もう21時か、
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ゲンドウとリツコの子どもはいつ出てくんの?

1 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/04/26(土) 15:21:16 ID:cGsnv0kZ
あとナオコとの子どもは?


84 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/22(木) 01:24:35 ID:zLpRZUqv
続き期待age

85 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/22(木) 07:09:27 ID:???
コンドームはしっかりつけてるからなゲンちゃん

86 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/28(水) 18:25:42 ID:???
まぁ実はレイが・・・

87 :8:2008/05/29(木) 00:19:49 ID:???
「は?」

葛城ミサトは、自分が場にそぐわぬ間の抜けた返事をしたのに気づかなかった。
彼女の上司の前で。彼女の所属する組織の最高権力者、碇ゲンドウの前で。

「あの……つまり…」

ミサトはそれを正そうともしなかった。
もっと、別の事が頭を支配していた。



『息子の事で話がある』と呼び出されたのは、つい10分程前であった。
使徒との戦闘時外とはいえ、作戦部長であるミサトのスケジュールは分単位で行動が刻まれていた。
仕事の合間のネズミの涙のような休憩時間に突如 呼び出されたミサトは、ひどく悪態をつきながらも最高司令官の命に直ちに従った。
彼女の組織に対する忠誠心がそうさせたのではない。
「息子のことで」話がある。と、上司はいった。
彼の息子……当然の様にミサトは碇シンジの事であると考えていた。

碇シンジ……シンちゃん……

いつの事だっただろうか。あれは、シンちゃんと私が同居を始めてだいぶ慣れた頃…
ちょうどアスカが来る直前くらいの頃だ。
次から次へと姿を現し始めた使徒のおかげで、不規則だった勤務時間がもっと不規則になっていた。
その日は前日の夜から勤務につき、労働基準法など屁ほどの意味も持たないあの職場でいつもの鬼の様な残業をこなし、
どうにか区切りをつけて夕方に帰宅したのだった。

88 :8:2008/05/29(木) 00:20:18 ID:???
シンちゃんは電気もつけずに、夕焼けに染まる居間に一人たたずんでいた。
学校はもっとはやくに終わっているはずなのに、制服を着替えてもいなかった。

しばらくの間、倒れこみたいほどの疲れも忘れて、私はそれを見ていた。
シンちゃんがあまりにも夕焼けに見入っていたから。
そんな彼を見たのは、それが初めてだったから。

…一緒にご飯食べて、一緒に暮らして、けんかして、仲直りして、嫌味言い合ったり、
 死線をともにくぐり抜けて、私は彼のことを…「知っている」と、そう思っていたのに…。

窓ガラスに両手をベッタリつけて、夢中になって窓の外を見ている彼は
まるで水族館の魚に魅せられた幼子のようであった。
きれいだなぁ…あのおさかな、おいしいかな。

くす…
私はおかしくなって、声を立てずに嗤った。

シンちゃんの幼少の頃なんて想像して。私、そんなの知らないじゃない。
彼が水族館──そう、新世紀に入ってからはほとんど見ることは無くなった─
に、行った事があるかどうかすらも私、知らないじゃない…

彼は微笑んでいるのだと思った。
人工物に囲まれたこの街でも、他の街と変わらない普遍的な美しさを見せてくれるあの夕焼けを見て、
彼独特のあの穏やかであたたかい顔をしているのだと思っていた。
だから彼が不意にふりむいたとき、あの優しげな眉がクシャリと歪められているのを見て…

…私は何か化け物の様に大きな手に、心臓を鷲づかみにされたのを感じた。
どうして、そんな顔をしているの?

89 :8:2008/05/29(木) 00:21:53 ID:???
…ペリペリ…


何か…音がする。なんの音だろうか?

ペリペリ……


…あ…!

ギョッとした。
これは…皮だ!!!
私の皮だ。
私の皮がはがれて、私がむき出しになっていく。
幾重にもいろんな色の皮をまとって、「いつものミサト」に擬態して、
いつからか境目を無くしてそれ自体が「私」になって自分でもそれを忘れていたのに。

ペリペリペリペリ
ドクンドクンドクンドクンドクン

いや………!!
イヤ…!!!!

