :作者の都合により名無しです:2008/02/04(月) 16:11:24 ID:2SApwV8a0
サナダムシさん鬼更新モードだな
一時期消えたとは思えないほどだ。一気にやさぐれ終わらせる気かな

クロさん、長編を書き溜めって全部してたんですか?
ある程度書き溜め→書きながらってパターンだと思ってた

73 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:05:03 ID:hk29+rp10
第033話 「斜陽の刻 其の伍」

一瞬、場にいた全ての者の動きが硬直した。l
まず、L・X・E残党。
処理施設のタラップや水面に点在する彼らは、幹部たる逆向の負傷に
息を呑んだ。
いうまでもなくこの場で最も強いのは逆向だ。
だからこそ彼を旗印に寄宿舎襲撃をやろうとし、集結した。
だがその末に見た光景は彼の、偶然でない、力量的な必然による負傷。

──逆向が敵わぬのなら戦っても死ぬだけではないか?

動揺は緩やかに残党どもの中に広がりつつある。
一方の管制室の中でも沈黙する者がいた。
動揺ではなくむしろ歓喜を以て沈黙を選んだコトは、開きかけた口を両
手でマスクのように覆ったコトから見て明らかだ。
(ぬぅぅぅ! 声を上げて実況したいっ!! なんというジレンマ! 声に
乗せて表現すべき事象状態が眼前にありながら実現できないもどかし
さ!)
「試合最初のクリーンヒット」といういかにも実況映えしそうな出来事に
大声を呑みこんだだけ、というあたり何とも彼女らしい。
小札はとりあえず口に張り付く白紅葉を名前通りの零にして、ポケット
から十本一束のワラを引きずり出して口に放り込んだ。
しばし彼女の唇からは畳をそのままむしり取ったような繊維が何本も
突出し、そのままむぐむぐ上下に動きながら緩やかに呑みこまれてて
いく。
(ああ、ワラ束おいしゅうございます)
幼い双眸はきらきらと輝きを帯び、頬も唇も幸福に綻ぶ。
元より少女然としているがロバのホムンクルスなのだ。
ワラが好物であり、この場合は実況欲求を妨げるべく敢えて食べている。
総角が見れば微苦笑を洩らすだろう。

74 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:07:14 ID:hk29+rp10
(むぐむぐ。不肖の尾行が気付かれますれば、不肖たちブレミュの目
論見は破綻! ああっ、今は耐えるべき時でござ……げふ。う、ワラ
詰まりました。襲いくるはスパゲッティ一気食いのような感触! 放置
しますればしゃっくりは必定! これは苦しいーっ!!)
とんとんと薄い胸叩く小札がここにいる理由。
それは総角から秋水を捕縛するよう命ぜられているからだ。
故に秋水を尾行しここに来たから、露見はまずい。
そういう事実を口中のワラとひとからげに反芻し終えごきゅりと呑みこ
み、再びドアから半眼を覗かせる。
注視集めし場の中心へ。二人の、男へ。
逆向は負傷への生理的反応、秋水は連撃に対する息つぎに。
それぞれ動きが止まり──各々武器を振りかざしながら再突撃。
刃と刃が絡みあい、火花を散らした。
「……密告しにきた以上、ムーンフェイスはこの場にいない。違うか?」
寡黙に戦っていた秋水が初めて言葉を漏らした。
「だとしたらなんだ。いきがりやがってこのクズが!」
「残党を統率しているのはお前の筈。現に先ほども号令を下していた」
鋭く細り青白い光を放つ秋水の瞳に、逆向は期せずして冷汗を流した。
気迫にもだが、身体的にも圧されている。
じりじりと秋水の力になすすべなく後退しているのは、以前の対決と対
照的ではないか。
「統率者を斃せば残党は散る。散ればそれだけ早く掃討できる」
古来、眼前で指揮官を殺された団体ほど士気低い物はない。
「だからまずはお前からだ!」
両者の手元で力が爆ぜた。
同時に不気味なうねりが宙を舞う。
(野郎……ッ!)
不格好にのけ反りながら逆向は見た。
ライダーマンズライトハンド。小型のチェーンソー。彼の武装錬金。
それが手を離れ、敵の背後彼方へ飛んで行くのを。
鍔迫り合いを制したのは秋水。
どぶりと鈍い音を立て、チェーンソーが水に沈んだ。

75 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:10:33 ID:hk29+rp10
だが数ダースの残党どもは首魁の武器を遠巻きに見るだけで動かない。
何故なら彼らがライダーマンズライトハンドを拾えば、逆向へ届ける責務
が発生する。秋水に接近しなければならない。近づけば殺される。
(そういう危険を冒したとしても、逆向が勝つかどうか)
(勝ったとしても俺が死んでは意味がない)
(ならアイツに秋水が気を取られているうちに逃げた方が得だ)
逆向は見た。残党どもの目が決着を確信したのを。
いや、むしろ放棄というか。部下たちの瞳からは今夜の戦いへの勝利
努力がかき消え、逃げる算段を整えている光がある。
(所詮烏合か! クズどもめ!!)
歯噛みする逆向の鼻先に冷たい刃先が突き付けられた。
「もうこの場にお前の味方など一人としていない。もう諦めて投降しろ」
秋水にすら場の雰囲気は伝播している。
「俺もお前に構っている時間はない」
「フン。誰がテメェのようなクズに従うか。殺るなら殺れよ……!」
「そうか」
秋水が片手を横殴りに一閃した。逆胴だ。無手で喰らえば勝負はつく。
しかし秋水が俄かに姿勢を崩したのは、
「投石器の武装錬金! フレクスビリティーオズ!」
背後からいくつも突き刺さった礫(つぶて)のせいだった。
秋水は肩を見た。そこである必然はなかった。痛む場所ならどこでも良い。
ただ首を軽く捻じ曲げてすぐ見れる場所が肩だっただけである。
そこでは、成人男性の拳ほどのコンクリート片が落下を始めていた
鉄筋だろうか。塊からは赤くすすけた針金がにょきにょきと覗いていて
よくも刺さらなかったと感心すらした。
だが痛みに一拍遅れて背中に何箇所か異様な重さが発生した時、肩
の事象は非常な幸運と知り、ひとまず後ろへ跳躍。逆向から距離を取る。
学生服破り背中を刺す鉄筋付きのコンクリート片を除去するために。
幸い、脊髄や背骨には刺さっていない。とはいえ塊自体は当たってい
たらしくすぐに打撲の疼痛が襲ってきた。

76 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:14:28 ID:hk29+rp10
やがて鈍い痛みが杉去り、足元にいくつもの塊が赤い滴とともに落
ちた瞬間、聞きなれた声がした。
「へっ! 俺の助けを受けるとはらしくないな逆向よ! だがまぁ最後に
てめぇに貸し作れたのは、なかなかいい気分だぜ!」
(ホムンクルス佐藤──…)
ピアスまみれで血色悪いサメの顔した真赤なシャツの男。
かつての同僚が、自分に向って走ってくる。
手にはライダーマンズライトハンド。
首を捻じ曲げそれを見た瞬間、秋水は気色ばんだ。
(渡すつもりか! ならば)
すぅっと息を吸い、打撃に乱れた足を整える。釣鐘を描くような重量で。
そして踵を返すと、すでに佐藤は剣先の届く範囲にいた。
「ま、こうなるコトは分かっていたぜ」
瞬間、彼の足もとから異様な物体がしぶきとともに跳ねあがった。
英語ラテン語日本語の順で列挙するなれば、スリング、フンダ、投弾帯。
楕円形の柔らかな布の両端から縄が伸び、それが高さ五十センチメー
トルはあろうかという鉄パイプのような支柱に繋がっている。
投石器と銘打っているが、実際は戦国時代の投石器具・飄石(ふりず
んばい)のような形状だ。
それが跳ねあがるなりまたもコンクリート片を撃ち放つ。
が、すでに攻撃態勢に入っていた秋水だ。
それらのつぶてを両断しながら、佐藤を斬り捨てるコトは容易かった。
しかし、唖然とした。
「へ、一つ教えてやるぜ。俺の武装錬金は『投げる』コトに特化している」
サメ口を更に裂いて笑みを浮かべる佐藤の手に、
「この前は戦士とブレミュの連中を山に飛ばしたっけな。あん時は少々
巨大化させたぜ。何しろ発生点と大きさと数ぐらいは決めれるからな」
ない。
「へ、へへへへ。コンクリ片ぶつけたぐらいで死ぬてめぇじゃないからよ」
佐藤が抱えていたはずの物が、消失している。
秋水は眼を見開き、すばやく体の向きを転換する。
そこでは。

77 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:17:46 ID:hk29+rp10
「へ。やっぱ気づかれるわな。さすが秋水……」
おどろおどろしい殺気を撒き散らすチェーンソーが迫っていた。
(俺への攻撃は囮。本命は──…)
「もうテメェらクズは当てにしねェ……!」
虎の咆哮に似たブレスまみれの低音が場に響いたと見るや。
ダンプカーのタイヤほどの光輪が二つ、チェーンソーの刃先から放出。
片方は秋水が咄嗟に吸収したが、もう片方は──…
L・X・Eの残党どもへ飛んでゆく。
彼らは目を剥き、同時に逃走を選択したが……遅かった。
回転する光刃がぶんと加速するやいなや、手近な残党を薙ぎ払い、百
六十五分割した。
粛清の狂気は皮膚掻痒に似ている。
裁定者の不快拭うべき攻撃意思の発露がますます不快を呼び込み
ついには流血のぬかるみの中で権利者は何かが全滅するまで引っか
き傷をほじり続けるのだ。そうしてようやく全滅を見届ける頃には裁定
者に体力はなく、いずこからかの反撃か革命で命脈を断たるるのだ。
「役立たねぇなら俺の手で一匹残らず始末してやるッ!!」
逆向に闇が集約する。佇立する彼の全身はいまや墨色に塗りつぶさ
れ、異様な光を放つ右目だけが暗黒との差別をつけている。
深淵で烏の羽音が響いた。
逆向が左手を前へ突き出したと秋水が知ったのは、光る眼を背景に
上へ突き立つ親指と人差し指と中指を見た時だ。
「死ね」
指に力が籠り、曲がる。
すると輪は意志あるごとく他の残党に狙いを定め、飛翔し、ありとあら
ゆる部位の結合を乱雑に破壊してゆく。
秋水は背後で地獄の叫喚が割れ響くのをしばらく聞いた。
「な、なんとぉーっ!」
管制室の壁ががらりと崩れると、小札は死体降り注ぐ中声を漏らした。
事の成り行きを見守っていたら、残党たちが逃げ込んできた。
なぜこっちに来たかというと、地上への階段があるからだ。
もっとも登れず、途中で百六十五分割されたが。

78 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:24:22 ID:hk29+rp10
いうまでもなく管制室は余波でずたずたに寸断。
中にあった機械装置は配線や基盤がむき出しで、破砕された壁では
何箇所かちぎれたケーブルが線香花火のようなスパークを散らした。
それでも小札が無事なのは周囲とりまくバリアーのせいである。
「ふーっ。とっさにマシンガンシャッフルを使って正解でした……!」
何やら紙片らしい物体が無数にふわふわと浮かび、それらが桃色の
光線で繋がれ面を構成しているようだ。
「それで光輪を相殺したか。ブレミュのクズめ」
逆向の舌打ちを聞きつつ秋水、
(なぜ彼女がココに? いや、それより──…)
辺りを見回して気づいた。
「……だがテメェだけはひとまず残しておいてやる」
もはや残党の中で残ったのは、逆向と佐藤だけらしい。
あれほど充満していたホムンクルスたちが、物言わぬ破片となって
水面やタラップに散らばっている。
「へ、もうすぐ死ぬがな」
そして佐藤が水しぶきをあげながら水面に倒れた。
残ったのは、秋水と逆向。距離は二メートルもない。
当然ながらそれは戦闘の緊張に帰結し、管制室からこそこそ歩いてく
る小札の存在を両者の脳髄から除去していた。
空気が冷え、静寂が訪れた。
「何故、殺した」
予想外の惨状に、秋水の口からはひどく馬鹿げた質問が漏れた。
「不満漏らすなよクズが。手間ァ省かれた奴は礼ぬかして土下座する
のが慣わしだ」
逆向の表情からは怒りも焦りも霧消している。
ただひたすら暗い影が濃さを増し、眼鏡の奥で瞳がドロドロと怨嗟に濁っ
ている。
「何故、だと? 見繕ってやった連中が役立たないからに決まっている。
だがおかげで頭が冷えた」
逆向はごきごきと首を左右に振って鳴らしながら、武装錬金の刃先を
水中に沈めた。

79 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:30:03 ID:hk29+rp10
「ところでテメェ、ずいぶんと勝負を焦っているようだったな」
そして口の端が吊りあがり、世にも劣悪な笑いが浮かぶ。
「……だったらなんだ」
「いまさら隠そうと無意味なんだよ。ムーンフェイス経由で知っている」

彼はいった。開戦前、逆向をさんざん嘲弄した後に。

「むーん。これから斬り込みに来る双子の弟だけど、彼はこの襲撃の
せいでね、ホムンクルスのお嬢さんを説得する機会を失ってるんだ。
ずいぶん切羽詰ってるだろうね。そこをつつけば、多少は君に勝ち目
が出てくるよ。ちなみにそのお嬢さんの名前はだね──…」

「ヴィクトリア=パワードだったな」
水滴が一つ、天井から落ちてぴちゃりと鳴る。
それが水面に作る波紋が、心底にまで広がる思いを秋水はした。
「確かに俺達をさっさと倒して探しださなければマズいよなあ。もし人を
喰えばかばい立ては不可能。戦士に殺されるしかない」
(……挑発だ。乗るな)
「ふん。フザけやがって。元信奉者で学校の生徒を皆殺ししようと散々
目論んだクズが戦士になってホムンクルスを刈り、今度はホムンクルス
を助けようとしている」
秋水は息を吸う。何をいわれようと構わない。自分に言い聞かせる。
(今は逆向だけを見ろ。ヴィクトリアを救うにはそれしかない!)
罵声をあげかけた逆向目がけて逆胴を放つ。
それまでの勝負からすれば、決して悪手ではない。
しかし逆向は迫る刃を前に哄笑を上げた。
「ヒャーッハッハッハ!! クズがッ! かかったな!
邪魔は、意外な場所から上がった。
「”挑発だ、乗るな”とでも自制したかッ! したよなぁ!!」
秋水の右斜め後ろ。先ほど佐藤が倒れ伏した場所。
そこから水しぶきがあがる。
佐藤が生きていたのか?

80 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:30:57 ID:hk29+rp10
「奴は死んだ。だがあらかじめ仕込んでおいた。発動するように」
水中より現れたのは、鉄色の砂塵
秋水の記憶が危険信号を一気に呼び起こす。
以前、寄宿舎近くで逆向と戦った際、遭遇した『それ』に。
「自制しようがしまいが、てめぇの注意が内心にさえ向けば良かったッ!! 
佐藤が刃に変わるわずかな気配さえ悟られなければなあッ!!」
時は遅し。秋水はギラギラと光る金属片に上下左右を包囲されている。
「覚えているかブライシュティフト! 吸収不能の特性ッ!!」
ソードサムライXの刀身はすでに接触したらしく、細かな破片がぼろぼ
ろと崩れ落ちている。肉体に当たればあっというまに喰らいつくされる
だろう。
「血肉分解、百六十五億の激痛に咽び死ね!」
カズキ、ヴィクター、防人、そしてL・X・E残党。
戦った相手はいずれも力量の差こそあれ真っ向勝負をする者だった。
それゆえ秋水は、「ハメ型」の敵に対する耐性がない。
ゆえに危機を迎えている。
「終わりだ! クズが!」
秋水の周囲三百六十度より鈍色の粒子が殺到。
何かを引きちぎる凄まじい音を響かせた。

※以下あとがき
漫画喫茶よりこんにちは。
早急な更迭ないし解除人増員を望む冬の日であります。
逆向戦は次回決着です。彼好きな人いないでしょうが、自分は割に好きです。

>>19さん
秋水好きとしては「エースだ!」と太鼓判押したくあります。それはもうw 
しかしそれでも再殺部隊と戦ったら勝ち目なさそうなのが秋水クオリティ。
連中の武装錬金、クセあり過ぎ。犬飼ぐらいしか勝てそうなのがいない。

81 :永遠の扉:2008/02/04(月) 19:31:59 ID:hk29+rp10
>>20さん
自分としては「隠された能力に覚醒して勝つ!」より「周囲の協力と裏
付けのある機転で辛勝」が好みですので、秋水もそうしていきます。
そして一番大きな協力をまひろにさせたい。ヒロインは主人公の支えでなければ。

>>21さん
ノンノン。蝶・長編。もっと蝶を付けて!

ふら〜りさん(もうすぐ再殺編。9巻終盤までしばしのトーンダウンにお付き合いを)
おお、いわれてみれば戦士たちってそうだ。武装錬金使える以外は
「ただ鍛えた常人」。だから地味なんだなぁ原作w でもだからこそ刀一
本に命運と矜持を掛けて化物に挑む秋水が映える。ヒーローになれる!

>悪魔の詩
なんと健気なんだレッド。もし彼が主役なら根岸が原作よろしくおかし
な手段でクラウザーの声援送って、それで勝利する所ですよコレは。
しかしボクシングの描写がすごい。「こういう動きも文字にできるのか」、と

さいさん
>攻撃面はすべて身体能力を向上させる事に血道を上げ続けた防人の
>面目躍如といったところか。
「攻撃力のない武装錬金」という欠点が今回のように有利を運んでくる
展開、もう大好きですw 物事すべて使い方しだいというか。そして照星
さん、何やら孔明みたいな事をw これで千歳が決め手になったら彼女好きとしては嬉しい。

82 :作者の都合により名無しです:2008/02/04(月) 19:36:03 ID:sByySI1T0
また長いっすねw
漫画喫茶からなら仕方ないか。
秋水の戦いは刀の切りあいなのに微細に書いてるな。
もう一度じっくり読みます

83 :七クロ:40:2008/02/04(月) 23:47:03 ID:4egEjY1g0
>>63より

「ク、クソ、隊長達がやられちまったぞ!」
「ど、どうするよ?」
「どうするって言われても……」
「お、お前ら、あ、慌てるんじゃねえ!数的にはまだこちらが優位なのを忘れるな!」
「そうだ、敵はまだたったの五人じゃねえか。ビビることはねえ!」
「……いや、五人じゃないぜ。六人だ」
「何だと!?……ゴフッ」
「グフッ」「ゲフッ」「ガフッ」

「やれやれ、と……あれ、北斗達も来てたのか。やっぱ皆、同じような事、
考えてんだな」
「前田君!」
「前田じゃねえか!」
「おいおい、そんなに吃驚するなよ。助けに来るのはダチとして当然だ。
照れくせえぜ」
「いたの?」
「いたのか?」
「……相変わらずの扱いだな。お前らさ、それって俺用の挨拶か何かなのか?」
「凄い……砂漠で気付かれずに敵の背後まで忍び寄るなんて……この人、まるで
忍者ね」
「いや、別に隠れていたわけじゃないんだが……」
「フフフ、流石、前田君。伊達に忍者の末裔をやっていないね」
「やっぱり忍者だったの!」
「はい、彼は日ごろから忍としての鍛錬を惜しまず、影の薄さでは我が校で随一。
日頃、教室で彼の存在を気にするものが一人もいないほどです」
「……神山、変な設定を作り上げて楽しむのは止めてくれないか」
「ほら、見て下さい。ツッコんでいるそばから、もう存在が希薄に……」
「なるわけねえだろが!いるよ、ここに!」
「前田、天国から俺達を見守っていてくれよ……」
「影が薄いって、勢い余って死んでんじゃねえか!最早、忍者、関係ないだろ!」

84 :七クロ:41:2008/02/04(月) 23:52:44 ID:4egEjY1g0
「く、くそ、こいつら次から次へと……」
「わあ、助けてくれー!!」
「またか!今度は一体、何だ!」
「あ、怪しい、とにかく怪しい奴が……!!」
「怪しい奴!?」
「わあ、こっちに来た!」
「て、手を上げろ!」
「…………」
「あれ、言う通りに手を上げたぞ?見かけによらず、素直な奴だな」
「こいつも奴らの仲間なのか?」
「……いや、とても日本人には見えんが。というより、何処の国の人にも見えん」
「おい、そこの不逞外国人。なんか喋ってみろ」
「…………」
「わあ、離せこいつ!」
「と、突然暴れ出したぞ!助けてくれー!」

「……どうやらフレディーも来ているみたいだね」
「なんか大分ご立腹の様子だが」
「うむ、よくは分からんが、奴なりに傷ついたのだろう」
「気にしていたのか……しかし、これで皆揃ったのかな?」

85 :七クロ:42:2008/02/04(月) 23:54:14 ID:4egEjY1g0
ピピッガガッ

「!?」
「俺を忘れてもらっちゃ…ガガ…困るぜ」
「メ、メカ沢!」
「君まで来てくれたのか!しかし、大丈夫?調子が悪かったようだけど」
「ああ、義を見てせざるは勇なきなり…ガガと言うじゃジャねえか。
ちょっと調子が悪いからといって…ピガ、寝込んでばかりも…ピガガいられねえぜ」
「平気か?まだ大分悪そうに見えるぞ」
「へ、心配するな。ただ、ちょっと咳がな……ピガピガ」
「……少しも咳に聞こえないんだが、無理はするなよ」
「おう、面目ねえな。どうやら性質の悪い風邪にかかっちまったみたいだ。
そう言えば、細菌性の風邪は長引くらしいんだけど、ひょっとしてそれなのかな?」
「いや、絶対、ウイルスでしょ。君の場合それ以外はあり得ないよ」
「おお、神山、詳しいな。だったら、一安心……ガピーーーー」
「あ、システムがダウンした」
「何しに来たんだこいつ」
「さあ?」
「ああ、もう仕方が無えな。直してやるとするか……オラ!」
「あ、林田、蹴っちゃ駄目だ!!」
「え?」


86 :七クロ:43:2008/02/04(月) 23:56:41 ID:4egEjY1g0
ひゅるるるる……どっかーん!!

「ウギャー!!」

「ああ、だから止めろといったのに……」
「な、なんだこいつ、突然ミサイル発射したぞ」
「いやな、さっきも直そうとしたら今みたいにミサイルを発射したんだよ」
「……さっきの爆発はそれが原因だったのか」
「あのさ、君達、蹴りを入れる前に他に何かなかったの?」
「家の冷蔵庫はそれで直ったぞ……しかし、こいつ、本当に一体何なんだ?
コンセプトがさっぱり掴めん」
「そんなの、知らないよ。でも、今のミサイルで敵は全滅したみたいだね。
凄まじい破壊力だ」
「……う〜む、よくぞ今の今までアメリカ軍に発見されなかったものだ」
「まさか、それが目的でクロマティー高校に紛れ込んでいたんじゃないよな?」
「その件についてはあまり深く考え無い方が……。まあ、とにかくこれで仲間が
揃ったってことだよ。大量破壊兵器なクラスメートも加わったことだし、なんとか
希望は見えてきたかな」
「おう!!それじゃあ、早速、敵の本拠地に乗り込むとしようぜ!」
「先手必勝ってやつだな。へへへ、この面子ならどんなのが相手でも
鼻クソ混じりでぶっ潰せるぜ!」
「林田君、それ言うなら『鼻唄』でしょ。変なもの混ぜないでよ……おっと、
でも、その前に。ねえ、君」
「え、何、私?」
「うん。君にちょっと頼みたい事があるんだ」
「それはいいけど……ただ、私だけ蚊帳の外ってのは止めてよね。そんなこと
言ったら、股間に凄いものを叩き込むわよ」
「……よく分からないけど、そんな物騒なこと止めようよ」


87 :クロ:2008/02/05(火) 00:01:27 ID:4/3qiMRr0
投下終了です。切りが悪いんで、少し追加するかも。

>>65
メカ沢って義侠心あるから、サムライは確かに似合いそうです。
語尾に「〜ナリ」が付く某キャラと被っちゃいそうですが。
洗面器とか凄く適当なもので作ってある辺りも似てますw

>>サナダムシさん
相手が死神の使いだろうが、やっぱ殴るんですねw
水木しげるの漫画に「万物は食える」という言葉が出てきますが、
この加藤にとって万物とは「殴れるもの」っぽいです。

>>71
ありがとうございます。神山と林田は両方ともツッコミ、ボケが
出来るんでダラダラ書けていいです。話の進展が全くないので
困るんですけど。勝手に「馬鹿の永久機関」と名づけています。

>>72
一応、全部書き終わっているんですが、読み返すと変なところが
出てくるんで、投稿はこの位のペースになっちゃいますね。
書きながら投稿している人はホント凄いと思います。

88 :七クロ:44:2008/02/05(火) 01:01:36 ID:4/3qiMRr0
「で、頼みごとっていうのは?」
「他でもない。僕らの主君になってくれないだろうか?」
「え、主君!?」
「うん」
「『うん』って、そ、そんな気軽に言わないでよ」
「だって、君しか適役がいないもの」
「まさか!主君なんて大役、私に務まるわけがないじゃない。
股間に拳を叩き込むだけしか出来ないただの女の子に」
「いや、ただの女の子はそんなことしないと思うのだけど……」
「それに私は帯を取って女子をクルクルと回したりなんてしたくはないわ。
ましてや、敵方の頭蓋骨を杯にお酒なんて……駄目、あまりにもハードルが
高すぎる!」
「あのね、無駄に難易度上げないで。誰もそんなこと望んじゃいないんだから。
君にはいわゆるお殿様をやってもらえればそれでいいんだよ」
「どホモ様?それこそ無理よ。小姓相手のホモを女の子の私がどう営めと?
どホモな上に様まで付いてるってどんだけよ!」
「君の頭の方こそ、どんだけだよ。まあ、あながち間違っている訳でもないんだけど、
そういうのは殿様の趣味でやっているんであって、別に義務じゃないから」
「あ、そうなの?」
「……心なしか、がっかりしてない?」

89 :七クロ:45:2008/02/05(火) 01:12:28 ID:4/3qiMRr0
「う、ううん。しかし、私に主君なんて出来るのかしら?」
「問題無い。お前が今までとってきた行動は俺から見ても主君にふさわしいもの
だったぞ」
「そ、そんな、私はただオアシスを守りたいだけで……」
「その気持ちこそが大事なんだ。主君、すなわちキング・オブ・サムライの魂とは
そういうものさ」
「お兄ちゃん……」
「まあ、無理にとは言わんが、俺らの願いを聞いてくれねえかな?サムライなのに
仕える相手がいないんじゃ格好つかねえよ」
「……うん、分かった。こんな私だけど、皆がそう言うなら主君をやらせてもらうわ!」
「そう、良かった。じゃあ、早速で悪いんだけど、初仕事をしてもらおうかな」
「初仕事?」
「簡単だよ、君の一番強い気持ちを言ってもらうだけでいいんだ。僕らがそれを
全力で叶えるから」
「一番…強い…気持ち・・…」
「ほら、遠慮するなよ」
「グスン……ありがとう。私、お兄ちゃん達に会えて本当に良かった……」
「さあ、お殿様が泣いてばかりいちゃ始まらないぜ」
「そうだよ。我ら七人のサムライにどうかご命令を!」
「……皆、お願い。オアシスを……私達のオアシスを守って!!」

「御意!!」

90 :クロ:2008/02/05(火) 01:13:37 ID:4/3qiMRr0
追加終了です。

91 :作者の都合により名無しです:2008/02/05(火) 08:31:48 ID:rdLCmyZe0
>永遠の扉
確かに秋水はまっすぐ戦うタイプだからハメ系に弱いだろうなあ
冷静で頭がよさそうに見えて、バ・・いや直情径行だし。

>クロ
またノリがシュールでドタバタのクロ高校らしくなってきましたな
原作ではクロ高に女の子との絡みってあったっけ?

92 :悪魔の歌:2008/02/05(火) 15:50:52 ID:6x+1I6eU0
>>25
一歩の試合当日、後楽園ホールの前。
ハラハラしながらやってきた根岸は、そこに広がる光景のあまりにも予想通りっぷりに、
泣き笑いそうになった。まだまだ試合開始には時間があるというのに、
駆けつけた警備員たちとDMC信者軍団の言い争いは盛り上がりまくってて。
「だから、解散しろと言ってるだろ! 迷惑だ!」
「うるせえ! 中でやったらそう言われるだろうと思って、仕方なく会場前でやってる
俺たちの良識がわからねえか!」
「自覚あるんなら最初からやるんじゃないっ!」
「ゴートゥ幕之内! ゴートゥ幕之内!」
「それをやめろと言ってるんだ! さっさと解散しろっ!」
悪魔的に不気味な厚化粧、悪魔的なおどろおどろしい衣装、そして悪魔的な歌(DMCの曲)
をがなり立てている悪魔的集団。ざっと見て二十人は越えている彼ら・彼女らは、周囲から
奇異の視線、ではなく明らかに恐怖の視線で見られている。
これでは、試合を見に来たものの彼らに恐れをなして引き返してしまう人もいるだろう。いや、
既にそういう人がいたのかもしれない。
『やっぱり、僕がクラウザーになって説得するしかないか……』
根岸はこそこそと場から離れて、植え込みの陰で着替えを始めた。毎回このパターンで
結局事態を悪化させてしまってる気もするが、それでも何としても、何とかせねばならない。
一歩のファン、一歩の戦う姿を見て力を貰っているという人たちのためにも。
衣装を着て、鎧を纏い、ヅラを被り、メイクを施して、
『よしっ、いくぞ!』
クラウザーへの変身完了。根岸は植え込みから飛び出して、
「ああああぁぁぁぁっっ!?」
その時、見た。DMC信者たちの向こう側から歩いてくる二人を。

93 :悪魔の歌:2008/02/05(火) 15:51:47 ID:6x+1I6eU0
「ごめんなさい幕之内さん。この前のことでその、ちょっと驚いてしまって」
「いえいえ。あれじゃ怖いイメージつくのも当然ですし。でもびっくりしたなぁ、クミさんが
観に来てくれたなんて」
「急に予定が空いてしまったもので。迷惑じゃなかったですか?」
「とんでもない! これで気合が入りますよ。今日はいつもより一段と、頑張るぞっ!」
「ふふっ。……わっ、何あれ?」
「どうしたんです?」
「あそこにほら、何だかヘンな人たちが。それにその向こう、ヘンの大将みたいな人が」
「あ。あれはDMCのクラウザーって人ですよ。ボク、雑誌で調べたから知ってます」
「調べた? それで、あの人は何なんです?」
「まあ、確かにあの人たちの大将なんですけど……丁度良かった。ボク、あの人に
言わなきゃいけないことがあったんです」
「え、ちょっと、幕之内さん!? あの、待って下さい、あんな人たちの群れの中に入るの、
危ないですよっ」
一歩は久美の制止も聞かず、ずんずん歩いていく。DMC信者の中へ。その向こう側に
いるクラウザー=根岸のもとへ。
すると信者たちが、
「あっ! おいみんな見ろ、幕之内だ!」
「うわああああ! こっちにはクラウザーさんもおられるぞ!」
「クラウザーさん、幕之内が世界チャンプになるの待ちきれなくなったのか? ってことは、
この場で幕之内の公開処刑が見られるぞ! あ、そこ! 警備員どもを抑えてろ!」
「みんな道を開けろ! クラウザーさんが来られるぞ!」
信者たちが警備員を押さえつけ、左右に割れて道を作る。歩いてくる一歩と
立ち尽つくす根岸(クラウザー)が、障害なく向かい合った。
こうなる前に事態を収拾するつもりだった根岸は、完全にパニックになってしまって
身動きできないでいる。
『ど、ど、ど、ど、どうすれば……』


94 :悪魔の歌:2008/02/05(火) 15:53:12 ID:6x+1I6eU0
「おお、クラウザーさん武者震いしておられるぞ!」
「幕之内を煮て食うか焼いて食うか蒸して食うか、考えるのが楽しくて仕方ないんだ!」
「おい幕之内! 家族に言い残すことがあるなら今の内だぞ!」
どんどん上がっていく信者たちのボルテージ。その中を一歩は歩いていく。
やがて、一歩はたどり着いた。根岸の眼前に。
「クラウザーさん、ですね」
「あ、ああ……」
平静を装うものの、根岸の頭の中はレッドと一歩のスパーリングを思い出して沸騰していた。
もし、この場で一歩と戦うなんてことになったら、

「本当に強かったよ、あいつは。正直、ルール無用のケンカなら確実に勝てるとは言いきれ
ねぇ。マジで素手で殴ったら、充分に人を殺せるレベルだと思う。そして多分、イザとなりゃ
それができるだけの精神力もある」

こないだ、さんざんクラウザーのことを大嫌いって罵ってたし、今は仲直りしたみたいだけど
彼女と一時気まずくなったと言ってたし、ケンカを売られる条件は充分整い過ぎてるわけで。
『ううううぅぅ、家族に言い残したいことがあるのは僕の方だよっっ』
絶体絶命な根岸に、一歩が穏やかな表情で言った。
「ボク、貴方に謝らなきゃいけません」
「………………え? あ、謝る?」
一歩は頷いて、
「先日、ボクのことを随分と褒めて下さったそうですね。世界チャンピオンになれるとか、
人に力を与える力があるとか」
「あ、ああ。言ったが」
困惑する根岸に向かって、一歩は頭を下げた。
「すみませんでした。ボク、そうまで言ってくださったあなたのことを侮辱して
しまったんです。先日、ジムに来られたあなたのファンに向かって」
「え、あの、レッド君のこと……」
「! 知ってるんですか? でもあの時、あの場にいたのは」

95 :悪魔の歌:2008/02/05(火) 15:53:41 ID:6x+1I6eU0
根岸は慌てて、
「と、当然のことだ! オレは魔王、地上で起こる全ての事象を常時把握している!」
信者たちから「うおぉ〜流石だぜクラウザーさん!」と歓声が巻き起こる。もちろん、一番
その声を張り上げているのは、信者たちの中に紛れているレッド本人だ。
一歩もちょっと驚きながら、言葉を続けた。
「それでボク、その人とスパーリングをしたんですけど、その時その人、凄く強かったんです。
それも、単純にパンチ力があるとか技術レベルが高いとかじゃなくて。誰かに似てる、
どこかで体験したことがある強さでした。で、少し後になってから思い出したんです。
ボクにとって永遠の目標の一人、元日本チャンピオンの伊達さんの強さだって」
「というと……伊達、英二?」
「はい。これはボクの友人に教えて貰った言葉ですが、『デターミネーション』。断固たる決意
って意味で、強い決意をもってダメージを抑え、肉体の耐久力を超えて倒れないことなんです。
レッドさんが見せてくれたのは、正にそれでした」
根岸とレッドが、え? という顔で一歩を見た。
いつの間にか他の信者たちもみんな、静まり返って一歩の話を聞いている。
「レッドさんを支えたのはDMC、クラウザーさんに対する想いだったんです。クラウザーさん
に与えて貰ったものが、レッドさんの強さになっていた。そう気付いた時……ボクはちょっと
憧れました。クラウザーさん、あなたに」
「憧れ? ぼ、僕、いや、このオレに、この悪魔にか?」
「はい」
一歩は微笑んで頷く。
「ボクも昔はいじめられっ子でしたけど、鷹村さんを筆頭にいろんなボクサーに憧れて
ボクシングを始めて、宮田君や伊達さんに出会えて、ここまで来れました。だからボクも、
ボク自身がそういう存在になれたらいいなぁって思ってるんです」
「そ、それは、もういるだろう。お前に憧れてボクシング始めた奴とか」
「ありがとうございます。でもクラウザーさん、あなたに憧れることであそこまでの強さを
発揮したレッドさんを見て、思い知りました。ボクの拳は、あなたの歌には及ばないと。
見る人、聴く人に力を与える力、ボクはまだまだ弱いなって」
「……」


96 :悪魔の歌:2008/02/05(火) 15:54:27 ID:6x+1I6eU0
「前はあなたのこと、DMCのことを毛嫌いしてましたけど、今度CDを買ってちゃんと
聴いてみますね。レッドさんをあそこまで強くしたあなたのことを、もっと知りたいので」
「……そ……そうか」
「はい。それじゃ、これから試合なので」
一歩は根岸に一礼し、久美と共にホールへ向かった。
信者たちは一歩を止めることもせず、騒ぎもせず、ただ呆然と見送っている。
そして根岸は。
『憧れ……あの幕之内君が、ボクに……いや違う、DMCのクラウザーに……
聴く人に力を与える……って……』
震える根岸の心の中は、もしここに誰もいなかったら声を上げて泣き出しそうなぐらいで。
いや、もう誰が見ていても聞いていても構わない、と泣き出しかけたが、
「クラウザーさん……」
信者たちの声で、はっと我に返った。
注目している信者たちに表情を見られぬよう、根岸は顔を伏せて言った。
「き……聞いたか、皆の者ども……どうやらオレは見込み違いをしていたようだ……あの男、
マクノウチの拳は眩し過ぎる……輝きを纏い、人を活かす拳だ……暗黒に生き、生贄を屠る
我が拳とは相容れぬ……オレのような闇の住人とは根本的に異なる存在なのだ、
あの男は……」
根岸は信者たちに背を向ける。
「もう、奴と戦う気は失せた。オレは魔界に帰るぞ。さらばだっ!」
「あ、クラウザーさんっ!」
根岸はその場から逃走、信者たちはそれを追ったが見失ってしまい、結局自然解散となった。

この日、一歩は久美の声援を受けて、いつにも増して豪快に快勝。そして会場の片隅には、
長い黒髪を肩に垂らして、額に「殺」の字を書いた大男がいたという。
『なるほどな。こうやってリングの外から観るとよく解るぜ、人を活かす拳ってやつが。
ま、とりあえず幕之内よ、お前には義務があるんだからな。せいぜい頑張ってくれ』
男は、地割れのような声援を浴びる一歩に向かって軽く手を振って、
『クラウザーさんの見込みが間違いでなかったという証明……お前が
人間界最強のボクサーに、世界チャンピオンになれるってな』
一歩のこれからの勝利を祈りながら、会場を出て行った。

97 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/02/05(火) 15:58:35 ID:6x+1I6eU0
次回エピローグ。一歩がボクサーになった経緯を考えれば、彼は自分のファンや後輩に対して、
こういう思いを抱いてるのではと思う次第。ロクに描かれてませんけど、ジムには板垣の他にも
一歩の後輩はいるでしょうし、その中にはゲロ道みたいなのもいるんだろうなと。
……まあ、それにしても甘々過ぎるというのは、そこはその、私の芸風の狭さ故で。ご堪忍を。

>>クロさん
「BOY」の第一話を彷彿とさせるサムライ理論、なかなかにシリアスなピンチだと思ってたら、
いつの間にやら元通りの怒涛なノリで逆転完了。よりにもよって囚われ救われのヒロインが真の
サムライ、で主君ってのがまた。ま、誰一人としてまともな知識を有してないからこれで良いかも。

>>ハロイさん(SS一つとっても幅広くこなしておられるのに、作詞に絵まで……驚嘆且つ感服)
>念の為に言っておきますが、冗談です
むう。見ようによっては、二人ではなく三人での、口では何言ってても結構甘い雰囲気とも
取れるんですが……やはり神の視点で心底まで見抜ける立場からすると、そうではないなと。
メタ云々は確かに複雑な話ですが、解らなくもなく。何気に神に近いことができそうな感じが。

>>サナダムシさん
いや、あの、「どんなにあがいても大自然にだけは勝てない」って、星の数ほどの作品で出た
最終結論ではないですかっ? 三号生筆頭も悪夢の殺人鬼も、雷でトドメ刺されてたのに。
本作の加藤はもはや、神武館館長の「あの瞬間、神に並んだ」を越えてしまってるような。

>>さいさん
>蹴られた天井は粉々に砕け散り、その破片は間欠泉のように上階へ押し上げられる。
ここ! これ! 「萌え」ではなく「燃え」でツボに入った! 背景描写なのに、この時カメラは
防人もアンデルセンも映してないのに、エラくカッコいい! 火渡の気持ち、それを千歳が理解
しきれないこと、どちらもよく解る……登場する四人をフルに使って、思いっっきり濃密でした!

>>スターダストさん(度重なる規制の辛さ、お察しします……)
「てめぇの仲間まで殺しやがった!」展開も一つの王道ですが、質・量共にハデにエグい。漫画
やアニメだったら作画する人が腱鞘炎にでもなりそうな。優男な秋水が威をもって圧する辺り、
剣心を彷彿と。そんな迫力バトルの一方、ワラ束持って小札に食べさせてあげたいなぁと萌える。

98 :作者の都合により名無しです:2008/02/05(火) 16:19:23 ID:L3TX9gXx0
永遠の扉を氏のサイトで発見してバキスレを知ったのが8ヶ月くらい前だけど
まさかその時点ではそこからここまで続くとは思わなかったw

俺がこのスレに着てから完結しそうな新人さんってクロさんが始めてだなー
ぜひラストまで頑張ってほしいものだ

ふらーりさんいつもお疲れ様です
感想ともども作品も楽しみにしてます。
次回で終わりですか。今度過去作も読んで見ます


99 :作者の都合により名無しです:2008/02/05(火) 19:41:32 ID:RdBPCn3I0
ふらーりさんお疲れ様です
ちょっとふらーりさんらしくない始まりでしたが
やっぱりふらーりさんの作品になりましたね
ラスト期待してます

100 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/06(水) 00:10:47 ID:tiMgZOkv0

そこは墓場だった。
幾人もの人間達が命を散らせ、二匹の化物(フリークス)が灰と消えた、不吉な場所。
そこは塵芥と化したあらゆる“命”が彷徨う、忌まわしの合祀墓なのだ。
肉と髪の毛が焼ける火葬場の悪臭が充満し、千切れ焦げた無数の肉塊がコンクリートの
瓦礫の中に散らばっている。
New Real IRA本拠、“ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビル”一階ロビー。
防人衛の熱く冷たい闘いの幕が切って落とされた、この場所。
決斗戦斗のすべては、この場所に帰ってきた。結末を決める者達は、この場所に帰ってきた。

「シィイイイイイイイイイイ!!」

「オオオオオオオオオオオオ!!」

天井に大穴を開けた広いロビー。
そこで二匹の獣がぶつかり合う。
爪牙は拳と銃剣。
唸っては爪を立て、吼えては喰らいつく。
だが意外な事に、獅子と虎の如き両者相譲らぬ互角の戦いとなってはいない。
防人はアンデルセンの銃剣をすべて回避しているのだ。
握る銃剣の斬撃も、複数の銃剣の投擲も。
更に攻撃を避けた後、的確にアンデルセンの顔面に神速のカウンターを叩き込む。
“人間離れ”などという陳腐な言葉はとても使えない、防人の速さと格闘技術。
武装錬金を失っているからこそ、ホムンクルスではない人間が相手だからこその、この状況だ。
一方、打たれても打たれても銃剣を振るい続けるアンデルセン。
呼吸は乱れ始め、矢継早に繰り出される拳の前に徐々に再生が遅れていく。
彼は新鮮な驚きを歓喜と共に躊躇いも無く受け止めていた。
『これが錬金の戦士! これが錬金の戦士!』と。

防人はアンデルセンとの間合いを充分に開け、足を止めた。

101 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/06(水) 00:11:35 ID:tiMgZOkv0
「どうした……。そんなものか、第13課(イスカリオテ)。そんなものか、聖堂騎士(パラディン)」
防人を駆り立てる。胸を渦巻くドス黒さが、己の冷たい心が。
不条理。死。無情無慈悲。裏切り。理不尽。虚無。
死んでいく。皆、死んでいく。
敵、味方、敵の敵。
俺は今、何をしている? この時、この場で拳を振るう俺は?
任務も果たせず、仇も討てず。

「そんなものかァ!! アンデルセェン!!」

ベッ、と床に血を吐き捨て、アンデルセンは防人に問い掛けた。無論、笑いは崩さずに。
「貴様、名は何と言う……?」
「キャプテン・ブラボー」
即座に返す防人。
このごく短い問答は、アンデルセンにある可笑しみを覚えさせた。
“名前なんぞを知ったところでどうなる”
ほんの刹那、闘争の場という意識を忘れてしまった。
「キャプテン・ブラボー、か。フザけた名前だな……」
不意にアンデルセンが構えを変えた。
順手持ちだった両の銃剣は逆手持ちとなり、幾分脇が締められている。
「性に合わんがやむを得ぬか……」

戦闘再開の空気に防人は敏感に反応した。
アンデルセンの巨躯が全体的に若干縮まった印象を受ける構え。
明らかにこれまでの、攻撃重視の豪放な構えとは違う。
しかし、今の防人にはそんなものは関係無い。
(奴の攻撃はすべて当てさせない。俺の攻撃はすべて当てる)
表在意識ではたったそれだけの事しか考えていなかった。
普段の防人が現在の防人を見たならば、このあまりの粗雑さを嘆くだろう。

102 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/06(水) 00:13:51 ID:tiMgZOkv0
 
アンデルセンは動かない。散々にカウンターを狙われては動けないのかもしれないが。
防人は苛立ちを募らせた。
「来ないのならこっちから行くぞ……!」
何をすればいいのか、防人は充分わかっている。
相手が動かないのなら先の先を取るだけ。
上階で喰らわせた第一撃(ファーストインパクト)の時のように。
一直線に飛び込み、拳を顔面に捻じ込み、銃剣の届かない間合いまで離れる。
アンデルセンの銃剣が振るわれるのは、それより遥かに後。
まるで、それは映画の脚本だ。
何もかもが決まりきっており、その通りに事が進む。
そして、終劇は倒れ伏す一人の神父。

防人は声も立てずに地を蹴った。
アンデルセンまでの最短距離を一直線に突っ込み、左のストレートを放つ。
そして確信のそのままに、顔面の肉が潰れ、骨が割れる感触が防人の拳に伝わってきた。

だが――

それと同時に手首に正体不明の熱さが走る。
「!?」
異変に気づいた時には、既に防人はアンデルセンから数mの距離を取っていた。
灼熱感の原因を確かめようと、己の手首を確かめる。
防人の眼に飛び込んできたものは、普段では決して見る事の出来ない光景。
ごく薄い脂肪。赤い筋肉。想像以上に太めな動脈や神経。
ただし、見えたのはほんの一瞬。
噴き出した血飛沫によって、それらはすぐに隠されてしまった。
防人の逞しさ溢れる手首は、アンデルセンの銃剣によって全体の半分近くも斬り裂かれていたのだ。


103 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/06(水) 00:14:52 ID:tiMgZOkv0
 
「惜しいな。あともう爪先半分、踏み込んでくれれば――」
アンデルセンの銃剣には一滴の血も付いていなければ、脂肪の曇りも見えない。
「――その小癪な拳を斬り落とせたものを」

「くっ……!」
小指と薬指がまったく動かない。他の三指は辛うじて伸ばせるが、握る事も横に広げる事も出来ない。
拳を握れぬ左手。それは闘いにおける機能のほとんどを失ってしまった事を意味する。
いや、それ以上に出血量が問題である。
動脈も静脈も微細な血管も、前腕を走る血管の半数が切断されている。
すぐに右手を左脇に挟み、強く締めつけるも、その程度で出血が止まる訳も無い。
血液は後から後から止めど無く噴き出してくる。

アンデルセンは若干失望の色を漂わせる。“やはり、この程度のものか”と言わんばかりに。
「“ただ”速いだけの者が、“ただ”強いだけの者が、この私を倒せるとでも思っているのか……?
そんな連中とは飽きる程……いや、腐る程闘ってきたぞ。
貴様のような小僧とは、積み上げたものも練り上げたものも違うのだ」
確かにスピードも力強さも防人が上だったのかもしれない。いや、“かも”ではなく事実だろう。
だが、防人はその身体機能、身体能力をそのままの用途でしか使用しなかった。
“最速”と“最大限”にこだわり過ぎ、動作も戦術も単調極まりないものになっていた。
対するアンデルセンの取った行動は実に精妙なものだった。
攻撃も防御も考えず、ただ“反撃”のみに集中した。
銃剣の上を拳が通過する一瞬。
その一瞬を狙い、僅かに銃剣を横に滑らせただけ。たったそれだけだ。
最小の動作を転じて、最大の反撃と成した。
それこそは、アンデルセンが数十年の闘いと狩りの歴史で培った、巧緻行き渡る“技術”。
生まれて二十年、戦闘に身を投じて数年の防人が持ち得る筈の無い“老獪さ”なのだ。

「その出血量ならば、せいぜい五分足らずといったところか。ククク……」
アンデルセンは更に構えを変えた。
今度は、右の銃剣を順手持ちにして防人の方に突き出し、左の銃剣は顔の前で逆手持ちの
ままにしている。

104 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/06(水) 00:16:26 ID:tiMgZOkv0
攻防一体の構えといったところか。
「……」
防人は動けない。左手から流れるは血液。背中を流れるは汗。
失われていくものの代わりに、焦燥と恐怖が徐々に防人を侵食しつつある。
今ではアンデルセンの巨躯が、その大きさを増して部屋中を占めているかのような錯覚に
陥りつつある。
銃剣を煌かせながら、アンデルセンが告げた。

「さあ、死の宣告(カウントダウン)だァ……」








どもども、さいです。
防人と神父の闘いに合わせて投稿もスピーディーに。
たぶん、このLAST EPISODEもあと二回くらいですかね。
あと誰もシエル先輩に触れてくれないのでかわいそうです。私が。
なので明日はカレーを作るです。
では、御然らば。

105 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 04:40:59 ID:Xe/sRMl90
 全死と嬢瑠璃が桂木弥子との『デート』へと向かったのを見送った後、
俺は遅ればせながら学生の本分を全うするべく教室に赴いて授業を受け、
図書館に移動して提出課題についての調べ物を行い、夕暮れ間近になるころ大学を出た。
 習慣として定期的に人を殺して回っている俺だが、その行為は俺の日常に於いてさほど大きなウェイトを占めてはいない。
 基本的に俺は真面目な学生なのだ。
 朝起きては学校に通い、予定された通りの時間割をこなし、空いた時間はたいてい愚にもつかないことをぼけっと考えて過ごしている。
 それが俺のライフスタイルであり、全死やその関係者に引っ掻き回されない限りは、そのルーチンワークを遵守している。
 我ながら無味乾燥で平坦で退屈な人生だと思うが──その緩慢な時間の経過の中にこそ、俺にとっての幸福が存在する。
 全死に振り回されたり、嬢瑠璃に冷たくあしらわれたり、白樺と寝たりするのも、それがレギュラーだからこそ受け入れいていることだ。
 だから、駅前で都草りな子とばったり出くわした時も、その素晴らしきレギュラーを尊重してコーヒーを奢ってやることにした。
「最近、先輩学校に来ないんだけど」
 りな子は嬢瑠璃の一つ下の後輩で、つまり中学一年生である。
 個人的な印象としては非常に子供っぽい子(これはトートロジーなのだろうか)で、ある意味で非常にアンバランスな少女だった。
 この場合の『ある意味』とは一目瞭然だった。
「ねえ、聞いてるの?」
「聞いてるさ。嬢瑠璃が不登校だって話だろ?」
「ちょ、ちょっと! なんで先輩のこと呼び捨てにしてるのよ!」
「いちいち感嘆符をつけて話すなよ。彼女は俺よりも年下なんだ。呼び捨てにするのが礼儀ってものだろ」
「下の名前で呼ばなくてもいいじゃない!」
 ばん、とテーブルを叩いて立ち上がるりな子のオーヴァリアクションに合わせて、彼女の歳に似合わぬ豊胸が大きく上下に揺れた。
「声が大きい。馬鹿」
「うるさい!」
「だから、うるさいのはそっちだろ……」
 ちなみに全死は、りな子のような肉感的な体躯の持ち主は嫌いだ。
 全死の好みは嬢瑠璃のような細い子であり、ゆえにりな子は俺のものらしい。以前、全死が彼女を俺に譲ると言ってきた。
 りな子は自由意思を持った人間であり物ではないので、そんなのを下賜されても俺が困るのだが。
 しかしまあ、それも一つの意見であり、こうしてりな子と喫茶店で顔を付き合わせる理由としては十分だった。

106 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 04:43:26 ID:Xe/sRMl90
「学校に来ないのことのなにが問題なんだ? 学校以外でも会おうと思えばいつでも会えるだろ?
彼女、君のことをけっこう気にかけてるみたいだぞ。君が不機嫌になるから、俺とあまり話したくないそうだ」
「──ほんと?」
「なんでこんな情けない嘘つかなきゃいけないんだ。別に俺は嬢瑠璃と話していたいわけじゃないけど、
面と向かってそう言われるとさすがに傷つくものがあるぞ。こう見えても俺は繊細なんだ」
「嘘つき」
 その通り、嘘でないこと以外は嘘である。
 これを言うと文章の係り受けがややこしくなるので、そっと胸の中にしまっておくが。
「……でも、先輩に学校に来て欲しいの。先輩は学校に必要な人だから。みんな先輩のこと待ってる」
「必要、ね──愛されてるよな」
「え? なに?」
「いや、誰かに必要とされるってのはいいことだよな、多分。心配しなくても、そのうち戻るんじゃないのか?」
「無責任なこと言わないでよ」
「無責任が俺の数少ない生活信条さ」
 ぷっとむくれるりな子に肩をすくめてみせ、コーヒーついでにケーキでも奢ってやろうとメニューを手に取ったときだった。
「──あんた、香織甲介?」
 顔を上げると、俺と同じくらいの年齢と思しき男が立っていた。
 まず目に入ったのは、男の顔に乗っている眼鏡だった。
「……そうですけど、どちらさまですか?」
 中学か高校の同級生かと記憶の底を突っついてみたが、どうも該当するものがない。
 人の顔などあまり覚えない性質なので、その「覚えがない」という認識すらに自信がないのは残念なことである。
「ん、そーだな、俺も自己紹介したほうがいいかな」
 男は眼鏡を額まで押し上げ、無造作に伸ばされた髪に埋もれさせる。
 「地味なあの子は眼鏡を外すと美少女だった」とは漫画にありがちなシチュエーションだが、
この男はそのテンプレートに非常に近い形で沿っていた。
 眼鏡を掛けているときはなんとなく陰気そうな雰囲気を漂わせていたが、その下に隠されていた裸眼は明るい光をたたえており、
童顔な面差しと併せて第一印象よりも二〜三歳若く(幼く?)見える。
「俺は篚口結也。一応、警察官」
「なるほど。それで……警察の方が、俺になんの用ですか?」

107 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 04:46:07 ID:Xe/sRMl90
「あれ、反応軽いなぁ。俺、『刑事に見えない』とか良く言われて、いつも信じてもらうのに一苦労してんだけど」
「人間、見た目じゃないですからね」
 警察官に見えない警察官から俺にも心当たりがあるし、本人がそう自称する以上、俺にそれを否定する理由はない。
 彼を警察官だと認めることで俺になにかしらの不利益が生じるわけでもなし、もし認識を改める必要に迫られたらそれはそのときに考えればいいことである。
 それよりも問題なのは──警察が俺になんの用があるかということだ。
 俺は習慣のために人を殺している。
 言うまでもなく、これはれっきとした犯罪行為であり、刑事罰の対象である。
 殺害人数がそろそろ三桁に届こうとしている現状、俺の行為のすべてが明るみに出たらまず間違いなく生涯を塀の中で過ごすことになるだろう。
 その場合の俺の予測としては、余罪の追求やそれによって次々と開催される裁判によって事実上の終身刑となるか、
司直側の担当者がいい加減なところでうんざりして「これくらいの件数なら死刑は確実だろう」というあたりで調査がストップされるか、のどちらかである。
 最高に上手く切り抜けたとしても、精神病院あたりに送られて二度と実社会には戻ってこれなくなるだろう。
 どの道あまり愉快そうな人生ではない。監獄で営まれる永遠のルーチンには多少なりとも心動かされるものがあるが。
「まー、いいや。信じてくれるなら話は早い。あんた、桂木弥子って知ってる? 探偵の」
 知ってるもなにも、俺の殺人現場を目撃されている。
 そして今頃、全死とデートをしているはずである。
 相手の意図がつかめないので、いざというときのために横目で退路を探りながら、曖昧に答える。
「はあ、何度か会ったことは」
 りな子は不審そうに俺と篚口の顔を見比べている。
 篚口は小脇に抱えていたラップトップの蓋を開け、液晶画面を俺に示した。
「実はさ、彼女、ストーカー被害を受けてんだよね。で、俺が調べたところ、
彼女のケータイや事務所のパソコンに大量の迷惑メールを送ったり不正な侵入を繰り返す行為のデータのやりとりが、
全てあんたの名義で契約されている携帯電話を中継しているんだ。思い当たること、ある?」
 ──目の前が真っ暗になった。
「……あの人、そんなことしてたのか」
 俺が所持している携帯電話を全死がいじることは不可能だろうから、おそらく全死が勝手に俺の名義を使って契約したのだろう。
 だが、なぜよりにもよって俺の名前でそんなことをしなければならないのか。
 油断も隙もないというか、それ以前にまったく意味不明だった。
「俺、ネウロから依頼されて──おっと、ネウロは知ってるよな? あの助手な──いろいろ手を回してみたんだけど、
これちょっと酷くね? ケータイもパソコンもほとんど使い物にならなくなってるよ。この情報社会でそれば不便すぎだろ。
──どうなの? 止める気ある? あんましつこいようだと俺もほら、いちおう公僕だからさ。逮捕とかしちゃうかもよ」

