社会福祉公社技術部さくら板支所
- 1 :CC名無したん:2007/12/23(日) 03:50:10 ID:aZ2l6T2O0
- さくらちゃんに何となく似ているリコが大活躍したり
知世ちゃんに何となく似ているアンジェが大変な事になる
GUNSLINGER GIRL のスレです
- 296 :【葡萄畑の神様】:2008/06/10(火) 00:52:27 ID:P9oHNOQd0
- 「案外、農園の仕事が性に合っているらしいし----」
女は深紅の液体で満たされたグラスを男に差し出した。
「殺し屋なんかやめて…このまま、葡萄畑の神様の御心が分かる農夫になった方が、幸せなのかしら」
「……その方が平穏な暮らしを送れるのは確かだな」
受け取ったグラスに視線を落としながら男が言う。
「おまえだって、活動家なんてやめて、このまま葡萄園の女主人として収まってしまえば幸せなのかもしれんぞ。フランカ」
「フランコ! 本気で言ってるの!?」
思いがけない言葉に、反政府活動を続ける女闘士は師である男を鋭い口調で詰問する。怒気を揺らめかせた瞳に臆することもなく、男は静かに言葉を続けた。
「だがそれでも、おまえは戦う事を止めはしないだろう。----人の幸せはそれぞれだ」
「そうね……」
- 297 :【葡萄畑の神様】:2008/06/10(火) 00:53:38 ID:P9oHNOQd0
- 無実の罪で投獄された人間が獄中で不審な死を遂げる。そんな理不尽な世の中を変えるためには、自分一人安穏とした生活に逃げ込むことなどできない。偽りの平穏になど自分の幸せは望めない。
父親の非業の死がなければ、自分のようなテロリストと関わることは一生なかったであろう女の、良家の子女らしい気品ある美しい顔を男は見つめる。
「ただ…しばらくは、こんな平穏な日々を過ごすのも悪くない。誰にでも休息は必要だ」
「そう…ね」
少し苦さの混じった微笑みを返し、女は窓の外に広がる葡萄畑に視線を投げた。遠く遠く広がる緑の海に、神の恩寵を受けた恵みの果実が色を添えるまで。それくらいまでは、身体を、心を、休めても良いだろう。
気丈な女闘士の表情を和らげゆるく息をつくと、葡萄畑の女主人はグラスを取り上げ、光をはじく深紅の美酒を味わった。
<<Das Ende>>
- 298 :CC名無したん:2008/06/11(水) 01:58:56 ID:2bA7VgwP0
- GJ!
ガンスリのコピーに「少女に与えられたのは大きな銃と小さな幸せ」ってあるけど
それを彷彿とさせるようなSSだね。
と言ってもピーノは少女じゃないけどw
ピーノは義体じゃないから、その「小さな幸せ」を
追求して生きるということも出来たんだろうけど
でもそれをしない。
もちろんフランカもそうできるのかもしれないけどしない。
結局彼らが選んだのは義体と同じく「銃」のほうなんだよね。
その先がたとえ死が待ち受けていようと。
自身の意志なんだからそれなりの覚悟はあるとは思う。
でも、もし……ロッサーナが名うての諜報員を止めて、
「小さな自分だけの幸せ」を見つけたように
彼らも見つけられてたらとも思うよ。
- 299 :CC名無したん:2008/06/17(火) 23:56:39 ID:MQ01/dTZ0
- >>298
ありがとうございますw
色々微妙な話かなとも思ったのですが、レスをいただけて安心しましたw
>その先がたとえ死が待ち受けていようと。
>自身の意志なんだからそれなりの覚悟はあるとは思う。
そうですね。でも義体は自身の意志で「銃」を選んだ訳ではなく、
死に向かう覚悟も、本当に自分の中から発生したものなのか、
他者からの強制----条件付けによるものなのか判断が付かないんだなあ
とかつらつら考えたらせつなくなってしまいました……。
- 300 :【左耳のささやき】:2008/06/17(火) 23:57:46 ID:MQ01/dTZ0
- えーと。今回の鳥昼SSは4月の始めに書いていたもの。
初めて原作のシーンをなぞってみました。
たった2ページ分のシーンでこんなに苦労するとは!
