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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart53【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 09:00:59 ID:qCjqJv2J0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss



2 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 09:02:20 ID:qCjqJv2J0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・鬼と人とのワルツ 下・仮面奈良ダー カブト (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/258.html
戦闘神話  (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm  
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
上・HEN THE MAN COMES AROUND  下・猿の手(さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/434-439
上・ヴィクテム・レッド 中・シュガーハート&ヴァニラソウル
下・脳噛ネウロは間違えない (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html


3 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 09:03:14 ID:qCjqJv2J0
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝 未来への意志 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1192630797/10−11
DBIF (クリキントン氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/293.html
ドラえもん のび太と天聖導士 (うみにん氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tennsei/01.htm
『絶対、大丈夫』 (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
DIOの奇妙な放浪記  (名無し氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/371.html
るろうに剣心 ー死狂い編ー (こがん☆氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/383.html
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html


4 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 09:07:22 ID:qCjqJv2J0
さいさん、ハロイさん作品投稿お疲れ様です。
ハイデッカ氏、テンプレお疲れ様です。
前スレが512KB超えていたので、次スレ誘導が出来ませんでした。
いまいちハロイさんのネウロが中途半端なところで切れてたのはそのせいかな?

こっちに転載しておいた方がいいかな?
でも投稿規制がありますんで、どなたかお願いします。

5 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 11:08:22 ID:nebwu80c0
「──はい、分かりました。それじゃ、来週日曜の十五時、駅前で」
 わたしはそう結んで、携帯の通話ボタンを押す。
 液晶画面が回線の接続が切れたことを教え、そこでやっとわたしはこらえていた溜息を吐くことができた。
 なんとも言えない脱力感と、重荷から開放された解放感との半々の気持ちで、
事務所で一番高価な家具、『トロイ』と呼ばれるデスクへと首を向ける。
「……ネウロー、全死さんと待ち合わせしたよ」
 半分死んでるようなわたしの声に、椅子にふんぞり返ってうとうとしていた男──ネウロがぱっちりと目を覚ます。
 気怠げに軽いあくびをしつつ、ネウロは窓の外に広がる暗闇を見、そしてわたしを見た。
「ふむ……ヤコよ、貴様は飛鳥井全死と何時間電話をしていたのだ?」
 ちらり、と携帯の画面に記された通話時間の表示に目を落とす。
「……99,99でカウントストップしてる……朝の九時ごろから始めて今が夜中の三時くらい」
「ほう、そんなにも一体なにを話していたのだ?」
「……なにも。大したことない世間話か、そうじゃなかったら、なに言ってるかさっぱり分からない難しい話だけ。
アンタに言われた『会う約束』を取り付けるのは、電話を切る前の五秒で済んだ」
「人間の女は長電話が好きとは聞いていたが、これほどまでとはな。もっと他にすべきことはないのか?
魔界の電話は長電話を何よりも忌み嫌っていてな、通話時間が三秒を超えると爆発して半径十キロ内を焦土と化すのだぞ」
「あの人がおかしいだけだってば……飲まず食わずで十八時間とかさすがにないわ……」
 普段なら、その魔界の電話とやらにツッコミを入れるところだが、精神的にも体力的にも消耗し尽くしていたので、素で答えるのが精一杯だった。
「うう……せっかくの日曜だったのに、丸一日潰した挙句に完徹って……わたしの休日はどこいっちゃったの?」
 今日(というかもう昨日)に食べるはずだったあれやこれに思いを馳せ、どうしようもなく惨めな気持ちになってくる。
 そして、そんなわたしの惨めな気持ちに拍車をかけるものがある。
「ねえ、ネウロ」
「なんだ」
「いいかげんに外してよ、これ」
 と、わたしを椅子に縛り付けるチェーンとロープと南京錠を、辛うじて自由な右手で示す。
 魔人の常識外れの力で椅子に緊縛され、その状態で十八時間も意味のない話や意味不明の話に付き合わされる──
ドSなネウロによって様々な拷問を受けてきたわたしだったが、今日のこの仕打ちはトップ3に入るだろう。
 なんでいつもいつもわたしだけがこんな目に遭わなきゃいけないのだろうか。
 真面目に考えると辛いからあまり考えないようにしてるけれど、さすがに泣けてくるものがある。

6 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 11:09:03 ID:nebwu80c0
「もー……勘弁してよ……」
 疲労と空腹と睡眠不足で意識が朦朧としてくる。あとほんの数時間で朝が来て、学校が始まる。
 せめて仮眠でも……と、(椅子に拘束されたままなのはこの際諦めることにして)目を閉じた瞬間、
「寝るなヤコ。寝ると死ぬぞ」
 首がもげそうな強烈ビンタがわたしの頬を一秒で五往復した。
 くわんくわん頭の中で響く衝撃が、わたしの意識を遠のかせるのが自分でも分かる。
 乱れた平衡感覚がわたしの視界を一回転半させ、視界がぼやける。
 このままだと──オチる。
 いや、別に気絶したっていいのだが(ホントはよくないのだろうけど)、この場合「気絶」は「寝る」として見做されるのだろうか。
 このままオチたら死ぬってゆーか、ネウロに殺されるのではないだろうか。
 そんな思考がわたしの内部を駆け巡るが、それを上回る勢いで、わたしの意識はこの宇宙の遥か彼方へブッ飛んでいこうとしていた。
「しかし実際、貴様には悪いことをしたと思っているのだぞ」
「だった……ら、すんな……よ」
 意識を保つためにツッコミを試みるも、ビックリするぐらいの掠れ声。
「本来なら、その右腕も縛りつけ、口にもボールギャグを噛ませなければ、とても緊縛と呼べる代物ではない。
飛鳥井全死との連絡を取らせるために、泣く泣く貴様の腕と口に自由を与えなければならなかった我が輩の心痛……
貴様なら分かってくれるはずだな?」
(分かるか。つーか、拷問に手心を加えることが、ネウロにとっての『悪いこと』なのかよ)
 今度は声にすらならなかった。
「踏んで縛って叩いて蹴って殴って吊るして──それが我が輩の愛だ」
「愛なら仕方ないな──って、ンなわけあるか! 虐めて愛情表現とか小学生か! しかもスケールデカすぎだろ!」
 ──さて、このツッコミはきちんと声になっていたのだろうか?
 この直後に意識がぶっつり途絶えてしまったので、わたしにはそのあたりの事は定かじゃなかった。

7 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 11:10:39 ID:nebwu80c0


 誰かに呼ばれた気がして、目を覚ます。
 時計を見ると夜中の三時だった。
「甲介くん、甲介くん」
 いや──気のせいではなく、確かに誰かが俺を呼んでいた。
 まだまどろみの中にある意識のままに、声の主を探して照明の消えているワンルームの部屋の至るところに視線を漂わせる。
 やがて意識が徐々にはっきりとしてきた頃に、彷徨う視線がベッドの上──というか俺の隣で焦点を結ぶ。
 そこには、全裸の女が座り込み、俺の肩を軽く揺さぶっていた。
 だが、全裸の定義があくまでも「生まれたままの姿」というやつなら、そいつは決して全裸ではなかった。
 顔にはアイマスク、細い首にはチョーカー風の首輪(首輪風のチョーカーではない)、
そして両手首と両足首にはベッドの支柱と鎖で連結された枷。
 ちゃらちゃらと鎖が擦れるリズミカルな音で、俺は完全に覚醒した。
 その女は真銅白樺だった。
「起こしてごめんね、甲介くん」
「……まだ帰ってなかったのか?」
 俺がそう言うと、白樺は肩をすくめてみせたらしく、また鎖が鳴った。
「あのね……君がこの鎖を外してくれなかったら、わたしは帰りたくても帰れないんだけど?」
 完全に覚醒したと言うのは俺の錯誤で、どうやらまだ俺は寝ぼけていたらしい。
 思い出したからだ。
「──忘れてた。悪い」
 思い出してみれば我ながら呆れるしかないが、俺は彼女の拘束を解くよりも先に眠ってしまったようだった。
「ううん、それはいいの。『すっかり忘れ去られた自分』っていうのを実感できて、新鮮だったから」
「そいつは俺には理解しがたい感覚だから、『良かったな』としか言いようがないよ。で、じゃあ、なんで起こしたんだ?」
 そこで気が付いたが、白樺はさっきから膝をすり合わせてもじもじとしていた。
 だがどうやら、それは羞恥心とかそういった類の感情によるものではないらしく──、
「トイレ」
 生理的な欲求によるものだったらしい。
 俺が身を起こして手足と首の戒めを解くと、彼女はベッドからするりと降りぱたぱたとトイレへ駆け込んでいった。

8 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 11:12:15 ID:nebwu80c0
 それを見るとはなしに見送ってから、俺は再びベッドに横たわる。
 すっかり霧散した眠気をかき集めるために、できるだけどうでもいいことを考えようとした。
 その材料として選んだのは白樺のことだ。
 なぜ、彼女は緊縛された状態での性行為を望むのだろうかという点だ。
 そしてまた、なぜその相手に俺を選んでいるのかということ。
 俺自身について言えば、その点ははっきりしている。
 それは白樺が望んでいることで、しかも断る理由が特に思い当たらないからであり、
そして──ここが一番大事な点であるが──それが習慣として、レギュラーとして定着しているからだ。
 別に長く続けるつもりなど毛頭無かったのだが、かれこれ三年くらいになるのだろうか。
 元々、彼女とは中学時代からの知り合いだったが、こういう関係になった、つまり白樺が俺のレギュラーとして組み込まれたのは、
まったくの偶然に当時の彼女のパートナーを殺害したことに起因している。
 俺はその代役として、いわば穴埋めとして納まっているのであり、それは非常に恣意的な推移の結果だ。
 発端はどうあれ、それがレギュラーとして定常化された出来事なら、白樺が俺から離れていくなり或いはお互いの環境が変化するなりして、
やがてその関係性が消滅するときを迎えるまで、俺は淡々とそれを受け入れるだけである。
 来るものは拒まず、去るものは追わず。それが習慣に従って生きていくということだ。
 定期的に人殺すのも、その習慣に従うからこそだ。
 始めて殺したのは六歳のときで、それ以来、殺人が俺の習慣になっている。
 殺害人数が百人に達したら一度打ち切ってみようかとなんとなく考えるが、それはまだ少し先のことになる。
止めるという発想自体に大した意味はないし、先のことを真剣に考える習慣はない。
 鬼に笑われたくはないからだ。
 ──などと、思考が脱線して当初の目的通りにかなりどうでもいい結論らしきものに辿り着き、
睡魔がじわじわと俺の瞼に被さろうとしたとき──いきなり携帯電話の着信音が鳴り響いた。
 闇とレム睡眠の海に満たされた部屋の静寂はその一撃で木っ端微塵に破壊される。
トイレのほうから「うひゃ」という白樺の小さな悲鳴が聞こえてきた。
 念の為に横目で時計の針を捉え、現時刻を確認する。
 やはり三時過ぎだった。
 こんな時間に電話をかけてくる非常識な人間といえば、たった一人しか心当たりがない。
 俺はげんなりした気持ちで携帯電話を取り上げ、通話ボタンを押した。

9 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 11:13:34 ID:nebwu80c0
「遅いんだよ、この馬鹿! 何時間待たせる気だ! 電話くらいさっさと取れよ! お前は催促嫌いの漫画家か!?」
「……待たせたのはほんの数秒だと思いますけど」
 やはり全死だった。
「嘘こけ! たっぷり三時間は待ったぞ!」
「全死さんは、ダリの作った体内時計でも内蔵してるんですか?」
 俺の突っ込みなどに耳を貸す素振りすら見せず、全死はひとしきり俺を罵倒した後に、
この草木も眠る絶好の呪いアワーな時間に近所迷惑を顧みず電話をかけてきたそもそもの本題を切り出した。
「来週、弥子ちゃんとデートするぞ」
「……おめでとうございます。電話、切ってもいいですか?」
 トイレから戻ってきた白樺が、自前の拘束具をバッグにしまう。代わりに下着を取り出し、身に着けはじめた。
 電話中の俺に遠慮しているのか、それとも今が深夜だということに配慮しているのか、その動作は極力音を潜めたものだった。
「なんで切るんだよ。話はこれからだ」
「その話、長くなるようでしたら明日にしてください。俺は学校があるんです」
「すぐ済むよ。むしろ、そんなお前に渡りに船な話だ──今すぐ、大学まで来い」
「俺は明朝に行きたいのであって、今行きたいわけじゃないですよ」
「関係ない。どの道、用事が済んだら朝になる。冬来たりなば春遠からじって言うだろう?」
 下着に次いで衣服をも着終えた白樺は、最後に眼鏡をかけて身繕いを終了させた。
 俺個人の希望としては行為の最中にも眼鏡をつけていて欲しいのだが、生憎、眼鏡とアイマスクは両立しない。
「その言い回しはおかしい気もしますし、すぐ済むのか朝までかかるのかはっきりさせて欲しいですが、
用件を聞いていないので断言はできませんね。で、俺に大学でなにをさせたいんですか?
──と言うか、全死さん、今どこにいるんです? もしかして学校ですか?」
「そうだよ。だからお前を呼んでんだよ──いちゃいちゃしようぜ」
 その全死の要請と、桂木弥子とデートすることと、なんの関係があるのか俺には推し量ることは不可能だった。
 全死の中ではその両者は明確で整然としたロジックで連なっているのだろうが、
全死のような異常な精神構造を持ち合わせていない俺には知るべくもないことである。
 どの道──答えははっきりしていた。
「嫌ですよ。なに言ってるんですか。それに──全死さん、出来なかったじゃないですか」

10 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/17(月) 11:45:34 ID:nebwu80c0
 実は、誠に不本意であり遺憾なことに、俺は全死と行為に及ぼうとしたことが一度だけあったのだが──
『痛い』『そんなん入るか』などと半狂乱になって泣き喚く全死に追い立てられたことで、幸いにも未遂に終わった。
「ありゃ、お前が無理矢理犯そうとしたからだろ」
「……全死さんのなかでは、そういうことになってるんですか。俺の認識だと、俺が全死さんの脅迫に負けてしぶしぶ、ということになってるんですけど」
「誰が太宰治の話をしているか」
「『藪の中』のことを言いたいんだったら、それは芥川龍之介ですよ」
「いいからさっさと来い。十分しか待たないからな。一秒でも過ぎたら死刑だ!」
 その怒声を最後に、通話は切れた。
 誰のためでもない中途半端な溜息をついて携帯電話を放り捨てると、暗闇の中で忍び笑う白樺の声が聞こえた。
「飛鳥井さんから呼び出し?」
「残念なことにね。まったく……せっかく眠れそうだったのに。あの人、いつもいつもいいタイミングで俺の邪魔をするよな。
もしかして、狙ってやってるんじゃないのか?」
「ふふ、ご愁傷様。じゃあ、わたしは帰るね。甲介くんはどうするの?」
 俺は数秒ばかり頭を抱え、この迷惑千万な全死の命令をどう処理するか考えていたが──やはり、答は一つしかないようである。
 全死の我儘に振り回されるのが俺の日常でありレギュラーである以上、俺は諦めて唯々諾々と従うしかない。
「行くさ。──死刑は嫌だからな」


 ──同時刻。
 『そいつ』は、己の足元に横たわる、人の形をした肉塊を、じっと眺めていた。
 手にしていたコンクリートブロックをその上に落とす。
 骨が潰れる音のほかには、なんの反応も無い。その肉塊に生命が通っていないのは確実だった。
「……後、二人」
 『そいつ』はぼそりと呟く。
「後二人で……僕は自由になれる……」
 熱に浮かされているかのようなぼうっとした表情で、『そいつ』はさらに熱く呟いた。
「僕は自由になる……!」
 下弦の月の明かりの下、『そいつ』は身体を弓なりに仰け反らせて細く高い声を漏らす。
 ──いつまでも。

11 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/12/17(月) 11:47:38 ID:nebwu80c0
>>1乙です。
前スレリロードせずに書き込んだお陰で中途半端なところで書き込めなくなり、
ホスト規制のせいでスレも立てられずに不貞寝していました。

12 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 13:23:18 ID:qCjqJv2J0
>さいさん
猿の手は「世にも奇妙な物語」で知っているくらいですw
でも、淡々とした中にも幸せそうな日常ですね。
そこへ超日常的な要素が加わるとどうなるか楽しみです。
でも、トキコってまひろの事をちゃん付でしたっけ?



>ハロイさん
ハロイさんやっぱり途中でしたかw
ネウロのキャラに負けず劣らず、全死や白樺もいいですね。
想像ですが、白樺とネウロのアイはなんとなく似てるのかな?
淡々とした突込みとかよく似た感じ。
この作品も長編になりそうで、ハロイさんの創作意欲は凄いなあ。

13 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 17:55:15 ID:Y/lV+JaS0
荒木氏今度は雑誌からのトレスが発覚!マタキタ━━(゚∀゚)━━!!!!!
【速報】新しい画像に加えまとめサイトと検証動画を追加!

弦エニシ氏から抗議を受けジャンプ誌上で御侘び文を掲載
ttp://img140.imageshack.us/img140/4920/rorhz8.jpg

48巻表紙とファッション誌ELLE
ttp://img155.imageshack.us/img155/9237/giogio48000vn2.jpg

ジョルノとARTHUR ELGORT'S MODELS MANUAL
ttp://img521.imageshack.us/img521/9259/1joyw4.jpg

吉田戦車「伝染るんです」
ttp://img2.freeimagehosting.net/uploads/5c307f8017.jpg

ここにあげたトレースとパクリはほんの一部、他にも大量に存在する

パクリ糾弾テンプレまとめ
http://www30.atwiki.jp/ichi-1/pages/14.html

パクリ検証動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1732928
http://jp.youtube.com/watch?v=W6Lxjl7TqZ4

【検証画像200枚】 ジョジョのパクリ糾弾スレ11
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1197809256/1-100

14 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 21:19:09 ID:Q9njGndc0
お疲れ様ですハロイさん。
年末年始になると鬼更新復活しそうですね。

ヤコが色んな人間やら魔人やらからいびつな愛を受けてて
お姫様?見たいな感じですねw
まだまだ日常って感じでしたが、「そいつ」が波乱を呼びそうな。

15 :猿の手:2007/12/17(月) 21:29:00 ID:qcWsZqFp0

黒。
眼に映るのは黒、黒、黒。
己も人も黒を身にまとう。
それが当然だと誰が決めたのだろう。誰も、何も疑問を抱かないのだろうか。
着なければいけないものを着て、来なければならないから来ているのか?
本当に彼女の事を、義妹の事を悼んでいる者が、この黒い集団の中に何人いるというのだ?

それに声。そう、声だ。

『ここへ運び込まれた時には既に心肺停止状態でした。おそらく即死かと……。
あっ、あの、御遺体はご覧にならない方が……その、何というか……あまりにも損傷が
激しいので……――』

様々な声が人々の口から、または電波を介して発せられ、斗貴子の耳に捻じ込まれていく。

『運転手の居眠りが原因のようです。業務上過失致死の疑いで現行犯逮捕しました。
殺人罪? うーん、それはちょっとねえ……。まあ、今後の取調べによっては危険運転致死罪での
立件も無くは無いですが、どうだろうなあ。難しいんじゃないかなあ――』

その度に斗貴子は殺意に近い憎しみに身を焦がされていく。

『大変痛ましい事故が起きたのはこちらの場所です。帰宅途中の武藤さんはここで容疑者の運転する
大型トラックに轢き倒された後、50m以上も引きずられ、挙句に後輪で踏み潰されるという――』

それは無差別と言ってもいい。

『だってねえ? おかしいじゃない、棺の蓋も開けないだなんて。最後のお別れくらいさせて
くれるもんでしょ? きっとアレよ。よっぽどひどい――』

16 :猿の手:2007/12/17(月) 21:30:36 ID:qcWsZqFp0

哀悼、親切、憐憫、好奇、義務。

『お兄さん! 武藤さん! 妹さんの命を奪った容疑者に今一番言いたい事は何ですか!?
お義姉さんも――』

その言葉達の発信源となる感情が如何なるものであろうと、彼女には等しく無価値な唾棄
すべきものだった。
悲しみと激しさが入り混じるアンビバレンツな思考。それが斗貴子の精神の奥深くまで蝕んでいく。
事故当夜に変わり果てた姿の義妹と再会して以来、斗貴子は何度も心の平衡を崩しそうになりながら、
その度に辛くも立て直している。
周囲から見れば、彼女の様子は所謂“気丈”というものに映るのだろう。
内心はどうあれ、涙一つ見せずに葬儀の準備をほぼ一人で指揮し、親族や参列者、それに
マスコミにまで対応し、悲しみに暮れる夫を支え続けている。
しかし、それにも限界があるのだ。
葬儀の最中には何度も顔を上げて、ある一点を見つめた。そうしなければ義妹のあの死に顔が
思い浮かび、彼女でさえどうしようもならなくなる。
祭壇の中央に大きく飾られた太陽のような笑顔。
あの愛らしい沈まぬ太陽は最早ここには無く、写真という無機物の中にしか存在しない。



「またここにいたのか……」
斗貴子の声からやや遅れて、ベッドに腰掛けたカズキは無言でゆっくり顔を上げる。
葬儀から数日が経ったが、夫は未だに仕事にも行けず、気づくと一人何をするでもなくまひろの
部屋にいる。
だが、そんな彼を責められる筈もない。

両親のいない時間が多かった子供の頃から、ずっと一緒に過ごしてきた存在。
ケンカもほとんど無かったであろう、自他共に認める仲の良い妹。
おそらくは自分の分身、というよりも身体の一部と言ってもいいのではないか。

17 :猿の手:2007/12/17(月) 21:31:54 ID:qcWsZqFp0
眼をもぎ取られた人間が暗闇に取り残されるように、耳をもぎ取られた人間が静寂に包まれるように、
今のカズキは尽きることのない孤独と不安と喪失感の中を彷徨っているのだろう。
涙はとうに涸れ果てて流れ落ちる事はなかった。
いや、涙だけではない。あらゆる感情や言葉さえも涸れて果てたかのように、今のカズキから
表出されるものは皆無だった。

ごくごく短い間、カズキは斗貴子の顔を見つめていたが、再び顔を伏せて淡いピンクの絨毯の
所々に見られる毛羽立ちに視線を定めた。
斗貴子もまた何も語れずに、部屋の中に視線を漂わせる。
絨毯のみならず、カズキが腰掛けているベッドカバーや枕、カーテンまでもがピンクで統一されている。
年齢に似合わぬ少女趣味かと思えば、本棚には剣だの銃だのの少年漫画が並んでおり、
この部屋の住人の変わった個性を良く表していた。
義妹のプライバシーを尊重していた斗貴子はあまりこの部屋に入った事がない。
それだけに初めて巡ってきたまひろの知られざるパーソナリティを窺う機会であったが、
そんな事をしたところで今では辛いだけだ。
何よりこの沈黙さえも斗貴子には耐え難くなっている。

「斗貴子さんは……」

その沈黙を破り、カズキが口を開いた。視線は絨毯に這わせたままで。
「斗貴子さんは、いなくなったりしないよね……? ずっとオレの傍にいてくれるよね……?」
その声は低く、重く、暗い。
その言葉も後ろ向きに飛躍しており、カズキらしからぬ縋りつくような響きを持っている。
自分が何を言っているのか理解出来ているかも怪しい。
「カズキ……」
斗貴子は彼の前にひざまずくと、そっと彼の両手を自らの両手で包んだ。
「大丈夫だ、私はずっとキミの傍にいる……。あの時、言ったろう? 『キミと私は一心同体。
キミが死ぬ時が、私が死ぬ時だ』と」
過去に己が発し、今も胸の内で生き続ける言葉を数年振りに口にした際、斗貴子の両手には
ギュッと力が込められた。

18 :猿の手:2007/12/17(月) 21:33:26 ID:qcWsZqFp0
「うん……」
その力強さと温かさに押されるように、カズキは頷く。
「大丈夫……。いつまでも二人一緒に――」
ここまで言った時、何の脈絡も無く、もう一つの言葉が斗貴子の脳裏にフラッシュバックした。
こちらはそう遠い過去のものではない。ごく最近のものだ。

『どうか、いつまでもカズキと二人一緒に、幸せでいられますように』

見る間に斗貴子の顔色が変わっていく。
(まさか……そんな馬鹿な……)
カズキの手を握ったまま、斗貴子はゆっくりと壁の方に顔を向けた。
あの壁の向こうには何がある?
夫婦の寝室だ。
では、その押入れの中には?
早鐘の如く鼓動が打たれ、凄まじい勢いで心拍数が増加していく。

『いつまでもカズキと二人一緒に』

そうだ、あの“手”がある。
あの、願いを何でも三つだけ叶えてくれる“猿の手”が。
自分が何の気無しに願いを掛けてしまった“猿の手”が。
背中を一筋、また一筋と汗が流れ落ちていくのがわかる。
両の掌にも汗が滲む。こんなに冷たくなっているというのに。

『二人一緒』

自分では知覚していないが、斗貴子の全身は細かく震え始めている。
ある事実に気づいてしまったから。
それは斗貴子以外知りようのない、それだけに重大な事実に。
「斗貴子さん、どうしたの……?」
妻の突然の変貌に、カズキは少し驚いた。

19 :猿の手:2007/12/17(月) 21:36:15 ID:qcWsZqFp0
病院に駆けつけた時も、警察に説明を受けている時も、葬儀の時も、常に冷静に見えた斗貴子が
異常な程に取り乱している。
どうしたというのだろうか。
カズキの止まってしまっていた思考は、少しずつ動きを取り戻していた。
一方の斗貴子は身を硬くしたまま、寝室側の壁を凝視し続けている。

(私があんな願いを口にしたから……? 私が……私が望んだから……?)

(何故……? 何故、私はあの時“二人一緒”などと……。私達は“三人家族”だった筈なのに……)

(そうじゃない……そんな意味じゃなかったんだ……。アレはただ、夫婦のあり方として、
いつまでも一緒にいられればいいと……)

(私のせいだったのか……?」

自分の思考をつい口に出している事に斗貴子は気づいてはいない。
だが、確かにカズキは聞いてしまった。「私のせいだったのか」という呟きを。
カズキの胸が痛む。
斗貴子は自分を責めているのだと。何一つ悪い事はしていないのに、と。
カズキの視界が少しずつだが開けてきた。
これまでの自分がどうだったか。
ただ悲しみに身を任せ、泣いてばかりいた。
まひろの死が悲しいのは、自分だけではない。眼の前にいる妻もまた自分と同じように悲しかったのだ。
しかし、彼女は常に冷静と気丈を装い、妹を亡くしてからの自分をずっと慰め続け、励まし続け、
支え続けてくれた。
そう思うと、申し訳無さとカズキ本来の優しさが心の中に広がっていく。
カズキは腰掛けていたベッドから下り、絨毯の上にひざまずいた。
そして震える斗貴子を引き寄せ、抱き締める。
「そんな……。斗貴子さんのせいなんかじゃない。むしろ、斗貴子さんは今までよくやってくれたよ。
まひろはここにいられて、斗貴子さんといられて本当に楽しかったんだと思う……」
斗貴子の震えは治まらない。それどころか乱れる感情や流れる汗と共に、大きくなる一方である。

20 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 21:38:00 ID:Q9njGndc0
投稿規制?
いよいよ話が黒くなってきていい感じ

21 :猿の手:2007/12/17(月) 21:39:55 ID:qcWsZqFp0
「斗貴子さん、本当は夫婦二人水いらずで暮らしたかったかもしれないのに、オレのワガママで……」
その言葉にビクリと一際大きく身を震わせた斗貴子は、眼を見開き、息を詰まらせた。
(考えを見透かされた? 私が願った内容をカズキは知っているのか?)
「違う!!」
斗貴子は悲鳴とも怒声ともつかない絶叫を上げ、カズキを強く突き飛ばした。
ベッドの端に軽く背中をぶつけたカズキは眼を丸くしている。
「ち、違う……私は、そんな意味で願った訳じゃない……! そんなつもりは、なかったんだ……」
「斗貴子さん……?」
猿の手の事など記憶に留めていないカズキにとっては、斗貴子の言動は支離滅裂なものでしかない。
この場にいるのが誰か他の者なら、斗貴子は物の見事に錯乱していると思うであろう。
場合によっては、もしかしたら狂ってしまったのではないか、とも思うかもしれない。
夫のカズキでさえ、斗貴子のこの言動は長期間の連続したストレスによって軽く混乱している為と
認識しているのだ。
「本当だ……誓ってもいい……。本当なんだ……」
意味のわからない釈明をくり返す斗貴子の眼から、ポロポロと涙が溢れ出した。
ずっと堪えていたものが、ずっと溜めていたものが溢れ出してきた。
妻として、義姉として最低の願いを口にしたという後悔と自己嫌悪が、必死の思いで築き上げてきた
堤防に大きな穴を開けたのだ。
彼女の心から溢れ出すものは真赤な血の色をしている。それはまひろが流した血の色。
己という静かなる殺人者が手に掛けた、憐れな義妹の血。
斗貴子は頭を抱え、床に突っ伏してしまった。まるで土下座するかのように。
「だから、許して……」



カラス達が空に鳴く、夕焼けの頃。
斜陽が木々を燃えるような赤に染めていく中、寝室で古い木箱を前に座る斗貴子の横顔も
また赤く照らされている。
家の中にカズキの姿は無い。
『斗貴子さんは少し休んだ方がいいよ。オレの代わりに頑張ってくれたんだもの。今度は

22 :猿の手:2007/12/17(月) 21:42:11 ID:qcWsZqFp0
オレが斗貴子さんを支えるから……』
そんな言葉を残して買い物に出かけていったのだ。
カズキはほんの僅かに一歩を踏み出した。悲しみに囚われ続ける愚かしさから、ほんの僅かに。
それでも彼の悲しみが癒えるには、まだ長い長い時間が必要だろう。
もしかしたら、どんなに長い時間をかけても、一生を費やしても、その悲しみは癒されないのかも
しれない。
人が人を失うとはそういうものだ。

だが斗貴子は知っている。
その悲しみを瞬時に癒してくれるかもしれない“物”を知っている。
自分が犯した罪の悲しみも、大切な存在を失った二人の悲しみも。
だからこそ、もう一度この木箱を自分の前に置いているのだ。
「もしオマエが本当に願いを叶える魔力を持っているのなら……」
斗貴子は震える手で木箱の蓋を開ける。
「まひろちゃんの死が、私の願いを叶えた結果だと言うのなら……」
そして木箱から“猿の手”を取り出し、握り締めた。
握る手には止む事無く力が込められ、喉の奥から搾り出すような悲痛な声が洩れる。

「頼む! まひろちゃんを生き返らせてくれ! まひろちゃんを、私達に返してくれ……! これが、二つめの願いだ……」



[続]

23 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/12/17(月) 21:46:00 ID:qcWsZqFp0
どーもです。
中編、投稿出来ました。
あとはラストの後編を明後日に。

>ふら〜りさん
こういう願い事話は人間の弱さ、怖さ、愚かしさが浮き彫りになりますね。
今回はどの辺にそういったものがあるのか、いろんな解釈が出来るようにしてます。自信無いけど。
それと、ほのぼのとした日常ってのはホントに素敵なんですよね。ダークな話の次に書くのが好きです。

>ハイデッカさん
いつもテンプレありがとうございます&お疲れ様です。
ハイデッカさんも『猿の手』読まれてましたか! でもだいぶかけ離れたものになるかもです。
それにこのSSの錬金キャラの性格や設定なんかもおかしいかも。特にまっぴーとかカズキとか。

>>12さん
『世にも奇妙な物語』は好きでよく観てましたが、『猿の手』をやっていたとは知りませんでした。
お気に入りは星新一先生原作で故いかりや長介さん主演の『おーい、出てこーい』ですw
んで、斗貴子さんはちゃん付けなんですよ。武装錬金ファイナルで言ってます。一回だけ。

>>20さん
支援、ありがとうございます。
ええ、黒くなってきましたよぅ。ウフフ……。

だいぶ寒くなってきたんで、皆さん風邪など引かないように気をつけてください。
今年もあと少し。健康に年を越しましょう。
では失礼します。

24 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 21:48:29 ID:Q9njGndc0
お疲れ様ですさいさん。
前回のほのぼの三人生活から急激に不幸が振ってきましたね
猿の手って3つのお願いのやつでしたっけ?
3つ目のお願いが大オチでしょうが、ハッピーエンドになるかなあ?

25 :作者の都合により名無しです:2007/12/17(月) 23:54:56 ID:T0XehR/U0
http://www.s-ht.com/~tress/up2/up235.jpg

26 :作者の都合により名無しです:2007/12/18(火) 08:40:20 ID:3SVFwYgk0
>ハロイ氏
この作品も最後の引きでいよいよ動き出してきた感じ。
日常風景(特に会話部分)を書くのがとっても上手い
ハロイさんですけど、やはりネウロや全死が暴れるのを期待してしまいます。

>さいさん
さい氏って、まひろをバキスレで書くのは初めてでしたっけ?
戦場の中の悲しみよりも、日常に不意に訪れる悲しみの方が
斗貴子には辛いのかも知れませんね。元戦士とは思えない姿だったり。

27 :作者の都合により名無しです:2007/12/18(火) 14:09:38 ID:6QTJdtC70
ハロイ氏、このネウロも面白いです!でもヴィクテムレッドもそろそろ!

さい氏、この短編の締めと神父と火渡の物語の締め、楽しみにしてます!

28 :作者の都合により名無しです:2007/12/18(火) 21:37:44 ID:Qe4JiU850
そういやヴィクテムレッドってずっと見てないな
しかし良くこんなパターンの違う長編を3つ同時に連載できるもんだ

さいさんやスターダストさんもサイトで色々変なネタをあげてるけどw
ところどころに高い知性を感じさせる文脈があるし

職人さんたちは全体的に頭いい人多そうだね
変な人かもしれないけどw

29 :作者の都合により名無しです:2007/12/18(火) 22:21:53 ID:Qe4JiU850
誰かパート52をサイトに保管して
このままじゃおちちゃう

30 :作者の都合により名無しです:2007/12/19(水) 08:19:04 ID:xkvrZ4bw0
やっておいたよ。
簡単じゃないかw 自分でやれよww

31 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:00:56 ID:QYfQburL0
「世界を滅ぼす千の方法 @」


 ──08:15、教室内にて。面談者──李小狼、木之本桜。

「……『羽』?」
「うん。俺たちは色んな世界に飛び散った『羽』を求めて旅をしているんだ」
「それって、なんのためになんだ?」
「それは……『羽』がわたしの記憶の欠片だから。わたしの失った記憶を取り戻すために、
小狼くんも、黒鋼さんも、ファイさんも……それから、モコちゃんも、みんな力を貸してくれているの。
──ごめんね、黙ってて。でも、あなたを危険な目に遭わせたくないって、思ったから」
「……『危険な目』って、なにが」
「だって……あなたは、わたしと小狼くんの、大切なお友達だから」
「────。あ、あー、いや、そうじゃなくて……なんで『羽』を探してると危険な目に遭うんだって意味だけど」
「『羽』には姫の魔力が込められている。だから、『羽』の近くでは怪異が起こることが多いんだ。
その力に気付いた誰かが『羽』を手にすると、『羽』の膨大な力がその『誰か』に渡ることになる。
そのなかで姫の『羽』を取り戻すことは……常に危険と隣り合わせなんだ」
「……昨日の『ダーク・フューネラル』とかって奴とかか」
「実は、そのことで聞きたいことがあるんだ。
あの仮面の少年が使った力──『スタンド能力』というやつは、この世界の人間なら誰でも持ってるものなのかな」
「え、いや……あんな超能力、今まで見たことも聞いたこともないぞ」
「だけど、あなたは『スタンド能力』で小狼くんを助けてくれた。『次元の魔女』さんも、十和子さんも、そう言ってたよ?」
「無我夢中だったから良く覚えてねーよ……そりゃ、あの『ダーク・フューネラル』は、俺に『スタンド使い』の素質があるとか言ってたけど」
「そうか……阪神共和国の『巧絶』とはまた違う力のようだな。なんにせよ、君のその力で、俺も姫も助けられた。──ありがとう」
「お礼は昨日聞いたって」
「ううん。何度でも言わせて。小狼くんを守ってくれて、ありがとう。あなたのお陰だよ」
「あー、もー、勘弁してくれよ、そういうの……」

32 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:02:44 ID:QYfQburL0
 ──12:20、生物室にて。面談者──天色優、奈良崎克巳。

「やあ、高等部にまで足を運んでもらって悪かったね。僕の自己紹介は昨日済ませただろうけど、彼とはまだだったね?
──いや、僕もついさっき久しぶりに再会したばかりなんですけどね。
彼は天色優。僕の……元『同僚』と言ったところかな。彼も僕と同じ、合成人間なんですよ」
「はじめまして。天色優です。『ユージン』という名前も持ってるけど、君の好きなように呼んでもらって構いませんよ」
「……あの、奈良崎先輩。この人も女の子なんですか?」
「……それは興味深い質問だね。どんな意図でそんな質問が出てきたのか、ぜひ知りたいですね。
──おいラウンダバウト。貴様、彼にどんな説明をしたんだ」
「僕は彼になにも言っていないさ」
「え、いや……奈良崎先輩は男の格好してるけど女の子なんすよね。
この人……じゃなくて、天色先輩も女の子みたいな顔してるから、そうなのかなって。……すんません。失礼しました」
「ぐ……む、ま、まあ別に構わないよ。ただ、僕は男性型の合成人間だということさえハッキリさせてもらえればいいんです。
──なにが可笑しい、ラウンダバウト。笑うな」
「失敬。僕としたことがつい、ね。──さて、本題に入りましょうか。ユージン、例のスケッチブックを」
「分かっている。──実は、僕たちはこの『スケッチ』について君の意見を訊きたいんだ」
「……これ、なんのスケッチですか?」
「なにに見えますか?」
「『海岸に立つ女の人』。……でも、なんかこの人……『燃えて』いないすか? 炎に包まれているって言うか」
「やはり君にもそう見えるかい? ……詳しい話は省くけど、僕には『予知能力者』の友人がたくさんいるんです。
このスケッチは、そのうちの二人──鏡や瞳などに映る『未来のヴィジョン』を見る『イントゥアイズ』と、
未来の風景を自動書記する『オートマチック』による……いわば『合作』です。
これは僕の『瞳』に映った『予知』──つまり僕は、近い将来に『必ずこの光景を見る』ことになる」
「…………」
「そしてどうやら、この『女性』は本当に炎の中に立っているらしい。と言うのも──
この『スケッチ』に触発されて、『未来の音』を先取りして発声させる『ウィスパリング』が、激しい『燃焼音』に似た音を『予知』しているからです。
同時に、その炎に遮られるような『声』も聞こえた。それは炎の音にほとんど掻き消されていた為に、
男なのか女なのかも判然としないけれど──『未来の声』は確かにこう言っていました。
『明日というのは、今よ──明日、世界を引っ繰り返してやる』……とね」

33 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:05:59 ID:QYfQburL0
「なあ、ユージン。僕は疑問に思うんだが……その『声』がこの『炎に立つ女性』の発したものだという根拠はあるのかな?」
「そんなものはないさ、ラウンダバウト。だが、考えてもみろ。
この世に生きる者のうち、一体誰が炎に巻かれた人間を前にしてそんな物騒なことを言える?
むしろ、業火の中にあってなお立つ人間だからこそ、そんなセリフが出てくるんじゃないのか?
そう──この『炎の魔女』以外に、この『言葉』を言える者がいる可能性は低いだろう、というのが僕の見解だ」
「ふむ……物的証拠にはほど遠いが、君の発言には得体の知れない説得力がありますね。
ならば、その件は保留ということにしておこう。──続けてください」
「……まだいるんですか、天色先輩の知り合いの『予知能力者』」
「あと二人ほどですよ。──未来の『匂い』を嗅ぐ『アロマ』は、僕の身体から発する『向日葵』の匂いを『予知』しています。
そして、最後の──『最も完全に近いかたちの予知能力』ながらも、『曖昧な言葉でしか表現』できない『ベイビィトーク』が、
『羽みたいなものを追っかけてる奴がとんでもなくヤバい』『誰にも止められない感じがする』『誰かに似た人、とかなんとか』
──というような『予知』を残しました。これら全ての『予知』を総合して、僕はこの『杜王町』に危機が迫っていることを知り、ここに来たんです。
全ての『予知』が『実現』したときに起こるであろう、『世界の危機』を退けるために、ね。
さて、僕が訊きたいのはここからです。今僕がした話で、なにか思い当たる事はありますか?」
「……あー。えーと……」
「ユージン、もう少し相手の理解を待ったほうがいいですよ。見たまえ、彼は思いっきり引いている」
「いや……最近はこんなことばかりで、別に引いたりとかはないですけど……一つだけ質問してもいいすか」
「なんなりと」
「それだけの情報で、その『予知』の場所が杜王町だと……なんで分かったんすか?」
「ああ、それは簡単なことですよ。自慢じゃないが、僕は単式型なので情報分析能力にも特化していましてね」
「…………?」
「『スケッチ』をもう一度見てくれますか? この海岸の隅に……ほら、『ヒトデ』が描かれているでしょう?
実は、このヒトデは、かなり限定された地域にしか生息しない新種のヒトデなんです。
それと『スケッチ』に描かれた海岸線を元に、この町に限定して『予知』の起こる割り出したというわけなんです。
ちなみに、この『Kujo sea star』が発見されたのは十数年前……海洋学者の空条承太郎氏が、奇しくもこの杜王町で発見した生物です」
「……そうすか。でも……俺、なにも思い当たる事はないっす」
「そうかい? じゃあ、どんな些細なことでもいい、気が付いたことがあるなら、この僕か、こっちのユージンに教えてくれるかな?」
「あ、はい。それはもう」
「よろしく頼みます。──ああ、そう言えば、ラウンダバウトから聞いたけれど、君は『スタンド能力』という特殊能力の持ち主らしいですね?
もしも君がその『能力』について深く知りたいなら、僕に心当たりがありますよ。連絡を取ってみましょう」

34 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:10:03 ID:QYfQburL0
 ──16:00、広瀬宅の客室にて。面談者──静・ジョースター。

「お待たせしました。紅茶で良かった?」
「あ、いえ、紅茶好きです」
「そう、良かった。──優くんと克巳さんから聞いているわ。ごめんなさい、わざわざ家にまで来てもらって。
今日はちょっと用事があって、早く家に帰らなきゃいけなかったから」
「え、じゃあ俺邪魔じゃないんですか」
「そんなことないよ。同じ『スタンド使い』なんだから、遠慮しないで。今、家の人いないから大したお構いもできませんけど、楽にしてね。
──どうしたの? 冷房の効き弱い? 暑いの?」
「ぜ全然暑くないです、はい」
「ふふ、変なの。お砂糖は?」
「あたし三つね」
「あ、じゃあ俺は一つで──って、あれ? ……と、遠野先輩!?」
「ハロー」
「い、いつからそこに?」
「最初からいたっつーの。あんたさあ、女の子の部屋に入ったの初めてでしょ。
もー、可笑しかったわー。ガッチガチに緊張して床しか見てねーんだもの。……マジであたしがいることに気付かなかったの?」
「ちょっと十和子、なに言ってるの?」
「あんたもあんたよ、静。初対面の人間をほいほい家に上げるもんじゃねーわ。相手が強盗だったらどうする気さ?」
「そんな、失礼だよ。優くんからも聞いてるし、克巳さんだって──」
「はん。奈良崎ちゃんも、それから、あの……天色だっけ? あいつらとだって知り合ったばかりじゃない。そんなのの紹介がなんの保証になんの?」
「そんな言い方──」
「だからあんたは甘ちゃんだっての」
「十和子みたいな鼻につく物の言い方なんか嫌だもん」
「あのー、二人とも……そろそろ本題に……」
「あ、そうそう。ごめんね? 『スタンド』について教えてあげればいいんだったよね? ──なんか、先生になった気分」
「じゃあ、あたしは見張番ね」
「……なにを見張るの?」
「いやいや、お構いなく。あたしはただのオブザーバーに徹するから、いないもんだと思って『スタンド』とやらの話をしてちょーだい。──ほら、話せって」
「そ、そう? ……それじゃ、いい? 『スタンド』っていうのはね──」

35 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:14:00 ID:QYfQburL0
 ──20:30、自室にて。

「……だはぁ」
 なんともだらしのない息を吐いて、南方航は制服姿のままベッドに突っ伏した。
「なんか……疲れた」
 シーツに顔を押し付けて、夏の日差しが残る布の匂いを嗅ぎながらも、航の頭の中身はぐるぐるありえないトルク量で慣性運動を行っていた。
 朝から夕方にかけて、様々な場所、様々な人物に叩き込まれた情報のせいで脳焼けを起こしかけているような気がする。
「『羽』と……『予知』と……『スタンド』……?」
 小狼とサクラと出会ってからのここ最近、どうも自分の理解を振り切るような話が多すぎた。
 それらの根本的な理解を求めて、『そのこと』を知っていそうな人物と話す機会を持ってみたわけだが──、
「話がデカすぎる……」
 事情を知る者の口から語られる途方もないスケール感が、結局は理解を妨げることとなっていた。
 いや──それでも『自分のこと』として実感できた収穫がある。
「俺が……『スタンド使い』?」
 小狼とサクラの友人である奈良崎の知り合いである天色優の友人である、という、なんだか迂遠過ぎて
『そこら辺歩いてるやつに声かけるのと変わらない』って微妙な感じの縁で自宅へ訪問した少女、静・ジョースターによれば、
『スタンド使い』の第一条件は『スタンドが見える』ということらしい。
 それが事実なら、自分は確かに遠野にも奈良崎にも『見えな』かった『スタンド』を『見た』わけで、
『スタンド使い』の必要条件を満たしていることになる。
 精神を具象化した『力ある』ヴィジョンを発現させ(例外はあるが)、それを操ることで『眠れる才能』を自在に行使する『能力』──『スタンド』。
「だけど……出てこないよな、俺の『スタンド』」
 寝返りを打ち、仰向けになると、見慣れた天井が航の目に飛び込んでくる。
 もしも航が本当に『スタンド使い』だと言うのなら、ぜひともこの目でもう一度『スタンド』を見て確信を持ちたいところだったのだが、
あの静・ジョースターという人は「『ヴィジョン』を持たない例外的な『スタンド使い』」だということで、航の「確信したい」という欲求が満たされることはなかった。
「あの静って人……俺のこと、からかってるんじゃないだろーな。いや、でも……あの人『消えた』からなあ……」
 彼女の『スタンド』である『アクトン・ベイビー』を目の当たりにしたときは本当に驚いた。
 だが──驚いただけである。
 静・ジョースターが『スタンド使い』であることは信じてもいいかも知れないが、それは航が『スタンド使い』であるということとイコールにはなり得ない。
 昨日の夕暮れの戦闘で自分が見たもの──あの『ダーク・フューネラル』は、もしかしたら幻で、
謎の敵の攻撃を受けて錯乱した自分が勝手に脳内ででっち上げたものなのかも知れないとまで、航は考え始めていた。

36 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:37:06 ID:QYfQburL0
「なあ、俺の『スタンド』、よ……いるならちょっくら出て来いよ」
 返事は無し。
 なんだか自分がとんでもなく馬鹿な──それこそ、かめはめ波とかの練習をしているような──ことをしている気になって、不意に虚しくなる。
(あー、やめやめ!)
 そんな気分を振り払うように、がばっとベッドから身を起こし──また仰向けに倒れた。
 なんだか胸にしこりがあるような気がして──ふと、思い起こす。
(遠野先輩がいたのにはビックリしたな……あの人たち、知り合いだったんだ……)
 そして、小さな疑問が浮かぶ。
 元々独言癖のある航は、いつものノリで無意識のうちにそれを口に出していた。
「なんで、俺は驚いたんだ……?」
“そりゃお前、『なんか大人の階段とか登れそうな超素敵なこと』を期待してたからだろ? 違うか? え? この童貞野郎”
 いきなり返事が返ってきたことに、航はそれこそ冷や水でもぶっ掛けられたように飛び起きた。
 上下左右に目を走らせる──なにも無し。
“いやいや、俺ぁそいつが悪いことだとは言わねーよ。そんくらいの妄想力が無けりゃ、ヒトっつー種はとてもじゃねーが存続できねーからな”
 なんだか物凄く乱暴な口調の声の後に、けけけ、というかなり下品な笑い声までついてくる。
「ど、どこだ! どこにいる!?」
“どこってこたねーだろ、この間抜け。てめーの目の前にいるぜぇ”
 はっとなって前方を注視する。そこには、乱雑に散らかった勉強机しか見えない。
“本当にてめーはダメなやつだな。丸出ダメ夫だな。いっぺん死んどく? けけけけけッ!”

37 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/19(水) 13:38:47 ID:QYfQburL0
 目に見えぬ声の主を捜し求め──窓に映った自分の姿を見る。
“俺様はここにいるぜ。お前が生まれたときから、ずーっっとな”
 その背後に……かたちもおぼろげな『なにか』がいた。
“見えたか? 気付いたか? そいつが俺様だ。感覚の目でよーく見てみろ”
 混乱した航だったが、そのなかで辛うじて冷静な自分が告げている。『こいつの言っている事は正しい』、と。
 なので──その通りににした。見るでもなく、見ないでもなく──『そいつがそこにいるのが本来のあり方』だと信じるように。
 昨日の夕暮れ、『敵はそこにやってくる』と信じて疑わず、それゆえに『ダーク・フューネラル』の姿を見たときのように。
 さっきの取り乱し方がまるで嘘のように、ゆっくりと振り返り、そして──確かに、『そいつ』は『そこ』にいた。
 自分のすぐ側──机の上に腰掛けていた。
 『そいつ』を一見した印象は、「なんか銀食器みたいな細工物」だった。
 細く、鋭利で、薄べったく……そんな質感の手足のようなものを持つ──人型の『なにか』。
 その表面は、ぴかぴか銀色に輝いていた。
“よお、間抜け。十四年待ったぜ”
「お前……『スタンド』……なのか? お前……」
 静・ジョースターの言葉は──あの『ダーク・フューネラル』の存在は、紛れもない真実だったのだ。
 『眠れる才能』──『スタンド』。名も無き『可能性』がこの世に誕生したとき、『それ』はなんと呼べばいいのだろう。
「お前……名前? とか、あるのか?」
“『メタル・グゥルー』”
 『そいつ』──『メタル・グゥルー』は傲然とした声で名乗りという産声を上げ、ひとつの『可能性』がこの世に実現したことを宣言した。
“STAND BY YOU!!”

38 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/12/19(水) 13:45:04 ID:QYfQburL0
詰め込みすぎな気もしますね。読み飛ばされますね。自分の首絞めてますね。

39 :作者の都合により名無しです:2007/12/19(水) 20:28:39 ID:EskPQmLf0
スタンドとは心のチカラ・・
静との邂逅によって航も運命が変わりましたな
静と航は何か素敵な関係になるのだろうか
世界を滅ぼすようなチカラを持ちえた同士として。


40 :作者の都合により名無しです:2007/12/19(水) 21:19:57 ID:xkvrZ4bw0
確かに登場人物と特殊語句が多くてちょっとこんがらがってきたw
でも、会話の妙とかテンポとかがすごく好きです>ハロイ氏の作品
十和子の世慣れた口調と静の処女処女したしゃべり方のやり取りとか。
メタル・グゥルーはどう活躍するスタンドかな?



41 :作者の都合により名無しです:2007/12/20(木) 06:20:31 ID:uDIlT91q0
スタンドは突然発動型と
生まれた時からの2タイプあるんだったっけ?
静香のは後者でメタルグルーは前者だな

でも、意志を持ったスタンドはなんか高級なイメージがある
アクトンベイビーよりメタルのが格上っぽい

42 :作者の都合により名無しです:2007/12/20(木) 09:43:03 ID:/W6povL60
ハロイさん鬼更新モード突入か?
次はヴィクテムをお願いします


43 :作者の都合により名無しです:2007/12/21(金) 08:26:43 ID:o4ndKPK90
ハロイ氏はご自身のサイトはもう更新しないんですか?

44 :ヴィクティム・レッド:2007/12/21(金) 13:43:44 ID:U2wOPSGG0
 ニューヨーク・マンハッタン島──カリヨンタワー。
 その情報管理セクションの一室で、ひっそりと端末を操作するハイティーンの少女がいた。
 照明の消された室内、ディスプレイの発する光だけが彼女の頬を青白く照らしている。
 ふと、キーボードを叩く手を休め、傍らに置かれたティーカップに口をつける。
「……やはり、エグリゴリのデータバンクが外部からの侵入を受けた形跡はないか。
ESP能力者を殺して回っている『犯人』は……エグリゴリ内部の者ということかしら」
 少女──バイオレットは誰に言うでもなく、その推論を口に上らせた。
 やがて疲れたように首を振り、瞳を閉じて椅子の背もたれに体重を預ける。
 掌で包み込むようにカップを持ち、その熱に浸る。
「わたしは……わたしたちは、いったいなにをやっているのだろうな……」
 ある一つの目的のために、世界中のすべてを巻き込んで不気味な回転を続ける組織──『エグリゴリ』。
 その活動の全体を把握しているのは、バイオレットの兄にしてエグリゴリ最高責任者であるキース・ブラックのみで、
その他の全ての構成員は、それぞれ断片的な情報しか与えられていない。
「ブラック兄さん……あなたはなにを考えているの……?」
 今、バイオレットがこうして任務に従事していても、それが本当はどんな意味を持っているのか、
エグリゴリの最重要計画『プログラム・ジャバウォック』に対してどんな影響を与えるのか、
自分はエグリゴリの中でどんな役割を演じることになっているのか──少しも想像できない。
 その途方も無く巨大な機構に身を置いていると、自分の価値というものがまるで無意味なように思えてくる。
 まるで自分が、取替えのつく部品のようで──。


 バイオレットは今でも夢に見る。
 ナノマシン群体兵器である『ARMS』を身体に移植するため、各種クローニング処理を施された上で生まれたキース・バイオレットが──
その身に宿したARMS『マーチ・ヘア』の機能を発現させたときのことを。
 そこには、途方もない虚無があった。
 ほんの数秒前までは『人間だった』研究員たちの肉塊の山──半壊した施設──燃え盛る火炎の海。
(ワタシハダレ?)
 この状況をもたらしのが自分ならば──この虚無をこの世界に押し広げるのが自分の生きる意味であるのなら──、
 自分はいったい何者であるのか。
 エグリゴリという一個の運動装置は、自分をどこに連れて行こうというのか。

45 :ヴィクティム・レッド:2007/12/21(金) 13:45:02 ID:U2wOPSGG0
(ワタシハダレ? アナタハダレ?)
 バイオレットは、目の前に立つ自分とそっくりな──虚無の世界の中に平然と立つ、まさしく虚無の権化のような少年へ、思わず訊ねていた。


(あの時……ブラック兄さんはなんと答えたのだったかしら)
 紅茶を再び口に含むが、まるで味を感じなかった。なにか喉に引っかかるような感じがして、つい眉をしかめる。
「この紅茶も不味いわね……」
 溜め息とともに、ティーカップをソーサーに置く。
 これからしなければならないこと──任務に思いを馳せるが、なぜか行動に移る気が起こらず、
椅子に深く腰掛けたままで別のことを考える。
 それは弟と妹のことだった。
 レッド、グリーン、セピアたち……キースシリーズの次兄であるシルバーが『出来損ない』と評した子ら。
 バイオレットから見ても、確かに彼らはどこかが違っていた。
 感情過多で、失敗を犯しやすく……それこそ、『人間』のような子供たち。
 バイオレットを含む「上の」キースシリーズたちの冷淡な態度とは似ても似つかない言動。
 彼らの持つキースらしからぬ欠陥性こそが……いわゆる『心』というものではないだろうか。
 だとしたら──その「欠陥」を持ちえぬ自分には、やはり……。
 ふと、バイオレットは端末のキーを叩き、あるファイルを呼び出す。
 そこに記されている個人情報をじっと見つめる。
 『ママ・マリア』──ブラックハーレムに住む老婆。
 『リーディング』と呼ばれる接触観応能力の持ち主で……人の『心』を読む女性。
 バイオレットは、これから彼女を護りにいかなければならない。
 ESP能力者を狩る『犯人』お特定するためにも。だが──。
 なんとなく気が進まないことをバイオレットは自覚していた。
 それはきっと、彼女に会うことで「自分には心が無い」ことを看破されるのを怖れているからだろう。
「……なにを考えているんだ、わたしは。──馬鹿馬鹿しい」
 苛立たしげにファイルを閉じる。
 すっかりぬるくなった紅茶を飲み干し、再び端末に向かったとき、室内の照明が点けられた。
「こんなところでなにをしておいでですか? サー・バイオレット?」

46 :ヴィクティム・レッド:2007/12/21(金) 13:46:46 ID:U2wOPSGG0
 振り返ると、戸口に二人の男が立っていた。
 一人は情報官らしき白衣の男で、もう一人は黒服のエージェントだった。
 おどおどとした感じの情報官とは対照的に、黒服の男は鋭い視線でバイオレットを見ていた。
「……任務に必要な情報照会だ。お前たちには関係ない」
 根拠のない不穏な空気を感じ取ったバイオレットは冷たい声音で応え、顔はそちらに向けたままで端末を操作して全てのファイルを閉じる。
 その動作を見咎めるように、黒服の男が一歩近づく。
「今、なにを? 見られてまずいものでもあったのですか?」
「関係ないと言っている。貴様の所属はどこだ? なんの権限があって、シークレットエージェントであるわたしの行動に干渉する?」
 奇妙な場の緊張が、徐々に高まっていく。
 なにかがおかしかった。
 黒服の男の態度は、まるでバイオレットがなにかの「悪いこと」に手を染めているとでも言いたげで──、
「関係はありますよ」
「……なに?」
「貴女に機密漏洩の嫌疑が掛けられています、サー・バイオレット。
貴女のIDで超心理学部門の監視リストが外部に流出された形跡のあることを、彼が発見しました」
「なにを言っている? わたしが……なにをしたって?」
「どうか大人しく事情聴取を受けていただけませんか?」
 と、歩み寄る黒服がバイオレットの腕を掴んだ。
「気安くわたしに触るな!」
 反射的に振り払った手が黒服の頬を打ち、彼はわずかに後ろに仰け反った。
 しまった、という悔恨がバイオレットを襲う。ここで強硬な態度に出る必要は少しも無かった。
 だが──、
「……ククク」
 黒服がにやりと笑ったことで、それとはまったく別の……戦慄が取って代わってバイオレットを打つ。
「貴女たちキースシリーズはいつもそうだ……いつだって傲慢で、自己中心的で……自分だけが正しいと思っている」
 そう言いながら懐に手を差し込み、
「だから……死ぬべきだ」
 そんな唐突な言葉を吐いて、次の瞬間には右手に握った拳銃をバイオレットに向けて撃っていた。

47 :ヴィクティム・レッド:2007/12/21(金) 13:49:28 ID:U2wOPSGG0
 ぱん、と乾いた音がする。
 銃口から放たれた銃弾は、バイオレットの耳元を掠って端末のディスプレイにめり込んだ。
「貴様……なんのつもりだ!?」
 咄嗟の判断で銃身をつかみ、その狙いを乱したバイオレットが敵意も露わに相手を睨む。
 黒服は無言。もう片方の手で懐からもう一丁の拳銃を取り出す。
 それよりも先にバイオレットが動く。つかんだままだった銃身をもぎ取り、黒服を思い切り蹴り飛ばした。
 床にもんどりうった黒服は、それでも膝立ちの態勢をとり、取り出した拳銃の照準をバイオレットに固定する。
 再び、銃声。
 数拍の間を置いて、黒服が構えた拳銃を取り落とす。そのまま──うつ伏せに倒れ、絶命。
 心臓から流れ出す血がじわじわと周囲に広がっていく。
 微かに硝煙の立ち昇る銃を手に、バイオレットが低くつぶやく。
「愚か者が……」
 ひいっ、という小さな悲鳴を聞き、そちらを見ると──白衣の情報官が恐怖に歪んだ瞳でバイオレットを見ていた。
「おい……」
 この状況の説明をしようとし、或いはこの状況の説明を求めて彼に声をかけるが──
なにを勘違いしたのか、情報官はさらに大きな悲鳴をあげて戸口へと駆け出す。
「待て──!」
 それを追いかけようとするバイオレットだったが、
「ククク……」
 死んだはずの黒服が顔を持ち上げて笑っているのを見、身体が強張る。
「馬鹿な……心臓を撃ち抜いたはず……」
「キースシリーズもESP能力者も、全て人類の敵に他ならない」
 口の端から血を垂れ流し、明らかな死相を顔に浮かべながらも、そいつは異様なまでに明瞭な口調で述べていた。
「だから私は貴様たちを殺すのだ。そう、我が名は──」
 ぱん。
 バイオレットの二度目の銃撃が男の脳幹を破壊し、そこでようやく沈黙が訪れた。
 注意深く経過を見守るが、再び声を発する気配はなし。
「……こいつが『犯人』ということか? だが、心臓を破壊されても活動できるとは……新型のサイボーグなのか?」
 しばらく不気味なものでも見るように、その男の死体を眺めていたバイオレットは、ふと我に返る。
 情報官はとっくにどこかへ逃げてしまっていた。

48 :ヴィクティム・レッド:2007/12/21(金) 13:50:39 ID:U2wOPSGG0
 とにもかくにも、『犯人』がこの男だというのであれば、それを裏付けるための情報を集めなければならないだろう。
 まずは逃げ去った情報官を捕まえ、事情を聞かなければならない。
 彼はバイオレットが能力者のリストを外部に流出させたと思っているようだが、
それは彼女を陥れるための何者か(多分、今しがた射殺した男)による工作だろう。
 その改竄された情報を発見した経緯を辿ることが、現時点で唯一の『犯人』の手掛かりだろう。
 或いは、他にも『犯人』がいるのかも知れない。その全てを排除せねば、任務は終わらない。
 端末室から足を踏み出したところで、銃声を聞きつけたと思しき警備兵がバイオレットへと駆け寄ってくる。
「どうしました、サー・バイオレット」
「叛乱分子を確認。わたしが射殺した。至急、このエリアを封鎖し、わたしの言う人物を確保しろ」
「了解しました」
 そう言って、警備兵は手にした自動小銃のセーフティを解除する。
「その人物は本件の重要参考人だ。外見特徴は三十代半ばのユダヤ人で──おい、なにをしている!?」
 異常に気付いたバイオレットが飛びのいた空間を、自動小銃の弾幕が薙いだ。
 弾痕で穴だらけになった廊下に立つ警備兵がにやりと笑う。
 その形相に、バイオレットは思わず息を呑んだ。
「ククク……」
 先ほどの黒服とは人種も年齢もまったく違うのに──その貼り付いたようなにやにや笑いは、驚くほどそっくりだった。
「いけませんな、サー・バイオレット。人が話しているときに、銃弾を脳天に撃ち込むような真似は無礼ですぞ」
 と、警備兵はまるでその現場を見ていたかのようなことを言う。
 だが、その場にいたものは、バイオレットと射殺した黒服しかいなかったはずで……、
「どこまで話しましたかな……ああっと、そうそう、我が名は──」
 わけの分からない焦燥に駆られ、バイオレットの二連射撃。
 二発の銃弾がそれぞれ警備兵の眉間と口元に着弾した。
 それこそ逃げるように、その場から離れる。背後で警備兵の倒れる音が聞こえたが、振り返りもしなかった。
(なんだ、これは……? なにが起こっているの?)
 シルバーかブラックに連絡を取ろうと、上着のポケットから携帯電話を取り出しかけ、
「────!」
 廊下の突き当たりで、女性研究員がこちらへ銃を向けていることに気付く。
「我が名はシモンズ……複数形のシモンズ。『熱心党』のシモンズ」
 女性研究員の顔に貼り付く──さっきとまったく同じ、にやにや笑い。

49 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/21(金) 16:40:34 ID:U2wOPSGG0
「世界を滅ぼす千の方法 A」


「『メタル・グゥルー』……俺の『スタンド』……!」
 航は驚愕と興奮の入り混じった、新しいおもちゃを手にした子供のような視線で、目の前の『そいつ』を見ていた。
 今すぐ窓を開けて、大声で快哉を上げたい衝動に駆られる。
 銀色に光り輝く『メタル・グゥルー』のボディが、とんでもなく格好のいい物に感じられ、誰構わず自慢をして回りたいと思った。
 こうなってくると、『スタンド』は『スタンド使い』にしか見ることができない、という、静・ジョースターに教えてもらったルールが少し恨めしい。
“どうしたよ、そんな間抜け面して。俺様の超イカすフォルムに見とれてるのか? 気持ちは分かるが馬鹿丸出しだぜ?”
「ち、違ぇよ! 誰が見とれるか!」
 実際はそいつの言うとおりだったのだが、『メタル・グゥルー』の蔑むような口調にむっと来たのでつい否定する。
「お前……『スタンド』なんだろ? なんか『能力』、持ってるんだろ?」
 『スタンド』のルール──『スタンド』は多くの場合、一体につき一つの『特殊能力』を備えている。
“……見たいか?”
「見たい」
 航の首肯に応えるように、『メタル・グゥルー』はふわりと宙に浮かび上がった。
 そして、ナイフのような鋭利さを持つ腕を大きく振り──さっきまで『メタル・グゥルー』自身が座っていた勉強机を、
上に乗っていた雑多なガラクタや参考書、ノートもろともに、袈裟懸けの軌道で真っ二つに切り裂いた。
「な……なにすんだよ!」
“今のほかにどんな『能力』が見たい? うけけけけけッ!”
 耳障りな声で大爆笑する『メタル・グゥルー』を押しのけて机へ駆け寄る。
 半分に別れてしまった参考書などには目もくれず──、
「嘘だろぉ!? お年玉で買った『ヴルトムゼスト』のプラモがっ!? これ三万近くもしたんだぞ! どうしてくれるんだよ!」
“お前さあ、プラモとかそーゆー趣味は不健全だと思うぞ。男なら──美少女フィギュアを買え。
最近のは出来がいいそうじゃねーか? ええ? 魔改造とか極めよーぜ? けけけッ!”
 まったく悪びれた素振りを見せない『メタル・グゥルー』へ、航はなにか落胆に近い感情を抱く。
 話を聞いた限りでは、『スタンド』というものは自分の思い通りに動いてくれる影法師ようなものだと思っていたのだが、
“しかしさあ、てめー、あれじゃね? 俺様に対する口の利き方がなってないんじゃねーの?”
 ──こいつは、それとはまったく逆のような言動しか取らない。

50 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/21(金) 16:41:47 ID:U2wOPSGG0
「く、口の利き方って……そりゃこっちのセリフだろ! 俺が『本体』なんだぞ!」
 逆上気味に航が詰め寄ると、『そいつ』は心底冷めたような声で“はん”と嘲り笑った。
“なんも分かってねーな、てめーは”
「な──」
 つい、その雰囲気に呑まれて押し黙る。
“俺様がさっき名乗った名前、聞いてなかったのか? それとも──てめーの足りねーオツムじゃ英語が理解できなかったか?”
 そう言うや、銀色の四肢を振り回して空中三回転を披露する。
“いいか? 俺様は『銀ぴか導師(メタル・グゥルー)』なんだぜ? 流線形にシルバーの──未来の伝道師様々だ。
つまり……てめーは俺様の弟子なんだから俺様に師礼を取らなきゃダメなんだよ! そこんとこ分かれよ、ガキじゃねーんだからよ!”
「弟子って……俺がか? お前の?」
“たりめーだ。馬鹿でちんちくりんで間抜けな『本体』であるところのてめーを善導するのが俺様の使命なんだよ”
 これでもう充分だろう、という風に『メタル・グゥルー』は頷いてみせ、鋭い手先を航に突きつけた。
“よし、どちらが上かはっきりしたところで……話し合おうぜ”
「……なにを?」
“てめー、そこは『なにをでございましょうか』だろうが、この馬鹿弟子。
そんでもって、なにを話すかは決まってるだろ? ──世界の滅ぼし方だ”
 話がいきなりブッ飛んだ方向に切り替わったことで、航は目を白黒させる。
 ──世界を、なんだって?
 だが、『メタル・グゥルー』はそんな彼を置いてけぼりにしたまま、金切り声と紙一重の耳に障る声で勝手に先を続ける。
“ま、確実なセンを狙うなら、五十年計画でじっくりいこうぜ。
俺様の指示通りに動けば、五十年後にはてめー自身──は無理だが、てめーの影響下にあるヤツを核ボタン将校の座に付けてやるよ。
幻のボタン十六連打で世界はドッカーン、よ。どーだ? 楽しくなってきただろ?”
 楽しい楽しくない以前に、航には『メタル・グゥルー』の言っていることがさっぱり分からなかった。
“それともアレか? もっとじわじわ路線で攻めたいか?
だったら馬鹿なてめーにはちょっとキツい道だが、ナノマシン研究に血道を上げてみるか?
ナノマシンの爆発的増殖による世界崩壊──『グレイ・グー』を狙うのも、一昔前のSFっぽくてオツなもんだぜ”
 こいつはなにを言っているんだ? なんで俺が世界を滅ぼさなけりゃならないんだ?
 誰がそんなこと頼んだ?
「──ま、待てよ」

51 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/12/21(金) 16:43:56 ID:U2wOPSGG0
“なんだよ。待ってもいいが、時は金なり、タイムイズマネーなり、だぜ”
「俺……別に世界なんて滅ぼしたくないんだけど」
“ご冗談でしょう、ファインマンさん──つっても、教養のないてめーじゃこのギャグ理解できないんだろうな。あー、かわいそ”
 言うことがいちいち癇に障る。
 わざとそういう言い方を選んでいるのか、それとも元々デリカシーがないのか──どちらにしてもろくなものではない。
“ま、それはそれとして、だ──。そりゃちょっとおかしいな。なら、なんでてめーは俺を生み出したんだ?
俺ぁ、てめーの分身……とまでは言いすぎだが、てめーの『可能性』の一部だ。
もしも、てめーにそんな気がまったくないんだったら、もっと別の『スタンド』としててめーの前に現れてるはずだろ?”
「え、いや……知るかよ、こっちだってお前のようなのが『スタンド』だなんて思ってもみなかったし」
“まあ、いーんじゃねーの、そんなこたぁ。つーか、そんなにおかしなモンでもないだろ。
健全な精神の持ち主なら誰だって『この世界をブッ壊したい』って思ってるぜ?
もし仮に、そんなことを微塵も考えてねーやつがいたら──そいつは極めつけの危険人物だ。
さっさとそいつの目の前から逃げるか、妙なことやらかされる前に殺すかしたほうがいいぜ”
 まるで根拠のない決め付けだが、航にはそれに反論する言葉が浮かばない。
 こうも自信満々に言い切られると、それが正しいことのように思えてしまう。
“とにかく、この俺様が現れた上は、恙なく世界を崩壊に導いてやる。泥舟に乗った気持ちでいろ”
「泥舟って……大船だろ。泥だと沈むじゃん」
 『メタル・グゥルー』の大言壮語についていけなくなった航は、とりあえずツッコミやすいところからツッコむが、
“馬ァ鹿。マジで知性のカケラもねーな、お前。この場合はこれでいーんだよ。世界を恐怖のズンドコに沈めるんだからよ”
 逆手に取られて罵られてしまう結果に終わる。
 どうやら、自分にはこいつより優位に立つ事は不可能のようだった。
 なにか狐にでもつままれたような心持ちで、最後に残る素朴な感想。
「……どうでもいいんだけどさ、お前の言う『世界の滅ぼし方』って……手間が掛かり過ぎないか?」
“おいおいおいおい、これだから今日日のガキは我慢を知らねえって言われるんだよ。
いいか、腐っても世界だぞ? そんなんを滅ぼすのに、お前、手間を掛けるのは当たり前だろうが。
カップラーメン作るんじゃあねーんだからよおー。あーあー、嫌だねえー、これだからインスタント世代は。
……しかしまあ、方法は無くもないけどな。五秒で世界を滅ぼすやり方もあるっちゃあ、ある”
「──あんの? どうやって?」
 その質問に対する答こそ、五秒で済む代物だった。
“手首切れ。それで世界は終わりだ”

52 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/12/21(金) 16:49:30 ID:U2wOPSGG0
「世界を滅ぼす〜」は多分次回までなので、短めですがキリのいいところでAを終わらせました。

53 :作者の都合により名無しです:2007/12/21(金) 18:50:12 ID:ruLlF9wi0
ヴィクテムきたー!
バイオレット姉さんが相変わらず素敵だ
いっそこのままヴィクテム・バイオレットにしちゃってもw

54 :作者の都合により名無しです:2007/12/21(金) 19:02:58 ID:fd5KdnbT0
ハロイ氏乙

3万のプラモを破壊するとは恐るべき能力・・・ってのは兎も角
なにかこの会話の中にグゥルーの能力の秘密が?
影響下にある人間なら核ボタン将校に、ってことは他人の精神に関与するのだろうか
でも次の発言で馬鹿なてめーには、ってことは本体にもなにかできるのか、
それとも知識だけならもってるから自分でなんとかしろって意味で言ってるのか
頭はいいけどDQN、って性格のスタンドなんだろうかw
これからが開花する能力が楽しみですなぁ

そして唐突に話を変えて手首を切っても5秒じゃあ…
かのジョセフ・ジョースターは丸ごと斬り落とされても
数分くらいは活動してたし、海に落ちれば水によって出血が増す筈なのに
タイムアウト前に漁船がきて生き延びた経歴が・・・。
波紋効果か?