108 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 04:48:19 ID:Xe/sRMl90
「──分かりました。俺は断じて関与していませんが、心当たりは必要十分にあります。
約束は出来ませんが、その人に忠告しておきます。もしストーカー行為が止まないようでしたら、その人を逮捕してください」
 心因性の頭痛をこらえながらそう告げると、篚口は得心したようににぱっと笑った。
「そっか。ありがとな。お礼に、いいことを一つ教えてやるよ。──あんた、今日の未明二時から六時ごろ、どこにいた?」
「……は?」
 おかしな話だった。
 「教えてやる」と言っておいて質問を投げかけるとは、どう考えても辻褄が合っていない。
「そう変な顔するなよ。話はここからが本題だから。その時刻、有栖川祐希という女性が殺害された。
その容疑者として、『なぜか』あんたの名前が挙がっている」
「……は?」
 それもまたおかしな話だった。
 今度こそ本気で心当たりがなかった。
 まずその時間は俺を人を殺していないし、そんな名も知らないどこかの誰かが殺された事件で、なぜ俺が捜査線上に浮かび上がっているのか。
「『なぜか』──ここ、重要だぞ。被害者とあんたの間に接点は無い──少なくとも、現段階では発見できていない。
あんたの人相体格に合致した不審人物の目撃証言や、あんたとの関連を示す物的証拠もまるで無い。
なのに、あんたが捜査対象としてマークされているんだ。連続殺人事件のマル重としてね」
「──『連続』?」
「ああ、そうだよ。なんだ、知らないの? ほら、こないだニュースになったじゃんよ。女子高生が通り魔に殺されたとかって」
「あ」
 なんとかポーカーフェイスを保つことに努めてきたが、さすがに限界だった。
 思い出した。
 いや、忘れるほうもどうかしているが、俺は先日、全死の依頼に従って有栖川健人という男子高校生を殺害しようとしたが、
なんの作用によるものか、人を違えて別の人間を殺してしまっていた。
 嬢瑠璃の寄越した新聞によると、その『人違い』が有栖川恵という名前の少女だったはずである。
 当の現場を目撃された桂木弥子のことは覚えているのに、殺した相手のことを忘れていたとは間抜けにもほどがある。
「あ──ああ、そう言えばそんなニュース、あったような気がします。……それで、なんで俺が?」
 気を取り直して「なにも知りません」という風を装ってみるが、これは九割九分本気だった。
 有栖川恵のセンから俺が疑われているならともかく、篚口の口ぶりでは、
つい半日前に殺害された有栖川祐希という女性を殺した容疑が俺に掛かっているようだった。

109 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 04:51:39 ID:Xe/sRMl90
「そこが俺も分かんないだよね。現場の捜査員も誰も分かってないみたいだ。
でも、やっぱ警察って縦社会なんだよね。上の人間が『こいつについて調べなさい』って言えばそうするしかないっしょ」
 その意見は理解もできれば共感もできる。
 なにかの上位概念に唯々諾々と従うという行動様式は、俺の美意識とも合致している。
 ──その結果、俺が濡れ衣を着せられるというのはいただけない話であるが。
「でも、そんなこと俺に話していいんですか? 捜査機密ってやつじゃないんですか」
「そこはほら、俺もいろいろ思うところあんのよ。現場の人間がみんな指揮官の命令に納得してるってわけじゃねーの。
笛吹さんもあいつの扱いに困ってるみたいだし──いや、見た目はなんかファンキーで好感持てるけど。
ま、それはそれでいいんだけど、実際のところはどうよ? 殺した?」
「俺は有栖川祐希という女性は知りませんし、もちろん殺していません」
 これは嘘ではない。
 ──有栖川恵のほうは俺が殺したが。付け加えると誤認による殺害なので、『知らない』という点は彼女にも当てはまる。
「アリバイある? あるなら手っ取り早いけど。二時から六時ごろね」
「二時から三時に掛けては寝てました。──ああっと」
 ここで俺はあることに思い至り、話を中断してりな子に振り返る。
「君、ちょっと耳でも塞いでたほうがいいぞ」
「……なんで? 今さら聞かザルしても遅くない?」
 言われてみれば、純真な中学生を前に殺人事件について語り合うのはやや常識を欠いた行為だと思う。
 全死のような人間と付き合っているとその方面の気配りがおろそかになってしまうから困る。
 まあ、この篚口という刑事もその意味では俺と同類だろう。
「そうか、じゃあ最後まで聞けばいい」
 俺は優しい人間なので本人の意思を尊重し、(単に『耳を塞ぐ理由』について説明するのが面倒だという見解もあるが)
それ以上言うのをやめて再度篚口に顔を向ける。
「寝てたというのは二重の意味です」
「二重? ──って言うと?」
「この時間帯なら証言してくれる人がいるという意味です。つまり──性行為です」
 いきなりりな子がテーブルを叩いて立ち上がった。本日二度目である。
「い、いいいきなりなに言ってんのあんた!?」
「声が大きい」
「でも、だって」

110 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 05:19:56 ID:Xe/sRMl90
 耳まで真っ赤にしながら口をぱくぱくさせるりな子はしばらく俺を睨んでいたが、
結局、言葉らしい言葉を吐くことなく、あーとかうーとかつぶやきながらのろのろ着席した。
「はは、確かに耳に栓しときゃ良かったかもな、お嬢ちゃん。──それで、三時以降は?」
 それを思い出すのは容易だった。人間、嫌なことほど忘れがたいものだ。
 全死の自己中心的な電話を受けた俺は、着るものも取り合えず表に出、マンションの前で白樺と別れて大学への道を駆け出したのだった。
「──さっき話したストーカー犯の人に呼び出されて大学まで出かけました」
「今度はそっちの人が証言してくれるってことな?」
 俺の神経過敏だろうが、篚口の言い方が「今度は全死とやっていた」というニュアンスを含んでいるように聞こえた。
 ために、意図せずして顔をしかめてしまう。
「いえ、その人は証言してくれないと思いますよ……寝てたから。こっちは普通の睡眠です」
 二時から三時にかけては一緒にいた白樺が証言してくれるだろうが(そんな面倒なことは頼みたくもないのが本音だ)、
全死のほうはまるで当てにならない。あの晩、俺が思想インフラ研究会の部室の足に踏み入れたとき、すでに全死は眠りこけていた。
そしてつい数時間前に嬢瑠璃に起こされるまで寝通しだったはずである。
 そもそもの問題として、全死が俺のために証言するということが有り得ないことのような気がする。
 そんなことを期待するならダチョウが空を飛ぶのを期待したほうがまだしも現実的だ。
「ふーん……なるほどね。大体のことは分かった。いや、マジで助かったよ」
「まあ、やってもいないことで疑われるのは、こちらとしても不本意ですから」
「だよなー。なんの根拠もないのにあんたのこと容疑者のつもりで調べろって言われても、俺らもやりにくいよ、実際。
身内の愚痴になるけどさ、ほんと、あのメイドさんはなにを考えてるやら」
 一瞬、篚口自身の家庭の話かと思いかけたが、警察官が『身内』といえば警察機構のことである。
そして、メイドという言葉が相応しい警察関係者といえば、俺には心当たりは一つしかなかった。
「……もしかして、虚木さんですか? あのメイド刑事」
「え? 知ってんの? うっそ」
「友人の知り合いでした」
「あ、そーなの? いやー、世間って狭いなー」
 それどころか、一度は彼女の手によって手錠をかけられた仲であるが、そのことは言わないでおいた。
 俺のことを調べている篚口がそれを知らないということは、その顛末に関しては全死があらゆる面からその公的記録を抹消しているということだろう。
 なので俺は、適当に相槌を打つだけに留めておいた。
「そうですね。世界規模で人口爆発の御時勢ですからね」

111 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/06(水) 05:23:37 ID:Xe/sRMl90
 
 それからしばらく篚口はりな子を交え、ネット上の個人株取引や新作ゲームなどの他愛ない世間話に興じていたが、
他にもいろいろ抱えている仕事があるのだと言って席を辞した。
 りな子もケーキを食べ終わると、「そろそろ帰る」と立ち上がる。
「送ろうか?」
 社交辞令としてそう言うと、
「いい。一人で帰れる」
 もし受諾されたら面倒だな、と内心思っていため、その返事は実に有難かった。
「──ねえ」
「なに」
「ケーキ、ありがと」
 気にするな、君は俺のものらしいから──という言葉が浮かんだが、口にするのは止めておく。
 口は災いの元だからだ。
「──あとさ」
「なに」
「本当に、殺してないよね。刑事さんの言ったこと、なんかの間違いだよね」
「当たり前だろ。あの篚口って人もそう言ってただろう」
「そ」
 りな子はちょっとだけ微笑むと、自分と夕日を結ぶ直線状に位置する駅へと駆け出した。
 途中、一度だけ振り返り、
「もし本当だったら、あんたを先輩に近づけたくないな、って思ってたとこ」
 ──かつて俺が嬢瑠璃を殺しかけたことは、りな子には言わないほうがいいだろう。
 そう判断した俺は、黙って腕を大きく左右に振った。

112 :作者の都合により名無しです:2008/02/06(水) 08:33:44 ID:jggqiRIv0
夜中に2本も連発か・・w

さいさんお疲れ様です。いよいよ大詰めですね。
すべての決着がついた後は爽やかに終わるのかな?

ハロイさん、投稿規制だったみたいですね。
篚口も出てきていよいよキャラも出揃ったって感じ?


113 :作者の都合により名無しです:2008/02/06(水) 13:12:30 ID:3IkSQlvE0
お疲れ様ですさいさんハロイさん

・WHEN THE MAN COMES AROUND
やはり神父はブラボーより格上に設定してあるみたいですね。
戦闘能力はもちろん、戦闘経験値の差がテキメンに出てますね。
あと僅か、ラストスパートがんばってください。

・脳噛ネウロは間違えない
全死がヤコを好む理由がわかりましたwスタイル的な部分もですねw
りな子も大人しそうな感じで好みだなあ。絵面をしりたい。
篚口も出てきて楽しみですが、もしかしてまだ今回分途中?



114 :作者の都合により名無しです:2008/02/06(水) 16:56:08 ID:1hn3ZbJx0
ハロイ氏は投稿規制か。相変わらず会話のやり取りが上手いな。
ネロウのメインキャラってこれで大体そろった?
しかし日常に溶け込んでるけど危険人物ばかりだな。


さい氏はもう本当に終盤だな。LAST EPISODEの後に
エピローグがあるんだろうけど。
仕事もうすぐ辞められるそうだからちょっと更新遅れるのかな?

115 :作者の都合により名無しです:2008/02/06(水) 19:07:32 ID:wAOXdeNf0
ハロイ氏の創作意欲とアイデアのひりだし方を知りたい
普段何をやってる方かも気にかかるw
サイトでさいさんやスターダストさんみたいに日記はやらんのかな?

116 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:20:16 ID:khseT/h+0
第034話 「斜陽の刻 其の陸」

屋根の上で影と月が交差し、火花が散った。
優雅に青瓦へ着地したムーンフェイスであるが、時間差で襟元が裂け
たのには嘆息せざるを得ない。
(むーん。どうも単純な攻撃力じゃ押されてるね。速度は互角だけど)
眉をオーバーな物悲しさにしかめながら振り返ったのは。
行き過ぎた影が弾丸のようにリターンバックしてきたからだ。
近くでめりめりという音がした。その方向では電柱が傾きつつある。
鐶という名の影がムーンフェイスに再度特攻するため、蹴ったのだろう。
(やれやれ。電柱はロープじゃないよ)
嘆息しながら十人に増殖。
珍しく横には並ばない。まず四人。その前に三人。二人、一人。
後ろの者は前の背中に手を当てた。
前が一人だけなら両手を、二人いれば両手をそれぞれに。
四三二一のピラミッドの頂点が鐶に向くよう整列。
やがて最前列の一人に影が衝突。
恐ろしいコトにその衝撃は十人がかりでも殺しきれなかった。
一番後ろの四人ですら瓦の欠片を飛び散らかしながら後ろへスリップ
せざるを得なかった。前の三人と二人などは両足を屋根に埋めて梁を
損壊させている。
だが衝撃は「殺しきれなかった」だけである。ニュアンスの中で死を遂
げた何割かは、ムーンフェイスの反撃糸口へ転生を遂げた。

鐶がそう悟ったのは、ピラミッドがみるまにV字へ解け、まったく同じタイ
ミングで十個の月牙が体表に接触した瞬間である。
「例え個々の攻撃力が劣っていたとして、協力すればその差は補える。
むーん。むしろ戦士が好きそうな戦法なのが何とも」
吹き飛ばされる鐶は、倒れる電柱の影に向かいつつある。
「……なるほど。コレが狙い」
灰色の円柱は今まさにのしかかりつつある。

117 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:21:14 ID:khseT/h+0
潰されてもホムンクルス故に致命傷にならないが、下敷きになり、脱出
するまでの時間はロス。数ある敵にロスを見せるのは致命的。
「神の刃は……人の愛」
よって鐶はボロックナイフで電柱を斬りつけ、土砂に変えた。
同時に、凄まじい光が目を焼いた。
千切れた電線の先で火花が散ったのだ。
……光は一瞬、鐶を覆う影を奪った。全身像が視認できるほどに。
「むーん。こりゃ驚き。強いからどんな豪傑かと思いきや」
着地したムーンフェイスは目を丸くした。
「まさかこんなに可愛らしいお嬢さんだったとはね」
十人もの怪人がしげしげと鐶の顔を眺めるのは、余程意外だったからか。
瞬間、黄色い髪がぶわりと怒りのような感情に波打ち、また影に鎖された。
「見ましたね」
静かな声を皮切りに異変が生じた。
影の瞳がひどく丸みを帯び、そう、ちょうどフクロウのような金と黒の巨
大な眼光を放った。
「生かして帰すワケにはいきません……!」

刃の霧が秋水を一気呵成に通過。
卸金が撫でたような無骨な傷が到る所にでき、血が噴き出した。
「……ぐっ」
だがなお逆向に向かって走り込む秋水。
刀が空を切る。脚を侵食されたせいだ。
体が前へとぐらりと傾く。踏み込みを崩され、届かない。
「まだまだ。今度は吸え。内部からの生き地獄を味えよクズが!」
逆向の言葉どおり、霧が秋水の口に入ると。
血が込み上げた。
気管支から肺に至る呼吸器官のどこかに損傷が生じたのは明らかだ。
ソードサムライXを杖に秋水はかろうじて踏みとどまる。
だが戦闘力の低下著しいコトは激しい呼吸を見ても明らか
「ほう。耐えたか。だが次はない!」
銀河に似た禍々しい粒子群が再び秋水を取り巻き──…

118 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:22:16 ID:khseT/h+0
それらが手元に跳ね返ってきた瞬間、逆向は切歯した。
本当は全身ズタズタに裂かれて倒れ伏す秋水を見ている筈だった。
だが目の前にあるのは。
白い光。
眼を凝らせばいくつもの紙片がふんわり浮かび線と面を構成している
のが確認できるが、そこまで見る必要はなかった。
総てを察するには、秋水と逆向の間にいる小さな姿だけで十分であった。
「哀しみも痛みも振り切るようにはばたく!」
秋水は前でぴょこぴょこ動くシルクハットを意外な眼で見た。
「反射モード・ホワイトリフレクション!」
「小札……一体なぜ君が?」
呼ばれた少女はマイク代わりのロッドから口を放して、振り返った。
「元よりかかる事態になりましたのは、不肖属するブレミュの方々にも
原因がありますゆえ。貴信どの香美どの無銘くんが戦士の方々倒さね
ば、単騎大群に斬り込む羽目にはならなかったコトでしょう。それにま
あ、逆向どのも佐藤どのを使っておりますし、数の上では互角かと」
逆向の額に青筋が立った。
「舐めやがって! バリアーだと? 俺のライダーマンの右手で分割
できないモノなど」
「ハイ。恐らくないでしょう! しかぁし!!」
光輪を浴びせかけられたバリアーで光が爆ぜた。
熱した鉄を水に入れるような音もした。
そして光輪はしばらくそのままバリアーの表面を滑りながら回転して
いたが。
「チッ!」
逆向へと反射された。もっとも例の「攻撃に応じて発動する光壁」が発
動したため、彼にダメージはなかったが。
「残念ながら不肖のバリアー、『分割』はむしろ逆効果! なぜならば
……いやいやいえば攻略されるは明明白白! それはさておき、不肖
のホワイトリフレクションが通じぬとあれば決め手はやはりっ!」
「あ、ああ」
秋水は振り返って上目遣いできゃぴきゃぴ運動する小札に気押された。

119 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:23:27 ID:khseT/h+0
どうも最近、女性に弱い。
まひろには散々動揺しているし、折に触れてむくれる桜花には辟易の
一方。斗貴子とは不仲だし、千里と沙織には劇がらみのコトで翻弄さ
れた。今夜の焦りはヴィクトリアの問題起因だし、比較的無害に見える
千歳にだってアニメ版では見事に騙されている。
(アニメ版とはなんだ。いや、そんな事はともかく)
「協力はするのか」
「は、はい。ただ一つだけ条件が」
「条件?」
「……あ、そんな屈まないで頂きたく。身長差を感ずるのは悲嘆の極み」
話を聞こうと身を縮めた秋水を必死に押しとどめながら小札、
「詳細はこれにて。さささ、速やかにご一読をば。返事は屈まずして頂
ければ嬉しゅうございます」
ポケットから紙片を取り出した。
どうやらメモ帳を畳んだものらしい。
受け取るとすばやく広げて目を通す。
「人形集いし漫画風なれば、呑みますか? 呑みませんか? であります」
みるみる内に眉間に皺が広がるのを感じた。
「……呑めというのか」
「できればそちらの方が、その、平和的だと思うのですが……」
まず秋水は息を呑んだ。
目にした案件に葛藤が襲ってくる。
いっそ紙片を握りつぶせればどれだけ楽か。
(呑めば俺は……裏切り者の烙印を押されても仕方ない)
もう一度、紙片にのたくる下手な文字を読み返す。
それで自分にとって都合のいい事実や条件があぶり出しのように浮か
んでくるコトをどこかで期待していた。
だが、変わらない。見つけられない。
変化といえば咳きこんだ時に付いた血の数滴だけ。
(どうする……?)
受けねば小札の助力は受けられない。
助力がなければより多くの時間を逆向に費やすコトになるだろう。

120 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:24:17 ID:khseT/h+0
むしろ負傷具合から見れば秋水が斃され、逆向が寄宿舎に乗り込む
可能性の方が高い。
まず、まひろの顔が浮かんだ。次にヴィクトリアが。
何かを守るために。
世界の中で下さねばならぬ決断は、かくも苦いのかと思う。
決意は本当に本当に様々な物を含んでいた。
「分かった。呑む」
承諾を受けたのに小札はちょっと、というか何だかとても申し訳なさそ
うな顔をしてから、首をブンブン横に振って無理にテンションを上げた。
「ありがとうございます。ならば一刻も早くあのお嬢さんを説得すべく
戦いましょう! さぁ、あの日あの時あの場所にて木をがつりと殴られ
たその無念、今こそココで晴らすのです!」
秋水は首を傾げた。
「……何故、君がそれを知っている」
「きゅう? お嬢さんのコトでしたら先ほど逆向どのが」
ちなみに当の逆向は「クズがぁーっ!」とか喚きつつバリアーに挑戦中だ。
「違う。俺が木を殴った事をだ」
「ぬぬ? 何をおっしゃいます弟さん! 確かにされていたでは……」
ひっと息を呑んで小札は眼を剥いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
今の言葉、先ほど秋水を見ていたと白状するに等しい言葉ではないか。
(ぎゃーっ! この場への参戦はいざ知らず、それ以前の尾行がばれ
ますれば捕縛計画も露見の予感! 露見しますればせっかく呑んで
いただけた条件も水の泡っ! 何とか切り抜けねばいろいろ破綻!
あわわわ、あわわわ、何とかしなければぁ〜!)
両手を頭に当て目を蚊取り線香のようにグルグルさせながら、小札は
懸命に弁明を考えた。
考えた。
超魔ゾンビを作るザボエラのように考えに考え抜いた。
で、結論が出た。
「ふ、ふふふふふ不肖のっ!」
慌ててシルクハットを取り、彼女は頭頂部を見せた。

121 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:26:24 ID:tSsJPcKF0
「不肖の耳はロバの耳っ!」
言葉通り、髪がロバ耳よろしくひどい癖を持ち、跳ねている。
秋水はため息をついた。
「いや、答えになってないと思うが」
(は、外したぁーっ!)
ホムンクルスに効果音を現物化して浮かべる能力があれば、涙浮か
べる小札の横には「ガーン!」という物が浮かんでいたコトだろう。
彼女はしくしく泣きながらシルクハットを頭にはめこんだ。
「糞が! 攻撃が一切通りやがらねえ!!」
叫ぶ逆向を秋水は見た。小札も頷いた。
「では、1、2の3でバリアー解除いたします。そしてあのブライシュティ
フトは不肖が引き受けますゆえ」
「俺は奴を」
「ええ。では。1、2の3!」
バリアーが解除された。
逆向は一瞬たじろいだがすぐに態勢を立て直す。
秋水の背中へとブライシュティフトを。
だが刃の霧は途中でぴたりと動きを止めた。
小札のロッドの先端。六角形の宝玉。
そこから出る光が、ブライシュティフトにも伝播し、動きを止めている。
「まっとうに戦えば総てを斬り裂くその刃。しかしその成り立ちとマシン
ガンシャッフルの特性を合わせればかくなる芸当も可能であります」
逆向は一つのやり取りを思い出していた。
出撃前。ムーンフェイスが去った後、佐藤とのやり取りがあった。

「逆向よぉ〜 お前の奥の手、『死にかけたホムンクルス』が必要だよ
な? なら俺がそうなったら景気よく使っちまえ。どうせ弱い俺だ、それ
位の使い道しかねーし」
「ケッ。クズが」
「クズでいいさ。役立てるなら、な。ところでよぉ逆向」
「なんだ」

122 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:27:46 ID:tSsJPcKF0
「L・X・Eは面白かったよなー。また復活して、以前のようにみんなで
馬鹿やれたらいいよな。浜崎も金城も陣内も太も細も爆爵様も死んで
ムーンフェイスと早坂姉弟は裏切ったけど、馬鹿やれたら、いいよなあ」
「…………」

去来する言葉を打ち砕くように秋水が肉薄!
満身創痍の彼は、総てを一撃にかけているようだった。
「クズが!」
一つ、佐藤に言葉が浮かんだ。
(決意したのにあっけなく無駄になりやがって!)
一つでは足りず、もう一つ付け足した。そうでもせねば収まらなかった。
(俺と同じコトを考えていた癖に!!)
チェーンソーから光の輪を放つ。注意をそらすために。
秋水はいつものように刀身で吸収するだろう。
(隙はそこだ! 刀一本、攻撃と防御は同時にはできねえ!)
逆向はその防御を打ち砕き、秋水を殺すべく大きく振りかぶった。
だが。
秋水は。
迷うコトなく逆胴を撃ち放った。
(馬鹿が! 刀が届く前にてめえは死ぬ! 死ね!)
ガラ空きになった秋水の顔へと光輪が迫る。
接触すれば総てを百六十五分割する恐るべき輪が。
その時、小札は見た。
逆胴の動きにつれて、ソードサムライXの下緒がゆるやかに跳ねあが
るのを。
正確には、その先についた警察署の地図記号のような飾り輪が、迫り
くる光輪に対し、跳ねあがるのを。
まばゆい光芒が秋水と逆向の間で閃き、そして消えた。
……
結果から書く。
逆胴は逆向を滑りぬけ、致命的ともいえる傷を作った。
逆向の放った光輪は、どうなったか。

123 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:31:05 ID:tSsJPcKF0
説明すべく、ソードサムライXの特性へ触れよう。

「エネルギーの吸収・そして放出」

エネルギーを絡めた攻撃は総て吸収し、放出は時間差を置いても可能。
秋水はすでに何度か逆向の放つ光輪を吸収していた。
その時吸収したエネルギーを放出し、秋水は光輪を相殺したのである。

※ 以下あとがき
とりあえず残党戦の顛末は次回にて。
しかし、ずっと頭の中にあった場面をこうして投下するというのは、妙な
感じですな。コレを繰り返しているうちに、ストックしていた場面がどんど
ん消しゴムのように残り少なくなって、寂しいような、好ましいような複雑な気分。

>>82さん
いやーこれまた恥ずかしい話なのですが、投下量の計算ミスというか……w
秋水の戦い、剣劇そのものよりも周囲の状況とか心理とかに比重がいって
いるような気も。もっと剣劇見て描けるようにしなければ。

>>91さん
ですな。まっすぐで実直だけれど根はバ…熱い人なので。4巻で桜花
助けたカズキに嫉妬してますし。あと、逆胴放つ時に「核鉄頂く!」とか
アニメ版じゃ千歳にまんまと騙されて、火渡に喰ってかかったり。流石だ。

ふら〜りさん
新月村で「普段はやらんけど今は叩き伏せる!」って凄んでた場面ある
じゃないですか。意識してるのはコレですねw ちなみに仲間殺し、純粋に
和月テイストでいくなら「驚愕している秋水の顔アップ」「背景真っ白」「そこに悲鳴」
が「らしい」と思います。ええ。漫画じゃこう描いてアニメで健勝炎生むのが和月先生!

124 :永遠の扉:2008/02/06(水) 22:31:34 ID:tSsJPcKF0

>悪魔の歌
おおお、予想に反して和解エンド。よく考えたらDMCのお下劣空間
に一歩を引きずり込むのは愛ある限り難しいですね。それにしても今回
>ボク自身がそういう存在になれたらいいなぁって思ってるんです
にはホロリと。……うん。うんうん。ところでギャラリーのノリがまんま原作すぎて吹きましたw

>>98さん
おぉ、サイトの方で。ありがとうございます。自分も描きだした当時、
ここまで続くとは予想だにしてませんでしたw 本当は一昨年の十二月
に総角と決着つけたかったのにどうしてここまで。とにかく、良ければお付き合いくださいw

>さいさん
>「どうした……。そんなものか、第13課(イスカリオテ)。そんなものか、聖堂騎士(パラディン)」
防人がすっかりヘルシング節だw そして手首の損傷ぐあい流石だなぁと。
名前聞いたのはフラグでしょうか。いずれカズキが神父と戦う時の!
で、経験の差で優位に立つって展開はやはりツボw やはり敵はこういう恐ろしさがないと。

125 :作者の都合により名無しです:2008/02/06(水) 23:41:22 ID:jggqiRIv0
スターダストさんも鬼更新ですな
小札がよほどお気に入りと見えるw
最近、まひろよりずっと活躍してるw

126 :作者の都合により名無しです:2008/02/07(木) 13:19:46 ID:TEScApjy0
お疲れ様です。
秋水の立合いはかっこいいですね。
小札がラブリーなためそっちに目が向いてしまいますがw

127 :作者の都合により名無しです:2008/02/07(木) 17:35:33 ID:XxjqHv660
ソードサムライXって原作準拠?
なかなか思い出せん


128 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/07(木) 22:39:53 ID:gqFyattD0
 これだけの密着状態では、どんな打撃も効力は薄い。眼突きも狙いにくい。
 しかし、呼吸を取り戻さねば、数分後には間違いなく窒息する。加藤は必死に拳をぶつ
けるが、掌から力が逃げ出すことはない。
「う、ぐぐっ……グッ! ウゥッ!」
 窒息に近づく様子を観察するかのように、黒い男はじっと加藤を見据える。
 一分が経過した。
 肺機能が優秀ならば、人間は五分前後は無呼吸でも生きられる。が、疲弊しきった加藤
ではそこまでの時間は残されていない。多く見積もって、おそらく三分程度。窒息したが
最後、黒い男は次こそ加藤の首をへし折る。だからこそ、加藤も抵抗し続ける。有効打を
与えるために。
 先程刺した箇所に繰り返し貫き手を敢行する。
 それでも、手は剥がれてくれない。
「無駄だ」
 二分が経過した。
 加藤の意識が低下していくのに比例して、抵抗も薄れていく。
(やべぇ……考えろ……。こいつが思わず俺に手をくっつけてることを忘れさせちまうく
らい、強烈な攻撃をッ!)
 脳に酸素が行き渡らず、思考が空回りする。錯覚ではない本当の死が迫る。
(く、苦し……し、しし、死……)
 その時だった。
 加藤は自分がやられているように、黒い男の口に弱々しく掌をくっつけた。
(何やってんだ、俺は……)
 相手も同じ感想を持ったらしい。
「何をやっている。──!?」
 男が口を開いた瞬間、加藤は舌を掴んでいた。狙ったわけではない。発作的な行動だっ
た。
 空手で鍛えた指先が、舌に食い込み、瞬時に引き裂く。

129 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/07(木) 22:40:41 ID:gqFyattD0
「……がっ! カハッ!」
 舌から血液を滴らせ、男は加藤を振りほどいた。同時に、加藤は呼吸を手に入れた。彼
の負けず嫌いが、敵と同じ行動を取らせ、結果的に窮地からの脱出に結びついた。
 すかさず深呼吸し、ようやく加藤は人心地につく。
「ぜぇ、ぜぇ、あと十秒あったら失神してたな……」
 まだ頭がくらくらする。ベストコンディションには程遠い。が、それは相手も同じ。脂
汗をにじませる黒い男。
「発想(センス)がいい。おまえは天性の殺人者だな」
「……近づくだけで人を殺せる奴にいわれたくねぇな」
 殺気の投げ合い。
 静の攻防が一転、動の攻防に移る。
「シェアァッ!」
 上中下を絶妙にブレンドした、神心会仕込みの極上ラッシュ。
 喉、膝、鳩尾、と危険区域を徹底的に攻める。さらに跳び上がって顔面への二連蹴り。
 いずれも効いている。
 が、着地の隙に頭を掴まれ、激しくシェイクされる。
 脳震盪。
 上下のない世界に放逐された加藤に、黒い男の絶技が発揮される。
「心臓が止まれば、人は死ぬ」
 心臓マッサージのように両手を加藤の胸に添えると、

「死ッ!」

 かけ声と共に凶悪な圧力が胸部に放たれた。
 鎬紅葉の切り札、打震に似た内部破壊を起こす殺人技。しかもあれとは違い、衝撃は全
て心臓に集約される。
 加藤は仰向けに崩れ落ちた。
「これを受けて立った者、いや生きていた者はいない」
 初めて、黒い男が表情に安堵を示した。

130 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/07(木) 22:42:59 ID:gqFyattD0
「あんたって子はどこまで私たちに恥をかかせるの!」
「清澄、おまえって奴は!」
 父親の平手打ちが頬に飛ぶ。
「何すんだよ! 悪いのはあいつなんだよ!」
「だからって殴る奴があるか! まったくなんでこんな風に育ってしまったんだか……」
 血を分けた兄と弟も、加藤に向ける目つきは肉親のそれではなかった。恐怖と軽蔑が混
ざった、徘徊する野良犬を見るかのような。
「ケッ、なんだよ。別にいいよ、俺は好き勝手に生きてやる」
 家族に愛想を尽かし、加藤は幼くしてグレた。
 やがて中学時代のある日、無謀にも大学生の集団に喧嘩を売り──。
「……がはっ!」
「ペッ。こういうガキにゃ、世間の厳しさってのをきっちり指導しねぇとな」
 トドメの一撃が決まる寸前、加藤は救われた。大学生五人は突如乱入した男に瞬殺され
ていた。
「強くなりてぇかい、坊主」
「ううっ……くっ……つっ……つ、強くなりてぇよ!」
「強くしてやる」
 こうして独歩に拾われた加藤は、神心会でメキメキ腕を伸ばす。──が。
「顔面も打てねぇ空手なんざで強くなれっかよ、もうこれっきりだ!」
 極道に身を堕とす。
「お、おい……加藤。いくら何でも目ン玉ほじくり出すのはやりすぎじゃねぇか……」
「っせえよ、俺に指図すんじゃねぇ。なんなら、てめぇもほじくられてみるか?」
 やがてヤクザからも卒業し、加藤は神心会に舞い戻る。そして地下闘技場を知る。
 刃牙を知り、昂昇を知り、斗羽を知り、紅葉を知り、勇次郎を知った。程なくして花田
を破り最大トーナメントに出場するが、夜叉猿Jrに叩き潰された。
 その後、克己を闇に誘い、死刑囚との戦いに加わり──
「そして俺は空手家じゃなくていい」
「手に何も持たぬことを旨とする道──だから空手だ」
「やってみるか、試練」
「先輩……最後に、どうか」
「これを受けて立った者、いや生きていた者はいない」
 ──今現在に至る。

131 :やさぐれ獅子 〜二十六日目〜:2008/02/07(木) 22:45:06 ID:gqFyattD0
 ダウンからコンマ数秒で、加藤は跳ね起きた。
「──なっ?!」
 勝利に限りなく近づいていた男が目を丸くする。明らかに怯えている。
「心臓が止まれば人は死ぬッ! 不死身か貴様ァッ!」
「不死身なわけねぇだろ。もっとも心臓はほんの一瞬だけ止まったみてぇで、おかげで下
らない夢見ちまったぜ。ったくよォ……」
 一秒にも満たぬ間ではあるが死んだにもかかわらず、加藤は笑っていた。
 怯えを振り切るように、黒い男が駆け出す。
「死神の使いである俺にとって、人間の死は呼吸や食事も同然。だからおまえは死ななけ
ればならない!」
 二度目の正直。再度左右の手を重ね合わせる。
 一方、加藤は死を司る両手に、拳一つで挑む。

「死ッ!」
「セイィッ!」

 各々の最高がぶつかり合う。
 片方は打ち抜き、もう片方は弾け飛んだ。
「ぐぅわぁぁああッ!」
 悲痛な叫び声が上がった。加藤ではない。
 数え切れぬほどの死を演出してきた右手と左手が爆発した。本来ならば相手に伝わるべ
き衝撃を、握り込んだ拳が見事跳ね返した。
 締めは、左ハイ。
「キャオラァッ!」

132 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/07(木) 22:49:19 ID:gqFyattD0
>>69より。
二十六日目終了です。何とか早く終わらせます。
それにしても烈、かっこよすぎ。

133 :作者の都合により名無しです:2008/02/07(木) 23:30:49 ID:EGe2le580
デンジャラスライオンしてるな、加藤。
回想に何気に出てきた独歩がかっこいい。
かつみんもどっかで出ないかな。


134 :作者の都合により名無しです:2008/02/07(木) 23:44:11 ID:/QepuIh50
サナダムシさん乙でございます。
烈先生をプッシュしていますな、グルグルパンチだした時は何考えてんだw
と思ったものですが今週号を見るとあら不思議、いつものカッコいい烈先生ですね。

>鎬紅葉の切り札、打震に似た内部破壊を起こす殺人技。
内部へ振動を送り込む、ということは臓器破壊に適してはいても、
拳にやってしまえば骨に反響して返ってきてしまうのでしょうか。
原理が記載されてないので妄想にすぎませんがw

そしてラストのぶつかり合いに勝利した加藤。
そこで終わらせずきっちりと止めを刺すという入念さが渋い。

135 :作者の都合により名無しです:2008/02/08(金) 08:13:48 ID:bRqrKFtB0
サナダさんおつです。
回想シーンが入ったって事はもう終わりが近いんでしょうね
独歩=武神ってことかな、回想の意味は?
でも「キャオラ」って決めの叫びというより負け叫びみたいw

136 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:05:44 ID:R6bzrkry0
第035話 「斜陽の刻 其の漆」

目を閉じていても、体に染み付いた術技は功を奏するものだ。
光輪を飾り輪のエネルギーで相殺すれば、目の前で凄まじい光が起
きるのは明らかだった。
よって秋水は手に斬撃の感触が通り過ぎるまで、目を閉じていた。
次に開いたその時。
「まだだ! せめててめえも道連れに!」
死にゆく逆向がチェーンソーをかざし、迫ってくる。
(そうか。『もう一つの調整体』の効果で震洋の体に宿った以上、普通
のホムンクルスのようには死なない……だがこうなったら震洋にはすま
ないが、戦闘不能になるまで斬り伏せる!)
秋水は激しい息をつきながら再び構え──…

一体何が起こったのか、十体のムーンフェイスは判断に困った。
「特異体質発動」
気づけば彼らは密集していた。ひどく狭い場所に。
そのまま視界が空へ向かって流れた時、ようやく事態を把握した。
鐶の腕に握られている。
ただし彼らいうところの「可愛らしいお嬢さん」のような腕ではない。
恐ろしく鋭い爪と刃物流れる生産ラインのような鋭い羽毛に彩られた
ホムンクルスの腕で、絶え間なく十体のムーンフェイスを圧迫する。
付記すればもう片方は少女のたおやかな腕のままであり、その非対
称ぶりが何とも怪物じみている。
(こりゃあブラボー君と戦った時の方がましかも)
ひどくヤケの濃い微苦笑を漏していると、鐶の上昇が止まった。
見れば彼女は羽を生やしていた。猛禽類を思わせる雄々しい両翼を。
ムーンフェイスにとってはさっき自分を殺した兵器だ。
見るに耐えなく下を見ると銀成市が一望できた。
ひどく高い。百や二百の高度ではないだろう。
「おや、ずいぶん飛んでくれたね」
「このまま月にでも運んでくれたら何かと助かるよ」

137 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:06:27 ID:R6bzrkry0
「まぁ、君のコトだから他に目的があるのだろうけど」
「……掴まれている限り、これ以上の分裂はできない筈、です…………
けれどそれでも、地上に戦力を残存させて……いる筈」
鐶の問いの真意が一瞬測りかねた。
ゆらいムーンフェイスのように飄々とした陽気な男と寡黙な少女は噛み
合わない部分が多々ある。
が、そこは狡知狡猾の錬金術師だ。
一拍置いて理解すると、四十に近い男としては恐ろしくあどけない微笑
を浮かべた。
「もちろん! どんなに遠く離れていても」
「一体でも残っていれば再生するのが我々だからね」
ここで隠し立てせず悪びれもせず笑って見せるのがムーンフェイスと
いう所か。
「それを……探します……」
フクロウの丸い眼が眼下の街をきょろきょろと見回した。
時には瞬きを混ぜ、首を三百六十度回転させ。
「総て捕捉」
短いつぶやきと共に急降下。

……同時刻、銀成市各所で巨大な流星が目撃された。
そのもたらした被害は──…

家屋一軒が全壊。
ムーンフェイスをひっつかんだまま容赦なく家に突撃した鐶はそこに
潜んでいたムーンフェイスをまだ人型の手にあるボロックナイフで斬り
捨てた。
ホムンクルス幼体へ戻りし相手を尻目に水平に飛翔。
庭の柿の木の下にいた三体のムーンフェイスを翼で持って両断。
周囲の家の屋根や屋内で様子を見ていた計八体のムーンフェイスも、
翼からのミサイルのような羽毛で即死。
石塀を何枚もブチ破りながら鐶はなお飛んだ。

138 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:08:46 ID:R6bzrkry0
途中、庭や道路や電柱の陰に潜んでいたムーンフェイスを体当たりで
粉砕するコト六体。
ようやく逃げを選んだらしいムーンフェイスが道路を走っているのを見
つけた。
鐶の口に変化が生じた。唇が硬質の三角形へ隆起したのだ。
その三角は前に向かってぐんぐん伸びていく。
嘴(くちばし)
鳥類なら必ず有する器官が伸びた。
だがその長さはどうだろう。顔からまっすぐ五十センチばかり伸びている。
鐶の瞳はフクロウのそれであるから、こういうシギのような長い嘴を有
するコトはひどく不統一な印象がある。
ともかく、ムーンフェイスはなおも逃げる。
しかし鳥と徒歩。距離は縮む一方。
よって。
加速の赴くまま鐶は”二十九体目”のムーンフェイスの背中に嘴を突き
立て、もはや当たり前のように家屋や石塀を瓦礫にしながら飛び、電
柱に叩きつける事でようやく止まった。
「これで総て……です」
鐶の手中で月の潰れる嫌な音がした時、そこにいた実に十体ものムー
ンフェイスが息絶えた。
「ああ、総てだとも」
背中を刺されたムーンフェイスが振り向き、口をクジラのそれに歪めて
ニカリと笑う。
「『この辺りにいたのは』、ね。所詮散歩も襲撃も……ヒマ潰……し」
言葉とともに月が消える中、鐶は元の人間然とした姿に戻り、ボロック
ナイフでブロック塀を引っ掻いた。
「……ここにいたのは二十九体。では……残る一体は……どこに?」
不可思議にも修復を開始した住宅街の中で、鐶は一人ごちた。


139 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:09:43 ID:R6bzrkry0
早坂秋水。
逆向  凱。
小札  零。

場にいた者は全員、その出来事に目を見開いた。
秋水と逆向が激突すると思われた瞬間。
俄かに逆向の腹から手が生えた。
彼の切り札でないコトは、顔に生じた驚愕と苦悶から明らかだ。
「ずっとこの時を待っていたよ」
秋水は見た。
逆向の腹から生える、白い手袋と黒い袖を。
いつまでも忌まわしい記憶から離れない衣装を。
「何せ君は切り札を隠し持っている上に、まともな武装錬金やホムンク
ルスじゃダメージを与えられないと来ている」
響くのは、この場にいる総ての者がマイナス感情を覚える声。
逆向の口から生々しい音が迸り、血が吐き出された。
「でも、弱ってしまえば話は別。わざわざ分身を一体だけこちらに残して
おいたのも、君が戦闘で弱るのを待つため」
小札も見た。
一体いつ現れたのか。逆向の背後に佇む長身の影を。
「『もう一つの調整体』。廃棄版だけど君は飲んでいたよね。だから剣
持君に殺された君がこうして蘇り、また死ぬコトができる」
「き、貴様ァ……!!」
逆向は横目を這わせ、影の正体を見た。
「おや、何をそんなに怒ってるんだい?」
影──ムーンフェイスは逆向の腹から手を引き抜く。
「私はちゃんと”魂胆は共倒れ”って告げたさ。忘れた君の方が悪い」
何かを握っているようだった。
掌に隠れて見えないが、何かを。
例えばホムンクルスの幼体のような小さな物体を。

140 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:10:56 ID:R6bzrkry0
「頂いていくよ。まぁ安心したまえ。触媒にした震洋君は手当すれば
ひょっとしたら助かるかもね。まあ、無能な信奉者一人介抱するコトに
どれだけの意味があるか知ったこっちゃないけど、別にいまこの場で
わざわざ私が殺すまでもない」
逆向だった震洋の体が水面に倒れる。
その派手な音に秋水の感情は臨界を超えた。
「ムーンフェイス!!」
思えば、苦渋の思いで選んだ残党殲滅が、ただムーンフェイスに漁夫
の利をもたらすだけの物に過ぎなかったのだ。
かつて今ほど無意味な戦いがあっただろうか。
(そのせいで彼女は、ヴィクトリアは──…!)
気づけばムーンフェイスの背後に回り、逆胴を放っていた。
「まったく、物覚えが悪いね君も」
剣閃は見事に憎い相手を横に両断したが、もはや一体二体の打倒が
無意味なのは明白。
秋水の背中に鋭い感触が軽く触れた。月牙。増殖したムーンフェイス
が背後にいて、鼻歌交じりに当てている。
「あ、そうそう。言い忘れるところだった」
巨大な黄色い顎が秋水の肩を行き過ぎた。
ムーンフェイスは常人をしのぐ巨大な口を秋水の耳元に当て、こういった。
「双子の弟。何やらさっきホムンクルスの少女を救おうとしていたよう
だけど」
目を見開く秋水の横で、ムーンフェイスは嘲笑をありありと浮かべた。
「君には無理だよ。元・信奉者風情に振り払えるほど、錬金術の闇は
浅くない。それとも君はホムンクルスを救えるほど強いとでも思ってい
るのかな? だとしたらそれはとんでもない勘違いだね。戦士になった
としても君は私と初めて出会った夜のようにずっとずっと無力のまま。
無駄な努力はやめて、さっさと諦めたらどうだい?」
「黙れ!」
踵を返し斬り捨てる。無駄と知りながら斬り捨てずにはいられなかった。
「無駄無駄。きっといつか君はあのお嬢さんだって殺す羽目になる」

141 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:12:48 ID:o7CrCSxl0
「例の突撃槍(ランス)の少年だって、君をかばってくれたのに後ろから
刺しちゃったしね」
「おお、まったくヒドい話。耳を塞ぎたくなるよ」
「流石の私でもそこまではできないね」
ムーンフェイスは四体になり、秋水の前で口々に囁く。
最も聞きたくない言葉を同じ顔が続けてのぼらす様は、悪夢に似ていた。
しかし彼らのいう言葉はすべて事実なのだ。
だから咎をあがなおうと戦った。考えうる限り世界の中で努力して、わ
ずかだが強さを増したと思っていた。
しかし結果はどうだろう。
少女を策謀のせいで救えず、単騎で逆向を下せず、苦慮をあざ笑う黒
幕すら斃せずにいる。
何一つ、償いができていない。
安定させた筈の精神が騒ぎ出す。
一つの絶望的な思いが脳裏の奥で蠢く。
今まで何度も振り払おうとしたその想いは、今晩の戦いの結果のせい
で首をもたげる。
そして。
「幾ら頑張ったって無駄。きっと君は弱いまま、同じ過ちを繰り返す」
まるで見透かしたようにムーンフェイスは指摘する。
秋水の全身を、熱した鉄のような冷やかな熱気が突きぬけた。
「黙……!」
声とともに血が飛び出た。気管支か肺か、呼吸器系からの出血だ。
ひどく呼吸が苦しい。皮膚が青ざめ、体が冷える。
背を丸めて顔を伏せずにいられない。
脱力は激しく、杖にする刀から今にも手が滑り落ちそうな感触がある。
そんな秋水を見るのに飽きたのか、
「おや、ブレミュのお嬢さんもいたようだね」
ムーンフェイスは小札に視点を移し、笑った。
白眼に灰色の瞳孔をぽつねんと浮かべ、口を恐ろしい鉤に裂いてニン
マリと。
(ひ、ひえええええええ〜っ! こっち見ないで頂きたくぅ〜!)

142 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:13:26 ID:o7CrCSxl0
小札はガタガタと震えて必死にムーンフェイスから目を放した。
暗い所で見るまっ黄色な顔が怖くて仕方ないらしい。
「君の仲間、かなり強かったよ。でも総角君が出張ってきてないという
コトは、彼は彼の目的を果たして……って聞いちゃいないね」
眉をひそめるムーンフェイスの視線の先で、小札がオノケンタウロス
(ケンタウロスのロバ版)になって逃げるところだった。
「ともかく今晩はお開き。ちなみに君はまだ殺しはしないよ。まだまだ
総角君たちも潰してもらわないと。じゃあ、また逢える人を心待ちにし
ているよ」

数分後、最後の力で秋水は千歳に連絡を取った。

寄宿舎管理人室。
「……L・X・E残党は制圧。ムーンフェイスも逃亡したそうよ」
「そうか。良かった。後は戦士・秋水を聖サンジェルマン病院へ」
「ええ」
千歳が斗貴子を伴って瞬間移動した。
聖サンジェルマン病院へ行ったのだ。そこで秋水収容の段取りも整え
るのだろう。
防人は嘆息せざるを得ない。
(それでもまだ問題は山積みだな)
秋水の負傷。ヴィクトリアの追跡。総角たちとの決着。
そして、『もう一つの調整体』の回収。
まひろの傷心も気にかかる。
斗貴子の精神とてかつてないほど傷を受けている。
「五体満足で戦えそうなのは、私だけですね」
桜花がぽつりと呟き、根来はうろんげに彼女を見た。
「斜陽の刻だな」
彼のつぶやきに防人は首肯せざるを得ない。
戦力が減少し、問題ばかりが増えていく。
「それでも戦士・秋水はよくやってくれた。おかげでL・X・Eの残党だけ
は壊滅したからな」

143 :永遠の扉:2008/02/08(金) 15:15:10 ID:o7CrCSxl0
                                            .
何もかもが崩れていく期間。
そんな斜陽の刻の中、はたしてどれだけの事が成せたのだろうか。
気づいた時、逆向は薄暗い部屋の中にいた。
大きな大きな部屋。
埃が闇の中で舞い、うっすら差し込む光に帯を作っていた。
そこでは浜崎が岩のような体であぐらをかいて、本を読んでいた。
部屋の片隅ではチンピラとミドルショートの男が口論していた。
金城と陣内だ。犬がいいか猫がいいか、そんなつまらないコトを論じて
いるのが聞こえた。
痩せた大男と太った大男が二人、雀卓を挟んで座っている。
静かだがどうせイカサマでも目論んでいるのだろう。
逆向はいつものように軽蔑を覚えた。
肩を叩かれ、振り返ると佐藤がいた。
いつものように気弱でへつらった表情。
意味もなく怒鳴りつけたくなったが……
言葉を飲み込み、そのまま歩く。
行く手では白髪の老人がテーブルを広げ、食事を摂っていた。
逆向は盟主に跪く。
それが彼の存在意義だった。
斜陽の刻に進みゆく滅びの針を見過ごせなかったのも、存在意義の
せいだった。
悪であり陋劣であり万人に害なす概念でも、傾倒した以上それを捨て
去るのはできなかった。
やがて食事を終えたDr.バタフライその人は口を開き何かを発す。

──斜陽の刻は、そこで止まった。

144 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/02/08(金) 15:15:53 ID:o7CrCSxl0
とりあえずこれにてLXE勢退場。
ムーンは彼らしくひょいと出てくるでしょうけどw
次回からはヴィクトリアとまひろを主軸に進めます。

>>125さん
描けるうちに描いておかないとw 
小札は実に楽しいですね。でもそろそろ他の連中も描いてやらないと。
まひろはまた後ほど。非戦闘キャラなりの活躍をば。

>>126さん
剣劇はいいものです。
しかるに可愛いおにゃのこの方に力が傾いてくのも困ったもので……w
いつかおにゃのこ抜きにガチ戦闘描きたいです。うん。

>>127さん
はい。原作準拠です。放出については6巻の武装錬金ファイルを元に。
いわば補助的な役割ですが、それだけに最後の決め手に使いやすいと
思うのです。l

145 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:05:59 ID:ecduHVL30
 虚木藍さんの来訪、彼女の超絶電波話、飛鳥井全死さんの襲来、という
コンデンスミルクとカルピス原液を煮詰めたようなめっちゃ濃い時間が過ぎ去り、
やっと事務所に束の間に平和が訪れた、と思っていたのだったが──。
 まだ、今日という特濃デーは終わりを告げてはいないようだった。
 なぜなら、
「桂木弥子さん。済みませんが、しばらくわたしに付き合っていただけませんか」
 事務所の入り口に小さな女の子が立っている。
「ご心配なく。全死さんはもう帰りました。これはわたし個人の要請であり、全死さんは関知していません」
 どこか冷たさすら感じる理知的な面差し、線の細い体にまとうセーラー服。
 その子には、以前一度会ったことがある。
 名前は、確か──。
「荻浦嬢瑠璃です」
 言葉にしないわたしの思考を汲み取ったかのように、彼女はそう言った。

 そして十数分後、わたしは車の助手席に座っていた。
 それは、事務所が入っているビルの前に路駐されているクーペで、この中で待ってるように言われたのだ。
「お待たせしました。ちょっと用意するものがありましたので」
 運転席のドアを開け、嬢瑠璃ちゃんが待たせたことのお詫びを告げる。
「ううん、わたしも今事務所から降りてきたばかりだから」
「そのようですね。では行きましょうか」
 と言うや、嬢瑠璃ちゃんはまるで当然のように運転席に乗り込む。
 見た目は大人しそうで賢そうな女の子だけど、さすがは全死さんの関係者だ。さっそくツッコミどころを提供してくれる。
「ちょっと待てえええ!」
 イグニッションキーを差し込もうとしていた彼女の手がぴたりと止まる。
「はい。なんでしょうか」
「じょ、嬢瑠璃ちゃんが運転するの? 免許は?」
「日本の法律では、わたしの年齢で運転免許を所持することは不可能です。当然の帰結として、無免許運転です」
(確信犯かよ!)
「ですが、ご憂慮には及びません。運転技術はマスターしてあります」
(そういう問題じゃねえ!)