憧れの3話だのピーノ戦だのなんて書ける日が来るのかよ……
BGMはJ.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲 第1番 プレリュード』。
捏造設定ありですがお許し下さい〜〜。
フランス語圏のアフリカ系移民とかならありなのかなあとか、
半端なうろ覚えからひねくり出してみたり。
それなりに調べてから書き直して投下しようかとも思ったんですが、
も〜全然余裕がないし、あれこれ時期を逸してしまいそうなので、
あきらめて恥をさらすことにしました。
しんみりと楽しんでいただければ幸いです。
- 301 :【左耳のささやき】:2008/06/17(火) 23:59:12 ID:MQ01/dTZ0
- 【左耳のささやき】
人間の左右の脳から延びる神経は交差しているから、右耳から入った音は左脳に、左耳から入った音は右脳に入る。
右脳は情緒的感覚を、左脳は論理的思考を司るものだから、音楽を鑑賞する時には左の耳に意識を持っていって聴きなさい。----そんなことを言われたのはいつだったろうか。
私は彼の左側を歩く。
彼は右利きだから、右側の空間をあけておいた方が、とっさの場合に行動がとりやすい。
私も、彼が自分の右側にいた方が、いざという時に盾になりやすい。
最悪でも、自分の腕で彼の心臓をカバーすることくらいはできるだろう。
私の定位置は彼の左側。それが公社の外で危険と隣り合わせの任務に就く時の必然だ。
だから私はいつも、彼の言葉を右耳で聞く。
暗殺要員である私に穏便な対応を求めたり、彼の身を守るための存在である私の身を案じたり、人工の体を与えられた私を普通の子供のように扱ったり。
そのくせ、担当官として義体である私と距離を置こうとしたりする、そんな論理的矛盾を抱えた一貫性のない彼の言葉を。
- 302 :【左耳のささやき】:2008/06/18(水) 00:00:20 ID:aJTW5GS70
- 正面に黒板を備えた講義用の部屋に、ぽつんと座る人物が二人。
手元のレポート用紙に文章をつづる金の髪の少女と、同じ列の机の、二つほど離れた左側の座席に座り物思いにふける男。
室内には少女がペンを走らせる音だけが響く。
机の上に置いた腕時計に時折視線をやりながら、トリエラはためらいのない筆跡でレポート用紙にドイツ語を記してゆく。それは少女が義体化手術を受けて間もない頃からずっと続いているカリキュラムだ。
人工の体を生身の体と同じように扱うためには、ある程度の訓練が必要とされる。
指先の動きを多用する楽器演奏や書き取りが有効だと技師たちに言われ、筆記訓練を選ぶあたりはいかにも無粋なドイツ人らしいと同僚は笑うが、本来ヒルシャーは音楽を好む人間である。
それなのにあえて少女のカリキュラムに筆記訓練を選択したのは、それならば彼自身が少女に教えることができるからだ。
最初はイタリア語を、彼女がドイツ語を覚えたいと言い出してからはドイツ語を。
少女は元からイタリア語の他に日常会話程度のフランス語を話すことができた。筆記についても、同じラテン語系であるフランス語はドイツ語よりも遙かに修得は早かったが、ヒルシャーはフランス語についてはあまり積極的には取り組んでいない。
イタリアの政府組織に所属する以上、イタリア語の読み書きを習熟する事は必須事項だ。だがフランス語は、忘れさせた彼女の過去の記憶に繋がる。
……少女がナポリ・マフィアによる人身売買組織に拉致される以前、幸せに暮らしていた祖母との会話は、フランス語で交わされていたはずなのだから。
- 303 :【左耳のささやき】:2008/06/18(水) 00:02:43 ID:aJTW5GS70
- 彼女の幸せな過去を、彼は知らない。
彼が公社の調査記録から知っているのは、彼女の家族がもうこの世にいないということ。
彼がその目で見て覚えているのは、彼女が犯罪に巻き込まれ死に瀕していたこと。
----それだけなのだ。
だからこそ、彼女のために、自分ができることがあるならば何かしてやりたかった。
だがそうは言ってもヒルシャーは、子供は好きなのだが実際に接した経験があまりない。自分が幼かった頃周りの大人がどう自分に接していたか、遠い記憶を探るのがせいぜいだ。
それにした所でそもそもが男女の違いがあるのだし、ましてや思春期を迎えた難しい年頃の少女に、的確な対応が取れようはずもない。
義体と担当官という特殊な関係に置かれた中、感情のままに振る舞うには生真面目すぎて、役目に徹するには情が深すぎて。
この不器用なドイツ人は3年たった今でも、少女にどう接するべきなのか迷い続けている。
- 304 :【左耳のささやき】:2008/06/18(水) 00:19:14 ID:4+DkNBWC0
- ペンを走らせる音が止まり、代わってコツコツと軽く机をたたく音がする。それは少女が書き終えた自分の文章を確認する時の癖だ。
男がそちらに視線をやれば、少女は空いた手で両側に結わえた長い髪の先をもてあそんでいる。
「長い髪は邪魔か?」
金の髪がくるくると褐色の指先に巻き付けられてゆく様を見つめていた男が、問いかける。唐突な問いに少女はぴくっと顔を上げ、左側にいる男の方に顔を向けた。
「なんですか?」
「それだけ長いと暑いだろ」
「平気です」
少女は前髪をかき上げ、レポートに視線を戻しながら答える。
「昔からこうですし……気になりません」
「そうか」
思いつくまま口に出してはみたものの、年頃の少女の身だしなみについてそれ以上会話を続けることもできず、男は口をつぐむ。
「? 独作文、終わりましたけど……」
「うん」
自分が一から教えたドイツ語を、この優秀な少女は完璧に修得し、公文書のイタリア語訳までこなすようになった。
今ではもう、自分が彼女の文章を手直しする必要もない。
誇らしさと、一抹の寂しさと。そんな感情を覚えながら、男は手渡された少女の文章を評価する。
「良くできてるよ」
彼の誉め言葉はいつもそっけない。だから大抵、少女もそっけなく受け止める。
よくやった、すばらしいと誉め上げれば、少女は返って不機嫌になる。公社に強制的に課せられた役割を果たしただけで過剰な賞賛を受けるのは、白々しくて腹が立つということなのだろう。
- 305 :【左耳のささやき】:2008/06/18(水) 00:20:52 ID:4+DkNBWC0
- けれど今日はなぜか、彼の評価を確認するように少女は自分の左側を見やる。
「そうですか?」
「ああ」
「そうですか」
机に軽く突っ伏して自分を見上げる視線に少し戸惑いながらも、少女を気遣って男は言った。
「ひと休みしよう。コーヒーでも持ってくるから、ここにいなさい」
「私が行きます」
「いや、いいよ。僕が行く」
スーツの上着を手に立ち上がりかけ、ふと午後の予定を思い出して男は少女を振り返る。
「……ああ、この後検査があるからエスプレッソは避けた方がいいかもしれないな。温かいココアで良いか?」
自分が幼い頃、父親の飲むコーヒーの香りは大人の象徴であり、母親が淹れるココアの甘さは愛情の証だった。問われた少女は微苦笑を浮かべて答える。
「おまかせします」
「そうか」
未だに彼女の好みは砂糖なしの紅茶であることを知らないドイツ人は、軽く汗ばむような陽気の中できちんと上着を身につけ、少女のために甘いココアを用意しにゆくのであった。
- 306 :【左耳のささやき】:2008/06/18(水) 00:22:43 ID:4+DkNBWC0
- 私は彼の左側を歩く。
だから、彼の定位置は私の右側。
私はいつも彼の言葉を右耳で聞き、左脳で考える。
彼は自分にどんな立場を演じて欲しいのか、彼が私に向ける感情は何なのかと。
そして論理的矛盾を抱えた一貫性のない彼の言葉に迷い、答えの出ないその疑問に悩む。
けれど時折、左の耳が右の脳にささやく。
矛盾していたっていいじゃないか。彼が私に向ける感情に、いつも嘘はないのだから。
その感情にどんな名が付くのであれ、彼が私を想って言っているのは確かなのだから、と。
《Das Ende》
- 307 :CC名無したん:2008/06/19(木) 01:43:00 ID:erf5T5jV0
- GJ!