55 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:21:31 ID:fdhk1NtY0
第029話 「斜陽の刻 其の壱」

電話を切ると千歳はため息をついた。
現在寄宿舎にいるのは彼女を除けば、桜花(と御前)、防人、そして
斗貴子。
非戦闘員とようやく怪我から復帰した男、まだ入院が必要な戦士。
もし秋水が奇襲にしくじった場合、なだれ込んでくるであろうホムンク
ルスたちに対してあまりに無力である。
それにムーンフェイス。
彼ほど後世、次々と世界に害悪を振りまいた者も少ないであろう。
この時期ではまだ目覚めていないが、彼の手によってホムンクルスに
改造された戦士・剣持真希士は、その顛末によってカズキと斗貴子の
心に深い傷を残す事となる。
更にカズキと斗貴子の子息、武藤ソウヤが今の彼らと同じ年になる頃
には、ムーンフェイスの作り出した真・蝶・成体なる怪物によって地球
は後輩の憂き目に遭う。
いずれも発覚時には「ムーンフェイスならば」と即座に納得させれるだ
けの邪気を彼は平素から冗談めかしながらも漂わせている。
きっと残党の結集を教えたのも何らかのブラフであろう。
例えば残党をオトリにして、ムーンフェイスが直接襲撃をかけてくる
事もありうる。そもそもココにいる防人に敗北したからこそムーンフェイ
スは戦団にて拘束の憂き目にあったのだ。復讐戦を目論んでいても
不思議ではない。
「戦士・斗貴子。キミは病院にいた方がいい」
「自分の状態は分かっているつもりです。戦えるとは思いません。けれ
どアイツに任せて自分は何もしないまま寝ていたくはありません」
気が抜けたようにちゃぶ台の前に座り込んでいる斗貴子は、それだけ
を絞り出すようにいった。
「そうか。では千歳。戦士・根来を連れてきてくれ」
「分かったわ」
防人の提案に首肯せざるを得ない。

56 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:22:29 ID:fdhk1NtY0
あと二日の加療を得なくば完治には至らない、とは医師の見立てであ
るが、状況が状況ゆえそういう者すら駆り出さなくてはならない。
瞬間移動の最中そういう事を一瞬考えた千歳は、ベッドの上で陰鬱な
瞳を向ける根来に「緊急任務の依頼よ」と冷たくもある事務的な声で
告げていた。
根来は少し黙り込むと、こんな事を告げた。
「どうも貴殿は」
例の猛禽類のような微笑だ。
「私に忙しさを持ち込む存在のようだ」
千歳は首をひねった。文句かどうか判じ難い。
合理主義者であるところの根来が、加療に専念すべき状態に舞い込
んだ任務に微笑すら浮かべている。千歳の持つ根来像では眉を潜めて
「忙しい事だ」と吐き捨てているというのに。
「ひょっとすると完治しているの?」
千歳の疑問ももっともだ。だが根来は「いや」と手短に答えた。
「まだ二日ほどの加療を要する。医師は寝ていろというだろう」
といいながらも彼は手早く身支度を整えつつある。

いかな経緯があったとしても人喰いの怪物には違いない。
そういう者を、である。カズキが命がけで守った生徒たちの中に放り込
み、生活させる事の是非はどうか。
カズキに対する侮辱としか見えない。
秋水がヴィクトリアを寄宿舎で生活させる事は元々反対だった。
斗貴子の苛立ちは戦闘待機のピリピリとした空気の中、高まっていく。
先程のヴィクトリアの件が尾を引いている。
前歴を知っているがゆえの憐憫を一瞬覚えはしたが、同時にいかに繕
えど化物は化物だという実感があり、けれども払拭できぬ憐憫をして
彼女を直接罵倒する事ができず、結果、彼女を寄宿舎に引き入れた秋
水への怒りへと転じている。
それでも黙っているだけの節度はある。
戦闘ともなれば酸鼻極まる絵図を繰り広げる彼女ゆえに、粗暴で凶悪
という印象を何かと抱かれはするが、根幹的な部分では冷静で戦局を

57 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:22:58 ID:fdhk1NtY0
観察する眼力があり、日常においては決して弱者を虐めも甘やかしも
しない毅然とした少女である。
けれどカズキを失って以来の様々な鬱屈へ、その後の敗戦に次ぐ敗戦、
親しい後輩である剛太の負傷に体の一部と称してやまない大事な核
鉄の収奪といった数限りない暗い出来事が流れ込み、ひどく度を失って
いる。暴発も殺戮も既に何度かしているが、気分は一向に晴れない。
そこにきてヴィクトリアの件だ。
いわばこれは斗貴子の先走りと思いこみが招いた自爆ではあるが、
そういう滑稽を演じねばならないほど逼迫している。
濡れ衣を着せてしまった罪悪はあるが、相手がホムンクルスゆえに
頭を垂れる事は我慢ならず、けれども根が根だけにそういう自分がひ
どく卑怯で陰鬱な存在に思えてきて、感情をどう処理していいか分か
らない。
でも、一つだけ暗い感情を向けていい場所を知っている。
いや、知ってしまっている。
麻薬中毒の患者が体に悪いと知りながらも、麻薬を摂取せずにはいら
れないように、禁断で決して褒められぬ薄暗い手段。
囁く声がある。
彼は恨んでもいい。
どんな汚い感情を内心でぶつけてもいい。
何故ならば彼はそうされても仕方ないだけの罪を犯している。
ならば──…
「なあ、戦士・斗貴子。確かに気持ちは分かるが、アイツばかりを恨む
のはそろそろ筋違いだぞ」
防人の言葉に肩が戦慄く。
「戦士・秋水を許せとはいわない。けれど今のキミの感情の向け方を
俺は肯定するワケにはいかない。ヴィクトリアの件もそうだ。分かって
くれ」
分かっている。
既に秋水への憎悪は惰性であり言い掛かりにも等しいと自覚している。
けれど。

58 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:24:39 ID:fdhk1NtY0
人間はいかに優れた長所を持っていようとも、黒々とした先の見えない
状態では鬱屈に呑まれてしまう。
普段ならば平気で流せる言葉にすら傷つき、相手を恨む事もある。
もし斗貴子が平生のままであれば、言葉に詰まりはするが、徐々に
自制と自省の中で自らの過ちを直そうと努めただろう。
だが。
少なくてもこのタイミングでは、防人の言葉に絶望しか感じ得なかった。
彼が悪いという訳ではけしてない。ただ心理の暗く落ち込んだ状態で
は正しく受け取れなかったというだけだ。
たった一つの逃げ場を奪われた喪失や憎悪や不安や恐怖や苛立ち
や罪悪が一気に沸騰し、そのエネルギーが不精髭の生えた精悍な顔
を捉えていた。
何も聞こえない。すべてがスローモーションに見えた。
頬が過熱する。眉が吊り瞳が尖り、脳髄が直情にぐつぐつと燃え盛る。
視界の中でぎょっとする御前が見えた。制止せんと言葉を紡ぐ桜花が
見えた。彼女は何故か扉の方を見てひどく狼狽したが、考える前に口
の中から激しい声が噴き出していた。
「じゃあ戦士長は許せるんですか!? ヴィクトリアのような人喰いの
化け物をこっちに引き入れたあいつを!! それに、それに──…」
激しい興奮の中、脳裏に忌まわしい記憶が去来する。
それは忘れられレない。
決して、忘れられない。
かつて──…
斗貴子はカズキと共に、早坂姉弟と敵対した。
その終幕、信奉者である彼らを殺そうとした斗貴子をカズキは制止し、
傷だらけになりながらも秋水たちを守ろうとしていた。
そんな甘さがいつか命取りになる。
ならばカズキの、「戦士」としての命を断とうとした。
元々斗貴子はカズキを戦いの世界に巻き込みたくはなかった。
転機が訪れるたび日常に戻そうとしていた。
戦闘の中では死なせたくなかった。
だから、だから、「人」としては死なない程度の傷で甘さを断とうとした。

59 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:25:57 ID:fdhk1NtY0
だが。
だからこそ許せない。
濁った瞳で取り返しのつかない事をした彼を。
「自分が助かるためにカズキを刺し殺そうとした早坂秋水を!」
管理人室中に響き渡った声は……
ひどく長い間響いているように思われた。
斗貴子は大音声とともに生気をすべて吐き出したような心持になる。
頭に霞みがかかる。眼が霞む。
だが、それだけで済めば良かった。
直後、ヴィクトリアに対するよりも痛々しい罪悪が津波のように襲いか
かってきたからである。
まったく予期しない、無垢なる者への攻撃。
「え」
激しい声の後にそぐわぬほのぼのとした声が上がった。
聞き覚えはある。
あるからこそ驚愕に目が見開くのを感じた。
空耳であって欲しかった。
けれど凄まじい心痛の中で見る扉の前には、ひどく近しい少女の姿……
栗色のウェーブの掛かった少し傷み気味の髪は奇麗と言い難くあるが
それでもこの少女の愛らしさにはむしろ似合っていると思う。
そういう話をカズキとした記憶があって、彼はそうだねと笑ってくれた。
きっと嬉しかったのだろう。
妹をどういう形であれ褒めてもらえた事が。我が事のように。
「ご、ごめんなさい。その、斗貴子さんの様子がヘンだったから気になっ
てきたら、偶然……」
大きな瞳を湿らせながらおろおろと部屋の中を見渡すまひろが居た。
ぷにぷにと血色のいい頬がこの時ばかりは蒼然としている。
それだけでも受けた動揺と衝撃が分かり、心痛が走る。
もしこの状況をカズキが見たら悲しむのだろうか。
自分を窘めて、どうすればいいか一緒に考えてくれるだろうか。
けれどカズキはいない。
だからどういう言葉を投げかけていいか分からない。

60 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:27:18 ID:H1EhSQrv0
罪悪が募るだけで、分からない。
「まひろちゃん……」
丸っこい少女の姿がぼやけて見えた。
もしかすると泣いているかも知れなかった。
誰に対する涙なのか。
分からない。
ただ立ち上がって手を伸ばす頃には、
「ご、ごめんね……! 本当に盗み聞きするつもりは……」
まひろは駆け去っていた。
追いかける気力は、なかった。

根来を連れて戻ってきた千歳は、騒然とする面々を見て首を傾げた。
「大方、今駆け去っていく者と諍いがあったのだろう」
根来の無関心な声は、嫌な熱を持った空間にむしろ心地よくすらある。

単純な構造の寄宿舎だから、まひろは無我夢中ながらも自室に走り
つく事はできた。
扉の前で激しく息をつく。収めるまでに苦労したのはマラソンが苦手な
クセに考えなしの全力疾走をしてしまったのもあるが、心理的な部分も
ある。
入室し、後ろ手で扉を閉める。
同じ場所で先程そうした青年の存在がありありと胸中に蘇り、心臓をき
つく締め付けてくる。
細くなった息をつきながら、豊かな胸に手を当てる。
滑らかな指は頼りなく震えながら制服を掴み、幾筋もの皺を寄せながら
やがて滑り落ちた。
俯く顔の中では眉がハの字に下がって、ひどく快活さが失われている。
(どうして……? おかしいよそんなの…… だって……秋水先輩は)
彼は自分に対して優しかった。
学校の屋上で泣いていたまひろを帰宅途中、不器用ながらに慰め、寄
宿舎の近くで怪物に襲われた時は全力で助けてくれた。
さっきもまた一生懸命言葉を考え、励ましてくれた。

61 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:28:17 ID:H1EhSQrv0
机から落ちたコンパスの針から守ってくれたのは無条件に嬉しかった
し、その後、珍しく照れていたのは可愛かったと思う。
けれどそこに斗貴子が来た。
様子がおかしかった。だから気になり管理人室に向かった顛末は前述
の通りである。
いやいやをするようにかぶりを振る。
信じたくない。元々楽天的でほわほわした性格だから、落胆しながらも
斗貴子たちが「ドッキリ」と描いたカンバンを持って部屋に入ってくる姿
すら期待した。
(そうだよ。きっと冗談だよ! みんなして私を騙して……)
一生懸命笑顔を作ってみようとする。でも口の端で筋肉が直角に強張っ
てしまいうまく笑えない。むしろ笑おうとすればするほど聞きたくなかっ
た言葉が蘇ってきてしまう。

──「自分が助かるためにカズキを刺し殺そうとした早坂秋水を!」

斗貴子が本気で怒る顔を、まひろは初めて見た。
剣幕からすればきっと言葉は真実なのだろう。
(なんで……? あんなに仲良かったのに、なんで秋水先輩が……?)
カズキと秋水といえば剣道で鎬を削り合う友だった。
時々はカズキが逆胴を喰らって死にかけはしたが、稽古中の事故で
お互い笑って済ましていたから、刺し殺す云々とは程遠い。
(それに……びっきーが化け物……?)
更に斗貴子の言葉が去来してきて、ますます頭の中がぐわんぐわんと
混迷の音を鳴らしてくる。耳鳴りと立ちくらみがする。立っている事すら
辛い。気づけばおぼつかない足取りでベッドに向かっていた。
この世にホムンクルスという化け物がいる事は知っている。
何故ならばまひろはすでに二度も襲われているからだ。
最初は足もとから現れた大蛇に丸呑みされた。
当初は夢だと思っていたが、銀成学園でひび割れた歪な三角頭の化
け物(調整体)に襲われた時に現実の存在と認識し、しながらも調整体
を真っ向から見据えつつ友人二人をかばったものだ。

62 :永遠の扉:2007/12/22(土) 00:31:09 ID:H1EhSQrv0
それらとヴィクトリアと結びつかない。
彼女は人形のような外人の少女で千里になついている姿は抱きつき
たいほど可愛かった。
にわかには信じがたい。
頭から倒れ込むようにしてベッドに身を沈める。
スプリングが全体重を吸収して心地よい無重力感を与えてくれたが、
心理はますます暗い方向に傾いていく。
そういえばヴィクトリアは管理人室に居なかった。
どうなったのだろうか。
嫌で最悪な想像が駆けめぐり、心臓が跳ね上がる。
その時、携帯電話がなった。メール着信があったらしい。
たれパンダのように枕に顎を載せた状態で携帯を見ると桜花からで、
虚ろな瞳に「ヴィクトリアは諸事情により寄宿舎を飛び出した」という旨
の文字列が飛び込んできた。
……秋水の事に言及していないのは桜花自身、あの陰鬱な管理人
室で仔細を描く余裕がないからだろうか?
(私、いったいどうすればいいの。……お兄ちゃん)
アースカラーの携帯電話をパチリと閉じて枕元に放り出すと、すがるよ
うにカズキを思った。


後書き。
今日は根来の誕生日。
というのを意識したワケじゃあないんですが、さりげなく登場。
短い行数ではありますが、割と彼のセリフには手間が掛かっております。
彼は心理描写しない方がいいキャラなので、セリフは(主に千歳関連では)
どうとでも取れるようにしていたり。そういう点では他の男性キャラとは
ちょっと違うポジションですね。はい。

63 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/12/22(土) 00:32:23 ID:H1EhSQrv0
いえい。またこんな時間だ。明日は起きるの遅くなる。そして遅刻ギリギリだ。
でもそんなの関係ねえ!(フルボイスシャルロットのホークアイ風に。
小島よしお? なんだそれうめーのか?)

>>417さん
奴はもうドス黒さが素敵ですよねw /zやパピヨンパークでの悪行の数々、
反吐を催しながらも「ああ、こういう敵こそ少年漫画だよなぁ」と感動した物です。
そりゃあもう秋水だって精神的にも肉体的にも嬲らせたいですね。ええ。

>>418さん
この暗さがほどよく好きだったりしますw 和月先生は嫌いますけど……
やっぱ暗いモノが払拭されてこそ輝きがあるワケで。うしとら然りダイ大然り。
だいぶ先になるかも知れませんが、秋水はマジに大苦戦する予定です。物量的に。

>>419さん
……熱血? うーん。意識してませんでしたが、そうなのかも。
分類すれば秋水、クール系ではないですものね。案外、ヒュンケル系?
根は熱いけど普段は冷静ってな。少年漫画の主人公はバリバリに意識して書いてますよ!

ふら〜りさん
彼は割かし「ヒーロー」とか「主役」に生える要素満載と思いますよ!
まず、武器が刀。これ王道。そして美形。これ重要。そんな彼が学生
服でポン刀持って化け物バッサバッサやるシチュは自分でも燃えますw

さいさん
よもやと思ってましたが、中編で死ぬとは……w この辺りのサクっとした
見せ方に意表をつかれました。うーん、生き返ったとしてもお約束的には
アレ、でしょうねぇ…… それにしても前編は普通の日常なのにどこか不
気味な雰囲気で読んでてヒヤヒヤしました。

ハイデッカさん
いつもお疲れさまです。お時間ができましたらまた一本……!

64 :七十一話「死兆星の落ちる時」:2007/12/22(土) 02:01:16 ID:CGaa5+bN0
足音の主と思われる男が、シンの姿をみて茫然と立ち尽くしていた。
足音が聞こえたのは一瞬、近づくまでは足音を消しながら歩いていたのだろう。
この南斗の男を見てかなりのショックを受け、思わず音を立ててしまったのか。

「おやぁ?サルーインのペットでは足止めもできんのか。
それとも他にも仲間がいてそいつを見殺しにしたか・・・・どっちだぁ?
まさか愛だ何だと騒ぎ立てるお前が、見捨てるわけないよなぁ・・・ケンシロウ!」

シンの目からはホークは完全に消えていた、北斗最強の男、拳王ラオウを倒すほど成長したケンシロウ。
その男との決着をつける、ユリアへの愛を冥府に捨て去り、執念で蘇った。
己の全てを賭けて、唯の男ではなく拳法家として勝利してみせる。
それが望みだった・・・しかし、ケンシロウを見るや否や失望の念に捉われた。

オーラの強さは、サザンクロスで戦った頃に比べれば倍以上、まさにラオウに匹敵する強さになっている。
しかし、戦意、戦うことへの意欲が見られず、辺りへ散りじりになるばかり。
自分の内なる気を引き出せても、コントロールする気がないのか、できないのか。
気がこちらへ向かってないので威圧感がまるでない。

ラオウの強さは自分への自信、圧倒的な強さを求める姿勢から来ていた。
闘気とは、読んで字の如く『闘う気』である。
ケンシロウのもう一人の兄であるトキも、温和な性格ではあった。
だが、守るべき者の為とあらば凄まじい闘気を発していた。
闘気とは闘いに対する姿勢、思念、思想でコントロールするのだ。
そして、ケンシロウもトキと同じく人を守り、外道を殺す殺人拳だったのだが・・・。

「シン・・・貴様程の男がゾンビにされるとはな。」

「フン、俺の居ぬ間に腑抜けたな、ケンシロウ・・・嗅覚まで衰えたのか?俺の体は腐ってなどいない。
貴様は知らんだろうが、復活していたジャギが死んだ。
その魂と灰を使って生み出された、文字通り『新生』した訳だ。
そして、その代わりにサルーインとかいう負け犬の復讐に仕方なく付き合ってやった、それだけだ。」

65 :七十二でした・・・orz:2007/12/22(土) 02:02:24 ID:CGaa5+bN0
「貴様の目的は一体・・・」
「聞くまでもないだろう!あの時のケリをつける・・・行くぞッ!南斗旋脚葬!」

間合いを地を滑る蹴りで一気に詰める、後ろへジャンプして距離を取るケンシロウ。
だが、先に述べたように闘気とは『闘う気』である。
そんな消極的な行動では闘争心を湧きあがらせることは出来ない。

「この俺から逃れることなどできんぞぉッ!南斗獄屠拳!」
続けて繰り出される蹴りに、あの場面を頭に思い浮かべる。
ユリアを奪い、そして自分の胸に七つの傷をつけられたあの日を。
着地と同時に地面を蹴り、思い浮かんだ過去の映像を払拭するため、
再び眼の前の男を超えるために、真っ向から挑んだ。

「北斗飛衛拳!」
「南斗獄屠拳!」

空中で互いに蹴りを交差させる二人、何事もなかったかのようにすれ違い、地面へ着地する。
だが、すぐに勝負の結果が現れた。
「ぐうっ!?」
シンの肩から鮮血が吹き出し、地面に滴り落ちる。
出血のせいか、少し体がよろけたが、何故か顔には笑みを浮かべていた。

「・・・俺の・・・・・・・勝ちだ。」
シンは肩の傷を抑え、出血を止めようとしている。
しかし、地面に落ちる血の音は強くなるばかりだった。
だが、すぐに血の音は止むだろう。
一人の男が、地面へ倒れることによって。
「うおおっ・・・・!」

「呆気ない・・・ラオウを倒した男がこの程度だとはな。
北斗の歴史の、幕を閉じる日が来たようだな。」

66 :七十二話「死兆星の落ちる時」:2007/12/22(土) 02:05:11 ID:CGaa5+bN0
シンは己の肩の傷を見ながら考えた。
激戦によって鍛えられた肉体と闘気は、一撃必殺の南斗の拳を本能で退けた。
眠れる本能、破壊の衝動を呼び覚ませば闘気は完全にこちらへ向く筈。
(その為に、死の手前まで追い詰める必要がある!
ユリアを奪ったあの日のように、もう一度アレをやる必要が・・・)

「うっぐ・・・あ・・・・・おぐっ!」
シンに胸倉を掴まれ、うめき声を上げる。
周囲の床はすっかり血でビショビショになってしまった。
だが、闘気は肉体の外部だけではなく、内部までも駆け巡る。
血が抜けることは問題ではない、闘気が少量の血液に多量の酸素を凝結させる。
致死量の出血が起きても、常人に比べたら遥かに死の危険は少ない。

「さて・・・冥府へ土産話の一つもなく逝くのは淋しかろう?
思い出させてやる、南斗聖拳の処刑術を閻魔・・・いや、死の神デスにたっぷりと聞かせてやるんだな・・・。」
ニヤニヤとうすら笑いを浮かべながら、人差し指をケンシロウに見せびらかす。
何を意味するのか、それを考えた時に一つ、ある光景が浮かんだ。
腕を押さえつけるシンの配下、泣き叫ぶユリア、そして・・・笑いながら指を突き立てる男。

一本目が突き刺さる、肉を突き破り、骨を砕きながら肺をひっ掻き小さな穴を開ける。
二本目が突き刺さる、胸骨をへし折ることで肺の上部にダメージを与え呼吸困難を起こし苦しみを増大させる。
三本目が突き刺さる、心臓付近の血管を傷つけ、血液の循環を悪化させ更なる苦しみを与える。
四本目が突き刺さる、更に心臓に近い所を突くが、攻撃はしない、押し込んだ肉と骨で圧迫し機能を弱らせる。

五、六、七本目は腹部に向けて同時に突き刺す。
主に腸などの生活に関連する器官を傷つける事で、生き延びてからも闘技者としての復帰を困難にする。
ケンシロウに執念を植え付けることになったこの処刑法、まさか生き延びるとは思わなかった。

だが、生還したケンシロウの強さは計り知れないものとなっていた。
ユリアを奪った自分を探し、決着をつけるという『執念』が治らぬ筈の怪我を完治へ導き、
サザンクロスでの結果を生んだと、シンは確信していた。
そして、拳王を倒した今ならばあの時以上の格闘家となっている筈。

67 :邪神:2007/12/22(土) 02:06:12 ID:CGaa5+bN0
「フゥ〜〜跡が残ってると、つい気になるよなぁ・・・。
生き延びたのだから急所からズレた可能性もあるんだが・・・。
つい傷口に添って穴を開けたくなるなぁ・・・こんな風に!」

ズボォ、と小気味良い音を立てて指が肉を突き進む。
鋼鉄の様に硬く、外見だけではない真の逞しさを持った胸板も指一本で突き破られていく。
「ぐああぁ・・・!」
「クックック・・・何本目に死ぬかなぁ〜〜〜〜?」

殺す、今のケンシロウの軟弱な心を殺すのだ。
そうすれば自分が望んだ男と戦える、史上最強の拳士と。
四本目の穴を開けた、生きてはいるが目の色は既に死人の色。
ユリアが死んだ今、こいつが求めているのは闘いだけだ。
感情を殺し、本能に目覚めれば、闘いのみを求める最強の殺人鬼が出来上がる。

「さぁて、仕上げだケンシロウ。
二度も同じ所に、同じように傷を作るだなんて滅多に体験できんぞ・・・ほれぇ!」
地面の血は乾いてドス黒くなり始めており、そこへ新しい赤が継ぎ足される。
ブシュウ〜と音をたてて勢いよく噴き出したそれは、生命の終わりを告げた。

「本当に死んだか?チッ・・・雑魚が。
こんな男に執着していた自分が馬鹿らしく思えてくる。」
殺人を行った後でこんな事を口走っている姿を見れば、誰もがシンを冷徹な、人の心を持たない男と思うだろう。
だが、彼がケンシロウを見つめる目には『哀しみ』が宿っていた。
共に修業時代を過ごした強敵を失った喪失感が、シンの心を揺り動かしたのだろうか。
だが髪を掻き上げると、すぐに普段の冷たさと残忍さを見てとれる危険な目へと変わった。

「さて、お前の評価をもう一度改めるとしようか。
不思議な術を使って傷を癒していた様だな、しかも俺に気づかれずに。
もし望むなら、貴様の名前を聞いてやってもいいぞ?」

「そいつは光栄だな、今度はお前が冥土の土産に持ってきやがれ・・・!俺の名は、キャプテン・ホーク!」

68 :邪神:2007/12/22(土) 02:10:06 ID:CGaa5+bN0
↑スターダスト氏乙。
知ってるか分かりませんが、自分はクールで熱血っていうとテイルズの黒歴史、リバースの彼が出てきます。
いいゲームだと思うんですけどねぇ・・・浜辺での殴り合いはガチで泣きました。(腹筋を破壊されて)

またまた遅くなりました、風邪気味の邪神です・・・(;0w0)ゲホッ、ゲホッ・・・カラミソ
なんかタイトル表示ミスってますね・・・まだギコナビを使いこなせていないようで・・・。

シンの指で七つの傷をつけるアレ、格ゲーでも使われるんですが南斗に伝わる処刑法だとか。
南斗だったら開ける穴は6つじゃねーの?って質問は野暮ですよ、北斗七星が死をつかさどる星だから7つです。
まぁ根拠はないんですけどね・・・それはいいとしてケンシロウにガッカリな人も落ち込まないで。
主人公がホークに戻った、それだけなんです・・・。

〜前スレでの感謝〜

>>ふら〜り氏 >>言動がハイなのは灰から復活のせいか。
       だっ、誰も上手いこと言えなんていってないんだからねっ!
       共闘、素敵な響きですなぁ、困難を共に乗り越える姿。
       原作で出来なかった夢の競演って奴ですねぇ。
       肝心のケンは残念ながら案外アッサリと倒れてしまいました・・・申し訳ない。

>>428氏 これでどうだぁーッ! ホーク=ちょっとマッチョ化のすすんだ赤鯱

>>429氏 大事なのは精神、肉体ではないッ!という考えの下、ケンシロウ死亡。

69 :作者の都合により名無しです:2007/12/22(土) 10:18:15 ID:vfSOmgcx0
>スターダストさん
トキコも鬱屈した感情に潰されそうですな
まひろとカズキには通じるところがいっぱいあるので
会うと返って思い出して辛いのかも
タイトル通り、登場人物には永遠のハッピーエンドになってほしいもんです

>邪神さん
この世界ではラオウとかサウザーとかはもう存在しないのか
ラオウは見たかったなあ。彼がゾンビになるのはみたくはなかったけど
シンはイメージ通りかな?死ぬ時には善人になると思うけどw

70 :ふら〜り:2007/12/22(土) 13:30:45 ID:aRtX6khl0
>>1さん&ハイデッカさん(SSも待ってますよ)
おつ華麗さまです! 失速したり加速したりの波が激しい最近ですが、何だかんだで
不滅の当スレ。また来年も、皆で年越しをしたいものです。
にしても今、さいさんとスターダストさんとで、同時に斗貴子が……薄幸だ彼女。

>>ハロイさん(書かれる時は一気呵成ですな)
・脳噛ネウロは間違えない
非常識な奴の非常識ぶりに鋭い突っ込みを入れる人はいるけれど、そいつだって
非常識ぶりで負けてない。感情移入の隙間がないというか、密度の濃い空間です。
・シュガーハート&ヴァニラソウル
人数の多さと事態の複雑さ、謎掛けの深さに少々混乱もしましたが。しかしこれだけ
数がいても結局、十和子&静は男の子とはそう深く関わらなさそう。やはり彼女らは……
・ヴィクティム・レッド
上二作と比べて、こちらは隅々まで緊迫してますね。少なくとも読者に見えて動いてる
連中は、皆何かしら追い詰められているような。誰が「何に」勝つか、生き延びるか。

>>さいさん
期待通りの展開にして、闇の深さは予想以上。こういう時、本人のモノローグ以外
でも登場人物の心情を深く描写できるのが、漫画やゲームとは違うところ。ヘタする
とクドくなりますが、そうはならずに充分クロくて見事。さて、結末はどっち方面へ?

>>スターダストさん
むぅ。いつか来る逆転カタルシスの為の、いわばバネの押し縮めであろうと思いつつも
読んでて苦しい。少なくとも今の斗貴子には、小札、香美、千歳と違って一番支えに
なる男性がいないし。でも、まひろには一応秋水が、と思ってたら……八方塞がった……

>>邪神さん
なるほど。いい加減ホークも威厳というか立場を取り戻さねばという思いもあったので、
これはこれで。強くなったはずのケンを上回るシン、残虐さともども迫力あります。そして、
>唯の男ではなく拳法家として
普通は、順番が逆だと思うんですよね。ここが今のシンの、誇りへの執着を現してるよう。

71 :ファイナルフラッシュ:2007/12/22(土) 15:08:14 ID:7lJI+jmS0
 状況は絶望的だった。
 三度目の変身を終え、真の姿を現したフリーザ。発せられるパワーが大きすぎて、どの
程度の実力を隠しているのか見当もつかない。
 悟飯、クリリンはもちろん、ピッコロまでもが立ち向かう気力をなくしていた。
 だが──。
「フリーザ。てめぇは超サイヤ人になったこの俺様が片付けてやるぜ」
 単身、果敢にもフリーザに挑むベジータ。
 激闘はしばらく続いたが、やはり実力差は歴然だった。フリーザに遊ばれていることに
気づき、ベジータの顔色はみるみる青ざめていく。
「バ、バカな……!」
「超サイヤ人というのはこの程度なのかい? 地獄以上の恐怖を味わわせてやるよ、ベジ
ータ」
「ち、ちくしょう……超サイヤ人は天下無敵のはずだ。こんなものじゃない!」
 幾度も死線をくぐり抜けた自分こそが、超サイヤ人となる資格がある。超サイヤ人とな
ればフリーザなど敵ではないはず。なのに、まるで歯が立たない。闘争心が全身から抜け
落ちていく。
 すっかり戦意を無くしたベジータを見かね、ピッコロが声をかける。
「おいベジータ、超サイヤ人というのはナメック星人の肩をよく揉むらしいぞ」
「何だと?! 早くいえ!」
 すぐさまピッコロの背後に飛び、肩を揉み始めるベジータ。
「ついでに僕の肩も揉んでくれよ、超サイヤ人のベジータ」
 フリーザの肩揉みも見事にこなす。
「超サイヤ人は僕の宿題を代わりにやってくれるそうですよ」
「あ、そうだ。俺の嫁さんも探しといてくれよ、頼むぜ超サイヤ人」
 悟飯とクリリンにまで超サイヤ人扱いされ、いよいよ舞い上がるベジータ。
「ふはははは、俺は超サイヤ人だ!」

72 :ファイナルフラッシュ:2007/12/22(土) 15:10:09 ID:7lJI+jmS0
 舞台が地球に移っても、ベジータの役割は変わらない。
 秒単位のスケジュールで使い走りをさせられ、東西南北を駆け回る日々。
 クリリンには約束通り18号を紹介し、新婚旅行まで世話してやった。その他にも悟空
との組み手、悟飯の宿題、ピッコロのために名水を汲むなど休まる暇がない。時にはフリ
ーザの宇宙開拓にも参加した。平均睡眠時間は一時間を切った。
「ベジータ、あんた超サイヤ人なんだから私と結婚しなさいよ」
「ち……」
 とうとうブルマと結婚してしまった。
 フリーザの下で働いていた頃以上の、屈辱の日々が続く。
 だが、彼の心は満たされていた。伝説の超サイヤ人となり宇宙一となった今、全ての屈
辱は屈辱ではなく、超サイヤ人である自らに課せられた使命なのだと考えていた。
「戦闘民族サイヤ人も悪くなかったが、超サイヤ人も悪くないぜ」
 メモを片手にスーパーで買い物をしながら、ベジータは独りごちた。

73 :ファイナルフラッシュ:2007/12/22(土) 15:11:32 ID:7lJI+jmS0
 時は流れ、最近体が思うように動かなくなった。脳の働きも鈍い。ベジータはいよいよ
死期が近いのだな、と感じた。
 病院のベッドに横たわるベジータを、家族と、かつての仇敵たちが囲む。
 まもなく命を終えようとしているサイヤ人を前に、散々彼をこき使った周囲の顔は暗か
った。
「……貴様らなんぞに看取られても嬉しくはない。さっさと消えろ」
 しわがれた声ながら、気位は若い頃と変わらないベジータ。皆が声を殺して泣いていた。
 神妙な顔つきでピッコロが前に出る。
「ベジータ、おまえには話しておかねばならないことがある」
「なんだ」
「俺たちはおまえが超サイヤ人だといい、散々に利用してきた。すまなかったな」
「……ふん。俺は自分が超サイヤ人だから貴様らを手伝ってやったんだ。ブルマと結婚し
たのもそのためだ。謝られる筋合いなどない」
「実はそのことなのだが……」
「………?」
「おまえは超サイヤ人などではなかったのだ」
 ベジータは一瞬驚きに目を丸めたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「こんなギリギリでいいやがって……。もう十年早く気づいていれば、貴様らを皆殺しに
出来たんだがな」
「……すまん」
「別に構わん」不敵に笑う。「……それにそろそろ迎えが来たようだ」

74 :ファイナルフラッシュ:2007/12/22(土) 15:12:30 ID:7lJI+jmS0
 ベジータの小さな気がさらに弱まる。なだらかな下り坂が突然急になったらしい。
 仲間が口々に叫ぶ。
「ベジータ、おめぇは超サイヤ人なんだ! こんなところで死ぬわけがねぇ!」
「ベジータさんは超サイヤ人ですよ! だから生きて下さい!」
「超サイヤ人は死なんぞ、ベジータ!」
「ベジータ、死なないで!」
「パパは超サイヤ人なんだから死なないよ! 絶対!」
 これまで超サイヤ人と祭り上げられ、どんな難問でも解決してきたベジータ。しかし、
今度ばかりは解決できそうもない。
「ちっ、どいつもこいつも……」ベジータはかすかに口もとを綻ばせた。「まったくムカ
ついてくるぜ、こんなところでくたばる俺の弱さがな……」
 そう呟いてベジータは眠るように目を閉じた。
「さらばだ……」
 ほんの一瞬、ベジータから金色の光が噴き出した。
 だがそれはすぐに消え、それからまもなくして超サイヤ人は息絶えた。

                                   お わ り

75 :作者の都合により名無しです:2007/12/22(土) 15:22:31 ID:FQSCGwpu0
律儀に感想つけてるやつをみてると「性欲とまんないね!」を思い出す

76 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/12/22(土) 15:22:53 ID:7lJI+jmS0
ベジータSSです。
ドラゴンボールばかりなのもアレなので、
バキの新キャラを書きたいですが、ピクルは文章にし辛いキャラですね。

77 :作者の都合により名無しです:2007/12/22(土) 16:48:47 ID:2+0LzgEt0
なんか一杯キタ!

>ハロイさん
ふらーりさんの言う通り、作品によって緊迫感の来方が違いますね。
ネウロとシュガーは割と日常の中からジワジワと来てる感じですが、
ヴィクテムは常在戦場と言う感じ。どの作品もまだまだ中盤と言う感じなので楽しみ。
個人的には十和子のキャラが一番好きだな。

>スターダストさん
ソウヤtって公式設定かな?すみません、錬金少し疎くって。
原作ではしっかりとみんな幸せに終わりましたが、まひろと秋水の関係は
完全にオリジナルな訳で。天然同士のカプって上手くいくのかな?

>邪心さん
なんか北斗勢がみんな小物っぽくなってて残念w
ま、ケンシロウはこれから見せ所は一杯でしょうね。問題はシンか。
このまま、ジャギアミバ化のまま消えて欲しくないなあ。

>サナダムシさん
個人的にはベジータはヤムチャよりヘタレだと思うんですが、
愛されてますよねww ベジータがベンリー君か。
なかなか後期ベジータの悪がりっぷりを突いてますねw

78 :作者の都合により名無しです:2007/12/22(土) 23:02:23 ID:wUvmE+ih0
サナダムシさんのさくっとした短編も好きだけど
長編も読みたいな。お忙しくて無理ですか

79 :作者の都合により名無しです:2007/12/23(日) 00:30:55 ID:Xm+z/u400
永遠の扉もキャプテンも3年くらい連載してるんだよなあ
終わる気配がまだまだ見えんのがすごいw
サナダムシさん、加藤のやつの続きはまだ?

80 :作者の都合により名無しです:2007/12/23(日) 15:17:51 ID:KwS/BYrs0
キャプテンは他しか途中1年くらい空いてたけどな。

永遠の扉は2年くらいじゃないか?その前にネゴロがあったけど。

サナダムシさんのやさぐれ獅子は終盤だったからケリをつけてほしいな。

それにしてもハロイさん長編3本同時連載ってすげえw


81 :七十三話「南斗の鷲と海上の鷹」:2007/12/23(日) 15:29:02 ID:qmbWSFbv0
五分と掛からない戦いだったが、傷はすっかり塞がっていた。
一分一秒が生死を分ける戦いでは、五分も掛けて傷を治しては本末転倒である。
だが、戦いの中でなければ便利ではある。
上手の敵と遭遇すれば相打ちになることもある、勝負がついた後に息があれば復帰が可能だ。
敗北し、止めを刺されかけた筈のホークがこうして立ちあがったように。

「戦いの真っ最中だったとはいえ、この俺に気取られずに傷を癒すとは。
中々のしたたかさだ、だが貴様は武器に加えて術などと小細工にまで頼った。
そんな未熟な腕で、この俺に敵うものかな・・・ククク。」

剣を手に取るホーク、中国拳法は武器にも通じている。
南斗聖拳も北斗神拳も中国拳法をベースとしている。
ホークの構えが、斧を持っていた時と違い不自然で慣れていない感じがある。
だが、感じる闘気は遥かに洗練された物になった。
ケンシロウの死を眼にして闘争心に火をつけたのだろうか。
最大の目的を早々に達成し、することもない今、眼の前の新しい敵を排除するとしよう。

「でえりゃあ!」
「アホがぁ!適当に振り回すだけで、俺に当たるものか!」

並の剣ならば、最も鋭いとされる切先であっても蹴りで砕くことが出来る。
しかし、強度は高いが脆く、折れやすくなっている刃身の横の部分。
樋、フラーと呼ばれる部分へ蹴りを入れたが折る事は不可能だった。
剣を破壊することが不可能ならば攻撃可能な箇所は、樋、柄、鍔、握り、といった所か。
しかし、それも本体に隙があれば攻撃する必要はなく構わず攻撃しようとしたが・・・。

大きく振りかぶり、繰り出された袈裟切りをスウェイバックで回避すると、二の太刀がシンを襲う。
かすみ二段、最初の太刀をワザと回避させ、次の達への複線を作り出し確実に当てる技術。
如何なる達人であっても、この技を反応してかわすのは不可能である。
事前に防御するか、この技が出る瞬間に生じる奇妙な旋風を読むしかない。

「・・・ッ適当では無かったようだな。」

82 :七十三話「南斗の鷲と海上の鷹」:2007/12/23(日) 15:31:55 ID:qmbWSFbv0
スウェイで袈裟切りをかわした所で、鍔に蹴りを入れて剣を吹き飛ばそうとした。
狙ったのはその時の脚、刃を避けて蹴ろうとすれば脚の型が限られてくる。
そういった物を予測して斬りかかるのが、今の技の特徴だろう。
膝の部分の服がスッパリ切りとられ、かすり傷程度だが血が出ていた。

見くびっていた、先程とは別人のように強い。
闘気は研ぎ澄まされているが、自分を脅かすほどではないと思っていた。
だが、コイツは自分から闘気を抑えていただけなのだ。
激しい怒りに身を任せず、冷静に相手を見据え、戦いを組み立てる。
闘気の解放は、その戦いの最中で行う。

「面白い・・・剣の構えは素人同然だが、命のやり取りは心得ているな。
しかし、今の技はお世辞にも強力な一撃とは言えぬ低俗な剣技。
こちらの型に合わせて斬る為、回避は困難だが合わせて斬るなら剣の軌道も限られてくる。
二度は無い、そして未熟な貴様が一撃で俺を倒せる技を持っているとも思えんなぁ。」

見事に言い当てられてしまった、格闘家、というよりは武芸家、武道家といった方が正しい様だ。
武器全般に精通したうえで、己の肉体を上回る物など存在しないという確固たる自信を持っている。
このシンという男、歳は下だが戦いの経験も知識も遙か上に居る。
このガキに一杯喰わせるにはどうしたらいいだろうか。

「フン・・・攻めないか、武器を所持することによる油断は俺の技量を見て捨て去っている、当然の判断だ。
だが、この圧倒的な実力差をどうやって埋めるというんだ?ええ?」
「へっ、教えてやるかよ!」

相手に向かって走り、勢いをつけながら剣を横に薙ぎ払うようにして振り抜く。
払い抜け、単純な技ではあるが、かわされても身の捌き次第で隙をどうにでも出来る。
空を斬る音が耳に入る、回避されるのは承知の上。
次の一撃を叩きこむべく、剣を握り直し、相手を見据える。
だが、そこに見据えるべき相手はいなかった。

「南斗白燕転翔・・・俺は暗殺者、貴様の様なボンクラに気取られる訳がなかろう。」

83 :七十三話「南斗の鷲と海上の鷹」:2007/12/23(日) 15:33:57 ID:qmbWSFbv0
南斗白燕転翔、空を切り裂く程の鋭い闘気によって、周囲の空気を切り裂いて薄くしてから空へ飛ぶ。
移動する前に空気を薄くすることで、相手へ空気の流れを読まれにくくしておくのだ。
「もっとも、貴様なんぞが空気の流れを読めるとは思わんがな・・・でえりゃあ!」

空中から無数の手刀が襲いかかってくる、回避は不可能、剣を振り上げ対応する。
だが、攻撃の為ではなく自衛の為に咄嗟に振り回した剣、勢いもスピードも死んでいる。
シンはこれを狙っていたのだ、空中でガッチリと剣を手に取ったまま静止している。
不思議なことに重さを全く感じない、奇妙な身のこなしだ。

「こいつはまいったな・・・動けそうにねぇ。」
「分かっているじゃないか、俺を振り落とせば手刀でも蹴りでも、
頭でも首でも、お望みの場所に希望する方法で穴を開けてやろう・・・。」

この状態から姿勢を変化させ、絶妙な体重のコントロールを行う。
段々と切先に感じる重量に痺れを切らしたとき、振り抜く筈だ。

「いいぜ、頭を手刀でブチ抜いてみな。」
「強がりはよせ・・・っと、男らしく死ぬのを希望だったのか?それはすまなかったな・・・ククク。」
「いいから頭だよ、頭。なぁに、来る場所さえ分かれば避けてやるよ、お望みの場所に一発くれるんだろ?」

この状況、かわせないことは感じている筈。
単なる強がりかと思ったが、違う。
顔には自信が満ちている、剣を振ればその勢いを利用した一撃を何所へでも加えられる。
絶対的有利な状況を作り出した、これを打破できるというのか?

「・・・・面白い、貴様は何所にでもいそうな一人の弱小海賊。
手の内は見せてもらったが、そこに転がってる腑抜けのケンシロウにも遠く及ばないだろう。
だが、何か俺を期待させるものがある・・・雑魚を痛めつけて楽しむのは自尊心が傷つくがな。」

「いいからやってみな、段々と剣に重量がついてきてるってことは俺が動かなくっちゃ何もできねぇんだろ?」
「そう、そして貴様程度の腕力では重さに耐えかねて動かすしかなくなる。」
「いいな、五秒したら振る・・・頭を手刀でブチ抜け。」

84 :七十三話「南斗の鷲と海上の鷹」:2007/12/23(日) 15:35:23 ID:qmbWSFbv0
(この男、とんでもねぇバトルマニアだな・・・上手くいくかぁ?)
ホークにはこの状況を打ち破る自信があったが、シンの笑みに不安を覚える。
先程まで狩る側にいたシンの笑みは、凍りつきそうな程冷たい目をしていた。
それは獲物を追い詰めた魔物の目、人間がこんな目つきをするとは思わなかったが、
普段から見慣れている目だ、腹を据えてかかればどうってことは無かった。

だが、剣の上で逆立ちしているこの男の目。
まるでお気に入りの玩具で遊ぶ子供のように輝く瞳。
純粋に、心の奥底から戦闘を楽しんでいる。
こんなタイプの敵とは闘ったことがない、自分の危険までも戦闘の楽しみにするとは。

(ムッ、剣から一瞬力が抜けた・・・握りを直したな、五秒ではなく四秒の時点で剣を振る気か。
チッ・・・つまらん事をする、そんなことで動揺する程アホではないわ、こいつも期待外れだな。)

ケンシロウがあの程度なのだ、どこの馬の骨とも知れぬ奴に期待したのが間違いだった。
この男が剣を振れば反動を利用して、飛ぶ。
剣から飛んだら、俺の落下しながらの攻撃を予測して次の構えに移る筈。
だが、その構えを与える間もなく殺す・・・質量を持った闘気によって空中に地面を造り出す。
そうすれば落下を待つよりも速く、剣から飛ぶ反動と闘気を蹴る反動で十分な加速がつく。
そして四秒が経過、ホークの指に動きが現れた。

「なにぃ!?」
「かかったなアホが!」

ホークは剣を振るのではなく、手を離し地面へと捨てた。
それでは勢いはつかず、自然落下するのみだった。
しかし、南斗六聖の拳に鳥の名が冠せられる理由はここにある
空中での姿勢制御、空気の抵抗や流れを肌で感じ取ることに掛けて北斗神拳以上に敏感である。
ホークの頭上付近に掲げられた剣が、地面へと落ちるその僅かな間に絶妙な体捌きで姿勢を整える。
そして、着地へ成功すると同時にホークの足を奪いこれから行われる攻撃の威力を半減させるべく蹴りを放つ。
だが、シンの蹴りが削り取ったのはホークの足ではなく、地面だけだった。
「頭にくれるんじゃなかったのか?嘘を吐く子にゃあ、飛びっきりのお仕置きをくれてやんねぇとな!」

85 :邪神?:2007/12/23(日) 15:37:25 ID:qmbWSFbv0
一日で出来あがるとは・・・調子に波があり過ぎることに定評のある邪神です(前回?つけ忘れた・・・orz)。(0w0)
まぁ学校がお休みに入った、っていうのもあるんですけどねぇ。
このうちに進めておきたい所です。

〜感謝と講座〜

>>ふら〜り氏 今までホークは寿司の添え物・・・ニコニコでいうボッ○した扱いでしたからね。
       ここは主役らしく、このドM○のように果敢に戦ってもらいました。
       やはり過去のFFのストーリーは素晴らしい、プレイする気のない人は
       プレイ動画を見て読み物にするのも悪くない・・・実際に遊ぶのが一番なんですけど。
       と、話が脱線しすぎました。申し訳ない。

>>69氏 ちょw その言い方だと復活した子はみんなゾンビ呼ばわり。
    アミバ様もゾンビみたいじゃないですか!腐って無ければゾンビも人間です!

>>77氏 ジャギ化はないでしょうがアミバ様化すれば天才になれるじゃないですか。
    小物臭が強くなるという点を我慢すればいい事だらけですよ!
    ジャギやケンシロウみたくアッサリとは死なないでくれる筈。

>>79氏 もうそんな歳月が・・・時の加速って速いですねぇ。>>80氏の言われるとおり、
    自分はPCの不調で1年丸々休んじゃったリしたので実際は2年くらいでしょうかね。

かすみ二段 命中率が高い剣技、片手剣で使用される。
      シリーズ通してよく出るが特筆する点はない。

払い抜け 威力は対して高くないが片手剣、大型剣で使用可能。
     特筆することはないが大型剣だと派生技が多いので使う機会は多い。

〜おまけ〜 タカ科に分類される種にて比較的大きいものをワシ(鷲, Eagle)、
      小さめのものをタカ(鷹, Hawk)と呼び分けているが、
      明確な区別ではなく慣習に従って呼び分けているに過ぎない。民明書房「wikipedia」参考。
      いやぁ、シンとホークに意外な共通点が出来ちゃったり。(シンの拳法は南斗弧鷲拳)

86 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/23(日) 22:04:17 ID:roWh5iHd0
【域】─Our Battlefield─


 時計を見ると、十四時を回ろうとしているところだった。
 つまり、飛鳥井全死さんとの待ち合わせまであと一時間ということになる。
「はー、なんか気が重いなあ……」
 飛鳥井全死という存在を知ってからまだ日は浅いが、それでも彼女からははっきりと異常なものを感じている。
 それはきっと、今わたしの目の前にいる『こいつ』と似たような種類のものだろう。
「どうした、ヤコ。なにを見ている。我が輩の顔は食い物ではないぞ」
「知ってるよ」
「そうか? 食い意地の張った卑しい貴様のことだから、
そのうちこの事務所の建材も貴様の腹に消えるのではないかと、我が輩は心配のし通しなのだがな」
「食うか! ──いや、バターと醤油があればいけるかも知んないけど」
「フン。究極の雑食生物である貴様と違い、我が輩は食するのは『謎』のみだ。
我が輩の脳髄の『飢え』を満たすため、貴様には馬車馬三頭並みに働いてもらわねばなるまい」
「普通、そこは一頭で済ますだろ……三倍かよ」
「赤く塗るか?」
「やめて」
 そう──ネウロと全死さんはどこかが『似ている』。
 とんでもなくわがままで、相手の都合なんか知ったこっちゃないというドSの資質に恵まれた性格もそうだし、
それと──彼女の言動の端々からは、わたしや、他の人たちとは大きな隔たりのある『なにか』を感じさせる。
 ネウロは基本、人間を『謎』の供給源としか見ていない。人間で言うところの『食材』の素──家畜扱いである。
 わたしを含めた何人かに対してはまた微妙に違う評価を下しているようでもあるが──それだって結局、
人間の持つ『可能性』が良質の『謎』を生み出すのではという期待に基づいている。
 魔人ゆえに決定的に異ならざるを得ない、その『人間』を捉える『視線』──そこが、わたしが感じたネウロと全死さんの類似点だった。
 これは別に全死さんが人間を家畜のように見ているということではなく──彼女の視線は、わたしたちのそれと違うような気がするという意味だ。
 わたしたちに見えない『なにか』を、彼女は見ている。確実に。
 それを端的に示すのが、彼女が好んで使う『メタテキスト』という言い回しだろう。

87 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/23(日) 22:08:34 ID:roWh5iHd0
 彼女は『メタテキスト』を『読む』ことで、わたしやネウロの名前を言い当ててみせた。
 わたしの名前それ自体を言うことは、さほどおかしいものじゃない。
 表に立って『謎』を解く(くう)ことを望まないネウロのお陰で、
わたしは大変ありがたくないことに『名探偵』としての社会的地位を押し付けられているのだから。
 だが、いや、だからこそ、ネウロの名前を言い当てたことは『普通』じゃありえないことなのだ。
 『メタテキスト』とはいったいなんなのだろうか?
 そして──飛鳥井全死とは、いったい何者なのだろうか。
 ネウロと全死さんは『似ている』。だが同時に、両者には決定的な違いがある。
 ネウロは魔人──しかも魔界でも稀有な、『謎』を食う突然変種だが、全死さんは人間である、ということだ。
 ネウロがこの世界で生きていけ、あまつさえわたしに暴虐の限りを尽くせるのは、人間を超絶した能力を持っているからだ。
 変な話だが、もしネウロがその辺のチンピラ並みの力しかない状態で「我が輩は『謎』を解く(くう)のだフハハ」とか言っても、誰にも相手にされないだろう。
 もちろんネウロの持つ悪魔的な頭脳も充分に危険だけれど、それよりも──超人的な身体能力、『魔界777ツ能力(どうぐ)』こそが、
こいつをこの地上で生かし続けている。あらゆる意味で『魔人』であるから、『魔人』としてこの世界で生きてゆける。
 では、全死さんは?
 彼女にはいったいどんな能力があって、あんなにも奇妙奇天烈なマイウェイ爆走モードを可能にしているのだろうか。
 かの『怪物強盗』X(サイ)のように、人間を『突破』した能力を秘めているのだろうか?
 それとも、別の『なにか』が、『飛鳥井全死』を『飛鳥井全死』として生かしているのだろうか?
「──あ、クッキーなくなっちゃた」
 うつらうつらと考え事をしていたわたしは、いきなり口がさみしくなったことで現実に引き戻された。
 ソファーに預けていた背をよっこらしょと引き上げ、テーブルに山と積まれたクッキーの空き箱を片付ける。
買い置きしておいたクッキーは全部食べてしまったので──次はビスケットを食べよう。
 そんな時だった。
 コンコン、と事務所のドアがノックされる。
「はーい」
 わたしが返事をすると、それにやや遅れ、向こう側からノブがひねられ、ドアが開かれた。
 そこから顔を出したのは、ひょろりとした長身の、どこか眠そうな目をした男性だった。
 それは、わたしの良く知っている人物だった。
「弥子ちゃん、元気かい?」
「笹塚さん」
 それは、わたしの知り合いで、なにかと力になってくれる警視庁勤務の刑事さん──笹塚衛士さんだった。

88 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/23(日) 22:10:13 ID:roWh5iHd0
 自分の『正体』を隠すための外面の良さを発揮して、ネウロはにこやかに笹塚さんに話しかける。
「おお、刑事さん! よくこんなむさ苦しいところへお出でくださいました!
いやまったく、私も先生には常に事務所の整頓をお願いしているのですが、
汚ギャル志望の先生ときたら『事務所を片付けるくらいなら人間やめたる』、と、まあそんな具合でして」
 ──が、その一方でわたしの人格を貶めることも忘れない。なんというか、マメなやつである。
 いつもの光景といえばいつもの光景だが、一応ツッコんでおこう。
「ねーよ!」
「あー……助手さんも相変わらずで。──あー、と、こないだ、弥子ちゃん電話くれただろ。あれ、何の用だった?」
「あ、それは……」
 『実は殺人現場を目撃したんです』と答えそうになったわたしだったが、
どこからか沸いて出てきた見るからに魔界魔界しているグロテスクな蟲が「次でボケて」と、笹塚さんの死角からカンペで指示を出していた。
「……『今から手首切るところです』っていう構ってちゃんTELです……」
「あ、そ……マジで手首切ったらダメだぞ」
 根っからのツッコミ体質であることは自覚しているので、どうしてもボケは苦手である。言おうと思って言えるものではない。
 蟲がカンペをめくり、「リアルに寒い」との評価。
「うるせー! 昆虫ごときにダメ出しされる筋合い無いわ!」
 ──ま、それはそれとして。
 半開きのドアから身体だけ覗かせてそこから出てこない笹塚さんに、わたしはちょっとだけ違和感を覚える。
「……? 入らないんですか、笹塚さん。──あ、今ちょうど食べようとしてたビスケットがあるんです。一緒にどうですか?」
「いや……俺、粉っぽいの苦手だから」
 そして、笹塚さんはちら、とドアの外に視線を走らせ、
「……実は、今日は用事は他にあってさ。……会ってもらいたい人がいるんだ」
 それはちょっと意外な言葉だった。
 いつもダルそうで、刑事さんとして優秀なのだろうけど極端にテンションの低い笹塚さんが、
そういう「誰かを紹介する」という積極的なアクションを取るのは珍しいことだ。
 ──もしかして、彼女かなんか? だとしたら──是非、見てみたい。
「……いいかな?」
 ちょっとわくわくしてきたわたしは、まだ全死さんとの待ち合わせには時間の余裕があることを確かめ、興味いっぱいに力強く頷く。
「はい!」

89 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/23(日) 22:12:45 ID:roWh5iHd0
 わたしの元気な返事に、笹塚さんはドアを全開にした。
 ネウロも興味をわずかにそそられたらしく、わたしの隣に立って新たな訪問者を待ち受ける。
 ドアの向こうに立つ人物は、わたしの期待通りに、笹塚さんとお似合いの年頃の綺麗な女性だった。
 だが──。
 メイドさんだった。
 白のフリル付きシャツに黒のワンピースはまだいいとして、頭に乗っけられたヘッドドレスと紙一重の飾りつきカチューシャ、
豊麗な胸を強調するために引き絞られたウェスト、過剰なレースで装飾された目にも眩しい純白のエプロン、薄茶のお洒落な編み上げブーツ──。
頭の天辺から爪先まで、徹頭徹尾の完膚なきまでに、フリフリのメイドさんだった。
「……笹塚さんだけはそういう人じゃないと思ってたのに」
 それがわたしの率直な感想だった。
「え、ちょっと……なにか勘違いしてないか」
「だって、こういうのはせめて石垣さんの守備範囲じゃないですか」
 と、わたしは笹塚さんの後輩である新米刑事の名前を出す。それもそれで失礼な発言だが、なにしろ気が動転していた。
 笹塚さんはちょっとめんどくさそうな顔をして、そのメイドな彼女の方を見、それから再びわたしを振り返った。
「いや……この人、これでも警察官なんだ。俺よりも階級が上の人だ」
「……またまた」
「冗談じゃねーんだ、これが」
 と言われても……、信じろというほうが無理な話だろう、この場合。
 どこの世界に、メイド服を着て街を歩く警察官がいるのだろうか。
「ほほう、警察機構もずいぶんと開放的になりましたね」
 とは、人間社会に対して無責任なネウロの発言。
「あー……まー、こういう反応は予想してたけどさ……虚木警部補、後は自分で説明してください」
 そのやる気なさそうな声に応じ、件の渦中にいるメイドさんが一歩前に進み出た。
 なんというか……メイド服を差し引いて良く観察すると、見た目的に大人の魅力満載、って感じの人だった。
 そんなわたしの所感を裏付けるように、彼女は本物のメイドもかくやという華麗な態度でお辞儀をした。
「はじめまして。虚木藍と申します。お目にかかれて光栄ですわ。『名探偵』桂木弥子さん。
ああ、でも──お話に伺っていたより可愛いお方ですね。お世辞じゃありませんよ。実にお可愛くておいでですわ。
それでいて数々の難事件を解く頭脳をもお持ちでいらっしゃるのですから、本当、神様というのは不公平ですね。
わたくしは無神論者ではありますが、こういうときは神の不在について疑いを抱いてしまいます。
──あら、年甲斐もなくついはしゃいでしまいまったようですね。失礼いたしました」

90 :脳噛ネウロは間違えない:2007/12/23(日) 22:16:03 ID:roWh5iHd0
 なんか思いっきり背筋がむず痒くなるような賛辞を並べたて、彼女──虚木藍さんは莞爾と微笑む。
 その微細な動作にもかかわらず、彼女の大きな胸がたぷんと上下に揺れる。
 いやいや、不公平だと思うのはこっちの方です──とは言えず、ただ黙って自分のマッチ棒のような手足と、
ネウロに『洗濯板』などと揶揄される薄い胸板をちょっとだけ恨めしく思った。
 そんなわたしの微妙な傷に塩をなすり込む──ネウロのお世辞返し。
「いえいえ、私も貴女のようなお美しい方が警察にいらっしゃるとは驚きです!
うちの先生は一部の希少マニアにしかストライクゾーンに判定されない、顔、身体、性格、ともに貧相な球種の持ち主でして!
先生の人生設計では、探偵業でがめつく金を荒稼ぎした後は人体改造すれすれの全身整形手術を受けることになっているんです」
 そんなネウロの悪意たっぷりの中傷に、藍さんは「まあ」と目を丸くして口元に手を当てた。
 その動作ひとつひとつが女性らしい色っぽさに満ち溢れていて、しかも少しも嫌味っぽくないのは驚嘆に値する。
「いけませんわ。親御さんから頂いたせっかくの身体を根こそぎ作り変えてしまうなんて。
身体は大事にしてくださいね。せっかくお可愛く生まれてきたのですから」
「いや、そのネタはもういいですから。……ってゆーか、本当に刑事さんなんですか」
「正確には刑事ではありませんわね。わたくしは警部補ですので。──警察手帳、お見せいたしましょうか?」
 藍さんはそう言ってエプロンのポケットから上下開きの手帳を取り出してわたしの眼前に示す。
 そこには警察のエンブレムと、彼女の身分を証明する書式が展開されていた。
 ──まだ半信半疑ではあるが、どうやら彼女は本物の警察官であるらしい。
「さて、社交場の手続きを全て済ませたところで……次は事務的なレヴェルに移行させていただいてもよろしいでしょうか?」
 ここでやっと、藍さんはわたしになにか用があってここに来たのだということに思い至る。
 そりゃそうだ。じゃなければ、わざわざ笹塚さんを仲介してまでわたしに会いに来たりはしないだろう。
「ずばり、本題から申し上げましょう──桂木弥子さん、わたくしは、貴女に公式かつ恒常的に警察の捜査に協力していただきたいのです。
今すぐにお答えいただく必要はありませんが、まずは『お試し』ということで、ある事件の解決をお願いしたいと思っております」
 藍さんとわたしのやり取りを黙って聞いていた笹塚さんが、またも珍しく話に割ってくる。
「おい、虚木さん、あんたまさか──」
「ええ、ご想像の通りですわ、笹塚さん。──わたくしは、先日発生した女子高生殺害事件の解決を、『桂木弥子魔界探偵事務所』に依頼いたします。
正規の報酬をお支払いすることは当然ですが、今回は『お試し』なのでもう一つ報酬を用意致しました」
 そして、藍さんはにっこりと微笑み、話の展開についていけないわたしの脳味噌に極めつけの一発を打ち込んだ。
「その報酬とは……かの傍若無人な電気娘(テスラガール)、域外者(アウトサイダー)飛鳥井全死についての情報です」
「──え? え、え? なんでそのことを? というか、あの人のことを知ってるんですか?」
「その二つの質問に対する回答は簡潔に提示できます。すなわち──わたくしと彼女はいわゆる『同窓』であり、わたくしもまた、域外者(アウトサイダー)なのです」

91 :作者の都合により名無しです:2007/12/24(月) 04:29:45 ID:NWm/iXrC0
メイド警察官w
こりゃ強烈なキャラだw
これって元ねたあるのかな?
笹塚さんが出てくるとなんか嬉しい。


92 :作者の都合により名無しです:2007/12/24(月) 15:49:08 ID:79qtv3Gy0
>邪神さん
ホークが強いな。六政権の中であんまり強くないシンとはいえ
よくここまで対抗できるもんだ。ま、主役は強くないといけませんね。
それでもシンはケンシロウに倒してほしいと思うけど。

>ハロイさん
笹塚出演は俺も嬉しいな。濃いキャラの中にこういう淡々とした
キャラは貴重だから。でも、またさらに濃いのが出てきましたね。
口調は丁寧だけど、このキャラもSっぽい感じがする・・

93 :作者の都合により名無しです:2007/12/24(月) 22:01:51 ID:V9HnCCf10
邪神さんとハロイさんペースいいな
このペースで頑張ってほしい

・いつかはキャプテン
ああそうか、シンは原作の後付設定で孤鷲剣の使い手でしたねw
シンよりも大物の北斗キャラはなかなか出し辛いでしょうが
カイオウとかも出してほしいです。ラオウは嫌かな、ファンだからw

・脳噛ネウロは間違えない
この作品もそうだけど、ハロイさんの作品は特にキャラと会話がうまい。
藍は容姿とその立ち振る舞いで早くも作品に馴染んでいるし。
ヤコが主役なんだろうけど、静と同じく個性的な脇役に押され気味だなw


94 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:19:09 ID:uWBh/FE/0
第030話 「斜陽の刻 其の弐」

下水道処理施設は現役ではあるが、古い。
真赤な煉瓦造りといえばさも洒脱な雰囲気が漂っており現に銀成市の
発行する観光案内のパンフなどにも同様の事柄が記載されてはいるが
その実、建物自体の煉瓦はあちこちにヒビが入っており、日当たりの
悪い場所では浮き出た岩塩がほこりと混じって不快な黒ずみすら浮か
べている。大体にして下水処理施設だ。務める者は平素嗅覚を苛む
悪臭によって汚いものへの抵抗を日々奪われ掃除の意欲を勤続年数
と反比例して低下させていると思われた。
さて、その務める者の一人に信奉者がいた。信奉者とは自らの財産を
捧げる代わりにホムンクルスへの格上げを望む者である。
彼がL・X・E残党の集結場所として職場を提供するに到った経緯はさ
ておき、ほどよく人家から離れた場所にある故、実に円滑に怪物ども
が集まりつつある。