146 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:08:31 ID:ecduHVL30
 たとえ口にしなくてもわたしの内心は十分に伝わっているはずなのに、
「シートベルトをお願いします」
 嬢瑠璃ちゃんはそれをあっさり無視して車を発進させた。
 言うだけあって見事なくらいにスムーズな加速で、瞬く間にギアを三速まで切り替える。
 しかしそれでも、わたしは気が気じゃなかった。
 彼女の運転が不安だという訳ではなく、警察に見咎めらたらどうしようとかそういうのでもなく、
なんというか──嬢瑠璃ちゃんのような中学生が運転席に座ってステアリングを握っているという光景が、
日常と非日常の入り混じって混沌とした──とてつもない違和感を醸し出しているのだ。
 それは、これまで出会った全死さんの関係者が共通して持っている感触だった。
「貴女は──いえ、貴女と脳噛氏は、虚木女史の依頼を受けるつもりですか?」
 街中で堂々と車を走らせる嬢瑠璃ちゃんは、赤信号の合間にわたしへと向き直った。
「うん……多分ね。受けることになると思う」
「以前、虚木女史は『参宮』と呼ばれる特殊任務に従事していました。
この話の本筋ではないので詳細は省きますが、宮下乖離という民間人を協力者としたある種の捜査活動です。
この『参宮』で、虚木女史は数々の迷宮入り事件を解決に導いてきました。
ですが──その任務は宮下乖離の死亡を以って終焉を迎えました」
「──死んだ?」
 信号が青になる。嬢瑠璃ちゃんは前方に視線を戻し、ギアを入れる。
「詳しく知りたいのでしたら、その件の当事者であった香織さんに聞くといいでしょう。
問題はそこではなく──貴女たちは、その『次』として虚木女史に選ばれたのです。
彼女は貴女たちを警察機構の外部機関として取り込むつもりです。それでも彼女に協力しますか?」
 藍さんの言っていた「恒常的な捜査協力」とはそういう意味だったのか、と今さら納得する。
 さっきはほとんど意味不明だった全死さんと藍さんの言い争いも、なんとなく輪郭が見えてきたような気がする。
 「誰かに利用される」というのは、ネウロがもっとも嫌っていることの一つだ。
 ネウロは思う存分他人を利用したいのであり、自分がそうされるのを良しとしない傲慢極まりない性格の持ち主だ。
 ──ただ、それには例外がある。
「それでも……そこに『謎』があるなら」
「この事件に『謎』なんてあるのでしょうか。貴女たちは有栖川恵を殺害した『犯人』を知っています。香織さんです。彼が殺しました。
いえ、そもそも、なぜ貴女は自ら『謎』に関わろうとするのですか? 失礼ですが、貴女について多少調べさせていただきました。
わたしの見る限りですと、『謎』を解くのは脳噛氏のカヴァーする案件で、貴女がそこに立ち会う必要はないように思います」

147 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:10:39 ID:ecduHVL30
 ──やっぱり、全死さんの知り合いだけあって只者じゃない。
 わたしがただの傀儡で、実際に『謎』を解く(くう)のはネウロだということを知っている人物は何人かいるけど、
それはそれぞれの人たちのそれぞれの『謎』を通して知られたことで、こんなにも初期の段階で看破されたことは初めてだった。
 「ちょっと調べただけ」で分かることではない、と思う。
「嬢瑠璃ちゃんにも──見えてるの? 『メタテキスト』ってやつ」
「さあ、どうでしょう。ご想像にお任せします。
ただ少なくとも、貴女が脳噛氏の隠れ蓑として使われていることを突き止めるのは、それほど困難なことではありません。
下部構造(インフラストラクチャ)のレヴェルでも到達可能な範囲です。
それに、わたしには見えようが見えまいが関係のないことです。わたしは全死さんの奴隷に過ぎませんから」
 ……「奴隷」ときたか。
 なんか、どうも身近に感じる言葉だ。
「今、『奴隷』という単語に反応しましたね? 脳噛氏に虐げられている身として、わたしに親近感を覚えましたか?
ですが、それは表層上の類似点でしかなく、わたしと貴女は根本的に異なる存在です。
わたしの行動の全ては、全死さんの意志を逸脱することがありません。わたしは全死さんの執行機関であり、完璧な主従関係が成立しています。
ですが、貴女と脳噛氏を繋ぐ関係は違うのではないでしょうか。わたしが知りたいのはそこです。
貴女はなぜ、脳噛氏のそばで『謎』に接しているのですか?」
 そう、最初はネウロの脅迫に負けていやいや謎解き(くい)に付き合っていた。
 だけど、今は違う。
 わたしは、わたしなりに思うところや考えるところがあり、ネウロと行動を共にしている。
 そして、ネウロにはネウロにしか出来ないことがあるように、わたしにしか出来ないこともある。そう言い切れる。
 わたしがネウロと共に『謎』に関わる理由、それは──。
 めっちゃ真面目な顔で嬢瑠璃ちゃんを見据え口を開こうとしたそのとき、
 キィッ、ごん。
 嬢瑠璃ちゃんが急ブレーキを踏み、身体ごとすっぽ抜けたわたしは思いっきり頭を打ちつけた。
「……大丈夫ですか? だからシートベルトをお願いしたじゃないですか」
「ご、ごめん……」
 額を押さえてうめくわたしを呆れたように見下ろしながら、嬢瑠璃ちゃんもシートベルトを外す。
「到着しました。降りてください」
 ドアを開けてすたすたと歩き出す嬢瑠璃ちゃんを追って、わたしも慌てて車から降りる。
 そこは駅前の繁華街だった。

148 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:13:49 ID:ecduHVL30
 夕暮れの雑踏を掻き分けながら、嬢瑠璃ちゃんはずんずん進んでゆく。
 それはまるで目的地まで一直線、といった感じで、わたしははぐれないようするのがやっとだった。
 やがてビル街の大通りを一本逸れた路地に足を踏み入れ、立ち並ぶ店舗の一つ、オープンカフェへと向かっていく。
 そして、嬢瑠璃ちゃんはあるテーブルの前でふいに足を止める。
 その席にはひとつの人影があった。
「──やあ、よく俺がここにいると分かったな」
「なんとなく、ここにくれば貴方に会えると思ってました。文脈的に」
「文脈的に、ね。なるほど。──で、なんの用? 全死さんのお使いか?」
「わたしがここに来たのは、わたしの判断によるものです。大局的な見地で言えば全死さんの判断とイコールですが。
──貴方に会わせるために、ある人をお連れしました」
「ある人? 誰」
 そう言って、彼は首を巡らせてわたしを見る。
 その瞬間、彼は露骨に顔をしかめた。
「──おい、なんで彼女がここにいるんだよ。全死さんとデートじゃなかったのか」
 多分、わたしも同じように顔をしかめていたと思う。
 『不可触(アンタッチャブル)』の『辺境人(マージナル)』、習慣の殺人鬼──香織甲介さんだった。

 場の空気はかなり気まずかった。
 香織さんは物凄く嫌そうな顔をしていた。その気持ちは分かるような気がする。
 彼は「わたしに会いたくない」と公言していたし、自分の犯罪行為の目撃者と好んで会いたがる人物など稀だろう。
 ──その気持ちは分かるが、わたしにはどうしようもないことだった。
 こっちだって、どんな顔をすればいいのかよく分からない。
 なので、この重苦しい雰囲気を紛らわすため──わたしはひたすら食べまくることにした。
 とりあえず、メニューに書かれた料理を上から順に一回転注文する。そこから先は食べながらお腹と相談することにする。
 幸いにも、今月のお小遣いを貰ったばかりなので懐には余裕がある。その後の財政が火の車になるのはミエミエだが、それも後で考えることにする。
 ウェイトレスさんに注文を伝え終わったとき、
「──もしかして、君は海難事故から帰還したばかりなのか?」
 と、ぼそっとつぶやく香織さんの声が心に突き刺さったけれど。

149 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:17:15 ID:ecduHVL30
 
 わたしは食べるのは大好きだ。
 ご飯を食べている間だけは、嫌なことなんか綺麗さっぱり忘れられる。
 手始めにトーストとシーザーサラダが運ばれてきた。
 一口食べて感心する。どうやらこの店は、たっぷりバターを塗ってからパンを焼いているようだ。
 噛み締めるたびに熱々のバターがじわっと滲み出てくる。
「──そう言えば、さっき都草りなこと会ったぞ。ケーキ奢ってやったよ」
「余計なことはしないでください。りなこには貴方に奢ってもらう理由がありません」
「理由ならあるさ。彼女は俺のものだからな──そんな怖い顔するなよ、冗談だ」
 ベーコンサンドと和風海鮮サラダ、鳥の唐揚げを食べ終わる頃には、三種類のパスタが運ばれてくる。
 カルボラーナが特に「当たり」だった。下手な店だとソースがダマになっているのだが、ここのはしっとりとまろやかに仕上がっている。
熱の加えかたにコツがあるのだが、ソースに卵の白身を使うか使わないかも重要な要素だった。
「貴方の存在はりなこにとって悪影響です」
「──ずいぶん直截に言うなよな。いや、君のそういうところは好感持てるけど」
「もっとはっきり言いましょうか。わたしは、貴方ほど女性にだらしない人を他に知りません」
「なんでだよ。至って真面目なもんさ、俺は。とっかえひっかえとか手当たり次第とかは、俺の対極に位置する言葉だぞ」
「現象レヴェルで見ればそうでしょう。ですが──ああ、もう、こんなこと説明しなければ分かりませんか?」
「分からないね。ぜひ解説が欲しいところだ」
「こんな馬鹿げた話、口にもしたくありません。どうしても知りたいと言うなら、
今すぐ秋葉原にでも行って美少女ゲームを買い漁ってプレイしてください。そこに答があります」
「そこでエロゲと言わないところが歳相応で可愛いよな──だから冗談だって。睨むなよ」
 次に現れたのは香ばしい匂いを漂わせるジンジャーポークだった。
 ジンジャーポーク、またの名を豚の生姜焼き。
 豚の美味さはなによりも脂の味で決まる。豚は脂が美味い。
 ヘットよりもラードが料理によく使われることからも、それは明白だ。ラードはそのまま白飯に混ぜてもいける。
 そして──この豚は決して高級なものではないが、それでも及第点以上の味わいだった。
 醤油と生姜の黄金のような組み合わせが、肉の旨みを何倍にも増幅していて、なんというか、もう──最高だ。
 いつも思うが、生きてて良かった。ありがとう豚肉。ありがとう生姜。

150 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:33:20 ID:ecduHVL30
「それで、君はもう中学校には戻らないのか? りなこが心配してたぞ」
「まあ、いずれは一度戻るつもりです。ですが、それよりも優先すべきことがありますので。
──言っておきますけれど、わたしはまだ貴方を諦めたわけじゃありませんから」
「その件なら丁重に断ったはずだけどな」
「一度や二度拒否された程度で断念するなら、最初から貴方を見初めたりはしませんでした」
「……意志が強いってのはけっこうなことだ」
 そして運ばれてくるアジフライ。添えられたソースはタルタルソース。
 タルタルとは韃靼人のことらしい。
 ちなみにタルタルソースのベースとなるマヨネーズはマヤ人を指すとも言われてるが、こっちは俗説だったりする。
 それはともかく、卵と酢という神がかった配合のこの調味料は、ありとあらゆる料理に合う。
 というか、生で一本飲むことだって出来る。これを考えた人にノーベル料理賞を進呈したい。
 サクサク食感とアジの微かに甘い脂がタルタルソースに優しく包まれ、
口に運ぶたびに脳内でドーパミンやらエンドルフィンやらがばんばん分泌されてるのが実感できる。
「しかし彼女……よく食うな。ここまで旺盛だと、胸が焼けるのを通り越して逆に空く思いだ」
「育ち盛りというやつではないでしょうか」
「君も見習ったらどうだ?」
「その発言はセクハラですよ」
「……そうなのか?」
「朴念仁の貴方には理解できないでしょうけど」
「はいはい、どうせ俺は愚鈍で無神経で鈍色鮪ですよ」
 さて、そろそろ注文したメニューの弾切れが近づいてきた。
 テーブル上に所狭しと並べられたデザート群を眺め、えもいわれぬ恍惚の中にちょっとだけ寂しさを感じる。
 まずはミルフィーユに手をつける。
 ミルフィーユの正しい食べかたをご存知だろうか。
 皿に載せられたミルフィーユを普通のケーキと同じように上からフォークで切り分けてしまったら、
超繊細な極薄多層構造であるミルフィーユは、フォークの圧力に耐え切れず押し潰されて無残にもぼろぼろになってしまう。
 だから、ミルフィーユを綺麗に食べるためには、まずフォークで側面を押して横倒しにするのだ。
 側面が上向きになった状態で層に垂直にフォークを入れると、遥かに無理なく切断できる。
 そして、そっとこれをすくい上げて口に入れる。
 するとどうだろう。ミルフィーユは口の中でほろほろと優しく崩れて、なんとも言えない食感を与えてくれるのだ。

151 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:39:03 ID:ecduHVL30
 
「──なあ、そろそろいいか?」
 お腹いっぱい桃源郷、幸せのアッチの世界とコッチの世界の境目をうろうろしてたわたしを呼び戻したのは、香織さんだった。
「……ふえ?」
「こっちは君が食べ終わるのを待ってたんだ。俺になんの用があるんだ?」
 甘い靄の掛かった思考の中で考える。
 確か、わたしは嬢瑠璃ちゃんに連れられてここに来ただけで、わたし自身にはこれといって特に──、
「用は……ないでふ」
「おい──」
 うんざりしたような香織さんの声。
 わたしの意識も少しずつ晴れてゆく。もしもわたしに香織さんと会うべき理由があるのなら、
それは、わたしをここまで連れてきた嬢瑠璃ちゃんが知っていることじゃないのかと考えた。
 隣の嬢瑠璃ちゃんを見ると、彼女は軽く頷いてわたしの目を見つめ返す。
「そうですね、桂木さんの食欲が満たされたようなので、話を先に進めましょう。
わたしが貴方がたを引き合わせたのは──間もなく開始される闘争への予備行動です」
「えっと……どういう意味?」
「貴方がたはすでに認識しているはずです。この世界のあらゆる場所が生存闘争のための戦場であることを。
その中で、我々はどういう戦略を講じるべきでしょうか? また、その戦略に於いてどういった戦術を選択するか、
我々は常に考え続けねばなりません。敵を知り、己を知れば百戦危うからず──今、貴方がたに求められるものは情報です。
『探偵』、そして『犯人』──非常に形式的で形骸化された構図ですが、この馬鹿馬鹿しい両陣営に分かれているのが現状です。
闘争が本格化する前の情勢を鑑みるに、互いの情報を開示することは、大きな意義があります」
「──冗談言わないでくれ。俺は『不可触(アンタッチャブル)』だ。この子なんか敵じゃないし、敵になるつもりもない。
俺が望むのはレギュラーだ。それ以上でもそれ以下でもない。情報交換なんかより、没交渉に徹したほうが事は穏当に済む」
 ただ耳に入れただけじゃなに言ってるかさっぱり分からない嬢瑠璃ちゃんの演説じみた言葉だったが、
香織さんは普通に返事していた。類友というか、やっぱりこの人たちは普段からこういうことばかり言い合っているのだろうか。
「ええ、貴方は『辺境人(マージナル)』です。勝者でも敗者でもなく、奪うものでも奪われるものなく、
今の中途半端な立場を頑なに固持している途方もない偏屈者です。この世に稀なる絶対に近い傍観者です。
ですが──それすらも限度があります。貴方も血と肉を具えた人間です。ハードウェアの制約から逃れることは不可能です。
それは、宮下乖離の件で不覚にも『当事者』となってしまった貴方こそがよくご存知のことではないでしょうか?」

152 :脳噛ネウロは間違えない:2008/02/08(金) 16:50:00 ID:ecduHVL30
「相変わらずの諧謔趣味だな、君は。……要するにどうしろと?」
 おお、その言葉を待っていた。
 本当はわたしが言いたかった言葉だけど、なんかそれを言うと「わたし馬鹿でーす」と宣言してしまうような気がして
ちょっと抵抗があったので、香織さんが率先して言ってくれた事は素直に嬉しかった。
「分かりました。では端的に言います」
 と、嬢瑠璃ちゃんは学生鞄からなにかの紙片を二枚、取り出した。
「これを差し上げます」
 それは映画のチケットで、近頃各種メディアで話題になってる、恋愛小説を映画化した作品だった。
 香織さんは首をひねりながらチケットを嬢瑠璃ちゃんから受け取る。
「……この映画を見れば、君の言う情報開示とやらが達成されるということか?
俺はこの映画のことは知らないが、そんな哲学的な内容なのか?
──まあ、別にいいけどな。どうせ学校以外の予定はないんだ。二回も映画で暇を潰せるならラッキーだ」
「寝言を言わないでください」
 思いっきり軽蔑の色を滲ませた冷たい声が香織さんに飛ぶ。
「なぜ貴方が一人で二回も見るのです。一枚は桂木さんのに決まってるじゃないですか」
「誰がそんなことを決めたか知らないが、否定する理由はないな。富の分配というやつか」
 この人って、けっこう天然なのか? というわたしの思いをよそに、香織さんは一枚をわたしに差し出す。
「ほら」
 「はあっ」とわざとらしい溜め息をつき、嬢瑠璃ちゃんが香織さんを睨みつける。
「貴方という人は本当に……どうしようもない朴念仁の唐変木の頓馬で愚鈍極まりないですね」
「……なにがだ?」
「あの、本当に分かっていないんですか? わたしをからかってるわけではないですよね?」
「俺はいつだって真面目だけど。人をからかうのは趣味じゃない」
「……桂木さん。貴女もそうなんですか? 一から十まで説明しないと理解できませんか?」
 意図的に抑えた声音とともに、嬢瑠璃ちゃんがわたしを見る。
 それは蔑むでも救いを求めるでもない、ただ確認しているような、静かな視線だった。
 ──もちろん、わたしには嬢瑠璃ちゃんの意図は十分すぎるくらいに分かっていた。
 ただ、それがあまりにも突飛でありえないことだったので、反応するのが遅れてしまっていただけで。

「えーと、つまり……これを観に行けってことだよね? わたしと……香織さんとで」

153 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/08(金) 17:00:46 ID:ecduHVL30
やさぐれ獅子を一日目から読み通すのと平行して最新話を読んでいると、
敵の強さのギャップに目が回る思いです。
長期連載の少年漫画を再読する醍醐味に通じるものがあります。

154 :作者の都合により名無しです:2008/02/08(金) 18:38:58 ID:K3hk73Hm0
スターダストさん
ムーンってこんなに強かったっけ?原作ではブラボーに割合簡単に負けたような
でもあのキャラは随一のものがあるのでレギュラー化は嬉しいですね

ハロイさん
なんかバキに通じるような食のシーンの上手さですね。香りが漂ってきそう。
嬢瑠璃とヤコは静と動の性格反対の女子高生コンビでいいな。

155 :七十九話「震撼する大地」:2008/02/08(金) 20:06:04 ID:8z3x161Z0
「救命阿!救命阿ァァッッ!」
もう駄目だ、助かりっこない。
分かっていても叫び声を上げてしまう。
違う、こんな筈ではなかったのに、範馬の血に並ぶ力を手にした筈なのに。
奴等の存在が私の否定とも言えた、四千もの年月をかけて国に蓄積された武。

『強くなる』それだけの為の鍛錬、それだけの為に費やした生涯。
追い越したかった、巨恐の血を屠る事を密かに夢見ていた。
敗れた時に虚しさを感じた、努力がこんなにも無意味なのかと。
そして再び敗れた、何も背負わぬ一人の男に。
中国の歴史を、海王の名を背負う私が敗北した。

壊れた両腕では引き裂かれた大地にしがみ付くこともできない。
青空が遠ざかる、嗚呼・・・こんなことになってから気付くなんて。
私が身を埋めたかったのは此処ではない、母なる大地・・・中国。
私欲に溺れた、私が『強くなる』為に費やした鍛練の全ては、
母国の為だったというのに、己の為だけに『強くなる』べく邪神に身を捧げてしまった。

眼に涙を浮かべそうになるが、死の淵にまで恥を持ち込む訳にはいかない。
重力に従い、真っすぐ地の底へと落ちて行こう。
そう思った矢先に慣性の法則が乱れた、折れた腕に激痛が走る。
見上げると、シンが崖に張り付きながら穴のあいた腕で自分を掴んでいた。

槍の一撃にも勝る手刀を打ち込んだ腕から、絶えず血が流れていた。
絶句しながらそれを見上げる烈の顔にポタポタと小さな音を立てて真赤な雫が滴る。
苦悶の表情一つ見せなかったが、骨肉に空洞の出来た腕に人をぶら下げているのだ。
痛くない筈がない、肉体が手を離せと命令しているだろう。
だが、男は決して手を離さなかった。

「何故・・・私を助けるッッ!」
「救いを求める声をユリアが聞けば、こうする事を望むだろう。それだけだ。」

156 :七十九話「震撼する大地」:2008/02/08(金) 20:07:08 ID:8z3x161Z0
「死者の望みが何になる!」
「何にもならんさ・・・だが誓った、ユリアの望む物は全て手に入れる。
ケンシロウのような生き方、過去の俺には出来なかった。」

激しい振動と鍛え上げた筋肉を搭載した成人男性二人分の負荷は、
シンの手で掴める範囲の岩壁には残っておらず、ガラガラと周辺の岩が崩れる音と同時に亀裂が入る。
「だが一度死に、しがらみを捨てた今・・・ユリアの為に花の咲ける世界を守ってやりたい。
その微笑みの向き先が奴から変わらんとしても・・・!俺はユリアの為にこの命を使う!」

身体が再び宙に浮く感覚を取り戻す。
シンの腕には引き裂かれる大地ではなく、その破片しか握られていなかった。
「フッ・・・そう思ったのだが、闇に染まった俺では無駄な足掻きだった様だ。
ケンシロウ、今度こそはお前の拳で死ぬのも悪くなかったんだがな・・・ククク。」

裂け目に落ちる二人を助けるべく走るが、
ケンシロウの常人離れした体力も、シンとの連戦と烈との戦闘による負傷で底を突いていた。
地に膝をつき、地割れに飲み込まれる二人を見送るケンシロウの耳に、雄叫びが響き渡る。

「ぬぅぅぅぅ・・・おおおおおお!」
ホークが動かぬ腕をブルブルと震わせている、回復に専念させる為に動きを封じていたのだった。
秘孔を解除しなければ、声をかけようと思った瞬間、ホークの腕が風を斬る様な速さで動いた。
新胆中、かつて病に蝕まれた兄が自分を戦わせまいとして使用した秘孔。
その時は流れ落ちる兄の血を見て、無我夢中で振り払った。
それを今、一人の海賊がやってのけていた。

懐から愛用の斧を手に取り、両手で掴み力任せに地面に叩きこむ。
グランドスラム、大地を震撼させる剛腕の放つ一撃。
轟音が周囲に響き渡り、地面がひび割れて行く。

裂けた大地と交差するよう、新しく大地を引き裂く。
すると一瞬だけ、一度踏めば瞬時に崩れ去るであろう足場が出来る。

157 :七十九話「震撼する大地」:2008/02/08(金) 20:08:11 ID:8z3x161Z0
「飛ぶぞ、烈海王。」
「貴様ッ!何を・・・。」

名前で呼ばれた事に気づき、つい喋ることを忘れてしまった。
男が『海王』の称号の持つ意味を、知っていたかどうかは定かではない。
間違えを犯した身であっても、『海王』の名は守らなければ。
こんな場所で死ぬ訳にはいかない。

「闇は、振りほどけたのだろう?」
「・・・ッッ!」

シンは分かっていた、助けた理由はユリアの望み、というだけではない。
烈が崇高な精神、高貴な魂を持った武道家であることを見抜いていた。
己と同じく邪神の操り人形として、神の掌で踊っていただけだった事を。

シンの折れた腕を、折れた腕で強く握り返す。
骨が肉の中を暴れまわるのを堪え、二人で高さを揃える。
そしてホークの造りだした足場へと、踏み込む。
「「斗ッッ!」」

足場へ二人の力が伝わり、飛ぶと同時に崩れ去った。
大地へと手を伸ばす、だが僅かに届かない。
岩壁にしがみつくか、しかし地層が柔らかく二人分の重さに耐えれそうな部分は無い。
脳裏に諦めの念が浮かんだその時、大地から伸びた手がシンの手を掴んだ。

「大丈夫か、シン。」
「チッ・・・また借りができたのか、清々したと思ったんだがな。」

憎まれ口を叩きながらも、口元には笑みを浮かべていた。
引き上げられ、余りの疲れに大地に転がり空を見上げていると、
青空にほんの一瞬だけ南斗六星が輝いた気がした。

158 :邪神?:2008/02/08(金) 20:10:09 ID:8z3x161Z0
またまた結構間が明きました、申し訳ない。邪神です。(0w0)
しかし今回はレポートに追われる身の為…許して下され。
いつもより短いですが区切りが悪かったので…取りあえず次でメルビルから出たい所。

〜感謝と講座〜

>>ふら〜り氏 烈老子も武術の試合なら殺しても犯罪にならないし、何人かSATUGAIしてそうです。
       でも必ず死者が出るような修行、試合法を提案する北斗、南斗の人間にはちょっと…。
       南斗十人組手とか負けたら100%死、あるのみ。
       こんな凄絶な修行を生き延びた人達に勝て、というのがまず無謀…。
       それはそうと、レッドの中の人…デンプシーを出させるとは。
       さすがヒーローショーを実力主義社会に変えた男。
       彼が怪人側の中の人になったら世界は闇に包まれるでしょうな。

>>クロ氏 愛こそ行動を起こす際の最も効率のいいエネルギーと作者も語ってますからなぁ。
     歪んではいてもシン以上にユリアへの愛に生きた男はいない筈。
     ケンシロウもユリアが望んだ、ってことでラオウの決着を優先した事があったり。

>>19氏 バキ君も主人公補正でなんとかできそうです、背中に鬼の貌つければいいんですから。
    
>>20氏 死に際に一花咲かせようと思ったのですが、利用法を思いついたので生存。
    でもパーティには加わりません、ロマサガは5〜6人が原則なのです。
    
>>21氏 このペース、終わるのは200くらいになるんじゃ…ヤバい(;0w0)
    新規の方にはあんな誤字だらけの序盤を長々と見て頂くことに…申し訳ないorz
    吉良は自分にしてはよく出来た方、設定の調べが浅かったのだけが心残り。
    
グランドスラム 地面を思いっきり叩いて地震を起こして攻撃する、両手斧技。
        実はミンサガでは地面は裂けない、ロマサガ2の地割れを起こす方を使った感じだ。
        どちらも片手斧では使えない事に変わりはないのですが、この作品では気合いでやった様です。

159 :作者の都合により名無しです:2008/02/08(金) 22:21:47 ID:1A/58BK60
いっぺんにきすぎだよw 読むの大変。

・永遠の扉
まだまだムーンフェイスの方が力も心理的な駆け引きも秋水よりずっと上か。
この作品のラスボスが誰になるかはわからないけど、ムーンは秋水にとって
超えなくてはいけない壁の1人でしょうね。マッドパーティを止めるためにも。

・脳噛ネウロは間違えない
確かに筆力が高い人が食事のシーン書くと旨そうだ。タルタルにそんな語源があったとはw
弥子は周りに巻き込まれながらも、物語の中心軸にしっかりと居座るヒロインなので、
ネウロや全死たち特濃キャラたちの中にいても、最後は締めてくれるだろうね。

・キャプテン
まあ、学生さんなので学業に時間をとるのは当然の事。ゆっくり完結して下さい。
相変わらず人間くさいケンシロウでいいっすね。烈の「救命阿ァァッッ」は残念だけど。
でも生きてるからまだ巻き返しのチャンスはあるかな。


160 :作者の都合により名無しです:2008/02/09(土) 00:18:19 ID:sAsQkDvD0
ハロイさんはマジでうまいな・・
うらやましい

161 :作者の都合により名無しです:2008/02/09(土) 14:31:02 ID:i0r3FTUZ0
>永遠の扉
ムーンフェイス以外にもバタフライ配下の強敵がいそうで
戦闘には事欠きませんね。まだまだ続きそうなんで凄いです…

>脳噛ネウロは間違えない
生姜焼き定食を食べたくなってきましたw
ヤコは変人たちを受け入れる器?があるので香織とのデート?も大丈夫ですよね

>その名はキャプテン
烈はこれから先、ついていけるのですかね、レベル的に?
神様の支配する世界だからな。原作の確変烈なら或いは、とも思いますが。


全然関係ないけど、ヤコの欲が食欲から性欲になったら相手に死人が出そう・・・

162 :やさぐれ獅子 〜二十七日目〜:2008/02/09(土) 21:00:30 ID:IR8adCpm0
 首から上は獅子と大蛇の混合、首から下はティラノサウルスのフォルム、標高五メート
ル。十センチを超える牙が規則正しく生え揃い、絶えず生温かいよだれを垂れ流している。
二つある胃袋には、それぞれ火と氷を貯蔵しており、いつでも外に吐き出すことが可能だ。
むろん、人語など一切通じない。
 巨躯に殺気を詰め合わせただけの、正真正銘のケダモノ。
 魔法を打ち砕き、天災を耐え忍び、死をも乗り越えた加藤に送り込まれたのは、竜神の
しもべであった。
「でかっ」
 加藤の第一声がこれだ。
 冷静に規模(スケール)だけを比較すれば、島全体を巻き込んだ風神と雷神の方が上だ
が、眼前に五メートルが居座るとやはり迫力が違う。
 
 ファーストアタックは加藤。
 勢いよく飛び出し、竜の腹に正拳をめり込ませると、跳び蹴り、前蹴りを突き刺す。さ
らに肥えた腹を駆け上り、顎にアッパーをぶち込む。
 並みの相手ならば『一本』を三回は取れていたコンビネーションだったが、相手は伝説
上の生物。平然と爪で体をかいている。
「この……ッ!」
 攻撃を再開しようとした矢先、尻尾によるフックが加藤を捉えた。
「うがっ!」
 ガードを吹き飛ばされ、体ごと飛ばされる。バウンドしながら十メートル以上転がった。
 すかさず立ち上がった加藤に、迷いはない。
「でかくて強い、分かりやすくていいな」
 鍛え抜いた足腰を爆発させ、またも正面から攻める。
(これはチャンスだッ! こいつを真正面から空手だけで倒せるくらいにじゃなきゃ、と
ても刃牙たちには勝てないッ!)
 もし果たせなければ、仮に東京に戻ったところで死ぬだけ。超重量級を相手取り、加藤
はもっとも危険な勝ち方を自らに課した。

163 :やさぐれ獅子 〜二十七日目〜:2008/02/09(土) 21:01:14 ID:IR8adCpm0
 竜が巨大な口を開くと、灼熱の炎が加藤めがけて噴き出された。
(ビビるな、走れッ!)
 逃げない。もし一瞬でも足を止めていれば丸焼けだったろうが、魔法使いとの戦いを経
て火には慣れている。紙一重でブレスを掻い潜ると、加藤は再度竜に肉迫した。
(──今ッ!)
 脳内麻薬と喧嘩空手が、魔獣を呼び覚ます。
 理性を生贄にした加藤の拳が竜を打つ。
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ッ!」
 拳が轟音を生む。一撃一撃に加藤の空手人生が込められている。尋常ならない重さ。こ
れが空手だ。
 さっきまでとは別人のようなラッシュに、竜も戸惑う。
 戸惑いは、やがて怒りに。
「ギャオオオオッ」
 尻尾フック。
 これを跳び上がって回避すると、そこには大きく開かれた顎が迫っていた。
(──喰われるッ!)
 咄嗟に飛び出た行動は、突きだった。沢山あるうちの一本ではあるが、拳が牙を見事へ
し折った。竜が怯んだ。
 加藤は追撃を止めない。それどころか、あえて竜の口に飛び込むと、柔らかい口内に貫
き手を容赦なく刺しまくる。
「ギャアッ!」
 たまらず竜が炎を吐こうとする寸前、第六感でそれを察した加藤は口から抜け出す。直
後、火を吐いた竜は口の中に無数に出来た傷を自ら焼いてしまう格好となり、激痛を声に
変換した。
「グギャアアァァァァオッ!」

164 :やさぐれ獅子 〜二十七日目〜:2008/02/09(土) 21:01:54 ID:IR8adCpm0
 竜の大絶叫を耳に受けながら、加藤はふと思考を巡らせる。
 たしかに竜は強い。サイズとパワーはこれまでの試練の中でも最高ランクに位置し、さ
らに生まれながらにして炎という武器も手にしている。反則といってもよい。
 しかし同時に、竜からは是が非でも加藤を打倒するという意志がまるで感じられない。
生まれ持った殺意と能力に頼って暴れているだけ。同じく獣であり虎であったドッポに比
べれば遥かに格上だろうが、ドッポはこの島のナンバーワンであることに誇りを持ってい
た。無生物であった人形や城も、製作者の命令を果たそうという命を持たないが故の執念
があった。これらに比べ、竜には何もない。大きくて強い、以上のものが何もない。
(こんな奴に……俺が敗けるかッ!)
 氷を吐き出す竜だが、何を吐き出そうと関係ない。加藤はすでに勝利を確信していた。
 廻し受けで氷を弾くと、一呼吸置き、懐に侵入する。
「シャリャアッ!」
 全身から捻るようにして放たれたローキック。五メートルが傾いた。
 加藤は止まらない。牛若丸の如く跳ね回り、竜の全身に空手技を味わわせる。
 立会人がいたならば、大勢は決したと判断するところだ。
 それでもなお──

 竜が振り払うように動かした腕で、加藤はホームランボールのように飛んだ。

 ──体格(サイズ)は嘘をつかない。
 痺れが体中に染み渡る。
 単なるまぐれで、視界がぼやける程のダメージを負った。
 巨体にもかかわらず、竜は跳び上がった。小さなビルにも匹敵する重量が、加藤に降り
注ぐ。

165 :やさぐれ獅子 〜二十七日目〜:2008/02/09(土) 21:02:35 ID:IR8adCpm0
 着地の瞬間、地盤が軋んだ。竜が踏んだ箇所はクレーター状に陥没してしまった。肝心
の加藤がどこにもいない。
 竜は首をきょろきょろさせ加藤を探すが、見当たらない。
 それもそのはず。着地の際生じた局地的な地震を利用し、加藤はトランポリンの要領で
大ジャンプを決行した。
 竜の頭の上に加藤は立っている。
「ガァオッ!」
 ようやく頭上の加藤に気づいた竜が、顔を上に向ける。が、これこそが加藤がもっとも
欲したシチュエーション。
 すかさず顔面部に移動し、
「セイッ!」
 まず右目──。
「ケリャッ!」
 次いで左目を全力の下段突きで潰す。
 たった二撃で、竜は暗闇に堕ちた。通常ならば勝負ありだ。
「グラオォォアァァァッ!」
 竜、再始動。
 炎と氷を闇雲に噴射し、五メートルもの巨体で駆けずり回る。視界がなくとも巨体があ
る、とばかりにメチャクチャに暴れ回っている。巻き込まれれば命はない。
 これに、加藤は恐れずに応じる。
 踏まれぬよう、焼かれぬよう、凍らぬよう、全力の突き、全力の蹴り、全力の肘、全力
の貫き手、全力の全力が、竜を打つ。
 日が沈みかけた頃、山はようやく崩れた。
 空手の要である手足はヘトヘトになっていたが、心は晴れやかだった。

166 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/09(土) 21:06:36 ID:IR8adCpm0
>>131より。
二十七日目終了です。

>>135
キャオラは確かにかっこ悪いですね。
まぁ加藤の代名詞のような叫びですので、
物語の終わりもキャオラで締めたいと思ってます。

167 :作者の都合により名無しです:2008/02/09(土) 23:59:01 ID:32WBriER0
ついに竜まで出たw

168 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 00:07:11 ID:va14zlKY0
すいません、直接関係のないのですが、ちょっと教えてください・・・
どうしてもシチュエーションは思い出せるのですが、漫画名が
思い出せないんです。そういう人を助けてくれるスレってありますか?

スレ違いですいません・・

169 :悪魔の歌:2008/02/10(日) 00:13:00 ID:s77PmdeR0
>>96
一歩の試合が終わって数日後。路上で演奏している根岸のところへ、一歩がやって来た。
一歩は久美と仲直りできたこと、DMCやクラウザーを見直したことも報告し、根岸は
もちろん初めて聞いたように驚き、喜んだ。
「良かったね幕之内君」
「はい……まあ、良かったんですけど」
「どうかしたの?」
「実はあの日、クミさんとちょっと話をしまして」

試合当日、試合の後。ダメージも少なかったので、一歩は久美と喫茶店に来ていた。
そして試合のことについての話が一通り終わった後、久美が言った。
「幕之内さん。私、ここしばらく幕之内さんを避けてしまっていましたけど、本当はこれじゃ
いけないとも思ってたんです。私だって、幕之内さんのことを理解しないとダメだって」
「ボクのことを? 光栄ですけど、別にムリしなくても」
「いいえ、ダメです。それで私、あの歌のことを調べて、実はもうCD買って聴いたんです」
「って、DMCを?」
久美は頷いて、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「それで、落ち着いて何度か聴いてる内に、こういうのも悪くないかな……でも幕之内
さんはどう思ってるのかな……あの日のことは、ただ先輩の人たちの練習に付き合わ
されてただけかもしれないし……とか思ってたんですけど」
「はあ」
「でも今日、試合前にホールの前で言ってましたよね。DMCの、クラウザーさんに憧れ
たって」
「え、あの、それは」
「それで安心しました。実は私、一人で行くのは怖くって。だからもし良かったら、今度……」

170 :悪魔の歌:2008/02/10(日) 00:13:34 ID:s77PmdeR0
ぽかぁぁんと口を開けてる根岸に向かって、一歩の話は続く。
「今度のDMCのライブに二人で行くことになっちゃったんです。正直言ってボクはまだ少し
怖いんですけど、でもクミさんに怖がる姿は見せられませんし。で、ぜひ一緒にって言ったら
予想以上にクミさんが喜んでくれて、こりゃもう引き返せないなと……根岸さん?」
「え、あ、ご、ごめん。それで?」
「まあ、それだけなんですけどね。だからそれが終わってから、いつか根岸さんの曲も
聴かせてあげたいと」
「なんだそんなこと。いいよ、そんなのどうでも。それより、そういうことならDMCのライブ、
しっかり楽しまなきゃ。久美さんと一緒にね」
「……ですね。そうします」
吹っ切れたように一歩が頷き、根岸も笑顔を返す。
一歩のリクエストに応えて何曲か演奏した後、一歩は帰って行った。根岸は大きく手を
振って一歩を見送る。
『幕之内君が来る、か。こりゃあ今度のライブ、思いっっっっきり頑張らないとっ!』

そして迎えたライブ当日。いつものクラブハウスはいつも通り、熱気充満の満員御礼だ。
もうすぐ出番、メイクも楽器も準備万端の根岸は、ステージのソデから
そっと観客席を見渡してみた。
『……あ、いたいた』
観客席の中ほどに、あの二人がいた。彼らなりに研究したのであろうが、ど〜見ても
周囲から浮いている、というか正直似合ってない、デスでメタルな化粧と衣装の
一歩と久美が並んでいる。
それでもやはり普段とはイメージがかけ離れているせいか、一歩のことに誰も気付いては
いない。と思ってたら、一人の男が一歩に話しかけてきた。レッドだ。
見ていると一歩を小突いたり、久美にも挨拶したり、談笑したり。悪くない雰囲気のようだ。
拳を交えたもの同士、そして今はDMC信者同志ということで、レッドも認めたのだろう。
「どうした、根岸?」
ぼーっと幸せそうに観客席を眺めている根岸に、後ろから和田が声をかけた。
彼も今は根岸と同じ悪魔な出で立ち、ジャギの姿だ。その後ろにはカミュな西田もいる。
「ん……あのさ和田君、西田君」

171 :悪魔の歌:2008/02/10(日) 00:14:08 ID:s77PmdeR0
「? どうかしたのか」
「何だクズ」
「えっと、その……僕、DMCをやってて良かったなって。今、ちょっとそう思った」
根岸は二人に、そして自分自身にも向かってしみじみと言った。
「はぁ? 今更何言ってんだお前。俺たちはDMCでメタル界を制覇し、日本の、そして
世界を舞台にしたビッグな活動をするんだって、前々から言ってるだろが」
「そうだボケ」
「その為に、昨日も今日も明日も、全力でやるしかねえんだよ。頼むぜクラウザー」
「……カス」
いつも通りな二人に励まされ(?)て、根岸は笑う。
「はは、ごめんごめん。そうだよね。じゃ、そろそろ行こうか……………………行くぜっ!」

ステージ上に、DMCの三人が飛び出した。弾け散るような歓声を受けて、
根岸=クラウザーがマイクを握る。
「今日も今日とて来やがったか、人間ども! 覚悟するヒマも余裕もなく、貴様らの
全身の穴という穴、細胞という細胞にブチ込んで魂の奥底まで犯り潰してくれるわ!
いくぞ一曲目、【SATHUGAI】っ!」
ゴートゥDMC! の掛け声を浴びて、西田のドラムが轟き和田のベースが響き、
根岸のギターとボーカルが唸る。観客席の隅々まで、一歩も久美もレッドも、全てが
一つになって燃え上がり爆発し続けるこの空間、この時間。

♪オレは地獄のテロリスト 昨日は母さん犯したぜ! 明日は父さんほってやる!
殺せ殺せ殺せ親など殺せええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!♪
「殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ! 
殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAI……

こうして。
根岸の当初の目標であった「幕之内君とその彼女を僕の音楽でいいムードに!」は……
少々アレな形ではあるが、ある意味この上なく熱く強固に、果たされたのであった。

めでたしめでたし。

172 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/02/10(日) 00:15:24 ID:s77PmdeR0
以上です! ここまでお付き合い下さり、ありがとうございましたっっ! 一歩はともかく、
DMCを題材にしてこんな話を描いてしまう奴ぁおるまいという、ヘンに誇らしい気分です。
……ま、ワンパターンともいえますがそれはそれで。
ともあれバキスレは現在絶好調、私もまた、いずれ描かせて頂きますぞっ。

>>さいさん
てっきり、殺し屋1よろしくスパッと断面図かと思ったんですが、むしろこの方が痛々しい……
>小指と薬指がまったく動かない。他の三指は辛うじて伸ばせるが、握る事も横に広げる事も
この具体的生々しさが痛い。彼なりにハイになってた防人が、単純な痛みではなく苦しみ恐怖
してるのが響く。こんな少人数でこんなに長い戦いなのに、 緊張感が途切れないのは流石!

>>ハロイさん
殺人を楽しむどころか、日常の一部として溶け込んでしまっているのは、あの高名な手フェチ
爆弾魔よりワンランク上。じんわり怖い。の次に、あまりにも美味しそうな食事描写がまた巧い。
味もさることながら、ミルフィーユの食べ方。これは他のケーキにも応用できますよね。感謝。

>>スターダストさん
サテライト30もシルバースキン同様、武器としての特性は無い。だからムーンの戦う姿、ある
意味「悪役らしくなさ」も感じ……と思ったら、流石というかやっぱり一番黒いか。で「放出」の
使い方ですけど、これってうまくやったらメドローアでもマホカンタできそう。攻防一体、強い!

>>サナダムシさん
悪ガキ、空手家、ヤクザ、格闘士、リアルファイターという変遷を辿り、本作開始以来は数々
の超人やバケモノを制し、自然・神とも闘ってきましたが……とうとう、何の小細工もなく
真正面から怪獣退治まで成し遂げた加藤。もう死刑囚五人はまとめて叩きのめせますね。

>>邪神? さん
終わってみれば、シンのみならず烈までも浄化されたこの戦い。多くはないとはいえ、ホーク
の見せ場もちゃんとありましたし、とりあえずめでたしめでたしですね。雰囲気的にはこのまま
二人とも同行できそうな勢いですが、仮にそうなると……ますますホークの影が希薄に……


173 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 01:48:49 ID:keOY/sSX0
>サナダムシさん
竜が出てきたのはピクルへのオマージュでしょうか
この加藤ならピクルとも互角に戦えそうですな
原作では参加すらさせてもらえなかったけど・・寂すら参加してたのにw

>ふらーりさん
お疲れ様でした。また完結記録を伸ばされましたな
ふらーりさんの作品はネタが分からない事が多々ありますが
それでも楽しみにしてますので次回策も頑張って下さい

174 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 09:28:23 ID:YxgD5nl90
>>168
こっちへどうぞ

あの漫画なんだった? 25巻目
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/rcomic/1195798957/l50

175 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 12:17:50 ID:3bD1tX+30
ふら〜りさん最終回か。
正直、今回のSSは読んでなかったけどお疲れ様でした。
ふら〜りさんがこのスレにいるというだけで
なんとなくバキスレは安泰の気がする。

それからサナダムシさん、いよいよラストスパートですね。
格闘ロマンからRPGになりましたが、最後のキャオラ〆が楽しみです。
やさぐれ終わるのは寂しいけど、それ以上に新しけい壮が楽しみだ。

176 :売国マルハン:2008/02/10(日) 13:19:38 ID:Qrhogocd0
パチンコスレで遠隔、ホルコン、サクラ、マネーロンダリングなどについて書き込むと渋谷マルハン社員やマルハンに依頼された
ネット工作会社がスレ荒らしをしてスレが機能停止します。
↓↓工作員の荒らしのやり方↓↓
2008/01/10(木)ID:iA54n BU50
■■■■マルハン総合スレッド 9■■■■http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/118702←右左くっけて→1165/783-784
【宮崎県都城市】パチ事情そのAhttp://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/11871←右左くっけて→89246/658-659
【山と川】宮崎県児湯付近PART1【自然イパーイ】http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/118←右左くっけて→8235164/471-472
【基地外が大暴れ4】エスパス日拓総合スレ【18発目】http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/11888←右左くっけて→85488/401-410
2008/01/13(日)ID:1HLcWz UK0
【基地外が大暴れ4】エスパス日拓総合スレ【18発目】http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/118←右左くっけて→8885488/461-462
■■■■マルハン総合スレッド 9■■■■http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/1187←右左くっけて→021165/809-810
【香川】パーラーグランドのスレ2【徳島】http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/1188←右左くっけて→315438/324
【延岡】宮崎県北情報PART3【日向】http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/1196←右左くっけて→865970/186

パチンコ産業は荒らすことでレスとレスの間を空けて読む気をなくさせたり
マネーロンダリング、さくら、ホルコン、遠隔、などの風評被害を最小限に抑えようとしてる。

新スレ→○○○マルハンパチンコタワー渋谷パート10○○○
★★★★★このスレの解説★★★★★を読んでみるとよく判る。
http://money6.2ch.net/test/read.cgi/pachij/1201←右左くっけて→304777/52-54
ネット工作員については→【電通TBS】ピットクルー(株)【プロ工作員】
http://society6.2ch.net/test/read.cgi/mass/1189187503/65

177 :七クロ:46:2008/02/10(日) 18:42:53 ID:MIPsXLIc0
>>89より

〜本社〜

「ひゅ〜、でっけえ会社だなあ」
「ああ、これをこの人数だけでやるのか……」
「……うむ、これは大仕事だな。神山、策はあるのか?」
「うん、少数で大勢に立ち向かうには作戦が重要だよね。まず、正面主力
部隊はフレディーにやってもらおうと思っている。君が全面に出てくれるだけで、
相手は対処に困るはずだ」
「(……コクリ)」
「大変な役を引き受けてくれてありがとう。じゃ、次は北斗君と子分君」
「うむ」
「おう」
「君らの役目は敵部隊の左翼からの攻撃だ。林田君と前田君は右翼から
攻撃をしかけてもらいたい」
「よし、任せろ」
「分かったぜ。しかし、お前はどうするんだ?」
「僕は彼女と一緒にメカ沢君を盾にしながら社内に突入し、ボスを倒すつもりだ。
どんな敵でも指令系統を潰せれば崩すことはたやすくなるからね」
「なるほど。しかし、そんなに危険な任務をお前らに任せて大丈夫なのか?」
「……正直、成功する確率はとても低いと思う。しかし、勝負は
天気予報じゃないんだ。決して、確率なんかで測れるものじゃない。
ましてや負けられない戦いでは確率云々なんて言い訳にしかならないしね」
「……フッ、成長したな、神山」
「ああ、これなら安心してお前に任せられる」
「全力でサポートしてやるから気張れよ!」
「皆、ありがとう……さてと、腹も決まりましたし、行くとしますか」
「おう!!」

178 :七クロ:47:2008/02/10(日) 18:44:56 ID:MIPsXLIc0
「し、社長!」
「なんだ騒々しい」
「て、敵襲です!!サ、サムライを名乗る奴らが我社に……」
「サムライだと?……ああ、先ほどの報告にあった連中か。ふん、さっさと
蹴散らしてやれ」
「そ、それが奴らなかなかに手強くて……」
「……なるほど、少しはやるようだな。しかし、こちらは近代兵器を買い集め、
一国に戦争をしかけられるほどの装備を買い揃えているのだ。慌てることはない。
戦車でも出撃させて踏み潰せ」
「ハッ!」
「あのオアシスの下には莫大な量の石油が眠っているとの報告があるのだ。
それをちんけな反対運動ごときに邪魔されてはかなわん。絶対にしくじるな!」
「了解しました!」
「……フフフ、あの油田が開発された暁にはいよいよクーデターを起こす準備が整う。
石油を制す者は世界を制す……我が野望の達成は目前だな」
「し、社長!大変です」
「あ、何だ、またお前か。たった今、やっつけてこいって言ったろ」
「そ、それが……せ、戦車隊が壊滅しました!」
「え、嘘!?……むう、それならばありったけのミサイルを打ち込んでやれ!」
「そ、それはもうやったんですが……」
「ミサイルも効かないの?んな馬鹿な!ゴジラだってやっつけられる兵器だぞ!
どんな化け物が来たというのだ!?」
「……う、馬です!!」
「は、馬?」
「そうです、巨大な馬が我社に向かってばく進中です!」

179 :七クロ:48:2008/02/10(日) 18:49:58 ID:MIPsXLIc0
どっか〜ん……ずずず〜ん

「……なんというか結論から言えば、楽勝だったね」
「……ああ、まさか、黒龍号があんなに強いとは」
「フレディーが呼んだんだよな。俺、戦車が馬に踏み潰されているのを
始めてみたよ……」
「俺だって初めてだよ、そんなの。大体、あの馬、新幹線のどこに乗っかって
きたんだ?というか、あれ、本当に馬か?」
「知らないよ。あらかた破壊しつくした後、スフィンクスと交尾しようとしてたし、
人知を超えた何かじゃないの」
「そんな馬を乗りこなしているフレディーって一体……」
「まあ、奴もある意味、人知を超えているから、気が合うんだろう」
「……なんか真面目に作戦考えたのが恥ずかしくなってきた。十分前の
盛り上がりって一体何だったんだろうか……」
「気にするな。この面子で計画通りに行く方が奇跡だ」

「ワアアアア」

「お、援軍の到着だな」
「え、援軍って……」
「……遅くなって済まなかった」
「む、村の皆!!ど、どうしてここに……」

180 :七クロ:49:2008/02/10(日) 18:51:47 ID:MIPsXLIc0
「えっと、その……」
「……私から話そう」
「村長さん!」
「先ほどこちらの方々が村に来られてな、お前が戦っていることを我らに知らせて
くれたのだ。……とうの昔にオアシスのことは諦めていると思っていたのだが」
「そうだったの……でも、何で?今まで見向きもしてくれなかったのに」
「……お前の行動が皆に気付かせてくれたのだよ。今、自分達に必要なのは
力に立ち向かう勇気なんだと。いくら強大だからといって背をそむけていても、
それでは何も育てられん。我々は利口なつもりでオアシスを捨てたが、それは
ただ臆病なだけだったのじゃな……」
「…………」
「済まなかった!俺達を許してくれ!」
「この通りだ!」
「……皆」
「今更、お前に会わす顔など無いことは重々承知しておる。しかし、今になって
ようやく皆にも何が一番大切なのか分かったのじゃ」
「……皆、頭を上げて」
「許して……くれるのか……」
「許すも許さないも、村の皆が悪いわけじゃないもの」
「しかし、お前のおじいさんにはどんなに詫びても詫びきれぬことを……」
「いえ、元々、おじいさんは村の皆を恨んだりはしていないわ」
「え……」
「だって、おじいさんはオアシスに桜を残したのよ。皆がオアシスを捨てる
と思っていたら桜なんか植えないわ。皆を信じていたからこそ、おじいちゃんは
大切なものを残して逝けたの。ね、だから、頭を上げて」
「ウ、ウウウウ……」

181 :クロ:2008/02/10(日) 19:01:16 ID:MIPsXLIc0
投稿終了です

>>91
原作で女の子を見た記憶はないですね。ゴリラのメスとか以外には。
萌えブームに便乗してみたかったので女の子とか出してみました。

>>98
次回でおしまいです。軽い気持ちで書き始めたんですが、やっぱ大変でした。
未完の作品が多いというのも分かります。

>>邪神?さん
烈はプライドのせいで孤高ってイメージがありますが、誰かに
助けられたりするのもまた似合う人ですね。これも人徳か。

>>サナダムシさん
死神の次は竜ですか。流石に加藤が気の毒になってきました。
本人は凄く楽しそうなんですけど。

>>ふら〜りさん
絶対に相容れない種類の人間があることをきっかけにして、わずか
ではあるが人生のひとときを同じくするってのはいい展開ですよね。
しかし、久美ちゃんCD買ったのか・・・。例の兄貴に見つかったら
えらいことになりそうです。

ともあれ、おつかれさまでした!

182 :ヴィクティム・レッド:2008/02/10(日) 21:06:24 ID:YxgD5nl90
 いつの頃からか、キース・レッドの心の中ではある『少女』の囁きが聞こえていた。
 その声はリフレインする──『憎い』、と。
 ただその言葉だけを何度も何度も何度も繰り返し、レッドの意識の隅々までに染み渡らせていた。
 その憎しみがどこに向けられたものなのか、レッドは知らない。
 少女の声に聞き覚えがあるような気もするし、もしかしたらそれはまったくの気のせいのような気もする。
 そんな茫漠の囁きに、レッドはあらゆる物の面影を重ねるのだ。
 それは時として自分の兄弟だったり、任務上の敵だったり、或いは自分自身だったりもする。
 名も知らぬ──本当に存在するかも疑わしい声に耳を傾け、己の目の前にあるものと重ね合わせるとき、
レッドの両腕に移植されたナノマシン兵器『グリフォン』は常識を超えた機能を発現させる。
 その経験の反復を経て、レッドは漠然と理解していた。
 『憎しみ』……そしてそこから生み出される『怒り』こそが自分を強くする、と。
 『少女』の囁き声(ウィスパー)が聞こえる限り、そしてその声が少しずつ明確な輪郭をとるにつれ、
『グリフォン』はどこまでも強化されるだろう。
 そう、『憎い』と繰り返すこの声がレッドの心に届いている限り──。

「レッドー!」
 鬱屈した思考の澱にじっと身を委ねていたレッドは、突然横から飛んできたクッションに反応できなかった。
 鮮やかな黄色に彩られたクッションが、ぼふ、と側頭部にめりこむ。
 数瞬遅れ、クッションがレッドの膝にずり落ちる。
「……なにしやがる」
 精一杯の苛立ちをこめて、レッドは目の前の少女をぎろりと睨む。
 だが、彼女──キース・セピアは、レッドの凶眼にひるむことなく、
むしろその目つきの悪さを咎めるように、腰に手を当てて強い口調で言い放つ。
「それはこっちのセリフだってば。せっかくわたしがお料理作ってあげたのに、
そのしかめっ面はいったいぜんたいどーゆーつもり?」
「頼んでねーよ、そんなこたぁ」
「うわ、ひっどーい」
「ふふん、そもそもレッドのような無神経で単細胞で乱暴なやつに、この繊細な味が理解できないことを知るべきだよ、セピア。
──もちろん、僕は美味しくいただいているさ。僕にはまっとうな神経が通っているからね」

183 :ヴィクティム・レッド:2008/02/10(日) 21:08:00 ID:YxgD5nl90
 鼻につく澄まし顔でシチューを口に運ぶのは、レッドやセピアと同じ『キースシリーズ』の少年──キース・グリーンだった。
 今、三人がいるのは、レッドが寝床として使っているアパートメントのリビングであった。
 レッドの妹である『キース』──セピアがエグリゴリ本部に配属されてからは、
なぜか……それこそ納得のいく説明が一つもないまま、実に当然のように彼女が居ついてしまっている。
 それだけでもレッドにとってはげんなりする話のに、今日はそれに輪をかけて最悪だった。
 それはそうだろう。『兄弟』たちの中で特に感情的な部分でソリの合わないグリーンを迎え、食卓を囲んでいるのだから。
「うるせえよ、グリーン。誰にまっとうな神経が通ってるって?」
「今言っただろ? 僕だよ」
 こんな明け透けな皮肉すら通じないとは幸せな性格してるよな、とレッドは内心で嘆息する。
 確かに、彼には神経が通っている。──ただしそれは、まっとうとは程遠い、とんでもなく図太い神経回路だろう。
「レッド。言ってしまえば君は贅沢なのさ。セピアのような可愛い妹がいて、
しかもこうして料理を振舞ってくれるというのに、いったいなにが不満なんだい?」
 偉そうに指を立てて述べ立てながら、コップに注がれたグレープジュースを口に運んで一息、
「僕だってセピアの兄なのに、君だけがいつも彼女の手料理にありつけるのは──実にずるいと言わざるを得ないね」
「結局、それが本音かよ……」
「ほーら、グリーン兄さまだってこう言ってるわ。レッドはもっとわたしに感謝なさい!
──そうですよね、グリーン兄さま!」
 明らかに調子に乗ってるグリーンは、なおも涼しげで癇に障る微笑を浮かべてセピアに同調する。
「ふふふ、そうさ。だが君も知っての通り、レッドは恩知らずで我侭でおまけに味音痴ときている。
本来なら身に余るであろうこの幸福を理解できない可哀想なやつなのさ。だからあまり責めないでやってくれ」
「グリーン──お前もう帰れ」
 うんざりしてレッドが告げるのへ、セピアは真っ白い歯を剥き出しにして「いーっ」ってした。
「ダメですう、レッドにわたしのお客様を追い出す権利なんかありませーん!」
「ここ、オレのアパートメントなんだが」
「わたしも住んでるんだから、わたしの部屋でもあるんですう!」
 自信満々にきっぱりと言い切るセピアの剣幕に押され──レッドは唇を尖らせてそっぽを向くしかなかった。
「……あー、くそ、好きにしやがれ」
 まったくもって不本意だった。
 なにが不本意かって──こんな生意気なガキに振り回されて好き放題の限りを尽くされているのに、
それを大人しく諦めて受け入れている自分がいる、という事実だった。

184 :ヴィクティム・レッド:2008/02/10(日) 21:09:52 ID:YxgD5nl90
 
「……レッド、どういう風の吹き回しだ?」
 夕餉の時間が終わり、キッチンで鼻歌を歌いながら洗い物をしているセピアを横目で眺め、
リビングのグリーンは隣のレッドの耳元で小さく呟いた。
「なにがだ」
「とぼけんるじゃないよ。君は信じないかも知れないが、僕の目だって節穴じゃない。
セピアが僕をこの晩餐に招待したのなら、なにもおかしいことはない。
だが──残念なことにだね、僕を呼んだのは君だ。言えよ、なにを企んでいる?」
「企んでるって、てめえな……人をなんだと──」
 言いかけて、やめた。
 こうした事実関係の確認に手間隙をかけることが馬鹿らしく思え、溜め息ひとつついて軽く頷く。
「グリーン、お前……セピアをどう思う?」
「それはどういう意味の質問だい?」
「そのまんまだ。セピアについて思ってることを言えって話だ」
「どうって……妹さ。僕らの掛け替えのない家族の一員だよ」
「そうじゃなくてだな……」
「要領を得ないな……もっとなにについて訊きたいのか、それを先に言えよ」
 レッドはちらりとキッチンに視線を走らせ、セピアがこっちの話に耳を傾けていないことを確認する。
 セピアの情報制御用ARMS『モックタートル』にかかれば、
彼女にその気がある限りは彼ら自身のARMSを通じて話が筒抜けなので、そんな心配などまるで無意味なのだが。
「……お前、『声』を聞いたことあるか?」
 てっきりまた「要領を得ない」といった類の不平が返ってくるとレッドは思っていたが、意外にも、
「──それは、『アリス』のことを言ってるのか?」
「お前にも……聞こえてるのか、グリーン」
「それはそうさ。我らキースシリーズの始祖にして、ナノマシン群体『ARMS』のコアチップの発生源──
マザーARMS『アリス』だろう? どんな形であれ、彼女の『声』が聞こえなければARMSは装着できない」
 奇しくも、リビングのテレビからはディズニー映画の『不思議の国のアリス』が放映されている。
 帽子屋、三月兎、チェシャ猫の三匹の気違いがアリスを翻弄する『キ印のお茶会(マッド・ティー・パーティー)』のシーンだった。
 フェルト処理の水銀中毒、発情期を迎えておかしくなった兎、チェシャーチーズに群がる鼠を捕らえて舌なめずり──
肥大化されたアイデンティティばかりが強調される、三つの怪物たち。

185 :ヴィクティム・レッド:2008/02/10(日) 21:11:33 ID:YxgD5nl90
「──なら、夢は見るか?」
 レッドの二つ目の質問に、グリーンは肩をすくめて答えた。
「もちろん見るさ。アンドロイドだって電気羊の夢を見るんだ。
僕ら『キース・シリーズ』が夢を見ちゃいけない道理はないよ。そうだろう?」
「どんな夢だ?」
「……そんなの、いちいち覚えちゃいないよ。それが夢ってものじゃないのかい?」
 ふと、キッチンからセピアの微かな歌声が空気の流れに乗って聞こえてくる。
「ロンドンばっし、おっちった、おっちった、おっちった、ロンドンばっし、おっちった──」
 そのソプラノに耳をかたむけながら、レッドは低く漏らす。
「だよな──それが夢ってもんだよな」

 ──その夜半。
 ああだこうだと理由をつけて長っ尻だったグリーンがしぶしぶ部屋を辞去した後、
テレビの前に陣取って夜更かしを敢行しようとするセピアに、彼女自身の体調を引き合いに出した説得と、
形式上はレッドが彼女の上官であることを盾にした恫喝を同時進行的に加え、
「はいはいはい寝るよ寝ますよ寝ればいーんでしょー?」
「たりめーだ。ガキはとっとっと寝ろ」
「レッドだって十分ガキじゃんよ」
「あ? なんか言ったか?」
「なにも言ってませんおやすみなさい」
 半分不貞腐れた音を立てて寝室のドアが閉められるのを見届け──レッドは喉にためていた息を全て吐き出した。
「ったく……」
 やっと静かになった部屋を見渡し、髪をごしゃごしゃと掻く。
 部屋の電気を消し、さっきまでセピアが座っていたソファーに身を横たえる。
 寝室をセピアに占拠されている現在、レッドが安眠を貪れる場所は他に無かった。
 といってもレッドは寝つきのよいほうではないため、かなりの時間を暗闇の中で凄さねばならないが。
 そういうときに考える事は決まりきっていた。
 胸の奥に聞こえる『少女』の声だ。
 ふと、あまり関係のないことが心に浮かび、瞼が開く。──セピアにも、この声が聞こえているのだろうか。
 果てない闇へと自分を誘う、虚無からの呼び声が。

186 :ヴィクティム・レッド:2008/02/10(日) 21:13:05 ID:YxgD5nl90
 
 鬱屈した思考の澱にじっと身を委ねていたレッドの邪魔をするのは、やはりセピアだった。
「──う、うう」
(……またかよ)
 ぱちっと目を開けたレッドは、のっそりとソファーから身を起こした。
 光のない室内を見通すように、リビングと寝室を隔てるドアに視線を凝らす。
「──う、あ」
 その扉の向こうから、セピアのくぐもった声が聞こえる。
 扉に隔てられてることもあり、それはとても小さな囁きとしかレッドの耳に届かなかった。
 無視しようと思えばいくらでも無視できるものだったが──それだけに、一度気にしてしまうとよりはっきりと知覚できてしまう。
 ゆっくりと立ち上がったレッドは、無意識的に足音を忍ばせてリビングを横切る。
 寝室のドアの前で止まり──、
「く、う……」
 レッドは『向こう側』を感覚する。
 『そのこと』に気付いた当初は、これはいったいなんの呻き声かと大いに訝ったものだが、
今となってはこれ以上ないくらいにはっきりと分かる。
 これは──『夢』だ。
 この扉に隔たれてその姿は見えないが、まず間違いなく、セピアは悪夢にうなされている。それも、かなりの頻度で。
 だが──いったいなにに?
 なにが、あのセピアを夜な夜な苦しめているのだろうか。
 昼間は底抜けに快活な素振りを装っているが、実のところはエグリゴリの任務やレッドの存在に苦痛を感じているのだろうか。
 それとも、やはり彼女も『キース』だということだろうか。
 絶えることなく悪感情を囁き続ける、あの『少女』──『アリス』の声にうなされているのだろうか。
 それを確かめることは容易い。今すぐこのドアを開け、セピアを叩き起こし、問い詰めればいい。
 だが──。
「う、うう、うあ……」
 夜の闇に苦悶を放出し続けるセピアの細い声をじっと聞きながら、レッドの身体は彫像のように身じろぎ一つない。
 彼の手は、ドアノブのことろで固まっていた。
 ──そうして、いつものようにいつもの夜が過ぎてゆく。
 醒めることのない真夏の夜の夢──ワルプルギスの夜のように、果てのない悪夢が。

187 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/10(日) 21:41:45 ID:Z3Ik52kwO
投下終了と言うの忘れてましたが、パソ落としちゃったので携帯から。

ふら〜りさん乙でした。
いわゆるちょっといい話であるはずなのに、クラウザーさんと一歩が対峙するという絵面を想像すると噴いてしまう不思議。
違う生き方や表現形式を尊重できる心って大事ですよね。
でもやっぱギグに足を運ぶ一歩と久美は笑えるw

188 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 23:17:59 ID:va14zlKY0
>>174
ありがとうございます!!
ホントに助かりました!!