二人の距離感がいいね。
ラスト2行は
「トリエラは僕を絶対裏切らない 僕も君を裏切らない」
って言葉からだよね。
設定の創作はこれくらいなら許されるんじゃないかな。
オリジナルキャラクター大活躍だったら
あまり褒められるものではないだろうけどね。
ところでコミックスになってないネタをつかってのSSっていいかな?
もちろんネタバレは最小限に抑えるけど。
- 308 :CC名無したん:2008/06/20(金) 00:35:48 ID:q28Yza2K0
- >>307
ありがとうございますww
自分でも気に入っているSSなので嬉しいですw
第22話からこんなネタを思いついてから
このSSのために1〜5巻まで位置関係を調べ直した自分。
第3話の仕事帰りはトリエラが右側だったので、一人悦に入っていたりw
……次のページでは左に移動してたけどな。
>ラスト2行
>「トリエラは僕を絶対裏切らない 僕も君を裏切らない」
勿論それは外せませんともww
まあそれ以外にも、怒ったり、心配したり、喜んだり、距離を置こうとしたり、
そういう彼の全ての言動が、みなトリエラに対する情がある故のものだと
……時々は、実感できているんじゃないかなあと。
なんでしょーね、お師匠さんのお説教が右側から言われるとムカついて、
左側から言われた時はありがたいなあと感じるとゆー実体験から
思いついた話だったりするんですがw
>ところでコミックスになってないネタをつかってのSSっていいかな?
>もちろんネタバレは最小限に抑えるけど。
気遣いがあればオッケーなんでないかと思いますが。
自分的には楽しみ半分怖さ半分です(笑)
- 309 :CC名無したん:2008/06/20(金) 00:39:55 ID:q28Yza2K0
- 実は先日意を決して9巻を購入したのですが
……へこんだ〜〜〜。
これ読んだ後だったら、絶対【午後の遺言状】は書けなかったよ。
いっそのこと原作の鳥昼ラストシーンが決まってくれた方が
開き直って『彼らが幸せだった時間』を好きなよーに書けるんじゃないかと
いささか破れかぶれな気分に。
でも9巻の回想シーンではくまの話をするトリエラは右側に居たw
- 310 :CC名無したん:2008/06/20(金) 00:40:50 ID:q28Yza2K0
- ドイツ歌曲でこんなのを見つけまして、J.S.バッハの曲なんですが
自分の中では、まるっと義体の歌になってますw
この一途さが切ないよう。
いつかこれを使ったSSが書けると良いなあ。
トリエラもこんな満たされた最期を迎えられるといいんですが。
アンジェがああだと、トリエラは対照的に描かれそうで怖いです。
ああ今週末が怖い……。
せめて幸せに逝かせてやってください〜〜!!
”Bist du bei mir ”
あなたがそばにいたら
Birt du bei mir,
あなたがわたしのそばに居てくれたなら
Geh ich mit Freuden
わたしは喜んで
Zum Sterben und zu meiner Ruh!
死とわたしの憩いへと赴きましょう!
Ach, wie vergnuegt waer so mein Ende,
ああ、わたしの終末はなんと満ち足りていることだろう
Es drueckten deine lieben Haende
もしあなたのやさしい両手が
Mir die getreuen Augen zu!
わたしの忠実な両眼を閉ざしてくれるのなら!