──が、集合時間を守れぬ者も少しいるようで。

えっちらおっちらと重役出勤をしてきたホムンクルスが二人、門前に佇
んでいた。
双方ともひどく軽薄な顔つきで
「どうせ遅れた来たのだから地下から上がってくる連中とここで合流す
れば良くね?」
「ああ、どうせ大事の前の小事だしな」
などとタバコふかしつつ談笑していた。
そこに道の向こうから疾走している影を見つけた。
夜の遠目からも長身で学生服を身に付けているのが分かった。
同類、だろう。
そう判断した遅刻者二名、叱られる対象が増えれば自分らへの怒り
は分散とばかり軽薄な歓待を持って手を上げ、呼ばわった。
「おーいこっちだぞー」
「急がないと叱られるぞぉ!」

95 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:20:18 ID:uWBh/FE/0
影は意外すぎる質問した。
「お前たちはホムンクルスか?」
「あたり前だろ」
「そうか」
影はそのままひた走り、遅刻者二名を通り過ぎた。
「ヘ、急ぎすぎだろ」
と嘲笑を上げた遅刻者両名、上半身が地面に落ちていた。
「あら、ららら?」
奇声を上げる頃にはさらさらと闇に溶けゆくホムンクルスたち。
彼らは気づかなかった。見えなかった。
蒼い光を。
奇襲にきた秋水がすれ違いざまソードサムライXを発動し、瞬く間に敵
二人を斬り伏せていたのを。

(まずは二体)
刀片手に三十メートルほど全力疾走すると施設の扉についた。
開ける。
下水道処理施設だから多くの人間の来訪を前提としていないのだろう。
かすかな月明かりの中、パっと目に入ったのは玄関で、自動ドア一つ
隔ててこじんまりとした待合室。最大収容人数は十名といったところか。
見知った顔が何人か居た。正確には五人だ。
どうやらそいつらも遅刻組であるらしい。立ち上る雰囲気からは重要な
事態に時間を順守できなった自らを悔い、苦悩している様が見てとれた。
少なくても外の連中よりはまだマシだった。その点でも、他の点でも。
彼らは入ってきたのが秋水と知るや否や慄然とした。
恐らく秋水が残党狩りに従事しているのを知っていたのだろう。
だが、秋水の対応の方が早かった。
彼は自動ドアに突進しつつ斬り飛ばした。
ガラスが床にブチ撒かれる盛大な音が響く。
そうして苦悩組の中心に躍り出るやいなや、横殴りにホムンクルスの顔
上部を斬り捨て、正面の敵を袈裟掛けにしていた。

96 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:21:25 ID:uWBh/FE/0
この段に至ってようやく硬直の解けたホムンクルスが一斉に飛びかかっ
たが、蒼く弧を描く光にスルスルと呑みこまれ、上下二つに分かれ落ちた。
逆胴。
秋水のもっとも得意とする技。真剣ならば脇差ごと胴体を真っ二つにで
きるという。
かかる技の前ではホムンクルス三体も紙切れなのだ。
(これで七体。だが本隊は地下。まずはそこへの道を探さなくては)
この酸鼻に息一つ乱れてはいなが、部屋を見渡す様子は気ぜわしい。
ヴィクトリアの事が気になっているのだろう。
その意味でも施設の地図か見取り図があれば良かったが生憎ない。
代わりに待合室から伸びる廊下を見つけた。
その前に張られた鎖には「立ち入り禁止」と書かれたプラカードすらぶ
ら下がっていたが、有事ゆえに関係ない。すでに自動ドアも破壊している。
歩みを進めようとした秋水の耳にけたたましい音が響いた。
(コレは──…)
防犯ベル。一体誰が鳴らしたのか。
ようく廊下を見れば先程顔の上半分を吹き飛ばしたホムンクルスが、
防犯ベルの前に倒れている。視界を失くしながらもするりと逃げ伸び
仲間に知らせたのだろう。
半ば秋水は歯噛みしたが半ばはチャンスである。
相手はこれで向こうからやってくるだろう。
秋水は、深手を負いながらも最善の判断を下した顔見知りにかすかな
敬意と苦悩を覚えつつ、章印を貫いた。
同時に廊下の向こうでドアが開き、ホムンクルスが十名ばかり向って
くる……

実は防犯ベルを鳴らすまでもなく、秋水の奇襲は逆向に伝わっていた。
逆向凱。L・X・Eの幹部である。かつては剣持真希士に斃され、カズキ、
斗貴子、防人とL・X・Eが繰り広げた戦いにこそ参加はできなかったが、
「もう一つの調整体」の効果により鈴木震洋なる信奉者の体を借りて蘇っ
た男でもあり、秋水はウマカバーガーからの帰途、まひろを守るべく彼と
一戦交えた事もある。

97 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:22:17 ID:uWBh/FE/0

「悪いね。実は君達の目論んでる奇襲、戦士たちにバラしちゃったよ。
もうすぐあの双子の弟がココに斬り込んでくるから準備を整えた方が
いいんじゃないかな?」

遡る事十分前。突如そういう事柄を言い放ったムーンフェイスに逆向は
激昂した。
彼は信じていた。ムーンフェイスの復帰さえあればL・X・Eの復興も可能
だと。平素より人をクズと標榜してやまぬ彼ではあるが、それだけに
「超常選民同盟」なる組織への帰属意識は強かったらしい。それが青
色吐息の状態であっても、だ。

「だってね。よく考えてみてごらんよ。既に盟主も亡く崇めるべき存在も
はるか遠い月面……そうしていまや細々と残党を刈られているだけの
弱小共同体、いくらあがいても今さら盛り返すコトなんて無理だよ」

侮辱である。逆向自身は復興を信じていた。
その為に愚にもつかぬ唾棄すべき連中を精一杯組織し、今日ようやく
第一段階にこぎつけたというのに、その間、ただ収監されていただけ
のムーンフェイスは呆気なく捨てるという。そもそも彼の救出を行うべく
『とある共同体』と対応協議し実行したのも逆向だ。
いかにホムンクルスが外道の存在といえど、あまりに道義を無視しすぎ
ている。逆向はその旨を叫びつつ武装錬金を発動した。

「物騒だね。まぁ好きにしたらいいさ。所詮君の武装錬金は単体にしか
効果がない。流石の逆向君でも無数に分裂できる私を一撃で総て斃す
術なんてないんじゃないかな?」

卵の殻を思わせるザラついた白眼だ。ムーンフェイスはその眼差しの
まま口をあんぐり鉤に裂いた。逆向はわずかにたじろぐ思いをした。

98 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:24:19 ID:uWBh/FE/0

「あ、そうそう。元々私は君と違ってL・X・Eにさほど関心がなくてね。
私自身のステキな夢を叶えるためにDrバタフライの持つ組織力と施設が
魅力だっただけ。その両方が無くなってしまった今、興味なんかコレっぽ
っちもないよ。それに」

言葉半ばでチェーンソーから光輪が飛び、ムーンフェイスをずたずたに
引き裂いた。もっともそれが無意味であるのは次の声で悟ったが。

「それに今、私にはいい所から声がかかっていてね。私を助けてくれ
た共同体からスカウトされているんだよ。L・X・Eなどとは比べ物になら
ないほど人材も施設も組織も充実した、正に私の夢を叶えるに最適な
環境から、ね。あ、そうそう。コレは私にだけ許された特別な条件。君や
佐藤君や他の連中のようなDrバタフライ謹製のホムンクルスなどは一匹
たりとも許さないというコトだよ」

鞍替えであるなら容赦はしない。
背後に光輪が飛ぶ。新たに現出していたムーンフェイスは砕けた。
しかし……

「そう、鞍替えだよ。ただそれには条件がある。困ったコトにかの共同
体の盟主は、Drバタフライにひどく恨みを持っている。まったく一世紀も
恨みを持つなんて難儀だね。けど私はそれを解消しなくてはならない
のが困りモノだよ。むーん。夢のためには雑務も仕方なし哉」

更に現れたムーンフェイスが砕けた。

「彼は百年前、Drバタフライとヴィクター君との出会いで人生を狂わされていてね」

だがまた現れる。


99 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:25:24 ID:uWBh/FE/0
「だからL・X・Eには滅んでもらわないと困るんだ。私が地球を荒涼と
した月面世界に作り替えるという宿願を果たすには、君たちのあがき
は邪魔で仕方ない。だから私の為に」

斬りつけたり光輪を当てた物体を百六十五分割するというまさに一撃
必殺のライダーマンの右手ではあるが、ムーンフェイスを倒してはまた
現れるという状態では意味がない。彼は一体でも残ればそこから増殖
するのだ。

「早く大人しく死んでくれないかな?」

切歯する思いで逆向はムーンフェイスを睨んだ。
完全に翻弄されている。

「とはいえ君は君でなかなか強い。このままやり合えば私も勝てる
かどうか分からない。だから特別に見逃してあげるよ。そしてあの双子
の弟と存分に闘って欲しいね。或いはそれで助かるかも知れないよ?」
「……チッ、舐めやがって! てめェの魂胆は共倒れか!」
「ああそうだよ。で、それを伝えるのかな? 確かに伝えれば戦士と手
を組んで私と『あの共同体』を斃す事も可能かも知れないけど」
白眼に濁った黒眼がどろりと現れた。卵白に癌が生じればこんな感じか
も知れない。
「ただし手を組んだ時点で君が渇望してやまないL・X・Eの復興は完全
に断たれる……! 可哀想にね。すっかり抜き差しならない状況」
「くっ…… 元はといえばてめェが!」
「命惜しさに夢を断つのは辛い事じゃないかな? まぁそれでもいいと
いうなら伝えるがいいさ」
とココで彼は口調を変えた。
「もっとも君に勝ち目がまるでないワケでもない。一つ、双子の弟につ
いていい情報をあげよう。うまく使えば君は彼を葬るコトができるよ」
そして一つの情報を伝えた後、彼の姿は消えうせた。
「……オイ」

100 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:26:48 ID:uWBh/FE/0
逆向は声のした方向を睨んだ。見ればホムンクルス佐藤がいる。
やすぎすって血色の悪いサメのような男だ。貧相さを見るに腹が立つ。
「クズが。てめェごときの意見は求めてねェ! ムーンフェイスは逃げた!
後は俺があの双子の弟をブチ殺して寄宿舎の連中を手当たり次第に
ズタ裂くだけだ! どうせ逃げるしか能がねェ馬鹿は喋るな!」
感情の堰が切れているようだ。もっともこのうだつのあがらない部下へ
の言葉としてはいつもどおりだが。
「あ、ああ。理解した。けどよ、俺も残るわ。へ、へへへ。怖いけど、よ」
佐藤は震えながら笑って見せた。
「クズがまたワケの分からねェ事を……」
「いや、な」
ぜぇぜぇと息吐く逆向に佐藤はゆっくり近づいて、肩に手を乗せた。
「俺はよぉ、こんなんだから爪弾きモンだった。けどL・X・Eに拾っても
らって何とか今日まで生きてこられた。ま、だから好きなんだよL・X・E。
あんたも口悪ィけど、そうだろ? じゃあ俺、協力するぜ。役にはあま
り立てねぇけど」
「……うるせぇ。気安く触るんじゃねぇクズが!!」
佐藤の腕を払いのけつつ反吐を催した。
(幹部が裏切られたのにクズごとき味方にして……)
何度目かの切歯をする。
(どうして俺は微かに喜んでいやがる。クズが!!)
そのまま歩を進める。二人して。

計算など、何もない。
策をめぐらす時間もない。

秋水は斬った。斬りまくったといっていい。
いくつ部屋をくぐり抜け何メートル廊下を走ったか。
やがて充満していた残党どもは残り一体となり、その章印に突きを見
舞うと秋水は地下への通路を問いただした。
「あっちだ…… クソ、信奉者風情が……裏切ってタダで済むと……」

101 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:27:53 ID:uWBh/FE/0
さらさらと闇に溶けゆくかつての同胞に憐憫を覚えつつ、地下へと向か
う。
一刻も早く全滅させなければならない。
でなくばヴィクトリアを説得するのが遅れる。
階段の途中でも残党が出てきた。
下りながら繰り広げる戦闘は、永遠に続くと思われた。

一方その頃、秋水が「近接戦闘特化」「単騎」である以上逃れられぬ
欠陥が露呈されつつあった。
撃ち洩らし、である。
秋水自身の仕手に不備はない。むしろ鮮やかすぎるほどの手際で死
骸を量産している。だが騒ぎを遠巻きから見た者、それらから状況を
伝聞した者の中には逃亡を選ぶ者が多々おり、彼らは息をひそめて
斬撃の嵐から密やかに逃げ去り、下水道処理施設の外にぞろぞろと
集結しつつあった。
赤煉瓦の建物の影が鮮やかな光に照らされまっすぐ伸びている。
三十メートルほどの影が途切れるところまで歩けばもはや門扉まであ
とわずか。
そう安堵した残党どもの中から、信じられないという声が上がったのは
灰色の粒にけぶる雲が月をさあっと呑みこんだ瞬間である。
風流にも、空を眺める者がいたらしい。その者が「あっ」と声をあげて辺
りを見回すのを合図に、周りの連中も異変を知悉した。
建物の影が消えていないのである。
月が雲間に隠されたというのに辺りには茫洋たる光が満ちていた。
ようく目を凝らせばその光は下水道処理施設の門扉の上にも浮いてい
た。否。門扉のみならず塀に対し三本の光線があたかも鉄条網のよ
うに存在している。重苦しい監禁の意図が残党どもに広がり、みな口
腔の乾く想いで左右を見渡す。わずかに遠い塀の上で同様の白い光
が瞬いているのが見えた。背にした建物のせいで見えないが、恐らく
背後の塀も同じだろう。遠ざかった筈の乱闘の音が徐々に近づいてく
る錯覚をみな一様に覚えたのものむべなるかな。
一体のホムンクルスが空を飛んだ。

102 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:28:51 ID:uWBh/FE/0
みな正確な名称は知らぬが、彼は鳥型ホムンクルスであり平素はそ
の飛翔能力によりそこそこ重宝されていた身である。
果たして促されたか自発的に判断したか定かではないが、一体この場
に何が起こっているのか確かめるべく彼は飛んだのである。
やがてその身が電撃の衝撃にはたき落とされるに至った瞬間、気絶
した彼以外の全員が一つの事実を見た。
上空にもうっすらと光が満ちている。
ようく見れば塀の鉄条網……いや光線か。その五、六メートル上空に
も同種同様の物が浮かんでおり、それら全てが下方や向かい側の物
へ微細なる光を伸ばし、連結し、薄く引き伸ばされた光が板の如き平
面を形成している……!
ケースだ。もはやこの区画は透明なケースをかぶされたように、立方
的な光に包囲されているのだ。しかも下手に突破せんとすれば先程
の鳥型ホムンクルスのように撃墜される!
一体何者がやったのか。
「残念ながらこの一帯、不肖の武装錬金により閉鎖されております」
正直な感想をみな抱いた。
門扉のそばに佇む影は、声がかかるまで小さすぎて見えなかった、と。
「少々大がかりではありますが、不肖の武装錬金を以ってすれば、脱
出不能の結界を作るコトなど容易いのであります」
小札零は朗々とした声で述べながら、ひょいと身を横に逸らした。
一体のホムンクルスが殴りかかってきたのだ。岩を思わせる大男で、
以前死んだ浜崎を団子のように丸めてふうふうと血気盛んな息を吹か
せばこうなるのではないかと小札は思った。同時に肩まで垂らした茶色
のおさげの横を拳が通り過ぎ、煉瓦造りの壁を破砕しながらめり込んだ。
当たりはしなかったが判断としては正しい。小札が武装錬金により脱出
不能にしているのなら小札を斃せばいいのだ。
彼女は一瞬、うずっとした。
(うぅ、今の思惑、実況すればさぞや映えるコトでしょう……!)

103 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:30:18 ID:uWBh/FE/0
もっともそれは相手を茶化す行為と分からぬ少女でもないから慎みは
したが、要するに仕掛けられた攻撃は以上の趣味的な葛藤に流される
ほど些細な物であるらしかった。
「申し訳ありませんが、今後を思わば一体足りとも逃せぬのが本日の
戦いなのであります。あたら同族の方々の全滅を許容するのは不肖
としても遺憾でありますが、さりとて逃せば人的に大被害……っ! 遠
大無限連鎖連鎖の悪循環……っ! ……耐えるほかないのです」
くすん、とハンカチで目じりを拭う少女にみなが唖然とする中、壁殴りの
大男だけは額に青筋すら浮かべて追撃に移ろうとした。
が。
彼の隆々とした腕に立ち上る衝撃があった。どうやら壁の中からである
らしかった。殴り破砕したはずの壁より白い雷撃が腕から全身を焼きつ
くさんばかりに駆け抜けたのもつかの間だ。刹那が過ぎる折には大男、
目や鼻穴からぷすぷすと煙立てつつ地面に転がり落ちた。腕に引かれ
てがらがらと煉瓦塀が降り注ぐ。
「それからもう一つ。塀を破壊しますれば結界も自動的に作成される
仕組み。これは地面とて同じですのでご留意のほどを!」
崩れ、穴が開いた筈の塀にはバチバチと爆ぜる白光があった。
塀の上で光る線と形は同じで、間近で見れば時折朧にバチ、バチッと
直線が曲線に歪むのが視認できただろう。
後はもう、無統制であった。
死を覚悟し地下に戻っていく者がいた。
塀のそばで佇む者は脱出策を考えているようだった。
中には小札に襲いかかるものもいた。
相手は小兵であり武装錬金も防御重視。
地下に戻り秋水を相手どるよりはまだ生存の目もあるだろう。
襲いかかったのは七名。先程みたく避けるのは難しい。
だが小札は「えええ!?」とビックラこきつつ杖を振るだけのみだった。
それだけで身の安全を確保できた。
上空から七条のレーザーが注いだ。それぞれ襲いかかる者の章印の
すぐ傍を当たり前のように貫いた。章印はホムンクルスの急所であり
攻撃を受ければいかな強者でも無条件で死ぬ。

104 :永遠の扉:2007/12/24(月) 23:30:56 ID:uWBh/FE/0
残党たちはみな自分の胸や額を撫でて驚愕を浮かべた。
理由はまず一つ。七名同時にそういう芸当ができたコト。
さらにもう一つ。ホムンクルスは種類によって章印の場所が異なる。
人型は胸、動植物型は額。
小札は人の姿のままで向かってくるホムンクルスたちの種類すら一瞬
で判断した上で、急所を的確に外したのだ。
或いは秋水以上に始末が悪いと残党どもは思った。
「ふ、不本意ではありますが、やむなく威嚇射撃をば! 次は当てます
ゆえ、ほほほほ本気真剣であ、て、ま、す、ゆえ! なにとぞ大人しく
して頂きたくっ!!」
小札は驚愕に足るだけの技量を持っていながら、むしろ自分のしでか
した威嚇射撃をひどく怖がっているようだ。
目はぐすぐすと涙に潤んで内股でインフルエンザ患者のように震えて
いる。
正直、襲いかかった者は思った。
こんな少女の戯事につきあってじわじわと生存の幅を狭めるよりは、
数を恃みに秋水を打ち破った方がまだいい、と。
やがて彼らは地上に残存する仲間をかき集め、地下へと慌ただしく戻っ
て行った。

「ああ、何とかしのぐ事ができました。さー、不肖も地下へと参りましょう!」
小札もシルクハットを押さえながらとことこ走り出した。」

105 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/12/24(月) 23:31:39 ID:uWBh/FE/0
メリークリスマス! 
今日はニコ動見てSS描いてMAD作っておりましたよ!
これがまた実に楽しい。人は「彼女作って共に過ごさぬなど人としてど
うなのだこのクズ!」と罵るでしょうが、自らの昂揚と意気を持って何か
を築かんとするのもまた人間の良さ。人としちゃあ間違っておらんでしょう。
この意見、誰が否定しようと自分だけは肯定しちゃいますよー! いえー!
それから文章は、語彙を散りばめるより分かりやすい状況説明を羅列
する方が良くなると思う今日この頃。何が正しいかは分かりませんが、やるのみです。

邪神さん
腹筋破壊w どんなキャラなんすかソレはw

>>69さん
>まひろとカズキには通じるところがいっぱいあるので会うと返って思い出して辛いのかも
ぬお! コレは考えてなかったですね。でもあり得る…… 物語の基本
はハッピーエンド、とは和月先生の言であり、自分もそう考えています。
ただし、何もかもが完璧に充足されるよりは、何か大きな犠牲と引き換えの方が好みでも。

ふら〜りさん
実は物語的な逆境を描くというのは初挑戦でして、はたして挽回できるか
不安でもありますw ま、ココは描くしかない。”何度ミスして落ち込んだとしても
諦めちゃダメだ前を向こう”ですよ。一戦終わったら後は逆転に向けて話が動きます。

>>77さん
はい。ソウヤはゲームの方で出てきた人でして、一言でいうと厨二病w
秋水もまひろも一般的な恋愛観からはズレてまして、そういう意味での
天然同士ではあります。ただ、根はマジメですので、そこがかみ合えば、あるいは。

>>79-80さん
いえいえ、実は連載期間、まだ一年四ヶ月ほどでして……いやはや、
長いというか短いというか。それでも自分の描いた作品の中では最長
だったりもするのでなかなか思い入れが深かったりも。

106 :作者の都合により名無しです:2007/12/25(火) 08:19:19 ID:eGS/47Cp0
秋水は雑魚相手には圧倒的に強いんだけど、
ハメ形の相手にはあっさり負けそうだなあ
小札は相変わらず可愛い。

107 :作者の都合により名無しです:2007/12/25(火) 15:30:53 ID:/lM00SDu0
SSよりもMADが楽しみだ・・と言っては失礼かw
スターダストさん乙です。
敵地に乗り込む秋水がかっこいいですね。
でも、そろそろ小札が可愛いの通り越して
ウザくなってきたので虐殺して下さい


108 :作者の都合により名無しです:2007/12/25(火) 18:16:45 ID:79ddXEPM0
俺は小札好きだけどね
いよいよ最終決戦間近かな?

109 :作者の都合により名無しです:2007/12/25(火) 19:34:42 ID:vxSex5fK0
精々中盤くらいじゃないかな。
みんな忘れてそうだけど照星さんの拉致とかまだ問題山積みだし。

110 :故郷にて:2007/12/25(火) 22:09:01 ID:M3m8wIed0
 元海賊で現大統領。つい先日までは囚人をやっていた。純・ゲバルとはこのような男で
ある。
 アメリカにとてつもなく強い男がいるという。たったこれだけの理由で、ゲバルは島を
飛び出した。
 大統領自らアメリカ最強の男を叩きのめし、今後の対米外交を有利に進めるため。自分
たちを統率する男はこんなにも強いんだと証明し、国民に自信をつけるため。ゲバルは大
統領らしくオリバに挑むことによって生じる国益をしたたかに計算していた。が、結局は
彼も地上最強の夢を捨て切れないバカの一人に過ぎなかったにちがいない。
 ゲバルはオリバと壮絶な死闘を繰り広げ、完敗を喫した。
 まもなく彼はアリゾナ刑務所を去った。
 しかし、敗者となった彼を人々は称えた。部下からオリバ対ゲバルの報告を聞いた米大
統領ボッシュは彼を認め、「やはりゲバル(の国)とはやり合うべきではない」との結論
を下した。敗れはしたものの、宿敵アメリカには圧力を、貧しき民には勇気を与えるとい
う点においてはゲバルの挑戦は大成功といえた。

111 :故郷にて:2007/12/25(火) 22:10:33 ID:M3m8wIed0
 食料や雑貨を叩き売る小汚い屋台がずらっと並ぶ。活気ある人々が奏でる乱れた雑音が、
心地よい音楽を生み出している。
 ゲバルは市場を歩いていた。護衛はない。猫が虎を守っても意味がないからだ。
「大統領、らっしゃい!」
「どうだい良い肉が入ったよ、安くしとくよ!」
「相変わらず男前だねぇ、ゲバルさん! 応援してるぜ!」
 四方から飛んでくるファンの声援を笑顔で受けつつ、ゲバルは市場を後にした。
 市場を抜けて少し歩くと途端に人の気配がなくなる。この極端なバランスをゲバルは気
に入っている。
 山のような森のような荒野のような、道なき道をずんずん進む。よそ者ならば五十歩も
あれば方角を失うだろうが、彼にとっては我が家も同然である。目をつぶっていたとして
もつまずくことなくウォーキングを楽しめる。
 程なくして島の最果て、すなわち海に辿り着いた。特に目的はない。
「船は出ていないようだな」
 海辺に佇むゲバル。本当ならばこんな暇はない。すぐにでも街に戻り、大統領としての
執務をこなさねばならない。
 踵を返そうとするゲバルだったが、
「……あの」
「君は……ッ!」
 立っていたのは、祖国を発つ時に出会った少年だった。

112 :故郷にて:2007/12/25(火) 22:12:24 ID:M3m8wIed0
 ゲバルは少年の名を知らない。ただ、彼が島一番の弱虫だということは知っていた。
 いじめっ子の暴力に立ち向かえない。海は深く潜れず、木は高く登れず、家畜を怖がる。
この国で生活するために必要なスキルを、まるで持たない少年だった。知人はもちろん肉
親にすら見放されていた。
 だが、突如島に襲った記録的な特大ハリケーン。島中が避難を始める中、ただ一人この
少年は“逆走”した。これには、本来彼を保護する義務がある両親も呆れた。「弱虫は恐
怖で逃げ道すら誤る」と、他の兄弟を連れて安全な場所に逃げ去った。
 少年は誤ってなどいなかった。
 立ち向かったのだ。
 アメリカに挑まんとする戦士、ゲバルに雨と風と雷を届けるために。
 ハリケーンをたっぷりと詰めた小瓶をゲバルに手渡した時、二人の間には深い絆が生ま
れていた。
「そういえば戻ってから君には会ってなかったな。会いたかったよ」
「………」
「ところで、何か用かな。島一番の勇者よ」
「これ……」
 少年は小瓶を取り出した。おそらく、口数の少ない彼からゲバルへのメッセージが封印
されているのだろう。ゲバルはそれを快く受け取る。
「今ここで開けていいのかな?」
 少年は首を縦にも横にも振らなかった。
 ゲバルは瓶の蓋を取り外す。
 すると、中から──。

113 :故郷にて:2007/12/25(火) 22:14:18 ID:M3m8wIed0
「なんで負けたんだッ!」
 鼓膜を突き破るような怒声が轟いた。
「国中、あなたの最強を信じていたのにッ! アメリカに勝ったあなたは素手でも地上を
制すると信じて疑わなかったのにッ! あなたは戦士(ウォリアー)として、みんなの期
待を裏切ったんだッ!」
 ここでメッセージは終わった。
 オリバの拳以上に強烈な一撃だった。ゲバルは正常な思考を取り戻すのにコンマ数秒を
費やした。
 ゲバルが我に返るのを待っていたかのように、少年は口を開く。
「死ぬ……には……いい日……です」
 以前、ゲバルが好んで使った言葉。死を我が身に受け入れるための呪文。
 少年はすでに死を覚悟していた。ゲバルにこの場で屠られても悔いはない、と。それだ
けのことを自分はしてしまったのだから、と。
 まったく人気のない海辺、死体は海に捨てればよい。もしここで自分が殺されてもゲバ
ルに島民殺しの汚名はつかない。少年はそこまで計算して、この地点でゲバルを待ってい
たのだ。
 だが、ゲバルは少年の頭に優しく手を置いた。
「勇者よ、それは生きるための言葉さ」
「え……」
「ありがとう。おかげで目が覚めた」
 ゲバルに対し島は温かかった。彼の敗北を詰る者など一人もいなかった。未練はあった
が、ゲバルもまた島民の優しさに甘えつつあった。
 そんな矢先、目の前の少年は自分を正々堂々と否定してくれた。
 側近ですらいえなかったことを、国民が心の奥底で思っていたことを、代弁してくれた。
 この世でもっとも尊敬する人間を罵倒する勇気。少年はやはりゲバルが見込んだ通りの
勇者だった。その勇気を受け止めたゲバルも、再出発を誓う。
「船はないが、風はある。今から出航(ふなで)だ!」
「……はい!」
 海風に身を委ね、二人の勇者は大海原に目をやった。
「ヤイサホー!」

                                   お わ り

114 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/12/25(火) 22:18:42 ID:M3m8wIed0
今回の主役はゲバルです。
風立ちぬ
いざ生きめやも

やさぐれも近日再開します。

115 :作者の都合により名無しです:2007/12/25(火) 22:43:44 ID:eM3Ji1Jr0
サナダムシさん乙。
これは新しいヤイサホーの使い方ですね。
僕も真似してみます!


116 :ふら〜り:2007/12/25(火) 23:15:07 ID:lfE/QbwC0
お、何だか快調ですね。

>>サナダムシさん(おぉ! やさぐれ、待っっっってますよっっ!)
・ファイナルフラッシュ
今年の戦隊の、敵組織首領を彷彿と。最期に黒いオチが待っているかとハラハラ
してましたが、(最期だけとはいえ)周囲の連中も含めて優しい雰囲気。和みました。
・故郷にて
こういう少年だからこそ、誰よりもゲバルに憧れゲバルを信じ、ゲバルの敗北が悔し
かった。この子の存在が、他の衛星監視二人に圧勝してる証しになると思うぞ純よ。

>>邪神さん
威嚇会話も戦闘技術も、殺気を孕みつつ繊細。二人とも、戦い(の緊張感)を好み
はしても悟空みたいなタイプには程遠いですからね。今のところ、一応一矢報いた
とはいえ、まだシンとの実力差は感じられます。さて、どう盛り返していくか主人公?

>>ハロイさん
また濃厚な非常識が新登場。外見以外は比較的普通っぽいけど、ネウロを相手に
平然と会話できてしまってるのは、やはり普通ではないなと。しかしこれは個人的な
依頼ではなく、警察組織が公式で? その辺、どこまで進行しているのかが次回か。  

>>スターダストさん    
悲鳴も気合も効果音もなく、サクサク斬りまくる秋水。そして、何だかんだで客観的
に見れば楽々、敵を敵扱いしてない小札(これほどとは意外)。戦闘可能メンバーは
少なくても、「苦戦」はしてないんですよね。あっちもこっちも。それでも問題は色々。

>>自分に鞭を入れるべく予告!
短編ですが必ずや一本、本年度の締め括りにお届け致します。

117 :作者の都合により名無しです:2007/12/26(水) 08:34:19 ID:svxpm2CE0
ヤイサホーは原作から美味しいからなあw
やさぐれ復活楽しみ。

118 :作者の都合により名無しです:2007/12/26(水) 14:48:01 ID:jnjBhtjX0
サナダムシさんはバキネタの時が一番輝いているな。
DBネタも好きだけどね。

119 :作者の都合により名無しです:2007/12/26(水) 14:48:26 ID:jnjBhtjX0
あ、うんこネタは別格w
そして反則ww

120 :作者の都合により名無しです:2007/12/26(水) 22:35:00 ID:1CbHU9zl0
サナダムシさん完全に復活したな。良いことだ

VSさんやうみにんさんも復活してほしいが・・もう無理っぽいな
そういや、サマサさんも最近見ないな・・
ハイデッカさんは完全にテンプレ専門になっちゃったな

121 :七十四話「南の鷲は黒く染まる」:2007/12/27(木) 01:38:03 ID:uFL2emJC0
着地したシンの背後から伸びる、二本の逞しい腕。
胴体を背後から締め付け、そのまま身体を仰け反らせながら持ち上げる。
「くらぇええええい!ジャァァァック・ハマァ―――!」

シンの目に天井が映し出された瞬間、目に映る全ての物がブレ出した。
そして逆さまの世界へと突入し、頭部へ強い衝撃が走り地面が崩れる音が聞こえた。
そのままバネのように宙へ跳ねっ返り、しばらく放心状態が続いたが肉体は自然と着地態勢を取っていた。
だが、着地するとはいっても足に力が入らず、手をついて四つん這いの形になってしまった。

「こ・・・・・・んな・・・下等・・・な・・技に・・・・!」
頭が沸騰するように熱い、血がダラダラと視界を覆う。
頭から血が抜け、大きなショックを受けている今のシンに考える余裕はなかった。
追撃すれば勝機がある筈のホークが、術を詠唱しているのを見過ごしてしまった。

南斗に伝わる呼吸法で全身に酸素を送り込み、脳に考える余裕を取り戻す。
だが怒りに捉われたシンは、思考を停止させ、感情に身を任せ、デスが与えた力を最大限に引き出した。
噴き出す闘気が冷気や刃物のように鋭い物から、ドス黒い不純物の様な物へ変わっていく。

「貴様ッ・・・殺してやるぞ・・・・・キャプテン・ホーク!」
南斗弧鷲拳奥義、南斗千首龍撃。
強靭な脚力によって凄まじいスピードで接近しながら、凶悪な突きを無数に放つ。
千ある拳の全てに、竜のアギトの如き力が宿っていると言われている。
この奥義は伝承のみが残っている、目にした者は南斗の同門で無ければ息絶えるのみ。

バウッという風の裂ける音と同時に、シンが猛然と突っ込んでくる。
空手の達人は正拳で風を切る音を発生させるが、シンの移動するスピードはそれを上回っている。
そして元々かけ離れていた闘気の差も、更に広がっている。
完璧な加速、完璧な踏み込み、圧倒的な闘気、急所に一撃でも当たれば、死は免れない。

「死にやがれェ――――――――ッ!」
「どんなに強くてもよぉ、冷静になれない奴ぁー駄目だな。
詠唱は終わった、術を知らないアンタじゃ2回、俺に術を唱える時間を与えたのを理解できてねぇだろうな。」

122 :七十四話「南の鷲は黒く染まる」:2007/12/27(木) 01:39:05 ID:uFL2emJC0
「何をしたというんだぁ!?どう足掻こうとも、鷹如きが鷲に勝つことはなぁい!」

ホークに手刀が当たる瞬間、またも『硬い』という感触に捉われた。
何故、剣は既に地面へ捨てられている。
次に感じるのは全身への熱風であった。

「セルフバーニング、本来、水と火の術は同時には覚えられないんだが剣の魔力の影響下なら使えるみてぇだ。
ところで、鷹狩って鳥を使う狩猟法があるんだがよぉ。
そいつを行う際は、鷹だけじゃなくコンビの人間も重要だぜ?」

目前にシンの蹴りが迫っているのに、微動だにしないホーク。
舐め切っている、『硬い』とはいっても、先程の剣程ではない。
時間をかけ、熱風に耐えれば破壊は十分可能である。
「うおおおおおおっ!」
「げぇっ!魔法盾にヒビがぁ!?」

急に慌てだすホーク、この防御術、時間が経てば弱くなるようだ。
さらに手へ闘気を送り込み、ラッシュを加えると炎の紋章を壁状にした魔法盾はバラバラに崩れてしまった。
だが、ホークに追撃を加えようとした瞬間に衝撃が走った。

「ケンシロウ・・・貴様・・・・・何故ッ!?」
「北斗・・・蛇雷咬!」
ホークの復活に捉われ、生死の確認を疎かにしたようだ。
体中から血を噴き出し、完全に治ったとは言い難いが動くことはできるらしい。
それに、倒れた場所から一気に跳躍までしている。
体を無理に動かしているとは思えない踏み込みと力。

完全にホークに目が行っていた、身体を包む闘気以外に身を守る物などない。
そして、ホークを守るべく拳を振るうケンシロウの闘気は先の攻防とは比較にならなかった。
ベキベキと木材をへし折ったような音が腹部に響き渡る。
肉体の状態、そしてもう一歩踏み込まれていれば完全に秘孔に入っただろう。
しかし、体の半分まで奴の闘気は入り込んでいる。

123 :七十四話「南の鷲は黒く染まる」:2007/12/27(木) 01:40:19 ID:uFL2emJC0
「ホーク・・・北斗神拳に、一対多数はない。
・・・ここから先は、俺に任せてくれ・・・・・。」

全身からダラダラと血を流しながらも、一人で戦おうとするケンシロウ。
その眼には、『覚悟』が、本物の闘志が宿っていた。

「そうかい、だがよぉ・・・フェアじゃねぇな。」
「ダメージは五分だ・・・やれる。」
「いや、さっきまでなら確かに五分だったな。」

立ち込める黒い霧、シンの目から血が流れ落ちていた。
鬼神の形相で立ち上がる男は、目から深紅の涙を流しているようにも見えた。
シンを中心に、地面に亀裂が走っていく。
柱は割れ、祭壇を粉々に打ち砕き、地割れが瓦礫を飲み込んでいく。

「ありゃ闘気なんかじゃねぇ!感じたことのねぇ魔力だ・・・闇か邪の術法か!?」
「どうなっている・・・シンはどうなっているんだ!」
「知らねぇよ・・・・・いいから逃げるぞ、この部屋は陥没する!」

誘拐された娘を抱え、入ってきた扉に向かって一目散に逃走するホーク。
ケンシロウは、シンへ一瞬だけ目を向け逃げるのを躊躇したが、止むを得ず走りだした。
部屋の外に出ると天井に幾つものヒビが入っていた。

急ぎ街へと戻る為、来た道を戻る。
道中で魔物の死体に寄りかかり、ゼェゼェと息を吐いている二人組を見つけた。
「ハァ・・・ハァ・・・まさか小型のドラゴンなんか用意されるとはなぁ。」
「ふぅ・・・でもキャプテン達が来ましたよ、もう終わった様で・・・・・。」

ホークとケンシロウは何故走っているのだろうか。
天井から落下する瓦礫が見えてしまった今、考える必要はないだろう。
「民衆の不満を解決する為にこの仕事を請け負った筈ですが・・・水路が破壊されたらどうなるんでしょうね?」
「そんなん知るかよぉ・・・走れえェェ――――ッ!」

124 :七十四話「南の鷲は黒く染まる」:2007/12/27(木) 01:41:49 ID:uFL2emJC0
水路の魔物もホーク達に構っている暇はなかった。
危険を感知し、更なる地下へ潜るか、通路を走るしかなかった。

「うおっ!?水の結晶体じゃねーか!」
「彼等も逃げるのに必死ですから攻撃はしてこないでしょう。」
「そうはいっても、今ウォーターガンなんか喰らったら死んじまうぞ!」
「しゃべってる暇なんかねぇ!出口だ!」

ホーク達より先に獣類の魔物が、逞しい脚力で飛び出す。
出口は狭くなっている、このまま他の魔物に先を越されるとまずい。
そう思い、脚に力を込めるがここで奇妙な事態が起きた。
多くの魔物の影で、出口から光が全く入ってこないのだが、急激に光が差し込んだ。
赤い光、その赤は一瞬で地に滴り落ち出口からは光が差し込んできた。

「な、なんだぁ!?」
「止まるな、ホーク。このまま行くぞ。」

奇怪なのは獣の死だけではなかった。
危険に敏感な不定形、スライムや魔力の塊、精霊の様な生き物はみんな立ち止まっている。
確かに彼らは実体を失っても、他の生物と比較すれば生き残る確率は高い。
だが、何故逃げないのか?それは出口に向かうより、落盤の中に居た方が安全という事ではないか?
やっとの思いで外へ出ると、そこでまた奇妙な事態を遭遇する。

「なんで・・・生きてるんだ、こいつ?」
「シン・・・!」

ホークの剣を手に、真紅に染まった殺意の眼差しを向けてきた。
地面に開いている穴、常に刀身から爆炎を放つ剣。
地面を溶かし、地中からここまで来たらしい。

「闇の中がこんなに気持ちいいとは・・・強さこそ正義!
もうプライドも何もいらん、お前の命だけが欲しい!」

125 :七十四話「南の鷲は黒く染まる」:2007/12/27(木) 01:42:59 ID:uFL2emJC0
最近、飯を食ってもイマイチ満腹感を感じない…過食症だろうか…。邪神です。(0w0)
〜感謝と講座〜

>>ふら〜り氏 >>自分に鞭を入れるべく予告! 短編ですが必ずや一本、本年度の締め括りにお届け致します。
       さすがふら〜り!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ
       そこにシビれる!あこがれるゥ!

>>92氏 な、なにをいうだぁーッ!そんな…シンが余りにも不憫…でも際立って強いのはサウザー様だけじゃ?
    格ゲーでは水鳥、人の皮をかぶった悪魔が六聖最強ですけどそれを言ったら北斗最強が病人に…。

>>93氏 いつかはキャプテンってなんぞコレw ラオウ様は今のところゲスト出演のみ、今後は不明。

北斗蛇雷咬 格ゲー技、元ネタはラオウに無想転生でかわされた突進パンチ。

〜おまけ〜
スターダスト氏は社交儀礼で聞いてくれた…それはわかっていたんだ…
そうなんだよなあ〜〜〜〜〜〜 しかしよォー それでも なぜ
俺が「彼」について解説しようとしたのか…ひょっとしたら興味があるかもしれないと思ったら…
万が一でも! 興味があるっつー可能性があるのなら!「彼」を解説しないわけにはいかねえだろう…!

って訳でヴェイグ 「君と殴り合うRPG」と評価されたテイルズオブリバース主人公。
         「物静かで冷静だが根は熱い奴」と公式HPで発表された。
         今まで主役が全員熱血だったので、新しいタイプの主人公かと思いきや、
         幼馴染が誘拐されると両親以上に慌てふためき「クレア!クレア!」
         と、町中だろうと、山奥だろうと、何処だろうと名前を連呼する。
         物静かで冷静なシーンは余り目立たず、イベントでは熱血しか見せない。
         しかし幼馴染が獣耳になった途端、彼女に拒否反応を抱き、
         それを誤魔化そうと過剰な優しさを振り撒いたりするあたり、冷めた奴かもしれない。
         見かけは細いが、身の丈ほどある大剣を軽々と振り回す。
         「テイルズオブデスティニー」で空気王と呼ばれるキャラにデザインが似てたり、
         イベントで「格闘&弓」が武器の筈の仲間の青年を「素手」で殴りハメたりネタ要素が豊富。
         さらに、声がみんなのアイドル、勇者王なのでとっても人気。

126 :作者の都合により名無しです:2007/12/27(木) 08:32:00 ID:N3DfrctT0
シンってこんなに必殺技多かったっけ?
ケンシロウがなんか引きこもりから復帰した子供みたいな性格でワロスw

127 :作者の都合により名無しです:2007/12/27(木) 13:20:52 ID:jw6xAgTK0
ラオウ出るのかw
ラオウをヘタレさせるのだけは勘弁

128 :作者の都合により名無しです:2007/12/29(土) 13:25:52 ID:LcC8Kync0
邪神さん乙。年末年始もがんばってください

129 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2007/12/30(日) 06:02:09 ID:R1HH3CLz0
ホークの剣、正確にはスタン・エルロンの持っていたソーディアンと呼ばれる古代兵器。
得体の知れない術法によって傷口を塞いだシンの手で、その力を解放していた。
脱出したのが廃墟付近で正解だった、もし町中に出てたらパニックでは済まない。

「ホーク、構えだけでもある程度なら流派や繰り出す技を特定することはできるな?」
「ああ?アイツはお前の知り合いだろ、南斗聖拳とやらについちゃ何一つ知らねぇ。」
「俺は幼少から南斗に修行に出された事もあって大体だが知っている、だが南斗にあんな構えはない。」

両腕で剣を持ち、腰を深く落とし不気味な目でこちらを見つめている。
よく見ればアサシンと呼ばれるクジャラートの隠密に伝わる構えに似ている。
両腕を脱力させた状態から、独特の足捌きで接近して変則的な攻撃を繰り出すと聞く。

だが、そういったトリッキーな戦術は複数の相手に対しては行い難い。
動きが制限される状況では、守りを固めるか圧倒的な攻撃力で敵の数を減らすか。
恐らく奇怪な戦術を取るフリをして、誰か一人を最初に片付けようとするだろう。
ダラリと下げた両腕を持ち上げ、剣を片手に持ちかえ後ろに引いた状態で水平にし、手を添える。
東洋剣技に伝わる突きの体制に似ている、一撃で始末する気だ
視線はハッキリとベアへと向いているが、剣技ならベアの方が上手の筈。
視線でゲラ=ハに合図を送り、シンの突撃した直後を叩く為にベアから離れた。

ベアはシンから一瞬たりとも目を離してはいなかったが、足音で意図は伝わったようだ。
完全に防御の構えに入っている、竜の尾さえ退けたパリィの構え。
そして、ついにシンが動いた。

だが、動かしたのは上半身だけだった。
水平にした剣を、まっ直ぐ突きだす。
ただ、それだけだった・・・それだけでベアは背後の廃屋へ突っ込んでいった。

「・・・何しやがった・・てめ・・・・。」
光が、剣から放たれた眩い光の腕がベアを貫いた。
光の腕、直線状に放たれる突きによる剣圧。
威力の高い剣技ではあるが、シンはソーディアンの炎を一緒に飛ばし更に攻撃力を上乗せした。

130 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2007/12/30(日) 06:03:14 ID:R1HH3CLz0
「ベアを一瞬で!?」
「下がれゲラ=ハ!」

その場から飛びのいたが遅かった、またしてもその場から動かずにゲラ=ハに向かって剣を振る。
するとどういうことか、ゲラ=ハの周囲を陽炎が包むかのように歪んでいく。
空中で静止するゲラ=ハは、ただ空間の歪みに取り込まれていくのを見ているしかなかった。
次元断、ホークもこの技と同レベルの技、夜叉横断を習得しているが攻撃力は次元断の方が上である。

「ゲラ=ハぁ!」
「遅かったようです・・・炎で動きを封じながらの次元断、これは強敵ですね・・・。」

脇腹がパックリと抉り取られ、地面に倒れ込むゲラ=ハ。
出血がひどく、このままでは死を待つしかない。
「中々・・・腕の立つトカゲだな、次元の割れ目が心臓に向かうようにしたのだが。」
「てめェェェェ!」

武器を持たないホーク、無力だと分かってはいても立ち向かわずにはいられなかった。
ゲラ=ハは一番の相棒だった、苦楽を共にした戦友を失って黙っている訳にはいかない。
ドスッ、シンの間合いに踏み込む直前に鈍い音が響く。
「け、ケンシロウ・・・!?」

「秘孔、新胆中。俺の声が掛からない限りお前は一歩も動くことはできない。」
かつて、兄であるトキが使ったこの秘孔。
今、同じことを自分もしようとしている。
己の命を捨て、未来を託すための秘孔。

「ホーク、術は唱えられるか・・・?ゲラ=ハを任せた。」
「クックック、いい眼だぞケンシロウ。怒りに満ち足りている・・・俺を殺した時の顔だ。」

剣を地面に突き立てるシン、確かに威力ならば剣を持っていた方が当然上である。
だがシンが徒手を選択し、修業してきた理由は、達人同士の戦闘で攻めに遅れをとれば死しか残されないからだ。
迎え撃つのならば剣で問題はないが、こちらから攻めるにはコンマ1秒のタイムラグも許されない。

131 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2007/12/30(日) 06:04:24 ID:R1HH3CLz0
二人とも自分から攻める動きを見せず、お互いに相手を軸に円を描くようにして周る。
「ほぉ、さっきと違って中々隙を見せないな。」
「シン、感謝するぞ。」

こんな時に何を言い始めるんだ?
そう思ったが、一応話を聞いてやることにした。
「ユリアをラオウから救ってくれた。」
「チッ、つまらん事を言う暇があったらさっさと仕掛けてこい!
俺は下らん情愛は冥府に捨て去ったのだ・・・貴様を殺す為に!」

苛立っていた、戦いの最中に相手に礼を言うなどという腑抜けた行為に対して。
だが注意深くケンシロウを見てやると、さっきまでサザンクロスで自分を殺した時と同じ眼だったのが、
ユリアの死を伝えた、あの時の眼・・・『哀しみ』を宿した眼へと変わっていく。
あの時、生きている事を伝えたらユリアは南斗を抜け、ケンシロウと共に民を救う旅に出ただろう。
しかし、今になっては道端の犬のクソよりどうでもいいことだ。

「情愛を捨てた・・・ではなく封じたのだろう?」
「なにぃ・・・?」
「人の心は表裏一体、怒りがあれば喜びがあり、憎しみがあれば優しさがある。」
「バカが・・・では俺の拳に優しさがあるか試してみるがいい!!」

先に攻めたのはシンだった、数発の手刀をケンシロウに放つ。
それを全て捌くと反撃のハイキックを撃ちこむ。
鍛錬を怠ったジャギの肉体は、鍛え抜かれたケンシロウの攻撃に防御能力を示す事はできなかった。
シンが闘気を巧みに操り、身体能力を底上げしていなければ砕け散っていただろう。

「南斗迫破ざ・・・っ!」
「それがお前の怒りならば、やはり俺に勝つことはできん。」
南斗迫破斬、振り抜かれた拳をかわしても真空の爪が襲いかかる二段構えの技。
さっきまでのケンシロウの動きならば、避けるしかなかった筈。
それが技を出す前に腕を掴み取り、その上攻撃する隙も見せない。
一瞬、鎧男とトカゲを始末したその一瞬で何が起きたというのか。

132 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2007/12/30(日) 06:08:30 ID:R1HH3CLz0
ケンシロウの手に力が込められると、シンの腕はミシミシと音をたて始めた。
蹴りに意識を向けさせ、難を逃れるべく足払いを仕掛ける。
しかし、今のケンシロウには一分の隙もなかった。
蹴り足を先読みし、シンのつま先を避け、脛を蹴って防ぐ。
貫通力を重視する南斗弧鷲拳では四肢の先端が最たる驚異。
そこ以外の強度は六聖以外の南斗聖拳と大差はない。

「おおぉ・・・あああああああたたぁ!」
シンの手を離すと同時に拳による連撃を入れる。
胸から腹部へ、左胸から右胸へ。
十字の形に拳の跡が刻まれていく。
北斗十字斬、かつてケンシロウがシンを屠った拳。

「こぉ・・こんな・・・俺は全てを捨て去り最強の男になった筈!」
「シン、闇に捉われ全てを捨てるというのはそういうことだ。
力が湧き上がる様に感じても、力の源・・・情愛なくして真の強さは得られない。」

シンの傷は黒い霧に包まれ、瞬く間に塞がっていく。
だが精神に負ったダメージは相当な物だった。
蘇って手に入れたこの力、今の腑抜けたケンシロウに負ける筈がない。
「ケンシロウ・・・貴様、まさか・・・・・!」
「そう、刹活孔・・・・・ホークの動きを止める前に既に突いておいた。」

刹活孔、己の命を縮める代わりに天をも揺るがす剛拳を手にする秘孔。
絶対に倒れる訳にはいかないという決意の証し。
「フッ・・ハハ・・・ハァハハハハハ!気でも違ったか?
そこまでして、そんなクズを守って何になる!」

バカな事を、シンの笑いはそう言ってるようにしか聞こえなかった。
すると、ケンシロウは震える拳を握りしめてシンの問いかけに答えた。
「ホーク達を守るためだけではない、お前の目も覚まして見せる!」

133 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2007/12/30(日) 06:10:25 ID:R1HH3CLz0
メリましておめでとう。邪神です。(0w0)
次元断は共振剣でした…申し訳ありませんが脳内保管を…。

クリスマスといったらダンクーガ全話を一気に見るしかないですよね。
誰だってそうする、おれもそーする。
しかし連続して自分が投稿するとは…やはりみなさん、年末は忙しいのですね。

〜講座と感謝〜

>>126氏 原作だと獄屠拳、アニメだとその他に数種類あるとかないとか・・・。
     千手龍拳(撃だったorz)は格ゲーから抜擢、北斗ゲーはやったことないんですけど動画見たりして確認。

>>127氏 出すとは言ってないんですが・・・今のところって言ったのは今後の予想じゃ無く前に出たって意味で。

>>128氏 いいですとも!

光の腕 範囲攻撃系の剣技、範囲は独特だが安定した威力を持つ。槍でも使用可能。

共振剣 武器クラッシャー、使ってると耐久力がアッー!と言う間に減少していく。大型剣で使用可能。

北斗十字斬 十字の形に秘孔を突き、10秒後に死ぬようにする。
      サザンクロスの決闘で使用された。

刹活孔 寿命を縮めることになるが、大幅に肉体を強化する。
    格ゲーのトキは相手に対しても了承なしに使うがその際は何故か強化されない。

新胆中 ラオウと戦おうとするケンシロウを引きとめる為にトキが使用した。

134 :作者の都合により名無しです:2007/12/30(日) 15:31:59 ID:iEi1alid0
ケンシロウとシンとの戦いで年越しか
よきことだ
もう一回更新あるかもしれないけど。

135 :作者の都合により名無しです:2007/12/30(日) 22:48:40 ID:oY+zLOL90
ケンシロウとシンの戦いは熱いけど
ちょっとシンが小物に見えちゃうなあ。
死に際に巻き返してくれればいいが。

136 :ヴィィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:23:14 ID:mOHeoU5K0
「『複数形』の『シモンズ』……? なにを言っている?」
 バイオレットの訝しむ声に、その女性研究員は銃声で応えた。
 一瞬早く銃撃を察知していたバイオレットは、廊下の角の向こうに飛び込んで壁を盾にする。
「言葉通りの意味ですよ、サー・バイオレット」
 その声は背後から聞こえた。
 いつの間に後ろを取られたのか──違う! 今のは男の声だ!
 そんな言葉がバイオレットの思考を駆け巡り、そして本日何度目かの銃声。
「ぐうっ……!」
 慌てて身を捩るがすでに遅く、肩口に熱い衝撃がねじ込まれる。
 遠のきかけた意識、わずかにぼやける視界に映るのは──やはり、奇妙にねじくれたにやにや笑いを貼り付ける男。
 廊下の向こうから、こつこつと歩み寄る女性研究員の気配を感じる。
 また別の気配が生じる。ひとつ、また一つ。
(包囲されているのか……?)
 気力を振り絞って、痛みに歪むおもてを上げたバイオレットは、その異様な光景に愕然とした。
 どこから沸いてきたのか、バイオレットへとわらわらと群がりつつある人々──その数は六──いや七。
 だが、問題はそんなことではまるでなく──、
「お、お前たちは……」
 人種、年齢、顔立ち、そのすべてがばらばらである七人の男女たちなのに、
 ──顔に浮かべた笑みは気味が悪いほどに相似していた。
 それは胸のむかつく悪夢のような光景で、その印象を裏付けるような非常識さで、そいつらは同時にハモりながら喋りだす。
「『複数形』……つまり、『我々』はみな『私』なのですよ。お分かりですか? この意味が?」
「貴様……テレパシストか? テレパシー能力で、複数の人間を遠隔操作する……そういう能力者か?」
 いつしか、バイオレットの声音は平静を取り戻していた。
 肩の辺りが真っ赤に塗れたスーツも、それ以上に血が染み渡る様子は無い。
 銃弾の一発や二発では、ARMSを移植されたものを死に至らしめることは出来ない。
 全身に分布するナノマシンは、適応者のバイオリズムを根拠に最適な状態を保とうとするプログラムが組み込まれているからだ。
 銃創程度の傷ならば、たちどころに治癒してしまう──それが、キースという存在だった。

137 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:25:09 ID:mOHeoU5K0
「遠隔操作などと人聞きの悪い。私はただ、『我々』の気分を肩代わりしているだけですよ。
サー・バイオレット。見えますか? 貴女を囲む者たちの顔が。彼ら──いや、『我々』は皆、貴女が嫌いで嫌いでしょうがないんですよ。
キース・シリーズなどと名乗り、『我々』がまるで淘汰されるべき下等種のように振舞う貴女たち『キース』が、嫌いなんです」
 バイオレットを囲む輪がじりじりと間隔を狭めてくる。
 この包囲を突破することは、バイオレットの『マーチ・ヘア』にとっては造作も無い。
「減らず口を……!」
 体内に眠るコアを解放し、ARMSを発動──、
「おや、『我々』を殺すんですか? ただ『貴女が嫌い』だというだけの、罪の無い人間を?」
 ぎくり、と身体が強張る。
「そういう意味では、貴女の言うとおりです。『我々』は『私』によって操られている──貴女への嫌悪感を楔としてね。
それでも殺しますか? 人類の革命種であるキース・シリーズは、ヒトの命になど興味がない?」
 ぱん、と乾いた火薬の破裂音。太腿が撃ち抜かれ、膝を落とす。
 食い縛った歯の奥から、か細い悲鳴を漏らしてしまう。
「ああ、可哀想に。殺したければどうぞ『我々』を殺しなさい。だが、これだけは肝に銘じていただきたいですね。
もしもなんの良心の仮借なく『我々』を殺せるのであれば──貴女は『人でなし』だ。
そう……貴女はヒトではない。人間の資格がない。人間の心がない」
 バイオレットを囲むにやにや笑いが、いっそうの凄惨さを帯びる。
「『我々』は貴女のためにたっぷりと弾を用意してあります。ARMSを持つ貴女なら、何発くらい耐えられるのでしょうかね。
果たして貴女は『ヒト』の心と身体を持った存在なのか……今、確かめてさしあげましょう。
もしも万が一に貴女が『ヒト』であるなら、ここで死ぬのが貴女にとって幸せだと思いますがね。
これだけの身近な人間に憎まれていることが明らかとなっては、生きている甲斐もないでしょう。──それが人間らしい反応というものです」
 ──どこか遥か遠く、果て無き地の底から、『声』が聞こえた。
(『憎い』……!)
 『シモンズ』たちがめいめいに銃を構えてバイオレットに照準を定める。
(『ヒト』が『憎い』……!)
「やめろ──やめてくれ」
 思わず、バイオレットは懇願していた。
 それは、目の前に並ぶ者たちへ向けた言葉ではなく、このカリヨンタワーの奥底に住まう『声』の主へのものだった。
 だが──その『声』──途方もない虚無の体現者──マザーARMS『アリス』は、バイオレットの悲痛な願いをいとも容易く捻じ伏せた。

138 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:30:02 ID:mOHeoU5K0


「すごい『力』だな……まさか、これほどの発動を見せてくれるとは思わなかったよ。
おめでとう。君は『ARMS』の移植に成功したばかりか……僕らが仕えるべき『アリス』との共振にも成功した……」
 あの時、彼女が生み出した虚無の中に、彼女と良く似た少年は平然と立っていたのだった。
「君は夢の中で聞いたはずだ…彼女の言葉を!! 彼女に選ばれた者だけが、僕たちとともに歩む資格を持っている……」
(ワタシハダレ? アナタハダレ?)
 彼女が訊くと、少年はにっこりと笑って彼女に左手を差し出した。
「君は、キース・バイオレット……僕の妹だ。
そして僕は……キース・ブラック……君の兄にして……僕らの母たる『アリス』の意思を代行する者だ!」


(ああ……思い出した……ブラック兄さんがわたしに言った言葉……)
 血の海の中に立つキース・バイオレットは、どこかぼうっとした面持ちでそんなことを考えていた。
 もう『シモンズ』はいない……あのにやにや笑いを彼女に見せていた集団は、すべてが肉塊となって崩れ落ちていた。
 バイオレットが装備するARMS『マーチ・ヘア』は拡散散布の機能を備えたものだった。
 至近距離でその機能を発揮した場合、爆発的に拡散するナノマシンが生体組織をミクロ単位でずたずたに破壊してしまう。
 生物を、いや人間を殺傷する目的でしか使いようがない、彼女の『ARMS』。
(やはり、わたしは『ヒト』ではないのか……?)
 乾いた瞳で辺りに散らばる『ヒトだったもの』を見回し、彼女は思った。
(会いに行こう……『ママ・マリア』に……)
 なぜ会いに行かなければならないのか、会ってどうするつもりなのかはまるで思いつかなかったが、
 ──今のバイオレットにはそのことしか考えられなった。

139 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:34:21 ID:mOHeoU5K0


「雨が降っているねえ……」
 盲目の老婆がそう言うのへ、そばに立つ男は分厚いカーテンを押しのけて窓の外を見、その通りであることを知る。
「分かるのかい」
「分かるともさ。ママはなんでもお見通しだよ」
「ママには敵わないな」
 男はアフリカ系らしい陽気な笑顔で、老婆の枕元を親愛の情を込めて叩いた。
 小ざっぱりとした室内を飾る品の良い調度品に囲まれ、その老婆は床に臥していた。
 痩せこけた顔には病魔の色が濃く浮かび、うっすら開かれた瞼の奥からは、白濁した瞳が覗いている。
その衰弱した姿は、この世の業を他人よりも多く取り込んでいるかのようでもあった。
 やがて老婆は手探りで男のひび割れた手を取り、横たえていた身を起こそうとする。
「駄目だよ、ママ。ちゃんと寝ていなくちゃ」
「倅や、馬鹿を言うんじゃないよ。お客さんが来ているのにそんな行儀の悪いこと出来やしないよ」
「なにを言ってるんだい、ママ。客なんて──」
 いないよ、と言いかけた男は、その言葉を飲み込む。
 呆気に取られた視線は戸口の方を向いており、そこには、一人の少女が立っていた。
 いつからそこにいいたのか、全身ずぶ濡れで、おまけに至る所が血で汚れているという、
不審人物そのまんまの姿で所在無さげに立ち尽くす少女は、あろう事か──極めつけに不審な──白人だった。
「おい……あんた誰だ? どうしてここに? いや、どうやってここまで来れた?
ここはブラックハーレムのド真ん中だぜ。こんな夜中に、あんたみたいなホワイトのお嬢さんがほいほい歩ける場所じゃないぞ」
 警戒心を露わにした男の声などまるで無視して、その少女は老婆に歩み寄る。
「お前が『ママ・マリア』だな……」


 バイオレットから見て、彼女──『ママ・マリア』は虚弱そのものだった。
 ARMSの力など借りなくても簡単に息の根を止められそうな、ちっぽけな存在。
「触れるだけで人間の心の奥まで読み取る『リーディング』能力を持つ女……『ハーレムの聖母』と呼ばれるママ・マリア……」
 彼女に問うているのか、それとも自分の中だけの確認なのか判然としない口調にもかかわらず、ママ・マリアは鷹揚な動作で首を縦に振る。

140 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:41:45 ID:mOHeoU5K0
 そのまるで『何でもお見通しだぞ』とでも言いたげな感じに、バイオレットの心の中の『なにか』が刺激され、強い口調で次の言葉が出てくる。
「──だったら、私の問いに答えてもらおう!!」
 ママ・マリアは無言のままで、なにも映らないはずの瞳をバイオレットに向ける。
 なぜか『見られている』ような気がした。
「わたしは父も母もなく、試験管の中で生まれた……遺伝子を操作され子供を作る能力を持たない、ただ一代だけの生物……」
 自分で言ったその言葉に、たとえようもないうそ寒さを感じる。
 だが、それだけであった。そんなことで泣いたことなど、バイオレットは一度もない。
 人間の女性なら、泣くはずだった。
「わたしを作った人間たちは、わたしには心や感情すら無いと言っていた。
確かに私に心があるのなら、人を殺せば胸が痛み、涙を流すはず……。
わたしは今……ここに来る前に九人殺した……だが……涙は出ない……」
 言っている間中ずっと脇に垂らしたままだった両腕をママ・マリアの前に差し出す。
 硬く握り締められた両拳を天に向け、まるで怖々そうしているようなぎこちなさで指を開いた。
 乾いた血で赤黒い染みがこびりつく掌を見せ付ける。
 これがわたしなのだと。わたしがこの手に掴めるものは、これ以外に無いのだと。
「答えろ! わたしは……ヒトなのか? わたしは人生をプログラムだけに支配された、戦闘兵器じゃないのか?」
 遠くから『声』が聞こえる。
 彼女を『殺せ』、と。
 劣等種の分際で超人気取りのそいつを殺さねば、『我々』に未来はないと。
 『声』は言う。
 彼女が『ヒト』だと答えたら殺せ、と。なぜなら、それはとんでもない嘘だから。
 『声』は言う。
 彼女が『ヒトではない』と答えたら殺せ、と。その言葉を真実たらしめるために。
 『声』は──いや、『声』が遠のく。
 そんなどこかの誰かの言葉などよりも、もっとも切実でもっとも堪えがたい『なにか』が、バイオレットの胸の内から湧き上がる。
 ほとんどすがりつくようにようにして、ママ・マリアに詰め寄る。
「わたしは…わたしはいったい…なんなのだ!?」
 瘧のように震えるバイオレットの手を、彼女よりも小さく、老齢のためにがさがさになった手がそっと包んだ。
 気管支を患っているのか、ひゅうひゅうと笛の音交じりの弱々しい声。
 だが──今まで聞いた誰のよりも、暖かくて優しい声がバイオレットの耳朶を打つ。

141 :作者の都合により名無しです:2007/12/31(月) 00:44:19 ID:rLMwM/7a0
投稿規制かな?
廃スレで支援してきます

142 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:46:13 ID:mOHeoU5K0
「私の盲いだ目に見えるのは、傷ついて泣いている小さな女の子だけ……涙がないなんて嘘だよ……」
「……わたしは泣いたことなどない」
「心だけで涙を流すことだってあるものだよ。……今、どんな気持ちだね?」
「分からない……わたしには感情などないから……だけど……」
「だけど?」
「喉が……胸が、苦しい。ナノマシンの不調のせいだ。戦闘行動の影響だ」
 不意に、ママ・マリアが息を潜めるのをバイオレットは感覚した。
 そのまま永遠に呼吸が止んでしまいそうになるが、ママ・マリアがいっそう強い力でバイオレットの手を握り締めた。
「お嬢ちゃん……その苦しみを、ヒトは『悲しみ』と呼ぶんだよ……」
「──嘘だ!」
 ほとんど反射的に、バイオレットは絶叫していた。
 まるで仇でも見るような形相で、ママ・マリアを睨みつける。
 その視線をやんわりと受け止め、彼女は真直ぐに見つめ返してくる。
「嘘なこと、あるものかね。私はずっと、色んな人間の『心』を見てきたんだよ……。
綺麗なもの、汚いもの、たくさん見てきたけどね……その誰もが、あんたの言う『苦しさ』を抱えていたよ」
「そんなはずはない、貴様は嘘をついている! だって……もしもこれが『そう』だと言うなら……わたしは……!」
 バイオレットの細い首が震え、息を呑むような音が微かに響く。
 耐え難い言葉を口にするように、だがどうしても言わなければならないことのように、全身を絞りつくしてその先を──言った。
「この苦しみを『悲しみ』と呼ぶなら……わたしはいつだって『悲しかった』……!」
 ママ・マリアの手をつかむ指が、真っ白に変色していた。
 それが並みの人間以上の握力であるにも関わらず、ママ・マリアはじっとその痛みを受けている。
 そうすることで、バイオレットの痛みをわずかでも引き受けているかのように。
「人を殺すたび……『アリス』の声を聞くたび……誰かに『お前は人間じゃない』と言われるたび……いつもいつもいつも! わたしは!」
 息が切れる。
「『悲しかった』……!」
 そこまで言い切って、バイオレットは虚脱したように肩を落とす。
 ママ・マリアの言うことが真実であったなら、それはなんて馬鹿馬鹿しくて、なんて滑稽で──なんて残酷な話だろう。
 自分だけが気がつかなかった。
 ヒトが当然知るべき感情を、今の今まで知ることもなく、知ろうともせず、ただ見過ごしてきた。

143 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:50:49 ID:mOHeoU5K0
「ママ・マリア……やはりわたしはヒトではないようだ……」
 キース・シリーズにとって、感情とはあってもなくても変わることのない、ただのノイズでしかないのだろうか?
 ヒトではない『キース』には、感情を持つ資格がないのだろうか?
「それは違うよ」
 そのしわがれ声に、バイオレットは顔を上げる。
 違う──なにが?
「ヒトは、生まれつきヒトなんじゃない……自分で『ヒト』になってゆくものだよ……」
 普段のバイオレットなら鼻にも引っ掛けない論理──だが、なぜか彼女の言葉はバイオレットの隅々にまで染み渡っていく。
「お嬢ちゃん、あんたは今、『絶望』してるね……でも、そこで諦めちゃいけないよ。
ヒトは絶望するから足を止めるんじゃない。絶望から這い出ることを『諦め』てしまったから足を止めるんだ。
ヒトは希望があるから前に進むんじゃない。希望を探そうという『意思』で前に進むんだ。
それでね、ヒトがヒトであるためには……どこまでも歩いていかなきゃいけないのさ。
いつか、神様が私らをお召しになるその時までね」
 バイオレットは、ママ・マリアの体温を感じていた。
 それは半分死に掛けているようで、弱々しい脈動で、でももっと感じていたくて──、
 無意識のうちに、その手を自分の額に押し当てていた。
「泣きたいときは泣くのがいいよ。希望の青い鳥を探すためには、泣くのだって、人間、どうしたって必要なことさね」
 その言葉で、バイオレットの心を堰き止めていた『なにか』が崩れた。
 胸の内に次から次へと溢れるものが、この世界に現出しようとしていた。
 今までそれを阻んでいた、あの途方も無い虚無はもうどこにもない。
 目の前のちっぽけで気高い老婆が晴らしてくれたから。
 彼女の頬を、なにか熱い液体の伝うのが感じられた。
 それはどうやら血ではないようだった。
「あ──ああ──」
 それは言葉にならない声だった。
 これが自分が出しているものなのかと、どこか冷静に驚いている自分がいる。
「う、うぁ……うああぁ……」
 だが──それこそがヒトが『感情』と呼ぶものなのだろう。
 ゆえに、バイオレットは自らの心の赴くままに従い、その『感情』を解放した。

144 :ヴィクティム・レッド:2007/12/31(月) 00:54:53 ID:mOHeoU5K0


 あー、あー、あー。
 まるで生まれたての赤子のような騒々しさで泣きじゃくる少女を膝に抱え、
『ハーレムの聖母』ママ・マリアは愛おしそうな仕草で少女の艶やかな金髪を梳っていた。
 そうして、いつか彼女の泣き止むときをじっと待っている──いつまでも。

145 :作者の都合により名無しです:2007/12/31(月) 01:01:12 ID:rLMwM/7a0
今回はここまでっぽいですな。では感想をば

テレパシー部隊というとスプリガンの奴らを思い出すw
(いつかハロイさんにスプリガン物を書いて欲しいというのは我侭か)

バイオレットとママ・マリアの会話はいいなあ。
百識の賢者と運命に潰されそうな女、というか
優しいお婆ちゃんと無垢な少女、というか。

146 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/12/31(月) 01:18:01 ID:mOHeoU5K0
微妙に中途半端なところですが、例によってキリのいいところなので。
次回でバイオレット編は終了の予定です。

で、さて。
バイオレットお姉さまの能力の話ですが、
原作読む限りではけっこう謎の能力ですよね。

偏光機能を生かしたコロイドスクリーンやレーザー攻撃が『バロールの魔眼』の能力のようですが、
それだと初回発動時の惨劇はいったい何なのかと。(単行本を持ってる方は、18巻23Pを開いてみてください)
調べた限りだと、レーザー攻撃による傷は出血を伴うことはあまりないようです。(だって超高温で焼かれてるわけだから)
崩壊した建造物に巻き込まれての死傷、という解釈でもいいんですが、個人的にはしっくりこない。

それに加え、ギャローズ・ベルにてヤムチャフラグ立ったまま大暴れするシルバーを一撃でノし、
『バロールの魔眼』の秘密に気づいた恵を一撃で昏倒させた、例の「バチィッ」ってアレも気になる。
ARMS共振を利用した攻撃かな、とも思うんですが、じゃあなにも接触する必要ないわけで。

散布型のARMSってところに秘密があるのかもしれない、と思い、
それら一連のクエスチョンに対する自分なりの答えを、この回で提示してみました。
もしかしたらおもっくそ見当違いのこと書いてるかも知れませんが、まあ二次創作と言うことで大目に見てください。

長文失礼。


>>43
しますた。

147 :作者の都合により名無しです:2007/12/31(月) 13:13:27 ID:Dvm3C3V10
ハロイ氏乙です。年末年始は更新頻度にターボがかかりますな!
今回はあの色っぽい姉さんと黒人のグレートマザーとのやり取りですね
いいシーンだと思います。主役のレッドを完全にバイオレットが食ってるなw

この作品の影響でこの前、マンキで原作読んだけど面白かったです。
バイオレットが悪いやつとはどうしても思えなかったな。


148 :作者の都合により名無しです:2007/12/31(月) 14:16:45 ID:M+8JgcCA0
花山薫とマンガ版のヤンクミの戦いが読みたい。
普通の殴り合いなら氏賀Y太のマンガみたいなことになるだろうから、
なんらかのヒネリを加えて。きぼんぬ。

149 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2007/12/31(月) 14:59:21 ID:fNImwWmt0
 気づけば、上下のない空間に閉じ込められていた。
 目の前には漆黒が広がる。明かり一つない、正真正銘の闇。だが、不思議と恐怖はなか
った。
 手足をばたばた動かしても、まるで手応えがない。前に進んでいるのか、同じ座標で徒
労を演じているのかすら判断がつかない。
 泳ぐ、休む、泳ぐ、休む。これをどれだけ繰り返しただろうか。突然、ある一点に光が
灯った。光はみるみるうちに大きくなり、やがて人の形を取った。
「誰だ、てめぇは!」
「私は武神」
「ぶ、武神だと?!」
「丁度いいところに来てくれた。君には私の手伝いをしてもらおう。もし彼に君と戦う資
格があったならば、とても素晴らしいものとなるはずだ」
 武神を名乗る光がまっすぐに飛んできた。
 逆らう暇もなく、その光に呑まれた──。

 
 一人ぼっちの朝。井上はもういない。
 自分でも意外なほど、穏やかな目覚めだった。寂しさも、警戒心も、夢の中に置いてき
てしまったようだ。
 井上は無事に帰れたかな、とふと心配した。
 試練もあとは十日を残すのみ。期間としてはすでに三分の二を終えたが、密度としては
おそらくまだ半分にも達していない。武神自ら井上を案じて退場させるほどだから、危険
度は当然はね上がるのだろう。
 しかし、今さら特別な覚悟をする必要はない。まさかセンター試験を解かせるわけがあ
るまいし、向かってくる敵を己の五体でぶちのめすだけ。
 格闘士でも、兵器でも、キングギドラでも、誰でもかかって来やがれ。
 加藤はいつものように砂浜で朝のトレーニングを開始した。

150 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2007/12/31(月) 15:00:53 ID:fNImwWmt0
 体が温まってきた頃、彼らはどこからともなく徒歩でやってきた。
 敵は二人。
 片方は、身長百五十センチにも満たない老人。小汚い作務衣を着用し、よろよろと頼り
なく近づいてくる。頭髪はなく、歯も所々抜け落ちてしまっている。
 もう片方は黒いボクサーパンツ一丁の若者。どことなく中東を思わせる端正なマスクの
下には、逆三角形の鍛え抜かれた筋肉が完備されている。
「ずいぶん普通なのが来たな。それともてめぇらも変な能力を持ってるのか?」
 ボクサーパンツの若者が口を開く。
「安心しろ。我々はいたって純粋な格闘士だ。己の肉体と技以外、なんら武器を持たぬ」
「……嘘はついてねぇようだな」
「当然だ。我々は武神直属のエリートファイター。余計な能力を持つことは、むしろ足枷
となる」
 刹那の沈黙の後、加藤が猛然と駆け出した。
 久々となるまともな肉弾戦。拳を交える快感。この喜びが彼を突き動かした。
「ふぉふぉふぉ……若いのう」
「ですが力量は十分です」
 老人は太極拳のようにゆるやかに手足を泳がせる。若者は両手を拳とし、ガードを上げ
る。
 加藤は標的を若者に定めた。奇妙な構えでスタイルを読ませない老人に比べ、彼が筋力
を生かした打撃系(ストライカー)であることは明白だ。これを撃破し、老人攻略に挑ん
だ方がリスクが薄いと判断した。
 ──敵の思う壺だとも知らずに。
 まっすぐ踏み込み、正拳を発射する。打ち合いになれば勝てる、と踏んだためだ。
 しかし、間合いに入るや否や、加藤は若者に手首を取られた。
「なっ──」
 次の瞬間には視界がひっくり返っていた。空中で逆さまになっていた。投げられた。
 これを待ちかねていたかのように、信じられない速度で老人が接近する。無防備の加藤
に、老人の細腕が唸る。
「ほりゃっ」

151 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2007/12/31(月) 15:02:13 ID:fNImwWmt0
 小さな拳ではあったが、鼻を中心に深々とめり込んだ。
 鼻の穴から紅い紐を撒き散らしながら、砂浜を転げ回る加藤。立ち上がるのに数秒を要
した。
「ふぉ、あれを受けて立てるとはさすがじゃのう。そそるわい」
 今の一撃。これまでに喰らったことがない重さだった。
「……油断したぜ、ジジイ。年取ると、筋肉がなくてもあんなとんでもねえ突きが出せる
もんなんだな」
「ふぉふぉふぉ……」
 加藤と老人、同時に間合いを詰める。互いの制空圏が触れた。
 突きをかわし、逆に正拳をぶち込んで倒してみせる。相手は今すぐにでも天寿を迎えそ
うな老人、当たりさえすれば一撃で決まるはず。
 しかし、思惑は外れた。
 いきなりの胴タックル。虚を突かれ、加藤はあっさり侵入を許してしまう。
(何が来る──!?)
「よっ」
 軽いかけ声とともに、加藤は真上へぶん投げられた。三メートルは飛んだだろうか。力
の流れを読むとか、相手の力を利用するとか、そんな次元の高い技ではなかった。ただひ
たすらに筋力だけで成された現象であった。
 どうにか着地は成功するが、今度は若者が迫る。
 すかさずラッシュで応じるが、全て絶妙なタイミングで捌かれる。さらに足払いを受け、
不安定になったところでまたも手首を掴まれてしまう。
 手首を通じて重心を崩され、操り人形にされる加藤。彼めがけて老人が跳ぶ。もう加藤
は猛獣の前に差し出された餌に過ぎない。
「どうぞ」
「ナイスじゃ」
 老人の、老人による、老人のためのドロップキック。
 顔面直撃。首が折れんばかりの勢いで、加藤は宙を舞った。

152 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2007/12/31(月) 15:04:24 ID:fNImwWmt0
皆様、よいお年を!