189 :作者の都合により名無しです:2008/02/10(日) 23:50:48 ID:lVYviylU0
クロさん
なんか微妙に話が大きくなってますな・・w
原作には無いテイストも好きです。


ハロイさん
レッドはグリーンより小物に見えるなあ。
セピアとの関係でどう強くなるか、楽しみ。

190 :作者の都合により名無しです:2008/02/11(月) 01:23:27 ID:i7uxiEGk0
クロさん次回でおしまいかー。残念。でも完結はほぼ間違いないみたいですね。
クロ高部隊が勢揃いの討ち入りって感じで、本当に次で終わるんだなって感じです。
また何か短編でも書いてくれると嬉しいですね。


ハロイさん、今回はヴィクテムですか。快調で嬉しい限りです。
セピアとアリスの関係はどうなっているんでしょうか?
セピアも大きな物を背負ってる感じですが。なんか死にそうだな…。

191 :やさぐれ獅子 〜二十八日目〜:2008/02/11(月) 01:49:52 ID:qsm2NEX60
「ククク、いいのかよぉ、この俺様を試練にだとぉ? てめぇ、おかしくなっちまったん
じゃねぇのかぁ?」
「かまわん。方法は君に任せる」
「本当かよぉ。ただし、てめぇの期待する成果になるとは限らんがなぁ、ケケッ」
「………」
 武神が拘束具を解くと、猫背の男は嬉しそうに去っていった。みるみる小さくなってい
く後姿を横目に、背後に控える巨漢が心配そうに話しかける。
「オイ、いいのかよ。あんな奴にやらせちまってよ」
「はっきりいって結果はまったく予想がつかん。あるいは、取り返しがつかない事態にな
るかもしれない。なにせ奴の唯一にして最大の生きがいは他人の嫌がることを実行するこ
とだからな」
「だったらよぉ」
「だからこそ必要なのだ。急速に成長している彼に試練らしい試練を与えてやれそうなの
は、もう奴くらいしか残っていないのだから」
 猫背がいなくなり、巨漢が尋ねる。
「……で、奴は何者なんだよ」
「邪神。負の力を司るという点では魔神と同類だが、魔神が災厄にて人間界を調整する役
割を担っているのに対し、奴はひたすらに人間を害するだけの存在だ」
「そんな奴、野放しにしちまっていいのかよ……」
「理由は試練が終われば明らかにしてやろう」

192 :やさぐれ獅子 〜二十八日目〜:2008/02/11(月) 01:50:44 ID:qsm2NEX60
 トレーニングに励む加藤を邪神が訪ねたのは、まもなく午後になろうという時刻だった。
「ククク、やってやがるなぁ、カラテだっけか?」
「あァ?」
 加藤が目をやると、そばで猫背の男が締まりのない笑顔を浮かべていた。浮浪者のよう
な風体に、陰険で禍々しい妖気をくすぶらせている。
「俺様はよぉ、邪神ってもんだ。ついさっき、加藤とかいう若造に試練を与えてくれって
武神から頼まれてなぁ、ククク。加藤ってのはてめぇだろ?」
「だったらなんだ」
「反応が薄くてつまらんなぁ、ボウヤ。まぁいいがなぁ、ところで今日、てめぇは一戦も
交える必要はないぜ」
 加藤が訝しげに目を細める。
「たった今──てめぇとある人間の肉体をリンクさせた。今日はてめぇの代わりにその人
間に戦ってもらう」
「リンク?」
 ますます訳が分からない、といった風に加藤は首をかしげる。
「分かりやすくいえば、そいつが傷を負えば、てめぇにも傷が出来るようにしたってこっ
た。そいつが死ねば、てめぇももちろん死ぬんだなぁこれが。ケケケッ」
「なんだそりゃ! ンなもん、どこが試練なんだよ!」
「クク、俺様はよぉ、別にてめぇを試してやろうとか、鍛えてやろうとか、そんな気持ち
はこれっぽっちもねぇんだ」
 親指と人差し指の間に小さな空間を作って、邪神が本心をあらわにする。
「ただ、武神の当てを外して、てめぇが悩み苦しむ姿を楽しみてぇだけなんだよぉ!」
「おめぇ……」
「しかも、ターゲットにはてめぇにとって大事な人間をチョイスしておいた。もうすぐ、
俺様の邪気を吹き込んでおいた人間どもがそいつを襲う。
 無関係な人間(バカ)が、てめぇのせいでボコられるんだぁ、愉快だろ?」
 到底試練などと呼べぬ、極めて悪趣味な私刑(リンチ)。加藤は冷や汗でべっとりして
いる自分自身に気づいた。
「誰だ……誰を選んだッ!」
 この質問を待ちかねていたかのように、邪神は厳かに告げた。
「愚地独歩だ」

193 :やさぐれ獅子 〜二十八日目〜:2008/02/11(月) 01:51:35 ID:qsm2NEX60
 この名を耳にした瞬間、加藤はきょとんとした。そして──
「ハハハハハハハハハハッ!」
 ──大いに笑った。
 不快さを表情に露出させる邪神。
「てめぇ、何がおかしい!」
「おめぇさ、邪神っつったっけか?」
「だからどうしたぁ!」
「おまえは邪神なんかじゃねぇ、バカの神だな」
 『バカの神』が、鐘のように邪神の頭の中で何度も鳴り響く。他人の苦痛は大好物だが、
自分に降りかかることは許さない。激高するのは時間の問題だった。
「俺様をバカ呼ばわりしやがったなぁ! 愚地とやらがボコされて、てめぇにダメージが
いっても、同じ台詞を吐けるかぁ?!」
「だからてめぇはバカなんだよ」
「………!」
 邪神の怒りが頂点に達する。それと時を同じくして、人間界からテレパシーという形で
報告が届く。
 前置きと弁解まみれの冗長でまどろっこしい報告であったが、要約するとこうだ。
「邪神が操った人間たちは、愚地独歩に傷一つつけられずに敗れました」

「けえぇッ!」
 苛立ち、邪神が吼える。手下とのテレパシーを強引に切断し、次なる手を打ち出す。
「クックック、おい喜べ、愚地とやらは俺様のしもべを撃退したらしい」
「当然だろ、バカ」
「だが……試練はまだ終わってねぇぜ? ターゲット変更だ。次はもっと弱い奴をやって
やる。てめぇの両親、兄弟、友人、恋人……さぁて、どいつにすっかぁ……」
「どこまで腐ってやがる、てめぇッ!」
「ヒャハハッ! さっき言っただろ、俺様は楽しみたいだけだっ──」

 ずん。
 
 邪神の胸から腕が生えた。背後より貫く拳。卑劣な言葉は途絶えた。

194 :やさぐれ獅子 〜二十八日目〜:2008/02/11(月) 01:52:28 ID:qsm2NEX60
 加藤は拳の主が誰かを知っていた。
「武神ッ!」
 邪神を討ったのは、同じく神である武神だった。邪神の体から拳がずるりと引き抜かれ
る。
「が……かはっ! てめ……な、んで……約束が……」
「私のミスだ。おまえ如きに任せるべきではなかった」
「殺す……殺してやるっ!」
 振り返り猫背をしゃんと伸ばすと、邪神は武神に烈火の如く襲いかかった。神と神の激
突。どちらが上か。

 ぐしゃん。

 振り下ろされた拳という名の鉄槌で、邪神は頭から潰された。
「お……おのれぇ……」
 呪詛の断末魔を残し、邪神は煙となって大気に還元された。歴然とした武力の差に、加
藤は息を呑む。やはり、武神を称するこの男はとてつもなく強い。
「邪神ってえのは、今ので死んだのか?」
「奴は神の中でもっとも非力だが、これくらいでは死なん。また監禁せねばな」
 すると、邪神の背後に現れた武神のさらに背後から、声が飛んできた。
「ナルホドね。最弱だから野放しにしても問題ないってわけかい」
 加藤は一瞬耳を疑った。聞き覚えがありすぎる声だった。
 恵まれた体格を誇る武神よりも、さらにデカイ。
「どうして、なんでこいつが……ッ!」
「君もよく知っているだろう。彼が明日──“最終試練”を務める」
 短く逆立てた金髪、ぶ厚い唇、二メートルを超える長身。加藤とはほぼ同時期に入門し、
独歩に叱られた回数は加藤に次ぐ問題児。
 末堂厚、見参。

195 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/11(月) 01:59:13 ID:qsm2NEX60
>>165より。
二十八日目終了です。
第三部冒頭で出てきた男が登場します。
もはや悪い意味で何でもアリになってしまった本作ですが、
地上最キャオラVS地上最有利はきちんと書きたいです。

>>173
オマージュです。
最初恐竜にしようと思いましたが、止めました。

196 :作者の都合により名無しです:2008/02/11(月) 15:46:56 ID:ciwno1EA0
>クロ高
意外と男塾系の熱血展開になってますね。ラストバトルということですか
女の子に美味しいところを持ってかれて次回がラストですか。寂しいな。

>ヴィクテム・レッド
他のキースシリーズに劣等感を持ち続けるレッドが唯一、心を許せる?セピア。
しかしオリキャラという事情上、やはり消えてしまうのでしょうか・・・。

>やさぐれ獅子
邪神弱w 独歩が出てくると思ってましたが、末堂ですか。ま、独歩は加藤には
倒してほしくない気もしますしね。末堂→武神でこのSSも終わりかな?


197 :作者の都合により名無しです:2008/02/12(火) 00:17:08 ID:tZhlQ2xQ0
末堂って最初から加藤のほうが格上だったけど
パワーアップしてるのかな?

198 :作者の都合により名無しです:2008/02/12(火) 08:29:22 ID:BjCBvQt90
やさぐれも終わってしまうかあ

ハロイさんの作品は4つともまだまだって感じだけど(錬金は短いかな?)
さいさんの作品やクロさんの作品も終わりそうだなあ

199 :作者の都合により名無しです:2008/02/12(火) 11:04:06 ID:2Z0Y6jTq0
ハロイさんはローテーションがあるのだろうか?
シュガーソウルをメインに更新して
ヴィクテム・ネウロをサブで錬金がレア?

200 :作者の都合により名無しです:2008/02/12(火) 14:14:20 ID:8H4Fn2mV0
b

201 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:47:15 ID:oSmSkUAd0
第036話 「歩いた先に」

どこまでも続く闇の回廊をただ一人で歩いた。
歩いて、歩いて、歩き続けた。
熱で頭が眩み、無音の通路に風吹く幻聴すら運んでくる。
ツと足を留め、ヴィクトリアは振り返った。
煉瓦が闇を囲いどこまでも伸びていく虚ろな通路に、変哲はまるで見
当たらない。
そう、自分以外の者が生息する気配はない。
人が追ってくる気配は、ない。
(そんなものよ)
再び前を向き、歩みを進め始める。
百年以上生きているから、かすかに芽生えた期待を分析し、文章体裁
のある感情論へ昇華するなど容易い。

『秋水がこの地下をひた走り、もう一度止めに来るのを望んでいた』

と。
けれど彼は来ない。
再び前を向いて歩きだしたとき、その事実に深い失意が生じた。
……いうまでもないがこの時、秋水はL・X・Eの残党を殲滅する必要
があり、苦渋の思いでヴィクトリア追跡を断念していた。
もっとも神ならざるヴィクトリアにその辺りの事実はわからない。
ただ、秋水が来ないという事実だけが頭を占める。
振り払うように熱い体を歩ませる。食人衝動に支配された体からみる
みると活力が抜け、ひどい空腹感が襲ってくる。いや、疲労と嫌気の
方が大きいか。
それら総てを肯定しつつ、だが解決はせずに歩く。
疲労や空腹が昂じて死ねるのなら、それでいいとすら思った。
やがて二時間が過ぎた。ヴィクトリアの体感時間ではもっと長い時間が。
しかし失意は拭えよう訳もない。
(そんなものよ)

202 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:48:06 ID:oSmSkUAd0
砕けた期待が瞳の光を曇らせる。
彼の存在も寄宿舎の生活も、鬱屈した長い歳月に振りまけられたわず
かな金粉にすぎなかった。そう思わざるを得ない。
粉が少しずつ集まって輝く欠片になり、失った物の穴埋めを仄かに期
待していた。だが性質ゆえに欠片をいつか砕いてしまう。その音を聞く
のがたまらなく嫌だから、砕くより先にみずから払いのけて闇に散らした。
それを秋水の手にもした。
けれど時間が経つにつれ、自分ですら肯定できぬ割り切れなさが芽
生えてくる。

考えようとすれば解決策など幾つも発見できたのだ。
秋水は戦士の中でただ一人それを提示してくれた。
にもかかわらずつまらない意地と恐怖が思考を奪い、逃げるしかなかった。
(それだけの事よ。そう。たったのそれだけ──…)
百年生きた者としての理性をヴィクトリアは恨んだ。
ただ相手をこきおろして満足する少女として生涯を終えていれば、付与
された忌まわしい性質と無暗に肥大した理性のせめぎ合いで苦しむコト
はなかった。
人は不老不死を求める。だがその生涯は解放される瞬間がなければ
生き過ぎた者の苦しみだけを与えてくる。
(まるで今見たいね。地下の殺風景な闇の道を一人で歩くような……)
自分の武装錬金を冷たい目で一瞥して、また歩みを進める。
そのまま誰にも知られず歩き続けていればいつかは死ねる。
淡い期待を抱いて歩みを進めるしか、自分に残されていないように思
われた。

……人の出会いと別れはまるで予測できないものである。
世界に渦巻く必然と偶然。
その配合率を知り、操れる者は誰一人としていない。
ただ流れるまま人は人と巡り合い、消えゆく絆を刹那の中で愛でている。
この時。
長く伸びる避難壕の向こうで、一つの必然がヴィクトリアを待ち受けていた。

203 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:49:18 ID:oSmSkUAd0
そして”それ”と出逢った時、彼女は新たな行動指針を手にする。
傷心に動く足がたどり着くまであと僅か──…

ヴィクトリアが暗い地下をさまよっている頃。
聖サンジェルマン病院の病室の一角で、桜花は目を丸くしていた。
そこは秋水が入院している部屋……の筈だった。
だが彼の姿はない。
一時間ほど前はそこにいた。だが今はいない。
無人の部屋を無言で見詰める桜花の眼は鎮痛に彩られ、彼女は首を
横に振った。
繊手がスカートのポケットにすべり込み、パールピンクの携帯電話を
引きずり出した。

防人がその報せを知った時、ひどく鋭い疑問符が彼に突き刺さった。
小さな手がちゃぶ台に乗って、湯飲みでで振舞われたお茶の鮮やかな
水面をゆらゆらと揺らす。
そして桜花から受けた連絡をそのまま説明した時、一陣の風が寄宿舎
管理人室に吹き、小さな影が廊下へと排出された。
「…………捕捉はできているけど」
「合流するまで秋水じゃない方を見ていてくれ。夜道は危ない」
「すぐ合流できるの? ヘルメスドライブでもない限りすぐには」
「彼女なら分かる筈だ。分からなくても、桜花がきっと連絡する」
防人の呟きに千歳は首を傾げた。

銀成学園の屋上で、秋水は疲労色濃い吐息をついた。
L・X・Eの残党殲滅後に病院へ収監されたのも束の間。
わずかな気絶の時間を経て彼は病院を抜け出し、町中を彷徨っていた。
そしてヴィクトリアの姿を求めていた。
千歳に頼みヘルメスドライブを使えばいいと頭の中で正しい声が何度も
何度も告げていたが、どうしても自分で探し当てねば先ほど追えなかっ
た贖罪ができないような気がして、そのまま歩いていた。
だが、当然見つけるコトはできない。

204 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:50:15 ID:oSmSkUAd0
まず彼女が消えた下水道処理施設近くを歩いた。
当然ながらすでにいない。
そこから道なりに歩くと繁華街に出た。
歩いた。
ボロボロの学生服で傷だらけのまま歩く秋水を、すれ違う者たちは一
体何事かと秋水を振り返った。
歩いた。
道中何度も血を吐いた。逆向の放ったブライシュティフトが肺腑を抉っ
た時の後遺症らしい。そう秋水は、排水溝へ流れていく赤い液体を見
ながら分析した。
思えば病院を抜け出して彷徨っている状況は、かつて桜花と共にL・X・E
へ拾われた時と似ている。
違うのはそのL・X・Eが地上からすでに消滅しているコト。
彼はそれの残滓と向いあい、全滅の引き金を引いたのだ。
雲が晴れたらしい。金の光がさぁっと秋水を照らし、溝に垂れた血液に
ドス黒い影を伸ばした。
(月、か)
忌まわしい印象がまずよぎった。

「戦士になったとしても君は私と初めて出会った夜のようにずっとずっ
と無力のまま。無駄な努力はやめて、さっさと諦めたらどうだい?」

ムーンフェイスの言葉がよぎり、拭えない。
(それでも俺は)
月に抱くもう一つの印象を支えに。
歩いた。
やがて明かりのついた店が一つまた一つと秋水の両脇から消えてい
き、閑静な住宅街を通り抜け──…
気づいたその時、銀成学園の前にいた。
彼は自分の取った行動に疲労困憊ながらに驚いた。
L・X・E時代に桜花と二人して何度も特殊な手段を使って学園内に忍
び込んだコトはあるが、それをこの時再び実行したのである。

205 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:52:37 ID:oSmSkUAd0
幽鬼のように青ざめた顔で彼は階段を求めそれを上りつめ──…
屋上に出た。
首を上向け視線を送る夜空には、月がまばゆいばかりに輝いていた。

一連の行動の是非を問われればまったく感情任せの無駄な行動と秋
水は答弁せざるを得ない。
第一、再び逢えたとしてヴィクトリアを救える保証もない。
秋水は自分という物を知っている。
剣技とそれに熟達せんとする意思のみでこれまでを生きてきた。
持っているのはそれだけだ。
カズキのようなひたむきさもなければ、桜花のような弁舌も持ちえて
いない。
月を眺める。
そこにいる彼の存在を前提に、秋水は戦士になった。
(だが……やはり君のようにはいかない)
自らに勝ちたい。
それが贖罪になると信じて開いた世界に身を晒したが、今は様々な
コトに揺らいでいる。
掌がひどく寒い。
大事だった確かな感触すら忘れてしまいそうに寒い。
屋上の入口からゆっくりと秋水は歩みを進めた。
足下に延びる長い影は、給水塔の者らしい。
その暗さから逃れるように歩いた。
(直面して初めて分かる)
人一人を救うというコトが、どれだけ難しいか。
カズキはそれをごく自然に成していた。
才覚や技術があるからではない。姿勢の問題だ。
ずっと他者のために戦い続けてきたからこそ、その信念を貫くための
行動が身に沁みついていた。
剣道でいうならば、体さばきや打ち込みといった技術をおろそかにせ
ず、何千何万と繰り返していたようなものだ。

206 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:54:10 ID:TWGL1J6s0
だから土壇場で人を助ける行動を反射的に出せた。
桜花や秋水に手を差し伸べ、救うコトができた。
(俺はどうだろうか)
他者を思う期間があまりに短すぎる。
カズキに救われ、世界の中で戦うコトを決意してまだ半年も経ってい
ない。
まひろを寄宿舎に送ったり、ヴィクトリアを銀成学園に勧誘したり、剣
道部の面々に稽古をつけたり。
(数えられるほどしか、俺は他者のために動いていない)
剣道ならばようやく踏み込みの仕方が分かりはじめた状態。初心者も
いいところだ。
救おうとするヴィクトリアは心を強く鎖している。
しかも行き掛かり上仕方なかったとはいえ見捨ててしまった。
(俺は……追いかけられなかった)
カズキなら残党の殲滅とヴィクトリアの救済を同時に成せたと秋水は
思う。
その手段はいくら考えても分からない。
ただヴィクトリアの秋水に対する心象は恐らく最悪の状態だとは思った。
そんな彼女を救おうとするのは、剣の初心者が有段者を下そうとする
ほど難しい。
鍛錬なくして強さを求められなかった秋水だからこそ分かる。
技術もなく経験もなく、ただ一念のみで結果を出そうとするコトの困難
さを。
ただ敵を倒せばいいという問題ではない。
相手の心情を斟酌し、納得できる答えを導いてやらなければ、ヴィクト
リアは未来永劫救われない。
もし秋水の説得を聞き入れず、他のホムンクルスと共に戦士への復讐
を選択してしまえば取り返しはつかなくなる。
大げさで勝手な言い方をすれば、秋水はヴィクトリアの命運を握ってい
るのだ。
その責任が心に重い。

207 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:54:39 ID:TWGL1J6s0
月を見る。
最後まで戦い抜き、傷だらけでも笑えたお人よしの恩人がいる場所を。
彼がもし地上にいて、激励をかけてくれればどれほど心強いか。
けれど空虚な掌は、彼が地上にいないのを告げている。
いるのは見上げる月なのだ。
そこできっと、皆を守る為の闘いを繰り広げているからだ。
その苛酷さは秋水の苦しみよりはるかに大きい。
だから頼れるはずがない。
(……)
いつの間にか屋上の端に秋水は居た。
屋上の手すりに手を伸ばすとひんやりとした感触が走った。
消耗した体にはその刺激すら悪いらしく、おぞましい寒気が何もかも
奪っていきそうな気がした。
(やるんだ。一人でも)
踏みとどまる様に手すりを握りしめ、いい聞かす。
(彼に出逢うまで俺はずっと一人で姉さんを守ってきた。それに今は)
最終的に世界を一人で歩けるようになるため、いまは鍛錬を積んでいる。
(そうだ。だから一人でも──…)
踵を返した瞬間。
まるで狙い済ましたようにざわざわと風が吹いた。
天蓋なき屋上に、木々のざわめきが嫌というほど聞こえてくる。
秋水はそれに溶け込みそうなぐらい、静かに息を呑んだ。
心臓が一瞬はねあがり、後はひりついた緊張の熱が全身を緩やかに
侵食してくる。
何故かかぐわしい花の匂いが風に混じっているような気がした。
月光にうっすらと照らされた床板の向こう。
キラキラと金に瞬く真新しい給水塔の下。
昇降口のドアの前。
一体いつからそこにいたのだろうか。
まったく分からない。
もしかしたら、出逢ってしまったあの夜。
彼女もいまの自分と同じ心情だったのかも知れない。

208 :永遠の扉:2008/02/12(火) 21:55:22 ID:TWGL1J6s0
そんなどうでもいいコトを考えてしまうほど、狼狽していた。
風はまだやまない。
どこからか飛んできた蒼い木の葉が空間の中で何枚も躍っている。
だから彼女は、ウェーブのかかった緩やかな栗毛を耳の前で抑えなが
ら、呟いた。
「……こんばんは」
武藤まひろは、いつものような明るい笑顔に戸惑いと緊張を織り交ぜ
てそこに居た。

以下、後書き。
ずっと描きたかった場面の一つです。されど次回の構想はまるでなし!
二人を信じて描くしかないのでしょうね……

>>154さん
攻撃力はさておき、持久力はかなりの物ですぜ旦那。何せ一人残れ
ばそこから一気に三十人w あとは曲者特有の補正ですね。能力より
性質によるゲスっぷりを描けたらなーと。弱った元味方を呆気なく捨てるぐらいじゃないと。

>>159さん
そうなのですよ。ずっと前から秋水vsムーンを想像してやまなかったり。
因縁としてはソウヤとブラボーもムーンフェイスを倒す権利はありますが
一時期とはいえ彼に育てられた秋水も或いはと。……しかしどうやって刀一本で斃すんだろう。

>>161さん
あ、すいません。前回最後に出てきたのはすべて故人です。
この点ちょっと説明不足でした…… ただ強敵は作りたいですねw
悪っていいですから。好き勝手やりつくして殺されるのが素晴らしい。

209 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/02/12(火) 21:55:47 ID:TWGL1J6s0
ふら〜りさん
>悪魔の詩
実は一歩をほとんど読んでない故に、久美ちゃんがDMCによくいる女
の人の顔で再生されてしまったりw 一時は一歩がカオス空間に飲ま
れるのではないかと恐怖半分期待半分でしたが、そこはただ暴虐に
荒れ狂わずたまにいい話をするDMC(妹の結婚式とか)、きちんと
和解をして根岸の悲願である「音楽の良さ」も果たせたりと、いい終わ
り方! お疲れさまでした。しかしふら〜りさんがDMCってのは今でも意外w
お次は職業・殺し屋なんかどうでしょう。死条は「修羅と鬼女の刻」の
ようなノリに合うと思うんですが……ああでもエログロすぎる作品だから合わないかも?

>サテライト30もシルバースキン同様、武器としての特性は無い。
むむ、流石に鋭い。確かに。ちなみに攻撃力がない反面、応用力はか
なりある武装錬金ではないかというのが前々回を描いてみた感想ですねw 
統率さえ取れば不死身で無敵の軍隊ですよ。さらに「放出」も実はなかなか。

210 :ふら〜り:2008/02/12(火) 23:00:24 ID:Uj9xqJtg0
>>クロさん(間柴も、両親健在で余裕があればDMCとか好みそうではありますけどね……)
展開は文句なしのシリアス、戦う動機やヒーロー・ヒロイン・敵の配置も勧善懲悪ものとして
きっちり固まってる。なのに……いざ開戦したらあっという間に当初のノリを取り戻しての
問答無用決着。このカオスさが本作(原作も?)の味か。大団円も一筋縄ではいかなさそう。

>>ハロイさん(カラオケでDMCっぽい歌を絶叫する友人がおります。で私は戦隊等で対抗)
ぶっきらぼうに振舞いつつ無邪気ヒロインに振り回されてるあたり、実に主人公らしいレッド。
ここだけ見れば明るい学園ものコメディのよう。でもセピアの場合は、その無邪気さの奥に
(本人の自覚の有無はともかく)、何かが埋もれている。それがいずれ、二人に何をもたらすか。

>>サナダムシさん
>「当然だろ、バカ」
加藤、このセリフ吐いた時、気持ち良かっただろうなぁ。自分が誰よりも尊敬している恩師
は、自分を苦戦させるようなもの(例えばこの島の試練)であっても易々と撃破する。それを
見せ付けてくれた、それ見たことか! と。次は自分の番、だけどまたまた予想の斜め裏がっ。

>>スターダストさん(同作者の「ZMAN」の序盤は大好き。昔のガンガンならナーガスとか)
>鬱屈した長い歳月に振りまけられたわずかな金粉にすぎなかった。
何とも綺麗な絶望描写。でも、延々鬱々の中でも「それ」を嫌ったり憎んだりはしてません
よね。だからこそ苦しんでるわけですけど。それはそれとして、ここだけ読んだら強固な秋水
とのフラグに見えるも、最後に正ヒロイン来たる。こっちの意味でも主人公してるなぁ秋水。

211 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 08:32:22 ID:TiU5/Tcw0
スターダストさん最近時間が出来たようで、更新速度好調ですね。
もう一人のヒロイン(ヒロインが沢山いる話ですが)ヴィクトリアを
めぐるお話もこのSSのキモですね。
しかし登場人物って30人以上いるよね、凄い。

212 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 11:38:15 ID:5UZGXQyj0
 翌朝、サイボーグ研究施設の一角、なにかの実験に立ち会っているバイオレットを捕まえ、
レッドはセピアのことを彼女に切り出した。
「セピアの……過去だと? なぜそんなことを聞く?」
 自動販売機の横の長椅子に腰掛け、缶コーヒーのタブを開けながらバイオレットは問い返した。
 ぐっと言葉に詰まるレッドだったが、その様子でなにかを察したのか、彼女はそれ以上問うような事はしなかった。
 代わりに、缶の飲み口に目を落として淡々と語り始める。
「セピアがカラーネームを獲得する以前……『M−107』と呼ばれていた頃、
わたしと彼女は同じラボに登録された実験体(ヴィクティム)だった。
ある合同実験に被検体としてわたしと彼女が選抜され、それ以来、顔を合わせれば言葉を交わすようになった。
といっても、それほど親密な付き合いがあったわけではない。
本当に世間話程度のことしか話さなかったし、お互いの『本当の名前』も知らなかった」
「『本当』の……名前?」
「ああ。マテリアルナンバーではない、『名前』だ。仲の良い者同士で姉妹の契りを交わし、
互いに名前を付け合う──そんな稚気に満ちた、そして切実な『姉妹ごっこ』がそのラボの密かなしきたりだった。
あなたのいたラボではそういうのは無かったのか?」
「──無かったな。こっちは徹底的に番号で管理されてたからな。
露骨な賞罰主義と競争主義が横行してたから、横の繋がりなんかなかったぜ。
周りは全部、敵さ。そこでまともな生活を送ろうと思ったら、まず隣のやつを蹴落とさなきゃ始まらねえ」
「ずいぶん殺伐としてるな……設計思想の違いか?」
「だろうな。スタンドアローンの戦闘行動に耐えうる、独立性と攻撃意欲の高い個体を創ろうとしていたみたいだった。
で──晴れてオレが『グリフォン』の適応者として最終選抜まで生き残ったってわけだ」
「なるほど……貴様の同族意識の希薄さと、能力に見合わぬ傲慢さは、そこで育まれたというわけか」
 いきなり話に割り込んでそう言ったのは、レッドと同じく『戦闘型』の思想の元に性格設計を為された『キース』、
『マッドハッター』のARMSを持つキース・シルバーだった。
「あんたにだきゃあ言われたくねーよ、シルバー」
「愚かなことを言うな。オレには実力の裏打ちがある。強力な能力があるからこそ、強者として振舞っているだけだ。
それに──オレは貴様のように、野良犬を躾けるような育て方はされていない。
名前の交換などと、傷の舐め合いじみた真似をする必要も無かった。
研究者たちがマテリアルナンバーの他に、生活上の個体名を割り振っていたからな」

213 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 11:41:10 ID:5UZGXQyj0
「……はっ。籠の小鳥よろしく大事に育てられてましたってか?
あんたのそのオレ様的な性格はそうやって培われたってわけだな?」
 と、せせら笑うレッドに、シルバーが眉根を寄せる。
「貴様……オレを愚弄するか?」
「ふざけろ、オレはあんたが言った言葉を返してやっただけだぜ」
「レッド。兄さんに対してそういう口の利き方をするものじゃない。
──シルバー兄さんも、やめてください。どうしてわざわざ相手の気分を害すようなことを言うのです?」
 まるで子供をたしなめる母親のように、バイオレットは厳しい口調で二人を諭す。
 シルバーは不満そうにぷいと横を向くが──ややあってからぼそりと漏らす。
「オレに言わせれば、貴様の方が最適な環境下で教育されたということだ。
なまじヒトの感情などに惑わされると、闘争意識を阻害することになる。
極限の戦闘状況に於いては、感情などというものは無用な邪魔者に過ぎず──、
そして、オレや貴様のような純粋な戦闘型のARMSでは、行き着く先は『極限の戦闘』より他にないのだからな」
「一緒にすんな。オレはあんたと違う。クリフのときのように、ガキ一人に大暴れなんてしねーよ」
 なおも殺気を飛ばしあう二人のキースに、バイオレットはうんざりしたように溜め息をついた。
「分かったわ。もう結構。話を逸らしたわたしが悪かったわ。元に戻しましょう。
──先にARMSの移植に成功したのは、実は彼女のほうだった。
『モックタートル』……アリスを言葉遊びでからかう『代用海ガメ』の名を冠した、情報制御用アドバンスドARMS。
それとともに移植成功者を意味するカラーネームを得、彼女──『M−107』は『セピア』となった。
だが──問題があった」
 缶コーヒーを飲み干したバイオレットは「缶はダメね、期待してなかったけど」と肩をすくめ、
空き缶を自動販売機横のダストシュートに放り込む。
「問題って、なんだよ」
「問題点は二つあった──ARMSが正常に定着しなかったことと、セピア自身の肉体に欠陥があったことだ。
知っているだろうが、我々という存在は珪素生命体であるARMSと、
炭素生命体であるヒトとのハイブリッド・オーガニゼーションだ。
根本から異なるルーツの種をひとつの個体に同居させるには、非常に繊細なバランスが要求される。
セピアの場合、そのバランスが危ういくらいにぎりぎりのレベルで、ほんのわずかにARMS側へ傾いていたの。
ARMS統制情報を抑制するリミッターこそ必要としなかったものの、
一度ARMSを解放するとたちまちに異常侵食の徴候を示したわ」

214 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 11:43:56 ID:5UZGXQyj0
 異常侵食──人体とARMSとの最適なバランスが崩れたときに発生する、ナノマシンの爆発的な増殖。
 その場合のほとんどは、外部から抑制信号を強制的に流し込まない限り、瞬く間に装着者の全てを食らいつくし、死に至らしめる。
「そして──セピアは心臓に先天性の疾病があった。心筋が萎縮傾向にあり、血液を全身に送る力が弱かったの。
そうしたヒトの脆弱さをカバーするのが、そもそものARMSの第一義であるはずなのだが──
やはり、ARMSが彼女に上手く適応していなかったのだろうな。彼女はやはり虚弱なままだった。
ARMS発動の負担に耐え切れず、発動実験の度に瀕死に陥っていたよ。
ラボの研究員たちは、そんなセピアに『再調整』を加えるべく、わたしの知らないどこかの研究施設へ送ることを決定した。
一度与えたはずのカラーネームを取り上げ、再び何者でもない『M−107』としてね」
 レッドが初めてセピアと出会ったとき、彼女が自分自身を評価した言葉──「出来損ない」
 その意味を、レッドは今になってやっと知ったと思う。
「話は前後するが……ちょうどその頃に、わたしも次なるARMSの移植者として選抜されたわ。
アドバンスドARMS『マーチヘア』と──カラーネーム『バイオレット』をその身に宿す者の候補として。
無菌室で寝たきりになっていた彼女は、まるで自分のことにようにそれを喜び、わたしを祝福してくれた。
そして、わたしたちは約束した。いつか、このラボではない外の世界で『セピア』と『バイオレット』として再会を果たすことを。
その時こそ『本当の名前』を教え合って──本当の姉妹となることを。
わたしと彼女はそこで別れ、連絡の取れないまま数年が過ぎた。
そこから先は、あなたたちのほうが詳しいはずよ。
反エグリゴリ組織『ブルーメン』が、彼女のいた施設を襲撃し、その身柄を拘束した。
正確にはブルーメンの正規部隊ではなく、ある小国の機械化部隊に浸透した下部組織だったのだけれど。
ブラック兄さんが彼らの潜伏先を突き止め──あなたたちとシルバー、そしてグリーンの手により、彼女は奪還された。
レッドの報告書を読んでわたしも知ったことだが、その頃の彼女はすでにARMSを問題なく制御できるレベルに回復しており、
『ニーベルングの指輪』という特殊能力まで発現させていた。
かくして彼女は一度失ったものを取り戻し、『キース・セピア』としてわたしの前に現れた。
──それがつい数ヶ月前の出来事」
「……その『約束』とやらは履行されたのか、バイオレットよ」
 シルバーが訊くと──バイオレットは俯きがちに首を横に振った。
「確かに、わたしたちは再会を果たした。
セピアはわたしを『お姉さま』と呼び──少し大袈裟に過ぎるとは思うが、わたしもそれを受け入れている。
だが……なにかが違っていた。彼女の心には、以前には無かった壁が張り巡らされるようになっていた。
それをわたしに思い知らせたのが……『名前』だ。セピアは、わたしに『本当の名前』を教えてくれない」

215 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 11:47:17 ID:5UZGXQyj0
 バイオレットの端正なおもてにいっとき陰が走り、
「その約束だけは、今も宙ぶらりんのままだ。
セピアがエグリゴリ本部に配属され、彼女と何度も接するうち、わたしは彼女の中にあるジレンマに気がついた。
それが──以前、あなたにも話しただろう、レッド。彼女の強力な警戒心と、それに拮抗する交流意識だ。
セピアは、根っこのところで他人と親しくすることを怖れている──
その一方で、驚嘆すべき自制心で対外的には快活さを以って接触している。
その『ハリネズミのジレンマ』を地で行く行動心理が、彼女のARMS『モックタートル』に由来するもの──
研ぎ澄まされた皮膚感覚と情報制御のための交感志向の産物だと、わたしは思っているが……本当のところは知らない」
 ここまで語り終え、バイオレットは「ふうっ」と重く息を吐いた。
 それはまるで、心の重荷をわずかに降ろした告解者のような風情で。
「セピアが……そのどっかの施設にいた頃のことは? そこでなにかがあったんじゃねーのか?」
 そんなレッドの質問に、バイオレットは再び静かに首を振った。
「訊いたことはあるが……セピアは答えてはくれなかったよ。
わたしは姉として失格だな──そう考えると、あの『約束』はわたしのほうからも破っているのかも知れないな」

 ──そして、再び夜が来る。
 ブラックに提出しなければならない書類の山に頭を抱えるレッドの隣で、セピアは暢気にテレビの通販番組を眺めている。
「あ、レッド、見て見て見て! 『ガンコな汚れにグッド・バイ、超々強力洗剤【マジカルクリーナーXXX】』だって!」
「だからなんだってんだ」
「──これ、欲っしー! レッドも欲しいでしょ?
カーペットのシミもレンジの焦げ付きも猫の引っかき傷も、みんなまとめて溶解しちゃんだって!」
「そんなあからさまな危険薬品いらねーよ! あんた、ちょっと静かにできないのか?
こっちはブラックの野郎に押し付けられた調査書やら報告書やらを今晩中に片付けなきゃいけないんだよ、
手伝えとは言わないが、邪魔だけはしないでくれ」
「あら、手伝ってあげようか? わたし、そういうの得意だよ?」
 マジか? と心が動きかけたレッドの目の前で、セピアの瞳がいたずらっぽくきらりと光り、
「『可愛くって賢いセピアちゃん、お願いします』って言えたらね」
「か──いーよ、別に頼まねーから」
「……あ、もしかして今、言おうとした? ねえ言おうとした? ねえねえねえ、ねーってば」
 そのうざったさに閉口するレッドに構わず、セピアはレッドの肩をがくがく揺さぶって問い詰める。

216 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 11:49:06 ID:5UZGXQyj0
「うるせえな……頼まないから大人しくしてろ」
 そろそろ堪忍袋の緒がやばいことになってるレッドの、相手を押しのけようとする手をセピアはひょいと軽い仕草でよける。
 そのまま、カウンター攻撃を決めるボクサーのように、レッドの懐へ飛び込む。
 鼻から数センチの距離に彼女の顔があった。
 と、ヒット・アンド・アウェイのようにばっと身を引き、にぱっと笑みをこぼす。
「うふふ、いいわよ、手伝ってあげる。敢闘賞よ。言おうとした努力だけは認めてあげるわ」
「なにも言ってないし言おうともしてねーよ。──おい、書類に触るな」
「まあまあまあ、いいじゃないですか」
 紙束を取り返そうとするレッドの手をいなし、セピアはボールペンを手に取る。
 レッドは憮然としてそんなセピアを眺めていたが──やがて諦めがついたのか、
忌々しげに舌打ちし、手元に残された書類を片付ける作業に取り掛かった。
 ──しばらくの間、二人は無言だった。
 ペンが紙とテーブルを引っかくカリカリした音と、低く唸る空調の排気音、
テレビの通販番組に登場する場末のタレント二人がなんでもヘルシージュースに変えてしまう超高性能ミキサーを
これでもかと交互に褒めちぎる美辞麗句が、その二人の沈黙を埋めていた。
 ふと、レッドの手が止まる。
「──なあ、セピアよ」
「んー?」
「調子はどうだ?」
「上々よ、ありがとう」
「あー、そうじゃなくてだな」
 しばし言葉を探してレッドの視線が宙を彷徨い、
「なにか……困ったことはあるか?」
「ないよー」
 即答だった。
 これまで、セピアの数々の奇矯な発言や行動に手を焼かされてきたが──、
 今の言葉こそ、極めつけにレッドを唖然とさせた。
 困ったことが──ない?
 そんなこと、あるはずがない……あるはずがないはずだった。

217 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 12:13:33 ID:eKTV81V90
規制中ですか?

218 :ヴィクティム・レッド:2008/02/13(水) 12:18:45 ID:5UZGXQyj0
 エグリゴリという檻の中に生まれ、組織の有するありとあらゆる負の面を凝縮したような存在である『キース』が──、
「なにもないってのか。人生は上々だ、と?」
「うん」
「あんた、自分のこと『出来損ない』だって言ってたじゃねーか」
 地雷を踏むような予感は十分にあったが──その言葉を口にするのをどうしても止められなかった。
 ぴたりとセピアの手が止まる。
 そして顔を上げ、
「……だから?」
 そこに浮かぶセピアの表情は──なにも無かった。
 凪を迎えた水面のように、『分厚い』無表情が、そこにあった。
 レッドは、ここで初めてセピアの『表情』を見たように思う、彼女のその鉄壁を実感したと思う。
 バイオレットが度々言っていた『警戒心』──正直、その言葉の意味をレッドは量りかねていたが、今なら分かる。
 思い知る。彼女がレッドに、そして周囲のものに見せていた明るさは、目くらましだったことを。
 レッドは、きっと戦慄していたのだろう。
 彼の目の前にいる少女は──もはや『少女』ではなかった。
 ヒトのかたちをした『なにか』、
「────」
 声が聞こえる。
 レッドに囁きかける、沈黙の天使が。
 虚無の深淵に立つ、ヒトのかたちをした──どうしようもないくらいにたった一つの孤独。
 かける言葉を失い、ただそこにいるだけとなってしまったレッドをじっと見つめていた『それ』は、やがてのろのろと顔を伏せた。
 そうしてやっと──『それ』は『セピア』へとなった。
 そして、再び、部屋の中に音が戻ってくる。
  ペンが紙とテーブルを引っかくカリカリした音と、低く唸る空調の排気音、
テレビの通販番組に登場する場末のタレント二人が一日三分で驚くほどスリムアップできる革命的ダイエット器具を
これでもかと交互に褒めちぎる美辞麗句が、沈黙を埋めていた。
 その沈黙に身をゆだね、ひたすらに書類にペンを走らせるセピアの横顔は──、
 どこか悲しそうだった。

219 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/13(水) 12:24:42 ID:5UZGXQyj0
ふと思った。永遠の扉の現在進行中のストーリーと微妙にネタ被ってるんじゃないかと。気のせい?

220 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 12:33:47 ID:eKTV81V90
大丈夫っすハロイさん。ネタかぶりまくりは昔から結構ありますw

リアルタイムで読んでましたがセピアの初々しさと明るさが逆に痛々しいな。
明るさの薄皮一枚下にある儚さが今にも溢れ出そうで。
日常のテレビ番組と非日常のキースシリーズの対比が滑稽で哀しい。

221 :age:2008/02/13(水) 13:42:28 ID:2gTPMSe10
age

222 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 15:44:37 ID:atWxp//f0
スターダストさんもハロイさんも最近調子良くて結構ですね。


>永遠の扉
秋水はずっと主役してましたが、まひろは最近小札やビクトリアに
ヒロインの座を奪われそうだったんでこれからの展開は楽しみですね。
甘甘には(秋水側が特に)なりそうにない2人ですけども。


>ヴィクテム・レッド
ああ、ちゃんとセピアのARMSもアリスからの出展だったんですね。
凝ってらっしゃる。しかしセピアも悲劇的な結末しかないのかな?
原作でもバイオレット以外は救われなかったからなあ。


223 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 16:12:34 ID:0de5MyOzO


224 :作者の都合により名無しです:2008/02/13(水) 18:43:18 ID:BOkzRJH20
ハロイさんの4編の中でヴィクテムが一番好きかな
俺がアームズのファンというのもあるが

225 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 00:20:02 ID:v5vDT9uO0
しかしスターダストさんもハロイさんも
良く創作意欲続くなあ
尊敬するよ

226 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/14(木) 02:52:18 ID:ccT0ji8r0
 
立場は完全に入れ替わってしまった。
不用意に拳を放てば先程のように迎撃される。
しかし、最早距離とタイミングを計り、時間を掛けて攻略という訳にもいかない。
滴り落ちる血時計は残り時間どころか、現在進行形で防人のパワーとスピードを徐々に
削ぎ落としていく。
(考えろ、考えるんだ……!)
アンデルセンの持つ獲物、構え、戦闘スタイル。
これらに現在の己の状況を加味すれば、やはり選択するべきは迫り来る銃剣を避けつつの
“カウンター”だ。
それも一撃必倒の威力を持ったもの。
だが、そう上手くいくのか。
アンデルセンはもうこのまま立っているだけでも勝利を奪えるのだ。
直接手を下さずとも、時間の経過が防人を殺してくれる。
しかし――

「失血死は待たんぞ。そんな優しい真似をこの私がするものか……」

――アンデルセンのこの一言で条件はすべて整った。

(さあ、来い……)
防人は使用不能の左手をブラリと垂らし、右手も若干ガードを下げて待ち構える。
ゆっくりと、実にゆっくりとアンデルセンが距離を詰める。
やがて、三白眼気味の両眼がカッと見開かれると同時に、アンデルセンは防人に向かって突進した。
その巨体からは想像も出来ない素早さで。
「シィイイイイイイイイイイ!!」
右の銃剣による刺突が、心の臓腑目掛けて空気を斬り裂き襲いかかる。
(ここだ!)
余力を振り絞り、身体を捻ると同時にステップワークを使い、辛うじて刺突をかいくぐりながら
左側へ回り込む。

227 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/14(木) 02:53:29 ID:ccT0ji8r0
そう、狙うはアンデルセンの左側面。
右手の銃剣を順手持ちに変えた事が、唯一の付け入る隙を防人に与えた。
逆手持ちの左の銃剣では、真左からの拳は身体構造の点からいって迎撃は不可能だからだ。
あとは顎の先端を渾身の力で打ち抜き、再生能力ですら制御出来ない脳の揺れを以って
アンデルセンを地に沈める。
「オオオオオオオオッ!」
全身全霊を込めた防人の右フックが弧を描く。完璧な形だ。

その時である。必勝を確信した防人は突然に――
(……!?)
――何を思ったのか、拳が目標に到達する遥か前に緊急停止しようとした。
のみならず、アンデルセンから無理矢理に遠ざかろうとする。
だが完全に攻撃動作に入ってしまった身体は停止させるだけでも並大抵ではない。
と言うよりも不可能だ。
自然、腕を泳がせ、身体を捻れさせ、足をもつれさせた、何とも無様な醜態を晒す事となった。
防人はフラつきながらアンデルセンの足元に尻餅を突く。
そのフラつきもバランスを崩した為のものだけではない事は、出血の止まらぬ手首の傷が
物語っていた。

それにしても何故、防人は千載一遇のチャンスを捨ててまで攻撃を止めたのか。
その答えはアンデルセンの左手にあった。
彼はいつの間にか左の銃剣を順手に持ち替えていたのである。
防人があのまま拳を打ち抜こうとしていれば、タイミングを合わせて銃剣を振るわれ、
今頃は床に転がる己の右手を見つめる事になっていただろう。
アンデルセンは防人の思考を読み取り、掌の上で踊らせていただけなのだ。
構えを変えたのはただの“餌”に過ぎなかったのだ。

「ククク……」
両の銃剣を下ろしたアンデルセンは防人を見下ろし、防人は霞み始めた眼でアンデルセンを見上げる。
未だ保たれているアンデルセンの笑みは、歓喜とは違う感情も多分に入り混じっていた。
「何だ、差し出してくれるのではなかったのか? 今度は右の拳を……」

228 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/02/14(木) 02:59:40 ID:ccT0ji8r0

ども、さいです。
全裸で書いていたせいか、こんなに短くなってしまいました。
ちなみにアンデルセンの銃剣。
右手が逆手持ちで左手が順手持ちだった場合は、防人は身体を回転させて避けながらの
バックブロー(しかも弧拳)を放っていたでしょう。
キャラになりきって発想するならば、たぶん。
どうでもいいですかね。
では、御然らば。

229 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 08:29:25 ID:Aclezsyp0
確かにいつものさいさんからしてずっと短いですなw
でも、ラストに至る前の生みの苦しみという感じなのでしょうか。
アンデルセンは無敵のまま退場してほしいものですね。

230 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 16:48:02 ID:Ks4xg9hJ0
2レスだけど色々と考えながら書いたんでしょうね。
防人VS神父の最終決戦で残りあと僅かだから慎重になっているのかな。
肉体の強さはブラボーが上だけど、他は全て神父が上回っている感じ。
次回決着かな。

231 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/02/14(木) 16:49:18 ID:9HmAOCTP0
『真紅と辛苦のデイズ_中編』


 ダンダンダンダーダン、ダーダダン♪ ダンダンダンダーダン、ダーダダン♪
 『ダースベイダーのテーマ』に送られて登場したのは、やはりダースベイダー卿だった。
 もちろんそれは本物ではなく、中華料理店『鉄火屋』の店主である。
 いったいなにを目的としたサービスなのか知らないが、
漆黒のガスマスクを顔に擁いて登場した彼の雄姿(っつーかコスプレ)に、その場のほぼ全員が度肝を抜かれる。
 この突然の変態登場に動じないものはやはり変態しかいない。
 結論から言うと変態は三人(+α)いた。
「ほう……このオレに及ばぬまでも、蝶・素敵なマスクじゃないか」
「すっげ、すっげーカッチョイー! なあカズキン、カッチョイーよな!?」
「もしかして華花ちゃんのお父さんですか? マントは似合ってませんけど、マスクだけならオシャレですね」
「……ママの『ルリヲヘッド』に似てるかも」
 しかし、ああ、変態たちよ、彼らは一つ思い違いをしていた。
 確かにこの店主、一廉の変態ではあるが同時に善良な銀成市民でもあり、客商売を生業としている。
 そんな彼が、わざわざ自分の趣味を披露するためだけの理由でこんな奇抜な格好でお客様の前に姿を現すはずがない。
 そう、このコスチュームは──ある一点において機能的な意味での合目的性があったのだ。
 最初に反応したのはまひろだった。
「あれ……?」
 いきなり、まひろの目尻に涙が浮かび、その水滴はつうっ、とふっくらとした頬を伝い落ちていく。
 わけも分からず、まひろはぽろぽろととめどなく溢れる涙を拭う。
「あれ? あれれ……?」
「ど、どうしたのまっぴー? ──って、え……?」
 驚くさーちゃんの目にも涙。
 涙のわけは、ダースベイダー=店主の抱えていた盆の、『それ』が二つとも卓に載せられた瞬間、たちどころに判明した。
「このラーメン──痛くない?」
 さすがちーちん、メガネキャラは伊達ではない。今ここにある脅威の本質をたった一言で切り取ってみせた。
 彼らの眼前に鎮座する『それ』はひたすらに紅く、ひたすらに熱く──ひたすらに痛かった。
 唐辛子の辛さの主成分──カプサイシン。皮膚や粘膜などに触れると痛みを引き起こす。

232 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/02/14(木) 16:51:54 ID:9HmAOCTP0
 このカプサイシンの割合を示す単位をスゴヴィル値と呼び、防犯用の催涙スプレーはおよそ二百万スゴヴィルである。
 卓上の『それ』のスゴヴィル値がいかほどなのかは知るべくもないが、
上記の通り、至近距離でガス圧力によって散布される催涙スプレーが二百万スゴヴィルであり、
気流に乗って漂ってきた香りだけで涙を流させることを考えると──
このラーメン、もしかしたら人としてやっちゃいけない領域に足を踏み入れてるのかも知れない。
 そんな強烈なインパクトに埋もれて見落としそうになるが──量も相当なものである。
 器の容量で言えばおそらく普通のラーメン用のそれの約三倍はあるだろう。ゴゼンのお風呂にぴったりだ。
 そんなドレッドノート級のドンブリに、人を馬鹿にしてるかと疑いたくなるような勢いで麺がぶち込まれている。
 通常、麺というものは器に山盛りになって出されるものではない。
 なのに──山になっていた。水面から顔を出す麺の塊が大きな島を作っていた。
 豚の挽肉を炒めたもの、揚げニンニク、刻みネギなどがこれまた無遠慮に麺の島を埋め尽くしている。
 それらを取り囲むスープは鬼が張り番してる地獄の血風呂のような毒々しい色に染まり、もうもうと『痛い』湯気が立ち昇っていた。
 カプサイシンに発熱感、発汗、強心作用があるのは周知の事実、見てるだけで汗だらだらである。
 あまつさえ、そのスープ──これからダービーVSジョセフ戦をやらかそうとでも言うのか、ぎりぎりの表面張力にまで注がれている。
 そしてその表面を、うっとり見とれるくらい鮮やかなヴァーミリオンの発色の油が覆っていた。
 赤く、そして三倍──これで角が生えてたら完璧だが、あいにく店主はガノタではない。見ての通りのスターウォーズマニアである。
「お待たせいたしました(コー、ホー)。
『辛さ爆発(コー、ホー)地獄焔(コー、ホー)・泣く子も(コー、ホー)爆発(コー、ホー)超激辛(コー、ホー)・
キョンシー(コー、ホー)が生き返る反魂辛(コー、ホー)・エリキシィラーメン』です(コー、ホー)」
 マスクの吸気音がうるさくてなに言ってるか分かり辛いが、とにかくこれが『辛さ爆発地獄──長いな、『激ラー』にしよう。
 とにかくこれが激ラーで間違いないようだった。
 もはや言葉は不要である。
 その場の誰しもが──向かうところ敵なしのパピヨンでさえ、その凶悪なしろものの前に固唾を呑んでいた。
 思いは皆ひとつである。
(これ、マジで喰えんの……?)
 ここで、ゴゼンが勇気を奮ってとことこと卓上を歩いて激ラーの隣に立つ。
 ちゃぷ、とスープに手を浸し、それをペロリ。
 どかん!
 次の瞬間にはゴゼンの姿は掻き消えていた。