90 :8:2008/05/29(木) 00:22:24 ID:???

水槽に張り付いている幼い彼。
隣にいるのは身をかがめて彼の肩を優しく抱き、一緒にそれを見ている私。魚が欲しいと駄々をこねる彼をおんぶする。

水槽に張り付いている14歳の彼。
隣にいるのは彼と同い年の私。くだらない話をして笑いながら私達は宿題の魚の観察をしている。

水槽に張り付いている14歳の彼。
隣にいるのは彼より少し年上の私。私は水槽の前で彼が頬を赤らめて好きな女の子の話をするのを、冷やかしながら聞いている。

水槽に張り付いている大学生の彼。
隣にいるのはあの頃の私。水槽の陰で、私達はお互いを求め合っている。彼の舌が蹂躙するように私の口内を這い回る。私も貪るようにそれに自分の舌を絡める。



イメージが、溢れ出す……!
尽きることを知らない泉のようだ。

彼にも見えてしまっただろうか?
きっと見えてしまった。

体中のどこもかしこもスースーするのは冷房のせい?
それともすべての皮がもう剥がれてしまって真皮がむき出しになっているから?




91 :8:2008/05/29(木) 00:23:09 ID:???
彼の飲まれそうな黒い瞳と視線があった。

私は何も言わずに、自分の部屋へと入っていった。逃げた。
その後彼がどんな顔をしていたのかはわからない。
次の朝は何事も無かったかのように、私はいつものミサトに戻った。

ごめんね昨日は。私、何も言わずに寝ちゃったんだって?こわかった?ゴッメン。眠くてしかたなかったのよ。


その日から、私は彼を警戒した。
二度とこの皮がはがれてしまわないように。
この体から何かが漏れ出てしまわないように。


不思議な少年だ。彼は。












「……つまり…その…
 もう一人のご子息を…フォースチルドレンとして迎えると…」
「ああ。その通りだ、葛城三佐。」

92 :8:2008/05/29(木) 00:23:39 ID:???
碇指令は物分りの悪い子供を相手にするようにゆっくり話した。
やっと君にも理解できたようだ。そんな声が聞こえてきそうだ。

私はついていけない。
何がなんだかわからない。
指令の息子がもう一人現れたというだけでも大混乱だったのだ。

そう、大混乱だった。
つい10日ほど前だった。。
なんの前触れも無く、5人もの護衛に伴われ碇ヨシユキがネルフに現れたのは。

「息子を呼んだ。」

指令はそう言った。
そうとだけしか言わなかった。
当然、私達部下は困惑した。
何のために彼は来たのか?
通常であれば、上司が家族を自分の元に引き寄せるのになんの疑問も持つ必要はないだろう。
こんな仕事だ。家族を身近に置きたいという心理もよくわかる。
ましてや彼は最高司令官だ。多少、私情による職権の乱用と言える行為も、彼程の立場の者ならばいちいち楯突く者もいないだろう。

だが、指令は「通常」にあてはまるような人間ではなかったのだ。
彼の行動には不可解な点が多すぎたのだ。

指令にはもう一人の家族がいる。碇シンジだ。

93 :8:2008/05/29(木) 00:24:27 ID:???
碇シンジと碇ヨシユキ。
彼らがこの地に来た際の状況は、面白い程に正反対であった。

碇ヨシユキ。
初めて見たときは腰を抜かすかと思った。
護衛つきの高官用の専用車から彼が颯爽と出てきたのを見たからではない。
この街では久しく見なかった健康な輝きと生きるエネルギーに満ち溢れる彼に目を奪われたからではない。
指令に瓜二つのその雰囲気に気づいたからではない。

指令が…
彼を出迎えた指令が…彼が人を出迎えると言う行為をする事自体私は初めて見たのに。
まさか、あの指令が人を優しく抱くなんて。

愛しいモノを全身で包み込むような、あんな動作ができるなんて。
碇ヨシユキはそれを呼吸をするように自然に受け止めた。
少年らしい健康な色の手を、指令の背中に伸ばして。力を込めて。