153 :作者の都合により名無しです:2008/01/01(火) 01:06:49 ID:pta9YLSB0
サナダムシさんあけおめです。
やさぐれの復帰うれしいです。
このまま一気に書き上げてください!

154 :作者の都合により名無しです:2008/01/01(火) 14:26:59 ID:QMW0y03f0
>ハロイさん
バイオレットはこの作品の中で一番好きなキャラなので
ずっとメインキャラでいてほしいな。勿論、マリアも。

>サナダムシさん
お、復活されたのですね。武神はラスボスでしょうが
側近が出てきていよいよクライマックス近くですな。

155 :ヴィクティム・レッド:2008/01/01(火) 15:41:31 ID:chBda3nE0
 エグリゴリの最高責任者であるキース・ブラックの執務室に、『そいつ』はいた。
「サー・ブラック。残念なお知らせがあります。貴方の妹君であるサー・バイオレットが、重大な機密漏洩を行っていることが発覚しました。
その上、彼女はエグリゴリの監視網にあるESP能力者を次々と殺害しています」
「ほう……」
 その報告を受けるキース・ブラックは、どこか面白そうに口の端を歪ませる。
「事情聴取に向かった監査官を手に掛け、おまけに周囲に居合わせた職員・警備兵八人を殺害して逃走中です。
おそらく、次の犠牲者を求めてESP能力者の元へ向かったのでしょう。至急、彼女を追跡するための──」
「いや、その必要はないだろう」
 中途で遮るブラックの声に、『そいつ』は怪訝そうに眉を寄せる。
「は? それは、どういう……」
「妹はそこにいる」
 と、組んでいた手を解いて『そいつ』の背後を指差す。
 それを追って振り返った『そいつ』の顔が、一瞬で驚愕の相を呈する。
 腰に手を当て、辺り威風を払って立つ少女──セミロングのブロンド、エメラルド色の瞳、純血アーリア人種の彫像のような美貌──、
 キース・バイオレットその人だった。
「……貴様が一連のESP能力者殺害の『犯人』だったというわけか──『熱心党』の『シモンズ』──その『本体』」
 バイオレットの苛烈な瞳は、『そいつ』──白衣の研究者に向けられていた。
 彼女が最初の『シモンズ』である黒服と接触したときに側にいた、あのユダヤ系の研究者へ。
「ば、馬鹿な……いったい、いつの間に……!?」
「わたしのARMS『マーチ・ヘア』にとっては容易いことよ。
そんなことより、貴様のことのほうが驚きだわ。まさか、エグリゴリの研究者の中にテレパシストがいたとはね」
「う、うう……」
「『熱心党』……イエス・キリスト時代に実在した、ユダヤ民族の被支配的構造からの脱却を目指した今で言うレジスタンス組織。
貴様はそれになぞらえて名乗っていたいたわけだな? そして重要な社会的地位にあるESP能力者を『支配階級』と看做して殺害していた」
 鬱屈した笑みを浮かべて事態を見守るブラックの前で、バイオレットは淡々と語っている。
「だが……貴様それはただの被害(ヴィクティム)妄想だ。貴様が殺して回っていたESP能力者たち……
彼らは、普通人を『ESPを持たない』という理由で見下すことなどなかった」

156 :ヴィクティム・レッド:2008/01/01(火) 15:43:02 ID:chBda3nE0
 『シモンズ』──いや、今は単数形であるがゆえに──シモンは、わなわなと肩を震わせてバイオレットを凝視している。
 そんな彼に、ゆっくりとだが着実に一歩一歩近づいていくバイオレット。
「このわたしをテレパシー能力で操作して、ママ・マリアの殺害を目論んでいたのか? わたしのヒトに対する劣等感を利用して?」
「フ……ククク……」
 シモンが急に笑みを顔に浮かべる。
 それはさんざん見た『シモンズ』とそっくりで、まさにその『オリジナル』だと実感できる、どうしようもなく下卑たにやにや笑いだった。
「それがどうした……! そうさ! 私は憎い! 『能力』を使って栄華を極める者たちが!
この私はこうして『能力』があることを押し殺して生きていかなければならなかったのに!
それもこれも、貴女たちキースのお陰だ! エグリゴリの非人道的実験を目の当たりしては、隠すしかないだろう!?」
 開き直ってそんなことを述べるシモンを、やはりブラックは冷淡な微笑を浮かべて眺めている。
 バイオレットもまた、顔色一つ変えずに彼へと歩み寄っている。
「私を殺すか? やれるものならやってみるといい!
だが──私のテレパシーによる催眠暗示能力には誰も抗えない! 貴方たちには兄妹同士で殺しあってもらうことにしましょうか!」
 そんなシモンの雄叫びをあっという間に無意味なものに変える、ブラックのぼそりとした声。
「無駄だ。この部屋にはESP拮抗装置が作用している」
「なに──」
「私は最初から──お前がこの部屋に入る前から、お前を疑っていたということだ。サイモン・ゴールドバーグ研究員よ」
 シモンは見る、ブラックの瞳に込められた明らかな侮蔑の色を、虫けらを見下すような容赦のない視線を。
「このキース・ブラックが、旧人類ごときの言葉を信じて、我が妹に咎を着せるはずがあるまい。違うか?」
「こ、この……ヒトの皮を被った怪物どもが……!」
 顔面蒼白となって呟くシモンの前に、バイオレットが立つ。
 そっと白い手を差し伸べ、彼の額に二指をあてがう。
 そして、静かな声で、その言葉を肯定した。
「そうね……貴様の言うとおり、わたしはヒトではないのかも知れない。
だが……どれだけ滑稽でもいい。ごっこ遊びでもいい。ヒトになりきれぬ哀れな怪物で構わない。それでも……」
 バチィッ、と爆ぜる音を立て、シモンの頭部が揺れる。
 周囲に散布されたナノマシンが、微細だが人間の意識を奪うには十分な量の電撃を放った音だった。
「──わたしはヒトになりたい」
 力なく倒れる哀れでちっぽけな人間へ、そっと呟いた。

157 :ヴィクティム・レッド:2008/01/01(火) 15:44:58 ID:chBda3nE0
 ふと視線を外し、ブラックを見る。
 初めて『マーチ・ヘア』を発動させたとき──あの途方もない虚無の中でなお、共に立ってくれた兄。
 『感情』をこの手につかんだ今なら分かる。
 あの時、手を差し伸べてくれたブラックに、例えようもない感謝の念を抱いていたことを。
 「わたしは一人じゃない」と教えてくれたことが、嬉しかった。
 これまで、彼女はブラックと、そしてシルバーと力を合わせ、エグリゴリを支えてきた。
 それはこれからも変わらないだろう、でも──。
「ブラック兄さん。あなたと初めて会ったときのことを覚えていますか」
「無論だ。忘れるはずがない。私はお前を愛している。シルバーも、グリーンも、そしてレッドやセピアも、すべて愛すべき私の兄弟だ」
「わたしも、あなたを愛しています」
 でも──わたしはあなたと違う道を進みます。
 それが『アリス』の、キース・ブラックの定めたプログラムの中のものでしかないとしても。
 もしかしたら、いつかは、その枠を乗り越えた『道』に辿り着けると信じて。


「あなたに言いつけられた任務は完了したわ、シルバー兄さん」
「……そうか」
 街の雑踏の中の小さなオープンカフェで差し向かいに座る兄妹──バイオレットとシルバー。
 アメリカ式ではない、まるで冗談かなんかのように濃いエスプレッソコーヒーを、シルバーは水でも飲むように口に運ぶ。
「それで? 『例の任務』を受ける覚悟は出来たのか?」
 一方のバイオレットは、爽やかな香りを漂わせるハーブティーを、匂いそのものを食べるようにゆっくりと嗅いでいる。
「ええ。『エクスペリメンテーション・グリフォン』……その計画を第二段階へと移行させるトリガーは、このわたしの手で引きます」
「……フン。どうやら、前の腑抜けた状態からは回復したようだな」
 つまらなさそうに鼻をならしてカップを置くシルバーへ、バイオレットはちょっと面白そうな口調で訊ねてみる。
「心配だったかしら?」
 そこではじめて、シルバーはコーヒーのとんでもない苦さを感じたかのように顔をしかめる。
「馬鹿を言うな。オレがお前の心配をする必要がどこにある」
「あら、心配をしない必要もないんじゃなくて?」
「……そんな減らず口が叩けるのなら問題はないな」

158 :ヴィクティム・レッド:2008/01/01(火) 15:46:36 ID:chBda3nE0
 そこで会話は途切れた。
 だが、それも仕方ないだろう。意味のない茶飲み話に花を咲かせるような性格の持ち主ではない、お互いに。
 これがレッドやセピア、グリーンなどだったら、歳相応の他愛ない話でもするのかも知れない、とバイオレットは少しだけ想像する。
「──は、──だ?」
 いきなりのシルバーの発言を受け取り損ね、
「今、なんて?」
 そう問い返すと、シルバーはますます苦いものでも飲んだように顔を歪ませた。
「茶の味はどうだ、と訊いている」
 不覚にも、唖然とした。
 こともあろうに、いや、人もあろうにキース・シルバーが茶飲み話そのものの話題を口にするとは──。
 ここは笑うべきところなのだろうか?
 笑いはこみ上げてはこなかったが、そうしたほうが良いと思って顔の筋肉を操作して微笑を浮かべる。
「良くわからないわ。少なくとも、美味いとは感じないわね。ハーブのレシピが悪いのかもしれないわ」
「そうか」
 ぎこちない会話、ぎこちない微笑み。まるでマッド・ティー・パーティーごっこ。
 だが、いつかは心からこうして、兄弟とお茶に興じることのできる日が来るのかも知れない。
 それも、ママ・マリアから与えられたささやかな『希望』だった。
 その思いとともにハーブティーを飲み干し、席を立つ。
 再び、彼女に会いに行くために。彼女に話したいこと、聞いて欲しいことはまだまだあった。
「じゃあ、失礼するわ、シルバー兄さん」
 そこでシルバーが物言いたげにバイオレットを見るが、結局なにも言わないので、彼女はそのまま街の雑踏へと姿を消した。
 その後姿を見送りながら──誰にも聞こえぬシルバーの呟き。
「……自分の勘定を払わずに行くのか、バイオレットよ」



番外話 『紫』 了

159 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/01/01(火) 15:59:01 ID:chBda3nE0
あけましておめでとうございます。
年始一番乗りを果たさせていただきました。
こーゆーのも書初めというのでしょうか。タイプ初め?
抱負は「定期的に作品投下しつつサイトに作品追加しつつオリ長編書くこと」です。欲張りすぎか。

色々な意味で至らない自分ですが、今年もよろしくお願いします。

160 :作者の都合により名無しです:2008/01/01(火) 23:28:50 ID:TIHY2+5L0
オリ長編はどこで読めるんですか?
バイオレット編ステキでしたよ。

161 :作者の都合により名無しです:2008/01/02(水) 00:59:29 ID:0mVpbtMm0
あけましておめでとうございますハロイさん
バイオレットはキースシリーズの中でも異端ですから
(人間により近い、という意味の異端)
それゆえに苦悩する姿がいいですね。
この作品のレッドもどちらかというとバイオレットに近いかな?

新年も頑張って更新して下さい。
オリジナルの長編小説はサイトに行けば読めるのかな?
短編読み切りは全部読みましたけど。

162 :猿の手:2008/01/02(水) 01:13:39 ID:d3UGH4O70

チャイムの音がした。

瞼を開いた斗貴子の瞳に最初に飛び込んできたのはカズキの顔だった。
カズキもこちらを見つめている。
どうやら斗貴子と同様に、覚醒したままに眼を閉じていただけのようだ。
まひろを失って以来、こんな眠れぬ時間を幾夜過ごしてきただろう。
そして、あとどれくらいの時を経れば、平穏な眠りを取り戻せるのだろう。
斗貴子はカズキから視線を逸らし、枕元の時計を見遣る。

――午前二時二十九分。

「誰だ……? こんな時間に……」
斗貴子は不機嫌そうに眉をしかめる。
「俺が出るよ……」
「いい。私が出る」
身体を起こしかけたカズキを制し、斗貴子が起き上がった。そして彼の頭にぽふりと手を置き、
力無い笑顔を浮かべる。
「キミは早く寝るんだ。明日から仕事に行くんだろう?」
「うん……ごめん……」
斗貴子は相変わらずの力無い笑顔のまま、パジャマの上からカーディガンを羽織り、
リビングのインターホンに向かった。

少しずつ。少しずつ良い方向に向かうのだ。
人は大きく集うと異常になるが、良い方向に向かうのは一人ずつでしかない。
斗貴子は思う。
あの事故の晩から今日までの自分達を取り囲んだ、この世の黒禍。
それは“他人の意”と言い換えてもいいかもしれない。
“善意”に“悪意”。それに“興味”。そして最も厄介だった、あらゆる生業を持つ者達の“使命感”。
それらに飲み込まれていたこの数日間はまるで身動きなんて取れなかった。意識も身体も。
けれども、カズキは立ち上がろうとしている。だから、自分もそうあらなければ。

163 :猿の手:2008/01/02(水) 01:14:47 ID:d3UGH4O70

だが――

“二人一緒”

すぐにこの言葉が浮かぶ。
そして、それは確実に心を、精神を深く深く抉った。
外面を取り繕えば取り繕う程、内なる乱れはそのうねりを増していく。
限界は、近い。



斗貴子はインターホンの受話器を取り、ぶっきらぼうな声で言い放った。
「どちら様ですか?」
返事は無い。
イタズラなのだろうか。
それとも、ただでさえ低くて常に不機嫌さを漂わせた斗貴子の声質に、深夜の来訪者が
気後れしているのだろうか。
受話器の向こう側からはやや乱れた息遣いらしきものが聞こえてくるだけだ。
苛立ちを募らせた斗貴子はつい語気を荒げる。
「おい、何のイタズラか知らんが――」
そこまで言うと斗貴子の怒声は、聞き慣れた懐かしさを、それでいて何故かおぞましさを
感じさせる声に遮られた。

『ただいま……』

その声が耳に飛び込むと同時に、背中に氷柱を押し込まれたと錯覚せんばかりの悪寒に襲われた。
この声は。
声は小さく、何らかの雑音が混じっている為、多分に聞こえづらいが。
この声は。

164 :猿の手:2008/01/02(水) 01:16:16 ID:d3UGH4O70

「ま、まさか……! そんな!」

『お義姉ちゃん……』

まただ。
日常的過ぎて聞き慣れた、この声。
いつの間にか呼ばれ慣れた、この言葉。
“今”の家族以外に身寄りなど無い自分をこう呼ぶのはあの子しかいない。
「き、きっ、キミは……――」
斗貴子の脳裏に様々な光景が浮かぶ。
遺体安置所でシーツをめくった、あの瞬間。
死化粧を終えた彼女が棺に入れられる、あの瞬間。
そして、火葬炉から出てきた白い欠片達。
そんな筈は無い。そんな筈は無いのだ。
いや、しかし。
確かに自分はあの時、願った。願ってしまった。
それはほんの七、八時間程前の事だったか。
確かに願ったのだ。

「――まひろちゃん、なのか……?」

『うん、そうだよ……。ごめんね、こんなに、帰りが遅くなって……。私、悪い子だね……』
可愛らしい謝り方だ。
わざとそう演じているのではなく、彼女生来の性格が自然、そうさせるのだ。
この義妹の邪気の無い振る舞いに、幾度も喉元から出掛かった苦言や説教の類を引っ込めて
しまった覚えが、斗貴子にはある。
だが、今は違う。
彼女のこの声に身震いが止まらない。
微笑ましい思い出もどこかへ消し飛んでしまった。

165 :猿の手:2008/01/02(水) 01:17:38 ID:d3UGH4O70
『でも、怒らないで……? 右脚、が、動かないから、上手く、歩けなかったの……。首が、
フラフラして、顔がすぐ、後ろ、向いちゃうし……』
喋り声は所々で不自然に途切れ、そこにゴボリとうがいをするような耳障りな音が混じる。
『ねえ、お義姉ちゃん……早く、ここ、開けて……? 外は、寒いよ……』
斗貴子の胸には喜びなどこれっぽっちも湧いてこない。

戦慄。

それ以外の何ものでもない。
大好きだった義妹が帰ってきてくれた。確かに帰ってきてくれた。
斗貴子の望みは聞き入れられ、まひろはこの世に生き返らされたのだ。
ただし、今の彼女の声からは、斗貴子が期待していたあの天使のような愛らしさは微塵も
感じられない。
まひろは、ある意味そのままの姿で帰ってきた。
潰され、砕かれ、引き千切られ、命の灯火が消える、その寸前のままの姿で。
『私、お義姉ちゃんの、淹れてくれる、ココアが飲みたいな……。温かくて甘――』
ゴキンという骨の鳴る音と共に、まひろの言葉が途絶えた。
多少の間と耳障りな醜声の後、また言葉が戻ってくる。
『――あ、あっ、あ゙あ゙……。ごめ、んね……右の顎が、すぐ、外れちゃうの……』

斗貴子は身震いを止められない。
その震えは受話器にまで伝播し、何度も細かく顎を打つ。
“エントランスを開けていいのだろうか”
家族の帰宅という場面ならば思う筈の無い、そんな疑問が斗貴子の頭に浮かぶ。
(ダメだ! 絶対に開けるな! わからないのか? こんな“もの”はまひろちゃんじゃない!)
斗貴子の本能の声が自答する。
そこに理性や家族愛などというものが差し挟まれる余地は無い。
斗貴子という人間を成り立たせている、最も奥深くにある原始的な働きが、開ける事を
明確に拒否している。
(外にいる“もの”を入れるな!)
と、そう叫んでいるのだ。

166 :猿の手:2008/01/02(水) 01:19:30 ID:d3UGH4O70

その時、横からスッと伸びた手が、人差し指が“開錠”のボタンを押した。実にスムーズに。
寝ていた筈の夫がいつの間にか後ろに立っていた事に、斗貴子は気づいていなかった。
「カズキ!? な、何を……」
非難の声を上げながら振り返る斗貴子が見たカズキの顔は――
「だって、まひろが帰ってきたんだよ? 早く中に入れてあげないと……」
――笑っていた。
何故、笑っていられるのか。
今までのやり取りを聞いていなかったのか。
いや、それ以前に死んだ人間が帰ってくるなどという事を、そんなに簡単に受け入れられる
ものなのか。
更にはその眼。斗貴子を見つめるカズキの眼。
“笑顔の形”に歪められた口元に相反して、眼の色は突き刺すような冷たさを帯びている。
何故だ? 何故、カズキは私をこんな眼で見る?
まさか。やはり。そうなのか。

“知っている”

やはりカズキは知っているのか? 知っていたのか?
私が彼女を生き返らせた事を。
私が彼女を殺した事を。
私がいつも不満に思っていた事を。

不満?
不満って何だ?
私は幸せだったのだ。
あの暮らしに満足していた。
あの三人家族の暮らしに幸せを覚えていたんだ。
不満なんて無い。そんな筈は無い。
そんな筈は無い不満なんて無い不満なんてそんな筈は無いそんな筈は無い不満なんて無い筈は無い。

167 :猿の手:2008/01/02(水) 01:36:18 ID:d3UGH4O70

突如――
ドン! とドアを打つ金属質の音が玄関からリビングへと響いてくる。
それはやがて、ひどくゆっくりとしたリズムのノックへと変わった。
「……!」
リビングのドアを開け、慄然とした面持ちで玄関のドアを見つめる斗貴子。
あの向こうにはまひろがいるのだろう。変わり果てた姿で。
いや、“元の姿”と言ってもあながち間違いではないのかもしれないが。
斗貴子はゆっくりと玄関のドアに近づく。
素足に履いたスリッパがまるで鉛のように重く感じられた。
「ま、まひろちゃん……?」
やや沈黙があり、外のまひろが答えた。ひどく哀しげな問い掛けと共に。
『お義姉ちゃん……。どうして、開けて、くれないの?』
「あ……あ、開けられない……」
また二人に沈黙の帳が下りる。
ふとドアがカリッという小さく不快な音を発した。そう、まるで爪で金属を引っ掻いたかのような。
その音が発せられた直後、まひろは問い掛けを再開した。
だが今度は哀願ではない。幾分、怨嗟が込められているように聞こえる。

『お義姉ちゃんは、私なんて、いない方がいいって、思ってるの?』
「馬鹿を言うな! そんな訳は無いだろう! まひろちゃんは、私の可愛い、義妹だ……」
語尾が頼りなく弱々しい。確かにまひろは可愛い義妹“だった”。では“今”のまひろはどうか。

『お兄ちゃんと、二人きりに、なりたいの?』
「……」
答えられない。ドアを隔ててすぐ傍にいる義妹を気遣う返答さえも、今の斗貴子には困難なのだ。

『お兄ちゃんを、一人占めにする気、なの?』
「ち、ちが――」
斗貴子の否定を遮るように、まひろは三度問い掛けた。

168 :猿の手:2008/01/02(水) 01:37:33 ID:d3UGH4O70

『だから、私を殺したの……?』
「……!」

ダ  カ  ラ  ワ  タ  シ  ヲ  コ  ロ  シ  タ  ノ  ?

言葉を失うしかなかった。
義妹は、自分の命を奪った者が仲の良かった義姉だという事を認識している。
黙り込んでしまった斗貴子に、まひろは途切れがちにまくし立てた。醜悪な音を伴わせて。
『ねえ、そうなの? お義姉ちゃん……。お兄ちゃんと、二人きりになりたいから、私を殺したの……?
お義姉ちゃん、そうなの? だから、私を、殺したの? そうなの? そうなの? そうなんでしょ?
でも、ごめんね。私、帰って、きちゃったよ。お義姉ちゃんは、残念かも、しれないけど……。
フフッ、アハハッ。また、三人で暮らせる、よ。
もう一度、三人、家族に、戻れるよ……?』
「斗貴子さん……」
ワナワナと全身を震わせたまま沈黙を守る斗貴子に、カズキが声を掛ける。
その声には妻の挙動に対する訝しげな色が込められている。
夫の呼び掛けが引き金になったのか、斗貴子は部屋中どころか隣室にまで届きそうな程の
大声で叫んだ。
「やめろォ!!」
激しい呼吸に肩を上下させる斗貴子はフラフラと歩を進め、そして両掌をドアに当てた。
冷たい。
まるでこの向こうにいる義妹のようだ。
「もう、やめてくれ……。まひろちゃん……キミはもう、死んでいるんだ……」
『何言ってるの……? 私、生きてるよ……? お義姉ちゃんが、生き返らせて、くれたんだから……』
まひろの言葉が斗貴子の胸に刺さる。
自分の犯した罪の重さはもう充分にわかっていた。
それでも、その犠牲者であるまひろの口から罪状を宣告されると胸が絞めつけられる。
「私の間違いだったんだ……。私が馬鹿だった……。キミを生き返らせるべきではなかったんだ……」
静かに、小さく、頭を左右に振る斗貴子。
「あの頃には、もう戻れない……戻れないんだ……! キミも、私も、カズキも……」

169 :猿の手:2008/01/02(水) 01:39:21 ID:d3UGH4O70
少しの静寂の後、ドアの向こうからしゃくり上げるような泣き声が聞こえてきた。
言うまでも無い。まひろのものだ。
泣いている。泣いている。あの子が泣いている。あの女の子が泣いている。
身勝手な大人達の思惑に振り回され、無邪気な心を傷つけられ。

『ずるいよ、お義姉ちゃん……ずるい……』

斗貴子は寄り掛かるように頭をドアに付けた。
「すまない、まひろちゃん……許してくれ……」
ギュッと眼を閉じ、眉根を寄せる。
彼女の眼から頬にかけて、一筋の涙が伝い落ちた。

『許さない!!』

ドォン! と一際大きくドアが打ち鳴らされた。
「ひっ!」
あまりの驚愕に斗貴子はドアから飛び退り、玄関のタイルに尻餅を突いた。
『許さないよ! 絶対、許してあげない!!
私を邪魔にするお義姉ちゃんなんて大嫌い! お兄ちゃんを一人占めするお義姉ちゃんなんて大嫌い!
私を殺したお義姉ちゃんなんて大ッ嫌い!!
さあ、開けて! 早く開けてよォ!!』
今までに聞いた事が無いまひろの怒声と共に、ドアは激しく、力強く、狂ったように何度も
何度も打ち鳴らされる。
斗貴子は動けない。身体の震えは最高潮に達し、カチカチと歯が鳴る。
「ま、まひろ、ちゃ……」
まひろは激怒と憎悪を込めてドアを叩き続け、叫び続ける。
『開けて! 開けて開けて開けて! 開けろォ!!』
斗貴子の耳にはまひろの声が低く、野太くなっていくように聞こえた。
まるで正気を失った中年男性の声を思わせる。
「う、うあ……うわああ……」

170 :猿の手:2008/01/02(水) 01:42:32 ID:d3UGH4O70
フッと斗貴子の視界に影が差した。
動けない斗貴子の横にカズキが立っていた。顔は“あの”笑顔のままで。
気づくと、彼の手がドアロックにかかっている。
「やめろ! カズキ!」
カズキがロックを外すと同時に、凄まじい音を立ててドアが開かれた。
だがチェーンに阻まれ、ドアは15cm程しか開けられない。

そこに、“手”が現れた。
至る所が擦り剥け、爪も割れ、痛々しいまでに血だらけだ。
手はドアをしっかと掴んでいる。
そして、“髪”。
あの長い癖毛の茶髪はバサバサに乱れ、何箇所も血や泥で固まっている。
その髪の隙間からは、“眼”が覗いている。
大きく大きく見開かれた眼。爬虫類のように瞳孔が縮小した眼。
憎しみに満ちた視線でこちらを射る眼。

『お兄ちゃん……お義姉ちゃん……』

「うわああああああああああ!!!!」
斗貴子は半狂乱に悲鳴を上げながら、武藤兄妹に背中を向けて四足獣のように這いずり、
逃げ出した。
向かった先は夫婦の寝室だ。
荒々しく押入れの戸を開け、中の物を放り投げ、懸命に何かを探す。
どこに仕舞ったか。夕方の時はすぐ見える場所に置いておいたのに。
“あれ”が。“あれ”だったら。“あれ”ならば。
やがて斗貴子が見つけた古ぼけた木箱。
ひったくるように取り出し、蓋を開ける。
中には、手首の手首の辺りから切断された、黒い毛に覆われている干乾びた小さな手のミイラ。
“猿の手”がある。

171 :猿の手:2008/01/02(水) 01:44:41 ID:d3UGH4O70
「み、三つめの願い、三つめの願いは……――」
舌がもつれて上手く言葉が言えない。
斗貴子は猿の手を取り出して握り締める。
そして絶叫した。心の底からの訴えを。三つめの願いを。
「――二つめの願いを無しにしてくれ! 取り消してくれ! 早く!」
まひろの叫び声がどんどん大きくなっていくような気がする。
もう、すぐ後ろに来ているのかもしれない。
すぐ後ろで斗貴子に――

「早くしろォ!!」

急に辺りは静寂に包まれた。
時が止まったかのように思える。
もう、まひろの声も騒ぎ立てる物音も聞こえてこない。

聞こえてくるのは、斗貴子の嗚咽だけ。
ただ、それだけだった。



[完]


この度は拙い物語にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
さて、蛇足ではあるかもしれませんが、ここにこの物語の真相をご用意しました。
読めば真相が判明しますが、一瞬で味気無いつまらない気分になるかもしれません。
読まなければ真相は闇の中ですが、普通のホラー小説としてこの物語は完結します。
読む、読まないはあなたの自由です。ただし、慎重に選択して下さい。

http://hp9.0zero.jp/gamen/s_scr.php?uid=saisaimappy&dir=177&num=10

それではまた、暫しのお然らば。

172 :作者の都合により名無しです:2008/01/02(水) 07:53:11 ID:xiu5V2ag0
あけおめですさいさん。
有名なお話をベースに斗貴子たちの
オリジナル猿の手を楽しませて頂きました。
真相編まで読んで、完結ですね。
読まない方が粋かも知れませんが。

173 :作者の都合により名無しです:2008/01/02(水) 10:45:27 ID:DCPX/30A0
http://dows.cafe150.com/ppp/?co=ma

174 :作者の都合により名無しです:2008/01/02(水) 19:33:12 ID:7ifOmlTk0
猿の手って世にも奇妙な物語のやつしか知らなかったけど
こっちはよりダークでしたね。
トキコの嗚咽がしみじみと怖い。
真相も読んだけど、短編だけど長編並みに考えてますなあ

175 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 19:44:23 ID:aMa37Z060
ハロイさんは今年も絶好調みたいですね。
ヴィクテムとシュガーとネウロ、今年もたのしませて頂きます。

さいさんもよみきり、おもしろかったです。
when〜もクライマックス近いですし、新作も開始されますね!

今年も書き手のみなさんよろしくおねがいします。

176 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:07:28 ID:e4Tvc/zH0
三年一組剣八先生!

死者の魂が導かれる世界―――ソウル・ソサエティ。
そこには現世から送られた魂とは別に、死神と呼ばれる者たちが存在している。
彼らの仕事は現世を彷徨う魂を安らかにソウル・ソサエティへと導くこと―――そして。
悪霊とでも言うべき存在<虚(ホロウ)>を倒すことである。
まさに死神の名の通り、彼らはこの世界の魂全てを司るのだ。
今回はそんな死神の中から、この男のある一日を紹介しよう―――

「ああん?なんだと、もういっぺん言ってみろ」
ドスのきいた声で、2メートルを越える巨大な男が聞き返した。
―――異様な風体の男である。黒装束に白い羽織。羽織の背中にはおおきく<十一>の文字。
死神は大別して十三隊に分かれており、総称して<護廷十三隊>と呼ばれる。この羽織は、男が十一番隊の隊長で
あることを示しているのだ。
右目には黒い眼帯、顔の左半分には派手な刀傷と、いかにも荒くれという容貌である。
そして、その髪型。一度見たらまず忘れられない、あまりにも破壊的なそのフォルム。
海栗とでも言おうか、観覧車とでも言おうか、クロノ・トリガーのラスボス第一形態とでも言おうか、トゲトゲに
逆立てた髪。その先端一つ一つには鈴がくくりつけられており、頭を動かすたびにチリーン…と鳴り響く。
彼こそは護廷十三隊十一番隊隊長―――更木剣八(ざらきけんぱち)である。
「ええ、ですから真央霊術院・三年一組の特別講師を、明日一日だけお願いできないかって話っすよ。予定してた
講師が急にダメになっちまったらしくて。隊長、明日は非番でしたよね」
報告してきた剣八の部下、斑目一角(まだらめいっかく)はそう答えた。禿頭が眩しいと評判の男前である。
「ハゲてんじゃねえ、剃ってんだ!」とは、本人の弁。
ちなみに真央霊術院とは、身も蓋もなく言えば、死神養成学校である。純粋培養の箱入りお嬢様―――ではなく、
優秀な死神を代々輩出している、歴史ある学院なのだ。

177 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:08:47 ID:e4Tvc/zH0
「きゃはは、剣ちゃんが先生?面白そ〜」
剣八の背中から、ちょこんと小さな女の子が顔を出した。桃色の髪と、心底楽しそうな笑顔。そんな微笑ましい
彼女であるが、これでも十一番隊副隊長であり、いざとなれば眼光一つで大の大人を震え上がらせる強者だ。
名は、草鹿(くさじし)やちる。
「―――で?なんで俺にそんな話を持ってくるんだ?他の隊長にでも頼めばいいだろうが」
「他の隊長は仕事やら何やらで手が空いてないそうで」
「そうか。そりゃ残念だったな。俺も明日は暇潰しで忙しいと言っとけ」
「言い訳になってねーっすよ」
「あはは、いいじゃん剣ちゃん。楽しそうじゃん」
やちるもそう言って後押しする。剣八は面倒くさそうに脇腹を掻いていたが、やがて口を開いた。
「ちっ…折角の休日だってぇのに…まあいいさ」
剣八はにいっと唇の端を歪める。
「待ってろよ、院生のヒヨッコ共―――この俺が直々にぶった斬ってやるぜ!」
「いや、斬っちゃダメですって」
―――更木剣八。こういう男であった。

178 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:09:50 ID:e4Tvc/zH0
―――さて、一日経って、件の真央霊術院である。三年一組は朝からいつもよりも騒がしかった。
何しろ今日は、護廷十三隊の隊長が自分たちの講師をしてくれるというのだ。
死神候補生である彼らにとって隊長とは、まさしくスタータレントと言うべき存在なのだ。そんな雲の上の人が
目の前にやってくる。
まさに一大イベントというべきものである。
「どんな人だろうな」
「かっこいい人だといいね〜」
キャッキャウフフと未来の死神たるフレッシュマン&プリティガールたちが話に花を咲かせている。
―――が、次の瞬間、全てが一瞬にして凍り付いた。
教室の外から、何かが―――恐るべき何かが近づいている!
その圧力だけで一部の生徒は泡を吹いて倒れたほどだ。
そして、大きな音を立てて、教室の戸が開かれた。そこに立っていたのは、そう、説明の必要もない―――
我らが十一番隊隊長・更木剣八!
ごくり、と唾を飲み込む院生たちを気にも留めず、剣八は堂々たる足取りで教壇に立つ。
「今日一日、お前らの特別講師をすることになった十一番隊隊長、更木剣八だ。よろしくな」
「あたしは副隊長の草鹿やちる!みんな、よろしくねー!」
院生たちは誰一人、口を開くこともできない。そんな一同に剣八の渇が飛ぶ。
「返事はどうした!?」
「は、ハイィっ!」
「よし、いい返事だ…いいか!最初に言っておく!」
バン!と教卓をぶっ叩く剣八。その勢いで教卓は粉々になった。
そして昨日寝ずに考えた(昼寝しすぎて眠れなかったからである)口上をぶちかました!
「俺はてめえらの生まれも育ちも経歴も問わねえ―――求めるのはただ一つ、強さだ!俺は強え奴が好きだ!
嫌いなのは弱え奴だ!他にはなにもいらねえ―――てめえらが本当に死神になりたいってんなら、俺から言う
ことはこれだけだ…強くなれ!そのためにはそれ以外の全てを犠牲にしても構わねえ!口からクソ垂れる前に
敵の一人でも斬り殺せ!日々の困難と逆境こそが、てめえらを非凡な死神にしてくれるだろう!」
シーン…と教室が静まり返った。院生たちは一様に顔を青ざめさせている。剣八はそんな彼らを尻目に、時間割
に目を落とした。
「一時限目は鬼道(きどう)の演習か…よし、お前ら、外に出ろ!泣いたり笑ったりできなくしてやらあ!」

179 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:10:51 ID:e4Tvc/zH0
―――演習場。
「さて、準備はいいか?」
「は、はい…ですが、あの、すいません。この時間は鬼道の演習…ですよね?」
「あん?そうだ。それがどうした」
鬼道。一般的な言い方をすれば<術>や<魔法>と呼ぶものであり、敵を直接攻撃したり、動きを封じたりと、
様々な効果が期待できる死神の秘術である。
「なのに、なんで俺たち…剣を持ってるんでしょう?」
「なんだ。そんなことかよ」
剣八は凶悪そうに笑った。
「鬼道なんて自分の腕だけで戦えねえ、そびえ立つクソみてえな奴の使うみみっちい技だ!そんなもん習うよりも、
実際に剣を握って組手をやってた方が遥かに有意義だ!分かったかヒヨッコ共!」
「わ、分かりましたぁ〜〜〜っ!」
もはや半泣きになりながら組手を始める三年一組の面々。剣八はそれを見て、満足げであった。

―――二時限目。
「あの…二時限目はソウル・ソサエティの歴史学…ですよね…何故俺たちは外に出て腰にロープを付けられ、しかも
そのロープの先にはタイヤが括り付けられてるんでしょうか?」
「ああ?バカかてめえは。虚のケツにド頭つっこむぞ!教科書開いてお勉強なんかした所で、強え死神になれるか!
んなことしてる暇があったら体力作りだ!分かったかクソ野郎!」
「わ、分かりましたぁ〜〜〜っ!」
やはり半泣きでタイヤを引きずって走り出す三年一組の面々。剣八はそれを見て、うんうんと頷いた。

―――三時限目。
「…もはや質問するのもアレですけど…三時限目は…」
まるでヒマラヤにでも行くかのような格好をさせられた三年一組の皆さん。
―――もはや多くは語るまい。

180 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:11:53 ID:e4Tvc/zH0
…………さて、この後もちょいとばかしハプニングはあったものの、ついに最後の授業となった。
奇跡的に三年一組の院生たちは一人も欠けることなく、この最後の授業に臨む。
今彼らはソウル・ソサエティではなく、現世へと来ていた。ちなみに彼らの姿は、普通の人間には見えないので、
集団で歩いていても後ろ指を差される心配はない。
「よしお前ら!最後の授業はここ現世で、ダミー虚を使っての実戦演習だ!適当にやってこい!」
指示はそれだけである。剣八はさっさと横になって、昼寝の態勢に入ってしまった。
「ほら、どうした?さっさと行きやがれ!」
「…はーい…」
院生たちのやる気は、明らかに氷点下を下回っていた。

「―――ったく、やってられねーよな」
院生の一人が、物陰でさぼりながら仲間たちとだべっていた。内容は―――剣八に対する悪口である。
「隊長なんて言って、単なる力馬鹿じゃないか。あんなのがトップの一人だなんて、護廷十三隊も人材不足なんじゃ
ねーの?案外、俺たちが入隊したら、あっさり出世できたりしてな」
「おいおい、言いすぎだって…けど、ま、確かに頭は悪そーだよな、あの人」
「それ以前に、ほんとに強いかどうかも疑問だね、俺は。確かにすげー威圧感はあるけどさ、実はああ見えて大した
ことないんじゃないの?」
「おまけに背中に女の子まで背負ってさ。実はヤバい趣味でもあるんじゃ?」
「ははは…」
―――その時だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「た、助けてくれぇっ!」
「な、何だ!?」
ぎょっとして、だべっていた連中が物陰から出てきて―――隠れていればよかったと、心の底から後悔した。

181 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:24:23 ID:e4Tvc/zH0
「ほお…そこにもいたか、美味そうな連中が」
それは―――怪物としか言いようのない存在だった。巨大な芋蟲のような身体に、頭部には髑髏のような仮面。
その目の前にはダミー虚との実戦演習を行っていたはずの院生たちがいたが、一様に動かない―――いや、恐怖に
支配され、動けないのだ。
「あ…ああ…」
がちがちと、院生たちの身体が恐怖で震える。
これが―――これこそが―――本物の<虚>。全ての魂に仇為す、罪悪にして害悪なる存在!
「今日は運がいい…霊力の高い奴らが、こうもうじゃうじゃと…くっくっく、さあ皆の者、今日は祭りだ。存分に
喰らおうぞ!」
号令と共に、空間に裂け目ができて、そこから無数の手が伸びてきた。その奥からは、欲望に満ちた瞳が爛々と、
不気味に輝いていた。
「我が仲間たちも集まってきたぞ…!さあ、宴の時間だ…まずは貴様から喰ってやろう!」
「ひ…!」
一瞬にして巨大な腕で身体を掴まれ、院生は情けない呻き声を漏らす。
「い、嫌だ…死にたくない…助けて…誰か…」
しかし、仲間の院生たちは動くことさえできない―――
次は自分の番だ!その恐怖の前に、ただ怯えるばかりだった。
虚が焦らすように、恐怖する様を愉しむように、ゆっくりと大きな口を近づけ―――

182 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:25:24 ID:e4Tvc/zH0
頭から、真っ二つにされた。
「え…?」
虚の腕から解放された院生はよろよろと立ち上がり、周りを見渡した。果たして彼の救い主は、堂々たる足取りで、
悠然と修羅場へと踏み込んできた。
「ちっ…実戦演習のはずが、本当に実戦になるとはな…」
そう―――護廷十三隊・十一番隊隊長にして、三年一組特別講師―――更木剣八!
「大方、大量の霊圧が集まってるのを嗅ぎ付けてやってきたってとこだろうが、残念だったな」
剣八は、笑う―――それは、本当に、愉しそうに。頭上高く振り上げられた剣―――それは死神だけが使うことの
できる武器、斬魄刀(ざんぱくとう)。剣八のそれは、永い年月の中で一度も手入れをされたことがないかのように
ボロボロに刃こぼれしていながら、まるで豆腐を斬るかのように虚を更に一体、あっさりと両断した。
「餌は、てめえらだ」
そして剣八は、虚の大軍の中にその身を躍らせた―――!
「さーて、皆さんごちゅーもく。剣ちゃん先生の本日最後の授業です!」
それを横目にして、やちるは呆けたままの院生たちに向けて、にかっと弾けるような笑顔を浮かべた。
「先生が実際に虚と戦う手本を見せてくれます!さあ、お見逃しなく!」

183 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:26:26 ID:e4Tvc/zH0
―――そして。
「バ…バカな…百体の虚が…三十秒持たずに全滅…だと…?」
最後の虚もまた、それだけ言い残して消えていった。
「けっ…こんなもんかよ。ジジイのファックの方がまだ気合が入ってるぜ…ん?」
剣八は、自分を見つめる院生たちの目の輝きが違っているのに気付いた。
「ざ…更木隊長!いや…剣八先生!ありがとうございます!」
院生の一人が、深々と頭を下げながら大声で言い放った。先程、剣八の陰口を叩いていたうちの一人だ。
「俺…俺…先生のこと、誤解してました!隊長なんて名ばかりのただの乱暴者で、俺たちのことなんてウジ虫と
しか思ってないんじゃないかって…けど、けど、今の戦いを見て、自分の愚かさを知りました!あなたは本当に
俺たちのことを考えていてくれてたんだすね!」
「いや、別にそういうわけじゃなかったが…」
その勢いに、流石に剣八もちょっと引いていたが、院生は構わず畳み掛ける。
「俺…ここを卒業したら、必ず十一番隊に入って、もっと強くなります!」
「俺も!」
「ぼ…僕も!」
「私も!」
次々にそんな声が上がる。彼らの瞳の中には、剣八にたいする尊敬の念がドン引きするくらい輝いていた。
「よーしみんな!剣八先生を胴上げだ!」
「おっしゃあ!」
「おいおい、お前ら…」
反抗する間もなく、剣八は院生たちに担ぎ上げられ、高々と宙を舞った。何故か背景は川原になっていた。
剣八も最初は戸惑っていたが、次第に表情を緩めていく。そして、最後にこう呟いた。
「全く…とんだ休日だったが、こういうのも悪くはねえか」

184 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 21:28:25 ID:e4Tvc/zH0
―――数日後。
「隊長!どういうことっすか、これは!」
「なんだ一角、やかましいな」
「なんだじゃないですよ。見てくださいよ、これ!」
ばさっと大量の書類が、剣八の目の前を舞った。
「大量の請求書がウチに来てるんすよ!一体何をやったんですか!?」
「あー…こないだの特別講師の奴だな。経費で落としとけ」
「経費ってレベルじゃねーぞ!何で霊術院の特別講師なのにロケットランチャーとか90式戦車とか果ては水爆
まであるんですか!?」
「ああ、理科の授業で使ったアレだな」
「明らかに理科の授業じゃねー!」
一角は禿頭から湯気を立ち昇らせながらも、律儀に突っ込んでいた。
「ともかくどうすんですか。隊の予算を圧迫しまくりですよ」
ふうっと剣八は、溜息をついた。
「仕方ねえ…十一番隊隊員の今期のボーナスを全面的にカットするしかねえか」
「俺たちにまでとばっちり喰らわす気満々だよこの人!」
「へっ…未来ある若者たちを導くためだ。そんくらい、投資だと思っとけ!」
「柄にもなくいいこと言って無理矢理終わらせないでくださいよー!」
一角の悲鳴が、十一番隊隊舎に響き渡ったのだった―――

185 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/01/03(木) 21:31:35 ID:e4Tvc/zH0
皆様、あけましておめでとうございます。
今回はBLEACHの更木剣八が主役の短編です。
僕は彼が大好きです。どんくらい好きかというと、ザエルアポロさんの愉快で冗長な舞台によって
一度は見放したBLEACHという漫画を、彼が見開きドンで主人公・一護の危機を救って再登場した
瞬間にまた真剣に見始めたくらい好きです。
一護と彼の死闘は個人的に、少年漫画史上屈指の名バトルと思うので、暇がある方はBLEACHの
12〜13巻だけでも見てみたらいかがでしょうか。

では今日はこの辺で。

186 :作者の都合により名無しです:2008/01/03(木) 22:32:15 ID:ZaTRzO5n0
あけましておめでとうございます。
元ネタを知りませんが、楽しめました。

187 :作者の都合により名無しです:2008/01/04(金) 00:17:18 ID:Qz1Mo6iOO
うーん、ギャグとしては読めるけど…微妙だな
あまり知らんけどキャラが違ってる気が…

主役は一角の方が良かったかも
ま、それだと剣八先生じゃなくなるが

188 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2008/01/04(金) 01:51:14 ID:vdomc2KJ0
>>151より。

189 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2008/01/04(金) 01:54:24 ID:vdomc2KJ0
 今の攻防で加藤は悟った。
(こいつら──逆だ)
 試練である二人組。若者と老人という、体格も雰囲気も対極なタッグ。
(若い方が技、ジジイが力、だったんだ。……参ったぜ)
 ここは常識が通じない世界。女性よりも細い腕にパワーショベル級の力が備わっていた
としても何ら問題はない。二十日間を過ぎてなお、加藤は常識に縛られていたのだ。
 砂を掴み、再度加藤が立ち上がる。二人も加藤の顔つきから、自分たちの秘密が解き明
かされたことを悟る。
「ふぉふぉ、どうやら気づいたようじゃの」
「ええ……ですが遅すぎました」
「勝負は先手必勝が常、野球やサッカーでも一回表に十点取られたり、前半で三点差もつ
けば、嫌でも選手の心は折れる。あのダメージではもう奴に成す術はあるまいて」
「はい。グラブを着用しない野試合では初動が特に重要です。一撃かニ撃、短時間で回復
できないダメージが入れば結果は決定したようなものです。──つまり」
 若々しい声としわがれた声が揃う。
「勝ちは決まった」

 血を吐き捨て、加藤が二人を睨む。
「黙って聞いてりゃ、ずいぶん好き勝手ほざいてんじゃねぇか。てめぇらの秘密は分かっ
た、こっからだぜ」
「ふぉ、確かにな。じゃがわしらにとって、秘密がバレることはさほど問題ではないんじゃ
よ。おぬしがわしらを外見だけで判断している間にイイのを何発か当てられれば、な」
「その通りです。ダメージがあれば動きは鈍る。動きが鈍れば敵の攻撃を受けやすくなる。
ダメージ差は永遠に埋まらない。事実、貴様は立っているだけでもやっとといった風体だ」
 指摘は的確だった。加藤の両膝は地を求めている。気を緩めれば即崩れ落ちる。とても
戦うどころではない。
 老人の突きとドロップキックはそれほどに強烈だった。
 だが、足技でなく突きならば──加藤は拳を構えた。

190 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2008/01/04(金) 01:56:12 ID:vdomc2KJ0
 今度は試練が攻める。老人が前陣、若者が後陣。物理を超えた超筋力を備えた老人と、
若さに似合わぬ老獪な技量を駆使する男。
(あの足腰ではろくな突きを打てまい。警戒すべきは眼突きのみ!)
(打撃戦になる。側面から近づき腕を取り、次はへし折る!)
 ──いざ。
 右ストレートを打ち込まんとする老人に、信じられない攻撃が飛び込んできた。
「え」
 つま先が老人の腹に触れた。
「蹴り?」
 加藤が放っていたのは前蹴りだった。しかも威力は万全時を上回る。
 老人は後ろに吹き飛ばされ、若者と激突する。重なって倒れる二人。
「今度は油断したのはてめぇらだったな」
 かろうじて前蹴りは出せたが、追撃できるほど回復もしてはいない。呼吸を整える加藤。
 老人と若者は、共に恨めしそうな面持ちで跳ね起きる。
「まさか蹴りとは……。たばかりおったな……小僧ッ!」
「不覚ッ!」
 目には目を、歯には歯を、油断には油断を。これこそが加藤のスタイル。
「俺は生きなきゃならねぇ。俺に命をくれた奴と俺を待っている奴がいるからな……。て
めぇらもエリートならエリートらしく腹くくってかかって来いッ!」
 加藤から発せられる闘気に、老人と若者も感化される。この男には理論では勝てない。
どんなに差がついても、決着するその時までこの男は退かない。
「ふぉふぉ、いい目をしとる。武神は奴を“武道の恥”とまでおっしゃっていたが、とて
もそうは見えんな」
「とにかくもうミスはできません。勝利だけを考えましょう、奴の息の根を止めるまで」

191 :やさぐれ獅子 〜二十一日目〜:2008/01/04(金) 01:57:54 ID:vdomc2KJ0
 一進一退の攻防が繰り広げられる。
 さすがに試練は手強い。が、加藤も進化していた。
 若者の合気投げ。体が回転し逆さになった状態から、脳天に蹴りを喰らわせる。
 老人の拳。相手のリーチの短さを利用し、正確にカウンターを取る。
 だんだんとダメージ差が埋まっていく。いくら力や技をぶつけても、加藤はことごとく
食い下がり、看破する。
 試練を務める二人は気がついた。
「こやつ……まさかッ」
「我々を学習──否、吸収している」
 戦闘の真っ最中に開眼。武術史において決して珍しい現象ではない。「百聞は一見に如
かず」という諺が示すように、練習よりも“本番”が新たなる境地を切り開いてくれる例
は多い。
 はっきりいって加藤が持つ素質は低い。出来も悪い。挙げ句の果てに、ヤクザ世界に飛
び込み武道家とはおよそ呼べない人生を歩んできた。
 しかし、だからこそ面白い。老人と若者はいつしか勝負を忘れ、加藤という男が持つ可
能性に、まるで宝くじのような期待をかけ始めていた。当たらないとは思いつつもつい気
になってしまう、そして何より当たればデカい。

 ──いったい武神に加藤はどこまで対抗できるのだろうか?

 昼過ぎ、勝敗は決した。
 立っていたのは加藤清澄であった。

192 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/01/04(金) 01:58:56 ID:vdomc2KJ0
二十一日目終了です。
あけましておめでとうございます。


193 :作者の都合により名無しです:2008/01/04(金) 06:25:08 ID:CobulxI20
あけましておめでとうございます
昔読んでたSSなんですけど
冒険王ビィトのVandelBuster.NetのBBSで連載してた「エクスタントの平凡な日々]の行方を知ってる方いらっしゃいませんか?
MMOのチャットでまだ続いてるって話を耳にしたんですが


194 :作者の都合により名無しです:2008/01/04(金) 16:06:01 ID:rLlch0rP0
サマサさんとサナダムシさんが揃って書いてくれると新年という気がするな!
特にサマサさんはここんとこご無沙汰だったから嬉しい。

サマサさん更木剣八はブリーチで一番好きなキャラなので楽しかったです。

サナダさんいきなり加藤勝利ですか。この加藤なら克己位なら勝てますな。



195 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/01/04(金) 17:19:20 ID:kmpBSm0w0
改めまして、新年明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。度々、ご迷惑やご心配をお掛けし、誠に申し訳ありません。
今年は心機一転してSS執筆に努力していきます。皆様、どうか宜しくお願い致します。

>>26
あー、そうだ。初めてですね、そういえばw しかし、初めて書くまっぴーがこれか……。
“家族”や“非日常を過ごしてきた者の平和な日常”辺りが悲しみのキーワードかもしれません。

>>27
締めはいかがでしたでしょうか?『WHEN〜』の方も自分の首が絞まる前に締めたいと思います。

>スターダストさん
冒頭で既に死んでましたからねw まあ、アレです。時間と文章量とリズム感の都合ですw
全体的にお約束すぎる展開なのですが、それなりに色々出来たかなと。
>『永遠の扉』
ん〜む、こちらの斗貴子さんとまっぴーもエライ事になってますなぁ……。困惑し、苦悩するまっぴーには
胸がキュンとなる。反面、黒い俺がニヤーッと……。30話で唸った表現としては、通り過ぎ様にホムンクルス
二匹を両断する秋水。それに、砕かれても砕かれても分裂しながら語り続けるムーンフェイス、の二点ですね。
こういった見せ方、読ませ方には感心してしまいます。盗もう、俺も。

>ふら〜りさん
結末はこっち方面へ。真相を読めばあっち方面へw 今回の黒さはちょっとクドくなったかもしれませんね。
元々の芸風が遺憾無く発揮されてしまいましたw 普段、そこそこ当たり障りの無い作品を書いていると、
無性にこういうダークな話も書きたくなります。

>>172
あけおめっす。ことよろっす。
真相の方もちゃんと『真相編』と呼べる文章にしたかったんですが、面倒くs……力尽きてしまいました。
死んじゃえバインダー!(楓的な意味で) 俺がー!

>>175
読んで頂き、ありがとうございます。新作……。新作ね、ええ……。なるべく早く書きますw

196 :作者の都合により名無しです:2008/01/04(金) 18:12:17 ID:4VYF0ehk0
さいさんはまずお体を完全に治した方が良いと思うが・・。
サマサ氏、サナダムシ氏お疲れ様です。

>剣八先生
サマサさんが新年から復帰されて嬉しいです。
確かにちょっとキャラ違う気もするけど、こういうナンセンスギャグも
サマサさんの持ち味なので。桃伝も楽しみにしてます。

>やさぐれ獅子
いよいよこの作品もラストが近いですねえ・・。寂しい
多分武神は独歩でしょうが(ぜひそうあってほしい)
その他のバキキャラも出ると楽しいですね。

197 :作者の都合により名無しです:2008/01/05(土) 00:20:06 ID:ZjEwWkfQ0
やさぐれでは以前、信号機トリオも出たな。
今度は老人と若者のコンビか。
よく色々考え付かれるものだ。

198 :作者の都合により名無しです:2008/01/05(土) 08:38:17 ID:+v/5cSXF0
サマサさん復活したか。20年最初の復活ですな
サナダムシさんは19年最後の復活だったが

199 :作者の都合により名無しです:2008/01/06(日) 11:03:55 ID:GDd2wa520
現スレは結構進行早いな


200 :作者の都合により名無しです:2008/01/06(日) 14:08:52 ID:Kjc0Muk00
200

201 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/06(日) 18:15:19 ID:NU3CBvm10

火渡の心臓さえも射ぬかんばかりの眼光を浴びせながら、アンデルセンが構えを取る。
だが火渡はその眼光を受け流すように笑い、悪態の限りを尽くして毒づいた。
「気取った口上述べてんじゃねえよ。涙目で正直にこう言ったらどうだ?
『ボクは今、全然余裕がありません』ってな。もしくは『ボクは今、必死です』でもいいぜ?」
「貴様ァ……!」
アンデルセンにとっては便所の反吐同然という位置付けの異端者の嘲りである。それは彼を
激昂させるには充分過ぎるものだった。
ギリギリという歯噛みの音は火渡にも聞こえる程だ。
「シィイイイイイッ!」
何の前触れも無く、アンデルセンの右手から銃剣が投擲された。
怒りを込めて放たれた銃剣が凄まじいスピードで火渡に迫る。
火渡は素早く五指を広げた手掌を前方にかざした。
「オラァ!」
気合いと共に発せられた業火が銃剣を瞬時に溶かし、消滅させた。
無視しても良かったのかもしれない。だが自分の身体を通過した後、千歳に突き刺さる事を
危惧したのだ。
あの神父ならやりかねない、との思いも火渡にはある。

さて、単純にここまでの攻防を見る限り、火渡は優勢と考察しても良いのだろうか。
火渡に物理攻撃が通用しない以上、アンデルセンの銃剣による攻撃ではダメージは与えられない。
しかも、聖水による“ブレイズオブグローリー”封じは失敗に終わった。

しかし――
「カハッ……!」
火渡の胸部に激痛が走り、明らかに心臓の鼓動が一拍遅れる。
やや俯き加減に胸を押さえた火渡は焦燥感に駆られた。
(クソッタレ、余裕が無えのは俺の方だな……)
“聖水による浄化”が辺り一面、そして火渡自身にも及んでいる、現在のこの状況。
武装錬金を強引に発動させた事で大きなダメージを刻み込まれ、更には攻撃をするどころか
発現状態を維持させているだけで生命力をむしり取られていく。

202 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/06(日) 18:16:27 ID:NU3CBvm10
対するアンデルセンの方は、やや陰りが見えてきたとはいえ聖水の効果もあってか、
再生能力そのものは未だ保たれている。
ジリ貧。そんなありきたりの言葉が火渡の頭に浮かぶ。
それでも尚、彼の闘争心は揺らがない。
(別によォ、ただ……)
まさか「死ぬ事と見つけたり」とは言わないが、火渡にとって“劣勢”や“死の危険”は
闘いにおける不安要素には当たらない。
(ただ、“届かねえ”のはもう願い下げってだけだ……)
火渡は胸から手を離し、傲岸不遜に顎を上げる。

「……どうしたよ。テメエの“本気”ってヤツを見せてくれるんじゃねえのか?」

「ああ、出し惜しみはせん」

相変わらず笑みの無いアンデルセンは、空いた右手で懐から何やら取り出した。
それは、プラスティックらしき物で出来た細長い箱。
表面には『SECTION 3 MATTHEW(聖遺物管理局 第3課“マタイ”)』と書かれている。
握り締められた箱はアンデルセンの眼の高さまで掲げられた。
「随分、大仰じゃねえかよ。秘密兵器登場ってか?」
「そんなところだ」
アンデルセンはそう言うと、掌中の箱を中央から一息に握り潰した。二つに割れた箱が
幾つかの破片と共に床に落ちる。
そして、開かれたアンデルセンの手掌と割れた箱の中から、灰白色の細かな粒子が宙を舞う。
これは灰だ。何かを燃やした後の灰。
無論、あの神父の用意した物なのだから、只の灰である筈は無いのだろう。
それを証明するかのように灰は限り無く、無尽蔵にその量を増やし、火渡らの元へと
伸びていく。灰というよりもまるで煙幕だ。
やがて舞い踊る灰は、廊下の端にいるアンデルセンからだいぶ離れた二人までを包み込む程に
大きく範囲を広げた。
火渡は己を取り囲むグレイの世界を仰ぎ見、可笑しそうに首を傾げる。

203 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/06(日) 18:17:57 ID:NU3CBvm10
「それがァ……どうしたってんだ!」
雄叫びの中、灰を吹き飛ばさんばかりの勢いで炎が放射された。
紅蓮の波はアンデルセン目掛け、まっしぐらに襲いかかる――

――筈だった。
だが炎はその途中で白く濁り、幾つもの細かな電光と化して灰の中へ拡散してしまった。
「ほ、炎が……!?」
呆気に取られる火渡をよそに、電光は灰の中を縦横無尽に駆け巡る。
徐々に雷雲の様相を呈していく灰の中に、うっすらとひとつの“顔”が浮かんだ。
眼を大きく見開き、口を裂けんばかりに開け、嘆きの声を上げる。怨讐の叫びを上げる。
そして“顔”が一際高く吼えるや否や、電光は細く鋭い稲妻となって火渡に降り注いだ。
「やべえ!」
「ああッ!!」
後方で甲高い悲鳴が響き、火渡は慌ててその発生源へ振り向いた。
見れば千歳が苦悶の表情を浮かべ、両手で右脚を押さえている。
「千歳!」
やはりだ。恐れていた事が起こった。
火渡を通り抜けた稲妻は、その勢いを緩めず千歳に直撃してしまったのだ。
元より火渡は稲妻程度の攻撃を恐れてはいない。
炎による攻撃は無効化されてしまったが、灰から落ちる稲妻もまた火炎同化している火渡には
ダメージを与え得るものではないのだから。
しかし、“これ”は別だ。この状況は別だ。
激痛に耐えかね、千歳の顔は脂汗に濡れる。
「あ、脚が……」
右脚はすねの部分でズボンもブーツも弾け、皮膚は焼け爛れて煙を上げている。

「ジャック・ド・モレーの灰……」

混乱極まる二人を眺めながら、アンデルセンはボソリと呟く。どうやら彼ら二人を包む
この灰は人間の遺灰のようだ。

204 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/06(日) 18:20:30 ID:NU3CBvm10
「異端の濡れ衣を着せられ、無念の内に火刑に処された聖堂騎士(テンプルナイト)の怒り……とくと知れィ!」
「野ァ郎ォオオオ!!」
激怒と憎悪の咆哮を上げる火渡。
怒りだけならば七百年前に没した聖堂騎士にも負けないだろう。怒りだけならば。
「仕上げだ……」
アンデルセンは激する火渡へ力いっぱいに何かを投げつけた。
それは“聖書”。革と金属で神々しく装丁された聖書だ。
飛翔する聖書は独りでにパラパラと開かれ、その中の頁(ページ)が無数の紙片となって
勢い激しく湧き出でる。
幾百幾千の乱れ飛ぶ紙片は、まるで意思を持っているかのように火渡に向かって襲いかかった。
「畜生ッ!」
紙切れ如き、と炎を放つ火渡だがそれも聖遺灰によって電光に変えられ、空しく拡散する。
やがて紙片の一枚が火渡の腕に張りつく。
その瞬間、燃え盛る業火と化していた火渡の腕は、ただの人間のものとなった。
「何だァ!?」
驚愕の間こそあれば紙片は次々に火渡の全身に張りつき、張りついた先から火炎同化が
無効化されていく。
それだけではない。紙片が幾重にも火渡の身体に絡みつき、その自由を奪う。
「クソッ、動けねえ!」
もがく火渡の足元にコトリとシリアルナンバーXXの核鉄が落ちた。
再び武装錬金は解除されてしまったのだ。

思えばここまでアンデルセンが使用してきた道具の中に、攻撃に特化された物はひとつも無い。
聖水も、聖遺灰も、聖書も、そのどれもが邪悪な力を縛りつけ、戒める為のものだ。
武装錬金という異端の力を発動させなければ、“ただの人間と何ら変わり無い”錬金の戦士を
殺しきる為だけに選択された道具だ。
火渡は忘れていた。一番、心に留めておかねばならない事実を忘れていたのだ。
アレクサンド・アンデルセン神父は錬金の戦士を、それもいずれ名だたる歴戦の勇士達を
何度と無く血祭りに上げてきたという事実を。

205 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/06(日) 18:23:05 ID:NU3CBvm10

「聖具と聖遺物による三重縛……。何者も逃れる事は出来ん。諦めて――」
完全に自由を奪われた火渡を前にしても、アンデルセンの眼光は鋭さを増していく。
「――大人しく殺されろ……!」

アンデルセンは床を蹴り、猛烈な勢いで火渡に向かい突進を開始した。
銃剣を握る両腕を、猛禽類が有する翼の如く大きく広げながら。
右の銃剣はコンクリートの壁を削り砕き、左の銃剣は窓ガラスを次々に粉砕していく。
壁の亀裂は天井にも及び、ガラスだけではなく窓枠までも木っ端微塵に吹き飛ぶ。
廊下全体を破壊しながら迫り来るアンデルセンの形相は、鬼神を彷彿とさせる荒々しさで
歪みに歪んでいた。

「死ィねェエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアハハハハァ!!!!」



[続]





どーもです。さいです。
ちょい短めですが投稿しました。
いやぁ、なかなか終わんないw
予定としては次でEP13終わらせて、次はLAST EPISOE。
そしてエピローグって感じなんですが。
上手くいかないもんですねぇ。
では、また近いうちに。

206 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 08:19:03 ID:P4GDIgfR0
お疲れ様ですさいさん。
熱闘が書いているうちに長くなるのは仕方ないと思います。
ゴールは見えていると思うので、最後までしっかりとがんばって下さい。

207 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 13:17:48 ID:G5U29edn0
この作品ももうすぐラストか・・。
好きな作品なので残念だが、神父がかっこいいからいいか!