- 311 :CC名無したん:2008/06/20(金) 00:42:51 ID:q28Yza2K0
- すいません、あげちゃった
- 312 :CC名無したん:2008/06/22(日) 01:59:39 ID:QgOsMr0R0
- >>308-310
確かに、9巻で必死にトリエラを死なせまいとするヒルシャーを見ると
トリエラが死んだあとのヒルシャーは書きづらいかも。
自分はそれを知ってても結構楽しめたけど。
>アンジェがああだと、トリエラは対照的に描かれそうで怖いです。
そうなりそうでマジで怖い。
ホントにこれからの展開が自分にとって怖いよ。
>ああ今週末が怖い……。
電撃大王、リニューアルで発売日が変わって6月27日発売だよ。
間違えて、先月号買っちゃダメだぞ。
これからネタバレありのSS、OKが出たのでうpするよ。
それなりに長いので保守もかねて二つか三つに分けるよ。
- 313 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:01:26 ID:QgOsMr0R0
- 『天使のほほえみ、疫病神の苦悩』
元は修道院だった建物に入る社会福祉公社の昼下がりは、まるでどこからか修道士が出てきそうな感があった。
その庭にあるベンチで修道士ではないスーツ姿の二人の男が座っていた。
「ヒルシャー、おまえのお姫様はまだ目覚めないのか?」
マルコーに問われたヒルシャーは顔を上げた。
彼のパートナーとなるべき少女----すでに義体と呼ぶ方が正しいのかもしれない--はまだ目覚めてなかった。
「……ビアンキ医師によれば、まだ少しかかるらしい」
「そうか」
無言。
マルコーは寡黙ではないし、むしろイタリア人らしくおしゃべりは好きだ。
その彼がしゃべれないほど、隣に座るヒルシャーからはなんとも話しづらい雰囲気があった。
マルコーは横目で寡黙生真面目な男を見やる。
ドイツ人らしい几帳面さで黒のスーツをきっちりと着こなしている男は、顔に陰鬱な苦悩の影を貼りつかせ、
その姿と相まって、まさに疫病神のような風体だった。
- 314 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:03:04 ID:QgOsMr0R0
- マルコーは努めて明るく言った。
「俺のところのアンジェリカは、目が覚めたときはベッドで俺の話を聞くくらいだった。
でも三ヶ月たった今はかなり動くようになったし、そのうち射撃訓練もカリキュラムに入れようかと考えるくらいになった。
お前のところの義体も目がさめたらすぐに元気に跳ねまわって、銃をバンバン撃つようになるさ」
『パスタの王子さま』とタイトルが書かれたノートを脇にはさんで、
銃を撃つまねをするマルコーに、ヒルシャーは更に顔の黒い影が深くなった。
義体の目が覚めないことを気に病んでいるのかと最初は思っていたマルコーだが、
どうも違うようだった。
「目が覚めたら……君の義体と同じように彼女も射撃訓練をするようになるんだろうか?」
ドイツ人てぇのはみんなこうなのか?勘弁してくれよ、と心の中でマルコーはつぶやいた。
少女を戦わせるということは普通に考えたら、罪悪感を持っても不思議はない。
ましてやこの男とフラテッロとなる義体は、男自ら持ち込んだともっぱらの噂だった。
もしかしたらヒルシャーと義体の少女には何か繋がりがあるのかもしれない、ともささやかれていた。
- 315 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:05:13 ID:QgOsMr0R0
- だからといってその罪悪感を持って義体と接することはいい結果にはならないはずだ。
こんなんじゃこの男の義体は、イタリアの気候にあるまじき、コイツのような
生真面目で陰気な義体になってしまうだろうとマルコーは他人事ながら案じた。
「おいおい、割り切らないとこの仕事はやっていけないぞ?」
「……そうだな」
ヒルシャーは一つ息を深く吐き出しベンチから立ち上がると、ふらりと病棟の方へ歩いていこうとした。
「そういやおまえ、名前つけてやったか」
ヒルシャーはいきなりの問いに足を止め、マルコーに意外そうな顔を向けた。
「名前?……いや、まだだ」
「じゃあ、考えて置けよ。俺のアンジェリカみたいな良い名前をさ」
「……あぁ、わかった」
ヒルシャーは先ほどよりも幾分しっかりした足取りで義体のいる病棟の方へ再び歩き出した。
- 316 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:07:45 ID:QgOsMr0R0
- ヒルシャーが自分の義体に「トリエラ」と名前をつけてから二年が過ぎた。
再びマルコーとヒルシャーは公社の庭のベンチで座っている。
まるでロダンの考える人のように前かがみでベンチに座り、たばこをふかすマルコーは
疫病神につかれてるかのように顔に憂鬱な苦悩の表情を貼りつけていた。
「アンジェリカの様子はどうだ?」
ヒルシャーは尋ねてみるが、マルコーは黙ったままで、しばらくして
「良くない」
と一言だけ絞り出した。
マルコーは、『パスタの王子さま』を考え出した、以前のイタリア人らしい
おしゃべりと陽気さがすっかり影を潜めていた。
「義体技師のやつら、アンジェリカの記憶障害は悪くなることはあっても、良くなることはないと言いやがる。
あいつらが条件づけで忘れさせてるくせに」
他の課員からマルコーのアンジェリカに対する扱い方を聞くにつれて、最初は憤りを感じていたヒルシャーだが
そんな憤りなど吹き飛ばすほどに、実際に見たアンジェリカの様子はヒルシャーにとってもショックなものだったのだ。
マルコーの言うことはヒルシャーには痛いくらいわかる。
だが、マルコーにどう答えたらいいのかヒルシャーにはわからなかった。
やっと出た言葉は、皆に言い尽くされた、マルコーにとってはなんの忠告にもならない言葉だった。
「それでも……アンジェリカに少しは優しくしてやったらどうだ?
君がつらいのはわかるが、アンジェリカだってあんな接し方をされては……」
「じゃあ、ヒルシャー。お前のトリエラがアンジェみたいになっても、
元気だったころと同じようにあつかってやれるのか?」
- 317 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:09:22 ID:QgOsMr0R0
- トリエラもアンジェリカみたいにやがては記憶障害が出て、何もかも忘れていくのだろうか?
もしそうなったらマルコーがアンジェリカにするみたいな扱いを、自分もトリエラにしないとは言い切れるのか?
答えられずにいるヒルシャーを前に、マルコーはつぶやいた。
「まったく、こんなふうになるなんてアンジェリカはなんの疫病神に魅入られちまったんだろうな?