233 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/02/14(木) 16:53:30 ID:9HmAOCTP0
 ピリリリリリ。
 携帯の着信音が鳴り響き、パピヨンが股間のポッケから携帯電話を取り出す。
 通話をオンにすると、きんきんに割れた桜花の声が流れてきた。
『パピヨン、いったいなにがあったの!? 貴方と一緒にいたはずのゴゼン様が、
致命的なダメージを受けたことで核金になって戻ってきたわ! ──敵の襲撃を受けているの!?』
 驚愕に震える斗貴子の声が虚ろに響く、
「馬鹿な……強制、武装……解除だと……?」
 なおも事態を把握しようとする桜花の通話を一方的に打ち切り、気を取り直したように胸を張るパピヨン。
「──どうした、武藤。怖気づいたか? 今ならまだ間に合うぞ?
シェイクスピア風に言えば『To be ,or not to be, that is a question.』というやつだ。さあ、ど・う・す・る?」
 カズキは答えない。ただ黙って激ラーを注視している。
 嵩にかかるパピヨンは、いやらしい笑みを浮かべて身を乗り出す。
「先に言っておくが、貴様が負けた場合はそれなりの報いを受けてもらうから覚悟しておけ……。
そうだな──貴様は他人の痛みには滅法弱い……そこのブチ撒け女」
 ぴたりと斗貴子を指で差し、
「明治浪漫風のメイド服を手始めに、蝶・恥ずかしいコスプレ七変化でロッテりやの一日店長をやってもらうか!」
 濁ったドブ川のような目で、耳まで裂けよと口を開け、これ以上ない悪役顔。
 呆れ半分のジト目で睨むヴィクトリア、エロスの予感にいきなり目が輝きだした岡倉、
とりあえずおろおろする大浜、どこでツッコむのが一番効果的か長考中の六舛、
そんなとんでもない要求に目を丸くしてあわわってなるまひろ&さーちゃん&ちーちん、
 そして怒りと羞恥で立ち上がりかける斗貴子を手で制し、
「……お前が負けたらどうするつもりだ、蝶野!」
 みんなのヒーロー武藤カズキが、闘志も露わにパピヨンに対峙した。
「知れたこと、同じことをやってやるとも──」
 「そんなの見たくねー」って感じでげんなりしかける岡倉だったが、
「こいつがな」
 ヴィクトリアを指名したことで、どっちに転んでもおいしい展開になったと「YES! YES! YES!」って感じでガッツポーズする。
「じょ、冗談! なんでわたしが!」
「オレは冗談など言わん」
 猛烈抗議のヴィクトリアをスルーして、カズキへと視線を固定する。

234 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/02/14(木) 16:55:48 ID:9HmAOCTP0
 その粘っこい変態的な視線を正面から受け、カズキは重々しい声音で言葉を紡ぐ。
「ダメだ、蝶野。斗貴子さんにも、ヴィクトリアちゃんにも、そんな真似はさせられない」
「フン、相も変わらぬ偽善者っぷりだな。だが、ここでそんなことを論じても解決にはならん。
貴様の思い通りにしたくば方法はただ一つ──このオレに勝つことだ!」
 補足説明ではあるが、パピヨンはこのとき『ダブルバインド』という詐術を用いている。
 本来矛盾するはずの二つの概念を、その片方にのみ意識を集中させることで無理矢理両立させるレトリックである。
この場合だと、最初に『勝負するかしないか』を問題として提示しておきながら、
話を『勝利条件』『勝てばいい』と巧みにすりかえることで、暗に『勝負すること』を前提条件として成立させてしまっている。
 だが、どの道──直情的で打算や駆け引きとはほど遠い、愛すべき馬鹿野郎であるカズキにそんな小細工は不要だったろう。
「蝶野、ひとつ言っておく──お前が負けたら、七変化はお前がやれ! オレが負けたら、オレがやってやる!」
「ば、馬鹿! いきなりなにを言い出すんだ、カズキ!」
「心配しないで、斗貴子さん。オレ……なにがあっても斗貴子さんを守るから」
 カズキは斗貴子を安心させるように力強く頷く。
 これがもっと別の状況だったら、斗貴子も素直に頬を染めていたであろう。だが──、
「そ、そういうことを言ってるんじゃないっ! 前回といい、キミはヨゴレへのキャラ転換でも狙ってるのか!?」
「そうだカズキ! そんなの認めないぞ! オレが見たいのは──!」
「お兄ちゃんだめえええええ!」
 すがりつく斗貴子と岡倉とまひろを振り払い、
「──勝負だ!」
 その宣言を挑戦受諾の意志と受け止め、ダースベイダー店長が懐からライトセイバー型のストップウォッチを取り出す。
「制限時間は三十分(コー、ホー)、麺と具材はもちろんのこと(コー、ホー)、
器の底の『辛』マークが見えるまで(コー、ホー)スープを飲み干すことが(コー、ホー)完食条件です(コー、ホー)。
一秒でも過ぎた場合は(コー、ホー)園三千を申し受けますので(コー、ホー)お含みおきを」
 ここが出番だと見定めた六舛が、レンゲをマイク代わりに実況を開始。
「さあ、間もなく始まります『蝶人・パピヨン』VS『武藤カズキ』の三十分一本勝負。実況・解説はわたくし六舛と大浜でお送りいたします」
「え……僕も?」
 戸惑いつつもレンゲを探してきょろきょろするとっても素直で優しい大浜、
「勝てよカズキ! 負けてもいいけどな! そして罰ゲームは当初のセンで頼む!」
「……ちーちん、応援しとく?」
「えー……正直、引いちゃうな、これ……」

235 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/02/14(木) 16:57:58 ID:9HmAOCTP0
 そんなこんなで外野も十分に暖まったところで、
「──始め!」
 ヴゥォン、という合図とともに、ストップウォッチがカウントダウンをスタートした。
 弾かれたようにカズキとパピヨンの両名は割り箸を手に取る。
 カズキは箸の片側を口にくわえて切り離し、パピヨンは器用にも片手で箸を割ってそのまま構える。
 切って落とされた戦いの火蓋、そのファーストアクションは奇しくも一致していた。
 すなわち、スープから露出した麺狙いであった。外気に晒されてある程度冷まされているであろうことはもとより、
スープに浸っていない──つまり、辛さの点からいって手をつけやすいという判断である。
 スピードはわずかにパピヨンが上回っていた。
 速度を補うには量、と言わんばかりにカズキはおもむろに麺の島に箸を突っ込むと、ごっそり絡めとって持ち上げる。
 そのまま腕を固定し、物凄い勢いで首を伸ばして顔面をそっちへ持っていった。
 それを見たパピヨンが負けじと蝶スピードで麺をつかんだ箸を口元に引き寄せる。
「一口目はほぼ互角と言ったところでしょうか。さあ注目の二口目──おおっと?」
 大浜が椅子から腰を浮かしかけ、その巨体がテーブルのふちに引っかかって卓が揺れる。
「これはどうしたことか──両者、動かない! どういうことでしょうか、六舛さん」
「おそらく、予想外の辛さに度を失っているのでしょう」
「二人が狙ったのは激辛スープに浸されていない部分のはずですが?」
「ええ、その通りです。つまり考えられる事はひとつ……麺に唐辛子が練りこまれていたのでしょう。
『凍傷』を意味する『フロストバイト』という名の激辛ソースがありますが、これがタバスコの十〜二十倍の辛さを持つと言われています。
これを料理に混ぜ込むと、色を変えることなく辛さだけを付加することが可能です。
おそらく店主は、これをトラップとして使用しているものと思われます。──違いますか?」
 レンゲを差し向けられた店長は一言、
「コー、ホー」
「驚愕です──チャレンジャーの戦術の隙を容赦なく突いてくるマスター! 真の敵はここにいたー!
これは序盤から大荒れの模様! さあ、他にもこのようなトラップは仕掛けられているのか!? 勝負の行方は誰にも分からない!」
 意外とノリノリな大浜の実況をよそに、カズキとパピヨンは硬直している。
 先に実食に復帰するのはどちらか。
 この残虐超人にも引けをとらぬ悪魔のようなラーメンを克服するのは誰か。
 蝶・恥ずかしいコスプレ七変化でロッテりやの一日店長をやるのは誰か。
 ──それは、勝利の女神だけが知っている。

236 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/14(木) 17:00:25 ID:9HmAOCTP0
やっぱり変な話です。
書いてるほうはそこそこ面白いけど、読んでるほうがどう思ってるかはぶっちゃっけわかりません。

237 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 18:57:26 ID:Hjg7sbfd0
こういういい意味での悪ノリ話は好きだ
いつも精密な長編ばかり書いていると
疲れるだろうしね、ハロイ氏も

238 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 19:43:32 ID:v5vDT9uO0
オレも好きだな
ハロイ氏もこの作品は肩の力抜いて書いてる気がする
しかしパピヨンは美味しいねえ、どこでも



239 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 21:48:46 ID:mdwQxTUB0
吹いたw
明らかにカプサイシン致死量超えてるwww

240 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/14(木) 21:57:44 ID:f1xU1y580
>3より

3

その惨状の中、行動できたのは薬売りだけだった。
ご主人の倒れるか倒れないかのうちに白い札のようなものを襖に投げつける。
札の一枚が襖に張り付き、そのまま無数の札の列が円を描くようにぐるりと部屋を一周した。
白かった札に何かの文字が一瞬浮かび、それがぞろりと溶けて目玉を描く。
ご主人が僅かに開けた襖は、薬売りが札を指差して横にスライドするだけでぴっちりと閉じる。
……宿の主人が倒れてから、桂木弥子が三回瞬きをする間のことだった。

主人に駆け寄るものは居なかった。皆非現実的な光景に自失状態なのかもしれない。
女将ですからへたり込んだまま呆然と夫を眺めている。
ヤコは再び主人に目をやった。
倒れた主人は全く動かない。ばっくりと裂けた喉からは一滴も血が出ていないのが異様だった。
傷口はただ赤く、覗いた肉がてらてらと光っている。

「こ……これで安全なのかな」
主人を遠巻きに見ながら中村が言う。
「さあ。それは、どうだか。時間は稼げるでしょうがね」
薬売りは薬箪笥から何か取り出しながら答えた。そして急に振り返りヤコを見る。
「ヤコさん、手伝っちゃあくれませんか」
「は?ええと」
ヤコは何故自分なのかと問いかけたが、周囲を見て納得した。
女将も安藤も中村も、そして籠原叶絵もまだ呆然としている。
事態が全く飲み込めないのはヤコも一緒だが、異常事態慣れしている分まだ頭も身体も機能している。
それと奇人変人に人外のものにも慣れている。全く嬉しくないのだけれど。



241 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/14(木) 21:59:08 ID:f1xU1y580
薬売りに幾つも手渡されたそれはヤジロベーに似ていた。白く逆三角形で、左右には鈴がついている。
装飾も施されていてどちらかというとベネツィアあたりの祭りの仮面に形が似ているかもしれない。
「あの、これは」
「天秤ですよ。……物の怪との、距離を測るためのもの。物の怪が近づくと傾くんですよ」
「てんびん……」
天秤ってそんな使い方だったかとヤコが考えていると、目の前に一つが浮き上がった。
天秤はヤコにお辞儀をするように前に傾き、鈴がりんとなる。なんだか礼儀正しい。
「あ、ありがとう」
天秤に挨拶をされヤコもぺこんとお辞儀を返す。視界の隅で薬売りが少し目を細めた気がした。

ヤコは薬売りの指示で床の隅に天秤を置いていく。これも部屋を一周させるようだ。
そんなヤコを見ながら安藤が薬売りを見た。
「これで俺らもご主人みたいに死なずにすむのかい」
薬売りは天秤を置く手を止めてちらりと安藤を見る。
「まだご主人は死んじゃあいませんよ。―――今のところは」
「今のところは?」
皆が薬売りを見る。
ピクリとも動かず呼吸もしていないこのご主人の状態で死んでいないと言うのは通常ありえないが―――、
今は『通常』ではないということを思い出したのか誰も何も言わない。
「まあ……、こちらが物の怪を斬る前にここに居る全員が斬られてしまえば分かりませんが、ね」
つまり、物の怪に斬られてもとりあえずは死なないが全員が斬られてしまえば分からない、ということか。
一瞬安心しかけた皆も再び顔が強張る。



242 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/14(木) 22:01:05 ID:f1xU1y580
「き、斬るってえとアンタの剣で化け物を斬ってくれりゃいいんだな」
なんとか安心したいのか、安藤が再び言う。
「早くなんとかしてくれ、こんなのはもう嫌だ」
「言ったでしょう。斬れませんよ、今のままでは」
薬売りは退魔の剣を見る。
「この物の怪の『形』と『真』と『理』が揃わねば、この退魔の剣を抜くことはできない」
「意味わかんねえよ!」
中村は頭を抱える。当然だ。ヤコだってそんなことを言われても何をどうすればいいのか分からない。
女将も動かないご主人と薬売りを見比べながらオロオロとしているし、
叶絵だって「ヤコ意味分かる?」と囁いてくる。


243 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/14(木) 22:02:23 ID:f1xU1y580
「ああもう、何でこんなことになったんだ!ここにきたのはあれ以来二回目だってのに!
 こないだだって化け物に殺されなきゃいけないようなこたぁしてねえ!」
安藤が頭を抱えて喚く。
「あれ以来、ですか」
安藤の言葉に何を感じたのか薬売りが静かに言葉を挟む。
「取材だよ、火事の。俺は記者だ」
「―――ほう」
「半年くらい前にな、この近くで火事が有ったんだ。まだ若い母親と幼い三人の兄妹が死んだよ。
 ……貧しい親子でな、無理心中だとさ。やるせねえよな」
その事件はヤコも聞いたことが有った。
母親が子供たち三人に覆いかぶさるように死んでいたそうだが、
無理心中を図ったものの、死の間際にやはり子供たちを助けようとしたのだろうとされ涙を誘った事件だ。
確か他の新聞より早く無理心中と断定し、
いち早く政治がしっかりしていればというところまで追求し評価された記事が有ったはずだが、それを安藤が書いたのか。

「お、俺、それ知ってる。っていうか」
蹲って俯いていた中村がおずおずと手を上げる。
「俺が消防に電話したんだ」
「あの、あたしも」
ご主人の傍にへたり込んでいた女将もそろそろと手を上げた。
「見たんです、その火事。たまたま前を通った時に」
二人をそれぞれ見た薬売りは薄く笑った。


244 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/14(木) 22:03:49 ID:f1xU1y580
「なるほど。この傷口と三兄妹、これで見えた」
薬売りは退魔の剣の中ほどを握り、横向きのまま襖の方に突き出す。
「この物の怪の『形』は、―――『カマイタチ』」
かちん。
退魔の剣の柄にある狛犬もどきが歯を一回合わせた。

そして、薬売りは今度は安藤たちのほうへ横に持ったままの退魔の剣を突き出す。
「物の怪の『形』を為すのは、人の因果と縁(えにし)」
再び呆然とする安藤たちをよそに、澄んだ通る声で薬売りは言う。
「『真(マコト)』とは事の有様、『理(コトワリ)』とは心の有様。
 ―――よって皆々様の『真』と『理』、お聞かせ願いたく候」

……何かを確信したネウロの声に少し似ている、とヤコは思った。



                          〈続く〉

245 :ぽん:2008/02/14(木) 22:09:18 ID:f1xU1y580
モノノ怪を知らない方が多いので説明台詞が多くなってしまいました。
もっと上手く書けるといいんだけどな。

改めましてお久しぶりです。
前回よりは頑張ったつもりですが一ヶ月も開くようじゃだめですなw
あと二三回なので次は一ヶ月経たないうちにこようと思います・・・


246 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 22:27:36 ID:Hsz1hkqx0
おお、モノノ怪きてる。続き読みたかったんで嬉しい。
待ってるんでゆっくり頑張って下さい。

247 :作者の都合により名無しです:2008/02/14(木) 22:45:58 ID:v5vDT9uO0
お久しぶりーぽん氏
民族伝承っぽいお話オレも好きだー
ま、ゆっくり完結してください

248 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 08:31:59 ID:TwprScoW0
ぽん氏復活は嬉しいなあ

好調なスターダストさんやハロイさん、サナダムシさん
さいさん、邪神さん、クロさんとかと
並んでちょくちょく連載してくれないかな

あともう2人くらい復活してくれると完全にまた黄金期だけどなあ
NBさんとかサマサさんとか最近来ないなあ

249 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 11:55:33 ID:WV0N5MkE0
ハロイ氏芸風広いなw
激辛スープ吹いたww

250 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 12:31:10 ID:2odYxtdJO
ハロイ氏のコメディテイストに吹いたw

ハロイ氏って黒崎氏よりもことによれば上手いと感じてるのは俺だけだろうか
//は本屋でパラ見したが、正直読むに堪えなかった
あれで金を取るなんてどうかしてる

251 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 15:14:15 ID:m6VwFjK30
プロより上手いアマチュアって沢山いるからなぁ、どの世界でも
プロの敷居が低くなって、アマチュアのレベルが上がっているし

ケータイ小説ww

252 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 17:35:06 ID:RoC/vj/j0
恋沼だっけ?

253 :作者の都合により名無しです:2008/02/15(金) 19:55:03 ID:vBtbWu8x0
ぽん氏の作品は面白くなったなあ
最初の作品はそれほどでもなかったけど
なんとなくゲロ氏の作品を思い出す
雰囲気的に

254 :ふら〜り:2008/02/15(金) 21:33:15 ID:1dmfLqnw0
>>ハロイさん
・ヴィクティム・レッド
前回言ったのが来ましたね「セピアの中」。しかしまだまだ。何が、何の為に、外的要因も
セピア自身の意図も、まだ謎。今回のことで、レッドの彼女への気持ちが少しは変わるか。

・武装錬金_ストレンジ・デイズ(脂肪燃焼効果を期待して七味を大量消費してます私)
またしても食べ物の描写が巧い! 読んでて唾が湧いてきましたホントに。一口食べて
みたい。あとカズパピの意地の張り合いが、コスプレ見たさに関係ないのが微笑ましい。

>>さいさん
いろんな展開で二転三転してきたこの戦いも、最終段階に来てタネも仕掛けもなくなり
ましたね。超常の道具や各種超能力の出番はなくなり、筋力や瞬発力、そして判断力
などによる素の戦い。であるが故に、劣勢を一気に覆す大逆転ってのは厳しい。さて?

>>ぽんさん
血が出てないけど赤くて、てらてら。つまり肉そのものの色と、水分というか脂? ほんの
数行でいろいろ想像してしまぅ。そんな生々しさの次に、対バケモノバトルの準備と思ったら
ミステリー風味へ。主人公はヤコなわけだし、火花散る戦いではなさそう。どう決着するかな。

255 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/15(金) 22:12:23 ID:yG/9W/vf0
>>194より。

256 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/15(金) 22:13:01 ID:yG/9W/vf0
 昨日、邪神改めバカの神のおかげで戦わずに済んだのは、加藤にとってラッキーだった。
丸一日を休息に当てることで、完全ではないにせよ体力を回復させることが出来た。
 今日は早朝から、加藤はストレッチとランニングで軽く汗を流す。後に末堂との試合を
控えているが、緊張している様子はない。むしろ感謝すらしていた。
 武神から入手した情報をまとめると次の通りだ。
 加藤が出会った末堂は、紛れもない本物であり、しかも現実での記憶を失っていた。実
際に話しかけてみたが、
「末堂、なんでてめぇまでこんなとこにいやがる!」
「あァ? 俺はおまえなんて知らねぇよ。寝ぼけてるんじゃねぇか」
「まさか忘れちまったのか? 俺だよ、加藤だよ!」
「だから知らねぇって」
 まったく噛み合わない。武神に記憶を操作でもされたのだろうか。
 さらにこの十日間で、武神は末堂に強化を施したと述べた。より強大な壁として、加藤
の前に立たせるために。どちらも空手家なので、互いに互いを知り尽くした上での戦闘に
なるところもポイントだ。具体的にどのような強化をされたのかは戦ってみなければ分か
らないが、筋力面、技術面ともに以前より充実しているにちがいない。
 ようするに、武神の良い手駒にされてしまっているわけだが、不思議と怒りは湧いてこ
なかった。武神は性格こそ人間離れしているものの、ある種の筋は通すタイプであること
は何となく分かってきた。井上は無事に帰したし、昨日も試練を脱線した邪神を打ち倒し
た。おそらく悪意で末堂を加藤の対戦者に仕立て上げたのではない、と思う。
 息を吐き出し、加藤は独りごちた。
「……楽観のしすぎかな」

257 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/15(金) 22:13:53 ID:yG/9W/vf0
 なんにせよ不可避なカード(組み合わせ)だ。加藤としても、末堂は白黒をはっきりさ
せておきたい相手である。
 加藤はこれまでの末堂との戦歴を振り返る。
 ノールールでの試合は行ったことはないが、戦歴はほぼ五分五分、白星の数は加藤がや
や優勢か。
 さて、末堂を分析した際、まず目に付くのがパワーだ。二メートル五センチの体躯から
繰り出される打撃は圧巻の一言。加藤も不覚にも上段突き一発でのされてしまった経験が
ある。が、末堂は決して鈍重なパワーファイターではなく、疾く、そしてクレバーだ。力、
速さ、戦略が絶妙に融合した時の末堂は本当に強い。
 それでも数値で劣る加藤が、互角以上にやり合えた理由。それは加藤の狂犬のようなセ
ンスにこそある。末堂がブレーキを踏む場面で、加藤は迷わずアクセルを踏む。敵が想定
していない一手をあえて打つ。空手を道として究めるのでなく、空手をいかに効率よく使
うかを考えていた加藤。人並み外れた実戦志向が、平凡な体格の彼を神心会のトップファ
イターへと押し上げたのである。
「末堂、俺ァ手加減はしねぇぜ。ぶっ潰す!」
 無情に佇む水平線に、加藤は誓った。
 多種多様な試練を打破しレベルアップした加藤と、武神の加護を受けパワーアップを果
たした末堂。
 武神はこの戦いの果てに、二人に何を見せるつもりなのか。

258 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/15(金) 22:14:53 ID:yG/9W/vf0
 ──時刻は正午。末堂と武神が揃って島に姿を現した。
 末堂は胸に『武神』と縫われた真新しい空手着を身につけ、武神は相変わらず半裸に腰
みののように粗末な布を巻きつけている。
 加藤は久々に遠路から訪ねてきた友人を迎えるような態度で、二人を出迎える。
「よう、待ってたぜ」
「加藤……だっけか。おまえも空手を使うらしいな」
「あァ、おまえより上手にな」
 露骨な挑発に、末堂の眉がピクリと動く。短気な彼らしい反応だ。
「俺より上手に、だァ?」
「おうよ。おまえみたいなノッポは下段で痛めつけて、体が沈んだところに上段でも決め
りゃあ終わりだからな」
「てめぇなんぞのローが俺に効くと思ってんのか?」
「試してみりゃあすぐ分かるこった」
 すでに友人同士ではなくなっていた。いつどちらが仕掛けてもおかしくない。舌先でも
手加減なし。
「その減らず口をすぐ叩けなくしてやる」
「やってみろよ」
「……今日は死んだっていい」
「死んでもいい……か。残念だな、俺は死ぬわけにゃいかねぇ」
 両者は同じタイミングで拳を作る。姿形は違えど、同じ流派だけあってどこか似ている。
 視線を交える両雄。どちらも目を逸らさない。
 武神は腕を組み、黙って最終試練を見届けようとしている。
(やっぱこいつ──末堂だわ)
 これまでのやり取りから加藤は再認識した。あれもこれもどれもが、あまりにも末堂す
ぎる。思わず感動しそうになる自分を必死に抑える。

 加藤清澄 対 末堂厚、開幕!

259 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/15(金) 22:17:23 ID:yG/9W/vf0
二十九日目開始です。

260 :作者の都合により名無しです:2008/02/16(土) 02:45:09 ID:44fpuIaL0
遂に終わりが近づいてるな・・

261 :作者の都合により名無しです:2008/02/16(土) 09:06:45 ID:/JFOeJLd0
末堂相手には堂々とした空手の決着でしょうね。
30日で終わり?31日かな?
武神の前に克己か独歩とも戦ってほしいな。
末堂なら、「越えた」って感じしないしね。
ライバルかも知れないけど。

262 :作者の都合により名無しです:2008/02/16(土) 12:17:24 ID:Ywvk1DDJ0
井上さんはエンディング要員だろうか
末同も加藤も原作では強いイメージないけど
このSSでは花山くらいは強そうだな

263 :作者の都合により名無しです:2008/02/17(日) 15:09:50 ID:4ncdNI230
最近では珍しく週末来ないな

264 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 17:47:13 ID:S3kwPDpN0
 
万策は尽きた。
そもそも、最初から武装錬金を使わぬ闘いというのが無謀だったのだ。
絶対の自信を持つ純粋な身体能力も、アンデルセンが連綿と築き上げてきた闘いの機略の
前に打ち砕かれた。
そして、頼みの綱の筈のそのパワーとスピードも、出血多量の影響から失速を続けていく。
それだけではない。能力低下に止まらず、今では機能不全にさえ陥っている。
視点は揺れ動いて一ヶ所に定める事が出来ず、どんなに大きく呼吸しようとも息の荒さは治まらない。
全身の筋肉は己の意思に反して、緊張を解いて弛緩したがっている。
まるで上がりが地獄と決められている双六だ。
終われば死ぬが、賽を振らない訳にはいかず、進行は続く。

己の流す血溜りにしゃがみ込んだままの防人は動けずにいた。
闘いの趨勢は敗北に傾き、肉体は死に向かって突き進んでいる。
それどころか、意識さえも徐々に混濁を示し、ともすれば肉体と共に休息を選んでしまいそうになる。
防人を突き動かしていた冷えた心、無情なこの世の理によって生み出されたドス黒さ。
それらさえも濁りを増し、死の果てに押し流されていく。
しかし、そんな中、消滅を頑強に拒否し、輝きを増していく“もの”があった。

アンデルセンは再び構えを取る事もせず、虚ろな色合いを増していく防人の瞳を見つめている。
やっと見つけた、やっと対峙出来た、自分だけの錬金の“戦士”。自分の為の錬金の“戦士”。
だが、彼もまた過去に始末した“錬金の戦士”と同様に、己の銃剣によって終焉を迎えようとしている。
それがアンデルセンには我慢がならない。
『“私に殺される錬金の戦士”なんぞ木偶人形程の価値も無い。
“私との闘争の果てに命を滅する錬金の戦士”を求めていたというのに』

265 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 17:48:42 ID:S3kwPDpN0
アンデルセンの眉が釣り上がる。歯が軋む。
「貴様はそうではなかったのか……」
防人ではない、防人の意識の奥底に向けて語りかける。
「どうした……。そんなものか、錬金戦団。そんなものか、錬金の戦士。
我が仇敵、我が怨敵よ。所詮、貴様も我が“宿敵”とは足り得ないのか……」
アンデルセンはひとつ息を吸い、地を揺るがすが如き怒声をフロア中に轟かせた。

「どうしたァ!! 私を失望させるなァ!!!!」

アンデルセンの怒号に呼応し、防人はビクリと身体を震わせた。
働きを失いつつある鼓動に対し、そこに残る“もの”は尚も輝きを増していく。
それは――
『彼と闘い続け、そして、勝ちたい。いや、勝たなければならない。たとえこの身がどうなろうとも』
――という、あまりにも単純かつ無謀な意志。
火渡の言葉を借りるならば――
『ここでおっ死ぬ事になろうが、このクソ野郎をブッ殺さずにゃいられねえ』
――といった所だろうか。

「まだ、だ……」
身体を起こし、前を上を見据える。
「まだ生きてる……そうさ、まだ命がある……」
足を突き、地を踏み締める。
「まだ、闘える……!」
立ち上がり、残された拳を握る。

266 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 17:50:30 ID:S3kwPDpN0
「この拳は差し出せないが――」
“それを打ち倒さなければ己になれない”
「――命なら差し出すぞ、アンデルセン。お前に勝つ為に……!」

立ち上がった防人を前に、硬く堅く固く銃剣を握り締めるアンデルセン。
「Behold, I tell you a mystery, we shall not all sleep...」
嬉々とした曲線を描いたその口から何事かが低く呟かれたが、防人には聴き取れない。

防人衛とアレクサンド・アンデルセン。
彼らは再度三度、対峙した。
幾多の敵を越え、互いの拳打斬撃を越え、己の命を越え。
既にそこは、二人が共有する空間は、余人の意思など及ばぬ領域へと変貌を遂げている。
否。最早、己の表在意識すらも及びはしない。
すべてを“闘争の本質”という不文律が支配しているのだ。

そして、この間合いである。
アンデルセンの足元に尻餅を突き、そこから立ち上がった防人。
二人を分かつ距離は僅かに数cmしかない。
得物持ちのアンデルセンには絶対的に不利な間合いだ。
「貴様のその――」
言葉半ばにあったアンデルセンの顔を一瞬、肌色の刃が薙ぎ払った。
「グゥオォ……!」
アンデルセンの身体はグラつき、顔を伏せる。
それは使用不能となった左手の“肘”。
鋭利な肘打ちがアンデルセンの頬をザックリと切り裂いたのだ。

267 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 17:51:45 ID:S3kwPDpN0
極端な間合いの狭さが、使う筈が無いと思われていた左腕を武器に変えさせた。
防人の攻撃は終わらない。
何故ならば、アンデルセンの鳩尾にひっそりと右の拳が当てられているからだ。
「デリャアアアアアアアア!!」
防人が腹の底からの気合いを吐き出した瞬間、アンデルセンは激しく後方に吹き飛ばされた。
零距離射程からのストレートパンチ。
だが、それは“寸剄”などという高等技術ではない。
ただ単に遮二無二、持てる力のすべてで右腕を前に押し出しただけだ。
アンデルセンは後方へ身体を大きく動かされたというだけであり、拳のインパクトによる
ダメージはほぼ見られない。
吹き飛びながらも冷静に防人の位置を見極めたアンデルセンは、懐に手を入れ、そのまま何かを
勢いよく投げつけた。
「爆導鎖ァ!!」
それは異形の鎖。
一節一節に銃剣が括りつけられた長大な鎖が防人に迫る。
アンデルセン考案の“対多人数用”銃剣応用武具である。
鎖は幾重にも防人に巻きつき、銃剣同士がぶつかり合い打ち鳴らされる。
銃剣が肌を切り裂き、傷を増やしていくが、どうやら鎖そのものはただの鉄製のようだ。
「くっ! この程度の鎖――」
防人は己が身を虜にする鎖を粉砕しようと力を込める。
「甘いわ……!」
アンデルセンの言葉と同時に、無数の銃剣の柄がカチリと奇妙な音を立てる。
その瞬間、すべての銃剣が光を発し、轟音と共に強烈な爆発が巻き起こった。
「ぐああああああああああ!!」
これこそがアンデルセンが爆導鎖を“対多人数用”としている所以である。
本来は軍勢の中に投げ入れ、戦端を切り開く為のものなのだ。

268 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 17:53:58 ID:S3kwPDpN0
 
濛々とした黒煙がフロア中に埋め尽くす。
徐々に晴れていく煙の中に見えるものは、倒れ伏す防人。
爆破の衝撃と爆炎で全身の至る所が焼け焦げ、傷つけられている。
それでもまだ四肢体幹が砕けて肉塊と化さなかったのは、鎖の緊縛を断ち切るのが爆破より
ごく僅かに早かった為であろう。
「ぐぅうッ……! ガハッ!」
息も絶え絶えにうつ伏せる防人の様は、“風前の灯”という言葉以外では表せない。
身体にダメージを与えている傷も切創、熱傷、挫創、裂傷、刺創、擦過傷と枚挙に遑が無い。
手首から流れる血液もいよいよその勢いを増し、デッドラインである全血液量の1/3に
達しようとしている。
防人は起き上がる事が出来ない。
倒れたまま震える右手を前に伸ばし、床を掻く。何度も何度も。
その行為は死に行く者の苦悶のものなのだろうか。
そうではない。むしろ、ベクトルはまったく反対だ。
それは“生”にしがみつく為。命を捨てた闘争を続ける為の“生”を逃さないように。
見ると、指の間から煙を漏らしながら、防人は“何か”を掴んでいる。
先程の行為はそれを集める為のものだった。
防人はゴロリと仰向けになると、手に握った“何か”を左手首の傷に押しつけた。
肉の焼ける不快な音と悪臭が放たれ、立ち昇る煙は量を増していく。
防人が集めて握っていた物は、燻り続ける火薬の残滓や焼け焦げた銃剣の破片。
それらを使い、鮮血溢れる切創を焼いたのだ。
「これで……ち、血が、止まった……」
防人はゆっくりと立ち上がる。ゆっくりとしか立ち上がれない。
肉体の組織は傷つき尽くし、酸素を運ぶ血液量も致命的に足りない。
“死”は間近い。

269 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 18:04:21 ID:S3kwPDpN0
だが、立ち上がれる。立ち上がれるのだ。
「こ、来ない、のか、アンデルセン……。俺は……た、立ち上がったぞ……。
さあ、来い……! さあ、早く(ハリー)!」
防人の叫びに呼応し、今度はアンデルセンが身体を打ち震わせる。
歓喜は電流となり、全身を駆け巡る。
遂にこの錬金の戦士は、この男は、“初めて”我が眼前に立った。

「やっとだ……。やっと、始められる……!
私はお前を倒さなければならなくなった!
お前はこの私が、第13課(イスカリオテ)のこの私だけが殺さなければならない!
今! まさにたった今だ! 我らの闘争は今この時、今この瞬間から始まるのだ!!」

この時。この瞬間。
アンデルセンの発した言葉。
相対した敵が死の淵に立ち、闘いは佳境を迎え、終幕も間近という“この時”“この瞬間”。
ここまで来て、ようやくアンデルセンは防人に及第点を与えた。
“キャプテン・ブラボー”という存在を認めた。
己のすべてを懸けて闘うに値する“宿敵”として。
尚且つ、“これから”“今から”が闘いの開始だと言う。
これに誰が異を唱えられる?
至極、もっともな話ではないか。

「征くぞ、錬金の戦士(キャプテン・ブラボー)……!」

「来い、神父(アンデルセン)……!」



270 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/02/17(日) 18:05:36 ID:S3kwPDpN0
 


今日はここまで。
次回でやっと本編完結です。
あ、でもエピローグがあるから完全に終わりではないか。
それにしても改めて思う事は「I LOVE ANDERSON!」
では、御然らば。

271 :七クロ:50:2008/02/17(日) 19:13:05 ID:af+TAli70
>>180より

「へ、不良にゃ、酷なシーンだな」
「全くだ。砂漠なのに雨が降りやがる」
「……ふう、僕らの仕事もこれまでのようだね。ああ、なんだか日本が恋しくなってきたよ」
「……帰るか、クロマティー高校に」
「おう、そうだな」
「……お兄ちゃん達行っちゃうの?」
「うん、名残は惜しいけど、もうそろそろ帰らなきゃ」
「行かないでって言ったら?」
「君、そういう訳にも……」
「主君の命令でも?」

「…………………………」

「……嬢ちゃん。サムライごっこはもうお終いなんだよ」
「……林田君」
「何だよ、神山、文句あるのかよ。元はと言えば、ただの暇つぶしだったじゃねえか。
俺はもう疲れちまったぞ」
「林田の言う通りだ。我らとていつまでもサムライごっこを続けるわけにもいくまい」
「……そうですね、北斗さん」
「まあ、俺らみたいな不良にサムライは荷が重過ぎたってことだな」
「フ、ちげえねえ、肩がこっていけねえや」
「……………………(@フレディー)」

「でも、楽しかったぜ、お殿様」
「全く、みんな意地っ張りなんだから……」
「グスン、ごめんなさい、わがまま言って困らせて。でも、最後に一度だけ、お願い。
皆に是非見て欲しいものがあるの!」
「見て欲しいもの?」
「来て!」

272 :七クロ:51:2008/02/17(日) 19:15:53 ID:af+TAli70
〜オアシス〜
「へえ、これがオアシスかあ」
「戦ってばかりで見る暇が無かったけど、随分綺麗なところだね」
「うむ、これなら命がけで守った甲斐があったというものだ」
「来て、こっちよ」
「お……」
「へへ、綺麗でしょ。これがおじいちゃんの桜よ」
「ほお、これは凄い」
「確かに……」
「たまげたぜ。砂漠でこんな見事な桜を拝めるとは思わなかったな」
「まだ一本しか花開いてないけどね。でも、ほら、他の木にも蕾が膨らみ
はじめているのよ」
「へえ、本当だ……ん?」
「どうした、神山?」
「これは……桜じゃないね」
「え、まさか!どう見たって桜そのものじゃねえか」
「いや、確かに花はそっくりなんだけど、これは桜じゃなくてアーモンドの木だよ」
「アーモンド?チョコレートとかに入っているあれか?」
「うん、桜より乾燥に強い樹だから、砂漠でも育つらしいんだけど……」
「へへへ、ばれちゃった?その通り、これはアーモンドの花よ」
「へえ、こんなに似ているのに違う花なのか……」
「実はね、おじいちゃんは最後はぼけちゃってて、桜の木のつもりで
アーモンドの木を植えていたの。それで私もつい桜って……」
「そうだったのか……」

273 :七クロ:52:2008/02/17(日) 19:16:56 ID:af+TAli70
「おかしいよね。幾ら似ているからと言ってもアーモンドはあくまでアーモンドで
桜なんかにはなれないのに……ねえ、がっかりした?」
「まさか。そんなことねえさ。確かに砂漠じゃ桜は咲かないのかもしれんが、
綺麗な花であることに変わりはねえ」
「その通り、どっちだっていいじゃないか」
「へへへ、私ね、ここの花が満開になったら皆でお花見するつもりなの。
その時はお兄ちゃん達も見に来てよね」
「ああ、必ず来させてもらうよ」
「本当!きっとよ!」

「……神山、そろそろ飛行機の時間だぜ。行かなきゃ」
「……あ、そうだ、忘れていた。私、こんなにお世話になったのに
まだ自己紹介もしてなかった」
「あ、名前ならもう知っているぜ」
「え?」
「なあ、神山」
「ああ、そうだね」
「そっか……じゃあ、お兄ちゃん達これでさよならだね」
「……うん」
「あばよ、姫様」
「……お兄ちゃん達、忘れないでね。ここ砂漠でも日本と同じ花が
咲くってことを」
「ああ、忘れないよ。じゃあね、サクラちゃん!!」

274 :七クロ:53:2008/02/17(日) 19:23:04 ID:af+TAli70
〜飛行機内〜
前略、おふくろ様。こうして僕らの修学旅行は終わりました。
クロマティー高校にふさわしく波乱万丈な旅行でしたが、
僕らはかけがえのない何かを得たように思います。辺境の地に
根付いたあの一輪の花はこれからも砂漠で美しく咲き続ける
ことでしょう。まあ、そんなことはともかく……………ここ、何処?

「お〜い、神山、何やってんだよ。飛行機はもうとっくのとうに到着しているんだぞ」
「あ、林田君。今、手紙を書いていたところなんだ」
「何だ、またかよ。本当に手紙書くのが好きな奴だな」
「いや、まあ、そういう訳でもないんだけど」
「ほら、ようやく日本に着いたんだから、さっさと帰ろうぜ」
「……うん……そうだね」
「いや〜、久しぶりの故郷は空気が違うぜ。やっほ〜」
「……ねえ、時に林田君。ここって本当に日本なのかな?」
「何言ってんだよ、神山。日本行きの飛行機に乗ったんだから、
日本に到着しているに決まっているだろ」
「まあ、それはそうなんだけどさ、だったら何で辺り一帯に砂と岩しか
見あたらないの?」
「……そういえばしばらく見ない間に随分と荒れ果てたものだな」

275 :七クロ:54:2008/02/17(日) 19:30:24 ID:af+TAli70
「いや、荒れると言っても限度ってものがあるでしょ。それに眼下に広がる
あの巨大なクレーターは一体、何?」
「クレーター?あのでっけえ穴ぼこのことか?」
「うん、東京にあんなものはなかったはずだよ」
「ふ〜ん、じゃあここ伊豆?」
「……伊豆だったらクレーターがありそうという君の発想が全く分からないのだが」
「ああ、ああ、皆まで言うな。つまりお前はこう言いたいわけだ。『伊豆に空港は
無いよ、林田君』と」
「いや、違う。僕が言いたいのはここが一体、何処なのかってことだよ。
周囲には空港どころか、ビル一つだって見えないじゃない」
「お前も相変わらず心配性だな。あまり細かいことを気にするなよ。ほら、
空を見てみろ。青いお月様が浮かんでいるぞ。なんとも粋なものじゃねえか」
「……………………」
「ああ、故郷から見る満月は格別だなあ。心なしかいつもよりでかく見えるぐらいだ」
「……林田君、お楽しみのところを悪いんだけど」
「うん、何?」
「僕にはあれが月でなく、地球にしか見えないのだが」
「言われてみれば確かに……じゃあ、ここ海外?」
「……………………」


追伸:おふくろ様、日本に帰るのは当分先になりそうです。

おしまい

276 :クロ:2008/02/17(日) 19:34:22 ID:af+TAli70
投稿終了。これでおしまいです。

>>189
馬鹿のインフレを起こしている原作だけに、スケールは
いくらでもでかく出来ますね。まあ、でかくなったところで
あんま意味ないんですけどw

>>190
短い間でしたが、おつきあいありがとうございました。
また何か書いたら投稿させてもらいます。他の方々の
を読んでいるとバトルものとか書きたくなりますね。

>>196
一応、萌えを狙っての女の子なんで格好良さげなこと言わせて
みました。書いて後、分かったんですが、僕はこういうのに
萌えるらしいです。

>>ふら〜りさん
映画の少林サッカーみたいな滅茶苦茶を目指していたつもり
なんですが、果たして上手くいったのでしょうかw
真柴がDMCファンだと、そのまんまというか、シャレになってませんもんね。
『久美がグレた!』とショックを受ける真柴は是非、見てみたいものですw

>>サナダムシさん
空手の道を踏み外し、人外との戦いを続ける加藤にようやく訪れた
『晴れ舞台』ですな。とんでもない遠回りをしてから本来の空手道に
辿りつくあたりが実に加藤らしいです。

277 :ふら〜り:2008/02/17(日) 20:43:28 ID:dNzJKWXW0
>>サナダムシさん
原作では一言さらっと言われただけの加藤と末堂の関係。確かに、体格は圧倒的に末堂
が上だしパワーバカでもないのは立証済み。加藤は、覚悟とか気迫とかだけじゃなくて、
ちゃんと空手の才能が高いんだろうと思える。正々堂々空手同士の対決……になるか?

>>さいさん
エグい、生々しい、スプラッタ、痛そう。それらがバトルの迫力に直結してます。肉体・精神
共に苦痛→気迫になってる。アンデルセンも、「悪の悟空」とでもいいたくなる戦闘狂ぶり
が怖くてカッコいい。最近、読めば読むほど逆転至難さが深まってきてる本作、結末如何に。

>>クロさん(予想を超越感動! は「世界放浪記」を思い出しました。まとめサイト参照です)
悪者倒して大団円、のみならずヒロインとの笑顔&涙の別れ! 最初からは想像もつかない
ほど真面目に感動的な……でオチがそれかいっ、と。ギャグ・シリアス・バトル・ヒーロー・ヒロイン、
全部堪能できました本作、おつ華麗さまでしたっ。遠からぬ次作をお待ちしておりますぞ。

278 :作者の都合により名無しです:2008/02/17(日) 22:45:51 ID:ys+JQT0F0
クロさんお疲れ様です。
上山と林田のコンビ素敵でした
またお会いできる日を楽しみにしております!

279 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/17(日) 22:48:37 ID:6W8CCIrN0
 道場では必ずあった試合開始の合図が、今日に限ってはない。ライバル対決はすでに始
まっていた。
「ッシャアァッ!」
 親の仇が地の底に埋まっているかのような踏み込みで、末堂の突進が始まる。
(疾いッ!)
 丸太で殴りつけるようなワイルドな右ロー。轟音を耳にした瞬間、加藤から下半身の感
覚が消えた。
 がくん。
 意志に反して膝が折り畳まれていく。手でもつこうものなら『技有り』だ。ノールール
とはいえ、こいつに空手で負けたくない。
 意地が、加藤を踏みとどまらせた。が、窮地が去ったわけではない。
 体勢を崩した加藤に、追い討ちのボディ連打。ガードの上からじんじん痛みが伝わって
くる。
(痛ってェな……このヤロウ!)
 加藤の反撃。打たれながらも跳び上がり、顎に膝をぶつける。ぐらりと後方に傾く末堂
に左ハイ。耳付近にヒット。もう一度跳び上がると、両足を顔面めがけてまともに蹴り込
んだ。
「手応えありだッ!」
「ぐォ……ッ!」
 背中から倒れそうになる末堂だったが、かろうじてこらえる。着地した加藤も不用意な
追撃は控える。
 序章は互角に終わった。

280 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/17(日) 22:50:14 ID:6W8CCIrN0
 一分にも満たぬ濃密な手合わせは、両雄が力量を分かち合うには十分すぎる内容だった。
地肌に残る痛みさえ愛しい。これから始まる更なる死闘への期待に拍車をかける。
 共にある偉大なる空手家を師と仰ぐ者同士、抱いた感想もまた同様だった。
(こいつ……とんでもなく強ぇッ!)
 闘争とはコンマ一秒の奪い合い、生死を分かつ選択の連続。時間を奪われ、岐路を誤っ
た者から散っていく。
 むろん、二人の戦士はとっくの昔にそんなことは知っている。勝利の女神は惑いし愚者
を嫌うことを知っている。
 ならば、迷うくらいなら、攻める。
 愚地独歩の空手には後退の文字はない。師の教えに従うが弟子の務め。
「オッラァァァッ!」
「ケィリャアァッ!」
 それぞれの拳が、それぞれの顔面を穿った。壮絶な相打ちだった。
 放送を終了したテレビ画面のように、視界が白黒する。死ぬような一撃ではないのに成
仏したくなってしまう。
 二人はそれでも倒れない。
 先に立ち直ったのは加藤。しなる右ローを太股に当てると、渾身の一本拳を鳩尾に注入
する。
「ごォアッ!」
 大打撃を与えたはずだが、末堂はすかさず加藤の両肩を掴む。加藤よりも明らかに勝っ
ている要素、腕力で強引に投げ飛ばす。地面に投げ出された友に、ゴールポストどころか
観客席にボールをぶち込みかねないサッカーボールキックを決める。
 体が宙に浮くほどの威力だったが、加藤はかろやかに着地を成功させる。が、ダメージ
はあるようで次の一手に移れない。
(勝機ッ!)
 剛の連打『重爆』が焼夷弾ならば、今放たれる一撃は核爆弾。武神の下で開眼した剛の
一撃必倒『超重爆』が発動する。
 上空二メートルから重力加速度を利用して振り下ろされる、巨拳。
「ッシィィィシャラッ!」
 

281 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/17(日) 22:51:23 ID:6W8CCIrN0
 投下された核爆弾は見事命中した。当たったはずなのに、
(こいつ……ッ! た……ッ、倒れねェ……ッ!)
 加藤は倒されなかった。恐るべきタフネスに末堂は驚愕する他ない。
「末堂よ」
「う……ッ!」
「俺の三十日を舐めるな」
 超重爆で大きく腫れ上がった貌(かお)には、笑みが浮かび上がっていた。
 これは末堂だけに発せられたメッセージではない。立会人としてここに立つ武神に対す
るあてつけでもあった。
 ──お前が差し向けた試練に全て打ち勝ち、俺は今こうして立っている。
「ざまぁみやがれ」
 打たれた加藤が、一歩を踏み出す。力強い一歩だった。月面着陸を完遂させたアームス
トロングに匹敵する偉大なる一歩だった。ただ足を前に出すという行為が、かくも美しい
ものだとは。
 こうなれば末堂に選択の余地はない。
 開き直り、同じく一歩を踏み出すしかない。
「すげェよ、てめぇ……だがよ空手は、俺の空手はァ……」手刀でのフェイントから、再
度の超重爆。「敗けねェッ!」

 ずどん。

 二メートル五センチが天に舞い上がった。
 完璧なカウンターブロー。空手に泥を塗りたくった加藤だからこそ許された、魔獣の拳。
胸骨を砕いたためか、墜落した末堂のぶ厚い胸はいびつにへこんでいた。
 一方、逆転勝利を掴み取った加藤は自らの拳に残る鈍い感触を反芻していた。
(この手が……俺のこの手が、末堂のヤロウをぶっ壊した……)
 試練をクリアーしたという達成感は皆無だった。寂寥感と快感とを織り交ぜた奇妙な感
覚が、加藤を音もなく包み込んでいた。

282 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/17(日) 22:52:58 ID:6W8CCIrN0
 白目をむき、無残に四肢を投げ出した末堂に、加藤は改めて目を向ける。先程まで憎し
みあってすらいた好敵手(ライバル)に対し、心に浮かべていたものは、感謝だった。こ
れで加藤は全てをやり遂げた。東京に戻り、休むことなく新たな戦いに身を投じることと
なる。
 ──と、物語は進むはずだったのだが。
「さて、それでは“最終試練”を開始するとしよう」
 武神の口から信じられない台詞が飛び出た。抑揚のない声で理不尽を押し売りするのは
この男の常套手段だが、さすがの加藤も声を荒げて抗議する。
「あァ? 何ほざいてんだ、寝ぼけてんじゃねぇのか!」
「昨日話したろう。彼には強化を施してある、と」
「さっきまで戦っていたあいつは前よりずっと強かったぜ。あれでも強化じゃねぇってい
うのか」
 武神が指を弾く。乾いた快音が島中に轟く。
 ──するとどうだ。

 意識を喪失し、どう考えても数時間は目を覚まさないと思われた末堂が、あっさりと起
き上がった。しかも様子がおかしい。顔面にはメロンの網目のように、青白い血管がびっ
しりと張り巡らされている。
「なんだいこりゃあ……」
「先程まで彼に施していた強化は人間(ヒト)の域に過ぎない。だが今の彼は、エンドル
フィンとアドレナリンを最大限に発現し、筋繊維と神経組織の能力を倍加させている。人
間の領域など、遥か後方に置き去りにしている。
 加藤清澄よ、勝ってみせろ」
 立ちはだかる末堂が、先程よりもずっと巨大に映る。気配も人間のそれではなく、別の
生き物としか認識できない。人間を超えたというのはハッタリではない。
「カトオォォォォォォッ!」
 喉ごと吐き出しかねぬ声量で、末堂が友の名を叫ぶ。神心会空手の一騎打ちは最終章に
突入する。

283 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/17(日) 22:58:34 ID:6W8CCIrN0
>>258より。
加藤の本当の戦いはこれからだ!
ご愛読ありがとうございました。

>>クロ氏
連載終了お疲れ様です。
軽快な掛け合い漫才も好きでしたが、
何より好きなキャラであるフレディがなかなかに活躍してくれたので、
嬉しかったです。
最後はやはりしんみりエンドでは終わりませんでしたかw

284 :作者の都合により名無しです:2008/02/18(月) 08:30:11 ID:L9HOq0XX0
クロさん、お疲れ様でした。
なんかどんどん終わっていくなあ・・。
ま、さいさんとサナダムシさんは次も書いてくれそうだからいいけどね。


・WHEN THE MAN COMES AROUND
差し違え覚悟でようやくブラボーはアンデルセンと同じレベルに達せられましたか。
スランプを脱せられたようで、最終決戦らしく熱い戦いですね。
次回の決着とエピローグを楽しみにしております。


・クロ高
七人の侍のような、男らしい神山や林田や北斗たちでしたな。
エンディングまで男前でいるかと思いましたが、やはり最後はクロ高ですね。
クロさん、またふらっと書きに来てくださいね。


・やさぐれ獅子
え、まだ1回はありますよね?後書き見てビビったw
加藤と末同は親友だけど、表と裏の顔なんですよね、神心館の。
武神との戦いが最終決戦かと思ったんですが、最後はライバル対決で〆ですか。


285 :作者の都合により名無しです:2008/02/18(月) 16:50:49 ID:I4UnoIN10
クロさん乙でした!
また、違う作品で楽しませてくれる事を願ってます。
時々、遊びに来てください。

286 :作者の都合により名無しです:2008/02/18(月) 18:20:15 ID:Dp/69mwm0
>さい氏
最終決戦の緊張感に溢れていますな
結局、神父には勝てない気がしますが
良いエンディングを期待しています

>クロ氏
お疲れさんでした!
新人さんながら見事な完結ぶりでした
ある意味クロ高らしい幕引きでしたな

>サナダムシさん
末同の方が好きなのでどっちを応援していいか迷うな
しかし名物SSがどんどん終わってしまうようで淋しい
しけい荘は楽しみで仕方ないが

287 :作者の都合により名無しです:2008/02/18(月) 22:00:35 ID:bDWzt9nh0
さいさん・サナダムシさん、次の作品も出来るだけ間をおかず
新連載始めてくださいね。バキスレ寂しくなっちゃうから。

そしてクロさん、お疲れ様でした。お帰りを待っています。

288 :作者の都合により名無しです:2008/02/19(火) 00:05:31 ID:zdSjO0W50
次のしけい壮はやはりピクル・ゲバルがメインゲストキャラだろうか

289 :作者の都合により名無しです:2008/02/19(火) 08:29:38 ID:5i/S+7uj0
本当に久しぶりの新人さん完結だなあ
クロさんお疲れ様でした。

290 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/02/19(火) 14:51:24 ID:8TThlqxq0
例によって(?)個人的事情によりしばらく本格的に投下を休止させていただきます。
再開は……早くて二〜三ヵ月後かなあ、多分。夏までには戻ってくるつもりではあります。
もしかしたらぽつぽつで投下できるかも分かりませんが、期待は出来ません。

それとはまったく関係ないですが、宣伝。
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2367285

291 :作者の都合により名無しです:2008/02/19(火) 18:25:24 ID:dO2cGGSH0
うわあ。
ショックだなあ


292 :作者の都合により名無しです:2008/02/20(水) 11:13:47 ID:duJIDKP40
質も量もエースのハロイ氏が抜けるのは痛いな。
なるべく早く帰ってきてください。

293 :作者の都合により名無しです:2008/02/20(水) 11:24:43 ID:omcRi/0S0
ハロイ氏、再開されるのを心待ちにしております!

294 :作者の都合により名無しです:2008/02/20(水) 15:46:55 ID:kQC6FEQD0

私が小学生の頃、
日本中でノストラダムスの予言が大流行していた。
「1999年の7月に人類は滅亡する!」
という例のお騒がせ終末予言である。

大人になって社会に出て働きだして、
あくせくと忙しく日々を過ごしながら、
1999年は、
ありふれた日常の中であっさりと過ぎていった。
人類は滅ばなかった。

これからここで、
1999年に起こるかもしれなかった人類の壊滅的破局を、
誰にも知られずにこっそりと回避させた人たちがいた...
という設定で、
荒唐無稽なストーリーを描いてみたい。
無論、100%完全なフィクションである。

http://www5.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=532063&log=200705


295 :作者の都合により名無しです:2008/02/21(木) 08:19:12 ID:u8LEUmen0
また暗黒気になっちゃうかなあ
サナダムシさんやスターダストさんたちがいるから大丈夫と思うけど

296 :項羽と劉邦:2008/02/22(金) 06:42:14 ID:+q/3oX6b0
死闘は続いた。
蕭何が呪符で大洪水を起こせば呂后は高熱で吸収し、彼女が反撃とばかりに地震を起こせ
ば張良は七節棍を地面を打って静める。
勝負は互角。いや……
(二人がかりで互角という段階で)
『芳しくはない』
「悟ったよーねー」
呂后の目から出たビームが蕭何に迫る。
「あたしは一人だけに狙いを絞ればいいだけよぅ♪」

「何……だと?」
行者はまたもつぶやいた。(ブリーチ風に)
「僕の探しているリサが……呂后だと?」
「本当ですよ。だって本人がいってましたから」
韓信はうんうん頷いた。
「バラバラから再生した時ですね、あなたを見て『わはージュンくんだぁ! あたしはリサよー!
やっほー元気してたぁ? あたしはもう未来で暮らすのヤだから呂后殺して成り変ったよー』
とか何とかいってましたから」
「……何という説明台詞」
劉邦はガクリとうなだれた。
「で、バレた以上あなたも殺すッ! と息巻いてました」
言葉を聞いた行者は一瞬目を点にしたが、俯いて、力なく打ち震え始めた。
「どうしました」
「そっとしておけ韓信。ショックなんじゃろう。そうじゃ、食事でも取ろうかのう」
「名案ですね」
「そうと決まればさっさと食おう。チキンっぽい奴を食うのじゃ。あれをがっついて『ふーっ、人
心地がついたわい』というのがトレンドじゃ。これ、誰かおらぬか」
柏手を合図に
「ここにいるマメー!」
ひょこりと部屋に入ってきたのは柴武だ。豆が好きな男で後年韓信を蕭何の指示で殺す権力
闘争のイヌだ。
「おやおやおや〜 この白い人元気ないマメねー。駄目マメよー。元気ないのは〜」

297 :項羽と劉邦:2008/02/22(金) 06:42:59 ID:+q/3oX6b0
行者のそばにとてとて駆け寄ると、肩をさすったりゆすったりした。
「放っておいてくれ。僕はいまリサ問題で傷心なんだ! 死ねこのマメ野郎ッ!」
だが手をばしりと跳ねのけられ、柴武は色を成した。
「きぃー! チビ人間の分際で生意気ですぅ! 元気ない時はッ! マメを食らいやがるですぅ!」
ちなみに行者の名前はジュンですお察し下さい。
柴武は袋から豆をありったけひっつかむと、の口に突っ込んだ。
「所詮薄汚い野良犬マメッ!!! 何やろうが生活に支障はねえッ! 死ねッ! 死ねッ!!」
狂ったように白眼を向いて豆をがんすかがんすか行者に挿入し続ける柴武を遠巻きに見る劉
邦は頭を抱えた。
(コイツもこうかい)
「いやー大変ですね。はっはっは」
無表情で口だけ空けて笑う韓信にますます頭痛が加速する。
「さあ!! 死ぬマメよ!! 最近の地球の燃え尽きる日の盛り上がりのなさの責任を背負っ
て豆地獄の中で朽ち果てるがいいマメええええええええええええ!!!!」
柴武はもがき苦しむ行者から奇麗な側転で素早く遠ざかり出した。
部屋を抜け庭をつきぬけ、城壁のあるところまで。距離はだいたい500メートル。
そこに到達すると柴武は背中からロケット型のブースターを展開した。
「見えないが↑のブースターとか奴はロボなのか?」
「ロボなのでしょう」
「ふははは!! 螺旋の弾丸よ!! 亜空にたゆたいし忌まわしき障壁を越えて今こそ我が
元に! つまびらかに説明すると片思いしてたのに彼氏作って一緒に歩きながら幸せそうな顔
して俺を鬱のどん底に叩き落としたあの女を越えて今こそ我が元に! あと、片思いなどした
昔の俺は死ねッ!!」
柴武が片手をかざすと、どうであろう。五条のライトグリーンの光が歪みながら徐々に収束し
拳ほどあるグリーンピースへと変化したではないか。
「西洋のティターン族知ってるマメかあ!?」
知らない人はエピG読んでください。もしくはウィキペ読んで。
「ティタノマキアでヘカトンケイルどもが300ぐらい投げたのはこれマメ!!」
劉邦は本当にやるせない。闇の顔の文庫版がどこにも売ってないからだ。
「表面にノロウィルスがたっぷりだから今や連中タルタロスぅぅぅぅぅぅ!!!」

298 :項羽と劉邦:2008/02/22(金) 06:44:02 ID:+q/3oX6b0
「ちょ、神のクセに拾い食いしたんかい!!」
「まぁ、世界には皇帝なのに自分の子供を逃走中に捨てる人もいますし」
などと会話する二人をよそに、柴武はブースターで加速する!
やがて体は地面と水平に浮き上がったが、ここで異変。
足首がブーストすると同時に切り離され、あとは膝、腰、腹、胸と段階的に吹っ飛んでいく。
その最中、行者は、決然と立ち上がった。
「ああそうかい! さんざん好き勝手やって自分でばらさんでいいコトばらして殺すと!!!」
体からはオーラが立ち上り、瞳は憎悪に濁っている。
「もういいリサ。もう分かった。もう知らない! そもそも女なんぞのためにあーだこーだと旅す
るのはよぉ!! クールな横山作品の主人公らしくねーよなァァァァァァァ!!!」
視線の先で首だけの柴武が叫ぶ! 
「ふははは! 覚醒したようだがもはや手遅れ!! 究極の重加速で滅べえあああ!!」
つかんでいたマメがかなた後方へ吹き飛んでいるのを認めた行者は叫んだ。
「マメ、関係ねえええええええええええ!!!」
放った手刀はみごと柴武の顔面に炸裂した!!!