208 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 16:16:37 ID:ofQmaOin0
火渡も頑張ってるがアンデルセンは格が違うか

209 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 18:47:17 ID:GtckjBAE0
『世界を滅ぼす千の方法 B』


 夏の爽やかな朝にかすれた歌声が響き渡る。
“彼女は殺し屋ァ──、女王ゥゥ──、火薬ゥ寒天爆弾──”
 そんな、初夏らしい爽やかさなど微塵もない代物を熱唱するのは、航の『スタンド』──『メタル・グゥルー』。
 『スタンド』の存在は『スタンド使い』にしか知覚できない。
 ために、航は一人でその調子っぱずれな歌を聞かなければならなく──それがなんとも腹立たしかった。
“上手な光線銃でェ──、男をいちころォォ──”
 思わず知らず、溜め息が漏れる。
「朝っぱらから変なの歌ってんじゃねーよ……」
“いやー、歌って本当にいいものですねぇ。けけけ”
 とかなんとか、どこまでも能天気な物言いに突っ込みを入れる。
「……渚カヲルかよ」
“淀川長治だ、このオタク野郎。ネタ元くらい正確に特定しろ”
「知らねえよ、そんなの……」
 航には以前からある『願望』があった。
 それはひとつの変身願望であり、「全体に埋没する無個性な自分から、特別な『なにか』になりたい」という一種の超人願望でもあった。
 その願望は、謎めく転校生である李小狼と木之本桜と友人になり、おまけに『スタンド能力』に目覚めることで十分に叶ったと言っていい。
 だが──本当にそうなのだろうか?
 特別なのはこの傲慢な背後霊『メタル・グゥルー』だけで、自身は昨日までの自分と何一つ変わっていないのではないだろうか。
 そんな航の懊悩などとは無関係そうに、『メタル・グゥルー』が話しかけてくる。
“どーしたよ、馬鹿弟子。こんな気分のいい朝にシケたツラしてんじゃねー”
「気分がいいのはお前だけだっつの。大事にしてたプラモ壊されりゃ誰だって気分悪くなるよ」
 昨夜のことを根に持ち、そんな恨み言を口にする、と、
“──いや、あれはあれでお前の意思だぜ。俺様はただてめえの気分を代行してやっただけだ”
 などと、およそ意味不明のことをのたまいだした。
「ふざけんなよ。大事にしてたって言ってるだろ」
“そりゃ分かるがな……いくら俺様でもてめーの意思に反することなんざしねえよ。
お前は、本当はあれを壊したかったんだ──こいつを見てみろ。これをどう思う?”

210 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 18:48:54 ID:GtckjBAE0
 『メタル・グゥルー』の蟹鋏のような手が航の鞄の中に突っ込まれ、そこから数冊の参考書が取り出される。
 それは昨日、例のプラモとともに両断された物だった。
 いや──『両断された』というは錯覚だったのだろう。
 なぜなら、目の前のそれは、両断どころか引っかき傷ひとつない状態で買ったばかりの小奇麗さを保っていたからだ。
 だが、しかし……、
「これ……昨日、お前がちょん切ってなかったか?」
“いーや、今の俺様じゃあこいつを叩き斬ることなんざぁできないぜ”
「でもプラモはブッ壊したじゃんよ」
 航の不可思議そうな返答に、『メタル・グゥルー』は意を得たりと頷き返す。
“そこよ。そこが俺様の『能力』のキモだ。てめーはあのクソくだらねープラモを後生大事にしてた。
が、その半面でこんな風にも思ってたんだろーよ。『来年は受験だし、そろそろプラモも卒業かも』、ってな。
なのに意志薄弱なてめーはその考えを惰性で押し流して、真面目に勉強に取り組もうとしていなかった。
それが、プラモを破壊できて参考書を破壊できなかった理由だ”
 そんなの憶測の決め付けだ、と喉まで出掛かるが、どうしてもそう言ってやることができなかった。
 それどころか、まるで「図星を指された」かのような後ろめたさに見舞われる。
「……結局、お前の『能力』ってのはなんなんだよ。『大事なものを壊す』ってのが『能力』なのか?」
“ある面では、その解釈は正しいぜ。──俺様の『能力』は、物体の『限界』を見極める『能力』だ。
どんなものも等しく内包する、ちょっと突っついたら全てがおじゃんになってしまうギリギリの……『限界』だ。
『死』とか『運命』とか言い換えてもいい。永遠に存在するものなんてこの世にゃねーよ。
いつかは必ず壊れちまうんだが……じゃあ、その『いつか』ってのは『いつ』だ? 誰が決めている?”
 この辺で、航の理解力は振り切られた。
 『メタル・グゥルー』がなにを言っているのか、本気で分からなくなる。
“そう、誰もそんなこと決めてはくれねーんだ。ただ『いつかは限界が来る』ってことだけが厳然と決定しているだけでな。
その『時期』が来たら勝手に壊れるなんてこたぁ全然なくて、『誰か』が『限界』に至る一撃を加えなけりゃ、それはずっとそのままさ。
逆を言えば、この世のあらゆる物は常に待っている──ありとあらゆる『可能性』の試行錯誤の果てに、『限界』が世界の表面に浮かぶそのときを、な。
『限界』を迎えることで、そいつは存在を初めてまっとう出来るっつー理屈だ。
『いつか』なんて曖昧な概念じゃなく、『なにか』っていう明確な『力』が自分自身を破壊してくれるのを、この世界はいつだって待っているんだぜ”
 『メタル・グゥルー』の話はいよいよ韜晦を極めてきて、いったいなんの話をしているのかすら航にとっては怪しくなる。

211 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 18:50:56 ID:GtckjBAE0
“そして、この俺様……つうか、てめーの『能力』は、この世に千の具象あればそこに潜む千の『限界』を直視できる。
そして、『最後の一撃』を加えることで、そいつを問答無用で破壊できる、っつー最悪の『能力』だ。
ただ、そいつにゃぁ一つ『条件』がある──他ならぬてめー自身が、そいつの『価値』を理解することだ。
かの天才ミケランジェロは石塊に隠された『運命の姿』を知ることで超一級の彫刻を幾つも創ったというが──、
てめーにも、それに近いものが要求されれるだろーよ。頭でなく、心でなく、魂で対象の『価値』を『理解』しなけりゃ、『限界』は見出せねえ。
チョコレート・ケーキの最後の一焼きを加えるには、チョコレート・ケーキの『真実の姿』を知ってなきゃいけねーのさ”
 ──ここまで述べつくして、『メタル・グゥルー』はやっと長広舌を終わらせた。
 航はなにも言えなかった。言えるはずがなかった。
“……おい、俺様の言ったこと、理解できたか?”
 力いっぱい左右に首を振る。
 「だはぁ」という、心底から呆れたような、軽蔑を隠そうともしない、銀紙をこすり合わせたような声。
“ったくよ、俺もとんだ馬鹿弟子を持っちまったもんだよな。仕方ねえ……今から俺様が言うことだけ、良く心に刻んでおけ。
──『メタリック』なものを求めろ。それが、てめーの目に見える『限界』の表現だ。
これからてめーがどんな『道』を選び、どんな方法で『世界の終わり』に臨むとしても、それだけは変わらない。
カラスが銀ピカものを集めるのと同じさ。やつらは『なんだか知らないけどこいつは素晴らしいものだ』って知ってやがる。
今はプラモとかある意味くだらねーものしか『メタリック』に見えないだろーが、てめーの『能力』……『魂』が生長するに従って、
『巨大なもの』『形のないもの』すらもメタリックに見えてくるはずだ。
そーして、いつかてめーの『世界』が『メタリック』なものに満たされたとき……それが、『世界の終わる合図』だ”


「──ふーん、なるほど。あんたの『スタンド』、『メタル・グゥルー』はそう言ったワケね?」
 私立ぶどうヶ丘学園──その高等部校舎の保健室。
 『メタル・グゥルー』の電波過ぎる話の持っていく先として南方航が選んだのは、
先日のとある騒動をきっかけに知り合った女子高生、遠野十和子だった。
 実を言うと、同じ『スタンド使い』である静・ジョースターに相談しようとしたのだったが、
彼女を探して保健室を訪れた際に十和子に捕まり、

212 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 19:18:29 ID:bKDczLiw0
ありゃ?どうしたんですか?
まだ投稿規制になるレス数じゃないけど

213 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 19:31:01 ID:GtckjBAE0
テス

214 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 19:42:48 ID:GtckjBAE0
なぜか書き込みが宙に消えていきます。しばしお待ちを

215 :作者の都合により名無しです:2008/01/07(月) 19:52:17 ID:bKDczLiw0
むー、リアルタイムで読んでたのに残念

今、会社のパソで読んでいるんですが
もう家に帰らないといけないので
続きはまた明日の朝、会社で読みます

家にパソ無いからなあ

216 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 20:07:48 ID:GtckjBAE0

「あ、静なら今日は遅刻よ。いやなに、ちょっと警察にね。話ならあたしが聞いてあげるわ。
──え? 『なんで警察に』? そんなことはあんたに関係ないでしょーが。それともなに?
あんた、あの子と『関係』持ちたいわけ? ……おっと、ちょっとおっさん臭かったかな。こりゃ失敬。
まー、いいから話してみなよ」

 ……などと、半ば強引に白状させられ、今に至る。
「しっかし……『スタンド』が『精神の才能』だってんなら、あんたってば相当の危険人物なのねえ。
そんな冴えねーツラしといて世界征服とか企んでんのかよ」
「いや、別に世界征服は。つーか、冴えねーって……」
「どっちだっていいけどさ。あんた、もっと危機意識持ったほうがいいんじゃないの?
だってそうでしょ? 本人の『意思』から外れて、いわば『暴走』してる『スタンド』なんて極めつけに危険だわ」
「まあ、そうですけど」
 プラモデルを壊したことに関して言えば、『メタル・グゥルー』は「航自身もそう望んでいた」というようなことを仄めかしていたが、
それを伝えると話がややこしくなりそうだったので、あえて黙っておくことにする。
「でも、僕はロマンのある話だと思うけどな」
 古ぼけたテーブルに差し向かいで座る十和子と航に茶を出してそう言ったのは、秋月貴也という男子生徒で、
どうやら彼は十和子の同級生のようだった。
「はあぁ? 今のどこにロマンがあるっての?」
 わざとらしくしかめっ面をしながら番茶をすする十和子。
 そのぶっきらぼうな態度を軽くいなすように貴也は笑ってみせ、自分の湯飲みを持って航の隣に腰掛けた。
「その『スタンド能力』というのは僕には眉唾ものだけどさ……要するに、君は物事の『一番美しい姿』を見ることができるんだろ?
それは良いことだと思うけど。『壊したくない』って思うなら壊さなきゃいいわけだし」
「はっ、お気楽だわね、秋月ちゃん。あんた長生きするわ」
「だといいけどね。……あ、南方くん。遠慮しないでお茶どうぞ。初佳さ……五十嵐先生は用事だけど、代わりに僕が留守を預かってるから」
 彼の人懐っこそうで柔和な笑みに勧められるまま、航は彼の淹れた茶を口に運ぶ。
「なんにせよ、南方。あんた、しばらくはこまめに保健室に顔を出しなさいよ。あたしか静か……そうじゃなくても誰かしらが待ってるから。
そいつが大法螺吹いてるうちはともかく、実際に『世界の終わり』とやらに向けてアクション取るなら、こっちだって対策を練らなきゃでしょ」
 特に反対する理由も思いつかず、航は湯飲みに口をつけながら首肯する。
 というか……むしろ十和子の言い草はなんか『秘密基地』めいていて、航の好奇心を刺激していた。

217 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 20:10:45 ID:GtckjBAE0
「やれやれだわ。『炎の魔女』に『羽』に『メタル・グゥルー』、か……あーぁ、世界ってばどーしてこんなに危機一髪なんでしょーね」
 十和子は「ふわぁ」と欠伸交じりに伸びをして立ち上がる。
 その仕草が航にはなぜだか眩しく見えて、つい目を逸らした。
「あー……ダメだわ。昨日完徹したからもう限界。秋月、ベッド借りるわよ」
 言うなり、返事も待たずにもそもそとシーツの隙間に潜り込んでいった。
「夜遊びか、遠野さん」
「うるせーわよ。あんたにだきゃあ言われたくないわ」
「は?」
「いーの。おやすみ。五秒で寝るけど──イタズラしたら殺すからね」
 ふらふら振った手がぱたりと落ちた数秒後には、宣言どおりにすうすうと安らかな寝息を立て始めた。
 器用な人だな、のび太みたいだ──と、航はちょっと感心してしまう。
 この部屋で一番騒がしかった人物が急に沈黙したことで、あたりは驚くほどの静寂に包まれる。
 なんとなくの居心地の悪さを感じる航だったが、隣の貴也という先輩は特に気にするでもなく、のんびりと茶を飲んでいた。
「──黙っていれば、可愛いのにな」
 いきなりの発言に、航が飲みかけの湯飲みを取り落としそうになる。
「え? な、なにがすか」
「遠野さんだよ。彼女、うちの学年では有名人でね──遠からんは『とんでもない美人』、近くば『とんでもない変人』、ってさ」
「秋月先輩は……遠野先輩のこと、好きなんですか」
 航の質問に、貴也は一瞬きょとんとし、ややあってから「ぷっ」と吹き出した。
「まさか。いや、別に彼女に魅力がないとは言わないけど、僕には付き合ってる人、いるから」
 その何気ない一言に、なぜか航は「負けた」という感想を抱いてしまう。
「……いるんすか」
「うん、まあ」
 気を使っているのか、貴也が「じゃあ君は?」とかその類の質問をせず、それもそれでちょっと悔しいと思う。
 その空気をも察したのだろう、彼は「あ、そうだ」と席を立ち、デスクの上の引き出しから数枚のプリントを持ってきた。
「君……確か、二年B組だったよね? この人の住所、知ってるかな? 君と同じクラスのはずなんだけど。
渡さなきゃいけないプリントがあるんだけど、この人、ここしばらく学校に来てないみたいだから」
 プリントに貼られた付箋に記された名前は、航の記憶には無かった。いや──字面には見覚えがあるような気がする。
 そういえばこんな名前のようなやつがいたかも──だが、どこかで頻繁にこの名前を耳にしたような……。
 そこまで考えて、航の脳裏に思い当たるものがある。

218 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/07(月) 20:13:17 ID:GtckjBAE0
「こいつ……登校拒否してるやつじゃないすか?」
 頻繁に耳に入ってるのは、出欠確認時に欠席者として名が挙がるから──。
「うん……まあ、以前はいわゆる保健室登校をしてたんだけど、ここ数日は学校自体に来てないみたいだ。
もし良かったら、このプリントを届けてあげてくれないかな? 郵便受けに入れてくれるだけでもいいんだ」
(うぜえ……)
 というのが、航の率直な所感だった。
 だが、馬鹿正直にそう言って断るものも大人げないような気がして、返答に詰まる。
「ダメかな?」
 意を決して断ろうとしたそのとき、昼休みの終了を告げる予鈴が校内に響き渡る。
 その騒音に出鼻を挫かれた航は、うやむやのままにプリントを受け取る。もとより釈然とはしてなかった。
「ありがとう。よろしくな」
「はあ、分かりました」
 ちょっと不満そうに答えつつも、仕方なくプリントを手に保健室を後にする。
 冷房の効いた室内から急に表に出たので、無性に空気が暑苦しく感じられる。
 十和子はまだベッドで寝たままだが授業に出なくていいのだろうかと、どうでもいいことが思考に浮かぶ。
「南方くん」
 十数メートルほど歩いたところで呼び止められる。
 振り返ると、保健室の戸口に貴也が立っていた。
「君の『メタル・グゥルー』……遠野十和子はあんな風に君の『才能』を評したが、それに引きずられてはいけない。
彼女の言っていることは『正しい』。だが、君の『才能』は未だ発展途上だ。そうならない『可能性』だってあると思わないかね?
いくら危険な『能力』だからとて、君自身が『可能性』の幅を狭める必要はないはずだ」
 さっきとは異なる硬質な声の響きや、まるで明治の書生かなんかのような時代掛かった口ぶりに、航はわずかに面食らう。
 この距離からでは表情がよく読めないので、彼が本気なのか冗談で言ってるのかすら分からない。
「もちろん、楽観的に君の『才能』を捉えるのもよくないがね。『崩壊のビート』はいつだって全ての者の目の前に口を開けて待ち構えている。
君がその陥穽に足を取られ、取り返しのつかない『ビート』の『向こう側』へと行ってしまわないことを──祈っているよ」
 言い終えると、彼はすぐさま保健室に引っ込んでしまう。
 呆気に取られた航はしばし廊下に立ち尽くす──まもなく開始される授業のために、生徒も教師も慌しく廊下を行き来していた。
 窓からは目の眩むような日光が差し込んでいた。じわりと汗が背中ににじむ。
 そろそろ本格的に夏が始まるのだと、徐々に茹りつつある脳味噌で思った。

219 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/01/07(月) 20:15:45 ID:GtckjBAE0
前回は「あと一回で終わる」みたいなこと言いましたが、ペース配分間違えたのでまだ続きます。

220 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 08:28:29 ID:57EDOOjt0
十和子は女王様気質のくせに、本質を自然に見抜く力があるな
ズケズケとした物言いに周りが振り回されてかわいそうだ
この舞台設定原作はわからないけど、なんかペルソナ3っぽいイメージだ。

221 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 12:24:47 ID:GkfV6ZbC0
相変わらず会話がオシャレで上手いですな。設定も細密だし。
この日常が崩壊のビートにより崩れ去った時、
(もしくは崩れ去ろうとするのを止めようと奮闘している時)
各々がどういう行動に出るか非常に楽しみです。
その時でも十羽子は十和子のままでいそうですが。
静は慌てふためくんだろうな。

あと、短編も正月に全部読みました。お見事ですな。
「遠野一家」や「黄金の恋」などが特に気に入りました。
上手い人は何を書いても上手いな…。

222 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 12:48:27 ID:rC7kZn230
井上って、確かSM地獄に堕ちたんじゃなかったか。帰還してすぐに。
芸術家とサディズム騎士を借りた代償に、武神が別の神に贈ったとかで。
やさぐれ獅子の21日目の時点では、井上は一晩明けて檻暮らし2日目だろう。
あれはサナダムシさんじゃない職人の手によるものだったか。
格闘プレイとかの日に、武神から借りた加藤モドキとかが登場したら嫌だなw
「格下女子との組手でその手のコトに目覚める・・・少年部には珍しいことじゃねぇ」とか諭しながら内股にローキック。
「スイミングとか・・・いいかげんな学習塾でのイジメなんかでも人は性資源を拾う」。目を白黒させて絶望する井上の右乳房に、
加藤の形をした戦士の正拳が食い込む。井上が完全にピヨっても、動物マスクのマッチョ男が20秒数えると、組手再開。
肉体は普通にボロクズ状態。「大人だって文化教室から始まる恋愛があるだろう」とかのくだりで、溶け始める井上の理性。
過度の筋肉使用でヘタばった夜、発熱する全身に悶える井上。神心会の稽古をなぜ好きなのか、考え始める井上。
神心会の上級者なら頑丈な体をしているから、グラマーな上にかなりの責めが可能だろうな。
腹筋や腹式呼吸のことを考えると、叫び声も大きくて長引くだろうな。

223 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 16:45:35 ID:3GL1WWgZ0
ハロイさんはすげーな
俺もサイトの短編読んだけど
すっきりうまくまとまってる

メタル・グゥルーはなんとなく成長しそうなスタンドだ

224 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:14:57 ID:0qYRQ74u0
『世界を滅ぼす千の方法 C』


 南方航は考える。
 自分は選ばれた人間なのだと──『スタンド能力』を身につけた超能力者なのだと。
 ただひとつ問題があるとするなら、肝心要の自分自身が、その事実を信じきれていない点だった。
「……なあ、小狼。俺の『スタンド』、見えるか?」
 放課後、清掃当番として教室に残る航は、同じように当番を割り当てられた李小狼にそんなことを訊いた。
 問われた小狼は、持ち前の実直さを存分に発揮してきっぱり首を横に振る。
「うーん……やっぱ見えないか。『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えない、ってのは分かってるけどさ……」
「どうしたんですか? 困りごとなら、俺でよければ力になり──」
「……敬語」
 ジト目で指摘すると、小狼は「しまった」という感じで口元を覆ってみせた。
「すみま……じゃなくて、ごめん。ずっと大人の人たちの中で過ごしてきたから、つい癖になってて」
「木之本にも敬語じゃん」
 航が目線で示す先には、同級生の女子ときゃいきゃい言いながら掃除に奮闘する少女の姿がある。
 小狼もつられてそっちを見る。二人の視線に気付いた少女──木之本桜──サクラは、にっこり笑って手を振ってきた。
 それに控え目に手を振って応える小狼は、航だけにしか聞こえない声でつぶやく。
「あの人は……姫だから」
(姫、ねえ……)
 つまり、小狼はサクラの『家臣』かなんかということなのだろうか。
 この二人も謎だよな、としみじみ思う。
 二人の関係も謎だが、それを取り巻くあらゆるもの──サクラの『記憶』そのものである『羽』のことや、
それを求めて『異世界』を旅するだとか(最近赴任してきた二人の教師も、この二人の仲間らしい)……。
「『理解』、か……」
 『メタル・グゥルー』は航に『メタリック』なものを求めろと言った。
 それは『理解』によって成されることだとも。
 だが……この世界には理解不可能なことが多すぎた。
 なにをどうすれば、この奇妙な友人を理解できるというのだろうか。

225 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:16:53 ID:0qYRQ74u0
 小狼とサクラはこの後、『羽』の手掛かり──以前に彼等を襲った『仮面の少年』の痕跡を求めて校内を探索するのだと言う。
 その『羽』がどれほど大事なものなのか、航には理解できない。所詮は他人事でしかないのだ。
 それはちょうど、この二人には『メタル・グゥルー』が見えないのだというのと同じくらいに。
(ここにいるやつら全員、この『世界』がどうなろうと誰も気にしちゃいないんだろーな……)
 航は漠然と教室を眺める。
 それはいつもの風景だった。いつもの風景でしかなかった。
 『異世界人』と友人になり、彼らを巡る騒動に巻き込まれ、それをきっかけに『スタンド能力』というものまで目覚めた。
 しかしそれでも──世界は何一つ変わっていない。
 『メタリック』なものなどどこにも見えない、どうしようもないくらいの退屈な『いつも』。
 ふと、秋月貴也から渡されたプリントのことを思い出す。
 このクラスには、少なくとも半月以上顔を見せていないやつがいる。
 だが、誰もそんなことを気にしてはいない。
 当たり前だ。そいつがなんで学校に来ないのか、なんてことは日々繰り返される問題──
「宿題はどうしよう」「今日の晩御飯はなんだろう」というものよりも些細なことでしかない。
 世界は猛スピードで流れてゆく。取り残されたものを置き去りにして。
 この世界には『素晴らしいもの』なんてない。『メタリック』なもので満たされるときなど永遠に来ない。
 ──だから、世界は安泰だ。


“はーん。それがてめーの結論かよ”
 掃除を済ませた後、小狼とサクラの二人と別れた航が歩いているのは、杜王町の住宅街の一角だった。
 秋月貴也の依頼を果たすために、不本意ながらも不登校中のやつにプリントを届けに行く中途である。
「そうだよ。だからお前がどれだけ世界を滅ぼしたがってても、無駄ってこと」
“ふん、間抜けなてめーの割には、よくそこまで考えられたじゃねーか。褒めてやんぜ。
だが『安泰』は良かったな、さすが俺様の『本体』だ。言うことが違うぜ。けけけけ”
「……なんだそれ。どういう意味だ?」
“いんや、深い意味はねーよ。お前がそう思ってるなら、俺にゃなにも言うことはないぜ。
世界崩壊はすっぱり諦めて──とりあえずネトゲ廃人にでもなるか”
「なんでそうなるんだよ。しかも『とりあえず』ってなんだ?」

226 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:19:29 ID:0qYRQ74u0
“てめー、何度言わせれば分かるんだ? 『銀ぴか導師(メタル・グゥルー)』たる俺様の使命はたった一つだけ──
馬鹿で間抜けでちんちくりんなてめーを善導することだっつってんだろーが。
そんで、てめーの行き着く先は二つだけ──世界の王になるか、世を捨てて隠者になるかだ。中間なんてないのさ”
「勝手に決めんなよ。ネトゲ廃人にも引きこもりにもならねーよ、俺は」
“へえ? なんで? 世捨て人ってのは、歴史上にも稀有な覇者アレキサンダー大王に
『もし俺が王様じゃなかったら、樽に住む物乞いになりたかった』とまで言わしめた高潔な身分だぜ?”
「嘘つけ。あんなの、負け犬じゃねえか」
“俺ぁ嘘なんかつかねーし……それに、お前、考え違いしてねーか?”
 ぴたりと航の足が止まる。振り返って背後に引っ付く『メタル・グゥルー』を仰ぎ見た。
「考え違いって……なに」
“てめーの言う『負け犬』ってのあ、ヒッキーとかのことを指してんだろーがよ……あいつら、『負けて』ないぜ。
てめーや、他の人間と同じように『現実』と戦ってる真っ最中さ。勝負はついてねーよ”
「実際に負けてるじゃん。だから閉じこもってるんだろ」
“あいつらは他所に居場所がないから『そう』してるだけだ。
その裏には『少しでも状況を良くしよう』っつー発想があって、それ自体には良いも悪いもねーよ。
『社会』とかいうよく分からん代物と、たまたま上手く噛み合いませんでしたっつーアホみてーな理由で『負け組』のレッテル貼られてるけどな”
 また例によって分かるような分からないような『メタル・グゥルー』の言葉だが、
なぜだか今度のは──そうおかしなことを言ってるのではないような気がした。
“よくどこかの偉そうなやつは『現実逃避』だとかなんとか言ってるがよ、これは質の悪い印象操作だよな。
『逃避』なんてのは本来一時的なものであり、その限りではおおむねにおいて非常に有効な『戦術』だ。
誰もが知っていることだぜ……永遠に逃げ続けることなんて不可能で、この世に本当の逃げ場なんてない、ってことはな”


 学校から徒歩にして二十分のところに、そいつの家はあった。
 数年前に売り出された庭付き建売住宅の一軒で、周囲との整合性を意識したデザインの外装だった。
 さっさと郵便受けにプリント入れて帰ろう──と考えるが、その思惑は間もなく崩れ去る。
「おいおい……」
 そいつの家の郵便受けには、新聞らやチラシやらその他の郵便物が、これ以上なにも入らないくらいぱんぱんに詰め込まれていた。
 事実、入りきらない新聞がその足元にいくつも転がっている。
“おーおー、鮨詰めとはまさにこのことだな”
 まさかこの紙の山にプリントを放って帰るわけにもいかず、航は途方に暮れる。

227 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:22:22 ID:0qYRQ74u0
「登校拒否とかじゃなくて、まさか旅行とかに行ってんじゃねえだろうな……」
 新聞の山を見つめる航が呟くのへ、
“いや……どうやら違うみてーだぜ。見な”
 『メタル・グゥルー』が玄関口を指し示す。
 ドアがほんのわずかに開かれていて、そこから小さな人影がのぞいていた。
 それは航よりもやや背の低い少女で、長く伸びた髪に隠れてよく見えなかったが、どこかで見たような印象だった。
「あ、おい──」
 航がそちらへ足を踏み出した瞬間、
 バタン。
 勢いよくドアが閉められた。続けて、がちゃがちゃと三重に施錠される金属音。
「──んだよ」
 鼻白みながらもドアの前に立つ。
 門扉のところに郵便受けがあるから当然なのだが、玄関ドアには郵便物などを差し入れることのできる小窓は備え付けられていない。
 仕方なくインターフォンを押そうとすると、
「……なにしに来たの」
 ドアの向こう側から、そんなくぐもった声が聞こえてきた。
「なにって、いや、プリント届けに来ただけだけど」
 航の返答に、しばらくの沈黙を経てさっきと同じ声が返ってくる。
「嘘」
「嘘? ……ってなにが」
“あれじゃね? なんつーかこう、『友情ごっこ』でもしに来たと思われてんじゃねーの、お前”
「なんだ、それ」
 小声で問い返す。
“察しの悪いやつだな。ほら、青春ドラマとかでありがちなアレだよ。『学校来いよ』的な”
「マジかよ……」
 なんでこんな面倒なことに……と思う。
 だが、ここまで来て「やっぱやーめた」と帰るわけにもいかなかった。
 ドアを通しても伝わるように、やや大きめに声を出す。
「あー、じゃあ、分かった。プリントは玄関のとこに重石して置いておくから。それでいいだろ」

228 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:25:51 ID:0qYRQ74u0
 航としてはかなり冴えた考えだったのだが、扉の向こうの少女はそれすらも冷たく突き放した。
「嘘。そうやってドアが開くの待ち構えてる。本当でもプリントなんか読まない。その場で破く」
(……なんだあ、そりゃあ)
「帰って」
 これが最終宣告だとでも言うように、一方的に言い放たれれた。
 登校拒否してるやつのためにプリントを届けるなんて、元々、気が進まないものだった。
 帰れというなら喜んで帰ってやる。だが──、
「……『メタル・グゥルー』」
“なんだよ、馬鹿弟子”
「この鍵を壊せ」
“俺様に命令してんじゃねー。だがしかし……俺の言ったこと、覚えてるか? つまり、よ──見えてんのか?”
 傲慢で横柄で耳障りなその声に、航は深く頷く。
「ああ……見えてるぜ。このドアの鍵のところが──『銀ピカ(メタリック)』によ」
“OK──”
 さっき、『メタル・グゥルー』は言った。
 「自分の殻に閉じこもったりすることも『世界』と向き合う術の一つで、そこに善悪はない」というような意味のことを。
 おそらく、こいつにとってはこうすることが『世界』との戦い方なんだろう。
 このにべもない方法で、『世界』の一部たる航と懸命に戦っているのだろう。
 それはそれで構わない。ただ、
「それなら、こっちだって容赦はしねーよ……!」
“うけけけけけけけっっ!!”
 脳に響く不協和音を発しながら、『メタル・グゥルー』の振りかぶる腕がドアの隙間へと直進していく。
 明確な言葉には出来ないけれど、航は理解していた。
 自分と少女を隔てるものを、そして隔てないものを。
 根っこのところで、自分と彼女は『似ている』。
 価値観を引っ繰り返すような出来事を連続して目の辺りにしておきながら、「世界は変わってない」と言い放った自分。
 だがそれは、ただ変えようとしなかっただけの話だ。『世界』と向き合うべき──『自分』を。
 そんな自分と彼女の違いは、ただ「外をうろつき回ってるか」「家に閉じこもっているか」でしかない。
 そう、だから──航は理解していた。その違いはすべて、極めて現実的な一点──この『鍵』の有無に集約されていると。
 ゆえに、『理解』した。その『鍵』の意味を、その『限界』を──それが、壊されるべきものであることを。

229 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 17:30:02 ID:0qYRQ74u0
 ぱきぱき、という奇妙な音の後、見計らってゆっくりとドアノブに触れる。
 それをひねると、抵抗なくドアは開かれた。そのまま、航はドアの『向こう側』に足を踏み入れる。
 照明がついていないために薄暗いなか、三和土のところに少女が座り込んでいた。
 まるで信じがたいものでも見るように、航の顔と開かれたドアを見比べている。
 しばらくの間、両者は無言で見つめ合っていたが──、
「……これ」
 航が手を差し出すと、少女は一瞬、怯えるように身を竦ませたが、間もなく差し出されたプリントに気付く。
「確かに渡したからな」
「──え?」
「じゃーな。……あ、鍵壊れてたみたいだから直したほうがいいぞ」
 それだけ告げると、航は「?」って感じで目を丸くしてる少女に背を向けて外に出ていった。


 表に出るなり、『メタル・グゥルー』の大絶叫が響き渡る。
“つまんねえええええ! 鍵壊せっていうから押し込み強盗でもやらかしてくれんのか思ったらプリント渡すだけかよ!!”
「別にいいだろ。それが目的だったんだから。──いや、でも、ものは使いようだな。『スタンド』ってのはこういう使い方もできるわけだ」
 航は秋月貴也に保健室前の廊下で言われたことを思い出す。
 確かに彼の言うとおりだ──『メタル・グゥルー』が世界の滅亡を志向していたとしても、
『本体』である自分がそこから目を逸らしていては、いたずらに『可能性』の幅を狭めるだけであると。
 この不気味な背後霊をよく知り、『理解』することで、もしかしたら誰も思いつかないような『使い道』に辿り着けるのかも知れない。
“てめーなあ……将来、鍵屋にでもなるつもりなのか? 許さねーぞ、俺様は”
「まあいいじゃん」
“だが……マジでプリント渡すだけとはな。話の流れ的に『学校来いよ』とか言うもんじゃねーのか?”
「本人がその気になってないのに無理矢理来させたってしょーがねーだろ。外に出たくなったら自分で来るさ」
“ふん……知ったふうなこと言うじゃねーか。だがまあ、その通りかもな。
『鳥は卵から出るために戦う。卵は世界である。生まれようとするものは世界を破壊しなければならない』──ってな”
「……こんどはなんのネタだ?」
“ネタじゃねーよ。世界を滅ぼすつもりならヘッセくらい知っとけ、間抜け”
「……だから滅ぼすつもりねーってば」
 などと、どうでもいい話をしながら夕暮れ近い帰途につく航だった。

230 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 18:42:00 ID:iDdb4oTu0


 翌日の昼休み──私立ぶどうヶ丘学園の校庭を、航は横切るようにして歩いていた。
 目指すは高等部の校舎──その壁面に張り付いている非常階段を見つけ、そこから屋上目指して登ってゆく。
「いいか、『メタル・グゥルー』……今から、静先輩にお前を会わせるわけだけど、絶対に余計なこと言うなよ」
“『余計なこと』ってのぁ、なんだよ? 『なんでその静とやらだけ下の名前で呼ぶんだ』とかそんなのか?”
「いや、ジョースター先輩じゃ呼びにくいだろ……って、お前、分かってんじゃねーか。そういうのをやめろって言ってんだよ」
“セクハラしてもいいか?”
「ダメに決まってんだろーが!」
 昨日はうやむやのうちに十和子に捕まってしまったが、今日はちゃんと「屋上にいる」という情報を保健の先生から聞いていた。
 先日、小狼を襲撃した『スタンド使い』である『仮面の少年』に対抗するためにも、『スタンド』についての知識を集めなくてはならない。
 その意味では、味方の『スタンド使い』は静・ジョースターその人以外にはいない。
 それに、なんというか……『スタンド』の見える彼女に、自分が『スタンド使い』であることを認めて欲しかった。
 もう、自分は昨日までの自分ではないことを──『メタル・グゥルー』の『本体』であると言える自分を。
 ……それが、どうしても静・ジョースターでければならない理由はどこにもなかったが、
(だって他に『スタンド』見えるやついないし……)

231 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 18:44:40 ID:iDdb4oTu0
 という論理を思いついたことで、その件に関してそれ以上考えるのはやめた。
「変なことしか言えないなら黙ってろよ」
“へいへい。分かりましたよ。ったく、なにを張り切ってるんだか”
 こいつの口約束などなんの保証にもならないことは知っていたが、とにかく同意してくれたとう事実でわずかに安心する。
 そうこうしているうちに、階段を登りきって屋上に辿り着いていた。
 容赦なく日差しの降り注ぐ屋上敷地を見渡し、静・ジョースターの姿を探す──いた。
 航のいる場所とはちょうど正反対の、校舎内から連なる階段を塞ぐ塔屋の屋根に腰掛けているのが見える。
 声を上げて呼ぼうとして──その声は呆気なく萎んでしまう。
 静・ジョースターの隣に、『誰か』がいた。いや、それは『誰か』などという曖昧なものではなく、はっきりと見知った人物だった。
 なぜかこのクソ暑いのに黒尽くめの扮装をしているが(演劇部かなにかなのだろうか)、その顔は見間違えようもなく──
つい昨日、保健室で十和子と一緒にいた上級生──秋月貴也だった。
 二人は友達だったのだろうか、という解釈が航の脳裏に閃くが、そんなのよりも遥かに『それっぽい』解答がすぐさま取って代わる。

232 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 18:46:33 ID:iDdb4oTu0
「秋月先輩の付き合ってる人って……静先輩だったのか……」
 そんなふうな視点から見れば、確かにそうとしか見えない。
 ここからだと内容までは分からないが、時折笑いながら隣の少年へしきりに何かを話しかけている静・ジョースターと、
物静かな佇まいを保ちつつ神妙な顔つきで少女の話に耳を傾ける、黒マントを着込んだ秋月貴也。
 傍目には奇妙であるかも知れないが、そこにはただの友達ではなさそうな睦まじさがあるように、航には思える。
 そして、なんかその空間に割って入るのはとても勇気のいるような気がして──
自分の存在がまだ気付かれていないのを幸いに、航は今登ってきたばかりの階段を、そのままそっと降りて行った。
“なにやってんだ、てめーは。ん? 俺様を紹介するんじゃなかったのか?”
 腹が立つくらいに物凄く嬉しそうな声で、『メタル・グゥルー』は航の顔を覗き込む。
 確かに「なにやってんだろう」と自分でも思う。航が今しがた目にしたもので、こんなにもがっくりくる要素など、どこにもない。
 ──どこにもない、はずだったのだが。
「いや……別になにかを期待してたわけじゃねーんだどよ」
“馬鹿だな、てめーは。同族意識と恋愛感情をごっちゃにするからそんなわけの分からんことになんだよ。
さすが発情期。なんでも恋愛に置換して考えやがる。ホント、恥ずかしいやつだな”
 まったくその通りで、反論のしようがなかった。
 なんか微妙にやるせない気持ちで空を仰ぐ。
 ぽつりと口から漏れる言葉は。
「あー、さっさと世界終わんねーかな……」
 その声に触発されたように、耳障りな金属音が炸裂する。
“うけけけけけけけけけけっっ!!”

233 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 19:22:22 ID:2FyIQbWM0
廃スレで支援してくるわ

234 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 19:24:25 ID:iDdb4oTu0


 ──話は遡る。


 少女は、自宅の二階の角部屋──自室の窓から、『そいつら』が帰っていくのを見つめていた。
 片方の名前は知っていた。南方航。
 そしてもう片方も、さっき知った──『メタル・グゥルー』。
“『鳥は卵から出るために戦う。卵は世界である。生まれようとするものは世界を破壊しなければならない』”
 少女は『スタンド使い』にしか聞こえぬはずのその言葉を引き取って、その先を続ける。
「……『鳥は神へと向かって飛ぶ。神の名は“アブラクサス”という──』」
 ぽつり、とまるで大切な言葉を口にするようにそれを声にする少女だったが、
「────っ!」
 なにかに弾き飛ばされるような勢いで窓から離れた。
「う、うう……」
 ぶるぶると震えながら、少女はベッドの枕元に置かれた携帯電話を手に取る。
 キーを操作し──メモリからある電話番号を呼び出す。
 そこに表示されているのは10ケタの電話番号と、『華氏』と登録された名前欄。
 細い指で発信ボタンを押す──しばしのコール音の後に、回線の接続音。
「もしもし?」

235 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/08(火) 19:26:20 ID:iDdb4oTu0
 回線の向こうから聞こえてくる声に、少女は救助信号をキャッチした遭難者の勢いでまくし立てる。
「ああ──聞いてください、『Mr.ファーレンハイト』! あいつが……あいつが家まで来たんです!」
 切羽詰った口調で叫ぶ少女は、その勢いに引きずられて床に膝を着く。
 その振動で、部屋の壁にハンガーで吊るされている衣服が小さく左右に揺れる。
それは私立ぶどうヶ丘学園中等部指定のセーラー服と──学ラン。
 ややあって、涙声交じりの嗚咽が少女の口から漏れ出る。
「……落ち着きなさい。『誰』が来たって? それに、女言葉を使っているということは……『仮面』はどうしたのかな、『ダーク・フューネラル』」
「壊されました! 壊されたんです! それなのに、今度は家まで来て鍵を壊して行ったんです!!」
 少女は怯える瞳で机の上を見る。
 そこには、ひび割れて欠けた仮面が放置されていた。
「なるほど……『鍵』を壊された、ねえ。──警察に通報することをお勧めするよ」
「そうじゃないんです……! あいつが、私の『スタンド』をつかんだあいつが、家まで来て鍵を壊していったんです!
あいつら、私から『仮面』だけじゃなく『鍵』まで奪うつもりなんです!」
 誰がどう聞いても支離滅裂な話だったが、電話の向こうで息づく声の主は
その破綻した内容に隠された真実の言葉を汲み取っているかのように、規則正しく冷静な息遣いを伝えていた。
「……つまりあなたは、『仮面』と『鍵』を壊されたことが──許せない?」
「はい! そう、そうなんです!」
 振り子人形のように少女は幾度も首を振る。
 電話の主の言うことこそが、自身の全てだとでも言うような切実さで。
「ならば──まずは、失ったものを取り戻すことから始めなさい、『ダーク・フューネラル』。
あなたは『羽』の守護者……『羽』は我々のもの……違うかな?」
「その通りです、『Mr.ファーレンハイト』──!」
「なにも思い悩むことはない……大丈夫……誰にもあなたを止めることなどできない」
 ──その言葉を最後に、回線は切断された。

236 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/01/08(火) 19:30:44 ID:iDdb4oTu0
『世界を滅ぼす千の方法』はここで終わりです。(これ、終わってるのか?って疑問は残りますが)
なかなか静&十和子の話に復帰できないっすね。なにを寄り道してるんだか。

237 :作者の都合により名無しです:2008/01/08(火) 19:32:49 ID:2FyIQbWM0
リアルタイムで読むと感慨もひとしおだ
ハロイさん相変わらず質も量も凄いねえ
『』内の語句は全て覚えておいた方が良いのだろうか

238 :悪魔の歌:2008/01/08(火) 21:44:23 ID:T782lhvv0
幕之内一歩は落ち込んでいた。がっくりと肩を落として、街をとぼとぼ歩いていた。
そんな時、歌が聞こえてきた。若い男性の声。特に聞き入る気はなかったのだが、
『……ん……』
小さくて軽い、まんまるい玉が転がってくるように、その声は自然に自然に耳の中に
流れ込んできた。そしてゆっくりと、一歩の中に染み込んでいく。
優しくて暖かい歌声が、沈んでいた一歩の心を少しずつ浮かび上がらせていった。
『あ……この歌……何だか、気持ちいい……』
悲しみに沈んだ顔でとぼとぼ歩いていた一歩が、和らいだ表情でふらふらと歩き出した。
まるで天使のような、男性だけど女神のような、そんな歌声に向かって。
歌っていたのは、ギターを抱いた青年だった。一歩より少しだけ年上のようだ。服装といい
髪型といい体格といい「どこにでもいるような」というより、むしろ今時珍しいぐらい
洒落っ気のない、地味な外見をしている。
そんな彼を、一歩以外の通行人たちは特に気に留めることもなくスタスタ歩いていく。いや、
むしろ積極的に避けて歩いているようでさえある。
確かに、自作らしいこの青年の歌の歌詞は、普通なら「ヤバくね〜くねくね〜」とか、
「キモっ、レバっ、タン塩っ」とか、そのテの言葉を吐きつけられる類のものというか。古臭くて
ベタ甘過ぎで、何とも言い難い内容ではある。
が、それが逆に、傷ついた一歩の心にはよく合った。一歩自身のセンスも彼に近かったのか、
誰もが見向きも聞き入りもしないその青年の歌に、一歩は完全に吸い込まれていた。
やがて曲が終わり、青年が一礼した。ただ一人真正面に立って聴いてくれた、一歩に向かって。
すると一歩は人目も憚らず、涙を浮かべて力いっぱいの拍手拍手。青年は照れて頭を掻いた。
「どうもありがとう。そんなに喜んで貰ったの、初めてだよ」
「ボクの方こそ! 歌を聴いてこんなに感動したの、生まれて初めてです! あの、ボクは
普段あんまり歌番組とか観ないんですけど、もしかして有名な方なんですか?」
「そんな、とんでもない。そうなりたいなと思って、こうして修行してるんだけどね。道は遠くて」
「そうなんですか。でも、絶対そうなれますよ。今、ボクはあなたの歌で
すごく元気づけられましたから。こんなの本当に初めてです」
などと、あまりにも一歩が絶賛するものだから、褒められ慣れてない青年は嬉し恥ずかしで。

239 :悪魔の歌:2008/01/08(火) 21:45:07 ID:T782lhvv0
「そ、その、えっと……そういえば君、なんだか悲しそうな顔で歩いてたよね。もし良かったら、
僕に話してみない?」
「え」
「もちろん話したくないならいいけど、人に話すことで少しは気が楽になることもあるし」
と言われた一歩は、少し考えて。
「う〜ん……そうか、もしかしたら、あなたみたいな人にこそ聞いて貰うべき話かもしれない、
かも。じゃあ……」
と前置きして語り始めた。

毎度おなじみ鴨川ボクシングジム、の前。一歩はいつものように元気良くやってきたのだが、
「あ。そういえば今日からしばらく、会長も八木さんも篠田さんも、みんな留守にするん
だっけ。ということは、鷹村さんたちが何かロクでもないことをしでかすかもしれない」
一点の迷いもなくスムーズに流れる一歩の思考。前科あり過ぎなので当然のことだが。
「とはいっても、どうせボクに止められるはずはないしな。覚悟だけはしておこう。
腹を括って肝を据えて、多少のことでは動じないように、と。よしっ、いくぞ」
ひとつ深呼吸をして気を落ち着かせてから、一歩は戸を開けてジムに入っ……

♪殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ! 
  殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAI……♪

「おう一歩! 入ってくるなり何やってんだ? もしかしてそれは48のポリ殺しのひとつ、
『大地に眠る精霊をスライディングヘッドバッドで撲殺』か?」
「イヤ鷹村さん、それ肝心のポリが死んでねえっス」
「む、それもそうか。じゃあ何やってんだ一歩」
とか何とか言われながら、一歩は懸命に体を起こした。そうしてる間にも、窓ガラスを
振動で砕きそうな轟音が襲ってくる。耳から脳まで貫かれそうだ。
「な、な、何なんですかこれはっ!」

240 :悪魔の歌:2008/01/08(火) 21:45:59 ID:T782lhvv0
「ん? 知らねえのか? 今大人気のインディーズバンドの曲なんだが」
「そういう意味じゃなくて! みんな何やってんですかっ!?」
「前に木村が教えただろ。フットワークのリズム感を養う為に音楽を聴きながら、」
「だ、だからって、こんなやかましい物騒な曲にしなくても……」
「一歩っ!」
どん、と一歩の両肩に鷹村の手が置かれた。
「お前、今までの試合で手ぇ抜いてたか? 違うだろ。常に全力で戦ってたはずだ」
「? そんなの当然じゃないですか」
「ならば、だ。最強を目指すボクサーたるもの、常に相手をぶっ殺す気で挑むべきだ。
会長だって言ってるだろ、ボクシングはヘタすれば命に関わる危険なスポーツだと。
それが当たり前の世界なんだよ。戦う双方、互いに殺気を纏うことこそが正常、正道」
「そ、そう……かなぁ?」
「それにお前、テレビや映画で海兵隊の訓練とか見たことないか? 『殺せっ! 殺せっ!
殺せっ!』『ガンホー! ガンホー! ガンホー!』ってやつ。生死を賭ける気で真剣に
戦う者を育成するには、そうやって暗示をかけることで気迫を養うのが大切なんだよ」
「う〜……」
なんか違うような気がするのだが、結局一歩は勢いと屁理屈に押されてしまって。
鷹村たちと一緒に、この練習に参加させられていた。
「次、一秒間に十発シャドーいくぞ! しっかり声出してな! 曲はもちろん、アレだ!」
「おら一歩! 声が出てねえぞ声が! 原曲のレベルに達しないのは当然としても、
全力を尽くせ全力を! 練習といえど、試合と同じく気ぃ抜くな!」
「は、はいっ!」
根が素直で努力家な一歩は、先輩たちの叱責に対して素直に反応、それに従った。気を
抜くことなく、全力で頑張った。ひとたびボクシングに打ち込みだしたら真剣そのものが
一歩の取り得、だから一心不乱に拳を振るい、声を出し続けた。
たまたまジムの近くを通りかかった意中の女性が、一歩を応援するつもりで
やってきたとしても、それに気付かないぐらい一生懸命に。
「あの〜、幕之内さ……」
「会ったその場でレイプ! レイプ! レイプ! レイプ! レイプ! 
手っ取り早いぜレイプ! レイプ! レイプ! レイプ! レイプ!」

241 :悪魔の歌:2008/01/08(火) 21:46:23 ID:T782lhvv0
その女性が呆然と自分を見つめていることにも気付かず、曲が変わればその曲調に
合わせてシャドーの相手を変え、いろんなタイプのボクサーとイメージの中で戦っていく。
もともと一歩は頭も悪くないので、真剣に歌ってる内に(やはり好きにはなれないのだが、
それでも)歌詞はすぐ覚えきった。だから淀みなく全力で大声で、気迫に満ちた目で
拳をブン回して、みんな並んでリキ入れて、歌う叫ぶ吠える怒鳴る。
「メス豚どもを売り飛ばせ! 犯し放題オレは魔王! 女は全てオレの奴隷!
やりたいときにオレは殺る! そう犯し放題オレは魔…………っっっっ!?」

「で、気がついた時にはもう、クミさんがとんでもない顔して逃げていくところだったんです」
「そ、そ、それはまた、さ、災難だった、ね」
天使のような女神のような歌声で一歩を励ましてくれた青年が、顔を引きつらせている。
対して一歩は、思い出しように少し微笑んで言った。
「そんな時だったから、救われたんです。あの何とかいうバンドの曲とは天と地、
人の優しさや暖かさが感じられた素敵な歌声に。あなたの……あ、ボクは
幕之内一歩っていうんですけど、あなたは?」
「ぼ、僕の名は……ね……根岸、崇一(そういち)……」
そう、彼の名は根岸崇一。
金色ロングのヅラをかぶり、覇獣の鎧を身に纏い、濃ゆいメイクを施して、
レイプ・ミ〜犯し殺して〜なんて声を浴び、ステージに立つ時の名はクラウザーU世。
大人気インディーズバンド、『デトロイト・メタル・シティ』のギター兼ボーカルである。

242 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/08(火) 21:48:35 ID:T782lhvv0
年末年始の永〜い規制を乗り越えて……明けましておめでとうございますっ!
本年もよろしくお願い致しますというわけで、新年一発目に景気良くゴートゥDMC。
ttp://www.youtube.com/watch?v=McVCfWdj1dc
根岸って、クラウザーさんとしてあれだけ人気あるんですから、発声とか呼吸法とか
音感とか、そういうもののレベルは充分高いはずですよね。異なる分野とはいえ、
中華料理の名人がフランス料理作ると、そこまでまずくなるものなのか? と疑問。
まぁクラウザーさんの人気も根岸の不人気も、歌唱技術とは全く無関係な部分に
よるものが大きい、というのも確かですが。むしろそれがメイン?

>>邪神さん
そうか。ラオウとユリアのことを知った上での再戦……これもまた二次創作ならでは
の、原作では見られぬシチュですな。一応、この戦いはケンと一対一ではないという
ことでシンの面目は保たれてるような。でも次回、改心しつつ相討ちになりそうな。

>>ハロイさん(ほんとに凄いペース……汲めど尽きせぬってやつですな)
・ヴィクティム・レッド
自分がずっと抱いていたものこそが『悲しみ』だと知らなかった、か。「人相は違えど表情
は酷似」やシモン「ズ」など、映像面以外の描写が味わい深いです。文章ならではの面白さ。
・シュガーハート&ヴァニラソウル
確かに、思い通りに使いこなせないなら『能力』ではなく悪霊か猛獣だわな、と思ってたら。
一応、とりあえず、使えましたね。目的も手段もちっぽけですけど。いずれ大きくなる、か?


243 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/08(火) 21:49:16 ID:T782lhvv0
>>サナダムシさん
久しぶりっ、加藤! 相変わらずの試練生活、まず第一に井上を心配してるのに感心。
>ずいぶん普通なのが来たな
そりゃ今までのことを考えたら、そういうセリフも出ますわな。外見と能力がちぐはぐな
二人組ですが、他にも隠し玉が? と思いきや単純真っ向勝負。加藤も気持ち良さそう。

>>サマサさん(おおおおぉぉっ! サナダムシさんに続いて、年明け早々めでたい♪)
>>182を見た時には「待ってましたっ!」って気分の、展開は読めるけどそれこそが嬉しい
痛快王道ストーリーでした。とはいえありがちなガラッパチ筋肉バカ好漢というわけでもなく、
>いや、別にそういうわけじゃなかったが…
アンタ流に真剣に修行させてたんとちゃうんかいっ! と突っ込んだり。楽しかったです。

>>さいさん
・猿の手
なるほど、両方面。やりたい人は「直後、斗貴子が真相を知って……」なんて補完もできて
お得。サイトの猟奇作品といい、映像的スプラッタだけでなく心情的ダークもお見事です。
・WHEN THE MAN COMES AROUND
素で充分強いのに準備を怠らず敵を侮らず。余裕たっぷりなようで用意周到。強敵キャラ
の負けフラグを持ってないラスボス、傷つくヒロイン、瀕死のヒーロー。燃える展開です!


244 :七十六話「目覚める殉星」:2008/01/09(水) 05:39:09 ID:uPZfoGay0
「眼を覚ませ・・・だとぉ?」
屈辱に拳を震わせるシン、折角捨て去った情を取り戻せ?
眼なら覚めている、殺人拳は読んで字の如く『人を殺す為にある』のだ。
そして強さの源は『情愛』ではなく『執念』である。
ケンシロウが『怒り』という相手を絶対に許さない『執念』を持って自分を破ったように。

「舐めるなよケンシロウ・・・刹活孔を突いた今なら、貴様の拳の性質はハッキリする。」
今までは剛と柔の中間、スピードとパワーを併せ持った拳だった。
肉体を強化する刹活孔は、スピード、パワー両方を上昇させる。
だが強化の比率はパワーの方が高い、必然的に剛の拳となる。
一撃必殺の拳を維持しつつ、手数で押す真似は筋肉の負担からできなくなる。
地面に突き刺していた剣を抜き、構える。

「なるほど、手数よりも一撃を・・・そして、俺の知らぬ剣技を身につけたなら剣を選ぶか。」
「そう、刹活孔を身につけても貴様に新しい技など身につきはしない。」
「俺の手の内はバレているが、お前の剣は見切っていない。そう言いたいのか。」
「そうだ、冥府から見ていたぞ、流石にこの世界に来てから腑抜けになってるとは思わなんだがな。」

今度はスピード勝負ではなく、一撃必殺、どちらが先に当てるか。
相手の周囲を回るような消極的な戦法は取らず、正面からジリジリと距離を詰める。
ここで先に動いたのはケンシロウだった、シンから見ればこれは迂闊と言えるだろう。

シンは間合いに入るのを力を溜めて待っていたのだ。
両腕は脱力させ剣が地面につくほど下げているが、下半身には完璧な踏み込みをする条件が整っている。
完璧な踏み込みがあれば、腕に込める力は僅かでも十分に剣を加速させられる。
ケンシロウ側では加速をつけながら踏み込めば確かに威力は剣に劣らない、だが体重のコントロールに難がでる。
達人のケンシロウは一瞬でそれを行えるが、シンもまた達人、その一瞬があれば、
足を一歩前に出して剣を振れば真っ二つに出来る。
圧倒的有利、絶対的勝率、ケンシロウに確実な死を与えることができる。

「貰ったぞ・・・死神の星が墜ちる時が来たのだぁ!」

245 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2008/01/09(水) 05:40:14 ID:uPZfoGay0
ケンシロウの胴体を真っ二つにするべく、剣を横に振った。
しかし、ケンシロウの拳はシンの肉体に向かってはいなかった。
向かうのは、剣・・・しかも刃の部分だった。

「阿呆がぁ!俺の蹴りに耐える業物を、正面から止められる物かぁぁぁ!」
拳を引き裂き鮮血が吹き出す、だが止まらないのは鮮血だけだった。
手首の辺りまで斬り裂いた所で完全に停止する。
熱と爆炎で肉や骨を溶かしつつ切り裂く最強の剣、ソーディアン。
その気になれば、目に映る物全てを灰塵と化すことも可能な究極の剣。
能力を解放したソーディアンの刀身に触れれば肉が蒸発しても可笑しくない。
それを拳一つ犠牲にして完全にストップさせた。

「こ・・・・・こんな筈は・・・!」
唖然とするシン、突然目の前は真っ白になっていた。
何もない真っ白な世界、その世界にケンシロウと二人で立ち尽くしていた。

「何故だ・・・・何故、俺はお前に勝てないんだ?」
二度の敗北、過去の敗北は怒りという執念に負けたのだ。
だが、今回の敗北は違っていた。
蘇り、邪悪な力に手を染め、想い人への愛を捨て去っても倒す執念を手にした。
完全な勝利を掴む為、誇りを捨て去り武器を手に取り闘った。

「俺が死神の星ならば、貴様は愛に殉じる星・・・。『殺人拳』は確かに『殺す為の拳』。
だが『何の為に殺す』のか、『欲求』の為、『守る』為、それは扱う者の意思。
殺す為に作られた物全てが、殺戮の為に存在するのではない・・・力無き人々の希望となることもできる。」

そう、だがシンは他者の為に力を使うことは愚かだと思っていた。
力とは自分の為にあるもの、何者にも縛られたくなかった。

「そう、使い道は自由だ。俺も望まれたのではなく、自らの意思で北斗の定めに従ってきた。
だが、生まれ持った星・・・お前は魂の、生き様の本質である『愛』を封じた。
魂を持たぬ拳、それで本当の力など出せる筈がない。」

246 :七十六話「目覚める殉星」:2008/01/09(水) 05:41:17 ID:uPZfoGay0
眼が覚めた、青空を見つめながら地面にひれ伏していた。
眠ってしまった、無様な事に勝負の最中に夢へ落ちてしまった。
頬がピリピリする、口の中がズタズタだ。
だが・・・気持ち良かった。

「それで負けたのか・・・俺は。」

もう体中に沸き立つ力は感じなかった。
だが、涼やかな風が体を取り巻くのを肌で感じ取れた。
常に暗黒が体を覆っていたので、まるで気付かなかった。
この世界は自分達の核で汚れた世界とは違う、ユリアがサザンクロスを拒む訳だ。
美しい町並み、廃屋の傍らに花が当然のように咲き誇る、そんな世界こそ彼女の理想。

「確かに俺にケンの様な生き方は出来ん・・・だが見ていてくれ。
お前が欲しい物はなんでもくれてやる、という言葉に嘘はない。」
空を見上げながら、誰の耳にも聞こえない程に小さく呟く。
気付けば、修業時代の様に愛称で呼んでいた。

先程シンに拳を叩きこんだ場所で、倒れ込んでいるケンシロウ。
立ち上がるべく左拳を支えに体を起き上がらせている。
右の拳は、中指と薬指の間を通って手首の辺りまで裂けている。

左拳へ、全ての力を注ぐ。
ケンシロウの目前へと迫り、立ち上がるのを待つ。
お互いが全身全霊の一撃を繰り出せる状況を作り出す。
立ち尽くすシンの左拳の周辺が、闘気で歪んでいくのを見て意図に気づいた。
「シン・・・?」
「お前に言葉はいらん筈だ。」

立ち上がるケンシロウ、闘気は薄れ、肩で息をつき、弱り果てていた。
先程のシンの戦いぶりを見れば、誰が見てもケンシロウに勝つ見込みは無いと思うだろう。
しかし違っていた、シンの目に映るケンシロウは山のように大きく目の前に立ち塞がっていた。

247 :七十五話「愛に殉じた漢を救え!」:2008/01/09(水) 05:42:33 ID:uPZfoGay0
ラオウの様に圧倒的な闘気がそうさせるのではない、恐怖が感覚を支配するのではない。
不確かで不安定だが何よりも温かで輝ける何か、それが『越えられない』ことを認識させる。
『見せられる』のではなく『見えてしまう』、『認めざるを得ない』のではなく『認めてしまう』。
自分がケンシロウの生き方を否定した理由は、ここにあるのかもしれない。

闘いに優しさや愛を持ち込む、生ぬるい考えを未だに納得はしていない。
しかしその甘さが実際に拳王を打ち破り、最後はラオウも愛を拳に纏って果てた。
ならば、今のケンシロウに最も必要なのはその甘さなのかもしれない。
言葉は無用、拳を撃ち合わせて迷う暇も無くしてみせる。

両者構えを取る、雑念を振り払ったケンシロウの闘気は完全にシンを圧倒していた。
凄まじい威圧感を感じ取るシン、だが闘気から伝わるケンシロウの心を見てそれを振り払う。
悲しみ、闘うことの虚しさ、人々の希望になれない己の弱さへの絶望。
圧倒的なオーラが生み出すプレッシャーも、ケンシロウの心の内を見てしまえば空虚な物に思えた。
今、生み出されている威圧感は元々持ち合わせているオーラを一時的にコントロール出来ているだけである。
自分より強大な敵と立ち向かう為の物ではない、最も本来の力を取り戻しただけでも驚異ではあるが。

激戦に身を置き鍛え抜かれた肉体は相手がラオウであっても、体格を除けば互角に渡り合えるであろう。
しかし、今のままでは南斗六聖の面々を倒すことすら難しい。
『愛』を交えた慈しむ心から来る『哀しみ』なくしては、超えることは出来ない。
言葉が意味をなさない戦いの中に身を捧げた彼には、それを伝えることができる言葉は持ち合わせていない。
そして取った道は一つ、拳を通して伝えるのみ。

技術や奥義は不要、必要なのはたった一撃、愛を取り戻す為の拳一つ。
南斗聖拳に属する拳法では、手刀を主体に闘う。
だが、シンの拳は力強く握りしめられていた。
お互いが、勝つ為ではなく相手の為の拳を打ち込もうとしていた。
ケンシロウの拳に愛を纏わせる為、そのシンの想いに答える為。
戦いの中で見つめあう二人の顔にほんの一瞬だけ頬笑みが見えた刹那、二つの拳が激突した。

248 :邪神?:2008/01/09(水) 05:46:08 ID:uPZfoGay0
自分でも原因が分からないが色々と遅くなった。邪神です。(0w0)ナマケテタンジャナイヨ・・・キット
全財産1000円で一週間を乗り切らなければならない状態に陥りました。
親が仕送りでくれたインスタントラーメン軍のおかげで持ちそうですけど…いわずもがな健康面が…。
それはそうとタイトルが無茶苦茶なのはスルーしてくださいね。

>>ふら〜り氏 >>でも次回、改心しつつ相討ちになりそうな。
       見破られましたね、さすがに展開がベタすぎたか。(;0w0)
       駄菓子菓子!相打ちかどうかはまだ決まっていないでござる!