家族の再会。
お互いを愛しく思う者同士の交流。
心温まる光景。






94 :8:2008/05/29(木) 00:25:56 ID:???
碇シンジ。
彼が受け取った紙切れには「来い」とだけ書かれていた。
そこからはなんの感情も読み取れなかった。文ですらない、ただ二つの文字だった。

あの子はどんな状況であの手紙を受け取ったのだろうか。
手紙はセロハンテープで継ぎはぎに繋ぎあわされていた。彼は、破いたのだろうか。
何故やぶいたのだろうか。何故捨てなかったのだろうか。
何故再び繋ぎ合わせたのだろうか…

胸が、痛む。

彼は何も考えずにやって来たのだろう。この街に。
エヴァのことなんて知らないで。
痛みや恐怖なんか微塵も想像していなくて。
微かな希望を胸に抱いて。おそらくは父親の温もりを欲して。
手を差し伸べて欲しくて。両手をあげて抱き上げられるのを待つ幼子のように。
だが指令が欲したのは「彼」ではなかった。彼の、「力」だった。


なぜ、二人の息子はこうも違うのだろうか。


感情が目元までこみ上げてくる。
こみ上げて、溢れそうになるのを全身の神経を集中して阻止した。
かわいそうな、子。

私、今 心の奥底から同情している。
かつての私を胸に抱いて。
同じ苦しみを持つものとして。
同じ瞳をして。
目の前の上司にあの男を重ね合わせて。


95 :8:2008/05/29(木) 00:30:24 ID:???
「この件に関しては後々、君の端末に詳細を送る。
 …多忙の中手間を取らせた。仕事に戻りたまえ。」


…かわいそうな子

「………教えてくださいませんか。」
「………何を、だ。葛城三佐」


「職務に関係の無い、行き過ぎた質問だとは……承知しております。
 ですが、私は今、碇シンジ君の保護者という立場にあります。ぜひ、お聞かせください…。」

かわいそうな子。


「リツコ…
 赤木博士とのご入籍の件…!そして、ヨシユキ君と赤木博士と共にお暮らしになると言うのは……」


ゴクン



「事実なのでしょうか………?」

96 :8:2008/05/29(木) 00:31:01 ID:???
「ああ。」

戸惑いも微笑みもせずに、指令はただ間をおかずそう答えた。





かわいそうな子。














97 :8:2008/05/29(木) 00:31:31 ID:???






あの日から毎日………

嫌な夢を見るんだ。





放課後、全ての授業が終わると担任の先生に呼び止められた。

昨日は大丈夫だったか、で始まり、病院には行ったか、ケガはどうだったか、
果てには もっと周りに気をつけなさい、だいたい君は集中力にかけている、だとか
心配されているのか呆れられてるのかよくわからない小言を延々と1時間半も聞かさせてしまった。

その日はトウジもケンスケも用事があるとかで先に帰ってしまっていたから、
結局僕は一人で帰ることになった。

「…碇、一人で、大丈夫か?」
「……? はい。」







98 :8:2008/05/29(木) 00:32:34 ID:???
いつもの下駄箱。
僕の下駄箱はちょうど目の高さのところにある。
ちょっと使いづらいけど、名前順だから仕方ないよね。
いつものように上履きを履き替え、いつものように靴をはいて家路に着くはずだった。
帰ろう。早く。早く。
だけど……その日、
僕の下駄箱にはあるはずのものが無かった。


靴が………ない


フタを閉め、もう一度開ける。
…あるわけがない。魔法は使えない。でも、僕は繰り返さずにはいられなかった。
だってあるはずのものが…
あるのが当たり前で当然だったものが…
それが、無いのだから。

「あれ………?」


ごめん!
心の中で呟いて、右隣の下駄箱をこっそり開ける。
左のも、上のも、下のも、斜めのも見る。
金属製の下駄箱のフタがパカパカと開いたり閉まったりする間の抜けた音が
玄関中に響いた。

…夕方の校舎は校庭から聞こえてくる運動部の喚声以外、何も音が無い。

99 :8:2008/05/29(木) 00:33:43 ID:???
……え…?