その頃、張良と蕭何は呂后の放つ小さな分身とか監視ロボに苦戦していた。

とりあえずまず行者は柴武に吹っ飛んだパーツを集めさせた。
集め終えると胸倉をつかんだ。柴武はへつらった表情でごめんなさいを千回ぐらい早口で喚い
てから沙都子殺して失禁したと思う。
「ごめんなさいマメ。己(おれ)が調子こいていたマメ。聖剣伝説3のフルボイスをやろうなんて
二度と目論まないマメ! 五年続けてるSSですらこうなのに、やったコトない演技とかに手を
出しても再生数三ケタも行かず罵倒のコメントがついて死にたくなるだけマメ!!」
「謝るなら許すよ! おじさんはねえ! 道義を守る人はいいんだよ! フルボイスより文章
描くのを頑張るべきだよねえ!」
行者はニコリと笑ってダミ声で叫び散らした。
「あぁそれにしても腹が減ったなあ!! あのリサとかいう馬鹿女を殺す前に腹ごしらえして
おかないとなああああああ!」
「マ、マメならあるマメ。ノロもついてない清潔なマメマメ」
「話がわかるねえ!」

299 :項羽と劉邦:2008/02/22(金) 06:44:40 ID:+q/3oX6b0
柴武のくれたマメをゴミ箱にブチ込むと、行者はモスに行ってハンバーガーを買った。
「ふぅ。これがさっきまで暴れてた行者か。でも、とてもそうは見えないねえ! ガハハ!!」

「とりあえず話もまとまりましたし、呂后征伐いきますか」
韓信のつぶやきに、劉邦はただ溜息をつくしかなかった。
(徹夜明けだから後で読み返して死にたくなる出来栄えじゃろうなあ……)
と。

あとがき

正午まで寝るのが嫌で仕方ないので徹夜してみました。
もう一度這い上がるのですよ。太陽の光を浴びて。
ちなみに今回で終わらせるつもりだったんですが、何とも難しいもので。

ふら〜りさん
すべて絶望な状況よりちょっと希望のある状況の方が辛いと思うのです。
まして打ち捨てるのならなおのコト。現在、ヴィクトリアの方をちょっと描いてるんですが、これ
また端々に秋水フラグが立っててちょっとニヤケるダメ人間が一名。そしてそこで総角描くのが楽しいw

>>211さん
連日更新ができたらいろいろ良いのですが、ちょっと遅くてすみません。
それにしてもおにゃのこが多い…… 鐶も小札や香美並のインパクトが出せたらいいのですが。
いわれて気づいた三十人。オリキャラだけでも十人ってのがまたw

>>222さん
秋水とまひろがカップルになるなら、まひろが物凄く積極的と思うのです。
でもベッタリじゃなくて秋水の性格とか考えて自制するけど、時々寂しさを感じたり。
その時無骨ながらに愛情表現したりすると秋水萌えなんですが、どうでしょう。

300 :作者の都合により名無しです:2008/02/22(金) 08:47:31 ID:nUMse/9s0
こっちの方は本当に趣味の領域だなスターダスト氏w
でも、永遠の扉って5年も続けてたっけ?
3年くらいの気がしたけど・・。他のでやっているやつですか?

301 :作者の都合により名無しです:2008/02/22(金) 15:23:36 ID:0zw8mM2r0
すみません、こっちの方はわからないネタが多いです…
でも雰囲気を楽しんでおります。
それにしても永遠の扉は登場人物30人か。
最終的には50人くらいくかな?

302 :作者の都合により名無しです:2008/02/23(土) 18:47:32 ID:lYl9oGGr0
スターダストさんの知識の広さというかディープさがうかがえるな

303 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:24:43 ID:5v6EQo4I0
第037話 「天空高き月の遥か遥かその下で(前編)」

「いやはや参った参った。小札に出番を盗られてしまった」
「だから何?」
ヴィクトリアは開口一番、武装錬金を操作。対峙する男の足下で穴を広げ、落とす。
その長い金髪は光を引きつつあっけなく地下へ没したが、見ても表情は晴れない。
次にどういう現象が起こるかは短い応酬の中で学習しているからだ。
現にそうなった。
眼前に光がほとばしり、地下に落とした筈の学生服姿の男が言葉の続きを紡ぐのだ。
「フ。本来ならば」
ヴィクトリアは無視を決め込むコトにした。目を不機嫌そうに細めたまま歩みを進める。
落とした筈の相手が『瞬間移動で』眼前に来る不思議さを、いちいち質問するほど相手に興味
はない。ただ二度会った程度の間柄に過ぎないのだ。
されど男はヴィクトリアが横を通り過ぎるのを明るい表情で見送って、それから同じ歩幅でつ
いてくるからますます顔が強張る。あまつさえ、聴きもしない話を振られれば、尚。
「本当は残党の征伐、俺が出張る予定だった。全くなぁ、セリフも用意してたんだが」

『七撃程度造作もない』
『舐めてもらっては困るな。ブレミュで形成できる武装錬金が付け焼刃など、百も承知。故に剣
技も磨いてある。最終的に功を奏すのは地に足つけて培った己の力だからな』

「とかな。どうだ。格好良いは思わないか。俺は思う」
男は身振り手振りを交えて芝居がかったセリフを朗々と述べたが、無視。
「だが……フ。王族につけて遜色のないウィッグでも、用途誤らば紐以下。泣きたくなる」
ワザとらしく洟をすする音がした。
泣き真似のようだが鬱屈のヴィクトリアには逆効果の諧謔だ。瞼が軽い痙攣をきたした。
「聞き分けなき音楽隊を一ツ所に束ねんとキリキリ包囲すれば難渋に色艶を追い出される。
鶏口牛後というが嘘だな。零細企業のリーダーは気苦労しかなく、俺の立場も正にそれ」
口調と裏腹な気取り満載の髪を撫でる気配を合図に、ヴィクトリアは堰を切った。
「組織論をぶつなら余所でやって。愚痴をこぼすなら余所でやって。付き合う気分じゃないわ」
いつか誰かにいわれそうな言葉を振り返りもせず吐き捨てると、背後の男は肩をすくめたよう
だった。

304 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:25:20 ID:5v6EQo4I0
「これは失礼。ならば気分にそぐう話題を選ぶとしよう。もともとそちらが本題だしな」
総角主税は悠然と語り出した。

風がやむと残暑特有の粘っこい熱気が全身にへばりついてきて、秋水は襟元を開けた。
もしかすると傷が熱を持っているのかも知れない。そんなコトを思いながら、隣を見ると
「びっきーのコト、ブラボーから聞いたよ」
まひろが鉄柵に手を当てながらちょうど語り出すところだった。
「どこまで」
秋水の背筋に一瞬冷たい物が走ったのは、ヴィクトリアの過去を語る上で秋水自身の過去
までもがまひろに伝わっているのではないかと疑ったからだ。
こういう危機察知は剣客特有の物であり、半ば当たっている。
「本当はホムンクルスで、寄宿舎からいなくなったって所までかな。うん。それだけ」
隣に佇む一回り小さな少女は、どこから遠くを見ながら静かに答えた。
(……だろうな)
常識的に考えれば防人が秋水の承諾なく過去を話すコトはない。
その点で秋水の猜疑は半ば外れているとはいえたが、しかし秋水の知らぬところで斗貴子が
激情を持って暴露し、偶発的にだがまひろも知ってしまっているから、半ばは当たっている。
「あ! 大丈夫だよ! ホムンクルスってさ秋水先輩、昔ね、学校で見たんだけど」
まひろは突然後ろ髪を引っ掴むと器用な手つきで三角筋のように折りたたんだ。
奇行に唖然とする秋水にかまわず彼女はさらに右目を閉じ、左目に左手を当て、文字通り目
いっぱい広げた。それでも足らないのか、右手の指をぐぐーと力いっぱい広げて秋水に向って
きしゃーっと構えて見せた。
「こうね、くわせろぉ〜、くわせろぉ〜って言ってくるのは確かに怖かったかな。でも」
肩を揺すって「くわせろぉ〜、くわせろぉ〜」に何ともいえない味と抑揚を加えているのは、どう
やら調整体の物真似のつもりらしいが、しかしまひろという特殊なフィルターを通すとどうも人
類の敵という感じがしない。というかただ変な顔をした女の子がいる訳で、そんな者と夜の学
校の屋上で対面している状況があまりにシュールだ。
「でも、びっきーは違うから怖くないよ!」
真面目に接しているからこそ崩れるコトもままある。
「……分かったから真似はやめてくれ」

305 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:27:32 ID:5v6EQo4I0
「え、何で? 似てないかなぁ?」
まひろは左目をぱしぱし瞬かせると顔をうつむかせ、唇に指を当てながら呟いた。
「これでも演劇部だから自信あったんだけど……」
ちなみに『調整体の物真似をしながら』、いかにも分かってない様子を浮かべるもんだから、
それを直視している秋水は精神に異様な波が襲来するのを感じた。
「い、いや似てるとかそういう問題ではなくあまり俺を見られると君に対して無礼な反応が」
秋水の声が震えているのは恐怖とかそういうモノじゃないとまひろは悟った。
(ウケてる。笑いかけてる!)
悟ったからとてこの爛漫な少女が矛を引くというコトはない。
カズキの武装錬金を見るがいい。兄妹揃って気質の基本は前進と刺突なのだ。
「秋水先輩!」
「何だ」
「くわせろぉ〜! くわせろぉ〜!」
気合いっぱいのまひろが秋水をひっかく真似をしたその時。
静かな屋上に堰を切ったような、しかしそれでも努めて小さくしている笑い声が響いた。

総角の神出鬼没さはどうだろう。
ヴィクトリアが地下を歩いているといつの間にか目の前に現れて、しばらく愚にもつかない雑
談をした後、こうもいうのだ。
「どうだ? 俺達の仲間にならないか?」
「嫌よ」
「以前お前を寄宿舎に連れていった香美は賛成だそうだ。それに彼女以外に女の子は二人も
いるからあまり堅苦しくもない。まぁ、香美と鐶は小札に比べたらルックスもスタイルも一枚落
ちるが、基本的には気のいい連中だぞ。どうだ。香美の顔を立てないか? 後ろにいらん物
がついてるがな。本当にいらんよなあアレは。この前小札にちょっかい出したし」
「私には関係ないわ」
「そうか。まぁこっちは気が向いたらというコトで。ところで知ってるか」
金髪を束ねたヘアバンチがからからと音を立ててぶつかり合った。
「本題はもう終わりでしょ。気がすんだらさっさと出て行って」
首だけ捻じって総角を睨む。耳の遥か下でまだ衝突しているヘアバンチはヴィクトリア自身の
怒りを証明しているようだった。

306 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:29:15 ID:5v6EQo4I0
ただしその音源を見る総角の眼差しはアメリカンクラッカーでも見るように牧歌的で、気色は
朗々としたままで一切の揺らぎもない。ヴィクトリアは少し、その頑健さが羨ましくなった。
同じホムンクルスでありながら、どうして彼は余裕綽綽で、ヴィクトリアは窮々としているのか。
思うと羨ましさは即座に妬ましさに変わり、眼差しに少し刺が混じる。
「アイツ、残党征伐でお前の追跡を断念したとか。何しろ貴信や無銘が手傷を負いながらも頑
張ったからなぁ。アイツだけしか出撃できず、しかも行かねば寄宿舎が襲われると来ていた。
大変だな奴も。リーダーもだが使われるだけの存在も等しく辛いらしい」
(え?)
生意気そうに釣りあがった目の中で瞳孔だけを見開いて、ヴィクトリアは総角を見た。
期せずして正中線をすべて総角に差し出している。
知らぬ間に向き直っており、そうさせるだけの驚きが爆ぜていたようだ。
「驚きより嬉しさの方が大きそうだな。やはりアイツは気にかかるらしい」
総角のヴィジョンが冷えた瞳の中で前傾し、ニヤリと笑った。反応に気を良くしたらしい。
「う、うるさいわね。アイツのコトなんか別に何とも思っていないわよ」
「フ。ちゃんと名前を呼んでやらないと可哀想だ。えてして余裕という物は、そういう省略のな
さから生まれていくものだ」
見透かされている。思うとヴィクトリアはついムキになって反論した。
「アイツっていったらアイツよ。早坂秋水に決まってるでしょ」
何をいっているという表情で当然のように回答すると、意外な答えが返ってきた。
「ほう。俺は別に秋水を名指しした覚えはないがな。むしろ前後の文脈からすれば、まず香美を
連想しそうな物だが」
ヴィクトリアは素早く会話を頭の中で手繰って、総角が秋水はおろか錬金の戦士すら連想させ
ない文脈で話していたのに気づいて、小さな唇を戦慄かせた。
「わざわざ言い出すとは余程だな。アイツといえば秋水、か。奴の友人としては嬉しい限りだ」
美形が余裕たっぷりの笑みを浮かべたその時、ヴィクトリアは屈辱を露にして数秒呻いたが、
さっさと踵を返して水晶体から相手を追い出し、傲然と大股で歩きだした。
彼女にしてはやや珍しい、芯からの少女的感情による行動だ。

307 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:29:54 ID:5v6EQo4I0
(なんであんな奴のコトなんか気にしなきゃいけないのよ)
蔑視を胸中の秋水に送りながらも、実は追跡を期待していた自分も確かに居たワケで、その
あたりのもやもやが際限なく苛立ちを呼んでくる。

「……君は少し空気を読むコトを覚えてくれ」
無理な笑いでちょっと血を吐きながら秋水はまひろに訴えた。
当人も忘れていたが逆向との戦闘で肺腑を抉られる傷を負っており、笑った瞬間に喀血して
しまったのだ。
それを見た時のまひろの動揺ぶりと始末の騒がしさは描くまでもない。
とにかく始末を終えると、まひろは「ゴメン」と謝った。
「気にしなくていい。不可抗力だし俺自身も傷を忘れていた」
もはや最敬礼というより腰を九十度近くまで曲げて低頭恭順極まりないまひろに呼びかけると
彼女はバネ仕掛けのおもちゃのように勢いよく栗色の髪をたなびかせつつ態勢を戻した。
表情は気まずそうにしながらおろおろもしており、まとまりはないが代わりに毒気もない。
見ているだけで秋水は頬の奥の筋肉が笑みに緩んでいきそうな気がした。
騒がしい血液始末もあったが、結果としてまひろの調整体の物真似に笑ったのは良い傾向な
のかも知れない。
「ゴメンね」
「気にしなくていい。むしろ俺は君に感謝すべきかも知れない」
秋水は意外な言葉がするりと出た自分に内心驚きながら、どうしてもそれを語らねばならない
という気持ちになり、唇を動かした。

308 :永遠の扉:2008/02/23(土) 22:31:24 ID:bElwFWCs0
あとがき
「おまえの本当の腹底から出たものでなければ、人を心から動かすことは断じて出来ない」
とはゲーテの言ですがSSやMADにもその傾向が多々あり……

>>300さん
思いつきをドバドバ突っ込んでる作品ですねw
あ、永遠の扉は一年半ぐらいですね。それ以前にネゴロを一年弱、
更にその前に長いエロを八か月、その前はあちこちで色々と。

>>.301さん
すみませんw 変な人がいるー!ぐらいの調子で見守ってやって下さい。
五十人はいかないですよw 原作キャラはパピヨン以外出尽くしてますし、
問題はオリキャラ。あと十人は都合しないといけないのかも……

>>302さん
いつもディープなのですよw 横山作品であばれ天童が好きとかはありえんでしょうねw

309 :作者の都合により名無しです:2008/02/24(日) 11:32:49 ID:ZR2QrLyC0
今回は物語中の小編という位置づけですか?
ですがある意味物語の根幹を語る上で大切なお話っぽいですね。
秋水がまひろを自然に心配するところがいい感じですね。
まひろは相変わらず空気読めませんがw

310 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/24(日) 14:02:54 ID:+bVGBU6V0
 線路の中に入って最高速で突っ走る電車の前に仁王立ちでもしてみれば、あるいは今の
加藤に近い心境を味わえるかもしれない。向かい合っているだけで、後世伝記を出版され
るぐらいの偉業を成している気分になれる。自分自身を称賛したくなってしまう。
 迫力という一点において、甦った末堂は今までのどの試練をも上回っていた。おそらく
は、強さも。
 血走った眼球からは、絶えず剥き出しの殺意が嫌というほど注がれる。グラスはとっく
に満たされているのにまだ注ぐ。
 加藤は拳の開閉を繰り返す。実際に行っている人にお目にかかったことがないが、人と
いう字を手に書いて飲み込む、あの行為によく似ていた。
 不意に、殺気の波長が少し乱れた。
(──来るッ!)
 瞬間移動。加藤はまず、この四文字を思い浮かべていた。次いで、空手術に瞬間移動は
存在しないことを思い出していた。そして、ようやく自分が末堂の攻撃で吹き飛ばされた
という事実に追いついた。
 元々一流アスリート級の脚力を持つ末堂。武神によって能力を増幅させた彼の初速は肉
眼を超え、ダッシュの勢いを利用して放たれた前蹴りは兵器と呼べる代物だった。
(そうか……俺は蹴られて……)腹部に残る鈍痛を認識した途端、吐き気が込み上げてき
た。「ガハァッ!」
 加藤は仰向けだった。一度宙に舞った血が、また自分に降りてくる。
(立た……ねぇと、立てよ俺……立て!)
 休息を求める体を、命令で無理矢理立たせる。どうやらまだ体は戦ってくれるらしい。
「カァトオォォォォッ!」
 末堂は膝を折り、跳び上がった。両手足を広げて空に舞った末堂の姿は、まさに古代の
翼竜。
 空中で展開されたのはトマホークのような跳び足刀。片足に対し、加藤は両腕を固めた
ガードでようやく持ち応える。
「ぐぅっ……!」

311 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/24(日) 14:03:41 ID:+bVGBU6V0
 ガードに使用した両腕には痺れがまだ残っているが、構ってなどいられない。足刀を受
けきった瞬間、加藤には決定的なチャンスが約束された。
(多分──これを逃せば、殺される)
 末堂が着地する寸前、つま先がつくかつかぬかの刹那。敵は未だ空中にいて自由が利か
ないが、こちらの空手技は届くという絶好のポジション。
「ッシャオラァァアッ!」
 問答無用の全力金的。睾丸を中心に、全身に未曾有の不快感が広がる。
 動きを止めた末堂にプレゼントされるのは、むろん疾風怒涛の連撃しかない。
 喉仏に貫き手、胸板と腹筋にガチガチに固めた正拳を狂ったように浴びせる。膝に足裏
を叩き込み、さらにそこから踏み込み、間欠泉のように突き上げるアッパーカット。通常、
たとえ畜生相手でもここまではすまい。ましてや友になど。それをやれてしまうのが、加
藤がデンジャラスライオンを呼ばれる所以である。
 手応えあり。末堂の体が若干前に傾く。
(悪ィな、末堂……)加藤は大きく息を吸い込む。最大最強の一撃を放つために。(これ
で終わりだッ!)
 下から上へ美しい曲線を描き発射される、左ハイ。
 スーパーウルトラデリシャスヒット。
 末堂の右頬から耳にかけてめり込んだ加藤の左足は、奥歯の幾つかを叩き割ると、好敵
手であった二メートル五センチを倒壊させるに至った。
 上段廻し蹴りでの決着。奇しくも、試合前に加藤が行った挑発通りの結末となった。
 ──だが。
 加藤は構えを解こうとはしない。まだ終わっていない、と本能が警報を発している。
 うつ伏せで崩れる末堂から、くぐもった笑い声が漂ってくる。
「ク、ククク、ク……」
「え?」
「クゥゥアァトォォォォォオォオッ!」
 本能は正しかった。
 末堂の猛反撃。左右から拳での挟み撃ち。かろうじてかわす。と、下から迫る膝。これ
も紙一重で見切る。と、打ち上げた膝を伸ばし、踵落としに可変させる。これには両腕ブ
ロックで対抗するが、今度は受け切れない。
「ぐぉ……っ!」

312 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/24(日) 14:04:16 ID:+bVGBU6V0
 防御を失敗(ミス)すれば、無防備という名の地獄に落とされるのは必然である。直後、
胃を押し潰しかねない末堂のボディブローが決まった。
「──ゲアァッ!」
 胃酸が飛び出る。舌に触れる。当然だが苦くて不味い。
 そこへ飛んできたのは目突き。末堂の太い指が入ってしまえば、結果は失明以外にあり
えない。
「ッシィッ!」
 目突きに使用される二指を、前もって台本が用意されていたようなタイミングで迎撃す
る右拳。生来のラフファイターとして、得意技で討たれるわけにはいかない。
「バカヤロウが……。目突きと金的は俺の専売特──!?」
 非の打ち所のない一撃だったはず。なのに、加藤の目が凍りつく。
 打ち抜けない。否、指二本に凶器(こぶし)が押し負けている。チョキがグーを圧倒す
るなんて、あっていいのか。
「マ、ジか、よ……! ぐっ……!」
 指二本に押され、加藤の足が後ろへと引きずられる。
 一メートルほど後退させられた。たかが一メートルあなどるなかれ、センチに直せば百
となり、ミリに直せば千にもなる。空手家として、屈辱にまみれた一メートルであった。
 気を取り直し、すかさず左拳を出すが、届く寸前に末堂の手刀が加藤の頭に落ちた。
 突然だがここでクイズ。トリック無しで瓦を二十枚以上粉砕できる末堂の手刀が、より
パワーアップされた状態でヒットしたらその人間は果たしてどうなるか。
 答えは──目から血を、鼻からも血を、口からも血を流しながら踏み堪える、だった。
「き、効かねェな……」
 全身全霊で虚勢を吐き出す加藤。その横っ面に喰らわされる平手。約一秒の水平飛行の
後、加藤は転がりながら墜落した。
(なんてぇ強さだ……人間じゃねぇ……)
 勝利が遠ざかる。背中は地平線の彼方へ消え、もう足音さえ聞こえない。全速力で追い
かけても、もう届くまい。こんなファンタスティックな光景が、傷ついた獅子の頭におぼ
ろげながら描かれた。

313 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/24(日) 14:06:58 ID:+bVGBU6V0
 しかし、同時に思い知る。俺にはまだこんな下らないことを考える力が残っている、と。
余力を残しては死ねない。死ねるわけがない。あと少しというところで、あっさり死んで
どうする。
 自分を守って死んだドッポにも、自分を待っている井上にも、自分と戦ってくれている
末堂にも、自分を育ててくれた独歩にも、申し訳が立たないではないか。
(俺が死ぬのは、死ぬ時だけだッ!)
 やるだけやって、疲れ果てて、もうどうしようもない、死ぬしかない、などと考える力
もなくなったところへ四方八方から核ミサイルが飛んできたとしても、生きることを絶対
に諦めない。諦めてたまるか。

 ──加藤は立った。

 立ち姿に覇気はなく、両手は一切構えを取らず、かろうじて二本の足が支えとして機能
しているといった風采だ。
 それでもなお、目だけはまっすぐ敵を見据えている。末堂を倒し生き抜くと決断した男
からは、すでに後退のネジは外されていた。
(絶対に……勝つ!)
 不退転の決意を固め、同時に拳をも固め、加藤がスタートを切る。
 末堂も動く。脅威の瞬発力から生み出される初速で間合いを消し、斧の重さとナイフの
鋭利さという二兎を得た肘が、上空から振り下ろされる。
 これを加藤は額でブロック。やはり無事では済まず、額からぱっと血が噴き出る。
 次弾は下突き。反応が追いつかず、肝臓(レバー)にもろに受けてしまう。だが──
「んああッ!」
 気合とも奇声とも悲鳴ともつかぬ声で、鍛え上げた肘と膝が突きに使用された右腕を挟
み潰す。メキ、と筋肉が歪んだ音が迸る。本来は防御技で、捨て身で放つ技ではないのだ
が、兎にも角にも、高等技術『蹴り足ハサミ殺し』炸裂。

314 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/24(日) 14:12:32 ID:+bVGBU6V0
>>282より。
次回へ続きます。

それにしても烈海王……無念!

315 :作者の都合により名無しです:2008/02/24(日) 15:39:50 ID:d+3nO9am0
スターダストさんの作品は2つともまだまだって感じだけど
やさぐれはもう数回か。出来るだけ早くしけい荘を始めて下さいね。

316 :作者の都合により名無しです:2008/02/24(日) 21:31:58 ID:lGICSxdm0
>スターダスト氏
総角主税は飄々とした大物って感じでいいですね。
このくらいの器で無いとつわものや変人揃いの連中を纏められないのだろうな。
まひろと秋水の心が確実に近づいてる感じで良いです。


>サナダムシ氏
末堂はまっとうに強いって感じですね。原作ではアレだがw
蹴り足ハサミ殺しを放ったという事は克己と同じ技量にはある訳か。
マッハ突きのような加藤オリジナルの技が見たいですね。



317 :ふら〜り:2008/02/24(日) 21:58:16 ID:yzMYXdiU0
>>スターダストさん
・項羽と劉邦
真面目に描写を脳内再生していれば、呂后はとんでもないモンスターだし張良たちの応戦
ぶりも凄くて真剣に戦ってるのに、緊迫感を許さないのは相変わらず。柴武、語尾が可愛いし。
・永遠の扉(そういや、彼にとっちゃ(内緒だけど)微乳こそがナイスバディでしたっけ)
総角はその気になれば容姿も話術も武器にして、女の子を落としまくれそう。でも彼には既に
想い人あり。しかし眼前の女の子の想い人(未満?)は今、別の子と……か。すとろべりぃ。

>>サナダムシさん(え。私は幼少の頃、よく「人」飲み込みやってましたけど。もしかして希少?)
ここまできても何の奇手もない、純然たる空手だけの戦いになってるのが意外、そして驚愕。
今まで加藤が薙ぎ倒してきた数々の超常軍団の誰よりも、「メチャクチャ強い空手家」の方が
強くて苦戦してしまうとは。心の中のどこかでは、加藤はそのことを喜んでるのかも、なんて。

>>ハロイさん
お早い復帰再開を、お待ちしておりまする。いつでも、気分転換がてらの一発短編など
描いて頂ければそれも幸い。どうかお気楽に、描ける時に楽しく描いて下され。

318 :作者の都合により名無しです:2008/02/25(月) 08:29:14 ID:lIDZKCfc0
原作ではザコキャラが頑張っているなあ、サナダさんのバキ物は
加藤といい、末同といい、しけい壮のシコルスキーといい
サナダさん自身は烈が一番好きそうだけど

319 :作者の都合により名無しです:2008/02/25(月) 19:08:44 ID:UqpH8zD60
ハロイさんが抜けて三本柱から
二本柱になってしまったな。
サナダムシさんとスターダストさんには頑張って欲しいものだ

さいさんももっと来月から更新量多くなるかな?

320 :永遠の扉:2008/02/25(月) 20:56:53 ID:lrqoNfzG0
第038話 「天空高き月の遥か遥かその下で(後編)」

「先ほどまで俺は一人で月を見ていた。その時は気負いの方が多かった」
「気負い?」
ああ、と秋水は短く返事をして
「彼女を一人で救わなければならないという気負いだ」
と告げ、更に
「だが、それはどこか無理があったように思う」
と締めくくった。
まひろは平素何かと奇行が目立つが、こういう意見に対しては実直らしい。
「そうだね。無理は駄目だよ。秋水先輩だって私に相談してほしいっていったんだし、他の人
に相談した方がきっといいよ。それに」
まひろは微笑しながら秋水の掌をそっと掴んだ。
あまりに自然すぎる挙措に、秋水は一瞬そうされたのも気づかず、指と指が絡む過程に身を
任せるままだった。
「ブラボーから聞いたよ。秋水先輩だって見捨てたくてびっきーを見捨てたワケじゃないんでし
ょ? だったらもう一度会って、それをちゃんと説明したら分かってくれるよ。怖い人たちから寄
宿舎を守るためだったーって。あ、でも謝らないといけないけど……」
謝る、という単語にまひろはちょっと身を固くして、秋水から軽く視線を外した。
秋水は自身を係留する少女の手が、彼の大腿部の横で熱と鼓動に震えるのを感じた。
感覚は思考の「不自然」というカテゴライズへ変換され、秋水は内心で首を傾げた。
(ヴィクトリアに謝るのは当然の事。彼女が気にする必要はない。だったら何故──…)
秋水は息を呑んだ。呑むと同時にその気配がまひろに伝達するコトを恐れた。
謝る。
という単語ほどここしばらくの秋水を苛み、同時に活動のバネを構成する重要事項はないで
あろう。先ほどまひろに覚えた猜疑がまた首をもたげてきた。
何故ならば秋水はカズキを背後から刺している。
だからカズキに謝らなくてはならないし、その妹であるまひろにも同等の責務がある。
その一時に思い当たればまひろが『何を知っているか』はもはや質疑に掛ける他ない。
秋水ほど今まで生来の生真面目さで言葉を呑んだ男もいないだろう。
その慣例と罪人の恐怖が見えざる重りとなり舌をひどく鈍く運動させた。
「君はもしかすると……」

321 :永遠の扉:2008/02/25(月) 20:57:24 ID:lrqoNfzG0
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
妙に早口なまひろは言葉を遮るように、繋がった手を離さぬままふんわりとした胸の前に持っ
て行き、更にもう片方の手で包み込んだ。
「きっとびっきーだって秋水先輩を待ってる」
小さな、クルミを潰そうとすれば逆に割れて砕け散りそうな小さな手が
「ね?」
ぎゅっと秋水の手を握った。
「あ、ああ」
まるでカズキにそうされているような確かさがあって、様々な感情が走る。
処理が追い付かない。何をまず感じ何をまず話すべきかという出鼻をすっかりくじかれた
ただカズキに握られるよりも生々しい感情が脳髄を炙っているような気がして、それきり二の
句が告げなくなりそうになった。
だが彼は意を決した。
先ほどの疑問をそのままにしておくのはまひろの為にならないと思った。
もし彼女が知っているとすれば(現にそうだが)、謝罪の責務は明確なる質量を帯びてすぐさ
まの履行を迫っている。
決意に至るまでは早かった。いやこの場合、行動が先行し決意を後付に任したというべきか。
「武藤さん」
手をゆっくりと解くと、秋水はまひろを見据えた。
目の前の少女は小動物のような瞳を一瞬震わせて、「な、何?」とおびえながら聞き返した。
「俺は、一つ君にどうしても謝るべき事がある」
二人は気付かなかった。
この時、屋上からかなり離れた昇降口の傍で小さな影が蠢くのを。
ただし数秒後彼らは命運に介入されるコトで初めて”それ”を認識するが。

「で、どうするんだ?」
「しつこいわねアナタ。どこからどこまでが本題なの?」
ツンとした表情で正面切って見据える少女に、総角はやれやれという調子で一息吐いた。
「食糧確保。人喰いの衝動を抱えたまま地下を歩くのは何かと具合が悪いだろう」
ヴィクトリアは一瞬その正論さを認めた。
実際のところ、解決すべき手段はある。歩いているのは無意識にそこへ向かっているからか
も知れない。もっとも意識を占めているのはそこへ向かわず地下で干からびて死ぬ方だが。

322 :永遠の扉:2008/02/25(月) 20:58:59 ID:lrqoNfzG0
「良ければだが、これで女学院の地下まで送ってやるぞ」
総角は手首にある六角形の楯を叩いた。ちらりとその音源を見たヴィクトリアは、それがヘル
メスドライブという瞬間移動可能なレーダーの武装錬金だと知れた。
かつて千歳とちょっとした経緯があり知悉している。
だが総角がそれを使用している経緯や、そもそも彼が女学院地下にある母子の古巣の所在
までも知っているコトに疑問は生じたが、やはり聞く気にはならない。
「今まで食糧を作っていた設備はまだ、あそこへ置いてあるのだろう?」
もはや眼前の男は何を知り使えても不思議ではないような気がしてきたが、それだけだ。
「誰がホムンクルスの手なんか」
「フ」
いうと思った。そういう顔をすると総角は手元から何かを放り投げた。
反射的に受け止めたヴィクトリアは、それが紙製の筒だと知った。
髪を留めているヘアバンチより一回り長く、そして細い。
「地図だ。実はこの近辺にクローンを作れそうな設備がある。おっと。戦団とも共同体とも俺達
とも無縁……そう、『今は』持ち主が不在の”とある場所”にそれは今も置かれている」」
「その所在を入れたという訳」
つまらなそうに地図を広げたヴィクトリアの視界の右下に、赤い丸で囲われた部分がある。
どうやら何かの建物を囲っているらしい。
地図上に散らばる他のそれとは一線を画して大きい。
もしかすると寄宿舎よりも広い面積を占めているのではないかとヴィクトリアは思った。
もっともそれは「感想」であり「許容」ではない。ない以上、口をつく物は決まっている。
「おとなしく行くと思うの?
「フ。借りを作るコトを警戒しているのなら心配は無用。たかだか地図一枚貸し付けて偉ぶって
は部下に示しがつかん。まぁ小札相手なら無理な貸しを押し付け、可愛くうろたえさせるが」
愉悦と照れの混じった声で語る総角をヴィクトリアは蔑視した。
気難しい少女は軽薄極まりない男をどうしても許しがたい。
「ただの親切心さ。フ。困ったコトに俺は望まずして群を抜いた知的生命体に生まれついた」
「はぁ?」
鼻白みが増した。総角は自意識過剰でありながらその過剰さに対して無自覚なのだ。
仮に自覚があったとしても、マイナスの印象をさらに下方修正する材料にしか成り得ない。
「他の知的生命体が困っていたら群の抜きっぷりを削って無償で分け与えたい。そうして困る
原因が消える様のみに喜びを覚えたい。知識や技術は本来そう用いるべきだ。違うか?」

323 :永遠の扉:2008/02/25(月) 20:59:33 ID:lrqoNfzG0
総角は拳を胸の前で固めつつ熱っぽく力説した。締めくくりには恍惚とした表情で前髪をばさ
ぁっとすくってキラキラ光る粉を振りまいたからヴィクトリアはたまらない。
「つまらない御高説ありがとう」と皮肉りつつ、眼前の自信家の足元をすくいたくなった。
「でもそれは所詮あなたの自己満足。私がいちいち付き合う必要はあるのかしら?」
こういう時のヴィクトリアの意地悪い表情は他者に真似はできない。
低身長ながらに冷たい瞳孔で相手を見下し、ありありと勝ち誇った笑みを浮かべるのだ。
「ほう。いいのか?」
さりとて総角は子供をあやすような余裕ある微笑を浮かべたから、またもたじろいだ。
「何がよ」
毒気を余裕で包括されるのは、マムシが血清持ちに挑むような不利がある。
比喩を続けるとその場合のマムシは毒枯れ果ててもなお牙を向けるが、こまっしゃくれた少女
は毒が通じないのを悟ると途端に戸惑ってしまうらしい。それは毒の目的が破壊ではなく優越
感のためなのだ。想像はつく。通じもしない毒をなお送ろうとする様はただ滑稽……
「俺が地図に書き込んだ場所は、お前の父親がしばらく眠っていた場所だぞ」
ヴィクトリアは声帯から漏れた小さな声に、自分自身でも驚いた。
(パパが……?)
また目を丸くした少女に気を良くしたのか、総角の声はますます朗々の意気を帯びた。
「同時に彼を復活させた友人の、かつての住居でもある。その名は……」

「その〜 先ほどお渡しした紙ですが場所につき変更となりましたのでご連絡を!」
世界はままならない。
時に言葉を自壊せしめ、又は逼迫した言葉に殺されるのだ。悲しみの向こうで。
秋水が咎をまひろに語ろうとした瞬間である。
彼らは屋上の片隅にいたが、そのほぼ対角線上ともいえるほど遠い場所で、爆音が巻き起こ
った。
爆音、というのはそれまでの静寂があったからこそ爆音と錯覚したのであって、実際にはせい
ぜい住宅街で犬がわんと吠えるぐらいの音だった。

324 :永遠の扉:2008/02/25(月) 21:00:33 ID:lrqoNfzG0
音の大きさを表す単位にデシベル(db)があるが、これでいうと上記の音はせいぜい九十デシ
ベルほどであり、自動車のクラクションが百十デシベルなのに比べるといかに秋水たちが感じ
た”爆音”がその突発ゆえに大きく聞こえたかお分かりになるだろう。
音の近くで小さな黒い影が蠢いていた。
のちに秋水が回想して気づいたが、どうやら影は地べたから立ち上がっているところだったら
しい。”爆音”と併せて考えると、影は転んでいたようだった。

(あわわ、邪魔してしまった邪魔してしまった邪魔してしまった……くすん)
影──…小札は半泣きでズボンの膝から土ぼこりをたんとんと払い落しながら、必死に内心で
謝り、続いて内心で実況を始めた。
(くぅ。落ち込んでいても仕方ありませぬゆえココは地の文を侵食するコトお許しを!)
誰がさせるか。影から秋水とまひろを出歯亀してたらコケてばれ……ちょやめ離せ何をする。
「実は不肖、水道処理施設でムーンフェイスどのにびっくりして逃げた後、そろーっと戻って秋
水どのをまた尾行していたのであります。されどされど屋上で思い悩む姿を見ますれば、どう
して声など無遠慮に掛けられましょうか。若人の悩みは真理に到達すべき尊い儀式! なれ
ばこそ横槍横車の類を以て妨害するコトは正に真理への冒涜でありましょう。などと悩んでい
るうちに何やらワケありのお嬢さんが、それはもう不肖より年齢低く身長高いお嬢さんが到来
されたからもはや不肖は成り行きを……いえいえ本音を吐露するなれば、元より実況を好む
不肖ゆえ、この世のあらゆる現象を目に収め、それを言葉に翻案せねば収まらぬのでありま
す。よって若い二人のやりとりを好奇に導かれるまま観戦しておりましたがそこはそれ、もは
や対角の彼方に在るお二方ゆえ全ての様子が見られない! しからばと不肖は意を決し、足
を踏み出したればそれが災い、きっとかつて桜花どのがドンパチされた時空いた穴でありまし
ょう、不自然な穴に不肖はつま先を引っかけドデバンと九十デシベルの音量響かせながら転
倒し、秋水どのの重大告白の機会を喪失せしめ、ワケありお嬢さんの期待も打ち砕いた次第。
ああ、敢えて誤用すれば三方一両損! ……このじんじん響く痛みは膝の物だけではないの
です」

325 :永遠の扉:2008/02/25(月) 21:01:17 ID:lrqoNfzG0
「大体の事情は分かった」
小札は仰天して頭のシルクハットをぽーんと浮かせた。
「ぬぬ、不肖の内心が分かるとは! 剣術の究極の型には読心織りなす心眼があるといいま
すか、まさかそれを? 歴史上では明治十一年、京都を火の海にせんと画策した集団に……」
「何の話だ」
「まぁそっちはともかく、声が漏れてたんだよ」
まひろの指摘に「きゅう?」と首を傾げてから小札は前述の文を見て「きゅう!」と唸った。
「何という失策……もはや去るほかありませぬ。よって場所変更の儀をお伝えする次第」
小札は踵をそろえるとロッドを高々と突き上げ、肩の前でおさげを揺らした。
「場所は……」

「蝶野屋敷。今の通称はオバケ屋敷。もしかすると寄宿舎生活で聞いたコトがあるかもな」

総角はその名前を、楽しそうに呟いた。

以下、あとがき。
>>309さん
うーん。重要なのですが肉体的な動きは少ないので早めに終わらせる場所、でしょうか。
相手の空気の読めなさを許せる!(モンスター教授風)のはある意味親密かと……
シリアス一辺倒よりはマイペースで変なコトやれるのがまひろですから。

>>316さん
総角に着眼されるとは渋いw ありがとうございます。
彼は悪ではない「敵役」を標榜しておりますね。最近ようやく固まってきたかも。
そしていうまでもなく秋水とまひろの関係はここからもっと近くなる予定です。

ふら〜りさん
柴武はなんか動かしやすいですねw 項羽と劉邦は三国志に対するSTOP劉備くん
みたいなものとお考えください。肩肘張らずに好き勝手やるのみです。
で、総角は美形かつ完璧超人をコンセプトにしておりますが、なぜかプレイボーイと
いう要素は構想に入っていないのが自分でも不思議。まままそこは武装錬金の系列
を汲むオリキャラ、一人の女性を愛するのみなのですきっと。微乳ついてはまたいずれ。

326 :作者の都合により名無しです:2008/02/26(火) 08:54:19 ID:mxsI1pUQ0
秋水がまひろにたいして自然に自らの弱さを吐露してますな
それだけ2人の距離が縮まったと言う事か。
しかし好調な更新速度ですな。嬉しい限りです。

327 :作者の都合により名無しです:2008/02/26(火) 12:38:59 ID:1B4wSNzM0
まひろを嫁さんにすると大変だろうな
秋水みたいな真面目な性格だと特に。
でもまひろも根っこの部分では真面目か。
奇行が目立つだけで。

読み返したら小札って普通の体格なんだね
イメージ的には小学生くらいの体格なんだけど

328 :作者の都合により名無しです:2008/02/26(火) 17:09:04 ID:Gm6pKCdQ0
まひろと秋水ではキスひとつするのに5年はかかりそうだ・・

329 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/26(火) 23:23:29 ID:V5juREc70
 前へ、前へ、ひたすら前へ。
 額から滝の勢いで流れ出る血を拭うことすらしない。目は入り込んでくる血などお構い
なしに、前を向いている。
 金的にアッパーを当て、頚部に吸い込まれるような右上段廻し蹴り。跳び上がって末堂
の頭を両手で掴むと、全力のヘッドバットを叩き込む。末堂のひしゃげた鼻から、鼻汁の
混ざったゼリー状の鼻血がこぼれ落ちた。
 いちいち手応えに一喜一憂せず、自らの力を一滴残らず絞り出すことを目的にした異常
なファイト。
 無意識に加藤は祈っていた。止まるな。止まってくれるな、俺の身体よ。
 返しは末堂の左ハイ。これを屈んでかわす。頭髪が十数本刈り取られるほどの威力。
 だがこの時、軸足となった末堂の右足が空いた。刹那の空白。加藤は判断するより先に、
反射的に行動に移っていた。
「セイィィィッ!」
 狙いを膝一点のみに絞った下段突き。拳が半回転しながら、猛スピードで衝突する。

 べきっ。

 白い皿が砕けた。
 もし加藤がレストランの皿洗いのバイトだったなら、先輩に注意を受けた挙げ句、腹い
せに他の皿を何枚も壊してクビになっていただろう。
 支えを一本失った末堂がバランスを崩し、尻餅をつく。
 加藤はニヤリと笑みをこぼした。今なら、どんな攻撃だって入る。
「ヂャッ!」
 必殺の目突きが、末堂の両目に照準を定め発射された。

330 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/26(火) 23:24:04 ID:V5juREc70
 加藤にとっては、一メートル離れたゴミ箱に紙くずを投げ入れるより、たやすい仕事だ
ったはずだった。
 間違いなく命中するはずだった目突きは、眼球五ミリ手前で寸止めされていた。
 心なしか、目突きを放った指が小刻みに震えている。
 五つある感覚のうち一つを再起不能にする。他人の目を潰すなど、加藤にとっては日常
茶飯事であった。もう戦えない相手の片目を制裁という名目で潰したり、眼窩から伝わる
生の体温に愉悦を覚えるなど、常軌を逸していた。
 しかし今、加藤は勝利を百パーセントとする一手を仕損じた。
「なんで俺は……」
 本人も戸惑っている。なぜ寸止めしてしまったのかまったく分からない。この試合はノ
ールール、しかも先に目突きを仕掛けていたのは末堂の方だ。理由がない。
 勝利を捨てた代償は大きかった。
「カァトォォ……」
 壊れた膝を引きずるように、末堂が立ち上がっていた。
「すっ、末堂っ!」
「カトォォォォォォォッ!」
 左肩に手刀を落とされる。
「つぅっ!」
 膝を壊されていながら、加藤の体全体が左にぶれるほどの威力。
 次いで残った左でのローキック。左上から右下に移行する対角線コンビネーション。こ
れも見事に太股を抉った。
(俺は間違っていたのか?)
 ワンツーからのラスト、末堂は正拳中段突きの構えだ。
(目突きをぶち込んで勝つべきだったのか?)
 突きが放たれた。
(いや)
 加藤は横にかわし突きの軌道から逃れると、
(もしあそこで末堂に目突きを決めちまったら)
 回転し、
(んなもん、空手家じゃねぇッ!)
 カウンターのバックハンドブローが顎に決まった。

331 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/26(火) 23:24:42 ID:V5juREc70
 遠心力をたっぷりと含んだバックブローは、末堂の顎を透き通るように打ち抜いていた。
 だが倒れない。脳を揺らしたくらいでは今の末堂は沈まない。あと一押し。
「末堂ォッ!」
 教本や写真にしか存在しない神心会のおとぎ話。到底自分如きが会得できる技ではない
と、心のどこかで思い込んでいた。しかし、数々のおとぎ話を体験してきた今ならば、会
得する資格があるはず。
 人中、喉、鳩尾、金的。人体のど真ん中を、瞬時に四回打ち抜く奥義。汚れた武道家に、
武より試練の時は来たり。
 加藤は──

 神心会秘技、正中線四連突。

 ──資格を得た!
 至高の四連撃。魔獣と理合が手を握り合った。不沈の戦艦だった末堂が、力なく海底に
沈んでいく。もう当分浮かび上がることはあるまい。
「加藤清澄よ、君の勝ちだ」武神による勝ち名乗り。「これで試練は終了だ」
 急速に力が抜け、両膝をつく加藤。もう指一本動かす力すら残っていない。
「これで……俺は帰れるんだな?」
「無論だ」
「嘘じゃねぇだろうな」
「私は約束は守る。明日一番で、君は空間転移することになる」
「……ところで、末堂のヤロウはどうなるんだ」
「まだ決めてない。もっとも、しばらくの休養の後、東京に戻すことになるだろう」
「それにしても、なんであいつはここに」
「私はそろそろ去らせてもらう。君も今日のところはもう休むがいい」
 武神は末堂を肩に抱え上げると、煙となって消え去った。

332 :やさぐれ獅子 〜二十九日目〜:2008/02/26(火) 23:25:26 ID:V5juREc70
 永い永い道のりだった。
 試練を制覇した男がまずしたことは、喜ぶことでなければ、名残を惜しむことでもな
かく、寝ることだった。
 第一の試練『虎』
 第二の試練『リアルシャドー』
 第三の試練『軍隊』
 第四の試練『ナイトメア』
 第五の試練『女』
 第六の試練『騎士』
 第七の試練『カラーファイター』
 第八の試練『芸術家』
 第九の試練『模範体』
 第十の試練『女U』
 第十一の試練『城』
 第十二の試練『老力若技』
 第十三の試練『格闘ゲーム』
 第十四の試練『エリート』
 第十五の試練『魔法使い』
 第十六の試練『風神と雷神』
 第十七の試練『死』
 第十八の試練『竜』
 第十九の試練『邪神』
 第二十の試練『親友』
 武神の差し金で神々から送り込まれた二十の試練。
 空手という名が示すように、加藤はこれらに素手で挑み、みごと打ち勝った。
 もはや島を脅かす者は存在しないというのに、眠れる獅子の両手には、しっかりと拳が
握られていた。

333 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/02/26(火) 23:27:27 ID:V5juREc70
>>313より。
二十九日終了で、ラスト一日です。
しっかり締めます。

334 :作者の都合により名無しです:2008/02/27(水) 08:28:40 ID:136NvUgO0
毎回毎回、よくこんなにバトルのネタを思いついたもんだ>>332
サナダさん流石です。
1日1バトルってわけでもないから、最終戦はなしかも知れないし
克己と独歩との連戦かも知れないですね。
まずラストバトルは独歩だと思うけど。

335 :作者の都合により名無しです:2008/02/27(水) 17:36:27 ID:6kSuA+BJ0
サナダムシさんいつもぐっジョブです
末堂との親友対決の激闘を潜り抜けて得た正中線四連突
加藤も超一流の「空手家」の仲間入りですな
(そう考えると克己は凄かったんだな)

最終日、どうなるか期待してます。井上との間柄も。


336 :作者の都合により名無しです:2008/02/28(木) 08:56:15 ID:jLBfF04v0
井上さんそういえばどこいった?
ラストではSAGAってくれるんだろうかw

337 :八十話「薄れゆく七星の輝き」:2008/02/28(木) 15:52:45 ID:vSPbHKUG0
〜メルビル・宿の一室〜

昼時になったが、外からは鳥のさえずりが止まない。
少しやかましいが不快ではなく、むしろ聞き入る内にやすらぎを感じる。
椅子に背をかけ、一息つきながら窓から陽を浴びる。

「ふぅ・・・陸もこうしてりゃ悪くねぇな。」
コーヒーを飲みながら平和な朝を満喫する。
部屋の隅に並ぶベッドには傷ついたシンとケンシロウが寝ていた。
一晩寝ただけで大体の傷が治っている、呼吸や経絡のコントロールが成せる業か。
医者に魔物が人間に化けているんじゃないかと疑われたのも無理はない。

トランプが散らばっている小汚いテーブルへ視線を移す。
ホークの向かい側の椅子には烈海王が座っていた。
「すまなかった、キャプテン・ホーク。」
「へっ、海賊に詫びたってなんもでやしねぇよ・・・王と面会はしたのか?」
「裁きを受けるつもりだったが・・・君達の根回しか?」

テーブルに勲章の様な物と書状が置かれる。
書状を手に取り、一瞬だけ見ると丸めて烈に投げ渡す。
「すげぇじゃねぇか。インペリアルガード。城の兵からは恨みを買いそうだがな。」
「実際は常に監視できるよう近くに配置しつつ、私を戦力として使おうというわけだろう。
それより文学に秀でてるようには見えんな、一瞬で読める量では・・・」

椅子から飛び起きると背を伸ばし、あくびを上げる。
「眠気覚ましに一杯やるか・・・付き合いな!」
意気揚揚と扉へと近寄り、豪快にドアを突き飛ばして開くとパブへと向かっていく。
烈も続いて椅子から立ち上がると、平手に拳を合わせ一礼して小さく呟く。
「シェシェ(ありがとう)・・・。」

338 :八十話「薄れゆく七星の輝き」:2008/02/28(木) 15:54:02 ID:vSPbHKUG0
ホークと烈が部屋から立ち去った後も、部屋の中には小鳥のさえずりが止まなかった。
「静かだな・・・。」
「確かに、俺達の世界には昼夜を問わず冷たい風が耳に響いた物だ。」

何時の間にやら起きていたのか、ベッドの上に横たわり天井を見詰めたままで口を開く。
「考えてみれば、天井のシミを数えるのは初めての経験だな。
リュウケンの奴は骨の一つや二つ折れた所で修行を中断することはなかった。」

物言わぬケンシロウ、天井へ向かって手を伸ばす。
古代技術の生みだした兵器ソーディアン。
怪我は治っても拳の内側へ撃ちこまれた熱気は止んでいなかった。
常人であれば苦痛でベッドから飛びはね、痛みでショック死しても不思議ではなかった。

だがケンシロウの心の内に芽生えた恐れは、痛みからくるのではない。
熱によって骨が溶け、握り拳を上手く作れないのだ。
この先の戦い、神と戦う時にはホーク達も成長している。
その時、足手まといにならないか・・・不安が脳裏を過っていた。

「その傷は俺が招いたもの、俺がケリをつけよう。」
ベッドから起き上がり、窓から日差しを浴び数年振りに見る青い空を眺めるシン。
少しの間だけ沈黙すると、ケンシロウに背を向けたままテーブルに座り再び口を開いた。

「お前の代わりに、俺が邪神への死神となってやる。」
「シン・・・死ぬ気か。」
「フッ、死人に生気など基よりあるものか。」

テーブルの上に散らばったトランプをかき集め、シャッフルする。
トランプの山をテーブルへ置き、上から一枚だけカードを引いた。
「ククク・・・ジョーカーか、こいつは縁起がいい。」
そう言うと口元に笑みを浮かべ、カードを懐へしまった。

339 :八十話「薄れゆく七星の輝き」:2008/02/28(木) 15:55:06 ID:vSPbHKUG0
「むぅ・・・この世界の陣形はどうも神頼みすぎるんだよなぁ。
魔力的な効果を土地によって得られるらしいが、こっちの世界で信仰してる神なんていねーし。
こりゃ役に立たねーな、何か他に神具とか戦闘・戦術論みたいな本ってないのか?」

脚立の上で本に目を通すゲラ=ハ、数冊手に取りペラペラとめくっている。
「赤い刃は一瞬で神をバラバラに…こんな武器が存在すれば苦労しませんね。
陣形については、私達の戦い方は個々がメンバーに合わせて動く連携行動を主体としてます。
配置は土地に住む神を無視するなら、武器の能力を引き出せるポジションに居ればいいといった考えです。」

ムッ、と顔をしかめたかと思いきや突然笑い出すベア。
「ハッハァーン!道理でお前等、アマちゃんな訳だ。
次の戦いは俺が指示を出してやるよ、楽しみにしてな。」
「?」

図書館で馬鹿笑いするベアを、不快そうに見つめる読書家達の視線に気づくゲラ=ハ。
慌てて頭を下げて謝罪するが、脚立の上でやるのは不味かったようだ。
バランスを崩し転落し、更に本棚にそのショックが伝わりゲラ=ハに本の雨が降り注ぐ。

「おいおい、図書館は静かに本を読む場所だぜ・・・まったく。」
軽い苛立ちを覚えるゲラ=ハ、だがベアの足もとに転がった本を見ると、
すぐにそんな思いは払拭してしまった。
「ベア・・・その本、その文字は?」

見た事も無い字、だがハッキリと伝わる作った者の意思。
人の欲望を無理矢理、内側から引きずり出す程の魔力。
掴め、開け、読み解け、そして暗黒に染まれ。
余りの邪悪に吐き気を催す。

「バカな・・・何故ここにこんな・・・!?」
本を掴むベア、本の魔力が開けと命じるのを拒んでいるのか手がブルブルと震えている。
荷袋の中に放り投げるようにして入れると、急いで紐をきつく縛った。

340 :八十話「薄れゆく七星の輝き」:2008/02/28(木) 15:56:18 ID:vSPbHKUG0
〜メルビル・宿の一室〜

日が暮れると、酒も程々に帰ってきたホークがテーブルの上に地図を開く。
「さて、各々準備を済ませた所で・・・メルビルを離れるぞ。
次の目的地はローザリアだ、アクアマリンの伝承があるからな。」
「クリスタルシティに行く訳ですね、メルビルと同じく首都として賑わってます。」
「あぁースマン、明後日に出発でいいか?仲間に色々と送りつける物があるからよ。」
「そうか、ケンシロウの傷も気掛かりだしな。」

3人で話を一旦止め、ケンシロウの居るベッドへ視線を向ける。
話し合いに参加すべく、ベッドから起き上がるケンシロウだったが、
それを制する男が居た。

「その旅、俺が付き合おう。」
「あぁ?何いってんだテメェ。」
睨みあうベアとシン、怪我人だから放っておいた。
だが妙な真似をされて、黙ってはいられないと剣を握る。
その様子を鼻で笑うシン、血管を浮き出しながらもその場を動かないベア。

「こいつの手、今は使い物にならん。
治るまでの間だったら貴様等に助力してやろうと思ってな。」
「本当か、ケン?」

ホークがベアを抑えつつ、ケンシロウの容態を案じる。
ケンシロウは、ただ無言で頷くだけだった。
「じゃあ仕方ねぇな、ベア。」
「チッ・・・まぁいい、もしもの時は俺が切り捨てる。」
「フッ・・・出来るかどうか。」