>>134氏 正月の到来と共に少しづつバキスレに調子が戻って来てるような…。
     でも相変わらず目新しい書き手が居ない辺り、新規でここに来る人ってやっぱり少ないのね(;0w0)

>>135氏 束の間の無敵ングでした…申し訳ない。
     でも信じればきっと挽回してくれる。

〜よく考えたら人物紹介とか忘れてると思ったので遅れながらも…〜

シン 北斗の拳、初代ライバルキャラ。
   南斗聖拳百八派の中でも最高位である、南斗六聖『殉星』に位置する男。
   使う拳法はちょっと前の講座で出た、南斗弧鷲拳。
   登場初期はド悪党だったが死に際の飛び降り、何故か生きてたユリアの保護で善人っぽくなる。
   ジャギの誘惑にあっさり乗ったのは、ジャギが巧妙だったのか、案外心は弱かったのか。
   余談だが劇場版ではラオウに殺害されている。

249 :作者の都合により名無しです:2008/01/09(水) 08:59:56 ID:SDBAbfVv0
ふらーりさんアク禁解けたのか。新作お疲れ様です

>ハロイさん
このシリーズは色々と後の話の「鍵」となる部分が多いですな。
それゆえにハロイ氏も念入りに書かれたと思います。
説明臭くなりそうな所を、会話の妙で昇華させているのは流石。

>ふらーりさん
ふらーりさんの作品で「レイプ」なんて語句が出るとは思わなかったw
今までの作品とは違う、ちょっとメタルな感じな作品ですね。
鴨川ジムの面々がどう活躍するか楽しみです。

>邪神さん
あれ?シンって殉星だったかw勘違いしてた。
ケンとの死闘もいよいよおわりましたね。シンも最後に改心したかな?
ラオウもそのうち出そうなので楽しみにしてます。

250 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 19:55:20 ID:6q5M/KY60
『金剛石をめぐる論議 @』


 静・ジョースターが合成人間ユージンこと天色優と出会い、彼を縁として『異世界人』たる黒鋼、ファイと関わりを持つことになったその一方で、
遠野十和子もまた合成人間ラウンダバウトこと奈良崎克巳と出会い、同じく『異世界人』の小狼、サクラと個人的な関わりを結ぶに至った。
 だが、その奇妙な符合に彩られたそれぞれの邂逅は、いまだ何をも意味していない。
 水面下でゆっくりと運命の二重の輪が運動を開始していたとしても、表層上にその徴は浮かび上がっていなかった。
 彼女たちが出会ったこの街は、彼女たちのその出会いに対し、なにも求めていない。
いずれ世界が彼女たちを必要とするとしても、それはまだ先の話──どれだけ奇妙で不気味な馴れ初めだったとしても、
総括しまうと「友達が増えました」という当たり障りのない表現に落ち着いてしまうだろう。
 つまるところ──杜王町は平和だった。


 実際、この街は平和だと静は思う。
 特に初夏の日曜日、ホームステイ先のいわゆる『第二の我が家』という家屋のなかに与えられた一室で、
ホストファミリーの広瀬夫人の焼いてくれたケーキをフォークで切り分けて口に運びながら寝そべって雑誌を眺めているときなど、
これ以上に平和な時代はもうないんじゃないのか、この時代に生まれて良かったなあなどとしみじみと実感する。
「平和なのはいいんだけどね」
 と、十和子は自分の分のケーキを皿からひょいと手で持ち上げながら言った。
「こんないい天気の日に部屋に閉じこもってたってしょーがないでしょ」
 んあ、と大きく口を開け、たったの二口で完食。
 んぐ、んぐ、んぐ。けっこう惚れ惚れするほどのスピードで咀嚼し、嚥下する。
「平和を満喫しに行こうぜ。外に」
「でも、なんか今日は由花子さんが家にいなさいって……」
「なんでよ? なんかの用事? だったらあたしがいたら邪魔じゃねーの?」

251 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 19:59:02 ID:6q5M/KY60
「んー、よく分からない」
「なんだそれ」
 十和子を上目遣いに見ながら、控え目に弁明する。
「だって本当によく分かんなかったんだもん。なんて言うか……由花子さんも、康一さんも、『わたしが家にいなきゃいけない』
ことは分かってるけど、『十和子がそこにいてもいいのか』ってことについては、どちらとも言えない、って感じだった」
 まるで説明になっていないような静の説明だったが、十和子はそこに『なにか』を感じたように眉をひそめさせた。
「……なんか、匂うわね」
「それって、『カスタード・パイ』?」
 『カスタード・パイ』──それが、静が聞かされた十和子の『能力』だった。
 それは『魂の匂いを嗅ぐ能力』という、話に聞いただけじゃ今ひとつ全貌がつかめないもので、
具体的にどういう感覚や現象を伴って発現するのか、静は知らない。
 だからこそ今のような問いも出てくるのだが、十和子は手を振ってそれを打ち消した。
「違うわよ。今のはただの乙女の閃き」
「でも、じゃあ──なにが匂うの?」
「……そうね、多分……『待ち人』、かな。あんたに会わせたいと思ってるやつがいるんじゃないかしら。
しかも、『来るか来ないかはっきりしない』或いは『何度も伸ばし伸ばしになっている』とかいう類の」
「なんでそう思うの?」
「ふむ。いい質問ね、ワトソン君」
 いたずらっぽく微笑みながら、十和子は人差し指を立てる。
 てっきり先の発言についての説明を披露するのだと思っていたが──十和子はつい、と指を振って静の口元のクリームをすくい取り、
 ペロリ。
「ただの思いつきになんでもクソもないでしょう」
「……真面目に聞いて損したよ」
 ちょっと呆れて溜め息をつく静へ十和子はひょいと肩をすくめてみせ、
「だったら自分で確かめてくればいいでしょーが。あんたもそのことが気になってるんでしょう?
でも、この家の人に遠慮して面と向かって訊けないでいる。違う? ──あ、今のは『カスタード・パイ』ね」

252 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 20:03:20 ID:6q5M/KY60
 その澄ましたようなというような口ぶりが少し悔しくて、静は口を尖らせた。
「……なんでもお見通しなのね」
「いやいや、あんたが思ってるほど万能じゃないわ。『カスタード・パイ』に出来ることなんて、ほんの些細なもんよ」
 十和子の口調は謙遜などとはかけ離れていて、本当にそう思っているのだということを静に感じさせる。
 『魂の匂いを嗅ぐ能力』──それはきっと、とんでもなく物凄い『能力』──静自身の『アクトン・ベイビー』なんかとは
ケタ違いの『能力』であるはずなのに、十和子自身にはそれに依存しているような態度が全くない。
 ちょっとした手品のタネを持っている程度の、本当にどうでもいいことのような口ぶりで自分の『能力』を語っている。
 『カスタード・パイ』なんて、遠野十和子という少女にとっては大した『能力』ではないのだろう──、
彼女の精神には他にもっと『信じるべきもの』が確実に根ざしていて、『それ』はほんのささやかな『香りづけ』程度のものなのだろう。
 そう思うと、十和子の強さがちょっと羨ましかった。
「それにしても、今のケーキは美味かったわ。あたしも色んな店のケーキ食べてきたけど、ここまでのものはなかなかねーわよ」
「あ、うん。由花子さん、料理の腕はセミプロ級なの。それ言ってあげたら、喜ぶんじゃないかな」
「さっきトイレに行ったとき挨拶したわ。鬼のような美人とはあのことね」
「でも、怒ると怖いのよ。『怒髪天を突く』って言葉は由花子さんのためにあるようなものだから」
「ふーん……あの人も『スタンド使い』?」
「そうだよ。あと、ダンナ様の康一さんも」
「夫婦揃ってかよ──」
「高校の頃からお付き合いしていて、大恋愛の末にゴールインなんだって……羨ましいよね」
「──あんたはどーなの?」
「どうって……?」
「ニューヨークに残してきたオトコはいないのかって訊いてんのさ」
 話の矛先が急に自分に向かってきたことで、静はついうろたえる。
「い、いないよ、そんなの」
 できるだけ平静を装って答えたつもりが、つい口ごもり気味になってしまった。

253 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 20:07:17 ID:6q5M/KY60
「へーえ……」
 なにか微妙そうな顔をして静の顔を眺めていた十和子だったが、
「じゃあ、さあ──」
 なにを思いついたのか意地の悪そうなにやにや笑いを浮かべる。
「今は?」
「い、今? ──いま?」
「そーだよ、今。人間、いつだって大事なのは『今』よ。そうでしょう? ズバリ訊くけどさ──どっちよ?」
「ど、どっちって?」
「とぼけんじゃねーわよ。ネタは上がってんのよ。最近、秋月とやたら仲が良いみたいじゃない。
あと、奈良崎の『元同僚』だとかいうあいつ……」
 いきなり身近で具体的な名前を突きつけられ、みっともないくらいに慌てふためく静。
 顔を真っ赤にしながら、必要以上に勢い込んで反論する。
「ゆ、優くんとはそんなんじゃないよ! それに秋月くんとも──そ、それに、そんなこと言うなら十和子だってそうじゃない!」
「はあ? あたしが? 誰と?」
「だから、奈良崎くんと──」
 静のなかでは、それはもうこの上ないくらいに見事な切り返しであったはずなのだが、
「ばーか」
 なぜか、十和子は静の思惑とは正反対に醒めた視線を送る。
「ば、馬鹿じゃないもん」
「あのね、静。今から大事なこと言うからよく聞きなさいよ──奈良崎ちゃんはね、女の子なの」
「あ、なんだそうだったの──」
 そうか女の子だったのか、と頷きながら紅茶を口に含んで──その言葉の意味をやっと認め──凍った。
 ごくっ、と喉が鳴る。
「──嘘ぉ!?」
「なんであたしがこんな馬鹿な嘘つかなきゃいけねーのよ」

254 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 20:17:15 ID:6q5M/KY60
「え、いや、だって」
 静はどうにかして、自分の中の常識──『学ランを着た女の子などいない』というジェンダー論を相手に伝えようとするが、普段からそういうことを考えていない悲しさ、
思いは言葉にならずただ無為にわたわたと手が動き、変な踊りを披露することしか出来なかった。
 そんな静の挙動不審に決着をつける、十和子のどこか達観したような意見。
「人間、見た目じゃないっていう好例ね」
「うそぉ……世の中って想像以上だ……」
 呆然とつぶやく静の前で、十和子はやはり平然とした面持ちでティーカップを持ち上げる。
 そうして、初夏の日曜日の午後は過ぎてゆくのだった。


 その日も夕方に近づき、「晩御飯も十和子と一緒でいいか」ということを広瀬夫人に尋ねるために部屋を出てリビングに向かう静は──、
「はあ!? 今さらなに言ってるの!」
 という広瀬夫人の怒声を耳にした。
 リビング手前の廊下でびくっと硬直した静は、夫人──由花子の更なる怒鳴り声をも聞いてしまう。
「──仕事!? アンタねえ、その言い訳何度目よ! 仕事と家族とどっちが大事なの!?」
 恐る恐るリビングに首だけ差し込む静は、電話機相手に怒り狂う由花子の姿を目にする。
 こめかみをひくひくいわせ、電話機を壊さんばかりに握り締める彼女の横顔は、素が美人なだけ余計に壮絶だった。
 もしかして、これは夫婦喧嘩なのだろうか。
 だとしたら、二人のプライバシーを立ち聞きするのは良くないことだ。
 そう判断した静は、由花子に気づかれぬようそっと回れ右をし、その場から立ち去ろうと──、
「──静ちゃんに会わないつもりなの!?」
 足が止まった。
 胸の中の心臓が、どくんと弾む。
 電話の相手は、由花子の夫君である康一氏ではありえなかった。なぜなら、氏とは毎日会っており、
つい今朝も休日出勤する彼を由花子とともに見送ったのだから。

255 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2008/01/09(水) 20:19:14 ID:6q5M/KY60
「──アンタって昔からそう! 向こう見ずの馬鹿の癖にどうでもいいところでは変にヘタレでさ!
康一さんから聞いてるわよ、ジョースターさんに会ったときもグダグダ抜かして尻込みしてたって!」
 動悸が早まる。
 由花子はなにを言っている? ──『誰』と話している?
「ぐだぐだ言ってねーでさっさと来いよ、このトンマ! ──ちょっと!? 切るな! もしもし!?」
 数拍の間の後、由花子は美貌に似合わぬ口汚い罵声とともに受話器を本体に叩きつける。
 「ああ、もう!」と誰に向けるでもない苛立ちを溜め息ともに吐き──、
「…………っ!」
 いつの間にか、背後に静が立っていたことを知る。
「し、静ちゃん──!」
「……今の、誰ですか」
 胸の中で鳴り響くビートとは真逆に、その声は静自身が驚くほど静謐だった。
 ただ、確信があった。
 それが何かは知るべくもないが、なにかのひとつの歯車が噛み合おうとしているという──実感が。
「静ちゃん──『聞いていない』?」
 なにを、とは問い返さなかった。
 そう訊かれてなにか思い当たるくらいなら、もっと前の時点でそのことを思い起こしているはずで、
また由花子の質問もそれを見越した上のものだと分かったから。
 だから、静は簡潔に答える。
「いいえ。なにも」
「そう──」
 続く言葉を濁らせる由花子だったが、やがて言い繕うための思案を放棄し、ひとつ深呼吸して静に向き直る。
「静ちゃん……実はね、あなたには『お兄さん』がいるの」
 静は『自分が何者か』を知るためにこの街に来た。
 そして今、その答の欠片を成す一つのピースが──拍子抜けするくらいに呆気ない前兆を経て、静の前に差し出されていた。
「彼の名前は『東方仗助』──あなたの養父であるジョセフ・ジョースターさんの実子よ」

256 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/01/09(水) 20:22:37 ID:6q5M/KY60
原作キャラの『成長した姿』って書くの難しいですね。まあ三つ子の魂百までと言うし、そこら辺は原作準拠でいいのでしょうか。

257 :作者の都合により名無しです:2008/01/09(水) 21:06:42 ID:QwMQGOJ30
ハロイさんもう新シリーズ突入か!1週間くらい開くと思った。嬉しい。
原作準拠でもオリジナルでも面白ければOKだと思います。


ふらーりさん、いつものほのぼの作品から新境地開拓ですか?
色々とチャレンジされているようで感心します。


邪神さん、男の死ぬ時というのは見せ場ですな。
まさかケンが死ぬ訳はないですからシンの晴れ舞台期待してます。

258 :作者の都合により名無しです:2008/01/10(木) 08:25:29 ID:SvUTNGhE0
静と十和子のコンビは同い年とは思えんw
しかしいよいよ杖助登場か。
原作で主役張ったジョジョだから一筋縄ではいかない人物でしょうね。

259 :作者の都合により名無しです:2008/01/10(木) 11:29:18 ID:HkcCgm1x0
>ふら〜りさん
新作お疲れ様です。ふら〜りさんの作品でレイプとかはちょっと衝撃w
>邪神さん
最後の一撃ですか。ケンはこのままメインキャラになるんだろうな〜
>ハロイさん
原作キャラが成長してるのってすっごい興味ある。ジョウスケはヤンキーのまま?

260 :作者の都合により名無しです:2008/01/10(木) 13:16:56 ID:RV2VLax90
億康も出してほしいな
あの天然馬鹿ぶりは十和子にいじられやすそうだ

261 :やさぐれ獅子 〜二十二日目〜:2008/01/10(木) 23:54:22 ID:u7qM+mvI0
 昼飯の最中に来客があった。
 口の中に入れたばかりの果肉を吐き捨て、向き直る加藤。
「変なタイミングで来やがって……さっさと終わらせてやる」
「安心しな。嫌でも短期決戦にならァ」
「……なに?」
 来客は明るい金髪にラフな格好をした未成年らしき少年だった。指には輪が、首には鎖
が、口にはガムが当たり前のように装備されている。
「勝負は必ず十発で決まる。今日はそういうルールだ」
「十発?」
「アンタ、テレビゲームとかやる? ……やりそうもねェな。あれってライフがゼロにな
れば、トドメがなんであろうと死ぬわけよ。今回の試練もあれに近い。最後の攻撃が何で
あろうと、決められたライフが全部なくなったら死ぬ」
「おい、ゲームとかじゃ全然分からねぇよ。もっとストレートに話せや」
「オーケー、オーケー。いいか、今日は先に十発もらった方が“死ぬ”」
「……死ぬ?」
「ただし武器使用はなしだ。あくま徒手による攻撃でなけりゃカウントされねぇ。あとは、
ある程度の水準をクリアした威力でないとダメ。軽い平手打ちみたいなのはこれまたノー
カウントだ」
「……おいちょっと待てよ」
 ルールは把握したが、基準が余りにも曖昧すぎる。まして突然十発で死ぬといわれても
納得できるわけがない。──が。
 少年の口からガムが発射された。加藤の右目めがけて。
「くっ!」とっさに右手でかばうが、その隙を突かれボディに一撃入れられていた。「ぐ
おっ!」
 痛いには痛いが、大した打撃ではない。昨日の老人とは比較にならない弱さだ。
「へへへ、“これくらいなら何十発でも耐えられる”ってツラだな。だがな、アンタあと
九発で死ぬんだぜ?」
 少年は楽しんでいた。玩具を与えられた少年の無邪気さと、獲物を目の当たりにした狩
人の高揚感。この二つを内包した笑みを浮かべていた。

262 :やさぐれ獅子 〜二十二日目〜:2008/01/10(木) 23:57:18 ID:u7qM+mvI0
 ──あと九発喰らったら死ぬ。たとえそれがどんな攻撃であろうとも。
「信じられねぇ」唐突に設定された訳の分からないルール。あと九発で死ぬといわれても
受け入れられるわけがない。しかし、加藤にはもう分かっていた。「だが、死ぬんだろう
な。きっと」
 いい加減に認めねばならない。武神によって連れてこられたこの世界では何が起こって
もおかしくないという、あまりに非現実な現実を。どんなに荒唐無稽な事象でも全て受け
切り、粉砕しなければ元の世界には戻れない。
「てめぇは残り十発、俺は九ってことだな? ──やってやるぜ、小僧ッ!」
 気迫を発散させ、加藤が吼えた。
 いきなりの上段蹴り。クリーンヒットすれば卒倒必至の大技だが、少年はこれをくぐり
抜け、左右のワンツーを無難にヒットさせる。
「セイッ!」
 返しのフックはバックスウェーでかわされ、またもボディに拳がめり込んだ。
 加藤の被弾数はこれで四発。あと六発受ければ、どんなに体力があり余っていても強制
的な死が訪れる。
 軽くフットワークを踏みながら、少年は計算を進めていた。
(どいつもこいつも最初は一気に決めちまおうと、牛みたいな特攻に出る。雑な攻撃は命
取りとも知らずにな。こいつも同じだ。面白いほどセオリー通りに動いてくれる)
 加藤を見据える。
(だが威勢がいいのは最初だけ。残りライフが半ばになると、打って変わって慎重になる。
回避だけを考え、逃げ腰になる。──そして)
 ──死ぬ。
 攻めにも守りにも徹しきれぬ半端な性根が、致命的な隙を作るためだ。
(さァ、早く怯えろ。そろそろ後悔し始めただろう。開始一分で四発も喰らってしまった
己の浅はかさを!)
 予想に反し、迷いのないまっすぐな打撃が飛び込んできた。
 人中狙いの一本拳。これを手の甲で弾き、すかさず裏拳を顎にぶつける。それでも加藤
は止まらない。
「この……ッ!」到底ルールを理解しているとは思えない加藤の猛攻に、少年は怒りの右
ストレートを放った。「少しは学べッ!」

263 :やさぐれ獅子 〜二十二日目〜:2008/01/10(木) 23:59:34 ID:u7qM+mvI0
 ぐしゃっ。
 拳が潰れた。
 渾身の打拳を、加藤は額で受け止めていた。
「うおお……ッ! 指がッ!」
「よう、今のはどっちにカウントされんだ? どっちにもだとしたら、これで俺は残り四
発、てめぇは九発だな」
 少年は耳を貸さず、すかさず距離を取り痛めた拳を確認する。
(危ねぇ……折れてはいない。それにしてもこいつ──)
「どうしたよ。まだまだてめぇのが優勢だってのに、ずいぶん顔色が悪いじゃねぇか」
「ナメるな!」
 打ち合いが再開される。
 互いに三発ずつもらう。実力は五分だが、このルールでは──。
「はぁ……はぁ……。だがアンタ、とうとう残り一発になっちまったなァ。崖っぷちに立
たされた今の心境はどうだい?」
「別にどうもしねぇさ」
「……ふん。死を恐れないその姿勢は立派なもんだ。今までの奴らは大抵及び腰になった
り、俺に背を向けたところにトドメを喰らって死んでいった。ひどい奴になると命乞いま
でしやがった。ありゃ惨めを通り越して滑稽だったな」
 少年は加藤を指差す。
「だがよ、アンタはそいつら以下だよ。武とは生き延びてナンボだ。死にたくねぇから創
意工夫し、武術は発展してきたんだ。アンタ、武道家としては下の下だ。武神のおっしゃ
った通り、武の為にもここで処刑されるべき人種だ」
 最後の一撃を加えんと、ここにきてようやく少年が武神直属のエリートとしての表情を
見せる。
「加藤清澄。武神の名に懸けて貴様を処刑する」
 明らかに気配を変えた敵に対しても、加藤は怯む様子を見せない。
「おまえ、空手に伝わる迷信を知ってるか?」
「なんだ? 今さら口八丁でやり過ごそうってハラか?」
「そうじゃねぇ。これからこのゲームでの必勝法を教えてやろうってんだ」

264 :やさぐれ獅子 〜二十二日目〜:2008/01/11(金) 00:00:31 ID:my1Rt9oy0
 必勝法という単語に気を取られつつも、少年はやや前傾気味に構える。最短最速の一撃
にて、このゲームに終止符を打つために。
 砂を舞い上げるスタートダッシュ。百メートル十秒を切る速度で試練が迫る。
「空手に伝わる迷信。それは」加藤が全殺気を開放した。「一撃必殺」
 一瞬、少年は目を疑った。
 加藤を中心に、闇が渦巻いている。おぞましい引力を率いた暗黒の大渦(ブラックホー
ル)が少年を招いている。
(な、なんだ……ッ この不安──悪寒はッ!)
 しかし止まらない。驚異的な初速を生み出した両足は疾走を止めない。大渦に吸い寄せ
られるように止まってくれない。
 いつの間にか加藤は渦の中心から消えていた。代わりに立っていたのは、
「──オワッ!」
 魔獣。

 胸を貫く禍々しい衝撃。
 しばらく地面と平行に飛んだ後、少年は背中から不時着した。
「ガハァッ! こ、れが必勝法、“一撃必殺”か……」
「おうよ。ルールを聞いた瞬間に分かったぜ。このゲームは避けて当てるのが上手い奴が
勝つんじゃねぇ、十発当てる前に敵を行動不能にできる一撃を持つ奴が勝つってな」
「初めか、ら、狙ってた……ってわけ、か。どうりで、ビビら……なかった、わけだ」
 正拳たった一発が決着を導いた。
 残り五発を叩き込みゲームを終わらせるため、加藤は下段突きの体勢に入る。
 再び一人となった海岸にて、加藤は深く息を吐いた。
「……今日も死なずに済んだな」

265 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/01/11(金) 00:05:07 ID:u7qM+mvI0
>>191より。
二十二日目終了です。
応援ありがとうございます。

>>222
>「格下女子との組手でその手のコトに目覚める・・・少年部には珍しいことじゃねぇ」
何でか分かりませんがここが凄い好きです。

266 :作者の都合により名無しです:2008/01/11(金) 08:31:35 ID:UG1TMZsd0
お疲れ様ですサナダムシさん。
直属の部下はあと何人くらいいるんだろう?
なんにせよあと8日間かな?
井上さんの活躍を期待しております。

267 :作者の都合により名無しです:2008/01/11(金) 13:36:43 ID:sKCka8G40
加藤が一撃必殺の境地にたどり着く?
菩薩拳もそのうち習得しそうな勢い

268 :作者の都合により名無しです:2008/01/11(金) 15:43:31 ID:1tghLf3g0
お疲れ様ですサナダさん
少年?に対しても遠慮しない加藤はまさにデンジャラスライオン。
ルールの斜め上を行く成長振りですね。
一瞬、魔獣そのものになったのかと思ったw

269 :作者の都合により名無しです:2008/01/11(金) 17:37:55 ID:+5lJGGlm0
ピクルっぽいのも出して欲しい
出来れば新しけい荘で

270 :作者の都合により名無しです:2008/01/12(土) 10:14:24 ID:VgNNk5RR0
2月になったら俺も書き出す!

271 :作者の都合により名無しです:2008/01/13(日) 04:29:32 ID:pUGSFWS30
頑張って下さい。誰か知らんけど

272 :作者の都合により名無しです:2008/01/14(月) 14:22:01 ID:9tAWIWpg0
今週末はこないかね

273 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:22:56 ID:kV+4cMv80
第一話 >3より



2

ごうごうと風が鳴る。
宿の外ではとても強い風が吹いていた。
それは宿のあちこちを軋らせ、窓やふすまを鳴らしほんの少しの不安をヤコに抱かせた。

小ぢんまりとした宿だった。
小さく宿泊料も安いながらそこそこの料理を出すということでわりと人気の宿である。
宿泊者はヤコ達のほかには中村という若者と安藤というおじさん、そして薬売りだ。
欠点といえば多少年季の入りすぎた建物かもしれないが、
食事が旅の大半の目的であるヤコにとっては大した問題ではない。
今、宿の広間で膳を前にし、桂木弥子は至福の時を過ごしていた。
「叶絵、美味しいよこれ!」
「それより涎垂らしてあたしのご飯狙うのやめてくれる?」
「やっぱり宿はお食事で選んでよかったよね!」
「それよりあたしとあんたのお膳すり替えるの止めてくれる?」
はあ、と籠原叶絵がため息をつく。食い物を目前にしたヤコに叶絵の話が通じることはあまりない。
「そうだよね、美味しいもの目の前にするとため息が出るよね!」
「あんたにため息ついてるんだけどね。あとあんたはいつもため息より涎が出てるでしょ」
「そうだよね、美味しいもの目の前にすると涎出るよね!」
「あんたあたしの話あんまり聞いてないでしょ」




274 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:25:34 ID:kV+4cMv80

「ははは、お姉ちゃんら面白いなぁ」
ふと気がつけば周りの注目を浴びていたらしい。
給仕をしてくれている宿の主人と女将にも笑われていたようだ。
「すみません、この子美味しいものに目が無くって……」
2人の正面に座っていた安藤というおじさんに笑われ、叶絵は身を縮めてヤコを小突いてきた。
「ちょっと、薬売りさんにまで笑われてるでしょ!?こっちの印象悪くなったらどうするのよ」
叶絵にとっては普通のおじさんに笑われたことより変な格好のイケメンに笑われたことが一大事のようだ。
ヤコが叶絵に言われて薬売りと名乗った妙な男を見ると、
確かに静かに目をこちらにやりつつ口元を歪めていた。
「でもさあ、あの人変だって叶絵。つづらみたいなのと剣みたいなの、お食事にまで持ってきてるし」
「大事なものなのよきっと。貴重品は部屋に置いとかないでしょ。財布と一緒よ財布と」
「さっきだってここにモノノケが出るとか言ってたでしょ。モノノケって妖怪みたいなものでしょ?変だよやっぱり」
「変な病気が流行るかもってことじゃないの?だから薬の入ったつづらは手放さないとか。仕事熱心なのよきっと」
2人がひそひそ言っているのを知ってか知らずか、安藤は姿勢良く座している薬売りにも目を向ける。
「まあ、兄ちゃんも相当面白いけどなあ。その格好は大道芸かなんかかい」



275 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:26:29 ID:kV+4cMv80
「いいえ、ただの―――」
「薬売りさんです、よね!」
叶絵が割り込んで応える。なにがなんでも薬売りと会話したいらしい。
「へえ、今時居るんだなあそんなの」
安藤は首をかしげる。ネウロと知り合って以来色々なものを見てきたヤコもこんな薬売りなんて見たことが無い。
「俺さあ、アンタの剣みたいなのが気になってたんだけど、それ本物?」
それまで食事に集中していた中村という青年も口を挟む。
宿の主人夫妻も興味が有るようだし、結局皆この妙な薬売りを気にしているのだ。
「本物、ですよ。人は―――斬れませんが、ね」
「なんだそりゃあ?結局なんにも斬れないってことかぁ?」
「斬れますよ」
「何が」
「物の怪、ですよ」
ごう。
……外の風が、強さを増した。窓もふすまもガタガタと鳴っている。



276 :作者の都合により名無しです:2008/01/14(月) 22:43:31 ID:BqsAlXTFO
二話めの途中ですみませんが何故かパソコンから投稿できなくなりましたorz
もう少し時間置いて改めて投稿します。
すみません。
あと多重投稿になっているかもです。
重ねてすみません・・・

277 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:47:43 ID:kV+4cMv80
「も、もののけかあ……」
中村は聞いてはいけないものを聞いてしまったような顔をする。
きっと、ヤコと違って今まで魔人とか電人とか超人とかに関わりの無い人生を送ってきたのだろう。
ヤコはそういう「非日常」が確かに存在することを知っている。あまり関わりたくは無いのだけれど。
「ははは、んじゃあ兄ちゃんはその剣でもののけとやらをバタバタ斬るわけか。格好いいなあそりゃあ。
 名前とかあんのかい。折角だから抜いて見せてくれんか」
安藤は冗談だと捉えたようだ。笑いながら薬売りに言う。
「抜けませんよ、この退魔の剣は。今のままでは、ね」
「するってと?どうすりゃいいんだい」
「必要なんです。
 物の怪の―――『形(かたち)』と、『真(まこと)』と、『理(ことわり)』、が」
その時、剣に装飾されている狛犬もどきがカタカタと歯を鳴らしたようにヤコには見えた。

「ねえ、変だよヤコ、さっきから」
急に、薬売りに気を取られていたヤコの袖を叶絵が引っ張った。
「うん、薬売りさんの話も変だし、こんな美味しいものが目の前にあるのに皆手を止めてるのはもっと変だよね」
「ううん、そうじゃなくて」
叶絵の視線は薬売りでもなく目の前の膳でもなく、廊下に面しているふすまに向いていた。
叶絵は薬売りの話を聞き逃さないために無言なのだと思っていたが、彼女はヤコとは別のものを見ていたようだ。
「そうじゃなくて、―――なんでふすまがガタガタ鳴ってるんだろう」
「風が吹いてるからでしょ?」
「窓なら解るよ!窓の外は風が吹いてるんだから解る。
 けど、ふすまだよ?隣はただの廊下なのに、なんでガタガタしてるの?」
「……そういえば」
安藤も中村も、宿の主人夫妻も顔を見合わせる。薬売りは静かにふすまを睨んでいた。
「お、俺も気になってたんだけど」
中村もそろそろと言う。
「気のせいかと思ってたんだけど、
 ……さっきから、風がこの部屋の周りを回ってる音がしねえ?」


278 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:50:14 ID:kV+4cMv80

その時もう一度ふすまがなり、ヤコは身を縮めた。
北の窓。
東の窓。
南の壁。
西のふすま。
確かに順番に音を立てている。
「は、はははは、そそんなわけは無いだろ、そこのお姉ちゃんも兄ちゃんも面白いなあ、
 薬売りの兄ちゃんに負けずユーモラスだははははは」
静まり返った部屋に安藤のだみ声だけが響く。
「な、なあ、そんなポルターガイストみたいなことあるわけ無いって、ははは、
 ほら薬売りの兄ちゃんも面白いよな、ははは!」
「いいえ、霊じゃあありませんぜ」
ふすまを睨みながら薬売りが静かに答える。
ヤコを含む皆が声を殺して薬売りの言葉を待っていた。
「じゃ、じゃあなんだっていう」
「言っているでしょう、さっきから。―――物の怪、ですよ」



279 :モノノ怪〜ヤコとカマイタチ〜:2008/01/14(月) 22:51:14 ID:kV+4cMv80

「い、嫌ですよお客さん。
 うちはちょいとばかり建てつけが古いからちょっとの風でもぎしぎしいうんです。
 このふすまだって痛んでるだけで外に何かあるわけじゃあ―――、」
宿の主人がよろりと立ち上がってふすまに近づいた。
「よせ!」
薬売りが叫ぶのと、主人がふすまを開けるのと、
「ひゅうッ……」
そして主人が妙な空気音を発して倒れるのはほぼ同時だった。
「あああ、あんたあ!」
「ひ、ひいいい!」
「うわあああッ」
「ヤ、ヤコ、なにこれ!?」
叶絵がヤコにしがみついてくる。
薬売り以外皆の悲鳴が沸きあがる中、しっかりと叶絵と抱き合いながらヤコは見た。

……倒れた主人の喉は、ぱっくりと真一文字に裂けていた。

280 :ぽん:2008/01/14(月) 22:56:39 ID:kV+4cMv80
お久しぶりです。
なんとか投稿できました、ぽんです。

第一話>3のあと海外出張やら体調不良やらが重なりこんなに空いてしまいました、
どうもすみません。

このお話はアニメ「モノノ怪」にヤコちゃんと叶絵が紛れ込んでいる、というつもりです。
なのでネウロは出ないのですが、その分ヤコが頑張ってくれると思います。
あと2,3話くらいですのでどうぞお願いします。
次はあまり遠くないうちにこれたらと思いますので・・・

281 :作者の都合により名無しです:2008/01/14(月) 23:54:18 ID:9tAWIWpg0
えらいお久しぶりですが帰ってきてくれて嬉しいです。
正直、内容忘れちゃってましたがw
サイトでもう一度読み返してみます。
次は早めでお願いします。

282 :作者の都合により名無しです:2008/01/15(火) 00:33:30 ID:cadT7IWL0
ああ懐かしい。ぽんさんお帰りです
大事件も最後に発生したので、コテハン通り
ぽんぽんとお話が進むと嬉しいです

283 :作者の都合により名無しです:2008/01/15(火) 14:41:34 ID:kukyf+jt0
ぽんさんお久しぶり。
モノノ怪はしらないけど、なんとなく昔話風のお話でいい雰囲気です。
自分のペースでいいんで完結までがんばって続けてください

284 :作者の都合により名無しです:2008/01/15(火) 17:48:28 ID:GarE6hKR0
仕事で海外かぁ
エリートだなぁぽん氏

285 :作者の都合により名無しです:2008/01/15(火) 20:57:18 ID:gNX9Z0E20
ぽん氏復活か。いいことだ
エニア氏とかうみにんさんとかも復活しないかねー
鬼平氏とかフルメタルさんとかもどこ行ったのやら

286 :やさぐれ獅子 〜二十三日目〜:2008/01/15(火) 22:18:33 ID:u7FXFl5c0
>>265より。

287 :やさぐれ獅子 〜二十三日目〜:2008/01/15(火) 22:21:04 ID:u7FXFl5c0
 深層意識よりも更に深い深い暗闇。永遠に封印されるべき領域で、満たされぬ欲望に苦
しみ蠢く魔獣。
 加藤は試練を乗り越える過程で、奥底に潜む魔獣に気づき始めていた。
 初めて体感したのは自らの偽者に打ち勝った瞬間である。明らかに空手では上回ってい
た偽者を葬り去った一撃。あれが始まりであった。
 一流と呼ばれる格闘士は皆、心に餓えた獣を宿しているが、加藤はそうではない。凶器
をためらわず使用し、人生を捧げた空手さえ道具と断じた男に、獣などという高貴な象徴
が棲みつくわけがなかった。
 加藤が宿していたのは魔獣。不規則に生えた牙、猛毒を含んだ爪、異常に肥大した眼球、
醜悪としか評しようがない手足、誰もが目を背ける下賤な存在。ただひたすらに殺傷能力
しか取り柄がない魔獣であった。
 今までは無意識に魔獣の出現を抑えていた。もしこれが外に飛び出したら、パンドラの
箱のように不吉をまき散らすのではないかという予感があった。
 しかし、もう我慢することはない。
 鎖を解いてやろう。思う存分暴れさせてやろう。
 ──強くなるためならば。

 試練が島に上陸した。
 正真正銘のエリート。精鋭中の精鋭。武神にもっとも愛された戦士。
 きっちりと律儀な程に分けられた髪に、ダークスーツ。頬骨が浮くほどの細面だが、眼
に灯された光は限りなく熱く重い。
 両手足は兵器、岩はおろか大気すら切り裂く。ひとたび体を絡め取れば、骨だけでなく
心までへし折る。
 死角は絶無。百戦錬磨に育まれた第六感は、米軍の最新式レーダーよりも正確に敵の座
標を知らせる。
 徹底した平常心。いかなる危機も好機も、彼にとっては過程に過ぎない。いかなる勝利
も敗北も、彼にとっては結果に過ぎない。
 本日、彼に下された使命は、
 ──加藤清澄を殺害せよ。

288 :やさぐれ獅子 〜二十三日目〜:2008/01/15(火) 22:21:55 ID:u7FXFl5c0
 まもなく二人は出会った。
 無人島の浜辺は、愛し合うにも殺し合うにも絶好のスポットだ。
「今日の試練はてめぇか。……強いな」
 眼力から弾き出される敵戦力。加藤は対戦者がこれまでにない猛者であると直感した。
「ところでよぉ、試練の試すって字は、多分俺が試されるって意味なんだろうな」
 両手が正中線を守っている。精鋭に隙はない。
「だがよ、今日は逆だ」
 加藤が歩を進める。足を引きずりながらの歩行は、空手家というよりは亡者に近い。
「俺が試してやるよ。おまえで“試し割り”だ」
 間合い(エリア)が触れ合う。
(さァ……もう誰も止めやしねぇ。好きなだけ暴れてやれッ!)
 一切の理性を閉ざす。加藤は生まれて初めて魔獣に身を捧げた。どうなってしまうのか、
当人でも予想はできない。
 自然と喉が鳴る。
「ウオ、オオ……」
 顎に上段前蹴りが飛んだ。したたかに舌を噛むが、加藤は叫ぶのを止めない。
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ッ!」
 空手を駆使し、荒れ狂う魔獣。
 瞬時にガードを切り裂かれ、ズタボロにされる精鋭。単独による単独への集中砲火であ
る。
 精鋭は劣勢を晒しながらも、客観的に戦局を分析していた。猛攻から加藤の致命的な癖
を見抜き、挽回策を練る。反撃への道筋(チャート)は開けた。
 ところが、なぜか四肢が起動しない。
 手に腕を取れ、パンチを打てと命じるが無視されてしまう。
 足に蹴りを放て、一度離れろと命じるがこれまた無視される。
 時すでに遅し。彼の肉体はとっくの昔に空手によって破壊し尽くされていた。
 液体となって朽ち果ててゆく精鋭になど目もくれず、加藤はすがすがしい表情で浜辺に
立ち尽くしていた。

289 :やさぐれ獅子 〜二十三日目〜:2008/01/15(火) 22:23:32 ID:u7FXFl5c0
 神々の大地にて、背後に巨漢を従え、武神は座禅を組んでいた。樹齢千年を超える大木
にも匹敵する堂々としたその姿は、周囲にまで静寂をもたらせていた。
 程なくして、小鳥の姿をした部下から急報が届けられる。
 精鋭戦士の惨敗。これを聞いた武神は静けさを保ったまま呟く。
「試し割られたというわけか。なるほど、もはや私の部下では瓦ほどの役にも立たないと
いうことだな」
 互いに外見とは対極の能力を持つ老人と若者のタッグ。
 ゲームに相手を誘い、心理戦で敵を討つ少年。
 神々の間でもパーフェクトと呼ばれるほどに闘争を極めた精鋭。
 これらはことごとく敗退した。それどころか武神直属のエリートが、試すどころか試し
に使われるという不甲斐なさ。残りもいるにはいるが、同じように準備体操相手になるだ
けだと武神は判断した。
「彼が一皮むけたならば、予定を変更せざるをえまい」
 後ろに控える巨漢が「次は俺にやらせろ」といきり立つが、武神は振り返りもせず取り
合わない。
「はやるな。君はまだ強化が不十分だ」
 武神は巨漢を制し、座禅を中断してゆらりと立ち上がる。より凶悪な試練を派遣するた
めに。

290 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/01/15(火) 22:29:03 ID:u7FXFl5c0
二十三日目終了。
魔獣は比喩的なものだと思って下さい。

>>269
シコルスキーは第一話で餌になる予定です。
アレン君やペイン博士も出したいと思っています。

291 :ぽん:2008/01/15(火) 23:39:54 ID:6Y8q/ZXR0
おおサナダムシさんが降臨している!こんばんは。

ええと、間あいてしまったお詫びする時に
ちょっと見栄張って恥ずかしい所を省略したら
カッコよく思われてしまい余計恥ずかしくなったので訂正に参りましたw
海外出張はしましたが短期ですし寧ろほぼ研修→ひ弱かつ体力無いので帰国後微妙な体調に
→そのままずるずるぐだぐだしていた→気がついたら年末年始
ってなとこです。全くカッコよくないです。エリートでもないです。日本語しか話せませんしw
恥ずかしい上に申し訳なかったので後半部を略してしまいました。
見栄張ってごめんなさいw

覚えていて下さる方がいるのに感動です。ありがとうございます。
話を閉じるまでは自分なりにせっせと書きたいと思います。

そんなわけで名無しに戻りますが今年もこのスレが栄えますよーに。

292 :作者の都合により名無しです:2008/01/16(水) 08:35:38 ID:9DVs+Lpt0
サナダムシさんいつも乙です!
やさぐれ盛り上がっててステキだけど、
新しけい壮復活もうれしいなあ!
ピクルとかゲバルとかネタにしやすそうなのも出てきたし>原作


293 :作者の都合により名無しです:2008/01/16(水) 12:07:29 ID:ytGOToOx0
シコルスキー第一羽でエサって一応主役なのに・・
やっぱり立ち位置は変わってないのかw

サナダムシさんおつかれです。
加藤がバーサーカーと化して、そろそろ武神の域に達しつつありますね。
武神の側近→武神という流れかな?

294 :作者の都合により名無しです:2008/01/16(水) 16:02:04 ID:S85s/VSZ0
おお!しけい荘復活は嬉しいな。
サナダムシさんはちゃんと期待に応えてくれるぜ。
ピクルにアレンにヤイサホーとネタキャラが多いから楽しみだ。
勿論、やさぐれも好きだけどな。


26歳無職の俺にとっては働いているぽん氏は十分にエリートだw

295 :作者の都合により名無しです:2008/01/16(水) 21:39:26 ID:NlFi/Yt30
>ぽん氏
頑張れ

>>294
働けクズ

サナダムシさんいつも乙
やさぐれやしけい荘も楽しみですが、
個人的にはサナダさんのDB物の新作長編が読みたいと思ってる。
わがままかね。バキって絵柄が苦手であんまり読んだ事ないんだ


296 :作者の都合により名無しです:2008/01/17(木) 13:08:03 ID:/DFP8mL/0
うんこものも忘れないでね>サナダムシさん

ふらーりさん来ないねえ


297 :作者の都合により名無しです:2008/01/18(金) 13:34:16 ID:5MhHxNMB0
ふら〜りさんは引退したよ

298 :作者の都合により名無しです:2008/01/18(金) 15:43:11 ID:1FqLn/qYO
ぶるぁあぁりさんとして巻き舌前回で帰ってくるよ

299 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 13:28:52 ID:xQQCwEmZ0
マジスレするとアク禁地獄らしい

300 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/01/19(土) 16:16:38 ID:eOc6tjto0
何故書き込めない

301 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 16:18:48 ID:eOc6tjto0
暴風と化した、炸薬と化したアンデルセンは見る間に火渡との距離を縮めていく。
銃剣の鈍い煌きと、舞い上がるコンクリートやガラスの破片が火渡に迫っていく。
聖書の紙片にがんじがらめにされ、身動きひとつ取れない中、彼は感じていた。
己の操る炎よりも灼熱を秘めた殺意を。失意に沈みながら打たれた雨よりも冷たい殺気を。
それはすべてその生身の首筋に集約されていく。
「くっ……! こんなとこで殺られてたまるかよォ!!」
足掻け。足掻け。最後まで足掻き通せ。
火渡はこの崖っぷち、どころではない、もう落下が始まっている状況においても闘う心を
失ってはいなかった。
聖なる縛鎖を打ち破ろうと満身に力を込める。
されど――心は熱すれども、肉体は弱し。
彼には、彼の身体にはもう、何かを成せる“もの”など残ってはいなかった。
そして気づけば、二つの刃は、すぐそこに――

アンデルセンの握る両の銃剣が左右から薙ぎ払われると同時に、処刑執行を示す“音”が響き渡る。

しかし、響き渡ったのは肉を断つ生々しい音ではなかった。
まるで矛と盾が打ち鳴らされたかのような甲高い金属音だ。
アンデルセンの表情が曇る。
「ヌウッ!?」
聖堂騎士による断頭刑は一人の男によって阻止されていた。
火渡とアンデルセンの間に立っていたのは、白銀の防護服(メタルジャケット)に身を包んだ男。
防人衛だった。
それぞれ左右の腕で銃剣の斬撃をしっかりと受け止めている。
「防人!」
「防人君!」
二人の声を背に受け、防人は猛る気合いと共に渾身の力で両腕を広げる。
「オオオオオッ!」
銃剣は大きく弾かれ、アンデルセンは数メートル後方へ飛び退った。
だが戦闘態勢を崩してはいない。

302 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 17:05:55 ID:sPFUtpKT0
マジでどうしたんださいさん


303 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 18:08:27 ID:eOc6tjto0
口元を歪めてやや薄笑いを浮かべてはいるが、防人を睥睨する眼光は今にも襲いかからん
ばかりの鋭さを秘めている。
「ああ、そういえば……もう一人いたのだったな……」
疾風の如く二人の間に割って入ったものの、防人はアンデルセンが発する殺気を肌で感じ、
幾分圧倒されている風ではある。
アンデルセンの眼から、アンデルセンの銃剣から、アンデルセンの全身から発せられる殺気。
それはまるで猛獣だ。
向かい合う者すべての意識を、死の予感に直結させる。
彼と向かい合い、尚も平然を保てる者がいるとすれば、その者は文字通り人間ではないの
かもしれない。

防人はアンデルセンから一時も注意を逸らさずに身構えざるを得ない。
後ろには負傷、及び完全拘束で動けぬ二人の仲間がいるのだが。
「大丈夫か? 火渡、千歳」
振り返らずに声だけを掛ける防人。
「う、うん……!」
「テメエ、何のつもりだ! 防人!」
苦痛の中にも喜びを隠せない千歳とは対照的に、火渡は防人に食ってかかる。
命を救われた感謝の念など微塵も感じさせない。
むしろ、防人の救援を責め立て、非難しているように聞こえる。
帽子と襟元に隠れてほんの僅かに苦笑いを浮かべる防人であったが、アンデルセンの背後、
遥か後方にしゃがみ込んだ首無し死体を見つけるとそれも消えた。
「サムナー……」
防人の心中は如何ばかりか。
自分が手を掛ける事になってしまった親友を化物(ホムンクルス)に変えた張本人、諸悪の根源は
既に殺されてしまっている。
それも錬金戦団の仇敵であるヴァチカン特務局第13課の手によって。
ジュリアン、サムナー、アンデルセン。複雑な思いが胸の内を駆け巡る。
未だ前方に注意を払いながら、防人は尋ねた。
「千歳、パトリック・オコーネルは……」
「もう、殺されたわ。彼に……」

304 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 18:09:26 ID:eOc6tjto0
複雑な胸中にパトリックの名も加わった。自分達が倒す筈だった、ホムンクルスを操る
悪のテロリスト。
「そうか……」
少しの思慮の時間を挟み、防人はアンデルセンに話しかけた。無論、警戒は解かぬままで。
「アンデルセン。この辺で終わりにしないか……?」
「あァ!? 何言ってやがるッ!!」
火渡は眼を剥き、猛然と抗議した。
もしも身体の自由が利いていれば、掴みかかり、殴り飛ばしていたかもしれない。
しかし、火渡の性格、それに今の今まで繰り広げてきた死闘を鑑みれば当然であろう。
何を思って防人がこんな発言をしたのか、火渡には理解出来ない。
アンデルセンは何の反応も無く、無表情で防人の言葉に耳を傾けている。
防人は火渡には返答せず、言葉を続けた。
「錬金戦団(オレタチ)の標的も、第13課(オマエ)の標的も、テログループ“New Real IRA”の筈だ……。
リーダーのパトリック・オコーネルは死に、配下の兵士達もほぼ全滅している。
ならば、もう俺達がここにいる理由は無い。俺もお前も任務は果たした……」

喋り続ける防人の頭の中に声が響く。
『……ろう?』
少年の姿をした赤銅島のホムンクルス達をこの手で殺した時に芽生えた冷えた心。
そして、親友であるジュリアンをこの手で殺した時に再び湧き出した冷えた心。
『そ……ないだろう?』
その冷たさが声を上げる。
『そうじゃないだろう?』
振り払いたい。振り払えない。

「それに……確かに俺達は信じるものは違うかもしれない。属する組織も違うかもしれない。
だが、正義を背負って戦い、弱い者を救うという信念は同じじゃないのか!?
だったら、これ以上の無益な闘いは――」
「正義!? 正義だと!?」
突如、アンデルセンは怒声を発し、防人の話を遮った。
その顔には憤怒の赤い炎がありありと浮かんでいる。

305 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 18:10:53 ID:eOc6tjto0
「貴様ら異端の魔術師共が“正義”などと口にし、あまつさえ我らと同列に並ぼうなどとは
片腹痛いわ……。
いいか、よく聞け……! 正義とは我々(カトリック)だ! 我々(ヴァチカン)の事だ!
我々(イスカリオテ)以外に神の真理と正義を代行する者などこの世に存在せんのだ!!」
揺るぎない信仰心。絶え間ざる神への祈り。再臨の日を待ち望み、異を狩り獲る奉仕。
アンデルセンを構成するすべてがカトリックの正義、否、カトリック“のみ”が持ち得る
正義を絶対のものにしている。
『AMEN(はっきりと告げよう)』
『AMEN(その通りなのだ)』
『AMEN(そうあれかし)』
何者も彼の世界を変える事など決して出来はしない。決して、決して、決して。
「貴様らは断じて正義などではない! 偽善ですらない! “悪”だ! “悪”そのものだ!!」

「そうか……」
防人はアンデルセンに対する警戒すらも忘れ、頭を垂れた。
「俺は、お前がそう答えるのを期待していたのかもな……」
歯を強く食い縛り、拳を固く握り締める。
「お前は異端、異教なら誰でもいいんだろう? 俺も今はそんな気分なんだ。誰でもいい……。
お前でも……!」
顔を上げた防人の冷えた心が――
『そうだ、それでいい……』
――青白い炎となって燃え盛り、激しい声を上げさせる。

「やってやるぞ、アンデルセン! 最後まで!! 最期まで!!」

咆哮の激しさとは裏腹にその声に含まれているのは深い虚無。
防人の背中に浮かぶ冷たさは、千歳の胸に言いようの無い不安を呼び、口をつぐませた。
そして、火渡もまた絶句していた。
自分ならばまだしも、防人が口にする言葉ではない。戦いに向かう防人の姿ではない。

306 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 18:13:55 ID:eOc6tjto0
心の底からの闘いへの歓喜が。
“それを打ち倒さなければ己になれない”
単純にして深遠。総々にして唯一。
それは、闘争の本質。



――北アイルランド アーマー州 ラーガン市内

夜が明け、朝の光に照らし出されていく街。その一角の街路灯。
そろそろ役目の時間を終えようという街路灯の上に人影があった。
青のカソックに身を包んだ女性。眼鏡の奥の青い瞳は閉じられている。
代行者、シエルだ。
「激怒、歓喜、哀傷、憎悪、悔恨、狂気、虚無――」
静かに眼を開け、顔を上げる。
「――あらゆる感情が闘争心と共に渦を巻き、うねりを増し始めている……」
ある一方向にキッと視線を移すと、街路灯から軽やかに飛び上がり、夜明けの街並みに
その身を躍らせた。
彼女が向かう先は――

「急がなければ……」






次回――
肉体。HURRY。同志。始まりの終わり。
《THE LAST EPISODE:The whirlwind is in the thorn trees》

307 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2008/01/19(土) 18:15:53 ID:eOc6tjto0
「フン……。“それ”で何をやると言うのだ?」
防人の宣戦布告を顔色ひとつ変えずに受け止めたアンデルセンは、とある箇所を銃剣で指し示した。
“それ”とは防人の前腕部。
全身を覆う筈のシルバースキンが何故か肘から先には見当たらず、生身の腕をさらけ出して
しまっている。
見ると宙空に浮かぶ灰がヘキサゴンパネルのひとつひとつを捕らえ、再構成を阻んでいた。
千歳が苦痛を押して防人に声を掛ける。
「“灰”のせいよ……。灰が武装錬金の働きを無効化させてしまうの……!」
「ああ、そうみたいだな……」
返ってくる反応は鈍い。
錬金の戦士が武装錬金を失う。これがどれほど危険かわからない防人ではないだろうに。

やがて防人は掌を開いた右腕を真横に伸ばした。
次の瞬間、防人がまとうシルバースキンは光に包まれ、核鉄へと形を変えて掌の中へ収まった。
「なっ、何考えてやがるッ!」
流石の火渡も驚愕した。
今の防人が身に着けている物といえばTシャツ、アーミーパンツ、ブーツ。
武器と呼べる物も何ひとつ持っていない。
闘いに赴く者の、錬金の戦士の姿ではない。
「どうせ意味が無いんだ……」
吐き捨てるように言うと、防人は核鉄を投げ捨て、歩を進め始めた。

その歩の向こう側にいるアンデルセンはワナワナと肩を震わせている。
怒りに打ち震えているのかと思えばそうではない。
笑っているのだ。
「面白い……!」
向かってくる者はまったくの丸腰だ。
それなのに、先刻闘った戦士以上の闘志を秘めているではないか。
隠しても隠しきれない、抑えようとしても抑えられない、封じ込めた筈の歓喜の笑いが
込み上げてくる。

308 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/01/19(土) 18:22:12 ID:eOc6tjto0
どもー。こんばんわです。さいです。
何やら書き込めなくなっててワケわかんなくなってました。
ようやく書き込めたと思ったら、また書き込めなくなって順番狂ったり。
>>306>>307は順番が反対です。
ご迷惑お掛け致しました。申し訳ありません。

とりあえず次回から最終話突入で、その後にエピローグがあり、やっと完結です。
皆様、どうか最後までお付き合いの程を宜しくお願い致します。
それでは今日はこの辺で御然らば。

ああ、やっと家に帰れる……。

309 :武装錬金_ストレンジ・デイズ:2008/01/19(土) 19:47:17 ID:2wVEjfHD0
『真紅と辛苦のデイズ_前編』


 武藤カズキが月から帰ってきてから数週間、彼と、その大切な者たちは平和を満喫している。
 戦団は規模縮小・活動凍結に向けて動き始め、ヴィクター率いるホムンクルス勢も月面への移住計画を着々と進行させていた。
 カズキが駆け抜けていったいった激闘の日々はもはや過去になりつつあり、もうあの少年を戦いに駆り立てるものはどこにもなく、
彼に訪れたささやかな安寧の日々を脅かすものはなにもない。
 ──そのはずだった。

                    _                    _                    _


 それはいつもの日常、いつもの平和な日々。
 私立銀成高校から寮への帰り道、夕暮れの陽を浴びながら歩く八名の少年少女たち。
「大変だカズキ! 今週号のジャンプ、『ピンクダークの少年』が休載してるぞ!!」
「な……なんだって!? 本当か岡倉!」
「えーと──それってそんな大騒ぎすることかな?」
「ネット上の風説では、作者の岸辺露伴が破産したために一時的に執筆作業が困難になったとのこと。
ちなみに『ピンクダークの少年』は現在七部まで書かれているが、その実、すでに九部まで構想済みだとか」
「オトコノコってマンガの話題好きだよねえ……参考にする?」
「さ、参考って……なんのことだかさっぱり」
「くふふ……またまたぁ。あの舎監さんがちょっと気になってるんでしょ? バレバレだよ。ね、まっぴー、斗貴子さん」
「ん? ああ、すまん。聞いてなかった(どっちが『ちーちん』で『さーちゃん』だったっけ……たまに混乱するな)」
 ──そんな、馬鹿馬鹿しくものどかな、ある日の放課後の会話。
 この御一行が向かう先に、とんでもない変態が待ち受けていることを──彼らはまだ知らない。

310 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:24:00 ID:2wVEjfHD0
長文が送れない模様

311 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:25:37 ID:2wVEjfHD0

                    _                    _                    _


 蝶人パピヨンは『元』人間であり、同時に『元』ホムンクルスである。
 まだ人間だった頃の彼は病魔を克服するために人間を超越した『ホムンクルス』となることを目指すも、
ちょっとした手違いによって不完全で常に瀕死状態のホムンクルスとなってしまい、
そして更なる高みを目指して『第三の存在』を目指すも、ちょっとした手違いによってライバルである武藤カズキにあっさり先を越され、
そうしたすったもんだの過程とはあまり関係のないところで、「食人衝動の無い=人間に未練がない」、
真の超人性を獲得したという、なんか「幸せの青い鳥は実はこんな身近にいたんだ」的な微妙な経緯によって
「蝶人」として完成された、恐るべき馬鹿野郎にして筋金入りの変態──それがパピヨンである。
 さて、そのパピヨンは今、とある一軒の店の前に立っている。
「腹が減ったな。ラーメンでも喰うか。貴様はどうする?」
 その言葉に、パピヨンの隣に立つ少女──ではなく、両者の間から飛び出た変な人形が答える。
「はいはいはーい! 腹ペコでーす、パッピー!」
 それは、頭のハート型アンテナが蝶イカす、全身ピンクでキモさと紙一重の愛らしさを発散する、
無駄に高性能な自動人形(オートマトン)通称「ゴゼン様」だった。

312 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:27:28 ID:2wVEjfHD0
 ふよふよ宙を飛行ながら喜びを表現するゴゼンは、ついーと少女の側まで滑っていく。
「ヴィッキーも食べるだろ?」
 馴れ馴れしさ全開のゴゼンをぱしっ、と叩き落とし、少女は醒めた声で返す。
「馬鹿じゃない?」
 そして、少女は皮肉そうに顔を歪ませてパピヨンとゴゼンを一瞥する。
「人肉を食べないホムンクスルに、物を食べる自動人形(オートマトン)──ぞっとするわ」
 永久凍土のようなオーラを全力で放出中のこの少女──名はヴィクトリア・パワード。
 彼女もまたホムンクルスであり、今は亡き母親の細胞クローン体を調理したものを日々の糧とする、薄倖の美少女である。
「あーあ、つまんない。パパは月まで行く準備に忙しいし、やってられないわ」
「失礼なやつだな。せっかくオレが貴様の遊び相手になってやってると言うのに」
「頼んでないし。むしろ連れまわされて迷惑なだけ。パパが言うから仕方なく──」
「それで、どうするんだ? 喰うのか? 喰わないのか?」
「一緒に喰おーぜ、ヴィッキー」
「……だからわたしは人肉しか食べないんだって。ホムンクルスなんだから」
「それは食わず嫌いというやつじゃないのか? オレに喰えて貴様に喰えぬ道理は無かろう」
「余計なお世話」
 むっとした表情でパピヨンを睨むヴィクトリア。パピヨンはその険のこもった視線などまるで頓着せず、
「そこまで言うなら仕方がないな。オレとゴゼンがラーメンに舌鼓打つのを指でも咥えて眺めてるがいい」
「冗談じゃないわ、わたし帰る──」
 踵を返しかけたヴィクトリアの背後から、大人数のざわめきが近づいてきた。

313 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:29:58 ID:2wVEjfHD0
「なあ大浜。なんか腹減らないか?」
「そうだね。なんか食べて帰ろうか。みんなもいいよね?」
 さっさと去ろうとしたヴィクトリアの足が止まる。
「あ、ちょうどいいや。ここにしよう──って」
 別に足を止める義理などないのだが、そのざわめきの中に聞き覚えのある声があったことで、つい振り返る。
 目が合った。
「ヴィクトリアちゃん──に、蝶野とゴゼン様!」
「よーカズキン! 今からパッピーとラーメン喰うんだ、付き合えよ!」
「奇遇だな、オレたちもだよ!」
 武藤カズキと、その友人たちだった。
 相変わらずの能天気なスマイルで、武藤カズキがこちらに手を振っていた。
 こうなってはいきなり背を向けて帰ることはできず、ヴィクトリアは戸惑いがちに片手を挙げる。
「──帰るんじゃないのか」
 ぼそりと耳元で呟かれるパピヨンの声に、ヴィクトリアは精一杯の不機嫌な声で返す。
「うるさい。あなたと違って、わたしそこまで無神経じゃないの」


                    _                    _                    _


314 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:32:37 ID:2wVEjfHD0
「いらっしぇーい!」
 中華料理店「鉄火屋」は、カウンター席十二、四人掛けテーブル四卓のややこじんまりした佇まいの店だった。
 混み始めるにはまだ若干の余裕があり、総勢十名という大口客でも容易に受け入れることが出来た。
 四人掛けテーブル三卓にそれぞれ別れて座る。
「斗貴子さんどれ食べる?」
「私は余り空腹でないから、キミが好きなのを頼むといい。私はそれを少し分けてもらうことにするよ」
 ヴィクトリアのついた席に座るのは、中睦まじく肩を寄せ合って菜譜を覗く武藤カズキと津村斗貴子、そして──
「ふむ……このオレに相応しい蝶・中華なメニューはなんだろうな?」
 パピヨンだった。
(なんでこいつわたしの隣に座ってるの……)
 憤懣やるかたないヴィクトリアの内心など忖度せず、パピヨンは鼻歌など歌いながら菜譜を眺めている。
「おい、カズキ! これにしようぜ!」
 隣の卓から身を乗り出して、岡倉が菜譜の隅を指差す。
 それを眺めていたヴィクトリアも、なんとなく手元の菜譜に視線を落としてその位置に書かれた文字を読む。

『辛さ爆発地獄焔・泣く子も爆発超激辛・キョンシーが生き返る反魂辛・エリキシィラーメン \3000
                                      ※但し三十分以内に完食された場合、御代は頂きません』

 過激というか、本気でオーダーを取ろうとしているとはとても思えない謳い文句を、わずかに呆気に取られて幾度も読む。
 これはいったいなんの冗談だろうかと悩むヴィクトリアだったが、その解答は簡単に示された。
「な、これにしようぜ、カズキ! 全部食えばタダになるんだろ!」

315 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:34:43 ID:2wVEjfHD0
(──ああ、そういうこと)
 つまらなさそうに鼻から息を漏らす。
 これはつまり──「タダ」という餌に釣られた馬鹿な客から三千円を毟り取るためのメニューなのだ。
 そんなあこぎな商売をやるほうもやるほうだが、わざわざ引っかかるほうも引っかかるほうだ──どっちも大馬鹿、救えない。
「やめておけ。この種のチャレンジメニューというものは、普通の人間が太刀打ちできるものではない。
だからこそ、店主も胸を張って菜譜に書いてあるんだ。途中でギブアップして三千円払うハメになるのがオチだ」
 カズキと岡倉のやり取りを聞き流していたパピヨンが、涼やかに言い放った。
 自分と同意見だった者がいることに少し嬉しくなるヴィクトリアだったが、
それがよりによってパピヨンだったことに気付いたことで、とても悔しくなる。
「──偉そうなこと言って、結局は食べれないんだ」
 ささやかな反感を込めて、そう毒舌を吐く。
 パピヨンはちらりとヴィクトリアを見て、「ああ」と短く答えた。
 そのあっさりした返答に拍子抜けし、もっとなにか言ってやろうと息を吸ったそのとき、
「──だがNON!」
 耳まで裂けるような極悪スマイルを口元にのぼらせ、蝶人パピヨンの晴々とした宣言。
「このオレを誰だと思っている!? オレの名はパピ♡ヨン!! 人を超え、ホムンクルスさえも超えたまさに蝶人!
激辛ラーメンの一つや二つ、文字通りに朝飯前だ!」
 自己陶酔でうっとりの変態は、椅子の上に立ち上がってカズキを指差した。
「武藤! 貴様もこのラーメンを注文しろ! ──勝負だ!」

316 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 20:40:54 ID:2wVEjfHD0
 その挙動不審な黒タイツの絶叫に、店内の視線が一点集中する。
 ヴィクトリアも半ば呆然とパピヨンを注視していた。
「さあ、どうする武藤! 当然、受けて立つだろうな! もし貴様に、オレに向かってくる勇気があるのならな……!」
 武藤カズキも最初はぽかんと蝶々仮面の怪人を眺めていたのだが、やがてその顔が引き締まるっていく。
 卓の下ではしきり斗貴子が彼の袖を引いて注意を促していた。
「おい、カズキ。まさかこの馬鹿の言うことを真に受けるんじゃないだろうな。
金と食材と労力の無駄だ。安い挑発に乗るんじゃない──カズキ、カズキ?」
「武藤、負けるのが怖いか?」
「……そんなこと言っていいのか、蝶野。なにを隠そう──オレは早食いの達人だ!」
 ノリの良さでは他者の追随を許さぬカズキが、その唐突過ぎる挑戦を雄々しく受ける。
 その顔はめっちゃ輝いていた。
「馬鹿が二人……もう嫌だ……」
 頭を抱えて呻く斗貴子の姿もなんのその、馬鹿二人は揃ってカウンター向こうの厨房へ向き、
「「『辛さ爆発地獄焔・泣く子も爆発超激辛・キョンシーが生き返る反魂辛・エリキシィラーメン』!!」」
 それに負けじと、カウンター内で店主のおやじの咆哮が反響する。
「激ラー二丁よろこんでぇぇぇぇ!!」

317 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/01/19(土) 20:42:29 ID:2wVEjfHD0
また変な話になる予感がしますが、どうでもいいですね。

318 :作者の都合により名無しです:2008/01/19(土) 23:51:44 ID:xQQCwEmZ0
>さいさん
ラスト直前なのに災難でしたねえ。
これにめげずに、エンディングまでひた走ってください!

>ハロイさん
今までのハロイさんの話とは違う感じかな?
ドタバタコメディでも卓越した腕前を発揮してください♪

319 :作者の都合により名無しです:2008/01/20(日) 01:56:39 ID:Wg3BICC20
さいさんの作品も後5回くらいか?
ラストに向けて物語が収束していきますが、どこか寂寥感を感じますな。

ハロイさんこの作品で連載4つめだっけ?
パピヨンはじめとする変態どもの饗宴がいい感じ。何でも書けるなあ、本当に。


しかし、さいさんもハロイさんも長文が送れないって、
なんかへんな規制でも漫画板に出来たのかね?SSスレの存続にかかわる問題?

320 :作者の都合により名無しです:2008/01/20(日) 09:05:43 ID:qhu1Ob0Q0
627 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/15(火) 21:54:50 ID:x6K+J9Jh
あ、知らない新規制を発見したので、既出かもだけど報告。

一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えるそうです。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイみたい。
-------------------------------------

だそうですよ
一行目に改行の代わりにスペースを入れると回避できるみたい

321 :作者の都合により名無しです:2008/01/20(日) 12:34:23 ID:T5DaINnK0
>>320
へー、そうなんだ。
俺は長文書かないけど、職人さんには参考になっただろうね
貴重な情報乙です


ハロイさんの錬金物が連載になるとは思わなかったなw
なんとなく一発ねたになる気がしてたから。これは嬉しい不意打ちだ。


でもさいさんの錬金&神父が終わっちゃうんだよね。あと5回くらい?
でもエピローグは氏がきっと一番書きたかったと思う部分なんで仕方ないか。

322 :作者の都合により名無しです:2008/01/21(月) 08:30:04 ID:cLfYJvJu0
さいさんはまっぴーと婦警のやつを連載してくれるから心配要らない
しかしハロイさんすげえな。今の連載陣の半分くらいの連載持ってるw

323 :作者の都合により名無しです:2008/01/21(月) 15:45:51 ID:3kHa5Mq60
ヴィクテム、シュガーソウル、ネウロ、そしてこの錬金か。
確かに4本だな。しかも全部クオリティ高いってのは恐ろしいな。

ご本人のサイトの方をもう少し充実させてほしいんだが
俺もう短編全部読んじゃったし。(面白かったです)
さいさんやスターダストさんみたいに日記つけるとか


324 :作者の都合により名無しです:2008/01/21(月) 18:53:07 ID:qDMD1nSq0
アク禁だの新規制だの、SS書きには不遇な時代になったぜ

325 :悪魔の歌:2008/01/21(月) 20:23:36 ID:FodhYXSu0
>>241
「うん、やっぱり話を聞いてもらったら少し楽になった気がします」
「そ、そう。それは良かった」
「じゃあ、ボクはこれで。根岸さん、もし根岸さんのCDとか発売されたりしたら、
教えてくださいね。ボク絶対買いますから!」
言う通り、根岸と話をして少しは気が楽になったのだろう。爽やかな笑顔を見せて、
一歩は去っていった。
だが根岸の方こそ、その笑顔に救われた思いだった。DMCとして、クラウザーとしての
ファンは熱狂的なのが大勢いるが、根岸として、自分の好きな音楽でのファンというのは
少ない……というか、身内ではない全くの部外者としては初めてだったから。
それも、あんなに心の底から力一杯、感動してくれて。こうなると、もっともっと自分の歌
で幸せにしてあげたくなる。例えば次回は久美ちゃんとかいう彼女を連れて来て、
そこでラブソングを歌って二人をいいムードに……
『……って、その僕の歌のせいで彼女と気まずくなってるんじゃないかっっ』
頭を抱えて落ち込む根岸。初めてのファンに対して、これではあんまりだ。何とかせねば。
とは言っても、歌以外に能のない身ではどうしようもない。やはり、一歩が認めてくれた
自分の歌を精一杯頑張るしかないか。
そんなことを考えつつ帰宅した根岸は、机の上のPCを見て、ふと思いついた。
「そういえば幕之内君、ボクシングやってるって言ってたな。今度会った時にボクシングの
話ができるよう、ネットで話題を仕入れておくか。今活躍してる日本人ボクサーは……と」
根岸は今までボクシングには興味なかったのだが、ググってみたらすぐに見つかった。
「! に、日本チャンピオン!? あの子が? へえ〜っ、こりゃ凄い。人は見かけによらない
とはいえ、あんな大人しそうな顔してプロボクサーをボコボコ殴り倒してるだなんて」
そういう点に関しては根岸だって負けちゃいないのだが。
ともあれ根岸は、某巨大掲示板や動画サイトなんかを巡っていく内に、一歩のことが
いろいろとわかってきた。戦績や戦うスタイル、所属ジムやファン層など。
『う〜ん、知れば知るほどスゴい子だ。でも、こんなに強いボクサーでも、あんなに力なく
落ち込むこともあるんだなぁ……よっぽど好きなんだろうな、久美ちゃんって子のこと』
なのに、その子と気まずい思いをさせてしまった。やはり何とかせねばなるまい。

326 :悪魔の歌:2008/01/21(月) 20:24:33 ID:FodhYXSu0
とはいえ。今まではこういう場合、クラウザーに変身していろいろやってきたのだが、
今回はそのクラウザーが元凶。んなもんを表に出すわけにはいかない。
何とかできないか何とかできないか、と根岸は頭を抱えて一晩悩んでみたが……結局、
何も思いつかずに朝を迎えた。
「ぅぅ。眠い〜」
睡眠不足の頭を抱え、鞄に詰めたクラウザーの衣装も抱え、根岸は欠伸しながら立ち上がる。
今日は、DMCのニューアルバム発売イベントの日。行かないわけにはいかない。
「……はぁ。ごめん、幕之内君……」

都内の某大型CDショップに設けられた特設ステージ。根岸はクラウザーの衣装に身を包み、
いつものヅラとメイクで素顔を隠し、ベースのジャギ、ドラムのカミュと共に席についていた。
曲に入る前に、まずはインタビュアーから新曲のことなどについての質問を受ける。続いて
会場に集ったファン、DMC信者たちからの質問コーナーとなった。
「ハイ! クラウザーさんは、魔界と人間界を行き来しておられるわけですけど、人間界に
気になる女はいますか?」
「それはもちろん相川さ……じゃなくて、あれだ、気になる者などおらぬ。そもそも人間のメス
如き、その気になればいつでも犯れるからな。ノドが乾いた時、水を飲むようなものだ」
根岸の悪魔的発言に会場がどよめく、なんてことはなく嬉しそうな歓声が上がった。
「うおぉ〜やっぱりクラウザーさん、そうでなくっちゃ!」
「なにしろ異常性欲の魔王だもんなぁ!」
「それじゃクラウザーさん、男は? 男もそうなんですか?」
興奮した信者たちから新たな質問が飛ぶ。
「……む。男か」
根岸は、少し考えて。
「そうだな。皆の者、聞くがよい。オレは生まれ育った魔界において、数知れぬ猛者どもを
殺害してきた。やはり、同じ殺害するのなら手応えのある相手を直接ブチ殺すのが
一番面白い。すなわち撲殺、殴り殺しだな」
さすがクラウザーさんっ! とまた歓声が飛ぶ。
「で、この人間界における撲殺の第一人者はどの程度のものかと調べてみたのだが、
どうやらマクノウチというボクサーが秀でているようだな」

327 :悪魔の歌:2008/01/21(月) 20:25:12 ID:FodhYXSu0
客席がざわめいた。あ〜オレ知ってる、という声がちらほら聞こえてくる。
クラウザー=根岸は、昨夜ネットで見た一歩の戦う姿、勝った時の心からの笑顔、そして
一歩ファンたちの微笑ましくも熱い応援メッセージなんかを思い出しつつ語った。自分も
いつか音楽で、あんな風に皆に夢や希望を振りまく存在になりたいなぁなんて夢想もして。
「奴の拳には強い力がある。その戦いぶりで、見る者に力を与える力がな。いずれ奴は、
人間界最強のボクサーとなろう。そう、世界チャンピオンにだ。オレはそう信じて……」
『おいおい、根岸っ』
隣に座っていたジャギこと和田が、根岸をつついた。根岸は我に返り、会場の空気を察して、
「あ……つ、つまり、そうなってから奴を喰らおうと思っておるのだ。奴が世界の頂点に立ち、
文字通り有頂天となった時にオレが撲殺して、天国から地獄へ突き落としてやろう、とな。
その時の、奴の絶望する顔が、今から楽しみでならぬわ。わははははははははっ!」
何だそういうことだったか、と首を傾げていた信者たちも一応納得した。異常性欲猟奇魔王
たるクラウザーが、一介のボクサーをただ褒めるなんて変だよなぁ、と皆思っていたのだ。
それで質問コーナーも終わり、新曲発表などが続いてイベントは滞りなく進んだ。もう誰も、
あの魔王クラウザーがただのボクサーを褒めたことなんて覚えちゃいない。
……ただ一人を除いて。

328 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/21(月) 20:27:23 ID:FodhYXSu0
長くて永い、遥かなる悠久の規制を越えて帰って参りましたっっ! バキスレある限り、
♪この手を放すもんか〜03/02/20 の誓い〜♪ ですとも!
にしても年末年始挟んで10日間規制→解除後、2日で再規制→12日経ってようやく
解除……あぁ辛かった……

>>邪神さん
最初期の「北斗」って非常に単純な勧善懲悪ものなんですけど、ケンとシンについては
単純に善と悪じゃないんですよね。第三者視点だとそうですが、ケンはシンを悪人呼ばわり
とかはせず。愛、悲しみ、執念、怒り、そしてユリア。原作準拠の二人のぶつかり合いでした。

>>ハロイさん
・シュガーハート&ヴァニラソウル
>『怒髪天を突く』って言葉は由花子さんのためにあるようなものだから
そのまんまや! と突っ込みたくてたまらない。久々に平和な二人っきりの日常パートです
けど、ここに三人目が加わると一気に平和でなくなるのが今までのパターンですからねぇ。
・武装錬金_ストレンジ・デイズ
挑発に簡単に乗ってバカバカしい勝負に迷わず挑むところが微笑ましい。クールと熱血の
対比のようでいて、実はパピヨンだって挑発に乗せられてのことで。似た者ライバル同士。

>>サナダムシさん
ここまできちんとしたルールのあるゲームに対し、ルールなんて関係ねぇ! とばかりに戦う、
と思いきや実はルールの本質を理解していて、ルールに則って勝つ。本作の加藤らしい、
本作での数々の試練を経てきた百戦錬磨の加藤らしい、勝ちっぷり。一体どこまで行くのか。


329 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/21(月) 20:28:19 ID:FodhYXSu0
>>ぽんさん(お帰りなさいませっっ!)
前回から引き続き、ヤコが無闇に可愛い。ここまで念入りに色気より食い気を徹底されると、
その無邪気さが微笑ましくて。そんな彼女が、物の怪がらみのスプラッタ事件で活躍してくれ
ると。ネウロも出ないと明言されてる中で……これは楽しみ。まず薬屋さんがどう出るか?