……いや、アンジェリーナを亡霊にしちまった俺自体があの子にとって疫病神なのかもしれないな」
- 318 :CC名無したん:2008/06/22(日) 02:17:09 ID:QgOsMr0R0
- とりあえずここまで。
続きは近いうちに保守もかねてうpします。
でもうpしてみて思ったけど、あんまり長くないなw
- 319 :CC名無したん:2008/06/25(水) 00:13:04 ID:36RhjDl40
- >>313-318
おお、マルコーさんの話だw
疫病神ふたりの対比がいいですね
続きに期待ww
- 320 :CC名無したん:2008/06/25(水) 00:14:31 ID:36RhjDl40
- >>312
>9巻見ると 書きづらいかも。
>自分はそれを知ってても結構楽しめたけど。
ありがとうございますw
読むのは自分も平気なんですが、
書く方はきついものがあります〜〜
>発売日が変わって6月27日発売だよ
そーか、だから見つからなかったのか。イナカだから遅いのかと思ったw
- 321 :CC名無したん:2008/06/25(水) 00:16:29 ID:36RhjDl40
- >ホントにこれからの展開が怖いよ。
怖いですね〜。
担当官をかばって死にそうな義体はいっぱいいるけど、
義体をかばって死にそうな担当官はヒルシャーくらいだろう
とか不吉な話題が取り沙汰される我が家の茶の間。
そんなんなったらトリエラの方が後追いしそうだよ……
でもヒルシャーがトリエラの反応速度を上回る行動をとるなんて無理っぽいww
- 322 :CC名無したん:2008/06/27(金) 01:29:32 ID:+xxxdaEc0
- 珍しく出来上がってる鳥昼の
なんだか湿っぽいSSを
エロパロ板に投下してきました。
よろしかったらご覧下さいw
pinkは直リン禁止と言うことなんで
とりあえずリンク張らないけど、いいかな?
- 323 :CC名無したん:2008/06/27(金) 23:36:01 ID:I1bJj8TL0
- 怖々しながら本誌を買った。
この先何があっても、どうやら幸せに逝けそうだ。
もう心配せず好きなよーにささやかな日常話を書こっとw
- 324 :CC名無したん:2008/06/28(土) 03:27:44 ID:b0KvW6jE0
- 正直四コマだけかと思ってたので
本誌に載っててちと驚いたよ。
なんつーか少し幸せですごく切なくなったな。
願わくばこの二人は幸せであれと思ったよ。
- 325 :CC名無したん:2008/06/28(土) 04:37:01 ID:b0KvW6jE0
- >>322
読んできたよ。
基本自分はエロ苦手なのだが、読めた。
エロくて面白かったよ。
それにしても原作がこうなるとは……。
>>313載せづらくなっちゃったな。
でも載せるけどな。
- 326 :CC名無したん:2008/06/29(日) 01:42:05 ID:u0Bc0jJB0
- 『天使のほほえみ、疫病神の苦悩』その2
仕事の準備をしようと自分の部屋に行こうとしたトリエラは、
廊下でアンジェリカとぶつかりそうになった。
どこへ行くのか、彼女は大きな荷物を持っていた。
「アンジェ、出かけるの?」
「うん。また検査入院だって。トリエラもどこか行くの?」
アンジェリカは細い肩からずり落ちそうな荷物を廊下に置いた。
「私もまた仕事だよ。帰ってきたばかりなのにね。今度はトリノに行くんだ」
「いいなぁ。帰ってきたら、お話聞かせてね?」
「お土産といっしょにこのトリエラさまの活躍話、とっくりと聞かせてあげよう」
芝居がかったトリエラの物言いに、アンジェリカは小さく笑った。
その二人の間を図書室から本を持って帰ってきたクラエスが通りぬけた。
「二人とも、マルコーさんとヒルシャーさんが下で待ってるわよ?
あと、アンジェリカ、ベンチでたばこを吸うときは、携帯の灰皿を持つようにマルコーさんに言ってくれる?」
二人が窓から眺めるとマルコーの前には無数の煙草の吸い殻と灰がこぼれ落ちていた。
通りすぎて自室に消えるクラエスに、トリエラはマルコーをじっと見つめて動かないアンジェリカに代わって返事をした。
「わかった。言っておくよ。……さてと部屋へ戻って、行く準備をしないと」
「準備って? トリエラ、どこか行くの?」
「……トリノだよ、アンジェ」
アンジェリカのこの状態も、トリエラにとってはもう慣れたものだ。
- 327 :CC名無したん:2008/06/29(日) 01:43:26 ID:u0Bc0jJB0
- アンジェリカは玄関へ去ったが、トリエラは彼女が荷物を置き忘れていたのに気がついた。
トリエラは慌てて彼女を追いかけた。
ベンチのマルコーの前にアンジェリカがいた。
「アンジェリカ、荷物はどうした?」
問いかけるマルコーに荷物がないことに今気がついたアンジェリカは、
ハッとした表情になった。
「荷物……。あっ」
アンジェリカは自分の周りを見回すが、もちろん彼女の周りにはなにもなかった。
「アンジェ、忘れ物だよ?」
「……ありがとう、トリエラ」
トリエラが持ってきた荷物を、アンジェリカは安堵の表情で受け取った。
マルコーを見てトリエラはクラエスの言ったことを思い出した
ちょうど良い、覚えていない彼女の代わりに今言ってしまおう。
「マルコーさん。クラエスが煙草を吸うときは灰皿を持ってきて欲しいと言ってましたよ?」
「……今度は持つようにする」
トリエラの注意にマルコーは落ちた煙草を拾うと、アンジェリカに声をかけた。
「ほら行くぞ、アンジェリカ」
「はい」
担当官と出かけるのがうれしいのか、さっきの出来事はなかったかのようにアンジェリカはマルコーに微笑みかけた。
彼女の笑顔は名前のとおり天使のようだ、とトリエラは思った。
だが、マルコーは彼女の笑顔から顔を背けるように前にへ向くと足早に歩き出した。
- 328 :CC名無したん:2008/06/29(日) 01:45:09 ID:u0Bc0jJB0
- ヒルシャーは門へ歩くアンジェリカたちからトリエラのほうへ向いた。
「トリエラ、もう準備ができたのか」
「まだです。アンジェリカを忘れ物を持ってきただけですから。
それにクラエスに担当官の行動に気をつけるように言われてきました」
「煙草か。彼女はマナーにはうるさそうだからな」
ヒルシャーはマルコーが片付けきれなかった煙草の灰を見て苦笑した。
ヒルシャーとトリエラは門のほうを見た。
門の傍に駐車したマルコーの車にアンジェリカが乗り込もうとしていた。
彼女のふらつく身体は大きな荷物だけのためではないようだった。
「検査入院と言ってましたけど、アンジェリカは大丈夫でしょうか?」
「どうだろうな」
もし、私がアンジェリカのようになったら、あなたもマルコーさんにみたいになってしまうんですか、ヒルシャーさん?