その日は二人がこの調子だったので、仕方なく2つ目の部屋を借りた。

341 :八十話「薄れゆく七星の輝き」:2008/02/28(木) 16:00:46 ID:vSPbHKUG0
漢字でシェシェって変換したらユニコードに引っ掛かった…。(;0w0)邪神?です…。
またも間があきましたがテストも終わったので今後あいたら怠慢が原因です(;0w0)
取りあえずストーリーにアドリブを効かせすぎたので今一度チェック中。
大体は昔思い浮かんだ案なんですがね…メモを無くしたのでアドリブで保管してました。
まぁそのせいで結構めんどくさいイベントが一つ二つできてしまいまして。
ミンソン主役キャラの一人なのにまだ出番のない子をおつかいキャラにしてなんとかしようと思ったり。
まぁ頑張ってます(*0w0)

〜感謝の言葉〜

>>ふら〜り氏 烈は抜いたし、これ以上薄くなんてならない…筈(;0w0)
       それよりもゲラ=ハがどうでもいい子とか言われそうで心配。
       大技の一つでも閃けば活躍できるかも…(;0w0)

>>クロ氏 おおっ、完結おめでとうございます。
     完結作品が吉良だけなので自分もいつかは…(;0w0)

>>159氏 メインパーティーに入りそびれましたが用意してます。
    そのイベントが出る時に彼を忘れて無ければいいのですが(;0w0)

>>161氏 も、申し訳ないがメインパーティーじゃなくモブキャラ的な人に(;0w0)
    でも活躍はある予定だから…覚えてればだけど(;ノwノ)

なんか今回のコメは(;0w0)が大量でうっおとしい(;0w0)ディモジジョウジマゼェン

342 :作者の都合により名無しです:2008/02/28(木) 19:02:29 ID:jLBfF04v0
おお結構お久しぶりです
主人公チームが活躍しそうなかんじですな

343 :ふら〜り:2008/02/28(木) 19:36:38 ID:aSAha8Rb0
>>スターダストさん
原作ではガッチリと日常組に固定され、物語の展開的にも本人の知識的にもほぼ蚊帳の
外だったまひろ。それゆえにできる、本作の今のヒロインとしての立場ですね。あれこれ知ら
ないまひろに、全てを告げようとする秋水の躊躇いと決断。告げられるまひろの困惑と怯え。

>>サナダムシさん
「空手にゃあ、こういう手があるんだっ!」とかできない、考えてみれば相性最悪とも言える
末堂との戦い。どうなるかと思ってたら、最後の最後まで堂々と空手で勝ってしまいましたね。
空手家として、いきつくところまで到達しつつある加藤。今の彼なら烈海王にだって勝てるッ。

>>邪神? さん
ん〜……ゲラ=ハは私としては昔から、何となくヒロインっぽく捉えてましたので。ちゃんと影
ありますよ。それより強さ・性格共に濃いのに原作では最初期にしか出られず、無論主人公
チーム入りなど夢の夢だったシンが! こりゃ楽しみ。背負うものあり、トラブルの種もありで。

344 :作者の都合により名無しです:2008/02/28(木) 20:17:41 ID:OWOZkz9J0
シンはカマセにはもってこいの素材だな・・
散り際は綺麗に散って欲しいものだが。

345 :作者の都合により名無しです:2008/02/29(金) 18:25:05 ID:sLC8RzSp0
キャプテンも80話か・・。
連載作品はみんな長編になったな
新しい連載始まらないと活性化しないな

346 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:13:31 ID:0atbx8Aw0
4

小さい頃、桂木弥子は妖怪や化け物というものに興味が有った。
きっと当時流行っていたアニメの影響も有るのだろう。
一反もめんはきしめんみたいだとか。
ぬりかべはコンニャクみたいだとか。
小豆洗いの小豆はあんなに大事に洗っているのだからきっと美味しいんだろうとか。
豆腐小僧の豆腐はあんなに大事に持っているのだからきっと美味しいんだろうとか。
そんなことを考えるのがとても好きだったのだ。
だから。
ヤコは『カマイタチ』も知っていた。

「カマイタチってええと、たしか」
ふと呟くと薬売りを始め皆がヤコを見た。
「たしか三人兄弟で、一番目が転ばせて二番目が斬って、三番目が血止めの薬を塗るっていう……、
 あのカマイタチですか」
薬売りが少しだけ表情を和らげる。
「ええ。そのカマイタチ、ですよ」
ヤコは倒れているご主人と、次いでまだ唖然としている安藤たちを見る。
深く裂けているのにまったく血の出ない傷口。
火事で焼け死んだ三兄妹。
その火事に何かしらの縁(えにし)のある安藤たち。
それらがこの物の怪の『形』を示しているということか。


347 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:14:50 ID:0atbx8Aw0
「まずは―――あんただ」
薬売りは横に持ったままの退魔の剣を中村に突き出す。
「さあ、あんたの『真(マコト)』と『理(コトワリ)』を」
「ちょっと待ってくれ、薬売りさん」
他のものより早く我に帰ったらしい安藤が口を挟む。
「この物の怪はあの兄妹だってんだろ?
 確かに俺も女将も中村さんもあの火事に少しは関わり有るさ。
 けどこっちのお嬢ちゃんたちはどうなんだい。
 しょっちゅう来るわけでもないだろ、京都なんか。ただの観光客じゃないか」
安藤はヤコたちを示す。確かに、ヤコも叶絵もこのあたりに来ることは初めてだ。
「こちらのご婦人方は―――」
薬売りはヤコと叶絵を見る。叶絵がヤコの袖を引っ張った。
どうしようこっち見たわヤコ、などと言えるようになったあたり叶絵もこの事態に順応してきているらしい。
流石はヤコの親友である。
「ただの……おのぼりさん、ですよ」
「ヤコ、やっぱり良い声だわ薬売りさん!」
……どうやら叶絵の脳髄に届いたのは言葉の内容ではなく薬売りの美声のみだったらしい、とヤコは思った。



348 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:16:14 ID:0atbx8Aw0
「つまりこっちのお姉ちゃんたちは無関係ってか」
「おそらくは」
「じゃあ俺らだって無関係だろう!なあ中村さんよ」
安藤は苛立ちを見せる。
ヤコだって訳が分からないのだからいきなり物の怪に縁があるといわれても戸惑うだけだろう。
「お、俺はただ、通りかかったら火事だったから周りに人も居なくてただ消防に」
中村はうずくまって頭を抱える。
と。
りん、と中村の近くで音がした。一番近くにある天秤が傾いていた。
―――物の怪との距離を測るための、天秤。

「ひッ」
中村が飛びのくと今度は中村のポケットから軽妙な音楽が流れてきた。
「う、うわあ……け、携帯か」
中村は胸をなでおろして携帯電話を取り出そうとする。非常時に日常のことが起きると安心するのかもしれない。
思わずびくりとしてしまったヤコも安堵しながら中村を眺めていると、叶絵が袖を引っ張った。
「―――ねえ。おかしいよ……この部屋の外には物の怪がぐるぐる回っているんでしょ?
 つまりいつもと隔離された状態ってことよね?だったら着信なんてあるものなの?
 おかしいって。―――あたしの携帯はさっきから圏外どころか電源すら入らないのに!」

ヤコが自分の携帯が全く起動しないことを確かめるのと中村が携帯を取り落とすのはほぼ同時だった。

349 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:17:34 ID:0atbx8Aw0
その携帯は何かの動画が流れていた。普通の携帯ではありえないぐらいの音量でパチパチと音がする。
「これは」
薬売りが目を細めて携帯画面を睨む。激しく燃え盛る古いアパートがそこには有った。
「い、いいだろ別に火事携帯で撮ったって!犯罪じゃないんだから!」
中村は頭を抱えて喚く。よろりと立ち上がり、後ずさりして皆から離れようとしているようだ。
「誰も、悪いとは言ってはいませんよ」
薬売りは片眉を上げ低く言う。
それでも中村はうろうろとしながら喚き続けた。
「た、たかが30秒くらいじゃないか!ちゃんと俺は消防に連絡したんだ、……この後すぐに!!」

『あー……こりゃ凄いや、そろそろ通報しないとやばいかなあ』

動画の向こう側の中村の声が、部屋に大きく響いた。


350 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:19:19 ID:0atbx8Aw0
「あ、あなたはまさか」
有り得ない、とヤコは思う。そんなことが有る筈は無い。
「消防に連絡する前にこの動画を?」
「知らなかったんだって、人が残っているなんて!知ってたら直ぐ通報したよ!
 あのアパートほとんど人いなかったしとっくに逃げたと思ったんだって!」
中村は喚きながら壁際をうろうろと歩く。
―――中村の歩くペースにあわせて近くの天秤が次々と傾いていることを、彼は気がついていない。
「大体たかが30秒じゃ早く消防呼んだって変わらねえよ!死んだ親子は可哀相だったけど仕方ねえだろ!」
確かに仕方ないとはヤコも思う。
火事は中村のせいではないし確かに消防が30秒早く来てもあまり事態に変わりは無いだろう。
けれど。……だけれども。

とっくに動画が終わったはずの携帯からは中村の声が続いていた。
『この間の火事のさ、ムービー見る?』
『そうそう、四人死んだやつ。無理心中だって?怖ええよな』
『このムービーこないだニュースでやったんだぜ、提供俺、みたいな』
『つーか消防呼んだの俺だぜ、凄くね?』
幾つも続く中村の声。中村がこの火事の動画をどう扱ったのかは明白だ。
「だ、だって仕方ないだろ」
中村はよろよろと襖に近づいて手をかけた。彼はこの部屋の何から逃れようとしているのだろう。
「すぐ消防来たら他に野次馬来ちゃうだろ!
 折角一番だったんだし周りに誰も居ないし中に人が居るなんて知らなかったからちょっとくらい俺は一人で―――」


351 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/02/29(金) 23:20:41 ID:0atbx8Aw0
再び。
中村が襖を開けるのと喉が裂けて空気音を発しながら倒れるのと、薬売りが片手を一閃して襖を閉じるのはほぼ同時だった。
薬売りは倒れた中村には目をくれず女将を見る。

「次は―――あんただ」

薬売りは、横に持ったままの退魔の剣を女将へと向けた。


                         〈続く〉

352 :ぽん:2008/02/29(金) 23:35:02 ID:0atbx8Aw0
お久しぶりです。今回は比較的早く来れました(当社比)

冒頭に付け忘れましたが>240からの続きです。

>246氏
 久々なのに覚えていてくれる方が! ありがとうございます。遅いですが頑張ります。

>247氏
 久々なのに(略)
 もともとアニメのモノノ怪が時代劇っぽいので、民族伝承っぽさはあるかもしれません。
 
>248氏
 久々(略)
 そうそうたる連載陣と並べてもらうとドキドキしますがw 
 もっとこまめに来れないものかとは自分も思いますw 

>253氏
 そこまで褒めていただくとドキドキしますw いつかゲロさんレベルのSSを書いてみたいもんです。

>ふら〜りさん
 いつも感想ありがとうございます! ミステリーというかホラーな感じになってしまいましたw

あともうちょいです。よろしくおねがいします。

353 :作者の都合により名無しです:2008/03/01(土) 09:36:43 ID:MFgTxZHW0
ぽん氏乙です。
ネウロと昔話っぽい話の融合が気に入っております。
でもちょっとヤコが大人しい優等生っぽい感じかな?

354 :作者の都合により名無しです:2008/03/01(土) 11:59:09 ID:o00F9PKM0
ぽん氏の優しい文体がテーマと内容にあってるな
ご自身のペースで完結させてください


355 :作者の都合により名無しです:2008/03/01(土) 15:51:56 ID:XWvbhaeU0
ぽん氏ktkr
>「ただの……おのぼりさん、ですよ」

おもいきりあの声で再生されて噴いたww
もうちょっと分量があると嬉しいなあ。いい所で切れてるから。

356 :八十一話「帝国の盾VS南斗の鷲」:2008/03/01(土) 23:03:32 ID:jN9ej1aU0
〜メルビル・宿の一室〜
「明日には出発だ、心残りのないようにしとけぇ。」
「・・・キャプテン、どう思います?」
コーヒーを飲みながら新聞に目を通すホークに、
豆を挽いて追加分を作りながらゲラ=ハが尋ねる。

「シンか、あいつ無駄にプライド高そうだからな・・・連携とれるかどうか。」
「連携・・・本当に仲間になってくれると?」

ゲラ=ハの言葉に反応して新聞を下ろすと、光が目蓋を直撃する。
眩しさで眼をパチパチさせながら、時計を確かめる。
「ん、それの心配か・・・そろそろベアが解決する頃だな。
それ挽き終わったら水筒に入れて、あと昼飯も携帯できる奴用意しとけ。」

用意しとけ、と言って気がついたがゲラ=ハに調理させる訳にもいかない。
コロコロ虫を入れられでもしたら精神的にキツイ。
手にしていた新聞を投げ捨て厨房を借りに行くべく部屋の外へ出る。

ドアを開けっぱらい、外へ出ても近所の迷惑は無視して大声で部屋に届くよう伝える。
「それが終わったら近所のガキにでかい鎧着たオッサンと、
目つきの悪いにいちゃんが一緒になって外に出なかったか聞いてこい。
言っとくが飯に虫だの持ってくるなよ!気持ち悪ぃからな。」

ホークの意図が分からず、ゲラ=ハも眼をパチパチと瞬きさせキョトンと立ち尽くしていた。
扉が急に開き、ホークが顔だけ覗かせる。
「ほら、豆!」
「・・・ハァ。」

今度はドアを閉めてから部屋を出る。
廊下を歩く音が階段を降りる音に切り替わる。
数十分もすると、やけに楽しそうなホークが戻ってきた。

357 :八十一話「帝国の盾VS南斗の鷲」:2008/03/01(土) 23:04:50 ID:jN9ej1aU0
〜メルビル付近の岩場〜
崖の上からガラガラと小石が転がり落ちる。
普段、寂しくヒュウヒュウと吹き荒ぶ冷たい風。
それも今日は熱風とかしていた、二人の闘気を運んで。

「前も一度よぉ、この辺でケンとやり合ったんだが・・・。」
「御託はいい、一つ言っておくのは試されるのはお前だという事だけだ。」
「フッ、へへへ・・・ムカツク野郎だ!」

剣を抜かず、怒号と共に丹田へと力を注ぐ。
獣の様に荒々しい息使いになると共に、筋力が大幅に増強される。
ベルセルク、アバロン帝国には技術を伝え続けるべく技を記録する習慣がある。
だが、この技は資質ある者にしか身につかない為、記録することの出来ない幻の体術となっている。
乱暴に剣を抜き取ると構えも何もなく、剣を相手へ向けて立つ。

「獣の力を身に宿す闘法か、だが貴様如きでは獣どころか畜生にもなれぬ!大鷲の獲物となるのが関の山よぉ!」
「何が鷲だ!爪だろうがクチバシだろうがへし折ってやる!」

ベアの剣が音の速度を超え、生じる真空波がシンを襲う。
だが正統派な剣術を用いるベアの剣は軌道の変化が乏しい。
まして音速で振り抜く最中に変化は取り入れられない。
瞬時に見切って回避するが、予想を上回る剣技がシンの頬を掠める。

「ぬうっ!」
「もう一丁!」

続けて放たれる音速の剣、これをジャンプしてかわしベアの懐へと入る。
それを迎撃すべく再度剣を振る。

「空中なら身動きとれまい!」
「バカめ・・・貴様の常識で、この俺を謀れると思うな!」

358 :八十一話「帝国の盾VS南斗の鷲」:2008/03/01(土) 23:07:10 ID:jN9ej1aU0
空中で身を翻す事で、滞空時間を若干伸ばす。
剣を振るタイミングが微妙にズラした所で刀身、フラーに蹴りを入れベアの体勢を崩す。
こうしなければベアの連撃は止まなかっただろう、剛力を持ちながら軽く扱いやすい片手剣を用いた戦法。
盾と相まって防御能力は非常に高いが、姿勢が崩れた今は存分に撃ちこめる。
着地と同時にベアの足下へ強烈な手刀を繰り出す。
この行為に何の意味があるのか、シンが拳が抜いた瞬間に答えが出た。

「なにぃっ!?」
「南斗雷震掌!」

龍脈、大地に流れる氣の流れを己の闘気でコントロールし地面から放出する奥義。
電流が体中を駆け巡るかのような衝撃を受け、重い鎧ごと宙へ飛ばされる。
ベアへ向かって飛びあがると、渾身の力で右脚を撃ち出す。

「終わりにしてやる、南斗獄屠拳!」
「だありゃあ!」

超重量の鎧を身につけているとは思えない身のこなしでソバットを繰り出す。
だがベアにとっての体術とは、剣と応用して使う事を目的として身につけた程度。
生涯を素手による闘法に捧げたシンに敵う筈もなく、空中で更に吹き飛ばされる。

「ぐぅおおっ!」
叫び声を上げながら地面を転がる、だがシンは追撃することはしなかった。
「魔物になら通じるかもしれんが、相手が悪かったな・・・防御に関してはまぁまぁ出来る様だ。」

チッ、と舌打ちするとムックリと起き上がり息切れ一つ起こさず剣を構える。
「アンタこそ、鷲を自称するだけあっていい眼だな。だが拳はケンに比べりゃまだまだ・・・。」
「ほざくな、貴様の様な雑魚に本気を出す必要がなかっただけの事。」

お互い口元を引きつらせ、ニヤニヤと笑っている。
「「ハアッ!」」掛け声と同時に双雄、共に駆け出した。

359 :八十一話「帝国の盾VS南斗の鷲」:2008/03/01(土) 23:08:28 ID:jN9ej1aU0
コポコポと音を立てながら、ぬるいコーヒーがカップに注がれる。
海鮮類や肉をレタスと組み合わせたサンドイッチにかじり付きながら崖の下を覗き込む。
「いい闘いしてんなあいつ等・・・俺はシンに100金賭けるぜ。」
「私はベアに200金ですね、でも止めなくていいんですか?」
「賭けてから言うんじゃねぇよ、ほれシンが攻めだしたぞ。」

ホークが食事中なので、ゲラ=ハも気を使って同じようにサンドイッチをかじっている。
座り込んでくつろぎながら闘いを観戦する二人。
その時、突然スウッと物音一つ立てず影が後ろから延びてくる。
飛びのいて影の方向を振り向くと、見慣れた男が立っていた。
「なんだ・・・ケンか、驚かすんじゃねぇよ。」
「賭け試合か、俺も乗ろう。シンに500金」
「おいおい、俺と被ってるぜ。じゃあ大穴狙いで相打ちに300金だ。」
「レートはどうなりますかね?」
「シンとの付き合いは長い、ベアとも一度やりあった俺が決めよう。
有利なのはシンだな、剣を相手にするなど俺達には日常のことだった。
ベアも素手の魔物なら相手にした事があるだろうが、素手の人間との経験は少ないだろう。」

盛り上がる3人だったが、騒ぎ過ぎたのか下に居るベア達に声が届いた。
崖を見上げるベアとシン、お互いに視線を合わせると無言で頷いて構えを取った。
「南斗雷振掌!」
「空圧波!」

今回の相手は崖だった、先程と同じように龍脈を操る。
空圧波が崖を振動させ、ホーク達の体制を崩す。

危険を察知して飛び退くケンシロウだったが、ホークが足を掴んで阻止する。
「はっ、離せっ!」「バカ・・・そのまま飛べっ!」
シンの一撃によって崖が崩壊すると、絶叫しながら岩の下敷きになる。
その残骸から白目をむいた3人を引きずりだすと、その間抜けな光景を前にベアとシンは大声で笑っていた。

360 :邪神?:2008/03/01(土) 23:12:14 ID:jN9ej1aU0
ようやく町移動の気配・・・邪神です(0w0)
またMMOにハマってるんですが、同lvの人と目的が被らなくてポツーンと放置してます。
そんな訳で結構SSの方にも手が出せる訳でございます(*0w0)
新しいバイト先が決まったので多少時間が削れるでしょうが、
社会人の方々に比べればまだまだ暇人。
精進します…装備集めに(*ノwノ)

〜感謝と講座〜

>>ふら〜り氏 男まみれなパーティーで唯一の華ですからね、印象に残ってて安心(*ノwノ)
       シンならホーク達よりちょっと強いレベルですから使って行けますけど、
       ケンシロウは覚醒しちゃったので終盤にならねば出れないかも…。
       治す為に考えてるイベントも元が面倒なイベントですので(;0w0)

>>342氏 主人公チームが活躍できても主人公が活躍できるとは…(;0w0)

>>344氏 噛ませな上に死亡確定とは高評価ですね…(;0w0)
     しかし実際に技のバリエーションが格ゲーからの引用しか…。
     原作やアニメのも取り入れても結構少ない、キャラは立ってるんですけどねぇ。

>>345氏 吉良の続編が思いつけばやりたいんですがね(0w0)
     新人による新しい連載じゃないと意味がないかしら…。

南斗雷振掌 地面に手刀を打ち込むと何かが噴き出す格ゲー奥義。
       文中の表現は自分の脳内設定なので信じないように。

フラー 前も説明した気がするけど一応、刀身の刃ではない部分。
     剣の刃の部分を縦とするなら横の部分である。

361 :作者の都合により名無しです:2008/03/02(日) 00:57:26 ID:Kq/+bytT0
>>360
>フラー
側面のこと?>>360ではよくわからんかった

362 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/02(日) 01:07:58 ID:UyI2BvLx0
 起床すると武神がいた。
 いきなりすぎる。もう帰るだけなのだから、少しくらい自由時間を与えてもいいはずだ
が、このとことんまでマイペースな神に理屈は一切通用しない。
「起きたか」
「ふん、まさか起きるなりてめぇの姿を拝むことになるとはな」
「試練を終了した君を、これ以上拘束する意味はない」
「そうかい」
「まもなく君は空間転移することになるが、その前に君が得た特権を消化してしまいたい」
 突然現れた特権というキーワード。首をかしげる加藤。
「特権? なんだよそりゃ」
「私は私が認めた武術家に“武の極地”を授けることにしている」
「おいおいついていけねぇよ」
「“武の極地”とはすなわち理合、技だ」
 太極拳のような緩やかな舞いから、鮮やかな突きを放つ武神。
「“武の極地”は決して一つの形を取らず、さまざまな形で私から手渡される。ある者は
筋肉との決別から究極の脱力を、ある者は数十年の経験からどんな巨人をも手玉に取れる
合気を、ある者には四千年の英知からなる多彩な足技を、またある者には殺気を必要とせ
ぬ拳を──」
「自慢話はいらねぇよ。ようするに、俺にもとんでもない必殺技をくれるってことだろ?
ありがてェハナシだぜ」
「君は一ヶ月の試練に打ち勝った。資格は十分だ」武神の生白い手が加藤に差し伸べられ
る。「さァ、どんな技でもかまわん。おまえが望むものを与える力を私は持っている」
 加藤の心は決まっていた。
 ごく一部の武術家にのみ与えられるという特権。望んで手に入れたわけではないが、せ
っかく手にしたのだから、骨までしゃぶり尽くす勢いで利用しなければ損である。
 唇が開かれた。
「俺はなァ〜んもいらねぇ」


363 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/02(日) 01:08:41 ID:UyI2BvLx0
 自身が認めた空手家からの返答は明確な拒絶だった。
 これでは手を差し伸べた武神が間抜けに映る。
「もう一度問う」
「問わなくていいぜ。俺はなんもいらねェんだ」
「無欲というわけではないな。とことんまで私に反抗するつもりか。もっとも、これほど
の反骨心の持ち主だったからこそ試練にも屈しなかったと解釈することもできるな」
「おい待てよ。俺は特権を放棄したってワケじゃねぇぞ」
「ほう。つまり“武の極地”ではない形で使いたいと」
「ご名答。俺の望みってヤツを叶えてさせてもらうぜ、武神」
「いってみろ」
「俺はよォ……」
 王者としての誇りなど欠片も持たぬ、ただ勝てさえすればよい、やさぐれた獅子が牙を
剥く。

「てめぇをぶっ倒したくてしょうがねェんだッ! 今この場で立ち合いを申し込むッ!」

 おぞましいまでの声と気迫にも一向に動じず、武神はさらりと口にする。
「気は確かか」
「当たり前だ。確かだったらこんなバカなこというかよ。さっさと家に帰って寝て、美味
いもん食って、女でも抱いて……とにかく色々楽しんでたろうさ」
「ならば何故だ」
「知るかよ。返事がねぇんなら、勝手に始めさせてもらうぜ」
「残念だ」
 本当に無念そうに、ゆっくりと目を閉ざす武神。たったそれだけの行為で、大地も海も
空も、死んだように静まり返ってしまった。
 永遠に続くかと錯覚してしまうほどの混じり気なしの静寂は、他ならぬ武神の手によっ
て破られた。
 武神が目を見開く。
 スタンディングオベーションのように、彼を中心とする空間がわっと沸き立った。真の
闘気は変幻自在、静にも動にも化ける。これこそが武だ。
「仮初にも武を司る一個人として、挑まれた戦いには全力を以て応じねばなるまい」
「そうこなくっちゃな……」

364 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/02(日) 01:09:27 ID:UyI2BvLx0
 神に人は追いつけない。追いつけるはずがない。しかし、加藤清澄という武士(ものの
ふ)はついに神と同じ土俵に立つことに成功した。
 先手を取るのは挑む者、すなわち格下というのが通例である。通例とは縁遠い性質を持
つ加藤もまた、図らずもこの大原則に従う形となった。
「行くぜァァァアッ!」
 出し惜しみは不要。全力に始まり、全力で終える。加藤が初弾に選んだのはボクシング
でいうストレート、正拳突き。
 ──だが。
 拳はフェイント、代わりに左足が金的に向かって突き進む。
「甘い」
 これを武神、右手でキャッチ。が、加藤は残る右足で跳ぶと、それを武神の顔面に思い
切りぶつける。グチャ、と気色悪い音が鳴った。初弾をみごと決めた加藤は後方に回転し
着地、武神の白い全身は角度でいえば五度ほどぐらついた。
「む」
 鼻の右穴から一筋の血がにじむ。いきなり武神が出血した。
「神様でも血ィは赤いんだな、やっぱ」
「すばらしい成長だ。試練を課した私としても鼻が高い」
「ふん……」
「しかしこれからまさに格闘士として全盛を迎えようとしている君は、私に挑んでしまっ
た」武神はため息をつく。「私は、君の人生を終わらせるつもりだ」
 神の口から語られた、事実上の殺害宣言。口先だけの脅しではない、なぜなら神だから。
神なのだから、殺すといったら殺す。
 むろん恐れはある。気に喰わないが、加藤とて武神の強さは認めている。しかし、それ
でも攻めることは止めない。
 迷いのない猛突進から、左ハイへとつなぐ。文句のつけどころのないタイミングだった。
(入るッ!)
 鉄の左足があと一ミリでこめかみにヒットする。
 そして強烈な破裂音が生じた。

365 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/02(日) 01:10:20 ID:UyI2BvLx0
 ヒットしたのはなんと武神の拳。拳周りから細い煙が立ち込めるほどの速度(スピード)
であった。まともに喰らった加藤は被弾した胸を押さえ、激しく吐血する。
 まさかの大ダメージ。短期間での回復は難しい。一点差で勝っていたのに満塁ホームラ
ンで逆転されたようなものだ。失神寸前のコンディションにありながら、加藤は今受けた
技に関して分析を巡らせる。
(似てた……! こいつは、克巳さんの……ッ!)
「音速拳。近年では愚地克巳に授けた技だ」
 困惑する加藤の心を読んだかのように、武神は丁寧に説明を付け加える。
 武神が音速拳を使えるとあっては、うかつに懐には飛び込めない。腕の長さ(リーチ)
イコール、必殺の間合い。
 目まぐるしいフットワークで時間を稼ぎながら様子を伺うが、音速拳は近代体育の究極
とも謳われた秘技。たやすく活路を見出せるはずもなく──
(何発か喰らうのは避けられねぇっ! だが必ず喰らった以上の攻撃を決めるッ!)
 ──空手家は覚悟を決めた。
 正中線を守るように構え、勇気を振り絞って、音速の支配圏に侵入する。
 ここから先はいつダース単位の拳が飛んで来てもおかしくない。一発目が決まったと同
時に凄まじい連射砲が叩き込まれるはずだ。
 しかし、来ない。
 とうに音速拳のエリアだというのに、武神には動く気配すらない。いや、攻撃の際に必
ず必要となる殺気すら漂わせない。
(音速拳を出さねぇつもりか──? ならかまわねぇ、打ち込むッ!)
 守りを解き、攻撃体勢に入る。──途端、加藤の鼻先に右拳がめり込まれた。
 菩薩の拳。この世に生を受けた赤子が初めて形作る拳。赤子ゆえに純粋、純粋ゆえに自
然(ナチュラル)、自然ゆえに殺気が混ざる余地などない。
「ガァァアッ!」
 加藤、怒りの反撃。全体重を乗せたワイルドパンチが顔面を捉えた。
 当たった。なのに、手応えが無い。何事もなかったかのように、武神はふわりと着地し
てしまう。
「消力(シャオリー)だ」
 哀れむように言葉が紡がれる。
「一つ伝えておこう。この世に存在する技術で、私に使用(つか)えぬものはない」

366 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/02(日) 01:15:34 ID:UyI2BvLx0
三十日目です。
主役補正VSチート、究極のインチキ対決。

367 :作者の都合により名無しです:2008/03/02(日) 03:00:19 ID:iRpcw2jL0
最終決戦かな?
寂しいな・・。

368 :作者の都合により名無しです:2008/03/02(日) 19:27:19 ID:5pzTU2Ue0
>邪神氏
雷震掌は北斗の格ゲー?シンも参戦していよいよ混沌としてきましたね
とても今年中には終わりそうもなさそうですが頑張ってください
ネトゲはほどほどにしてね

>サナダムシさん
うーんこちらはもう2、3回の更新で終りそうかな
武神は何でもありのキャラですね。理合すべてを使えるなら
勇次郎クラスでないとどうにもならない気が

369 :ふら〜り:2008/03/02(日) 19:50:50 ID:38bPYxj40
>>ぽんさん
ぞっ……ときましたね。こういう、バケモノ側の動機に主題が置かれるのが和ホラーの特徴
だと聞いたことあります。苦しい言い訳して、見苦しい言い逃れして、でも通じずにバッサリ。
追い詰められる緊迫感に息が詰まってきます。設定や演出の妙というか、これも学ばねば。

>>邪神? さん
タイマン張ったらダチじゃあ! 展開ですな。パーティー入り早々、白目のケンを見てタイマン
相手と一緒に笑うとは、予想を遥かに上回る(けど自然に想像できてしまう)シンの馴染み
っぷり。さすが彼も北斗世界の漢でありケンの強敵と書いてとも。本作でも活躍できそう。

>>サナダムシさん
ラスボスらしい! ただ圧倒的に強いってだけじゃなくて(そんなのは本作ではとっくに通過
した場所ッ)、こんなもんにどーやって勝つんだ? というインパクトが巨大! というか、これ
に勝ててしまったらもう独歩を超えてしまうのでは。それだけに、どーやって勝つんだ? です。

370 :作者の都合により名無しです:2008/03/03(月) 15:59:24 ID:ih5jU6hv0
サナダムシさんは今やバキスレの顔みたいなもんだから
やさぐれ終わってもちょくちょく投下して下さい

邪神さんの北斗世界は独特ですな。今後彼らがメインキャラか。
ケンやシンが人間くさすぎるw

371 :作者の都合により名無しです:2008/03/03(月) 19:01:02 ID:i3Ev5pzK0
シンは雑魚のイメージしかしないんだけどね

372 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:37:03 ID:f3CnNdz80
 スプリガン<SPRIGGAN>
 古代遺跡に出没し、宝物を守る伝説上の妖精


373 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:37:58 ID:f3CnNdz80
 オーストリア、ウィーン。国際機関の本部の集積地でありながらも、美しい宮殿や大聖堂が数多く残る都市。
 ゴシック建築を代表するシュテンファン大聖堂やハプスブルク家の避暑地であったシェーンブルン宮殿、そして現在では国立図書館や博物
館として使用されている旧ホーフブルク宮殿。特に旧ホーフブルク宮殿の王宮博物館には、神聖ローマ皇帝の帝冠、金の羊毛騎士修道会の宝
物、瑪瑙の鉢など展示されている。
 その王宮博物館の中で。
 
「へーえ。さすがかつてのハプスブルク家の中心地、豪華そうなもんがいっぱいあるぜ」

 展示物をしげしげと眺める、一人の少年。顔立ちは東洋系、それほど背は高くなく、周囲を行きかう欧州系の人間と比べると、どうしても
小柄に見える、普通の人間だ。 しかし彼の隙のない挙動、緩やかに構えているように見えて常に周囲に注意を向けている様を見れば、自ず
と彼が普通ではないと分かるだろう。
 ――スプリガン。
 アーカム財団が擁する特殊エージェント。
 目的は、古代文明の残した"遺産"の保護。そして遺産の悪用を阻止すること。
 彼は若年ながら、そのスプリガンの中でもトップクラスの実力を持つ。 
 名を御神苗優。物語は、ここから始まる。
 
 彼が王宮博物館に足を踏み入れてから、およそ1時間。本や写真でしか見られない、歴史的展示物を前にしながらも、優の胸中は複雑だっ
た。確かに目を引く展示物は数多くある。見るべきものはあり、それが優の好奇心を刺激していた。しかし……。
がっくりと肩を落とし、溜め息をつく。

「しっかし、卒業早々任務とは、ついてないぜ……」

 今年の春、無事高校を卒業した優は、その喜びに浸る間もなく、すぐに任務に着かなければならなかった。場所はオーストリア、ウィー
ン。卒業式が終わってすぐアーカム支社に呼び出された優は、さっそく上司である山本という男に食って掛かった。せっかく高校卒業してゆ
っくりできるはずだったのに、休む暇もないのか、と。

 ……すまんな、優。だが、お前の知っての通り、今アーカムは人手不足なんだ。
 お前には悪いが、いってもらえるな?

374 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:38:44 ID:f3CnNdz80
 つい先日までアーカムでは急進派による強引な組織改革が進められていた。急進派の中心人物、ヘンリー・ガーナムの野望。遺産を積極的
に使い、世界のパワーバランスをコントロールする。それはアーカムの理念に反する、遺産の悪用に他ならなかった。スプリガンを初めとす
る反対派が立ち上がり、急進派と衝突。結果、ヘンリー・ガーナムは失脚し、急進派もアーカムの中で影響力を失っていった。今では組織全
体を立て直すために、多くの人間が奔走している。そんな事情を知る優である。また恩人でもある山本の頼みを断れるほど、彼は冷淡な人間
ではなかった。
 ――というわけで、同級生との別れの挨拶もそこそこに、彼はウィーンまでやってきたというわけだ。本来なら、今頃、気の合う友人達と
の卒業旅行を楽しんでいるはずだ。気が重くなるのも、仕方のないことだった。
 博物館の中を散策した優は、仲間との合流地点についていた。そんな彼のところに、涼やかな声がかけられた。

「ひさしぶりね、優」

 喧騒の中、まるでそこだけ世界から切り離されたかのような、静寂な空間があった。その中心にいる、黒髪の美女が、優にうっすらと笑い
かけていた。氷のような微笑。若々しさと老人のような狡猾さが同居している女性。その美貌の裏には、油断ならない何かが潜んでいる。
彼女はスプリガンの重鎮であり、一時期アーカム財団代表を務めていた。今ではその席を譲り、再び前線に復帰している。
 名をティア・フラット。信頼と尊敬と畏怖をもって、彼女は"魔女"と呼ばれている。
「ウィーン観光は楽しめたかしら?」
「まあね。学生の身分じゃ、到底来られなかったからな。じゃ、さっそく任務の話に移ろうじゃないか」
「あら、随分と先を急ぐのね」
「生憎だが、今の俺は一分一秒が惜しい。さっさとこの仕事を終えて、一刻も速く日本へ帰りたいんだ」
「どうして?」
「卒業旅行だよ、卒業旅行。四泊五日。いつかの修学旅行のような失敗は、絶対にしないからな!」
 あきれたような表情をつくるティア。
「なら、さっさと合流地点に来ればよかったのに」
「いや、せっかくウィーンに来たんだ、観光しなきゃもったいないだろ」
 そういうものかしら、とティアは疑問に思うが、優の方は彼の言葉通り一刻も速く任務を終わらせたいらしく、ずんずん先へと進む。ちな
みに、とティアは聞いてみた。
「その卒業旅行まで後どのくらいなの?」
「あと五日」
「あら。確かにそれじゃあ、急がなきゃね」

375 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:39:25 ID:f3CnNdz80
 先陣を切る優であったが、肝心の遺産が何で、何処にあるのかまだ知らされていなかった。日本をたつとき、詳しい説明は現地で行う、と
聞かされていた。ティアがその説明役なのだろう。優は後ろを振り返り、任務の詳細を尋ねた。自分達が守らねばならない遺産はどこにある
のか、そして何なのか。

「あら。遺産なら、もう目の前にあるじゃない」
「……なに?」
 怪訝そうな表情で、優は魔女を見返す。そんな視線を受け流しながら、ティアはゆっくりとあるものを指差した。
「今回私達が守らなきゃいけない遺産は、あれよ」
「あれって……」
 ティアが指し示すその先。アーカムが回収しなければならない"遺産"は、大勢の一般人の前に、堂々と展示してあった。色あせた皮のケー
スに、無造作に置かれた、古ぼけた金属の塊。

「あれが今回、私たちアーカムが回収しなければならない遺産……ロンギヌスの槍よ」


「もちろん、あれはレプリカよ」
 自販機のコーヒー缶に口をつけながら、ティアが言う。
「キリストの脇腹を貫いたとされる槍……キリストの血を受けたとされる槍。聖遺物としての価値は、あの聖櫃(アーク)と並ぶとさえいわ
れているわ。"運命の槍"、"聖なる槍"……呼び方は様々だけど、ただ一つ言い伝えられていることは」
「ロンギヌスの槍を持つ者は世界を統べる、だろ?」
「そう。だから、多くの権力者が槍を求めたわ。実際、槍の所有者は絶大な権力を手に入れた。
ローマのコンスタンティヌス1世、東ゴート王のテオドリック、ローマ帝国のカール大帝、フリードリッヒ1世……。そして、アドルフ・ヒト
ラー」
 未曾有の災厄をもたらした最大最悪の独裁者。
 ヒトラーの周囲には、オカルトめいた噂が絶えなかった。
 彼は魔術結社の庇護を受けていた、とか。
 彼は黒魔術を修めていた、とか。
 その陰謀の中心に、ロンギヌスの槍の存在があった。まだ彼が貧乏学生に過ぎなかった頃。
 偶然訪れた、聖槍との邂逅。その際ヒトラーは、自分が世界に君臨している未来を見たとされている。真実はどうであれ、聖槍を通した体
験が、彼の野望の原動力になったのは間違いない。

376 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:40:31 ID:f3CnNdz80
「知っての通り、彼の野望は潰え、第三帝国は消滅したわ。彼が地下壕で自らを拳銃で撃ち抜いた時に、ね。槍の脅威を怖れた各国は、暗黙
の了解のうちに、どの国の影響下ではないここに封印したの」
「そいつを、トライデントが狙ってるってわけか」
「ええ」

 トライデント。<三叉矛>の名を冠し、各国軍部や秘密結社に兵器を供給する死の商人。
 かつてNATO各国と結託し勢力を拡大してきた彼らは、スプリガンと深い因縁を持つ。遺産を守るものと、遺産を利用しようとするも
の。トライデントは、遺産の絶大なオーバーテクノロジーに目をつけ、兵器開発に利用していた。実際、遺産を参考にした兵器は、新たな市
場を作り上げた。既存の兵器を遥かに上回る性能は、大国の目の色を変えるには十分だった。トライデントは多くの死を吸い上げながら、闇
の中で着実に枝葉を伸ばしていた。

「彼らにはうってつけの遺産ね。今は、喉から手が出るほど欲しいのでしょう。たとえ伝承だとしても、世界を支配できる力が授けられる、
なんて文句があるのだから」
「ああ。あの一件以来、奴らは落ち目だからな」

 かつてはアメリカ合衆国を動かすほどの力を持っていたトライデントも、今では見る影もない。ヘンリー・ガーナム主導のアーカムと手を
取り合おうとした高隅財閥の裏切り行為により、グラバーズ重工、キャンベルカンパニー三社の協力関係は瓦解し、トライデントは事実上消
滅した。残されたグループは生き残りをかけて各国軍部や巨大企業と結びついた。V&Vインダストリィ、桐原コンツェルン、オクトーバー
社……。結果、その力は最盛期と比べて格段に落ちることになり、以降、トライデント残党はかつての力を取り戻すべく、遺産の獲得に躍起
になっている。

「彼らは死に物狂い聖槍を狙ってくるでしょうね。……万が一、ロンギヌスが彼らの手に渡れば、伝承どおり彼らが再び覇権を握ることも夢
ではないわ」

 ティアの美貌が沈鬱に曇る。ロンギヌスに限らず、これまで人間は、力を手に入れるために愚かな争いを繰り返してきた。飽きもせず、永
い時を。そんな精神的にまだまだ未熟な人間にとって、遺跡の力は過ぎたものだ。手に余る力を持ったものの行き着く先は、自己の破滅に他
ならない。


377 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:57:09 ID:CnHD+izX0
「それをさせないために、俺たちがここにいるんだろ?」
 魔女の憂鬱を払うように、優は不敵な笑みを浮かべた。
 ティアもまた、不敵な笑みを返した。
「そうね」

 人間は愚かだが、前に進むことができる。
 いつか、遺産の力をよき方向へ使えるときがくるかもしれない。
 その日を信じてティアは、無限の可能性をもつスプリガンたちに世界の未来をかけたのだ。 
 遥か過去、彼女の偉大なる師が、人間の未来を託すために自分に魔術を教えたように。


 そして作戦会議が行われた。王宮博物館の一室。
 優とティア、アーカムのA級エージェント、オーストリア憲兵隊の代表者が集まった。
 アーカムが掴んだ情報によれば、今回ロンギヌスの奪取を狙っているのは、トライデントの中でも少数派だということだ。先の大戦の原因
となったロンギヌスは、その絶大な影響力を怖れた大国によって半ばタブー的な扱いを受けていた。最盛期のトライデントでさえロンギヌス
の回収には消極的だった。
  
 トライデント残党の大部分も、ロンギヌスだけは避ける傾向にある。力を失った今、大国に睨まれることはしたくないのだろう。今回の回
収作戦に動員される人員は、ごく少数のはずだ。よって、この襲撃を阻止することで、聖槍を狙う勢力を一掃できるというわけだ。

 警備には優とティア、そしてアーカム財団のA級エージェントとオーストリア憲兵隊であたることになった。博物館の外側に憲兵隊とA級
エージェントを配置し、ロンギヌスが安置されている部屋に繋がる通路に優、そしてティアが最後の砦として聖槍を監視する。
 
 A級エージェントはアーカム選りすぐりの精鋭であり、オーストリア憲兵隊も国際機関を狙ったテロ対策のために厳しい訓練を積んできた
兵だ。トライデントといえども、この布陣を突破するのは困難を極める。 

 だが、鉄壁と思われたこの配置も、予想を超えたトライデントの襲撃によってあっけなく崩れ去った。

378 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:58:01 ID:CnHD+izX0
 深夜、闇に沈む王宮博物館の前で行われた戦闘は、とても一方的なものだった。
 それは殺戮といってよかった。
 警備にあたっていた兵が、背後から忍び寄る影に、音もなく殺害されていく。
 銃をとる間もない。気配を察知する暇すらない。ただただ合理性を追求した、
無駄のない襲撃。それは歴戦の勇士のやり方ではなく、まるで機械のやり方だった。

 地面に転がる幾体もの死体を見下ろす少年兵たち。手には血にぬれたナイフが握られている。
 その表情は虚ろで、何の感情も見出すことはできなかった。まるで人間の形をした機械だった。そう、まさに彼らは機械として育てられた
のだ。人を殺す機械に。
 A級エージェントと憲兵隊が全滅したのを見計らい、物陰から何人もの兵士達が現れた。
 指揮官と思しき男が、少年兵の一人に近づき、労いの言葉をかける。

「御苦労、No.54。さすがはコスモス、まったく気取られることなく行動できるとは」

 チルドレン・オブ・ソルジャー・マシン・オーガニック・システム。通称<COSMOS>
 かつて米軍で密かに進められ、後にトライデントが引き継いだ特殊部隊計画。人間を最高の殺人機械に作り変える悪魔の所業。 幼少期か
ら薬づけにし催眠術を施すことで理性を剥ぎ取り、絶対服従を刷り込む。そして反逆の懸念がなくなった後に行われる、地獄のような訓練。
さらに脳内に埋め込まれた精神増幅機によって強化されたテレパシーによる完璧な統率。
 
 その成果は絶大なもので、コスモスの"性能"は各国の特殊部隊を壊滅させ、スプリガンを後一歩のまで追い詰めたほど高いものだった。
 もっともトライデントが消滅する原因となった日本沈没作戦の折、コスモスはスプリガンに敗北し、現在では小隊規模しか残っていない。
それでも敵性勢力にとって脅威には違いない。
 コスモスは、ロンギヌス回収作戦におけるトライデントの切札だった。もっとも、あと一つ切札は存在するのだが、今はまだそれを切る段
階ではない。

「では、突入するぞ。No.54、お前達がスプリガンをひきつけろ。その隙に我々がロンギヌスを回収する」
 無表情に頷きを返す。その動作はまるで人形のように無機質なものだった。
 そしてNo.54を先頭に、ロンギヌスが安置されている地下室へ向かおうとするトライデント・アタッカーズの前に。

 三つの影が、まるで幽鬼のように、姿を現した。 

379 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:59:02 ID:CnHD+izX0
「なんだ、貴様ら!」
「スプリガンか!?」

 驚愕するアタッカーズを尻目に、No.54は迅速に行動した。脳内のオリハルコン製精神波増幅器が起動。強化された脳波がテレパシーとな
り、各コスモスにNo.54の命令が行き渡る。
 すばやく最適な迎撃位置に配置を変更。そしてコスモス全員が自動小銃を構え、引き金を引く。
 だがそれは叶わなかった。引き金にかけた彼らの指は、いつの間にか切断されていた。当然、弾は発射されない。人形に似つかわしくない
驚きの表情を浮かべたNo.54は、見た。刃紋の美しい日本刀を上段に構え、そのまま袈裟懸けに斬りおとす、黒い軍服の影を。それがNo.54の
見た最後の光景になった。
 そしてNo.54の死を切っ掛けに、虐殺が始まった。


「銃声!」
  
 馴染みのある音、そして忌むべき調べ。弾かれたように優は、持ち場を離れ、仲間のところへ走る。入り口に近づくにつれ、濃密な血の匂
いが鼻に届く。優の警戒心はますます大きくなった。そして優の目の前に、大きな塊が飛んで来た。
 
 とっさにライトを当て、正体を確認する。苦悶の表情を貼り付けた生首が、虚空を睨みつけていた。おそらく、力任せに引きちぎられたの
だろう。生首にはねじ切れたようなあとが見えた。だが、その顔に見覚えがなかった。少なくとも、ブリーフィングの時に顔を合わせた覚え
はない。
  
「まさか、トライデント・アタッカーズか?」

 疑念が膨れ上がる。なぜ襲撃者である彼らが、こんな風に殺されているのか。A級エージェントと憲兵隊の武装は標準的な現代火器であ
り、また人間の首をねじ切れるほど怪物じみた膂力をもつ人間は彼らの中にはいなかった。
 そして死体はこれだけではなかった。
 通路に、壁に、天井に――いたるところに人間の成れの果てがこびりついている。無残に引きちぎられたもの、鋭利な刃で切断されたも
の、獣に食いちぎられたようなものまであった。
 あまりに凄惨な光景に、優は思わず呻いた。ここまで残虐な光景は、戦地に身を置く優であっても、めったにみたことがない。

380 :ロンギヌスの槍 part.1:2008/03/04(火) 12:59:47 ID:CnHD+izX0
 そしてこの惨劇を作り上げた存在が、優に近づいてきていた。
 
「遅かったな、スプリガン。待ちくたびれたぞ」

 得意げで嘲った調子の声が優に投げかけられた。
 軍靴の音が通路に響き渡る。その数は三つ。
 暗闇の中から、それより尚濃い漆黒の軍服が姿を現した。
 三つの影。それらはちぐはぐな印象を他人に与える。
 一人はティーンの少女で、もう一人は熊のような巨躯、そして最後の一人は金髪碧眼で隻眼の女性だった。
 だが一つだけ共通するものがあった。
 腕章に禍々しく輝く、ハーケンクロイツ。  

「お前のことはネオナチのごろつきどもから、よぅく聞いているよ。水晶の髑髏、総統の復活……そのすべてを阻止した。どれも我らの復活
に不可欠な作戦だったというのに。いつも我らの邪魔をする、いけ好かない餓鬼だ」
 
 金髪碧眼の女性が口を開いた。
 
「私はグルマルキン・フォン・シュティーベルSS大佐。
 栄光ある第三帝国の騎士にして、鉤十字騎士団の魔術師だ」

 第三勢力の出現。鉤十字の亡霊たちが、いま現世に帰還を果たしたのだ。


381 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/03/04(火) 13:02:23 ID:CnHD+izX0
皆さんお久しぶりです。
以前、シグバールvsリップヴァーンSS(以下魔弾)をかいていたハシです。
魔弾終わった後に、ほのぼのした奴投下してから、また長編始めるといっていたのに、このザマです。
しかもそのほのぼのも、題材が旬を逃がしたような奴なので、投下がためらわれて……
結局、予定していた長編を始めることにしました。
今作はスプリガンといろんな作品とのクロスオーバーSSです。
魔弾の時みたいに戦闘しまくりです。オリキャラも少々出ます。
まあ版権キャラにばったばった倒されるような立ち位置です。
その分趣味全開です。
それではまた。



382 :作者の都合により名無しです:2008/03/04(火) 19:09:49 ID:VHVIPzay0
ハシさんお久しぶり、そして乙!
大好きなスプリガンと言うことで二重に嬉しいよ!

383 :作者の都合により名無しです:2008/03/04(火) 20:31:26 ID:BmGFb0ts0
ハシ氏の復活は嬉しいなあ。
ハロイ氏いなくなって少しスレの行く末を心配してたから。

しかも主材料がメジャーどころのスプリガンという選択もいい。
前作は面白かったけど原作知らなかったからな。

スプリガンは優とティアがメインなのかな?
作中最強の朧は是非出してほしいな。
(絶対に朧の方がティアより強いと俺は思ってる)

最後に出てきたキャラは他の漫画からの出展かな?
それともオリキャラ?


384 :作者の都合により名無しです:2008/03/04(火) 21:32:45 ID:XSzlA1aQO
魔術からサイボーグまでなんでもありなスプリガンはクロスオーバーには最適ですよね

385 :作者の都合により名無しです:2008/03/05(水) 08:32:43 ID:bTV4bGJI0
これは楽しみだ
他作品とのクロスオーバーなら
朧対アームズの無敵サラリーマンとかみたいな

386 :作者の都合により名無しです:2008/03/05(水) 17:23:55 ID:O5Y6TVWH0
ロンギヌスの槍って原作にもあった話だったっけ。
割合とメジャーな素材だよね、この槍。
どんな逸話は知らんけど。

ハシさんこれから楽しみにしてますよん。

387 :作者の都合により名無しです:2008/03/05(水) 21:35:36 ID:epWyYui10
グルマルキン大佐ってまさか翡翠峡奇譚か?
だとしたらまたなんというマニアックなところを……
楽しみにしております

388 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/05(水) 22:37:02 ID:D5QG/+EB0
 単純な力比べに、武という概念が棲みついたのはいつだったか。弱者は絶対的強者に立
ち向かうため、数千年の永きに渡り試行錯誤と創意工夫を凝らしてきた。一枚一枚積み重
ねられた技術は近代兵器にも屈することなく、今なお貪欲に進化を続けている。
 武の歴史を担う立場にある武神があらゆる技を扱えるのは当然だった。『音速拳』『菩
薩の拳』『消力』と立て続けに絶技を披露し、引き出しには未だ無限の手札が残っている。
「続きだ」
 歩を進める武神。隙がまるで無い。ただ歩いているわけではなく、歩きながら、攻守を
行っている。まったくぶれていない正中線。まともに向かっては、むざむざ罠に飛び込む
ようなものだ。
「感謝するぜ」シュッと息を吸うと、加藤は両拳を構えた。「わざわざ的を晒してくれて
なァッ!」
 絶対にぶれない正中線は、この奥義にとっては格好の的に過ぎない。
 ──正中線四連突。
 急所が集まる体の芯に、鍛え抜いた拳が四度に渡って着弾する。
 ぐらつく武神の片足にすかさずローキックをヒット。良い当たり。さらに顎をめがけて
左拳でのアッパーカット。これは、またものれんを殴るような手応え。脱力により威力を
殺された。
「昨日、末堂厚を沈めた技か。やはり油断ならんな」
「チッ」
 チャンスを逃した悔しさから舌打ちが漏れる。消力を破らぬ限り、決定打を与えるのは
難しい。
 間合いはまだ生きている。
 反撃として放たれた武神の突きに、加藤は呆気に取られる。シャボン玉のような速度。
これなら小学生だってかわせる。ふざけているのかと怒鳴りつけたくなってしまう。
 受けるか、かわすか。あえて喰らってみるか。即座に浮かんだ三択を、加藤は丸ごと打
ち消す。自分は空手家、剛の使者、ならば拳には拳で迎え撃つ。
「セェイィィィッ!」

389 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/05(水) 22:37:30 ID:D5QG/+EB0
 左拳対左拳。火花が散る。武神のゆるい拳を打ち砕かんとした加藤の中段突きはという
と、完全に競り負けた。
「オォッ──?!」
 衝撃は拳から手首、手首から肘、肘から肩まで伝わり、左腕を根こそぎもぎ取られても
おかしくないダメージを味わった。
 加藤は歯を食いしばり、悲鳴が脱獄するのを抑える。左手はすでに廃棄物と化した。骨
には小さなヒビが入り、剥がれかけた爪の間から血が滴る。
「攻めの消力。脱力から生み出される極限の弛緩(リラックス)は、ぶ厚い岩盤をも軽々
と破壊する」
「丁寧なご解説……ありがとうよッ!」
 右肘打ち、左ロー、右アッパー、左ミドル、跳び上がってドロップキック。連続ヒット
するが、ヒットはしてもダメージはない。消力に打撃は一切通じない。
「くっ……そがァッ!」
 空振りはスタミナ消費が激しい。今回のケースでは当たっているにもかかわらず効いて
いないのだから、さらに性質(タチ)が悪い。
「こちらから行くぞ」
 武神が棒立ちの状態で、足首から先を使って跳び上がる。ノーモーションジャンプ。
 高い。二メートル、いや三メートル近く跳んでいる。
「空手にだってなぁ──」身軽な加藤にとって、空中戦は望むところ。が、武神は空から
地上に空気弾を打ち出した。「うっ!」
 空気の塊が加藤の視界を奪う。
 空中から顎をしたたかに蹴り上げられ、空中で一回転、さらに地上に落ちてから三回転
してようやく体は止まった。
 跳ね起き、一本拳で人中を狙うが、廻し受けで防がれる。
 受けに使われた武神の左右の手が菩薩の拳に化け──連打開始。
 胸と腹を殺気を宿さぬ拳に幾度も抉られ、加藤の目から生気が失われていく。
「せめてもの慈悲だ、尊敬する師の技で終止符を打ってやろう」

390 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/05(水) 22:38:08 ID:D5QG/+EB0
 愚地独歩が武に全てを捧げて五十五年、ようやく会得した本当の正拳突き。神に挑みし
武士(もののふ)を無に帰するべく、手加減なしで顔面に迫る。
「ウオオォアッ!」
 力を振り絞り、拳を額で受け止める加藤。さすがに武神の強固な拳を壊すには至らない
が、死ぬことは避けられた。
「ぜぇ……ぜぇ、尊敬する師の技、だァ? ……ゴホッ」
「師の技で死ぬことはできない、か?」
「バ、カいえ。てめぇの、技なんざ……館長の足もとにも……及ばねぇッ!」
 起死回生の一手に選んだのは右手刀。水平になぎ払おうとする。
「無駄だ」
 余裕の武神。手刀など消力には通じない。が、手刀は寸止めされた。
 右手刀は嘘。加藤は武神の目前で、右手と傷ついた左手を勢いよく叩いた。
 猫だまし。
 効果はあった。驚いたのか、あるいは呆れたのか、武神の心身が刹那より短い時間、硬
直する。
 ──今しかない。
「雄雄雄雄雄ォアアァッッッ!」
 左での攻撃はない、と自分も敵も思っている。だからこそ使用(つか)う。
 武神の気に喰わない面に、断末魔をフック気味に叩き込む。

 左拳、爆発。

 武神の貌(かお)をひしゃげさせた正拳突きは、華麗なまでに打ち抜かれた。
 親指、人差し指、中指、薬指、小指、全部がイカれた。手の甲も骨が真っ二つに砕けた。
メチャクチャになった自らの左手。加藤は思わず口ずさんでいた。
「……ありがとう」
 対して武神は白目を剥き、足首と膝を折りながら受け身も取れずにダウンした。

391 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/05(水) 22:39:41 ID:D5QG/+EB0
 左手との決別を終えた加藤は、大きく跳び上がった。全体重を上乗せした右踵が、武神
の顔面にまともに入った。ぐしゃりと、喧嘩の類に関わったことのない者でもダメージの
深刻さが分かる音が轟いた。
 あとはもう作業である。二度と復活しないように踏みつける。両目、鼻、頬骨、唇、顎
と、顔面を構成しているパーツを満遍なく足蹴にする。一撃が入るたび、武神の首から下
が痙攣を起こす。
 常人ならばとっくにお陀仏のはず。格闘士でも怪しい。しかし神ともなると予想がつか
ない。そもそも神に死はあるのか。
 加藤の不気味な予感は的中していた。
 五ダースほどの踏みつけの後、武神は掌に落ちた雪のように無音で立ち上がった。 
 血まみれだが、身のこなしは健在だ。
「な……ッ!」
 目は派手に青紫に腫れ、鼻はカーブを描いてへし折れ、唇は皮がめくれ赤いつやっとし
た肉が露出している。首から下が無傷なだけに、いっそう惨たらしさが強調されている。
自分が原因とはいえ、加藤は戦慄を覚えた。
「一つ質問をしよう」
「あ、え……?」
「人間が神に、本当に敵うと思うかね?」
「ンだと?」
「口で答える必要は無い。答えは君の肉体が示してくれるだろう」

 攻めの消力で人中を、音速拳でノド仏を、剛体術で鳩尾を、菩薩の拳で金的を──。
 ──神技『正中線四色四連突』命中。
 ほんの一瞬だった。
「どうやら答えは出たようだな」
 血の泡を吐き、崩れ落ちる加藤。その様子を見やり、武神は静かに勝利の余韻に浸った。

392 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/05(水) 22:40:40 ID:D5QG/+EB0
次回へ続きます。

393 :作者の都合により名無しです:2008/03/06(木) 08:44:05 ID:rt65y3PN0
ラストバトル?だけあってボリュームたっぷりですな。
神殺しになる加藤に期待しております。

394 :作者の都合により名無しです:2008/03/06(木) 15:45:35 ID:o5BYvUgf0
武神戦が本当にラストバトルかな?
31日目で終わりのような気がするけど。
確かに武神は今までのキャラとはケタ違いに強いけどね。
でも最終戦は独歩かかつみんにしてほしい気もする。


395 :作者の都合により名無しです:2008/03/06(木) 19:58:10 ID:dztyF+480
井上さんどうなった?