下駄箱の棚の上、傘と傘の間、下駄箱とゴミ箱の間のすきま……
手当たりしだいひっくり返して、覗き込んだ。

ちょっと……


なんで…………ええぇ………?

掃除用のロッカー、初代校長の胸像の後ろ、スノコの下…

あるはずのもの…
あって当然のもの…
いままであったもの…

手がジメジメしてきた。
酷い湿気のせいではない。



ゴチンッ

「いっっった!!!」
スノコを持ち上げるために屈んだら、背中のリュックがずり落ちた。
教科書やらノートやらの石の様な塊が僕の後頭部を強打する…!!

ズキズキ


「いったァ……」

100 :8:2008/05/29(木) 00:35:03 ID:???
痛みで少し我に返った。
靴はスノコの下にもなかった。
あるわけがないけど。…わかっていたけど…。
 
 
なんで…?
どこいったんだ…
 
ズキズキ
 
 
その場に座り込んでしまった。
骨が無くなってしまったのだろうか?足に力が入らない。
 
早く帰りたいのに…
早く帰らないといけないのに…
 
  ─何故?
 
だって、早く帰らないと…………
 

ズキズキ
 

僕は、食われてしまう。学校に、学校の闇に。
頭から飲み込まれて肌を削られながら食道を通って、胃に収まってしまう。
 
 
 
 


101 :8:2008/05/29(木) 00:35:46 ID:???




誰もいない校舎。
廊下の突き当たりには夕日があたる事なく、そこだけ闇の色をしていた。
ポッカリと浮かび上がるように、潜むように輝く非常灯の緑の光はまるで…
…まるで、夜の肉食動物の瞳だ。

ゾワッ




背中が、冷たい。

トウジは?ケンスケは?
今はいない。二人は先に帰った。
僕は今一人だ。

みつかる。
みつかってしまう…


ふいにおとずれた悪寒に、僕の体は跳ね上がった。
猛獣に狙われていたのに気づいた小動物みたいに。
ピンと背筋が伸びて。

錆びた自転車を無理やり動かしたみたいに、足の関節がギシギシ音を立てる。

胸の中心が、ズキンズキンと音をたてる。

102 :8:2008/05/29(木) 00:36:42 ID:???
そうだ、早く帰ろう…!
別に靴じゃなくたって良い。上履でだって帰れるんだ!
今やらなきゃいけないのはそれなんだ!



寒くも無いのにかじかんでしまった指で
再び上履きの紐を結び始めた、その時だった…!
僕以外の生き物の気配がして金属のフタが開く音がしたのは!!!!


………向こう側の下駄箱に、「何か」来た……!


心臓が飛び上がった。
あっ、と声が漏れそうになった。口を押さえた。
何が来た?
肉食動物?
僕を食べに?

ズキンズキン

103 :8:2008/05/29(木) 00:37:12 ID:???
違う。違う。落ち着くんだ。
最近どうかしてる。
すぐパニックになる。学校に、僕の肉を喰らうような猛獣はいない。いないんだよ。

あれは…人間が出した音だ。
人間が、人間の中学生が下駄箱を使っているだけなんだから。それだけなんだから…

でも……

どうしよう。
牙があったらどうしよう。
こっち見ないで。
こっちに気がつかないで。

僕はいないよ。


「何か」はしばらく無言で、無音だった。
僕も靴紐を結ぶ手をとめていた。
時計の音が聞こえない。時間が止まってしまった。
体を縮めて、気配を殺して、僕と言う存在を殺して、胸を、シャツをギュってして
膝小僧をかんで、生き物の気配の侵食に耐えていた。








104 :8:2008/05/29(木) 00:37:55 ID:???