トリエラは無性に聞きたかったが、言えなかった。
そして答えを知るのが恐かった。
「トリノから帰ったらアンジェのお見舞いに行きます」
「そうか」
ヒルシャーの目はなにかを思いつめたように、去っていくマルコーの車を見つめていた。
- 329 :CC名無したん:2008/06/29(日) 01:46:15 ID:u0Bc0jJB0
- 「あの!……ヒルシャーさん、あのときの言葉は……まだ生きてますよね?」
「言葉?」
去った車から傍らのトリエラに視線を移し、ヒルシャーは言われたことを反芻した。
あのときとはいつのことだろう。
思いつかないヒルシャーに業を煮やしたトリエラが、顔を赤らめながら
小声で言う。
「……裏切らないという言葉です」
その言葉か。
合点がいったヒルシャーはトリエラに微笑んだ。
「できる限り君の期待に添えるように努力しよう」
たとえ君が、僕のことを忘れても。
ヒルシャーは心の中でそうつけたした。
「私もできるだけあなたの期待に答えます」
トリエラは赤らめた顔を一瞬だけヒルシャーに向けると、うつむいた。
「……そろそろ出かけようか」
「……はい。急いで準備をしてきます」
金の髪を揺らしながら、トリエラは義体棟に戻って行った。
彼女の頬はまだ少し赤かった。
その後ろ姿を見ながらヒルシャーは思う。
できる限り彼女が、無事に生きていけるよう守っていこう。
たとえそれがどんなに困難な道でも。
- 330 :CC名無したん:2008/07/02(水) 09:03:47 ID:65d07jA20
- >>326
GJ!
こういう穏やかでせつない鳥昼は良いなあ。
>トリエラは無性に聞きたかったが、言えなかった。
>そして答えを知るのが恐かった。
>「あのときの言葉は……まだ生きてますよね?」
せつな〜〜〜。
「トリエラは僕を絶対に裏切らない。僕も君を裏切らない」
自分はこの台詞で鳥昼にどっぷりハマったんすよww
3話の時点であの不器用な父親と反抗期の娘?が
かなり好みではあったんですが、やはりあの台詞は秀逸です。
>「できる限り君の期待に添えるように努力しよう」
確証が得られない事に関しては安易な約束をしない。できない。
この生真面目さ、不器用さがヒルシャーさんらしくていいですねw
- 331 :CC名無したん:2008/07/02(水) 09:07:23 ID:65d07jA20
- >>325
ありゃ、そーだったんですね。
スミマセン。ありがとうございましたw
自分では必要性のないエロは書かない質なので
あの主題を消化するためにはああいう表現かなあと。
で、間接話法のオンパレードw いや、好きなんだけど。
『 接吻 』という詩はノーエロネタの裏付けを取ってる時に拾ったもの。
結局裏付けは取れなかったんだけど、瞼のキスはその内こっちで書く予定。
只今3つ位のネタを同時並行で書いてます。どれが先に仕上がるかな。
>それにしても原作がこうなるとは……。
ホントにああくるとは思いませんでした。すれ違いが埋まったのは万々歳なんですが
最近のは演出のけれん味が多すぎて、初期の淡々としたイメージが……う〜〜ん。
好みはそれぞれあると思いますけどね。
しかしこうなると、ささやかな日常話を書いても、ただのバカップルのいちゃいちゃ話
みたいになってやだなあ(笑)書くけどな。
>載せづらくなっちゃった
書けなくなったネタもいくつかありますよね……
【左耳のささやき】も今月号の後だったらお蔵入りだったかも。
現在進行形の作品のパロディって、こーゆーのがあるから書きにくいよなあ。
- 332 :CC名無したん:2008/07/03(木) 03:06:22 ID:lkhrpLvI0
- >>331
>埋まるすれ違い
どうだろうなぁ、トリエラがキスした時のヒルシャーは眠ってたからねぇ。
だからペトラとサンドロみたいな恋愛的な両思いにはならないのではと踏んでるけど。
この手の少女マンガ的展開は自分は大好きだから喜んだと同時に切なくなったよ。
今回の最後の1Pは個人的名シーンである「くそったれのアレッサンドロ!
このわからず屋!」のシーンと同じくらい好きだ。
でも一緒に読んでる姉は「あの親子みたいな関係が良いのに恋愛になってしまうのは……」と
ちょっと不満そうだった。
- 333 :CC名無したん:2008/07/04(金) 23:07:53 ID:RPbmFCzd0
- >>332
>埋まるすれ違い
>どうだろう
あー、確かに双方向の解決じゃないですよね。
>恋愛的な両思いにはならないのではと
自分もそう思います。
堅物ヒルシャーさんは今更変わり様がなさそーなので、
トリエラの方が彼のピントのずれた?愛情をそれで良しと受け止められれば、
状況的にはすれ違わなくなるのかなあ、とか。
- 334 :CC名無したん:2008/07/04(金) 23:09:04 ID:RPbmFCzd0
- >この手の少女マンガ的展開
いや、自分も嫌いじゃないんですよ? むしろ好きなんですが。
初期の雰囲気にこだわらなければ幸せに読めるのは
分かってるんですけどねえ。1〜5巻と一期アニメをおかずに
SSをでっち上げてた期間が濃かったからなあ。……うぬう。
>「あの親子みたいな関係が良いのに恋愛になってしまうのは……」
姉君のご不満も分からなくはないよーな(笑)
自分の書くSSでも基本は親子ップルだと思っているので、
これからもここに投下するのはきっと微妙な距離感のままでしょうw
- 335 :CC名無したん:2008/07/04(金) 23:10:39 ID:RPbmFCzd0
- >>285
>>子供じみた表情
>これをトリエラに言ったら絶対すねるんだろうなあ。
>でもそういうことをぽろっとヒルシャーが言っちゃって
>すねるトリエラが見てみたいような……。
以前>>285氏にリクエストをいただきました『すねるトリエラ』ですw
ご期待に応えられたかどうかは定かでないんですが、
こんな感じでいかがでしょうか?