396 :作者の都合により名無しです:2008/03/07(金) 12:23:50 ID:fVjTjj+O0
消力と菩薩拳はまだしも、
音速拳につづく剛体術…真逆の動作を瞬時に行えるとは流石チート。
加藤がどうやって勝つのか楽しみです。

>>395
読み直せw

397 :ふら〜り:2008/03/07(金) 23:32:36 ID:04KlHatE0
ちょっと将来を危ぶんだら、即座に助っ人が到着して盛り返す。名将を多数抱える
我が軍の頼もしさ、実感しております。

>>ハシさん(お帰りなさいませっ! 特ヲタとしては「なるほど、プレシャスの保護か」とか)
のっけから、ハシさんらしいバトルしてますねぇ。グロいはずのスプラッタな場面が、超人的
な戦いぶりの華麗さや冷たさと引き立てあって綺麗に映える。そんなハシさんの「ほのぼの」
も見てみたいので、宜しければ御投下を。作品の旬とか言われたら私なんざぁ……ですぜ。

>>サナダムシさん
誇張ではなく本当に溜息がでました。前回も言いましたが本当に、(実在してるものとは別の)
格闘ゲーム「刃牙」のラスボスって感じです。独歩+それ以外の者たちの最終奥義を易々とまぁ。
攻撃も防御も奥義尽くしのこのバケモノ、これで勝てたら少なくとも刃牙クラスだぞ、加藤!

>>私信失礼
仕事の都合で転居することになりました。私にしては少々長めの無沙汰となりそうですが……
絶対に帰ってきます! まだ錬金を描いてませんし、『刻』で挑戦したい時代も残ってますし。
必ずや必ずやっっ。


398 :作者の都合により名無しです:2008/03/08(土) 00:50:55 ID:X46L6BBD0
この転居があの職人との思いがけない出会いをもたらし
ひいてはそれが人生をも大きく変えることになろうとは
この時のふの字には知る由もなかった。

399 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/08(土) 07:06:41 ID:Cr8+Zv/i0
>>264-269の続きです

己が倒すべき者、己を倒すべき者、そんな互いの名を確かめ合うように呟き、向かい合う二人。
この瞬間に二人の闘いは始まり、もう次の瞬間には終結を迎えるだろう。
しかも、最早大勢は決している。
再生能力が衰えているとはいえ、気力、闘志共に頂点に達したアンデルセン。
失血死ギリギリの出血量に加え、銃剣や爆薬によるダメージが著しい防人。
いや、防人に関しては“ダメージ”という言葉も生易しい。
その身体は死に瀕している、まさに“瀕死”の状態だ。
あとはその銃剣が、首を斬り落とすのか、心臓を突くのか。
“どう殺されるか”とでも言うべきか。

暗転を始めた視界。寒気の止まらぬ肌。
四肢は萎え、全身全霊の力を込めても、立位を保持して構えを取るのがやっとの身体。
今の防人にあるのは、ただ“闘う”という意志だけである。
“どうやって闘う”
“どうやったら勝てる”
“このままでは負ける”
“死ぬ”
これらの意識は、すべて思考の外だ。

そして、防人以上に防人の今の状態、更にはこの闘争の結末を知る者が一人。
その者こそが、今この時、防人と向かい合うアレクサンド・アンデルセン神父だ。
始まり、終わる。
遂に現れた“錬金の戦士”。己が倒すべき“宿敵”。
始まり、終わる。
アンデルセンは満足していた。
生涯の敵を得て、この手で彼の者を打ち倒す。
“闘い”そのものが重要なのではない。“闘い、打ち倒す”という一事が重要なのだ。
だからこそ、“始まり、終わる”その時間がただの一瞬でも、一生分の満足を得る事が出来る。
大河を挟んだ恋人達が一年の長い時を待ち、たった一日という刹那の逢瀬を楽しむように。

400 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/08(土) 07:07:47 ID:Cr8+Zv/i0
「終わりだ……」
まさに人生最高の瞬間に口の端を吊り上げたアンデルセンは、右手に握る銃剣を高々と振り上げた。
どうやら、“袈裟懸けに一刀両断”が防人の向かえる“死”らしい。
防人は動けない。
「闘う……闘って、やるぞ……アンデル……セン……」
うわ言のように呟きながらも、弱々しく両手を前に出した構えから動こうとしない。
意識は半ば黄泉路へ踏み入れられているのだ。

「死ねィ!!」

光芒煌めく銃剣が一気に振り下ろされた――

「!?」

――その瞬間、入口の大扉、だけではなく壁全体が突き崩される激しい破壊音が轟いた。
間を置かず眼の端に入ってきたものは“巨大”な“金属質”の“拳”。
拳はアンデルセン目掛けてまっしぐらに襲いかかり、彼の全身を痛烈に“殴打”した。
「ヌグウゥオオオオオッ!」
まるで大型トレーラーに追突されたかのような凄まじい衝撃に、アンデルセンの身体はロビーの
端まで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
そして、己のすぐ目の前で発せられた風圧のせいか。それとも体力の限界が訪れたのか。
胸に深く長い斬撃の跡を刻みつけられた防人は、その場に倒れこんだ。
本来ならその身を真っ二つに断ち割られるところを、大胸筋と鎖骨、それに数本の肋骨を
斬り裂かれた“だけ”なのだから、軽傷で済んだと言っても言い過ぎではあるまい。
もっとも、我々一般人にとっては十二分に言い過ぎだが。

倒れた防人の眼に見慣れた人物の姿が映る。耳には聞き慣れた声も。
それは、防人が敬愛してやまない、あの人物。
「どうやら間に合ったようですね」
「さ、坂口、戦士長……? 何故、ここに……?」

401 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/08(土) 07:09:26 ID:Cr8+Zv/i0
錬金戦団日本本部所属、戦士長・坂口照星。
破壊された入口から射し込む朝陽が逆光となり、霞む眼も相まってなかなか容貌の区別が
付き辛かったが、確かに坂口照星その人だ。
照星は倒れ伏す防人に歩み寄り、そっと腕を回して身体を支えた。
「私が千歳に託しておいたのです。『もし、三人の命が危機に瀕する事があれば私を呼びなさい』と。
ヘルメスドライブの特性“瞬間移動”を使ってね」
ニコリと穏やかな笑顔の照星。防人はその後ろに立つ人影に眼を遣る。
「火渡……千歳……」
「……」
「防人君……。よかった、生きてた……」
上階にいた筈の二人だ。千歳は尚も不機嫌な表情の火渡に背負われて、涙で顔中を濡らしながらも
微笑んでいる。
そして、もう一人。その横に立つ人物。
イギリスへ向かう機内で三人の話題に上り、火渡が「オカマ野郎」と揶揄していた人物。
照星は“彼”を紹介するように優しげな視線を向ける。
「ただし、ヘルメスドライブによる瞬間移動の重量制限は100kgまでです。そこで新たに
錬金の戦士として認められた彼、円山円君の武装錬金“バブルケイジ”で、私と円山君を
小さくして運んでもらった訳ですよ」
戦士・円山円。操るは風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金“バブルケイジ”。
後年、その“風船爆弾に触れた者の身長を一発につき15cm縮める”という特性を駆使し、
錬金戦団に追われる身となった武藤カズキや津村斗貴子達を大いに苦しめる事となるのだが、
それは別な話である。
現在ここに立つ、この長身かつ眉目秀麗な美少年は緊張に身体を硬くしている。
それも無理は無い。
戦士になりたての自分が、戦士長である照星と共にこのような重大な任務に参加する事になるとは、
夢にも思っていなかったのだろうから。

すべては、この任務がまだ自分の元にある時から、照星が入念に計画していた事だった。
万が一、防人達がヴァチカンと、第13課(イスカリオテ)と、アンデルセン神父と交戦状態になったとしたら。
千歳のヘルメスドライブの特性、新たに戦士となった円山、そして己の持つ武装錬金。
これらを熟慮し、最高のタイミングで最強の援軍として、防人ら三人を助けてやれるように。
もちろんベストなのはアンデルセンとの接触、交戦を避ける事だったのだが。

402 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/08(土) 07:11:26 ID:Cr8+Zv/i0
 
ふと照星の表情が堅くなった。
強烈な殺意を含む気が自分に向けられているのは、そちらを見ずとも充分に感じ取れる。
防人の身を円山に任せると、照星は立ち上がり、殺気の発生源の方へ振り向いた。
叩きつけられた衝撃で崩壊した壁を背に、アンデルセンが仁王立ちとなっている。
どうやら戦闘力を削ぎ落とす程の大きなダメージを与えるには至っていないようだ。
「さあ、アレクサンド・アンデルセン神父――」
激怒に眼を見開き、憎悪に歯を剥くアンデルセンに対し、照星は気負う事無くサラリと言ってのける。
「――今度は私がお相手しましょう」
そんな自信に満ちているかのように見える態度も、彼の武装錬金を知れば至極当然と頷ける
かもしれない。
照星が操るは全身甲冑(フルプレートアーマー)の武装錬金“バスターバロン”。
身長57m、体重550tというサイズは巨大戦闘ロボットと言ってもいい。
加えてその特性は“両肩のサブ・コクピットに載せた錬金の戦士の武装錬金の特性を、
同時に五種類まで増幅して使用できる”といった桁外れのものである。
そして、この場にいる錬金の戦士は、防人、火渡、千歳、円山の四人。
要するに「瞬間移動を使い、あらゆる攻撃を弾き返し、相手の身長を縮める風船爆弾と
五千百度の炎で攻撃する、巨大戦闘ロボット」を使ってアンデルセンと戦う、という事だ。

しかし――
その実、照星に“アンデルセンを倒す自信”などというものは毛頭無い。
日本、いや亜細亜最強と呼んでもいい己のバスターバロンを以ってしても、この伝説とも言える
“ヴァチカンの聖堂騎士”“第13課(イスカリオテ)の殺し屋”を倒せるとは、照星には思えないのだ。
錬金の戦士達が抱くアンデルセンへの負の感情は最早、“恐怖”“畏怖”を通り越して“信仰”に
近いものかもしれない。
“アンデルセン神父と刃を交えれば殺される”という。
だが同時に、照星には“何があろうとも部下の命を守る”という信念もある。
しかも、その部下は今の今まで当のアンデルセンと真正面から堂々と闘っていたのだ。

アンデルセンはひどく軽蔑含んだ視線で、照星とその他の戦士達を睨めつけている。

403 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/03/08(土) 07:15:42 ID:Cr8+Zv/i0
「先生とお友達が助太刀か? まるで幼稚園だな……」
「幼稚園で結構。何を言われようと可愛い部下達を死なせるよりは遥かにマシですからね。それに、今ここに立っているのがあなたでなければ、私が来る事も無かったでしょう」
ギリギリという音が照星まで聞こえてくるようだ。宿敵との闘争を邪魔立てされ、怒りに燃える
アンデルセンの歯軋りの音である。
その怒りはいつになく激しい。異教異端に向けるものと同じか、あるいはそれ以上。

「いいだろう……。貴様らまとめて皆殺しにしてくれる!!」






ども、さいです。
長く間が空いてしまい、申し訳ありません。
今回で終わる筈が続いちゃって、重ねて申し訳ありません。
次回こそ本編完結です。
では、御然らば。

404 :作者の都合により名無しです:2008/03/08(土) 10:02:15 ID:NCXplblf0
>>336>>395
SM地獄に居るはずだろう井上。
ハト拷問中の人間灰皿で、叫び声も枯れる超絶苦悶。
全身の感覚が無くなる。そして昏睡。肩関節が外れかける頃に、漸く下ろされる。
百匁ローソクの火を500cmの距離から片足の位置が10cm刻みで近づいて、正拳突きで消すという試練。
もし火が消えなかったら乳房を押し当てて消させる。
これが10本並んでいたら・・・始める前から恐怖と絶望で失禁して気絶。でも、市販のミツカン酢を満たした盥に顔漬け。
左右の乳房に5回ずつ炎熱。正拳突き5千回。

405 :作者の都合により名無しです:2008/03/08(土) 22:30:47 ID:hPfMHF1c0
いよいよWHENも決着かぁ。
嬉しいような寂しいような。
アンデルセンは最後までアンデルセンを貫いたな。


あとふら〜りさん今まで有難う御座いました。さようなら。

406 :作者の都合により名無しです:2008/03/08(土) 23:20:24 ID:JicTwRl60
アンデルセンの方が正しいな
錬金部隊はどうも友情パワーに頼りすぎの気がする
群れている防人たちより
孤高のままのアンデルセンの方が魅力を感じる
次回最終回ですか。エピローグが一回あるのかな?
最後まで頑張って下さい

407 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/09(日) 00:16:44 ID:nyKpk6Qv0
 神の手によって、一人の武術家の人生に幕が打たれた。自らが認めた男を、武神は他な
らぬ自らの技によって葬った。
 本来は武を汚した罪で処刑される身であった男は、一ヶ月に及ぶ試練をくぐり抜け、神
と並んだ。しかし、残念ながら神を超えるには至らなかった。
 亡骸を背にする武神。
「残念だ。君は私の予想を超えることはできなかったようだ」
 背後には右手だけで不器用に立ち上がろうとする加藤の姿があった。
「今日まで生き抜いた意地もあろう。勝って帰って会いたい者もいよう。君が立ち上がる
ことは、私には分かりきっていた」
「……そうかよ」
「ついでにもう一つ教えておこう。もう一度、我が“正中線四色四連突”を受ければ、さ
しもの君とて死ぬ」
 そりゃあそうだ、と加藤は内心で苦笑する。
 武神が歩を進める。間合いが縮まるたび、加藤の寿命も縮む。無情にも、程なくして両
者の射程が触れ合った。
 ──正中線四色四連突。
 技が触れるより、いや技が発動されるより速く、加藤は両足を地から離していた。跳び
足刀が武神の首に突き刺さる。すばやく着地すると、同じく足刀を今度は武神の右の足甲
に叩きつける。足に杭を打たれたようなものだ。
「ぬっ」
「これで脱力もクソもねぇ」
 眉間、人中、顎と一本拳をテンポよく当て、杭にしていた足にてハイキック。どれもが
野球でいえばホームラン級のジャストミート。
 武神、たまらず二度目のダウン。
 すかさず跳ね起きた武神の両手には、菩薩が宿っていた。

408 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/09(日) 00:17:18 ID:nyKpk6Qv0
「終わらせる」
 武が弱者の為に存在するのならば、殺気を宿さぬ両拳はまさしく武の象徴。武神の目が
心なしか吊り上がる。
 菩薩の拳による猛ラッシュ。
 一切の念を含まぬ無垢な打撃には、いかなる達人も地を舐めるしかない。
「なんだと」
 愕然とする武神。次々に迫る菩薩を、達人ではない加藤が右手一本だけで紙一重ながら
捌いている。読まれている。
「ケッ、どうしたよ武神さんよ、当たらねぇなぁ」
「なぜだ」
「確かにいいよな、こいつはよ」
 菩薩の拳を右手で真似る加藤。むろん見た目だけで、殺気を隠匿する能力など備わって
いない。
「でも菩薩ってのもよぉ、万能じゃねぇんだよ」
 神が人間に諭される。立場が逆転している。
「いくら殺気がないっつっても、あれだけ打たれりゃイヤでもリズムが分かってくる。ト
ーナメントの時も、館長はとっておきの場面までそいつを温存しておいた。なぜだか分か
るかい」
 加藤は怒っていた。ある男が生涯を賭して見出した空手の完成形が、このような使われ
方をしたことに。
「てめぇ如きがバカみてぇに大安売りしていい技じゃねェんだよォッ!」
 本当ではない正拳。いつもの拳が武神にクリーンヒット。薄いダメージながら後退する
武神に、加藤は言い放つ。
「ついでにもう一つ教えてやる。というか指摘してやるよ」
「人間が私に指摘、だと?」
「おうよ。正中線四連突なんつぅ軌道がバレバレの技をわざわざ予告して打ったり、乱発
すると効果が薄くなる菩薩の拳でラッシュしたり、どうも引っかかってた。てめぇ──。
 ほとんど実戦経験がないだろ」

 ──図星だった。

409 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/09(日) 00:19:01 ID:nyKpk6Qv0
 武を従え数千年を生き、美しくも強固な肉体を誇り、あらゆる理合に精通する武神。こ
れだけの条件が揃っていれば、もし千人いれば千人が、こう思い込むことだろう。武神は
百戦錬磨である、と。
 しかし、武神の本懐はあくまでも人間社会に武という秩序ある力をもたらすことにある。
まれに優秀な武術家に技を与えるようなお遊びに興じることもあるが、自らが前線に出向
くことなどまずない。武の神であるにもかかわらず、武力を用いた闘争の実体験はそこら
のチンピラにも劣るという矛盾。
 初めて欠点らしい欠点を看破された武神。
 してやったり、と加藤が笑う。
 しかし、武神は意外にも素朴な反応を示した。
「みごとだ」
「みごと?」
「よくぞ見抜いた。君にならば、あるいは全てを話してもいいかもしれん」
「ちょっ……待てよ。全て……? え?」
「だが、それも君が私を超えられればのハナシだ」
 一瞬だけ和らいだ空気が、即座に引き締まる。
「再開だ」
 大きく足を開き、左手で前方をカバーし、右拳を腰に据える。武神は音速拳の構え。真
っ向勝負では、破る方法は無いに等しい。
「そういや烈のヤロウは……」
 地下闘技場最大トーナメント準々決勝第二試合、烈海王対愚地克巳。互角の名勝負にな
ると思われた試合は、わずか一撃で決着した。克巳は烈の空気弾を目に受け、懐に侵入を
許した挙げ句、音速拳にカウンターをもらい撃沈した。中国武術の凄まじさをまざまざと
魅せつけた一戦といえた。
 音速拳の間合い外から安全に攻撃する術を、加藤は持たない。しかし、この難解なパズ
ルを解かねば、武神は倒せない。ヒントは己の五体のみ。
「行くぜ」

410 :やさぐれ獅子 〜三十日目〜:2008/03/09(日) 00:20:09 ID:nyKpk6Qv0
 さっきは正中線を守り被弾を覚悟で近づくという、ベストではないがベターな策に打っ
て出た加藤だったが、今度はろくに構えもせずに突っ込んだ。これではベターどころかワ
ーストだ。
「ほう」
 その様子を興味深げに眺めながら、武神はいつでも発射できるよう息を整える。
 加藤は武神という国家の国境へと、急所をがら空きにして踏み込んだ。当然、迎撃ミサ
イルとして音速拳が発射される。
 ところが。
 放たれた突きは音速ではなかった。何の工夫もない単なる中段突き。音速だったならば
脅威であったろうが、こんなものが空手三段の加藤に通じるはずもない。あっさりと捌か
れる。
 ──私が、失敗(ミス)だと?
 ショックを受ける武神の顎を、膝が打ち上げる。加藤は死んだばかりの左手で武神の両
目を軽く叩くと、背を向けて凶悪なまでの後ろ蹴りを鳩尾に叩き込む。
「ゲェッ!」
 武神の口から液体が吐き出される。神にも胃液があるのか、それとも別の何かか。そん
な疑問を持つことなく加藤は攻め立てる。
 実は、武神は音速拳を失敗したわけではなかった。
 音速拳の構えに立ち向かう際、加藤がもっとも注力したのが間合いの見極めだった。
 相手の拳は届かないが、こちらの足技は届くというギリギリの間合いで、加藤はほんの
軽く、武神の膝に触れるような蹴りを当てていた。直後、武神が音速拳を発射するが、膝
関節で加速の拍子がずれ──
 ──結果、武神の突きは音を越えなかった。
 左ローから豪快な胴廻し回転蹴りが、武神に連続ヒット。
「ぐはぁっ!」
 消力が機能していない。疑念と困惑が脱力に影響を及ぼしている。
 だがさすがは武神、固く握られた拳から小指を捕る。しかし、加藤は指を掴まれたまま、
強引に殴りつける。
 人間代表、加藤清澄の挑戦はクライマックスを迎えようとしていた。

411 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/03/09(日) 00:27:29 ID:nyKpk6Qv0
烈さんは片足がなくなりましたが、是非再起して下さい。
ちなみに井上さんは元の世界に帰りました。

>>ふら〜り氏
いつも感想ありがとうございます。
ご帰還お待ちしております。

412 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:00:53 ID:QS8xHgTP0
時代に真っ向から逆行したような服装だった。悪名高い漆黒の軍装。グルマルキンと名乗った女性は、武装親衛隊の勤務服に外套を羽織
り、淡い金髪に軍帽をかぶっていた。他の二名もまた同様に、髑髏の結社の装いだ。
 ティーン――同じく武装親衛隊の勤務服に、軍帽を目深に被り、腰に日本刀を佩いている。
 巨躯――同じく武装親衛隊の勤務服に、無骨な鉄兜を被り、無機質な双眸が不気味に光る仮面をつけている。 

 優は銃口を向けていた。――腕章に刻まれたハーケンクロイツ。遺産を狙うのは、生者だけではない。過去からの亡霊もまた、その怨念を
晴らさんがために、力を求める。WWUの敗残兵。鉤十字の亡者達。
「ネオナチ、か」
「馬鹿なことを口にするな。我々はあんな半端ものではない。あの三千世界を焼く嵐を経験したことのない者たちなど、仲間といえるか。
日々を悪戯に過ごし力を磨耗していった馬鹿どもではなく、我々は絶えず研鑽を続けてきた。故に我々は正当なる第三帝国軍人であり、ゲル
マンの騎士だ」

 陶酔を若干滲ませながら、グルマルキンと名乗った女性はしゃべる。その言葉を信じるなら、彼女は戦中から従軍していたことになる。そ
の顔にはいささかの皺もなく、半世紀の老いが刻まれた様子はない。不老不死――魔術を極めたものが辿り着く極地。
 ――ただの人間ではない。彼女を中心に巻き起こる瘴気が、周囲の空間を侵し始めていた。魔女という存在は、そこにいるだけで周囲を異
界へと変える。ちりちりと緊張が優の首筋を焼いた。

「そこをどいてもらおうか、スプリガン。聖槍は我ら帝国の所有物だ。総統閣下の所有物だ。正当な持ち主の下に返すのが礼儀というもので
ないかね?」グルマルキンが口をひらく。
「へっ、何が正当な持ち主だよ。あんたらの手に渡ったら、第三次世界大戦が起こりかねないぜ」
「そうか。あくまで我らの邪魔をするというのだな。……ならば」
 優の言葉を予想していたように嗤い――グルマルキンは部下に命令を発した。

「ドライ、そいつを潰せ!」

 熊のような巨躯がぶぅんと電子音のような唸りを上げ、優に突進した。自身の巨大な質量を頼みにした単純な攻撃だが、それゆえ破るのは
難しい。優は惨殺された死体の様を思い出していた。力任せに引きちぎられた肉体――その想像を絶する力は、容易く優の体を木っ端微塵に
四散させるだろう。眼前に迫りくる巨大な弾丸の如き敵を前に、優はどうしたか。

413 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:01:54 ID:QS8xHgTP0
 ただにやりと笑い――まともにその突撃を受けた。なんと正面からドライを圧し留めているのである。鍛えているとはいえその肉体は人間
の域を出ていない優だ。人間を紙細工のように潰すドライにまともに抵抗できるはずがない。ならば何故、突撃を受け止めることができたの
か。その種は、優が着込んでいるスーツである。
 不自然なことが起こっていた。ドライの巨躯を受け止めている優の筋肉が、目に見えて増えているのである。腕は丸太ほどに膨れ上がり、
胸もまた鎧のようにあつい筋肉がついていた。
 AMスーツ。それは人口筋肉によって使用者の身体を格段に強化し、人外の膂力を約束する特殊スーツである。だがAMスーツの恩恵を預
かってもドライの怪力は恐るべきものだった。徐々にだが優を押しつつある。純粋な力くらべなら、ドライに分があるようだ。だが力だけで
勝敗が決するわけではない。優がスプリガンである所以はAMスーツだけではない。
 
 優は隙を突き、その尋常ならざる膂力でドライの足を払い、すかさずその腕を取った。大の大人が子供に背負い投げられるような形となる。
「どおりゃぁぁぁぁぁああああ!!!」
 姿勢を崩されたドライは、その力の流れを優にコントロールされ、自慢の怪力を生かせぬまま頭から地面に激突した。顔を地面にめり込ま
せ、伏したまま動く気配はない。優はぱんぱんと手を払った。にやっと笑いながら優はグルマルキンに向き直った。
「たいそうな口を利くが、スプリガンを相手にするにはまだまだだったようだな。もう半世紀ぐらい準備が足りなかったんじゃないのか?」
「減らず口を……。ふん、だがあのドライを屈服させたことは褒めてやろう。なるほど力任せでは歯が立たぬようだな。だが我々の目的は貴
様らの抹殺ではない。聖槍――それさえ手に入れれば十分なのだ。貴様らにかまっている暇はないのだ」
「へ、じゃあ、嫌でもかまってもらうぜ!」
 ナイフを手に、優は疾走した。AMスーツの加護を受け、人間の目には捉えきれないほどの速度だ。魔女といえども魔術を行使する前は普
通の人間と変わらない。その弱点を補うために数々の術式や策を準備するのだが、不意をつかれればあっけなく死ぬ。優の狙いは詠唱が行わ
れる前にその命を絶つことにあった。
 そしてオリハルコン製ナイフの切っ先が魔女の頚動脈をとらえ――
「な!」
 横合いからの一刀に、阻まれた。

 魔女の命を絶つはずだったナイフは、美しい刃紋を持つ日本刀にさえぎられ、首筋に届くか届かないかぎりぎりのところでじっと動けずに
いた。すぐ横を見れば――いつの間に移動したのか、魔女のすぐ傍に抜刀した武装SSが控えていた。

「そうそう簡単に殺されはせんよ」魔女の嘲り。
「……!」


414 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:03:10 ID:QS8xHgTP0
 すぐ傍まで死の刃が迫っているのに、魔女はまったく動揺していなかった。魔女に限らず魔術師は、非力な自分を補助するために使い魔や
人形などのガーディアンを使役する。この場合、この武装SSがグルマルキンにとってのガーディアンなのだろう。スプリガンに拮抗しうる
ほどの力量を持つなら、魔女の絶対の信頼もうなずける。
  
「……くく、よくやったアイン。さて、状況は我らの方に傾いてきたようだな」
 そういって、懐から取り出したルガーを優のこめかみに押し付けた。スプリガン相手でもこの近距離なら外しようがない。加えて、このア
インと呼ばれた武装SSの存在。少しでも抵抗のそぶりを見せれば即座に優の首が飛ぶ。
 状況は圧倒的に優に不利だった。だがグルマルキンはルガーをさげ、サーベルを鞘に収めた。
  
「残念だが、貴様の始末よりも聖槍を手に入れるのが先だ。アイン、こいつはお前が足止めをしろ。久しぶりの獲物だ、じっくり味わえ」

 アインは、無表情にこくりとうなずいた。それと同時に沈黙していたはずのドライが起き上がった。先ほどの背負い投げのダメージはまっ
たく残っていないようだった。ぶぅんと機械音のような唸りを上げ、ロンギヌスが眠る地下への入り口へ向かうグルマルキンに付き従った。

「待ちやがれ!」

 グルマルキンを追うのをさえぎるように、アインが優の前に立った。緩やかに構えているようで、その実まったく隙を見せない立ち振る舞
い。死人を思わせる白い肌。薄く閉じられた唇。そして、腰に佩いた日本刀。ゆっくりと腰を落とし、柄に手をかける。居合いの構え。
 その途端、無風であるはずの両者の間に突然ざわっと風が吹いた。じわりと優の首筋に嫌な汗が滲む。鋭く研ぎ澄まされた純粋な殺意が目
の前の武装SSから放射され、優の心臓を貫いていた。少しでも隙を見せれば、殺される。優を戦慄させるには十分な濃度の殺意だった。ナ
イフを逆手に変えながら、頭の片隅で優は思った。――ティアの助けにはいけそうにない、と。


 存外長い距離を歩いた先、石畳の広い空間の中心に、ロンギヌスは安置されていた。聖槍の周囲に人影はない。あまりの警備のずさんさに
グルマルキンは拍子抜けしていた。だがこれで作戦も楽に遂げることができる。さっそく彼女はロンギヌスに手を伸ばそうとして――
「む!」
 右手に奔った鋭い痛みに、拒絶された。とっさに手を離す。見れば、右手の手袋が焼け焦げていた。
「結界か」
 忌々しげに不可視の障壁を睨む。ロンギヌスは絶大な奇跡を呼ぶ聖遺物だ。守護のための結界が一つや二つ張られていても不思議ではな
い。だがあと少しで目的のものを手に入れられる時に、無粋な邪魔をされたのが、魔女にとってとても不愉快だった。


415 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:03:55 ID:QS8xHgTP0
 サーベルを抜き放ち、無造作に切りつける。同時に刀身に刻まれた"解呪"のルーンが発動し、ロンギヌスを守っていた術式をキャンセルし
た。だが結界を破っても、まだグルマルキンの警戒は解かれなかった。魔力が織り込まれた手袋が焼け焦げたということは、よほどの術者が
はった結界に違いなかった。そしてその独特な術式には見覚えがあった。その記憶はグルマルキンの深い恥辱の傷を抉るものだった。忌まわ
しい宿敵がここにいる!

「あら、誰かと思えばミス・グルマルキン。お久しぶりね」 
「貴様……ティア・フラットか!」

 グルマルキンの灼熱の如き怒りを、氷の微笑が受け流した。ティア・フラット。彼女は万が一の事態のために、ロンギヌスの間近に控えて
いたのだ。そしてその懸念は的中した。ティアは外の状況を使い魔を介して把握している。
 グルマルキンの怒りに燃えた視線を、ティアは真っ向から受け止めた。両者の間には、何か宿命めいた因縁が存在しているかのようだっ
た。激情に駆られた鉤十字の魔女は止らない。あふれ出る憎悪を隠そうともせず、氷の魔女に牙を剥いた。
「このときを待ち望んだ……! 私に敗北を刻み付けたお前を、この手で縊り殺す瞬間を何度も夢見てきたのだ。今日ここで、貴様との因縁
も仕舞いにしてやる!」

 詠唱が魔女の口から流れ、サーベルが燐光を放ち始めると、その刀身からルーンの刻印が浮き上がった。大気中のオドを吸収し、グルマル
キンを中心にして力場を作り上げる。そして限界まで膨れ上がった魔力が、一気に爆発した。そして爆発とともに魔力は収束し指向性のある
現象へと変わる。槍の形に鍛え上げられた魔力の塊がグルマルキンの周囲に浮かんでいた。その一つ一つにはかするだけで肉体が爆ぜるほど
の力が秘められている。そしてグルマルキンの合図とともに、幾重にも張り巡らされた魔術の弾幕が、ティアに襲い掛かった。 

 魔術の槍が石畳の床に何本も突き刺さる。その様子はさながら突然いくつもの墓標が出現したようだ。精密な狙いなどない、大雑把な射
撃。だが数が数だったので、その槍の暴雨は逃げ遅れたティアを串刺しにしていた。途端に、槍が一斉に魔力を解き放ち、大爆発を起こし
た。荒れ狂う破壊の渦。爆音が狭い室内に響き渡り、粉塵がグルマルキンの視界を奪った。
 だがグルマルキンはティアを仕留めたとは思っていなかった。長き因縁を持つあの魔女が、こんなことで死ぬはずがない。そしてその予測
は当たっていた。

 舞い上がる塵の合間から、百獣の王と猛禽のない混ぜになったような怪物が現れた。コーリング・ビースト。護符から幻想の獣を召喚す
る、ティアが得意とする高等魔術だ。その牙と爪は彼女の敵を引き裂き、殺す。だがグルマルキンとて魔術の練達だ。高等魔術とはいえ、そ
の対処方法は熟知している。 

416 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:04:51 ID:QS8xHgTP0
「コーリング・ビーストなどという児戯が、私に通用すると思うな!」

 サーベルのルーンが魔女の肉と血と骨に染み渡りその全身を強化した。結果、擬似的に魔女は人間の枠を超える。強化された視神経が魔物
の動きを的確に追い、飛び掛った瞬間にその核を正確に貫いた。その瞬間、サーベルに施された"解呪"のルーンが起動。断末魔の悲鳴をあげ
ることなく、幻想の獣は、穴が穿たれた護符を残して消えた。
 
「さすがね、グルマルキン」
 少し離れたところに、自分の分身と獣を潰されたティアが涼しげな顔で佇んでいた。その美貌にはいささかの傷がない。
 
「苛烈なあなたにふさわしい魔術だったわ。もっとも、少し騒々しすぎるとは思うけどね」
「ぬかせ。しかし、まさか貴様と鉢合わせするとは思わなかったぞ。くく……何たる僥倖」
「そう。それで、どうやらあなたの狙いはロンギヌスというわけね。叶わない夢ばかり追い求めて、また人間に従属する道を選んだ」
「そのとおりだ。今も昔も、私はそれだけのために戦い続けている。総統の悲願を受け継ぎ、頑強な帝国を復興させるのが、私の望みだ」
「あなたは相変わらずのようね。残念だけど、あなたの望みを叶えてあげるわけにはいかないわ」
「ほざけ。それにな、本来なら即刻貴様の息の根を止めてやりたいところだが、そうもいってられないのだよ。聖槍の奪取はすべてにおいて
優先される。ドライ、私がこいつをひきつけている間に聖槍を奪え!」

 命令を受け、漆黒の巨躯が聖槍に手を伸ばした。結界の守りはすでに存在しない。このままではロンギヌスはドライの手に渡る。しかしテ
ィアは動じなかった。
「無駄よ。まだ結界は生きているわ。それも、もっと頑丈なものがね――」
 ドライの指先がもう一歩のところまで迫った瞬間、聖槍を中心に紫電が荒れ狂い、聖域への侵入者を攻撃した。結界から発生した膨大な魔
力の渦がドライを飲み込み、その四肢を拘束し、ずたずたに切り裂いた。漆黒の軍装が破れ――その下から無惨な傷を負った鋼鉄の皮膚が覗
いた。ぱっくりと開いた傷口から血液の代わりに水銀が溢れ始める。
「自動機械人形(オートマタ)を連れてきたの?」
 ドライの惨状を見たティアが呟いた。人の形をした人ならざるもの。瞳には宝石が輝き、血潮の変わりに水銀が全身を駆け巡り、脳の代わ
りに円筒(シリンダ)が思考を司る。
「だけど、どのみち無駄ね。中心部は念入りに術式を施しておいたの。あなたといえども、その解呪は手間取るはずよ。あなたの部下には当
然無理。かわいそうだと思うなら、諦めるようにいってあげて」

417 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:27:02 ID:tm0G2VN20
「ククク、貴様はドライを甘く見すぎている。人形は決して主に逆らわない。あれは私は命令を必ずやり遂げる。たとえ腕がもげ足を潰され
ようともな。――ドライ、私は命じたはずだ。さっさと聖槍を奪取しろ!」

 完全に四肢を拘束されたはずのドライの身体に、グルマルキンの言葉によって、再び火がともった。機械仕掛けの体を、限界まで酷使す
る。その全身に小さな火花が幾つもはじけた。だが構わず、力任せに不可視の枷を引きちぎった。ロンギヌスを覆っていた圧力が消え、結界
は役割を終えた。しかしあまりの負荷にとうとう腰の辺りで小爆発が起こり、ドライは力なく膝を突いた。満身創痍の有様だったが、なおも
ドライは聖槍に手を伸ばす。とうとうその鋼鉄の指がロンギヌスに触れた。

「そんな、ただの力だけで、結界を破ったというの」驚きを隠せない表情で、ティアがいう。
「当てが外れたな、ティア・フラット。これで聖槍は我らのものだ。過去の雪辱を注ぎたいのは山々だが、ここで貴様に構っている暇はな
い。我らには時間がないのだ。ドライ、作戦は終了だ。引き上げるぞ!」

 やっとのことでロンギヌスを手にし、ぎこちない動きで立ち上がったドライの背中から、機械仕掛けの翼が出現した。背部に備え付けられ
たジェットエンジンが火を放ち、巨躯を空中へと押し上げる。迫る地下室の天井を肩から発射したミサイルで粉砕し、同じく肩から出現した
ドリルで穿孔しながら、ドライは暗闇の彼方に消えた。

「く……」
 悔しげに唇をかむ。常に冷静に振舞っている彼女には珍しい。それゆえにグルマルキンの嗜虐に火をつけたのであろう。心底楽しそうにテ
ィアを嘲笑っていた。
「貴様のその顔を見れただけでも満足だ。では、また会おう、ティア・フラット!」 
「待ちなさい!」

 再び、コーリング・ビースト。しかし、幻想の獣の爪に掛かる前に、グルマルキンの全身は霧のように掻き消えた。

「……逃がしたようね」

 後にはティア・フラットだけが残された。

418 :ロンギヌスの槍 part.2:2008/03/09(日) 15:28:37 ID:tm0G2VN20
 優とアインは動けずにいた。実力が拮抗するもの同士ならば、先に動いたほうが負けになる。どちらも攻めあぐねているのだ。目に見えな
い心理の中で両者は激しくせめぎあっていた。だが唐突にその死闘は幕を下ろした。

『アイン、ロンギヌスは奪取した。引き上げだ』

 魔女グルマルキンの声。周囲に優とアイン以外に人影はない。遠く離れたところから念話で語りかけているのだろう。ロンギヌスの奪取。
ティアが失敗したということか。
 魔女の命を受けたアインは構えをといた。張り詰めた殺気が消滅すると同時に、その足元に魔法陣が展開された。光があふれ、小柄なアイ
ンを飲み込んでいく。転移魔法陣だ。

「ちっ!」

 その瞬間に優はナイフを投擲していた。だがそれはアインに突き刺さることなくその身体をすり抜けた。魔女の哄笑が響き渡る。
『残念だったな、スプリガン。貴様らのおかげで、我々の計画も次の段階へ進める。感謝するぞ。そして待つがいい。完全な復活を遂げた第
三帝国が、劣等どもを踏み潰し世界に君臨するときをな!』

 その言葉を最後に、アインの姿と魔女の気配は消え去った。
「くそっ!」
 悔しさに優は地面に拳をぶつけた。スプリガンの敗北だった。


419 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/03/09(日) 15:31:00 ID:tm0G2VN20
最近のダブルオーの面白さは異常。ちょくちょく見逃していた話もあり、少し悔しいです。なかでも
「大佐のキッスはいただきだああああああああああ!!!」
の回を見逃したのは本当に痛い。
えい、くそう。コーラサワーめ!

>>382
ずいぶん間が空いてしまいましたが、またよろしくおねがいします。
>>383
スプリガンはいいですよね。浪漫がある。それから、オリキャラはアイン、ドライなどの独語数字で表記されてるやつです。グルマルキンは翡翠峡奇譚という作品からの出演です
>>384
おかげで作品間をつなぐのに大助かりです。
>>385
今回はアームズとのクロスオーバーはありませんが、最強のサラリーマンは是非書いてみたいですね。
>>386
聖櫃(アーク)はありましたが、ロンギヌスはまだ出ていないですね。逸話といえばロンギヌスは13本あるとかないとか。ハガレン劇場版で仕入れた知識ですがw
>>387
まさかグルマルキンの出典を知ってる人がいたとは……。これでさらにマニアックなキャラを出す勇気がもてました(何
>>ふら〜りさん
ボウケンジャーもスプリガンとクロスさせやすい作品ですよね。
ほとんど視聴していなかったのですが、ちょっと検索してロンギヌスにつかえそうなネタがあれば、盛り込むかもしれません。
ほのぼのはロンギヌスが半分くらい書き上げたら投稿したいと思います。おそらくふら〜りさんが帰ってくるころまでにはお見せできるかと。
結構知られた作品なので、わかる方も多いと思われます。もっともゆりんゆりんした作品ですが。


420 :作者の都合により名無しです:2008/03/09(日) 19:00:36 ID:yUO1eL9h0
おお、好調な執筆ペースですな
俺の知らない世界の魔女も出て
スプリがん陣営がいきなり出し抜かれましたな

これから期待出来そうで嬉しいっす

421 :ヴィクティム・レッド:2008/03/09(日) 22:15:41 ID:K6mAhcqEO
 レッドの耳には、ガタゴトと揺れる車両の音と、トンネルを通過するときに特有の空気の圧搾音が響いていた。
 ふと、隣に立つセピアを見る。
 いったいなにが面白いのか、セピアは窓にぴったり頬をよせ、窓の外の景色──
 コンクリートの壁や、そこに張り巡らされたケーブル類やパイプが後方に流れていくのを飽きもせずに眺めている。
 ──今回レッドとセピアに言い渡された任務は、貨物の護衛だった。
 エグリゴリのダミー企業が運営する地下鉄経路を使い、『ある荷物』を『ある場所』まで運ぶ。
 正規の線路とダイヤグラムの隙間を縫い、特別車両がニューヨークの地下を通って都市外へと無事に運び出されるまで、
二人は襲撃者に備えて車両に同乗しなければならない──そういう任務だった。
 その貨物の内容や、それが送り届けられる最終目的地をレッドは知らされていない。
(ブラックの野郎……相変わらずの秘密主義だな)
 と苦々しく思うが──実のところ、その程度のことにはすでに慣れっこになっていた。
 どれだけ任務の内容に不満があったところで、レッドにはそれを拝命する以外の選択肢は存在しないのだ。
そう──それはちょうど、キース・セピアという少女を命令によって連れて歩いているのと同じように。
「──なあに?」
 視線に気付いたセピアが、小首を傾げてレッドの瞳を覗き込む。
 その仕草には屈託というものがまるでなく、数日前に彼女が見せた、虚無の塊のような表情は欠片も残っていない。
「なんでもねーよ。よくもまあそんなに熱心にトンネルなんぞ眺めていられるなって思ってただけだ」

 セピアのことであれこれ考えるのはやめよう。
 あの夜、レッドはそう結論付けた。
 レッドを振り回しては様々な感情を臆面もなく押し付けてくるセピア。
 かと思えば、それとは打って変わって不気味なほどの無表情でこちらを見つめるセピア。
 いったい『どっち』なのか──どちらが本物のセピアなのか、レッドには分からなかった。
 また、分かるはずもなかった。当のセピアが、そうしたことに関してなにも語ろうとしないのだから。
 ならば、レッドはその疑問を切り捨てるしかない。
 セピアが本当はどういった存在なのかも、彼女がうなされ続ける悪夢のことも、
 すべては自分と関係のないことだと割り切り、ただ与えられた任務を──セピアの監督者としての役割を全うする。
 所詮、セピアも命令だから自分の側にいるだけなのだ。
 外部から押し付けられた、形ばかりの関係性のことで、ぐだぐだ思い悩むのは馬鹿げている。
 ──それが、一晩中苛々しながらセピアの寝顔を眺めた末に辿り着いた、たったひとつの事柄だった。

422 :ヴィクティム・レッド:2008/03/09(日) 22:17:29 ID:K6mAhcqEO
 
 四両編制の特別列車の最後尾、じっと窓の外に視線を這わせていたセピアが、
「……ねえ、レッド。ちょっと」
「なんだ、白兎でも見つけたか?」
 皮肉っぽい調子で肩をそびやかすレッドを手招きする。
「なに言ってるの。いいから見てよ」
 面倒臭さそうにしながらも、セピアと顔を並べて窓に視線を向けたレッド。その眉が、む、とひそめられた。
 つい先程ちらりと見たのと同じ、矢を飛ばすような勢いで後方へと流れていく殺風景がそこにあった。
 だが――
「速度が……落ちている?」
 レッドの視界を過ぎるトンネルの壁が、さっきよりも、そして徐々に明確な輪郭を見せるようになっていた。
 それはつまり列車とトンネルの相対速度が減じているということで――、
「……なんでこんな所でブレーキかけてんだ?」
「さあ。わたしに聞かれても」
 扉の横に据え付けられた端末を取り上げ、運転室のある先頭車輌へ通信――応答無し。
「――――?」
 不安げにレッドの横顔を覗き込むセピアを半ば無視して、それぞれ警備兵が詰めているはずの第二車輌、第三車輌を呼び出す――応答無し。
 はっとなったレッドは、慌てて車輌の連結部に駆け寄り、扉の小窓から第三車輌の内部を覗く。
 次の瞬間には、大声で叫んでいた。
「セピア! 『モックタートル』の識閾を上げろ! 侵入者だ!」
 四角に切り取られた視野に映るのは――夥しい量の血の海、壁に床にと倒れ込むメイド・バイ・エグリゴリのサイボーグ兵士たち。
 彼らが既に絶命しているのは明らかだった。
 各々が驚愕の表情にかたどられた死相を呈しており、それぞれ眉間、鳩尾、喉など――
場所は様々ながらも、正中線上の人体急所に寸分違わず短刀のようなものが叩き込まれていた。
 離れた距離から死体を見るレッドの目にも、彼らが――恐るべき技量を持つ『誰か』によって――
反撃の暇すら与えられず、ただの一撃で死に至らしめられたことが分かる。
「セピア!」
 振り返ってセピアを――彼女のARMS『モックタートル』による侵入者の探知を催促するも、
「わか、分かんない――どこにいるか、分からないの!」
 その言葉の意味に、レッドは戦慄した。

423 :ヴィクティム・レッド:2008/03/09(日) 22:19:30 ID:K6mAhcqEO
 直前に減速されていたとはいえ、走行中の列車に飛び乗り――いや、そもそも減速させるなんらかの手段を講じ――
車内にひしめく十数名の強化サイボーグを無音で瞬殺し――その一連の行為を『モックタートル』に感づかれることなく遂行したばかりか、
今まさに警戒状態にあるセピアに居場所を掴ませないとは――
 およそ人間のなしえる所業とは思えなかった。
 こうしているあいだにも、列車はどんどん慣性エネルギーを使い果たしてスピードを落としてゆく。
 完全に停止する前になんとかしなければならない。この都市の地下深くで襲撃を受けたことを考えると、
待ち伏せされたことは当然のこととして――更なる戦力が待機してるものと思わなければならないだろう。
「くそ――」
 レッドは荒々しくセピアの肘をつかみ、背後にそびえる貨物庫の扉まで引き寄せる。
「開けろ。中のブツを持って逃げるぞ」
「……すごい重いものだったらどうするの?」
「開ける前からそんな心配してんじゃねーよ。いいから開けろ」
「でも、わたしパスコード知らない」
「オレだって知らねーよ! あんたの『モックタートル』でこじ開けろって言ってんだよ!」
 ブラックの秘密主義の弊害をここで云々しても始まらない。
今は、自分たちに出来る最大限で、この状況を切り抜けなければならない。
「――でも、いいの?」
「いいも悪いもあるか! 死にたくなかったらさっさとしろ!」
 つい怒鳴り付けてしまうが、それでもセピアは素直に扉の前に立ち、
「――あ!」
「今度はなんだ!?」
「上よ! ――屋根に『誰か』がいる!」
 反射的に見上げたレッドの瞳に、黒っぽい影が車内に躍り込もうとしているのが見えた。

 いやに甲高い破裂音を響かせ、四両編制の特別列車が内部から破裂した。
 それは炎も熱も煙もなく、ただ風船が割れたような、派手ではあるが大した威力の無い――そういう破壊だった。
 それでも列車全体を吹き飛ばす程度のものではあり、飛び散った構造物がさらに派手な音を立ててトンネル内を乱舞する。
 膨張する空気が逃げ場を求めて暴れ回り、コンクリート壁に亀裂を走らせる。
 やがて爆圧がトンネルを伝って遠くへ伸びてゆき、周囲の状況が平静を取り戻し――
もうもうと立ち込める粉塵が晴れたころ、か細い非常灯のオレンジ光の下で一つの人影がふらりと立ち上がった。

424 :ヴィクティム・レッド:2008/03/09(日) 22:21:58 ID:K6mAhcqEO
 その人影は軽い仕草で肩の塵を払い、「ふむ」と一息吐いて辺りを睥睨する。
「しかし――ずいぶんと派手にやったものだな?」
 その気軽な口調に応える者はいない、
「私の侵入を避けられず、貨物の保護も間に合わないと悟るや、即座に自ら列車を破壊するとは――」
 一人芝居でもしているように、そしてどこか面白がっているように首を振り、
「その、我が身を顧みぬ思い切りの良さと潔さは驚嘆に値するね。
まさに烈火の如き心の持ち主だ――だが半面、とても危うくもある。
……それが君のやり方なのかね? キース・レッドくん」
 そこでやっと、彼の声に応える者があった。
 瓦礫の山と化した列車の下から、鉄板を跳ね飛ばして姿を現す二人――、
 闘争心に充ちた凶悪な目つきで彼を睨み据える少年と、
場違いなまでにおどおどとした態度でその背後に隠れる少女――、
 キース・レッドとキース・セピアだった。

 レッドは内心で舌打ちしながら、前方十数メートルに立つ男を見た。
 瓦礫に隠れて息を潜めていれば隙も生まれるかも知れないと期待していたのだが、さすがにそう都合よくはいかないらしい。
 地上の陽光からは隔絶され僅かな非常灯だけが頼りとあっては、
相手の姿を正確に捉えることができず、それがなんとも苛立たしかった。
(それに、この距離――)
 レッドたちと相手の間に横たわる空間は、先手を取って攻勢に移るには遠すぎて、
逃走に転じるには近すぎる――そんな絶妙な位置関係を形成していた。
 このまま慎重に相手の出方を窺うしか手はなさそうだったが、むしろそれが向こうの狙いなのかも知れない。
 周囲を分厚いコンクリートに阻まれ、目の前の男に選択肢を削がれ――得体の知れない閉塞感がそっとレッドの喉元に忍び寄る。
 その嫌な感じを振り払うように、小声でセピアに呼び掛ける。
「――セピア。周りを探れ。あと何人いる?」
 攻撃にも逃走にも移らないのは、情報が不足しているから――
決して、あの男に戦況判断を操作されているからじゃない、そう自分に言い聞かせながら。
「何人って……なにも感じない」
「するとなにか、ヤツみたいに気配を完璧に消せるような手練ればかりが潜んでるってことか? ……くそ、嫌になるな」

425 :ヴィクティム・レッド:2008/03/09(日) 22:23:59 ID:K6mAhcqEO
 自棄気味に毒づくレッドの袖を引き、微かに首を振るセピア。
「ううん……そうじゃなくて。さっきは電車も動いてたし、あの人のことだって『どこにいるか』が分からなかっただけで、
『いる』ってことは『モックタートル』でもなんとか分かったの。だけど」
 セピアの視線がちらりと前を向く。
「こんな静かなところなら間違えっこない。あの人だけ。他には誰もいないわ。
音響、熱分布、電磁波、生体波動、全部試した」
 セピアの肌に移植された情報制御用ARMS『モックタートル』――その探査能力を信じるなら、その通りなのだろう。
 だが、それなら、これはいったいどういうことだろうか?
 確かに少人数で大多数を攻撃できるのが待ち伏せという戦術の利点だが、それにしてもたった一人というのは――?
(ええい、ごちゃごちゃ考えても仕方ねえ!)
 敵が一人というなら話は早い。挟撃のリスクを心配することなく戦えるのだから、
「あの野郎を叩き斬ればいいんだろ!?」
 腕に眠る『グリフォン』を発動させ、足を踏み出した瞬間、
「待って!」
 なにかが風を切る鋭い音、なにかが地面に突き刺さる鈍い音。
 セピアが飛びついてレッドを引き止めるのと、ちょうどレッドが足を置こうとしていた場所に板状の鉄塊がいきなり出現するのが同時だった。
 その『なにか』が飛来した方向を見る――いや、見るまでもなかった。
暗がりにたった独りで立つ『そいつ』が今しがた『なにか』を投擲したばかりなのだと、差し延べられた腕が如実に語っていた。
「『兵は拙速を尊ぶ』と言うが……勇み足は良くないな、キース・レッドくん」
 『そいつ』の穏やかだが容赦のない声を耳にしながら、レッドは危うく自分の脚を貫通するところだったものを見る。
 最初に短刀だと思った『それ』は、柄も鍔もない裸の刀身の――日本映画でしか見たことのないような武具――クナイだった。
 驚きと違和感による混乱で言葉もないレッドへ向かい、『そいつ』一歩進み出し、非常灯の真下に身を晒す。
 レッドは知る、他に誰も襲撃者がいないのは、『そいつ』一人で十分であるという静かな自信と冷静な判断によるものだと。
 極限まで機能性を追求した黒装束、またそれを纏うに相応しく機能的に引き絞られた肉体――
その場の空気にあっという間に溶け込んでしまいそうでありながら、確かに『ここにいる』という巨大な存在感を併せ持つ『そいつ』。
 それはさながら、狩人の中の狩人、或いは――
 それが虚勢に過ぎないと知りながら、それでもレッドはふざけた軽口を叩かずにはいられなかった。
「……てめー、どこのニンジャスターだ? ハリウッドに帰れ」
「いや……私はただの単身赴任中のサラリーマンさ。趣味で忍術を少々、ね」
 ――或いはさながら、静かな狼のように。

426 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/03/09(日) 22:50:16 ID:K6mAhcqEO
話せば長くなりますが、ただいまネット環境のない場所で暮らしているため携帯から。
携帯で書くのって、とてももどかしい。それでも書かずにいられないなんていかほどー。
ここまでくると病気ですね。この執着心を正業に生かせば大出世できるのではと我ながら思います。


>ハシ氏
うは、スプリガンやろうと思ってたのに先越されたw
ま、こういうのに後も先もないですけどね。
前から思ってたんですが、冲方とか古橋を知ってることと言い、
なんか趣味嗜好がどうも他人のような気がしません。
もしかして生き別れた俺の姉ちゃん(あらあらうふふな天然巨乳)ですか?

427 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 01:28:18 ID:HbgfWQ8Q0
オレの好きな皆川先生の作品が立て続けに来た!
ハシさんにハロイさん、いつも楽しみにしてますので頑張って下さい!


428 :テンプレ1:2008/03/10(月) 08:04:41 ID:waBWn7pz0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart55【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1201694894/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss


429 :テンプレ2:2008/03/10(月) 08:06:02 ID:waBWn7pz0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の414-415から
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
HEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html  
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html


430 :テンプレ3:2008/03/10(月) 08:08:03 ID:waBWn7pz0
上・のび太の新説桃太郎伝  下・三年一組剣八先生! (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の176-184から
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の10−11から
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
ロンギヌスの槍 (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080310/229e4a27a325fbe1a465db27f2bbf52f
     の373−380から

431 :ハイデッカ:2008/03/10(月) 08:12:55 ID:waBWn7pz0
出勤前に慌てて作ったので、チェックが甘いかも。
ヒル氏のハルヒが消えてしまいました。
あと、NBさんとサマサさんも結構間が空いているかも・・。

ちょっと作品少なくなっちゃったけど、
ハロイ氏とハシ氏が復活してくれてよかった。

>作者さんたちへ
出来れば作品投下は新スレからにして頂けないでしょうか?
ゴート氏のサイトへ、現スレ保存しちゃったもんで・・。

一応スレ立てて見ますが、最近立てにくいからなあ

432 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 08:15:36 ID:waBWn7pz0
駄目でした。
他の方お願いします。


俺も皆川作品のファンなので
ヴィクテムの継続とハシ氏の新連載は楽しみだなぁ

433 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 10:51:17 ID:/D/kDerF0
立てておきました。

434 :作者の都合により名無しです:2008/03/10(月) 12:05:30 ID:rVhlqFgi0
>>433


【2次】漫画SS総合スレへようこそpart55【創作】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1205113604/

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