“これ、あげるから使いなよ。”

ダストシュートから出てきた僕らは、相当酷い格好をしてたんだろう。
保健の先生は僕らを見るなり、側にいた生徒達に蒸しタオルや救急箱を持ってこさせると
気力も体力も尽きて早く帰ろうとする僕達を呼びとめ、あれやこれやと世話を焼いてくれた。
僕達の頭はただフワフワするだけで考える事を放棄していたから、好意のなすがままになっていた。

僕らは壊れたレコードプレイヤーが同じ所を延々と繰り返して再生するみたいに
ずっとアノ場所のことを考えていた。

あそこは…ゴミ捨て場なんかじゃなかった。
あれは……そう。…墓場だ。
誰の目にも触れずに燃やされて灰になるだけのはずだった、人の怨念の墓場。

学校にあんな場所があるなんて知らなかった。
学校はただ清潔でうるさくて明るい場所だったのに。


頭がクラクラする。
ああ…僕達、バカしたんだ……なんて事したんだろう…!
とんでもない事をしてしまった…!
墓を、暴いてしまったんだ。

105 :8:2008/05/29(木) 00:38:36 ID:???
僕もトウジもあの場所で見たモノの事を、遂に誰にも話さなかった。
そうしようと示し合わせたわけじゃない。
トウジもきっと気づいていたんだ。
もし誰かに話してしまえば、言葉にして発してしまえば、この世界とあの場所は繋がってしまうのだと。
あの場所は命を持ち始めるのだと。
そして僕達の後を追ってくるのだと。ピラミッドにかけられた呪いみたいに…

…この世界まであの濃厚な闇に侵されてしまうと…?
何もかもをドス黒く染めてしまうような闇に丸ごと何もかも食われてしまうと……?

ズキン ズキン ズキン ズキン

胸が、痛い。
毒を塗りこまれたみたいに、重くて鈍い。
鈍い痛みは胸全体に、広がっていく。
髪の毛の一本にまで。つめの先にまで。


106 :8:2008/05/29(木) 00:40:13 ID:???
次の瞬間、ふわっと良いにおいがした。
いちんち中日向に干した布団みたいなあったかくて、良いにおい。
背の高い上級生が僕の制服や顔を丁寧に拭いてくれた。
まぶた、鼻の頭、頬、耳たぶ、唇。
その動作があまりにも優しかったから、僕は彼に抱きついてしまいたい様なおかしな気持ちになった。
浄化されるのを感じた。体が軽くなるのが分かった。

なんだか申し訳なくなって恥ずかしくて僕はずっと彼の胸のあたりを見ていた。

「…あの、もういいですよ。ありがとうございます。
 後はもう自分で拭けますから…」

「そう?あ、じゃあちょっと待って……」



「─これ、あげるから使いなよ。」

彼が僕の手に握らせたのはバンソコウの束だった。

赤や青でカラフルにプリントされた動物のキャラクターが、
僕に愛想を振りまいていた。








107 :8:2008/05/29(木) 00:40:58 ID:???





…止まった時が再び流れ始めるまでに、一体どれくらいの時間がかかったのだろうか。
合図のように聞こえてきた「何か」の足音のリズムに僕の体が揺すぶられて覚醒するまでにかかった時間は。

このリズムを、僕は知っていた。
心臓が、ひとつドクンと鳴った。さっきのとは別の音。
もっとネットリとして、内臓に絡みつく音だ。

やがて視界に飛び込んできたのは、艶やかな紅い髪の少女だった。
軽やかに段差を下って、短いスカートをはためかせて、小鹿のように駆けていく。
なんて白いんだろうか。
太ももから膝の裏、つめの先まで真っ白だ。
輝くばかりの白さはきっと健全な男子なら えも言われぬ魅力と熱さを感じるんだろう。