>>さいさん
>自分ならばまだしも、防人が口にする言葉ではない。
好きでも嫌いでもなく、過大・過小評価でもなく、ただ防人という男を理解しているからこそ
の思い。その火渡にそんな風に思われるほど、今の防人の状態が常ならざるものという証。
そして志々雄よろしく、皆が結集・命懸けでないと勝てぬラスボス。少年漫画らしい燃え!


330 :作者の都合により名無しです:2008/01/21(月) 21:35:46 ID:dra/6ZPQ0
ふらーりさん復活おめ
いついつまでもバキスレの守り神としていてください

331 :作者の都合により名無しです:2008/01/22(火) 08:28:26 ID:zFY5MUn+0
復帰されましたか。
新連載ともども感想も楽しみに読んでますので
これからも頑張って下さい。

しかしアク禁はどんどん頻繁になるな。

332 :作者の都合により名無しです:2008/01/22(火) 10:45:53 ID:jzJwGdUb0
誰かガンスリとマスターキートンのSSを書ける方はいらっしゃいますか?

333 :作者の都合により名無しです:2008/01/22(火) 11:38:49 ID:F52FSsmA0
いつもの作品とは別方向に吹っ切れてるな、ふら〜りさん
引退したんじゃなかったのか

334 :七クロ:1:2008/01/22(火) 22:56:07 ID:xzmbrlb40
七人?のクロ校

前略、おふくろ様。僕がクロマティー高校に入学して、早いもので一年以上の
月日が流れました。初めのうちはどうなることかと思いましたが、今では友人も
出来、楽しい高校生活を満喫させてもらってます。まあ、そんなこんなで僕達は
今回、待望の修学旅行に臨んでいる訳なんですが……………ここ、何処?

〜新幹線内〜
「お〜い、神山。何やってんだよ、さっさと遊びにいこうぜ」
「あ、林田君。ちょっと待っててよ。今、手紙を書いていたところなんだ」
「は、手紙?……おいおい、何処まで糞真面目なんだよ、お前は」
「何だよ、悪い?」
「別に悪かないけどさ、手紙なんて何時でも書けるだろう。折角の修学旅行
なんだから、有名な大仏でも拝みにいこうぜ」
「大仏かあ。修学旅行の定番だよね」
「そうさ!ほら、そうと決まったら、早く行こうぜ」
「……うん……そうだね」
「おおう、ここからでも大仏が見えるぜ!でっけ〜な〜、やっほ〜」
「…………………………」
「いや〜、京都に来た甲斐があったってもんだ。あれ、どうした神山?」
「……ねえ、ときに林田君、アレって本当に大仏なのかな?」
「何、言ってんだよ。京都に来たんだからそうに決まっているじゃん」
「……あのさ、大仏の背後にピラミッドなんてあったけ?」
「は?知らねえよ、そんなこと。おい、それより見てみろよ!お釈迦様って
ロンゲだったんだな。奴がこんなにお洒落さんだとは今まで気付かなかったぜ」
「うん、僕も知らなかったよ、そんなこと」
「それになんかさ、獣っぽいっていうの?野生と神々しさのアンサンブルが
たまらないよな。『お前のことは全て知っている』的な瞳なんか思わず
痺れちまうぜ。やるな、大仏!」

335 :七クロ:2:2008/01/22(火) 23:00:58 ID:xzmbrlb40
「……林田君、大変お楽しみのところを悪いんだけど、」
「え、何?」
「僕にはあれは大仏でなくて、スフィンクスにしか見えないのだが」
「ん?……う〜む、そう言われてみれば、確かに俺が覚えている大仏とは
少し違うな、色とか」
「いや、色どころの話じゃなくて。そもそも京都に来たのになんで辺り一面、
砂漠なの?絶対、おかしいよ」
「あれだ、枯山水って奴?」
「んな訳ないでしょ!京都の何処に地平線を見渡せる枯山水があるの。
いくらなんでも枯れ過ぎだよ!」
「ああ、分かったぜ。要約すれば、つまり、お前はこう言いたい訳だ。
『大仏は京都じゃなくて奈良だよ、林田君』と」
「いや、違うよ!僕はスフィンクスやら砂漠やらが国内の修学旅行先に
あるのがおかしいと言ってるんだ」
「でも、鹿とかいるぜ。奈良の名物なんだろ、こいつら。お、このでかいのは
人に馴れているみたいだぞ。よ〜し、よしよし」
「林田君、それは鹿じゃなくてラクダだ。よく見てみなよ、角が生えて
いないでしょ」
「へえ〜、じゃあ、この鹿ってメス?」
「……なんでそうなるかな」

336 :七クロ:3:2008/01/22(火) 23:02:22 ID:xzmbrlb40
「おい、お前ら、何をゴチャゴチャやっているんだ」
「あ、みんな」
「なにやら、揉めていたようだが」
「北斗君、ちょっと、聞いてよ。林田君たら、ここが京都か奈良だって
言い張るんだよ」
「……え、違うのか?だってあそこに五重の塔があるぞ」
「君もか!一体、どうやったらピラミッドが五重の塔に見えるの。しっかりしてよ」
「しかし、さっき黒装束の忍者が歩いているのを見たが」
「それは忍者じゃなくて、肌を見せないように、女性がそういう服装を
しているだけだよ。ついでに言えば、忍者は日光江戸村だ」
「ほお、なるほど……ということは、」
「ふう〜、ようやく分かってくれたんだね」
「皆、『くノ一』ということなんだな」
「凄え!流石、日本一の古都ですね、北斗さん!」
「この人達は一体どう言ったら分かってくれるんだ……」

「おい、皆、ふざけるのはいい加減にして、ちょっと真面目に考えてみようぜ」
「!?」
「大体、俺達がここに辿り着くまでどの位時間がかかってんだよ。新幹線で
60時間だぞ。奈良にしろ京都にしろ、なんでこんなにかかるんだよ。
神山の言う通り、どう考えてもおかしいじゃねえか」
「………………………………………」
「……何で皆、黙っているんだ?」
「いや、あまりに陰が薄いから前田君は旅行に来ていないとばかり」
「酷いな、お前等……」

337 :七クロ:4:2008/01/22(火) 23:04:27 ID:xzmbrlb40
「まあ、この場にいない奴のことはさて置いて……、ちょっと俺、思ったんだ
けどさ、神山は少し神経質に過ぎないか?折角、旅行に来たんだしさ、もっと
楽しもうぜ。それじゃ京都の風情や町並みも台無しだろ」
「林田君、スフィンクスやらピラミッドの何処に京都の風情を感じろと言うんだい」
「神山、目を閉じてみろ。そうすればお前にも感じられるはずだ、京都の熱い
息吹を」
「林田君、熱いのは京都の息吹なんかじゃなく、ただの激しい紫外線だ。あ〜あ、
見てよ、メカ沢君なんかさっそく壊れちゃったよ」
「メカ沢はいつだって故障中なんだから関係ないだろ。大体、お前の言う
『修学旅行先にスフィンクスがあるのはおかしい』なんてツッコミは『酢豚に
パイナップルが入っているのはおかしい』とブーたれてる中学生と一緒じゃねえか。
生言ってんじゃねえよ。このニセ優等生が」
「……林田君、今まで我慢していたけど、今日という今日は勘弁ならない」
「おう、言いたいことがあるなら言えよ」
「じゃあ、言わせてもらうけどね、酢豚のパイナップルは間違いなく美味しいよ!」
「なんだと、神山!」

338 :クロ:2008/01/22(火) 23:06:08 ID:xzmbrlb40
今回分の投下修了です。元ネタ知らないと楽しめそうに無いのが恐縮ですが、
しばらくの間、お付き合いを。

339 :作者の都合により名無しです:2008/01/23(水) 03:24:43 ID:4I+jSozk0
ドラマにもなったあのマンガな予感。
美味しんぼでもないのに食い物で解決しちゃうアレですな。
メカ沢が好きなので期待

340 :作者の都合により名無しです:2008/01/23(水) 08:23:34 ID:0athLpIi0
クロマティー高校とはまた難しいお題をw
こういうナンセンスギャグは作者のギャグセンスによるところが大きいので
大変でしょうが期待しております。

341 :作者の都合により名無しです:2008/01/23(水) 11:35:15 ID:iSvqt43+0
新人さんかな?
こういう会話主体の作品は難しいと思うけど
応援してますのでがんばってください!

最近、投げ出しばっかだからなーw

342 :作者の都合により名無しです:2008/01/23(水) 17:52:16 ID:d1KjgpCd0
そういや昔クロ高のSSあったけど投げ出しで終わったような・・。
この作品は最後まで書き上げていただきたいもんだ

343 :七クロ:5:2008/01/23(水) 21:21:42 ID:UdIoeEIn0
「……なんだか険悪な雰囲気になってきましたね、北斗さん」
「おもいっきり論点ずれてるがな」
「しかし、ケンカはいけませんよ。せっかくの修学旅行なんだから、
どうにかなりませんかね?」
「……うむ、妙案が閃いたぞ。貴様、今、ここで自己紹介してみろ」
「へ、何でですか?」
「いいから、してみろ。お前だって名前を呼ばれたがってたじゃないか」
「まあ、それはそうなんですけど……」
「いい機会だ。やれ」
「はぁ……、おい、皆、ちょっと聞いてくれないか。俺の名前」
「北斗の子分君、どさくさに紛れてなんてことを言い出すんだ!」
「そうだぞ、北斗の子分。いくら『旅の恥は掻き捨て』と言ってもやって
良いことと悪いことがあるんだぞ!」
「反応早いな、お前ら。ケンカしてたんじゃないのかよ」
「それはそれ、これはこれ。君が自己紹介をやり始めたら、とてもケンカ
なんてしてられないよ」
「そうそう、人命に関わってくる問題だからな」
「俺の名前は毒物か何かか!全く、北斗さんからも、こいつらにちょっと
言ってやって下さいよ」
「フッ、効果てきめんだな、俺の策略は。名づけて『アメリカとソ連の仲が
悪いんだけど、隕石が落下してきたら両国が団結して仲良くなっちゃったよ
って映画を見た気がする大作戦』だ……ん、我が子分よ、何か言ったか?」
「……いや、もういいです」

344 :七クロ:6:2008/01/23(水) 21:22:43 ID:UdIoeEIn0
「なあ、お前らいつまで馬鹿話を続けているつもりなんだ?もう、そろそろ
外に出てみようぜ。俺らはずっと新幹線に乗りっぱなしだったんだし、
もう疲れたぜ」
「………………………………………」
「え、何でまた、静かになるんだよ?俺、変なこと言ったかな?」
「いや、前田君はてっきり旅行に来ていないとばかり」
「それ、さっきやっただろ!」
「流石、前田だ。陰の薄さは半端ねえ」
「うるせえぞ、林田!」
「まあ、まあ。でも、確かに前田君の言う通りだよね。とにかく外に出て
みないことには何も始まらない。よし、外に行ってみよう!」
「前田は陰が薄くて見失いやすいからな、グレてもいいけど、
はグレちゃダメだぞ。なんつって」
「黙れ、林田!」

345 :七クロ:7:2008/01/23(水) 21:28:59 ID:UdIoeEIn0
〜砂漠〜
「ふ〜、暑いな……」
「……確かに。新幹線から出てきたのは良いのだけれど、行けども行けども
砂漠ばかり……う〜ん、このままじゃ遭難しちゃうね」
「そもそも俺ら、何しに来たんだっけ?」
「……さあ、修学旅行のはずだったんだけど、もはや観光というより乾行だよね」
「ああ、疲れた……・喉が渇いた……」
「全く、黙って聞いておれば、お前ら先ほどから愚痴ばかりではないか。少しは
シャキッとせい、シャキッっと」
「なんだよ、北斗偉そうに。お前だって遭難しかけているんだぞ」
「ふ、お前らと一緒にするな。俺は北斗財閥の次期総帥だぞ。地球上の
何処であろうと、居場所さえ分かれば救助隊が駆けつけることになっておるのだ」
「お、それは頼もしいな。流石、北斗だ」
「任せろ。俺様に抜かりはない。そこいらの愚民どもとは格が違うのだ……あ」
「どうしたんです?北斗さん」
「携帯忘れた……」
「マジに使えない奴だな、お前は。でも、運がいいぜ。あそこに公衆電話があるぞ」
「……日本の駅前でも消えつつある公衆電話が何故、砂漠で簡単に見つかるんだ?」
「つまらないことを言うな、神山。だから運が良いと言うのだ。では、早速……」
「どうだ、繋がったか?」
「いや、細かいのが無くて……どうしようかと」
「あ!?ちょっと財布見せてみろ……なんだよ、百円玉がたくさんあるじゃねえか。
それ使えばいいだろ」
「むう、しかし、それではお釣りが出ない」
「何、言っているんだよ。お前は大金持ちなんだからケチケチしなくてもいいじゃねえか」
「うむ、確かに俺は金持ちだ。しかし、だからと言って無駄遣いをすると
決めつけられては困る」
「別に無駄じゃないでしょ。命がかかっているんだから」
「まあ、北斗の言うことも分からないでもない。金持ちは貧乏人よりもケチ
だからこそ、金持ちだったりするから」
「人聞きの悪いことを言うな、林田。ケチでは無く、無駄遣いが嫌なだけと
言っておるだろうが」

346 :七クロ:8:2008/01/23(水) 21:33:35 ID:UdIoeEIn0
「もう、北斗君がケチかどうかなんてどうでもいいでしょ!それよりも命の
心配をしようよ」
「いや、問題は先の方から片付けるに限る。で、だな、そもそも金持ちと
いうのは庶民のように現金など持ち歩く習慣が無いのだ。俺が百円玉の使い方に
難儀するのもなるほど納得がいく」
「何が『なるほど』だよ!ふざけるのも大概にしてくれないか」
「ははあ、天皇陛下が切符の買い方を知らないのと一緒という訳か」
「林田君、さっきから無責任にフォローを入れるの止めて」
「まあ、とにかく、これで俺がケチでないことは証明された訳だ。さて、
次の議題は公衆電話に百円玉を使うか、使わないかだが……」
「勿論、使うんだよね」
「ああ、流石に背に腹は変えられん。若干、気にはなるが、百円玉を投入する
ことにしよう……チャリン……プルルルル……あ、もしもし、俺だ……ああ、
そうそう……だから……え、そうなの?……ふ〜ん、仕方が無いな。じゃあ、
金、勿体無いから切るぞ」
「ど、どうだった?」
「え〜とね、場所が分からないから駄目だって」
「え、地球上の何処でも救助隊が駆けつけるんじゃなかったの!?」
「だから、場所さえ、分かれば来てくれるんだって。流石に『砂漠』だけじゃ
所在が掴めないらしい」

347 :七クロ:9:2008/01/23(水) 21:35:35 ID:UdIoeEIn0
「……いや、『砂漠』以外にもヒントは山ほどあったように思うのだけど。
ベタなクイズ番組並みに」
「まあ、とにかくそういう訳だから。皆、諦めてくれ。百円玉ももう無いし」
「嘘つかないでよ!君、今、『金、勿体無いから切る』って喋ってたでしょう。
あ、内ポケットに百円隠した!」
「何を言う。証拠でもあるのか?」
「もう、しらばっくれて!ジャンプだ、ジャンプしてみてよ!」
「……ああ、もう、なんだか目眩がしてきたぜ。これじゃ、本当に
死んでしまう……ん、フレディーどうした?……お、皆!」
「北斗君、何、足のクッション使ってゆっくりジャンプしてんの!」
「お〜い、皆!フレディーが何か見つけたみたいなんだ!」
「まだ高さが足りない!」
「おい、落ちつけ神山。向こうを見てみろ」
「……ん?ああ、本当、何か建物が見える!どうやら看板もあるみたいだね。
え〜と、なになに、『BAR東京砂漠』……って、また、無駄に混乱を招く
店名だな」
「まあ、なにはともあれ、バーだったら何か飲ませてもらえるだろう。
行こうぜ、もう喉がカラカラだ」
「うん!」

348 :クロ:2008/01/23(水) 21:40:54 ID:UdIoeEIn0
投稿、終了。感想くれた方々、ありがとうさんです。一応、書き上げては
いるので投げ出しは無いと思ってもらって結構です。

349 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/23(水) 22:39:44 ID:Igi6ST2P0
申し訳ありません。続けて失礼します。
>>289より。

350 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/23(水) 22:41:02 ID:Igi6ST2P0
「ちくしょう、なんてぇ火力だ!」
 燃え盛る火炎を前に、加藤は怒りの混じった大声を吐き出す。炎の侵攻は恐るべき速度
で進み、熱帯林が次々に炭と化していく。
 業火の主は、右手に持ったステッキから炎を召喚しながら加藤を追い詰める。虫かごに
閉じ込めた昆虫に殺虫剤を浴びせかけるように陰湿で、効果的な戦法だった。すでに島全
体の樹木のうち、五パーセントが失われていた。
 逃げれば逃げるほど不利になる。かといって、真っ向から挑んでどうにかなる相手でも
ない。
 試練『魔法使い』が加藤の前に現れたのは、まだ空が白んでいる早朝のことであった。
 もはや日課となった砂浜でのロードワークを終え、食料調達に森に入ろうとした時、背
後に気配を感じた。
「──誰だッ!」
「おぉっ、あまり大きな声を出さないでくれないか。やかましくてかなわん」
「んだと……」
 シルクハットに燕尾服、片手でステッキを器用に回している。典型的な英国紳士の容貌
が、海をバックに直立していた。
「自己紹介から始めようか。私は」
 加藤は跳び上がり、上空から足刀を落とした。ところが紳士は突如消え、元いた場所か
ら三メートルは離れた地点に立っていた。
「まともに会話もできんのかね、君は。これだから嫌だったのだよ。未だに素手から進化
できない原始人と関わるのは……」
(今、一瞬で移動しやがった……ッ!)
「しかしまぁ、これも仕事だから仕方ないがね。私は魔神に仕えている魔法使いだ。せい
ぜい楽しませてくれ」
「ん、魔神? 武神じゃねぇのか」
「君、勘違いして欲しくないが、我らが魔神と武神風情を同格と思わないでくれよ。君ら
のような原始人同士の取っ組み合いを司る武神と、世界中の災厄を司る魔神とでは、所詮
レベルが違うのだ」
 加藤も武神を嫌ってはいるが、こうして第三者に貶されると不思議と腹立たしくなる自
分がいた。同じ分野(ジャンル)に属する者同士の連帯感からであろうか。とにかく口で
やり合っても始まらない。加藤は黙して構えに入った。

351 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/23(水) 22:42:11 ID:Igi6ST2P0
 息吹きにて呼吸を整え、精神をフラットな状態とする。ここから一気に魔獣を呼び覚ま
す。昨日よりも殺気は充実している。
「ウオオオオオッ!」
 黒い闘争心が燃え上がる。規格外の破壊衝動が身体を作動させる。
 攻撃だけを考えた猛ダッシュ。むろん、加藤には策がある。ローで足を壊し、必殺の目
突きで一気に勝負を決めようとしていた。
 ところが、間合いに入る前にまたしても魔法使いはフッと姿を消した。
 後ろに回り込まれたことを察知し、すぐに後ろ蹴りを放つが、やはり当たらない。
 今度は前方二メートルにいた。
「瞬間移動(テレポート)。これがある限り、君たち格闘士は私を間合いに置くことすら
かなわぬ」
「くっ、んなもん──」反則じゃねぇか、と口から出そうになった台詞を意地で押し止め
る。言及したところで意味はないし、余計自分が惨めになる。「軽く破ってやる!」
「ほほう、どう破るというのかね」
 魔法使いがステッキを軽く振るうと、先端に火が灯った。瞬く間に炎の勢いは大きくな
り、小さな太陽となった。
 あとは予想通り、太陽はステッキから弾丸のように撃ち出される。
「うおっ!」
 時速二百キロを超える剛速球を、加藤は横に跳んでかわした。
「見苦しい避け方だ。わざわざ体を動かさねばならんとはな」
 次は連射。ただ撃っているだけでなく、速度に緩急をつけ、一発一発のサイズが異なる
ので非常にかわし辛い。カーブを描いているものまである。
 避けた火球は砂を焼け焦がし、海に入ればジュワッと音を立ててかなりの体積を蒸発さ
せる。ガードできる代物ではない。
 よけて、よけて、よけて、よけて、よけて、よけまくるしかない。
 回避しながら地道に距離を詰める加藤。が、加藤が進めば進むほど、魔法使いは瞬間移
動で進んだだけ数メートルずつ距離を空けてしまう。当たり前のことだった。
 障害物がない浜辺では勝ち目は薄い。こうして加藤は思案の末、島の大部分を占める熱
帯林へと舞台を移した。

352 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/23(水) 22:44:20 ID:Igi6ST2P0
 焼き払われる森林。大気が揺れている。呼吸もままならない。
「悲しい現実だな。君の大好きなカラテは、私の魔力のほんの一握りにも及ばない」
 弾丸だけではない。火の刃、火の壁、火の津波が周囲を燃やし尽くす。木に登って魔法
使いを待ち伏せしようという企みはすっかり当てが外れてしまった。「ほんの一握り」と
いう言葉から、魔法使いが炎の出しすぎで疲労するというシナリオも捨てた方がよさそう
だ。
 加藤は火を恐れる生物としての本能からだろうか、火事に不快感を覚えていた。自然保
護を訴える精神は持ち合わせてはいなかったが、無遠慮に炎に晒される木々は好ましい光
景ではない。奥にあるドッポの墓も守らねばならない。
 加藤は足を止めた。
「……もう逃げねぇ。ここで決着だ!」
 焼け落ちる森をバックに従え、魔法使いがステッキを加藤に向ける。
「いささか蒸し暑いな。うむ、魔法を変えようか」
 打って変わってステッキに寒気が渦巻く。
 寒気は氷結し、三十センチはあろうつららが誕生した。
「……マジかよ」
「大火災の真っ只中でのつららも、なかなかオツなものだろう」
 つららが飛ぶ。速度は火球とさほど変わらない。燃えているか、凍っているか、の違い
だけだ。
 これを難なくかわす加藤。が、何かがおかしい。
 かわせばかわすほど、頭の中に違和感が募っていく。
(どこか変だぞ、このつらら──なんというか、本物じゃないっつうか……)
 どすっ。
 左大腿に、完璧に避けたはずのつららが刺さった。
「ぐあっ!」
 無慈悲な氷の矢が肉に食い込む。まず痛い。熱い。しかし冷たい。
 目測を誤った──否、そうではない。映像自体がずれている。
 加藤は最速で結論を導いた。
「あれか……蜃気楼みたいなやつか」
 理系の知識などまったく持ち合わせていない加藤でも、かすかに記憶があった。火と氷。
両者の急激な温度差が光を屈折させ、網膜に入る情報を捻じ曲げてしまっていた。

353 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/01/23(水) 22:47:24 ID:Igi6ST2P0
この作品もあと少しなので頑張ります。

次作について、色々なご意見ありがとうございます。
参考にさせていただきます。

354 :作者の都合により名無しです:2008/01/24(木) 09:45:25 ID:BZtNtlFs0
>クロさん
おお、書き上げてらっしゃるんですか
失礼な事をいってごめんなさい。完結まで楽しみに読みます
このダベリ具合がクロ高の醍醐味w

>サナダさん
ついに魔法使い相手ですかw加藤も大変だなw
火と氷が出たという事は消滅呪文も出るのだろうかw
次も書いて頂けるというのは安心&楽しみです!

355 :作者の都合により名無しです:2008/01/24(木) 13:18:47 ID:IFMZmIPO0
クロさんは以前書いてた人かな?
なんとなくこの文体見た気がする

サナダムシさんとふら〜りさんがいると
バキスレはまだ大丈夫って感じがするなあ

356 :作者の都合により名無しです:2008/01/24(木) 18:28:58 ID:lRRWMcjX0
サナダムシさんとサマサさんが今、一番長いのかな?
職人さんの中で。ふら〜りさんは別として。

クロさんにもずっと書いて欲しいものだ。

357 :七クロ:10:2008/01/24(木) 19:33:59 ID:Zr5swuvy0
〜バー店内〜
「よ、らっしゃい!」
「おう、親父、ビールだ。ビールをジャンジャン持ってきてくれ!」
「へい、毎度!」
「ふ〜、ようやく一息つけたな」
「だね。一時はどうなることかと思ったけど、本当、助かったよ」
「どうも、お待たせしました」
「お、早いな。よし、早速……ヒョ〜、うっめえ〜!」
「全く、生き返るとはこのことだ」
「ああ、染みるなあ……」
「……神山、お前、普通に酒飲むんだな」
「え、何か、問題ある?」
「いや、別にないけど……」
「だったら変なこと言わないでよ。未成年がお酒飲んじゃいけないって
法律で決まっている訳じゃないんだから……ん?」
「どうかしたのか、神山?」
「いや、なんかね、ビールを運んできた女の子がずっとこっちを
見ているんだよ」
「まあ、色んな意味で目立つ集団だからな、仕方あるまい」
「しかし、気になるなあ……オイ、君、ちょっと邪魔だから、
向こうへ行ってくれないか」
「……わ……」
「わ?」

「……わ、私の村を救ってください!」

「な、なんだ、突然にこいつは」
「お、お願いです!」
「新手の物乞いかな?キミ、出来れば他をあたってくれるとありがたいんだけど」
「おい、神山。なんだか真剣な様子じゃないか。話ぐらい聞いてやろうぜ」
「ウム、何もそうつっけんどんになることはあるまい。さ、小童、
怖がらずになんなりと申せ」

358 :七クロ:11:2008/01/24(木) 19:37:31 ID:Zr5swuvy0
「は、はい。ここから少し離れたオアシスの側に私の村があるんです。
皆、貧乏だけど、平和な村でした。でも、最近、近くで石油が取れ出して、
オアシスの水が汚染されてしまったのです。政府に苦情を言っても、
門前払いされるばかりで、一向に取り合ってくれません。水が飲めなく
なったら私の村はおしまいなんです。どうか、皆さんの力で石油の採掘を
止めさせてください!」
「……フム、話は分かった。しかし、何故、我々にそんな話を?」
「だって、皆さんはサムライだから」
「は?」
「私、大人達が話していたのを聞いたんです。日本から『オダ』がやってくるって。
『オダ』って日本の強いサムライのことを言うんでしょ?」
「織田は確かに日本の武将だが、何故、ここにそんなのがやってくるんだ?」
「……ひょっとして、この子はODA(政府開発援助)のことを言っている
んじゃないかな」
「何、神山!!ODAって……まさか、あのODAのことを言っているのか!?」
「林田君、リアクションがおかしい。君、絶対、ODAの意味分かってないでしょ」
「舐めるなよ、神山。ODAぐらい知っているぜ。ま、俺はauの方が好きだけどね」
「うん、今、思いついたんだろうけど、ODAは携帯電話とかと違うんだ」
「じゃ、あれだ。駅前留学」
「NOVAも関係ない」
「ネズミの植民地」
「TDL……って、あのさ、別に無理して会話に入ることないんだよ?」

359 :七クロ:12:2008/01/24(木) 19:41:15 ID:Zr5swuvy0
「あ、あの〜……」
「おい、そこの馬鹿二人、いつもの漫才を止めろ。見ろ、女の子が困って
いるじゃないか」
「……え、え〜と、もしかして、皆さんはサムライではないんですか?」
「ああ、大変言いにくいことなんだが、お前が言っていたODAはサムライと
一切関係がないのだ」
「でも、あなた達は日本人なんでしょ?」
「まあ、そうなのだが、日本人=サムライって訳では……」
「じゃあ、忍者?だったらサムライとは知り合いのはずでしょ。紹介してよ」
「いや、そういう問題でもなくて、え〜と、そもそもだな、お前は日本を
根本的に勘違い……」
「北斗君、僕に変わってくれないか。君じゃ埒があかない」
「むう、神山」
「いいかい、君。日本にサムライなんていやしないんだ」
「え……」
「日本にいるのはサラリーマンばかりで、刀を持ち歩いている人も、チョンマゲを
している人もいない。これが今の日本の現実だよ」
「じゃあ、なんでこの人はチョンマゲをしているの?」
「チョンマゲ?林田君のモヒカンのことを言っているのかな?」
「ああ、それでこっちをずっと見ていたんだな。納得したぜ」
「あのね、これはチョンマゲじゃなくて、モヒカンというアメリカ先住民の
髪型なんだ。まあ、彼に至ってはモヒカンかどうかも怪しいんだが」
「子供だと思ってからかっているの?アメリカ人がチョンマゲしている
訳ないじゃない。馬鹿にしないでよ!」
「だから、チョンマゲじゃなくて、モヒカン。昔、アメリカに住んでいた人は
こんな頭をしていたの」
「ウソ!ジャン・レノはハゲよ」
「……君、絶対、人の話聞いていないよね。仕方が無い、論より証拠だ。ホラ」

360 :七クロ:13:2008/01/24(木) 19:44:24 ID:Zr5swuvy0
「ナッ!?」
「エッ!?」
「見てごらん、これはカツラだよ。これでも、まだ君は彼のことをサムライだと
言うのかな」
「ウッ……」
「いいかい、さっきも言ったけど、サムライはね、仕えるべき主君を失ったとき、
日本から消えていなくなっちゃったんだよ。今いるのは、『金』という新しい
主君に仕えるサラリーマンだけ。君は今までサムライという夢を見ていたんだ。
悪いことは言わない、他をあたってくれ」
「神山、何もそこまで言わなくても」
「北斗君。僕はね、こういう世間知らずの子供を見ていると、イライラして
くるんだ。大体、僕らはただの高校生でしょ。無茶言わないで欲しいよ」
「ウソ!ただの高校生にロボや国籍不明の外国人がいるわけないじゃない!」
「だったらそんなサムライ、なおさらいないって話でしょ」
「それはそうだけど……でも、私のおじいちゃんは言ってたよ。真のサムライ
とは姿形でなく、その魂を持っているか、いないかで決まるって。魂さえ
持ってれば、ロボや不逞外国人だって、きっとサムライなのよ!」

「むう、良いことを言うな、このアマ」
「北斗さん、小さな女の子に対し、『このアマ』は無いです。あと、フレディが
いたく傷ついています」

361 :七クロ:14:2008/01/24(木) 19:46:37 ID:Zr5swuvy0
「……フゥ、折角、林田君がカミングアウトしてくれたというのに、
まだ分かってくれないのか」
「勿論よ。サムライがいなくなったなんて絶対、信じられない。例え、
お兄ちゃん達がサムライでなくても、その魂はきっと日本に残っているはずよ」
「ふ〜ん、じゃあ、君がサムライになれば」
「……え」
「サムライは魂で決まるって言ったよね。だから、君がサムライになれば
いいと言ってるんだよ」
「え、で、でも、私は女の子だし……」
「あれあれ、さっきのまでの威勢は何処行ったのかな?」
「そ、そんな風に言わなくても……私は、ただ、サムライは弱い人達を
助けてくれるって、そう教えられて……。だから、お兄ちゃん達を見たとき、
きっと、助けてくれんじゃないかと……」
「グダグダ言っているけど、ま、要するに人頼みってことだよね」
「……グスン、いいわよ、もうお兄ちゃん達には頼まない!自分でなんとかするわ!」

362 :クロ:2008/01/24(木) 19:53:42 ID:Zr5swuvy0
投稿、終了です。
>>354
クロ高のグダグダっぷりはいいですよね。全力で足踏みする青春って感じでw
>>355
前にクロ高生がデスノートを拾ったら…っていう短編を書かせてもらった
ことがあります
>>356
書き続けたいとは思いますが、遅筆なんで他の職人様のように投稿する
ことは不可能っぽいです

363 :悪魔の歌:2008/01/24(木) 22:33:12 ID:NhYn68rY0
>>327
DMCイベント翌日の鴨川ボクシングジム。一歩を応援しようと、根岸がやってきた。
「あの〜すみません。ここに幕之内……」

♪殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ! 
  殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAI……♪

根岸を迎えたのは、大音響で轟き渡る自分の歌声であった。
「お? 何だ見学者か? だったらそんなとこで寝てないで、あっちに腰掛けて」
青木が奥のソファーを指さした。げっそりした顔をして根岸はよろりと立ち上がる。
「そんなにビビらなくても、この曲だったら今日で最後だぜ。いつもはこんなことしてねえよ」
明日には会長たちが帰ってくるので、このDMC漬けの練習も今日までなのだ。
根岸は一歩のことを聞いてみたが、今はロードワーク中でしばらく帰ってこないとのこと。と
いうか、このDMC漬け練習を始めてからというもの、あまりジムにいたがらないのだそうだ。
「まあアイツの性分からすると、こういう曲は好みじゃないだろうけどよ。そこまで毛嫌い
しなくってもいいだろと思うんだが。アンタどう思う? DMC、悪くねえだろ?」
「は、はあ。まあその、好みは人それぞれですし」
……幕之内君の彼女のこと、誰も気付いていないのか。もしかしてその程度のことは、
ここでは頻繁に起こっているのかも。なんてトコだ。ボクシングジムってみんなそうなのか?
などと考えていると、何やら青木は根岸をじろじろ見ていた。
「何ですか?」
「いや、典型的な一歩のファン像だなと思ってさ。よく来るんだよ。で入門する奴も多い」
「?」
首を傾げる根岸に、青木は苦笑しながら説明する。
「こう言っちゃ悪いがアンタ、あんまり自分に自信がないっていうか、どっちかっていうと
いじめられっ子タイプだろ? 一歩のファンにはそういうのが多いんだよ」
「いじめられっ子タイプ、ですか」
「ああ。そういう連中が、何度ダウンしても立ち上がって豪快に逆転KOを決める
一歩の姿を、自分に重ねてるらしい。そういう一歩の姿を見てると、自分の中にも
一歩みたいな力が湧いてくる気がするってさ」

364 :悪魔の歌:2008/01/24(木) 22:35:09 ID:NhYn68rY0
そういえば、ネットの書き込みとかでもそういう声は多かった。それで昨日、根岸自身が
クラウザーの姿で言ったのだ。「見る者に力を与える力」と。
『で幕之内君に憧れてボクシングを始める、か。いいなぁそういうの。僕もいつか音楽で、』
とその時。入口の戸が勢い良く開けられて、
「たのもおおおおぉぉっ! って何だおい、DMCの曲? ってことは……そうか。
なるほど。やっぱりな」
大柄で筋肉質、いかにも強そうな男が入ってきた。黒く長い髪を両肩から前に垂らし、
額には「殺」の文字。クラウザーを意識しまくっているこの男を、根岸は知っている。その
見知った顔の唐突な登場に、思わず腰を浮かせて後ずさってしまった。
「い、いつもライブに来てる……」
「おお。アンタはいつぞやの、エアギターの達人」
男は根岸を見つけると、つかつか歩いてきて言った。
「アンタも来てたとはな。いや、アンタほどの熱狂的なDMC信者なら当然か。アンタも
幕之内をボコりに来たんだろ? だが悪ぃな、譲るわけにはいかねぇ。奴はオレの獲物だ」
「え?」
「おい、今なんて言った?」
男の背後に青木と、木村も立っている。
「道場破りみてぇな奴だなとは思ったが、本気でソレかよ。何なんだ、お前は」
「フン。俺のことなんかどうでもいいんだよ。ビクトリーレッドの中の人とでも呼べ。
面倒ならレッドでいい」
「? 何言ってんだ」
「だから、俺のことなんかどうでもいいって言ってるだろ。俺の目的はただ一つ」
レッドと名乗った男は、ぐぐっと拳を握り締めた。
「幕之内一歩を出せ。俺がブチ殴り倒してやるから。まさかプロボクサー、しかも日本
チャンピオンともあろう者が逃げはしねぇよな? なら匿わずに出してくれよ、なあ鷹村」
奥の壁に背を預けて立っていた鷹村に言った。青木と木村が振り向いて、
「鷹村さん、コイツ知り合いなんスか?」
「ああ。高校ん時のな」
鷹村は警戒するような視線をレッドに向けて、ゆっくりと歩いてきた。

365 :悪魔の歌:2008/01/24(木) 22:36:13 ID:NhYn68rY0
「こいつはな、オレがボクサーになる前、街でケンカばっかしてた頃……
唯一、何度やっても勝てなかった野郎だよ」
「っっ!」
「た、鷹村さんが!?」
青木と木村が、息を飲んで左右に分かれた。その間を鷹村が歩いて、レッドと向かい合う。
緊迫した空気の中、根岸なんか金縛り状態で息も満足にできずに、大男二人を見ていた。
「久しぶりだな鷹村。しかしお前、誤解を招くような言い方はよせよ。まるで、俺がお前に
全戦全勝したみたいじゃねえか。お前は一度も勝ってないが、俺も同じ。見事に全部
引き分けだっただろうが」
「同じことだ。お前如きを相手に勝てなかったなんてのは、オレにとっちゃ負け扱いなんだよ」
「はっ。つくづく変わってねぇな。だが今日は、お前と昔話をしに来たわけじゃねえ」
レッドが辺りを見回す。一歩の姿は見えない。
「心配しなくても、一歩ならもうすぐ帰ってくる。だがお前の言った通り、あいつはオレと
同じプロボクサーだ。素人とケンカなんぞできねえし、ジム頭としてもそれは見過ごせん」
鷹村が言うと、レッドは顎をしゃくって答えた。その方向にはリングがある。
「んなこた解ってる。だから、俺もグラブつけてあそこに上がるよ。一日体験入門で、
スパーリングの相手をして貰うってことなら問題ねえだろ?」
「あのな。お前が、誰彼構わずケンカ売るのは別に驚きゃしねえよ。相変わらずだなと思う
だけだ。だが、なんでそこまでして一歩なんだ?」
聞かれたレッドは、ぷいっとそっぽを向いた。
「スパーリング、許可してくれたらな。で、幕之内一歩とリングの上で対峙できたら、
そん時に説明してやるよ」
と言ってレッドは、ちらりと根岸を見た。その目で一言呟く。
『アンタなら、わかるよな』
「……え?」
目で言われた根岸が戸惑っていると、鷹村は頭をわしゃしわしゃ掻きながら、
「あ〜もう、わかったわかった。おいお前ら、用意してやれ」
「い、いいんスか?」
「聞いてたろ。体験入門スパーリングってことでオレが許可するよ。ほら、さっさとしろ」

366 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/24(木) 22:42:40 ID:NhYn68rY0
和田や西田よりも登場コマ数・セリフ数において上ではないか? とさえ思える彼です
が、それでも名前はなく、いわばモブキャラ扱い。素性が明かされる日は来るのやら。

>>クロさん(>>334冒頭で「拝啓、姉上さま」を思い出したのは流石に私だけかなぁ)
原作未読ですが会話のテンポで楽しめましたよ。ボケに対するツッコミがまたボケで、止まる
ことなく転がっていく気分。地の文がないのでどれが誰だか混乱してしまいつつも、それすら
この形式ならではの面白さになってました。「全力で足踏みする青春」……何だか楽しそう。

>>サナダムシさん
灯台元暗しというか。これだけさんざん非常識な超能力者やら人外のバケモノやらを
ドカドカ出しといて、今になって魔法使いとは……やってることは派手なのにシンプル
に見えてしまう。しかしシンプルな能力ほど、攻略が難しいとは承太郎の談。どうする?

>>規制
前回書き込んだ時、その一日……いや、ほんの何時間かでまたまた規制。で、たった
今解除されたのでこれを書き込めました。年末から、あちこちで規制が凄いようです。
にしても今年、24日中21日規制って……


367 :七十七話「拳に掛ける想い」:2008/01/25(金) 06:46:35 ID:/9Fk2jy80
バファル帝国首都メルビル、港は商船で賑わい、城下は人々で埋め尽くされていた。
それは今日も同じように続いていた、ただ一ヶ所を除いては。
浮浪者の隠れ家、子供達の格好の遊び場となる空家、廃屋地帯。
近寄ってはいけないと、親から何度注意を受けても決して効かない。
そんな少年達も、今日は何故か近寄ろうという気さえ起こさなかった。
子供は危険を察知する能力では大人よりもずっと敏感である、渦巻く闘気が見えずとも、
その場所へ近寄るべきでないことを本能で悟ったのだろう。

ここに住む浮浪者は幸運だっただろうか、不幸だっただろうか。
恐らく不幸なのだろうが、世界中の武道家は羨ましがるだろう。
外から何かがぶつかり合う音が聞こえる、同時に叫び声も。
廃屋とはいっても柱に寄り付く虫も少なく、撤去されなければ数年は過ごせた。
だが、崩れた部屋には風が吹き荒み、もう雨よけにしかならない。

何故、崩れたのか?
誰に言っても信じないだろう、二人の男が繰り広げた殴り合いでこうなったとは。
しかも直接殴ったのではない、衝撃の余波だけでここまでの損壊に至った。
全ての衝撃が拡散した今でも、握り拳をピッタリと合わせたまま立ち尽くしていた。
唖然とした表情でシンを見つめるケンシロウ。

シンが口元を釣り上げニヤリと笑うと、拳を伝って肩の肉が吹き飛ぶ。
疲労と出血、流し込まれた闘気によって限界が来た肉体は、
意思とは関係なく倒れ込む事しかできず、ケンシロウはそれを傷だらけの両手で受け止めた。

「クックックッ・・・笑えケンシロウ・・・・・死ぬ寸前までお前の拳を否定し続けた俺が・・・。
力を得てもまた貴様の拳に負けたのだ・・・前の様な怒りの拳ではない、哀しみの拳で・・・・。」
「シン・・・まさか、わざと!?」

釣り上げた口元を結び、鋭い眼差しでケンシロウを射抜く。

「見損なうな・・・俺も拳法家、出せる力は全て出した。
それよりも・・・見えたか・・お前の進むべき道は?」

368 :七十七話「拳に掛ける想い」:2008/01/25(金) 06:47:01 ID:/9Fk2jy80
「確かに伝わった・・・俺はユリアの為、天に輝く北斗七星に掛けて誓う!
この世界を決して混沌と破壊で覆わせはしない、俺達の世界の様にはさせない!」
「そう・・・それがユリアの望み・・・・・。」
「ケーンっ!」
ホークの雄叫びが聞こえる、ベアとゲラ=ハの傷を癒し終えた様だ。
二人とも息をするのもやっとの様で、立ち上がろうとはしなかったが。

「速く秘孔を解け!そいつも水術で治してやる!」
「いらぬ世話だ・・・サルーインに操られた俺の末路は、冥府で罪を悔いるのが相応しい。」
「・・・・いや、お前にはこの世界で罪を償ってもらおう。」

秘孔をつき、闘気を流し込み血液の流れを止めて止血を済ませる。
シンは感じ取ってしまった、荒野を突き進み世紀末覇者を下したケンシロウの真の実力を。
体中を熱気が駆け巡る、死にかけの細胞が目覚めていく。
これが真のケンシロウの闘気、溶岩ですら遠く及ばない熱気からは最早、迷いは感じられなかった。
(敗者には何も残らぬと思っていたが、倒れた後に見る大空がこんなにも美しいとは・・・。
ユリア・・・お前が選んだ男は間違ってはいなかった。)

ホークを新胆中から解放する為に声をかけようとしたその時。
ケンシロウの目の前で黒い風が吹いた、いや、風は目に見えない物。
では何が横切ったのだろうか、気になったがそんな疑問も吹き飛んでしまった。

ケンシロウに起こった惨劇、首を真一文字に切られている。
口を動かしているが当然、声はでない。
風の行く末に目を向けると一人の男が立っていた。
筋骨隆々とした逞しく黒光りする肉体、しなやかな弁髪。
その男が顔中を、しわくちゃにしながら笑う悪魔の形相のまま口を開いた。

「待っていたぞ、北斗の使者に本来の力が戻るこの時を。
アミバ如きに敗れるクズのような拳士の魂では拳王は蘇らん。
シンは実に上手く機能したと言えるだろう。
同じ女を愛した男としての友情、闘争において不純物でしかないが実に美しかった。」

369 :七十七話「拳に掛ける想い」:2008/01/25(金) 06:48:10 ID:/9Fk2jy80
男の健康的な黒い肌が、ドス黒い色へと変貌していく・・・いや、違う。
シンから噴き出ていた暗黒の力が生み出す霧、それが男を包んでいたのだ。

「名乗らないのは無礼だったな。
私は『烈 海王』と申す者、君等と同様クンフーに身を捧げた者。
私に本物の『力』を授けてくれたサルーイン殿の為、ここで死んで頂く。」

そう言うと男は構えを取った。
腕を上げ、肘を曲げると手が頭の位置にくるようにする。
もう片方の手を前に突き出す、防御の為ではない。
腕を引いた際の関節の連動を考えた、攻撃の為のベストポジション。
恐らくは頭の位置まで掲げた拳を加速させる一撃必殺の構え。
これは明らかにカウンターの為の構えである。

「不意打ちの無礼は謝ろう、だが万全を期すためだ。
それに何時如何なる時も闘いである武道家が、奇襲を受けて油断していたでは済まされない。」

尤もらしい事を語ってはいたが、顔は不気味に歪んだ笑いを含んだままだった。
噴き出す霧も濃さを増しており、執念に燃えたシン以上に闇に取り込まれていた。
何がこの男をここまで駆り立てるのか、シンの想いの程は拳を通じて知っている。
一騎打ちにも負け、ズタズタになった己のプライドのため愛を封印した。
勝つ為の執念、怨念、憎しみ、負の念が渦巻いていた。
では、それ以上に深い闇を心に持つこの男は一体・・・。

「言っておくが、治療用の秘孔は無駄だ。
その傷は破壊神サルーイン殿の持つ剣の欠片で付けたもの。
斬り付けた場所には如何なる治療を施しても闇の力が傷口を広げ続ける。」

腰に帯刀されている小刀らしき物の事だろう。
このまま立っていれば出血多量で死に、立ち向かえばカウンターで仕留められる。
闘いの疲労、引き裂けた拳、喉からの出血。
このままでは命が危ういという状況なのだが、ケンシロウの目から闘志が消えることはなかった。

370 :七十七話「拳に掛ける想い」:2008/01/25(金) 06:49:13 ID:/9Fk2jy80
ニヤニヤと不気味な薄ら笑いを浮かべていた烈海王だったが、その笑いはすぐに消えることになった。
ケンシロウの身体に膨大な量のオーラが纏わりつく。
何をするかと思ったら、なんと闇の力をオーラだけで剥ぎとってしまった。
その何ということは無いという態度に怒りと困惑を交えながら烈が叫ぶ。

「バカなッッ!欠片とは言え神の力だぞ!」

驚愕する烈を見据え、歩を進めるケンシロウ。
裂けた拳や喉からの流血も、既に止まっていた。

「他者の力を借り、己が強くなったと勘違いしている哀れな拳士よ。
北斗神拳は神の拳・・・その力、貴様に見せてやろう。」
喉を切ったというのに、秘孔を一突きしただけで全快している。
予想外だった、秘孔の知識を知り尽くし生命エネルギー溢れる闘気を用いる。
それがこれ程の奇跡をいとも簡単に作りだすとは。

更に歩を進めるケンシロウ、相手はカウンターの構えを取り待ち受けている。
本来ならば、廻り込んでからのフェイントを駆使して構えを崩してから挑むのがセオリー。
だがそんな気配は見られなく、真っ向から打ち破る気でいる。
それが何を意味するか烈海王は感じ取った。
侮られている、格下と見下されている、中国四千年の叡智を身に納めた自分が。
「・・・ッッ!貴様は中国拳法を嘗めたッッッ!」

ケンシロウが間合いに入るなり、怒号を浴びせる烈海王。
北斗神拳とは違う純粋な中国拳法。
肉体の造り、技の構成、戦場の中で変化していった北斗神拳は既に別物。
戦場だけではなく、あらゆる状況下において『進化』したのが中国拳法なのだ。
その進化の系譜を余すことなく集めた集大成にして完成形こそ、『海王』の名を継ぐ者。

凄まじい踏み込みは大地を震撼させ、烈風を生み出す。
関節の連動による加速が人智を超え、烈火を生み出す。
その拳が、死の星に向けて放たれた。

371 :邪神?:2008/01/25(金) 06:50:50 ID:/9Fk2jy80
またも大きく間を開けてしまいました、申し訳ない。邪神?です (0w0)オンドゥルノカオモジサイキンミナイネ・・・サミシイ
わずか数レスで烈先生に妙なフラグが・・・自分では今週のバキに並んだ気がする、妙な意味で。
でもきっとまた活躍があるよ!最近のバキ成分不足を補うために出てくれるよ!
自分も烈先生みたいな人、好きですから・・・。

〜感謝〜

>>ふら〜り氏 SSとリンク先見てDMC衝動買いしちゃいました。
       1巻しか買ってないですが『悪い恋人』は神曲だと思います。

>>サナダムシ氏 しけい荘復活ッッ!しけい荘復活ッッ!

>>249氏 >>あれ?シンって殉星だったかw勘違いしてた。
     これに不安を覚えて調べている内に占いサイトに突入。
     自分の星は・・・『遊星』
     (;0w0)占いって侮れないね

>>259氏 何やらグダグダになりそうな雰囲気になってます。
     シンは敵キャラを長期に渡って生かしておくと面倒な事になるのは承知なんですが…どうも愛着が…。
     しかし、そこを烈先生に解決してもらおう!

372 :作者の都合により名無しです:2008/01/25(金) 12:12:18 ID:Y6kb9KQt0
アク禁うざいなあ・・

クロさん、快調なペースでお疲れ様です(書きだめしてるんでしたっけ?)
神山が何気に見下ろしているような林田との掛け合いが原作から好きです。
この作品にもその特徴が出てて楽しいです。林田はODA知らないよねえ。

ふら〜りさん感想ともどもいつもお疲れ様です。
あのジムの面々もふら〜りさんにかかるとこうなってしまいますねw

邪神さん、いいペースだと思いますよ。1ヶ月くらいあくならともかくw
シンとの対決が決着したと思いきや、烈先生まで出てきましたかw
原作ではレイプされている烈ですが、SSくらいは活躍してほしいなあ

373 :作者の都合により名無しです:2008/01/25(金) 16:08:31 ID:vcvb3UFS0
モブキャラってどんな意味?
ふらーりさん、クロさん、邪神さん乙です。
ベテランの方も好調に書いてくれて
クロさんのような新人さんも頑張ってくれれば
スレの完全復活も近いですな

374 :作者の都合により名無しです:2008/01/25(金) 18:23:06 ID:G7eL1baC0
クロさんには頑張って欲しいもんです
短編や読みきりとかでもちょくちょくと

邪神さんとかスターダストさんとか超長期の連載してる人や
ハロイさんみたいに数本掛け持ちしてる人は凄いけどな

375 :七クロ:15:2008/01/25(金) 23:02:23 ID:whlbyvv30
>>361より
「ああ、行っちゃった……」
「おい、泣いてたぜ、あの子」
「ふん、思い通りならないからって、癇癪起して。子供はこれだから嫌だよね」
「……神山、いくら何でもそれは無いと思うぞ」
「なんだよ、林田君。僕はただ子供に現実というものを教えてやっただけだよ」
「それにしたって、言い方ってもんがあるだろう。どうしたんだ、お前らしくない」
「そうだな、今日のお前はおかしいぞ」
「な、何だよ、皆して。全く、面白くないな……オヤジさん、お酒!もっと
強い酒を持って来て!」
「へい、ただいま!」
「おい、おい、まだ飲むのかよ。いい加減にしとけよ」
「そうだぜ、飲み過ぎは体に毒だぞ。あと、いい加減、俺のカツラ返せ」
「もう、皆、うるさいなあ……オヤジさん、お酒まだ?」
「へい!今、お持ちします。はい、どうぞ!」
「お、来た来た」
「いや〜、すいませんね。ウチのバイトがお騒がせしちゃって」
「まったくだよ、ちゃんと教育しておいてよ」
「はい、注意しておきます……でも、あの子も可哀想な奴なんですよ。
いやね、あいつは両親を早くに亡くしまして、ずっと祖父に育てられていたんです。その
祖父ってのがどうやら日本人らしく、何でも桜の花を見たいという理由で水を引いて
オアシスを作ったようなんですわ。おそらく、赤ん坊の頃から、ずっとサムライの話を
聞かせられてたのでしょうなあ。それで、お客さんにあんなことを……」

376 :七クロ:16:2008/01/25(金) 23:05:44 ID:whlbyvv30
「そんな理由があったのか……」
「桜の花を見るためにわざわざオアシスを作るとは恐れ入るな。で、その
おじいさんとやらは?」
「つい最近に亡くなりました。あの子にとっちゃ、あのオアシスや桜の樹は
形見代わりなんでしょう。しかし、オアシスを守ろうにも周りの人間は皆、
買収されて、あの子一人ではどうにも……。今ではガラの悪い連中に毎日、
立ち退きを迫られている始末です」
「むう、弱肉強食が世のならいとは言え、やりきれん話だ……」
「ですね。あんな小さな子なのに……」
「オイ、オイ、どうしたの、辛気臭いな。いくら可哀想でも僕らが責任感じる話
じゃないでしょ」
「まあ、それはそうなんだけどさ……」

プルルルルル

「お、何だ?メカ沢から音が出てるぞ」
「ガチャン、はい、もしもし……うん、うん……あ、そうなのか。分かったぜ。
皆、メカ沢βから連絡だ。なんでも俺らは手違いで京都とは違う駅に着いて
しまったらしい。状況を把握次第、発車する予定だから、皆、新幹線に戻れとさ」
「ああ、分かったぜ……しかし、一体、何をどう間違ったら、京都行きの新幹線が
砂漠に漂着するんだ?」
「なんかな、俺らの新幹線は国外逃亡を目論んだ逃亡犯にトレインジャックされて
いたらしいぞ」
「え、マジで?全然気付かなかった……しかし、どうやって電車で砂漠まで?」
「知らん。まあ、『線路は続くよ、どこまでも』と歌にもあるからな、ノリで
来れちゃったんだろ」
「いや、いくらなんでも無理あるだろ、それ……」

377 :七クロ:17:2008/01/25(金) 23:08:21 ID:whlbyvv30
「まあ、何にしても、ここでクダを巻いていてちゃ仕方ないしな。さっさと
戻るとするか」
「ああ、そうしようぜ。おい、神山、行くぞ」
「…………………………ウィ〜」
「神山ってば!」
「……ヒック……僕のことは放っておいてくれないか」
「あ?一体、何だってんだよ。今日のお前は本当におかしいぜ」
「……フン、僕だってお酒を飲んでいたいときもあるさ。お気楽な不良さんには
分からないだろうけど」
「何だよ、その言い草は。ああ、そうかよ。だったら一人で好きなだけ飲んで
たらいい。おい、皆、行くぞ!」
「いいのか、あいつ一人、置いていって?」
「俺の知ったことか!放って置けよ」
「……神山、出来るだけ早く帰ってこいよ」
「ウム、皆、待ってるからな。ガチャン、カランカラン……」
「…………………………」
「…………………………」

〜BGM〜
♪Baby, do you understand me now
Sometimes I feel a little mad
Well don't you know that no-one alive
Can always be an angel
When things go wrong I seem to be bad
I'm just a soul who's intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood

378 :七クロ:18:2008/01/25(金) 23:12:16 ID:whlbyvv30
「…………………………」
「…………………………」
「……ウップ……お酒って……まずいな」
「そりゃ、初めての酒はまずいさ」
「林田君……!」
「おまけに一人で陰気に飲んでれば、悪酔いするのも当然だ」
「……何で戻ってきたの?」
「おっと、勘違いするなよ。俺はただカツラを返してもらうために戻ってきた
だけだ。悪酔いしたダチとウダウダやる趣味はねえ」
「そう……」
「まあ、たまには落ち込んで飲むのも悪かねえけどな。適当にしておけよ」

『〜♪I'm just a soul who's intentions are good
 Oh Lord, please don't let me be misunderstood」

「お、アニマルズが流れているなんて、砂漠の店にしちゃ、気が利いているぜ。
『私は善良なだけの人。どうか、誤解しないで』か……」
「……何かの皮肉かい?」
「ハ、そんなつもりはねえ。ただ、もし、お前がいらついているのなら、
溜め込むのはもう止めにしとけばいいのにな、と思ってな」
「…………………………」
「なあ、いい加減吐いちまえよ。俺なんかが相手でも、ちっとは楽になるぞ。
少なくとも酒に逃げるよりはマシなはずだ」
「……うん、ありがとう。悪いね、林田君」
「まあ、いいってことよ。気にするな」
「じゃあ、お言葉に甘えて……ウッゲェェェェェェェ」
「え!?」

379 :クロ:2008/01/25(金) 23:14:45 ID:whlbyvv30
今回の投稿、終了です。ゲロ吐いたシーンでなんなんですけど。

>>ふら〜りさん
温かいお言葉ありがとうございます。「拝啓、姉上さま」って一休さんの
ことですか?あ。あれは「はは上さま」か……歳とか推測しないでもらうと
ありがたいです。

>>372
林田はODAとか以前に知能テストでゴリラに負けてますからね。
中学生ぐらいの頃は周りがこのレベルの馬鹿ばっかで楽しかったなあ。

>>373
ふと、見渡せば常連さんばかりでビビってしまいますが、頑張ります。

>>374
自分が書き始めて気付きますけど、皆、凄いですよね。自分なんか、
書いている最中はPC立ち上げるだけで、鬱入ってました。

まあ、久方ぶりにSSスレに足を踏み入れさせてもらってますけど、
DMCとはじめの一歩がコラボしていたり、加藤が魔法使いと戦っていたり、
ケンシロウや烈がSAGAってたり、相変わらずのSSスレで安心しました。
むしろ、バキとか刃牙とかBAKIとかオリジナルの方が色々心配な状況ですね、
こりゃ。

380 :作者の都合により名無しです:2008/01/26(土) 08:44:03 ID:2E/IFjMj0
神山はおっさんくさいなあw
でも原作でもこんなかんじでしたね。林田と本当に友達か?って感じで
メカ沢がわずかでも出ると嬉しい。

381 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:00:53 ID:15XQoiXj0
第031話 「斜陽の刻 其の参」

(いまだ非常ベルがけたたましく鳴り響く施設よりお送りします!
さてさて当該下水道処理施設の地下にありますのは二つのお部屋!

・処理施設 ← こちらがメインゆえ非常に広いっっ!
・処理管制室 ← 不勉強ゆえ実情は分かりませぬが、ともかく階段
を下ってすぐにあり、ここを通らねば処理施設へは行けませぬ。

さーてさて! 階段を下るとそこは処理管制室でありました!
広さはおおよそ十畳ほど。むろん畳などある筈もなく床はタイル張り。
端っこの方にはビーズをまぶした巨大なカステラみたいな装置が幼児……
くすん。そう、サイズとしては幼児が潜り込めそうな幅をですね、壁と
一拍置いて設置されております。ちらりと見たところ、かような装置が
点々とありまするがいずれもサビが浮いて傷も多くどうにも古めかし
いのが気になるところ。
で、入って正面には頑丈そうなガラスが細長く張られておりまして、処
理施設をがーっと見せております。もちろんそこがすべての景色で
はありませぬゆえ、ガラスの上にはモニターがひぃふうみぃ……五つ! 
五つ設置されておりまして、多種多様様々なアングルから施設を映し
ておりまする。時おりその景色がカチカチと切り替わってるのを鑑みま
するに処理施設には何十台ものカメラが設置されており一定時間ごと
にアングルを切り替えているのは必然! そしてこのモニターの中で
は先程より血相を変えたホムンクルスの方々がひた走っております。
行き先はどこでしょう? や・は・り、ここでした! さぁー、勢いよく扉
を開けて入ってきましたのは、いずれも一目でそれと分かる物騒なる
お歴々! 数は……うーむ、何か考えあってでしょうか、数は減少傾向
にあり、三名。侠客といえましょう。あ、なにゆえ侠客かと申しますれば
かの司馬遼太郎大・先生が著書の峠の上巻序盤のどこそこにて……
ごほん。ノドをとんとん叩いて声を低くする作業しながら思います。


382 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:03:36 ID:15XQoiXj0
『侠客の侠の字は人べんに挟むとある、左右の子分に挟まれそれを
従えている図をいう』

と仰られておりますゆえに!
ちなみに不肖は内心にて声を低くして読んでおります。皆様がたにお
かれましてそうして頂ければ実に幸い……という事情はさておき入って
きた侠客の皆様方、大いなる悪意と抵抗と殺害意識を持ってばーっと
床蹴り跳躍しました。爪が伸びたり牙が伸びたり毒液飛ばしたりしてお
りますのはさすが人外きわまるホムンクルスといったところ! さーど
うなるか! ちょ、あ、ここでは少々アングル悪いので……うんしょうん
しょとハイハイしつつ物陰から首を伸ばしますれば……おお、おお!
入ったァーッ! ……はっ! 何が入ったか説明不足ですので状況説
明に戻りましょう。さぁPC前の作者さんマイクお返しします)

フヒヒwwww武装錬金組曲のコメの伸びがいいwwwww やはりネタを取
りいれたのは正解だったぜwww 今朝78だったのがいま114だぜww

(むむ。何やら別作業に熱中されておられるご様子。つまりコレは不肖
に対する全権委任と捉えて前進いたしましょう。というかメタ的なるネタ
はお控えくださるよう注進したくもありますが、閑話休題!

不肖が階段下ると、この部屋で早坂秋水どのがホムンクルスと大戦闘
を繰り広げておりました!

状況説明、以上! いやはや実に恐ろしい。不肖がそろーっとドアを
明けて中を覗きましたら残党の方の首が「ばぁん!」と鉄製のドアに
当たってものすごい音が鳴りました。そしてナムナムと内心喚きつつ
そろりそろりと進入せし部屋はまさに酸鼻の地獄絵図! よくも狭
い室内で二尺八寸あろうかという日本刀を振り回せると感心するほど
に早坂秋水どの動きは機敏にして機能的! 斬り、そして突くたびに
相手どるホムンクルスの方々は絶命の憂き目にあっております。飛ん
だ五体は枚挙の暇ありませぬ。さらに途中、大立ち回りのまきぞえで

383 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:05:46 ID:15XQoiXj0
部屋中央におかれていた机から使用済みの紙コップやらいかがわしい
雑誌などばらばらと吹き飛び、灰皿からは灰神楽が舞い、部屋の装置
ももはやぼこぼこ。刀傷まみれであります。柱の傷はおととしの〜♪
といいますが、去年のはどうしてないのでしょうか。それはさておき、
いま、侠客の方々も同じ末路を辿りました。入ったのは斬撃であります。
しかしこの部屋にちまちまと戦力を投入する残党の方々の精神がど
うも分かりませぬ。戦力の逐次投入は愚であります。かの日露戦争
において旅順を落とせなかった一因もそれでありまして、機を見計らっ
てがーっと大戦力を投入して相手の戦略構想を打ち砕いてこそ勝利
はあると不肖は思うしだい。……ぬ?)