タイトルと某バンドは何の関係もございませんw
BGMはチャイコフスキーの『くるみ割り人形』から”あしぶえの踊り”。
イタトマでイタリアンチリドッグを食べながら思い付いた話。
でもイタトマのチリドッグは小さい。おやつにも足りなかった。
結局パスタも一皿追加。散財してしまった……。
- 336 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:13:47 ID:RPbmFCzd0
- 【レッドホットチリペッパー】
恋と食事が人生において重要な地位を占めるイタリア。しかし昼時にそのバールに現れたのは謹厳実直を旨とするドイツ人と、そのパートナーである真面目な優等生の二人連れであった。
娯楽よりも栄養摂取に主目的をおいた二人は小さなテーブルに向かい合わせに座り、手書きのメニューを開く。
「ヒルシャーさんは、ドイツ人なのに3食普通にイタリア料理を食べるんですよね」
自分の方を向けて広げられたメニューに視線を落としながら、不意に思い出したように少女が言う。
「別に、ドイツ人だからと言ってジャガイモとソーセージしか食べないわけではないよ」
「それはそうでしょうけど」
男が生真面目な顔をして、溶けたチーズがこぼれないようにと少し上向きでピッツァを食べる姿などは、何か意外なものを見たような気分にさせられる。
やはりこの男には、つぶしたジャガイモをナイフでフォークの上に丁寧に盛りつける姿の方が似合っている気がするのだ。無論、偏見だろうが。
「ドイツにいた頃にはパスタなんてそれ程美味しいものだとは思わなかったんだが、やはり本場の味は小さな店でも違うものだな」
「そんなに違いますか?」
「ああ。何というか、もっとこう、柔らかくて水っぽい太めの麺だった」
「……単に茹ですぎなんじゃないですか」
「そうかも知れない」
妙に重々しくうなずくヒルシャー。彼にとってその記憶は余程のカルチャーショックだったのだろう。だがそう言いながら、メニューをたどる彼の指はパスタの欄を素通りして、パニーニの欄で止まる。
- 337 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:15:36 ID:RPbmFCzd0
- 「ちょっと変わったメニューがあるな」
「ソーセージとチリソースのパニー二……これですか?」
「ああ。食べてみるか」
「そうですね」
好き嫌いなどないトリエラは、特にこだわりももたずに男の言葉に従う。
同じものを二つ頼めば、ほどなくして温かなクラスト生地にクレソンとソーセージを挟み、溢れんばかりにチリソースをかけたイタリア流ホットサンドイッチがテーブルに運ばれてきた。
「結構大きいな」
エスプレッソのカップを手にしながら、男は一つの皿に盛られた二つのパニーニを見やる。
「そうですね。ああ、でも食べやすいように二つに切ってありますよ」
少女は男の言葉に応えながら、斜めに切り分けられたパニーニの一つを紙ナプキンでくるんで取り上げた。
お先にいただきますと律儀に断って、少女は大きく口を開けた。ソーセージの皮がはじける、ぱりっという心地よい音が響く。
だが続いて口の中に広がった辛さに、少女はうっと硬直した。
トマトに玉葱に、ズッキーニ、パプリカなどを刻み込んだチリソースが、舌の上でピリピリと跳ね回る。なかなか噛みきれない熱々のソーセージとが相まって、少女は口の中の食物の摂取に四苦八苦する。
どうにかしてソーセージのを噛みきろうとしっかりと生地を押さえれば、具材のたっぷりと入った赤いソースが切り口から溢れ出してきて、トリエラは焦る一方だ。
目の前の男が慌てて追加の紙ナプキンを差し出した。パニー二をくわえたままそれを受け取り、急いで指ごと包み込む。紙の端を指にからげてパニーネを持ち直すと、ようやく本体から離れたソーセージを咀嚼しながら、少女は左手で口元を覆った。
- 338 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:17:01 ID:RPbmFCzd0
- 「大丈夫か、トリエラ」
「----熱いですよ、これ」
口の中のものを飲み込んで少女は不機嫌そうに答えた。心配そうに尋ねられるのがいささかきまり悪い。
「火傷していないだろうな」
気遣わしげにソースのついた指を見る男に少女は苦笑する。
「私の体はそんなに柔じゃありません」
「つまらない怪我をするんじゃないぞ」
チリソースごときで火傷するようじゃあ、公社の技術も大したことないですねと軽口を叩いてやろうかとも思った少女だったが、男の様子にそれはやめておく。
少女に与えられた人工の身体は生身に比べて随分丈夫だが、一旦傷付けてしまえば手術による”修理”を行わなければ治癒しない。麻酔のために使われる薬物が彼女の生身の部分に負担をかけることを危惧する担当官の表情は、真面目を通り越して真剣だ。
彼の身を守って負う傷ならば役目の内だが、こんなことで怪我をするのは確かにつまらない。なんとなく気まずくて、はいと答えながら少女は残るパニー二を口に押し込み、指に付いたチリソースをごしごしと拭き取った。
- 339 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:17:57 ID:RPbmFCzd0
- そんな少女の様子を見つめていた男は、ふと何かに気付いてもう一枚紙ナプキンを取った。
「トリエラ」
「?」
「ついてるぞ」
男はテーブル越しに手を伸ばし、少女の褐色の頬についた赤いソースを拭う。
「あ、すみません」