だけど僕は内臓を直に撫で回されたされたような、吐き出してしまいたい気持ち悪さを感じただけだった…。




「ア、アスカ!!」





108 :8:2008/05/29(木) 00:41:47 ID:???
アスカが、ギョッとして振り向いた。
他に誰かがいたとは思ってなかったんだろう。

僕も僕に驚いた。
僕は「いないもの」だったのに。
お化けみたいな巨大な気持ち悪さをいつもみたいに、身を縮こませてどうにか収まるまでやりすごそうと思っていたのに。

でも、無視できなかった。

「アスカ!どうしたの…?裸足だよ。」

長い髪が暑く湿った風になびいた。今日は風が強いんだ。
夕日を浴びて、アスカの髪は水面みたいにキラキラしていた。
その輝きにさえ苦くて酸っぱいものがこみ上げて来る。
僕、おかしい…

「そういうあんただって裸足じゃない!!なによ!こっち見ないでくれる??」

あっ

言われて初めて気がついた。上履も放り出してつい飛び出してしまった。
身を縮こませてガチガチに固まっていた足の間接が、まだガクガクしている。

109 :8:2008/05/29(木) 00:42:14 ID:???
アスカはもう一度髪の毛をなびかせてくるりと踵をかえすと、裸足のままずんずん歩き始めた。

「…!
 
 アスカ!怪我するよ!!」

夕日色のアスカの足は、とても柔らかそうだった。
子供のとき縁日で買ったヨーヨーみたいに。張りがあって、押すと少し押し返してくるあのおもちゃみたいに。
小さな僕はあの感触が大好きで、いつまでもいつまでも飽きる事もなく、両手であの感覚をずっと楽しんでいた…


第壱中の校庭は土じゃなかった。
土じゃなくて、衝撃を吸収するような素材で舗装されてる人工の校庭だった。
だけどどこから紛れ込んできたのか、そこかしこに小石や小枝がが落ちている。
僕ももう何個か小石を踏みつけてしまった…。きっと切れてしまったんだろう、足の裏がズキズキしている。
ズキズキして、ドクドクしている。

あんなに柔らかそうな足。
小石や小枝を踏んだら
傷つけられたら
どうなってしまうんだろう…?

夢中になって考えた。
ただ、考えた…
考えた…

110 :8:2008/05/29(木) 00:43:45 ID:???
あの夜買ったヨーヨーは、弾けてしまった。
弾かされてしまった。
 


 先生と暮らしてるからって、いい気になってんじゃねーよ

 うざい
 こっちくんな
 
 

 縁日にひとりとか…
  

 ああ、
 そうか。


 お前のパパとママ、死んだんだっけ?




踏まれて、弾けて、ヨーヨーはただの水とゴムになってしまった。

 
 先生と暮らしてるからって、いい気になってんじゃねーよ

111 :8:2008/05/29(木) 00:45:23 ID:???
…泣くもんか。
涙なんて流すもんか。

結局後から後からそれは溢れ出て、自分ではどうしようもなくなってしまった。


ヨーヨー、ごめんね。
ヨーヨー、痛い?痛かった?