場に静寂が満ち始めた。
あるのは肩をゆする秋水の激しい吸気と小札のかすかな鼻息のみ。
(おお、どこからとはいいませぬが戻られましたか)
恐らく部屋での決戦を不利と見たのだろう。
モニターにちらほらと映る残党の影は水に足を浸しながらいずれも身
じろぎ一つしていない。
処理施設から漂い始めた静寂の気配はしかし、やがて来る苛烈さの
前触れに過ぎない。
そう言い聞かせながら秋水は粛然と呼吸を整え、歩みを進めた。
(なるほど! 作者とキャラのメタ的な会話を避けて通常進行に戻られ
るのですねっ! なれば不肖も話しかけるのはやめましょう!!)
物陰で何やら意味不明のきちがいじみた考えに走る小札などはさて
おき秋水が扉を開けると、えもいわれぬ臭気が部屋に流れ込んできた。
眼前に広がるのは暗闇と……数々の白い柱。
目を凝らすと、暗闇が制御室の光をかすかに反射しているのが見えた。
水面。そしてその中から何本も佇立する極太の柱。
それを囲むようにして合金製のタラップが部屋の四辺に限りなく伸びて
いる。

384 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:07:53 ID:15XQoiXj0
秋水が歩を進めると足元より金属音が反響した。
同時にそれ目がけて大きな影が襲いかかってきたが難なく斬り伏せる。
死骸が水面に落ち、半透明のしぶきが秋水の鼻先まで飛んだ。
その過大なカルキ臭さで秋水は気づいた。
どうやらいま眼前にあるのは処理済みの水らしい。
とはいえ嗅覚を集中するとかすかに汚物の匂いもするから、はるか遠く
には未処理の下水が湛えられているに違いない。
「よく来たな裏切り者のクズが!」
嘲るような声とともに見覚えのある光輪が飛んできた。
「……ああ」
名状しがたい怒りを声に滲ませながら、ソードサムライXを眼前にかざす。
刀身に触れた光輪が瞬く間に縮小し、やがて下緒から放出された。
その光で、秋水の左右にあるタラップ、そして正面に影が浮きぼられた。
左右にいたのはホムンクルスの群れ。すでにみな正体を現しており、
さまざまな異形が充満している。階上と制御室でかなりの数を討った
とはいえ、いまだ七十体はいるように思われた。
そして正面。
学生服に身を包んだ見慣れた姿。
髪を逆立て眼鏡をかけた酷薄そうな青年。
以前は鈴木震洋と呼ばれていたその男は、いまは逆向凱と名乗り、
左右の一団を率いている。
逆向の右手でぶぅんという唸りが上がった。
彼の足下に風が吹き、静かなさざ波が広がる。
チェーンソーの武装錬金、ライダーマンズライトハンド(ライダーマンの右手)
触れた者を百六十五分割する恐るべき武装錬金である。
彼はそれを手にすると地下施設が崩壊せんばかりの声で叫んだ。
「死にたくなければブチ殺せクズども! 逃げる奴は俺が……殺す!!」
呼応するように左右からおぞましい声があがり、秋水に殺到した。

385 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:12:24 ID:15XQoiXj0
「てな感じで今ごろは戦っているんじゃないかな」
住宅街。
尖った黄色い顎に手を当てながら、ムーンフェイスはひとりごちていた。
月光がさんさんと注ぐ夜は心地よい。歩調はひどく軽やかで、声も柔らか。
「しかし、なんだな。せっかく残党を囮のようにしたんだ。いっそ」
くつくつと口を綻ばせながら、高らかな声を喜びに歪める。
舌舐めずりなどはしないが、ひどい食欲が言葉の端々にこぼれており
涎の湿りすら聴取できそうだと”彼女”は思った。
「ヒマつぶしの散歩なんかやめて、寄宿舎を襲ってしま……」
彼は何やら異常な気配を感じ、歩みを止める。
「むーん?」
脳裏をよぎったデジャビュは、

──任務失敗の二人は私の夜食にさせて頂くけどね

秋水たちの敗北後の奇襲、防人の姿を取っていた。
(と、いうコトはもしかすると、かな?)
ちょっと目をぱしぱししながら可愛らしく小首を上げると、そこには。
巨岩。
巨大なる岩があった。
「むぅぅぅぅぅぅぅん!?」
さしもの人外でもたまげたらしい。
ほうほうの態で右斜め後ろに側転しかろうじて避けた。
着地はひどく不安定で足首が軽く悲鳴をあげる。
だが回避は回避。喜ぶべきか。岩に巻き込まれるよりはいい。
辺りは局地的な地震に見舞われたかのごとく震撼した。
アスファルトに着弾した巨岩が、巨大な亀裂を走らせる。
岩の直径はそこそこの幅を持つ道を完全に封鎖するほどだ。
中心線付近などは道幅をオーバーしており、両側でブロック塀が瓦礫
を垂らしているのを散見したムーンフェイス、生唾呑んで黄色い頬に
一筋の汗を垂らした。

386 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:24:03 ID:15XQoiXj0
「こりゃビックリ。一体誰の仕業かな? もしかすると以前きた剣持君
のような救援の戦士とか? あ、それとも?」
奇麗に肘を曲げて人差し指と中指を揃えると、声がした。
「リーダーからの伝達事項その三。間隙を縫う者は必ず現れる……」
首をゆらりと動かし声を追うと……
岩石着弾の余波か。
やや傾いた電柱が目に入る。
その陰に影がいた。
影としか形容できなかった。
月夜だというのに目鼻立ちが分からないほど暗闇に馴染んでいた。
だから大股で一気に距離を詰めてきたコトに、ムーンフェイスは俄かに
気付けなかった。
「リーダーからの伝達事項その四」
眼前でひゅっと風が走った。同時に尾を引く光も。
刃物による攻撃。
そう踏んで持っていた月牙を反射的に引き上げ対応する。
金属が衝突する鈍い音と苦い痺れが手元から広がる。
「無辜の人間が殺される様を見逃すなかれ……私の解答は、了承」
影は驚くべき行動にでた。
片手でぎりぎりと月牙を制しながら、残る片手でムーンフェイスのみぞ
おちに拳を叩きこんだのだ。
たまらずえずき、後方へ吹き飛ばされるムーンフェイス。
その速度よりも早く影は動いた。
たぁんっ! とつま先で地を蹴るなり吹飛ぶ長身と平行に滑空し……
影の左掌が右の拳を包んだ。
それが半呼吸の間に左肩に引きつけられ、猛烈な反発を伴いながら
右肩ごと一気に沈む。
肘がムーンフェイスの顔面を捉えた。
三日月にクレーターが空く。ヒビも欠落も。
金属質な皮膚が舞い飛ぶ中、長身は顔からアスファルトに叩きつけられた。
物言わぬ体が首を起点にどうっと跳ね、乱れ走る亀裂の上で卍を描く
ようにぴくぴくと痙攣した。

387 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:25:46 ID:15XQoiXj0
が、影に容赦はない。ムーンフェイスの左胸へ踵を猛然と撃ち下した。
住宅街に小気味いい音が響く中、洒脱な燕尾服の怪人は消滅した。
人のざわめきはない。巨岩が道路に落下したというのに、だ。
みな身を潜めて正体不明の現象に怯えているのだろうか?
それは、違った。
周辺で正常な活動をしている住民はいなかった。
どの家でも。
どの部屋でも。
住民だったモノが粘液にまみれながらびちびちと跳ねていた。
それらは似ていた。
人類ならば必ず通る、生誕以前の不定形に。
産科医療において「それ」の名が与えられるのは妊娠第八週という。
ヘブライ語ではゴーレム。日本語名は……
胎児。
そう、いま付近の住宅でのたうつ物体は、いわゆる胎児に似ていた。
人の形をようやく成した、しかし赤子には程遠いぶきみな姿。
彼らは数時間前まで来ていた服の上で、

『まるで年齢が逆行したように』

胎児じみた姿で時おり名状しがたい呻きを上げている。
「……さわげばきっとヤジ馬がきます。くれば巻き込まれます。……」
「だから君の武装錬金の特性で、沈黙させた……ってところだね」
「はい……そう……」
影は言葉半ばでびくりと震え、それきり沈黙した。
閉じた口から鮮血がどろりと溢れ、みるみるうちに体から力が抜ける。
顔は俯き両手がだらしなく垂れ下がる。
それでも倒れないのは、胸から生えた手のせいだろう。
黒長袖の先で白い手袋をはめた腕は無論ムーンフェイスの物だ。
彼は分身しながら背後に回り、影の章印(人間型ホムンクルスの急所)
がある胸を刺し貫いていたのである。
「そして今度は私が君を」

388 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:28:51 ID:15XQoiXj0
腕を引き抜く。支えを失った影が前のめりにゆっくりと倒れ始める。
「仕掛けてきたのはそっちだからね。容赦はしないよ」
更に影の前にもう一体のムーンフェイスが現出し、手にした月牙を影の
額に突き立てた。
「むーん。動植物型でも人間型でも、これで決まり」
「……いいえ」
「むぅん!?」
月牙を握っていたムーンフェイスは目を剥いた。
ゾンビか何かか。
急所を貫かれたはずの影が腕を振り上げ、ムーンフェイスの手首を斬
り落とした。同時に態勢を立て直しつつ腕を伸ばし、章印を貫いた。
影の額からずるりと月牙が抜け落ちて、生々しく地面に衝突るのを合図に……
(むーん。確かに手ごたえを感じたのにどうしてかな? 章印を貫かれ
て死なないホムンクルスなんて見たコトも聞いたコトもないよ。パピヨン
君のようにそもそも章印がないのか、それとも武装錬金の特性で回復
しているのか……分からないね。しかしいずれにしろ)
ムーンフェイスは考えをまとめ、分裂し、全て跳躍させた。
数は三体。それぞれしなやかな攻撃態勢をとりながら、影に向かう。
「数はこちらが多いからね。持久戦になれば不利なのはそちらの方」
「そう……ですね。だから私にも都合が……良いです」
影はポケットから何かを取り出した。
小石だ。掌に軽く収まるほどの大きさの小石が三つ。
それを片手の刃物で軽く削ると、上空へ放り投げた。
「むーん。何をやったか知らないけど」
「むざむざ当たる私たちじゃないよ」
中空の月顔たちは笑いながら身を捻って石を避ける。
落下により影との距離はあとわずか。鋭い月牙が顔へと迫り。
「……別にさっき当てる必要はありません」
月明かりの中、一人が気づいた。
地上で。小さな小石の影がぐんと巨大化している。
意識を共有するムーンフェイスだ。
一人の気づきは残りに伝播し、同時にひどく陽気な仰天をも共有した。

389 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:32:53 ID:15XQoiXj0
またもや巨岩が落着したのである。
数は三つ。道幅に溢れたそれは両側の塀すらも圧壊せしめ住宅地の
庭先にもうもうたる粉塵を捲いた。喉を荒々しくする茶色い視界の中で
は石灯籠や盆栽などが無様にへし折れているのが見てとれた。
三体のムーンフェイスも末路は同じく岩の下敷き。
二体はかろうじて顔や手を出しているが、残る一体はつま先だけで虫
のようにもがくのみ。
「小石も元を正せば……大きな岩。河で削り削られ年を取り、小石にな
ります。だから年齢を……奪って、若返ると……こんな風」
分身の利点は何か? 
先程のように一体を囮に不意打ちを仕掛けられるというのもあるが、
そこに「一体二体やられようと攻撃機会の喪失にはならないという」条
項を書き加えてもいいだろう。
「みなぎるぱっしょん……ほのおのしょーたい(む)っ……」
凱歌口ずさむ影の後ろからムーンフェイスが満月を筆頭に八体ばかり
襲来したのも、上記の文法から見れば実に正しい。
……相手の戦闘力に対して有効か否かを考えなければ、だが。
「ぶれーくあう……突き破れ」
影はゆっくりと振り向き。そして。
「そして時を超え未来に……!」
刃物を握った裏拳が満月いっぱいに広がるクレーターを作った。
仰天に瞳見開く仲間二体に吹きとんだ満月が激突しバランスを崩した。
それとは別に貫手が当たり前のように手近なムーンフェイスの胸にめ
り込み問答無用で消失させた。
戦況はめまぐるしい。抜き手で伸びきった影の腕を切断したムーンフェ
イスがいたが、次の瞬間には目から火花散る思いをする羽目となった。
顎を蹴りあげられたのだ。
姿勢のいい長身が蹴りの衝撃で上へと強引に伸びきり。
突き抜けた衝撃が生首を空に飛ばした。

390 :永遠の扉:2008/01/26(土) 12:39:00 ID:15XQoiXj0
影を三体のムーンフェイスが包囲し同時攻撃を目論んだが……
影の背中から二枚の巨大な羽が展開し、鋭く尖った鉄色の羽毛がミ
サイルのように三体の五体を消し飛ばした。
(むーん。こりゃなかなか手ごわいね。ダメージは与えられるけど)
影がバランスを崩した二体の間へ踏み込み、大きな弧を右手で描いた。
刃にきらきらと月光が反射し、金のアーチが二体のムーンフェイスの
胸をそれぞれ掠め去る。
次の瞬間。彼らは。
なぜかホムンクルス幼体となって地面に落ちた。
「相手が相手だけに……。はい。稼ぎ時……です」
正体不明のつぶやきを聞きながら、またも現れたムーンフェイスはた
め息をついた。
「で、そういう君は一体何者?」
影は相変わらず影のまま。
ただ声と仕草でかろうじて少女らしいと思われた。
背は低い。百九十近いムーンフェイスと比べるまでもなく、子供じみて
いる。とはいえ小札よりは明確な上背を持っているが。
「……鐶光(たまきひかる)。ブレミュの一員、です。リーダーからの命
により、あなたの寄宿舎襲撃を防ぎに……きました。言葉、足りてます?」
「十分!」
「はぁ、ありがとうございます」
影はぺこりと頭を下げた。
「やっぱり。総角君の部下というワケだね」
蹴り飛ばされた生首が地面に落ちて金色の粉を撒くのを見て、ムーン
フェイスは「やれやれ。ちょっと困った状況だね」と肩をすくめた。
ちなみにその近くでは、ムーンフェイスたちが岩の周りで板とテコを使っ
て仲間の救助に当たっていた。

391 :作者の都合により名無しです:2008/01/26(土) 13:12:43 ID:YCy9cukk0
投稿規制か。
他所で支援します

でもちょっと多すぎ・・

392 :永遠の扉:2008/01/26(土) 13:22:22 ID:15XQoiXj0
ふう。なんとか書き込んでやったぜ。ざまあ見やがれ糞Refiめ。
どうも。コテはありませんがマンガ喫茶よりスターダストがお送りしました。
ちょうどいま座っている席右手の本棚には武総錬金全巻が並んでおり、実によろしい。

>邪神さん
興味がでたので件のキャラ、ニコ動にて拝見しました。クレアクレア連呼するのを。
あ れ は ひ ど い (いい意味で)
そしてこれが武総錬金の話題なれば「てめー、俺だってそうしたぜ!」です!

>>106さん
かつて永遠の扉作中にてヴィクトリアが秋水を「いくらでも騙せる真面目君」
と評して事がありますが、戦闘でもわりとそうですね。というか、その真面目
さゆえに有利が覆される状況もいずれ。小札は好き勝手喋らせると予想以上になる不思議なキャラですw

>>107さん
ふはは。なんであれ生産物を楽しんで頂ければ幸い。次はうしとら組曲などご用意しております。
うーん、小札問題はいろいろ、ですね。例えば電車の中で騒いでる子供みて鬱陶しいなーと
自分も思ったりするんですが、親から見れば子供可愛い訳で、自分もそういう親バカなのかも?

>>108さん
るろうにでいうなら「雷十太編の終盤付近」でしょうか。……逆向が雷十太かはさておき。
ここからあれやこれやを処理して、齋藤一編並みのバトルやって、それから京都編と人誅編
の混じった話へとスライドする予定なんですが、いつになるやら。前もこんなん言ってたなぁ……

>>109さん
おお、覚えていてくれましたか。感謝! 前々回辺りで拉致られた照星さん出そうと
思ったんですが一案浮かんだのでもうちょい先になります。なんというか、エピソード
の終わりと始まりの予感を感じさせる描写をやりたいのですよ。

393 :永遠の扉:2008/01/26(土) 13:24:16 ID:15XQoiXj0
ふら〜りさん
秋水はともかく小札の強さは割と悩む要素であります。あまり強いと飄々とした態度が
嫌味になりますので。そちらのフォローはいずれとして、いずれは文句なしの強敵相手
に大苦戦する展開も考えていて、勝ち方戦い方を考えるとひどくワクワクしますw

さいさん
そりゃあもう困惑と苦悩は素晴らしいw 三十話冒頭のアレは淡々とした斬り込みの方がいいかなぁーと。
「急いでいる。敵がいた。人間じゃないのを確認した。じゃあ倒す」ぐらいがいいですし、
それにメリハリ的にも場所と視点変えた方がいいし、何より漫画SSなら漫画じみた導入部がいいのですよ。
「今週のジャンプ漫画の1ページ目。ありきたりのフォントでタイトル名が入ってるようなページ」
そんな感じの導入部を意識してみました。で、漫画なら二体のホムンクルス斬り捨てる部分は見開きで斬撃
一閃させて派手にやるところですが、そこは司馬遼や横光好きな自分、淡々とした方を選んでしまいますw
ムーンフェイスについては「百六十五分割は一体にしか通じないけれど、奥の手を持っているといけない。
念のため一体ずつ出して同時の全滅は避けよう」という彼なりの思惑があったり。
そういうやらしさと不気味さと底知れなさがひしひし感じられて、あの場面は楽しかったです。

>>391さん
ありがとうございますw 助かりました。
それにしても規制規制で息苦しい昨今、なげかわしい。
ま、何か作るのみですよ。面白い物は怒りを解いてくれるはず。

394 :作者の都合により名無しです:2008/01/26(土) 13:28:13 ID:YCy9cukk0
漫画喫茶ならたくさん投下したいですなw
お疲れ様ですスターダストさん
妙に高い小札の実況と、沈着冷静な秋水、得体の知れない
ムーンフェイスの対比がよかったです。
たまきってオリキャラですか?

395 :作者の都合により名無しです:2008/01/26(土) 15:30:18 ID:2E/IFjMj0
ムーンフェイスは結構好きなキャラなのでピンチでも嬉しい。
でも、まだこの物語も中盤ですか。
確かに話数カウンターが3桁までありますからね。
最低100話で最長999話?w

396 :作者の都合により名無しです:2008/01/26(土) 19:19:33 ID:FWOUNj390
クロさん毎日アップはうれしいです。
神山って酒絡むといっそうウザくなりましたっけ?w
あとこのBGMはどんな曲でしょう?

スターダストさんアク禁止大変ですね。
氏の小札をはじめとするオリキャラへの愛と
原作キャラへの敬意が伝わってきますなー。

397 :作者の都合により名無しです:2008/01/27(日) 01:28:01 ID:GZawc/cv0
クロ氏のようにある程度書き貯めしておいて
毎日うぷするのが理想かもしれない
間をおかず楽しめる。

永遠の扉みたいな長編連載は無理だけどね

398 :七クロ:19:2008/01/27(日) 15:22:46 ID:uSuosufb0
>>378より
「……ふぅ、すっきりした。いや〜助かったよ、林田君。君のカツラが役に立った」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
「……で、いつから僕の気持ちに気付いていたの?」
「う〜ん、初めっからかな。なにしろ、あの女の子の目はクロマティー高校に
入ってきたばかりのお前とそっくりだったから」
「……そうか、そうだよね。あの頃の僕はクロ校を変えてやると理想に燃えていた。
どんな環境でも、どんな人でも意思さえあれば、どうにでもなると信じていた。
それが、今じゃ、どうだ。現状に甘んじ、ただ日々を無為に過ごすだけ……
そんな僕があの子の一途な視線に耐えられないのは当たり前の話だよね」
「……別にお前に限った話じゃないさ。誰だって昔は夢や理想を持ってただろうが、
いつまでもそんなこと言ってられないからな。皆、自分を誤魔化して現実と上手く
やるしかないんだ」
「うん、別に僕だってそれが全部悪いと思っている訳じゃないんだ。ただ、あの子の
目を見ていると、『お前は誤魔化しているんだ。俺は全部知っているんだぜ』と
まるで昔の自分に責められているような気がしてきて……、それが怖くて、つい、
あんな酷いことを……。ああ、僕は何てことをしてしまったんだ」
「過ぎたことだ、気にするなよ。あの子はたった一人で大切なものを守ろうと
しているんだ。お前が心配するほどヤワじゃねえさ」
「……うん、本当に強いよね、あの子は。見たことなんてないけどさ、ああいう
強い人間こそが真のサムライにふさわしいんだろうな」
「サムライか……。侍の語源は主君の側にいるという『さぶらう』から
来ているんだってな。別に主君とかいなくてもさ、自分よりでっけえ『何か』を
信じている奴はそれだけで立派なサムライだと俺は思うぞ。自分より偉大な
ものを信じる奴は自分自身を越えられる。強いからサムライなんじゃない。
サムライだからこそ人は強くなれるんだ」

399 :七クロ:20:2008/01/27(日) 15:27:06 ID:uSuosufb0
「なるほど、確かに君の言う通りだ……しかし、君、本当に林田君?」
「え?いつもの俺だぞ」
「なんかさ、カツラ外してから知能レベルが上がってない?」
「う〜ん、そうかな?」
「ひょっとして、呪われているんじゃない?このカツラ」
「そんなことはないと思うが……まあ、カツラなのに髪が伸びたりするから
不思議といえば、ちょっと不思議かな。サザビーズの競売で手に入れたんだけど」
「うん、間違い無いく呪われているよね。このカツラ」
「まあ、別に馬鹿でも死ぬわけじゃないからいいけど。で、時に神山、これから
どうするよ?」
「え、どうするって何が?」
「いやさ、新幹線に一旦は戻ったんだけど、竹之内が大暴れしてて、再び
トレインジャックされているんだよね。奴は『新幹線が砂漠に埋もれるまで
ここを動かない』とか言って運転室を占拠しているらしい」
「へ〜、竹之内君ってそんなに新幹線が好きだったのか。なんか意外だな」
「ああ、『これ以上移動するなら新幹線と心中してやる』って言っていたから、
よっぽど好きなんだろう」
「ふ〜ん、人は見掛け依らないもんだね」
「まあ、そんな訳で新幹線を止めて、飛行機で帰ることに変更されたんだけど、
それまで時間が空いちゃってヒマしているんだ」
「う〜ん、それは困ったねえ」
「ああ、なんか面白くて、人の為になって、おまけにスカッとするような
ヒマ潰しがあればいいんだけどなあ」
「そうだねえ……」
「どうだ、なんか、いい案あるか?」
「……う〜ん……例えば……」
「例えば?」
「…………例えば、サムライごっことか」

400 :七クロ:21:2008/01/27(日) 15:29:41 ID:uSuosufb0
「……ハハハ、馬鹿だなあ、神山。この年でサムライごっこはないだろ」
「ハハハ、だよね。いくら何でもサムライは無いよね。しかも、ここ砂漠だよ」
「……でも、砂漠にサムライがいても別に法律違反じゃないよな?」
「そりゃ、そうだよ。『サムライ禁止』なんて法律あるわけないし」
「じゃあ、別に問題は無い訳だ」
「うん、問題は無い」
「……でも、格好はどうするよ?チョンマゲなんて結える奴いないぜ」
「大丈夫だよ、林田君の呪われたカツラがあるじゃない」
「さらにゲロまみれのな。着物は?」
「君が修学旅行用に持ってきた特攻服で間に合わせよう。何でそんなものを
持ってきているのかはさて置いて」
「カタナは?」
「拳で充分。うん、これだけ揃えたら誰がどう見てもサムライにしか見えないよね」
「いやいやいや、額に『武士』とだけ書いた方がまだマシのような気がするぞ」
「……で、問題はあの女の子をなじった僕にサムライとしての資格があるか
どうかなんだけど……」
「資格か……流石にそればっかりは適当に揃えられるものじゃないな……あ」
「どうしたの、林田君?」
「いや、なんか、お前の肩に花びらが止まっていて……」
「……あ、本当だ、入り口から入ってきたのかな?不思議なこともあるもんだね。
砂漠に花なんてそんなにある訳じゃないだろうし」
「……もしかして、オアシスにあるっていう桜の木から飛んできたのかな?」
「まさか。そんな遠くから花びらが飛んでくるとは考えられないよ。大体、
似てはいるけど桜とは別の花だよ、これ」
「そうか。じゃあ、きっと何かの偶然だよな……」
「うん、そうだよ……でも」
「ん、でも?」
「でも、この花もとっても綺麗だよね」

401 :クロ:2008/01/27(日) 15:34:25 ID:uSuosufb0
投稿終了です。

>>380
メカ沢君は後ほど登場します。が、例によってすぐ壊れますw
自分もメカ沢は好きなんですが、何で壊れるんだろ?

>>396
神山は不良ではないですが、なんというか「タチが悪い」ので、飲んだくれたら
こんな風になるのかな?とw。作中に出てきた音楽はイギリスのバンド
「The animals」がカバーした「Don't Let Me Be Misunderstood」という曲
からの一節です。歌詞の内容は
『愛する人よ、僕のことを本当に理解しているの?誰だっておかしくなる
ときはあるんだよ。いつだって天使でいられるわけないじゃないもの。
調子の悪いときは泣きたくもなるさ。僕はただ善良だけの人。どうか神様、
僕を間違って理解させないで。それが僕の悲しき願い』
とかこんな感じです。多分。youtubeですが、良かったらどうぞ。
古臭いかもしれませんが。

ttp://jp.youtube.com/watch?v=z4yVN5CKwJ4&feature=related

>>397
書き溜めるのは良いのですけど、自分の場合、モチベーション
維持するのが凄く大変でしたね。大して長くもないんですけど。

402 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/27(日) 21:52:13 ID:NLSMtMp40
>>352より。

403 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/27(日) 21:53:28 ID:NLSMtMp40
「けっ、タネが分かりゃどうってこたァねぇ。ギリギリで避けなきゃいい話だ」
 猪突猛進。神経を研ぎ澄まし、つららを早めに見切り、一気に魔法使いに迫る加藤。
「やはり原始人。学習能力に乏しいようだ」
 瞬間移動。文字通り一瞬で背後に回った魔法使いは、加藤の背中に数万ボルトの雷撃を
炸裂させた。
「がっ!」
 たまらずダウンし、のたうち回る加藤。
「あれで気絶しないとはさすが無駄に鍛え込んでいるな。魔法の試しがいがあるよ」
「この……ッ」
「さてそろそろリクエストタイムだ。どんな魔法で死にたい?」
「死ぬのはてめぇだッ!」
 立ち上がって魔法使いに飛びかかるが、案の定直前で瞬間移動される。傷ついた足では
踏ん張りが利かず、まだ焼けている木の残骸に手をついてしまった。
「熱ッ! ぐわあぁぁっ!」
「──よし決まった。焼き殺すことにしよう」
 加藤の顔が恐怖に染まる。
 放射される炎に混乱してか、狂ったように木を蹴り倒す。草や枝を手に取り、あらぬ方
向に投げつける。
 涙ぐましい努力も、火を止める術にはならない。ただ空しく可燃物が増えていくだけだ。
 狂喜し、生みの親の手を離れ、踊る炎。
 癌細胞の赤が、瞬く間に島を塗り潰していく。
「たかが武が魔に挑むなど、おこがましいにも程がある。焼け死んだ君には、君を愛する
者たちの夢枕に登場してもらおう。悪夢が君の友人や恋人たちに絶望を与えるのだ!
 ハハハハハハハハ、ハハハ、ハ、ハハ……ハ……ハ、ハ……。
 ──ハ!?」
 笑いが止まった。

404 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/27(日) 21:54:45 ID:NLSMtMp40
 いつの間にか完成していた火炎に包まれた戦場。加藤と魔法使いを、夥しい炎が囲んで
いた。抜ける隙間はない。
 狼狽する魔法使い。
「なんだこれは?!」
「おまえが造ったんだろうが。いや、俺がおまえに造らせたんだよ。面白ぇように引っか
かってくれたぜ」
 焼けただれた掌を見せつける加藤。魔法使いに炎を確実に選ばせるため、犠牲にしたの
だ。他に燃え移った炎は、すでに主の手を離れているので消すことはできない。
「おのれ……! だが私には瞬間移動がある!」
「無理だな。多分おまえの瞬間移動は短距離しか移動できない。……せいぜい数メートル
が限度ってとこか。それじゃ、この火炎地獄は抜けられねェよ」
「………!」
「形勢逆転だな。俺にぶちのめされるか、逃げて焼かれるか、二つに一つだ」
 慢心から、虎の子の瞬間移動を自ら封じる形になってしまった魔法使い。ところが、意
外にもすぐに平静を取り戻す。
「何か勘違いしておるようだな。瞬間移動などなくとも、私が、魔法が、貴様如き原始人
に後れを取るわけなかろう」
 魔法使いはステッキを天に掲げた。
「肉体の比べ合い──実に下らぬ、程度の低い争いだ。……筋力増強(パワーアップ)」
 筋肉が膨張する。魔の力は、華奢な紳士をコンマ数秒で肉を纏った異形に変えてしまっ
た。
「これほどの筋肉、君たちでは会得するのにおそらく永い永いトレーニングを必要とする
だろう。だが魔法は君らの数十年をほんの一瞬で与えてくれる! 魔法こそ万能、魔法こ
そ究極、魔法こそ最強!」
 巨大な逆三角形が、のしのしと間合いを詰める。
 大きく拳を振り被る。一撃で決めるつもりらしい。
「潰れろッ!」

405 :やさぐれ獅子 〜二十四日目〜:2008/01/27(日) 21:56:06 ID:NLSMtMp40
 鮮やかな一撃であった。
 人差し指と中指が、根本まで敵の両目に浸かった。
「ヒイイィィィィィィッ!」
 巨大な体をよたよたと後退させながら、絶叫する魔法使い。加藤はまったく表情を変え
ることなく歩み寄る。
「どうした、そんくらい魔法ですぐ治せるだろ」
「………! すぐに回復呪文で──おごっ!」
 次は睾丸だった。激痛で発声もままならない。
 股間を抑え、血涙を流し、魔法使いはダウンを喫する。加藤は右手、左手、右足、左足、
を順に踏みつけて潰す。
「魔法は万能で、……えぇと、究極で最強なんだよな。じゃあこれくらい何ともないよな」
 魔法使いは声にならない悲鳴を上げ続けている。
 つま先で鼻に蹴り込む。魔法使いの顔面が真っ赤になった。
 耳に足刀を入れる。ざっくりと耳たぶが取れた。
 踵で背骨を真っ二つにする。
 枯渇した喉でまだ叫んでいる魔法使いを、加藤は道端に落ちている石に対するように炎
の中に蹴り込んだ。

 ──決着。

 魔法使いの敗北とともに、炎は丸ごと消え去った。焼けた木までは元には戻らなかった
が。
 約五分の一の熱帯林が黒色に染められた。加藤にとっても、島にとっても、痛い一日だ
った
 砂浜でぐっすりと眠る加藤。
 そして明日、この島は最大の危機に晒されることとなる。
 風神と雷神の手によって。

406 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/01/27(日) 21:56:52 ID:NLSMtMp40
次回へ続きます。

407 :作者の都合により名無しです:2008/01/27(日) 22:06:40 ID:bLoI8yvu0
お2人ともお疲れ様です!

>クロさん
クロ高に似合わぬ?いい歌詞ですね。林田と神山の掛け合いも好きですが
クロ高1の人気者のメカ沢もまた再登場するみたいで安心です。

>サナダムシ氏
魔法使い、負けフラグの「どの○○で死にたい?」に忠実に散りましたなw
でもこのSSの加藤は結構頭使ってますね。成長したな。

408 :悪魔の歌:2008/01/27(日) 22:49:25 ID:sAqDSSUa0
>>365
ロードワークから帰ってくるなり、いきなり見知らぬガラ悪いロン毛大男とスパーリングしろ、
と言われたんだから、そりゃ一歩は困惑する。
「なんでボクが?」
「ご指名なんだからしょうがねえだろ。見学者には親切に、可能な限りリクエストには
応え、入門に繋げる。ジム経営にとっては大切なこと、って八木ちゃんも言ってただろ。
ん? 何だよその、『ウソ臭い。鷹村さんらしくない。絶対なんか企んでる』って目は」
「……もういいです」
反論する気力もない一歩は、のろのろと用意してリングに上がる。
そこには、ヘッドギアとマウスピースとグローブと、準備万端のレッドが待っていた。ギラつく
目で一歩を睨みつけている。ジム内には相変わらずDMCの曲がエンドレスで轟いている
ので、否が応にも殺害ムードは満点だ。
ちょっと縮こまってしまう一歩に、レツドが低い声で語りかけた。
「一つ、答えろ。お前はこの曲の……DMCの、クラウザーさんのファンか?」
「え? ボクが? この曲のバンドのファン?」
何をバカな、と言わんばかりの素っ頓狂な声で一歩が応えた。ファンどころか、DMCには
恨みがあるのだからそれも仕方ないが。
「冗談じゃないっ。ボクはこんなドロドロした歌、嫌いですよ。DMC? 知りませんそんなの。
ボクはもっとこうカッコいいのとか、可愛いのとか、」
「……そうかよ」
ぐぐっ、とレッドがグローブの中で拳を握り締めた。そして声を大きくして、リングの下にいる
鷹村や根岸にも聞こえるように言う。
「クラウザーさんはな、お前のことを凄ぇ買ってるんだよ。世界チャンピオンになれるだの、
人に力を与える力があるだのと。あの方にしては珍しいぐらい、素直に褒め称えておられた。
幕之内一歩、お前のことをだ。で、」
レッドは首を回して、DMCの曲が轟くジム内を指し示した。
「ここに来てみたらこの状態だ。さぞ、お前も熱心なDMC信者で、ってことは相思相あ……
と思って怒って待ってた。が、ようやく会えたお前はDMCなんか知らないっ、ときた」
レッドの歯軋りが聞こえてきそうだ。
「そう言われちゃ、ますます許せねぇ。クラウザーさんは絶対、騙されてる。何か勘違いを
しておられる。だから俺が、お前をボコボコに叩きのめして、お前なんかクラウザーさんが
気にかけるほどの奴じゃないって証明してやるんだ。これで納得したか、鷹村?」

409 :悪魔の歌:2008/01/27(日) 22:50:25 ID:sAqDSSUa0
一歩を睨んだままでレッドが尋ねる。鷹村は頷きながらゴングを手に取って、
「ああ、スッキリ納得したぜ。じゃあ早速、」
「待って下さいっ!」
リングの上から声を張り上げ、一歩が鷹村を制止した。
「何なんですかこれ? 体験入門でもなんでもない、ムチャクチャな言いがかり
じゃないですか!」
言われた鷹村が答えるより早く、青木たちが囃し立てる。
「いいじゃねえか一歩、受けてやれよ。あのクラウザーさんがお前に目ぇつけてたなんて、
羨ましいというか光栄な話だぜ」
「全くだ。ここは一発、お前が悪魔的なボクシングで期待に応えて」
「いい加減にして下さいっ!」
一歩が叫ぶ。
「どうせ気付いてないんでしょうけど、ボクはこの曲のせいで今、クミさんから避けられて
るんですよ! はっきり言ってこの曲もこのバンドも大っっ嫌いですし、そこのメンバーが
勝手にボクのことを喋って、それで変な恨み買ってこんな……迷惑にも程があります!」
心底、本当に心から不快そうな顔で、憎々しげに一歩が吐き捨てている。普段、こんな
顔や口調を滅多に見せないだけに、青木も木村も迫力に押されて黙り込んでしまった。
そして、一歩に吐き捨てられている当のターゲット、「大っっ嫌い」呼ばわりされたモロ本人
であるクラウザーこと根岸はというと。
『ぁう……やっぱりクラウザーは、DMCは、こうやって無関係な人に迷惑をかける存在
なんだ……だから僕はこんなのやめたいって、前々から社長に言ってるのにっっ』
「とにかく! ボクはこんなのお断りですから!」
一歩が怒ってリングを降りようとする。と、今度は鷹村が声を上げて一歩を制止した。
「待て」
「待ちませんよ。こんなケンカまがいのこと、したくありません」
「いいから聞け。オレだってケンカは推奨しねえよ。そして、お前がDMCを嫌うのも勝手だ。
だがな一歩よ。そいつが本気でお前を憎んでるだけなら、路上で襲いかかれば済むことだろ。
しかしそうはせずに、今そうやってグローブを着けている。自分の流儀であるケンカを捨てて、
お前に合わせてボクシングで挑もうってんだ」

410 :悪魔の歌:2008/01/27(日) 22:51:25 ID:sAqDSSUa0
「でも……だからって……」
「デモもストもねえ。そうまでされて背を向けるなど、オレは許さん。ましてお前は日本チャンプ
だぞ。それにだ、会長がよく言ってるだろ、ボクシングは単なる格闘技に非ず、武道に近い
もの。礼に始まり礼に終わるとな。見ての通り、わざわざお前に合わせて正々堂々と
試合を挑んできた武芸者に対してだな、」
「わかりましたよっ」
これ以上言い合ってても結局いつも通り押し通されるだけだ、と覚悟した一歩は話を
打ち切った。そしてレッドに向かい合う。
「お相手します。但し、1ラウンドだけですよ」
「おお、三分もありゃ充分過ぎるぜ。おい鷹村、こいつを説得してくれたこと、礼は言っとく」
「んなもん、いらねぇよ。じゃあいくぜ」
一歩とレッドが後退して、それぞれのコーナーに背を預ける。それを見て、鷹村がゴングを
打ち鳴らした。
待ってましたとばかりに、雄叫びを上げてレッドが駆ける。一歩が待ち受ける。
ケンカの場数は豊富だが、やはりボクシングは素人のレツド。迫力はあるが大振りの
テレフォンパンチを、一歩は易々とかわしていく。
青木たちにとっては予想通りの展開なので、涼しい顔で見ている。が、レッド同様に根岸は
素人だ。チャンプという肩書きはあれど大人しそうな一歩が、恐ろしげなレツドの猛攻に
晒されているのを見てビクビクしている。
「だ、大丈夫なのかな幕之内君……」
「大丈夫だ」
根岸の隣で鷹村が言い切った。
「ケンカならまだしも、これはボクシングだからな。いくら体格差があるって言っても、一歩
が負けるなんてことはねえよ。で、一歩に叩きのめされれば、あいつもいろいろ考えるだろ」
「? ああ、もしかして昔の不良仲間だから、まだ足を洗ってない旧友をスポーツで
更正させようとか、そういう意図で?」
ありがちなストーリーを根岸が振ってみると、鷹村はふんっと鼻息一つついて。
「ま、当たらずとも遠からずだ。オレもあいつも、昔はケンカばっかしてたからな。何の意味も
なく、山場もなく、そしてオチもつかないケンカだけの日々。オレはこうしてボクシングと
出会えたが、あいつはまだ……と思ってたんだが、さっきの答えによるとどうやら違うらしい」

411 :悪魔の歌:2008/01/27(日) 22:52:10 ID:sAqDSSUa0
「え?」
「なんつーかな、オレ様がリングの中に居場所を見つけたみてえに。あいつはあいつなりの、
生きてく意味を見つけて、今、一つ山場を迎えてんだよ。自分は気付いてねえようだが。
これでどんなオチがつくかは、あいつ次第だが……お、そろそろ終わるか」
言われて根岸が、リングに目を戻した。今、鷹村と会話した三十秒かそこらの間に、
二人はかなりの数、パンチの交換をしたらしい。
といっても一歩は何も変わっておらず、レッドだけが息を切らして顔を痛々しく腫らしている。
つまりレッドは空振りしまくって体力消耗、そして一方的に殴られ続けているということで。
『うわぁ痛そう。でも、なるほど。これが日本チャンピオンの実力ってことか。流石だなぁ』
と根岸は感心するのだが、ふと見ると青木と木村が怪訝な顔で何やら言っている。
根岸は、今度はリングを見たままで二人の会話に耳を傾けてみた。
「なんか一歩、おかしくねえか? 素人相手に、ちょっとやりすぎだろ」
「だな。確かに、あいつにしては珍しいほど怒ってはいたけど、それにしても……あ、
今のなんか俺の目に狂いがなきゃ、70%ぐらいの力は出してるぞ」
「75、いや80だ」
と、二人の会話を聞いていたらしい鷹村が訂正した。
「一歩のツラ見れば解る。あいつ、かなり戸惑ってるぞ。思ってるように手加減できなくて。
ついつい、リキ入れて殴ってしまう自分が止められなくて」
「それほど、あのレッドやDMCに対して怒ってるってことですか」
「と、お前ら程度の小者は考えるだろうな。まぁ黙って見てろ」
鷹村は何やら楽しそうな顔で、二人の戦いぶりというか一歩の一方的殴りを見つめている。

412 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/01/27(日) 22:54:27 ID:sAqDSSUa0
そういや一歩と根岸、実在したとしたらどちらが知名度上なんでしょうね。少なくとも私は、
ボクサーなんて世界チャンピオンですらロクに知りません。でもDMCも、CDやグッズが出て
熱狂的ファンがいるとはいえ、全国区テレビ放送なんかにはまだ遠いようですし。はてさて。

>>邪神? さん
二転三転、予想外の連続でした。ここで烈。しかもケンに大ダメージ。と思ったら小者臭くも
あり。そういや北斗神拳も一応、「中国から伝わる暗殺拳」って言われてましたよね。で考えて
みれば烈には流派名がないな、とか。今のところ迫力的にケンが勝ちそうですが果たして?

>>クロさん(「姉上」はラノベです。眼鏡三つ編み姉キャラが好みでしたら、ぜひどうぞ)
桜問題ルートと京都帰還ルートとどっちへ行く? と思ってたらどちらも行かずゲロで締め。
その次が花びらで締め。別にシリアスになったわけではないけど、雰囲気変わりましたよね。
ゲロつきの呪われたかつらと、綺麗な花びらの乗った肩。同居してるのが本作クオリティか。

>>スターダストさん
>「手近な」ムーンフェイスの
>「腕を切断したムーンフェイスが」いたが
この辺がムーンフェイスならではですよねぇ。漫画なら絵で見て解るけど、文章だとちゃんと
理解してないと何がなんだか。小札は今回も相変わらずですが、「大苦戦」ですか……総角
に助けられるのも良いけど本人が知恵と勇気で逆転! も面白そう。楽しみにしてます。

>>サナダムシさん
背水の陣ならぬ周囲全部火炎の陣。頭を使いつつも、あくまでも空手で戦い続ける加藤
は本当に凄い。人外を相手に人間の技で、超能力を相手に徒手空拳で、ただただ勝利
への執念で……井上との再会も忘れないで欲しい。で、次は風に雷。でも空手で勝つ!

>>373
モブキャラというのはアニメなどでいうところのガヤ、その他大勢背景エキストラ通行人A
のことです。レッド氏も本来そのはずなのですが、実質的な作中での活躍ぶりは「一歩」で
いうなら青木村以上かも。でも名無しのDMCファンの一人という立場。不思議な人です。

413 :作者の都合により名無しです:2008/01/28(月) 10:16:31 ID:FZFD6lrJ0
どなたか、井上をハト拷問で6時間ぐらいいぢめる話を創ってください。
神心会空手色帯の強い腰や下半身等なら、たっくさん耐えてくれそうです。
耐久&拘束状態ゆえの狭い可動範囲内でのたうち回る女性は、美しい。
しかも、ハトゴーの体勢だったらヨガリハケ1本でも凶器。
逆エビ縛りで吊るして、吊り縄を上下させる「人間ヨーヨー」も良し。
神々のランクを挙げる神界曼荼羅と、魔法使いVS米軍や勇次郎もご期待申し上げております。

範馬一家スレみたいな感じで、モンスター・ペアレントとしての勇次郎もきぼり。
VS柳戦なんか、よく読むと勇次郎がやばい保護者なのもよくわかります。

414 :VP:2008/01/28(月) 13:49:34 ID:nPn/NRYU0
「――ッ――!」
不意に呼ばれたように思い、彼はまぶたを開けた。

誰もいない。

夢か、と思うが、それがこの熱帯雨林の高温多湿さと混じり、彼にはことさら不愉快だった。
熱帯雨林の中で仁王立ちの巌のような巨躯に、赤銅色の肌、蛍火のように鈍く輝く頭髪をもった威丈夫の名は、
ヴィクター・パワードと言った。

元々、彼はここにとどまる積もりなどなかった。そもそもこの地の者ですらない。
かつて太陽の沈まない国と呼ばれ、世界に冠たる帝国としてその名を轟かせたユナイテッドキングダム、
その最後の黄金期に彼は生を受けたのだが、気まぐれな運命の女神に弄ばれた彼は、
人として生を全うする事が出来なかった。
人でも食人の怪物でもないなにかへと成りはてた彼は、紆余曲折を経て東の彼方、日本へと落ち延び、
その地で出会った朋輩の助けを得て百年を眠った。
もしそのまま目覚めることがなかったら、彼にとっては幸いだったのかもしれない。
しかし、彼の朋輩は天才で友誼に厚かった。
百年をヴィクターの復活に費やした不世出の天才・蝶野爆爵の妄執に等しい研鑽が実を結び、
ヴィクター・パワードは陽光の下に戻ってきた。

しかし、運命の女神は、気まぐれで残酷だった。

百年の彼方から帰ってきたヴィクターの目にしたのは、彼と同じ存在となった少年の姿だった。
狂った戦闘神のようにただ闘いだけを望み求める少年の姿は、この上なく醜悪で、身震いするほどおぞましい、
自分自身の姿そのもの。
今の彼に耐えられるものではなかった。

少年と遭遇戦を終えた彼は、そうしてここにいる。

415 :VP:2008/01/28(月) 13:51:43 ID:nPn/NRYU0

「――ッ!―――!!!」

先ほどの声は、夢ではなかったらしい。
この地の言語での助けを求める声と、そして断末魔。
ヴィクターは本能的に、声の主に向かって駆けだした。
人でも怪物でもない彼に残されたただ一つのもの、
それこそが「錬金術を持って理不尽に曝される人を守る」事だ。
例え体が怪物へと変貌しようとも、それを抱き続けていれば、ヴィクターはヴィクターで居られる。
裏切られたとはいえ、彼は錬金の戦士で有り続けられるのだ。


ヴィクターの聞いた断末魔の主、それは今や人間だった肉塊でしかなかった。
全身の皮を剥がされ、血液の赤と新鮮な肉を求めて集まってきた羽虫と蠅とで赤黒く斑になった肉塊だった。
その肉塊を作り上げたのは、人ではなかった。
空気を歪ませ、青白い鬼火とともにそれが姿を現す。
ドレッドヘアを振り乱した巨躯の狩人は、毒蛇のような擦過音を漏らすと、
満足げに自分の作り出した作品を見やった。
銀色のマスク、胸部と手足を覆うプロテクター、は虫類のような地肌を覆う編み目。
狩人は、ふたたび鬼火を纏って姿を消した。
接近するヴィクターの気配を察知したのだ。

416 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/01/28(月) 13:57:58 ID:nPn/NRYU0
皆様どうもお久しぶりです
銀杏丸でございます。
宇宙のお騒がせ野郎プレデターVS我らがフンドシ父さんヴィクターinジャングル
第一回をお送りしました。
題してヴィクターVSプレデター
実はプレデター大好きな銀杏丸、錬金の戦士と闘わせてみたいと常々思っておりまして
このようなモンでっち上げてみた次第

では、またお会いしましょう


417 :作者の都合により名無しです:2008/01/28(月) 16:23:03 ID:/fuxhURX0
クロさん、あともう少しで終わりになるんですかね?
メカ沢とほかのキャラとかの絡みをもう少し見たいな。

サナダさんいつもお疲れです。魔法使いも倒し、あと武神を入れて
2,3バトル?結構この作品も長編になりましたね。

ふらーりさんあんまりリアルのボクシング知らなさそうですねw
一歩が一方的に素人を殴るのは一歩になんか考えがあるんですかね

銀杏丸氏また連載はじめましたか、長編残ってるのにw
でも銀杏丸氏も錬金好きですから書きたい気持ちはわかります。


418 :作者の都合により名無しです:2008/01/28(月) 18:48:15 ID:pB0H7a8b0
クロさんの作品はどういうオチになるかわからんw

サナダムシさん、一気に終わらせるつもりですか?
サナダムシさんは何書かせてもうまいから楽しみ。

銀杏丸さんお帰りなさい。とりあえず慣らし運転って感じかな?


419 :七クロ:22:2008/01/29(火) 00:14:20 ID:CfX4QN3B0
>>400より
〜オアシス入り口〜
「一体、いつまで強情を張るつもりなんだ、この餓鬼め」
「何よ、しつこいのはあなた達の方でしょ。毎日毎日、やって来ては
『出ていけ出ていけ』と、うるさいったらありゃしない」
「あのな、お前が居座ってさえいなけりゃ、こんなこと誰も言いやしねえよ」
「そうだぜ。ここを占拠されていると、いつまで経っても工事が始められねえんだ。
早い所、立ち退いてくれよ」
「ふん、何で私が出ていかなきゃならないのよ。ここはね、私達のオアシスなのよ。
あんた達こそ、さっさと荷物をまとめて出て行きなさいよ!」
「……このクソ餓鬼が、つけあがりやがって」
「……ああ。少しは痛い目に会わせてやった方がいいんじゃねえか?」
「私を嚇すつもり?そんなことしても無駄よ。口を開けば『出て行け』としか
吠えられない犬なんてちっとも怖くないもの」
「何をこの餓鬼め!さっさと出て行きやがれ!」
「ハッ、行った側から、また『出て行け』ですか。あなた達、他に語彙は無いの?
もう一回ドリルから人生やり直しなさいよ!」
「……く、口の減らない奴め!クソ、もう俺は我慢ならん、こうしてくれるわ!」
「キャー、何するのよ、このロリコン!」
「お、大人を馬鹿にするからだ。後悔しても遅いぞ!」
「よし、いいぞ。やっちまえ!」
「離して、離してー!!変態ー、死ねー!!」
「グハハハ、いい気味だ!このまま締め上げてくれるわ!」

スッ

「……なんだか、急に大人しくなったな。ようやく諦めたのか?」
「……腰を低く落し、脇を締め、」
「ん、何だその構えは?子供の癖して俺とやりあうつもりか」
「左腕を引くと同時に拳を放つ……」
「ハハハ、殴るというのならやってみろ!女子供の拳など俺様には効かんがな!」
「(おじいちゃん、力を貸して……)ハッ!!」

420 :七クロ:23:2008/01/29(火) 00:19:29 ID:CfX4QN3B0
ドカン

「ゴフ!……ズズーン」
「や、奴が、たったの一撃で……。き、貴様、一体何をした!?」
「フ、何をって知れたこと。正義の少女が悪党に渾身のパンチを放ったのよ!
股間めがけて!」
「な、なんてことを……」
「どうだ、これが『カラテ』だ!東洋の神秘の技を思い知ったか!」
「お、男の股間が弱点なのは神秘の技でも何でもねえだろ!クソ、こうなったら
皆でかかれ!袋叩きにしてやる!」
「フ、望むところよ。こちらこそ本当の『袋叩き』を味あわせてあげるわ。まあ、実際は
『袋叩き』なんか通り越して、『袋破り』になっちゃうんだけどね……クスクスクス」
「悪魔かおのれは!……ええい、お前ら何を躊躇している!相手は小娘一人だぞ、
さっさと片付けてしまえ!」
「し、しかし、俺らの股間の保証はどうなるんで……」
「お前ら良い話を聞かせてやる。男の玉が何故二つあるかと言うとだな、」
「嘘だ!あんた絶対に嘘つこうとしている!」
「ええい、うるせえ!大の男が袋の一つや二つでガタガタ言うんじゃねえ!
有袋類か、貴様ら!」
「すいません。今までずっと黙っていたけど、俺、実はカンガルーだったんです。
袋無くしたら子育て出来ないっす」
「あ、ずるい。じゃあ、俺、コアラ」
「て、てめえら……」

421 :七クロ:24:2008/01/29(火) 00:24:58 ID:CfX4QN3B0
「あらあら、見ていられないですね、君達の仕事は」

「あ、主任!」
「全く、こんな小娘相手にてこずって。おまけに暴力沙汰とは……いやはや」
「何よ、突然出てきて、偉そうに。あなただって同じ穴のムジナじゃない」
「ハハハ、これは手厳しい。ま、貴方に出ていってもらいたいという
気持ちは確かに彼らと一緒ですがな」
「いやよ。私はここを出ていくつもりなんかないんだから」
「いや、そういう訳にいきませんよ。この辺りで立ち退きが済んでいないの
はもうここだけですし」
「そんなの関係無いわよ!このオアシスは私のおじいちゃんが作ったものなのよ!」
「う〜ん、困りましたねえ。そんなことを言っても契約書には、ホラ、この通り。
土地は我社が買い取ったことになっているんですがねえ」
「何よ、そんな紙切れ!あなた達が勝手に作ったものじゃない!」
「しかし、政府の承認は得られていますし、法律的に言って正当性はこちらに
あるんですよ」
「ウッ……」
「今までは子供だと思って容赦してきましたが、会社はもう我慢の限界なんです。
即刻、出て行ってくれると有難いのですが」
「……誰が何と言おうと、このオアシスは渡さないわ。オアシスに植えた桜が
満開になるまでは絶対!それがおじいちゃんとの約束だから!」
「……やれやれ、仕方がありませんね。オイ」
「はい!」
「え、何をするの?」
「見れば分かるでしょ。ブルトーザーでオアシスを埋めるんですよ。
そうすれば貴方だって諦めが付くでしょう」
「そんなこと、絶対させやしない!」
「おっと」
「!?は、放してよ!」
「そうはいきませんね。大丈夫、大人しくしてれば乱暴はしませんよ。私は紳士ですから」
「放して、放してー!!」
「全く、貴方も往生際が…ゴフ…悪い…グッ…ゴホッ。ええい、この餓鬼め、少しは……」

422 :七クロ:25:2008/01/29(火) 00:26:16 ID:CfX4QN3B0
「隙あり!股間パンチ!!」
「おっと」
「!?」
「フフフ、あなたの手口は部下を通して知り尽くしています。同じ手は食いませんよ」
「……なるほど。では、これならどう?食らえ、『大』股間パンチ!!」
「全く、諦めの悪い。そんな下品な技は何度やっても無駄だと……」

ガスッ
「ゴフッ!」

「馬鹿ね。女の子がそんな汚いものを何度も触れるとでも?」
「き、貴様、パンチと言いながら蹴りとは卑怯な……」
「だ、大丈夫ですか、主任!」
「ええい、うるさい!こいつめ、もう許さん!おい、オアシスは後回しだ。先にこのガキを
ひき殺してしまえ!」
「え、そんなことして大丈夫で?」
「構わん。上の連中には散々金をばら撒いてある。どうとでももみ消せるさ」
「し、しかし……」
「ええい、どけ!お前らが出来ないというなら、私がやってやる!」

ガガガガガガッ

「ヒャーハッハッハツ、死ねー!!」
「あ、貴方、正気なの!?」
「は、何とでも言って下さい。私を怒らせた貴方が悪いのですよ」
「そんなに玉を潰されたのを怒っているの?……なら、いい話を聞かせてあげるわ。
おじいちゃんが言っていたんだけど、男の人に何故、玉が二つあるかと・・…」
「うるさい!!」
「キャア!!」
「ホラホラ、無駄口を叩いている暇があるのなら、さっさと逃げないとペシャンコ
になっちゃいますよ……それとも、私に這いつくばって謝りますか?」


423 :七クロ:26:2008/01/29(火) 00:29:53 ID:CfX4QN3B0
「だ、誰が、あんたなんかに!」
「ですよね。じゃあ、大好きなオアシスと一緒に砂漠に埋もれて死んで下さい。ヒヒヒ!」
「(……この人……狂ってる……)」
「もっと、もっとだ!もっと早く逃げてみろ!」
「ハァハァハァ……キャ!!」
「……あれま、転んでしまいましたね。少しは楽しめると思っていたのですが」
「ハァハァハァ……」
「お疲れのところをすいませんが、どうします、もう死にます?それともさっさと
出て行きますか?」
「……オアシスを捨てるぐらいら死んだほうがマシよ」
「どうにも理解できませんね。たった一人で、しかも、ただの女の子が何で
そんなに意地を張るんです?他の大人達と同様、さっさと逃げ出せばいいものを」
「私は……だから」
「は、良く、聞こえませんよ?」
「私は……私はサムライだから!……だから退かない!」
「……プッ、プププ、ハーハッハッハ!!いやー実に面白い!まさか貴方が
サムライとは思いませんでした。それじゃ、もう死ぬしかないですよね」
「…………………………」
「え〜と、自殺の手伝いをするのって『カイシャク』とか言うんでしたっけ?
確か、サムライはカイシャクされると、感謝して死ぬんですよね。私には
分かりかねる行動ですが、まあ、貴方がサムライというのでは仕方が
ありません。今からカイシャクして差し上げますから喜んで死んでください」
「(私はこんな奴に負けるの?誰か、助けて……)」
「ヒャーハッハッハ。この辺りの奴らは皆、買収済みですよ。誰も助けになんか
来るもんか!さあ、砂漠の底に沈め!」
「(……もう、駄目……ごめんね、おじいちゃん……ガク)」

424 :クロ:2008/01/29(火) 00:31:46 ID:CfX4QN3B0
投下、終了です

>>サナダムシさん
加藤、強いなあ。原作で作者にも読者にも「ヘタレ」という烙印を押された加藤が
必死で運命に抗ってる様はベルセルクのガッツみたいで格好良いです。

>>407
確かにクロ高には似合わんなあwフレディーだけは何処かで熱唱していそうですが。

>>ふら〜りさん
根岸にしろ、一歩にしろ常識的なキャラ達が非常識な人達に振りまわされる展開は
微笑ましくて良いですね。とは言っても、根岸は本性が、一歩はパンチ力と股間が
悪魔的なんですけど。(ラノベでしたか。ちょっと興味あるので探してみます)

>>417
今、半分くらいです。しかし、メカ沢、人気あるなあ。人間が出来ている所が
人気の秘密なんですかね。ロボとして見たらまだまだ未完成品っぽいのに。

>>418
前に書いていたとき思ったんですが、クロ高でオチつけるのって凄い
面倒です。よく考えてみたら、原作でもオチついてないようなのが
普通にあります。あの作者、ある意味凄いです。

425 :作者の都合により名無しです:2008/01/29(火) 08:47:49 ID:mbzBsK3q0
お疲れ様です。
なんか今までとは色合いが違う展開ですね。
まだ半分なら十分長編ですな。
応援してますので頑張ってください。

426 :作者の都合により名無しです:2008/01/29(火) 13:14:07 ID:oXuX6VyC0
メカ沢って確か原作の人気投票でも一位じゃなかったっけ?
かわいいもんね
クロさん乙です。これで半分とはまだまだ楽しませてくれそうですね。

427 :作者の都合により名無しです:2008/01/29(火) 21:56:01 ID:WgYCzmNz0
セリフのみのSSだとテンポが良くなる反面
状況が分からなくなる時がある
諸刃の剣ですな


428 :七クロ:27:2008/01/30(水) 11:59:40 ID:UXxRfPol0
「ちょっと待った!!」

「だ、誰だ!?」
「少女が守りし、泉を奪い」
「ゴフ!」
「さらには力でねじ伏せる」
「ゲッ!」
「悪鬼のごとき、その行状は」
「ヘブッ!」
「見過ごすことは出来申さぬ」
「ガフン!」
「よって、拙者が助太刀……って、ちょっと、ちょっと、林田君。殴るの早い」
「え、そう?」
「折角、人がなりきっているんだから段取りとか考えてよ」
「おお、そうか、すまん」
「もう……じゃ、改めて……ドスン、ガスン、ボスン、バタン、ガッ、ガッ、ガッ!!
……安心なされよ、峰打ちじゃ。と、まあ、こんな感じでいきたいよね」
「これだけ殴られたら、ちっとも安心なんて出来なさそうだが」
「大丈夫だよ。なんてったって峰打ちなんだし、いくら殴っても命に別状は無いでしょ」
「……全身に返り血を浴びながら言う台詞じゃないな」
「ひぃ、何だ、こいつら!た、助けてくれー!」
「あ、悪党共が逃げ出したぞ」
「放って置きなよ。それより女の子の方が心配だ」

429 :七クロ:28:2008/01/30(水) 12:02:08 ID:UXxRfPol0
「う、うう〜ん……」
「お、気が付いたみたいだぜ」
「あ痛たたた……」
「大丈夫かい、君?怪我をしているようだけど」
「うん、だ、大丈夫……あ、貴方達は!!…………えっと、誰?というか何?」
「ああ、さっき会った僕達を忘れているなんて……」
「可哀想によっぽど酷く痛めつけられてたんだな」
「え、さっきのお兄ちゃん達なの!?何よ、そんな珍妙な格好していたら気が
付く訳ないじゃない」
「あ、そう?一応、サムライのつもりなんだけど」
「……何か、私が想像していたのと大分違う」
「お前は知らんだろうが、今のサムライはこれがトレンドなんだ」
「現代のサムライってかなり思い切っているのね……」
「まあ、事実は小説より奇なり、と言うし。気にしない気にしない」
「そ、そう……でも助けてくれてありがとう。危うく、オアシスを
奪われるところだったわ」
「ああ、間に合って良かったぜ。ただ、逃げていった奴が仲間を連れてくると
なると厄介だな」
「うん。多勢で来られたら、二人じゃ防ぎようが無いね。ねえ、君、
敵は一体どの位いるんだい?」
「う〜ん、詳しくは分からないけど、社員の数はおよそ10000人。
黒い噂が絶えない会社でしこたま武器を溜め込んでいるって話も聞くわ」
「げ、そんなにいるのかよ」
「正直、勝ち目の無い数字だよね。おまけに僕は荒事が苦手だし」

430 :七クロ:29:2008/01/30(水) 12:03:58 ID:UXxRfPol0
「うーむ、2人対10000人か……」
「………ちょっと」
「10000匹もいたらチワワだって充分、脅威だよ」
「ああ、ムツゴロウさんが10000人いたら、ロシアぐらいは占領しているぞ」
「その数を二人でか……」
「……ねえ、ちょっと」
「ちなみに曙が10000人だったら?」
「あ、それはなんか勝てそうな気がする」
「ちょっとってば!」
「え、何?」
「さっきから聞いてれば、二人で戦うとか言ってるけど、誰か忘れてやしない?」
「いや、僕と林田君の二人しかいないよ?」
「何言っているの。私を入れたら二人でなく、三人じゃない」
「へ、お前も戦うつもりか?」
「当たり前でしょ。私だってサムライよ」
「……フフフ」
「……ハハハ」
「何よ、何がおかしいのよ」
「いやいや、一丁前に言うじゃねえかと思ってよ。じゃあ、ここにいるのは三人の
サムライって訳か」
「フフ、一人ははぐれ優等生、一人はニセモヒカン、さらにもう一人は女の子
……とんだサムライもいたもんだね」
「ハハハ、全くだ。しかし、不思議もんだな。全然、負ける気がしなくなったぜ」

431 :七クロ:30:2008/01/30(水) 12:07:01 ID:UXxRfPol0
「ホウ、それは頼もしいことだな」
「!!」

「オイオイ、知らせを聞いて駆けつけてみれば、何だよ、ガキばかりじゃねえか。
こんな奴ら相手に俺らを呼んだのか?」
「へ、へへ、すいません。何しろ、突然のことだったもんで……」
「全く、しっかりしてくれよ。ただでさえ評判の悪い会社だ。俺ら、兵隊崩れが
匿われているなんてことが公になったらちょっとまずいことになる」
「まあ、そうとも言えんぞ。今はクーデターを成功させるための一番大事な時だ。
問題になりそうなことは早めに潰しておいても損は無い」
「へえ、流石リーダーともなると言う事が違うね。でも、ウチの社長がクーデター
を企んでいるなんて喋っちゃっていいの?」
「問題無い。砂漠はお前らみたいにお喋りじゃないからな」
「は、違えねえ。それじゃ、早いとこ片付けるとしますか」

「クソ、もう新手が来やがったのか!どうする、神山?」
「う〜ん、敵はざっとで50人。銃を所持しているのが半数、作業車に乗って
いるのがまた半分。戦闘経験者も混じっているようだ。いくら林田くんが筋金
入りの不良でも厳しい戦いになりそうだね」
「へ、ケンカにプロもアマチュアもあるかよ。結局は根性のある奴が勝つんだ。
上等だ、やってやろうじゃねえか!」
「……うん、怖気づいていては勝てるものにも勝てない。身を捨ててこそ、
浮かぶ瀬もある。よし、打って出よう!」

「お、なんだよ。こいつら、降服するかと思ってたのに、向かってくるぜ」
「ほお、威勢の良いことだ。既に勝敗は決まっているというのに」
「しかし、こいつらなかなかにやるな。見ろ、たった3人なのに善戦してるぞ」
「ふ〜ん、日本人得意のカミカゼって奴なのかもね。全く、ご苦労なこった」
「まあ、暇つぶしには丁度良いだろう。よし、いっちょう揉んでやるとするか」
「了解、こっちも出るぞ!」

432 :七クロ:31:2008/01/30(水) 12:10:38 ID:UXxRfPol0
「オリャアアア!!……ゼェゼェゼェ」
「大丈夫かい、林田君」
「おう、なんとかな。しかし、ここまで頭数に差があると、いくらなんでも
体がもたんぞ」
「うん、でも、ここでなんとか持ちこたえないと……あ!!」

ガツン!

「グッ!」
「ホラホラ、後ろがお留守だぜ」
「ウ、ウウ……」
「は、林田君!!後ろからとは卑怯な!」
「は、卑怯?なんだそりゃ、サムライの美学って奴か?」
「ハハハ、生憎だな。俺らはサムライじゃねえから美学なんて
ものは持ち合わせちゃいねえんだ。だから……」

ガッ!

「キャ!」
「こうやって女子供も平気で殴れる」
「クッ、よくもやってくれたわね!!必殺、股間……」

ズガガガガ!!

「おっと、蜂の巣になりたくなければそれ以上動くなよ。いくら腕に自信があっても
銃には敵わないだろ。それとも試してみるか?」
「ウ、ウウ……」
「なんだ、随分と大人しくなっちゃって。もう終わりかよ」
「そう言うな。三人にしちゃあ良くやった方だ」
「ま、俺らを相手にするにはミサイルでも持ってこなきゃな」
「そういうことだ。さて、さっさと片を付けるとするか」

433 :クロ:2008/01/30(水) 14:09:05 ID:UXxRfPol0
投下終了です。

>>425
ありがとうございます。これから後、真面目っぽい話が続いてしまいますが、
もうしばらくの間、お付き合いのほどをよろしくお願いします。

>>426
そんなに人気あったんですか。リーダー不在の日本で人間よりもロボットが好意を
もたれているいうのは何かの諷刺っぽくていいです。

>>427
状況の説明なんて数行しかないですからね、そりゃそうですよね。もうちょっと
工夫できれば良かったんですけど。

434 :テンプレ1:2008/01/30(水) 15:55:27 ID:/X2Ijh/K0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart54【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1197849659/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss

435 :テンプレ2:2008/01/30(水) 15:57:26 ID:/X2Ijh/K0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の414-415から
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
HEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html  
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
   の309-316から


436 :テンプレ3:2008/01/30(水) 15:58:33 ID:/X2Ijh/K0
上・のび太の新説桃太郎伝  下・三年一組剣八先生! (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の176-184から
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の10−11から
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
悪魔の歌 (ふら〜りさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の238-241から
七クロ (クロ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の334-337から


437 :ハイデッカ:2008/01/30(水) 15:59:41 ID:/X2Ijh/K0
さすがに半年くらい来ない人はテンプレから外しました。
鬼兵氏、フルメタルウルブス作者氏、エニア氏、クリキントン氏、
うみにん氏、白書氏、DIOの奇妙な放浪記作者氏、こがん☆氏。
復活をお待ちしております。
人のことはいえんけど・・。

クロさんごめんなさい。残りの書き込み量が少ないので
新スレ立ててみます。


438 :テンプレ2 改正:2008/01/30(水) 16:13:18 ID:/X2Ijh/K0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の414-415から
上・永遠の扉  下・項羽と劉邦 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/233.html
HEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html  
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
   の309-316から


439 :テンプレ3 改正:2008/01/30(水) 16:14:01 ID:/X2Ijh/K0
上・のび太の新説桃太郎伝  下・三年一組剣八先生! (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の176-184から
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20071219/2dd3ec4dfb2d668dcd610650191251d2
     の10−11から
“涼宮ハルヒ”の憂鬱  アル晴レタ七夕ノ日ノコト (hii氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/398.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
悪魔の歌 (ふら〜りさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の238-241から
七クロ (クロ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/archive/20080130/5dcf4062dd1a57c3f0a93d4bc2ca4102
     の334-337から


440 :ハイデッカ:2008/01/30(水) 16:20:06 ID:/X2Ijh/K0
>>435-436、かなり間違ってました。>>438-439でお願いします。

新スレ立てれなかった。
クロさんが書き込まれた時点で(>>433まで)
ゴートさんのサイトにこのパート53を保管したんだけど
まずかったかな?
新スレ立ってから保管しなけりゃダメだった。しまった。


441 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 16:50:37 ID:jQkHsW3n0
クロさん乙です。
チワワ>まけぼのですか。なんとなく納得。
意外とフェミニストで男気のあるコンビだな。間抜けだけど


スレ立てれなかった。
少年漫画板に限らずスレって今、本当に立て辛いですね。

442 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 18:41:28 ID:k/henXbD0
この二編はwikiに収録されてる

ハロイさん
武装錬金_ストレンジ・デイズ
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html

ふら〜りさん
悪魔の歌
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/432.html




ゴートさんお仕事忙しいんだろうね
この二人は自分でやってるぽい

443 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 19:36:19 ID:jQkHsW3n0
どうやってやるのこの保管?
俺も手伝ってもいいけど
登録の仕方がわからん

444 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 20:40:41 ID:k/henXbD0
お前さん馬鹿だからやらなくていいよ
ニコ動の接続が難しいとか抜かしてたやつだろ?

445 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:03:56 ID:34WSWO630
クロ氏、乙。
ここからまじめな話に続くんですか。
クロ高らしからぬシリアス展開になるのかな。
メカ沢が大暴れするんでしょうね。一応強いし、男気あるし。

ハイデッカ氏テンプレいつも乙。
そろそろ氏の作品の続きも読みたいけどね。


俺もスレ立てれなんだ。
どこまで2chは使い辛くなるんだ。

446 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:12:35 ID:KfiwQyx/0
立てた。

【2次】漫画SS総合スレへようこそpart54【創作】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1201694894/

>>443
ここ参照。
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/404.html

447 :作者の都合により名無しです:2008/01/30(水) 21:26:23 ID:34WSWO630
新スレにも書いたけど446氏乙。
しかしハロイさんって4本も書いてるのか。すげえw

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