肌を軽くこするこそばゆい感覚に、口をもぐもぐさせながら少女はくすぐったそうに薄く片目を閉じた。
「……何ですか?」
何やらうって変わってなごんだ表情で微笑んでいる男に、少女はたずねる。
「いや。子供らしい表情だな、と」
思わずこぼれた男の言葉に、みるみる内に少女の顔が赤くなる。
「子供じみた真似をするなとおっしゃりたいんでしょう!」
「トリエラ、そう言うつもりでは……」
「あなたの手を煩わせてすみませんでしたっ」
ぴしりと言い捨てた少女は、それっきりもう男と視線を合わせようとしない。
これはしばらく、ろくに口をきいてくれないだろうな。
すっかりすねてしまった少女の様子に、迂闊な担当官は空を仰いで嘆息するのだった。
<<Das Ende>>
- 340 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:27:31 ID:RPbmFCzd0
- 「大丈夫か、トリエラ」
「----熱いですよ、これ」
口の中のものを飲み込んで少女は不機嫌そうに答えた。心配そうに尋ねられるのがいささかきまり悪い。
「火傷していないだろうな」
気遣わしげにソースのついた指を見る男に少女は苦笑する。
「私の体はそんなに柔じゃありません」
「つまらない怪我をするんじゃないぞ」
チリソースごときで火傷するようじゃあ、公社の技術も大したことないですねと軽口を叩いてやろうかとも思った少女だったが、男の様子にそれはやめておく。
少女に与えられた人工の身体は生身に比べて随分丈夫だが、一旦傷付けてしまえば手術による”修理”を行わなければ治癒しない。麻酔のために使われる薬物が彼女の生身の部分に負担をかけることを危惧する担当官の表情は、真面目を通り越して真剣だ。
彼の身を守って負う傷ならば役目の内だが、こんなことで怪我をするのは確かにつまらない。なんとなく気まずくて、はいと答えながら少女は残るパニー二を口に押し込み、指に付いたチリソースをごしごしと拭き
- 341 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:29:50 ID:qYwDlGP20
- 「大丈夫か、トリエラ」
「----熱いですよ、これ」
口の中のものを飲み込んで少女は不機嫌そうに答えた。心配そうに尋ねられるのがいささかきまり悪い。
「火傷していないだろうな」
気遣わしげにソースのついた指を見る男に少女は苦笑する。
「私の体はそんなに柔じゃありません」
「つまらない怪我をするんじゃないぞ」
チリソースごときで火傷するようじゃあ、公社の技術も大したことないですねと軽口を叩いてやろうかとも思った少女だったが、男の様子にそれはやめておく。
少女に与えられた人工の身体は生身に比べて随分丈夫だが、一旦傷付けてしまえば手術による”修理”を行わなければ治癒しない。麻酔のために使われる薬物が彼女の生身の部分に負担をかけることを危惧する担当官の表情は、真面目を通り越して真剣だ。
彼の身を守って負う傷ならば役目の内だが、こんなことで怪我をするのは確かにつまらない。なんとなく気まずくて、はいと答えながら少女は残るパニー二を口に押し込み、指に付いたチリソースをごしごしと拭き取った。
- 342 :【レッドホットチリペッパー】 :2008/07/04(金) 23:31:20 ID:qYwDlGP20
- 取った。
そんな少女の様子を見つめていた男は、ふと何かに気付いてもう一枚紙ナプキンを取った。
「トリエラ」
「?」
「ついてるぞ」
男はテーブル越しに手を伸ばし、少女の褐色の頬についた赤いソースを拭う。
「あ、すみません」
肌を軽くこするこそばゆい感覚に、口をもぐもぐさせながら少女はくすぐったそうに薄く片目を閉じた。
「……何ですか?」
何やらうって変わってなごんだ表情で微笑んでいる男に、少女はたずねる。
「いや。子供らしい表情だな、と」
思わずこぼれた男の言葉に、みるみる内に少女の顔が赤くなる。
「子供じみた真似をするなとおっしゃりたいんでしょう!」
「トリエラ、そう言うつもりでは……」
「あなたの手を煩わせてすみませんでしたっ」
ぴしりと言い捨てた少女は、それっきりもう男と視線を合わせようとしない。
これはしばらく、ろくに口をきいてくれないだろうな。
すっかりすねてしまった少女の様子に、迂闊な担当官は空を仰いで嘆息するのだった。
- 343 :CC名無したん:2008/07/04(金) 23:33:44 ID:qYwDlGP20
- しまった〜〜
ダブっちゃったよ。
すみません
- 344 :CC名無したん:2008/07/04(金) 23:56:35 ID:SbHt2dcG0
- http://www.nicovideo.jp/watch/sm1390388
クソワロタwww
- 345 :CC名無したん:2008/07/06(日) 00:20:59 ID:OBJk3p/i0
- >>336
すねるトリエラがかわいいな。でもすねたまんまなのかw
トリエラの子どもらしい表情に和んでいるヒルシャーも良い味出してるね。
つかヒルシャーもかわいいw
ところで>>336氏は専ブラ使ってるのかい?
それともIEとかの普通のブラウザなんだろうか?
ギコナビとか専ブラを使うとレスを送信してもたまに送信されてなかったりするから
ちょっとどきどきなんだよな。回線のせいだと思うけど。
あと他スレに誤爆とかね。
何を言いたいかっていうと、まぁ気にするなと言うことだ。
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