痛いよね。
ぼくも心臓がいたいもん

ごめんね。









僕はポケットをまさぐった。
あった…!
昨日の残りの、バンソコウ。

「ア、アスカ!!」


アスカは足を止めた。

112 :8:2008/05/29(木) 00:45:53 ID:???
「これ……使いなよ。」

「うっさいわね!あんたには関係ないわよ!」
「関係あるよ!」

関係あるよ!だって…

「…アスカ、靴が無かったんだろ…。僕も靴が無かったんだもの。」
「…………。」


ズキン…  ズキン…
痛い……
足の裏が、熱を持ってるみたいにジンジンする…

だけど次の瞬間目に入った信じられないほどの深い深い紅に、僕の神経は痛みを伝えるのを一瞬忘れた。
「アスカ!!足、やっぱり切れてる!」

「うるさい」
「うるさくないよ!」

アスカの足からは夕日より赤い血がにじみ出ていた。
足の白と血の赤のコントラストに、僕は思わず顔をしかめた。

113 :8:2008/05/29(木) 00:46:22 ID:???
ズキン…  ズキン…

痛いのはもう嫌だ……嫌だよね。
心も、体も、嫌だよね。

ズキン…

「バンソコウ使いなよ。僕、たくさん持ってるから。」
「………」

「…アスカ………?」

アスカは少しうつむいている。前髪に隠れてアスカの目が見えない。
不安になった。

僕は体をまげてアスカの顔を覗き込もうとして、やめた。
目が見えないのは、アスカがもっとわからなくなる。でも、「わかる」のはきっとそれ以上に怖いと思った…

「アスカ…大丈夫?」

「……っさいのよ……」

114 :8:2008/05/29(木) 00:46:51 ID:???
「え?」
アスカの声は小さすぎて聞こえなかった。

間の抜けた反応は彼女に刺激を与えてしまった。
アスカが、僕をキッと睨んだ。
夕日色の髪が風に巻き上げられて空気をかき混ぜるみたいに舞い上がった。

「うるさいのよ!!!!なんでアタシがあんたなんかに同情されなきゃいけないのよ!!!」

同情…?

僕は混乱した。
「ど、同情って……?」
「見下してんじゃないわよ!!シンジのくせに!!バカのくせに!!!」
「そんな……み、見下してなんかないよ!!」

…………
ショックだった。
体中の全ての痛みと、内臓の気持ち悪さが吹っ飛んでしまった!!
そんな…
アスカからそんな風に言われるなんて…
今、そんな風に思われていたなんて…



115 :8:2008/05/29(木) 00:48:45 ID:???
アスカの小さな足からは真っ赤な血が出ていたから。
僕の足からも血が出ていてすごくすごく痛かったから。
ヨーヨーは弾けてしまったから。
きっとアスカも痛いんだろうなって思って。
同じ痛みを分かち合っているような気がして。
そう思ったら、アスカも僕と同じなのかなって思って。

あの日以来、少しアスカに近づけた気がして…!


「見下してなんか無いよ…」
もどかしい…!アスカと僕との認識の差がなんて気持ち悪いんだろう…!!
違うよ…違うんだよ…!!
僕らの間にあるあの膜が、僕達の意思の疎通を邪魔してるんだろうか?

膜は破れない。破るのは怖い。アスカがなだれ込んでくるから。
それは怖いから。吐き出してしまいそうになるから。アスカもきっと傷つくから。

だけど…
だけど

少し、触れても良いかな…。破らないから。絶対に壊さないから。
このもどかしさをどうにかするだけだから。
それだけだから。それだけしかできないから。


僕の目をみて。お願い僕のいう事を信じて。
君のこと、見下したりなんかしてないよ。

116 :8:2008/05/29(木) 00:49:41 ID:???
「僕もバンソコウ使うから…」
僕、痛いんだ…
君も痛いよね…?







アスカは何も言わない。
への字にきつく結ばれた唇が微かに震えている。

それにしても…青いな…なんて青いんだろう。
夕日にも負けない青。
日本人には無い色。
アスカの眼の色。
アスカの色。

その青が、微かに震えたと思ったのはほんの一瞬だった。
見間違いかもしれない。
でも、確かに瞳は色を変えた。






117 :8:2008/05/29(木) 00:50:20 ID:???
「肩かしなさいよ」
「え?」
「そこにしゃがんで。」
「こう?」
「後ろ向いて」
「?」

トン、と肩に芯のある柔らかいモノが乗ったのを感じた。
これは…アスカの、足だ…。
ヨーヨーより硬くて、重くて、芯がある。
弾けることなく僕の肩に乗っている。
確かにある…。ちゃんとある…。弾けない。

「後ろ向いたら殺すわよ」
「な、何するの…?」

アスカの体温が肩に伝わる。
体中の間接がキシリと鳴る。


「………」
「……!!…っつ!」
アスカがカカトを僕の肩に食い込ませた。
小さな体からこんな力がどうやって生まれるんだろうか?

「なによ!!貼れっていったのはそっちじゃない!!!!!バカ!」

「貼って……くれるの…?」

「こっち向くなって言ってんでしょ!!」

118 :8:2008/05/29(木) 00:51:56 ID:???



僕は、微笑んでいた。

アスカはありがとうともなんとも言ってもらえなかった。
振り向いた僕の肩にまたカカトを思いっきり食い込ませた。


でも…アスカも痛かったんだ…
同じなんだ…
やっぱり、痛みを感じるんだ…


心に小さな小さなぬくもりが生まれた。

こんな気持ちを抱いたのは、生まれて始めてだった。

僕はそれをシャツの上から抱きしめた。何故だかとても大切にしたいと思ったから…。



アスカは僕の肩を台にしてバンソコウを張り始めた。
必然的に僕は腰を下ろしてバンソコウを貼る事になった。
(制服が汚れるけど、今は何も考えないことにした)

119 :8:2008/05/29(木) 00:52:50 ID:???


あ…


くすぐったい…。時折髪に触れる、アスカの指先。
内臓は大人しくなった。少しシクシクしているけど。

運動部の数人が動きを止めて僕らを見ている。
何があったんだ?って。そんな顔で僕らをみている。
変な格好だもんな、二人とも。

「何笑ってんのよ…気持ち悪いわね」
「ううん…別に…。」

別に、なんでもないよ。

でもさ、僕達は実は隔たってるのに。
僕は君に触れる事をこんなに恐れているのに。
気持ち悪いとさえ思っているのに。

なのに、ほら。こんなにくっついる。
なんかおかしいよね。それだけなんだ。
頬に再びアスカの足の指が当たる。ほんとにくすぐったい。
アスカの感触。アスカの温度。
夕日の色、アスカの色、学校の色…僕の胸の、小さな小さな温もり。


トウジの、笑った顔の皺を思い出した。

120 :8:2008/05/29(木) 00:55:34 ID:???

「靴のってさ。なんなんだったんだろうね。」


アスカはバカにしたみたいに鼻で笑った。
いや、バカにして鼻で笑った。

「あんた……どこまでバカなの?」



「いじめよ。」



「私達、イジメられたのよ。」

アスカの顔は逆光になっていて、僕からはよく見えない。
見上げたまま瞳があるだろう位置ををジッとみていたら、
アスカは見てんじゃないわよ!といって僕の頬をつねった。

つねられた頬には赤い痕が残った。






121 :8:2008/05/29(木) 00:56:02 ID:???




今まであったのもの。
あって普通だったもの。

なくなったのは、靴だけじゃなかったよ。







122 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/05/29(木) 01:12:07 ID:???
シンジきゅん…

123 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/02(月) 01:53:51 ID:???
gj
続きが気になるよ

124 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/03(火) 14:22:12 ID:???
続きが…したいです…

125 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/03(火) 21:56:36 ID:???
>>124
?w

126 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/07(土) 17:23:19 ID:NRRDtpmh
>>124
スラムダンク乙

127 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/08(日) 00:15:07 ID:???
>>126
そうなのかw

しかし討論が無いスレだなぁw

128 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/11(水) 15:09:55 ID:???
俺とリツコの子どもはいつ出てくるの?

129 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/11(水) 23:31:38 ID:???
>>128
リッちゃんの浮気者w

130 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/23(月) 20:27:17 ID:???
続きまだかまだか

131 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/06/24(火) 16:58:33 ID:???
>>130
同じように首を長くして待っているんだが・・・
まだかかりそうだな。

毎日ついチェックしてしまう。

132 :8:2008/07/05(土) 01:30:34 ID:???
>>8ですが、気になるとレスくれた方、ありがとうございます。

考えていたより早く就活が始まってしまいましたので、
話を書く時間が思うようにとれなくなってしまいました。
私自身楽しんで書いていますので、かなり時間がかかってしまいますが
それでもよろしかったら続きを書きたいと思っています。



133 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/07/05(土) 04:18:01 ID:???
>>132
就活か、そんな時期なんですね、無理しないで頑張ってください
続きを楽しみにしてますので、是非ともゆったりと続きを
書いていってほしいです。

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取りに行ったけどなかった。次は一時間後に取りに行くです。
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